(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】グルタミン酸2b受容体拮抗薬及びシグマ受容体作動薬の鎮咳薬としての使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/445 20060101AFI20241118BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
A61K31/445
A61P11/14
(21)【出願番号】P 2022525062
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 CA2020050306
(87)【国際公開番号】W WO2021081624
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-01-20
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】524279113
【氏名又は名称】セイルテックス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ウィリアムズ
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0235931(US,A1)
【文献】英国特許出願公開第02430434(GB,A)
【文献】国際公開第2012/020270(WO,A1)
【文献】Journal of Pharmacological Sciences,2013年,Vol.121, suppl.,p.112, O3F-28-4
【文献】European Journal of Pharmacology,2015年,Vol.762,p.118-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のイフェンプロジルを含む、経口投与による咳の処置又は予防のための
医薬組成物。
【請求項2】
イフェンプロジルの量が、対象1kgあたり0.1mg~5mgの間である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
イフェンプロジルの量が、対象1kgあたり0.5mg~3mgの間である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項4】
イフェンプロジルの量が、対象1kgあたり約1.5mgである、請求項1に記載の
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、COMPOSITIONS AND METHODS FOR TREATING COUGHと題された2019年10月28に出願の米国仮特許出願第62/926,871号、及びCOMPOSITIONS AND METHODS FOR TREATING A COUGHと題された2019年12月4日に出願の米国仮特許出願第62/943,537号の優先権の権益を主張するものであり、これらの内容は、その全体が参照により本出願に特に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、咳の処置のための化合物の使用、詳細には、咳の処置のための、イフェンプロジルやラジプロジル(Radiprodil)等のグルタミン酸2b受容体拮抗薬の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
tussis(咳)とも呼ばれる咳(cough)は、肺からの空気の突然の防御的排除であり、通常は音を伴う。咳嗽は、呼吸路において体液、空気汚染等の刺激物、及び/又は外来粒子を一掃するのを助けるために生じる場合等、非定常的になる場合がある。しかし、咳嗽が繰り返され頻繁になる場合もあり、これにより、呼吸路感染症や軽度の気管支炎等の疾患の存在が示唆されることもある。咳嗽が慢性になり、数週間にわたって続くこともあるが、これは、喘息、胃食道逆流性疾患、非喘息性好酸球性気管支炎、上気道咳症候群等の、根底にあるより深刻な医学的状態と関連する場合がある。
【0004】
慢性(持続性)の咳とは、成人においては8週間若しくはより長期間、又は子供においては4週間続く咳である。慢性の咳は、睡眠を妨害し、消耗させることがあり、より重い症例では、重篤な嘔吐、意識もうろう、及び肋骨骨折を引き起こしかねない。
【0005】
乾性の、喀痰を伴わない咳は、IPFの非常に一般的な症状である。IPF患者の少なくとも70%~85%は、往々にして労作後に悪化しうる、乾性の咳を伴う。
【0006】
米国において、Research and Markets社からの最近の報告によれば、咳は、患者が診察を受ける最も一般的な愁訴であり、一般健康診断を受ける2番目に一般的な理由であり、年間2600万件を超える来診を計上する。
【0007】
現在、咳の治療法は知られていない。従来の処置は、症状を和らげることに集中する傾向がある。そのような処置には、体液を蜂蜜と共に飲む等の家庭療法、OTC去痰薬服薬、及び咳止め薬が含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Annual Reports in Medicinal Chemistry (2012) Volume 47: 94~103
【文献】J. Pharmacological Sciences (2015) 127:6~9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、咳の処置及び/又は緩和のための、通常は他の病理のための潜在的な治療薬として研究及び使用されている、既存の薬物の新規の使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態では、対象において咳を処置又は予防するための、グルタミン酸2b受容体(Glut2B又はGluN2B)拮抗薬。Glut2B拮抗薬は、イフェンプロジル、ラジプロジル、トラキソプロジル(Traxoprodil)、リスレンムダズ(Rislenmdaz)、エリプロジル(Eliprodil)、Ro-25-6981、及びBMT-108908、EVT-101、CP101-606、MK-0657、EVT-103、及びAZD 6765の1種又は複数でよい(Annual Reports in Medicinal Chemistry (2012) Volume 47: 94~103)。
【0011】
例示的な実施形態は、図面の参考図において例証される。本明細書で開示する実施形態及び図は、限定するものというより例証となるものとみなされるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】中枢神経系受容体及びグルタミン酸2b受容体拮抗薬の関係性の咳との因果関係を示す概略図である。
【
図2】イオンチャネル、受容体、及びグルタミン酸2b受容体拮抗薬の関係性を示す概略図である。
【
図3】研究におけるモルモットの群からの、媒体群と比較される、ゲファピキサント又はイフェンプロジルで処置後の、クエン酸又は食塩水への10分の曝露期間及び5分の回復期間の間の咳の合計回数を集約する棒グラフである。
【
図4】研究におけるモルモットの群からの、媒体群と比較される、ゲファピキサント又はイフェンプロジルで処置後の、クエン酸又は食塩水への10分の曝露期間及び5分の回復期間の間の最初の咳の発生を集約する棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、他の病理における使用について承認されている、ある特定の薬理化合物が、咳の予防及び/又は処置において有用であることを見出した。
【0014】
本明細書における記載を根拠として、記載する化合物が、咳の予防及び/又は処置において有用であることが示される。本明細書に記載の化合物を、ヒスタミンに曝した意識のあるモルモットに、クエン酸と共に与えたとき、鎮咳効果が見出された。
【0015】
咳症状を緩和するために現在使用されている1つの治療は、本明細書に記載する実験実施例において陽性対照として使用した薬理化合物ゲファピキサントを投与することである。
【0016】
ゲファピキサント、すなわちC14H19N5O4Sは、P2X3受容体の非麻薬性選択的拮抗薬である。最近の研究では、その適用が、慢性咳患者において多少の有効性を示しうることが証明された。慢性咳患者における咳のコントロールにおけるゲファピキサントの有効性及び安全性を更に評価するために、さらなる治験が行われている。ゲファピキサントの化学構造は、
【0017】
【0018】
である。
【0019】
本明細書では、治療有効量のイフェンプロジル、ラジプロジル、及び他のグルタミン酸2b受容体拮抗薬を投与することによる、咳の抑制又は緩和効果が示される。本明細書に記載するこうした化合物は、通常は、肺に関連しない状態の処置について知られている、既存の薬物である。
【0020】
咳嗽の緩和又は予防におけるその有効性の背後にある基本原理には、グルタミン酸受容体及びシグマ受容体1が、上で言及した化合物のターゲットであるということが含まれる。また、非特異的NMDA阻害薬であるメマンチンも、前臨床及び臨床有効性を示している。
【0021】
イフェンプロジルの使用
イフェンプロジル、すなわち、4-[2-(4-ベンジルピペリジン-1-イウム-1-イル)-1-ヒドロキシプロピル]フェノール;2,3,4-トリヒドロキシ-4-オキソブタノエートは、NMDA型サブユニット2B (Glu2NB)を特異的に標的とする選択的N-メチル-d-アスパラギン酸(NMDA)受容体グルタミン酸受容体拮抗薬として当業界で知られている。イフェンプロジルは、小胞体ストレスの際に上向き調節されるシャペロンタンパク質であるシグマ1受容体に対しては、作動薬活性も示す。イフェンプロジルは、当初(1970年代初期に)、血管拡張薬として開発された。現在、イフェンプロジルは、青年期PTSDの処置用に研究されている。化学構造は、
【0022】
【0023】
である。
【0024】
本明細書における実施例において試験した一部の実施形態では、次の構造を有するイフェンプロジル半酒石酸塩を使用した。
【0025】
【0026】
一態様では、本発明は、イフェンプロジル又は薬学的に許容できるその変形形態を用いた、対象における咳の処置又は予防の使用及び方法を提供する。
【0027】
一実施形態では、イフェンプロジルの使用量は、対象1kgあたり1日0.6mg~5mgの間である。好ましい一実施形態では、イフェンプロジルの使用量は、対象1kgあたり1日0.8mg~3mgの間である。更に好ましい一実施形態では、イフェンプロジルの使用量は、対象1kgあたり1日約1.5mgである。
【0028】
イフェンプロジル又は薬学的に許容されるその変形形態は、経口的に、静脈内に、又は当業界で知られている要領で対象に投与することができる。イフェンプロジル又は薬学的に許容されるその変形形態は、薬学的に許容される1種又は複数の賦形剤と共に投与されてもよい。
【0029】
ラジプロジルの使用
ラジプロジル、すなわち、2-[4-[(4-フルオロフェニル)メチル]ピペリジン-1-イル]-2-オキソ-N-(2-オキソ-3H-1,3-ベンゾオキサゾール-6-イル)アセトアミドは、NMDA受容体拮抗薬として当業界で知られている。ラジプロジルは、点頭てんかん(IS)及び糖尿病性末梢神経障害疼痛の処置について研究する治験において使用されている。ラジプロジルの化学構造は、
【0030】
【0031】
である。
【0032】
一態様では、本発明は、ラジプロジル又は薬学的に許容できるその変形形態を用いた、対象における咳の処置又は予防の使用及び方法を提供する。
【0033】
一実施形態では、ラジプロジルの使用量は、対象1kgあたり1日1.6mg~3.3mgの間である。好ましい一実施形態では、ラジプロジルの使用量は、対象1kgあたり1日約2.5mgである。更に好ましい一実施形態では、ラジプロジルの使用量は、対象1kgあたり1日約2.25mgである。
【0034】
ラジプロジル又は薬学的に許容されるその変形形態は、経口的に、静脈内に、又は当業界で知られている要領で対象に投与することができる。ラジプロジル又は薬学的に許容されるその変形形態は、薬学的に許容される1種又は複数の賦形剤と共に投与されてもよい。
【0035】
グルタミン酸2b受容体拮抗薬の使用
本発明の一実施形態では、対象において咳を処置又は予防するための、グルタミン酸2b受容体(Glut2B又はGluN2B)拮抗薬。Glut2B拮抗薬は、イフェンプロジル、ラジプロジル、トラキソプロジル、リスレンムダズ、エリプロジル、Ro-25-6981、及びBMT-108908、EVT-101、CP101-606、MK-0657、EVT-103、及びAZD 6765の1種又は複数でよい(Annual Reports in Medicinal Chemistry (2012) Volume 47: 94~103)。
【0036】
本発明の別の態様では、イフェンプロジルは、NMDA受容体(GluN1、より詳細にはGlunN2Bサブユニット)拮抗作用及びシグマ受容体(より詳細には、サブユニット1)作動薬活性を示すことが知られている。シグマ受容体は、細胞の小胞体に属する細胞内シャペロンである。したがって、同様の活性を有する分子は、抗線維性効果を示し、IPFの処置になる。IPFは、咳を伴って、又は伴わずに現れる場合がある。イフェンプロジルとIPFの以前の研究では、マウスブレオマイシンモデルが使用された。マウスは、咳反射を示さないため、咳嗽に対するイフェンプロジルの効果に関しては、あったとしても、わかっていることがなかった。代表的なシグマ受容体作動薬には、フルボキサミン、フルオキセチン、エスシタロプラム、ドネペジル等の選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)が含まれる(J. Pharmacological Sciences (2015) 127:6~9)。
【0037】
組み合わせた使用
別の一態様では、本発明は、イフェンプロジル、ラジプロジル、トラキソプロジル、リスレンムダズ、エリプロジル、Ro-25-6981、及びBMT-108908、EVT-101、CP101-606、MK-0657、EVT-103、及びAZD 6765の1つ又は複数を組み合わせて用いた、対象における咳の処置又は予防の使用及び方法を提供する。別の一態様では、本発明は、イフェンプロジル、ラジプロジル、トラキソプロジル、リスレンムダズ、エリプロジル、Ro-25-6981、及びBMT-108908、EVT-101、CP101-606、MK-0657、EVT-103、及びAZD 6765の1つ又は複数を、デキサメタゾン、ピルフェニドン、及びニンテダニブの1つ又は複数と組み合わせて用いた、対象における咳の処置又は予防の使用及び方法を提供する。
【0038】
本明細書で使用する用語「治療有効量」とは、処置を受ける対象において所望の予防又は治療効果を付与するのに十分な活性成分の量を指す。一部の実施形態では、有効量は、たとえば、投与経路及び頻度、薬理化合物を受け入れる対象の体重及び種に基づいて決定される。
【0039】
一部の実施形態では、有効量の薬理化合物が、薬学的に許容される媒体と共に製剤され、対象に投与される。本明細書で使用する用語「薬学的に許容される」とは、媒体が、薬理化合物と適合すると同時に、処置を受ける対象にとっても安全であることが当業界で知られていることを意味する。一部の実施形態では、薬学的に許容される媒体は、当業者によって、たとえば、薬理化合物の前記媒体への溶解性を評価しながら決定される。
【0040】
本発明の実施形態について、以下の実施例に関連して更に記載するが、実施例は、例証となるものであり、限定する性質のものではない。
【実施例】
【0041】
材料及び方法
1つの研究で使用したモルモット種は、英国Marshall Bioresources社から供給された、それぞれ体重が300g~350gの間である、24匹の雄Dunkin Hartleyモルモットであった。
【0042】
モルモットは、到着後、囲い(11125cm2)に収容し、明/暗サイクルを12時間とした。室温及び湿度を、内務省ガイドライン(それぞれ、17~24℃及び40~70%)内に保った。すべての囲いにおいて環境強化も講じた。モルモットは、標準固形飼料に自由にありつけるようにした。水も、ボトルから自由に入手可能にした。実験手順の開始前に、7日の順化期間を見込んだ。
【0043】
研究の間は終始、朝に1日1回動物を観察した。処置期間の間は、15~30分毎に動物を観察した。英国内務省事業許可の限度を超えて不調である徴候を示す動物は、えりのけ、スポンサー監視係に知らせた。
【0044】
この研究における調整された手順を経ている動物において、(英国内務省によって提供された)以下のガイドラインを使用して、非特異的な又は予想外の有害作用を評価した。ガイドラインは、手順、試験化合物、又は対照薬物投与に関連する。プロトコール重症度限界と同等な部類になる、以下の限界臨床徴候のいずれか2つ以上を示す動物を研究から除外し、確定時に、スケジュール1方法(通常は頚椎脱臼)を使用して安楽死させた。動物が、最初の2つの徴候のいずれか又は両方の限界に、他のいずれかの徴候を伴って又は伴わずに達した場合では、その動物を研究から除外し、確定時に、スケジュール1方法によって屠殺した。重度の闘争傷を被った動物も、研究から除外し、確定時に、スケジュール1方法によって屠殺した。
【0045】
限界臨床徴候には、以下のものが含まれる。
●個々の最高測定体重の20%より大幅な体重減少
●食物及び水消費が3日間常態の40%未満である又は無食欲(合計72時間の食欲不振)
●皮膚テンティング等の他の脱水徴候を伴う著しい立毛
●活動及び挑発に対して無応答性
●持続的にうずくまっている(動けない)
●窮迫している-持続性の鳴き
●持続的でおびただしい眼鼻分泌物
●苦しい呼吸
●持続性振戦
●持続性けいれん
【0046】
この研究では、闘争傷のため、又は上記重症度限界を超えたために除外された動物はいなかった。
【0047】
試験化合物であるイフェンプロジル、及び(粉末形態の)ゲファピキサントを調製し、最終処置緩衝液に必要となる体積の100%プロピレングリコールを最初に加えることにより製剤した。追加の緩衝剤成分、最初にsolutol、次いでcaptisolを、徐々に加えた。各成分は、保存製剤用の処置緩衝液の最終体積に必要となる体積と同等の体積で加えた。
【0048】
詳細には、ゲファピキサントについては、これを、5mL/Kgの用量体積で3.5mg/Kgを送達する濃度である、0.7mg/mLとした。イフェンプロジルについては、これを、5mL/Kgの用量体積で1.5mg/Kgを送達する濃度である0.3mg/mLとした。
【0049】
各緩衝液成分を加える前に、Branson 1510ソニケーターを使用して、試験化合物製剤を15分間音波処理した。その後、試験化合物及びゲファピキサントの最初の製剤を、調製された緩衝液媒体で希釈して、追加の投与用製剤を用意した。これを、0.01~0.2mg/ml、好ましくは、5mL/Kgの用量体積で0.3mg/Kgを送達する用量である0.06mg/mLとした。
【0050】
最終試験化合物緩衝液媒体は、プロピレングリコール:PBS中20%のSolutol : PBS中5%のCaptisolの10:10:80混合物から構成された。
【0051】
媒体は、100%プロピレングリコールにPBS中20%のSolutolを加えた後、PBS中5%のCaptisolを加えることにより製剤した。最終媒体調製物は、プロピレングリコール、20% Solutol、及び5% Captisolの10:10:80混合物になった。したがって、1mL毎の媒体中には、100%プロピレングリコールが0.1mL、20% Solutolが0.1mL、5% Captisolが0.8mL存在することになる。
【0052】
すべての最終試験製剤及び対照製剤を、投与する前に30分間音波処理して、一様な懸濁液を生成するか、又は製剤が確実に目に見えて溶解するようにした。
【0053】
動物は、咳誘発剤(tussive agent) (クエン酸)に曝す前に、以下でTable 1 (表1)に明記した量を使用して、媒体、試験化合物、又はゲファピキサントによってまず事前処置した(5mL/Kg、経口)。各場合において、処置の投与経路は、経口とした。
【0054】
【0055】
ゲファピキサント(3.5mg/Kg)が与えられる動物には、咳誘発剤に曝す2時間前に投与した。イフェンプロジル(1.5mg/Kg)が与えられる動物には、咳誘発剤に曝す30分前に投与した。
【0056】
咳を評価する10分前に、各動物を、ネブライザーを介して2L/分で空気流が供給されるようになっている専用の曝露室に個々に入れ、その新しい環境に馴染むようにした。
【0057】
順化期間の後、次いで、0.6mL/分の名目上の液体消費速度に設定した超音波ネブライザー(Aerogen社)を使用して、各動物を1Mクエン酸のエアロゾルに10分間曝した。
【0058】
10分の1Mクエン酸エアロゾル、及びその後の5分の観察期間の間に惹起された咳及びくしゃみを手作業で記録して、動物の健康をモニターした。このデータは、咳とくしゃみの厳密な区別を確かなものにするのに使用したデータ取得システム(Powerlab)に記録された空気流圧力変化から得られたデータに対するバックアップデータセットを得るのにも役立った。データを、咳の発生、咳回数及び頻度、並びにくしゃみについて分析した。
【0059】
動物は、各実験の終わりに、過量のペントバルビトンで直ちに安楽死させた。
【0060】
各モルモットについて、以下の測定及び評価を行った。
●各処置群において誘発された咳の平均合計回数
●各群における最初の咳の平均発生
●各処置群におけるクエン酸曝露の間の平均毎分咳回数
【0061】
群間の偏差を、一元配置分散分析(ANOVA)によって統計分析した。異なる処置レベル間で平均値に有意差がある場合では、ダネットの検定を使用して、クエン酸媒体群との比較を行った。p<0.05を統計的に有意とみなした。
【0062】
結果
咳の合計回数
図3に、ゲファピキサント(3.5mg/Kg、経口)、イフェンプロジル(1.5mg/Kg、経口)、又は媒体(5mL/Kg、経口)による処置後の、クエン酸(1M)又は食塩水への10分の曝露及び5分の回復期間の間のモルモットからの咳の合計回数を要約する。
【0063】
各カラムは、平均を表し、縦の棒は、平均の標準誤差を表す(1群あたりn=6)。試験化合物で処置した動物における合計咳回数を、ANOVAの後にダネットの事後検定を使用して、クエン酸曝露を受けた媒体対照動物と比較した(*)。ここで、*P<0.05、**P<0.01。
【0064】
生データを、以下で付表A(表2)に示す。媒体群は、動物1匹あたり平均29.5回の咳を呈した。ゲファピキサントで処置した群は、動物1匹あたり平均23.67回の咳を呈した。特に、イフェンプロジルで処置した群は、動物1匹あたり平均17.17回の咳を呈した。
【0065】
最初の咳の発生
図4に、ゲファピキサント(3.5mg/Kg、経口)、イフェンプロジル(1.5mg/Kg、経口)、又は媒体(5mL/Kg、経口)による処置後の、クエン酸(1M)又は食塩水への10分の曝露及び5分の回復期間の間のモルモットからの、最初の咳の発生にかかる時間量を要約する。
【0066】
各カラムは、平均を表し、縦の棒は、平均の標準誤差を表す(1群あたりn=6)。試験化合物で処置した動物における最初の咳の発生を、ANOVAの後にダネットの事後検定を使用して、クエン酸曝露を受けた媒体対照動物と比較した(*)。
【0067】
生データを、以下で付表A(表2)に示す。媒体群における咳の初回発生は、34.2秒であった。ゲファピキサントで処置した群における咳の初回発生は、49.7秒であった。特に、イフェンプロジルで処置した群における咳の初回発生は、59.8秒であった。
【0068】
くしゃみの合計回数
生データを、以下で付表B(表3)に示す。媒体群は、動物1匹あたり平均5.17回のくしゃみを呈した。ゲファピキサントで処置した群は、動物1匹あたり平均3.17回のくしゃみを呈した。イフェンプロジルで処置した群は、動物1匹あたり平均3.33回のくしゃみを呈した。
【0069】
結論
結論として、ラジプロジル、及び/又は他のグルタミン酸2b受容体拮抗薬、特にイフェンプロジルの経口投与は、咳嗽の予防及び/又は緩和において有効性を示す。
【0070】
詳細には、イフェンプロジル(1.5mg/kg)が、未処置対照に対して平均咳頻度の42%の減少を示した(p<0.01)。ゲファピキサント(3.5mg/kg)が、未処置対照に対して平均咳頻度の20%の減少を示した(p<0.05)。イフェンプロジル(59.8秒)及びゲファピキサント(49.7秒)の両方が、対照(34.2秒)と比較したとき、最初の咳の発生の遅延を示した。
【0071】
当業者の理解をより十分にするために、以下の記述全体にわたって、詳細な細目を明記する。しかし、よく知られている要素は、本開示を不必要にわかりにくくするのを回避するために、詳細に示していない又は述べていない場合もある。したがって、記述及び図面は、限定するものというより例証となるものという意味で考えられる。
【0072】
いくつかの例示的な態様及び実施形態について上で論じてきたが、当業者であれば、その一定の変更、並べ替え、追加、及び下位組合せを認識しているであろう。したがって、以下の添付の請求項、及び今後導入される請求項は、全体として本明細書の最も広い解釈と矛盾せずに、そうした変更、並べ替え、追加、及び下位組合せをすべて含むように解釈されるものとする。
【0073】
付表A
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
付表B
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】