(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】小型金属部品
(51)【国際特許分類】
F16B 37/00 20060101AFI20241118BHJP
【FI】
F16B37/00 E
F16B37/00 D
(21)【出願番号】P 2022021728
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2024-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増井 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】高桑 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】勝又 雄一
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-214409(JP,A)
【文献】特開2015-121252(JP,A)
【文献】特開2012-135740(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105090223(CN,A)
【文献】特開2018-123480(JP,A)
【文献】特開2006-118582(JP,A)
【文献】特開2012-251583(JP,A)
【文献】特表2021-514047(JP,A)
【文献】特開2008-133899(JP,A)
【文献】特表2018-527532(JP,A)
【文献】国際公開第2021/257694(WO,A1)
【文献】特開平10-103327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00- 43/02
C23C 22/00- 22/86
C25D 5/00- 7/12
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理された
ナットまたはカラーである小型金属部品の平面部に、同心円状若しくは螺旋状の溝、又はローレットを形成することにより、表面処理工程における平面部同士の密着を防止する凹凸を設けたことを特徴とする小型金属部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆用の表面処理を施したナットやカラーなどの小型金属部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナットやカラーなどの小型金属部品の表面には、防錆性能を高めるために亜鉛ニッケルめっき、クロメート処理などの表面処理が施されることが多い。例えば特許文献1には、ボルトやナットに対して、亜鉛ニッケルめっきとクロメート処理とトップコート処理を、順次行うことが記載されている。ナットやカラーなどの小型金属部品の表面処理は、バスケットの内部に多数の小型金属部品を収納し、めっき液などの表面処理液に浸漬する方法で行われるのが普通である。
【0003】
例えばナットの一種であるピアスナットは、
図1に示すようにナット本体10の座面側に相手部材に圧入される突起11や、相手部材である金属を塑性的に流入させる環状溝12を備えているが、反座面側は平坦な平面部13となっている。ピアスナットの詳細な形状は、例えば特許文献2に記載されている。
【0004】
上記のような形状のピアスナットの製造工程において、平面部13にクロメート皮膜が正常に形成されていないものが少数ながら発見された。そのようなピアスナットは防錆性能が劣るため、出荷されないように取り除く必要があるが、ピアスナットなどの小型金属部品を全数検査することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-135740号公報
【文献】特開2014-43883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って発明の目的は、表面処理不良を確実に防止した小型金属部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの問題を解決するために、ピアスナットの平面部に表面処理不良が発生する原因を検討した。その結果、
図2に示すように亜鉛めっきを行うバスケットの内部でナット本体10の平面部13どうしが密着すると、その箇所に表面処理液であるめっき液がうまく進入できないため、その後にクロメート処理を行ってもクロメート皮膜が正常に形成されないことが原因であることを見出した。
【0008】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、表面処理されたナットまたはカラーである小型金属部品の平面部に、同心円状若しくは螺旋状の溝、又はローレットを形成することにより、表面処理工程における平面部同士の密着を防止する凹凸を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の小型金属部品
は表面処理されたナットまたはカラーであり、その平面部に同心円状若しくは螺旋状の溝、又はローレットを形成することにより、表面処理工程における平面部同士の密着を防止する凹凸を設けた。これにより、バスケットの内部で小型金属部品どうしが
図2のような状態になった場合にも、表面処理液であるめっき液を平面部に確実に進入させることができ、表面処理不良を防止することができる。なお、ピアスナットや圧入ナットの座面側には突起が形成されているため、表面処理工程において互いに密着することはない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ピアスナットの平面図(A)と中央縦断面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を示す。以下に記載する実施形態の小型金属部品は何れもピアスナットであり、
図1と同様に、ナット本体10の座面側には相手部材に圧入される突起11や、相手部材である金属を塑性流動させる環状溝12が形成されている。
【0013】
本発明の第1の実施形態は、
図3に示すように、ナット本体10の反座面側の平面部13に、めっき工程における平面部同士の密着を防止する凹凸として、同心円状の周方向の溝20を形成したものである。溝20の本数や深さは表面処理液の粘性などを考慮して適宜設定すればよいが、M6、M8ナットの場合には、溝20の本数は3~5本、深さは0.1~0.5mm程度とすることが好ましい。
【0014】
図4に示す第2の実施形態では、ナット本体10の反座面側の平面部13に、平面部同士の密着を防止する凹凸として、周方向に延びる螺旋溝21が形成されている。螺旋溝21のピッチや深さは実施例1と同様に、表面処理液の粘性などを考慮して適宜設定すればよい。
【0015】
図5に示す第3の実施形態では、ナット本体10の反座面側の平面部13に、同心円状の周方向の溝20のほかに、半径方向の溝22を形成した。また
図6に示す
参考形態では、半径方向に延びる放射状の溝23を形成した。これらの溝22、23の本数も適宜設定することができるが、3~12本程度とすることが好ましい。
【0016】
上記した第1~
第3の実施形態では、平面部13、13どうしの密着を防止する凹凸として各種の溝を形成したが、
図7に示す
第4の実施形態のように平面部13にローレット24を形成してもよい。
【0017】
上記のようにナット本体10の平面部13に凹凸を形成すれば、
図8に示すように処理工程において隣接するナットの平面部13どうしが密着した場合であっても、凹凸を通じて表面処理液が平面部13の全面に進入することができるので、従来のような表面処理理不良を招くことがない。
【0018】
図9に他の参考形態を示す。これはナット本体10の反座面側の平面部13に、テーパ25を形成
したものである。このような形状としても、隣接するナットの平面部13どうしが完全に密着することがなくなり、従来のような表面処理不良を防止することができる。なお
図9では中央がくぼんだテーパ25としたが、中央が突出したテーパとすることもできる。しかしくぼみ量や突出量を大きくして行くと次第に平面部13ではなくなって行き、他の部材を締結する際に障害となるおそれがあるため、くぼみ量や突出量は小さめに設定しておくことが好ましい。
【0019】
なお、上記の実施形態では小型金属部品は何れもピアスナットであったがこれに限定されるものではなく、パネルに形成された下穴に押し込んで固定される圧入ナットであってもよい。また、平面部を有するカラー等の小型金属部品であってもよい。
【0020】
本発明の効果を確認するため、本発明の実施例1に示したピアスナットと、平面部が平滑な従来のピアスナットを用い、バスケットを用いた亜鉛めっき処理を行った後、クリアクロメート処理を行った。ナットのサイズは何れもM6である。クロメート処理の後に目視検査によって平面部の外観に変色や貼り付き痕などの異常があるものを数個ずつ選び出し、正常部と異常部の成分分析を行った。
【0021】
その結果、従来品では正常部のクロム量が平均値で1.5wt%であるのに対して、異常部のクロム量は平均値で0.2 wt%であり、クロメート皮膜が正常に生成されていなかった。その後にその従来品に対して塩水噴霧試験を実施した。白錆発生時間規格は300時間であるが、144時間経過した時点で白錆が発生した。
【0022】
これに対して、実施例1のピアスナットでは正常部の平均値でクロム量が2.1wt%であるのに対して異常部のクロム量は平均値で0.8 wt%であり、外観の異常はみとめられるものの、クロメート皮膜は形成されていた。その後に塩水噴霧試験を実施したが、白錆発生時間規格である300時間を経過しても白錆は発生しなかった。よって、外観不良の問題は残るものの、機能面においては問題のないレベルであることが確認できた。
【0023】
以上に説明したとおり本発明によれば、小型金属部品の平面部に同心円状若しくは螺旋状の溝、又はローレットを形成することにより、表面処理不良を確実に防止することができ、全数検査を行わなくても、防錆性能が不足する小型金属部品をなくすることができる。
【符号の説明】
【0024】
10 ナット本体
11 突起
12 環状溝
13 平面部
20 周方向の溝
21 螺旋溝
22 半径方向の溝
23 放射状の溝
24 ローレット
25 テーパ