IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 精電舎電子工業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】超音波溶着装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/08 20060101AFI20241118BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20241118BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
B29C65/08
B01D63/00 500
B01D63/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020043267
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2020163848
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2019058592
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195649
【氏名又は名称】精電舎電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】郡市 一
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-110839(JP,A)
【文献】特開2006-142705(JP,A)
【文献】国際公開第2018/122964(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00 - 65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンビル上に載置した樹脂成形品の上に繊維部材を重ね、昇降手段が当該繊維部材の表面から超音波振動している工具ホーンを繊維部材と樹脂成形品に押し当てて、前記繊維部材と前記樹脂成形品を溶着する超音波溶着装置において、
前記工具ホーンの押圧面には、凸部表面と、前記凸部表面と間隔を空けて設けられた凹部底面とを傾斜した案内面でつないだ凸部と凹部が隣接して形成され、
前記工具ホーンの凸部表面と、凹部表面との間の厚みが、前記繊維部材の厚さよりも薄く形成されることで、前記工具ホーンの凹部が、前記樹脂成形品の溶融部分の前記工具ホーンの凹部底面に向けての侵入を受け入れるように形成され、
前記昇降手段は、
超音波振動している前記工具ホーンの凸部で前記繊維部材と前記樹脂成形品を押圧して、両者が溶着した溶着範囲を形成させるものであり、
前記工具ホーンの凹部底面では前記樹脂成形品までは押圧せず前記繊維部材のみを押圧することで、前記工具ホーンの凸部表面から凹部底面に向けて、前記工具ホーンの凸部で溶融させた前記樹脂成形品の溶融部分を流入させつつ、前記工具ホーンの凹部で前記樹脂成形品の溶融部分の侵入を受け入れ、前記樹脂成形品の溶融部分と前記繊維部材が絡み合った含浸範囲を形成させ、
前記溶着範囲と前記含浸範囲を隣接して形成するように構成したことを特徴とする超音波溶着装置。
【請求項2】
前記案内面は、前記凸部表面と前記凹部底面をつなぐ外側に凸の曲面としたことを特徴とする請求項1記載の超音波溶着装置。
【請求項3】
前記工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、前記凸部と凹部を押圧面において一方向に交互に繰り返して形成したことを特徴とする請求項1記載の超音波溶着装置。
【請求項4】
前記工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、前記凸部と凹部を押圧面において一方向に交互に繰り返すものを複数並行して形成したことを特徴とする請求項1記載の超音波溶着装置。
【請求項5】
前記工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、前記凸部と凹部を押圧面において一方向に交互に繰り返すものを、所定角度で交差させて繰り返すように形成したことを特徴とする請求項1記載の超音波溶着装置。
【請求項6】
前記工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、前記凸部と凹部を押圧面の内側から外側に向けて放射状に交互に繰り返して形成したことを特徴とする請求項1記載の超音波溶着装置。
【請求項7】
前記工具ホーンの押圧面を円形として、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ円形の凸部と円形の凹部を、押圧面の内側から外側に向けて放射状に繰り返すように形成したことを特徴とする請求項6に記載の超音波溶着装置。
【請求項8】
前記工具ホーンの押圧面を多角形として、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ多角形の凸部と多角形の凹部を、押圧面の内側から外側に向けて放射状に繰り返すように形成した、請求項6に記載の超音波溶着装置。
【請求項9】
前記工具ホーンの押圧面に形成した凸部の表面に小突起を設けたことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載した超音波溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料でできたシート状部材(本願では、以下、「繊維部材」という)を樹脂成形品に溶着する超音波溶着装置に関し、特に医療用フィルタや汚泥処理膜などの繊維材料でできたシート状部材(繊維部材)が樹脂成形品から剥がれないように強く溶着する超音波溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、不織布を支持材とした繊維部材を樹脂成形品の表面に溶着する際には、樹脂成形品の上に繊維部材を載せ、繊維部材に熱板または超音波溶着機の工具ホーンを直接押さえつけて溶着していた。
【0003】
図24は、溶着前の枠状の樹脂成形品10と長方形のシート状の繊維部材20の位置関係を示した斜視図である。従来は、樹脂成形品10の段差部分10aの上に繊維部材20の周辺近傍部分21を被せ、図25のように超音波振動している工具ホーン90を押し当てて溶着していた。溶着箇所25については、必要な密着状態と密着強度に応じて、四隅だけ、あるいは複数の溶着箇所を所定の間隔をあけて溶着していた。そのため、大きな密着強度が必要な時、あるいは繊維部材の全周を樹脂成形品に溶着するときには、多くの溶着箇所を溶着するため、溶着箇所の数に比例した加工時間を必要としていた(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
図26(a)は、溶着作業前の樹脂成形品10、繊維部材20と工具ホーン90の位置関係を示す断面図、図26(b)は、樹脂成形品10に重ねた繊維部材20の上から超音波振動している工具ホーン90を押し付けて、溶着しているときの断面図を示している。
【0005】
図26(c)は、溶着した後の樹脂成形品10と繊維部材20の断面図を示した。工具ホーン90の下面で押し付けた範囲は、溶着前の樹脂成形品10と繊維部材20を重ねた全体の厚さ(H)についても、樹脂成形品10の厚さ(H)についても溶着前より圧縮されている。
【0006】
工具ホーン90を押し付けた範囲は、樹脂成形品10と繊維部材20が溶着した溶着範囲であるが、工具ホーン90を押し付けていない範囲は、溶着されていない非溶着範囲、つまり樹脂成形品10上の繊維部材20は離れたまま、単に接触しているだけであることを示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-24270号公報
【文献】特開2010-208031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のように、複数の溶着箇所を所定の間隔をあけて溶着すると、図26のように非溶着範囲では、樹脂成形品10上の繊維部材20は離れたまま、単に接触しているだけである。
【0009】
医療用フィルタや汚泥処理膜などは、継続して使用していると目詰まりする。フィルタ性能を維持するために、繊維部材20に付着した付着物を取り除く清掃作業をすると通常の使用時より大きい外力が加わることがある。そのため何回か清掃すると、溶着が剥がれたり、繊維部材が破れたりしてしまうことがあった。溶着が剥がれたり、繊維部材が破れたりすると、消耗品として新品交換する必要が生じる。
【0010】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シート状部材が樹脂成形品から剥がれないように強く安定的に溶着する超音波溶着装置を提供することである。
【0011】
より具体的には、複数の溶着箇所を所定の間隔をあけて溶着したときでも、溶着範囲と溶着範囲の間に、樹脂成形品と繊維材料が絡み合って含浸して固まった含浸範囲を形成して、繊維部材を樹脂成形品に強く安定的に溶着できる超音波溶着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明に係る超音波溶着装置では、アンビル上に載置した樹脂成形品の上に繊維部材を重ね、当該繊維部材の表面から超音波振動している工具ホーンを繊維部材と樹脂成形品に押し当てて、前記繊維部材と前記樹脂成形品を溶着する超音波溶着装置において、前記工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成し、超音波振動している前記工具ホーンの凸部で前記繊維部材と前記樹脂成形品を押圧して、両者が溶着した溶着範囲を形成し、前記工具ホーンの凸部表面から凹部底面に向けて、前記工具ホーンの凸部で溶融させた前記樹脂成形品の溶融部分を流入させ、前記樹脂成形品の溶融部分と前記繊維部材が絡み合った含浸範囲を形成し、前記溶着範囲と前記含浸範囲を隣接して形成するように構成している。
【0013】
本発明の超音波溶着装置では、工具ホーンの押圧面に、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、前記凸部と凹部を交互に繰り返して形成したことにより、繊維部材と樹脂成形品を溶着した範囲で、工具ホーン凸部で形成した溶着範囲と工具ホーン凹部で形成した含浸範囲が交互に連続して繰り返すようにしている。
【0014】
すなわち本発明では、超音波振動している工具ホーンの凸部で繊維部材と樹脂成形品を押圧して、両者が溶着した溶着範囲を形成し、工具ホーンの凸部表面から凹部底面に向けて、前記工具ホーンの凸部で溶融させた前記樹脂成形品の溶融部分を流入させ、樹脂成形品の溶融部分と繊維部材が絡み合った含浸範囲を形成し、溶着範囲と含浸範囲を隣接して形成するように構成している。
【0015】
本発明の超音波溶着装置では、工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、凸部と凹部を押圧面において一方向に交互に繰り返して形成している。
【0016】
本発明の超音波溶着装置では、工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、凸部と凹部を押圧面において一方向に交互に繰り返すものを複数並行して形成している。
【0017】
本発明の超音波溶着装置では、工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、凸部と凹部を押圧面において一方向に交互に繰り返すものを、所定角度で交差させて形成している。
【0018】
本発明の超音波溶着装置では、工具ホーンの押圧面に凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を隣接して形成する際に、凸部と凹部を押圧面の内側から外側に向けて放射状に交互に繰り返して形成している。
【0019】
本発明の超音波溶着装置では、工具ホーンの押圧面を円形として、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ円形の凸部と円形の凹部を、押圧面の内側から外側に向けて放射状に繰り返すように形成している。
【0020】
本発明の超音波溶着装置では、工具ホーンの押圧面を多角形として、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ多角形の凸部と多角形の凹部を、押圧面の内側から外側に向けて放射状に繰り返すように形成している。
【0021】
本発明の超音波溶着装置では、前記工具ホーンの押圧面に形成した凸部の表面に小突起を設けている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の超音波溶着装置では、溶着範囲で所要の密着状態と大きな密着強度を得るとともに、溶着範囲に隣接する範囲を、繊維部材に溶融した樹脂成形品が絡み合った含浸範囲として、繊維部材と樹脂成形品を良好な密着状態と大きな密着強度を得ることを、同時に実現している。
【0023】
本発明の超音波溶着装置では、溶着範囲に隣接する範囲でも、シート状部材が樹脂成形品から剥がれないように溶着することができる。そのため従来のように、多くの作業時間を費やして繊維部材の全周を樹脂成形品に溶着しなくても、シート状部材と樹脂成形品の良好な密着状態と、十分に大きい密着強度が得られるという効果がある。
【0024】
本発明の超音波溶着装置では、溶着範囲の隣接部分を、従来のように樹脂成形品と繊維部材が離れたまま、単に接触している非溶着範囲とするのではなく、樹脂成形品と繊維部材が絡み合った状態で固まった含浸範囲として形成している。そのため、溶着した樹脂成形品と繊維部材に、例えば繊維部材の清掃作業などで通常の使用時より大きい外力が加わっても、溶着が剥がれたり、繊維部材が破れたりすることがないという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)本発明の超音波溶着装置の溶着作業前の状態を示す概略側面図、(b)本発明の超音波溶着装置の溶着作業中の状態を示す概略側面図。
図2】(a)(b)(c)(d)本発明の超音波溶着装置の溶着作業手順を断面で示した遷移図。
図3】(a)(b)(c)(d)(e)本発明の溶着作業で、工具ホーン凸部で溶融した樹脂成形品の溶融部分が繊維部材に向けて移動して絡み合って含浸していく様子のイメージを断面で示した遷移図。
図4】(a)(b)(c)(d)本発明の超音波溶着装置で、ループ状の繊維でできたフィルターシートを枠状の樹脂成形品に溶着する溶着作業手順を断面で示した遷移図。
図5】本発明の超音波溶着装置で溶着した樹脂成形品と繊維部材を示した平面図。
図6】本発明の実施形態の工具ホーンの下から見た部分的外観斜視図。
図7】(a)本発明の実施形態の第一変形例の工具ホーンの部分正面図、(b)本発明の実施形態の第二変形例の工具ホーンの部分正面図。
図8】(a)(b)(c)(d)(e)本発明の超音波溶着装置の変形例として、工具ホーンの案内面を斜面の代わりに曲面とした工具ホーンを用いたときの、工具ホーン凸部で溶融した樹脂成形品の溶融部分が繊維部材に向けて移動して絡み合って含浸していく様子のイメージを断面で示した遷移図。
図9】(a)(b)(c)(d)工具ホーンの押圧面に、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部が交互に繰り返す態様のイメージを矢印で示した図。
図10】(a)本発明の超音波溶着装置の第二の実施形態の工具ホーンの先端部の断面図、(b)同工具ホーンの押圧面を示した底面図。
図11】(a)本発明の超音波溶着装置の第三の実施形態の工具ホーンの先端部の断面図、(b)同工具ホーンの押圧面を示した底面図。
図12】(a)本発明の超音波溶着装置の第四の実施形態の工具ホーンの先端部の断面図、(b)同工具ホーンの押圧面を示した底面図。
図13】本発明の超音波溶着装置の第四の実施形態の工具ホーンを用いて溶着した構造物の外観斜視図。
図14】本発明の超音波溶着装置の第四の実施形態の工具ホーンを用いて溶着した構造物の溶着部分の外観拡大斜視図。
図15】本発明の超音波溶着装置の第四の実施形態の変形例にかかる工具ホーンの先端部の断面図。
図16】本発明の超音波溶着装置の第四の実施形態の変形例にかかる工具ホーンを用いて溶着した構造物の溶着部分の外観拡大斜視図。
図17】(a)本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の工具ホーンの先端部の断面図、(b)同工具ホーンの押圧面を示した底面図。
図18】本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の工具ホーンの斜め下方から見た外観斜視図。
図19】(a)(b)(c)(d)本発明の第五の実施形態にかかる超音波溶着装置の溶着作業手順を断面で示した遷移図。
図20】本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の工具ホーンを用いて溶着した構造物の外観斜視図。
図21】本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の第一の変形例にかかる工具ホーンの先端部の断面図、(b)同工具ホーンの押圧面を示した底面図。
図22】(a)本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の第二の変形例にかかる工具ホーンの先端部の断面図、(b)同工具ホーンの押圧面を示した底面図。
図23】(a)本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の第三の変形例にかかる工具ホーンの先端部の断面図、(b)同工具ホーンの押圧面を示した底面図。
図24】従来の超音波溶着装置で、溶着する樹脂成形品と繊維部材の位置関係を示した分解斜視図。
図25】従来の超音波溶着装置で、樹脂成形品と繊維部材を溶着するときの位置関係を示した分解斜視図。
図26】(a)(b)(c)従来の超音波溶着装置で樹脂成形品と繊維部材を溶着するときの遷移状態を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第一の実施形態)
図1(a)に、本発明の超音波溶着装置の溶着作業前の状態を示す概略側面図を示し、図1(b)に、本発明の超音波溶着装置の溶着作業中の状態を示す概略側面図を示した。
【0027】
本発明の超音波溶着装置は、コの字型をしたフレーム51の下水平部分51aの上にアンビル50を置き、フレーム51の上水平部分51cの上に工具ホーンの昇降手段60であるエアーシリンダを下向きに取り付けている。昇降手段60のアクチュエータ61の先端には、スライダー62が取り付けてあり、スライダー62には超音波振動手段40が取り付けてある。そして超音波振動手段40の下方先端には工具ホーン30が取り付けてある。工具ホーン30の下面には、凸部と凹部が形成してあり、凸部表面30aと凹部底面30cを案内面30bで結んだ形にしている。本実施形態における案内面30bは、凸部表面30aと凹部底面30cをつなぐ傾斜した平面である。そして、アンビル50の上に樹脂成形品10を載せ、樹脂成形品10の上に繊維部材20を重ねて置くようにしている。
【0028】
図1(a)の溶着作業前の状態では、工具ホーン30は、アンビル50上の樹脂成形品10と繊維部材20の上方の離れた位置にある。本発明の超音波溶着装置の溶着作業が始まると、昇降手段60のアクチュエータ61が下降し、工具ホーン30が超音波振動するとともに、アンビル50上の樹脂成形品10と繊維部材20を押圧する。
【0029】
工具ホーン30が超音波振動するとともに、アンビル50上の樹脂成形品10と繊維部材20に向けて下降すると、工具ホーン30の凸部表面30aは繊維部材20を圧縮し、圧縮した繊維部材20とその下の樹脂成形品10に超音波振動を伝える。超音波振動の振動方向は工具ホーン30の凸部表面30a及び凹部底面30cに対して垂直方向、即ち図1(a)(b)における上下方向であり、超音波振動の周波数は20kHzから40kHz、振幅は数ミクロンmから数十ミクロンm程度とする。参考までに、工具ホーン30が超音波振動しているイメージが理解できるよう、小さい黒矢印を図中に示した。
【0030】
このように構成された超音波溶着装置は、樹脂成形品10と繊維部材20が溶着した溶着範囲を形成し、前記工具ホーン30の凸部表面30aから凹部底面30cに向けて、前記工具ホーン30の凸部表面30aで溶融させた前記樹脂成形品10の溶融部分を案内面30bを介して凹部底面30cに流入させ、前記樹脂成形品10の溶融部分と前記繊維部材20が絡み合った含浸範囲を形成し、前記溶着範囲と前記含浸範囲を隣接して形成する。
【0031】
図2(a)から(d)では、工具ホーン30が超音波振動するとともに、アンビル50上の樹脂成形品10と繊維部材20に向けて下降すると、工具ホーン30の凸部表面30aは繊維部材20を圧縮し、圧縮した繊維部材20とその下の樹脂成形品10に超音波振動を伝え、溶着範囲と含浸範囲を形成する様子を遷移図で示した。
【0032】
図2(a)の溶着作業前の状態では、工具ホーン30は、アンビル50上の樹脂成形品10と繊維部材20の上方の離れた位置にある。溶着前の樹脂成形品10の厚さ(H)と繊維部材20の厚さ(H2)を重ねた厚さが、全体の厚さ(H)であることを図示した。
【0033】
図2(b)のように工具ホーン30が超音波振動するとともに、アンビル50上の樹脂成形品10と繊維部材20を押圧し始めると、工具ホーン30の凸部表面30aは繊維部材20を圧縮する。図2(b)は、工具ホーン30の凹部底面30cが繊維部材20の表面に達した状態を示している。
【0034】
そして、図2(c)のように、工具ホーン30の凸部表面30aが繊維部材20を圧縮した状態で樹脂成形品10を押していくと、繊維部材20と樹脂成形品10は溶融する。そして樹脂成形品10の溶融部分は、工具ホーン30の凸部表面30aで押されて、工具ホーン30の案内面30bを経由して、工具ホーン30の凹部底面30cに向かって流入する。言い換えると、工具ホーン30の凸部表面30aは、樹脂成形品10を押圧して溶融させ、樹脂成形品10の溶融部分を工具ホーン30の凹部底面30cに向かって押し上げる作用(ポンプ作用)をしている。
【0035】
図2(c)では、この樹脂成形品10の溶融部分が工具ホーン30の凹部底面30cに向かって流入する動きを小さい曲線矢印で示した。図2(c)は、工具ホーン30の凸部表面30aが樹脂成形品10を押し下げた溶融部分の量と、工具ホーン30の凹部底面30cに流入した溶融部分の量がバランスしたときの状態を示している。
【0036】
工具ホーン30の凹部底面30cは繊維部材20を圧縮するが、工具ホーン30の凸部表面30aより圧縮量は少ないので、繊維部材20の繊維の隙間をぬって絡みつくように流入してくる樹脂成形品10の溶融部分の侵入を受け入れる。工具ホーン30の凸部表面30aと案内面30bと凹部底面30cは、同じ周期と振幅の超音波振動をしているため、工具ホーン30の凸部表面30aは、繊維部材20と樹脂成形品10を一体に溶融させた溶着範囲11を作り、工具ホーン30の凹部底面30cは、繊維部材20と樹脂成形品10が絡み合った状態、つまり繊維部材20に樹脂成形品10が含浸した含浸範囲12を作る。
【0037】
図2(d)のように、工具ホーン30の超音波振動を停止して、繊維部材20と樹脂成形品10の上方に移動すると、工具ホーン30が当たった範囲は、溶着範囲11と含浸範囲12が交互に連なった状態で溶着される。
【0038】
繰り返しの説明になるが、図3(a)から(d)で、工具ホーン30の凸部表面30aが繊維部材20を圧縮した状態で樹脂成形品10を押していき、繊維部材20と樹脂成形品10が溶融し、樹脂成形品10の溶融部分が、工具ホーン30の凸部表面30aで押されて、工具ホーン30の案内面30bを経由して、工具ホーン30の凹部底面30cに向かって流入する様子を遷移図で示した。
【0039】
図3(a)では、凸部表面30aが繊維部材20を押しつぶした状態で樹脂成形品10を溶融し、溶着範囲11を形成し始める。図3(b)では、凸部表面30aが繊維部材20と樹脂成形品10を押し下げるため、樹脂成形品10が溶融した一部が案内面30bの斜面を伝って凹部底面30cに向かって流入する。そして、更に工具ホーン30が押し下げられると、図3(c)のように、凹部底面30cに向き合っている繊維部材20の繊維の隙間に樹脂成形品10が溶融した一部が絡み合うように流入する。その後、一定時間、工具ホーン30で超音波振動を与えると、図3(d)のように、凸部表面30aが当たっている繊維部材20は樹脂成形品10と溶着して、溶着範囲11を形成する。そして凹部底面30cが当っていた繊維部材20は、樹脂成形品10の溶融部分が絡み合った含浸範囲12を形成する。図3(e)のように、工具ホーン30の超音波振動を停止して、繊維部材20と樹脂成形品10の上方に移動すると、工具ホーン30が当たった範囲は、溶着範囲11と含浸範囲12が交互に連なった状態で溶着される。
【0040】
なお、図2図3では、繊維部材20の断面を斜線で示したが、本発明の理解を容易にするため、図4に、繊維部材20をループ状の繊維でできたフィルターシートとして、枠状の樹脂成形品10に溶着する溶着作業手順を図示した。繊維部材20の断面をループ状の線で示したことにより、繊維部材20が押しつぶされている程度の違いが、直感的に理解される。
【0041】
すなわち、図4(a)では、工具ホーン30と繊維部材20が離れているので、繊維部材20は押しつぶされておらず、ループ状の線が均一に並んでいる。図4(b)のように、工具ホーン30の凸部表面30aが繊維部材20を押し始めると、凸部表面30aが当たっているループ状の繊維部材20がある程度押しつぶされているが、凹部底面30cが当たっているループ状の繊維部材20が押しつぶされていない。
【0042】
工具ホーン30の凸部表面30aが繊維部材20を強く推している図4(c)の段階になると、凸部表面30aが当たっているループ状の繊維部材20が強く押しつぶされて、超音波振動を受けた樹脂成形品10の中に溶融し始めている。そして凹部底面30cが当っていた繊維部材20では、繊維がループ状を保った状態で、凸部表面30aから案内面30bを経由して流入する溶融部分を受け入れて、ループ状の繊維部材20と樹脂成形品10の溶融部分が絡み合い始める。
【0043】
その後、一定の時間、工具ホーン30で超音波振動を与えると、凸部表面30aが当たっているループ状の繊維部材20は樹脂成形品10と溶着して、溶着範囲11を形成する。そして凹部底面30cが当っていたループ状の繊維部材20は、樹脂成形品10の溶融部分が絡み合った含浸範囲12を形成する。このことは、図2を用いて説明した内容と技術的には同じで、繰り返しの説明ではあるが、図4を見れば、本発明の特徴がイメージ的により容易に理解されよう。
【0044】
図5では、四角い枠型をした樹脂成形品10の上に重ねられた繊維部材20の長方形をしたシートの周囲を、超音波振動している工具ホーン30を当てて、溶着範囲11と含浸範囲12が交互に連なった状態で溶着した後の姿を平面図で示した。溶着範囲11では、繊維部材20と樹脂成形品10が一体に溶融して、一定の溶着強度で強く溶着されている。また、含浸範囲12では、繊維部材20に樹脂成形品10が絡みつくように含浸して、溶着範囲11の溶着強度より小さい強度ではあるが、繊維部材20と樹脂成形品10が一体に溶着されている。
【0045】
図24から図26を用いて説明した従来の溶着方法であれば、一つの溶着範囲と間隔をあけて形成される他の溶着範囲の間では、繊維部材20と樹脂成形品10が離れているのに、本発明では、繊維部材20に樹脂成形品10が絡みついた含浸範囲ができている。
【0046】
そのため、繊維部材20と樹脂成形品10の溶着強度は大きくなり、繊維部材20と樹脂成形品10の工具ホーンを当てたところは連続的に溶着されるという効果が得られる。
【0047】
なお、図1から図4では、本発明の超音波溶着装置の工具ホーンの厚さを示していないので、図6に、工具ホーン30の下から見た斜視図を示し、工具ホーン30の厚さを符号「b」で示した。第一の実施形態では、工具ホーンの凸部表面30aの厚さ「b」を、繊維部材20の周辺近傍部分21を被せる樹脂成形品10の段差部分10aの幅「B」より小さくしている。図5では、工具ホーンの凸部表面30aの厚さに相当する寸法を「b」で示し、樹脂成形品10の段差部分10aの幅に相当する寸法を「B」で示した。
【0048】
工具ホーンの凸部表面30aの側面に接する樹脂成形品10は、溶融していないので樹脂成形品の溶融部分の流れ込みを阻止する壁になる。そのため、樹脂成形品の溶融部分は工具ホーンの凸部表面30aの側面方向、つまり工具ホーンの凸部表面30aの厚さ方向に広がらず、案内面30bに案内されて空間部である凹部底面30cに向けて流入する。
【0049】
(第一の実施形態の変形例)
なお、溶着範囲が接近していて、凸部表面30aと凹部底面30cをつなぐ案内面30bが、上記第一の実施形態で説明したように、斜面にできない場合は、図7(a)で示したように工具ホーンの案内面を斜面の代わりに外側に凸の曲面とした工具ホーンを用いても良い。すなわち、図7(a)の工具ホーン31では、溶融部分を工具ホーン31の凸部表面31aから凹部底面31cに導く案内面31bが外側に凸の曲面になっている。
【0050】
図8(a)で、工具ホーン31の凸部表面31aが繊維部材20を圧縮した状態で樹脂成形品10に超音波振動を与えると、繊維部材20と樹脂成形品10が溶融し、樹脂成形品10の溶融部分が、工具ホーン31の凸部表面31aで押されて、工具ホーン31の案内面31bを経由して、工具ホーン31の凹部底面31cに向かって流入する。
【0051】
そして、図8(b)から図8(d)に示したように、工具ホーン31の凹部底面31cは繊維部材20を圧縮するが、工具ホーン31の凸部表面31aより圧縮量は少ないので、繊維部材20の繊維の隙間をぬって絡みつくように流入してくる樹脂成形品10の溶融部分の侵入を受け入れる。工具ホーン31の凸部表面31aと案内面31bと凹部底面31cは、同じ周期と振幅の超音波振動をしているため、工具ホーン31の凸部表面31aは、繊維部材20と樹脂成形品10を一体に溶融させた溶着範囲11を作り、工具ホーン31の凹部底面31cは、繊維部材20と樹脂成形品10が絡み合った状態、つまり繊維部材20に樹脂成形品10が含浸した含浸範囲12を作る。図8(e)のように、工具ホーン31の超音波振動を停止して、繊維部材20と樹脂成形品10の上方に移動すると、工具ホーン31が当たった範囲は、溶着範囲11と含浸範囲12が交互に連なった状態で溶着される。このことは、図2図3で説明した時と同じである。
【0052】
なお、斜面の代わりに曲面の半径Rが大きく取れない場合は、小さい面取り程度の斜面や曲面であっても良いし、場合によっては、図7(b)に示した工具ホーン32のように、斜面や曲面としなくても良い。
【0053】
また、上記の説明では、枠状の樹脂成形品10と長方形のシート状の繊維部材20を溶着する例を示したが、樹脂成形品10が枠状以外の形、例えば平板、曲面板、角材、棒材などの形をしていても良い。また、樹脂成形品が硬い板でなく、プラスチックシートのように柔軟性のあるものであっても良い。本発明は、樹脂成形品と繊維部材を溶融した溶着範囲を形成すると同時に、両者をからませて含浸させた含浸範囲を形成して、樹脂成形品と繊維部材の大きい溶着強度と、広い溶着範囲を得たいその他の場合に適用できる。
【0054】
第一の実施形態では、工具ホーンの押圧面に、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部をワンセットとして一方向に繰り返して形成した工具ホーンを用いた場合を説明した。
【0055】
なお、本発明では、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部の繰り返し方により溶着強度を増やすことが出来る。例えば、図9(a)のように、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ凸部と凹部を押圧面において一方向に繰り返して形成した場合だけでなく、図9(b)のように、複数の凸部と凹部の一方向の繰り返しを、押圧面において平行に並べた形にしてもよく、図9(c)のように、複数の凸部と凹部の繰り返しを、押圧面において格子状に、所定角度で交差させた形にしても良い。また図9(d)に示したように、複数の凸部と凹部の繰り返しを、押圧面の内側から外側に向けて放射状に出すような形にしても良い。必要とされる強度により、最適なものを用いればよい。
【0056】
以下、図9(b)の複数の凸部と凹部の一方向の繰り返しを、押圧面において平行に並べた形にした場合を第二の実施形態で説明する。図9(c)の複数の凸部と凹部の繰り返しを、押圧面において格子状に、所定角度で交差させた場合を第三の実施形態で説明する。また、図9(d)の複数の凸部と凹部の繰り返しを、押圧面の内側から外側に向けて放射状に出すような形にした場合について、第四の実施形態と第五の実施形態で説明する。
【0057】
(第二の実施形態)
本発明の超音波溶着装置の第二の実施形態では、工具ホーン70の先端を角柱として、工具ホーンの押圧面に複数の凸部と凹部の一方向の繰り返しを、平行に並べた形にした場合を説明する。
【0058】
図10(a)は、本発明の超音波溶着装置の第二の実施形態の工具ホーンの先端部の断面図であり、図10(b)は、同工具ホーンの押圧面を底面図として示している。図10の工具ホーン70では、先端を四角柱として、工具ホーンの押圧面に複数の凸部と凹部の一方向の繰り返しを、平行に並べた形にしている。
【0059】
すなわち、図10(b)では、第一の凹部底面70c-1、第一の凸部表面70a-1、第二の凹部底面70c-2、第二の凸部表面70a-2、第三の凹部底面70c-3、第三の凸部表面70a-3、第四の凹部底面70c-4をそれぞれ案内面70bで接続したものを基本形として、平行に二列並べた形にしている。図10(b)では、第二の凸部表面70a-2の長さを第一の凸部表面70a-1と第三の凸部表面70a-3より長くして、第二の凸部表面70a-2に対応する溶着範囲11を大きくしている。第二の実施形態では、凸部と凹部の一方向の繰り返しを複数列にして、広い範囲を溶着させて第一の実施形態より溶着強度を増大させている。
【0060】
(第三の実施形態)
本発明の超音波溶着装置の第三の実施形態では、工具ホーン71の先端を角柱として、工具ホーンの押圧面に凸部と凹部を一方向に交互に繰り返すものを、所定角度で交差させて形成した場合を説明する。
【0061】
図11(a)は、本発明の超音波溶着装置の第三の実施形態の工具ホーンの先端部の断面図であり、図11(b)は、同工具ホーンの押圧面を底面図として示している。図11の工具ホーン71では、先端を四角柱として、工具ホーンの押圧面に複数の凸部と凹部の繰り返しを、格子状に、所定角度で交差させた形に形成している。
【0062】
図11(b)では、第一の凹部底面71c-1、第一の凸部表面71a-1、第二の凹部底面71c-2、第二の凸部表面71a-2、第三の凹部底面71c-3、第三の凸部表面71a-3、第四の凹部底面71c-4、第四の凸部表面71a-4、第五の凹部底面71c-5をそれぞれ案内面71bで接続したものを基本形として、凸部と凹部を格子状に繰り返すように形成している。
【0063】
工具ホーン71の凸部表面71a-1~4が繊維部材20を圧縮した状態で樹脂成形品10に超音波振動を与えると、繊維部材20と樹脂成形品10が溶融し、樹脂成形品10の溶融部分が、工具ホーン71の凸部表面71a-1~4で押されて、工具ホーン71の案内面71bを経由して、工具ホーン71の凹部底面71c-1~5に向かって流入するメカニズムは、第一の実施形態で説明したのと同様である。その結果、凸部表面71a-1~4で押圧した所は、溶着範囲11となり、凹部底面71c-1~5で押圧した所は、含浸範囲12となる。第三の実施形態では、広い範囲を溶着する。そして、繊維部材20と樹脂成形品10は、第一の実施形態や第二の実施形態より強く溶着される。
【0064】
(第四の実施形態)
本発明の超音波溶着装置の第四の実施形態では、工具ホーン72の押圧面を多角形として、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ多角形の凸部と多角形の凹部を、押圧面の内側から外側に向けて放射状に繰り返すように形成した工具ホーンを用いた場合を説明する。
【0065】
図12(a)は、本発明の超音波溶着装置の第四の実施形態の工具ホーンの先端部の断面図であり、図12(b)は、同工具ホーンの押圧面を底面図として示している。図12の工具ホーン72では、先端を四角柱として、工具ホーン72の押圧面を四角形にしている。そして、押圧面の中心には、高さの低い四角柱である第一の凸部表面72a-1があり、その外に四角い枠状の第一の凹部底面72c-1を設け、その外側に四角い枠状の第二の凸部表面72a-2があり、その外に四角い枠状の第二の凹部底面72c-2を設けてあり、それぞれの凸部表面72a-1、2と凹部底面72c-1、2の間を案内面72bでつないでいる。
【0066】
本発明の第四の実施形態にかかる超音波溶着装置の溶着作業手順は、第一の実施形態にかかる超音波溶着装置の溶着作業手順と実質的に同じなので、説明を省略するが、図13に、本発明の第四の実施形態にかかる超音波溶着装置で溶着した樹脂成形品10と繊維部材20を示した外観斜視図を示した。
【0067】
図13では、樹脂成形品10の上に繊維部材20が載っていて、工具ホーンの押圧面の凸部表面72a-1、2が当たった繊維部材20は樹脂成形品10と溶着して、溶着範囲11を形成し、その両隣に繊維と溶融樹脂が絡み合った含浸範囲12を形成している。図13では、多角形をした溶着範囲11と含浸範囲12が内側から外側に向けて放射状に繰り返している箇所を4ケ所形成した場合を示した。
【0068】
図14では、溶着した部分の拡大斜視図を示した。工具ホーンの凸部表面72a-1、2で四角形の溶着範囲11を形成し、凹部底面72c-1、2で繊維部材20と溶融した樹脂成形品10が絡み合った多角形の含浸範囲12を放射状に繰り返すように形成している、そのため、繊維部材20と樹脂成形品10の溶着強度は、第一の実施形態から第三の実施形態より増大して、はがれにくくなっている。
【0069】
(第四の実施形態の変形例)
図15では、本発明の超音波溶着装置の変形例にかかる工具ホーン73の先端部の断面図を示した。工具ホーン73は、図12で説明した工具ホーン72の凸部と凹部の位置を反転した形をしている。
【0070】
工具ホーン73の先端を四角柱として、押圧面である四角形の中心には、四角形の第一の凹部底面73c-1があり、その外に四角い枠状の第一の凸部表面73a-1を設け、その外側に四角い枠状の第二の凹部底面73c-2があり、その外に四角い枠状の第二の凸部表面73a-2を設けてあり、それぞれの凸部と凹部の間を案内面73bでつないでいる。
【0071】
図16は、同工具ホーン73で溶着した部分の拡大斜視図を示した。図15の第四の実施形態の変形例にかかる工具ホーン73でも、押圧面の凸部表面73a-1、2で溶着範囲11を形成し、凹部底面73c-1、2でその外側に繊維と溶融樹脂が絡み合った含浸範囲12を押圧面の内側から外部に向けて放射状に形成している、溶着範囲11と繊維と樹脂が絡み合った含浸範囲12が放射状に繰り返すように形成している、そのため、繊維部材20と樹脂成形品10の溶着強度は増大して、はがれにくくなっている。このことは、第四の実施形態と同じである。
【0072】
(第五の実施形態)
第五の実施形態では、工具ホーン81の先端を円柱として、工具ホーン81の押圧面である円の内側から外側に向けて放射状に、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ同心円状の凸部81aと同心円状の凹部81cを繰り返して形成した工具ホーン81を用いた場合を説明する。
【0073】
第五の実施形態では、凸部表面81aと凹部底面81c-1、2を案内面81b-1、2でつないだ凸部と凹部を同心円状に隣接して形成し、超音波振動している工具ホーン81の凸部表面81aで繊維部材20と樹脂成形品10を押圧して、両者が溶着した溶着範囲を形成し、工具ホーン81の凸部表面81aから凹部底面81c-1、2に向けて、工具ホーン81の凸部表面81aで溶融させた樹脂成形品10の溶融部分を、案内面81b-1、2を利用して流入させ、樹脂成形品10の溶融部分と繊維部材20が絡み合った含浸範囲12を形成し、溶着範囲11と含浸範囲12を隣接して形成するように構成している。
【0074】
図17(a)に、本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の工具ホーン81の先端部の断面図を示し、図17(b)に同工具ホーン81の押圧面を底面図として示した。また、図18に、工具ホーン81を斜め下方から見た外観斜視図を示した。
【0075】
図17(a)(b)と図18に示した通り、工具ホーン81の円形をした押圧面には、その中心から外周に向かって、第一の凹部底面81c-1、第一の案内面81b-1、凸部表面81a、第二の案内面81b-2、第二の凹部底面81c-2が形成されている。
【0076】
また、本発明の第五の実施形態にかかる超音波溶着装置の溶着作業手順を断面で示した遷移図を図19(a)(b)(c)(d)に示した。なお、図19は、第一の実施形態の説明で用いた図4に対応している。
【0077】
図19(a)では、工具ホーン81と繊維部材20が離れているので、繊維部材20は押しつぶされておらず、ループ状の線が均一に並んでいる。図19(b)のように、工具ホーン81の凸部表面81aが繊維部材20を押し始めると、凸部表面81aが当たっているループ状の繊維部材20がある程度押しつぶされているが、凹部底面81c-1、2が当たっているループ状の繊維部材20が押しつぶされていない。
【0078】
工具ホーン81の凸部表面85aが繊維部材20を強く推している図19(c)の段階になると、凸部表面81aが当たっているループ状の繊維部材20が強く押しつぶされて、超音波振動を受けた樹脂成形品10の中に溶融し始めている。そして凹部底面81c-1、2が当っていた繊維部材20では、繊維がループ状を保った状態で、凸部表面81aから案内面81b-1、2を経由して流入する溶融部分を受け入れて、ループ状の繊維部材20と樹脂成形品10の溶融部分が絡み合い始める。
【0079】
その後、一定の時間、工具ホーン81で超音波振動を与えると、凸部表面81aが当たっているループ状の繊維部材20は樹脂成形品10と溶着して、溶着範囲11を形成する。そして凹部底面81c-1、2が当っていたループ状の繊維部材20は、樹脂成形品10の溶融部分が絡み合った含浸範囲12を形成する。
【0080】
図20に、本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の工具ホーン81を用いて溶着した構造物の外観斜視図を示した。中心に円形をした凸部として繊維と樹脂が絡み合った含浸範囲12があり、その外側に同心円状をした凹部として溶着範囲11があり、その外側に円形をした凸部として繊維と樹脂が絡み合った含浸範囲12が形成されている。
【0081】
押圧面の凸部81aで溶着範囲11を形成し、凹部81c-1、2で繊維と溶融樹脂が絡み合った含浸範囲12を形成し、それらを押圧面の内側から外部に向けて放射状に繰り返して形成している。溶着範囲11と繊維と樹脂が絡み合った含浸範囲12が放射状に繰り返すように形成しているので、繊維部材20と樹脂成形品10の溶着強度は大きく、はがれにくくなっている。この効果は、第四の実施形態と同じである。
【0082】
(第五の実施形態の第一の変形例)
図21(a)には、本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の第一の変形例として、工具ホーン82の先端部の断面図を示し、図21(b)に同工具ホーン82の押圧面を底面図として示した。第五の実施形態の第一の変形例では、工具ホーン82の円形をした押圧面には、その内側から外周に向かって第一の凹部底面82c-1、第一の案内面82b-1、第一の凸部表面82a-1、第二の案内面82b-2、第二の凹部底面82c-2、第三の案内面82b-3、第二の凸部表面82a-2、第四の案内面82b-4、第三の凹部底面82c-3が形成されている。
【0083】
溶着範囲11と繊維と樹脂が絡み合った含浸範囲12が内側から外側に放射状に繰り返すように形成しているので、繊維部材20と樹脂成形品10の溶着強度は増大して、はがれにくくなっている。この効果は、第五の実施形態と同じである。
【0084】
(第五の実施形態の第二の変形例)
図22(a)には、本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の第二の変形例として、工具ホーン83の先端部の断面図を示し、図22(b)に同工具ホーン83の押圧面を底面図として示した。第五の実施形態の第二の変形例では、工具ホーン83の円形をした押圧面には、その内側から外周に向かって第一の凸部表面83a-1、第一の案内面83b-1、第一の凹部底面83c-1、第二の案内面83-2、第二の凸部表面83a-2、第三の案内面83b-3、第二の凹部底面83c-2が形成されている。
【0085】
溶着範囲11と繊維と樹脂が絡み合った含浸範囲12が放射状に繰り返すように形成しているので、繊維部材20と樹脂成形品10の溶着強度は増大して、はがれにくくなっている。この効果は、第五の実施形態と同じである。
【0086】
(第五の実施形態の第三の変形例)
本発明の超音波溶着装置の第五の実施形態の第三の変形例では、図23(a)(b)に示した通り、工具ホーン84の円形をした押圧面には、その内側から外周に向かって、凸部表面と凹部底面を案内面でつないだ、第一の凸部表面84a-1、第一の凹部底面84c-1、第二の凸部表面84a-2、第二の凹部底面84c-2、第三の凸部表面84a-3、第三の凹部底面84c-3が形成されている。
【0087】
そして、第一の凸部表面84a-1、第二の凸部表面84a-2、第三の凸部表面84a-3の表面には、細かいアヤメ(ローレット)の凹凸がある表面にして、表面積を広くしている。
【0088】
なお、押圧面に設ける凹部底面から凸部表面までの高さは、第一の凸部表面84a-1、第二の凸部表面84a-2などが同じ高さでもよいし、異なる高さに形成しても良い。凹部底面から凸部表面までの高さは任意である。
【0089】
溶着範囲11と繊維と樹脂が絡み合った含浸範囲12が放射状に繰り返すように形成しているので、繊維部材20と樹脂成形品10の溶着強度は増大して、はがれにくくなっている。この効果は、第五の実施形態と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、繊維部材を樹脂成形品に溶着する超音波溶着装置に広く適用できる。特に医療用フィルタや汚泥処理膜などの繊維材料でできた繊維部材を樹脂成形品から剥がれないように強く溶着する超音波溶着装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
10 樹脂成形品
11 溶着範囲
12 含浸範囲
20 繊維部材
30 工具ホーン
30a 凸部表面
30b 案内面
30c 凹部底面
40 超音波振動手段
50 アンビル
51 フレーム
60 工具ホーンの昇降手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26