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特許7588811熱電変換用の半導体材料およびそれを用いた熱電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】熱電変換用の半導体材料およびそれを用いた熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/851 20230101AFI20241118BHJP
   H10N 10/857 20230101ALI20241118BHJP
【FI】
H10N10/851
H10N10/857
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020122022
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2022018710
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/汎用普及に資する長期安定小型熱電電池の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】磯田 幸宏
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-068038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0047886(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0174492(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0223350(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1438202(CN,A)
【文献】特開平09-298317(JP,A)
【文献】特開2000-261048(JP,A)
【文献】特開平09-321347(JP,A)
【文献】特開2012-104560(JP,A)
【文献】特開2015-026672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/851
H10N 10/857
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパントを含むFeSiからなる半導体に、前記半導体より、融点が高くかつ比抵抗の小さい金属、合金および金属化合物からなる群より選ばれる1以上の低抵抗物が粒子として分散された焼結体からなり、
前記ドーパントの前記半導体に対する原子数の比率は、100ppm以上5.3%以下であり、
前記半導体は粒界を形成し、
前記低抵抗物の比抵抗は、前記半導体の比抵抗に対して1/350以下であり、
前記低抵抗物は前記半導体の粒界面に存在する、熱電変換用の半導体材料。
【請求項2】
前記半導体はドーパントとしてNi、Co、Pt、Pd、B、Mn、Cr、V、Ti、Al、Pからなる群より選ばれる1以上を含むFeSiからなる、請求項1記載の熱電変換用の半導体材料。
【請求項3】
ドーパントを含むMgSi1-x-ySnGe(0≦x≦1,0≦y≦1)からなる半導体に、前記半導体より、融点が高くかつ比抵抗の小さい、金属、合金および金属化合物からなる群より選ばれる1以上の低抵抗物が粒子として分散された焼結体からなり、
前記ドーパントの前記半導体に対する原子数の比率は、100ppm以上5.3%以下であり、
前記半導体は粒界を形成し、前記低抵抗物の比抵抗は、前記半導体の比抵抗に対して1/100以下であり、
前記低抵抗物は前記半導体の粒界面に存在する、熱電変換用の半導体材料。
【請求項4】
前記ドーパントは、Cu、Ag、Cd、Zn、Al、Ga、In、Au、Ni、Co、Fe、Li、Na、Ca、K、N、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Cl、Br、Iからなる群より選ばれる1以上である、請求項3記載の熱電変換用の半導体材料。
【請求項5】
ドーパントを含む半導体に、前記半導体より融点が高くかつ比抵抗の小さい金属、合金および金属化合物からなる群より選ばれる1以上の低抵抗物が粒子として分散された焼結体からなり、
前記半導体は、一般式ArMg2-2r(Si1-x-ySnGe1-sBs
(AおよびBはドーパントであって、Cu、Ag、Cd、Zn、Al、Ga、In、Au、Ni、Co、Fe、Li、Na、Ca、K、N、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Cl、Br、Iからなる群より選ばれる1つ以上、0≦r<1、0≦s<1、0≦x≦1、0≦y≦1、r+s>0、x+y<1)で表される材料からなり、
前記半導体は粒界を形成し、
前記低抵抗物の比抵抗は、前記半導体の比抵抗に対して1/100以下であり、前記低抵抗物は前記半導体の粒界面に存在する、熱電変換用の半導体材料。
【請求項6】
前記低抵抗物の比抵抗は、前記半導体の比抵抗に対して7/10000以上1/1000以下である、請求項1から5の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
【請求項7】
前記低抵抗物は、WSi、TiB、W、TaC、WC、ZrN、ZrB、HfB、VB、W、LaB、TiSi、MoSiからなる群より選ばれる1以上である、請求項1から6の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
【請求項8】
前記低抵抗物は、WSi、Wからなる群より選ばれる1以上である、請求項1から6の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
【請求項9】
前記低抵抗物の体積率が、前記半導体に対して0.01体積%以上2.5体積%以下である、請求項1から8の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
【請求項10】
p型半導体層とn型半導体層が電気的に接続されており、前記p型半導体層と前記n型半導体層の少なくとも何れかに請求項1から9の何れか1記載の半導体が含まれている、熱電変換素子。
【請求項11】
前記接続は電極を介して行われる、請求項10に記載の熱電変換素子。

以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換用の半導体材料およびそれを用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のグリーン社会、エネルギー利用の効率化の流れから、工場設備、火力や原子力などの発電設備およびエンジンなどからの廃熱を利用した発電が注目され、様々な技術が開発されている。
その発電技術の一つが半導体を用いた熱電変換であり、熱電変換素子として実用化されている。
【0003】
熱電変換素子の高出力化、高変換効率化を行う上での最大のエンジンは、熱電変換用の半導体材料であり、例えば特許文献1から3および非特許文献1にその取り組みの一端が開示されている。
【0004】
しかしながら、従来の熱電変換技術や熱電変換素子は、熱電変換効率やその出力が必ずしも要求値を満たしておらず、さらなる熱電変換効率の向上や高出力化が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-8747号公報
【文献】特開2018-59160号公報
【文献】特開2015-93788号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of Alloys Compounds, Volume 690,5 January 2017, Pages652-657
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、熱電変換効率や熱電変換出力の高い熱電変換半導体材料および熱電変換素子を提供して、上記背景技術のところで述べた問題を解決することである。
ここで、これまで開発されてきた技術の踏襲性や生産技術が活かせるように、熱電変換を担うホストの半導体の組成やドーパント量などには手を加えずに、熱電変換効率や熱電変換出力の高い熱電変換半導体材料および熱電変換素子を提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
ドーパントを含むFeSiからなる半導体に、前記半導体より、融点が高くかつ比抵抗の小さい、金属、合金および金属化合物からなる群より選ばれる1以上の低抵抗物が粒子として分散された焼結体からなる、熱電変換用の半導体材料。
(構成2)
前記半導体はドーパントとしてNi、Co、Pt、Pd、B、Mn、Cr、V、Ti、Al、Pからなる群より選ばれる1以上を含むFeSiからなる、構成1記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成3)
ドーパントを含むMgSiSnGe系材料からなる半導体に、前記半導体より、融点が高くかつ比抵抗の小さい、金属、合金および金属化合物からなる群より選ばれる1以上の低抵抗物が粒子として分散された焼結体からなる、熱電変換用の半導体材料。
(構成4)
前記ドーパントは、Cu、Ag、Cd、Zn、Al、Ga、In、Au、Ni、Co、Fe、Li、Na、Ca、K、N、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Cl、Br、Iからなる群より選ばれる1以上である、構成3記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成5)
導体は、一般式A2rMg2-2r(Si1-x-ySnGe1-sBs
(AおよびBはCu、Ag、Cd、Zn、Al、Ga、In、Au、Ni、Co、Fe、Li、Na、Ca、K、N、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Cl、Br、Iからなる群より選ばれる1つ以上、0≦r<1、0≦s1、0≦x≦1、0≦y≦1、r+s>0、x+y<1)で表される材料からなる、構成3または4記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成6)
前記低抵抗物の比抵抗は、前記半導体の比抵抗に対して1/1000以下である、構成1から5の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成7)
前記低抵抗物は、WSi、TiB、W、TaC、WC、ZrN、ZrB、HfB、VB、W、LaB、TiSi、MoSiからなる群より選ばれる1以上である、構成1から6の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成8)
前記低抵抗物は、WSi、Wからなる群より選ばれる1以上である、構成1から6の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成9)
前記低抵抗物の体積率が、前記半導体に対して0.01体積%以上2.5体積%以下である、構成1から8の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成10)
前記ドーパントの前記半導体に対する原子数の比率は、100ppm以上から5.3%以下である、構成1から9の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成11)
前記半導体は粒界を形成し、前記低抵抗物は前記半導体の粒界と粒界の間に存在する、構成1から10の何れか1記載の熱電変換用の半導体材料。
(構成12)
p型半導体層とn型半導体層が電気的に接続されており、前記p型半導体層と前記n型半導体層の少なくとも何れかに構成1から11の何れか1記載の半導体が含まれている、熱電変換素子。
(構成13)
前記接続は電極を介して行われる、構成12に記載の熱電変換素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱電半導体材料の組成やドーパント量などに手を加えずに、熱電変換効率や熱電変換出力の高い熱電変換半導体材料および熱電変換素子を提供することが可能になる。
本発明では、ホストとなる熱電半導体材料の組成やドーパント量などは従来技術を踏襲しているため、様々な既存技術を踏襲することができ、既存の生産技術も活かすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の半導体材料の概略構造を示す説明図である。
図2】熱電変換素子の要部構成を示す説明図で、(a)は鳥瞰図、(b)は断面図である。
図3】本発明の半導体材料のSEM写真である。
図4】本発明の材料の重量比と体積比の関係を示す特性図で、(a)はn型材料、(b)はp型材料である。
図5】FeSi熱電半導体材料の比抵抗のWSi混合量依存性を示す特性図である。
図6】n型MgSiSn系熱電半導体材料の比抵抗の低抵抗高融点材料混合量依存性を示す特性図である。
図7】p型MgSiSn系熱電半導体材料の比抵抗の低抵抗高融点材料混合量依存性を示す特性図である。
図8】n型MgSiSn系熱電半導体材料のゼーベック係数の低抵抗高融点材料混合量依存性を示す特性図である。
図9】p型MgSiSn系熱電半導体材料のゼーベック係数の低抵抗高融点材料混合量依存性を示す特性図である。
図10】n型MgSiSn系熱電半導体材料の電気的性能指数の低抵抗高融点材料添加量依存性を示す特性図である。
図11】p型MgSiSn系熱電半導体材料の電気的性能指数の低抵抗高融点材料添加量依存性を示す特性図である。
図12】n型MgSiSn系熱電半導体材料の電気的、物理的特性の温度依存性を示す特性図である。ここで、(a)はゼーベック係数、(b)は比抵抗、(c)は熱伝導率、(d)は無次元性能指数ZTをその指標とする。
図13】p型MgSiSn系熱電半導体材料の電気的、物理的特性の温度依存性を示す特性図である。ここで、(a)はゼーベック係数、(b)は比抵抗、(c)は熱伝導率、(d)は無次元性能指数ZTをその指標とする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態(実施の形態1)は、熱電変換用の半導体材料に関するものである。
ここでは、熱電変換用の半導体材料が使用される熱電変換素子について説明した後、その性能を向上させるために熱電変換用の半導体材料に求められる特性、その特性を得るための材料構造およびその製造方法について述べる。
【0013】
熱電変換素子は、電気的に直列に接続されたn型の熱発電用半導体材料とp型の熱発電用半導体材料を主構成要素とする。
熱電変換素子の発電出力(電力)Pは、上記半導体材料からなる素子部に温度差に応じて生じた熱起電圧Eとその内部抵抗rを用いて、
P=E×E/(4r) (式1)
で表される。
このため、発電出力Pを向上させる1つの方法は、熱起電圧Eの向上と内部抵抗rの低減である。しかしながら、半導体からなる熱電変換材料は、ドーパント量や材料組成によって熱起電圧Eと内部抵抗rがともに変化する。そこでは、一般に、熱起電圧Eと内部抵抗rの効果はトレードオフの関係、すなわち熱起電圧Eが上がれば内部抵抗rも上がり(コンダクタンスは下がり)、熱起電圧Eが下がれば内部抵抗rも下がる(コンダクタンスは上がる)という関係がある。
【0014】
本発明では、基本的に熱電変換を起こす半導体の材料それ自身には手を加えず、図1に示すように、半導体12に低抵抗物の粒子13が分散された焼結体を熱電変換材料とした。この構成、構造により、熱電変換材料11の抵抗を抑え、内部抵抗rを下げた。ここで、粒子13は、融点が半導体12より高く、比抵抗が半導体12より大幅に小さな物質とし、粒子13を半導体12の粒界面に形成する。
この方法では、粒子13はホストの半導体12の外に混合の形で形成されていて半導体12の材料それ自身には手を加えていないので、基本的に熱起電圧Eは変わらない。一方で、熱電変換材料11の内部抵抗rは下がる。このため、高い発電出力Pの熱電変換材料や熱電変換素子を供給することが可能になる。
【0015】
半導体12は、ドーパントを含む二ケイ化鉄(FeSi)とする。ここで、ドーパントとしては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ホウ素(B)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、リン(P)からなる群より選ばれる1以上を挙げることができる。ここで、半導体12は、ドーパントとしてニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ホウ素(B)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)を選ぶとn型半導体になり、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、リン(P)を選ぶとp型半導体になる。
または、半導体12は、ドーパントを含む二マグネシウムケイ素スズゲルマニウム(MgSiSnGe)系材料(MgSi1-x-ySnGe(0≦x≦1,0≦y≦1))とする。ここで、ドーパントとしては、銅(Cu)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、金(Au)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、イオウ(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、塩素(Cl)、ブロム(Br)、沃素(I)からなる群より選ばれる1つ以上を挙げることができる。ここで、半導体12は、ドーパントとして銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、イオウ(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、塩素(Cl)、ブロム(Br)、沃素(I)を選ぶとn型半導体になり、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)を選ぶとp型半導体になる。
ドーパントを含むMgSiSnGe系材料としては、一般式A2rMg2-2r(Si1-x-ySnGe1-sBsで表される材料を挙げることができる。ここで、AおよびBはドーパント元素でCu、Ag、Cd、Zn、Al、Ga、In、Au、Ni、Co、Fe、Li、Na、Ca、K、N、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Cl、Br、Iからなる群より選ばれる1つ以上であり、また、0≦r<1、0≦s1、0≦x≦1、0≦y≦1、r+s>0、x+y<1の関係がある。

以上
【0016】
半導体12としては粒状のものを用いて作製する。このことにより、粒子13を半導体の粒界面に形成して熱電変換材料11の抵抗を下げた上で、粒子13の元素が半導体12の内部に取り込まれて半導体12の特性が変化することを防止することができる。
【0017】
粒状の半導体の大きさとしては、例えば1μm以上75μm以下、具体例としては38μmから75μmを挙げることができる。半導体がこの大きさの範囲にあると、半導体12は十分な熱電変換機能を有する。その上で、粒界面の面積も十分あって多数の粒子13を配置できるので、熱電変換材料11の抵抗を大幅に下げることができる。しかも、割れなどの機械的問題も抑制することができる。なお、この大きさは、例えばSEM等で測長した最長部の平均長さにより定義することができる。
【0018】
ドーパントの半導体12に対する比率は、原子数比で100ppm以上5.3%以下が、高い熱電変換効率を得る上で好ましい。
なお、上記半導体12は、それ自身で熱電変換用半導体材料として高いパフォーマンスを備えた実績のある半導体である。
【0019】
粒子13は、上述のように、融点が半導体12より高く、比抵抗が半導体12より大幅に小さな物質で、金属、合金および金属化合物からなる群より選ばれる1以上を挙げることができる。
粒子13の比抵抗としては、半導体12のそれに比べ約3桁以上小さいことが好ましい。比抵抗を1/1000以下にすることにより熱電変換材料11の内部抵抗rを必要十分に下げることが可能となる。下限は、特に制限はないが、比抵抗の小さなものとしては半導体12のそれに比べて7/10000の適当な材料がある。
【0020】
粒子13は、融点が半導体12の融点より高いものとする。好ましくは半導体12の融点より1000℃以上、さらに好ましくは2000℃以上高いものとする。このようにすることにより、熱電変換材料11の焼結工程による粒子13の元素が半導体12の内部に拡散して粒子13が半導体12の特性に悪影響を与えることが防止され、半導体12のもつ熱起電圧Eが保持される。
【0021】
ここで、粒子13の具体例としては、二ケイ化タングステン(WSi)、二ホウ化チタン(TiB)、タングステン(W)、炭化タンタル(TaC)、炭化タングステン(WC)、窒化ジルコニウム(ZrN)、二ホウ化ジルコニウム(ZrB)、二ホウ化ハフニウム(HfB)、二ホウ化バナジウム(VB)、五ホウ化二タングステン(W)、六ホウ化ランタン(LaB)、二ケイ化チタン(TiSi)、二ケイ化モリブデン(MoSi)からなる群より選ばれる1以上を挙げることができる。
【0022】
これらの材料は、半導体12より融点が高く、かつ比抵抗は半導体12に比べ7/10000以上1/1000以下の範囲にある。なお、参考までに半導体12として有用な半導体の融点、比重および比抵抗のリストを表1に、粒子13の具体例として挙げた上記例の融点、比重および比抵抗のリストを表2に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
粒子13の大きさは、50nm以上2μm以下が好ましい。粒子13がこの大きさの範囲にあると、半導体12の粒界面に十分分散して、熱電変換材料11の抵抗を均一に下げることができる。
なお、粒子13の形態は、単独でもクラスター状でも構わない。
【0026】
粒子13の半導体12に対する体積率は、0.01%以上2.5%以下が好ましく、0.05%以上2.0%以下がより好ましく、0.1%以上1.5%以下がさらに一層好ましい。
体積率を0.01%以上とすることにより熱電変換材料11の内部抵抗rを下げることが可能となり、0.05%以上とすることにより目立って内部抵抗rを下げることが可能となり、0.1%以上とすることによりさらに内部抵抗rを下げることが可能となる。また、2.5%以下とすることにより熱電変換材料11が割れるなどの問題が起こりにくくなり、2.0%以下とすることにより一層割れにくくなる。1.5%以下では割れ不良は観測されていない。
【0027】
粒子13の半導体12に対する体積率は、SEM等を用いた画像観測から求めることもできるし、重量比と体積比の検量線を別途求めて算出することもできる。重量比と体積比の検量線を使う方法では、その検量線にしたがった仕込みの重量比で体積率を制御できる。
参考までに、粒子13の半導体12に対する体積率と重量比の関係を図4に示す。両者の間にはほぼリニアの関係が認められる。
【0028】
熱電変換材料11は下記のようにして製造する。
最初に、ドーパントを含む半導体12の組成を有する半導体粉末、粒子13の粉末を所定量準備し、混合する。
その後、ホットプレス等を用いてその混合物を焼結し、その焼結体からなる熱電変換材料11が製造される。焼結の条件は、例えば、ホットプレスの場合は、圧力50MPa以上100MPa以下、温度650℃以上1200℃以下、時間60分以上5時間以下を挙げることができる。なお、焼結の方法としては、ホットプレスの他、放電プラズマ焼結法、超高圧焼結法などを用いることもできる。
【0029】
なお、非特許文献1では、半導体材料であるCrSiの粉末とWSiの粉末を混合してパルス電流焼結法による焼結体を作製し、その電気的特性を調べた結果が報告されている。この論文では熱電材料のCrSiがWSiを添加することでCr1-xSi化合物になり、Crリッチ六方晶の(CrW)Si相とWリッチ正方晶の(WCr)Si相が生成され、CrSi相のグレインサイズが小さくなる。見方を変えると、この方法では、CrSi半導体が別の化合物に変化した場合での方法になっている。
一方、本発明では、半導体12と混合粉末に組成変化がないことに特徴がある。すなわち、本発明では、熱電半導体材料として高品位化技術や高効率生産技術などにおいて十分な実績のあるFeSiやMgSiSnGe系半導体が踏襲される。
このため、本発明の熱電変換用の半導体材料では、品質および生産性が十分高い製品を、これまで蓄積されてきた技術、知見、設備等を活かして供給することが可能になるという特徴をもつ。
【0030】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態(実施の形態2)は、実施の形態1による半導体材料を用いた熱電変換素子に関するものである。
【0031】
火力発電やエンジンなどでは、エネルギーの多くが廃熱として無駄に捨てられている。半導体を用いた熱電変換素子は、廃熱などの熱エネルギーを回収して有用な電気エネルギーに直接変換する素子であり、可動部分がないことによるメンテナンスの容易さ、スケーラビリティの良さなどの特徴をもつ。
【0032】
熱電変換素子はn型半導体とp型半導体が電気的に接続された構造からなる素子である。この接続は、電極を介して行うと、n型半導体とp型半導体を並べて配置できるので、生産性が高く熱電変換素子のコンパクト化もしやすいという特徴があるが、n型半導体とp型半導体を直接接続してもよい。
熱電変換素子31は、例えば、その主要部の構成図である図2に示すように、低温となる側の電極34(34a)と高温となる側の電極34(34b)の間に、これらの電極を介してn型半導体32とp型半導体33が電気的に直列配置された構造からなる素子である。ここで、図2(a)は鳥瞰図であり、図2(b)は断面図である。
実施の形態2では、n型半導体32、p型半導体33の少なくとも何れか1に実施の形態1で説明した熱電変換用半導体を用いる。すなわち、ドーパントを含むFeSiまたはMgSiSnGe系材料をホストの半導体部とし、その半導体部の粒界面に低比抵抗で高融点の粒子が形成されたn型半導体またはp型半導体を用いる。
これらの半導体は高い変換効率で高出力の電力を供給することができるので、熱電変換素子31は、高い熱電変換効率をもつ高出力の熱電変換素子になる。ここで、n型半導体32とp型半導体33の両半導体とも実施の形態1で説明した熱電変換用半導体を用いることが好ましい。このようにすると、熱電変換素子31は、極めて高い熱電変換効率をもつ高出力の熱電変換素子になる。
【実施例
【0033】
以下では実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、この実施例はあくまで本発明の理解を助けるためここに挙げたものであり、本発明をこれに限定するものではない。
【0034】
(実施例1)
実施例1では、n型のドーパントを添加したFeSi粉末にWSi粉末を混合した焼結体をホットプレスを用いて作製し、その比抵抗を測定した。
その焼結体の作製工程の詳細を下記に示す。
最初に、コバルト(Co)を添加したFeSi粉末(福田金属箔粉工業株式会社製 アトマイズ粉 純度:99%)を準備し、WSi粉末(富士フイルム和光純薬株式会社製、純度:99%)と所定の重量%になるように秤量した。ここで、FeSi粉末およびWSi粉末の平均的な粒子の大きさは、それぞれ7μm、2~5μmである。これらの粉末を傾斜型遊星ボールミル(株式会社ナガオシステム製 Plant M2-3F)で室温、アルゴン雰囲気中で混合した。混合時間は20分とした。なお、WSiの融点および比抵抗は、表1に示されているように、それぞれFeSiのそれの約1.4倍、1/640倍である。
次に、その混合物をホットプレスにかけて焼結体を作製した。ホットプレスの条件は、圧力50MPa、温度1174℃、30分間とした。混合比は0から0.1mol%である。
ホットプレス後、β相にする熱処理を800℃で20時間行った。
【0035】
得られた焼結体の室温における比抵抗ρを四探針法により測定した。
比抵抗ρは、図5に示すように、混合比の増加に伴って単調に、無混合試料の約8.5μΩmから0.1mol%混合試料の約5.1μΩmまで減少した。この結果から、高融点低比抵抗粒子の添加により焼結体の比抵抗が大幅に下がることが確認された。
【0036】
(実施例2)
実施例2では、MgSiSnGe系材料にWSiまたはWを混合した複数の焼結体を作製し、その電気的特性および物理的特性を評価した。
【0037】
第1の焼結体はn型半導体の例であり、MgSi0.4625Sn0.4625Sb0.075の組成をもつ粉末とWSi(富士フイルム和光純薬株式会社製、純度:99%)あるいはW粉末(日本新金属株式会社製、純度99.9%)をガラス管に封入し、回転をかけることで混合し、ホットプレスを用いて焼結体を作製した。ホットプレスの条件は、圧力80MPa、温度780℃、5時間とした。
第2の焼結体はp型半導体の例であり、Mg1.97Ag0.25Li0.05Si0.25Sn0.75の組成をもつ粉末とWSiあるいはW粉末をガラス管に封入し、回転をかけることで混合し、ホットプレスを用いて焼結体を作製した。ホットプレスの条件は、圧力80MPa、温度650℃、4時間とした。
【0038】
第1および第2の焼結体の室温における比抵抗ρをそれぞれ図6と7に示す。また、室温におけるゼーベック係数αはそれぞれ図8と9に、ゼーベック係数αと比抵抗ρから計算される電気的性能指数PWをそれぞれ図10と11に示す。
【0039】
第1の焼結体であるn型半導体のMgSi0.4625Sn0.4625Sb0.075の比抵抗ρは、WSiやWの粉末を混合していない無混合試料で2.34×10-5Ωmであるが、WSi混合試料では1.12×10-5Ωm(2重量%(2wt%))、1.01×10-5Ωm(4重量%)、W混合試料では8.96×10-6Ωm(2重量%)、2.42×10-6Ωm(4重量%)と大幅に減少し、混合による効果が顕著であった。
第2の焼結体であるp型半導体のMg1.97Ag0.025Li0.005Si0.25Sn0.75の比抵抗ρは、無混合試料で2.09×10-5Ωmであるが、WSi混合試料では2.00×10-5Ωm(2重量%)、1.92×10-5Ωm(4重量%)とわずかに減少した。一方、W混合試料では1.41×10-5Ωmと大幅に減少した。
【0040】
室温におけるゼーベック係数αは、第1の焼結体(n型試料)では、無混合試料で-177.3μV/Kで、WSi混合試料では-153.2μV/K(2重量%)、-181.0μV/K(4重量%)、W混合試料では-128.2μV/K(2重量%)、-127.4μV/K(4重量%)になっており、混合比の増加に伴って減少する傾向が見られた。
第2の焼結体(p型試料)では、無混合試料で128.7μV/Kで、WSi混合試料では134.4μV/K(2重量%)、152.2μV/K(4重量%)、W混合試料では137.4μV/K(2重量%)、155.7μV/K(4重量%)になっており、室温におけるゼーベック係数αは、WSiやWを混合することで増加した。
【0041】
計算により求められた電気的性能指数PWは、第1の焼結体では、無混合試料で1.39mW/mKで、WSi混合試料では2.03mW/mK(2重量%)、1.82mW/mK(4重量%)、W混合試料では1.93mW/mK(2重量%)、1.78mW/mK(4重量%)になっており、無混合試料に比べて最大で46%の性能向上が図られていた。
第2の焼結体では、無混合試料で0.95mW/mKで、WSi混合試料では1.04mW/mK(2重量%)、1.11mW/mK(4重量%)、W混合試料では1.11mW/mK(2重量%)、1.21mW/mK(4重量%)になっており、無混合試料に比べて最大で27%の性能向上が図られていた。
ここで、WSiやWの高融点、低比抵抗物を混合することで電気的性能指数PWが大きくなったことは、熱電発電出力Pが大幅に大きくなったことを意味している。
【0042】
第1の焼結体における熱電特性の温度依存性を図12に、第2の焼結体における熱電特性の温度依存性を図13に示す。
第1の焼結体(n型試料)におけるゼーベック係数αは、温度上昇に伴ってその絶対値が大きくなる傾向を示す。無混合試料のゼーベック係数αは、約700Kで絶対値が最大値を示し、その温度以上では減少した。しかしながら、混合試料のゼーベック係数αは、測定温度範囲で無混合試料よりも小さい結果になった(図12(a))。
【0043】
一方、第2の焼結体(p型試料)におけるゼーベック係数αは、無混合と混合試料では有意な差違は認められず、約550K付近で最大値を示した(図13(a))。
【0044】
比抵抗ρの温度依存性は、すべての試料で温度上昇に伴って大きくなり、第1の焼結体であるn型試料では無混合試料に比べて混合試料は測定温度範囲で大きく減少し(図12(b))、第2の焼結体であるp型試料では約550K以上で真性領域となり直線的に減少した(図13(b))。
ここで、4重量%WSi混合した第1の焼結体は2重量%WSi混合したそれより比抵抗ρが大きいが、これは4重量%WSi混合した第1の焼結体の内部に生じたクラックによる抵抗の増加によって引き起こされたものと考えられる。なお、そのクラックはSEMによって確認された。
【0045】
熱伝導率κの温度依存性は、n型試料である第1の焼結体では、4重量%WSi混合した試料のみが大きく、その他の混合試料と無混合試料はほぼ同じであった(図12(c))。
一方、p型試料である第2の焼結体では、無混合試料が小さく、混合試料はすべての試料でほぼ同じであるが無混合試料よりも大きかった(図13(c))。
【0046】
ゼーベック係数α、温度T、比抵抗ρおよび熱伝導率κから計算される無次元性能指数ZT=(αT/ρκ)の最大値は、第1の焼結体(n型試料)では、4重量%WSi混合した試料が一番小さく、それ以外の混合試料では無混合試料(0.8)よりも大きくなり、4重量%W試料では1.25と無混合試料よりも1.6倍であった(図12(d))。
第2の焼結体(p型試料)では、比抵抗ρが小さくなったが、ゼーベック係数αも小さくなり、熱伝導率κはほぼ同じであったため、無次元性能指数ZTの最大値は無混合試料も混合試料もほぼ同じであった(図13(d))。
【0047】
以上述べてきたように、室温における電気的性能指数PWの向上から、室温付近で使用する場合には、粒子13を混合することで熱電発電の出力性能は向上している。IoT用電源は室温付近で大きな需要があるため、産業として大いに活用されることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明による熱電変換用半導体材料およびそれを用いた熱電変換素子は、高い熱電変換出力を有する熱を直接電気に変換する素子であるため、廃熱回収など、産業上大いに利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0049】
11:熱電変換半導体
12:半導体
13:粒子(低抵抗物の粒子)
14:粒界面
31:熱電発電素子
32:n型半導体
33:p型半導体
34:電極
35:電流
図1
図2
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