(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】表面改質ナノセルロース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 3/14 20060101AFI20241118BHJP
C08B 3/20 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
C08B3/14
C08B3/20
(21)【出願番号】P 2020134637
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019145614
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 義人
(72)【発明者】
【氏名】エクシラ クブラ
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-104768(JP,A)
【文献】特開2012-207136(JP,A)
【文献】特開2013-043984(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133436(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0203900(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロースの表面が、-OCO-R(Rは、水酸基で置換された脂肪族基である。)で示される修飾基で修飾されていることを特徴とする表面改質ナノセルロース粉末。
【請求項2】
有機材料又は無機材料の複合化に用いられることを特徴とする請求項1記載の表面改質ナノセルロース粉末。
【請求項3】
イオン液体の存在下、ナノセルロース、及びR’-COOH(R’は、有機基を表す。)で示されるカルボン酸誘導体を混練するメカノケミカル処理を行
うメカノケミカル工程を有することを特徴とする表面改質ナノセルロースの製造方法。
【請求項4】
前記イオン液体が、ルイス酸性を有していることを特徴とする請求項3記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【請求項5】
前記イオン液体のカチオンが、イミダゾリウムカチオンであることを特徴とする請求項3又は4記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【請求項6】
前記イオン液体のアニオンが、硫酸水素アニオンであることを特徴とする請求項3~5のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【請求項7】
前記カルボン酸誘導体のR’が、アミノ基、水酸基及びカルボキシル基から選ばれる少なくも1種で置換された脂肪族基、芳香族基又はこれらを組み合わせた基であることを特徴とする請求項3記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【請求項8】
前記メカノケミカル工程において有機溶媒を用いないことを特徴とする請求項3~7のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【請求項9】
前記イオン液体が、カルボン酸誘導体1molに対して、1~10mol添加されることを特徴とする請求項3~8のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【請求項10】
前記メカノケミカル工程において、ナノセルロースが解繊されることを特徴とする請求項3~9のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を改質したナノセルロース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、最も豊富な再生可能な物質であり、古い時代から近代技術社会に至るまで継続して使用されている。植物由来の繊維であるセルロースは、環境負荷が小さく、かつ持続型資源であるとともに、高弾性率、高強度、低線膨張係数などの優れた特性を有する。そのため、幅広い用途、例えば、紙、フィルムやシートなどの材料、樹脂の複合材料(例えば、樹脂の補強剤)などとして利用されている。特に、微細化したナノセルロース(ナノファイバーなど)は、樹脂の補強剤として有用であり、樹脂との複合化に向けて多くの試みがなされている。
【0003】
また、セルロースは、ポリスチレン等の合成高分子にはない下記のような様々な特徴を有している。
(1)生分解性のポリマーであり環境に対し無害であるとみなされている。
(2)吸水性、吸油性の両方を有する両親媒性ポリマーである。
(3)化学的に比較的安定であり溶解しにくい。
(4)耐熱性を有し高温でも溶解しない。
(5)水酸基を多く有し化学修飾が容易である。
(6)賦型性、成形性を有している。
(7)天然物由来であり、人体に対し無害であるとみなされている。
(8)蛋白質などの物質との相互作用を起こしにくく吸着を起こさない。
(9)容易に燃焼し有害物の発生がない。
【0004】
上記(1)~(9)の特徴を生かし、セルロース粉末やその分散液は様々な用途に適応されている。例えば、上記プラスチック増量剤、プラスチックフィラー等の他、外装塗料用改質材、コート剤、繊維壁用素材、分散安定剤、各種分画用カラム充填剤、酵素支持体、微生物培養担体、細胞培養担体、濾材、吸着剤、医薬物賦型材、医薬物崩壊材、医薬物増量剤、増粒基材、食品用増粘調整剤、チキソ性付与材、化粧用ファウンデーション基材、焼成法触媒製造用成型剤、感圧複写紙用配合剤等、その用途は多方面に及んでいる。
【0005】
分散液とすることで、分散媒体と特異的に作用し、分散液の挙動に特異的な影響を与えることも知られている。さらには、セルロースの持つ水酸基を化学反応させることで得られるセルロース誘導体の微粒子も同様に様々な用途に用いられている。
【0006】
様々な用途で高機能を得るためには、セルロースの形態及びその表面状態が重要である。セルロースの形態について、これまで、上記のような用途に応じて、様々な特徴を持ったセルロース微粒子が用いられている。例えば、物理的微細化又は化学的微細化によって提供されたものや、溶解させたセルロース液滴を調製し凝固再生することによって提供されたもの等が用いられている。
【0007】
前者のセルロース微粒子の例としては、特許文献1及び2に記載のものがある。また、後者のセルロース微粒子の例としては、特許文献3に記載のものがある。
【0008】
また、ナノセルロースと樹脂との複合化を容易に行うべく、ナノセルロースの表面改質等の様々なアプローチがなされている。例えば、溶媒中で、ラジカルで活性化処理されたセルロース繊維と9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物とを反応させて得た修飾セルロース繊維が提案されている(特許文献4参照)。また、セルロースに、ヒドロキシル基を有する高分子をハロゲン化誘導体とした後の機能性化合物をカップリングし、官能基変換する方法が提案されている(特許文献5参照)。また、出発物質としてナトリウム塩にしたカルボキシメチル化されたセルロースを用いて、セルロース骨格にエポキシ基を導入した化合物が提案されている(非特許文献1参照)。
【0009】
さらに、エステル化反応を利用してナノセルロースの表面の変性を行った変性ナノセルロース及びナノセルロースを含む樹脂組成物の技術が提案されている(特許文献6参照)。この特許文献6では、ナノセルロースを脂環式炭化水素基又は脂環式炭化水素基を有する基で化学修飾しており、これにより、樹脂との分散性や密着性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平3-163135号公報
【文献】特開平11-171901号公報
【文献】特開平11-181147号公報
【文献】特開2017-222777号公報
【文献】特開平4-76001号公報
【文献】特許第6120590号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Applied Catalysis A: General 519 (2016) 146‐154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ナノセルロースの産業への普及の課題は、ナノセルロース自体の大幅なコストダウンと、ナノセルロースを用いた複合材の多様化とコストダウンである。ナノセルロースの表面改質を行う技術は様々提案されているものの、より簡便に高品質なものを製造する新しい手法が求められていた。
【0013】
本発明の課題は、メカノケミカルという機械的かつ化学的効果を用いて製造される安価で汎用性の高い材料の提供、及び簡便にナノセルロースの表面改質を行うことができる新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究した結果、イオン液体の存在下、せん断力の場で、ナノセルロースの分散化を図ると共に、ナノセルロースの新規活性面とカルボン酸誘導体との積極的な反応の促進を図ることにより、ナノセルロースの水酸基とカルボン酸誘導体のカルボキシル基とのエステル化反応が効果的に進行し、カルボン酸誘導体が導入された表面改質ナノセルロースが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1] ナノセルロースの表面が、-OCO-R(Rは、アミノ基、水酸基及びカルボキシル基から選ばれる少なくも1種で置換された脂肪族基、芳香族基又はこれらを組み合わせた基である。)で示される修飾基で修飾されていることを特徴とする表面改質ナノセルロース粉末。
[2] 有機材料又は無機材料の複合化に用いられることを特徴とする[1]記載の表面改質ナノセルロース粉末。
【0016】
[3] イオン液体の存在下、ナノセルロース及びカルボン酸誘導体をメカノケミカル処理するメカノケミカル工程を有することを特徴とする表面改質ナノセルロースの製造方法。
[4] 前記イオン液体が、ルイス酸性を有していることを特徴とする[3]記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
[5] 前記イオン液体のカチオンが、イミダゾリウムカチオンであることを特徴とする[3]又は[4]記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
[6] 前記イオン液体のアニオンが、硫酸水素アニオンであることを特徴とする[3]~[5]のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【0017】
[7] 前記カルボン酸誘導体が、R’-COOH(R’は、有機基を表す。)で示される化合物であることを特徴とする[3]~[6]のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
[8] 前記カルボン酸誘導体のR’が、アミノ基、水酸基及びカルボキシル基から選ばれる少なくも1種で置換された脂肪族基、芳香族基又はこれらを組み合わせた基であることを特徴とする[7]記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
[9] 前記メカノケミカル工程において有機溶媒を用いないことを特徴とする[3]~[8]のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
[10] 前記イオン液体が、カルボン酸誘導体1molに対して、1~10mol添加されることを特徴とする[3]~[9]のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
[11] 前記メカノケミカル工程において、ナノセルロースが解繊されることを特徴とする[3]~[10]のいずれか記載の表面改質ナノセルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡便に表面改質されたナノセルロースを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】実施例1における表面改質ナノセルロースの熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、(a)は、熱重量曲線(TG曲線)を示し、(b)は、TGに対する時間での微分値(DTG)を示す。
【
図3】実施例1における表面改質ナノセルロースのXRDパターンを示す図である。
【
図4】実施例1における表面改質ナノセルロースのIRスペクトルである。
【
図6】実施例2における表面改質ナノセルロースの熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、(a)は、熱重量曲線(TG曲線)を示し、(b)は、TGに対する時間での微分値(DTG)を示す。
【
図7】実施例2における表面改質ナノセルロースのXRDパターンを示す図である。
【
図8】実施例2における表面改質ナノセルロースのIRスペクトルである。
【
図10】実施例3における表面改質ナノセルロースの熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、(a)は、熱重量曲線(TG曲線)を示し、(b)は、TGに対する時間での微分値(DTG)を示す。
【
図11】実施例3における表面改質ナノセルロースのXRDパターンを示す図である。
【
図12】実施例3における表面改質ナノセルロースのIRスペクトルである。
【
図13】実施例1~3で製造した表面改質ナノセルロースの写真である。
【
図15】実施例4における表面改質ナノセルロースのIRスペクトルである。
【
図16】実施例4における表面改質ナノセルロースのUV-visスペクトルである。
【
図17】実施例4における表面改質ナノセルロースのXRDパターンを示す図である。
【
図18】実施例4における表面改質ナノセルロースの粒度の測定結果を示す図である。
【
図19】実施例5における表面改質ナノセルロースのTGスペクトルである。
【
図20】実施例5における表面改質ナノセルロースのXRDパターンを示す図である。
【
図21】表面改質分子(1-ナフトエ酸)のキャリブレーションカーブである。
【
図22】実施例5における表面改質ナノセルロースのUV-visスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<表面改質ナノセルロース>
本発明の表面改質ナノセルロース粉末は、ナノセルロースの表面が、-OCO-R(Rは、アミノ基、水酸基及びカルボキシル基から選ばれる少なくも1種で置換された脂肪族基、芳香族基又はこれらを組み合わせた基である。)で示される修飾基で修飾されている。この表面修飾率(表面改質分子の導入率)は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
なお、表面修飾率は、FT-IRチャートのセルロースのOH基を示す3750~3000(cm-1)のピークの高さの比(修飾前後)から算出することができる。
また、表面修飾率は、UV-visスペクトルから表面改質分子のキャリブレーションカーブを作成し、表面改質ナノセルロースのUV-visスペクトルから算出することができる。
表面修飾率は、例えば、反応条件を変更することにより制御することができる。
【0021】
この表面改質ナノセルロース粉末は、後述する本発明の製造方法により製造することができる。すなわち、ナノセルロース及びカルボン酸誘導体をメカノケミカル処理することにより、ナノセルロースの水酸基と、カルボン酸誘導体のカルボキシル基とのエステル交換反応が進行し、本発明の表面改質ナノセルロース粉末が得られる。
【0022】
Rで表される脂肪族基としては、飽和、不飽和のいずれであってもよい。また、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。Rで表される芳香族基としては、単環、多環のいずれであってもよい。Rで表される脂肪族基及び芳香族基を組み合わせた基としては、結合の順序は問わず、修飾基の位置も問わない。なお、Rとしては、脂環式炭化水素基を有する基は含まない。
【0023】
本発明の表面改質ナノセルロースにおける修飾基Rがアミノ基で置換された脂肪族基、芳香族基又はこれらを組み合わせた基の場合、修飾基Rは、β-アラニン等のアミノ酸由来の修飾基である。修飾基Rが水酸基で置換された脂肪族基、芳香族基又はこれらを組み合わせた基の場合、修飾基Rは、3-ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシ酸由来の修飾基である。修飾基Rがカルボキシル基で置換された脂肪族基、芳香族基又はこれらを組み合わせた基の場合、修飾基Rは、テレフタル酸等のジカルボン酸や、トリメシン酸等のトリカルボン酸由来の修飾基である。
【0024】
カルボキシル基やアミノ基はイオン交換機能を有するため、本発明の表面改質ナノセルロース粉末は、イオン交換樹脂、イオン交換充填剤等の種々のイオン交換材料として用いることができる。
【0025】
また、本発明の表面改質ナノセルロースは、有機材料及び/又は無機材料との複合化機能性を有しており、有機ポリマー等の有機材料、無機材料等との複合化に用いることができる。これらの複合化材料は、例えば、生分解性材料、生体適合材料、セルロース型プレポリマー、フィラー、分散材として活用することができる。
【0026】
<表面改質ナノセルロースの製造方法>
本発明の表面改質ナノセルロースの製造方法は、イオン液体の存在下、ナノセルロース及びカルボン酸誘導体をメカノケミカル処理するメカノケミカル工程を有することを特徴とする。また、本発明の製造方法は、メカノケミカル工程で得られた処理物からイオン液体を除去する除去工程を有することが好ましい。なお、メカノケミカル工程の前後、及び/又は除去工程の前後に他の工程を有していてもよい。
【0027】
本発明の製造方法は、従来のナノセルロースの表面改質方法に比べて、基質(カルボン酸誘導体)の選択幅が大きく、容易に入手可能な市販の化合物から種々の表面改質ナノセルロースを安価かつ安全に製造することができる。また、有機溶媒を用いる必要がないため、大規模な排気設備が不要であり、環境負荷が低い。さらに、機械的に混合するといった簡便な手法であることから、簡便に表面改質ナノセルロースを大量に製造することができる。また、製造された表面改質ナノセルロースは、解繊が進行したサイズのより小さな粒子となる。従来は、解繊工程と表面改質工程が別々の単位操作となるため、プロセスが複雑となり、収率低下を招き、コストアップの要因であったが、本発明の製造方法では、解砕と表面改質を同時に行うことができるため、収率向上やコストダウンを図ることができる。
【0028】
以下、各工程について説明する。
[メカノケミカル工程]
メカノケミカル工程は、イオン液体の存在下、ナノセルロース及びカルボン酸誘導体をメカノケミカル処理する工程である。
ここで、メカノケミカル処理とは、処理対象物にせん断力、衝突力又は遠心力のような機械的エネルギーを加えつつ混合する方法である。かかる処理は、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、振動ミル、ディスクミル、ターボミル、ホモジナイザー、メカノフュージョン等の粉砕機を用いて行うことができる。メカノケミカル処理により、ナノセルロースの分散化を図ると共に、ナノセルロースの新規な活性面とカルボン酸誘導体との積極的な反応を促進することができ、これにより、ナノセルロースの水酸基とカルボン酸誘導体のカルボキシル基とのエステル化反応が進行して、表面が改質されたナノセルロースを得ることができる。すなわち、ナノセルロースの表面の極性に応じて、イオン性液体のプラス電荷成分とマイナス電荷成分による電気二重層が形成されて単分散化が進み、さらに、せん断力等の機械的エネルギーによる新規の破砕面が創出されて表面修飾化が進んでいくと推定される。この方法は、有機溶媒を用いる必要がなく、また、イオン液体の添加量も少量でよいことから、環境に優しく、簡便に表面改質セルロースを大量生産することができる。
【0030】
カルボン酸誘導体に対するイオン液体の添加割合としては、所望の反応が進む量(触媒として機能する量)であれば特に制限されるものではないが、例えば、カルボン酸誘導体1molに対して1~15molである。本発明においては、1~10mol、好ましくは1~5molといった少量添加で混合(混練)することによっても反応が進行する。
【0031】
また、ナノセルロースに対するカルボン酸誘導体の添加割合としては、ナノセルロース1molに対して、例えば、1~100molであり、1~10molが好ましい。
【0032】
混合する温度としては、用いるイオン液体の種類等によるが、0℃~200℃程度が好ましく、脱水できる100℃以上が特に好ましい。混合時間としては、例えば、1~96時間程度であり、3~72時間程度が好ましく、6~60時間程度がより好ましい。
【0033】
(イオン液体)
本発明におけるイオン液体は、イオン伝導性を有する低融点の塩であって、例えば、カチオンとしての有機オニウムイオンと、アニオンとしての有機又は無機アニオンとを組み合わせた液体である。また、イオン液体は、通常100℃以下(例えば、室温25℃以下)にて液体状態となる塩である。
【0034】
イオン液体のカチオンとしては、例えば、有機窒素系カチオン、有機リン系カチオン、有機硫黄系カチオン等を挙げることができる。本発明においては、これらの中でも、有機窒素系カチオンが好ましく、環構造の一部に1以上の窒素原子を有する有機窒素系カチオンが特に好ましい。このような有機窒素系カチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン等を挙げることができる。本発明においては、これらの中でも、イミダゾリウムカチオンが好ましく、具体的には、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム、1-メチル-3-イソプロピルイミダゾリウム、1,3-ジエチルイミダゾリウム、1,3-ジプロピルイミダゾリウム、1-エチル-3-プロピルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン[BMIM]を挙げることができる。
【0035】
アニオンは、上記カチオンと組み合わせることができるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、HSO4
-、NO2
-、NO3
-、I-、BF4
-、PF6
-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)2.3
-、P-CH3PhSO3
-、CH3CO2
-、CF3CO2
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C4F9SO3
-、(CF3SO2)3C-、C3F7CO2
-、(C2F5SO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)(CF3CO)N-、(CN)2N-、AlCl4
-等を挙げることができる。本発明においては、これらの中でも、HSO4
-が好ましい。
【0036】
本発明におけるイオン液体は、上記例示したカチオン及びアニオン等を適宜組み合わせることができるが、ルイス酸性を有していることが好ましい。このような好ましいイオン液体としては、具体的に例えば、1,3-ジメチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-メチル-3-イソプロピルイミダゾリウム硫酸水素塩、1,3-ジエチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1,3-ジプロピルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-エチル-3-プロピルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2以上併用してもよい。
【0037】
(ナノセルロース)
本発明におけるナノセルロースは、天然セルロース、合成セルロースを微小化して調製することができる。天然セルロースとしては、植物由来のセルロースを挙げることができ、具体的に、広葉樹系パルプ、針葉樹系パルプ、竹、油やし等を例示することができる。
【0038】
天然セルロース等を微小化してナノセルロースとする方法としては、公知の種々の方法を挙げることができる。具体的には、高圧ホモジナイザー法、ボールミル粉砕法、グラインダー摩砕法、強剪断力混練法、凍結粉砕法等を例示することができる。
【0039】
ここで、ナノセルロースとしては、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、セルロースマイクロクリスタル、セルロースナノウィスカー等を挙げることができ、セルロースナノファイバー、セルロースマイクロクリスタルが好ましい。なお、本発明においては、リグノセルロース等のナノセルロースと他の物質の混合物を用いてもよい。
【0040】
(カルボン酸誘導体)
本発明におけるカルボン酸誘導体は、カルボキシル基を組成中に持つ分子であり、R’-COOH(R’は、有機基を表す。)で示される化合物である。R’で表される有機基としては、官能基で置換されていてもよい脂肪族基、官能基で置換されていてもよい芳香族基、官能基で置換されていてもよい脂肪族基及び芳香族基が組み合わされた基を挙げることができる。官能基としては、例えば、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン基、ニトロ基、アリール基、エポキシ基、アジド基等を例示することができ、アミノ基、水酸基、カルボキシル基が好ましい。
【0041】
カルボン酸誘導体としては、具体的に、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、吉草酸、コハク酸、クエン酸、メルカプトウンデカン酸、チオグリコール酸、アスパラガス酸、α-リボ酸、β-リボ酸、ジヒドロリボ酸、クロロ酢酸、マロン酸、アコニット酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、α-ケトグルタル酸、オキサロコハク酸、ピルビン酸、イソクエン酸、α-アラニン、β-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ヒドロキシプロリン、o-ホスホセリン、デスモシン、ノバリン、オクトビン、マンノビン、サッカロピン、N-メチルグリシン、ジメチルグリシン、トリメチルグリシン、シトルリン、グルタチオン、クレアチン、γ-アミノ酪酸、テアニン、乳酸、ナフトエ酸、フォリン酸、葉酸、パントテン酸、安息香酸、サリチル酸、o-フタル酸、m-フタル酸、p-フタル酸、ニコチン酸、ピコリン酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、ジャスモン酸、ウンデシレン酸、レブリン酸、イズロン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グリセリン酸、グルコン酸、ムラミン酸、シアル酸、マンヌロン酸、グリコール酸、グリオキシル酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトロ酢酸、ニトロヒドロケイ皮酸、ニトロ安息香酸、ポリアクリル酸、ポリクエン酸、ポリイタコン酸などを挙げることができる。これらは、2種以上併用してもよい。
【0042】
[除去工程]
除去工程は、メカノケミカル工程で得られた処理物からイオン液体を除去する工程である。除去工程においては、イオン液体中に含まれる未反応のカルボン酸誘導体や副生成物などを同時に除去してもよい。
【0043】
本発明の除去工程におけるイオン液体を除去する処理は、メカノケミカル工程で得られた処理物からイオン液体を除去できる処理であれば特に制限されるものではなく、例えば、加熱処理、酸やアルカリを用いた処理、洗浄処理、超音波処理、電子線照射による処理、遠心分離処理等の除去処理を挙げることができる。これらの除去処理は、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
〈イオン液体として[BMIM][HSO4](1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩)を用いたナノセルロース/β-アラニンの処理〉
【0046】
図1は、実施例1の概念図である。具体的な操作は以下のとおりである。
2gの乾燥ナノセルロース粉末および4mmolのβ-アラニンを3mLの[BMIM][HSO
4]と一緒に磁気乳棒装置(MMPS-T1、AS-ONE、日本)を用いて48時間60℃で
混練した。処理後、混練物をエチルアルコールで洗浄し、次いで8000rpmで20分間遠心分離し(ST8R、ThermoScientific、米国)、イオン液体を除去した。続いて、凍結乾燥を行い、β-アラニンで修飾されたナノセルロース誘導体(本発明の表面改質ナノセルロース)を得た。
【0047】
ナノセルロースへのβ-アラニンの導入は、熱重量/示差熱量分析法(TG/DTG)、粉末X線回折法(XRD)およびフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により確認した。その結果を
図2~4に示す。
【0048】
図2は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC Beta alanine BMIMHSO4 48h)の熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、(a)は、熱重量曲線(TG曲線)を示し、(b)は、TGに対する時間での微分値(DTG)を示す。比較として、NC(ナノセルロース)、Beta alanine(β-アラニン)、NC BMIMHSO4 48h(ナノセルロース及びイオン液体を48h反応させたもの)、NC Beta Alanine PHYC MIX(ナノセルロース及びβ-アラニンを物理的に単に混合したもの)をあわせて示す。
【0049】
図3は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC Beta alanine BMIMHSO4 48h)のXRDパターンを示す図である。比較として、NC(ナノセルロース)、Beta alanine(β-アラニン)、NC BMIMHSO4 48h(ナノセルロース及びイオン液体を48h反応させたもの)をあわせて示す。
【0050】
図4は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC Beta alanine BMIMHSO4 48h)のIRスペクトルである。比較として、NC(ナノセルロース)、Beta alanine(β-アラニン)をあわせて示す。
【0051】
図2~
図4に示すように、本実施例における表面改質ナノセルロースは、結晶構造の変化が見られ、ナノセルロース単独の結晶構造とは異なる新たな結晶構造が表れており、かつBeta alanine(β-アラニン)単独の結晶構造とも異なることから、ナノセルロースがβ-アラニンで修飾されていることがわかる。
【0052】
(実施例2)
〈イオン液体として[BMIM][HSO4]を用いたナノセルロース/3-ヒドロキシ酪酸の処理〉
【0053】
図5は、実施例2の概念図である。3-ヒドロキシ酪酸(3HB)を用いた処理についても実施例1と同様の手順で行った。
2gの乾燥ナノセルロース粉末および4mmolの3-ヒドロキシ酪酸を[BMIM][HSO
4]と一緒に磁気乳棒装置(MMPS-T1、AS-ONE、日本)を用いて48時間60℃で
混練した。処理後、混練物をエチルアルコールで洗浄し、次いで8000rpmで20分間遠心分離し(ST8R、ThermoScientific、米国)、イオン液体を除去した。続いて、凍結乾燥を行い、3-ヒドロキシ酪酸で修飾されたナノセルロース誘導体(本発明の表面改質ナノセルロース)を得た。
【0054】
ナノセルロースへの3-ヒドロキシ酪酸の導入は、熱重量/示差熱量分析法(TG/DTG)、粉末X線回折法(XRD)およびフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により確認した。その結果を
図6~8に示す。
【0055】
図6は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC 3HB BMIMHSO4 48h)の熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、(a)は、熱重量曲線(TG曲線)を示し、(b)は、TGに対する時間での微分値(DTG)を示す。比較として、NC(ナノセルロース)、3HB(3-ヒドロキシ酪酸)、NC BMIMHSO4 48h(ナノセルロース及びイオン液体を48h反応させたもの)、NC 3HB PHYC MIX(ナノセルロース及び3-ヒドロキシ酪酸を物理的に単に混合したもの)をあわせて示す。
【0056】
図7は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC 3HB BMIMHSO4 48h)のXRDパターンを示す図である。比較として、NC(ナノセルロース)、3HB(3-ヒドロキシ酪酸)、NC BMIMHSO4 48h(ナノセルロース及びイオン液体を48h反応させたもの)をあわせて示す。
【0057】
図8は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC 3HB BMIMHSO4 48h)のIRスペクトルである。比較として、NC(ナノセルロース)、3HB(3-ヒドロキシ酪酸)をあわせて示す。
【0058】
図6~
図8に示すように、本実施例における表面改質ナノセルロースは、結晶構造の変化が見られ、ナノセルロース単独の結晶構造とは異なる新たな結晶構造が表れており、かつ3HB(3-ヒドロキシ酪酸)単独の結晶構造とも異なることから、ナノセルロースが3-ヒドロキシ酪酸で修飾されていることがわかる。
【0059】
(実施例3)
〈イオン液体として[BMIM][HSO4]を用いたナノセルロース/テレフタル酸の処理〉
【0060】
図9は、実施例3の概念図である。テレフタル酸(Terephthalic acid)を用いた処理についても実施例1と同様の手順で行った。
2gの乾燥ナノセルロース粉末および4mmolのテレフタル酸を[BMIM][HSO
4]と一緒に磁気乳棒装置(MMPS-T1、AS-ONE、日本)を用いて48時間60℃で
混練した。処理後、混練物をDMSOで洗浄し、次いで8000rpmで20分間遠心分離し(ST8R、ThermoScientific、米国)、イオン液体を除去した。続いて、凍結乾燥を行い、テレフタル酸で修飾されたナノセルロース誘導体(本発明の表面改質ナノセルロース)を得た。
【0061】
ナノセルロースへのテレフタル酸の導入は、熱重量/示差熱量分析法(TG/DTG)、粉末X線回折法(XRD)およびフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により確認した。その結果を
図10~12に示す。
【0062】
図10は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC Terephthalic acid BMIMHSO4 48h)の熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、(a)は、熱重量曲線(TG曲線)を示し、(b)は、TGに対する時間での微分値(DTG)を示す。比較として、NC(ナノセルロース)、Terephthalic acid(テレフタル酸)、NC BMIMHSO4 48h(ナノセルロース及びイオン液体を48h反応させたもの)、NC Terephthalic acid PHYC(ナノセルロース及びテレフタル酸を物理的に単に混合したもの)をあわせて示す。
【0063】
図11は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC Terephthalic acid BMIMHSO4 48h)のXRDパターンを示す図である。比較として、NC(ナノセルロース)、Terephthalic acid(テレフタル酸)、NC BMIMHSO4 48h(ナノセルロース及びイオン液体を48h反応させたもの)をあわせて示す。
【0064】
図12は、本実施例における表面改質ナノセルロース(NC Terephthalic acid BMIMHSO4 48h)のIRスペクトルである。比較として、NC(ナノセルロース)、Terephthalic acid(テレフタル酸)をあわせて示す。
【0065】
図10~
図12に示すように、本実施例における表面改質ナノセルロースは、結晶構造の変化が見られ、ナノセルロース単独の結晶化度とは異なり、NCの結晶化度が著しく低下し、また、ピーク位置も貴側へシフトしていることから、ナノセルロースがテレフタル酸で修飾されていることがわかる。
【0066】
図13は、実施例1~3で得られた本発明の表面改質ナノセルロース粉末の写真である。写真は、左からナノセルロース、ナノセルロース/3-ヒドロキシ酪酸(実施例2)、ナノセルロース/βアラニン(実施例1)、ナノセルロース/テレフタル酸(実施例3)を示す。
【0067】
(実施例4)
〈イオン液体として[BMIM][HSO4]を用いたマイクロクリスタルセルロース/1-ナフトエ酸(1-naphthoic acid)の処理(1)〉
【0068】
図14は、実施例4の反応スキームを示す図である。
0.54gの乾燥マイクロクリスタルセルロース粉末および1.72gの1-ナフトエ酸を[BMIM][HSO
4](3.45ml)と一緒に磁気乳棒装置(MMPS-T1、AS-ONE、日本)を用いて、大気圧下、60℃で4、8、24時間
混練した。処理後、混練物をエタノールで洗浄し、60℃で乾燥して、1-ナフトエ酸で修飾されたマイクロクリスタルセルロース誘導体(本発明の表面改質ナノセルロース(MCC-NA))を得た。
【0069】
マイクロクリスタルセルロースへの1-ナフトエ酸の導入は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR;KBr法)、紫外可視分光法(UV-vis)、および粉末X線回折法(XRD)により確認した。その結果を
図15~17に示す。
【0070】
図15は、本実施例における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 4h,8h,24h)のIRスペクトルである。比較として、MCC(マイクロクリスタルセルロース)をあわせて示す。
【0071】
図16は、本実施例における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 4h,8h,24h)のUV-visスペクトルである。比較として、MCCをあわせて示す。なお、測定においては、各サンプルを0.5 mg / mLの濃度でDI水に分散させ、測定前に10分間超音波処理した。MCC分散液をバックグラウンドサンプルとして使用した。
【0072】
図17は、本実施例における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 4h,8h,24h)のXRDパターンを示す図である。比較として、MCCをあわせて示す。なお、結晶化度指数(CI)は、以下のSegal法に基づいて算出した。
【0073】
【0074】
図15に示すように、本実施例における表面改質ナノセルロースは、芳香族C=Cの伸長に対応する1650cm-1付近にピークが検出され、このエステルのカルボニル部位の振動波数は、反応時間が長くなると大きくなった。また、
図16に示すように、本実施例における表面改質ナノセルロースは、修飾されたMCCにナフタレン部分が含まれている可能性を示す約250 cm
-1のピークが検出され、反応時間が長くなるにつれてピークの強度が増加した。さらに、
図17に示すように、反応時間に伴い、結晶化度(CI)が低下した。CIの低下は、MCCの小型化と分子間水素結合による凝集の減少を示している可能性があると考えられる。
以上のことから、マイクロクリスタルセルロースが1-ナフトエ酸で修飾されていることがわかる。
【0075】
また、本実施例における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 4h,8h,24h)および比較例としてのMCCについて、粒度計(DLS)にて粒度の測定を行った。具体的には、各サンプルを0.5 mg / mLの濃度でCMFに分散させ、測定前に10分間超音波処理した。その結果を
図18に示す。
【0076】
図18に示すように、反応時間が長くなるに伴い、粒径が小さくなっており、これは、マイクロクリスタルセルロースが解繊されていると考えられる。
【0077】
(実施例5)
〈イオン液体として[BMIM][HSO4]を用いたマイクロクリスタルセルロース/1-ナフトエ酸(1-naphthoic acid)の処理(2)〉
【0078】
実施例4において、混練条件を60℃(4h,8h,24h)から110℃(24h)に変更した以外は、同様にして、1-ナフトエ酸で修飾されたマイクロクリスタルセルロース誘導体(本発明の表面改質ナノセルロース(MCC-NA))を得た。
【0079】
マイクロクリスタルセルロースへの1-ナフトエ酸の導入は、熱重量測定法(TG)、粉末X線回折法(XRD)及び紫外可視分光法(UV‐vis)により確認した。その結果を
図19~22に示す。
【0080】
図19は、本実施例における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 110℃-24h)のTGスペクトルである。比較として、実施例4における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 60℃-24h)、MCC(マイクロクリスタルセルロース)をあわせて示す。
【0081】
図20は、本実施例における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 110℃-24h)のXRDパターンを示す図である。比較として、実施例4における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 60℃-24h)、MCCをあわせて示す。
【0082】
図20に示すように、反応温度が高くなる(1-ナフトエ酸の導入率が高くなる)ことで、結晶化度は低下することがわかる。
【0083】
図21は、本実施例における表面改質分子である1-ナフトエ酸のDMSO溶媒へ溶解した溶液のUV-visスペクトルである。濃度の異なる5種類の溶液でのキャリブレーションカーブを作成した。
【0084】
図22は、本実施例における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 110℃-24h)のUV-visスペクトルであり、比較として、実施例4における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 60℃-24h)をあわせて示す。
【0085】
図22に示すように、本実施例における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 110℃-24h)、及び実施例4における表面改質ナノセルロース(MCC-NA 60℃-24h)は、1-ナフトエ酸のUV-vis吸収の280nm付近にピークが検出され、このピーク強度は、反応温度が高くなると強くなった。
【0086】
実施例4、5における表面改質ナノセルロースの吸光度から求めた表面改質量を表1に示す。具体的には、はじめに、表面処理分子である1-ナフトエ酸のキャリブレーションカーブから吸光係数を求め(
図21)、続いて、この吸光係数に基づき、実施例4及び5で製造されたMCC-NAの1-ナフトエ酸に対応する280nm付近の紫外可視吸収ピーク強度(
図22)から、置換された1-ナフトエ酸の濃度(表面改質量)を求めた。
【表1】
【0087】
表1に示すように、本実施例4における表面改質ナノセルロースと、本実施例5における表面改質ナノセルロースとでは、表面改質量に大きな違いがあることが明らかとなった。すなわち、反応温度を60℃から110℃へ上げることで、1-ナフトエ酸の導入量が80%以上増加し、表面修飾されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、樹脂との複合材料化を容易に行うことができる表面改質ナノセルロースを製造できるものであることから、産業上有用である。