(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】シート状物の洗浄装置及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B08B 11/00 20060101AFI20241118BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20241118BHJP
B41F 23/00 20060101ALN20241118BHJP
【FI】
B08B11/00 A
B08B3/04 B
B41F23/00
(21)【出願番号】P 2020197126
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-07-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513263282
【氏名又は名称】SANDO TECH株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】上杉 毅
(72)【発明者】
【氏名】林 正之
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 敬太
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-514384(JP,A)
【文献】特表2016-509613(JP,A)
【文献】米国特許第05289774(US,A)
【文献】特開平07-331137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 11/00
B08B 3/04
B41F 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状物(S)を送り出しながら前記シート状物(S)の表面の印刷インクを除去する洗浄装置において、
前記シート状物(S)の表裏面のうち少なくとも前記印刷インクを備える第1面(a)を処理液(A)に漬ける浸潤処理部(20)と、
前記浸潤処理部(20)を通過した前記シート状物(S)の前記第1面(a)に触れる摺接部(31a,32a,34a,35a)と、前記摺接部(31a,32a,34a,35a)に対向して配置され前記第1面(a)とは反対側の第2面(b)に触れる搬送ローラ(R)とを備えた剥離処理部(30)と、
を備え、
前記摺接部(31a,32a,34a,35a)は軸回り回転自在の処理ローラ(T)の周面で構成されるとともに、前記摺接部(31a,32a,34a,35a)
は織物、編物、又は不織布からなる繊維素材を含む繊維シートであ
り、前記シート状物(S)は前記処理ローラ(T)の周面に沿って前記摺接部(31a,32a,34a,35a)に接しながら前記処理ローラ(T)の軸回り方向に進行する向きが変化している洗浄装置。
【請求項2】
前記摺接部(31a,32a,34a,35a)は、前記搬送ローラ(R)の周面部(31b,32b,34b,35b)よりも硬い素材である請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記摺接部(31a,32a,34a,35a)は、前記搬送ローラ(R)の周面部(31b,32b,34b,35b)よりもヒステリシスの物性値が高い素材である請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記繊維素材は、フェルト生地である請求項1から3のいずれか一つに記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記繊維素材は、たて糸に綿番手20番手かそれよりも綿番手が低い糸を、よこ糸に前記たて糸より細目の糸を使用して、それらをあや織又はたて朱子織にした厚手織物である請求項1から3のいずれか一つに記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記処理ローラ(T)は、駆動力によって回転する前記搬送ローラ(R)の周速度よりも相対的に遅い周速度で、軸回り回転が停止した状態で、又は、前記搬送ローラ(R)とは逆方向に回転しながら前記シート状物(S)に触れている請求項1から5のいずれか一つに記載の洗浄装置。
【請求項7】
前記搬送ローラ(R)は、前記シート状物(S)が反転する箇所に配置され、前記摺接部(31a,32a,34a,35a)はその反転する箇所の外方側に配置されている請求項1から6のいずれか一つに記載の洗浄装置。
【請求項8】
前記シート状物(S)は、前記第1面(a)に加えて前記第2面(b)にも印刷インクを備え、
前記剥離処理部(30)は、前記摺接部(31a,32a,34a,35a)を前記送り出し方向に沿って複数並列して備え、
前記送り出し方向に沿って隣り合う前記摺接部(31a,32a,34a,35a)の間に切替用ローラ(33,36)を備え、
前記シート状物(S)を、前記切替用ローラ(33,36)に巻回される経由ルートと前記切替用ローラ(33,36)に巻回されない短絡ルートとに切り替えることで、前記切替用ローラ(33,36)の前又は後に位置する前記摺接部(31a,32a,34a,35a)が前記第1面(a)に触れる状態と前記第2面(b)に触れる状態とに変更可能である請求項1から7のいずれか一つに記載の洗浄装置。
【請求項9】
シート状物(S)を送り出しながら前記シート状物(S)の表面の印刷インクを除去する洗浄方法において、
前記シート状物(S)の表裏面のうち少なくとも前記印刷インクを備える第1面(a)を処理液(A)に漬ける浸潤工程と、
前記浸潤工程を通過した前記シート状物(S)を、前記第1面(a)に触れる摺接部(31a,32a,34a,35a)と、前記摺接部(31a,32a,34a,35a)に対向して配置され前記第1面(a)とは反対側の第2面(b)に触れる搬送ローラ(R)との間に通過させる剥離処理工程と、
を備え、
前記摺接部(31a,32a,34a,35a)は軸回り回転自在の処理ローラ(T)の周面で構成されるとともに、前記摺接部(31a,32a,34a,35a)
は織物、編物、又は不織布からなる繊維素材を含む繊維シートであ
り、前記シート状物(S)は前記処理ローラ(T)の周面に沿って前記摺接部(31a,32a,34a,35a)に接しながら前記処理ローラ(T)の軸回り方向に進行する向きが変化している洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フィルム、シート等のシート状物の洗浄装置及び洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルム、プラスチックシート、その他各種の可撓性のある素材からなるシートやフィルム等(以下、総称してシート状物と称する。)の表面には、用途に応じて種々の印刷が施される。一般に、このような印刷工程においては、所望の色彩や色相、色調にセットアップするまでの間に、多量の不良品が発生する場合が多い。また、実際に印刷した後の印刷物に不良箇所を発見する場合もある。このような不良品は、印刷インクを剥離することで、その素材を再利用するのが好ましい。シート状物の洗浄装置又は洗浄方法として、例えば、特許文献1、2に記載のものがある。
【0003】
特許文献1に記載の洗浄装置は、シート6に裏布20を接触させてシート6の表面を洗浄するものである。裏布20は搬送装置26、24、28によって可動し、裏布20の湿った部分32が、シート6と連続的に接触するようにしている(符号は特許文献1に記載のもの)。また、特許文献2に記載の洗浄装置は、印刷インクが付着したシート状物を洗浄流体に接触させ、その後、洗浄流体と接触した印刷インクをナイロンブラッシュで覆われたローラからなる回転摺り器によって除去し、さらに付着する洗浄流体をブレードによってシート状物の表面から除去している。シート状物に押し付けられる回転擦り器として、ナイロンブラッシュで覆われたローラを採用したので、より効果的な洗浄が可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第5289774号明細書
【文献】特表2018-514384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2に記載の洗浄装置では、シート状物上の印刷インクが充分に洗浄できない場合がある。すなわち、印刷インクの一部がシート状物の表面に残存する可能性がある。特に、特許文献2では、シート状物に押し付けられる回転擦り器としてナイロンブラッシュで覆われたローラを採用しているが、印刷インクの種別や印刷の仕様によっては、その印刷インクを完全に除去することができない場合があり、改善の余地がある。
【0006】
そこで、この発明の課題は、シート状物上の印刷インクをより確実に除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明は、シート状物を送り出しながら前記シート状物の表面の印刷インクを除去する洗浄装置において、前記シート状物の表裏面のうち少なくとも前記印刷インクを備える第1面を処理液に漬ける浸潤処理部と、 前記浸潤処理部を通過した前記シート状物の前記第1面に触れる摺接部と、前記摺接部に対向して配置され前記第1面とは反対側の第2面に触れる搬送ローラとを備えた剥離処理部と、を備え、前記摺接部は繊維素材を含んでいる構成を採用することができる。
【0008】
ここで、前記摺接部は、前記搬送ローラの周面部よりも硬い素材である構成を採用することができる。あるいは、前記摺接部は、前記搬送ローラの周面部よりもヒステリシスの物性値が高い素材である構成を採用することができる。
【0009】
また、前記繊維素材として、フェルト生地、あるいは、たて糸に綿番手20番手かそれよりも綿番手が低い糸を、よこ糸に前記たて糸より細目の糸を使用して、それらをあや織又はたて朱子織にした厚手織物を採用することができる。
【0010】
これらの各態様において、前記摺接部は軸回り回転自在の処理ローラの周面で構成され、前記処理ローラは、駆動力によって回転する前記搬送ローラの周速度よりも相対的に遅い周速度で、軸回り回転が停止した状態で、又は、前記搬送ローラとは逆方向に回転しながら前記シート状物に触れている構成を採用することができる。
【0011】
また、これらの各態様において、前記搬送ローラは、前記シート状物が反転する箇所に配置され、前記摺接部はその反転する箇所の外方側に配置されている構成を採用することができる。
【0012】
さらに、これらの各態様において、前記シート状物は、前記第1面に加えて前記第2面にも印刷インクを備え、前記剥離処理部は、前記摺接部を前記送り出し方向に沿って複数並列して備え、前記送り出し方向に沿って隣り合う前記摺接部の間に切替用ローラを備え、前記シート状物を、前記切替用ローラに巻回される経由ルートと前記切替用ローラに巻回されない短絡ルートとに切り替えることで、前記切替用ローラの前又は後に位置する前記摺接部が前記第1面に触れる状態と、前記第2面に触れる状態とに変更可能である構成を採用することができる。
【0013】
また、上記の課題を解決するために、この発明は、シート状物を送り出しながら前記シート状物の表面の印刷インクを除去する洗浄方法において、前記シート状物の表裏面のうち少なくとも前記印刷インクを備える第1面を処理液に漬ける浸潤工程と、前記浸潤工程を通過した前記シート状物を、前記第1面に触れる摺接部と、前記摺接部に対向して配置され前記第1面とは反対側の第2面に触れる搬送ローラとの間に通過させる剥離処理工程と、を備え、前記摺接部は繊維素材を含んでいる洗浄方法を採用した。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、シート状物上の印刷インクをより確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、シート状物Sの洗浄装置1、及び、シート状物Sの洗浄方法に関するものである。シート状物Sの表面の印刷インク(ラベル等を含む)を剥離、融解してその素材を洗浄し、再利用等することが目的である。洗浄されたシート状物Sは、ペレットとしてリサイクルできるほか、リード紙としてリユースすることも可能である。シート状物Sとして、プラスチックフィルム、プラスチックシート等を想定しているが、その他の樹脂素材等、各種の可撓性のある素材からなるシートやフィルム等のように、ロール状に巻き取り可能な薄手状の素材であれば、この発明を適用できる。
【0017】
洗浄装置1は、
図1に示すように、ロール状に巻き取られたシート状物Sを供給部10に設置し、その供給部10でロール11を回転させながらシート状物Sを繰り出し、浸潤処理部20、剥離処理部30、仕上処理部40、洗浄処理部50、水分除去部60を経て、回収部70にて、表面の印刷インクを除去したシート状物Sをロール状に巻回して回収するものである。すなわち、送り出されたシート状物Sを浸潤処理部20にて処理液Aとして用意した洗浄液(溶剤)に含浸させ(浸潤工程)、その含浸後、剥離処理部30で印刷インクの剥離を行い、また、必要に応じて仕上処理部40で剥離の仕上げ処理を行い(剥離処理工程)、剥離後は、洗浄処理部50、水分除去部60での工程を経て、洗浄の完了したシート状物Sを回収する。処理液Aの内容は、印刷インクの種別や印刷の手法、シート状物Sの素材等に応じて適宜選択される。これらの各装置は、フレーム2に固定されている。
【0018】
図1及び
図2の実施形態では、シート状物Sの表裏面のうち、少なくとも第1面aに印刷インクを備え、その第1面a側の印刷インクのみを剥離することで、素材を洗浄する態様を示している。
【0019】
供給部10は、ロール11から繰り出されたシート状物Sを案内する案内ローラ12,13を備えている。また、ロール11の巻き出し方向は両面可能(上巻き出し、下巻き出し)である。案内ローラ12,13にはモータ等の駆動力は伝達されておらず、シート状物Sが引かれることに伴って回転する。なお、その回転を補助するために、モータ等の駆動力によって案内ローラ12,13を回転させてもよい。これは、後述の各案内ローラについても同様である。また、1つの案内ローラ13には、張力センサー14が設けられている。シート状物Sの送り方向への張力が所定の数値内に入るように、後述の下部挟持ローラ47bに入力される駆動力を調整している。
【0020】
浸潤処理部20は、処理液Aが貯留されている貯留槽21と、貯留槽21内にシート状物Sを通過させるために、複数の案内ローラ23a,23b,23cを備えている。前工程から送り出されたシート状物Sは、案内ローラ22によって貯留槽21に向かって下方へ案内される。案内ローラ22を通過したシート状物Sは、貯留槽21の処理液A内に入り、シート状物Sの表裏面に処理液Aが付着する。この実施形態は、シート状物Sの表裏面のうち、少なくとも印刷インクを剥離する必要がある第1面aに処理液Aが付着すれば足りるが、後述の実施形態のように、第1面aとは反対側の面である第2面bの印刷インクも剥離する場合は、このように第1面aと第2面bの両面に処理液Aを付着させることが求められる。また、処理液Aをシート状物Sに吹き付ける等の手法も採用可能であるが、このように浸潤の手法を採用すれば処理液Aがシート状物Sに馴染みやすく、所定の浸潤時間を経過させることにより、その後の剥離には効果的である。浸潤処理部20を通過したシート状物Sは、処理液Aの液面よりも上方へ離脱し、剥離処理部30へ送り出される。
【0021】
剥離処理部30は、シート状物Sの送り方向に沿って、複数の剥離処理ユニット31,32,34,35を並列して備えている。剥離処理ユニット31,32,34,35は、送り方向に沿って順に水平方向一方側、他方側、一方側、他方側というように交互に配置されている。この設置数は適宜増減できる。これにより、シート状物Sは、剥離処理ユニット31,32,34,35毎に向きを変えて、上方へ向かってつづら折れ状に進んでいく。この実施形態の剥離処理ユニット31,32,34,35は、それぞれシート状物Sの第1面aに触れる摺接部31a,32a,34a,35aと、第2面bに触れる搬送ローラRを備えている。この実施形態において、搬送ローラRは、それぞれモータ等の駆動力によって回転する駆動ローラである。
【0022】
摺接部31a,32a,34a,35aは、それぞれ対応する搬送ローラRに対向して配置されている。また、この実施形態では、摺接部31a,32a,34a,35aは、軸回り回転自在の処理ローラTの周面で構成されている。摺接部31a,32a,34a,35aは、付勢装置(
図2の符号31c,34c参照)によって、所定の力でシート状物S側へ押し付けられている。また、送り出し方向に沿って隣り合う摺接部31a,32a,34a,35aの間に、切替用ローラ33,36,41を備えている。切替用ローラ33,36,41は、摺接部32a,34a間に1つの切替用ローラ33が、また、摺接部35aの後段に2つの切替用ローラ36,41が、それぞれ設けられている。剥離処理部30を通過したシート状物Sは、仕上処理部40へ送り出される。
【0023】
仕上処理部40は、ブラシロール42a,43aを使用して、前工程で残ったゴミ等の付着物を剥離させるものであり、シート状物Sの送り方向に沿って、複数の仕上処理ユニット42,43を並列して備えている。仕上処理ユニット42,43は、送り方向に沿って順に2つ並列して配置されている。この設置数は適宜増減でき、また付着物がない場合はその設置を省略することもできる。仕上処理ユニット42,43は、それぞれシート状物Sの第1面aに触れるブラシロール42a,43aと、第2面bに触れる押えローラ42b,43bを備えている。ブラシロール42a,43aは、ナイロン系の素材を用いたブラシを全周に亘って備えている。この実施形態において、ブラシロール42a,43aは、それぞれモータ等の駆動力によって回転し、押えローラ42b,43bは駆動力によらずシート状物Sの動きとともに空転する。なお、押えローラ42b,43bは回転せずに固定とすることもできる。また、ブラシロール42a,43aには、洗浄液を吹き付けるノズル装置42d,43dが併設されている。ブラシロール42a,43aは、洗浄液を受けながら駆動力によって回転している。ここでは、洗浄液は処理液Aと共通となっており、その洗浄液は下方の貯留槽21に落下することで循環して使用される。押えローラ42b,43bは、このブラシ洗浄時に常に基材であるシート状物Sを一定位置に(ブラシロール42a,43aから離脱しないように)安定させる機能を発揮している。仕上処理ユニット42,43を通過したシート状物Sは、案内ローラ44,45,46を経て、2つの挟持ローラ47a,47bを備えた挟持部47を通過した後、洗浄処理部50へ送り出される。2つの挟持ローラ47a,47bのうち、上側の挟持ローラ47a(上部挟持ローラ47aと称する)には加圧装置が接続され、下側の挟持ローラ47b(下部挟持ローラ47bと称する)には駆動装置が接続されている。下部挟持ローラ47bに対して上部挟持ローラ47aを接圧(押圧)することで、シート状物Sの送り速度と張力を調整する機構となっている。この送り速度と張力が装置の基準となる。また、挟持部47は、上部挟持ローラ47a及び下部挟持ローラ47bの両方の表面がゴムである構成を採用することができ、又は、一方がゴムであり他方がSUS(ステンレス)である構成を採用できる。
【0024】
洗浄処理部50は、シート状物に付着した溶剤を洗浄するものである。前工程から送り出されたシート状物Sは、案内ローラ52によって貯留槽51に向かって下方へ案内される。案内ローラ52を通過したシート状物Sは、貯留槽51の洗浄液B内に入り、溶剤が洗い流される。なお、洗浄液Bには、例えば、蒸留水等が用いられる。シート状物Sは、洗浄液B中に設けられた案内ローラ53によって上方へ反転する。洗浄液Bから引き上げられたシート状物Sは、シャワー装置55、案内ローラ54a,54b,54c、エアー噴射装置56、案内ローラ57を経て、後段の水分除去部60へ送り出される。シャワー装置55は、シート状物Sに洗浄液Bを噴射することにより、ゴミ等の再付着防止を行うものである。エアー噴射装置56は、シート状物Sに空気を噴射することにより、水分を吹き飛ばすものである。また、洗浄処理部50においても、洗浄液Bは循環装置により貯留槽51へ戻ることで循環して使用される。
【0025】
水分除去部60は、スポンジロール64a,64bを備えた吸水部64にて、シート状物Sの水切り及び吸水を行うものである。前工程から送り出されたシート状物Sは、案内ローラ61によって下方へ案内される。案内ローラ61には、張力センサー62が設けられている。案内ローラ61を通過したシート状物Sは案内ローラ63を経て、吸水部64にて水切り及び吸水が行われた後、案内ローラ65によって後段の回収部70へ送り出される。回収部70は、シート状物Sを案内する案内ローラ71を備えている。案内ローラ71を通過したシート状物Sは、軸回り回転するロール72に巻き取られて回収されていく。各段階において、案内ローラは、いずれも空転することによってシート状物Sの走行を補助している。なお、この実施形態では、シート状物Sの走行速度を20m/min未満とする低速運転を基本としているが、走行速度を20m/min以上とする高速運転の場合は、この後段に乾燥装置やアニール装置を別途設置することが望ましい。乾燥装置とは、乾燥室内部に設置されたノズルにて熱風等をシート状物の表裏に吹き付けることで、基材の水分を取り除く装置である。アニール装置とは、シート状物のひずみを熱処理によって除去する装置である。
【0026】
以下、剥離処理部30の作用について、より詳しく説明する。
【0027】
摺接部31a,32a,34a,35aは、軸回り回転自在の処理ローラTの周面で構成されている。また、摺接部31a,32a,34a,35aは、搬送ローラRの周面部31b,32b,34b,35bを構成する素材よりも硬い素材である。なお、搬送ローラRの周面部31b,32b,34b,35bはゴムであり、ローラの外周面全体が所定厚さのゴムシートで覆われている。また、特に素材を記載していない他のローラ類は、その表面をSUS(ステンレス)としている。
【0028】
この実施形態では、摺接部31a,32a,34a,35aの素材に、繊維素材を含んだものを採用している。この繊維素材は、搬送ローラRの周面部31b,32b,34b,35bを構成する素材よりも硬い素材である。本発明の発明者らは、摺接部31a,32a,34a,35aが繊維素材を含んでいること、摺接部31a,32a,34a,35aが搬送ローラRの周面部31b,32b,34b,35bよりも硬い素材であること、摺接部31a,32a,34a,35aが、搬送ローラRの周面部31b,32b,34b,35bよりもヒステリシスの物性値が高い素材であることで良好な剥離効果が得られることを、実験により確認している。硬さの比較は、例えば、各種の硬さ試験によって行うことができる。また、ヒステリシスの物性値の比較は、後述の実験例でその詳細を記載している。
【0029】
摺接部31a,32a,34a,35aの繊維素材として、例えば、フェルト生地を採用することができる。フェルト生地は、糸(毛を含む)を圧縮してシート状にした繊維品の総称であり、不織布の一つである。フェルト生地として、例えば、ポリエステル製の糸を用いたポリエステルフェルトを採用できる。また、他の繊維素材として、例えば、デニム生地を採用することができる。デニム(denim)生地とは、たて糸に綿番手20番手かそれよりも綿番手が低い糸(太い糸/単位長さ当たりの質量が大きい糸)を、よこ糸にたて糸より細目の糸を使用して、それらをあや織又はたて朱子織にした厚手織物である。あや織り(teill weave)とは、経糸と緯糸を2本ずつ抜かす等して交差させて作られた組織であり、斜文織り(しゃもんおり)とも呼ばれる。生地の表面に斜めの畝が見えるという特徴を有する素材である。朱子織(しゅすおり/satin weave)とは、経糸又は緯糸のどちらかの糸の浮きが非常に少なく、経糸又は緯糸のみが表に表れているように見えるという特徴と有する素材である。たて朱子織(たてじゅすおり/wrap satin)とは、表にたて糸が多く浮いている朱子織をいい、JIS L0206に規定されている素材をいう。
【0030】
デニム生地に関し、日本工業規格「JIS L 0206:1999(1265 デニム)」では、たて糸に綿番手が20番手(30tex=29.52tex)以下の色糸(すなわち、20番手かそれよりも太い(単位長さ当たりの質量が大きい)色糸)、よこ糸にたて糸より細目のさらし糸又は色糸を使用して、あや織又はたて朱子織にした厚地織物(子供服,作業服地,ズボンなど)と規定され、一般にジーンズともいう。ここで、番手とは、紡績した糸の太さを表わす単位で、一定の重量に対して長さがいくらあるかで表わす。番手数が大きいほど糸の太さは細くなる。綿番手の1番手とは、重さが1ポンド(453.6g)で長さが840ヤード(768.1m)であるものをいう。綿番手の10番手とは、重さが1ポンド(453.6g)で長さが8400ヤード(840ヤード×10/7681m)であるものをいう。綿番手の20番手とは、重さが1ポンド(453.6g)で長さが16800ヤード(840ヤード×20/15362m)であるものをいう。一般に衣類や靴などの日用品に用いられるデニム(denim)生地は、綿番手が20番手よりもさらに太く(単位長さ当たりの質量が大きく)、10番手以上に太い(単位長さ当たりの質量が大きい)たて糸をインディゴによって染色し、よこ糸を未晒し糸(染色加工をしていない糸)で綾織りにした、素材が綿である厚地織布とされている。なお、本発明で用いるデニム生地は、糸の着色の有無や色彩には限定されないので、着色の有無や色彩に関わらず広くデニム生地と記載している。
【0031】
このような摺接部31a,32a,34a,35aを備えたことにより、シート状物S上の印刷インクを効率的に剥離することができる。摺接部31a,32a,34a,35aと搬送ローラRとの間でシート状物Sを厚さ方向に所定の力で押圧した状態であることも、その剥離効果を高める要素となっている。すなわち、摺接部31a,32a,34a,35aと搬送ローラRとが対向していることが望ましい。また、その摺接部31a,32a,34a,35aに対向する搬送ローラRは、モータ等の駆動源からの駆動力によって軸回り回転していることが、剥離効果を高める上で望ましい。ここで、駆動側である搬送ローラRは、シート状物Sの走行をアシストするように駆動源側でその入力トルクが制御されている。この制御には、張力センサー14のデータが利用される。なお、ライン全体の張力管理は、張力センサー14及び張力センサー62のデータによってその制御を行っている。また、処理ローラTは昇降機能をもつので、作業の開始時にシート状物Sを容易にローラ間に挿通できる。この工程で印刷インクはほぼ全て剥離され、剥離中にシート状物から離脱する処理液A等は、貯留槽21に戻りフィルタを通して再循環して利用される。これにより、洗浄液の使用量抑制によるコスト削減が可能となる。
【0032】
ここで、摺接部31a,32a,34a,35aを構成する処理ローラTは、軸回り回転が停止した状態でシート状物Sに触れている。これにより、摺接部31a,32a,34a,35aとシート状物Sとの相対速度が大きくなり、印刷インクを効率的に掻き取ることができる。シート状物Sへの接触箇所を変えたい時は、処理ローラTを手動で又は駆動力が入力可能な場合はその駆動力で軸回り回転させることで対応する。また、処理ローラTは、駆動力によって回転する搬送ローラRの周速度υよりも相対的に遅い周速度υでシート状物Sに触れている構成とすることもできる。あるいは、処理ローラTは、搬送ローラRとは逆方向に回転しながらシート状物Sに触れている構成とすることもできる。この構成によっても、摺接部31a,32a,34a,35aは、印刷インクを効率的に掻き取ることができる。
【0033】
ここでなお、周速度υとは、円周上の点における接線方向への速度で、計算式
υ=(N/60)×πD
N : 回転数(rpm)
D : 直径
で表される。
【0034】
また、この実施形態において、搬送ローラRは、シート状物Sが反転する箇所又はその近傍に配置され、摺接部31a,32a,34a,35aはその反転する箇所の外方側に配置されている。特に、この実施形態では、摺接部31a,32a,34a,35aはその反転する箇所の上方に位置している。これにより、摺接部31a,32a,34a,35aは、シート状物Sに対して押圧力を付与しやすいという利点がある。摺接部31a,32a,34a,35aを上向きに押圧するよりも、むしろ重力と同じ下向きに押圧する方が効率がよいからである。また、反転部は、シート状物Sが搬送ローラRに密着しやすいので、印刷インクの剥離を行うには有利な場所であるとも考えられる。なお、搬送ローラRは全て駆動ローラとすることが望ましい。
【0035】
摺接部31a,32a,34a,35aの素材の実験例を、
図4及び以下に示す。
【0036】
実験は、純曲げ試験で行った。サンプル試料として、実際に摺接部31a,32a,34a,35aとして印刷インクの洗浄試験(剥離試験)を行った以下の素材を採用した。なお、剥離効果の評価は、A>B>C>Dの順に低くなっていき、Aは剥離効果が非常に高いという評価であり、Cは剥離効果があるもののその剥離効果は比較的低いという評価である。このため、剥離効果Aである素材を選択することが最も好ましい。
(1)デニム生地 :剥離効果A(剥離効果が非常に高い)
(2)タオル :剥離効果C
(3)綿100%ガーゼ:剥離効果B
(4)ポリエステル製フェルト :剥離効果A(剥離効果が非常に高い)
(参考)EPDMシート(HS70):生地との相対的なデータ取得のため(生地と同じ厚さ)
【0037】
試験データは、曲げ剛性(大きいほど曲がりにくい)と、曲げヒステリシス(大きいほど曲げた後の回復力が高い)の2項目について行っている。上記のように、剥離効果が非常に高い試料は「デニム生地」と「ポリエステルフェルト」である。「デニム生地」と「ポリエステルフェルト」は、
図4に示す上記の曲げ剛性及び曲げヒステリシスの各物性値も高い値を示している。また、特に、「デニム生地」の曲げヒステリシスの物性値は、参考として示したEPDMシート(HS70)の曲げヒステリシスの物性値よりも大きな数値となっている。一方で、「タオル」と「綿100%ガーゼ」においては、曲げ剛性及び曲げヒステリシスが「デニム生地」と「ポリエステル製フェルト」に比べて比較的に低い数値であり、剥離効果はあるもののその効果は相対的に低いものとなっている。本試験結果より、剥離効果は、摺接部31a,32a,34a,35aとして生地を取り付けた際(実施形態ではロールに生地を巻いた際)の反発力(回復力)、すなわち曲げヒステリシスが剥離効果に影響があると考えられる。また、曲げヒステリシスの数値が、その素材の生地と同じ厚さに設定したゴム(搬送ローラRの周面部で使用される材質)よりも高い値を有する繊維素材であれば、さらに高い剥離効果があると考えられる。なお、摩擦係数について剥離効果の大きかった(1)及び(2)の素材を試験したところ、
図5に示すように、データに大きな差は見られなかった。
【0038】
ここで、ヒステリシス(Hysteresis)とは、ある系の状態が現在加えられている力だけでなく、過去に加えられた力に依存して変化することをいい履歴現象ともいう。曲げヒステリシスの物性値として、ここでは曲げヒステリシス幅を採用している。曲げヒステリシス幅は、素材を曲げ変形させて曲率半径(cm-1)を大きくしていく(半径を小さくしていく)際の往路の曲げモーメントの数値変化であるヒステリシス曲線と、逆に曲率半径(cm-1)を小さくしていく(半径を大きくしていく)際の復路の曲げモーメントの数値変化であるヒステリシス曲線とを比較して算定する。表中の曲げヒステリシス幅2HB(gf・cm/cm)は、往路と復路のヒステリシス曲線の差を平均した値を素材の物性値としている。曲げヒステリシス幅は、曲げ変形によって生じる繊維間の摩擦に依存する数値であり、この曲げヒステリシス幅が大きいほど曲げ変形からの形状の回復性が悪いといえる。曲げ変形からの形状の回復性が悪いということは、繊維素材(生地)としての硬さとも関連していると考えられる。表4の曲げヒステリシス幅2HB(gf・cm/cm)の数値を取得する試験は、純曲げ試験機KES-FB2(加トーテック株式会社製)を用いた。試験環境は、温度20℃、湿度60%、試料幅5cm、曲げ方向はたて糸方向とした。
【0039】
以上のように、摺接部31a,32a,34a,35aとして、デニム生地、タオル、綿100%ガーゼ、ポリエステル製フェルト等といった繊維素材、あるいはそれらの繊維素材を含むものを採用することで、印刷インクに対する高い剥離効果が期待できる。また、その繊維素材は、織物、編物、不織布等のいずれの繊維シートであってもよい。
【0040】
他の実施形態を、
図3に示す。
図3の実施形態では、シート状物Sの表裏面のうち、第1面aに加えて第2面bにも印刷インクを備えており、その第1面aと第2面bの両方の印刷インクを剥離することで、素材を洗浄する態様を示している。
【0041】
この実施形態において、剥離処理部30の処理ローラT及び摺接部31a,32a,34a,35a、搬送ローラRの構成は前述の実施形態と同様であるが、シート状物Sの通過ルートを変更している。具体的には、
図1及び
図2に示す実施形態では、シート状物Sを、切替用ローラ33,36に巻回される経由ルートで送り出していたのに対し、
図3に示すこの実施形態では、シート状物Sを、切替用ローラ33,36に巻回されない短絡ルートを通じて送り出している。このような切り替えを行うことで、切替用ローラ33の前段又は後段に位置する摺接部31a,32a,34a,35aが第1面aに触れる状態と第2面bに触れる状態とに変更可能である。
【0042】
具体的には、剥離処理ユニット32に関して、
図1の実施形態では、シート状物Sは摺接部32aと搬送ローラRとの間を図中左(一方側)から右(他方側)へと通過し、第1面aを洗浄するとともに、その後、切替用ローラ33に巻回されて、次なる剥離処理ユニット34へと向かっていた。これに対して、
図3では、シート状物Sは摺接部32aと搬送ローラRとの間を図中右(他方側)から左(一方側)へと通過し、第2面bを洗浄するとともに、その後、切替用ローラ33に巻回されることなく、次なる剥離処理ユニット34へと向かっている。また、剥離処理ユニット35に関しても同様に、
図1の実施形態では、シート状物Sは摺接部35aと搬送ローラRとの間を図中左から右へと通過し、第1面aを洗浄するとともに、その後、切替用ローラ36に巻回されて次工程へと向かっていた。これに対して、
図3では、シート状物Sは摺接部35aと搬送ローラRとの間を図中右から左へと通過し、第2面bを洗浄するとともに、その後、切替用ローラ36に巻回されることなく、次工程へと向かっている。このように、同一の装置を用いて、第1面aのみを洗浄する場合と、第1面aと第2面bの両方を洗浄する場合とに使い分けることが可能である。
【0043】
なお、切替用ローラ41についても同様に、
図1の実施形態では、シート状物Sが切替用ローラ41に巻回される経由ルートで送り出していたのに対し、
図3に示すこの実施形態では、シート状物Sを、切替用ローラ41に巻回されない短絡ルートを通じて送り出している。これにより、仕上処理ユニット42,43のうち一方の仕上処理ユニット42を、第1面aに対応する状態と、第2面bに対応する状態とに切り替えることが可能である。
【0044】
上記の各実施形態では、摺接部31a,32a,34a,35aを軸回り回転自在の処理ローラTの周面で構成したが、ローラ以外にも、例えば、シート状物Sへ触れる部位がフラットな形状を有するブラシ形状の摺接部31a,32a,34a,35aを採用してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 洗浄装置
2 フレーム
10 供給部
20 浸潤処理部
30 剥離処理部
31,32,34,35 剥離処理ユニット
31a,32a,34a,35a 摺接部
31b,32b,34b,35b 周面部
33,36,41 切替用ローラ
40 仕上処理部
50 洗浄処理部
60 水分除去部
70 回収部
a 第1面
b 第2面
A 処理液
B 洗浄液
R 搬送ローラ
S シート状物
T 処理ローラ