(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】X線回折測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20008 20180101AFI20241118BHJP
G01N 23/2055 20180101ALI20241118BHJP
G01N 23/205 20180101ALI20241118BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
G01N23/20008
G01N23/2055 310
G01N23/205
G01B11/00 H
(21)【出願番号】P 2021079429
(22)【出願日】2021-05-10
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000112004
【氏名又は名称】パルステック工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋一
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特許第6221199(JP,B1)
【文献】特許第6492388(JP,B1)
【文献】特開2015-078934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/20
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面に前記回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、
前記X線出射手段と前記回折環撮像手段とを内部に配置した筐体とを備えたX線回折測定装置、及び前記測定対象物を前記X線回折測定装置に対して相対的に前記測定対象物の表面に略平行な方向に移動させる移動装置からなるX線回折測定システムにおいて、
前記測定対象物に向けて出射されるX線である出射X線の光軸と等しい光軸の平行な可視光を出射する可視光出射手段であって、前記出射X線の光路上に前記出射X線を通過させ、前記可視光を反射させるハーフミラーを備える可視光出射手段と、
前記筐体を、前記出射X線の光軸方向に移動させる筐体移動手段と、
前記可視光出射手段が可視光を照射したときに生じる可視光の照射点を含む領域の画像を結像する結像レンズ、及び前記結像レンズにより画像が結像する箇所に配置され、結像した画像を表す撮像信号を出力する撮像器を備えるカメラと、
前記カメラの撮像器が出力する撮像信号から撮影画像を作成する画像作成手段と、
前記出射X線により前記測定対象物に形成されるX線照射点から前記撮像面までの距離である照射点-撮像面間距離を設定する距離設定手段と、
前記移動装置により前記測定対象物を移動させ、前記X線出射手段によるX線の出射と前記可視光出射手段による可視光の出射を行っているとき、前記画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、前記距離設定手段で設定された照射点-撮像面間距離に対応する位置になるよう、前記筐体移動手段を作動させて前記筐体の移動位置を制御する筐体移動位置制御手段とを備えることを特徴とするX線回折測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のX線回折測定システムにおいて、
前記カメラの前記出射X線の光軸からの距離が変化するよう前記カメラを移動するカメラ移動手段と、
前記筐体移動位置制御手段による制御により前記照射点-撮像面間距離が前記距離設定手段で設定された距離にされるとき、前記画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、前記カメラの結像レンズの光軸が前記撮像器と交差する箇所に相当する位置になるよう、前記カメラ移動手段を作動させて前記カメラの移動位置を設定するカメラ移動位置設定手段とを備えることを特徴とするX線回折測定システム。
【請求項3】
請求項2に記載のX線回折測定システムにおいて、
前記画像作成手段により作成される撮影画像に、前記可視光の前記測定対象物での反射光が、前記結像レンズにより集光して前記撮像器で受光された点である受光点が生じるよう、前記筐体の前記測定対象物に対する姿勢が調整されており、
前記移動装置により前記測定対象物を移動させ、前記X線出射手段によるX線の出射と前記可視光出射手段による可視光の出射を行っているとき、前記撮影画像における前記受光点の位置を検出し、前記受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみ前記X線出射手段にX線を出射させるX線出射制御手段を備えることを特徴とするX線回折測定システム。
【請求項4】
請求項1に記載のX線回折測定システムにおいて、
前記出射X線の前記測定対象物に対する入射角であるX線入射角を設定する入射角設定手段と、
前記カメラの前記出射X線の光軸からの距離が変化するよう前記カメラを移動するカメラ移動手段と、
前記筐体移動位置制御手段による制御により前記照射点-撮像面間距離が前記距離設定手段で設定された距離にされ、前記X線入射角が前記入射角設定手段で設定された角度で、前記出射X線の光軸と前記撮像面の回転角度0のラインとを含む平面に前記測定対象物におけるX線照射点の箇所の法線が含まれるとき、前記可視光の前記測定対象物での反射光が、前記結像レンズの中心を通過して集光し前記撮像器で受光されるよう前記カメラ移動手段を作動させて前記カメラの移動位置を設定するカメラ移動位置設定手段と、
前記移動装置により前記測定対象物を移動させ、前記X線出射手段によるX線の出射と前記可視光出射手段による可視光の出射を行っているとき、前記画像作成手段により作成される撮影画像における、前記反射光が前記結像レンズで集光し前記撮像器で受光された点である受光点の位置を検出し、前記受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみ前記X線出射手段にX線を出射させるX線出射制御手段とを備えることを特徴とするX線回折測定システム。
【請求項5】
請求項1に記載のX線回折測定システムにおいて、
前記出射X線の前記測定対象物に対する入射角であるX線入射角を設定する入射角設定手段と、
前記カメラの前記出射X線の光軸からの距離が変化するよう前記カメラを移動するカメラ移動手段と、
前記筐体移動位置制御手段による制御により前記照射点-撮像面間距離が前記距離設定手段で設定された距離にされ、前記X線入射角が前記入射角設定手段で設定された角度で、前記出射X線の光軸と前記撮像面の回転角度0のラインとを含む平面に前記測定対象物におけるX線照射点の箇所の法線が含まれるとき、前記可視光の前記測定対象物での反射光が、前記結像レンズの中心を通過して集光し前記撮像器で受光するよう前記カメラ移動手段を作動させて前記カメラの移動位置を設定するカメラ移動位置設定手段と、
前記測定対象物がセットされ、前記測定対象物とともに移動する前記移動装置内のステージであって、前記ステージの表面と測定対象物の表面とが同一平面内に含まれるよう前記測定対象物をセットできるセット手段を備えたステージと、
前記ステージを、前記ステージの表面内で垂直に交差する2軸周りに傾斜角を変化させる傾斜角変化手段と、
前記移動装置により前記測定対象物を移動させ、前記X線出射手段によるX線の出射と前記可視光出射手段による可視光の出射を行っているとき、前記画像作成手段により作成される撮影画像における、前記反射光が前記結像レンズで集光し前記撮像器で受光された点である受光点の位置が、前記反射光が前記結像レンズの中心を通過したときの位置になるよう、前記傾斜角変化手段を作動させて前記ステージの傾斜角を制御する傾斜角制御手段とを備えることを特徴とするX線回折測定システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のX線回折測定システムにおいて、
前記筐体移動位置制御手段が作動している間、前記距離設定手段が設定した照射点-撮像面間距離に対応する可視光の照射点の位置に対する、前記画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置のずれを予め設定した時間間隔で検出して記憶し、前記記憶したずれを用いて、前記筐体移動位置制御手段による制御の精度を評価する評価手段を備えることを特徴とするX線回折測定システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載のX線回折測定システムにおいて、
前記筐体移動手段による前記筐体の移動位置を検出して順に記憶することを予め設定した時間間隔で行い、記憶量が予め設定した量に達すると、記憶の順が先のものを消去して記憶し直すことを繰り返し行う筐体移動位置記憶手段と、
前記筐体移動位置記憶手段に新たに記憶した筐体の移動位置の、それまでに記憶した所定数の筐体の移動位置からの変化量が予め設定した許容値を超えたとき、前記X線出射手段によるX線の出射を停止するとともに前記筐体移動位置制御手段による制御を停止し、実際の筐体の移動位置が前記それまでに記憶した所定数の筐体の移動位置の水準になるよう、前記筐体移動手段を作動させる制御停止手段を備えることを特徴とするX線回折測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折環を撮像するX線回折測定装置と、測定対象物をX線回折測定装置と相対的に移動する移動装置とを備え、平面揺動を行いながら回折環を撮像することが可能なX線回折測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物に所定の入射角度でX線を照射して、測定対象物で回折したX線により回折環を撮像し、撮像された回折環の形状を検出してcosα法による分析を行い、測定対象物の残留応力を測定するX線回折測定装置が知られている。このX線回折測定装置には例えば特許文献1に示されている装置のように、イメージングプレートに回折環を撮像し、撮像された回折環の形状をレーザ検出装置及びレーザ走査機構等からなる読取機能により検出する装置がある。特許文献1に示されている装置は、測定対象物に向けて出射されるX線(以下、出射X線という)と同じ光軸で可視の平行光を照射する機能、可視光の照射点付近一帯を撮影する機能、及び撮影画像上の可視光の照射点位置を用いて、X線照射点から回折環の撮影面までの距離(以下、照射点-撮像面間距離という)を検出する機能を備えている。この機能を用いることで、測定対象物の測定箇所(X線照射点)を意図する箇所にし、照射点-撮像面間距離を意図する値にすることができる。また、特許文献2に示されているX線回折測定装置は、特許文献1に示されている装置に、可視光の照射点付近一帯を撮影するカメラを移動する機能、及び入力された照射点-撮像面間距離とX線入射角からカメラの移動位置を、可視光の測定対象物での反射光がカメラの結像レンズの中心を通過する位置にする機能を追加している。この機能を用いることで、照射点-撮像面間距離に加えX線入射角を意図する値にすることができる。また、例えば特許文献3に示されているX線回折測定装置のように、固体撮像素子を撮像面に配置し、固体撮像素子によりX線強度分布を検出することで回折環の形状を検出する装置がある。このX線回折測定装置は、特許文献1及び特許文献2に示される装置で行われる回折環の撮像と回折環の読取りを同時に行うことができ、短時間で測定を行うことができる。
【0003】
このようなX線回折測定装置を用いて測定対象物の残留応力を測定するとき、測定対象物が微小量しかなかったり、結晶粒が大きかったりすると明瞭な回折環が検出されない場合がある。具体的には、検出される回折環が不連続になる場合や、回折環の半径方向のX線強度分布が正規分布曲線から大きくずれた曲線になる場合がある。このような場合でも、例えば特許文献4に示されているX線回折測定装置のように、X線照射点に対して測定対象物をその表面に平行な方向に移動(以下、平面揺動という)させながらX線照射を行って回折環を撮像すると、多くの場合で明瞭な回折環を得ることができる。また、測定対象物の表面に凹凸がある場合は、特許文献4に示されているように予め測定対象物の表面プロファイルを検出しておき、X線照射を行って回折環を撮像する際、X線回折測定装置を高さ方向に移動させて、照射点-撮像面間距離が常に設定値になるようにすると精度のよい測定を行うことができる。また、特許文献5に示されているX線回折測定装置のように、X線と可視の平行光を同時に照射し、カメラ撮影により得られる、撮影画像上の照射点位置が設定された位置になるようX線回折測定装置の高さ方向位置を変化させる制御を行っても、照射点-撮像面間距離が常に設定値になり、精度のよい測定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5835191号公報
【文献】特許第6844103号公報
【文献】特許第6313010号公報
【文献】特許第6221199号公報
【文献】特許第6492388号公報
【0005】
しかしながら、特許文献4に示されているX線回折測定装置は、予め測定対象物の表面プロファイルを検出する必要があるため、測定に時間がかかるという問題がある。また、特許文献5に示されているX線回折測定装置は通常の平面揺動による測定のときと測定時間は変わらないが、出射X線の光軸と交差するように可視の平行光を照射しているため、X線照射点をこの交差点と合致させる必要があり、照射点-撮像面間距離の設定値を固定された1つの値にしかすることができないという問題がある。この問題は、測定対象物の素材が様々ある場合は、適切な大きさの回折環を撮像することができない場合があるという問題になる。これは、測定対象物の素材によりX線の回折角は変わるため、回折環半径を適切な値にするためには測定対象物の素材により照射点-撮像面間距離を変える必要があるが、それができないためである。また、測定対象物の表面に凹凸がある場合は、照射点-撮像面間距離に加えてX線の測定対象物に対する入射方向を一定にした方がより測定精度が高くなるが、特許文献5に示されているX線回折測定装置は、X線入射角の設定値をほぼ固定された1つの値にしないと、X線の入射方向を設定通りにする制御ができないという問題がある。これは、可視の平行光の測定対象物での反射光をセンサで受光し、受光位置が一定になるよう制御を行っているため、X線入射角の設定値をほぼ固定された値にしないと、反射光を受光できないためである。さらに、測定対象物の表面における平面揺動のライン上に1箇所でも大きな凹凸があると、照射点-撮像面間距離を設定値にする制御の精度が悪くなり、その結果、X線回折測定の精度も悪くなるが、照射点-撮像面間距離を設定値にする制御がどの程度の精度で行えたかを判断することができないという問題もある。
【0006】
本発明はこの問題を解消するためなされたもので、その目的は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により回折環を撮像するX線回折測定装置と、測定対象物をX線回折測定装置と相対的に移動する移動装置とを備え、平面揺動を行いながら回折環を撮像することが可能なX線回折測定システムにおいて、照射点-撮像面間距離を任意の値に設定しても照射点-撮像面間距離が一定になるようにすることができるX線回折測定システムを提供することにある。また、X線入射角を任意の値に設定しても、X線の測定対象物に対する入射方向が設定通りの方向になるようにすることができるX線回折測定システムを提供することにある。さらに、照射点-撮像面間距離を設定値にする制御がどの程度の精度で行えたかを判断することができるX線回折測定システムを提供することにある。なお、本願において回折環を撮像するとは、特許文献3に示されるX線回折測定装置のように、固体撮像素子により回折環が形成される面の回折X線の強度分布を検出することも含むものとする。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面に回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、X線出射手段と回折環撮像手段とを内部に配置した筐体とを備えたX線回折測定装置、及び測定対象物をX線回折測定装置に対して相対的に測定対象物の表面に略平行な方向に移動させる移動装置からなるX線回折測定システムにおいて、測定対象物に向けて出射されるX線である出射X線の光軸と等しい光軸の平行な可視光を出射する可視光出射手段であって、出射X線の光路上に出射X線を通過させ、可視光を反射させるハーフミラーを備える可視光出射手段と、筐体を、出射X線の光軸方向に移動させる筐体移動手段と、可視光出射手段が可視光を照射したときに生じる可視光の照射点を含む領域の画像を結像する結像レンズ、及び結像レンズにより画像が結像する箇所に配置され、結像した画像を表す撮像信号を出力する撮像器を備えるカメラと、カメラの撮像器が出力する撮像信号から撮影画像を作成する画像作成手段と、出射X線により測定対象物に形成されるX線照射点から撮像面までの距離である照射点-撮像面間距離を設定する距離設定手段と、移動装置により測定対象物を移動させ、X線出射手段によるX線の出射と可視光出射手段による可視光の出射を行っているとき、画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、距離設定手段で設定された照射点-撮像面間距離に対応する位置になるよう、筐体移動手段を作動させて筐体の移動位置を制御する筐体移動位置制御手段とを備えるようにしたことにある。
【0008】
これによれば、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射されているときに、可視光出射手段により、同じ光軸の平行な可視光が照射することができ、照射点-撮像面間距離を任意の値にしても、X線の照射点を可視光の照射点として認識することができる。そして、可視光の照射点をカメラにより撮影し、画像作成手段によりカメラの撮影画像を作成すると、撮影画像における可視光の照射点は、照射点-撮像面間距離により異なった位置になる。よって、移動装置により測定対象物を移動させ、X線出射手段により測定対象物に向けてX線を照射し、回折環撮像手段により撮像面に回折環を撮像する際(すなわち、平面揺動を行いながら回折環を撮像する際)、可視光出射手段により可視光を照射し、筐体移動位置制御手段が、画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、距離設定手段で設定された照射点-撮像面間距離に対応する位置になるよう、筐体移動手段を作動させてX線回折測定装置の筐体の移動位置を制御すれば、測定対象物の表面に凹凸があっても、照射点-撮像面間距離を設定した距離にすることができる。そして、そのときの照射点-撮像面間距離は距離設定手段で設定された任意の値にすることができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、カメラの出射X線の光軸からの距離が変化するようカメラを移動するカメラ移動手段と、筐体移動位置制御手段による制御により照射点-撮像面間距離が距離設定手段で設定された距離にされるとき、画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、カメラの結像レンズの光軸が撮像器と交差する箇所に相当する位置になるよう、カメラ移動手段を作動させてカメラの移動位置を設定するカメラ移動位置設定手段とを備えるようにしたことにある。
【0010】
これによれば、距離設定手段で設定された距離がどのような距離であっても、カメラ移動位置設定手段がカメラの移動位置を、画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、カメラの結像レンズの光軸が撮像器と交差する箇所に相当する位置になるようにするので、筐体移動位置制御手段による制御を、制御の精度が最もよくなる位置で行うようにすることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、画像作成手段により作成される撮影画像に、可視光の測定対象物での反射光が、結像レンズにより集光して撮像器で受光された点である受光点が生じるよう、筐体の測定対象物に対する姿勢が調整されており、移動装置により測定対象物を移動させ、X線出射手段によるX線の出射と可視光出射手段による可視光の出射を行っているとき、撮影画像における受光点の位置を検出し、受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみX線出射手段にX線を出射させるX線出射制御手段を備えるようにしたことにある。
【0012】
これによれば、X線の入射方向が微量変動しても撮影画像における受光点の位置は大きく変化するので、X線出射制御手段が、撮影画像における受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみX線出射手段にX線を出射させれば、X線入射角が基準値で、出射X線の光軸と撮像面の回転角度0のラインとを含む平面に測定対象物の法線が略含まれるときのみ、X線が測定対象物に照射される。すなわち、照射点-撮像面間距離が任意に定められ設定値であり、X線の測定対象物に対する入射方向が予め定められた一定の方向のときのみ、測定対象物にX線が照射され回折環を撮像することができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、出射X線の測定対象物に対する入射角であるX線入射角を設定する入射角設定手段と、カメラの出射X線の光軸からの距離が変化するようカメラを移動するカメラ移動手段と、筐体移動位置制御手段による制御により照射点-撮像面間距離が距離設定手段で設定された距離にされ、X線入射角が入射角設定手段で設定された角度で、出射X線の光軸と撮像面の回転角度0のラインとを含む平面に測定対象物におけるX線照射点の箇所の法線が含まれるとき、可視光の測定対象物での反射光が、結像レンズの中心を通過して集光し撮像器で受光されるようカメラ移動手段を作動させてカメラの移動位置を設定するカメラ移動位置設定手段と、移動装置により測定対象物を移動させ、X線出射手段によるX線の出射と可視光出射手段による可視光の出射を行っているとき、画像作成手段により作成される撮影画像における、反射光が結像レンズで集光し撮像器で受光された点である受光点の位置を検出し、受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみX線出射手段にX線を出射させるX線出射制御手段とを備えるようにしたことにある。
【0014】
これによれば、入射角設定手段がX線入射角を任意の角度で設定しても、カメラ移動位置設定手段が、照射点-撮像面間距離及びX線入射角が設定値で、出射X線の光軸と撮像面の回転角度0のラインとを含む平面(以下、基準平面という)に測定対象物におけるX線照射点の箇所の法線が含まれるとき、測定対象物での反射光が結像レンズの中心を通過して集光し撮像器で受光されるようカメラの移動位置を設定するので、設定通りの照射点-撮像面間距離とX線入射角で、基準平面に測定対象物の法線が含まれる状態でX線とレーザ光が照射されれば、撮影画像には受光点が生じる。そして、X線の入射方向が微量変動しても撮影画像における受光点の位置は大きく変化するので、X線出射制御手段が、撮影画像における受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみ、X線出射手段にX線を出射させれば、X線入射角が設定値で、基準平面に測定対象物の法線が含まれるときのみ、X線が測定対象物に照射される。すなわち、X線入射角を任意に設定しても、照射点-撮像面間距離とX線入射角が設定値で、基準平面に測定対象物の法線が略含まれるときのみ、測定対象物にX線が照射され回折環を撮像することができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、上述した構成におけるX線出射制御手段をなくし、測定対象物がセットされ、測定対象物とともに移動する移動装置内のステージであって、ステージの表面と測定対象物の表面とが同一平面内に含まれるよう測定対象物をセットできるセット手段を備えたステージと、ステージを、ステージの表面内で垂直に交差する2軸周りに傾斜角を変化させる傾斜角変化手段と、移動装置のステージを移動させ、X線出射手段によるX線の出射と可視光出射手段による可視光の出射を行っているとき、画像作成手段により作成される撮影画像における、反射光が結像レンズで集光し撮像器で受光された点である受光点の位置が、反射光が結像レンズの中心を通過するときの位置になるよう、傾斜角変化手段を作動させてステージの傾斜角を制御する傾斜角制御手段とを備えるようにしたことにある。
【0016】
これによれば、上述した構成が、撮影画像における受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみX線を出射するのに対し、この構成では撮影画像における受光点の位置が予め設定された位置になるよう傾斜角制御手段がステージの傾斜角を制御しているので、上述した構成と同様、X線入射角を任意の角度に設定しても、X線の測定対象物に対する入射方向を設定通りの方向にすることができる。また、移動装置のステージは、ステージの表面と測定対象物の表面とが同一平面内に含まれるよう測定対象物をセットできるセット手段を備えており、傾斜角変化手段は、ステージの表面内で垂直に交差する2軸周りに傾斜角を変化させるので、出射X線の光軸内に該2軸の交差点が含まれるよう、X線回折測定装置と傾斜角変化手段の位置関係を調整すれば、照射点-撮像面間距離をどのような距離にしても、測定対象物のX線照射点と該2軸の交差点とは一致する。すなわち、傾斜角制御手段がステージの傾斜角を変化させても、それにより測定対象物のX線照射点が動くことはないようにすることができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、筐体移動位置制御手段が作動している間、距離設定手段が設定した照射点-撮像面間距離に対応する可視光の照射点の位置に対する、画像作成手段に作成される撮影画像における可視光の照射点の位置のずれを予め設定した時間間隔で検出して記憶し、記憶したずれを用いて、筐体移動位置制御手段による制御の精度を評価する評価手段を備えるようにしたことにある。
【0018】
これによれば、照射点-撮像面間距離を設定値にする制御がどの程度の精度で行えたかを判断することができ、精度が悪ければ、平面揺動を行うラインを変更して再度測定を行うといった対応をすることができる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、筐体移動手段による筐体の移動位置を検出して順に記憶することを予め設定した時間間隔で行い、記憶量が予め設定した量に達すると、記憶の順が先のものを消去して記憶し直すことを繰り返し行う筐体移動位置記憶手段と、筐体移動位置記憶手段に新たに記憶した筐体の移動位置の、それまでに記憶した所定数の筐体の移動位置からの変化量が予め設定した許容値を超えたとき、X線出射手段によるX線の出射を停止するとともに筐体移動位置制御手段による制御を停止し、実際の筐体の移動位置がそれまでに記憶した所定数の筐体の移動位置の水準になるよう、筐体移動手段を作動させる制御停止手段を備えるようにしたことにある。
【0020】
これによれば、平面揺動を行うライン上に大きな凹凸がある場合、その箇所にX線が照射されると、X線の照射と筐体移動位置制御手段による制御を停止して、X線回折測定装置の筐体の移動位置を凹凸の箇所にX線が照射される前に戻すので、大きな凹凸がある箇所にX線をほとんど照射せず、X線回折測定装置の筐体の移動位置を大きく変化しないようにすることができる。なお、停止した後、X線回折測定を中止して平面揺動を行うラインが不適切であることを表示するか、そのまま平面揺動を継続し、凹凸を通り過ぎた時点でX線の照射と筐体移動位置制御手段による制御を再開するかは、適切と判断する制御システムを採用すればよい。また、これによれば、平面揺動の際、X線照射点が測定対象物から外れた場合、測定を中止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを示す全体概略図である。
【
図2】
図1のX線回折測定装置とステージ移動装置の拡大図である。
【
図3】
図2のX線回折測定装置におけるX線出射機構とレーザ出射器の部分を拡大して示す部分断面図である。
【
図4】照射点-撮像面間距離により撮影画像における可視光照射点の位置が変化する様子を示した図である。
【
図5】
図1の異常検出回路が実行するプログラムのフロー図である。
【
図6】測定中の撮影画像における可視光の照射点の制御されるべき位置からのずれから、測定全体としての位置制御の精度を計算する方法を視覚的に示した図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るX線回折測定装置とステージ移動装置の拡大図である。
【
図8】設定した照射点-撮像面間距離により撮影画像の中心位置に可視光の照射点が生じるようカメラの位置を変化させる様子を示した図である。
【
図9】撮影画像の受光点が設定された範囲内にあるか否かを判定する処理を、視覚的に示した図である。
【
図10】設定した照射点-撮像面間距離とX線入射角により撮影画像に受光点が生じるようカメラの位置を変化させる様子を示した図と、そのときの撮影画像の図である。
【
図11】本発明の第4実施形態に係るX線回折測定装置、ステージ移動装置、及び傾斜角変化装置の拡大図である。
【
図12】本発明の第4実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムにおいて、ステージの傾斜角を制御する回路を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について
図1乃至
図3を用いて説明する。なお、第1実施形態に係るX線回折測定システムは、先行技術文献の特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じ箇所が多くあるため、特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと機能及び構造が同じ箇所は、同じであることを述べて簡略的に説明するにとどめ、異なっている箇所は詳細に説明するようにする。
【0023】
図1及び
図2に示すように、このX線回折測定システムは、X線回折測定装置1、コンピュータ装置90、高電圧電源95、アーム式移動装置(先端55のみ図示)、位置制御装置5、及びステージ移動装置60から構成される。このX線回折測定システムは、ステージ移動装置60のステージStをステージStの表面に平行な方向に移動させるとともに、X線回折測定装置1からX線を測定対象物OBに照射して回折環を撮像し、撮像された回折環の形状を読取って、該形状から測定対象物OBの残留応力等の特性値を測定する。そして、ステージStを移動させて回折環を撮像する際、位置制御装置5が、照射点-撮像面間距離が設定された距離になるようX線回折測定装置1を出射X線の光軸方向に移動する。なお、以下、
図1及び
図2の紙面垂直方向をX軸方向、横方向をY軸方向、縦方向をZ軸方向として説明する。
【0024】
図1及び
図2に示すように、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30等を備えている。そして、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30に接続され、それらの作動を制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、
図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。そして、これらの各種回路はコンピュータ装置90に接続され、コンピュータ装置90のコントローラ91から入力する指令により作動する。コンピュータ装置90は入力装置92及び表示装置93を有し、入力装置92からの入力及びインスト-ルされているプログラムの作動により、上述した各種回路に指令を出力し、また該各種回路が出力したデータを入力してメモリに記憶する。また、
図1に示すように、X線回折測定システムは高電圧電源95を備え、高電圧電源95はX線管10がX線を出射するための電圧及び電流をX線管10に出力する。これらの構成は、特許文献1及び特許文献2の変形例に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0025】
図2に示すように、X線回折測定装置1の筐体50は、直方体形状の上面と底面それぞれ1つの角をなくすように斜面を形成し、底面に段差をつけたような構造をしている。詳細には、筐体50は、第1底面壁50a、第2底面壁50c、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、第1底面壁50aと第2底面壁50cを連結する底面傾斜壁50h、第2底面壁50cと前面壁50bが交差する角部をなくすように設けた繋ぎ壁50d及び後面壁50eと上面壁50fが交差する角部をなくすように設けた上面傾斜壁50gを有するように形成されている。繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり前面壁50bと所定の角度を有している。この所定の角度は、例えば30~40度であり、X線回折測定装置1から出射するX線は前面壁50b及び側面壁に略平行であるため、繋ぎ壁50dが測定対象物OBの表面に平行になるようX線回折測定装置1の筐体50の姿勢を調整すると、測定対象物OBに対するX線入射角は、この所定の角度に等しくなる。第2底面壁50cには円形孔50c1があり、回折環撮像時にはこの円形孔50c1を通過してX線が出射され、測定対象物OBにて発生した回折X線はこの円形孔50c1を通過して撮像がされる。X線回折測定装置1の筐体50の形状は、特許文献2に示されているX線回折測定装置と同じである。
【0026】
図2に示すように、位置制御装置5は枠体51、モータ52、スクリューロッド53、軸受部54及び移動ステージ(図示せず)から構成され、移動ステージは枠体51に挟まれていて枠体51の長尺方向にのみ移動が可能になっている。そして、移動ステージは中央に雌ネジが切られた孔があって、雄ネジが切られているスクリューロッド53と迎合しており、モータ52が正回転または逆回転するとスクリューロッド53が正回転または逆回転し、移動ステージは枠体51の長尺方向に移動する。X線回折測定装置1の側面壁の1つは位置制御装置5の移動ステージに連結されており、移動ステージが移動することによりX線回折測定装置1も枠体51の長尺方向に移動する。X線回折測定装置1は移動ステージに枠体51の長尺方向が出射X線の光軸方向と平行になるよう連結されており、X線回折測定装置1は出射X線の光軸方向に移動する。これにより、位置制御装置5を作動させることで照射点-撮像面間距離を変化させることができる。
【0027】
また、位置制御装置5は、枠体51の
図2の紙面裏側がアーム式移動装置の先端55に回転可能に連結されており、この回転軸の方向はX線回折測定装置1の前面壁50b、後面壁50e及び上面壁50fに平行であり、側面壁に垂直である。別の表現を用いると、この回転軸の方向は基準平面(出射X線の光軸と撮像面であるイメージングプレート15の回転角度0のラインとを含む平面)に垂直である。これにより、アーム式移動装置の先端55の位置制御装置5との連結部分を回転させることで、測定対象物OBに対するX線入射角を変化させることができる。また、アーム式移動装置は複数の関節を有する装置であり、先端55及びこれに連結された位置制御装置5及びX線回折測定装置1の位置及び姿勢を様々に変化させて固定することができる。これにより、X線回折測定装置1の位置及び姿勢を意図する位置及び姿勢にして固定することができる。
【0028】
コンピュータ装置90のコントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、入力装置92からの指令の入力により、大容量記憶装置に記憶されたプログラムを実行してX線回折測定装置1の作動を制御するとともに、入力したデジタルデータを用いて演算を行い、残留応力等の特性値の算出を行う。また、コントローラ91は、入力装置92から入力した測定条件やX線回折測定システムの作動状況、及び演算の結果得られた残留応力や回折環のX線強度分布図等を表示装置93に表示する。コンピュータ装置90の構成及び機能は、特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0029】
ステージ移動装置60は、ステージSt、枠体61、フィードモータ62、スクリューロッド63及び軸受部64から構成されるY軸方向移動機構と、枠体65、フィードモータ66、スクリューロッド(図示せず)及び軸受部(図示せず)から構成されるX軸方向移動機構からなる。Y軸方向移動機構においては、ステージStは枠体61に挟まれていてX軸方向にのみ移動が可能になっており、中央にX軸方向に雌ネジが切られた孔があって、雄ネジが切られているスクリューロッド64と迎合している。そして、フィードモータ62が正回転または逆回転するとスクリューロッド63が正回転または逆回転し、ステージStはX軸方向に移動する。また、X軸方向移動機構においては、Y軸方向移動機構の枠体65がステージStと同様な機構になっており、フィードモータ66が正回転または逆回転するとスクリューロッドが正回転または逆回転し、Y軸方向移動機構はX軸方向に移動する。これにより、ステージSt及びステージStに載置された測定対象物OBはX軸方向とY軸方向に移動する。
【0030】
図1及び
図2に示すように、X線管10は筐体50内の上部にて図示左右方向に延設されて固定されている。この固定は、X線管10の側面が、後述するテーブル駆動機構20の板状プレート26に形成された円柱側面の一部の形状になっている溝に嵌合することで、位置決めがされたうえで行われている。そして、X線管10は、高電圧電源95からの高電圧の供給を受けると、その側面に形成された円状の出射口11からX線を図示下方向に出射する。
図3に示すように、板状プレート26において出射口11と合わさる箇所には貫通孔26aが形成されており、出射口11から出射したX線は貫通孔26aを通過して下方向に進む。X線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線管10から一定強度のX線が出射するように、高電圧電源95からX線管10に供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線管10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これらの構成は、特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0031】
図2に示すように、テーブル駆動機構20は、筐体50に固定され、X線管10の下方にて移動ステージ21を備えている。移動ステージ21の紙面反対側には凸部があり、この凸部はテーブル駆動機構20における板状プレート26に固定されたブロック19とブロック29に固定された板状のガイド25にある溝に嵌合している。これにより移動ステージ21は板状のガイド25にある溝の方向にのみ移動可能になっており、ブロック19に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及びブロック29に固定された軸受部24が回転することにより移動する。この移動方向は、X線管10の中心軸方向であり、別の表現をすると出射X線の光軸に垂直で筺体50の側面壁に平行な方向である。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が回転するとパルス列信号を、
図1に示す位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。これらの構成は、特許文献1及び特許文献2の変形例に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0032】
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動し、位置検出回路72はエンコーダ22aからのパルス列信号をカウントすることで、移動限界位置を原点とした移動距離である移動位置をフィードモータ制御回路73とコントローラ91に出力する。また、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から入力した移動位置が位置検出回路72から入力する移動位置に等しくなるまで、フィードモータ22に駆動信号を出力する。さらに、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動方向と移動速度が入力されると、エンコーダ22aからのパルス列信号から計算される移動速度が入力した移動速度になるよう駆動信号の強度を制御する。位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73のこれらの機能により、コントローラ91が指令を出力することで、移動ステージ21及び移動ステージ21と一体になっているスピンドルモータ27、テーブル16及びイメージングプレート15等は、回折環撮像位置、回折環読取位置及び回折環消去位置に移動し、コントローラ91が指定する移動方向に指定した移動速度で移動する。これらの機能は、特許文献1及び特許文献2の変形例に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0033】
コントローラ91の指令により移動ステージ21が回折環撮像位置になっていると、
図3に示すように、X線管10の出射口11から出射され板状プレート26の貫通孔26aを通過したX線は、三角状ブロック48の方向に進む。三角状ブロック48は立方体を45°の角度で切断した形状をしており、斜面から下面に向かって、別の表現をするとX線管10から出射されるX線の光軸と中心軸が一致するように貫通孔48bが形成されている。また、三角状ブロック48は横面から中心軸が貫通孔48bの中心軸と垂直になるように貫通孔48aが形成されており、三角状ブロック48の斜面は貫通孔48bと貫通孔48aが交差する孔が形成されている。三角状ブロック48の2つの貫通孔48a,48bが交差する孔の箇所には正方形の薄いハーフミラー49が嵌め込まれており、ハーフミラー49は殆どのX線を透過し、殆どの可視光を反射する材質で形成されている。この材質は例えばポリイミドである。これにより、貫通孔26aを通過して三角状ブロック48に入射したX線は、殆どがハーフミラー49を透過し貫通孔48bを通過して貫通孔21aに入射する。また、後述するように貫通孔48aには可視のレーザ光が入射するが、貫通孔48aに入射した可視のレーザ光はハーフミラー49で殆どが反射し、X線と同様、貫通孔48bを通過して貫通孔21aに入射する。貫通孔21aに入射したX線及びレーザ光は、移動ステージ21に固定されたスピンドルモータ27に形成された貫通孔27bの先端に固定されている通路部材28の貫通孔28aを通過する。スピンドルモータ27の出力軸27aには貫通孔27a1が形成されており、貫通孔27bは貫通孔27a1と中心軸が合ったうえでつながっている。このため、貫通孔28aを通過したX線及びレーザ光は、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過する。
【0034】
テーブル16は円盤状であり、その中心軸に形成された貫通孔16aがスピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1と位置が合うよう出力軸27aに固定されている。そして、テーブル16は、中心軸周りに下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面に貫通孔15aを突出部17に嵌め込むようにイメージングプレート15を取り付け、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15はテーブル16に固定される。突出部17にも貫通孔27a1、貫通孔16aと位置が合うよう貫通孔17aが形成されており、固定具18には通路部材28の貫通孔28aと同程度の径の貫通孔18aが形成されている。よって、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過したX線及びレーザ光は、貫通孔16a、貫通孔17a及び貫通孔18aを通過し、略平行なX線及びレーザ光となって、筐体50の円形孔50c1から出射する。X線管10から出射されたX線が貫通孔群を通過して出射する構造は、三角状ブロック48とハーフミラー49があることを除いて、特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定装置と同じである。ただし、本実施形態ではX線と同時に可視のレーザ光を出射し、ハーフミラー49でX線を通過させ、可視のレーザ光を反射させることで、出射X線と同じ光軸で同時に可視のレーザ光を出射させることができる。これにより、測定対象物OBに照射された出射X線の照射点を可視光の照射点として認識することができる。また、測定対象物OBにX線が照射されると回折X線が発生し、回折X線は円形孔50c1を通過してイメージングプレート15で受光され、イメージングプレート15には回折X線の強度が強くなる箇所に回折環が撮像される。
【0035】
スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、パルス列信号を、
図1に示すスピンドルモータ制御回路74と回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとにインデックス信号を、回転角度検出回路75及びコントローラ91に出力する。スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から回転速度を入力すると、エンコーダ27cから入力するパルス列信号から計算される回転速度が入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に出力する。また、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cからインデックス信号を入力したタイミングで回転角度を0にし、その後に入力するパルス列信号のパルス数から回転角度を計算してコントローラ91に出力する。これにより、コントローラ91の指令でテーブル16は指定された回転速度で回転し、回転角度データがコントローラ91に入力する。これらの機能は、特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。なお、イメージングプレート15の回転角度0°の位置は、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に撮像された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置であり、この位置はイメージングプレート15の各半径位置においてあるためラインである。そして、移動ステージ21の移動においてイメージングプレート15の中心軸は、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°のラインとが成す平面内に保たれた状態で、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。上述したように、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°のラインとが成す平面を基準平面という。基準平面は
図2においてはYZ平面である。
【0036】
図1に示すように、レーザ検出装置30はレーザ検出制御回路77により制御され、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15で発光した光の強度から、レーザ光照射位置における回折X線の強度を検出する。コントローラ91の指令で移動ステージ21が回折環読取位置になり、スピンドルモータ27とフィードモータ22が回転を開始したとき、レーザ検出制御回路77にはコントローラ91から指令が入力し、レーザ検出制御回路77はレーザ検出装置30に対し、レーザ光出射、出射レーザ光の強度制御、レーザ光照射点のイメージングプレート15への合焦制御、及びイメージングプレート15での発光強度のコントローラ91への出力といった制御を行う。レーザ検出装置30の構造は、特許文献1に示されているX線回折測定システムと同じであり、レーザ検出制御回路77の機能は、特許文献1と同じである。なお、特許文献1に示されているX線回折測定システムでは、レーザ検出制御回路77は、上述した制御ごとにいくつかの回路に分割されて示されている。コントローラ91は、レーザ検出制御回路77、スピンドルモータ制御回路74及びフィードモータ制御回路73に指令を出力した後、レーザ検出制御回路77から入力する発光強度のデータを、位置検出回路72と回転角度検出回路75が出力するデジタルデータと同じタイミングで取り込む。これにより、コントローラ91には撮像した回折環における回折X線の強度データが、移動距離データ及び回転角度データとともに蓄積される。これが回折環読取機能であり、この機能は特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0037】
また、レーザ検出装置30にはLED光源が設けられており、LED光源は
図1に示すLED駆動回路84によって制御されて、可視光を発してイメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。回折環読取りがされた後、コントローラ91の指令によりテーブル16が回転を継続したまま移動ステージ21が所定位置に戻り移動を再開したとき、LED駆動回路84にコントローラ91から指令が入力し、LED駆動回路84はLED光源が所定の強度の可視光を出射する駆動信号を出力する。これが回折環消去機能であり、この機能も特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0038】
図3に示すように、移動ステージ21は板状プレート26と対向する面にレーザ出射器40を取り付けている。この取り付けは、レーザ出射器40の側面の一部を円柱側面の一部の形状になっている溝に嵌合させ、半円形状のベルト47-1,47-2の先端をボルトにより移動ステージ21に締め込むことで行われており、レーザ出射器40は、出射X線の光軸の垂直方向から可視のレーザ光を三角状ブロック48に向けて出射する。レーザ出射器40は円筒状の枠体41、レーザ光源42、円盤状ブロック43、円筒状ブロック44、コリメーティングレンズ45及びレンズ枠46から構成されており、レーザ光源42から出射されたレーザ光をコリメーティングレンズ45で平行にすることで、平行なレーザ光を出射する。レーザ光源42は円筒状ブロック44に固着され、円筒状ブロック44が円筒状の枠体41の内側に固着されることで、枠体41の内側に取り付けられている。レーザ光源42の近傍にある枠体41の端部には、孔43aが形成された円盤状ブロック43が固着され、円筒状ブロック44を枠体41の内側に固着する際、レーザ光源42を押しつけることでレーザ光源42の位置を定めることができるとともに、孔43aを介してレーザ光源42へ配線することができるようになっている。コリメーティングレンズ45はレンズ枠46の孔46aに固定され、レンズ枠46が枠体41の内側に固定されることで、枠体41のもう1方の端部に固定されている。レーザ光源42には
図1に示すレーザ駆動回路85から設定された強度のレーザ光を出射するための駆動信号が入力するようになっており、レーザ駆動回路85はコントローラ91から作動指令があると、駆動信号を出力するようになっている。よって、コントローラ91が作動指令をレーザ駆動回路85とX線制御回路71に出力すると、X線回折測定装置1の円形孔50c1から、出射X線と可視のレーザ光が同じ光軸で出射する。
【0039】
図1及び
図2に示すように、筐体50の底面傾斜壁50hにはカメラCAが取り付けられている。カメラCAは結像レンズ38を取り付けた鏡筒と撮像器39とから構成され、撮像器39は結像レンズ38により画像が形成される箇所に設けられている。撮像器39は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路88に出力する。カメラCAは、イメージングプレート15に対して基準位置にある可視光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。イメージングプレート15に対して基準位置とは、照射点-撮像面間距離が、基準値となる位置である。この場合の結像レンズ38及び撮像器39による被写界深度は、該照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路88は、撮像器39の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共に、又は各撮像素子の位置の順にコントローラ91とずれ量検出回路56に出力する。コントローラ91は入力した信号強度データを用いて、表示装置93に撮影画像を表示するとともに、照射点-撮像面間距離の基準値に対応する可視光の照射点の位置を判別できる十字マークを撮影画像とは独立して表示する。このカメラ機能は、特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0040】
位置制御装置5は上述した機構部分の他に、ずれ量検出回路56、駆動信号生成回路57、モータ駆動回路58及び移動位置検出回路59を備える。ずれ量検出回路56はコントローラ91から可視光の照射点の撮影画像における設定位置が入力するとその値を記憶する。そして、コントローラ91から作動指令が入力すると、設定された時間間隔ごとにセンサ信号取出回路88が出力する信号強度データを取込み、取込んだデータから撮影画像における可視光の照射点の位置を求め、得られた照射点の位置の設定位置からのずれを計算して駆動信号生成回路57とコントローラ91に出力する。コントローラ91には照射点-撮像面間距離と撮影画像における可視光の照射点の位置の関係テーブルが記憶されており、コントローラ91は入力装置92から照射点-撮像面間距離の設定値が入力すると、該関係テーブルに入力した照射点-撮像面間距離の設定値を当てはめて、撮影画像における可視光の照射点の設定位置を求め、ずれ量検出回路56に出力する。
図4に示すように、照射点-撮像面間距離が1方向に変化すると、可視光の照射点が撮像器39上で結像する位置は1方向に変化するため、照射点-撮像面間距離と撮影画像における可視光の照射点の位置には1対1の関係がある。コントローラ91にはこの関係が関係テーブルとして記憶されている。
【0041】
駆動信号生成回路57は、ずれ量とずれ量をなくすためのモータ52の回転方向と回転速度に対応する駆動信号強度との関係テーブルが記憶されており、コントローラ91から作動指令が入力し、ずれ量検出回路56からずれ量のデータが入力すると、該ずれ量を記憶している該関係テーブルに当てはめて駆動信号強度を求め、該強度の駆動信号を出力する。ずれ量検出回路56からのデータは設定された時間間隔で入力するため、駆動信号生成回路57が出力する駆動信号は、同じ時間間隔で強度が変化する。よって、駆動信号生成回路57はアナログ信号の駆動信号を出力する。モータ駆動回路58は、コントローラ91から位置制御の指令が入力すると、駆動信号生成回路57から入力する駆動信号を増幅した駆動信号をモータ52に出力する。これにより、X線回折測定装置1に対するX線照射点の箇所の位置がZ軸方向に変化しても、撮影画像における可視光の照射点の位置が、照射点-撮像面間距離の設定値に対応する位置(設定位置)になるよう、X線回折測定装置1は出射X線の光軸方向に位置が変化し、照射点-撮像面間距離は常に設定値になる。
【0042】
また、モータ駆動回路58はコントローラ91から移動位置のデータが入力されると、後述する移動位置検出回路59が出力する移動位置のデータが、コントローラ91から入力した移動位置になるまでモータ52に駆動信号を出力する。これにより、X線回折測定装置1の出射X線の光軸方向位置は、コントローラ91が指令した移動位置になる。また、モータ駆動回路58はコントローラ91から移動方向と移動速度が入力されると、モータ52のエンコーダ52aから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数が入力した移動速度に相当するパルス数になるよう、モータ52に移動方向に対応する回転方向の駆動信号を出力する。これにより、X線回折測定装置1は、コントローラ91から指令された方向に指令された速度で移動する。
【0043】
位置検出回路72は、コントローラ91からの指令により作動開始し、モータ52のエンコーダ52aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、モータ52の回転方向に応じてカウント値を積算又は減算することで、移動限界位置を原点とした移動距離である移動位置を計算し、移動位置データをモータ駆動回路58および後述する異常検出回路97に出力する。位置検出回路72は、X線回折測定システムに電源が投入された時点でモータ駆動回路58とともに、コントローラ91から原点移動の指令が入力され、移動限界位置を原点とする設定がされる。それは、モータ駆動回路58からの駆動信号により位置制御装置5の移動ステージ(X線回折測定装置1)がモータ52の方向に移動し、移動限界位置に達してモータ52のエンコーダ52aから入力するパルス列信号が入力しなくなった時点で、パルス数の積算カウント値をリセットし、モータ駆動回路58に停止指令を出力することで行われる。
【0044】
異常検出回路97は、プログラムがインストールされたマイクロコンピュータと位置検出回路72からの移動位置データを記憶するメモリを備え、コントローラ91から作動の指令が入力すると、マイクロコンピュータは
図5に示すフローのプログラムをスタートさせる。異常検出回路97は、平面揺動を行うX線回折測定の際、X線がZ軸方向に許容値以上に大きな凹凸の箇所に照射されたとき、X線照射を停止し、X線回折測定装置1の位置制御を停止するための回路である。以下、
図5に示すフローに従って説明する。コントローラ91から作動の指令が入力すると、ステップS1にてプログラムがスタートし、ステップS1にて位置データの記憶回数であり記憶番号であるnを1にし、メモリへの繰り返しの記憶回数であるmを1にする。次に、ステップS3のNo判定とステップS4のNo判定を繰り返すことで位置検出回路72からのデータの入力を待ち、位置検出回路72からデータが入力するとステップS3にてYesと判定してステップS5へ行き、ステップS5にて入力したデータをメモリに記憶する。次にステップS6にて、記憶したデータ数が予め設定した数であるaに達したか判定し、スタートした時点では達していないためNoと判定して、ステップS7にてnをインクリメントして、ステップS4に戻る。これ以降、記憶したデータ数がaに達するまで、上述したステップS3~ステップS7が繰り返され、記憶したデータ数がaに達すると、ステップS6にてYESと判定されてステップS8に行く。次にステップS8にて、n=1のデータからn=a-1のデータの平均値AveDが計算され、ステップS9にて最後に記憶したデータであるn=aのデータと平均値AveDとの差が許容値内であるか判定され、許容値以内であるとYesと判定されてステップS10に行く。ステップS10にて記憶したデータ数が上限値であるPeに達したか判定され、n=aではまだ達していないためNoと判定されて、ステップS7に戻り、nがインクリメントされてステップS4に戻る。
【0045】
ステップS4に戻ると、ステップS3のNo判定とステップS4のNo判定を繰り返すことで位置検出回路72からのデータの入力を待ち、位置検出回路72からデータが入力するとステップS5でデータを記憶し、nはaを超えているためステップS6にてYesと判定されてステップS8に行く。そして、ステップS8にて、n=2のデータからn=aのデータの平均値AveDが計算され、ステップS9にて最後に記憶したデータであるn=a+1のデータと平均値AveDとの差が許容値内であるか判定され、許容値以内であるとYesと判定されてステップS10に行き、上述したフローと同様にnがインクリメントされてステップS4に戻る。このようにしてステップS4~ステップS10が繰り返され、位置検出回路72からデータが入力するごとに、最後に記憶したデータD(n)とそれ以前に記憶した(a-1)個のデータであるD(n-a+1)~D(n-1)のデータの平均値AveDが計算され、平均値AveDとデータD(n)との差が許容値内であるか判定される。X線回折測定装置1の位置制御が行われているときに、出射X線(レーザ光)がZ軸方向に大きな凹凸がある箇所に照射されると、X線回折測定装置1の位置は大きく変化するため、位置検出回路72から入力するデータはそれまでのデータのレベルから大きく変わる。このとき、平均値AveDとデータD(n)との差は許容値を超えるためステップS9にてYesと判定され、ステップS13にて位置制御停止の指令がモータ駆動回路58とコントローラ91に出力される。
【0046】
モータ駆動回路58は位置制御停止の指令が入力すると、モータ52へ出力している駆動信号の出力を停止する。また、コントローラ91は位置制御停止の指令が入力すると、X線制御回路71、レーザ駆動回路85、センサ信号取出回路88、ずれ量検出回路56、駆動信号生成回路57及び、後述するフィードモータ制御回路67,69に停止指令を出力する。さらに、コントローラ91はX線回折測定装置1の各回路に指令を出力することで、レーザ検出装置30内にあるLED光源からのLED光照射と、イメージングプレート15の回転及び半径方向への移動を行うことで、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。そして、フィードモータ制御回路67,69に測定開始位置を出力し、表示装置93に平面揺動のラインが不適切である表示をする。これにより、X線回折測定装置1の位置制御、X線回折測定装置1からのX線照射とレーザ光照射及び測定対象物OBの平面揺動が停止し、撮像された回折環は消去され、ステージStは測定開始位置に戻り、操作者は平面揺動のラインが不適切であるため測定が中止したことを理解する。
【0047】
コントローラ91が上述した作動を行うのと同時に、異常検出回路97はステップS14にてモータ駆動回路58にD(n-a+1)~D(n-1)のデータの平均値AveDを出力する。これにより、モータ駆動回路58は位置検出回路72から入力する移動位置データが平均値AveDに等しくなるまでモータ52に駆動信号を出力する。これにより、X線回折測定装置1の出射X線の光軸方向位置は、大きな凹凸にX線が照射される前の位置に戻り、平面揺動を行うX線回折測定が開始された時点とほぼ同じ状態になる。よって、次に大きな凹凸を避けるようにX線回折測定を行う場合は、後述するフィードモータ制御回路67及びフィードモータ制御回路69に指令を出力して、測定開始位置を変化させるのみでよくなる。なお、大きな凹凸へX線が照射された場合以外でも、例えばX線照射点が測定対象物OBの表面から外れた場合のように、X線回折測定装置1の移動位置が大きく変化することが起これば、上述した制御と同様の制御がされる。
【0048】
ステップS14の後、異常検出回路97は、ステップS15にて記憶領域に記憶されているデータをすべてクリアしてなくし、ステップS16にてプログラムの作動を終了する。そして、次にコントローラ91から作動の指令が入力すると、上述した作動と同様の作動がされる。なお、異常検出回路97にあるメモリへのデータ記憶数はPe個に限定されており、データの記憶がPe個を超えたときは、最初の記憶領域から既にあるデータと入れ替えるようにデータが記憶される。これを行っているのがステップS10~ステップS12の処理である。ステップS10にて記憶されているデータ数がPe個を超えるとYesと判定され、ステップS11にてmをインクリメントし、ステップS12にてデータ記憶領域が最初に戻る。これにより、D(1)、D(2)、D(3)・・・のデータは廃棄されていき、代わりにD(Pe+1)、D(Pe+2)、D(Pe+3)・・・のデータが記憶されていく。mはインクリメントされて2になっているので、次にステップS10にてYesと判定されるのは、データ番号が2Peになったときであり、この後、データ記憶領域が最初に戻り、D(2Pe+1)、D(2Pe+2)、D(2Pe+3)・・・のデータが記憶されていく。このようにして、データ記憶回数がPeの整数倍を超えるごとにデータ記憶領域が最初に戻るので、異常検出回路97にあるメモリへのデータ記憶数は容量を超えることはない。
【0049】
異常検出回路97は、ステップS9にてYesと判定しない限り、n及びmがインクリメントされてステップ4に戻り、ステップS3~ステップS12が繰り返し実行されるので、X線回折測定装置1の移動位置が大きく変動しなければ作動は終了しない。しかし、コントローラ91がX線照射による回折環撮像を終了するとき、コントローラ91から停止指令が入力するので、ステップ4にてYesと判定してステップS15へ行き、記憶領域に記憶されているデータをすべてクリアし、ステップS16にてプログラムの作動を終了する。
【0050】
異常検出回路97が位置制御停止の指令を出力してX線回折測定が終了しなければ、コントローラ91にはイメージングプレート15に撮像された回折環の読取りデータが記憶され、演算処理により残留応力等の特性値が計算されるが、コントローラ91はその際、位置制御の精度の度合を評価する数値も計算する。上述したように、ずれ量検出回路56は、コントローラ91にもずれ量のデータを出力し、コントローラ91は入力したずれ量のデータをメモリに記憶していくが、位置制御の精度の度合を表す数値は、この記憶したずれ量のデータを用いる。位置制御の精度の度合を評価する数値の計算を視覚的に示したものが
図6である。平面揺動によりX線照射点が移動し、照射点-撮像面間距離が設定値になるようX線回折測定装置1の位置制御がされると、ドットで示すずれ量は0のラインからプラス側とマイナス側に変動するが、この変動の度合いが位置制御の精度の度合いである。この変動の度合を表す数値の1つは標準偏差σであり、コントローラ91はすべてのずれ量のデータから標準偏差σを計算する。そして、異常検出回路97が位置制御停止の指令を出力するほどではないがX線照射点のライン上に大きめの凹凸があると、その地点ではずれ量が大きくなるが、その箇所が数箇所であると標準偏差σの値にはその部分のずれ量が大きく影響されない。よって、コントローラ91は、変動の度合を表す数値のもう1つとして、(最大値-最小値)を計算する。なお、変動の度合を表す2つの数値とA、B、C・・・といった精度レベルを表す記号を対応させたテーブルを記憶しておき、2つの変動の度合を表す数値を精度レベルを表す記号に変換してもよい。
【0051】
ステージ移動装置60は上述した機構部分の他、フィードモータ制御回路67,69及び位置検出回路68,70を備え、コントローラ91からこれらの回路に指令が入力することで、ステージStはX軸方向とY軸方向に移動する。フィードモータ制御回路67,69及び位置検出回路68,70の作動様式は位置制御装置5のモータ駆動回路58、移動位置検出回路59と同じであり、コントローラ91から入力した移動位置への移動と、コントローラ91から入力した移動方向への入力された速度での移動が行われる。また、X線回折測定システムの電源投入時にコントローラ91からの原点移動の指令が入力し、フィードモータ62,66の方向における移動限界位置まで移動が行われて原点が設定される。位置検出回路68,70が出力するデータはコントローラ91へも出力され、コントローラ91は、移動位置検出回路59及びずれ量検出回路56からのデータと共に記憶し演算処理することで、平面揺動のラインにおける測定対象物OBの表面プロファイルを計算することもできる。
【0052】
以下に、上記のように構成したX線回折測定装置1を含むX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBを平面揺動させてX線回折測定する方法を説明する。まず、操作者は電源を投入してX線回折測定システムを作動させ、測定対象物OBをステージ移動装置60にセットし位置及び姿勢調整の指令を入力する。これにより可視のレーザ光が測定対象物OBに照射され、表示装置93に撮影画像と十字マークが表示されるので、操作者は撮影画像を見ながらアーム式移動装置を移動させ、入力装置92からの入力により位置制御装置5の移動ステージを移動させて、測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の位置と姿勢を調整し、撮影画像と共に表示される十字マークのクロス点に、可視光の照射点と可視光が測定対象物OBで反射して結像レンズ38で集光し撮像器39で受光された点である受光点が合致するようにする。これにより、測定対象物OBに対するX線回折測定装置1の位置と姿勢は、照射点-撮像面間距離とX線入射角が基準値となる位置になる。この調整方法は特許文献1に記載されているX線回折測定システムと同じである。次に操作者は、入力装置92から照射点-撮像面間距離の設定値を入力する。これにより、コントローラ91はその時点で移動位置検出回路59から入力されている移動位置に、照射点-撮像面間距離の設定値と基準値と差分を加算又は減算した移動位置を計算し、モータ制御回路58に出力する。これにより、X線回折測定装置1は出射X線の光軸方向に移動し、照射点-撮像面間距離は設定値になる。
【0053】
次に、操作者は入力装置92からXY方向位置又はX軸方向における移動方向或いはY軸方向における移動方向を入力することで、ステージStをX線照射点(可視光の照射点)が意図する位置になるようにする。次に、操作者は入力装置92から平面揺動の方向及び平面揺動の速度を入力し、測定開始の指令を入力する。これにより、コントローラ91は位置検出回路68,70が出力する移動位置(測定開始位置)を記憶した上で、X線回折測定装置1、位置制御装置5及びステージ移動装置60の各回路に指令を出力する。これにより、X線回折測定装置1からレーザ光を照射したままX線が照射され、入力装置92から入力された方向に入力された速度で平面揺動が開始され、イメージングプレート15には回折環が撮像されていく。その最中、位置制御装置5の各回路が作動し、X線回折測定装置1が出射X線の光軸方向に移動位置を変化させることで、照射点-撮像面間距離は常に設定値にされる。また、ずれ量検出回路56と移動位置検出回路59が出力するデータがコントローラ91に入力して記憶されていくと共に、異常検出回路97が、許容値以上にX線回折測定装置1の移動位置が変化しないか監視し、許容値以上に変化したときは、上述したようにコントローラ91の指令によりX線回折測定が中止される。コントローラ91は異常検出回路97から位置制御停止の指令が入力せず、設定した時間が経過すると、X線回折測定装置1、位置制御装置5及びステージ移動装置60の各回路に指令を出力し、X線回折測定装置1からのX線とレーザ光の照射を停止し、位置制御装置5の作動とステージ移動装置60の作動が停止する。
【0054】
この後、コントローラ91はX線回折測定装置1の各回路に指令を出力することで、イメージングプレート15に撮像された回折環が読取られ、回折環におけるX線強度分布に相当するデータがコントローラ91に入力するが、このときのX線回折測定装置1とコントローラ91の作動は特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。また、その後にコントローラ91はX線回折測定装置1の各回路に指令を出力することで、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去するが、このときの作動も特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。その後、コントローラ91は得られた回折環のX線強度分布データから残留応力等の特性値を計算して、その計算結果、照射点-撮像面間距離やX線入射角等の測定条件、及び回折環のそれぞれの箇所における回折X線強度に基づくマップ等を表示装置93に表示する。また、上述したようにX線回折測定装置1の位置制御の精度を表す値として、ずれ量の標準偏差σ及び(最大値-最小値)と、それらと共に或いはそれらに替えて、位置制御の精度を表す記号を表示する。さらに、位置検出回路68又は位置検出回路70、移動位置検出回路59及びずれ量検出回路56から入力して記憶したデータを演算処理させることで、平面揺動のラインにおける測定対象物OBの表面プロファイルを計算して表示してもよい。操作者は、表示装置93に表示された値及びマップを見て、X線回折測定装置1の位置制御の精度が悪いと判断したときは、平面揺動のラインを変更して再度測定を行う。また、異常検出回路97が位置制御停止の指令を出力してX線回折測定が途中で中止されたときも同様である。
【0055】
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線管10及び貫通孔26a,48b,27b,27a1,18a等からなるX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、メージングプレート15に回折X線の像である回折環を撮像する回折環撮像手段と、X線出射手段と回折環撮像手段とを内部に配置した筐体50とを備えたX線回折測定装置1、及び測定対象物OBをX線回折測定装置1に対して相対的に測定対象物OBの表面に略平行な方向に移動させるステージ移動装置60からなるX線回折測定システムにおいて、測定対象物OBに向けて出射されるX線である出射X線の光軸と等しい光軸の平行な可視のレーザ光を出射するレーザ出射器40であって、出射X線の光路上に出射X線を通過させ、可視光を反射させるハーフミラー49を備えるレーザ出射器40と、筐体50を、出射X線の光軸方向に移動させる位置制御装置5と、レーザ出射器40が可視のレーザ光を照射したときに生じる可視光の照射点を含む領域の画像を結像する結像レンズ38、及び結像レンズ38により画像が結像する箇所に配置され、結像した画像を表す撮像信号を出力する撮像器39を備えるカメラCAと、カメラCAの撮像器39が出力する撮像信号から撮影画像を作成するセンサ信号取出回路88及びずれ量検出回路56からなる画像作成手段と、出射X線により測定対象物OBに形成されるX線照射点からイメージングプレート15までの距離である照射点-撮像面間距離を設定する入力装置92及びコントローラ91からなる距離設定手段と、ステージ移動装置60により測定対象物OBを移動させ、X線出射手段によるX線の出射とレーザ出射器40による可視光の出射を行っているとき、画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、距離設定手段で設定された照射点-撮像面間距離に対応する位置になるよう、位置制御装置5を作動させて筐体50の移動位置を制御するずれ量検出回路56、駆動信号生成回路57及びモータ駆動回路58からなる筐体移動位置制御手段とを備えている。
【0056】
これによれば、X線出射手段により測定対象物OBに向けてX線が照射されているときに、レーザ出射器40により、同じ光軸の平行な可視のレーザ光を照射することができ、照射点-撮像面間距離を任意の値にしても、X線の照射点を可視光の照射点として認識することができる。そして、可視光の照射点をカメラCAにより撮影し、画像作成手段によりカメラCAの撮影画像を作成すると、撮影画像における可視光の照射点は、照射点-撮像面間距離により異なった位置になる。よって、ステージ移動装置60により測定対象物OBを移動させ、X線出射手段により測定対象物OBに向けてX線を照射し、回折環撮像手段によりイメージングプレート15に回折環を撮像する際(すなわち、平面揺動を行いながら回折環を撮像する際)、レーザ出射器40により可視のレーザ光を照射し、筐体移動位置制御手段が、画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、距離設定手段で設定された照射点-撮像面間距離に対応する位置になるよう、位置制御装置5を作動させてX線回折測定装置1の筐体50の移動位置を制御すれば、測定対象物OBの表面に凹凸があっても、照射点-撮像面間距離を設定した距離にすることができる。そして、そのときの照射点-撮像面間距離は距離設定手段で設定された任意の値にすることができる。
【0057】
また、上記実施形態においては、筐体移動位置制御手段が作動している間、距離設定手段が設定した照射点-撮像面間距離に対応する可視光の照射点の位置に対する、画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置のずれを予め設定した時間間隔で検出して記憶し、記憶したずれを用いて、筐体移動位置制御手段による制御の精度を評価するコントローラ91の演算プログラムを備えている。
【0058】
これによれば、照射点-撮像面間距離を設定値にする制御がどの程度の精度で行えたかを判断することができ、精度が悪ければ、平面揺動を行うラインを変更して再度測定を行うといった対応をすることができる。
【0059】
また、上記実施形態においては、位置制御装置5による筐体50の移動位置を検出して順に記憶することを予め設定した時間間隔で行い、記憶量が予め設定した量に達すると、記憶の順が先のものを消去して記憶し直すことを繰り返し行う移動位置検出回路59及び異常検出回路97のメモリと、異常検出回路97のメモリに新たに記憶した筐体50の移動位置の、それまでに記憶した所定数の筐体50の移動位置からの変化量が予め設定した許容値を超えたとき、X線管10によるX線の出射を停止するとともに筐体移動位置制御手段による制御を停止し、実際の筐体50の位置がそれまでに記憶した所定数の筐体50の移動位置の水準になるよう、位置制御装置5を作動させる異常検出回路97内のマイクロコンピュータ及びコントローラ91にインストールされているプログラムとを備えている。
【0060】
これによれば、平面揺動を行うライン上に大きな凹凸がある場合、その箇所にX線が照射されると、X線の照射と筐体移動位置制御手段による制御を停止して、X線回折測定装置1の筐体50の移動位置を凹凸の箇所にX線が照射される前に戻すので、大きな凹凸がある箇所にX線をほとんど照射せず、X線回折測定装置1の筐体50の位置を大きく変化しないようにすることができる。そして、X線回折測定を中止してステージStを測定が開始される位置に戻し、表示装置93に平面揺動を行うラインが不適切である指示を表示すれば、最後まで測定を行った後、再度測定を行うよりも時間を節約することができる。また、これによれば、平面揺動の際、X線照射点が測定対象物OBから外れた場合、X線回折測定を中止することもできる。
【0061】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムは、第1実施形態のX線回折測定装置1を
図7に示すX線回折測定装置1’に替えたものである。このX線回折測定システムは、平面揺動におけるX線回折測定装置1’の位置制御の際、照射点-撮像面間距離がどのような設定値であっても、撮影画像における可視光の照射点が撮影画像の中心に生じるようにした点を特徴とする。すなわち、
図4に示す撮影画像における可視光の照射点が、照射点-撮像面間距離がどのような設定値であっても、「1」の位置に生じるようにした点を特徴とする。
【0062】
図7に示すX線回折測定装置1’は、特許文献2に示されるX線回折測定装置の可視光出射機構を第1実施形態に係るX線回折測定装置1のレーザ出射器40に変更したものであり、
図7に示すX線回折測定装置1’の各部分に付された番号は、レーザ出射器40を除いて特許文献2に示されるX線回折測定装置の図と同じにされている。また、第2実施形態におけるX線回折測定システムにおける、X線回折測定装置1’、位置制御装置5及びステージ移動装置60内の各種回路および該回路の作動様式は、第1実施形態と同じであり、コントローラ91の制御プログラムに異なる点がある。よって、第2実施形態のX線回折測定システムは、第1実施形態のシステムと異なる点のみを説明する。
【0063】
X線回折測定装置1’はX線回折測定装置1のテーブル駆動機構20に替えて、カメラCA及びレーザ検出装置30をイメージングプレート15に平行な方向に移動する移動機構100を備えており、イメージングプレート15に撮像された回折環を読取る際、レーザ検出装置30がイメージングプレート15の半径方向に移動する。スピンドルモータ27を固定するモータ固定ブロック111は、板状プレート26に固定されたブロック110とブロック112に固定されているため、イメージングプレート15はX線回折測定装置1’の筐体50に対して回転のみがされる。よって、回折環の読取りの際、スピンドルモータ27の回転とレーザ検出装置30の移動とが行われる。カメラCAとレーザ検出装置30は固定ブロック107に固定されて一体になっているため、カメラCAもレーザ検出装置30と同じ方向に移動し、結像レンズ38の光軸が出射X線の光軸と交差する点を変化させることができる。また、底面傾斜壁50hは長尺方向が側面壁に平行な長方形状の長尺孔50h1があり、カメラCAは長尺孔50h1を介してX線照射点付近を撮影する。
【0064】
コントローラ91には、照射点-撮像面間距離と固定ブロック107(カメラCA)の移動位置との関係が記憶されており、入力装置92から照射点-撮像面間距離の設定値が入力されると、コントローラ91はフィードモータ制御回路73に入力された照射点-撮像面間距離に対応する、固定ブロック107(カメラCA)の移動位置を出力する。照射点-撮像面間距離と結像レンズ38の光軸が出射X線の光軸と交差する点との関係は、照射点-撮像面間距離に対応する照射点を結像レンズ38の光軸が通るようになる固定ブロック107(カメラCA)の移動位置である。これにより、照射点-撮像面間距離がどのような設定値であっても、撮影画像における可視光の照射点は撮影画像の中心に生じるようになる。そして、撮影画像の中心は結像レンズ38の収差による影響が最も小さい撮影画像が得られるので、可視光の照射点が撮影画像の中心であると、X線回折測定装置1’の位置制御を精度よく行うことができる。
【0065】
図8は、設定された照射点-撮像面間距離に対するカメラCAの移動位置とそのときの撮影画像を示した図であり、照射点-撮像面間距離が小さい場合でも大きい場合でも、カメラCAは結像レンズ38の光軸がX線照射点(可視光の照射点)を通るようになり、可視光の照射点Pは結像レンズ38の光軸が撮像器39と交差した箇所に撮像され、撮影画像の中心に生じるようになる。また、照射点Pとともに、可視のレーザ光が測定対象物OBで反射し結像レンズ38で集光し撮像器39で受光された点である受光点Rも撮影画像の同じ位置に生じるようになる。これは、第1実施形態で説明したように、照射点-撮像面間距離の設定値を入力する前に行うX線回折測定装置1’の位置と姿勢の調整において、照射点-撮像面間距離が基準値であるとき、照射点Pと受光点Rが撮影画像の中心に生じるように調整がされるが、このときのX線入射角と結像レンズ38の光軸の入射角は等しく、これらの入射角は照射点-撮像面間距離を変化させても変化しないためである。
【0066】
図8に示すように照射点Pと受光点Rには大きさに違いがあるが、この違いは、照射点で発生した散乱光が結像レンズ38に入射して撮像器39で結像した場合と、照射点からの反射光が結像レンズ38に入射して撮像器39の手前で集光した後、やや拡散して受光した場合の違いである。よって、ずれ量検出回路56に照射点-撮像面間距離ごとの照射点Pと受光点Rの大きさを記憶しておき、入力装置92から照射点-撮像面間距離の設定値が入力されたとき、コントローラ91から該設定値がずれ量検出回路56に入力するようすれば、ずれ量検出回路56は撮影画像の中心点付近にある所定の大きさの明度の高い部分を照射点Pと認識して検出することができる。なお、照射点Pと受光点Rの大きさの違いが小さいときは、レーザ出射器40の制作の段階にて、出射されるレーザ光を平行から微妙に拡散又は収束させて、照射点Pと受光点Rの大きさに明らかな違いが生じるようにすればよい。
【0067】
また、
図8に示すように照射点-撮像面間距離が小さい場合は、固定ブロック107の先端がイメージングプレート15の中心に近い位置になり、固定ブロック107はイメージングプレート15に回折X線が受光されることを妨害するため、イメージングプレート15に撮像される回折環の一部が欠けることになる。しかし、レーザ検出装置30及び固定ブロック107の
図8のX軸方向の幅を小さくすれば、この欠けは少しであるため、測定結果として得られる残留応力等の測定精度には殆ど影響しない。
【0068】
本実施形態におけるコントローラ91は、X線回折測定装置1’とステージ移動装置60の各回路に指令を出力して平面揺動を行いながらのX線照射を開始させた後、X線制御回路71に停止と作動の指令を出力すると共に、X線制御回路71が作動している(X線が照射されている)ときのみ時間を計測する。具体的にはコントローラ91は、センサ信号取出回路88が出力する撮像データから、撮影画像を作成して表示装置93に表示すると共に、撮影画像上の受光点の位置を検出し、受光点の位置が予め設定された範囲外になると、停止の指令を出力し、範囲外から範囲内になると作動の指令を出力する。視覚的に示すと、
図9に示すように、撮影画像の中心から所定半径の円である許容限界LMがあり、受光点Rが許容限界LM内にあるときは、X線制御回路71を作動させ、許容限界LMを外れているときはX線制御回路71を停止させる。そして、X線制御回路71が作動しているときの時間が予め設定された時間に到達すると、X線回折測定装置1’とステージ移動装置60の各回路に指令を出力して平面揺動と回折環撮像を停止する。なお、位置検出回路68,70から入力する位置データから平面揺動を行った距離を算出し、算出した距離が予め設定した距離を超えたときは、異常検出回路97から位置制御停止の指令が入力したときと同様の作動を行い、X線回折測定を中止してステージStを平面揺動を開始した位置に戻し、表示装置93に平面揺動のラインが不適切である表示をする。これは測定対象物OBの表面の凹凸が大きいため、受光点Rが許容限界LM内にある時間(X線が照射される時間)が短いことを意味する。
【0069】
このように構成した第2実施形態におけるX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBを平面揺動させてX線回折測定するときの方法及び該システムの作動様式は、可視光の照射点が撮影画像の中心に生じるようカメラCAの移動位置が変化する点、及び回折環の読取りにおいてレーザ検出装置30がイメージングプレート15の半径方向に移動する点を除いて、第1実施形態の場合と同じである。
【0070】
上記説明からも理解できるように、上記第2実施形態においては、カメラCAの出射X線の光軸からの距離が変化するようカメラCAを移動する移動機構100と、ずれ量検出回路56、駆動信号生成回路57及びモータ駆動回路58からなる筐体移動位置制御手段による制御により、照射点-撮像面間距離が入力装置92及びコントローラ91からなる距離設定手段で設定された距離にされるとき、センサ信号取出回路88及びずれ量検出回路56からなる画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、カメラCAの結像レンズ38の光軸が撮像器39と交差する箇所に相当する位置になるよう、移動機構100を作動させてカメラCAの移動位置を設定するフィードモータ制御回路73、位置検出回路72及びコントローラ91のプログラムからなるカメラ移動位置設定手段とを備えている。
【0071】
これによれば、距離設定手段で設定された距離がどのような距離であっても、カメラ移動位置設定手段がカメラCAの移動位置を、画像作成手段により作成される撮影画像における可視光の照射点の位置が、カメラCAの結像レンズ38の光軸が撮像器39と交差する箇所に相当する位置になるようにするので、筐体移動位置制御手段による制御を、制御の精度が最もよくなる位置で行うようにすることができる。
【0072】
また、上記第2実施形態においては、画像作成手段により作成される撮影画像に、可視のレーザ光の測定対象物OBでの反射光が、結像レンズ38により集光して撮像器39で受光された点である受光点が生じるよう、筐体50の測定対象物OBに対する姿勢が調整されており、ステージ移動装置60により測定対象物OBを移動させ、X線管10によるX線の出射とレーザ光出射器40による可視のレーザ光の出射を行っているとき、撮影画像における受光点の位置を検出し、受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみX線管10にX線を出射させるコントローラ91の制御プログラムを備えている。
【0073】
これによれば、X線の入射方向が微量変動しても撮影画像における受光点の位置は大きく変化するので、コントローラ91の制御プログラムが、撮影画像における受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみX線管10にX線を出射させれば、X線入射角が基準値で、基準平面(出射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度0のラインとを含む平面)に測定対象物OBの法線が含まれるときのみ、X線が測定対象物OBに照射される。すなわち、照射点-撮像面間距離が任意に定められた設定値であり、X線の測定対象物OBに対する入射方向が予め定められた一定の方向のときのみ、測定対象物OBにX線が照射され回折環を撮像することができる。
【0074】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムは、ハードウエアの点においては第2実施形態と同じであり、コントローラ91にインストールされている制御プログラムが第2実施形態と異なっている。本実施形態のコントローラ91は、照射点-撮像面間距離とX線入射角の2つの要素に対するカメラ移動位置の関係テーブルが記憶されている。この関係は、照射点-撮像面間距離とX線入射角の値の通りに測定対象物OBにレーザ光が照射され、基準平面に測定対象物OBのX線照射点における法線が含まれると、測定対象物OBでの反射光が結像レンズ38の中心を通過して集光し、撮影画像に受光点が生じるカメラCAの移動位置である。そして、入力装置92から照射点-撮像面間距離とX線入射角が入力されると、記憶されている関係テーブルに当てはめてカメラCAの移動位置を算出し、算出したカメラCAの移動位置をフィードモータ制御回路73に出力する。これにより、照射点-撮像面間距離とX線入射角を任意に設定しても受光点が撮影画像に生じる。また、照射点-撮像面間距離とX線入射角が設定値通りであり、基準平面に測定対象物OBのX線照射点における法線が含まれていれば、撮影画像における可視光の照射点は受光点と同じ位置に生じる。
【0075】
この機能は、特許文献2のX線回折測定システムが有している機能と同じであり、視覚的に示すと、
図10に示すように、それぞれの照射点-撮像面間距離ごとにX線入射角を任意の値に設定しても、測定対象物OBでの反射光が結像レンズ38の中心を通過して集光するカメラCAの移動位置がある。
図10の撮影画像(A)はX線入射角を最も小さくした場合であり、撮影画像(B)は
X線入射角を最も大きくした場合である。そして、基準のX線入射角以外のX線入射角では、結像レンズ38の光軸は測定対象物OBでの反射光の光軸と一致しないため、可視光の照射点Pと受光点Rは撮影画像の中心から縦方向の中心線に沿って上又は下方向に移動した位置に生じる。そして、照射点-撮像面間距離とX線入射角が設定値通りであり、基準平面に測定対象物OBのX線照射点における法線が含まれるときの照射点Pと受光点Rの位置を基準位置とすると、受光点Rの位置の許容限界LMは、
図10の撮影画像(A),(B)に示すように基準位置から所定半径の円として設定される。なお、平面揺動を行ってのX線照射の際、受光点Rが許容限界LM内にあるときのみX線が照射されるのは第2実施形態と同じである。
【0076】
このように構成した第2実施形態におけるX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBを平面揺動させてX線回折測定するときの方法及び該システムの作動様式は、殆どが第2実施形態と同様であり、以下の点のみが異なる。1つは入力装置92からX線入射角を入力する点と、アーム式移動装置を用いてのX線回折測定装置1’の位置と姿勢の調整を、入力装置92から照射点-撮像面間距離とX線入射角を入力し、カメラCAを移動させた後に行う点である。これは、照射点-撮像面間距離とX線入射角を基準値にしてX線回折測定装置1’の位置と姿勢の調整を行った後、照射点-撮像面間距離は設定値を入力すれば、位置制御装置5が作動して照射点-撮像面間距離は入力した値の通りになるが、X線入射角は設定値を入力しても作動する機器はないためである。もう1つは、撮影画像における照射点Pと受光点Rの基準位置に、交差点が合致するよう十字状のクロスマークが表示される点である。操作者はX線回折測定装置1’の位置と姿勢を調整する際、可視光の照射点及び受光点が十字状のクロスマークの交差点に合致するように調整する。この機能については、特許文献2のX線回折測定システムと同じである。
【0077】
上記説明からも理解できるように、上記第3実施形態においては、X線入射角を設定する入力装置92及びコントローラ91と、カメラCAの出射X線の光軸からの距離が変化するようカメラCAを移動する移動機構100と、ずれ量検出回路56、駆動信号生成回路57及びモータ駆動回路58からなる筐体移動位置制御手段による制御により、照射点-撮像面間距離が入力装置92及びコントローラ91で設定された距離にされ、X線入射角が入力装置92及びコントローラ91で設定された角度で、基準平面に測定対象物OBにおけるX線照射点の箇所の法線が含まれるとき、可視光の測定対象物OBでの反射光が、結像レンズ38の中心を通過して集光し撮像器39で受光されるよう移動機構100を作動させてカメラCAの移動位置を設定するフィードモータ制御回路73、位置検出回路72及びコントローラ91のプログラムからなるカメラ移動位置設定手段と、ステージ移動装置60により測定対象物OBを移動させ、X線管10によるX線の出射とレーザ出射器40による可視のレーザ光の出射を行っているとき、撮影画像における受光点の位置を検出し、受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみX線管10にX線を出射させるコントローラ91の制御プログラムを備えている。
【0078】
これによれば、入力装置92及びコントローラ91がX線入射角を任意の角度で設定しても、カメラ移動位置設定手段が、照射点-撮像面間距離及びX線入射角が設定値で、基準平面に測定対象物OBにおけるX線照射点の箇所の法線が含まれるとき、測定対象物OBでの反射光が結像レンズ38の中心を通過して集光し撮像器39で受光されるようカメラCAの移動位置を設定するので、設定通りの照射点-撮像面間距離とX線入射角で、基準平面に測定対象物OBの法線が含まれる状態でX線とレーザ光が照射されれば、撮影画像には受光点が生じる。そして、X線の入射方向が微量変動しても撮影画像における受光点の位置は大きく変化するので、コントローラ91の制御プログラムが、撮影画像における受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみ、X線管10にX線を出射させれば、X線入射角が設定値で、基準平面に測定対象物OBの法線が含まれるときのみ、X線が測定対象物OBに照射される。すなわち、X線入射角を任意に設定しても、照射点-撮像面間距離とX線入射角が設定値で、基準平面に測定対象物OBの法線が含まれるときのみ、測定対象物OBにX線が照射され回折環を撮像することができる。
【0079】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムは、第2実施形態及び第3実施形態が撮影画像における受光点が予め設定された範囲内にあるときのみX線を照射したのに対し、撮影画像における受光点が基準位置に合致するよう、測定対象物OBの傾斜角を変化させることを特徴とする。すなわち、平面揺動の際、照射点-撮像面間距離が設定値になるよう制御することに加えて、X線入射角が設定値で基準平面に測定対象物OBの法線が含まれるよう制御することを特徴とする。
【0080】
第4実施形態のX線回折測定システムがハードウエアの点において、第2実施形態及び第3実施形態と異なる点は、
図11に示すように、X線回折測定システムに傾斜角変化装置120を追加した点と、
図12に示すように、傾斜角変化装置120の作動を制御する駆動信号生成回路128,131及びモータ駆動回路129,132を追加した点である。さらに、
図11に示すように、ステージSt’に、測定対象物OBの表面がステージSt’の表面と同じ平面内になるよう測定対象物OBをセットできるようにした点も異なる。また、第4実施形態のX線回折測定システムがシステムの作動様式において第2実施形態及び第3実施形態と異なる点は、平面揺動の際、撮影画像における受光点の位置によりX線の出射と停止を制御する替わりに、受光点の位置が照射点と共に基準位置に合致するよう、ステージSt’(測定対象物OB)の傾斜角を制御する点である。
【0081】
図11に示すように、傾斜角変化装置120は、2つのゴニオステージを重ねた構造をしており、下側のゴニオステージは、モータ123の回転駆動により固定ステージ121に対して駆動ステージ122のY軸周りの傾斜角を変化させる。上側のゴニオステージは固定ステージ125が駆動ステージ122に固定されており、駆動ステージ122と一体となってY軸周りの傾斜角を変化させる。そして、上側のゴニオステージは、モータ127の回転駆動により固定ステージ125に対して駆動ステージ126のX軸周りの傾斜角を変化させる。ステージ移動装置60は、枠体65がプレート130に固定され、プレート130が駆動ステージ126に固定されることで傾斜角変化装置120と一体になっている。よって、モータ123及びモータ127の回転駆動により、ステージ移動装置60はX軸周りとY軸周りに傾斜角を変化させ、これにより、ステージSt’及びステージSt’に載置された測定対象物OBも、X軸周りとY軸周りに傾斜角を変化させる。ステージSt’は中心部分に測定対象物OBをセットするための直方体状の穴Hoが形成されており、ステージSt’の穴Ho以外の部分の表面を含む平面は、プレート130の厚さを適切な厚さにすることで、Y軸周りの回転軸とX軸周りの回転軸が交差する点を含むようになっている。
【0082】
ステージSt’の穴Hoの底面には複数の弾性体Spがあり、穴Hoにセットした測定対象物OBを下側に押すと測定対象物OBは下側に下がると共に、弾性体Spにより上側の力がかかるようになっている。また、穴Hoの縁には複数の押さえ65と押さえ65をステージSt’に取り付けたねじ66があり、ねじ66を緩めると押さえ65は向きを変えることができるようになっている。よって、押さえ65を穴Hoにかからない向きにした上で測定対象物OBを穴Hoにセットし、下側に押しながら押さえ65の向きを変えてねじ66で固定することにより、測定対象物OBの表面はステージSt’の穴Ho以外の部分の表面を含む平面に含まれるようになる。これにより、測定対象物OBの表面は、2つのゴニオステージのY軸周りの回転軸とX軸周りの回転軸が交差する点を含むようになる。そして、X線回折測定装置1’の位置と姿勢を調整する際、測定対象物OBの表面の2つの回転軸が交差する点に可視光の照射点が合うようにすれば、測定対象物OBの傾斜角を変化させてもX線照射点(レーザ光の照射点)の位置は変化しないようにすることができる。2つの回転軸が交差する点にレーザ光の照射点を合わせるには、ステージSt’のXY方向位置を適切な位置にして2つの回転軸が交差する点を穴Hoの中心にし、穴Hoの枠と中心が示された薄い透明プレートを押さえ65にかからないようステージSt’の上に置いて、X線回折測定装置1’の位置と姿勢を調整すればよい。
【0083】
図12に示すように、傾斜角変化装置120のモータ123及びモータ127にはモータ駆動回路132及びモータ駆動回路129から駆動信号が供給されるようになっており、モータ駆動回路132及びモータ駆動回路129は、コントローラ91から回転方向を意味する指令が入力すると、入力した回転方向に予め設定された傾斜速度でモータ123及びモータ127が回転する駆動信号を出力する。これは、モータ123及びモータ127内のエンコーダ123a及びエンコーダ127aが出力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数が設定された傾斜速度に相当する数になるよう駆動信号の強度を制御することで行われる。これにより、操作者が入力装置92から回転方向を入力することで、ステージSt’の傾斜角を変化させることができる。また、コントローラ91から傾斜角制御の指令が入力すると、モータ駆動回路132及びモータ駆動回路129は、後述する駆動信号生成回路131及び駆動信号生成回路128が出力する駆動信号を増幅した駆動信号を出力し、これによりモータ123及びモータ127は撮影画像における受光点が基準位置に合致するよう正回転及び逆回転を繰り返す。これは、X線入射角が設定値になり、基準平面に測定対象物OBにおけるX線照射点の箇所の法線が含まれるように、測定対象物OBの傾斜角を変化させる制御である。
【0084】
本実施形態におけるずれ量検出回路56は、コントローラ91から撮影画像における照射点及び受光点の基準位置が入力するとその位置を記憶し、コントローラ91から作動指令が入力すると、センサ信号取出回路88から取込んだデータから撮影画像における照射点と受光点の位置を検出し、検出した位置の基準位置からのずれをそれぞれ計算する。そして、照射点のずれ量は、上記第1実施形態乃至第3実施形態と同様に駆動信号生成回路57に出力し、受光点のずれ量は駆動信号生成回路131及び駆動信号生成回路128に出力する。駆動信号生成回路131及び駆動信号生成回路128は、ずれ量とずれ量をなくすためのモータ123及びモータ127の回転方向と回転速度に対応する駆動信号強度との関係テーブルが記憶されており、コントローラ91から作動指令が入力し、ずれ量検出回路56からずれ量のデータが入力すると、該ずれ量を記憶している該関係テーブルに当てはめて駆動信号強度を求め、該強度の駆動信号を出力する。ずれ量検出回路56からのデータは設定された時間間隔で入力するため、駆動信号生成回路131及び駆動信号生成回路128が出力する駆動信号は、同じ時間間隔で強度が変化する。よって、駆動信号生成回路131及び駆動信号生成回路128はアナログ信号である駆動信号を出力する。上述したように、この駆動信号に基づいてモータ駆動回路132及びモータ駆動回路129は、モータ123及びモータ127を駆動する駆動信号を出力し、撮影画像における受光点は基準位置に合致するよう制御される。
【0085】
このように構成した第4実施形態におけるX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBを平面揺動させてX線回折測定するときの方法及び該システムの作動様式は、多くは第3実施形態と同様であり、以下の点のみが異なる。1つはステージSt’に測定対象物OBをセットするとき、孔Hoに測定対象物OBを入れ、下側に押して押さえ66で固定する点である。次にX線回折測定装置1’の位置と姿勢を調整する際、ステージSt’を適切な位置に、穴Hoの枠と中心が示された薄い透明プレートを押さえ65にかからないようステージSt’の上に置いて、可視光の照射点が穴Hoの中心に照射されるようにする点である。さらに、平面揺動を行いながらX線を照射する際、撮影画像における受光点の位置によりX線の出射と停止を制御することは行わず、傾斜角変化装置120及び各回路の作動により受光点が照射点と共に基準位置に合致するよう制御する点である。
【0086】
上記説明からも理解できるように、上記第4実施形態においては、上述した第3実施形態の構成における撮影画像における受光点の位置によるX線の出射と停止の制御をなくし、測定対象物OBがセットされ、測定対象物OBと共に移動するステージ移動装置60内のステージSt’であって、ステージSt’の表面と測定対象物OBの表面とが同一平面内に含まれるよう測定対象物OBをセットできる穴Ho、弾性体Sp及び押さえ65からなるセット手段を備えたステージSt’と、ステージSt’を、ステージSt’の表面内で垂直に交差する2軸周りに傾斜角を変化させる傾斜角変化装置120と、ステージ移動装置60のステージSt’を移動させ、X線管10によるX線の出射とレーザ出射器40による可視のレーザ光の出射を行っているとき、センサ信号取出回路88とずれ量検出回路56からなる画像作成手段により作成される撮影画像における受光点の位置が、反射光が結像レンズ38の中心を通過するときの位置になるよう、傾斜角変化装置120を作動させてステージSt’の傾斜角を制御するずれ量検出回路56、駆動信号生成回路128,131及びモータ駆動回路129,132からなる傾斜角制御手段とを備えている。
【0087】
これによれば、上述した第3実施形態の構成が、撮影画像における受光点の位置が予め設定された範囲内にあるときのみX線を出射するのに対し、この第4実施形態の構成では、撮影画像における受光点の位置が予め設定された位置になるよう傾斜角制御手段がステージSt’の傾斜角を制御しているので、上述した第3実施形態の構成と同様、X線入射角を任意の角度に設定しても、X線の測定対象物OBに対する入射方向を設定通りの方向にすることができる。また、ステージ移動装置60のステージSt’は、ステージSt’の表面と測定対象物OBの表面とが同一平面内に含まれるよう測定対象物OBをセットできるセット手段を備えており、傾斜角変化装置120は、ステージSt’の表面内で垂直に交差する2軸周りに傾斜角を変化させるので、出射X線の光軸内に該2軸の交差点が含まれるよう、X線回折測定装置1’と傾斜角変化装置120の位置関係を調整すれば、照射点-撮像面間距離をどのような距離にしても、測定対象物OBのX線照射点と該2軸の交差点とは一致する。すなわち、傾斜角変化装置120がステージSt’の傾斜角を変化させても、それにより測定対象物OBのX線照射点が動くことはないようにすることができる。
【0088】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第1実施形態乃至第4実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0089】
上記第1実施形態乃至第4実施形態におけるX線回折測定システムは、X線回折測定装置1,1’の移動位置が瞬時に許容値以上変動すると、異常検出回路97及びコントローラ91の制御プログラムにより、X線回折測定、位置制御及び平面揺動を停止し、X線回折測定装置1,1’の移動位置を元に戻して、ステージSt’を測定開始位置に戻し、表示装置93に平面揺動ラインが不適切である表示をした。すなわち、操作者が平面揺動ラインを変更して再測定するための作動を行うようにした。しかし、これに替えてX線照射と位置制御の停止及びX線回折測定装置1,1’の移動位置を元に戻すことのみを行い、平面揺動を継続して、撮影画像における照射点の位置が許容内になった後、X線照射と位置制御を再開するようにしてもよい。これは、測定対象物OBにZ軸方向に大きな凹凸が多くあり、平面揺動ラインを決めるのが困難な場合に有効である。また、測定対象物OBの状態により、上記実施形態のように最初から再測定を行うか、この変更形態のように測定を継続するかの制御の仕方を選択できるようにしてもよい。
【0090】
また、上記第2実施形態におけるX線回折測定システムは、撮影画像における受光点が設定された範囲内にあるときX線を照射するようにしたが、X線回折測定の精度が高くなくてもよければ、第1実施形態と同様、照射点-撮像面間距離が設定値になる位置制御のみを行うようにしてもよい。これによれば、X線照射が停止することはないので測定時間を短くすることができる。
【0091】
また、第1実施形態乃至第4実施形態においては、位置制御の精度を評価する数値を、照射点位置の基準位置からのずれ量データから計算した標準偏差及び(最大値-最小値)としたが、該ずれ量データの分布の拡がりを表す数値及びデータの範囲を表す数値であれば、どのような数値を位置制御の精度を評価する数値としてもよい。例えば、標準偏差に替えて分散や平均偏差を用いてもよい。
【0092】
また、第3実施形態及び第4実施形態においては、カメラCAをレーザ検出装置30と共に固定ブロック107に取り付け、移動機構100により固定ブロック107をイメージングプレート15の半径方向に移動させることで、カメラCAの移動位置が変化させるようにした。しかし、カメラCAが出射X線の光軸からの距離が変化するように移動すれば、カメラCAの移動機構はどのようなものであってもよい。例えば、特許文献2の変形例に示されるように、カメラCAのみの移動機構を設けてもよい。
【0093】
また、第1実施形態乃至第4実施形態においては、操作者が入力装置92から意図する照射点-撮像面間距離又は照射点-撮像面間距離とX線入射角を入力するようにしたが、これらの値がコントローラ91のメモリにX線照射条件として記憶されれば、入力の仕方はどのようなものであってもよい。例えば、予めメモリに記憶されている値を呼び出してもよいし、ネット回線を通じて入力がされてもよい。又は測定対象物OBの材質等の情報を入力すると、コントローラ91にインストールされているプログラムが最適な照射点-撮像面間距離及びX線入射角を選択又は算出して記憶するようにしてもよい。
【0094】
また、第1実施形態乃至第4実施形態においては、レーザ出射器40により可視の平行なレーザ光を出射X線と同じ光軸で出射するようにしたが、可視の平行光を出射X線と同じ光軸で出射できれば、出射するものはレーザ光でなくてもよい。例えばSLD(スーパールミネッセントダイオード)光源からの光であってもよいし、LED光を平行光にして出射するようにしてもよい。
【0095】
また、第1実施形態乃至第4実施形態においては、X線回折測定装置1,1’を、イメージングプレート15に回折環を撮像し、レーザ検出装置30からのレーザ照射と光の強度検出により、回折環の形状を検出する装置とした。しかし、回折環を撮像して撮像した回折環の形状を検出することができるX線回折測定装置であればどのようなものでも、本発明は実現することができる。例えば、特許文献3のように、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有する固体撮像素子を備え、X線管10からのX線照射の際、固体撮像素子の各画素が出力する電気信号により回折環における回折X線の強度分布を検出するX線回折測定装置でも本発明は実現することができる。また、微小サイズの固体撮像素子で位置を検出しながら走査し、固体撮像素子の各画素が出力する電気信号と固体撮像素子の走査位置から、回折環における回折X線の強度分布を検出するX線回折測定装置でも本発明は実現することができる。また、固体撮像素子に替えてシンチレータから出た蛍光を、光電子増倍管(PMT)で検出するシンチレーションカウンタを用いるX線回折測定装置でも本発明は実現することができる。なお、請求項に記載された「回折環を撮像する」なる語句は、固体撮像素子やシンチレーションカウンタのように、回折環が形成される面における位置ごとの回折X線強度を検出する場合も含むものとする。
【0096】
また、第1実施形態乃至第4実施形態においては、X線回折測定装置1,1’を、回折環を撮像し撮像した回折環の形状を検出することができる装置とした。しかし、本発明は、イメージングプレート15に回折環の撮像のみを行うX線回折測定装置であっても、実現することができる。そのような装置の場合は、回折環の読み取りはイメージングプレート15又はテーブル16をX線回折測定装置1,1’から取り外して別の装置で行うことになる。
【0097】
また、第1実施形態乃至第4実施形態においては、ステージ移動装置60により測定対象物OBのXY方向位置をX線回折測定装置1,1’に対して変化させることで平面揺動を行うようにした。しかし、これに替えてステージ移動装置60をなくし、X線回折測定装置1,1’をXY方向に移動させる装置を設け、該装置により測定対象物OBのXY方向位置をX線回折測定装置1,1’に対して変化させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1,1’…X線回折測定装置、5…位置制御装置、10…X線管、11…出射口、15…イメージングプレート、15a,16a,17a,18a,21a,27a1,27b、28a…貫通孔、16…テーブル、17…突出部、18…固定具、19…ブロック、20…テーブル駆動機構、21…移動ステージ、22…フィードモータ、23…スクリューロッド、24…軸受部、25…ガイド、26…板状プレート、27…スピンドルモータ、28…通路部材、29…ブロック、30…レーザ検出装置、38…結像レンズ、39…撮像器、40…レーザ出射器、41…枠体、42…レーザ光源、43…円盤状ブロック、44…円筒状ブロック、45…コリメーティングレンズ、46…レンズ枠、47-1,47-2…ベルト、48…三角状ブロック、49…ハーフミラー、50…筐体、50a…第1底面壁、50c…第2底面壁、50b…前面壁、繋ぎ壁…50d、50e…後面壁、50f…上面壁、上面傾斜壁…50g、50h…底面傾斜壁、50c1…円形孔、50h1…長尺孔、51…枠体、52…モータ、53…スクリューロッド、54…軸受部、55…アーム式移動装置の先端、60…ステージ移動装置、61…枠体、62…フィードモータ、63…スクリューロッド、64…軸受部、65…枠体、66…フィードモータ、91…コントローラ、92…入力装置、93…表示装置、95…高電圧電源、100…移動機構、101…移動ステージ、102…フィードモータ、103…スクリューロッド、104…軸受部、105…ガイド、106…連結ブロック、107…固定ブロック、108…凸部、109,110…ブロック、111…モータ固定ブロック、112…ブロック、120…傾斜角変化装置、121…固定ステージ、122…駆動ステージ、123…モータ、125…固定ステージ、126…駆動ステージ、127…モータ、OB…測定対象物、CA…カメラ、St,St’…ステージ