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特許7588861一酸化炭素の定量方法及び一酸化炭素測定用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】一酸化炭素の定量方法及び一酸化炭素測定用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20241118BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20241118BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 31/714 20060101ALN20241118BHJP
   A61K 47/69 20170101ALN20241118BHJP
   A61P 39/02 20060101ALN20241118BHJP
【FI】
G01N31/00 E
G01N33/483 C
G01N21/27 F
A61K31/714
A61K47/69
A61P39/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021574588
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000521
(87)【国際公開番号】W WO2021153197
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2020010710
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】北岸 宏亮
(72)【発明者】
【氏名】毛 斉悦
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-231111(JP,A)
【文献】特開2006-2077(JP,A)
【文献】特表2005-519928(JP,A)
【文献】MINEGISHI, Saika et al.,Detection and Removal of Endogenous Carbon Monoxide by Selective and Cell-Permeable Hemoprotein Model Complexes,Journal of the American Chemical Society,2017年,Vol.139,pp. 5984-5991
【文献】北岸 宏亮,人工ヘムタンパク質モデル錯体による血中内在性一酸化炭素の除去によって惹起される生体内反応,人工血液,2019年,Vol.27, No.1,pp.44-52
【文献】毛 斉悦 他,生体内における一酸化炭素定量法の開発,第36回シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集,2019年,pp.133-134, P1-25
【文献】MAO, QIYUE et al.,Biodistribution of endogenous and exogenous CO in vivo measured by supramolecular heme protein model compound,日本化学会第100春季年会(2020)講演予稿集,2020年03月05日,3 H3-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 33/483
G01N 21/27
A61K 31/714
A61K 47/69
A61P 39/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれる一酸化炭素の定量方法であって、
試料と、下記一般式(A)又は下記一般式(B)で示されるシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなる定量用包接錯体とを用いて、前記定量用包接錯体由来の物質として、中心金属が2価であり、かつ、酸素及び一酸化炭素と結合していないデオキシ包接錯体(II)と、前記デオキシ包接錯体(II)が試料中の一酸化炭素と結合したCO結合型包接錯体(II)のみを含有する水系の包接錯体溶液を調製する工程と、
前記包接錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定する工程と、
前記測定により得られる紫外可視吸収スペクトルにおいて、422nm付近に見られる第1の変曲点と、434nm付近に見られる第2の変曲点のそれぞれについて、ランベルト・ベールの法則に基づき成立する下式(1)、(2)から、試料中の一酸化炭素の量を算出する工程と
を含む、一酸化炭素の定量方法。
【化1】
(上記一般式(A)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、mは1~2の整数を表し、nは1~3の整数を表す。)
【化2】
(上記一般式(B)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、pは1~2の整数を表し、qは1~3の整数を表す。)
【数1】
(上式(1)中、A422、ε422 deo、ε422 COは、それぞれ、第1の変曲点での吸光度、デオキシ包接錯体(II)のモル吸光係数、CO結合型包接錯体(II)のモル吸光係数を表し、Cdeo、CCOは、それぞれ、スペクトル測定試料中のデオキシ包接錯体(II)の濃度とCO結合型包接錯体(II)の濃度を表す。)
【数2】
(上式(2)中、A434、ε434 deo、ε434 COは、それぞれ、第2の変曲点での吸光度、デオキシ包接錯体(II)のモル吸光係数、CO結合型包接錯体(II)のモル吸光係数を表し、Cdeo、CCOは、それぞれ、スペクトル測定試料中のデオキシ包接錯体(II)の濃度とCO結合型包接錯体(II)の濃度を表す。)
【請求項2】
前記試料中の一酸化炭素の量を算出する工程において、前記式(1)、(2)を変形した下式(3)により、定量用包接錯体全量に対するCO結合型包接錯体(II)の割合RCOを算出する、請求項1に記載の一酸化炭素の定量方法。
【数3】
【請求項3】
前記包接錯体溶液を調製する工程において、溶存酸素を除去することにより、デオキシ包接錯体(II)が酸素と結合したオキシ包接錯体(II)の生成を抑止する、請求項1又は2に記載の一酸化炭素の定量方法。
【請求項4】
前記包接錯体溶液を調製する工程において、溶存酸素を除去するために、還元剤を用いる、請求項3に記載の一酸化炭素の定量方法。
【請求項5】
前記還元剤がNa224である、請求項4に記載の一酸化炭素の定量方法。
【請求項6】
生体サンプル中の一酸化炭素の定量に用いられる、請求項1から5までのいずれかに記載の一酸化炭素の定量方法。
【請求項7】
前記包接錯体溶液を調製する工程において、前記生体サンプルにおけるタンパク質を沈殿分離するために、沈殿剤を用いる、請求項6に記載の一酸化炭素の定量方法。
【請求項8】
前記沈殿剤がNa224である、請求項7に記載の一酸化炭素の定量方法。
【請求項9】
前記定量用包接錯体のシクロデキストリン二量体が、一般式(A)で表され、m=1、かつn=2のシクロデキストリン二量体であるか、又は一般式(B)で表され、p=1、かつq=2のシクロデキストリン二量体である、請求項1から8までのいずれかに記載の一酸化炭素の定量方法。
【請求項10】
前記定量用包接錯体の水溶性金属ポルフィリンが、下記一般式(C)又は(D)で示される、請求項1から9までのいずれかに記載の一酸化炭素の定量方法。
【化3】
【化4】
(式中、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表し、MはFe2+、Mn2+、Co2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、Zn3+の何れかを表す。)
【請求項11】
前記定量用包接錯体の水溶性金属ポルフィリンが、5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン鉄錯体である、請求項10に記載の一酸化炭素の定量方法。
【請求項12】
試料と定量用包接錯体とから水系の包接錯体溶液を調製し、前記包接錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルから試料中の一酸化炭素の量を算出して、試料中の一酸化炭素量を測定するのに用いられる一酸化炭素測定用キットであって、
下記一般式(A)もしくは下記一般式(B)で示されるシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなる定量用包接錯体、又は、その原料となるシクロデキストリン二量体及び水溶性金属ポルフィリンと、
前記包接錯体溶液の溶存酸素を除去するための還元剤と
を含む、一酸化炭素測定用キット。
【化5】
(上記一般式(A)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、mは1~2の整数を表し、nは1~3の整数を表す。)
【化6】
(上記一般式(B)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、pは1~2の整数を表し、qは1~3の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素の定量方法及び一酸化炭素測定用キットに関し、詳しくは、特に、細胞や動植物組織などの生体サンプルに含まれる微量の一酸化炭素の検出・定量などに好適に用いられる一酸化炭素の定量方法及び一酸化炭素測定用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素は常温・常圧で無色・無臭の気体であり、有機物の不完全燃焼により発生するガス分子である。
人間や動物にとって毒性が非常に高いガス分子として知られており、吸入すると、一酸化炭素が血中でヘモグロビンと強く結合して、ヘモグロビンの酸素運搬能が阻害される。その結果、頭痛、吐き気、嘔吐、体調不良、錯乱、意識消失、胸痛、息切れ、昏睡などのいわゆる一酸化炭素中毒症状が起きる。
【0003】
この一酸化炭素中毒症状への対策として、注射や経口によって、患者に簡単に投与できる一酸化炭素除去剤が提案されている(特許文献1、2など参照)。
この一酸化炭素除去剤は、シクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接した包接錯体を有効成分とするものである。この包接錯体は、ヘモグロビンよりも一酸化炭素との親和性が高いため、一酸化炭素を選択的に除去することができる。
【0004】
ところで、一酸化炭素については、体外から体内に入ったときの有毒性とその除去に焦点が当てられることが多い。
しかし、生体内には内在性の一酸化炭素が微量に存在しており、成人では約1~2%のヘモグロビンが一酸化炭素と結合した状態で血液中を循環している。そして、マウスの体内に、シクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接した包接錯体(上記特許文献1に記載の化合物)を投与し、内在性の一酸化炭素を一時的に欠乏状態にしたところ、肝臓内で一酸化炭素を産生する酵素「ヘムオキシジナーゼ-1」の働きが著しく活性化し、それにより、生体内の一酸化炭素は常に一定のレベルに保たれることが報告されている(非特許文献1参照)。この報告では、内在性一酸化炭素の不足を補う仕組みが生体内に存在することが示され、一酸化炭素が、生物にとって必要な存在であることが強く示唆されている。
また、包接錯体(hemoCD)に膜透過ペプチドであるオクタアルギニンを導入した誘導体(R8-hemoCD)を用いて、細胞内の一酸化炭素の生理活性を詳細に調べた研究報告もある(非特許文献2参照。)。
その他、一酸化炭素は、抗炎症作用や体内時計の調節などにも関わるとの研究報告もある(非特許文献3参照)。
このように、一酸化炭素は、その有毒性のみならず、生体内で一酸化炭素の果たす役割についても注目されており、その生理機能の解明の進展が望まれている。
【0005】
一酸化炭素の生理機能を研究するに当たっては、血液や組織に含まれる微量な一酸化炭素を精度よく測定することが望まれる。
血液や組織の一酸化炭素濃度を測定する方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー法が知られている(例えば、非特許文献4参照)。この方法では、一酸化炭素の結合した血液や組織に含まれるヘムを酸化し、遊離の一酸化炭素の気相分析を行うが、実験手順が複雑で、かつ、気相に遊離した一酸化炭素を計測するため、不正確である可能性がある。
【0006】
また、上記特許文献2では、次のようにして、包接錯体溶液の紫外可視吸光スペクトルに基づき、一酸化炭素濃度を定量する方法が記載されている。
まず、この定量方法に関連する非特許文献2に記載の各種包接錯体について整理しておく。
非特許文献2では、パーメチル化β-シクロデキストリン二量体(非特許文献2では、「Py3CD」と略称)が5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン鉄(II)錯体(非特許文献2では、「Fe(II)TPPS」と略称)を包接してなる包接錯体(非特許文献2では、「hemoCD1」と略称)を用いている。
hemoCD1は鉄が2価であるが、鉄が3価であるもの(非特許文献2では、「met-hemoCD1」と略称)も存在する。met-hemoCD1の方がhemoCD1よりも安定であるので、通常は、met-hemoCD1を還元してhemoCD1を得る。
hemoCD1は、鉄に酸素が結合したもの(非特許文献2では、「oxy-hemoCD1」と略称)と、鉄に一酸化炭素が結合したもの(非特許文献2では、「CO-hemoCD1」と略称)が存在する。これに対して、met-hemoCD1は、酸素や一酸化炭素とは結合しない。
【0007】
以上を踏まえ、次に、非特許文献2における一酸化炭素濃度の定量について説明する。
非特許文献2では、met体(met-hemoCD1)を還元してhemoCD1のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液を準備する。hemoCD1は大気中の酸素と結合して、oxy体(oxy-hemoCD1)となる。このoxy体のPBS溶液を細胞に添加したのち、細胞を回収し、超音波で粉砕する。不溶分を除去するためにろ過し、ろ液を得る。
得られたろ液に対して、紫外可視吸光スペクトルを測定する(スペクトルa)。このろ液には、oxy体と、CO体(CO-hemoCD1。細胞中の一酸化炭素がoxy体の酸素と置き換わったもの)と、met体(実験中に一部のhemoCD1が酸化して生成されたもの)とが含まれる。
次に、上記ろ液に一酸化炭素ガスを導入することで、oxy体を全てCO体に変化させ、紫外可視吸光スペクトルを測定する(スペクトルb)。
上記一酸化炭素ガスの導入後に、続いて、還元剤を添加することで、met体を全てCO体に変化させ、紫外可視吸光スペクトルを測定する(スペクトルc)。
【0008】
整理すると、各スペクトル測定における溶液中の包接錯体の種類は、以下のようになる。
(a)スペクトルa(ろ液)
met体(鉄が3価のもの。一酸化炭素や酸素を吸着しない)
oxy体(鉄が2価で酸素吸着)
CO-hemoCD1(鉄が2価で一酸化炭素吸着)
(b)スペクトルb(a+一酸化炭素ガス)
met体
CO体
(c)スペクトルc(b+還元剤)
CO体
【0009】
ポルフィリン環を有する化合物には、422nm付近に、特徴的な吸収スペクトルであるソーレー(Soret)吸収帯のピークが見られる。
そして、
422 a:スペクトルaの422nm付近のピーク波長での吸光度(測定値)
422 b:スペクトルbの422nm付近のピーク波長での吸光度(測定値)
422 c:スペクトルcの422nm付近のピーク波長での吸光度(測定値)
ε422 CO:CO体の422nm付近のピーク波長でのモル吸光係数(既知)
ε422 oxy:oxy体の422nm付近のピーク波長でのモル吸光係数(既知)
ε422 met:met体の422nm付近のピーク波長でのモル吸光係数(既知)
CO:CO体の濃度
oxy:oxy体の濃度
met:met体の濃度
total:添加した包接錯体の全濃度
とすると、ランベルト・ベールの法則から、まず、スペクトルcの測定について、以下の式が成り立つ。
【0010】
【数1】
【0011】
スペクトルcの測定試料において、添加した包接錯体は、全てCO体として存在する。従って、CCOは、添加したCtotalに等しくなっている。そして、A422 cは測定値で、ε422 COは既知である。
よって、上式からCtotalが算出できる。
【0012】
また、ランベルト・ベールの法則から、スペクトルbの測定について、以下の式が成り立つ。
【0013】
【数2】
【0014】
スペクトルbの測定試料において、添加した包接錯体は、酸化されたmet体として存在するものを除き、CO体として存在する。従って、CCOは、添加したCtotalから、Cmetを差し引いた値となっている。
422 bは測定値で、ε422 CO、ε422 metは既知である。Ctotalは、スペクトルcの測定結果に基づいて算出した値を使用できる。
よって、上式からCmetが算出できる。
【0015】
また、ランベルト・ベールの法則から、スペクトルaの測定について、以下の式が成り立つ。
【0016】
【数3】
【0017】
スペクトルaの測定試料において、添加した包接錯体は、met体、CO体又はoxy体として存在する。従って、Coxyは、添加したCtotalから、CCOとCmetを差し引いた値となっている。
422 aは測定値で、ε422 CO、ε422 oxy、ε422 metは既知である。Ctotalは、スペクトルcの測定結果に基づいて算出した値を使用できる。さらに、Cmetは、スペクトルbの測定結果に基づいて算出したCmetを使用できる。
よって、上式からCCOが算出できる。
【0018】
以上のようにして、試料中の一酸化炭素濃度を算出することができる。特許文献1もおおむね同様の方法により、実験マウスの尿中の一酸化炭素濃度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2010-194475号公報
【文献】特開2013-231111号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】H. Kitagishi et al., “Feedback Response to Selective Depletion of Endogenous Carbon Monoxide in the Blood" J. Am. Chem. Soc. 138, 5417-5425 (2016)
【文献】Saika Minegishi et al., "Detection and Removal of Endogenous Carbon Monoxide by Selective and Cell-Permeable Hemoprotein Model Complexes", J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 5984-5991
【文献】S. Minegishi, I. Sagami, S. Negi, K. Kano, H. Kitagishi“Circadian Clock Disruption by Selective Removal of Endogenous Carbon Monoxide" Sci. Rep., 8, 11996 (2018)
【文献】H. J. Vreman et al., Anal. Biochem. 341 (2005) 280-289
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
特許文献1や非特許文献2に記載の一酸化炭素濃度の定量方法は、溶液中に含まれる一酸化炭素の濃度を直接的に調べることができるため、非特許文献4に記載のガスクロマトグラフィー法と比べて、より精度の高い定量方法ということができる。
しかし、スペクトルbを得るために、人体に有毒な一酸化炭素ガスを使用する必要がある点に課題がある。また、スペクトルa、スペクトルb、スペクトルcの3種のスペクトル測定が必要である点で、やや煩雑である。さらに、oxy-hemoCD1の水溶液を得るためにはmet-hemoCD1を還元後、還元剤をゲルろ過カラムにより除去する操作が必要である点も簡便さに欠けていた。
【0022】
そこで、本発明は、非特許文献2におけるoxy-hemoCD1の試料調製のような余分な操作を省略でき、さらに人体に有毒な一酸化炭素ガスを使用する必要がなく、血液や組織に含まれる微量な一酸化炭素を精度よく簡便に測定することのできる一酸化炭素の定量方法及び一酸化炭素測定用キットを提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を備える。
すなわち、本発明にかかる一酸化炭素の定量方法は、試料中に含まれる一酸化炭素の定量方法であって、
試料と、下記一般式(A)又は下記一般式(B)で示されるシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなる定量用包接錯体とを用いて、前記定量用包接錯体由来の物質として、中心金属が2価であり、かつ、酸素及び一酸化炭素と結合していないデオキシ包接錯体(II)と、前記デオキシ包接錯体(II)が試料中の一酸化炭素と結合したCO結合型包接錯体(II)のみを含有する水系の包接錯体溶液を調製する工程と、
前記包接錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定する工程と、
前記測定により得られる紫外可視吸収スペクトルにおいて、422nm付近に見られる第1の変曲点と、434nm付近に見られる第2の変曲点のそれぞれについて、ランベルト・ベールの法則に基づき成立する下式(1)、(2)から、試料中の一酸化炭素の量を算出する工程と
を含む。
【0024】
【化1】
【0025】
(上記一般式(A)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、mは1~2の整数を表し、nは1~3の整数を表す。)
【0026】
【化2】
【0027】
(上記一般式(B)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、pは1~2の整数を表し、qは1~3の整数を表す。)
【0028】
【数4】
【0029】
(上式(1)中、A422、ε422 deo、ε422 COは、それぞれ、第1の変曲点での吸光度、デオキシ包接錯体(II)のモル吸光係数、CO結合型包接錯体(II)のモル吸光係数を表し、Cdeo、CCOは、それぞれ、スペクトル測定試料中のデオキシ包接錯体(II)の濃度とCO結合型包接錯体(II)の濃度を表す。)
【0030】
【数5】
【0031】
(上式(2)中、A434、ε434 deo、ε434 COは、それぞれ、第2の変曲点での吸光度、デオキシ包接錯体(II)のモル吸光係数、CO結合型包接錯体(II)のモル吸光係数を表し、Cdeo、CCOは、それぞれ、スペクトル測定試料中のデオキシ包接錯体(II)の濃度とCO結合型包接錯体(II)の濃度を表す。)
【0032】
本発明にかかる一酸化炭素測定用キットは、試料と定量用包接錯体とから水系の包接錯体溶液を調製し、前記包接錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルから試料中の一酸化炭素の量を算出して、試料中の一酸化炭素量を測定するのに用いられる一酸化炭素測定用キットであって、
下記一般式(A)もしくは下記一般式(B)で示されるシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなる定量用包接錯体、又は、その原料となるシクロデキストリン二量体及び水溶性金属ポルフィリンと、
前記包接錯体溶液の溶存酸素を除去するための還元剤と
を含む。
【0033】
【化3】
【0034】
(上記一般式(A)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、mは1~2の整数を表し、nは1~3の整数を表す。)
【0035】
【化4】
【0036】
(上記一般式(B)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、pは1~2の整数を表し、qは1~3の整数を表す。)
【発明の効果】
【0037】
本発明において、紫外可視吸収スペクトル測定に供される包接錯体溶液には、溶液調製に用いる定量用包接錯体由来の物質として、試料中の一酸化炭素と結合して生成されたCO結合型包接錯体(II)と、それ以外のデオキシ包接錯体(II)のみが含有されている。そして、CO結合型包接錯体(II)は422nm付近に特徴的な吸収ピークがあり、デオキシ包接錯体(II)は434nm付近に特徴的な吸収ピークがある。このデオキシ包接錯体(II)のピークは、他の包接錯体(CO結合型、オキシ体、met体)に見られないユニークなピークである。
そのため、両包接錯体を含有する包接錯体溶液の吸収スペクトルでは、422nm付近と434nm付近に変曲点(第1の変曲点、第2の変曲点)が見られ、それらは区別することが可能であり、それぞれに対応する波長の吸光度を測定することにより、ランベルト・ベールの法則から、試料中の一酸化炭素を定量することができる。そのため、人体に有毒な一酸化炭素ガスを使用する必要がなく、かつ、血液や組織に含まれる微量な一酸化炭素を精度よく簡便に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明において紫外可視吸収スペクトル測定により得られるスペクトルの一例を示すグラフである(実線:実測データ、破線:ブランクのスペクトル(hemoCDの添加なし))
図2】CO結合型包接錯体(II)単独の紫外可視吸収スペクトル(実線)と、デオキシ包接錯体(II)単独の紫外可視吸収スペクトル(破線)を示すグラフである。
図3】実施例1において一酸化炭素標準水溶液の理論濃度(溶解度から算出された濃度)と本発明による測定濃度との相関関係を示すグラフである。
図4】実施例2においてフラッシング前とフラッシング後(生理食塩水100mL又は200mL)の定常状態ラットの肝臓内一酸化炭素を本発明により定量した結果を示すグラフである。
図5】実施例2においてフラッシング前とフラッシング後(生理食塩水200mL)の定常状態ラットの肝臓内一酸化炭素を本発明により定量した結果とガスクロマトグラフィー法の測定結果とを示すグラフである。
図6】実施例3において血液中一酸化炭素濃度測定の結果を示すグラフである。
図7】実施例3において一酸化炭素ガス吸引後のラットの臓器内一酸化炭素を本発明により定量した結果を示すグラフである。
図8】実施例4において血液中一酸化炭素濃度測定の結果を示すグラフである。
図9】実施例4において一酸化炭素ガス吸引・空気換気後のラットの臓器内一酸化炭素を本発明により定量した結果を示すグラフである。
図10】実施例5において本発明によるラットの臓器(筋肉)内一酸化炭素量の定量値と臓器重量との関係を示すグラフである。
図11】実施例5において本発明によるラットの臓器(肺)内一酸化炭素量の定量値と臓器重量との関係を示すグラフである。
図12】実施例5において本発明によるラットの臓器(肝臓)内一酸化炭素量の定量値と臓器重量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明にかかる一酸化炭素の定量方法及び一酸化炭素測定用キットの好ましい実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0040】
〔包接錯体溶液の調製〕
本発明の定量方法は、試料と、所定の定量用包接錯体とを用いて、定量用包接錯体由来の物質として、包接錯体における金属が2価であり、かつ、酸素及び一酸化炭素と結合していないデオキシ包接錯体(II)と、デオキシ包接錯体(II)が試料中の一酸化炭素と結合したCO結合型包接錯体(II)のみを含有する水系の包接錯体溶液を調製する工程を含む。
【0041】
<試料>
試料としては、例えば、動植物の細胞や組織が挙げられる。これらの試料を用いて、本発明を実施すれば、細胞や組織内に含まれる微量の一酸化炭素濃度を正確に定量することができる。
また、血液、尿などを試料として用いても良い。これらの試料を用いて、本発明を実施すれば、血液や尿中に含まれる微量の一酸化炭素濃度を正確に定量することができる。
このように、本発明は、生体サンプル中の一酸化炭素の定量に有用であるが、その他にも、本発明を実施することにより、生体サンプルに限らずに様々な試料中に含まれる一酸化炭素を定量することができる。
試料は、最終的にスペクトル測定に供される包接錯体溶液に試料中の一酸化炭素が溶け込み、包接錯体と結合するのであれば、固体でも液体でも構わない。
最も単純な試料は、水に一酸化炭素が溶解した一酸化炭素水溶液である。
【0042】
<定量用包接錯体>
次に、本発明で用いる定量用包接錯体について説明する。
この定量用包接錯体は、下記一般式(A)又は下記一般式(B)で示されるシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなるものである。
【0043】
【化5】
【0044】
上記一般式(A)中、Rはシクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、mは1~2の整数を表し、nは1~3の整数を表す。
【0045】
【化6】
【0046】
上記一般式(B)中、Rは、シクロデキストリンの水酸基を保護する保護基を表し、pは1~2の整数を表し、qは1~3の整数を表す。
【0047】
上記一般式(A)で表されるシクロデキストリン二量体は、例えば、特許文献1に記載のように、シクロデキストリンをトシル化してエポキシ化したのち、このシクロデキストリンの水酸基をメチル化し、メチル化したシクロデキストリンとリンカー分子とを結合して製造することができる。
シクロデキストリンの水酸基を予めメチル基などで保護することで、水酸基によって生じる水素結合によりシクロデキストリンの内孔が硬くなり、水溶性金属ポルフィリンがシクロデキストリン二量体の内孔に包接され難くなるのを防ぐことができる。
上記一般式(A)における保護基Rとしては、メチル基以外に、例えば、エチル基、アセチル基、ヒドロキシプロピル基などが挙げられる。
【0048】
上記一般式(A)で表されるシクロデキストリン二量体の原料となるシクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン(m=1、かつn=2)、γ-シクロデキストリンのいずれを用いても良いが、水溶性金属ポルフィリンを包接し易いためβ-シクロデキストリンを原料として利用するのが好ましい。
【0049】
上記一般式(B)で表されるシクロデキストリン二量体の原料となるシクロデキストリンについても、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン(p=1、かつq=2)、γ-シクロデキストリンのいずれを用いても良いが、水溶性金属ポルフィリンを包接し易いためβ-シクロデキストリンを原料として利用するのが好ましい。
上記一般式(B)で表されるシクロデキストリン二量体の製造法としては、例えば、特許文献2に記載のように、部分メチル化シクロデキストリン(2,6-di-O-Me-β-CD)と水素化ナトリウムとを反応させてナトリウムアルコキシドを生成し、このナトリウムアルコキシドとハロゲン化アルキルであるリンカー分子とをウィリアムソン合成してエーテル(シクロデキストリン二量体)を生成したのち、生成したシクロデキストリン二量体の水酸基をメチル化することによって、製造できる。
この方法で製造する場合、シクロデキストリン二量体を合成したのち、シクロデキストリン原料と生成物であるシクロデキストリン二量体とは、カラムクロマトグラフィーなどによって分離できるので、シクロデキストリン原料は無駄なく利用できる。また、シクロデキストリン二量体の全ての水酸基は天然の立体配座を保持したままメチル化できる。
上記一般式(B)における保護基Rも、メチル基に限定されず、例えば、エチル基、アセチル基、ヒドロキシプロピル基などであってもよい。
【0050】
水溶性金属ポルフィリンは、ピロールが4つ組み合わさって出来た環状構造を持つ有機化合物であって、中心部の窒素に金属イオンが配位され、かつ、水溶性を有するものである。
特に限定するわけではないが、例えば、下記一般式(C)又は(D)で示されるものが好適に挙げられる。
【0051】
【化7】
【0052】
【化8】
【0053】
上記一般式(C)、(D)において、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表し、MはFe2+、Mn2+、Co2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、Zn3+の何れかを表す。
【0054】
特に、上記一般式(C)で表される化合物の中では、5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン鉄錯体が好ましく、上記一般式(D)で表される化合物の中では、5,15-ビス(3,5-ジカルボキシラトフェニル)-10,20-ジフェニルポルフィリン鉄錯体が好ましい。
なお、これらの化合物は、公知の方法により合成しても良いし、市販品(例えば、Frontier scientific社、東京化成工業株式会社など)をそのまま使用しても良い。
【0055】
定量用包接錯体の中心金属は、2価でも3価でも良いが、後述のとおり、3価金属であっても、最終的には、全て2価金属に還元される。通常は、3価の方が安定であるので、中心金属が3価の包接錯体を定量用包接錯体として用いるのが簡便である。
【0056】
<包接錯体溶液>
スペクトル測定に供される包接錯体溶液においては、定量用包接錯体由来の物質として、前記包接錯体における金属が2価であり、かつ、酸素及び一酸化炭素と結合していないデオキシ包接錯体(II)と、前記包接錯体(II)が試料溶液中の一酸化炭素と結合したCO結合型包接錯体(II)のみを含有する。
逆に言えば、スペクトル測定に供される包接錯体溶液において、定量用包接錯体由来の物質として、中心金属が3価である包接錯体(III)や、中心金属が2価であるが酸素と結合しているオキシ包接錯体(II)は含まないようにする。
【0057】
包接錯体(III)を含まないようにするためには、中心金属が2価である包接錯体を定量用包接錯体として用いても良いし、包接錯体(III)を定量用包接錯体として用いるが、還元剤で2価に還元するようにしても良い。
包接錯体(III)の中心金属を2価に還元するための還元剤としては、特に限定するわけではないが、例えば、亜ジチオン酸ナトリウム(Na224)、アスコルビン酸ナトリウム、ジチオスレイトール、メルカプトエタノール、システイン、グルタチオンなどが挙げられる。
【0058】
また、オキシ包接錯体(II)を含まないようにするためには、溶存酸素を除去すれば良いが、そのための簡易かつ有効な方法として、例えば、還元剤を添加する方法が挙げられる。また、その他の方法として、水溶液中にアルゴンや窒素などの不活性ガスを吹き込んで置換するか、凍結脱気法により溶存酸素を除去する方法も挙げられる。
試料溶液中の溶存酸素を還元するための還元剤としては、例えば、Na224、アスコルビン酸ナトリウム、ジチオスレイトール、メルカプトエタノール、システイン、グルタチオンなどが挙げられる。
【0059】
生体サンプルを用いる場合においては、タンパク質を除去することが望ましい。
タンパク質の除去は、限外ろ過フィルターなどを用いても良いが、沈殿剤を添加して沈殿させる方が簡便で低コストである。
タンパク質を除去するための沈殿剤としては、例えば、Na224、硫酸アンモニウム、尿素、ポリエチレングリコール、スルホサリチル酸、界面活性剤などが挙げられる。
【0060】
上述のとおり、Na224は、包接錯体(III)の還元剤と、溶存酸素の還元による除去剤、タンパク質を除去するための沈殿剤を兼ねることができるので、特に好ましい。これらの機能を発揮させるためには、Na224を過剰量用いればよい。
【0061】
包接錯体溶液の調製に当たっては、試料に対し、定量用包接錯体溶液を添加しても良いし、逆に、定量用包接錯体溶液に試料を添加しても良く、添加順序等は特に限定されない。
【0062】
〔包接錯体溶液のスペクトル測定と測定結果に基づく一酸化炭素量の算出〕
次に、上記のようにして調製した包接錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。
得られるスペクトルには、図1にその例を示す通り、422nm付近と434nm付近に変曲点(第1の変曲点、第2の変曲点)が見られる。第1の変曲点は主としてCO結合型包接錯体(II)の吸光によるもので、第2の変曲点は主としてデオキシ包接錯体(II)の吸光によるものである。このことは、参考として図2に示すCO結合型包接錯体(II)単独及びデオキシ包接錯体(II)単独の場合の各紫外可視吸収スペクトル(実線:CO結合型単独、破線:デオキシ型単独)からわかる。
【0063】
ここで、
422:第1の変曲点での吸光度
434:第2の変曲点での吸光度
ε422 deo:第1の変曲点でのデオキシ包接錯体(II)のモル吸光係数(既知)
ε434 deo:第2の変曲点でのデオキシ包接錯体(II)のモル吸光係数(既知)
ε422 CO:第1の変曲点でのCO結合型包接錯体(II)のモル吸光係数(既知)
ε434 CO:第2の変曲点でのCO結合型包接錯体(II)のモル吸光係数(既知)
とすると、ランベルト・ベールの法則から、以下の式(1)、(2)が成り立つ。
【0064】
【数6】
【0065】
【数7】
【0066】
また、
total:添加した定量用包接錯体の全濃度
とすると、添加した定量用包接錯体は、CO結合型包接錯体(II)又はデオキシ包接錯体(II)として存在するから、下式が成り立つ。
【0067】
【数8】
【0068】
包接錯体に対するCO結合型包接錯体(II)の割合RCO(=CCO/Ctotal)は、上式(1)、(2)を利用すると、吸光度の比(A422/A434)を用いて、下式(3)で表すことができる。
【0069】
【数9】
【0070】
また、一酸化炭素のモル数MCOは、下式(4)で表すことができる。
【0071】
【数10】
【0072】
上式(4)において、Vは体積である。
【0073】
このように、本発明によれば、人体に有毒な一酸化炭素ガスを使用せず、しかも、一回のスペクトル測定で、A422とA434の比から、一酸化炭素の濃度や量を得ることができる。
【0074】
なお、包接錯体溶液のスペクトル測定において、不純物の混入等による誤差が生じ得る場合は、定量用包接錯体非添加のブランクについてスペクトル測定を行い、誤差を補正することが好ましく、その場合、吸光度A422、A434は、補正後の吸光度を意味するものとする。
【0075】
422/A434が小さすぎたり大きすぎたりすると、第1・第2の変曲点が判別し難くなり、測定精度が低下するおそれがあるので、0.8~3.0の範囲であることが好ましい。
422/A434を0.8~3.0の範囲とするためには、例えば、0.8未満となる場合には、定量用包接錯体の添加量を半量に減らし、3.0以上になる場合には、定量用包接錯体の添加量を倍量に増やすなどして、この範囲に収めるように条件検討を行う。
【0076】
〔一酸化炭素測定用キット〕
本発明の一酸化炭素測定用キットは、試料と定量用包接錯体とから水系の包接錯体溶液を調製し、前記包接錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルから試料中の一酸化炭素の量を算出して、試料中の一酸化炭素量を測定するのに用いられ、上記した本発明の定量方法を実施するためのキットとして適している。
【0077】
本発明の一酸化炭素測定用キットは、測定用試薬として、上述した定量用包接錯体を含むか、又は、その原料となるシクロデキストリン二量体及び水溶性金属ポルフィリンを含む。
また、包接錯体溶液の溶存酸素を除去するための還元剤を含む。
【0078】
試料と、上記の定量用包接錯体又はその原料とを用いて水系の溶液を調製し、さらに還元剤を加えることで、簡単に紫外可視吸収スペクトル測定のための包接錯体溶液を調製することができる。
調製される包接錯体溶液は、還元剤により溶存酸素が除去されている。また、定量用包接錯体の中心金属が3価であっても、還元剤により2価に還元することができる。したがって、包接錯体溶液として、前記包接錯体における金属が2価であり、かつ、酸素及び一酸化炭素と結合していないデオキシ包接錯体(II)と、前記包接錯体(II)が試料溶液中の一酸化炭素と結合したCO結合型包接錯体(II)のみを含有する包接錯体溶液が得られる。
この包接錯体溶液について、本発明の定量方法に従い、スペクトル測定及び一酸化炭素の算出を行うことにより、試料中の微量な一酸化炭素を精度よく簡便に測定することができる。
【0079】
試料、定量用包接錯体、還元剤などについては、本発明の定量方法について上述した内容と共通であるので、説明を割愛する。
【実施例
【0080】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕
本発明により一酸化炭素を精度よく簡便に定量できることを示すために、一酸化炭素の標準溶液を作って、標準溶液中の一酸化炭素を定量した。
【0082】
<定量用包接錯体の作製>
5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン鉄(III)錯体(Frontier Scientific社製、以下、「Fe(III)TPPS」と略す。)及びパーメチル化β-シクロデキストリン二量体(以下、「Py3CD」と略す。)をモル比が1/1.2となるようにそれぞれ電子天秤で秤量してエッペンドルフチューブに入れ、PBS緩衝液(pH7.4)1.0mLを加えて溶解させて、ポルフィリンの鉄が三価である包接錯体水溶液(met-hemoCD水溶液)を得た。
Fe(III)TPPSの量は1.1mg、Py3CDの量は3.5mgであった。
つぎに、上記の溶液(1×10-3mol/Lのmet-hemoCD水溶液)をPBS緩衝液で適宜希釈し、(1~5)×10-6mol/Lの濃度とした。そこへ過剰量(約2mg)のNa224を加えて、Fe(III)TPPSの中心鉄をFe(III)からFe(II)に還元するとともに、溶液中の溶存酸素を水に還元した。
以上により、定量用包接錯体溶液(包接錯体濃度(1~5)×10-6mol/L)を得た。
【0083】
<スペクトル測定のための包接錯体溶液の作製>
脱気した50mLのミリQ水を50mLテルモシリンジに入れ、先端にセプタムラバーを取り付け、注射針を刺入し、さらに脱気した。
その後、マイクロシリンジを用いて、1,2,3,4又は5μLの一酸化炭素ガス(99.9%)をテルモシリンジ内に導入した。ガスタイトシリンジでテルモシリンジ内の水を採取して各一酸化炭素濃度の標準溶液を調製した。
一酸化炭素ガスの導入量と、標準溶液の一酸化炭素濃度MCO(理論値)は、下表のとおりとなる。
【0084】
【表1】
【0085】
各標準溶液0.5mLに、上記で準備した定量用包接錯体溶液を0.5mL加え、スペクトル測定のための各包接錯体溶液を作製した。
なお、室温での一酸化炭素の溶解度が2.4mL/100mLであり、この溶解度に対し、今回調製した溶液濃度が十分に薄く、また、シリンジが密閉しているため、吸入した一酸化炭素は全て溶液中に溶けていると考えられる。
【0086】
<包接錯体溶液のスペクトル測定>
上記で作製した包接錯体溶液について、分光光度計(Nanophotometer C40、Implen社製)により紫外可視吸収スペクトル測定を行った。
【0087】
<スペクトル測定結果に基づく一酸化炭素の定量>
各標準溶液について、上式(4)から算出された一酸化炭素濃度MCO(測定値)を下表にまとめた。
【0088】
【表2】
【0089】
なお、各モル吸光係数は以下の値であることが分かっており、これらの値と、A422、A434の測定値とを用いて、一酸化炭素濃度MCO(測定値)の算出を行った。
ε422 deo=1.52×105L/(mol・cm)
ε434 deo=2.13×105L/(mol・cm)
ε422 CO=3.71×105L/(mol・cm)
ε434 CO=6.75×104L/(mol・cm)
【0090】
422,A434の全ての実測データを記載することは省略するが、参考として、一酸化炭素導入量3μLの場合のA422、A434の実際の測定値(3回測定)を下表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
CO(理論値)を横軸、MCO(測定値)を縦軸としたときのグラフを図3に示す。
検量線の傾きが1.0062となるため、検量線の理論値とほぼ一致する値となることから、本発明により、人体に有毒な一酸化炭素ガスを使用することなく、一酸化炭素を精度よく簡便に定量できることが分かった。
【0093】
〔実施例2〕
本発明により、定常状態のラットにおける臓器の一酸化炭素分布を調べた(N=3~6)。ラットは、Wister系雄性ラット(清水実験材料より入手)を使用した。
【0094】
<試料の準備>
ラットにペントバルビタールで腹腔内投与麻酔を行い、その後セボフルラン経口麻酔で開腹した。
その後、血液残存サンプルとして、肝臓を採取した。
また、心臓大静脈から生理食塩水(saline)を20mL/minで100mL又は200mL注入することにより血液除去のためのフラッシング操作を行い、血液除去後のサンプルとして、肝臓を採取した。
採取した各臓器は、採取後すぐ液体窒素で凍結し、-80℃で保存した。
【0095】
<定量用包接錯体の作製>
実施例1の「定量用包接錯体の作製」と同様にして、定量用包接錯体溶液(包接錯体濃度5×10-6mol/L)を調製した。
【0096】
<スペクトル測定のための包接錯体溶液の作製>
上記「試料の準備」にて凍結保存しておいた各臓器を4℃で解凍し、20mg秤量し、そこにPBS(pH7.0)0.5mLを加えた。そこへ上記「定量用包接錯体の作製」で作製した定量用包接錯体溶液を最終的なhemoCD濃度が(1~5)×10-6mol/Lとなるように加え、その後、溶液を超音波破砕器(Qsonica社製)を用いて、均質化した。遠心分離及びフィルターでのろ過を行うことにより、ろ液を得た。
このろ液に過剰量(1~2mg)のNa224を更に加えることにより、スペクトル測定のための包接錯体溶液を作製した。
なお、タンパク質は、過剰のNa224の添加により、沈殿除去されている。
また、ブランクとして、包接錯体を含まない溶液を作製した。具体的には、上記「試料の準備」にて凍結保存しておいた臓器を4℃で解凍し、20mg秤量し、そこにPBS(pH7.0)1.0mLを加え、過剰量(1~2mg)のNa224をその溶液へ加えた。超音波破砕器(Qsonica社製)を用いて超音波で組織を破砕して均質化し、遠心分離及びフィルターを通して得た溶液をブランクとした。
【0097】
<包接錯体溶液のスペクトル測定>
上記で作製した包接錯体溶液について、分光光度計(Nanophotometer C40、Implen社製)により紫外可視吸収スペクトル測定を行った。
また、ブランクについても、同様に紫外可視吸収スペクトル測定を行った。
【0098】
<スペクトル測定結果に基づく一酸化炭素の定量>
422とA434は、包接錯体溶液のスペクトル測定実測値から、ブランクのスペクトル測定実測値を差し引いて補正した値とする。
この補正後のA422とA434の値と、既知の各モル吸光係数の値とを用いて、上式(4)から、実施例1と同様にして、臓器内の一酸化炭素を定量した。
結果を図4に示す。
【0099】
<ガスクロマトグラフィー法との比較実験>
本発明との比較のため、フラッシングなしと生理食塩水200mLによるフラッシングありの場合の肝臓試料について、非特許文献4のガスクロマトグラフィー法を用いて、一酸化炭素ガス測定を行った。
具体的には、5mLテルモシリンジの先端にセプタムラバー(天然ゴム7mm試験管用)を取り付けて注射針を刺入した。試料を約100mg精秤した。超音波破砕し、破砕液とガラス球(直径5mm)を1個、シリンジに入れ、完全に脱気した。ヘリウムガス1mLと、ヘムを酸化するために5%のスルホンサリチル酸水溶液3滴をシリンジ内に吸入した。マイクロシリンジを用いてメタンガスを50μLシリンジ内に吸入した。30分振盪した後、ガスタイトシリンジでシリンジ内の気相を0.5mL採取し、GCに注入した。内部標準物質としてメタンガスを用いた。
結果を図5及び下表に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
<考察>
図4の結果から、血液の除去により、一酸化炭素量が有意に低下することが分かった。
生理食塩水100mLの場合と200mLの場合との比較では、一酸化炭素量に有意な差が見られなかったことから、生理食塩水100mLで十分なフラッシングができていたと考えられる。
このように、本発明によれば、人体に有毒な一酸化炭素ガスを使用することなく、臓器中に含まれる一酸化炭素量を簡便に定量することができ、残存血液の有無の影響を確認することができた。
また、図5及び表4に示す結果から、本発明によれば、ガスクロマトグラフィー法と比べて、簡単かつ正確に一酸化炭素を定量可能であることが分かった。
【0102】
〔実施例3〕
本発明により、一酸化炭素ガス(400ppm)吸引後のラットにおける臓器の一酸化炭素分布を調べた(N=3~6)。ラットは、Wister系雄性ラット(清水実験材料より入手)を使用した。
【0103】
<試料の準備>
ラットに経口挿管により一酸化炭素ガス(400ppm)を吸引させた。
このラットにペントバルビタールで腹腔内投与麻酔を行い、その後セボフルラン経口麻酔で開腹し、左心室、右心室から、それぞれ、血液を採取し、血液中一酸化炭素濃度測定を行った。
血液中一酸化炭素濃度測定は、血液ガス分析装置ABL800 FLEX Radiometerを用いて行った。測定結果を図6に示す。
その後、心臓大静脈から生理食塩水を20mL/minで200mL注入することにより血液除去のためのフラッシング操作を行ったのち、肝臓、肺、筋肉、心臓、大脳、小脳を採取した。
採取した臓器は、採取後すぐ液体窒素で凍結し、-80℃で保存した。
一酸化炭素ガス吸引5分後、10分後、20分後のラットそれぞれについて、臓器を採取した。比較のため、一酸化炭素ガス吸引0分後(吸引なし)のラットについても、同様に、臓器を採取した。
また、上記とは別に、一酸化炭素ガス吸引5分後、20分後のラットの大脳について、以下の方法により、外部から直接一酸化炭素を投与した試料も準備した。
大脳のサンプルを5mLテルモシリンジに入れ、テルモシリンジの先端にセプタムラバー(天然ゴム7mm試験管用)を取り付けて25Gテルモ注射針を刺入し、脱気した。その後、ガスタイトシリンジを用いて一酸化炭素ガスをシリンジ内に注入し、4℃でインキュベーションした。
【0104】
<定量用包接錯体の作製>
実施例2と同様である。
【0105】
<スペクトル測定のための包接錯体溶液の作製>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
【0106】
<包接錯体溶液のスペクトル測定>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
【0107】
<スペクトル測定結果に基づく一酸化炭素の定量>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
422とA434は、ブランクで補正した値とした。
このA422とA434の値と、既知の各モル吸光係数の値とを用いて、上式(4)から、実施例2と同様にして、臓器内の一酸化炭素を定量した。
一酸化炭素ガス(400ppm)吸引後の臓器内一酸化炭素定量結果を図7に示す。
また、大脳に外部から直接一酸化炭素を投与した場合の臓器内一酸化炭素量の変化について下表5に示す。
【0108】
【表5】
【0109】
<考察>
図7に示す結果から、一酸化炭素ガス吸引5分後に各臓器で一酸化炭素量が増加することが分かった。一酸化炭素ガス吸引10分後では、各臓器の一酸化炭素量がほぼ一定のままで、20分後においては、各臓器の一酸化炭素量は増加せず、低下傾向もみられた。
これに対し、図5に示す血液中一酸化炭素濃度の測定結果では、血中のCO-Hb%は時間とともにほぼ直線で増加していることが分かる。
つまり、一酸化炭素ガスは体内に拡散しているにもかかわらず、吸引10分後、20分後では、各臓器の一酸化炭素量は増加しない結果となった。
また、表5に示す結果から、外部から直接一酸化炭素を投与した場合には臓器内一酸化炭素ガスは増加することが観察できた。
このように、本発明によれば、人体に有毒な一酸化炭素ガスを使用することなく、臓器中に含まれる一酸化炭素量を簡便に定量することができ、一酸化炭素を吸引させた場合と臓器に直接投与した場合の一酸化炭素量の違いについて確認することができた。
そして、これらの結果から、一酸化炭素をラットに吸引させた場合、臓器内の一酸化炭素は、ある程度の量で飽和することが確認でき、また、この飽和量が、臓器に外部から直接一酸化炭素を投与することで結合される一酸化炭素量よりも低いことが確認できた。
【0110】
〔実施例4〕
本発明により、一酸化炭素ガス(400ppm)吸引・空気換気後のラットにおける臓器の一酸化炭素分布を調べた(N=3)。ラットは、Wister系雄性ラット(清水実験材料より入手)を使用した。
【0111】
<試料の準備>
ラットに経口挿管により一酸化炭素ガス(400ppm)を5分吸引させた。
次に、経口挿管により空気を吸引させ、空気換気した。
このラットにペントバルビタールで腹腔内投与麻酔を行い、その後セボフルラン経口麻酔で開腹し、左心室、右心室から、それぞれ、血液を採取し、血液中一酸化炭素濃度測定を行った。
血液中一酸化炭素濃度測定は、血液ガス分析装置ABL800 FLEX Radiometerを用いて行った。測定結果を図8に示す。
その後、心臓大静脈から生理食塩水を20mL/minで200mL注入することにより血液除去のためのフラッシング操作を行ったのち、肝臓、肺、筋肉、心臓、大脳、小脳肉を採取した。
採取した臓器は、採取後すぐ液体窒素で凍結し、-80℃で保存した。
空気換気5分後、10分後のラットそれぞれについて、臓器を採取した。また、比較のため、一酸化炭素ガス吸引0分後(吸引なし)、一酸化炭素ガス吸引5分後・空気換気なしのラットについても、同様に、臓器を採取した。
【0112】
<定量用包接錯体の作製>
実施例2と同様である。
【0113】
<スペクトル測定のための包接錯体溶液の作製>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
【0114】
<包接錯体溶液のスペクトル測定>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
【0115】
<スペクトル測定結果に基づく一酸化炭素の定量>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
422とA434は、ブランクで補正した値とした。
このA422とA434の値と、既知の各モル吸光係数の値とを用いて、上式(4)から、実施例2と同様にして、臓器内の一酸化炭素を定量した。
結果を図9に示す。
【0116】
<考察>
空気換気10分後、肺、肝臓、心臓および筋肉は定常状態に戻る傾向が観測された。脳においては一酸化炭素ガスを吸引させた後と有意な変化が観測されなかった。
これに対し、図9に示す血液中一酸化炭素濃度の測定結果では、血中のCO-Hb%は、一酸化炭素ガス吸引5分後に増加し、空気換気を行ってもあまり変化していない。
このように、本発明によれば、人体に有毒な一酸化炭素ガスを使用することなく、臓器中に含まれる一酸化炭素量を簡便に定量することができ、一酸化炭素をラットに吸引させた後の空気換気による臓器内の一酸化炭素量の変化を確認することができ、血中のCO-Hb%の変化との違いなど、有用な情報を得ることができた。
【0117】
〔実施例5〕
本発明の効果について、さらに明確にするため、臓器重さと臓器内の一酸化炭素量の比例関係を確認することにより、本発明による臓器内一酸化炭素量の定量の正確性を検証した。ラットは、Wister系雄性ラット(清水実験材料より入手)を使用した。
【0118】
<試料の準備>
実施例3に準じて、一酸化炭素ガス吸引20分後のラットの臓器(骨格筋、肝臓、肺)を採取した。
採取した各臓器は、採取後すぐ液体窒素で凍結し、-80℃で保存した。
【0119】
<定量用包接錯体の作製>
実施例2と同様である。
【0120】
<スペクトル測定のための包接錯体溶液の作製>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
試料は、上記「試料の準備」に基づき準備し、種々の臓器重さについて、定量用包接錯体を作製した。
【0121】
<包接錯体溶液のスペクトル測定>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
【0122】
<スペクトル測定結果に基づく一酸化炭素の定量>
用いた試料が異なること以外は、実施例2と同様である。
422とA434は、ブランクで補正した値とした。
このA422とA434の値と、既知の各モル吸光係数の値とを用いて、上式(4)から、実施例2と同様にして、臓器内の一酸化炭素を定量した。
筋肉についての結果を図10及び下表6、肺についての結果を図11及び下表7、肝臓についての結果を図12及び下表8にそれぞれ示す。
【0123】
【表6】
【0124】
【表7】
【0125】
【表8】
【0126】
<考察>
図10~12、表6~8の結果から、臓器重さと臓器内の一酸化炭素量の比例関係を確認することができ、本発明による臓器内一酸化炭素量の定量の正確性が示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12