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特許7588879FRP成形品及びFRP成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】FRP成形品及びFRP成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20241118BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20241118BHJP
   B29C 70/44 20060101ALI20241118BHJP
   B29C 43/12 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C70/68
B29C70/44
B29C43/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022522212
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2021018354
(87)【国際公開番号】W WO2021230343
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2020085005
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 潔
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 忠
(72)【発明者】
【氏名】乾 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】松本 大輝
(72)【発明者】
【氏名】堀 正芳
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/175581(WO,A1)
【文献】特開2014-51014(JP,A)
【文献】特開2019-167648(JP,A)
【文献】特開2020-183115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00-39/24
B29C 39/38-39/44
B29C 41/00-41/36
B29C 41/46-41/52
B29C 43/00-43/34
B29C 43/44-43/48
B29C 43/52-43/58
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローメディアを用いて繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させて硬化させて成るFRP成形品において、
前記フローメディアがフェノキシ樹脂から成る繊維を含むシート状であり、
前記マトリックス樹脂がエポキシ樹脂であり、
前記繊維基材と前記フローメディアとが積層されており、
前記フローメディアの少なくとも一部が前記マトリックス樹脂に対して溶解または接着により一体化した状態で硬化しており、
硬化した前記フローメディアが意匠面になることを特徴とするFRP成形品。
【請求項2】
キャビティ内でフローメディアを用いて繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させて硬化させるFRP成形品の製造方法において、
前記キャビティ内に前記繊維基材と、フェノキシ樹脂から成る繊維を含むシート状であるフローメディアを積層するステップと、
前記キャビティ内にマトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を注入することで前記フローメディアの少なくとも一部を前記マトリックス樹脂に対して溶解または接着により一体化させるステップを備えており、
前記キャビティ内で前記フローメディアが型の表面に配置されるものであり、
硬化した前記フローメディアが意匠面になることを特徴とするFRP成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面平滑性を高め且つ脆弱部の発生を抑えることができるFRP成形品及びFRP成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)の成形方法としてRTM(Resin Transfer Molding)、VaRTM(Vacuum Assisted RTM)、HP-RTM(High Pressure RTM)、インフュージョン成形等が知られている。
例えば図10(a)に示すようにVaRTMではバキュームバッグ200と型201の内面とでキャビティ202を形成し、キャビティ202内に繊維基材203や繊維基材の積層体を配置する。次に図10(b)に示すようにキャビティ202内の一方から真空引きしながら他方からマトリックス樹脂204を注入し、キャビティ202内の空気をマトリックス樹脂204で置換することでマトリックス樹脂204を繊維基材203に含浸させる。最後に必要に応じて型201を加熱してマトリックス樹脂204を硬化させることでFRP成形品を製造する。
また、大型や肉厚のFRP成形品を製造する場合には、繊維基材を上下の賦形型で挟み込み所定形状に賦形することでプリフォームを作製し、このプリフォームを型内に配置してマトリックス樹脂で硬化させることもある。
【0003】
図11(a)に示すように一般的に繊維基材203の表面側203a(型201に接触している側)は繊維基材203が型201に接触している状態で成形するためにマトリックス樹脂204の層が薄くなる。したがって図11(b)に示すようにマトリックス樹脂が多い箇所と少ない箇所における硬化時の収縮度合いの差の影響を大きく受けてFRP成形品205の表面に生じる凹凸206が大きくなり、平面平滑性が損なわれるという問題がある。また、塗装等を行う際にFRP成形品205の表面を僅かに研磨しただけで繊維基材203が露出してしまうという問題もある。
更に、繊維基材203が織物の場合、縦糸と横糸に囲まれた隙間部分と型201との隙間に樹脂が入り込まずマイクロボイドが生じてしまう問題もある。
【0004】
FRP成形品にマイクロボイドやドライスポットが生じてしまう他の理由としてマトリックス樹脂の流動性の問題がある。マトリックス樹脂はキャビティ内で流動抵抗が最も小さい経路を辿りながら繊維基材に浸透していくが、一般的に繊維基材はマトリックス樹脂の流れを妨げる大きな流動抵抗を有しているため、繊維基材の場所によって含浸するマトリックス樹脂の量が不均一になり、その状態のまま硬化してしまうのが原因である。
そこで、マトリックス樹脂の流動性・拡散性を改善できるフローメディアが知られている(特許文献1)。通常はフローメディアを繊維基材とバキュームバッグとの間等に配置し、硬化後はフローメディアをそのまま残しておいて繊維基材の一部にするか、ピールプライと共に繊維基材から剥がして廃棄する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-269283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フローメディアを使用した場合でも以下のような問題が生じる。
図12(a)に示すように通常はフローメディア207を繊維基材203の裏面側203b(バキュームバッグ200に接触する側)に配置する。図12(b)に示すように繊維基材203の表面や内部を流動・拡散していくマトリックス樹脂204の速度に対して、フローメディア207の内部を流動・拡散していくマトリックス樹脂204の速度が速すぎる場合は図12(c)に示すように繊維基材203の表面側203a(意匠面側)にドライスポット208が生じてしまうことがある。
また、従来のフローメディア207の素材はマトリックス樹脂との接着性が低いポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等から成るため、硬化させた後にフローメディア207を繊維基材203の一部にするとフローメディア207とマトリックス樹脂204との層間で剥離が生じ易くなり脆弱部が形成されるという問題がある。また、成形後にフローメディア207をピールプライと共に剥がす場合には産業廃棄物を増加させてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題を考慮して、平面平滑性を高め且つ脆弱部の発生を抑えることができるFRP成形品及びFRP成形品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフローメディアは、フェノキシ樹脂から成る繊維を含むシート状であることを特徴とする。
また、前記フェノキシ樹脂の重量平均分子量が25,000~50,000であることを特徴とする。
【0009】
本発明のFRP成形品は、フローメディアを用いて繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させて硬化させて成るFRP成形品において、前記フローメディアがフェノキシ樹脂から成る繊維を含むシート状であり、前記繊維基材と前記フローメディアとが積層されており、前記フローメディアの少なくとも一部が前記マトリックス樹脂に対して溶解または接着により一体化した状態で硬化していることを特徴とする。
また、前記フローメディアが前記繊維基材の表面側に積層されていることを特徴とする。
また、前記マトリックス樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする。
【0010】
本発明のFRP成形品の製造方法は、キャビティ内でフローメディアを用いて繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させて硬化させるFRP成形品の製造方法において、前記キャビティ内に前記繊維基材と、フェノキシ樹脂から成る繊維を含むシート状であるフローメディアを積層するステップと、前記キャビティ内にマトリックス樹脂を注入することで前記フローメディアの少なくとも一部を前記マトリックス樹脂に対して溶解または接着により一体化させるステップを備えることを特徴とする。
また、前記フローメディアが前記繊維基材の表面側に積層されていることも特徴とする。
また、前記マトリックス樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフローメディアはフェノキシ樹脂を素材とする。フェノキシ樹脂はマトリックス樹脂として一般的に使用されるエポキシ樹脂との相溶性に特に優れるため、フローメディアの少なくとも一部がマトリックス樹脂に溶解または接着し、最終的に両者が一体化した状態で硬化する。これにより繊維基材、フローメディア及びマトリックス樹脂の三者が強固に接合した状態になり、従来のような層間で剥離等を引き起こす脆弱部の発生を防止できる。
また、硬化後にフローメディアをピールプライと共に剥がして廃棄する必要がないので従来のような産業廃棄物の増加という問題を解消できる。更に、フローメディアを廃棄する必要がないので例えば図8(a)及び(b)に示すように積層した繊維基材100の層間にフローメディア101を配置することでキャビティ内でのマトリックス樹脂の流れをコントロールすることが可能になるだけでなく、硬化後はフローメディア101を除去せずにそのままFRP成形品の一部として使用することが可能になる。
【0012】
図9(a)に示すようにフローメディア101を繊維基材100の表面側100a(意匠面側)に積層することにすれば、マトリックス樹脂102がフローメディア101と一体化した分だけ、フローメディア101を使用しない場合と比較して表面側100aの厚みtが増す。したがってマトリックス樹脂102が硬化する際の収縮の影響を受けにくくなり、図9(b)に示すようにFRP成形品103の表面103aに生じる凹凸104を小さく抑えて平面平滑性を高めることができる。更に、FRP成形品103の表面103aの厚みtが増すことで例えば塗装等を行う際にFRP成形品103の表面103aを研磨しても繊維基材100が露出してしまう事態を防止できる。換言すると、本発明ではフローメディアの少なくとも一部がマトリックス樹脂と一体化した状態で強固に硬化するので、フローメディアを繊維基材の表面側(意匠面側)に配置することが可能となった。
フェノキシ樹脂の重量平均分子量は成形性の観点から25,000~50,000の範囲内が好ましく、フェノキシ樹脂を繊維化し易くするという観点から35,000~45,000が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】フローメディアを示す平面図(a)及び側面図(b)
図2】積層したフローメディアと繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させる前の状態を模式的に示す断面図(a)、図2(a)の円形で囲んだ部分の拡大図(b)、積層したフローメディアと繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させて硬化させた状態を模式的に示す断面図(c)、図2(c)の円形で囲んだ部分の拡大図(d)及び実際に製造したFRP成形品の断面図(e)
図3】FRP成形品の製造方法について説明する図(a)~(e)
図4】実施例におけるマトリックス樹脂の流動・拡散の程度を示す図であり、(a)はフローメディア無し、(b)はフローメディア有り
図5】マトリックス樹脂の注入時間と含浸距離の関係を示すグラフ
図6】FRP成形品をその表面側(意匠面側)から見た拡大図であり、(a)及び(b)はフローメディア無し、(c)及び(d)はフローメディア有り
図7】FRP成形品の表面の凹凸の断面形状をデジタルマイクロスコープで測定したグラフ
図8】フローメディアの他の使用例を示す平面図(a)及びA-A線矢視図(b)
図9】フローメディアを繊維基材の表面側(意匠面側)に積層した状態を示す断面図(a)及び硬化後の状態を示す断面図(b)
図10】VaRTMを用いたFRP成形品の製造方法を説明するための断面図(a)及び(b)
図11】一般的なFRP成形品の内部構造を説明するための断面図(a)及び(b)
図12】繊維基材の表面側(意匠面側)にドライスポットが形成されるまでの過程を示す断面図(a)~(c)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフローメディアの実施の形態について説明する。
図1に示すようにフローメディア10はフェノキシ樹脂から成る繊維を含むシート状である。フローメディア10はキャビティ内でのマトリックス樹脂の流動性・拡散性を改善するために用いる。本発明のフローメディア10にはフェノキシ樹脂から成る繊維を原糸として含む織物又は編物、フェノキシ樹脂から成る繊維を原糸として平面内に並べて固定したもの、フェノキシ樹脂から成る繊維を接合した不織布等が含まれる。
フェノキシ樹脂は分子中に次の一般式(I):で表わされる単位を有する重合度がおよそ18~70の熱可塑性樹脂であるが、他の成分との共重合体であってもよい。フェノキシ樹脂はエポキシ樹脂に対してすぐれた相溶性を示すことが知られている。フェノキシ樹脂として一般式(I)で表わされる単位からなる部分の占める割合が分子全体の80~99%、さらには90~99%であってもよく、これらの範囲内とするのが溶剤への溶解性、エポキシ樹脂との相溶性などの点から好ましい。
【化1】
【0015】
フェノキシ樹脂を溶剤と混合し、活物質を配合したのち溶剤を除去すると平面状のフェノキシ樹脂の固体を得ることができる。
フェノキシ樹脂を繊維化する方法としては例えばフェノキシ樹脂を平面状に加工した後、これを細長い糸状に裁断したり短く裁断したりしたものを紡いで糸状にする方法、液体のフェノキシ樹脂をノズルから押し出しながら冷却・延伸することでモノフィラメントにする方法、他にはフェノキシ樹脂の溶液をエレクトロスピニングにより繊維化する方法が挙げられる。フェノキシ樹脂のフィラメントとナイロン等の他の材料から成るフィラメントとを撚り合わせたマルチフィラメントをフローメディア10の材料にしてもよい。
成形性の観点からフェノキシ樹脂の重量平均分子量は25,000~50,000の範囲内が好ましく、溶融紡糸の場合は35,000~45,000にすればフェノキシ樹脂を繊維化し易くなるので好ましいが必ずしもこの範囲に限らない。
繊維化したフェノキシ樹脂を織物、編物、不織布等に加工する方法は周知の技術を使用すればいいので説明を省略する。
【0016】
次に本発明のFRP成形品について説明する。
図2に示すようにFRP成形品20はフローメディア10を用いて繊維基材30にマトリックス樹脂40を含浸させ硬化させて成る。図2では織物のフローメディア10を使用している。図2(a)は積層したフローメディア10と繊維基材30にマトリックス樹脂40を含浸させる前の状態を模式的に示す断面図、図2(b)は図2(a)の円形で囲んだ部分の拡大図、図2(c)は積層したフローメディア10と繊維基材30にマトリックス樹脂40を含浸させて硬化させた状態を模式的に示す断面図、図2(d)は図2(c)の円形で囲んだ部分の拡大図、図2(e)は実際に製造したFRP成形品20の断面写真である。
図2(b)と(d)を比較すると、図2(d)ではフローメディア10の一部がマトリックス樹脂40に対して一体化した状態で硬化している。フェノキシ樹脂から成る繊維を含むフローメディア10はマトリックス樹脂40(特にエポキシ樹脂)との相溶性に優れる。したがって、成形時にキャビティ内にマトリックス樹脂40を注入するとフローメディア10の効果によってマトリックス樹脂40が速やかに流動・拡散すると共に、フローメディア10の少なくとも一部が溶解または接着し、最終的にマトリックス樹脂40とフローメディア10が強固に一体化した状態で硬化する。フローメディア10の全部がマトリックス樹脂40に対して溶解または接着してもよい。実際に図2(e)の断面写真からフローメディア10の一部がマトリックス樹脂40に対して溶解または接着した状態で硬化していることが分かる。
【0017】
繊維基材30としては炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維等の周知の材料を使用でき、これらのうち二つ以上を組み合わせたものであってもよい。
繊維基材30の形態としてチョップド繊維束等の不連続繊維を用いたり、連続繊維から成る織物等を用いたりしてもよい。不連続繊維は連続繊維から成る織物と比較して流動性があるため賦形性に優れ、立体形状への対応性や成形品にしわ等が生じにくいという利点や、端材が少ないという利点がある。また、繊維基材30のプリフォームを使用してもよい。不連続繊維は、連続繊維から成る繊維束を所定の長さにカット(チョップド化)することで製造する。そして、この不連続繊維の束をランダムな方向に散布・積層し、バインダーで仮固定してシート化することで繊維基材30を製造することができる。本明細書の「繊維基材30」にはプリフォームも含まれるものとする。
【0018】
マトリックス樹脂40は熱硬化性と熱可塑性のいずれでもよい。
熱硬化性樹脂としてはフローメディア10との相溶性を有していれば特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂,不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂はフローメディア10の素材であるフェノキシ樹脂との相溶性に優れるため特に好ましい。
熱可塑性樹脂としては現場重合型PA6、現場重合型アクリル樹脂(メチルメタクリレート樹脂)、現場重合型ウレタン樹脂などが好適に使用される。
これら熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を単独で又は二種以上を混合して使用してもよい。
【0019】
次に、本発明のFRP成形品の製造方法について説明する。本実施の形態ではVaRTM法を用いる場合について説明するが、これに限らずRTM、HP-RTM、インフュージョン成形等のキャビティ内で繊維基材にマトリックス樹脂を含浸・硬化または重合させてFRP成形品を製造する方法であれば本発明を適用できる。
図3(a)に示すように、バキュームバッグ50と型51でキャビティ52が形成されており、キャビティ52は樹脂注入口52aと吸引口52bを備えている。バキュームバッグ50と型51の隙間はシール材53で密封される。なお、キャビティ52の構造は図示したものに限らず他にも適宜選択可能である。
【0020】
まず、図3(b)に示すように、キャビティ52内に繊維基材30とフローメディア10を積層して配置する。図3ではフローメディア10を繊維基材30の表面側に配置しているが裏面側に配置してもよい。この際に必要があればキャビティ52内を所定の温度まで加熱しておく。
次に、図3(c)に示すように樹脂タンク54に繋いだ樹脂注入経路55をバルブ56で閉鎖し、真空ポンプ(図示略)に繋がる吸引経路57をバルブ58で開放する。そして吸引経路57の吸引口52bを通してキャビティ52内を真空吸引する。
次に、図3(d)に示すようにバルブ58を閉じバルブ56を開放することで樹脂タンク54内のマトリックス樹脂40を樹脂注入経路55及び樹脂注入口52aを通してキャビティ52内に加圧注入する。
【0021】
フローメディア10の効果によってマトリックス樹脂40はキャビティ52内を速やかに流動・拡散していく。マトリックス樹脂40がキャビティ52全域に至った状態で樹脂圧(静圧)をかけてマトリックス樹脂40を繊維基材30及びフローメディア10に充分に含浸させる。そしてバルブ56を閉鎖して所定の時間が経過するまで保持してマトリックス樹脂40を硬化させる。このとき上述の通りフェノキシ樹脂から成る繊維を含むフローメディア10はマトリックス樹脂40(特にエポキシ樹脂)との相溶性に優れることから、フローメディア10の少なくとも一部(全てでもよい)が溶解または接着する。最終的にマトリックス樹脂40とフローメディア10が一体化した状態で硬化する。
図3(e)に示すようにFRP成形品20をキャビティ52から取り出して一連の製造工程が完了する。
【実施例
【0022】
繊維基材として三菱レイヨンのカーボンクロス 12K 平織材(400g/m2)×4プライ 90mm × 600mmを使用した。フローメディア無しの繊維基材は600mmより短くなっている。
フローメディアとしてフェノキシ樹脂の原糸を平面内に並べてシート状にしたものを使用した。フローメディアは繊維基材と型の間に配置した。
フェノキシ樹脂としてGabriel社製PKHCを使用した。
上記条件でVaRTMを行った。図4はマトリックス樹脂の注入開始から40分経過時点の様子であり、(a)はフローメディア10無し、(b)はフローメディア10有りである。図4の左側からマトリックス樹脂40を注入し、右側から空気を吸引した。
【0023】
図5のグラフに示す通り、フローメディア無しでは含浸距離が200mm以下であるのに対しフローメディア有りでは400mm近くまで到達した。
図6は完成したFRP成形品をその表面側(意匠面側)から見た拡大図であり、(a)及び(b)はフローメディア無し、(c)及び(d)はフローメディア有りである。フローメディア無しでは炭素繊維の縦糸と横糸に囲まれた隙間部分にボイドが生じた。フローメディア有りではフェノキシ樹脂の繊維が透けて見えているが表面は平滑でボイドは生じなかった。
図7は完成したFRP成形品の表面の凹凸をデジタルマイクロスコープで測定したグラフである。フローメディア無しと有りの各々について幅手方向と長手方向の2方向の凹凸を測定した。
グラフからフローメディア無しでは繊維基材の織目に沿って大きな凹凸が生じており、フローメディア有りでは凹凸が小さく平面平滑性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、平面平滑性を高め且つ脆弱部の発生を抑えることができるFRP成形品及びFRP成形品の製造方法であり、産業上の利用可能性を有する。

【符号の説明】
【0025】
10 フローメディア
20 FRP成形品
30 繊維基材
40 マトリックス樹脂
50 バキュームバッグ
51 型
52 キャビティ
52a 樹脂注入口
52b 吸引口
53 シール材
54 樹脂タンク
55 樹脂注入経路
56 バルブ
57 吸引経路
58 バルブ
100 繊維基材
100a 表面側
101 フローメディア
102 マトリックス樹脂
103 FRP成形品
103a 表面
104 凹凸
200 バキュームバッグ
201 型
202 キャビティ
203 繊維基材
203a 表面側
203b 裏面側
204 マトリックス樹脂
205 FRP成形品
206 凹凸
207 フローメディア
208 ドライスポット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12