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特許7588909要素位置算出システム及び要素位置算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】要素位置算出システム及び要素位置算出方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/13 20200101AFI20241118BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20241118BHJP
【FI】
G06F30/13
G06F30/27
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024013800
(22)【出願日】2024-02-01
【審査請求日】2024-04-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513017803
【氏名又は名称】オムニ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(74)【代理人】
【識別番号】100224742
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】村山 達也
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-152640(JP,A)
【文献】特開2020-187541(JP,A)
【文献】特開平05-006402(JP,A)
【文献】特開2024-006095(JP,A)
【文献】特開平03-204773(JP,A)
【文献】特開2020-091817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G06T 7/00 - 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築用の複数の要素が記載された伏図の画像データから各要素の位置座標を算出するための要素位置算出システムであって、
前記画像データから前記要素の位置を検出する要素検出手段と、
実寸法である基準寸法情報と建築物の基準位置情報とから各前記要素の位置座標を算出する座標算出手段と
丸め手段と、を備え、
前記丸め手段は、前記座標算出手段により算出された座標値同士の間隔を、1間または1メートルの倍数または約数となるように補正することを特徴とする、要素位置算出システム。
【請求項2】
前記要素は杭であり、
複数の杭が記載された杭伏図の画像データから各杭の位置座標を算出することを特徴とする、請求項1に記載の要素位置算出システム。
【請求項3】
前記要素検出手段には機械学習による画像分類システムが用いられていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の要素位置算出システム。
【請求項4】
整列手段をさらに備え、
前記整列手段は、前記要素検出手段により検出された複数の要素のうち、直交座標系の各方向において、所定幅の誤差範囲の中で列をなして配置されているものについて、それら複数の要素の位置を各列の基準軸上に整列して配置することを特徴とする、請求項3に記載の要素位置算出システム。
【請求項5】
建築用の複数の要素が記載された伏図の画像データから各要素の位置座標を算出するための要素位置算出方法であって、
前記画像データから前記要素の位置を検出する要素検出ステップと、
実寸法である基準寸法情報と建築物の基準位置情報とから各前記要素の位置座標を算出する座標算出ステップと、
丸めステップと、を備え、
前記丸めステップは、前記座標算出ステップにより算出された座標値同士の間隔を、1間または1メートルの倍数または約数となるように補正することを特徴とする、要素位置算出方法。
【請求項6】
前記要素は杭であり、
前記要素検出ステップでは機械学習による画像分類システムを用い、
複数の杭が記載された杭伏図の画像データから各杭の位置座標を算出することを特徴とする、請求項5に記載の要素位置算出方法。
【請求項7】
整列ステップをさらに備え、
前記整列ステップは、前記要素検出ステップで検出された複数の要素のうち、直交座標系の各方向において、所定幅の誤差範囲の中で列をなして配置されているものについて、それら複数の要素の位置を各列の基準軸上に整列して配置することを特徴とする、請求項6に記載の要素位置算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の設計段階において作成される様々な伏図から、建築設計に必要な杭等の各要素の位置座標を算出するための、要素位置算出システム及び要素位置算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の設計段階においては、様々な伏図が作成される。伏図とは、基礎や床、天井等の構造物の各要素を上方向から透かしてみた平面図のことである。その対象とする要素に応じて、基礎伏図・小屋伏図・床伏図・天井伏図等がある。
【0003】
こういった伏図には、例えば、梁間の距離や杭間の距離等、種々の寸法が記載されている。これらの寸法は、寸法指示の仕方や基準が必ずしも統一されているわけではないが、一般的には要素ごとの相対的な二点間距離で図示されることが多い。
しかし、場合によっては、ある基準点からの累積的な寸法である追出寸法で図示される方が便宜な場合がある。逆に、追出寸法よりも相対的な二点間距離で図示される方が便宜な場合もあり得る。
【0004】
ところで、これらの伏図は、一般的には二次元のCAD(Computer Aided Design)システム(以下、CADという)を用いて作図される。作図された伏図は、PDF(Portable Document Format)データのようなベクターデータやJPEG(Joint Photographic Experts Group)のようなラスターデータとして出力される。
【0005】
図面の出図においては、基礎を施工する事業者には基礎伏図や杭伏図が出図され、上物を施工する事業者には床伏図や小屋伏図等が出図される。ところが、各事業者が用いているCADシステムは同一ではないため、CADデータで図面を出図することができないことが多い。
そこで、PDFデータやJPEGデータ等で図面をやり取りしたり、適宜プリンター等で印刷して紙図面としてやり取りしたりしているのが実情である。
【0006】
このように、各設計現場で用いる伏図が、PDFデータやJPEGデータ、紙図面等である場合、図示された寸法指示の仕方や基準が好ましくなく、改めて寸法を求めたい場合に不便が生じる。例えば、相対的な二点間距離ではなく、追出寸法を求めたいときには、PDFデータやJPEGデータ、紙図面ではすでにデジタルデータとしての数値情報は失われてしまっているため、人間が目で寸法を読み取って、電卓や表計算ソフト等に寸法を打ち込んで計算し直さなければならない。
【0007】
図9には、手書きで寸法を記入しなおした図面の例が示されているが、このような作業は小さな一般住宅であっても設計作業時間が長大になって非効率であるというだけでなく、計算ミスを生じさせる原因となる。
【0008】
図面の画像データをデジタルデータにする技術として、従来では、紙図面を画像データに変換し、黒色のピクセルの割合から壁要素を検出してCADシステムで用いることができるベクターデータに変換するための建設図面認識方法の技術が開発されている(特許文献1参照)。
特許文献1の技術では、画像データを直交座標方向に沿って短冊状に細分化し、短冊状の各範囲の黒色のピクセル数が多い場合には壁であると認識させるものである。認識した壁の情報は、位置や寸法等の情報とともにメモリに格納され、活用することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-128425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1の建設図面認識方法では、短冊状に細分化した範囲における黒色のピクセルの数で壁か否かを判断しているため、直交方向ではなく斜め方向に配置されている壁や円弧状の壁は検出することができない。
同様に、杭等のマーカーは図形等として配置されるものであって、直交方向に延びる長尺の図形ではないため、この方法では検出することができない。
【0011】
また、壁の位置や寸法の情報はピクセル単位であると考えられるため、出力したベクターデータをCADシステムで開いたとしても、実寸法に合わせて手動で縮尺を変更しなければならないという問題がある。
【0012】
本発明は、上記のような問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、数値や幾何形状の情報が失われた伏図の画像データから所望の位置座標情報を実寸の数値データとして容易に算出することができる要素位置算出システム及び要素位置算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を以下に説明する。
本発明の要素位置算出システムは、建築用の複数の要素マーカーが記載された伏図の画像データから各要素の位置座標を算出するための要素位置算出システムである。
本発明の基本的な構成は、前記画像データから前記要素マーカーの位置を検出する要素検出手段と、実寸法である基準寸法情報と建築物の基準位置情報とから各前記要素マーカーの位置座標を算出する座標算出手段とを備えている。
【0014】
本発明において要素とは、杭や基礎、床、壁、天井等の建築における構造物の各要素をいう。また、画像データとは、二次元の画像として認識し得るデータであり、ベクターデータまたはラスターデータの何れかまたは両方を含むものであって、少なくとも寸法や幾何形状に関するデジタル情報が失われているものをいう。
【0015】
本発明では、要素検出手段により検出した複数の要素について、実寸法である基準寸法情報を用いて、検出した要素の位置寸法を実寸法に換算する。そのうえで、建築物の基準位置情報を用いてその位置を座標原点とすることで、各要素の位置座標を実寸法として算出することができる。
これにより、図面や画像データの縮尺に関係なく、各要素の実寸法の位置座標を容易に求めることができる。
【0016】
課題解決のために採用し得る手段においては下記の手段を用いることも可能である。
上記構成において、前記要素を杭とし、複数の杭が記載された杭伏図の画像データから各杭の位置座標を算出するという構成とすることも可能である。
【0017】
一般的な杭伏図に図示される杭マーカーは、作図者によって大小様々な大きさで図示されるが、例えば円形等の、杭芯となる中心を定義可能な幾何形状によって表現されることが多く、ひとつの図面の中では同じ幾何形状で統一されている。
この点に着目し、特に杭伏図における杭マーカーにおいては、その大きさに関わらず、位置座標情報として必要となる杭芯の位置座標を、要素検出手段で精度良く検出することができる。
【0018】
また、杭伏図においては、施工時の作業のしやすさから、基準座標からの累積的な寸法表示である追出寸法で記載されている方が便宜な場合がある。
そこで、例えば、最も外側に配置されている杭の位置を基準位置情報とし、最も離れた杭同士の間隔の実寸法を基準寸法情報とすることで、座標算出手段によって各前記要素の位置座標を算出する。
これにより、杭芯の位置座標を実寸法で算出することができるため、その数値データを施工等に活用することができる。なお、基準寸法情報は、最も離れた杭同士の実寸法に基づくものに限定するものではなく、任意の杭同士の実寸法を基準としたものを含むものとする。
【0019】
課題解決のために採用し得るさらに他の手段としては、前記要素検出手段に機械学習による画像分類システムを用いることも可能である。
要素の図示方法は統一されたものはなく、作図者やCADシステムによって異なる。例えば前述のように、杭マーカーであれば円形を用いる場合が多いが、大きな円の場合もあれば、小さい円の場合もある。また、中が塗りつぶされた円の場合もあれば、塗りつぶされていない円の場合もある。
【0020】
このように、様々な種類で図示され得る要素を精度良く検出するためには、ピクセルの色や境界を検出するような単純なアルゴリズムでは、検出のための条件が膨大となり現実的ではない。
そこで、機械学習を用いた画像分類のシステムによって要素を検出させることで、マーカーの大きさや種類が異なったとしても、精度良く検出させることができる。なお、本発明における機械学習は、教師有り学習、教師無し学習、深層学習等の種類は限定されず、種々のアルゴリズムの中から選択され得る。
【0021】
課題解決のために採用し得るさらに他の手段としては、整列手段をさらに備えることも可能である。整列手段は、前記要素検出手段により検出された複数の要素のうち、図面全体における直交座標系の各方向において、所定幅の誤差範囲の中で列をなして配置されているものについて、それら複数の要素の位置を各列の基準軸上に整列して配置されるように補正するように構成されている。
【0022】
一例を挙げるならば、図面の縦方向の座標軸と横方向の座標軸とを直交座標系としたとき、複数の要素が縦方向に列をなして並んでいる場合を挙げる。このとき、要素検出手段の検出の精度の影響等で、縦方向に並んだ要素が一列に揃っておらず、横方向の位置がそれぞれ僅かにばらついていることがある。
【0023】
この場合であっても、そのばらつきが所定幅の誤差範囲の中に入っている場合には、それら複数の要素の横方向の位置を、縦方向の基準軸上に整列して配置する。このときの基準軸の決め方は種々の方法が挙げられるが、一例としては、複数の要素の横方向のもっとも離れたもの同士の中間値の座標を通る軸とすることができる。
【0024】
このように、整列手段は、縦方向に一列に要素が並ぶような設計において、検出された各要素が僅かにずれていた場合、実際にはそのような微妙に異なる寸法の設計は不自然であることから、これらは本来一列に整然と配置されているべきであるとして、補正をするものである。
これにより、所定幅の誤差範囲の中で列をなして配置されているものについて、それら複数の要素の位置を各列の基準軸上に整列して配置されるように補正することで、要素検出手段における検出結果の精度等のばらつきを自動的に修正することができる。
【0025】
上記構成においては、丸め手段をさらに備えることも可能である。丸め手段は、前記直交座標系の任意の方向において、前記要素検出手段により検出された複数の要素及び前記基準軸上に整列して配置された複数の要素の両方またはいずれかを、予め決められた座標値となるように補正することを含むように構成することもできる。
【0026】
建築物における要素は、決まった規格寸法や間隔で配置される場合がほとんどである。そこで、検出された要素のうち、それらの規格寸法や間隔に近い位置座標で検出された要素は、本来その寸法や間隔であったものとして、予め決められた位置座標となるように補正する。
これにより、要素検出手段における検出結果の精度等のばらつきを自動的に修正することができる。
【0027】
課題解決のために採用し得るさらに他の手段としては、建築用の複数の要素が記載された伏図の画像データから各要素の位置座標を算出するための要素位置算出方法とすることも可能である。この構成の場合、前記画像データから前記要素の位置を検出する要素検出ステップと、実寸法である基準寸法情報と建築物の基準位置情報とから各前記要素の位置座標を算出する座標算出ステップとを備える構成とする。
【0028】
この構成であっても、要素検出ステップにより検出した複数の要素について、実寸法である基準寸法情報を用いて検出した要素の位置寸法を実寸法に換算し、建築物の基準位置情報を用いてその位置を座標原点とすることで、各要素の位置座標を実寸法として算出することができる。
【0029】
また、上記構成においては、前記要素を杭とし、前記要素検出ステップでは機械学習を用いた画像分類システムを用い、複数の杭が記載された杭伏図の画像データから各杭の位置座標を算出するように構成することも可能である。
【0030】
上記構成であれば、杭伏図における杭について、その大きさに関わらず、必要となる中心位置を要素検出ステップで精度良く検出することができる。
また、最も外側に配置されている杭の位置を基準位置情報とし、最も離れた杭同士の間隔の実寸法を基準寸法情報とすることで、座標算出ステップによって各前記要素の位置座標を算出することができる。これにより、杭芯の位置座標を実寸法で算出することができるため、その数値データを施工等に活用することができる。
【0031】
上記構成においては、さらに、整列ステップを備えることも可能である。
前記整列ステップは、前記要素検出ステップで検出された複数の要素のうち、直交座標系の各方向において、所定幅の誤差範囲の中で列をなして配置されているものについて、それら複数の要素の位置を各列の基準軸上に整列して配置されるように補正する。
【0032】
また、さらに、丸めステップを備えることも可能である。丸めステップは、前記直交座標系の任意の方向において、前記要素検出手段により検出された複数の要素及び前記基準軸上に整列して配置された複数の要素の両方またはいずれかを、予め決められた座標値となるように補正する。
【0033】
このような整列ステップ及び丸めステップを備えることにより、要素検出ステップで検出された各要素のうち、所定幅の誤差範囲の中で列をなして配置されているものについて、それら複数の要素の位置を各列の基準軸上に整列して配置されるように補正することで、要素検出ステップにおける検出結果の精度等のばらつきを自動的に修正することができる。
【0034】
また、建築物における要素は、決まった規格寸法や間隔で配置される場合がほとんどであることから、要素検出ステップによって検出された要素のうち、それらの規格寸法や間隔に近い位置座標の要素は、本来その寸法や間隔であったものとして、予め決められた位置座標となるように自動的に修正することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の要素位置算出システムでは、要素検出手段によって検出した要素について、座標算出手段が、実寸法である基準寸法情報と建築物の基準位置情報とから各要素の位置座標を算出する。
また、要素位置算出方法では、要素検出ステップによって検出した要素について、座標算出ステップが、実寸法である基準寸法情報と建築物の基準位置情報とから各要素の位置座標を算出する。
これにより、数値や幾何形状の情報が失われた伏図の画像データから所望の位置座標情報を実寸法の数値データとして容易に算出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の要素位置算出システムの構成を表す説明図である。
図2】本発明の要素位置算出システムの処理の流れを表すフローチャートである。
図3】本発明の要素位置算出システムにおいて図面を読み込んだ状態を表す説明図である。
図4】本発明の要素位置算出システムにおいて要素検出をした状態を表す説明図である。
図5】本発明の要素位置算出システムにおいて整列をした状態を表す説明図である。
図6】本発明の要素位置算出システムにおいて追出寸法を表示した状態を表す説明図である。
図7】本発明の要素位置算出システムにおいて丸めをした状態を表す説明図である。
図8】本発明の変形例1における要素位置算出システムを表す説明図である。
図9】従来の手計算で追出寸法を算出した伏図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を実施するための形態について、図1から図7に基づいて以下に説明する。なお、以下の説明において、図は説明を簡略化するために模式的に記載している。
本発明の要素位置算出システム(以下、単にシステムともいう)100は、図1に示すように、ウェブ上で動作するシステムであり、顧客端末Cからインターネットを介してシステム100に接続する。図1の形態ではウェブシステムとしているが、顧客端末Cにインストールしてスタンドアロンで動作するシステムであってもよく、その形態は限定されない。
【0038】
ユーザーUはこのシステム100の利用者であり、顧客端末Cからシステム100に対して伏図の画像データDを送信する。
送信する画像データDは、種々の伏図を用いることができるが、例えば要素Eが杭であるならば杭伏図となり、要素Eが基礎であるならば基礎伏図となる。以降の図では、一例として杭伏図に関する画像データDとして説明する。
【0039】
画像データDは、顧客端末Cに入力または予め保存されたデータであり、例えばCADシステムから出力されるPDFなどのベクターデータや、紙図面をスキャナSで読み取って得られるJPEG、PNG(Portable Network Graphics)等のラスターデータである。
紙図面を読み取って得られたラスターデータの場合には全体が傾いている場合もあり得るため、傾き補正機能を搭載してもよい。
【0040】
これらの画像データDは、少なくとも寸法や幾何形状に関するデジタル情報が失われている。すなわち、ラスターデータであれば、ピクセルごとの配列データである。また、ベクターデータであっても、数字の部分は数値としての情報ではなく、線の集まりとしてデータ化されている。また、円の部分も直線の集まりや曲線としてデータ化されており円の数式としての情報は失われているものである。
【0041】
システム100は、サーバーやクラウド上に保存されているシステムであり、要素検出手段1と整列手段2と座標算出手段3と丸め手段4とを備えている。
なお、整列手段2及び丸め手段4は必須の構成ではないが、後述するように、要素検出手段1の検出精度の影響を修正するのに有効な手段である。また、丸め手段4は、座標算出手段3の動作の前に動作するように構成してもよいし、座標算出手段3の動作の後に動作するように構成してもよい。
【0042】
まず、要素検出手段1について説明する。要素検出手段1は、顧客端末Cから送信された画像データDを読み込んで、要素Eの位置を検出する。ここで、図1の画像データDにおける杭伏図では、要素Eは杭である。杭のマーカー(すわなち要素Eを表すマーカー)は円形で図示される場合が多く、要素検出手段1でマーカーを検出すると、マーカーのある位置に中心線と所定の直径の円とを表示する。
【0043】
この要素Eの検出には、種々のアルゴリズムを採用することができるが、機械学習を用いた画像分類のシステムを用いるのが好ましい。機械学習については、教師有り学習が効果的であるが、教師無し学習等の種々の学習アルゴリズムを採用することができる。
【0044】
要素Eを検出するためには、伏図によって使用されるマーカーの形状や色が異なる。そこで、要素Eと思われるマーカーについて、同一の特徴があるものの数を計測し、その数が、他の特徴のマーカーと思われるものの数よりも相対的に多ければ、それはその伏図における要素Eであると判断する。逆に、1つや2つしか検出されなかった特徴のマーカーについては要素E以外の単なる記号や文字等であるとしてフィルタリングすることで、確実に必要な要素Eを検出することができる。
また、要素Eの検出において、伏図中の基礎部分の範囲外に存在する円形や矩形等の幾何形状のマーカーについては検出から除外するように構成するのが好ましい。
【0045】
次に、整列手段2について説明する。整列手段2は、一列に並んだ複数の要素E・E…の位置について、要素検出手段1の検出誤差によって僅かに各位置にばらつきが生じた場合に、要素E・E…を各列の基準軸上に整列して配置されるように補正するものが挙げられる。
【0046】
一例として、縦方向に並ぶ複数の要素E・E…について、その配置が左右方向に僅かにばらついている場合に、最も左側にある要素Eと、最も右側にある要素Eとの左右方向の距離の中間値に全ての要素E・E…を整列させるようにすることができる。
【0047】
次に、座標算出手段3について説明する。座標算出手段3は、例えば、基準寸法決定手段31と、追出寸法算出手段32とから構成することができる。
基準寸法決定手段31は、要素検出手段1で読み込まれた要素E・E…の間隔を実寸法に換算するための基準となる寸法を決定する手段であり、例えば、伏図の画像データDに図示されている種々の寸法のうち、最も離れた要素E・Eの寸法を読み取って入力する。読み取った寸法の実寸法値を基準寸法情報として記録する。寸法の読み取りはユーザーUが目視で行っても良いし、画像検出により自動で読み取ってもよい
そして、このようにして読み取った寸法と、最も離れた要素E・Eのシステム上の距離の値とを一致させるように係数を算出する。たとえば、最も離れた要素E・E間のピクセル数が1000pxであり、読み取った実際の寸法が10m(10,000mm)だとすると、その係数は、10mm/pxとなる。
【0048】
追出寸法算出手段32は、検出された各要素Eについて、基準位置からの累積的な寸法指示である追出寸法を算出する。基準位置は任意の位置を選択することができるが、例えば最も左上に位置している要素Eの座標を基準位置情報として設定することができる。この基準位置は、最も左上の要素Eとするように予め設定しておくこともできるが、ユーザーUが手動で任意の要素Eを選択して決定することもできる。
【0049】
そして、各要素E・E…の位置座標を、前述の基準寸法情報によって算出された係数と、基準位置情報とを用いて実寸法で算出し、追出寸法を得る。
追出寸法は、読み込んだ画像データD上に表示することができる他、csv(Comma Separated Values)データとして出力することもできる。
なお、上記では追出寸法算出手段32により追出寸法を算出したが、各要素E・E…の相対的な二点間距離を算出するように構成してもよい。
【0050】
最後に、丸め手段4について説明する。丸め手段4は、直交座標系の任意の方向において、要素検出手段1により検出された複数の要素E・E…を、予め決められた座標値となるように補正する。
例えば、杭であれば、日本の従来の慣習で1間(6尺=約1.82m)を基準として、1/2や整数倍の間隔ごとに配置したり、1mを基準として1/2や整数倍の間隔ごとに配置したりするのが一般的である。
そこで、丸め手段は、一例として、要素検出手段1により検出された杭と杭の間隔が1.81mとして検出された場合に、本来の杭伏図ではおそらく1.82mの間隔で設計されていたのであろうとして、1.82mに補正する。
【0051】
丸め手段は、前述した整列機能において基準軸上に整列した複数の要素E・E…について、その基準軸を予め決められた座標値となるように補正するようにしてもよい。
また、整列機能と丸め機能とは、両方を搭載してもよいし、何れか一方だけ搭載してもよい。
【0052】
このように、図1に示すシステム100を用いることで、寸法や幾何形状に関するデジタル情報が失われた画像データDから、容易に要素Eの実寸法の位置座標を算出することができる。
【0053】
次に、具体的な要素位置算出方法について、図2から図7に基づいて説明する。なお、以下の説明では、伏図を杭伏図、要素Eを杭として説明する。
まず、図2のS1:読み込みステップでは、ユーザーUが、顧客端末Cを操作して、杭伏図の画像データDを読み込んでシステム100に送信する。図3には送信した画像データDを顧客端末Cに表示した状態を表している。
【0054】
この画像データDは紙図面をスキャナSで読み取ったラスターデータであるが、スキャン時の影響で僅かに傾いていることもあり得る。この場合には、図枠部分の直線部分を用いて傾きを補正する処理をしてもよい。
【0055】
次に、S2:要素検出ステップでは、読み込まれた画像データD内から、要素E・E…を機械学習による画像分類システムによって検出する。
図4には、検出された杭がマーカーとして30本表示されている。このうち、一番左側の列を見ると、縦方向に5つの杭が並んでおり、その右隣には4つの杭というように、複数の杭が縦方向に並んだ状態で検出されている。
また、一番上側の行を見ると、横方向に5つの杭が並んでおり、その下側には3つの杭というように、複数の杭が横方向に並んだ状態で検出されている。
【0056】
一般的な建築物の基礎は、互いに垂直な格子状に組み合わされた形状となっているため、図4のように、基礎の横方向と縦方向とを直交座標系とすると、その座標系に沿う方向に複数の要素E・E…が並ぶように検出されるのが一般的である。
【0057】
次に、S3:整列ステップでは、S2:要素検出ステップで読み込んだ各要素E・E…の僅かな位置ずれを補正する。
例えば、図4のうち一番左側の縦に並んでいる5つの要素E1~E5は、各中心線が横方向に僅かにずれていることが分かる。なお、図4はずれ量を誇張して記載している。
【0058】
そこで、整列ステップでは、このずれ量が、例えばマーカーの大きさの1/3の幅の中でずれている場合には、検出の誤差があったとして補正する。図5は、5つの要素E1~E5の中心線が縦に揃うように補正した結果を表している。このとき、整列させる基準軸は、例えば、5つの要素E1~E5のうち、もっとも左右に離れているE1とE5との中間値の座標を通る軸とする。
同様に、他の縦方向に並んでいる要素E・E…や、横方向に並んでいる要素E・E…についても整列させる。
【0059】
次に、S4:座標算出ステップでは、整列させた各要素E・E…について、基準位置からの実寸法の座標値を算出する。座標算出ステップは、例えば、S41:基準寸法決定ステップと、S42:追出寸法算出ステップとから構成することができる。
S41:基準寸法決定ステップは、図5に示す最も左側の要素E1と最も右側の要素E27との間隔の寸法を読み取って入力する。読み取った寸法の実寸法値を基準寸法情報として記録する。寸法の読み取りはユーザーUが目視で行っても良いし、画像検出により自動で読み取ってもよい。
そして、このようにして読み取った寸法と、最も離れた要素E1・E27のシステム上の距離の値とを一致させるように係数を算出する。縦方向の座標についても同様である。
【0060】
S42:追出寸法算出ステップは、検出された各要素Eについて、基準位置からの累積的な寸法指示である追出寸法を算出する。基準位置は任意の位置を選択することができるが、例えば最も左上に位置している要素E1の座標を基準位置情報として設定することができる。この基準位置は、最も左上の要素E1とするように予め設定しておくこともできるが、ユーザーUが手動で任意の要素Eを選択して決定することもできる。
【0061】
そして、各要素E・E…の位置座標を、前述の基準寸法情報によって算出された係数と、基準位置情報とを用いて実寸法で算出し、追出寸法を得る。
算出した追出寸法を表示した状態を図6に示す。
【0062】
最後に、S5:丸めステップでは、S3:整列ステップにおいて基準軸上に整列した複数の要素E・E…について、その基準軸を予め決められた座標値となるように補正する。
例えば、図6において、一番左側から2番目の縦に並んでいる要素(図5におけるE6からE9)は、整列ステップによって整列した結果、基準位置からの寸法は1815.4mm(1.8154m)となっている。
【0063】
しかし、杭の位置を設計する場合において、1.8154mという中途半端な寸法に設計することはしないことから、この寸法はもともと1820mm(1.82m)、すなわち1間という寸法で設計されている可能性が極めて高く、S1:要素検出ステップにおける検出の誤差により、中心座標が僅かにずれてしまったものと考えられる。
【0064】
そこで、この寸法は、設計上は1820mmであるはずだとして、S5:丸めステップによって、図7に示すように、1820mmに補正する。他の要素E・E…の行と列についても同様である。
しかし、例えば、図5における要素E18の寸法(図6における5156.7mmの寸法)の様に、所定の規格の間隔に対して明らかに誤差の範囲を超えてずれているものについては、このようにずれた位置に配置されているのが正しいとして、丸めステップの対象とはしない。
【0065】
以上の方法により伏図から各要素E・E…の位置座標を算出した画像データDは、PDFデータや紙図面として出力することができる。
また、各座標値の配列をcsvデータとして出力することもできる。
【0066】
csvデータとして出力した場合には、例えば、実際の作業現場において、杭打機にcsvデータを読み込ませ、その座標値の場所に自動で杭を打ち込むように制御することも可能である。これにより、設計や施工作業が容易になる。
【0067】
なお、任意のステップにおいて、ユーザーUが要素や寸法線の色、太さ、大きさ等を手動で加工したり、図形の描画やテキストの入力を行ったりすることができる。
また、S42:追出寸法算出ステップにおいては、算出された座標値を手動で修正できるようにしてもよい。
【0068】
さらに、座標値の算出においては、直交座標系における座標値のみならず、斜め方向の対角寸法を算出させるようにすることもできる。この場合、距離が最も離れた対角位置の杭の対角寸法を自動で算出する方法や、手動で任意の杭を選択して、その杭の対角寸法を算出する方法を採用することができる。
【0069】
また、上記の対角寸法以外にも、直交座標系に対して所定の角度を有する任意の2点間の寸法や、複数の座標を選択して得られる図形の面積等を算出するように構成することもできる。
【0070】
『変形例1』
次に、本発明の変形例に係る要素位置算出システム101について、図8に基づいて説明する。なお、以降の説明においては同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0071】
本変形例では、図1から図7の形態に対して伏図が小屋伏図であり、要素Eが小屋束や管柱等複数の要素が混在している点が異なる。
本変形例では、要素検出手段1に、複数の要素を別々に検出することができるように画像分類システムが調整されている。
【0072】
そして、別々に検出された小屋束と管柱は、それぞれ基準位置からの追出寸法が算出される。顧客端末Cの画面上には、例えば別々の色で寸法表示することができる。
【0073】
以上のように構成することで、本変形例のように、ひとつの伏図に複数の要素が記載されていたとしても、それらを別々の要素として位置座標を算出することができる。
【符号の説明】
【0074】
100,101 要素位置算出システム
1 要素検出手段
2 整列手段
3 座標算出手段
31 基準寸法決定手段
32 追出寸法算出手段
4 丸め手段
C 顧客端末
D 画像データ
E 要素
U ユーザー
S スキャナ
【要約】
【課題】数値や幾何形状の情報が失われた伏図の画像データから所望の位置座標情報を実寸の数値データとして容易に算出することができる要素位置算出システム及び要素位置算出方法を提供すること。
【解決手段】建築用の複数の要素が記載された伏図の画像データDから各要素E・E…の位置座標を算出するための要素位置算出システム100であって、前記画像データDから前記要素E・E…の位置を検出する要素検出手段1と、実寸法である基準寸法情報と建築物の基準位置情報とから各前記要素E・E…の位置座標を算出する座標算出手段3とを備える構成とした。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9