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特許7588924注文情報取得システム及びプライシング決定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】注文情報取得システム及びプライシング決定システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/04 20120101AFI20241118BHJP
【FI】
G06Q40/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024118832
(22)【出願日】2024-07-24
(62)【分割の表示】P 2024059769の分割
【原出願日】2024-04-02
【審査請求日】2024-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】317010521
【氏名又は名称】株式会社マネースクエアHD
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】相葉 斉
【審査官】渡邉 加寿磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-334311(JP,A)
【文献】国際公開第2008/087834(WO,A1)
【文献】特開2014-102589(JP,A)
【文献】特開2002-117232(JP,A)
【文献】特開2019-212317(JP,A)
【文献】特開2024-012678(JP,A)
【文献】特開2004-234343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顧客の指示に基づいて金融商品の注文を行うための顧客注文情報を取得する注文情報取得システムであって、
現時点で記録されている顧客注文情報である現時点版顧客注文情報を取得する取得手段と、
過去の特定時点から現在までの市場価格情報を記憶しておく記憶手段と、
取得した前記現時点版顧客注文情報と前記過去の特定時点から現在までの市場価格情報とを比較して、約定確定待ちと推測される確定待ち顧客注文情報を特定して除外し、約定処理が開始されていない顧客注文情報である先行版顧客注文情報を作成する推測手段と、
を有しており、
前記推測手段は、前記記憶手段に記憶された前記過去の特定時点から現在までの市場価格情報を確認し、前記過去の特定時点から現在までの市場価格情報の市場価格に該当する顧客注文情報を確定待ち顧客注文情報として特定するように構成されたことを特徴とする注文情報取得システム。
【請求項2】
市場で提示された市場価格から補正した提示価格を客側に示すプライシング決定システムであって、
前記市場価格に対して、予測される約定数量分補正した価格を前記提示価格とする提示価格決定手段を有しており、
前記提示価格決定手段は、前記市場価格を取得する市場価格情報取得手段と、顧客からの注文がまとめられた顧客注文情報を参照する顧客注文情報参照手段と、を有し、
前記市場価格情報取得手段で取得した前記市場価格に対して、前記顧客注文情報参照手段で取得した前記顧客注文情報に基づいて予測される約定数量に応じて価格の補正を行って、前記提示価格を決定するようになっており、
前記顧客注文情報として、請求項1に記載の注文情報取得システムを用いて取得した先行版顧客注文情報を用いて、市場で提示された前記市場価格から客側に示す前記提示価格の補正幅を変更させるように構成されたことを特徴とするプライシング決定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の金融商品の取引における注文情報取得の技術、プライシング決定の技術及び各種の金融商品の取引の管理及び支援を行う技術に関する。本発明は、各種の金融商品の取引を管理及び支援する装置等に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
株式、債券、投資信託、不動産投資信託、コモディティ(商品)、外国為替、株価指数、暗号資産、仮想通貨、等、相場価格が変動する各種の金融商品の取引方法として、成行注文(注文発注時点の相場価格で取引を行う注文形態)や指値注文(相場価格が予め指定された価格になった時点で取引を行う形態)等が知られている。この取引方法によって顧客と銀行等との金融機関と取引を、金融商品の取引業者(以下「金融商品取引業者」と称する。)が行う場合、金融商品取引業者がカバー取引を行う場合がある。このカバー取引とは、銀行等と顧客との間で締結された金融商品の取引において発生したポジションを相殺する取引のことである。金融商品取引業者が、顧客から引き受けた取引と反対の取引を銀行等に対しカバー取引として行うことで、為替変動のリスクヘッジが可能になる。
【0003】
従来、これらの注文形態、例えば指値注文による取引を、カバー取引を含む形でコンピュータシステムを用いて行う発明が知られている(例えば、特許文献1参照)。この発明においては、為替取引等の通貨取引において、通貨取引指標の実勢値を定期的に取得し、予め受け付けられた通貨取引指標に関する指定値と取得された実勢値とに基づいて、実勢値で通貨取引を締結するか否かを仮決定する。そして、実勢値での通貨取引を締結することが仮決定された場合、通貨取引に関するカバー取引の締結の可否を確認し、カバー取引の締結が可能であると確認された場合、カバー取引を締結し、仮決定された通貨取引を締結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-167820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載の発明で金融商品取引業者が金融商品の取引を行う場合、金融商品取引業者は、相場価格に一致した金融商品を約定させる顧客との取引と、約定に基づく銀行等とのカバー取引とを行う必要が生ずる。この場合の取引は、まず顧客との取引が行われ、その取引の結果に基づいてカバー取引が行われる。
【0006】
しかし、顧客から受けた注文情報(顧客注文情報)に対する約定処理が開始されてからその約定処理が確定するまでに所定の時間を要し、さらに当該顧客注文情報は約定処理が確定するまでは消去しないようになっていることが多いため、種々の取引のために現在受けている顧客注文情報を参照しようとしても、約定処理は開始されているがその約定処理が確定していない顧客注文情報が含まれることとなる。このように既に約定処理を開始している顧客注文情報は、本来であれば現在受けている顧客注文情報からは除きたいものである。しかし、従来、システム上これを除くことができず、そのため、正確な顧客注文情報を参照することができないという問題が生じていた。その結果、正確な情報に基づいて行われる種々の処理を行うことが難しくなり、金融商品取引業者が実質的な損失を被るリスクが生じるという問題があった。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引を実現できる注文情報取得システム、プライシング決定システム及び金融商品取引管理装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、本発明は、顧客の指示に基づいて金融商品の注文を行うための顧客注文情報を取得する注文情報取得システムであって、現時点で記録されている顧客注文情報である現時点版顧客注文情報を取得する取得手段と、過去の市場価格情報を記憶しておく記憶手段と、取得した前記現時点版顧客注文情報と前記過去の市場価格情報とを比較して、約定確定待ちと推測される確定待ち顧客注文情報を特定して除外し、約定処理が開始されていない顧客注文情報である先行版顧客注文情報を作成する推測手段と、を有する注文情報取得システムとしたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記構成に加え、前記推測手段は、前記記憶手段に記憶された前記過去の市場価格情報と現在の市場価格情報を確認し、前記過去の市場価格情報のうちの直近の市場価格及び/又は前記直近の市場価格と現在の市場価格の間の価格に対する顧客注文情報を確定待ち顧客注文情報として特定するように構成された注文情報取得システムとしたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、市場で提示された市場価格から補正した提示価格を客側に示すプライシング決定システムであって、前記市場価格に対して、予測される約定数量分補正した価格を前記提示価格とする提示価格決定手段を有しており、前記提示価格決定手段は、前記市場価格を取得する市場価格情報取得手段と、顧客からの注文がまとめられた顧客注文情報を参照する顧客注文情報参照手段と、を有し、前記市場価格情報取得手段で取得した前記市場価格に対して、前記顧客注文情報参照手段で取得した前記顧客注文情報に基づいて予測される約定数量に応じて価格の補正を行って、前記提示価格を決定するようになっており、前記顧客注文情報として、上記注文情報取得システムを用いて取得した先行版顧客注文情報を用いて、市場で提示された前記市場価格から客側に示す前記提示価格の補正幅を変更させるように構成されたプライシング決定システムとしたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、金融商品の取引を行う金融商品取引管理装置であって、金融商品の注文を行うための注文情報を生成する注文情報生成手段と、前記注文情報生成手段が生成した前記注文情報のうち、所定の条件を満たす既存の前記注文としての既存注文の取引を行うための既存の前記注文情報として生成された既存注文情報を記録する既存注文情報記録手段と、前記金融商品の相場価格の情報を取得する相場価格情報取得手段と、前記金融商品の所定の注文の取引と前記相場価格の変動とによって、前記金融商品の取引を行う金融商品取引業者が損失を被るリスクであって、前記既存注文情報を用いた所定の処理が行われることで限定的なものにできる前記リスクとしての所定のリスクについて、該所定のリスクに対する前記所定の処理を行う必要があるか否かを評価するリスク評価手段とを備えており、前記リスク評価手段は、前記既存注文情報として、上記注文情報取得システムを用いて取得した先行版顧客注文情報を用いて、リスクの評価を行うように構成された金融商品取引管理装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、顧客注文情報により取引が行われる注文について、当該顧客注文情報として、より新しい顧客注文情報を取得することで、より正確な情報を基に取引を行うことができ、その結果、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引を実現することができる。
【0013】
また、本発明によれば、直近の市場価格や当該直近の市場価格と現在の市場価格の間の価格に対する顧客注文情報を確定待ち顧客注文情報として特定して先行版顧客注文情報を作成するため、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引をより確実に実現することができる。
【0014】
また、本発明によれば、客側に示す提示価格を決定するにあたり、顧客注文情報として注文情報取得システムで取得した先行版顧客注文情報を用いることで、より適切なプライシング決定を行うことができ、その結果、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引を実現することができる。
【0015】
また、本発明によれば、金融商品の取引を行う金融商品取引業者が損失を被るリスクの評価を行うにあたり、既存注文情報として注文情報取得システムで取得した先行版顧客注文情報を用いることで、より適切なリスクの評価を行うことができ、その結果、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る注文情報取得システム及びプライシング決定システムのシステム構成図及び機能ブロック図である。
図2】同実施の形態のプライシング決定システムにおける金融機関から提示されるリクイディティ量に対する顧客に提示するスプレッドを示す説明図である。
図3】同実施の形態のプライシング決定システムにおける処理手順を示すフローチャートである。
図4】同実施の形態の注文情報取得システムの顧客注文情報の説明図である。
図5】同実施の形態の注文情報取得システムの市場価格情報の説明図である。
図6】同実施の形態の注文情報取得システムにおける処理手順を示すフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施の形態の口座状況表示装置を含む、金融商品取引管理システム及び金融商品取引管理装置の、システム構成図及び機能ブロック図である。
図8】同上金融商品取引管理装置における処理手順を示すフローチャートである。
図9】同上金融商品取引管理装置のステップS1003の手順詳細を示すフローチャートである。
図10】同上金融商品取引管理装置における、新注文が約定しポジションが発生した際の(a)既存注文情報記録部及び売りの既存注文情報の概念図、(b)タイムチャートである。
図11】同上金融商品取引管理装置における、新注文のポジションが保有された際の(a)既存注文情報記録部及び売りの既存注文情報の概念図、(b)タイムチャートである。
図12】同上金融商品取引管理装置における、新注文のポジションが決済された際の(a)既存注文情報記録部及び売りの既存注文情報の概念図、(b)タイムチャートである。
図13】同上金融商品取引管理装置における、新注文のポジションが決済された際の(a)既存注文情報記録部及び売りの既存注文情報の概念図、(b)タイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の発明の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
[システム構成]
図1乃至図6に、本発明の第1の実施の形態を示す。
【0019】
図1は、本実施の形態の注文情報取得システム及びプライシング決定システムのシステム構成図及び機能ブロック図である。同図に示すとおり、プライシング決定システム1Aは、提示価格決定手段としての金融商品取引管理装置1と、n個(n≧1)のクライアント端末2,2,・・・2と、銀行システム3とを備えている。金融商品取引管理装置1とクライアント端末2,2,・・・2と銀行システム3とは、WAN(Wide Area Network)としてのネットワーク4を介して相互に交信可能である。本実施の形態のプライシング決定システム1Aは、金融商品として外国為替を取扱う。
【0020】
金融商品取引管理装置1は、金融商品の取引を業務とする金融商品取引業者が管理し運用するサーバコンピュータであり、Webサーバ機能、大容量のデータを保存するデータベース機能を備えている。なお、ここでの「金融商品」とは、相場価格が変動し、売買取引が可能な金融に関する商品であり、たとえば外国為替がこれに該当する。ただし、金融商品取引管理装置1が扱う金融商品は、外国為替以外のどのようなものでもよい。
【0021】
クライアント端末2,2,・・・,2は、金融商品の売買を行う、「顧客」としての個人又は法人が所持し使用する、データ通信機能を有する通信端末である。例えば、クライアント端末2,2,・・・,2は、パーソナルコンピュータ、携帯電話端末等が該当する。なお、「顧客」は、主として取扱業者との間で金融商品の売買取引を行う個人又は法人である。
【0022】
図1には図示しないが、金融商品取引管理装置1、クライアント端末2,2,・・・,2、銀行システム3、それぞれハードウェア構成を備える。このハードウェア構成は、例えば、少なくとも1のCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)、及び、CPUの作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)、起動用ブートプログラム等が記録されたROM(Read Only Memory)である。また例えば、このハードウェア構成は、各種プログラムやデータ等が記録されるハードディスク等の補助記憶装置、データの送受信に用いる通信インターフェース等である。補助記憶装置には、OS(Operating System)用プログラム、各種アプリケーションプログラム、データベースに記録されたデータ等が記録されており、これらのプログラムやデータはCPUの演算処理により、ハードウェア資源と協働して各種機能を実現する。
【0023】
なお、金融商品取引管理装置1、銀行システム3は、1のサーバコンピュータによって形成されていても、複数のネットワークコンピュータシステムによって形成されていてもよい。また、金融商品取引管理装置1、銀行システム3は、クラウドコンピュータシステム等、ネットワーク4上に分散配置された複数のハードウェアによって構成されていてもよい。
【0024】
図1に示すとおり、クライアント端末2には、マウスやキーボード等各種指示を入力するために用いられる操作部21、LCD(Liquid Crystal Display)等からなり操作部21から入力された各種指示等や各種画像を表示する表示部22を有している。クライアント端末2の操作部21と表示部22は、指やタッチペン等のポインティングデバイスの接触位置の座標情報等に基づいて各種入力を行う、タッチパネル式のディスプレイとして構成されていてもよい。図示しないが、クライアント端末2,・・・2も同様の操作部と表示部とを備える。なお、クライアント端末2,2,・・・2は同じ構成を持つので、以下、区別する必要がある場合を除き、クライアント端末2と記載する。
【0025】
銀行システム3は、銀行等、金融商品取引業者に対してカバー取引を行う業者の扱うコンピュータシステムであり、ネットワークサーバ、データベースサーバの機能を備える。銀行システム3は、機能手段として、金融商品取引管理装置1との間でカバー取引を行う「取引実行手段」としての取引実行部31を備える。
【0026】
[金融商品取引管理装置(提示価格決定手段)の詳細]
図1に示す通り、提示価格決定手段としての金融商品取引管理装置1は、注文管理装置40とディーリング装置50とを備える。注文管理装置40は、主にクライアント端末2とデータや信号の送受信を行い、クライアント端末2を使用する顧客からの注文を受ける処理や、顧客に対する約定した注文を報告する処理等を行う。ディーリング装置50は、主に銀行システム3とデータや信号の送受信を行い、銀行システム3との間で、金融商品の約定に伴うカバー取引を行うための処理等を行う。注文管理装置40とディーリング装置50とは、別個のコンピュータシステムによって形成されてもよいし、同一のコンピュータシステムによって形成されてもよい。
【0027】
また、注文管理装置40は、本発明の注文情報取得システムとしても機能するようになっている。
【0028】
注文管理装置40は、上述した各種プログラムとハードウェア資源とに基づいて実現される機能手段を備える。この機能手段は、例えば図1に示す、「顧客注文情報生成手段」としての顧客注文情報生成部41、「提示価格補正手段」としての提示価格補正部42、「市場価格情報取得手段」及び「記憶手段」としての相場価格情報取得部43、「約定情報処理手段」としての約定情報処理部44、「顧客注文情報参照手段」,「取得手段」及び「推測手段」としての顧客注文情報記録部45である。
【0029】
顧客注文情報生成部41は、顧客の指示に基づいて前記金融商品の注文を行うための顧客注文情報を生成する。
【0030】
相場価格情報取得部43は、金融商品取引管理装置1にて扱う金融商品の現在及び過去の相場価格(市場価格)の情報を取得する。相場価格情報取得部43は、取得した相場価格の情報に対し、注文管理装置40で用いるために必要な処理と管理を行う。相場価格情報取得部43は、ネットワーク4を介した継続的な相場情報の取得等により、金融商品の相場価格の情報を継続的かつ定期的に取得し、取得した相場価格の情報を記録し管理する。また、相場価格情報取得部43は、直近の相場価格の流動性(取引通貨の交換の容易さ)についても取得するようになっている。例えば、図5に示すように、所定時間毎の市場価格情報とそれをグラフ化したものを取得し、市場価格の直近の傾向等を取得するようになっている。
【0031】
約定情報処理部44は、顧客注文情報に基づいて前記注文を約定させる処理を行う。具体的には、約定情報処理部44は、顧客注文情報生成部41が生成した顧客注文情報に基づく顧客注文を約定させる処理、及び、約定させた顧客注文の情報を顧客のクライアント端末2に送るための処理を行う。なお、ここでの「約定」とは、顧客の注文に基づいて金融商品の売買を成立されるための各種の手続並びに処理のことをいう。本実施の形態において約定が成立すると、外国為替の売買が行われる。また、約定情報処理部44は、約定が成立すると、クライアント端末2の表示部22に約定が成立した旨の文字情報等を表示させ、また、売買価格に基づいてクライアント端末の銀行口座の出入金処理を行う。
【0032】
顧客注文情報記録部45は、データベースであり、金融商品取引管理装置1にて用いられるデータを記録する。本実施の形態における顧客注文情報記録部45はリレーショナルデータベースによって形成するが、例えばオブジェクトデータベース等、大量のデータの記録や書換えに適したものであればどのような形式を用いてもよい。
【0033】
顧客注文情報記録部45には、注文テーブル、取引者の口座が存在する金融機関、口座名、残高等の情報を定義する顧客口座情報テーブル、取引される通貨の組合せ等に関する情報を定義する通貨ペア注文条件テーブル、シーケンス番号テーブルが記録されている(各テーブルは図示せず)。
【0034】
また、顧客注文情報記録部45は、図1に示すように、現時点で記録されている顧客注文情報である現時点版顧客注文情報を取得、記録する取得手段451を有しており、さらに、取得した現時点版顧客注文情報と相場価格情報取得部(記憶手段)43で取得した過去の市場価格情報(過去の特定時点から現在までの市場価格情報)とを比較して、約定確定待ちと推測される確定待ち顧客注文情報を特定して除外し、約定処理が開始されていない顧客注文情報である先行版顧客注文情報を作成する推測手段452を有している。
【0035】
また、本実施の形態では、推測手段452は、相場価格情報取得部(記憶手段)43に記憶された過去の市場価格情報と現在の市場価格情報を確認し、過去の市場価格情報のうちの直近(予め定めた特定期間又はその時点での過去の市場価格情報の中で特定の値動きがあった時点からの期間等の適宜の期間)の市場価格及び直近の市場価格と現在の市場価格の間の価格、又は何れか一方に対する顧客注文情報を確定待ち顧客注文情報として特定し、当該確定待ち顧客注文情報を除外して、先行版顧客注文情報を作成するようになっている。
【0036】
例えば、図4に示すような現時点での顧客注文情報(現時点版顧客注文情報)が記録されているときに、図5に示すような過去の市場価格情報を取得した結果、現在130.0円の相場価格であって、直近(例えば過去2秒間)の市場価格情報を参照すると、129.6円~130.0円の間で価格が推移していると判明したときには、現時点版顧客注文情報に記録されている顧客注文情報のうち、129.6円~129.9円の顧客注文情報については、約定処理が行われていることが推測される。そのため、約定処理が終了した時点で当該顧客注文情報は削除されると推測されることから、顧客注文情報から当該価格の顧客注文情報を確定待ち顧客注文情報として特定し、これら確定待ち顧客注文情報を除外した顧客注文情報を先行版顧客注文情報として作成し、この先行版顧客注文情報を用いてプライシング決定やカバー取引を行うようにするものである。このように、不要な情報を除外して必要な情報のみで構成される先行版顧客注文情報を用いることで、より正確な情報を基に処理、取引を行うことができる。
【0037】
提示価格補正部42は、相場価格情報取得部43で取得した相場価格(市場価格)に対して、顧客注文情報記録部45に記録した顧客注文情報に基づいて予測される約定数量に応じて、価格の補正を行い、客側に示す提示価格を決定するものである。ここでは、提示価格補正部42は、相場価格情報取得部43で取得した相場価格に対して、顧客注文情報に基づいて予測される約定数量と、市場(主に銀行等の金融機関)から提示される相場価格の流動性との差分に応じて価格の補正を行って、提示価格を決定するようになっている。
【0038】
また、その際、顧客注文情報として、推測手段452において、取得手段451で取得した現時点版顧客注文情報と相場価格情報取得部(記憶手段)43で取得した過去の市場価格情報とを比較して、約定確定待ちと推測される確定待ち顧客注文情報を特定して除外し、約定処理が開始されていない顧客注文情報である先行版顧客注文情報を取得して用いるようになっている。このように不要な情報を除外して必要な情報のみで構成される先行版顧客注文情報を用いて、価格の補正を行って提示価格を決定することで、より正確な情報を基に取引を行うことができる。
【0039】
また、提示価格補正部42での価格補正について詳述すると、相場価格情報取得部43で取得した、市場から提示される相場価格の流動性(リクイディティ量)に基づいて、当該リクイディティ量に対して顧客注文情報(買い注文、売り注文)量が多いか少ないか、すなわちリクイディティ差分(=顧客注文情報量-市場が提示するリクイディティ量)によって、当該相場価格に対する顧客への提示価格の買値Askと売値Bidの差分であるスプレッド差分(=顧客への提示価格-相場価格)を拡大させたり縮小させたりするようになっている。これにより、顧客注文情報に基づく約定数量と相場価格の流動性との差分に応じた価格補正を行うようになっている。
【0040】
例えば、図2のAに示すように、市場から提示されるリクイディティ量に対して顧客注文情報量が多い場合には、顧客に提示するスプレッドが市場価格に比べて拡大するように価格補正を行う。これにより、リクイディティ量に対する顧客注文情報量の多さを補うように取引(約定取引、カバー取引)を行うことができるようになっている。
【0041】
また逆に、図2のBに示すように、市場から提示されるリクイディティ量に対して顧客注文情報量が少ない場合には、顧客に提示するスプレッドが市場価格に比べて縮小するように価格補正を行う。これにより、リクイディティ量に対する顧客注文情報量の少なさを考慮した取引(約定取引、カバー取引)を行うことができるようになっている。
【0042】
なお、上記補正は、指値買い注文、指値売り注文の他、逆指値買い注文や逆指値売り注文と相場価格の流動性の間においても適用されるものである。また、指値注文や逆指値注文のように予め注文情報が記録されているものの他、成行注文のようなその場で注文が決定されるものの約定数量を参照して価格補正が行われるようになっていても良い。この場合、成行注文は正確な数量が予め決定されているものではないが、市場の流動性や過去の記録等から当該価格付近での注文数量を予測して価格補正に反映させるようにするものである。
【0043】
ディーリング装置50は、上述した各種プログラムとハードウェア資源とに基づいて実現される機能手段として、サマリ情報管理部51、カバー取引部52を備える。
【0044】
サマリ情報管理部51は、約定処理が行われた顧客注文情報(指値、逆指値、成行含む)から生成されたサマリ情報511を取得し、記録する。なお、場合によっては、約定処理が行われる前又は約定処理と並行して顧客注文情報(指値、逆指値、成行含む)をディーリング装置50のサマリ情報管理部51に送るようになっていても良い。
【0045】
カバー取引部52は、サマリ情報管理部51が取得して記録されたサマリ情報511に基づいて、銀行システム3に対してカバー取引を実行するための各種処理を行う。
【0046】
なお、本実施の形態では、注文管理装置40内の相場価格情報取得部43と顧客注文情報記録部45の情報を用いて同じく注文管理装置40内の提示価格補正部42で価格の法制を行って提示価格を表示するように構成されているが、この構成と処理のみには限定されない。
【0047】
例えば、上記した相場価格情報取得部43、顧客注文情報記録部45、提示価格補正部42の何れか又は全てが注文管理装置40以外の装置に配設されていても良い。また、相場価格情報取得部43、顧客注文情報記録部45の中で、価格補正に関わる機能のみが別の装置に配設されるようになっているものでも良い。例としては、上記装置がディーリング装置50内に配設されるような構成であっても良い。
【0048】
なお、買いの顧客注文情報、売りの顧客注文情報は、主として指値注文の取引を行うための情報である。ただし、指値注文以外の注文、例えば、相場価格が特定の価格になったのを契機に成行注文の発注と約定を行うトリガー成行注文や、通常の成行注文であってもよい。
【0049】
[処理手順]
図3は、本実施の形態のプライシング決定システムにおける処理手順を示すフローチャート、図6は、本実施の形態の注文情報取得システムにおける処理手順を示すフローチャートである。以下、これらのフローチャートに基づいて本実施の形態における処理手順を説明する。
【0050】
まず、金融商品取引管理装置1における注文管理装置40の顧客注文情報記録部45の取得手段451が、現時点でデータベースに記録されている現時点版顧客注文情報を取得する(図6のステップS11)。
【0051】
次に、金融商品取引管理装置1における注文管理装置40の相場価格情報取得部43から、直近(予め定められた又は都度特定する特定期間)の市場価格情報を取得する(図6のステップS12)。
【0052】
その後、金融商品取引管理装置1における注文管理装置40の顧客注文情報記録部45の推測手段452が、取得した現時点版顧客注文情報と市場価格情報から約定処理中であると推測される確定待ち顧客注文情報を特定する(図6のステップS13)。
【0053】
そして、金融商品取引管理装置1における注文管理装置40の顧客注文情報記録部45の推測手段452が、現時点版顧客注文情報から確定待ち顧客注文情報を除外した先行版顧客注文情報を作成する(図6のステップS14)。
【0054】
このようにして先行版顧客注文情報を作成し、当該先行版顧客注文情報を用いてプライシング決定を行うことで、より正確な情報を基に処理、取引を行うことができる。
【0055】
そして、この先行版顧客注文情報を用いて、金融商品取引管理装置1における注文管理装置40の顧客注文情報生成部41が、顧客からの指示により金融商品の買いや売りの取引を行うための買いや売り注文情報を生成し、顧客注文情報記録部45に買いの顧客注文情報、売りの顧客注文情報として記録しておく。この状態で、金融商品取引管理装置1による金融商品の取引が開始され、図3に示す処理手順が開始される。
【0056】
金融商品取引管理装置1における注文管理装置40の相場価格情報取得部43は、金融商品の相場情報を継続的に取得する(ステップS1)。約定情報処理部44は、相場価格情報取得部43が取得した金融商品の相場価格を継続的に監視する。また、相場価格情報取得部43は、市場における相場価格の流動性(リクイディティ量)の情報も取得している。
【0057】
次に、金融商品取引管理装置1における注文管理装置40の顧客注文情報記録部45が、相場価格に応じた価格における顧客注文情報を取得し、当該相場価格における約定数量を取得する(ステップS2)。
【0058】
そして、金融商品取引管理装置1における注文管理装置40の提示価格補正部42にて、S1,S2それぞれの情報を取り込み、相場価格に対する約定数量に応じた価格補正を行う(ステップS3)。これにより、例えば、市場から提示される相場価格の流動性(リクイディティ量)に基づいて、当該リクイディティ量に対して顧客注文情報(買い注文、売り注文)量が多いか少ないか、すなわちリクイディティ差分(=顧客注文情報量-市場が提示するリクイディティ量)によって、当該相場価格に対する顧客への提示価格の買値Askと売値Bidの差分であるスプレッド差分(=顧客への提示価格-相場価格)を拡大させたり縮小させたりするようになっている。これにより、顧客注文情報に基づく約定数量と相場価格の流動性との差分に応じた価格補正を行うようになっている。
【0059】
このときの価格補正の変動幅としては、図2のAに示すように、市場から提示されるリクイディティ量に対して顧客注文情報量が多い場合には、顧客に提示するスプレッドが市場価格に比べて拡大するように価格補正を行う。これにより、リクイディティ量に対する顧客注文情報量の多さを補うように取引(約定取引、カバー取引)を行うことができるようになっている。また逆に、図2のBに示すように、市場から提示されるリクイディティ量に対して顧客注文情報量が少ない場合には、顧客に提示するスプレッドが市場価格に比べて縮小するように価格補正を行う。これにより、リクイディティ量に対する顧客注文情報量の少なさを考慮した取引(約定取引、カバー取引)を行うことができるようになっている。
【0060】
その後、価格補正した提示価格をシステムにて表示する処理を行う(ステップS4)。
【0061】
[実施の形態が適用される取引形態例(1:概説)]
本実施の形態のプライシング決定システム1A及び金融商品取引管理装置(提示価格決定手段)1は、顧客注文情報記録部45に買いの顧客注文情報、売りの顧客注文情報が記録される形態の取引に適用されることが考えられる。例えば、金融商品取引管理装置1において、指値注文の取引や、逆指値注文の取引や、トリガー成行注文の取引を行う場合に、本実施の形態を適用することが考えられる。
【0062】
金融商品取引管理装置1を用いて指値注文や逆指値注文やトリガー成行注文を行う場合、提示価格のスプレッドを顧客注文情報の約定数量と相場価格の流動性(リクイディティ量)との差分に応じて補正するようになっているため、リクイディティ量に対する顧客注文情報量が多いときには、その多さを補うように取引(約定取引、カバー取引)を行うことができるようになっている。また、リクイディティ量に対する顧客注文情報量が少ないときには、その少なさを考慮した取引(約定取引、カバー取引)を行うことができるようになっている。これにより、約定させる注文のカバー取引におけるリスクを小さくできる。
【0063】
[実施の形態が適用される取引形態例(2:具体例)]
上記(1)に概説した、金融商品取引管理装置1において指値注文の取引やトリガー成行注文の取引を行う場合としては、例えば下記[具体例1]-[具体例3]に示すような取引が考えられる。[具体例1]-[具体例3]は、全て指値注文であってもよいし、全てトリガー成行注文であってもよいし、指値注文とトリガー成行注文が混合していてもよい。また、取引を行うための顧客注文情報が複数生成される場合、全ての取引を開始する前に全ての顧客注文情報が生成されてもよいし、少なくとも一部の顧客注文情報が取引開始後の所定のタイミングや任意のタイミングで生成されてもよい。
【0064】
[具体例1:トラップトレード]
これは、同一種類の複数の金融商品について、複数の注文価格に一度に設定した複数の買い注文や、複数の注文価格に一度に設定した複数の売り注文によって発注と約定とを行わせる取引方法である。一度に設定した複数の買い注文や複数の売り注文は、それぞれ同一の注文金額で、注文同士の値幅が同一に設定されることが考えられるが、少なくとも一部の注文金額や少なくとも一部の注文同士の値幅が他と相違してもよい。それらの買い注文や売り注文のうちの少なくとも一部が、第一注文と、第一注文の約定によって発注される第二注文と(イフダン注文。以下単に「イフダン注文」と称する。)を構成して、1回のイフダン注文を行うように構成してもよい。
【0065】
[具体例2:トラップリピートイフダン]
これは、同一種類の複数の金融商品について、第一注文と第二注文とのイフダン注文の組み合わせを複数設定して取引を行う方法である。ここでは、第一注文とそれに対応する第二注文とが約定すると、約定した第一注文に対応する新たな第一注文と約定した第二注文に対応する新たな第二注文とによるイフダン注文が繰り返し行われる。設定される第一注文同士の値幅と第二注文同士の値幅は原則一定であり、設定されるそれぞれの第一注文と対応するそれぞれの第二注文との利幅も原則一定である。ただし、少なくとも一部の値幅や少なくとも一部の値幅が他の値幅や他の利幅と相違するように設定されていてもよい。
【0066】
[具体例3:らくトラ]
これは、「トラップリピートイフダン」としての取引を行うための第一注文や第二注文を、所定の上限価格や所定の下限価格との間に設定する取引方法である。上限価格や下限価格の間に複数の第一注文や複数の第二注文を設定する場合、第一注文や第二注文のうち最高値のものを上限価格に一致させたり最安値のものを下限価格に設定させたりしてもよい。また、第一注文や第二注文の最安値のものを下限価格に一致させ、逆に第二注文や第一注文の最高値のものを上限価格に一致させてもよい。また、上限価格と下限価格の中間の価格に、全ての第一注文の注文価格の平均値や全ての第二注文の注文価格の平均値や全ての第一注文及び全ての第二注文の注文価格の平均値を一致させてもよい。
【0067】
なお、上記[具体例1]-[具体例3]は本実施の形態の適用の例であり、上記[具体例1]-[具体例3]以外のいかなる取引形態でも、本実施の形態の金融商品取引管理装置1を適用できる。
【0068】
また、上記[具体例1]-[具体例3]では、なお、イフダン注文の第一注文が買い注文、第二注文が売り注文の場合について説明したが、これに限定されず、イフダン注文の第一注文が売り注文、第二注文が買い注文の場合にも適用可能である。
【0069】
[作用効果]
以上、本実施の形態によれば、顧客注文情報により取引が行われる注文について、当該顧客注文情報として、より新しい顧客注文情報を取得することで、より正確な情報を基に取引を行うことができ、その結果、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引を実現することができる。
【0070】
また、本実施の形態によれば、直近の市場価格や当該直近の市場価格と現在の市場価格の間の価格に対する顧客注文情報を確定待ち顧客注文情報として特定して先行版顧客注文情報を作成するため、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引をより確実に実現することができる。
【0071】
また、本実施の形態によれば、客側に示す提示価格を決定するにあたり、顧客注文情報として注文情報取得システムで取得した先行版顧客注文情報を用いることで、より適切なプライシング決定を行うことができ、その結果、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引を実現することができる。
【0072】
[その他]
上記実施の形態においては、いわゆるOCO注文であってもよい。また、相場が一次中断後再開したときにいわゆる「板寄せ方式」、つまり、相場中断から再開までの価格帯にイフダン注文の第二注文(又は第一注文)が存在する場合、その第二注文に対応する第一注文(又はその第一注文に対応する第二注文)をで買い・売りの顧客注文情報を約定させる構成であってもよい。この「板寄せ方式」とは、相場中断から再開までの価格帯にイフダン注文の第二注文(又は第一注文)が存在する場合に適用される。この場合、その第二注文に対応する第一注文(又はその第一注文に対応する第二注文)を相場中断時の注文価格から相場再開時の注文価格に変更して取引を行う。
【0073】
上記実施の形態においては、金融商品として外国為替を取扱うものとしたが、これに限定されず、例えば株式、債券、投資信託、不動産投資信託、コモディティ(商品)、暗号資産、仮想通貨、等、どのような金融商品を取扱う金融商品取引システムにおいて本発明を適用してもよい。
【0074】
上記実施の形態においては、プライシング決定システム1Aが1つの金融商品取引管理装置1を備えた構成として説明した。しかし、これに限らず、複数の金融商品取引管理装置によって構成し、そのうちの少なくとも一部の金融商品取引管理装置がいわゆる取引所に設けられている構成であってもよい。
【0075】
上記実施の形態においては、「約定量の情報」と「注文の数量の情報」をサマリ情報511に含まれる注文の数量の情報や相殺情報512などとしたが、これに限定されない。例えば、「約定量の情報」が注文の数量の情報以外の金融商品の約定対象の分量や計測単位などであってもよい。
【0076】
上記実施の形態においては、全ての機能手段が金融商品取引管理装置1に設けられた構成としたが、これらのうちの少なくとも一部の構成がクライアント端末2に設けられた構成であってもよい。
【0077】
上記実施の形態においては、プライシング決定システム1Aをネットワークコンピュータシステムのクライアント・サーバシステムにおいて実現した。しかし、クライアント・サーバシステムを構成しないパーソナルコンピュータ等の各種コンピュータや、携帯端末やタブレット等の各種通信端末・携帯情報端末においてプライシング決定システム1Aと同じ機能を実現させることもできる。この際、金融商品取引管理装置1やプライシング決定システム1Aのシステム構成の少なくとも一部をコンピュータプログラムとして構成し、当該プログラムを各種コンピュータや各種通信端末・携帯情報端末に実装することで実現させることも可能である。
【0078】
上記実施の形態は本発明の例示であり、本発明が上記実施の形態のみに限定されることを意味するものではないことは、いうまでもない。
【0079】
[第2の発明の実施の形態]
以下、本発明の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0080】
上記第1の実施の形態では、本発明の注文情報取得システムをプライシング決定システムに適用させる例について説明したが、本実施の形態では、本発明の注文情報取得システムを以下の金融商品取引管理装置(システム)に適用させた場合について説明する。
【0081】
ここでは、金融商品の取引を行う金融商品取引管理装置であって、金融商品の注文を行うための注文情報を生成する注文情報生成手段と、前記注文情報生成手段が生成した前記注文情報のうち、所定の条件を満たす既存の前記注文としての既存注文の取引を行うための既存の前記注文情報として生成された既存注文情報を記録する既存注文情報記録手段と、前記金融商品の相場価格の情報を取得する相場価格情報取得手段と、前記金融商品の所定の注文の取引と前記相場価格の変動とによって、前記金融商品の取引を行う金融商品取引業者が損失を被るリスクであって、前記既存注文情報を用いた所定の処理が行われることで限定的なものにできる前記リスクとしての所定のリスクについて、該所定のリスクに対する前記所定の処理を行う必要があるか否かを評価するリスク評価手段とを備えたことを特徴とする金融商品取引管理装置における前記既存注文情報として、現在の前記既存注文情報(上記第1の実施の形態の現時点版顧客注文情報に相当)の代わりに、上記第1の実施の形態の先行版顧客注文情報を取得して使用するようになっていても良い。
【0082】
このとき、前記リスク評価手段は、前記金融商品取引業者が保有するポジションが前記金融商品取引業者にとって不利益を生じさせる可能性を前記所定のリスクとし、保有する前記所定のリスクが、限定的なものにできる大きさか否かの評価を行う構成となっていても良い。
【0083】
また、このとき、前記リスク評価手段は、前記既存注文情報記録手段に記録された前記既存注文の注文量に依存して、保有可能な前記所定のリスクの大きさを評価する構成となっていても良い。
【0084】
また、前記リスク評価手段は、前記相場価格が特定の方向に変動した場合に、変動方向に存在する前記既存注文情報を用いて前記所定のリスクが保有可能な大きさか否かを評価する構成となっていても良い。
【0085】
また、前記リスク評価手段は、前記既存注文情報のうち、前記特定の前記注文の取引時の前記相場価格に近い前記既存注文情報から順に用いて、前記所定の処理を行う必要があるか否かを評価する構成となっていても良い。
【0086】
また、前記所定の処理は、前記金融商品取引業者が金融機関に対して前記所定の注文の約定に伴うカバー取引を行うための処理である構成となっていても良い。
【0087】
また、前記所定の注文は成行注文である構成となっていても良い。
【0088】
また、前記所定の処理の実行により、前記リスクを限定的なものとするリスクヘッジの処理を行うリスクヘッジ実行手段を備えた構成となっていても良い。
【0089】
また、前記リスクヘッジ実行手段は、前記リスクヘッジのための前記所定の処理の実行として、前記ディーラーと取引を行う金融機関の管理する金融機関システムに対し、前記所定の注文の約定に伴うカバー取引の処理を行う構成となっていても良い。
【0090】
また、コンピュータをこのような金融商品取引管理装置として機能させるプログラムを有する構成となっていても良い。
【0091】
このような構成の金融商品取引管理装置、プログラムに対して、現時点版顧客注文情報の代わりに先行版顧客注文情報を取得して使用すると、次のような利点を生じることとなる。例えば、特定の注文の取引時の相場価格に近い既存注文情報からリスクを解消又は低減できる注文情報を指定しようとする場合に、現時点版顧客注文情報から指定しようとしたときには、その注文情報は実は約定処理中で既存注文情報から消去されるべきものであるために使用できないものであった、という場合が生じる。このような状況が生じるとシステムが混乱して処理の遅延や不具合が生じる可能性がある。これに対し、所定の注文の取引時の相場価格に近い既存注文情報からリスクを解消又は低減できる注文情報を、先行版顧客注文情報から指定すると、その注文情報からは約定処理中で当該指定に使用できないものは取り除かれた状態となっていてより新しい先行版のデータとなっているため、確実に迅速にリスクを解消又は低減できる注文情報を指定することができ、システムを正常に迅速に作動させることができるものである。以下、金融商品取引管理装置について詳細に説明する。
【0092】
[システム構成]
図7乃至図13に、本発明の第2の実施の形態を示す。
【0093】
図7は、本実施の形態の金融商品取引管理システム及び金融商品取引管理装置のシステム構成図及び機能ブロック図である。同図に示すとおり、金融商品取引管理システム1001Aは、金融商品取引管理装置1001と、n個(n≧1)のクライアント端末1002,1002,・・・1002と、「金融機関システム」としての銀行システム1003とを備えている。金融商品取引管理装置1001とクライアント端末1002,1002,・・・1002と銀行システム1003とは、WAN(Wide Area Network)としてのネットワーク1004を介して相互に交信可能である。本実施の形態の金融商品取引管理システム1001Aは、金融商品として外国為替を取扱う。
【0094】
金融商品取引管理装置1001は、金融商品の取引を業務とする金融商品の金融商品取引業者が管理し運用するサーバコンピュータであり、Webサーバ機能、大容量のデータを保存するデータベース機能を備えている。なお、ここでの「金融商品」とは、相場価格が変動し、売買取引が可能な金融に関する商品であり、たとえば外国為替がこれに該当する。ただし、金融商品取引管理装置1001が扱う金融商品は、外国為替以外のどのようなものでもよい。
【0095】
クライアント端末1002,1002,・・・,1002は、金融商品の売買を行う、「顧客」としての個人又は法人が所持し使用する、データ通信機能を有する通信端末である。例えば、クライアント端末1002,1002,・・・,1002は、パーソナルコンピュータ、携帯電話端末等が該当する。なお、「顧客」は、主として取扱業者との間で金融商品の売買取引を行う個人又は法人である。
【0096】
図7には図示しないが、金融商品取引管理装置1001、クライアント端末1002,1002,・・・,1002、銀行システム1003、それぞれハードウェア構成を備える。このハードウェア構成は、例えば、少なくとも1のCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)、及び、CPUの作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)、起動用ブートプログラム等が記録されたROM(Read Only Memory)である。また例えば、このハードウェア構成は、各種プログラムやデータ等が記録されるハードディスク等の補助記憶装置、データの送受信に用いる通信インターフェース等である。補助記憶装置には、OS(Operating System)用プログラム、各種アプリケーションプログラム、データベースに記録されたデータ等が記録されており、これらのプログラムやデータはCPUの演算処理により、ハードウェア資源と協働して各種機能を実現する。
【0097】
なお、金融商品取引管理装置1001、銀行システム1003は、1のサーバコンピュータによって形成されていても、複数のネットワークコンピュータシステムによって形成されていてもよい。また、金融商品取引管理装置1001、銀行システム1003は、クラウドコンピュータシステム等、ネットワーク1004上に分散配置された複数のハードウェアによって構成されていてもよい。
【0098】
図7に示すとおり、クライアント端末1002には、マウスやキーボード等各種指示を入力するために用いられる操作部1021、LCD(Liquid Crystal Display)等からなり操作部1021から入力された各種指示等や各種画像を表示する表示部1022を有している。クライアント端末1002の操作部1021と表示部1022は、指やタッチペン等のポインティングデバイスの接触位置の座標情報等に基づいて各種入力を行う、タッチパネル式のディスプレイとして構成されていてもよい。図示しないが、クライアント端末1002,・・・1002も同様の操作部と表示部とを備える。なお、クライアント端末1002,1002,・・・1002は同じ構成を持つので、以下、区別する必要がある場合を除き、クライアント端末1002と記載する。
【0099】
銀行システム1003は、金融商品取引業者がカバー取引を行う「金融機関」としての業者、例えば銀行等の金融業者、の扱うコンピュータシステムであり、ネットワークサーバ、データベースサーバの機能を備える。銀行システム1003は、機能手段として、金融商品取引管理装置1001との間でカバー取引を行う「取引実行手段」としての取引実行部1031を備える。
【0100】
[金融商品取引管理装置の詳細]
図7に示す通り、金融商品取引管理装置1001は、顧客注文管理装置1040とディーリング装置1050とを備える。顧客注文管理装置1040は、主にクライアント端末1002とデータや信号の送受信を行い、クライアント端末1002を使用する顧客からの注文を受ける処理や、顧客に対する約定した注文を報告する処理等を行う。ディーリング装置1050は、主に銀行システム1003とデータや信号の送受信を行い、銀行システム1003との間で、金融商品の約定に伴うカバー取引を行うための処理等を行う。顧客注文管理装置1040とディーリング装置1050とは、別個のコンピュータシステムによって形成されてもよいし、同一のコンピュータシステムによって形成されてもよい。
【0101】
顧客注文管理装置1040は、上述した各種プログラムとハードウェア資源とに基づいて実現される機能手段を備える。この機能手段は、例えば図7に示す、「注文情報生成手段」としての注文情報生成部1041、「相場価格情報取得手段」としての相場価格情報取得部1042、約定情報処理部1043、「既存注文情報記録手段」としての既存注文情報記録部1044である。
【0102】
注文情報生成部1041は、顧客の指示に基づいて前記金融商品の注文を行うための注文情報を生成する。
【0103】
相場価格情報取得部1042は、金融商品取引管理装置1001にて扱う金融商品の相場価格の情報を取得する。相場価格情報取得部1042は、取得した相場価格の情報に対し、顧客注文管理装置1040で用いるために必要な処理と管理を行う。相場価格情報取得部1042は、ネットワーク1004を介した継続的な相場情報の取得等により、金融商品の相場価格の情報を継続的かつ定期的に取得し、取得した相場価格の情報を記録し管理する。
【0104】
約定情報処理部1043は、注文情報に基づいて前記注文を約定させる処理を行う。具体的には、約定情報処理部1043は、注文情報生成部1041が生成した注文情報に基づく顧客注文を約定させる処理、及び、約定させた顧客注文の情報を顧客のクライアント端末1002に送るための処理を行う。なお、ここでの「約定」とは、顧客の注文に基づいて金融商品の売買を成立させるための各種の手続並びに処理のことをいう。本実施の形態において約定が成立すると、外国為替の売買が行われる。また、約定情報処理部1043は、約定が成立すると、クライアント端末1002の表示部1022に約定が成立した旨の文字情報等を表示させ、また、売買価格に基づいてクライアント端末の銀行口座の出入金処理を行う。
【0105】
既存注文情報記録部1044は、データベースであり、金融商品取引管理装置1001にて用いられる「既存注文情報」のデータが記録される。この「既存注文情報」については後述する。
【0106】
本実施の形態における既存注文情報記録部1044はリレーショナルデータベースによって形成するが、例えばオブジェクトデータベース等、大量のデータの記録や書換えに適したものであればどのような形式を用いてもよい。既存注文情報記録部1044には、「既存注文情報」の他にも、注文テーブル、取引者の口座が存在する金融機関、口座名、残高等の情報を定義する顧客口座情報テーブル、取引される通貨の組合せ等に関する情報を定義する通貨ペア注文条件テーブル、シーケンス番号テーブルが記録されている(各テーブルは図示せず)。
【0107】
ディーリング装置1050は、上述した各種プログラムとハードウェア資源とに基づいて実現される機能手段として、カバー取引部1051、「リスク評価手段」としてのリスク評価部1052、「リスクヘッジ実行手段」としてのリスクヘッジ実行部1053を備える。
【0108】
カバー取引部1051は、銀行システム1003に対してカバー取引を実行するための各種処理を行う。
【0109】
リスク評価部1052は、所定のリスクに対する所定の処理を行う必要があるか否かを評価する。この「所定のリスク」及び「所定の処理」については後述する。
【0110】
リスクヘッジ実行部1053は、リスク評価部1052においてリスクヘッジが必要と評価された注文について所定の処理を行う。
【0111】
[既存注文情報]
本実施の形態における「既存注文情報」は、顧客から発注された、現在約定する注文や将来約定する予定の注文を金融商品取引管理装置1001で取引するための情報である。
【0112】
図7、及び図10乃至図13の(a)に、本実施の形態の金融商品取引管理装置1001における、既存注文情報記録部1044に記録された既存注文情報を模式的に示す。
【0113】
本実施の形態において、既存注文情報は、顧客から発注された、発注時以降の時間に発注や約定が行われる金融商品の注文情報である。既存注文情報は、たとえば指値注文の注文情報である。ただし、既存注文情報は逆指値注文や成行注文であってもよい。また、既存注文情報を構成する成行注文は、いわゆる「トリガー成行注文」のような、金融商品が特定の相場価格になったことを契機に発注されるように設定された成行注文であってもよい。
【0114】
図7に模式的に示すように、既存注文情報記録部1044には、複数の既存注文情報、たとえば、買いの既存注文情報1441、売りの既存注文情報1442が記録されている。買いの既存注文情報1441、売りの既存注文情報1442とも、複数の注文価格(たとえば、米ドル/日本円の場合、1ドル90.90円、1ドル91.00円・・・1ドル99.90円、1ドル100.00円・・・など)の注文の発注や約定等の取引を電子的に行うデータである。
【0115】
買いの既存注文情報1441、売りの既存注文情報1442は、それぞれ、金融商品取引管理装置1001が複数の顧客から受領した金融商品の複数の注文に関する情報である。ただし、買いの既存注文情報1441、売りの既存注文情報1442の一方又は双方が一の顧客から注文されたもののみでもよい。また、買いの既存注文情報1441、売りの既存注文情報1442のうち一方又は双方が一つの顧客注文のみでもよい。
【0116】
買いの既存注文情報1441、売りの既存注文情報1442は、注文価格の情報の他に、注文した顧客を特定する情報、発注日時や約定日時を示す情報、発注状態や約定状態等を示す情報等を属性情報として含むことが考えられる。
【0117】
本実施の形態においては、買い・売りの既存注文情報1441,1442は、顧客に対して2Wayプライスとして(特定の相場価格に対して)相違する買いの注文価格(Ask)と売りの注文価格(Bid)として提示される。この2Wayプライスは、取引が行われる金融商品の現在の買値(Ask)と現在の売値(Bid)の両方を示している。
【0118】
この2Wayプライスは、たとえば、1ドル99.00円-100.00円(bid-ask)の相場価格のように示される。実際の運用の際は、これが複数の価格帯として1ドル100.01円-101.00円、1ドル101.01円-102.00円、1ドル102.01円-103.00円(いずれもbid-ask)、のように、複数の価格帯として設定される。
【0119】
また、複数の2Wayプライスの買値同士や売値同士は原則的には全て同じ値幅であることが想定されるが、必ずしもこれのみに限定されない。例えば、複数の2Wayプライスの買値同士や売値同士は、買いの既存注文情報1441、売りの既存注文情報1442に設定された約定価格を変動させるトレール幅の情報や約定時のスリッページの情報などに依存して、取引開始後に個別に変動するように構成されていてもよい。
【0120】
なお、図10乃至図13の(a)は、説明の簡略化のため、買いの既存注文情報1441、売りの既存注文情報1442のうち、売りの既存注文情報1442のみを示してある。
【0121】
[新注文]
本実施の形態において、金融商品取引管理装置1001は、「所定の注文」としての新注文(以下「新注文」と称する。)の取引を行う。
【0122】
本実施の形態の新注文とは、取引開始後に顧客から新たに発注された金融商品の注文であり、買い注文でも売り注文でもよい。新注文の金融商品の種類は、基本的に既存注文の金融商品の種類と同じ(例えば米国ドルと日本円の通貨ペアなど)であるが、既存注文と異なる種類の金融商品でもよい。新注文は成行注文であることが考えられる。ただし、新注文は指値注文や逆指値注文でもよいし、上述した「トリガー成行注文」のような成行注文でもよい。
【0123】
[リスクヘッジ]
本実施の形態において、リスク評価部1052は、既存注文情報を用いたリスクヘッジを行う。リスク評価部1052のリスクヘッジは、新注文を約定させる処理を行った場合に、「所定のリスク」について、「所定の評価」を行うことで、新注文の約定で生じるリスクを評価し、その後の処理を決定することで行われる。
【0124】
[所定のリスク]
本実施の形態において、リスク評価部1052は「所定のリスク」についての評価を行う。この「所定のリスク」とは、金融商品取引業者が顧客の新注文を約定させてポジションを保有することで金融商品取引業者に発生する損失発生のリスクのことである。「所定のリスク」は、約定させた新注文を金融商品取引業者が金融機関等にカバー取引を行わずにいる間金融商品取引業者が保有し続ける。
【0125】
ただし、リスク評価部1052は、金融商品取引管理装置1001における金融商品の取引で発生するリスクであれば、新注文以外の注文において発生する取引のリスクを「所定のリスク」として扱ってもよい。
【0126】
例えば、リスク評価部1052は、新注文以外の注文、例えば「既存注文情報」に基づいて取引が行われる注文の約定によって発生するポジションの保有や、それ以外の注文の約定によって発生するポジションの保有を「所定のリスク」として扱ってもよい。また、リスク評価部1052は、注文の約定により発生するポジションの保有以外のいかなる取引のリスクを「所定のリスク」として扱ってもよい。また例えば、リスク評価部1052は、新注文における約定以外の取引、例えば注文の発注によって発生するリスクを「所定のリスク」として扱ってもよい。
【0127】
[所定の評価]
本実施の形態において、リスク評価部1052は「所定の評価」を行う。この「所定の評価」とは、金融商品取引業者が金融商品の取引を行うことで発生するリスクに対し、リスクをヘッジ(回避)できる可能性に関する評価である。
【0128】
例えば、リスク評価部1052は、「所定の評価」として、金融商品取引業者が特定の新注文の約定により発生して金融商品取引業者が保有したポジションにより、金融商品取引業者に損失が発生するリスクの大きさや、金融商品取引業者が損失の発生を回避できる可能性に関する評価を行う。
【0129】
例えば、「所定の評価」にあたり、リスク評価部1052は、相場価格情報取得部1042が取得した金融商品の相場価格情報をリアルタイムで取得する。そして、リスク評価部1052は、新注文の発注価格や約定価格と、約定後の金融商品のリアルタイムの相場価格とを対比する。さらに、リスク評価部1052は、リアルタイムの相場価格が新注文の発注価格や約定価格より「損失発生方向」に変動した場合は、既存注文情報1441,1442が存在するか否かを確認する。
【0130】
この「損失発生方向」とは、新注文の発注時や約定時の金融商品の相場価格と、金融商品取引業者が銀行等に新注文の約定に伴うカバー取引を行う際の金融商品の相場価格との差し引きを行った際、金融商品取引業者に損失が発生する方向である(以下単に「損失発生方向」と称する。)。
【0131】
損失発生方向は、新注文の売買条件によって決まる。例えば、新注文が買い注文の場合は新注文の約定時(図10図13の時点t1)から任意の時間が経過した時(図11図13の時点t2)での相場価格の安値側への変動が損失発生方向で、新注文が売り注文の場合は相場価格の高値側への変動が損失発生方向である。なお、本実施の形態では、新注文の約定時以外の時点が基準の場合も含め、一の時点から、他の時点までの相場価格の変動方向を、総じて「損失発生方向」「損失発生方向と逆方向」と称する。例えば、図12図13の時点t2(新注文の約定時ではない)から時点t3までは、時点t1から時点t2までと同様、新注文が買い注文の場合は相場価格の安値側への変動が損失発生方向で、新注文が売り注文の場合は相場価格の高値側への変動が損失発生方向である。
【0132】
「所定の評価」にあたり、リスク評価部1052は、「新注文」が買い注文の場合は、売りの既存注文情報1442の存在を確認する。逆に「新注文」が売り注文の場合は、リスク評価部1052は、買いの既存注文情報1441の存在を確認する。買いの新注文の約定によって金融商品取引業者が保有するポジションは、売りの既存注文が約定すれば実質的な損失を消失又は低減させて、金融商品取引業者のリスクを解消又は低減できるからである(図12の(b)参照)。同様に、売りの新注文の約定によって金融商品取引業者が保有するポジションは、買いの既存注文が約定すれば実質的な損失を消失又は低減させて、金融商品取引業者のリスクを解消又は低減できるからである。
【0133】
「所定の評価」にあたり、リスク評価部1052は、金融商品の相場価格の変動方向に、既存注文情報1441,1442が存在するか否かを確認する。変動方向に既存注文情報1441,1442が存在すれば、既存注文情報1441,1442が約定することで、新注文の約定により、金融商品取引業者が保有したポジションによる損失の発生を回避または低減できるからである。
【0134】
なお、リスク評価部1052は、「所定の評価」において、相場価格の変動の価格帯よりも所定範囲高値側や安値側まで(たとえば0.1円分高値側や安値側まで)既存注文情報1441,1442が存在するか否かを確認してもよい。
【0135】
リスク評価部1052は、「所定の評価」において、新注文の注文量と既存注文情報1441,1442の注文量を対比することで、ポジションの保持の可否や、ポジションを保持可能な新注文の注文量を評価する。
【0136】
例えば、リスク評価部1052には、リスクを解消または低減可能な既存注文情報1441,1442の注文量と、ポジションを保有した新注文の注文量とが等しい値に設定されているとする。この場合、既存注文情報記録部1044に売り注文の既存注文情報1442が3万通貨記録されている場合には、リスク評価部1052は「3万通貨まで新注文のポジション保有が可能。」と評価を行う。この場合、新注文の注文量が既存注文情報1441,1442の注文量を越えた場合、超えた分の新注文の約定に伴って保有されるポジション(例えば上記事例において新注文のポジションが3万2千通貨である場合は2千通貨分)はカバー取引に回される。一方、新注文のポジションのうち、既存注文情報1441,1442の注文量を超えない範囲(3万通貨分)のポジションは保有される。
【0137】
なお、新注文のリスクを解消または低減できる範囲であれば、新注文のポジション保有の許容量は、既存注文情報記録部1044に記録された既存注文情報1441,1442の注文量より多くても少なくてもよい。
【0138】
リスク評価部1052には、「所定の評価」を行うための価格範囲や時間帯が設定されてもよい。たとえば、リスク評価部1052は、既存注文情報1441,1442における既存注文の注文価格を基準に所定の価格(たとえば損失発生方向に0.2円以内)を「所定の評価」を行う価格範囲としてもよい。そして、リスク評価部1052は、これらの価格範囲や時間帯を越えた新注文を評価の対象外として処理してもよい。なお、リスク評価部1052は、「所定の評価」を行う価格範囲や時間帯を、金融商品の種類(たとえば金融商品ごとの信用度の大きさ)や注文量の多少に依存して変動させる構成としてもよい。
【0139】
リスク評価部1052による「所定の評価」の結果、「所定のリスク」を解消または低減できる既存注文情報1441,1442が存在することが確認された場合、リスクヘッジ実行部1053は、新注文の約定によるポジションを保有し続ける。
【0140】
一方、リスク評価部1052による「所定の評価」の結果、「所定のリスク」を回避または低減できる既存注文情報1441,1442が存在しないことが確認された場合、リスクヘッジ実行部1053は、新注文のカバー取引を行う。これは、リスクヘッジに用いられる既存注文情報1441がない場合は、特定注文の約定により発生したポジションをなるべく早期に解消させた方が損失拡大を抑止できてリスクヘッジに繋がるからである。
【0141】
さらに、リスク評価部1052による「所定の評価」の結果、金融商品の相場価格が、新注文の約定価格よりも「損失発生方向」と逆方向(新注文が買い注文の場合は高値側、売り注文の場合は安値側)に変動した場合は、リスクヘッジ実行部1053は、新注文の約定やカバー取引を行う。これは、新注文の約定により発生したポジションを早期に解消させた方が利益獲得の機会を得られる可能性が高いからである。
【0142】
[処理手順]
図8及び図9は、本実施の形態における処理手順を示すフローチャートである。以下、同図に基づいて本実施の形態の処理手順を説明する。
【0143】
[既存注文情報の記録]
本実施の形態において、既存注文情報記録部1044に既存注文情報1441,1442が記録される。既存注文情報1441,1442が既存注文情報記録部1044に記録されるのは、顧客が金融商品取引管理装置1001を用いて金融商品の取引を開始する前でも開始した後でもよい。
【0144】
図10乃至図13の(a)には、既存注文情報記録部1044を模式的に示す。前述のとおり、同図には、説明の簡略化のため、記録された売りの既存注文情報1442のみを示してある。
【0145】
[取引開始後]
図8に示す通り、金融商品取引管理装置1001による金融商品の取引開始後、顧客が新注文を発注すると、注文情報生成部1041が新注文の注文情報を取得する(ステップS1001)。図10の(b)には、この場合の一例として、1ドル130.00円で成行注文の新注文1061が行われた状態を模式的に示している。この場合、約定情報処理部1043がこの注文情報に対し、時点t1において、新注文1061を約定させる処理を行う。この約定により、新注文1061のポジション(以下単に「ポジション」と称する。)が発生する。金融商品取引業者は、新注文1061の約定から銀行等と新注文1061のカバー取引等を行いポジションを決済するまで、ポジションを保有する。
【0146】
相場価格情報取得部1042は、新注文1061の発注時、あるいは約定時を基準に、それ以降の金融商品の相場価格情報の取得を継続する(ステップS1002)。以下は、説明の簡略化のため、新注文1061の約定時を基準に処理が行われる場合を説明する。
【0147】
リスク評価部1052は、相場価格情報取得部1042が取得したリアルタイムの相場価格の情報を用いて「所定の評価」を行う。リスク評価部1052は、新注文の約定後の相場価格の変動に基づいて、新注文のポジションを保有することのリスクヘッジが可能か否かのリスク評価を行う(ステップS1003)。
【0148】
ステップS1003の評価手順の詳細を図9に示す。リスク評価部1052のリスク評価は、基本的に、上記[リスクヘッジ]に記載した原理に基づいて行われる。図9に示す、リスク評価部1052によるリスク評価の詳細を以下説明する。
【0149】
リスク評価部1052は、金融商品取引業者が新注文のポジションを保有することで損失が発生する可能性(以下「損失可能性」と称する。)がある場合、損失を緩和する方法があるか否かを評価する。また、リスク評価部1052は、緩和する方法がある場合、ポジションの保有により生ずるリスクの高さが、ただちにリスクヘッジを行う必要があるか否かを評価する。
【0150】
リスク評価部1052が、新注文1061の約定後の相場価格1062が、損失発生方向と逆方向に変動したと評価した場合を考える。具体的には、新注文が買い注文の場合は図10の(b)に示す時点t1から図13の(b)に示す時点t3に遷移するような相場価格1062の高値側への変動で、売り注文の場合は相場価格1062の安値側への変動(図示せず)である。
【0151】
この場合、リスク評価部1052は、ただちにカバー取引部1051に対し、新注文1061の保有したポジションのカバー取引を行わせる(ステップS1005)。リスクヘッジが不要だからである。
【0152】
一方、リスク評価部1052が、新注文1061の約定後の相場価格1062が損失発生方向に変動したと評価した場合を考える。具体的には、新注文1061が買い注文の場合は図10の(b)から図11の(b)に遷移するような安値側への変動であり、売り注文の場合は高値側)への変動(図示せず)である。
【0153】
この場合、リスク評価部1052は、新注文1061の約定によるポジションを保有することのリスクヘッジが可能か否かを評価する。
【0154】
具体的には、例えば、リスク評価部1052は、リスクヘッジが可能か否かについて、新注文1061の損失発生方向に既存注文情報1441,1442が存在するか否かの評価を行う(ステップS1031)。
【0155】
図12の(b)の時点t2に示すように、新注文1061の損失発生方向に既存注文情報1441,1442が存在する場合(ステップS1031の“Yes”)、リスク評価部1052は後述のステップS1032の処理を行う。一方、新注文の損失発生方向に既存注文情報1441,1442が存在しない場合(ステップS1031の“No”)、リスク評価部1052は、カバー取引部1051に、新注文1061の保有したポジションのカバー取引を行わせる(ステップS1035→ステップS1005)。これは、リスクヘッジができないからである。
【0156】
新注文1061の損失発生方向に既存注文情報1441,1442が存在する場合(ステップS1031の“Yes”)、リスク評価部1052は、新注文1061の約定価格、既存注文情報1441,1442の価格等の情報を取得し、それらの価格を比較する。
【0157】
例えば、リスク評価部1052は下記(条件1)又は(条件2)に適合するか否かを検証する。
(条件1)
[新注文が買い注文の場合]
新注文の約定価格≧既存注文の注文価格・・・(1)
(条件2)
[新注文が売り注文の場合]
新注文の約定価格≦既存注文の注文価格・・・(2)
(条件1)の(1)や(条件2)の(2)に適合する場合(ステップS1032の“Yes”)、リスク評価部1052は、後述するステップS1033の処理を行う。一方、(条件1)や(条件2)に適合しない場合(ステップS1032の“No”)は、リスク評価部1052は、カバー取引部1051に、新注文1061の保有したポジションのカバー取引を行わせる(ステップS1035→ステップS1005)。リスクヘッジができないからである。
【0158】
(条件1)の(1)や(条件2)の(2)に適合する場合(ステップS1032の“Yes”)、リスク評価部1052は、新注文1061の注文量が既存注文の注文量以下か否かを検証する。
【0159】
新注文1061が買い注文の場合のステップS1033の処理を説明する。
【0160】
新注文1061が買い注文で、保有したポジションの注文量が売りの既存注文情報1442に基づく売りの既存注文の注文量以下の場合(ステップS1033の“Yes”)、リスク評価部1052は、全ての新注文1061について後述するステップS1004の処理を行う(ステップS1034→ステップS1004)。一方、買い注文の新注文1061の保有したポジションの注文量が売りの既存注文の注文量より多い場合(ステップS1033の“No”)、リスク評価部1052は、売りの既存注文の注文量と同じ注文量の新注文1061の保有したポジションについて、後述するステップS1004の対象とする。さらに、リスク評価部1052は、売りの既存注文の注文量を越えた注文量の買い注文の新注文1061の保有したポジションについて、カバー取引を行わせる(ステップS1035→ステップS1005)。売りの既存注文の注文量を越えた分は、新注文1061の保有したポジションのリスクヘッジができないからである。
【0161】
一方、新注文1061の保有したポジションの注文量が売りの既存注文情報1442に基づく売りの既存注文の注文量より多い場合(ステップS1033の“No”)、リスク評価部1052は、全ての新注文1061の保有したポジションをカバー取引の対象とする(ステップS1035→ステップS1005)こともできる。
【0162】
新注文1061が売り注文の場合のステップS1033の処理を説明する。
【0163】
新注文1061が売り注文で、保有したポジションの注文量が買いの既存注文情報1441に基づく買いの既存注文の注文量以下の場合(ステップS1033の“Yes”)、リスク評価部1052は、全ての新注文1061について後述するステップS1004の処理を行う(ステップS1034→ステップS1004)。また、新注文1061の保有したポジションの注文量が買いの既存注文の注文量より多い場合(ステップS1033の“No”)、リスク評価部1052は、買いの既存注文の注文量と同じ注文量の売り注文の新注文1061の保有したポジションについて、後述するステップS1004の対象とする。さらに、リスク評価部1052は、買いの既存注文の注文量を越えた注文量の売り注文の新注文1061の保有したポジションについて、カバー取引を行わせる(ステップS1035→ステップS1005)。

また、図示しないが、新注文1061が買い注文の場合も売り注文の場合も、上記ステップS1033の“Yes”に適合する場合、リスク評価部1033は、リスクが許容範囲か否かの評価を行うこともできる。
【0164】
例えば、新注文1061が買い注文の場合、リスク評価部1033は、上記(条件1)や(条件2)において、売りの既存注文情報1442に基づく売りの既存注文の注文価格と相場価格1062との価格差が予め設定された価格範囲内か否かを確認することでリスクが許容範囲かを評価することもできる。これは、リアルタイムの相場価格1062が売りの既存注文の注文価格と大きく乖離した場合は、新注文1061の約定によるポジションを保有するリスクが高くなってしまうからである。なお、リスクが許容範囲か否かの評価は、上記以外のどのような評価でもよい。
【0165】
買い注文の新注文1061の保有したポジションの注文量が売りの既存注文情報1442に基づく売りの既存注文の注文量以下の場合など、リスクが許容範囲と評価された場合(図9のステップS1033の“Yes”)、図8に示す通り、リスクヘッジ実行部1053は、新注文1061の約定によるポジションの保有を維持する(ステップS1004)。これは、ポジションを保有するリスクが小さいからである。図11の(b)は、新注文1061のポジションの保有が維持された状態を示している。この場合、図11の(b)に示すように、リスクヘッジ実行部1053は、約定された新注文1061の保有したポジションに対してカバー取引を行わない。そして、リスク評価部1052はステップS1002に戻って処理を繰り返す。
【0166】
一方、新注文61の保有したポジションのリスクが許容範囲ではないと評価された場合(図9のステップS1032の“No”)、図8に示すとおり、リスクヘッジ実行部1053は、カバー取引部1051に新注文1061の保有したポジションのカバー取引を行わせる(ステップS1005)。これは例えば、相場価格が図10の(b)の状態から図12の(b)の状態のように下落方向に大きく遷移し、ポジションを保有するリスクが大きくなった場合等があげられる。
【0167】
なお、相場価格が既存注文情報1441,1442の注文価格に対応する価格となった場合には、約定情報処理部1043の処理により、既存注文情報1441,1442の約定処理が行われる。
【0168】
例えば、図10の(b)の時点t2、さらに図11の(b)の時点t3に示すように、相場価格が1ドル129.90円、さらに1ドル129.80円になった場合を考える。この場合、約定情報処理部1043は、リスク評価部1052の評価とは別に、既存注文を約定させる処理を行う。具体的には、約定情報処理部1043は、まず1ドル129.90円の既存注文を約定させ、次いで1ドル129.80円の既存注文が約定させる(図12の(b)参照)。この約定で、図10の(a)、図11の(a)の既存注文情報記録部1044に記録されていた1ドル129.90円、128.80円の売りの既存注文情報1442の注文量は、図12の(a)に示すように「2(万通貨)→0」「1(万通貨)→0」となる。
【0169】
既存注文の約定が行われたときに、リスクヘッジが可能な新注文1061が存在する場合(ステップS1032の“Yes”→ステップS1033の“Yes”)、リスク評価部1052は、約定した既存注文により、新注文1061の保有したポジションの決済を行う評価を行える。このように評価された場合、リスクヘッジ実行部1053は、約定した既存注文とポジションを保有する新注文1061とを決済させることができる。
【0170】
図11乃至図13においては、新注文1061の注文量(3万通貨)と既存注文の注文量(合計3万通貨)は同一である。そのため、約定した既存注文と新注文1061の保有したポジションとによる決済が行われると既存注文の約定によるポジションの発生も新注文1061の保有したままのポジションも発生せず、したがってカバー取引は行われない。
【0171】
一方、既存注文の約定が行われ、リスクヘッジが可能な新注文1061が存在する場合(ステップS1032の“Yes”→ステップS1033の“Yes”)に、リスク評価部1052は、約定した既存注文により、新注文1061の保有したポジションの決済を行わない評価も行える。これは、たとえば、リスク評価部1052が、新注文1061の保有したポジションをそのまま保有し続けるリスクが許容範囲内と評価した場合(たとえば、金融商品の相場価格が損失発生方向と逆方向への変動傾向が高いと評価された場合など)が考えられる。
【0172】
なお、カバー取引部1051がカバー取引の対象となった新注文1061の取引を行うための注文情報等を銀行システム1003に送ると、銀行システム1003の取引実行部1031は、受け取った新注文1061の注文情報等基づいてカバー取引を実行する処理を行う(ステップS1005)。
【0173】
[作用効果]
以上示したとおり、本実施の形態において、金融商品取引管理装置1001は、相場価格の情報を取得すると共に、金融商品の新注文1061の取引と相場価格1062の変動によって、既存注文情報1442を用いて所定の処理を行うことで限定的なものにできる所定のリスクについて、所定の処理を行う必要があるか否かを評価する。そして、金融商品取引管理装置1001は、経時的に変化する相場価格1062の変動方向を認識し、この認識の結果に基づいてリスクを限定的なものにできる処理を行うか否かを決定できる。
【0174】
たとえば、本実施の形態においては、図10の(b)に示すように、金融商品の取引開始後に買いの成行注文である新注文1061が約定して金融商品取引業者がポジションを保有した場合、リスク評価部1052が相場価格1062の変動に依存して変化するポジションによるリスクを評価する。リスク評価部1052は、図10の(a)に示す既存注文情報記録部1044に記録された売りの既存注文情報1442における売りの既存注文の注文量(合計3万通貨)を確認し、新注文1061の注文量(3万通貨)と対比する。さらに、リスク評価部1052は、新注文1061の約定価格(1ドル130.00円)と売りの既存注文情報1442における売りの既存注文の注文価格(1ドル129.90円、129.80円)、リアルタイムの相場価格1062の情報を取得し対比する。
【0175】
そして、相場価格が図10の(b)から図11の(b)に示すように小さい変動幅で損失方向に遷移し、決済に使える売りの既存注文情報1442が存在し、ポジションを保有するリスクが小さい場合は、リスク評価部1052は新注文1061のポジションの保有を維持する。
【0176】
そして、相場価格が図11の(b)から図12の(b)に示すようにさらに損失方向に遷移し、決済に使える売りの既存注文の相場価格1062や注文量との比較でポジションを保有するリスクが大きくなった場合は、リスク評価部1052は新注文1061のポジションを決済させる。売りの既存注文情報1442に基づく売りの既存注文の約定を用いて新注文1061のポジションを決済させることで、新注文1061の約定のみでポジションの決済を行う場合に比べ、図12の(b)に示す実質的な損失1063を低減させることができる。
【0177】
一方、相場価格が図11の(b)から図13の(b)に示すように損失方向と逆方向に遷移した場合は、リスク評価部1052は、図13の(a)に示すように、売りの既存注文情報1442の売りの既存注文を用いずに、新注文1061の約定のみでポジションを決済させる。このポジションの決済により、図13の(b)に示すように、金融商品取引業者は利益1064を得ることができる。
【0178】
つまり、本実施の形態においては、新注文1061の約定により保有したポジションのリスク評価に売りの既存注文情報1442を用いることで、相場価格1062の損失方向への変動によるリスクを低減させつつ、相場価格1062の変動による利益1064を確実に得ることができる。これにより、コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において、相場状況の変動に応じて損失発生のリスクを低減できる。
【0179】
本実施の形態においては、金融商品取引業者が保有するポジションが金融商品取引業者にとって不利益を生じさせる可能性を所定のリスクとして扱う。また、リスク評価部1052は、保有する所定のリスクが、限定的なものにできる大きさか否かの評価を行う。また、リスク評価部1052は、保有する所定のリスクが、限定的なものにできる大きさか否かの評価を行う。そして、リスク評価部1052は、損失発生の高いポジション保有が発生する可能性に依存して、所定のリスクを低減するための処理を行うか否かを決定できる。これにより、損失発生のリスクを高い確度で低減できる。
【0180】
本実施の形態においては、リスク評価部1052は、既存注文情報記録部1044に記録された既存注文情報1441,1442に基づく既存注文の注文量に依存して、保有可能な所定のリスクの大きさを評価する。そして、リスクの発生に相関性の高い金融商品の注文量に依存して、所定のリスクを低減するための処理を行うか否かを決定できる。これにより、損失発生のリスクを高い確度で低減できる。
【0181】
本実施の形態においては、リスク評価部1052は、既存注文情報1441,1442を用いて相場価格1062の変動により生ずる所定のリスクが保有可能な大きさか否かを評価する。これにより、既に存在し記録されている注文を用いて、損失発生のリスクを高い確度で低減できる。
【0182】
本実施の形態においては、リスク評価部1052は、注文の取引時の相場価格1062に近い既存注文情報1442から順に用いて、所定の処理を行う必要があるか否かを評価する。そして、注文の取引価格に近い価格で所定の処理を行うことができる。そして、相場価格1062と所定の処理が行われる価格の乖離を抑止し、損失発生のリスクを高い確度で低減させることができる。
【0183】
本実施の形態においては、金融商品取引業者が金融機関に対して新注文1061の約定に伴うカバー取引を行うという具体的な取引の処理に基づいて、損失発生のリスクを高い確度で低減させることができる。
【0184】
本実施の形態においては、相場価格1062の変動による損失発生のリスクの高い成行注文の取引において、損失発生のリスクを高い確度で低減させることができる。
【0185】
本実施の形態においては、リスクを限定的なものとする処理を実行する構成により、損失発生のリスクの低減を現実の取引処理において実現できる。
【0186】
本実施の形態においては、相場価格1062の変動により生ずる所定のリスクを、既存注文情報1442を用いて低減させる確度を高め、相場状況の変動に応じて損失発生のリスクを高い確度で低減させる処理を、現実の取引処理において実現できる。
【0187】
なお、本実施の形態における上記ステップS1032,S1033におけるリスクの評価は一例にすぎず、上記実施の形態で例示した評価以外のどのような態様でリスクの評価が行われてもよい。また、リスクの評価の結果、金融商品取引業者が被る可能性のある損失を、どの程度の大きさで許容したり回避したりするかについて、どのような基準で設定されてもよいし、取引の過程でどのような変更や修正が行われてもよい。
【0188】
たとえば、リスク評価部1052は、上記ステップS1032において、保有したポジションと既存注文との関係に応じ、式(1)に替えて下記の式(3)を適用したり、式(2)に替えて下記の式(4)を適用することもできる。
[新注文が買い注文の場合]
新注文の約定価格<既存注文の注文価格・・・(3)
(条件2)
[新注文が売り注文の場合]
新注文の約定価格>既存注文の注文価格・・・(4)
またたとえば、新注文1061の約定により保有するポジションの注文量が既存注文の注文量より多い場合(ステップS1033の“No”)、リスク評価部1052は、上記評価(ステップS1035→ステップS1005)と異なる評価を行うこともできる。具体的には、この場合にリスク評価部1052は、既存注文の注文量を超えた注文量のポジションを保有し続ける(ステップS1034→ステップS1004)評価を行うこともできる。
【0189】
さらに、リスク評価部1052は、約定した新注文1061のポジションを保有し続けることが可能な時間に制限を設けて評価することもできる。
【0190】
また、リスク評価部1052は、ステップS1032やステップS1033の評価を、金融商品の種類や金融商品の市場価値の変化に基づいて逐次または順次変更することができる。
【0191】
さらに、上記実施の形態では、1種類の外国為替に本発明を適用したが、これに限らず、様々な形態の金融商品に本実施形態を適用できる。例えば、金融商品が外国為替の場合は、日本円と米国ドル、欧州ユーロと豪州ドルのような異なる複数の通貨ペア同士に本実施形態を適用することが考えられる。また、異なる複数の金融商品同士、例えば、外国為替と株式、債権と暗号資産、などに本実施形態を適用することが考えられる。
【0192】
上記実施の形態は本発明の例示であり、本発明が上記実施の形態のみに限定されることを意味するものではないことは、いうまでもない。
【符号の説明】
【0193】
1A・・・・プライシング決定システム
1・・・・・金融商品取引管理装置(提示価格決定手段)
2・・・・・クライアント端末
3・・・・・銀行システム
4・・・・・ネットワーク
21・・・・操作部
22・・・・表示部
31・・・・取引実行部
40・・・・注文管理装置
41・・・・顧客注文情報生成部(顧客注文情報生成手段)
42・・・・提示価格補正部(提示価格補正手段)
43・・・・相場価格情報取得部(市場価格情報取得手段、記憶手段)
44・・・・約定情報処理部(約定情報処理手段)
45・・・・顧客注文情報記録部(顧客注文情報参照手段)
50・・・・ディーリング装置
51・・・・サマリ情報管理部
52・・・・カバー取引部
451・・・取得手段
452・・・推測手段
511・・・サマリ情報(約定量の情報、注文の数量の情報)
512・・・相殺情報(約定量の情報、注文の数量の情報)
1001A・金融商品取引管理システム
1001・・金融商品取引管理装置
1041・・注文情報生成部(注文情報生成手段)
1042・・相場価格情報取得部(相場価格情報取得手段)
1044・・既存注文情報記録部(既存注文情報記録手段)
1052・・リスク評価部(リスク評価手段)
1053・・リスクヘッジ実行部(リスクヘッジ実行手段)
1061・・新注文(所定の注文)
1062・・相場価格
1441,1442・既存注文情報
【要約】
【課題】取引量の多少にかかわらずリスクの小さい金融商品の取引を実現できる注文情報取得システム及びプライシング決定システムを提供する。
【解決手段】顧客注文情報を取得する注文情報取得システムで、現時点で記録されている顧客注文情報である現時点版顧客注文情報を取得する取得手段451と、過去の特定時点から現在までの市場価格情報を記憶しておく記憶手段43と、取得した現時点版顧客注文情報と過去の特定時点から現在までの市場価格情報とを比較して、約定確定待ちと推測される確定待ち顧客注文情報を特定して除外し、約定処理が開始されていない顧客注文情報である先行版顧客注文情報を作成する推測手段452と、を有し、推測手段452は、記憶手段43に記憶された過去の特定時点から現在までの市場価格情報を確認し、過去の特定時点から現在までの市場価格情報の市場価格に該当する顧客注文情報を確定待ち顧客注文情報として特定する。
【選択図】図1
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