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特許7588928Porphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物、犬又は猫用のオーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】Porphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物、犬又は猫用のオーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20241118BHJP
   A61K 31/724 20060101ALI20241118BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20241118BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241118BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241118BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241118BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241118BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K31/724
A61P1/02
A61P29/00
A61P31/04
A61P37/06
A61P43/00 171
A61Q11/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024027788
(22)【出願日】2024-02-27
【審査請求日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2023131030
(32)【優先日】2023-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】313014608
【氏名又は名称】ウェルネオシュガー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】福山 朋季
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 恵
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-087104(JP,A)
【文献】特開2014-185114(JP,A)
【文献】特開2017-075098(JP,A)
【文献】特開2009-173558(JP,A)
【文献】特開2019-052186(JP,A)
【文献】特開2014-227417(JP,A)
【文献】特開2015-067539(JP,A)
【文献】特開2011-079779(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0045914(KR,A)
【文献】"ユニークなオーラルケアの原料「サイクロデキストラン」",[online],2023年09月24日,[検索日 2024.06.12], インターネット<https://web.archive.org/web/20230924161327/https://shop.wolfinsight.jp/blog/2023/07/26/101736>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A23K 10/00-50/90
A23L 29/00-29/30
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00- 1/18
A61P 29/00-29/02
A61P 31/00-31/22
A61P 37/00-37/08
A61P 43/00
A61Q 1/00-90/00
C12P 19/00-19/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロデキストラン、並びにバチルス属の微生物の培養液及び/又は環状イソマルト糖合成酵素の反応液から検出されるサイクロデキストラン誘導体から選択される少なくとも1種以上の化合物を0.01%以上含有するPorphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の抑制組成物を含有する犬又は猫用抗炎症剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Porphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物、犬又は猫用のオーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌやネコ等にもヒトと同様に、歯周病等の様々な口腔トラブルが発生している。ヒトとペットでは全く口腔内環境が異なるため、口腔内に存在する細菌叢(さいきんそう)が異なる。具体的に、ヒトの歯周病の主な原因菌は、Porphyromonas gingivalisであるが、イヌやネコの歯周病の主な原因菌は、ヒトの原因菌とは異なるPorphyromonas gulaeである。
【0003】
ペット歯周病等の口腔用トラブルに対処するものとして、明日葉抽出物を有効成分として含有するPorphyromonas gulaeに対する歯周病予防剤が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の予防剤によると、明日葉抽出物がPorphyromonas gulaeに対する抗菌作用(生育抑制効果)を発揮し、これによりイヌやネコの歯周病予防を期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-067539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、明日葉抽出物液はペットの嗜好性に合わないことから、特許文献1に記載の予防剤の場合、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、アルギン酸及びその塩から選ばれる1種以上と併用することが求められる。嗜好性の悪いものはペットが受け付けず、ペットへの口腔用組成物の使用においては、嗜好性が極めて重要である。また、ペットはうがいをせず飲み込むため、高い安全性が求められ、使用方法がヒトは異なる。このため、ヒトの口腔用組成物の技術がそのままペットに応用することができない場合も多い。そのため、歯周病予防に寄与する有効成分それ自体が他の成分と併用することなくペットの嗜好性に合致し、開発の自由度をよりいっそう高めた組成物の提供が求められる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、有効成分それ自体がペットの嗜好性に合致するPorphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物、犬又は猫用のオーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、環状オリゴ糖であるサイクロデキストランがそれ自体でPorphyromonas gulae由来のサイトカイン産生抑制機能を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0008】
第1の特徴に係る発明は、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上の化合物を含有するPorphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物を提供する。
【0009】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る抑制組成物を含有する犬又は猫用オーラルケア組成物を提供する。第3の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る抑制組成物を含有する犬又は猫用歯周病予防剤を提供する。第4の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る抑制組成物を含有する犬又は猫用口腔内バイオフィルム形成阻害剤を提供する。第5の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る抑制組成物を含有する犬又は猫用抗炎症剤を提供する。第6の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る抑制組成物を含有する犬又は猫用口臭抑制剤を提供する。
【0010】
図1は、サイクロデキストランの構造式の一例である。サイクロデキストランは、4~33個のグルコースがα-1,6グルコシド結合で環状に連結した環状イソマルトオリゴ糖であり、甘みがなく、無味無臭である。そのため、食品の味や香りに影響を与えないことから、犬や猫の嗜好性が高い。また、サイクロデキストランは、水溶性が極めて高く、等量以下の水に溶解するため、犬や猫がうがいをせず飲み込んでも問題ないだけの安全性を有する。また、サイクロデキストランは、熱、酸、アルカリに対して安定であるため、オーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤を提供するに際して開発の自由度が高い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、有効成分それ自体がペットの嗜好性に合致するPorphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物、犬又は猫用のオーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、サイクロデキストラン(CI)の構造式の一例である。
図2図2は、シクロデキストリン(CD)の構造式の一例である。
図3図3は、〔試験1〕CI-Dextran mixのP.gulaeに対する殺菌作用の結果である。
図4図4は、〔試験2〕CI-Dextran mixによるP.gulaeのバイオフィルム形成阻害作用の結果(CI-Dextran mix濃度とODとの関係)である。
図5図5は、〔試験3〕ハイドロキシアパタイトディスクに対するP.gulae及びそのバイオフィルムの電子顕微鏡観察結果(コントロール)である。
図6図6は、〔試験3〕ハイドロキシアパタイトディスクに対するP.gulae及びそのバイオフィルムの電子顕微鏡観察結果(CI-Dextran mix濃度5%)である。
図7図7は、〔試験4〕P.gulaeによるマウスマクロファージ細胞の炎症性サイトカイン産生に及ぼすCI-Dextran mixの効果を示す図である。
図8図8は、〔試験6〕CI-Dextran mixの口臭原因物質(メチルメルカプタン等)に対する消臭作用の結果である。
図9図9は、〔試験7〕CI-Dextran mixのP.gulae菌による不溶性グルカン産生阻害作用調査の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
<Porphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物>
本発明に係るサイトカイン産生抑制組成物は、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上の化合物を含有する。
【0015】
〔サイクロデキストラン及びその誘導体〕
図1は、サイクロデキストラン(CI)の構造式の一例である。サイクロデキストランは、4~33個のグルコースがα-1,6グルコシド結合で環状に連結した環状イソマルトオリゴ糖である。
【0016】
サイクロデキストランの類似化合物としてシクロデキストリンが知られている。図2は、シクロデキストリン(CD)の構造式の一例である。CIとCDとは、複数個のグルコースが環状に連結した環状オリゴ糖である点で共通するが、次の点で相違する。第1に、CIは、4~33個のグルコースが結合するのに対し、CDは、6~8個のグルコースが結合する点で異なる。第2に、CIは、グルコースがα-1,6グルコシド結合で連結するのに対し、CDは、グルコースがα-1,4グルコシド結合で連結する点で異なる。第3に、CIの分子構造は、口径が大きく浅いのに対し、CDの分子構造は、口径が小さく深い点で異なる。第4に、CIは、水への溶解性が高いのに対し、CDは、水への溶解性が低い点で異なる。
【0017】
一例として、CIは、バチルス属の微生物の培養液や環状イソマルト糖合成酵素の反応液から得ることができる(特許第3075873号、特許第3117328号参照)。微生物や酵素を利用してCIを得た場合、分枝していないCIと、分枝したCIの混合物として得られる。サイクロデキストランの誘導体としては、当該混合物のうち分枝したCIが挙げられる。
【0018】
〔任意成分(添加剤)〕
本発明のサイトカイン産生抑制組成物には、CI及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上の他に、本発明の効果を損なわない範囲で任意成分(添加剤)を1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせ、常用量を必要に応じて配合することができる。
【0019】
任意成分としては、界面活性剤、研磨剤、結合剤、湿潤剤、発泡剤、滞留剤、香料、酸味料、着色剤、pH調整剤、保存料・防腐剤、甘味剤、有効成分、粘稠剤等が挙げられる。以下に任意成分の具体例を示すが、本発明の組成物に配合可能な成分はこれらに制限されるものではない。
【0020】
[界面活性剤]
界面活性剤としては、犬又は猫の口腔に供される組成物に配合されるものであれば特に制限なく使用できる。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
非イオン界面活性剤として、糖又は糖アルコールの脂肪酸エステルであるショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、マルトトリイトール脂肪酸エステル、マルトテトレイトール脂肪酸エステル、マルトペンタイトール脂肪酸エステル、マルトヘキサイトール脂肪酸エステル、マルトヘプタイトール、脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、アルキロールアミド等が挙げられる。上記脂肪酸は炭素数12~18のものを用いることが好ましい。
【0022】
アニオン界面活性剤として、N-アシルアミノ酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等が挙げられる。具体的には、アルキル鎖の炭素数が10~16のα-オレフィンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、N-ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、N-パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN-アシルグルタミン酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム、N-ミリストイルサルコシンナトリウム等のN-アシルサルコシンナトリウム、N-ラウロイルメチルタウリンナトリウム、N-ミリストイルメチルタウリンナトリウム等のN-メチル-N-アシルタウリンナトリウム等が挙げられる。
【0023】
両性界面活性剤として、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0024】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤が好ましく、口腔粘膜刺激性等使用感の面から、非イオン界面活性剤が好ましい。特に糖又は糖アルコールの脂肪酸エステルがより好ましい。
【0025】
[研磨剤]
研磨剤としては、結晶性シリカ、非晶性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート等のシリカ系研磨剤、ゼオライト、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム2水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、第3リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、第4リン酸カルシウム、合成樹皮系研磨剤等が挙げられる。
【0026】
[結合剤]
結合剤としては、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0027】
[湿潤剤]
湿潤剤としては、グリセリン、濃グリセリン、ジグリセリン、ソルビット、マルチトール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、キシリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール等の1種又は2種以上を使用できる。
【0028】
[発泡剤]
発泡剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸モノグリセリンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、N-アシルグルタメート等のN-アシルアミノ酸塩、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、マルチトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。
【0029】
[滞留剤]
サイトカイン産生抑制組成物の有効成分を滞留(持続)させるための滞留剤として、流動パラフィン、流動パラフィン及びポリエチレンの混合物であるゲル化炭化水素、植物油、ミツロウ等が使用でき、これらを1種又は2種以上を併用することができる。なお、ゲル化炭化水素は、ゲル化剤としての役割も果たす。
【0030】
[香料]
香料としては、天然香料、合成香料等の油脂香料や粉末香料を1種又は2種以上を使用するのが好ましいが、特に限定されない。香料としては、天然香料、合成香料等の油脂香料や粉末香料を1種又は2種以上使用するのが好ましいが、特に限定されない。例えば、天然香料として、マスティック油、パセリ油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、メントール油、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、コリアンダー油、オレンジ油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローレル油、カモミール油、カルダモン油、キャラウェイ油、ベイ油、レモングラス油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー、シトラス油、ミックスフルーツ油、ストロベリー油、シナモン油、クローブ油、グレープ油等が挙げられる。
【0031】
単品香料としては、青葉アルコール、カルボン、アネトール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルアンスラニレート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチノンアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルフェイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルリオアセテート等が挙げられる。単品香料及び/又は天然香料も含む調合香料として、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、メロンフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー、スイカフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、ヨーグルトフレーバー、フルーツミックスフレーバー、ハーブミントフレーバー等が挙げられる。また、香料の形態は、精油、抽出物、固形物、又はこれらを噴霧乾燥した粉体でもよい。
【0032】
[酸味料]
酸味料としては、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸が挙げられる。
【0033】
[着色剤]
着色剤としては、ベニバナ赤色素、クチナシ黄色素、クチナシ青色素、シソ色素、紅麹色素、赤キャベツ色素、ニンジン色素、ハイビスカス色素、カカオ色素、スピルリナ青色素、クマリンド色素等の天然色素や赤色3号、赤色104号、赤色105号、赤色106号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号等の法定色素、リボフラビン、銅クロロフィンナトリウム、二酸化チタン等が挙げられる。
【0034】
[pH調整剤]
pH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等の有機酸とそのナトリウム塩やカリウム塩、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のリン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0035】
[保存料・防腐剤]
保存料・防腐剤としては、安息香酸及びその塩、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類(パラオキシ安息香酸エステル)、ソルビン酸及びその塩、エチレンジアミン四酢酸塩、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0036】
[他の甘味剤]
他の甘味剤として、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、トレハロース、ステビオサイド、ステビアエキス、p-メトキシシンナムアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、キシリトール等がある。
【0037】
[有効成分]
本発明のサイトカイン産生抑制組成物には、上記のほか、更なる有効成分を配合してもよい。そのような有効成分として塩化リゾチーム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、硝酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒノキチオール、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸塩類、クロルヘキシジン塩類、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ビサボロール、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、トコフェロール、酢酸トコフェロール、ε-アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アルミニウムヒドロキシルアラントイン、乳酸アルミニウム、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸塩類、銅クロロフィリン塩、塩化ナトリウム、グァイアズレンスルホン酸塩、デキストラナーゼ、塩酸ピリドキシン、薬用ハイドロキシアパタイト等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合することができる。
【0038】
〔剤型〕
本発明のサイトカイン産生抑制組成物に関し、剤型は特に限定されない。サイトカイン産生抑制組成物が液体製剤の場合は、溶剤として水や、エタノール、プロパノール等の炭素数3以下の低級アルコール等を配合し得る。また、サイトカイン産生抑制組成物の剤型は、練り歯磨き剤、ジェル、液状歯磨き剤、粉末状歯磨き剤、洗口剤、フィルム剤、チューインガム、ペットフード用添加物又はパスタ等から選択され得る。
【0039】
水の配合量は、CIの含有量が適切であれば特に限定されるものでなく、サイトカイン産生抑制組成物100質量部に対して20~98質量%が好ましく、低級アルコールを配合する場合の含有量は1~20質量%が好ましい。
【0040】
サイトカイン産生抑制組成物は、各種成分を混合することにより得ることができる。例えば、各種成分を水等の溶媒に混合して撹拌することにより調製できる。
【0041】
サイトカイン産生抑制組成物の25℃におけるpHは4.0~9.0が好ましく、5.0~8.0がより好ましい。ペースト状の組成物とする場合の25℃におけるpHは5.5~9.0が好ましく、スプレー用の組成物とする場合は4.5~8.5が好ましく、シート等の含浸液の組成物とする場合は4.5~8.5が好ましい。
【0042】
また、サイトカイン産生抑制組成物の25℃における粘度は、使用性の点から、ブルックフィールド型粘度計を用いて測定した場合、1~50,000mPa・sが好ましく、5~20,000mPa・sがより好ましい。ジェル、ペースト状の組成物とする場合の25℃における粘度は10~50,000mPa・sが好ましく、スプレー用の組成物とする場合は1~1,000mPa・sが好ましく、シート等の含浸液の組成物とする場合は1~500mPa・sが好ましい。
【0043】
〔使用方法〕
本発明のサイトカイン産生抑制組成物は、ペット、特にイヌ又はネコの口腔内に適用されるものである。使用方法としては、まず歯面、歯茎、歯と歯の間、歯と歯茎の間等に口腔用組成物を塗布する。塗布方法としては、飼育者の指で塗布する方法、歯ブラシ、綿棒、適宜形状のガーゼ、シート、又は歯磨き用の玩具あるいはロープ等の用具を用いて塗布する方法、ノズル等が取り付けられた容器、スプレー等の容器に組成物を充填し、直接塗布する方法等が挙げられる。塗布後に、飼育者の指、上記用具を用いて、歯の表面、歯と歯の間、歯と歯茎の間をこすり磨きして清掃してもよい。なお、上記用具には、塗布・含浸等により、サイトカイン産生抑制組成物が予め用具に取り付けられたセットでもよく、塗布直前に用具にサイトカイン産生抑制組成物をつけてよい。また、液状組成物を原液もしくは飲用水に混ぜることによって投与することもできる。
【0044】
また、ドッグフードやキャットフード、スナック、サプリメントにサイトカイン産生抑制組成物を配合し、ペットが当該ドッグフード等を食す形で提供してもよい。
【0045】
本発明のサイトカイン産生抑制組成物は、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上の化合物を含有する。サイクロデキストランは、4~33個のグルコースがα-1,6グルコシド結合で環状に連結した環状イソマルトオリゴ糖であり、甘みがなく、無味無臭である。そのため、食品の味や香りに影響を与えないことから、犬や猫の嗜好性が高い。また、サイクロデキストランは、水溶性が極めて高く、等量以下の水に溶解するため、犬や猫がうがいをせず飲み込んでも問題ないだけの安全性を有する。よって、本発明によると、有効成分それ自体がペットの嗜好性に合致するPorphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物を提供できる。
【0046】
<サイトカイン産生抑制組成物の応用>
サイクロデキストランは、熱、酸、アルカリに対して安定であるため、本発明のサイトカイン産生抑制組成物と同様の配合条件で、犬又は猫用のオーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤に応用できる。
【0047】
<Porphyromonas gulae由来グルカン産生抑制組成物>
本発明は、更に、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上の化合物を含有するPorphyromonas gulae由来グルカン産生抑制組成物をも提供する。本発明は如何なる理論にも拘束されるものではないが、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種の化合物を含有する組成物には、Porphyromonas gulae由来の水溶性グルカンや、非水溶性グルカンの産生を抑制する作用も認められる。このため、このような組成物を服用することにより、犬や猫の口腔内において、バイオフィルムの形成が阻害される。そして、バイオフィルムの形成が阻害されることにより、犬や猫の口腔内におけるPorphyromonas gulae等の菌体の接着が抑制されるので、結果的に炎症の発生が抑制され、口腔内の健康状態が好適に維持される。
【0048】
なお、本実施形態のグルカン産生抑制組成物に配合できる各種任意成分や、グルカン産生抑制組成物の剤型・使用方法については、サイトカイン産生抑制組成物において説明した内容をそのまま援用する。
【0049】
<グルカン産生抑制組成物の応用>
サイクロデキストランは、熱、酸、アルカリに対して安定であるため、本発明のグルカン産生抑制組成物と同様の配合条件で、犬又は猫用の口腔内バイオフィルム形成阻害剤や抗炎症剤に応用できる。すなわち、本発明は、グルカン産生抑制組成物を含有する犬又は猫用の口腔内バイオフィルム形成阻害剤や抗炎症剤をも提供する。
【0050】
<Porphyromonas gulae由来メチルメルカプタン及び/又は硫化水素産生産生抑制組成物>
本発明は、更に、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上の化合物を含有するPorphyromonas gulae由来メチルメルカプタン産生産生抑制組成物や、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上の化合物を含有するPorphyromonas gulae由来硫化水素産生抑制組成物をも提供する。本発明は如何なる理論にも拘束されるものではないが、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種の化合物を含有する組成物には、Porphyromonas gulae由来のメチルメルカプタンや、硫化水素の産生を抑制する作用も認められる。このため、このような組成物を服用することにより、犬や猫の口腔内において、口臭の原因となるにおい物質の発生が抑制されるので、結果的に口臭の発生が抑制され、口腔内の健康状態が好適に維持される。
【0051】
なお、本実施形態のメチルメルカプタン及び/又は硫化水素産生抑制組成物に配合できる各種任意成分や、メチルメルカプタン及び/又は硫化水素産生抑制組成物の剤型・使用方法については、サイトカイン産生抑制組成物において説明した内容をそのまま援用する。
【0052】
<メチルメルカプタン及び/又は硫化水素産生抑制組成物の応用>
サイクロデキストランは、熱、酸、アルカリに対して安定であるため、本発明のメチルメルカプタン及び/又は硫化水素産生抑制組成物と同様の配合条件で、犬又は猫用の口臭抑制剤に応用できる。すなわち、本発明は、メチルメルカプタン及び/又は硫化水素産生抑制組成物を含有する犬又は猫用の口臭抑制剤をも提供する。
【実施例
【0053】
本試験では、犬及び猫の代表的な歯周病原菌であるPorphyromonas gulae(P.gulae)に対するCIの殺菌作用、口臭軽減効果、及び歯周病菌によって誘導された炎症に対する抗炎症作用を確認した。対照として、ヒトの代表的な歯周病原菌であるPorphyromonas gingivalis(P.gingivalis)についても同様の確認を行った。
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0055】
<試験方法>
【0056】
〔試験1〕CIのP.gulaeに対する殺菌作用
歯周病原性細菌P.gulae及びに着目し、CI-Dextran mix(少なくともCIとデキストランとを含有し、CI含有量が13%以上,日新製糖株式会社)共培養下での増殖抑制効果をin vitroで調査した。P.gulae菌は嫌気性菌用ヒツジ血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に播種して嫌気条件下で3日間培養した後、ウマ溶血液加ブルセラブロス液体培地(極東製薬工業株式会社)にて濁度が1.0となるように調整した。P.gulae懸濁液にCI-Dextran mixを0.01~2.5%の割合で混合し、10分間、1時間、4時間及び24時間,37℃、嫌気条件下で培養した後の生菌活性をBacTiter-Glo(登録商標)Microbial Cell Viability Assay(プロメガ)を用いて測定した。
【0057】
対照として、P.gulaeをP.gingivalisに置き換えた試験も行った。
【0058】
〔試験2〕CI-Dextran mixによるP.gulaeのバイオフィルム形成阻害作用
P.gulae菌を含む歯周病菌は、歯に付着し複数の菌同士が集合することによってバイオフィルムを形成する。細菌の塊である歯垢もバイオフィルムの一種で、バイオフィルムが形成されることによって、抗菌薬を含む外的な治療に対して抵抗力を持つことになる。本試験では、Biofilm Formation Assay Kit(DOJINDO)とP. gulae菌懸濁液を用いて、CI-Dextran mix(0.039%~5.000%)共培養下でのバイオフィルム形成能を調査した。
【0059】
〔試験1〕で調製したP.gulae菌液20μLにCI-Dextran mix混合菌液180μLを添加し、CI-Dextran mix0.039%~5.000%となるように混合した。96wellプレートに各濃度8wellとなるように200μLを添加し、96-peg Lidを被せて37℃インキュベーター内で遮光嫌気条件下にて24時間培養した。24時間後に菌を含まないCI-Dextran mix混合培養液200μLを別の96wellプレートに播種し、24時間培養後のプレートから96-peg Lidを移して被せ、37℃インキュベーター内にて遮光嫌気条件下でさらに72時間培養した。72時間後に96-peg Lidを生理食塩水で2回洗浄後、クリスタルバイオレット液で30分間染色し、生理食塩水で再度洗浄した後にエタノールで染色液を抽出し、抽出した液の590nm吸光度をプレートリーダーで測定した。同じ条件の検査を2回繰り返し、再現性を確認した。
【0060】
対照として、P.gulaeをP.gingivalisに置き換えた試験も行った。
【0061】
〔試験3〕ハイドロキシアパタイトディスクに対するP.gulae及びそのバイオフィルムの電子顕微鏡観察
〔試験2〕で確認したCI-Dextran mixのバイオフィルム形成阻害作用を実際の歯の成分と同様のハイドロキシアパタイトディスクを用いて走査型電子顕微鏡により確認した。歯周病菌はCI-Dextran mixと結合することで毒素の排出や活性が阻害されている可能性が示唆される。本試験では、P.gulae菌と各CI-Dextran mixの結合能を走査型電子顕微鏡により調査した。〔試験2〕と同様の方法で培養したP.gulae菌を終濃度が5%となるように培養液に懸濁したCI-Dextran mix(1mL)と混合し、24時間12wellプレート内でハイドロキシアパタイトディスクと共培養した後、菌を含まないCI-Dextran mix混合培養液に置き換え、さらに72時間培養後のハイドロキシアパタイトの歯周病菌及びバイオフィルムを走査型電子顕微鏡で観察した。
【0062】
〔試験4〕P.gulaeによるマウスマクロファージ細胞(RAW264.7)の炎症性サイトカイン産生に及ぼすCI-Dextran mixの効果
低及び高濃度CI-Dextran mixにより処理したP.gulaeによるマウスマクロファージ細胞(RAW264.7)から産生される炎症性サイトカイン(IL-6)量をELISA法により測定した。
【0063】
RAW264.7細胞は10%牛胎児血清を添加したDMEM培地で培養継代し、それぞれ1×10cells/wellで96ウェル培養プレートに播種し、コンフルエント状態になるまで37℃、5%CO条件下で培養した。P.gulaeは、細胞への接種直前に10%牛胎児血清及び抗生物質無添加の各培地に濁度が1.0となるように調整し、精製水ないしCI-Dextran mixを0.0045~2.5%の割合で混合し、5分間静置した。細菌液を同量の10%牛胎児血清及び抗生物質無添加のDMEM培地と混合し、細胞に播種後24時間の培養液中のIL-6を、ELISA法を用いて測定した。
【0064】
対照として、P.gulaeをP.gingivalisに置き換えた試験も行った。
【0065】
〔試験5〕統計検定
試験1から試験4の各試験項目について、コントロール群と各ベントナイト投与群間の統計学的有意差の有無を危険率5及び1%レベルで解析した。媒体対照群と被験物質群間でのデータについては、まずBartlettの等分散検定を行った。この検定によって全用量群における分散が均一(p>0.05)であるという判定が出た場合には、一元配置分散分析法を用いて群間の有意差の有無を調べた。その結果群間に有意差が認められたとき(p≦0.05)は、Dunnettの多重比較法を実施して対照群と各投与群間における有意差の有無を判定した。Bartlettの等分散検定で各群の分散が等しくない(p≦0.05)という判定が出た場合は,Kruskal-Wallisの検定法を用いて群間の有意差の有無を調べた。その結果群間に有意差が認められたとき(p≦0.05)は、Dunnett型のノンパラメトリックな多重比較法を用いて対照群と各投与群間における有意差の有無を判定した。
【0066】
〔試験6〕CI-Dextran mix の口臭原因物質(メチルメルカプタン等)に対する消臭作用
まず、歯周病における口臭の主要原因物質であるメチルメルカプタンに着目し、メチルメルカプタンに対する CI-Dextran mix(少なくともCIとデキストランとを含有し、CI-7~CI-12の含有量が約20.4%、日新製糖株式会社;試験6についても同様)の直接的な消臭効果を調査した。メチルメルカプタン標準品(富士フィルム和光純薬株式会社)とCI-Dextran mixを0.625~2.5%の割合で混合して集気びんに静置し、30分後のメチルメルカプタン濃度をオーラルクロマ(簡易ガスクロマトグラフィー、NISSHAエフアイエス株式会社)により評価した。1mLシリンジを用いてガスを1mL採取し、オーラルクロマに添加することで測定した。次に、犬の歯周病の進行に大きく関与する歯周病原性細菌P.gulaeに着目し、CIDextran mix共培養下での口臭物質産生抑制効果をin vitroで調査した。P.gulae菌は嫌気性菌用ヒツジ血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に播種して嫌気条件下で3日間培養した後、ウマ溶血液加ブルセラブロス液体培地(極東製薬工業株式会社)にて濁度が1.0となるように調整した。P.gulae菌懸濁液にCI-Dextran mix を0.625~2.5%の割合で混合し、24時間37℃、嫌気条件下で培養した後のメチルメルカプタンおよび硫化水素の産生量をオーラルクロマを用いて測定した
【0067】
〔試験7〕CI-Dextran mixのP.gulae菌による不溶性グルカン産生阻害作用調査
P.gulae菌を含む歯周病菌は、歯に付着し複数の菌同士が集合することによってバイオフィルムを形成する。先行研究にてCI-Dextran mixが濃度依存的にP.gulae菌によるバイオフィルム形成を阻害する事がわかっている。バイオフィルムは糖からグルコシルトランスフェラーゼ-I(GTF)等により生成される不溶性グルカン(ムタン)によってバイオフィルムが構築される。本実験では、バイオフィルムの主要な構成要素である不溶性グルカン生成に及ぼすCI-Dextran mixの効果を検証した。CI-Dextran mix(0.625~2.5%)共培養下でP.gulae菌液とブドウ糖(2g/L)を、37℃インキュベーター内、遮光嫌気条件下で72時間培養し、遠心分離(10,000g、4℃、10分)と滅菌蒸留水ないし冷70%エタノールによる洗浄を繰り返す。1M NaOHで2時間培養する事で得られた不溶性グルカンをフェノール硫酸法により定量した。標準糖にはグルコースを用いた。
【0068】
〔試験8〕統計検定
試験6及び試験7の各試験項目について、コントロール群とCI-Dextran mix投与群間の統計学的有意差の有無を危険率5%及び1%レベルで解析した。一元配置分散分析法を用いて群間の有意差の有無を調べた。その結果群間に有意差が認められたとき(p≦0.05)は,Dunnettの多重比較法を実施して対照群と各投与群間における有意差の有無を判定した。
【0069】
<結果>
〔試験1〕CI-Dextran mixのP.gulaeに対する殺菌作用
試験1の結果を図3に示す。CI-Dextran mixの混合によるP.gulaeの殺菌効果は認められなかった。P.gingivalisについても同様に、殺菌効果は認められなかった。
【0070】
P.gingivalisの培養後1時間において軽度な細菌数の減少は認められたが、他の時間には影響がなく、減少も非常に軽微であったため殺菌効果はないと判断した。そのほかの時間軸で統計学的に有意な増加がみられるポイントも散見されたが、いずれもばらつきが大きく生菌数には影響がないことが示唆された。
【0071】
〔試験2〕CI-Dextran mixによるP.gulaeのバイオフィルム形成阻害作用
試験2の結果を図4に示す。P.gulae及びP.gingivalis(対照)いずれの歯周病菌も2.5%以上でコントロールと比較して有意なバイオフィルムの形成阻害が認められたが、その効果はP.gulaeでより顕著であった。いずれの実験においても5%濃度ではバイオフィルムの形成がコントロール(CI-Dextran mix不含有)と比較して著しく抑えられていた。
【0072】
〔試験3〕ハイドロキシアパタイトディスクに対するP.gulae及びそのバイオフィルムの電子顕微鏡観察
バイオフィルム形成能評価と同様のスケジュールにてハイドロキシアパタイトディスク上でCI-Dextran mix5%とP.gulae菌を共培養した。図5は、コントロールの観察結果であり、図6は、CI-Dextran mix5%のときの観察結果である。図5及び図6から、CI-DextranによるP.gulae菌のバイオフィルム形成阻害が確認された。
【0073】
〔試験4〕P.gulaeによるマウスマクロファージ細胞(RAW264.7)の炎症性サイトカイン産生に及ぼすCI-Dextran mixの効果
試験4の結果を図7に示す。事前にCI-Dextran mixで処理したP.gulae菌によるマクロファージ細胞から産生される炎症性サイトカイン(IL-6)量を測定することで、CI-Dextran mixが抗炎症に及ぼす影響を調査した。菌無処置群(Untreated)と比較して培養液にP.gulae菌のみを添加した群では、IL-6産生量が有意に増加する一方で、その産生量の増加はCI-Dextranmix処理により、濃度依存的に有意に減少した。
【0074】
培養液にP.gingivalis菌のみを添加した群においても、IL-6産生量が有意に増加した。そして、CI-Dextran mix処理を行っても、サイトカイン産生抑制効果は認められなかった。
【0075】
これは、サイクロデキストラン及びその誘導体がP.gulae由来のサイトカイン産生量を特異的に抑制できることを示唆するといえる。歯周病菌P.gulaeは、サイクロデキストラン及びその誘導体と結合することで毒素の排出や活性が特異的に阻害されるものと推測される。
【0076】
〔試験6〕CI-Dextran mixの口臭原因物質(メチルメルカプタン等)に対する消臭作用
図8は、〔試験6〕CI-Dextran mixの口臭原因物質(メチルメルカプタン等)に対する消臭作用の結果である。CI-Dextran mixの混合によるメチルメルカプタンに対する直接的な消臭作用は認められなかった。一方、P.gulaeとCI-Dextran mixを共培養する事でメチルメルカプタンおよび硫化水素の産生量は濃度依存的に減少し、メチルメルカプタン濃度は1.25%および2.5%、硫化水素は2.5%濃度のCI-Dextran mixにより有意に産生が阻害された。
【0077】
〔試験7〕CI-Dextran mixのP.gulae菌による不溶性グルカン産生阻害作用調査
CI-Dextran mixを0.625%~2.5%濃度でP.gulae菌と共培養した時の不溶性グルカン形成能評価結果を図9に示す。不溶性グルカン(ムタン)の産生量はCI-Dextran mixの濃度依存的に減少し、1.25%および2.5%濃度ではコントロールと比較して有意な減少が認められた。
【0078】
<考察>
本試験では、犬及び猫の代表的な歯周病原菌であるP.gulaeに対するCI-Dextran mixの殺菌作用、バイオフィルム形成能、及びP.gulaeによって誘導された炎症反応に対する抗炎症作用について調査を行った。
【0079】
歯周病菌液とCI-Dextran mixを混合培養した場合、曝露後10分~24時間で殺菌作用が認められなかった。
【0080】
次に、CI-Dextran mixが歯周病菌からのバイオフィルム形成に及ぼす影響を調査した。結果、P.gulae濃度が2.5%以上でコントロールと比較して有意なバイオフィルム形成阻害が認められ、5%濃度ではバイオフィルム形成がほぼ認められなかった。また、その抑制効果はP.gulaeの方がP.gingivalisに比べて大きかった。
【0081】
また、5%CI-Dextran mixによるP.gulae菌の増殖抑制及びバイオフィルム形成阻害作用はハイドロキシアパタイトディスクを用いた電子顕微鏡観察でも顕著に認められた。
【0082】
また、CI-Dextran mixが、口腔内の炎症に主体的に関与するマクロファージ細胞から産生される炎症性サイトカイン量にも及んでいるかを確認した。結果、歯肉炎や歯周炎、歯の融解に関連するP.gulaeにより誘発されるIL-6産生がCI-Dextran mix曝露により有意に減少していた。一方で、P.gingivalisにより誘発されるサイトカイン産生には効果が認められなかった。
【0083】
サイクロデキストランはP.gulaeおよびP.gingivalisによるグルカン形成を有意に阻害する事により、バイオフィルム形成、その後の歯垢形成を阻害する可能性が示唆された。また、歯周病菌の定着を防ぐことで口臭抑制や炎症の進行を抑制する効果も期待できることから、サイクロデキストランは人間および小動物の歯周病ケアに有用であると考えられる。

【要約】
【課題】有効成分それ自体がペットの嗜好性に合致するPorphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物、犬又は猫用のオーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤を提供する。
【解決手段】本発明は、サイクロデキストラン及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上の化合物を含有するPorphyromonas gulae由来サイトカイン産生抑制組成物である。この抑制組成物は、犬又は猫用のオーラルケア組成物、歯周病予防剤、口腔内バイオフィルム形成阻害剤、抗炎症剤及び口臭抑制剤に応用できる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9