(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】モータ制御方法
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20241118BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L9/18 J
(21)【出願番号】P 2020152099
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】大渕 浩司
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-128088(JP,A)
【文献】特開2017-195672(JP,A)
【文献】国際公開第2015/059784(WO,A1)
【文献】特開2018-191433(JP,A)
【文献】特開2011-195093(JP,A)
【文献】特開2013-255409(JP,A)
【文献】特開2017-192248(JP,A)
【文献】特開2005-102492(JP,A)
【文献】特開2012-175729(JP,A)
【文献】特開2016-096657(JP,A)
【文献】特開2017-221056(JP,A)
【文献】特開2018-067997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を発生するモータと、指示トルクを設定する制御ユニットと、前記制御ユニットと双方向に通信可能に接続され、前記指示トルクに応じた回路動作により交流電力を前記モータに供給するインバータ回路を備えるインバータとを搭載した車両におけるモータ制御方法であって、
前記インバータは、前記モータの状態を計測して、前記モータの状態を表すモータ状態パラメータを前記制御ユニットに送信し、
前記制御ユニットは、ドライバによる前記車両の加減速のためのドライバ操作の情報を取得して、当該ドライバ操作の情報および前記インバータから受信した前記モータ状態パラメータから、ドライバの要求に応じたドライバ要求トルクを求め、前記ドライバ要求トルクを前記モータが発生するモータトルクの目標として、その目標に応じた前記指示トルクを設定し、前記モータトルクを前記目標に収束させるフィードバック制御のために、前記指示トルクが、前記指示トルクが前記目標に到達する際に発生するショックを前記フィードバック制御で取り切れる最大のトルク値以上になったことに応じて、現在のモータ回転数とドライブシャフト回転数をモータ回転数に換算した回転数との偏差に応じた前記指示トルクを設定し、
前記偏差に応じた前記指示トルクは、前記モータトルクの時間変化がモータ回転数の時間変化と逆位相となるように設定される、モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行用の動力を発生するモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV:Electric Vehicle)などの電動車両には、走行用の駆動源としてのモータを制御するため、EV-ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)およびINV(Inverter:インバータ)を搭載したものがある。INVには、昇圧回路およびインバータ回路を含む高電圧回路が設けられている。モータには、高電圧回路から出力される交流電力が供給される。また、EV-ECUおよびINVは、それぞれマイコン(マイクロコントローラ)を備えている。EV-ECUとINVとは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる通信が可能に接続されている。
【0003】
図5は、モータトルク制御の流れを示す図である。
図6は、アクセル開度、ドライバ要求トルク、指示トルクおよび実行トルクの時間変化の一例を示す図である。
【0004】
EV-ECUおよびINVでは、マイコンにより、モータトルク制御のための処理が実行される。
【0005】
すなわち、EV-ECUでは、ドライバ情報が読み込まれる(ステップS81)。ドライバ情報は、ドライバによるアクセル操作やブレーキ操作などのドライバ操作の情報である。INVでは、モータ状態パラメータが計測される(ステップS91)。モータ状態パラメータは、モータ回転数およびモータトルクなど、モータの状態を表すパラメータである。INVで計測されたモータ状態パラメータは、INVからEV-ECUに送信される。そして、EV-ECUでは、ドライバ情報およびモータ状態パラメータから、ドライバの要求に応じたドライバ要求トルクが算出され(ステップS82)、そのドライバ要求トルクに基づいて、指示トルクが設定される。指示トルクは、EV-ECUからINVに送信され、INVでは、高電圧回路から指示トルクに応じた交流電力が出力されるように、高電圧回路の動作が制御される(ステップS92:モータ制御実行)。
【0006】
ドライバ要求トルクがモータトルクの目標とされて、その目標とモータ状態パラメータに含まれるモータトルクとの偏差が大きい場合は、モータから出力されるモータトルク(実行トルク)が急峻に立ち上がり、電動車両の駆動系(ドライブシャフト)のねじれによるショックが発生する。そのため、EV-ECUでは、
図6に示されるように、ドライバ要求トルクに対して指示トルクの立ち上がりを緩やかにするトルクなまし処理が行われる(ステップS83)。そして、トルクなまし処理により設定された指示トルクがEV-ECUからINVに送信される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、INVとEV-ECUとの間でモータ状態パラメータおよび指示トルクの通信が行われるため、ドライバ操作に対して実行トルクの立ち上がりが遅れる。これがトルクなまし処理と相まって、ドライバ操作に対するモータトルクの応答性が悪化する。しかも、モータ情報パラメータがINVからEV-ECUに送信されるため、同時刻におけるドライバ情報とモータ情報パラメータとを制御に用いることが困難であり、モータのフィードバック制御の精度が低い。そのため、トルクなまし処理を行っても、駆動系のねじれによるショックの発生の抑制が困難である。
【0009】
本発明の目的は、ドライバ操作に対するモータトルクの応答性の確保と、駆動系のねじれによるショックの発生の抑制とを両立できる、モータ制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係るモータ制御方法は、走行用の動力を発生するモータと、指示トルクを設定する制御ユニットと、制御ユニットと双方向に通信可能に接続され、指示トルクに応じた回路動作により交流電力をモータに供給するインバータ回路を備えるインバータとを搭載した車両におけるモータ制御方法であって、インバータは、モータの状態を計測して、モータの状態を表すモータ状態パラメータを制御ユニットに送信し、制御ユニットは、ドライバによる車両の加減速のためのドライバ操作の情報を取得して、当該ドライバ操作の情報およびインバータから受信したモータ状態パラメータから、ドライバの要求に応じたドライバ要求トルクを求め、ドライバ要求トルクをモータが発生するモータトルクの目標として、その目標に応じた指示トルクを設定し、その設定した指示トルクが予め定めたショック発生トルク値を超えた場合、所定時間、指示トルクを低減する。
【0011】
この方法によれば、制御ユニットでは、自ら取得したドライバ操作の情報と、インバータから受信したモータ状態パラメータとから、ドライバ操作によるドライバの要求に応じたドライバ要求トルクが求められる。そして、ドライバ要求トルクがモータトルクの目標とされて、その目標に応じた指示トルクが設定される。インバータでは、指示トルクに応じた交流電力がモータに供給されるように、インバータの回路動作が制御される。そのため、ドライバ操作に対してモータから出力されるモータトルク(実行トルク)が急峻に立ち上がる。その結果、ドライバ操作に対して良好な応答性で車両が加速する。
【0012】
しかし、モータトルクが所定以上の値まで急峻に立ち上がると、車両の駆動系に大きなねじれが生じ、そのねじれが解消されるときにショックが発生する。
【0013】
そこで、指示トルクが予め定められたショック発生トルク値を超えた場合、その後の所定時間、指示トルクが低減される。これにより、駆動系のねじれが解消される方向にモータトルクが働くので、駆動系に大きなねじれが生じることを抑制でき、ねじれが解消されるときのショックの発生を抑制することができる。
【0014】
よって、ドライバ操作に対するモータトルクの応答性の確保と、駆動系のねじれによるショックの発生の抑制とを両立させることができる。
【0015】
本発明の他の局面に係るモータ制御方法は、走行用の動力を発生するモータと、指示トルクを設定する制御ユニットと、制御ユニットと双方向に通信可能に接続され、指示トルクに応じた回路動作により交流電力をモータに供給するインバータ回路を備えるインバータとを搭載した車両におけるモータ制御方法であって、インバータは、モータの状態を計測して、モータの状態を表すモータ状態パラメータを制御ユニットに送信し、制御ユニットは、ドライバによる車両の加減速のためのドライバ操作の情報を取得して、当該ドライバ操作の情報およびインバータから受信したモータ状態パラメータから、ドライバの要求に応じたドライバ要求トルクを求め、ドライバ要求トルクをモータが発生するモータトルクの目標として、その目標に応じた指示トルクを設定し、モータトルクが目標に到達する時点を含む所定時間では、現在のモータ回転数とドライブシャフト回転数をモータ回転数に換算した回転数(又はそれに類するもの)との偏差に応じた指示トルクを設定する。
【0016】
この方法によれば、制御ユニットでは、自ら取得したドライバ操作の情報と、インバータから受信したモータ状態パラメータとから、ドライバ操作によるドライバの要求に応じたドライバ要求トルクが求められる。そして、ドライバ要求トルクがモータトルクの目標とされて、その目標に応じた指示トルクが設定される。インバータでは、指示トルクに応じた交流電力がモータに供給されるように、インバータの回路動作が制御される。そのため、ドライバ操作に対してモータから出力されるモータトルク(実行トルク)が急峻に立ち上がる。その結果、ドライバ操作に対して良好な応答性で車両が加速する。
【0017】
かかる制御は、フィードフォワード制御であり、フィードフォワード制御では、外乱による駆動系ねじれを考慮したトルク制御が困難である。一方、フィードバック制御を常に行った場合、モータトルクにハンチングが発生し、車両の加速の滑らかさが損なわれる。また、モータ状態パラメータがインバータから制御ユニットに送信される構成では、同時刻におけるドライバ情報とモータ情報パラメータとを制御に用いることが困難であるため、フィードバック制御の精度が低くなる。その結果、車両の駆動系のねじれによるショックの発生を抑制する処理が行われても、そのショックの発生を抑制できないおそれがある。
【0018】
そこで、モータトルクが目標に到達する時点を含む所定時間に限り、現在のモータ回転数とドライブシャフト回転数をモータ回転数に換算した回転数(又はそれに類するもの)との偏差に応じた指示トルクが設定されて、モータトルクのフィードバック制御が行われる。これにより、モータトルクのハンチングを抑制しつつ、モータトルクを目標に到達させることができる。しかも、精度の低いフィードバック制御が常には行われないので、駆動系のねじれによるショックの発生を抑制する処理が行われる場合に、ショックの発生を良好に抑制することができる。
【0019】
よって、ドライバ操作に対するモータトルクの応答性の確保と、駆動系のねじれによるショックの発生の抑制とを両立させることができる。
【0020】
制御ユニットからインバータに指示トルクが送信されるので、その通信時間分、指示トルクの出力に対してインバータの応答が遅れる。そのため、モータトルクの目標と実際のモータトルクとの偏差に応じた指示トルクは、指示トルクの出力に対するインバータの応答の遅れを考慮して、モータトルクの時間変化がモータ回転数の時間変化と逆位相となるように設定されることが好ましい。
【0021】
モータ回転数の時間変化とモータトルクの時間変化とが逆位相になるので、駆動系のねじれを小さくでき、そのねじれによるショックの発生を一層抑制することができる。
【0022】
なお、本発明は、モータ制御方法の形態で実現できるだけでなく、たとえば、モータを制御するシステムの形態で実現することもできる。
【0023】
すなわち、本発明は、走行用の動力を発生するモータを搭載した車両に用いられて、モータを制御するシステムであって、指示トルクを設定する制御ユニットと、制御ユニットと双方向に通信可能に接続され、指示トルクに応じた回路動作により交流電力をモータに供給するインバータ回路を備えるインバータとを含み、インバータは、モータの状態を計測して、モータの状態を表すモータ状態パラメータを制御ユニットに送信し、制御ユニットは、ドライバによる車両の加減速のためのドライバ操作の情報を取得して、当該ドライバ操作の情報およびインバータから受信したモータ状態パラメータから、ドライバの要求に応じたドライバ要求トルクを求め、ドライバ要求トルクをモータが発生するモータトルクの目標として、その目標に応じた指示トルクを設定し、その設定した指示トルクが予め定めたショック発生トルク値を超えた場合、所定時間、指示トルクを低減する、モータ制御システムとして実現することができる。
【0024】
この構成によれば、前述した本発明の一の局面に係るモータ制御方法と同様の作用効果を奏することができる。
【0025】
また、本発明は、走行用の動力を発生するモータを搭載した車両に用いられて、モータを制御するシステムであって、指示トルクを設定する制御ユニットと、制御ユニットと双方向に通信可能に接続され、指示トルクに応じた回路動作により交流電力をモータに供給するインバータ回路を備えるインバータとを含み、インバータは、モータの状態を計測して、モータの状態を表すモータ状態パラメータを制御ユニットに送信し、制御ユニットは、ドライバによる車両の加減速のためのドライバ操作の情報を取得して、当該ドライバ操作の情報およびインバータから受信したモータ状態パラメータから、ドライバの要求に応じたドライバ要求トルクを求め、ドライバ要求トルクをモータが発生するモータトルクの目標として、その目標に応じた指示トルクを設定し、モータトルクが目標に到達する時点を含む所定時間では、現在のモータ回転数とドライブシャフト回転数をモータ回転数に換算した回転数(又はそれに類するもの)との偏差に応じた指示トルクを設定する、モータ制御システムとして実現することもできる。
【0026】
この構成によれば、前述した本発明の他の局面に係るモータ制御方法と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ドライバ操作に対するモータトルクの応答性の確保と、駆動系のねじれによるショックの発生の抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御方法が実施される制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2A】モータトルク制御の流れを示す図(その1)である。
【
図2B】モータトルク制御の流れを示す図(その2)である。
【
図3】アクセル開度、ドライバ要求トルクおよび指示トルクの時間変化の一例を示す図である。
【
図4】モータ回転数、F/Bトルクおよび実行トルクの時間変化の一例を示す図である。
【
図5】従来のモータトルク制御の流れを示す図である。
【
図6】従来のモータトルク制御時のアクセル開度、ドライバ要求トルク、指示トルクおよび実行トルクの時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0030】
<制御システム>
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御方法が実施される制御システム1の構成を示すブロック図である。
【0031】
制御システム1は、たとえば、駆動モータ2を走行用の駆動源として搭載した電気自動車(EV:Electric Vehicle)に搭載される。駆動モータ2は、たとえば、回転子に永久磁石を用いた永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0032】
制御システム1には、EV-ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)3およびINV(Inverter:インバータ)4が含まれる。
【0033】
EV-ECU3は、マイコン(マイクロコントローラ)11を備えている。マイコン11には、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。また、EV-ECU3は、INV4や電気自動車に搭載される他のECUとの間でのCAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向のデータ通信(以下、単に「CAN通信」という。)を可能にするため、CANトランシーバ12を備えている。
【0034】
INV4は、マイコン21を備えている。マイコン21には、マイコン11と同様、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAMなどの揮発性メモリが内蔵されている。また、INV4は、EV-ECU3との間でのCAN通信プロトコルによる双方向のデータ通信を可能にするため、CANトランシーバ22を備えている。
【0035】
INV4は、駆動モータ2に駆動電流を供給する高電圧回路23を備えている。高電圧回路23は、直流電力を昇圧する昇圧コンバータ回路(図示せず)と、昇圧コンバータによる昇圧後の直流電力を交流電力に変換するインバータ回路24とを含む。電気自動車には、複数の二次電池を組み合わせた組電池からなるバッテリ(図示せず)が搭載されており、プラス配線25は、バッテリの正極端子に接続され、マイナス配線26は、バッテリの負極端子に接続されている。
【0036】
INV4では、マイコン21により、ゲートドライブ回路(図示せず)によりインバータ回路24が制御される。駆動モータ2には、インバータ回路24により変換された交流電力が供給される。
【0037】
<モータトルク制御>
図2Aおよび
図2Bは、モータトルク制御の流れを示す図である。
図3は、アクセル開度、ドライバ要求トルクおよび指示トルクの時間変化の一例を示す図である。
図4は、モータ回転数、F/Bトルクおよび実行トルクの時間変化の一例を示す図である。
【0038】
EV-ECU3のマイコン11およびINV4のマイコン21は、駆動モータ2が発生するモータトルクを制御するため、次に述べる処理を実行する。
【0039】
EV-ECU3では、ドライバ操作の情報であるドライバ情報が読み込まれる(ステップS1)。ドライバ操作は、電気自動車の加減速のためのドライバによる操作である。ドライバ操作には、アクセル操作(たとえば、アクセルペダルの操作)やブレーキ操作(たとえば、ブレーキペダルの操作)が含まれ、ドライバ操作の情報には、アクセル操作によるアクセル開度の情報およびブレーキ操作によるブレーキのオン/オフの情報が含まれる。
【0040】
一方、INV4では、駆動モータ2の状態を表すモータ状態パラメータが計測される(ステップS21)。モータ状態パラメータには、駆動モータ2の回転数であるモータ回転数および駆動モータ2が発生するモータトルクが含まれる。INV4で計測されたモータ状態パラメータは、CAN通信により、INV4からEV-ECU3に送信される。
【0041】
モータ状態パラメータを受信したEV-ECU3では、その受信したモータ状態パラメータと、自ら取得したドライバ情報とから、ドライバが要求する加速が得られるモータトルクであるドライバ要求トルクが算出される(ステップS2)。ドライバが要求する加速の度合いは、ドライバ操作に現れる。すなわち、ドライバが要求する加速の度合いが大きいほど、アクセル操作によるアクセル開度が大きくなる。EV-ECU3では、現在の駆動モータ2のモータ回転数およびモータトルクならびにアクセル開度などからドライバ要求トルクが算出される。
【0042】
つづいて、EV-ECU3では、ドライバ要求トルクをモータトルクの目標として、その目標に応じた指示トルクを設定した場合に、指示トルクがショック発生トルク値を超えるか否かが判断される(ステップS3)。ショック発生トルク値は、たとえば、それ以上のモータトルクが駆動モータ2から出力されると電気自動車の駆動系にねじれによるショックが発生する限界値であり、予め計算により求められている。
【0043】
指示トルクがショック発生トルク値を超えない場合(ステップS3のNO)、モータトルクが目標に到達する時点を含む所定時間内であるか否かが判断される。具体的には、次の判断ステップS6~S11のすべてが肯定される場合、モータトルクが目標に到達する時点を含む所定時間内であると判断され、次の判断ステップS6~S11のいずれか1つが少なくとも否定される場合、所定時間内ではないと判断される。
【0044】
S6:アクセル開度が第1値以上増加してから第1時間内である。
S7:ブレーキオフから第2時間内である。
S8:アクセル開度の変化が第2値以下である。
S9:アクセル開度が減少していない。
S10:ブレーキオフである。
S11:指示トルクが第3値以上である。
【0045】
ここで、第1値は、駆動系ねじれでショックが発生するトルク指示値を出力するアクセル開度である。第1時間は、指示トルクがドライバ要求トルクに到達するまでの予想時間である。第2時間は、ブレーキオフ後にドライバがアクセルを踏んでから指示トルクがドライバ要求トルクに到達するまでの予想時間である。第2値は、アクセル開度に応じて算出されるトルクの増加分で駆動系ねじれによるショックが発生するアクセル開度変化量である。第3値は、指示トルクが目標トルクに到達する際に発生する駆動系ショックをF/B制御で取り切れる最大のトルク値である。
【0046】
モータトルクが目標に到達する時点を含む所定時間内でない場合(
図2BのステップS6~S11のいずれかでNO)、EV-ECU3では、ドライバ要求トルクがモータトルクの目標とされて、その目標に応じた指示トルクが設定される(ステップS13)。指示トルクは、EV-ECU3からINV4に送信される。
【0047】
INV4では、EV-ECU3から指示トルクを受信すると、高電圧回路23から指示トルクに応じた交流電力が出力されるように、高電圧回路23(インバータ回路24)の動作が制御される(ステップS22:モータ制御実行)。
【0048】
一方、指示トルクがショック発生トルク値を超える場合(ステップS3のYES)、EV-ECU3では、駆動系のねじれによるショックの発生を抑制するためのショック抑制制御が行われているか否かが判断される(ステップS4)。指示トルクがショック発生トルク値を超えると判断された場合、その判断からの所定時間、EV-ECU3では、ショック抑制制御が行われる。ショック抑制制御では、ショック抑制トルクが算出されて(ステップS5)、その算出されたショック抑制トルクが指示トルクから減算される。ショック抑制トルクは、たとえば、
図3に示されるように、時刻T1で指示トルクがショック発生トルク値を超えると判断された場合、時刻T1から時刻T2までの所定時間において、
指示トルクが時間経過に伴って減少した後に増加するように設定される。実施例としてSin波形を模擬した波形を使用する際は、その周波数および振幅は、マップまたは演算により、駆動モータ2のモータ回転数に応じて設定される。
【0049】
ドライバ要求トルクに応じた指示トルクが設定されて(ステップS13)、その指示トルクによるモータトルクの制御が進むうちに、モータトルクが目標に到達する時点を含む所定時間内になると(ステップS11のYES、時刻T3)、EV-ECU3では、現在のモータ回転数とドライブシャフト回転数をモータ回転数に換算した回転数(又はそれに類するもの)との偏差に係数をかけたトルクがF/Bトルクとして算出される(ステップS12)。そして、EV-ECU3では、F/Bトルクに応じた指示トルクが設定され(ステップS13)、その指示トルクがINV4に送信される。INV4では、EV-ECU3から指示トルクを受信すると、高電圧回路23から指示トルクに応じた交流電力が出力されるように、高電圧回路23の動作が制御される(ステップS22)。すなわち、時刻T3から時刻T4までの所定時間において、駆動モータ2のモータトルクがフィードバック制御され、このフィードバック制御により、モータトルクが目標に収束する。
【0050】
このとき、EV-ECU3とINV4との間での通信分、指示トルクの送信に対するINV4の応答が遅れる。そのため、EV-ECU3では、
図4に示されるように、INV4の応答遅れを考慮したディレイ時間が設定されて、指示トルク(F/Bトルク)の位相が駆動モータ2のモータ回転数の時間変化に対してディレイ時間分ずらされる。これにより、駆動モータ2が発生するモータトルクは、その時間変化がモータ回転数の時間変化と逆位相となる。
【0051】
<作用効果>
以上のように、EV-ECU3では、自ら取得したドライバ操作の情報と、INV4から受信したモータ状態パラメータとから、ドライバ操作によるドライバの要求に応じたドライバ要求トルクが求められる。そして、ドライバ要求トルクがモータトルクの目標とされて、その目標に応じた指示トルクが設定される。INV4では、指示トルクに応じた交流電力が駆動モータ2に供給されるように、高電圧回路23の回路動作が制御される。そのため、ドライバ操作に対して駆動モータ2から出力されるモータトルク(実行トルク)が急峻に立ち上がる。その結果、ドライバ操作に対して良好な応答性で車両が加速する。
【0052】
指示トルクが予め定められたショック発生トルク値を超える場合、その後の所定時間、ショック抑制トルクが設定されて、ショック抑制トルク分、指示トルクが低減される。これにより、駆動系のねじれが解消される方向にモータトルクが働くので、駆動系に大きなねじれが生じることを抑制でき、ねじれが解消されるときのショックの発生を抑制することができる。
【0053】
ドライバ要求トルクをモータトルクの目標として、その目標に応じた指示トルクを設定する制御は、フィードフォワード制御であり、フィードフォワード制御では、外乱による駆動系ねじれを考慮したトルク制御が困難である。そこで、モータトルクが目標に到達する時点を含む所定時間に限り、現在のモータ回転数とドライブシャフト回転数をモータ回転数に換算した回転数(又はそれに類するもの)との偏差に応じた指示トルクが設定されて、モータトルクのフィードバック制御が行われる。これにより、モータトルクのハンチングを抑制しつつ、モータトルクを目標に収束させることができる。しかも、精度の低いフィードバック制御が常には行われないので、駆動系のねじれによるショックの発生を抑制する処理、つまりショック抑制制御によるショックの発生を良好に抑制することができる。
【0054】
また、そのフィードバック制御では、指示トルクは、指示トルクの送信に対するINV4の応答遅れを考慮して、モータトルクの時間変化がモータ回転数の時間変化と逆位相となるように、モータ回転数の時間変化に対して位相をずらして設定される。モータトルクの時間変化がモータ回転数の時間変化と逆位相になることにより、駆動系のねじれを小さくでき、そのねじれによるショックの発生を抑制することができる。
【0055】
よって、ドライバ操作に対するモータトルクの応答性の確保と、駆動系のねじれによるショックの発生の抑制とを両立させることができる。
【0056】
しかも、EV-ECU3のプログラムの変更により、モータトルクの応答性の確保およびショックの発生の抑制を両立させることができるので、EV-ECU3のハード構成を従来のものから変更しなくてよく、また、INV4については、従来のものを使用することができる。そのため、制御システム1のコストを安価に抑えることができる。
【0057】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0058】
たとえば、前述の実施形態では、制御システム1が電気自動車に搭載されているとしたが、制御システム1は、駆動モータを走行用の駆動源として搭載したハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)に搭載されてもよい。
【0059】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0060】
2:駆動モータ(モータ)
3:EV-ECU(制御ユニット)
4:INV(インバータ)
11:マイコン
21:マイコン
24:インバータ回路