(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】経鼻B型肝炎ワクチン組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20241118BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20241118BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241118BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
A61K39/00 G
A61K9/12
A61K47/32
A61P1/16
(21)【出願番号】P 2019547008
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2018037172
(87)【国際公開番号】W WO2019070019
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-06-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2017195262
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390002705
【氏名又は名称】東興薬品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】上下 泰造
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】小原 道法
(72)【発明者】
【氏名】真田 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】日浅 陽一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 理
(72)【発明者】
【氏名】小原 恭子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 秀樹
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】岡山 太一郎
【審判官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特許第5643849(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/103488(WO,A1)
【文献】Cur.Pharm.Biotech., 2015, vol.16, p.882-890
【文献】国立感染症研究所「11.ワクチン製剤の現状と安全性 (専門家向けHBV)」,Published: 2013年2月15日 https://www.niid.go.jp/niid/ja/vir2heptopi/3217-hbv-vaccine-fact-and-safety-for-professional.html-tmpl=component&layout=default
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)B型肝炎表面抗原(HBs抗原)とB型肝炎ヌクレオキャプシド抗原(HBc抗原)の両
方、および
(ii)カルボキシビニルポリマーを含有するゲル基剤
を含み、
ここで、カルボキシビニルポリマーを含有する基剤は、外部からせん断力を与えて、(1)製剤粒度分布において製剤平均粒子径が70μmから100μmの範囲、粒度分布が10μmから100μmの範囲に60%以上であり、(2)噴霧密度に偏りのない均等なフルコーンとなり、(3)噴射角度が40°から60°の範囲に制御した噴霧性能を付加されたスプレー投与ゲル基剤である、
B型肝炎を治療するための経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【請求項2】
(i)のB型肝炎ワクチンが1種の抗原当り0.01~10mg/mLである請求項1に記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【請求項3】
0.1w/v%から1.0w/v%のカルボキシビニルポリマーを含有する、請求項1または2に記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【請求項4】
0.5w/v%から2.0w/v%のカルボキシビニルポリマーを含有するゲル基剤を用い、噴霧性能としての、(1)製剤粒度分布範囲、(2)噴霧密度均一性、および/または(3)噴射角度制御を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーを含有するスプレー投与ゲル基剤を得た後、HBs抗原とHBc抗原を含むウイルス原液とストレスを与えることなく短時間で均一に混和して得られる、請求項1~3のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【請求項5】
鼻孔から鼻腔内粘膜に粘稠な製剤を噴霧可能とするデバイスを用いて投与することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎の予防および治療に用いる経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染することによって発症する肝炎であり、HBVは血液や体液を介して感染する。HBVの肝細胞への持続感染は、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌を引き起こす。
【0003】
B型慢性肝炎(CHB)の治療には現在、インターフェロン製剤(IFN)と核酸アナログ製剤(NA)が主に使用されているが、IFNは免役を強めてウイルスの増殖抑制を効果的に持続させる有効例もあるが、一般的にHBV排除率が低く、またその強い副作用も大きな問題であった。一方、NAは、約95%の高いHBV排除率を示すが、根治はしないため生涯の服用が必要となり、コンプライアンス、医療経済上の大きな問題が残り、また長期にわたる使用で耐性をもったウイルスの出現の可能性の問題も報告されている。そのため、CHBに対する新たな治療方法の開発が求められていた。
【0004】
一方、HBV感染予防としては、日本では感染リスクの高い者(HBVキャリア家族、医療従事者)を対象に予防ワクチン投与を行い、HBVキャリアの大幅な減少に一定の成果を上げてきている。一方、CHBの治療としても、HBVワクチンによる免疫治療の試行が行われてきたが、十分な治療効果が得れるまでには至っていない。
【0005】
本発明者らは、HBVには複数の抗原が存在し、その中で中和抗体を誘導するHBs抗原(B型肝炎表面抗原)に着目し、免疫治療を試みてきた。また、近年の研究の進歩により、HBVの増殖抑制と排除にはHBc抗原(B型肝炎ヌクレオキャプシド抗原)に対する獲得免疫が寄与することが明らかとなっている。
そのような中、キューバ生体工学研究所(CECMED)は、HBs抗原とHBc抗原の2種類の抗原を含む経鼻用治療ワクチンを開発し、バングラデシュにて臨床試験が行われ、HeberNasvac(登録商標、非特許文献1)として商品化に成功している。しかしながら、その投与方法は、経鼻投与だけでは免疫応答が不十分なため、皮下投与も併用する2サイクルの接種が必要とされ、経鼻用としての完全な粘膜ワクチンとはなっていない。
【0006】
以上のように、治療および予防目的としたHBVワクチンで、汎用性に優れた経鼻用ワクチン製剤が次世代B型肝炎ワクチンとして切望されていたが、実際その免疫応答が十分に得られないことから、その完全な実現には至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、皮下投与など他の投与経路による併用を必要とせず、毒性の懸念があるアジュバント等の補助成分を含まない、より簡便な経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物およびその製造方法、並びにB型肝炎の治療と予防方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、噴霧性能を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーからなる経鼻粘膜スプレー投与ゲル基剤をHBs抗原とHBc抗原の2種類の抗原により、アジュバントを用いることなく、経鼻投与だけでヒトに対して免疫誘導能を十分に高められることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下に示す通りである。
【0011】
[1](i)B型肝炎表面抗原(HBs抗原)とB型肝炎ヌクレオキャプシド抗原(HBc抗原)の両方またはどちらか一方、および
(ii)噴霧性能を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーを含有するゲル基剤
を含む、経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【0012】
[2](i)のB型肝炎ワクチンが1種の抗原当り0.01~10mg/mLである[1]に記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【0013】
[3]0.1w/v%から1.0w/v%のカルボキシビニルポリマーを含有する、[1]または[2]に記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【0014】
[4]噴霧性能としての、(1)製剤粒度分布範囲、(2)噴霧密度均一性、および/または(3)噴射角度制御を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーを含有するスプレー投与ゲル基剤を用いた[1]~[3]のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【0015】
[5]0.5w/v%から2.0w/v%のカルボキシビニルポリマーを含有するゲル基剤を用い、噴霧性能としての、(1)製剤粒度分布範囲、(2)噴霧密度均一性、および/または(3)噴射角度制御を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーを含有するスプレー投与ゲル基剤を得た後、HBs抗原とHBc抗原を含むウイルス原液とストレスを与えることなく短時間で均一に混和して得られる、[1]~[4]のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【0016】
[6]カルボキシビニルポリマーを含有する基剤に外部からせん断力を与えて、(1)製剤粒度分布において製剤平均粒子径が50μmから120μmの範囲、粒度分布が10μmから100μmの範囲に50%以上であり、(2)噴霧密度に偏りのない均等なフルコーンとなり、(3)噴射角度が30°から70°の範囲に制御した噴霧性能を付加されたスプレー投与ゲル基剤を用いて製造する[1]~[5]のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【0017】
[7]カルボキシビニルポリマーを含有する基剤に外部からせん断力を与えて、(1)製剤粒度分布において製剤平均粒子径が70μmから100μmの範囲、粒度分布が10μmから100μmの範囲に60%以上であり、(2)噴霧密度に偏りのない均等なフルコーンとなり、(3)噴射角度が40°から60°の範囲に制御した噴霧性能を付加されたスプレー投与ゲル基剤を用いて製造する[1]~[5]のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【0018】
[8]ポンプ機能を有しないスプレー可能なデバイスを用いて噴霧投与を可能とするために、(1)製剤粒度分布範囲、(2)噴霧密度均一性、(3)噴射角度制御を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーを含有するスプレー投与ゲル基剤を用いた[1]~[7]のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物。
【0019】
[9][1]~[8]のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物を、それを必要とする対象に、各鼻孔から鼻腔内粘膜に粘稠な製剤を噴霧可能とするデバイスを用いて投与することを含むB型肝炎の予防および/または治療方法。
【0020】
[10]B型肝炎を治療および/または予防するための[1]~[8]のいずれかに記載の経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物の使用。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、HBs抗原とHBc抗原を有効成分としたワクチン組成物において、少ない抗原量で有効な免疫応答を誘導できることより、皮下投与など他の投与経路による併用を必要とせず、アジュバントを用いる必要のない、経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物を提供することが可能となる。また、簡便な投与で且つ副作用の少ない製剤として、B型肝炎の予防のみならず、十分な免疫応答が得られることから、B型慢性肝炎の治療にも適用することができ、その強い活性から継続的な投与によるCHBの完治も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】免疫応答の解析試験の結果で、最終接種の1週間後に行った中和抗体価の結果を示す。グラフ中、s.c.は皮下接種を意味し、i.n.は経鼻接種を意味する。基剤は外部からせん断力を与えて処理したCVPを意図し、(-)はそれを含んでいない基剤、(+)はそれを含んだ基剤を意味する。
【
図2】免疫応答の解析試験の結果で、最終接種の1週間後に行ったIgA抗体の測定結果をを示す。グラフ中、s.c.は皮下接種を意味し、i.n.は経鼻接種を意味する。基剤は外部からせん断力を与えて処理したCVPを意図し、(-)はそれを含んでいない基剤、(+)はそれを含んだ基剤を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、噴霧性能を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーからなる経鼻粘膜スプレー投与ゲル基剤とB型肝炎抗原を含有する経鼻粘膜スプレー投与用B型肝炎ワクチン組成物を提供する。
【0024】
本発明で用いる「噴霧性能を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーを含有するゲル基剤」とは、例えばWO2007/123193に開示されている「皮膚・粘膜付着剤を含有するゲル基剤」を意味し、カルボキシビニルポリマーを含有し、ジェランガムを適宜含有し、外部からせん断力を与えて粘度を調整した基剤である。WO2007/123193に記載されている具体的な外部からのせん断力とは、単なる撹拌や振とうなどでなく、当業者に公知のせん断力を与える装置で行われ、具体的には、高速回転型乳化装置、コロイドミル型乳化装置、高圧乳化装置、ロールミル型乳化装置、超音波式乳化装置および膜式乳化装置を用いることができる。特にホモミキサー型、櫛歯型および断続ジェット流発生型の高速回転型乳化装置が好ましい。かかる基剤は外部からせん断力を与えることで種々の粘度に調整でき、噴霧容器からの噴射角度、噴霧密度を目的に適するように管理できることを特徴とする。
【0025】
スプレーによる投与に用いる装置としては、通常用いる点鼻用装置であれば制限されず、ポンプ機能を有しないスプレー可能なデバイスでも本発明の組成物は使用可能である。例えばWO2007/123193(
図1および2参照)およびWO2007/123207(
図1~11参照)に記載されているような、マルチドーズ噴霧容器として上方排圧エアレス式噴霧容器を用いることで、噴霧容器の投与がいずれの角度または角度の範囲でも容器内残量なく使用することができ、その使用形態は途上国での多人数への予防接種などに適している。また、一人の接種者への使用に限定した使い捨てタイプデバイスとしては、WO 2015/199130(
図1~4参照)に開示される点鼻用噴霧ノズルを用いることができる。本発明においては、かかるスプレー投与装置を用いて投与したB型肝炎ウイルス抗原が、鼻腔粘膜で広範囲に長時間展着することにより、ワクチンの免疫原性が高められるものである。
【0026】
経鼻粘膜スプレー投与用基剤の原料となるカルボキシビニルポリマーは、アクリル酸を主成分として重合して得られる親水性ポリマーであり、水性ゲル剤を調製するために通常用いられる医薬品添加物を限定なく使用することができる。
噴霧性能を付加するために外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマーを含有するゲル基剤の含量は、カルボキシビニルポリマーの含量に換算して、0.1~1.0%w/vであり、好ましくは0.3~0.7w/v%である。
【0027】
本発明のワクチンは、抗原としてB型肝炎ウイルス抗原の表面タイプ(HBs抗原)とコアタイプ(HBc抗原)の両方またはどちらか一方を含有することを特徴とする。本発明において用いられるB型肝炎ウイルス抗原とは、組換えDNA技術を応用して、酵母により産生されたB型肝炎ウイルス表面抗原並びにB型肝炎ヌクレオキャプシド抗原をいう。
前記B型肝炎ウイルス抗原は、経鼻粘膜スプレー投与ゲル基剤との混合のために精製または濃縮されたウイルス原液を使用する。本発明のワクチンは、B型肝炎ウイルス抗原の濃度が1種のワクチン抗原当り0.01~10mg/mLであることが好ましく、0.05~5mg/mLがより好ましい。
B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)は、脂質膜上に多くの抗原タンパク質を提示した粒子形(径約50~60nm)を取っている。提示されている抗原タンパク質は、本来は3つのドメイン(S、Pre-S1、Pre-S2)から構成されるタンパク質で、3つのドメイン全てを保有している抗原はL型抗原(HBsAg L-protein)で、Pre-S1を欠くものがM型抗原、Pre-S1とPre-S2両者を欠くものがS型抗原(HBsAg S-protein)と区別されている。いずれも遺伝子組換え酵母を用いて、抗原の製造が行われる。
【0028】
アジュバントとは、免疫応答の強化や抑制等の調節活性を有する物質の総称であり、抗原の免疫原性を高めるためにワクチンに添加される免疫増強剤であり、これまでに多くの物質が検討されている。一方、アジュバントを用いることでワクチンの免疫効果は向上する反面、炎症等の副作用が生じ得る欠点もある。当然、経鼻投与型ワクチンのアジュバントとしても、いくつかの候補が上げられるが、広く安全性が認められているアジュバントがないために、有効性・安全性が確立されているアジュバントを含有する経鼻投与型ワクチンは未だ認可されていない。
【0029】
本発明において、スプレー投与ゲル基剤とウイルス原液とを混和する方法で、「ストレスを与えることなく」とは、熱、圧力などを与えることなく、高速の撹拌をすることがないことを意味する。
【0030】
本発明者は、前記のように優れた噴霧性能を有する鼻腔粘膜展着率の高い経鼻粘膜スプレー投与ゲル基剤を、前記B型肝炎ワクチンに対して用いることにより、皮下投与など他の投与経路による併用を必要とせず、アジュバントを用いることなくより少ない抗原量で有効かつ副作用の少ないワクチンが得られ、粘稠性の高いゲル基剤でも噴霧可能とするデバイスと組み合わせることにより、噴霧された製剤平均粒子径が50μmから120μmの範囲(好ましくは、70μmから100μmの範囲)の適切な範囲、製剤粒度分布が10μmから100μmの範囲に50%以上(好ましくは、10μmから100μmの範囲に60%)であり、鼻腔内の必要な部位に投与できるようにデバイスからの噴射角度を30°から70°の範囲(好ましくは、40°から60°の範囲)にし、噴霧密度をフルコーン均等に鼻腔内に噴霧投与を可能にした経鼻粘膜スプレー式B型肝炎ワクチン組成物を見出し、その製法並びにそれを用いた予防方法並びに治療方法を発見することにより本発明に至った。
【0031】
本発明において、噴霧密度に偏りのない均等な噴霧密度を表す「フルコーン」とは、噴霧パターン形状の一つで、均質の円形全域を意味し、反対の用語は周囲のみに局在化したドーナツ型の「ホロコーン」である。
【0032】
本発明のワクチンは、B型肝炎ウイルス抗原及び経鼻粘膜スプレー投与ゲル基剤以外に、さらに医薬品として許容されうる担体を含んでいてもよい。前記担体としては、ワクチンおよび鼻腔内投与型製剤の製造に通常用いられる担体を使用することができ、具体的には、食塩水、緩衝化食塩水、デキストロース、水、グリセリン、等張水性緩衝液およびそれらの組合せが挙げられる。また、これに保存剤(例、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤、界面活性剤、安定化剤(例、エデト酸ナトリウム水和物)および不活化剤(例、ホルマリン)等が適宜配合される。
【0033】
投与量は、対象の年齢、性別、体重等を考慮して決められるが、抗原として、1種の抗原当り通常0.1~100μg、好ましくは0.5~10μgを1回または2回以上投与することができる。好ましくは複数回の投与であり、この場合、1~4週間の間隔をあけて投与することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0035】
以下に示す方法にて、ゲル基剤およびB型肝炎ウイルス原液を調製し、両者を以下のように混合して、B型肝炎ワクチン組成物を調製した。
〔ゲル基剤の製造〕
ゲル基剤例1
【0036】
〔B型肝炎ウイルス抗原を含むウイルス原液〕
ウイルス原液例1
【0037】
【0038】
〔ゲル基剤とウイルス原液の混合〕
上記のウイルス原液例1とウイルス原液例2(比率は1:1)、およびゲル基剤例1を混合撹拌し、均質な経鼻B型肝炎ワクチン組成物を得た(実施例1および実施例2)。この混合撹拌はB型肝炎ワクチン抗原に熱・圧力等のストレスを与えることなく、緩やかな混合撹拌で短時間に達成できる。得られたインフルエンザワクチン組成物の成分分量及び物性値並びに適切なデバイスを用いて噴霧した場合の付加された噴霧性能を示す。
【0039】
【0040】
【0041】
ゲル基剤を含まない経鼻B型肝炎ワクチン組成物を、以下の組成にて調製した。
比較例1
【0042】
【0043】
免疫応答の解析試験
実施例1および実施例2、並びに比較例1および比較例2で調製された経鼻B型肝炎ウイルスワクチン組成物に関して、ツパイを実験動物として使用し、それぞれの抗体誘導能を以下のように評価した。
(検体への抗体誘導)
検体としてツパイ(Tupaia belangeri、中国科学院昆明動物研究所より購入)を4頭または3頭ずつの各2グループの合計4グループにランダムに分け、4頭のグループには実施例1および実施例2で、3頭のグループには比較例1および比較例2で経鼻投与による抗体誘導を行った。経鼻投与は、高圧シリンジと液体噴霧装置を使用し、各鼻孔より片鼻0.05mLを経鼻噴霧接種(両鼻孔合計で各10μg抗原)した。初回接種後、2週間間隔で合計5回接種を行った後、4週間空けて再度もう1回接種を行った。採血を各接種時と、最終接種の1週間後に行い、中和抗体価を測定し評価した。
別途、同じく3頭ずつのツパイのグループを2つ用意し、比較例1および比較例2を皮下接種にて0.1mL(各抗原10μg)ずつツパイの背部に接種し、上記の経鼻投与の場合と同じように継続投与し、採血した。
【0044】
(中和抗体価および血清IgA抗体の測定)
中和抗体価の測定に用いるウイルス液は、ジェノタイプC(C_JPNAT)のB型肝炎ウイルスを用い、ヒト初代培養肝細胞(PXB細胞、フェニックスバイオ社製)に感染させて培養し調製した。中和試験にはHepG2-NTCP30細胞を用い、常法に従い中和抗体価を測定した。
また、各種抗原に対する血清中のIgA抗体をELISAにて検出測定した。
【0045】
(結果)
最終接種の1週間後に行った中和抗体価とIgA抗体の測定結果を表1並びに
図1および
図2に示した。経鼻接種の方が皮下接種より抗体誘導能が高く、一方経鼻接種においては、基剤として外部からせん断力を与えて処理したカルボキシビニルポリマー(CVP)を用いた実施例1および実施例2の方が、CVPを用いていない比較例1および2より抗体誘導能が有意に高い結果となった。
[表1]