(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】エマルションの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B01F 23/41 20220101AFI20241118BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20241118BHJP
B01F 25/40 20220101ALI20241118BHJP
B01F 25/50 20220101ALI20241118BHJP
B01F 35/00 20220101ALI20241118BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
B01F23/41
B01D19/00 G
B01F25/40
B01F25/50
B01F35/00
B01J13/00 A
(21)【出願番号】P 2020031304
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-09-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】福永 元
(72)【発明者】
【氏名】松岡 慧
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】金 公彦
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-125535(JP,A)
【文献】特表2016-530072(JP,A)
【文献】特開平2-95433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
B01F 23/40-23/47
B01F 25/40-25/46
B01F 25/50-25/54
B01F 35/00
B01J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のタンクと多孔体と送液手段とこれらを接続する循環配管とを有する循環回路内を、水相および油相を含む混合液が該多孔体を複数回通過するように、該混合液を循環させる、エマルションの製造方法であって、
該循環回路が、気体分離装置をさらに有し、
該多孔体が、多孔体保持具に保持されており、
該混合液が該多孔体を通過する際に、
供給圧力が5kPa~900kPaとなるように該混合液を該多孔体に供給して、該混合液に含まれる気泡を該多孔体保持具の上部に集合させ、集合した該気泡を該多孔体保持具に設けられた該気体分離装置を介して排出することにより、該混合液から該気泡を除去する、製造方法。
【請求項2】
前記多孔体が、筒状多孔体であり、
該筒状多孔体の外周面側から内周面側に向かって、あるいは、内周面側から外周面側に向かって前記混合液を通過させるとともに、前記混合液に含まれる気泡を該筒状多孔体の上部に集合させ、集合した該気泡を前記多孔体保持具に設けられた前記気体分離装置を介して排出する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合液が、水相と油相とが予備分散された予備分散液である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
油滴が水相に分散する水中油滴エマルションの製造方法である、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記気体分離装置が、気体排出弁である、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記気体分離装置が、前記循環回路内が負圧になった場合にも、吸気しない、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記タンク内で、前記混合液を撹拌しない、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
水相および油相を含む混合液を収容する1つ以上のタンクと、該混合液を通過させることにより該水相と該油相とを乳化させる多孔体と、
供給圧力が5kPa~900kPaとなるように該混合液を
該多孔体に送液する送液手段と、これらを接続して循環回路を構成する循環配管と、を備え、
該多孔体が多孔体保持具に保持され、
該混合液が該多孔体を通過する際に該多孔体保持具の上部に集合する該混合液由来の気泡を排出可能なように、該多孔体保持具に気体分離装置が設けられている、エマルションの製造装置。
【請求項9】
前記多孔体が、筒状多孔体であり、
前記混合液が外周面側から内周面側に向かって、あるいは、内周面側から外周面側に向かって該筒状多孔体を通過する際に該筒状多孔体の上部に集合する該混合液由来の気泡を排出可能なように、前記多孔体保持具に前記気体分離装置が設けられている、請求項8に記載のエマルションの製造装置。
【請求項10】
前記気体分離装置が、気体排出弁である、請求項8または9に記載の製造装置。
【請求項11】
前記気体分離装置が、前記循環回路内が負圧になった場合にも、吸気しない、請求項8から10のいずれかに記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルションの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エマルションの製造方法としては、機械的乳化法が広く知られているが、機械的乳化法によれば、一般に、得られるエマルション中の分散質(液滴)の粒子径分布が広い(単分散性が低い)傾向にある。これに対し、分散質(液滴)の粒子径分布が狭い(単分散性が高い)エマルションの製造方法として、マイクロチャネル乳化法、膜乳化法等が知られている(特許文献1~4)。
【0003】
マイクロチャネル乳化法によれば、単分散性に優れたエマルションが得られる一方で、分散質と分散媒との割合の設計自由度が低い。一方、膜乳化法によれば、分散質と分散媒との割合を比較的自由に設計することができる一方で、得られるエマルションの単分散性については、さらなる向上の余地がある。
【0004】
図4は従来の膜乳化法によるエマルションの製造装置を説明する概略図である。
図4に示す製造装置200は、水相と油相とを含む混合液を収容するタンク10と、該混合液を通過させることにより該水相と該油相とを乳化させる多孔体20と、該混合液を送液する送液手段30と、これらを接続して循環回路を構成する循環配管40と、を備える。
【0005】
上記製造装置200を用いたエマルションの製造方法によれば、水相と油相とを含む混合液が供給されたタンク10から該混合液が循環配管40に供給されて多孔体20を通過し、多孔体20を通過した混合液は再びタンク10に回収される。上記混合液のタンク10から循環配管40への供給、多孔体20の通過およびタンク10への回収を、所定の回数繰り返した後、得られたエマルションをエマルション収容タンク60に回収する。当該製造方法によって得られるエマルションは、上記の通り、液滴の単分散性に関して、機械的乳化法に比べて優れる一方で、マイクロチャネル法に比べると劣る場合がある。また、所望の単分散性を得るために必要な循環回数が多く、処理効率の点で向上の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6444062号公報
【文献】特許第6115955号公報
【文献】特開2010-190946号公報
【文献】特許第5168529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、膜乳化法によって単分散性に優れたエマルションを効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの局面によれば、1つ以上のタンクと多孔体と送液手段とこれらを接続する循環配管とを有する循環回路内を、水相および油相を含む混合液が該多孔体を複数回通過するように、該混合液を循環させる、エマルションの製造方法であって、該循環回路が、気体分離装置をさらに有し、該気体分離装置を介して該混合液から気泡を除去する、製造方法が提供される。
1つの実施形態においては、上記多孔体が多孔体保持具に保持され、上記混合液が上記多孔体を通過する際に、上記混合液に含まれる気泡を該多孔体保持具の上部に集合させ、集合した該気泡を該多孔体保持具に設けられた上記気体分離装置を介して排出する。
1つの実施形態においては、上記多孔体が、筒状多孔体であり、該筒状多孔体の外周面側から内周面側に向かって、あるいは、内周面側から外周面側に向かって上記混合液を通過させるとともに、上記混合液に含まれる気泡を該筒状多孔体の上部に集合させ、集合した該気泡を上記多孔体保持具に設けられた上記気体分離装置を介して排出する。
1つの実施形態においては、上記混合液が、水相と油相とが予備分散された予備分散液である。
1つの実施形態において、油滴が水相に分散する水中油滴エマルションの製造方法である。
1つの実施形態においては、上記気体分離装置が、気体排出弁である。
1つの実施形態においては、上記気体分離装置が、上記循環回路内が負圧になった場合にも、吸気しない。
1つの実施形態においては、上記タンク内で、上記混合液を撹拌しない。
本発明の別の局面によれば、水相および油相を含む混合液を収容する1つ以上のタンクと、該混合液を通過させることにより該水相と該油相とを乳化させる多孔体と、該混合液を送液する送液手段と、これらを接続して循環回路を構成する循環配管と、を備え、該多孔体が多孔体保持具に保持され、該混合液が該多孔体を通過する際に該多孔体保持具の上部に集合する該混合液由来の気泡を排出可能なように、該多孔体保持具に気体分離装置が設けられている、エマルションの製造装置が提供される。
1つの実施形態においては、上記多孔体が、筒状多孔体であり、上記混合液が外周面側から内周面側に向かって、あるいは、内周面側から外周面側に向かって該筒状多孔体を通過する際に該筒状多孔体の上部に集合する該混合液由来の気泡を排出可能なように、上記多孔体保持具に上記気体分離装置が設けられている。
1つの実施形態においては、上記気体分離装置が、気体排出弁である。
1つの実施形態においては、上記気体分離装置が、上記循環回路内が負圧になった場合にも、吸気しない。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエマルションの製造方法によれば、水相および油相を含む混合液から気泡を除去して、多孔体処理に供することにより、液滴の単分散性に優れたエマルションが効率的に得られ得る。従来、エマルション製造過程における気泡の除去は、得られたエマルションを塗布した際に気泡に起因して、得られる塗膜にブツが発生するのを防止する、あるいは、多孔体処理の効率を向上する目的で行われることが多い。これに対し、本発明は、多孔体処理対象の混合液から気泡を除去することにより、液滴の単分散性を早期に向上することができるという、従来とは異なる効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の1つの実施形態におけるエマルションの製造装置を説明する概略図である。
【
図2】筒状多孔体を保持している多孔体保持具および該多孔体保持具に配置された気体分離装置の一例の概略側面図である。
【
図3】
図2で示す多孔体保持具および気体分離装置の概略縦断面図である。
【
図4】従来の膜乳化法によるエマルションの製造装置の一例を説明する概略図である。
【
図5】実施例および比較例で得られたエマルション中の液滴の粒子径分布の評価結果を示すグラフである。
【
図6】実施例および比較例で得られたエマルション中の液滴の粒子径分布の評価結果を示すグラフである。
【
図7】実施例および比較例で得られたエマルション中の液滴の粒子径分布の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0012】
本発明の実施形態によるエマルションの製造方法は、1つ以上のタンクと多孔体と送液手段とこれらを接続する循環配管とを有する循環回路内を、水相および油相を含む混合液が該多孔体を複数回通過するように、該混合液を循環させる、エマルションの製造方法であって、該循環回路が、気体分離装置をさらに有し、該気体分離装置を介して該混合液から気泡を除去することを1つの特徴とする。多孔体処理対象の混合液から気泡を除去することにより、液滴の単分散性がより向上したエマルションが効率的に得られ得る。
【0013】
図1は、上記エマルションの製造方法に用いられ得るエマルションの製造装置の一例を説明する概略図である。
図1に示されるエマルションの製造装置100は、水相および油相を含む混合液を収容するタンク10と、該混合液を通過させることにより水相と油相とを乳化させる多孔体20と、該混合液を送液する送液手段30と、これらを接続して循環回路を構成する循環配管40と、混合液から気泡を除去するための気体分離装置50と、を備える。製造装置100においては、多孔体20が多孔体保持具70に保持された状態で循環回路を構成しており、気体分離装置50は多孔体保持具70に取り付けられている。
【0014】
製造装置100によれば、送液手段30を駆動して、混合液に循環回路内を循環させることにより、多孔体20を複数回通過させることができる。また、多孔体処理の終了後は、三方弁80を切り替えて循環回路を回収タンク60に連通させることにより、多孔体20を通過後の混合液(エマルション)を回収タンク60に回収することができる。
【0015】
タンク10は、撹拌翼を備えていてもよく、備えていなくてもよい。タンク内で混合液を撹拌しない場合、混合液中への気泡の混入が抑制されるので、本発明の効果がより好適に得られ得る。
【0016】
多孔体20は、連通孔を有する連続気泡多孔体であり、混合液を通過させることにより水相と油相とを乳化させ得る。多孔体は、目的とするエマルションの特性に応じて適切に選択され得る。例えば、油滴が水相に分散する水中油滴(O/W型)エマルションを製造する場合は、親水性の多孔体を用いることが好ましい。また、水滴が油相に分散する油中水滴(W/O型)エマルションを製造する場合は、疎水性の多孔体を用いることが好ましい。
【0017】
多孔体の構成材料としては、所望の親水性または疎水性を有するものであれば制限はなく、例えば、ガラス、セラミック、シリコン、金属、ポリマー等が挙げられる。また、多孔体は、膜状、板状、筒状等の任意の形状であってよい。
【0018】
多孔体が有する連通孔の平均孔径は、目的とするエマルションの液滴径、多孔体を通過させる混合液の組成、粘度等に応じて適切に選択され得る。1つの実施形態において、目的とするエマルションの液滴の平均粒子径が5μmである場合、連通孔の平均孔径は、例えば1μm~20μm、好ましくは5μm~10μmであり得る。また、言うまでもないが、単分散性の高いエマルションを得る観点から、多孔体の連通孔の孔径は均一性が高いことが好ましい。
【0019】
なお、上記エマルションの液滴の平均粒子径とは、体積分布の平均径(球でない場合には球相当径)を意味し、例えば、電解液中に分散させた液滴が微小な孔を通過する際の電気抵抗変化値を球換算する方法(コールター法)によって求まる値を用いることができる。あるいは、例えば、対象となる粒子2000個を任意にサンプリングして顕微鏡で観察し、撮影した画像をデジタル処理して個々の粒径を測定し球換算する方法や、粒子の通過による透過光の変化量で粒径を測定する光遮光式や、粒子径によって変化する光散乱強度を測定して粒度分布を特定する光散乱式の粒度測定装置を用いる測定方法を採用することもできるが、様々な手法の中で最も粒径分布の狭いサンプルを高分解能で測定できる手法はコールター法である。
【0020】
多孔体は、好ましくは、多孔体保持具に保持された状態で循環回路中に配置され、当該多孔体保持具には、その上部に集合した気体を排出可能なように気体分離装置が設けられている。気泡を含む混合液を多孔体の一方の側(供給面側)から他方の側(排出面側)に向かって通過させる場合、気泡よりも混合液の方が多孔体を通過しやすいことから、混合液が優先的に多孔体を通過する一方で、気泡は供給面側に取り残され、多孔体保持具上部に集合し得る。よって、当該集合した気泡を、気体分離装置50を介して排出することにより、効率的に混合液から気泡を除去することができ、結果として、より均一な多孔体処理が可能となる。
【0021】
多孔体は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な形状であり得る。1つの実施形態において、多孔体は、一方の端部または両端部が開口している筒状多孔体である。筒状多孔体は、軸方向が鉛直方向と略平行となるように配置され、その外周面側から内周面側に向かって通過した混合液が内周面内の空間を通って一方の端部から循環配管に供給されるように多孔体保持具内に配置され得る。あるいは、その内周面側から外周面側に向かって通過した混合液が外周面側の空間(多孔体保持具の内表面と筒状多孔体の外表面との空間)を通って一方の端部から循環配管に供給されるように多孔体保持具内に配置され得る。これにより、気泡を含む混合液を筒状多孔体の一方の側から他方の側(内周面側から外周面側または外周面側から内周面側)に向かって通過させた際に、気泡を筒状多孔体の上部に集合させることができ、多孔体保持具に設けられた気体分離装置を介して当該気泡を排出することができる。筒状多孔体または多孔体保持具と循環配管との接続は、直接的な接続であってもよく、アダプター等を介した間接的な接続であってもよい。また、多孔体保持具内に保持される多孔体の数は、2以上であってもよい。
【0022】
図2は、筒状多孔体を収容している多孔体保持具および該多孔体保持具に配置された気体分離装置の一例の概略側面図であり、
図3は、その概略縦断面図である。
図2及び
図3に示される実施形態において、多孔体保持具70は、両端部が開口しており、筒状多孔体20を収容するための空間を有する筒状の本体71と、多孔体20と循環配管40とを接続するための開口を有し、多孔体20を保持する上蓋体72と、多孔体20を保持する下蓋体73と、循環配管から多孔体保持具(本体71)に混合液を供給する供給部74と、集合した気泡を貯留する気体貯留部75と、多孔体20の下方端部を封止する封止体76と、を有する。筒状多孔体の一方の端部のみが開口している場合、封止体76は省略され得る。また、気体分離装置50は、気体貯留部75に取り付けられている。
【0023】
なお、図示例において、符号「a」は、ガスケット、パッキン、O-リング等のシール材を表し、矢印Aは、鉛直上向き方向を表す。また、気体貯留部の配置場所は、図示例に限定されず、集合した気泡を効率的に排出可能な任意の箇所に設けられ得る。あるいは、気体貯留部に効率的に気泡が集合するように、多孔体保持具70(本体71)を傾けて配置してもよい。
【0024】
図示例の構成によれば、多孔体保持具(本体71)に供給された混合液(換言すれば、筒状多孔体の外周面側に供給された混合液)を多孔体20の外周面側から内周面側に通過させる際に、気泡よりも多孔体を通過しやすい混合液が優先的に多孔体20を通過して、気泡が多孔体20の外周面側に取り残される。その結果、多孔体20の外周面側上部(例えば、気体貯留部75)に気泡が集合し、当該集合した気泡を気体分離装置50を介して排出することにより、効率的に混合液から気泡を除去することができ、より均一な多孔体処理が可能となる。
【0025】
なお、図示例において、気体分離装置50は、多孔体保持具の気体貯留部75に取り付けられているが、本発明は当該実施形態に限定されない。気体分離装置50は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な箇所に配置され得、気泡を効率的に排出する観点から、好ましくは多孔体保持具70、より好ましくは多孔体保持具70の鉛直方向上部、例えば本体71の側面上部や上蓋体72に配置され得る。また、多孔体保持具70に気体貯留部75を設けることなく、本体71に気体分離装置50を直接取付けることができる。また、気体分離装置50が多孔体保持具の鉛直方向上部に位置するように多孔体保持具70(本体71)および多孔体を傾けて配置してもよい。
【0026】
気体分離装置50としては、液体配管の空気抜きに通常用いることができる任意の適切な気体分離装置を用いることができる。なかでも、循環回路内が負圧になっても吸気しないように逆流防止器(逆止弁)を備えるものや、自動で排気(弁の開閉)が行われるものが好ましく用いられ得る。このような気体分離装置の具体例としては、気体排出弁を挙げることができ、フロート式の自動気体排出弁が好ましく挙げられる。
【0027】
送液手段30は、代表的にはポンプであり、定量ポンプが好ましく用いられる。ポンプが脈動を生じさせる場合、必要に応じて、脈動を抑制する脈動抑制装置を取り付けてもよい。
【0028】
循環配管40は、上記タンク10と、多孔体20と、送液手段30と、を接続して循環回路を構成し得るものであればよく、任意の適切な材料で構成され得る。
【0029】
上記構成を有するエマルションの製造装置100によれば、本発明の実施形態によるエマルションの製造方法を好適に実施することができる。具体的には、
図1に示されるように、タンク10と、多孔体20と、送液手段30とが循環配管によって接続された循環回路中を、送液手段30の駆動によって、水相と油相とを含む混合液を循環させることにより、該混合液に多孔体20を複数回通過させて、エマルションを調製することができる。このとき、循環回路中に配置された気体分離装置50を介して混合液に含まれる気泡を除去することにより、より均一な多孔体処理が可能となる結果、液滴の単分散性が向上したエマルションが得られ得る。
【0030】
多孔体は、好ましくは多孔体保持具に保持された状態で循環回路中に配置され、当該多孔体保持具には、気体分離装置が設けられている。より具体的には、気体分離装置は、混合液が多孔体を通過する際に多孔体保持具の上部に集合する混合液由来の気泡を排出可能なように、多孔体保持具(好ましくは多孔体保持具の上部)に設けられている。当該構成によれば、気泡よりも多孔体を通過しやすい混合液が優先的に多孔体を通過する一方で、多孔体を通過せずに多孔体保持具上部に集合した気泡を、気体分離装置を介して効率的に排出することができる。
【0031】
1つの実施形態においては、上記多孔体として、一方または両方の端部が開口した筒状多孔体が用いられる。筒状多孔体は、その外周面側から内周面側に向かって通過した混合液が内周面内の空間を通って一方の端部から循環配管に供給されるように多孔体保持具内に配置され得る。あるいは、その内周面側から外周面側に向かって通過した混合液が外周面側の空間を通って一方の端部から循環配管に供給されるように多孔体保持具内に配置され得る。当該構成によれば、混合液が容易に多孔体を通過する一方で、気泡は多孔体を通過せずに多孔体上部(換言すれば、気体分離装置を備えた多孔体保持具の上部)に集合し得ることから、混合液の多孔体処理と混合液からの気泡の除去とを効率的に行うことができる。筒状多孔体または多孔体保持具と循環配管との接続は、直接的な接続であってもよく、アダプター等を介した間接的な接続であってもよい。また、多孔体保持具内に保持される多孔体の数は、2以上であってもよい。
【0032】
多孔体の一方の側から他方の側に向かっての混合液の通過は、圧力をかけた状態で行われ得る。混合液の多孔体への供給圧力は、多孔体の孔径、混合液の組成等によって変化し得る。該供給圧力は、例えば5kPa~900kPa、好ましくは20kPa~700kPa、より好ましくは30kPa~500kPaであり得る。このような圧力範囲であれば、気泡が多孔体を通過することを抑制しつつ、混合液を良好に通過させることができ、結果として、より効率的に混合液から気泡を除去することができる。
【0033】
上記製造方法に用いられる混合液は、水相と油相とを含み、好ましくは乳化剤および/または高分子系保護コロイド剤をさらに含む。なお、乳化剤や高分子系保護コロイド剤は、その一部を、乳化後にエマルションに添加してもよい。
【0034】
水相は、代表的には、水を含む。水相は、目的等に応じて、任意の適切な水溶性物質が溶解された水溶液であってもよい。
【0035】
油相としては、水相と相溶しない任意の適切な材料が用いられ得る。油相の具体例としては、大豆油、ヒマシ油、オリーブ油等の植物油;牛脂、魚油等の動物油;芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等の鉱物油;リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸類;ヘキサン、トルエン等の有機溶剤;液晶化合物;合成樹脂;等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
混合液における水相および油相の配合割合は、目的とするエマルションの種類(O/W型またはW/O型)に応じて、適宜設定することができる。
【0037】
乳化剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等が好ましく用いられる。
【0038】
高分子系保護コロイド剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、デンプン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリル酸(PAA)等を例示できる。
【0039】
混合液における乳化剤および高分子系保護コロイド剤の配合割合はそれぞれ、液滴の単分散性、生産性等を向上する観点から、例えば0.1重量%~5.0重量%、好ましくは0.2重量%~4.0重量%、より好ましくは0.3重量%~3.0重量%である。
【0040】
上記混合液は、予め水相と油相とが予備分散された予備分散液であることが好ましい。予備分散液を用いることにより、乳化不良を抑制し得るとともに、乳化速度を向上することができる。
【0041】
予備分散液における液滴の平均粒子径は、エマルションの液滴に所望される平均粒子径より大きく、好ましくは多孔体の平均孔径に対して1倍~1000倍の範囲内、より好ましくは1倍~100倍の範囲内である。予備分散液における液滴の平均粒子径が多孔体の孔径に対して大き過ぎると、乳化に必要な圧力が高くなり、配管接合部やポンプの耐圧を超える負荷がかかる場合がある。
【0042】
予備分散液の製造方法としては、製造効率の観点から、回転翼式ホモジナイザー、超音波式ホモジナイザー、ボルテックスミキサー等を用いた機械的乳化法が好ましく採用され得る。
【0043】
上記循環回路における混合液の流量(多孔体の面積当たりの流量)は、好ましくは0.01L/(min・cm2)~0.5L/(min・cm2)、より好ましくは0.02L/(min・cm2)~0.2L/(min・cm2)である。このような流量で混合液を流通させることにより、所望の粒子径の液滴が好適に形成され得る。
【0044】
本発明の製造方法において、多孔体を複数回通過させて得られるエマルション中の液滴の変動係数(CV値)は、例えば30%以下であり得、好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下であり得る。なお、変動係数は、標準偏差を平均値で除することによって算出される値である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。また、特段の記載がない限り、「%」および「部」は、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0046】
[実施例1]
(エマルション製造装置)
図1~3に示すようなエマルション製造装置を用いた。具体的な仕様は、以下の通りである。
ポンプ:無脈動の定量ポンプ(タクミナ社製、スムースフローポンプTPL2ME-056)
多孔体モジュール:シラス多孔質ガラス膜(パイプ状、膜細孔径10μm、パイプ径Φ10mm、膜厚0.7mm、長さ250mm)が筐体(多孔体保持具)内に配置され、
図2および
図3に示す構成を有する、多孔体モジュール
タンク:エアー撹拌機を備えた耐圧タンク(100L容器)
圧力計:ブルドン管圧力計
配管継手類:ISOへルールユニオン継手 サニタリー管 (大阪サニタリー社製)
気体分離装置:自動気体排出弁(株式会社ベン社製、型式「AF-10D」、逆止弁なし)
【0047】
(混合液の調製)
乳化剤として、非イオン性界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル(第一工業製薬社製、商品名「ノイゲン ET-159」)を用いた。乳化剤および純水を計量後、容器内でマグネチックスターラーを用いて1000rpmにて室温で8時間攪拌することにより、純水に完全に溶解させて、10%濃度の界面活性剤希釈水を調製した。
植物油(花王社製、商品名「ココナードMT-N」)13.9kgを計量し、十分に室温に慣らして、油相として用いた。
上記油相に、エアー攪拌機で攪拌した状態(200rpm)で、界面活性剤希釈水1.3kgを添加し、1分間攪拌した。次いで、純水9.8kgをさらに添加して5分間攪拌し、予備分散された混合液(予備乳化O/W型エマルション)を調製した。
得られた混合液における水相と油相との配合割合(水相(W)/油相(O))は40/60であり、乳化剤の含有割合は、0.5重量%であった。また、混合液中の液滴の平均粒子径は400μmであった。
【0048】
(膜乳化処理)
上記混合液25kgをエマルション製造装置の供給タンクに移し替えた。なお、試験中は、タンクのエアー攪拌機を停止し、タンク内において混合液を撹拌しなかった。供給タンクから循環配管に混合液を供給して循環回路を流通させ(ポンプ流量:6.0kg/min)、多孔体を通過した混合液を一定時間循環させた後、三方弁を切り替えることにより、膜乳化処理(多孔体処理)を終えた混合液(エマルション)を回収タンクに回収した。なお、混合液の多孔体への供給圧力を、膜モジュールの上流に取り付けた圧力計で計測したところ、250kPaから乳化処理時間13分の間に150kPaまで低下し、そのまま処理中は一定圧力で推移した。上記膜乳化処理中、処理時間が4分、13分、21分、29分または42分である混合液を各5mL採取し、粒子径分布の評価を行った。結果を
図5~7に示す。
【0049】
[比較例1]
エマルション製造装置として、気体排出弁を設けなかったこと以外は実施例1と同様のエマルション製造装置を用いて、実施例1と同様の実験を行った。粒子径分布の評価結果を
図5~7に示す。
【0050】
≪粒子径分布の評価方法≫
上記実施例および比較例で採取した混合液について、試験終了後24時間以内に、コールターカウンター法にて粒子径測定を行い、平均粒子径、CV値および粒度分布相対幅σを求めた。ここで、粒度分布相対幅σは、次式で求められる値であり、エマルションの粒度分布のシャープさを表すことができる。具体的には、σが小さい値であると、粒度分布が狭いことを表す。
σ=(D90-D10)/D50
上記式中、D10は、累積粒度分布の小粒子径側からの累積10体積%を表し、D50は、累積50体積%を表し、D90は、累積90体積%を表す。なお、D50は体積平均粒子径に相当する。累積粒度分布の体積%は、下記の測定装置で測定された値である。
エマルションの製造方法によって得られるエマルションの粒度分布相対幅σは異なり、一般に、高速攪拌せん断を用いて製造したエマルションのσは、0.9~1.5程度であり、直接膜乳化法を用いて製造したエマルションσは、0.9~1.2程度である。これに対し、本発明のように透過膜乳化法を用いた場合はよりσが小さい(例えば、σが0.9未満の)エマルションを製造することができ、一般的なエマルションの製法と比較して粒度分布が十分にシャープなエマルションが得られ得る。
また、上記コールカウンター法による粒子径測定は、測定装置として、「Multisizer 4e」(ベックマン・コールター社製、測定管は30μmアパチャー使用)を用い、分散媒として、電解液IsotonII 150mlを用いて、60秒間の総粒子(時間しきい値)を測定することによって行った。
【0051】
図5~7に示される通り、気体分離装置を備えたエマルション製造装置を用いることにより、同じ処理時間で、従来のエマルション製造装置を用いた場合よりも液滴の単分散性により優れたエマルションが得られ得る。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のエマルションの製造方法は、単分散性の高い液滴を含むエマルションの製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0053】
10 タンク
20 多孔体
30 ポンプ
40 循環配管
50 気体分離装置
100 エマルションの製造装置