(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】繊維シートの製造方法及び繊維シートの製造装置
(51)【国際特許分類】
D04H 1/728 20120101AFI20241118BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20241118BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20241118BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20241118BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20241118BHJP
【FI】
D04H1/728
D01D5/04
H01M4/02 Z
H01M50/403 D
H01M50/403 F
H01M50/44
(21)【出願番号】P 2020089001
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 健哉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】中 具道
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008456(JP,A)
【文献】特開2020-004684(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088014(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173325(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/058577(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064625(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/077884(WO,A1)
【文献】特開2014-201849(JP,A)
【文献】特開2019-060505(JP,A)
【文献】特開2008-075197(JP,A)
【文献】特表2010-513744(JP,A)
【文献】特開2008-261065(JP,A)
【文献】特表2010-533248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D04H 1/00 - 18/04
H01M 4/00 - 4/62
H01M 50/40 - 50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に巻かれた基材を巻き解くことと、
有機材料が溶媒に溶解された原料溶液を巻き解かれた前記基材の両面に噴出させることにより、前記基材の前記両面に繊維シートを形成することと、
前記両面に前記繊維シートが形成された前記基材を搬送
することと、
前記基材の前記両面のそれぞれに対向して配置される赤外線ヒータによって、搬送した前記基材の前記両面に形成された前記繊維シートを
、加熱して乾燥させることと、
前記両面に形成された前記繊維シートを乾燥させた前記基材をロール状に巻き取ることと、
を具備する、繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記基材の前記両面のそれぞれに対向して配置される赤外線ヒータ
は、赤外線
を前記基材へ向かって放射することによって、前記繊維シートを加熱
して乾燥させる、請求項1の製造方法。
【請求項3】
前記赤外線による前記繊維シートの加熱では、極大放射強度に対応する波長が10μm以下の前記赤外線を放射させる、請求項2の製造方法。
【請求項4】
前記基材が巻き取られる前に、前記基材の前記両面に形成された前記繊維シートをプレスすることをさらに具備する、請求項1乃至3のいずれか1項の製造方法。
【請求項5】
前記繊維シートの乾燥によって、前記繊維シートに含まれる前記溶媒の割合は、0.25質量%以上25質量%以下になる、請求項1乃至4のいずれか1項の製造方法。
【請求項6】
前記基材の前記両面に噴出される前記原料溶液では、用いられる前記溶媒の1種類以上は、沸点が100℃以上の有機溶媒である、請求項1乃至5のいずれか1項の製造方法。
【請求項7】
前記基材は、活物質を含む活物質含有層が集電体の片面又は両面に担持された電極である、請求項1乃至6のいずれか1項の製造方法。
【請求項8】
ロール状に巻かれた基材を巻き解く巻き解き機と、
有機材料が溶媒に溶解された原料溶液を巻き解かれた前記基材の両面に噴出することにより、前記基材の前記両面に繊維シートを形成する紡糸ヘッドと、
前記紡糸ヘッドによって前記両面に前記繊維シートが形成された前記基材を搬送
する搬送ラインと、
前記基材の前記両面のそれぞれに対向して配置され、前記搬送ラインによって搬送された前記基材の前記両面に形成された前記繊維シートを
、加熱して乾燥する
赤外線ヒータと、
前記両面に形成された前記繊維シートが前記
赤外線ヒータによって乾燥された前記基材をロール状に巻き取る巻き取り機と、
を具備する、繊維シートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、繊維シートの製造方法及び繊維シートの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料が溶媒に溶解された原料溶液を電界紡糸法等によって基材の表面に噴出させ、基材の表面に有機繊維の繊維シートを形成する製造方法が、広く用いられている。例えば、電池の電極群において、正極と負極との間を絶縁するセパレータを、正極又は負極と一体に形成することがある。この場合、セパレータと一体に形成される電極(正極又は負極)の表面に、電界紡糸法等によって有機繊維の繊維シートを形成し、繊維シートがセパレータとなる。
【0003】
前述のようにして形成される繊維シートでは、繊維シートの耐久性の確保、及び、繊維シートを用いた製品の性能の確保等の観点から、製造された繊維シートに含まれる溶媒量を低く抑えることが、求められている。また、繊維シートの製造時等において乾燥によって繊維シートに含まれる溶媒量を減少させる場合は、効率的に繊維シートが乾燥されることが、求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、製造された繊維シートに含まれる溶媒量が低く抑えられるとともに、効率的に繊維シートが乾燥される繊維シートの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の繊維シートの製造方法によれば、ロール状に巻かれた基材を巻き解くとともに、有機材料が溶媒に溶解された原料溶液を巻き解かれた基材の両面に噴出させることにより、基材の両面に繊維シートを形成する。そして、製造方法では、両面に繊維シートが形成された基材を搬送するとともに、基材の両面のそれぞれに対向して配置される赤外線ヒータによって、搬送した基材の両面に形成された繊維シートを、加熱して乾燥させる。そして、製造方法では、両面に形成された繊維シートを乾燥させた基材をロール状に巻き取る。
【0007】
実施形態の繊維シートの製造装置は、巻き解き機、紡糸ヘッド、搬送ライン、赤外線ヒータ及び巻き取り機を備える。巻き解き機は、ロール状に巻かれた基材を巻き解き、紡糸ヘッドは、有機材料が溶媒に溶解された原料溶液を巻き解かれた基材の両面に噴出することにより、基材の両面に繊維シートを形成する。搬送ラインは、防止ヘッドによって両面に繊維シートが形成された基材を搬送する。赤外線ヒータは、基材の両面のそれぞれに対向して配置され、搬送ラインによって搬送された前記基材の前記両面に形成された繊維シートを、加熱して乾燥する。巻き取り機は、両面に形成された繊維シートが乾燥機によって乾燥された基材をロール状に巻き取る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る繊維シートの製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る繊維シートの製造装置1を示す。
図1に示すように、製造装置1は、巻き解き機2、紡糸機3、乾燥機5、及び、巻き取り機6を備える。また、製造装置1には、搬送ライン8が形成される。製造装置1では、搬送ライン8によって、基材10が、巻き解き機2から巻き取り機6まで、紡糸機3及び乾燥機5を順に通って搬送される。
【0011】
巻き解き機2は、リール21を備える。リール21には、基材10がロール状に巻かれる。巻き解き機2では、電動モータ等の駆動部材(図示しない)を駆動することにより、矢印R1の方向へリール21が回転する。これにより、リール21に巻かれた基材10が、巻き解かれる。そして、巻き解かれた基材10は、搬送ライン8に繰り出される。
【0012】
巻き取り機6は、リール61を備える。巻き取り機6では、電動モータ等の駆動部材(図示しない)を駆動することにより、矢印R2の方向へリール61が回転する。これにより、搬送ライン8によって搬送された基材10が、リール61によってロール状に巻き取られる。
【0013】
製造装置1では、矢印R1の方向へリール21を回転させると同時に矢印R2の方向へリール61を回転させることにより、巻き解き機2から巻き取り機6へ、搬送ライン8を通して基材10が搬送される。なお、搬送ライン8には、巻き解き機2から巻き取り機6へ基材10をガイドするガイドローラ(図示しない)が、1つ以上設けられてもよい。この場合、搬送ライン8において、巻き解き機2と紡糸機3との間、紡糸機3と乾燥機5との間、及び、乾燥機5と巻き取り機6との間の少なくともいずれかに、ガイドローラが配置される。また、紡糸機3内及び乾燥機5内のいずれかに、ガイドローラが配置されてもよい。
【0014】
また、巻き解き機2から巻き取り機6までの搬送ライン8の延設状態は、特に限定されない。ある一例では、搬送ライン8は、水平方向に沿って延設され、別のある一例では、鉛直方向に沿って延設する。また、巻き解き機2と巻き取り機6との間に、搬送ライン8の折れ曲がり部分又は折り返し部分等が1箇所以上設けられ、折れ曲がり部分又は折り返し部分等において、搬送ライン8の延設方向が変更されてもよい。ある一例では、紡糸機3と乾燥機5との間に、搬送ライン8の折り返し部分が設けられ、別のある一例では、紡糸機3内及び乾燥機5内のいずれかに、搬送ライン8の折り返し部分が設けられる。
【0015】
紡糸機3は、紡糸ヘッド31を1つ以上備え、
図1の一例では、6つの紡糸ヘッド31を備える。紡糸ヘッド31のそれぞれは、ヘッド本体32と、ヘッド本体32から突出するノズル33と、を備える。紡糸ヘッド31のそれぞれには、ノズル33は、1つのみ設けられてもよく、複数設けられてもよい。紡糸ヘッド31のそれぞれでは、ヘッド本体32の内部に、有機材料が溶媒に溶解された原料溶液を収納可能である。
【0016】
紡糸機3では、リール21から巻き解かれた基材10が、巻き取り機6に向かって搬送される。また、紡糸機3には、電源(図示しない)が設けられ、電源によって、巻き解かれた基材10と紡糸ヘッド31のそれぞれのノズル33との間に電圧を印加可能である。紡糸ヘッド31のそれぞれのヘッド本体32の内部に原料溶液が収納された状態では、基材10と紡糸ヘッド31のそれぞれのノズル33との間に電圧を印加することにより、紡糸ヘッド31のそれぞれのノズル33から原料溶液が、噴出される。この際、巻き解き機2によって巻き解かれた基材10の表面に、原料溶液が噴出される。これにより、基材10の表面に、有機繊維の繊維シート11が形成される。したがって、本実施形態の紡糸機3は、電界紡糸法によって、繊維シート11を形成する。
【0017】
図1の一例では、巻き解かれた基材10の両面に原料溶液が噴出され、基材10の両面に繊維シート11が形成される。ただし、ある一例では、巻き解かれた基材10の片面のみに原料溶液が噴出されてもよい。この場合、基材10の片面のみに、繊維シート11が形成される。
【0018】
原料溶液に用いられる有機材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリイミド、ポリケトン、ポリスルホン、セルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリフッ化ビニリデン(PVdf)のいずれか1以上が選択される。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)等が挙げられる。
【0019】
また、紡糸ヘッド31のそれぞれの内部では、有機材料は、例えば、5質量%以上60質量%以下の濃度で、溶媒に溶解される。原料溶液において有機材料を溶解する溶媒としては、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン、ジメトキシエチレン、トルエン、テトラヒドロフラン、水及びアルカン類、ケトン類、エステル類、アルコール類、エーテル類等が用いられる。また、溶解性の低い有機材料に対しては、レーザー等によってシート状の有機材料を溶解してもよい。さらに、原料溶液では、複数種類の溶媒を混合して用いてもよい。ここで、原料溶液に用いられる溶媒の1種類以上は、沸点が100℃以上の有機溶媒であることが、好ましい。沸点が100℃以上の有機溶媒としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリドン、トルエン等が挙げられる。
【0020】
紡糸ヘッド31のそれぞれのノズル33と基材10との間の電圧は、原料溶液における溶媒及び溶質の種類、原料溶液の溶媒の沸点及び蒸気圧曲線、原料溶液の濃度及び温度、ノズル33の形状、及び、基材10とノズル33との間の距離等に対応して、適宜決定される。ある一例では、紡糸ヘッド31のそれぞれのノズル33と基材10との間の電圧は、1kV~100kVの間で適宜決定される。また、紡糸ヘッド31のそれぞれのノズル33からの原料溶液の吐出速度は、原料溶液の濃度、粘度及び温度、紡糸ヘッド31のそれぞれのノズル33と基材10との間に印加される電圧、及び、ノズル33の形状等に対応する大きさになる。
【0021】
また、紡糸機3では、基材10の表面への繊維シート11の形成を、電界紡糸法以外の方法によって行われてもよい。ある一例では、電界紡糸法の代わりに、インクジェット法、ジェットディスペンサー法及びスプレー塗布法のいずれかによって、基材10の表面に有機繊維の繊維シート11が形成される。この場合も、紡糸機3では、紡糸ヘッド31から基材10の表面へ、有機材料を溶媒に溶解した原料溶液が吐出される。
【0022】
ここで、ある一例では、電池の電極群において正極と負極との間を絶縁するセパレータが、前述の繊維シート11として形成される。この場合、電極群において正極及び負極の一方がセパレータと一体に形成され、セパレータと一体に形成される電極(正極又は負極)が、基材10となる。そして、セパレータと一体に形成される電極の表面に、電界紡糸法等によって有機繊維の繊維シート11が形成される。また、電極(正極又は負極)と一体のセパレータが繊維シート11として形成される場合、繊維シート11は、電気的絶縁性を有する材料から形成される。また、電池の電極群では、正極及び負極のそれぞれは、集電体と、活物質を含む活物質含有層と、を備える。そして、正極及び負極のそれぞれでは、集電体の片面又は両面に、活物質含有層が担持される。
【0023】
本実施形態では、巻き解き機2と巻き取り機6との間の紡糸機3において、前述のようにして、基材10の表面に繊維シート11が形成される。したがって、巻き取り機6では、繊維シート11が表面に形成された基材10が、リール61に巻き取られる。
【0024】
乾燥機5は、搬送ライン8において、紡糸機3と巻き取り機6との間に配置される。そして、乾燥機5には、繊維シート11が表面に形成された基材10が、紡糸機3から搬送される。そして、乾燥機5は、巻き取り機6のリール61に基材10が巻き取られる前において、基材10の表面に形成された繊維シート11を乾燥する。このため、本実施形態の製造装置1では、基材10及び繊維シート11が巻かれていない状態で、乾燥機5によって、繊維シート11が乾燥される。また、本実施形態では、紡糸機3で繊維シート11を形成した後、他の工程が間に行われることなく、乾燥機5による乾燥が行われる。
【0025】
本実施形態では、乾燥機5は、赤外線ヒータ51を備える。赤外線ヒータ51は、赤外線を発生させる。そして、赤外線ヒータ51は、基材10の表面に形成された繊維シート11に、発生させた赤外線を放射する。そして、繊維シート11において有機材料及び溶媒等に含まれる官能基が、赤外線ヒータ51から放射された赤外線を吸収することにより、繊維シート11が加熱され、繊維シート11に含まれる溶媒が蒸発する。これにより、繊維シート11に含まれる溶媒量が減少し、繊維シート11が乾燥される。
【0026】
ここで、赤外線ヒータ51は、極大放射強度に対応する波長が10μm以下の赤外光を繊維シート11に放射することが好ましい。この場合、赤外線を放射している状態では、赤外線ヒータ51の温度は、17℃(290K)以上となる。ここで、繊維シート11において有機材料及び溶媒等に含まれる官能基には、波長が10μm以下の赤外線を吸収し易いものが多い。このため、極大放射強度に対応する波長が10μm以下であるスペクトルで赤外線が放射されることにより、繊維シート11において有機材料及び溶媒等に含まれる官能基が放射された赤外線をさらに吸収し易くなり、繊維シート11に含まれる溶媒が加熱によって蒸発し易くなる。これにより、繊維シート11の乾燥が、さらに適切に行われる。なお、繊維シート11の溶媒に含まれる官能基の中で波長が10μm以下の赤外線を吸収し易いものとしては、メチル基及びカルボニル基等が挙げられる。
【0027】
また、赤外線ヒータ51から放射される赤外線のスペクトルでは、極大放射強度に対応する波長が、4μm以上7μm以下であることが、さらに好ましい。放射される赤外線のスペクトルにおいて極大放射強度に対応する波長を7μm以下にすることにより、赤外線を放射している状態において、赤外線ヒータ51の温度は、137℃(410K)以上になる。このため、極大放射強度に対応する波長を7μm以下になるスペクトルの赤外線を放射することにより、沸点が100℃以上の有機溶媒等も蒸発し易くなり、繊維シート11に含まれる溶媒がさらに適切に蒸発する。また、放射される赤外線のスペクトルにおいて極大放射強度に対応する波長を4μm以上にすることにより、赤外線を放射している状態において、赤外線ヒータ51の温度は、451℃(724K)以下になる。これにより、赤外線を放射している状態において、繊維シート11を乾燥させる空間の温度が過度に高くなることが、有効に防止される。
【0028】
前述のように乾燥機5によって繊維シート11が乾燥されることにより、ある一例では、乾燥機5による乾燥の後において、繊維シート11に含まれる溶媒の割合は、5質量%以上25質量%以下になる。また、乾燥機5による乾燥の後において、繊維シート11に含まれる溶媒の割合が5質量%以上10質量%以下になることが、好ましい。繊維シート11に含まれる溶媒の割合が5質量%以上10質量%以下になることにより、電極(正極又は負極)と一体のセパレータが繊維シート11として形成される電池等の繊維シート11を用いた製品において、性能が向上する。
【0029】
なお、乾燥機5における繊維シート11の乾燥は、赤外線ヒータ51から放射される赤外線を用いた乾燥に限るものではない。ある一例では、乾燥機5において、赤外線ヒータ51から放射される赤外線の代わりに温風を用いて、繊維シート11を乾燥させてもよい。
【0030】
前述のように本実施形態では、原料溶液の噴出によって基材10の表面に繊維シート11を形成されると、基材10が巻き取り機6によって巻き取られる前に、繊維シート11が乾燥機5によって乾燥される。乾燥機5での乾燥によって繊維シート11に含まれる溶媒が減少することにより、製造装置1によって製造された繊維シート11では、繊維シート11に含まれる溶媒量が低く抑えられる。これにより、製造された繊維シート11の耐久性が確保されるとともに、繊維シート11を用いた製品の性能が確保される。
【0031】
例えば、電極(正極又は負極)と一体のセパレータが繊維シート11として形成される電池では、繊維シート11であるセパレータに含まれる溶媒量が低く抑えられることにより、セパレータの耐久性が向上するとともに、電池の耐久性も向上する。また、繊維シート11であるセパレータに含まれる溶媒量が低く抑えられることにより、電池の内部抵抗が低く抑えられ、電池の高出力化を実現可能になる。これにより、電池の性能が確保される。
【0032】
また、本実施形態では、前述のように、基材10が巻き取り機6によって巻き取られる前に、繊維シート11が乾燥機5によって乾燥される。すなわち、基材10及び繊維シート11が巻かれていない状態で、乾燥機5によって、繊維シート11が乾燥される。このため、繊維シート11は、長時間を要することなく効率的に乾燥され、繊維シート11の乾燥における作業効率が向上する。また、基材10及び繊維シート11が巻かれていない状態で繊維シート11が乾燥されるため、繊維シート11が適切に乾燥される。
【0033】
また、繊維シート11において有機材料及び溶媒等に含まれる官能基には、赤外線を吸収し易いものが多く、特に、波長が10μm以下の赤外線を吸収し易いものが多い。このため、赤外線ヒータ51から放射される赤外線によって繊維シート11を加熱及び乾燥することにより、有機材料及び溶媒等に含まれる官能基が吸収した赤外線によって、繊維シート11において溶媒が蒸発し易くなる。特に、極大放射強度に対応する波長が10μm以下の赤外線が放射されることにより、繊維シート11において有機材料及び溶媒等に含まれる官能基が放射された赤外線をさらに吸収し易くなり、繊維シート11に含まれる溶媒が加熱によってさらに蒸発し易くなる。したがって、本実施形態では、赤外線ヒータ51が用いられることにより、繊維シート11の乾燥が、さらに適切に行われる。
【0034】
(変形例)
本実施形態等の変形例として、巻き解き機2、紡糸機3、乾燥機5及び巻き取り機6の他に搬送ライン8にプレス機を備える構成としてもよい。この場合プレス機は基材10の表面に形成された繊維シート11をプレスする構成であり、プレス機で繊維シート11をプレスすることによって繊維シート11が圧縮され、繊維シート11の密度及び強度を高めることができる。
【0035】
このような、プレス機の一例としては、電動モータ等により駆動される一対のプレスローラを備えるものを用いることができる。この場合、繊維シート11及び基材10が一対のプレスローラの間で挟まれることで、一方のプレスローラが基材10の厚み方向の一方側から繊維シート11及び基材10をプレスし、他方のプレスローラが基材10の厚み方向の他方側から繊維シート11及び基材10をプレスする。製造装置1においてプレス機は、少なくとも、巻き取り機6に基材10が巻き取られる前に、基材10の表面に形成された繊維シート11をプレスすればよい。
【0036】
これらの少なくとも一つの実施形態又は実施例の繊維シートの製造方法及び製造装置によれば、基材が巻き取られる前において、基材の表面に形成された繊維シートを乾燥させる。これにより、製造された繊維シートに含まれる溶媒量が低く抑えられるとともに、効率的に繊維シートが乾燥される繊維シートの製造方法及び製造装置を提供することができる。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、付記を記載する。
[1]ロール状に巻かれた基材を巻き解くことと、
有機材料が溶媒に溶解された原料溶液を巻き解かれた前記基材の表面に噴出させることにより、前記基材の前記表面に繊維シートを形成することと、
前記繊維シートが前記表面に形成された前記基材をロール状に巻き取ることと、
前記基材が巻き取られる前において、前記基材の前記表面に形成された前記繊維シートを乾燥させることと、
を具備する、繊維シートの製造方法。
[2]前記繊維シートの乾燥では、赤外線ヒータから放射される赤外線によって前記繊維シートを加熱することにより、前記繊維シートを乾燥させる、[1]の製造方法。
[3]前記赤外線による前記繊維シートの加熱では、極大放射強度に対応する波長が10μm以下の前記赤外線を放射させる、[2]の製造方法。
[4]前記基材が巻き取られる前に、前記基材の前記表面に形成された前記繊維シートをプレスすることをさらに具備する、[1]乃至[3]のいずれか1つの製造方法。
[5]前記繊維シートの乾燥によって、前記繊維シートに含まれる前記溶媒の割合は、0.25質量%以上25質量%以下になる、[1]乃至[4]のいずれか1つの製造方法。
[6]前記基材の前記表面に噴出される前記原料溶液では、用いられる前記溶媒の1種類以上は、沸点が100℃以上の有機溶媒である、[1]乃至[5]のいずれか1つの製造方法。
[7]前記基材は、活物質を含む活物質含有層が集電体の片面又は両面に担持された電極である、[1]乃至[6]のいずれか1つの製造方法。
[8]ロール状に巻かれた基材を巻き解く巻き解き機と、
有機材料が溶媒に溶解された原料溶液を巻き解かれた前記基材の表面に噴出することにより、前記基材の前記表面に繊維シートを形成する紡糸ヘッドと、
前記繊維シートが前記表面に形成された前記基材をロール状に巻き取る巻き取り機と、 前記基材が巻き取られる前において、前記基材の前記表面に形成された前記繊維シートを乾燥する乾燥機と、
を具備する、繊維シートの製造装置。
【符号の説明】
【0038】
1…製造装置、2…巻き解き機、3…紡糸機、5…乾燥機、6…巻き取り機、10…基材、11…繊維シート、31…紡糸ヘッド、51…赤外線ヒータ。