(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】電解還元装置、および電解還元方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20241118BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20241118BHJP
C22B 60/02 20060101ALI20241118BHJP
C22B 60/04 20060101ALI20241118BHJP
C25C 3/02 20060101ALI20241118BHJP
C25C 3/04 20060101ALI20241118BHJP
G21C 19/46 20060101ALI20241118BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
C25C7/02 308Z
C22B5/04
C22B60/02
C22B60/04
C25C3/02 A
C25C3/02 B
C25C3/04
G21C19/46 200
G21F9/28 571D
G21F9/28 571E
(21)【出願番号】P 2020101526
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-02-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 要
(72)【発明者】
【氏名】福井 宗平
(72)【発明者】
【氏名】中原 宏尊
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 大輔
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-131489(JP,A)
【文献】特開2008-013793(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099189(WO,A1)
【文献】特表2016-507008(JP,A)
【文献】特開2018-111860(JP,A)
【文献】特開2001-303286(JP,A)
【文献】特表2004-530042(JP,A)
【文献】特開2003-166094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 3/00
C25C 7/00
C25D 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤と還元対象である金属酸化物とを接触させて前記金属酸化物を還元する電解還元装置であって、
Pt、Ni、C、La、Zr、Biのいずれか一つ以上を含む材料から成り、前記金属酸化物を保持する陰極と、
Pt、Ni、C、La、Zr、Biのいずれか一つ以上を含む材料から成る陽極と、
前記陰極、前記金属酸化物および前記陽極が浸される浴塩と、
還元剤供給塩と、
ガラス、ステンレス、セラミックのいずれかからなり、前記浴塩を収容する容器と、
前記陰極および前記陽極に電流を通電する直流電源と、を備え、
前記浴塩は、有機塩であり、
前記有機塩は、
その融点が室温以下である、異なる数の炭素鎖を2本以上有する有機カチオン、かつフッ素官能基を4基以上持つ有機アニオンから構成される
ことを特徴とする電解還元装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電解還元装置において、
前記有機塩は、電位窓が-2.7V(Ag(I)/Ag(0)参照電極)以下である
ことを特徴とする電解還元装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電解還元装置において、
前記有機塩のアニオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、n-ビス(パーフルオロアルカンスルホニルイミド)のいずれかである
ことを特徴とする電解還元装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電解還元装置において、
前記有機塩のカチオンが、N,N’-二置換イミダゾリウム、N,N’-二置換ピロリジニウム、N,N’-二置換ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムのいずれかである
ことを特徴とする電解還元装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電解還元装置において、
前記還元剤供給塩は、Li、K、Ca、Mgのいずれか1つ以上を含む無機塩である
ことを特徴とする電解還元装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電解還元装置において、
前記還元剤供給塩は、Li、K、Ca、Mgのいずれか1つ以上を含む有機塩である
ことを特徴とする電解還元装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電解還元装置において、
前記浴塩を撹拌する撹拌装置を更に備えた
ことを特徴とする電解還元装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電解還元装置において、
前記有機塩が電気分解した際に発生するガスを捕集するオフガス処理装置を更に備えた
ことを特徴とする電解還元装置。
【請求項9】
金属酸化物の電解還元方法であって、
Pt、Ni、C、La、Zr、Biのいずれか一つ以上を含む材料から成る陰極にて前記金属酸化物を保持して、
その融点が室温以下である、異なる数の炭素鎖を2本以上有する有機カチオン、かつフッ素官能基を4基以上持つ有機アニオンから構成される有機塩を浴塩として用いて
ガラス、ステンレス、セラミックのいずれかからなる容器に収容し、
前記浴塩中に前記陰極、前記金属酸化物、および
Pt、Ni、C、La、Zr、Biのいずれか一つ以上を含む材料から成る陽極を浸し、
直流電源により前記陰極および前記陽極との間に電流を通電して前記浴塩中に溶解させた還元剤供給塩のイオンを還元し、還元剤として還元対象である前記金属酸化物と接触させ、反応させる
ことを特徴とする電解還元方法。
【請求項10】
請求項1に記載の電解還元装置において、
前記還元対象である前記金属酸化物は、酸化ウラン、酸化プルトニウムである
ことを特徴とする電解還元装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴塩に浸した陽極と還元対象である金属酸化物を保持する陰極との間に電流を通電して金属酸化物を還元する電解還元装置、および電解還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再処理燃料物質からアクチニドを抽出及び再生するための、非水性システムの一例として、特許文献1には、ウラン及び超ウラン金属並びに金属酸化物を最初にオゾン組成物中に溶解し、得られたオゾン溶液を更に常温イオン液体であるトリ-メチル-n-ブチルアンモニウムn-ビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)としての第2溶液に溶解させて第2溶液を形成して、第2溶液中の金属を電気化学的に析出させることが記載されている。
【0003】
また、操業温度を下げられると共に使用済酸化物燃料を還元する場合に後段の電解精製工程との間での廃棄物発生量を少なくする技術の一例として、特許文献2には、還元対象である酸化物を保持する陰極と、陽極と、酸化物および陽極が浸される溶融塩と、溶融塩を収容する容器と、陰極および陽極に電流を通電して酸化物を還元する直流電源とを備え、溶融塩を塩化リチウム-塩化カリウム共晶塩とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-507008号公報
【文献】特開2003-166094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子力発電所から発生する使用済み燃料中には、ウラン、超ウラン元素の他に、核分裂生成物であるアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類等が含まれており、再処理工程を経て燃料として再利用することができる。
【0006】
従来、再処理方法として、使用済み酸化物燃料と混合酸化物燃料(MOX燃料)とを還元対象物として金属に還元して金属燃料を得る方法として、電解還元方法が知られている。
【0007】
特許文献1では、前処理装置と電解還元装置からなる還元設備を用いている。前処理装置により、還元対象であるU3O8をオゾンと接触させ、ウラナスイオンとして浴塩に溶解する。電解還元装置により、陽極と陰極をともに浴塩に浸漬し、電流を通電することで、溶解したウラナスイオンを陰極で金属ウランとして還元析出する還元設備が開発されている。ここで、浴塩には、30℃以下で溶融状態をとる有機塩が使用されている。
【0008】
また、特許文献2では、高温制御装置と電解還元装置からなる還元設備を用いている。高温制御装置により、浴塩を500℃以上の高温に維持し溶融状態とする。電解還元装置により、還元対象である金属酸化物を保持する陰極と陽極とを浴塩に浸漬し、陰極と陽極に電流を通電して金属酸化物を固体のまま還元し、金属ウランとする還元設備が開発されている。ここで、浴塩には、500℃以上で溶融状態をとる塩化リチウム-塩化カリウム共晶塩が使用されている。
【0009】
しかし、特許文献1に記載の技術では、還元対象のU3O8をオゾンと接触させ、ウラニルイオンとして有機塩に溶解する前処理装置が必要であり、還元設備が大型化する、との課題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の技術では、浴塩に無機塩を使用しているが、このような無機塩は、塩を構成するカチオンとアニオンが単原子のため、500℃~800℃以上と高融点である。そのため、高温制御装置が必要あり、同様に還元設備が大型化する課題がある。
【0011】
これらのことから、還元設備の容量を低減するために前処理や高温制御が不要な電解還元装置が待たれている。
【0012】
本発明は、金属酸化物の電解還元において、前処理装置や高温制御装置を不要とし、還元設備の容量を従来に比べて低減することが可能な電解還元装置、および電解還元方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、還元剤と還元対象である金属酸化物とを接触させて前記金属酸化物を還元する電解還元装置であって、Pt、Ni、C、La、Zr、Biのいずれか一つ以上を含む材料から成り、前記金属酸化物を保持する陰極と、Pt、Ni、C、La、Zr、Biのいずれか一つ以上を含む材料から成る陽極と、前記陰極、前記金属酸化物および前記陽極が浸される浴塩と、還元剤供給塩と、ガラス、ステンレス、セラミックのいずれかからなり、前記浴塩を収容する容器と、前記陰極および前記陽極に電流を通電する直流電源と、を備え、前記浴塩は、有機塩であり、前記有機塩は、その融点が室温以下である、異なる数の炭素鎖を2本以上有する有機カチオン、かつフッ素官能基を4基以上持つ有機アニオンから構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前処理装置や高温制御装置を不要とし、還元設備の容量を従来に比べて低減することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1の電解還元装置の概略構成を示す図である。
【
図2】有機塩:1-ブチル-1-メチルピロリジニウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いた室温におけるLi還元の電位差測定を示す図である。
【
図3】本発明の実施例3の電解還元装置の概略構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施例4の電解還元装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の電解還元装置、および電解還元方法の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0017】
<実施例1>
本発明の電解還元装置、および電解還元方法の実施例1について
図1および
図2を用いて説明する。
【0018】
最初に、電解還元装置の全体構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施例の電解還元装置の概略構成を示す図である。
【0019】
図1に示す電解還元装置1は、還元対象である金属酸化物2を保持する陰極3と、陽極4と、金属酸化物2および陽極4が浸される浴塩5と、浴塩5を収容する容器6と、陰極3および陽極4に電流を通電して金属酸化物2を還元する直流電源7とを備えるものとしている。
【0020】
浴塩5には還元剤供給塩12が添加・溶解されている。このため、還元剤供給塩12が還元剤供給イオンとなり、また陰極3と陽極4との間に直流電源7により電位差が与えられることで、陰極3で還元剤供給イオンが還元され、還元剤が生成される。生成された還元剤が金属酸化物2に接触することで金属酸化物2が固体のまま還元される。
【0021】
還元対象である金属酸化物2としては、原子力発電所からの使用済み酸化物燃料と混合酸化物燃料製品が挙げられ、本実施例では、例えばUO2とする。このように、使用済み酸化物燃料と混合酸化物燃料製品に含まれる酸化ウラン、酸化プルトニウムを還元するようにしている。よって、軽水炉燃料サイクルからの酸化物燃料を金属燃料に転換することができる装置となっている。
【0022】
陰極3はPt(白金)により構成される電極であり、本実施例ではPt製のバスケット8を有している。陽極4はPt製の本体9とPt製のリード10とを有している。なお、陰極3および陽極4は、Pt以外にも、Ni、C、La、Zr、Biのいずれか一つ以上を含む材料から成る電極とすることができる。このような構成により、陰極3では金属酸化物2が金属に還元される。また、炭素以外を陽極4で用いる場合は陽極4で気泡11として酸素が発生し、炭素を用いる場合は気泡11として二酸化炭素が発生する。
【0023】
浴塩5は、異なる数の炭素鎖を2本以上有する有機カチオン、かつフッ素官能基を4基以上持つ有機アニオンから構成される有機塩であり、例えば、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等の、融点が室温以下の有機塩である。
【0024】
ここで、浴塩5に使用する有機塩の融点が室温(25℃)以下であることにより、500℃よりも低い操業温度で電解還元を実現できるようになり、高温制御装置の削減ができ、還元設備の小型化が図れると共に、高温の操業時に特に問題となっていたフッ素や酸素等による容器6や陰極3、陽極4の腐食を室温での操業により従来に比べて抑制することができる。さらに、熱エネルギーの消費量を低減できる、との効果も得られる。
【0025】
操業温度を例えば25℃に抑えるためには、異なる数の炭素鎖を2本以上有する有機カチオン、かつフッ素官能基を4基以上持つ有機アニオンから構成される有機塩を用いる。
【0026】
浴塩5の低温の融点を実現する有機塩のカチオンは、直鎖状、または分岐状の基であるテトラアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルホスホニウム、N,N’-二置換イミダゾリウム、N,N’-二置換ピロリジニウム、N,N’-二置換ピペリジニウム等があり、アルキル基は異なる鎖長で分子構造が非対称であるカチオンが代表的である。
【0027】
ここで、浴塩5の低温の融点を実現する有機塩のカチオンには、異なる数の炭素鎖が1本のカチオンや同じ数の炭素鎖が2本のカチオンでは、構造の非対称性が担保されず、浴塩5を室温レベルまで低融点できないことから、有機カチオンは、異なる数の炭素鎖を2本以上有するものとする必要がある。
【0028】
なお、有機塩のカチオンの異なる数の炭素鎖の上限は、工業場利用可能な水準で調達可能であることを考慮すると、14本以下とすることが望ましい。
【0029】
また、浴塩5の低温の融点を実現する有機塩のアニオンは、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドまたは、n-ビス(パーフルオロアルカンスルホニルイミド)、より具体的には1-ブチル-1-メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ブチルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、エチルジメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリオクチルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等の、フッ素官能基が4基以上であるアニオンが代表的である。
【0030】
ここで、電子吸引性が高い「フッ素官能基」が3基の場合、融点が室温以上のものが存在すること、また、フッ素に次いで電気吸引性の高い塩素では融点が室温レベルの物質が現状存在しないことから、有機塩のアニオンには、フッ素官能基を4基以上持つものとする必要がある。
【0031】
なお、有機塩のアニオンのフッ素官能基の数の上限は、工業場利用可能な水準で調達可能であることを考慮すると、6基以下とすることが望ましい。
【0032】
更には、有機カチオンおよび有機アニオンから構成される有機塩からなる浴塩5は、金属酸化物2を安定的に電解還元するために、-2.7V(Ag(I)/Ag(0)参照電極)以下の電位窓を有していることが望ましい。
【0033】
図2は、有機塩:1-ブチル-1-メチルピロリジニウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いた室温におけるLi還元の電位差測定を示す図である。
図2中、室温におけるリチウムイオンの電気化学的応答(実線)と相応する1-ブチル-1-メチルピロリジニウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドのバックグラウンド(断続線)が示されている。
【0034】
この
図2に示すように、ボルタンメトリー測定による還元波が、約-2.7V付近に検出され、これはリチウムイオンの金属リチウムへの還元電位に一致する。還元剤である金属リチウムが金属酸化物2であるUO
2と接触することで固体のまま還元できることから、従来必要だった前処理が不要になり、前処理装置が削減できる。
【0035】
還元剤供給塩12を酸化リチウムとすることで陽極4から発生する気体が酸素になるが、操業温度を室温にでき、陽極から発生する酸素による容器6や電極材料の腐食も抑制することができる。
【0036】
図1に戻り、上述のような浴塩5を入れる容器6はガラス製であるが、これに限らずステンレス製やセラミック製などを使用することができる。
【0037】
浴塩5に添加される還元剤供給塩12は、Li、K、Ca、Mgのいずれか1つ以上を含む無機塩からなり、本実施例では酸化リチウムが用いられる。還元剤供給塩12が浴塩5に溶解し、陰極3で0価の還元剤に還元され、還元剤が金属酸化物2を金属に還元する。
【0038】
このように、有機塩から成る浴塩5に、還元剤供給塩12として例えば酸化リチウムを添加・溶解させリチウムイオンとし、陰極3と陽極4との間に電位差を与えることで、陰極3でリチウムイオンを還元剤である金属リチウムに還元し、金属リチウムと固体の金属酸化物2とを接触させることで金属酸化物2を固体のまま還元できることから、前処理装置を省くことができる。
【0039】
次に、好適には上述した電解還元装置1により実施される、本実施例に係る金属酸化物2の電解還元方法の手順の一例について説明する。
【0040】
還元剤供給塩12として酸化リチウムを1wt%以上添加・溶解した浴塩5の1-ブチル-1-メチルピロリジニウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを容器6に入れる。
【0041】
浴塩5に添加された還元剤供給塩12の酸化リチウムは、還元剤供給イオンであるリチウムイオンとして浴塩5中に溶解する。
【0042】
陰極3のバスケット8に金属酸化物2であるUO2を収容して浴塩5に浸す。また、陽極4も浴塩5に浸す。
【0043】
陽極4と陰極3に直流電源7を接続して3.1ボルトの電圧を印加して電流を通電させる。電圧の印加により、浴塩5中に溶解させた酸化リチウムから溶解したリチウムイオンが還元剤である金属リチウムに還元される。この還元剤である金属リチウムが還元対象の金属酸化物2であるUO2をUに還元する。
【0044】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0045】
上述した本発明の実施例1の電解還元装置1は、還元剤と還元対象である金属酸化物2とを接触させて金属酸化物2を還元する装置であって、金属酸化物2を保持する陰極3と、陽極4と、浴塩5と、還元剤供給塩12と、浴塩5を収容する容器6と、陰極3および陽極4に電流を通電する直流電源7と、を備え、浴塩5は、有機塩であり、有機塩は、異なる数の炭素鎖を2本以上有する有機カチオン、かつフッ素官能基を4基以上持つ有機アニオンから構成されている。
【0046】
これによって、浴塩5の融点が室温以下であるとともに金属酸化物2を固体のまま還元できるため、前処理装置が不要である。また、従来よりも低い操業温度で電解還元を実現できるようになり、高温環境を用いる必要がなく、高温制御装置を削減することができ、従来の装置構成に比べて大幅に簡略化され、還元設備の小型化が図れる。加えて、エネルギーの消費量低減と、容器6等の装置を構成する構成材の腐食抑制を期待することができる。
【0047】
このような電解還元装置1は、原子力発電所の酸化物燃料や混合酸化物燃料、鉱物の金属への還元に非常に好適である。
【0048】
また、浴塩5に記した有機塩は、電位窓が-2.7V(Ag(I)/Ag(0)参照電極)以下であるため、浴塩5の電気分解が生じず、金属酸化物2をより効率的に電解還元することができる。
【0049】
更に、有機塩のアニオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、n-ビス(パーフルオロアルカンスルホニルイミド)のいずれかであること、有機塩のカチオンが、N,N’-二置換イミダゾリウム、N,N’-二置換ピロリジニウム、N,N’-二置換ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムのいずれかであることにより、設備の更なる小型化を図ることができる。
【0050】
また、還元剤供給塩12は、Li、K、Ca、Mgのいずれか1つ以上を含む無機塩であることで、設備の小型化を図ることができる。また、従来の塩化リチウムのようなハロゲン塩を使用しないため、ハロゲンガスの発生は無く、これに起因するハロゲンガスによる容器や電極材料の腐食が生じることも抑制することができる。
【0051】
<実施例2>
本発明の実施例2の電解還元装置、および電解還元方法について説明する。
【0052】
本実施例の電解還元装置は、
図1に示した実施例1の電解還元装置1の構成と基本的に同一である。相違点は、浴塩5に還元剤供給塩12として、Li、K、Ca、Mgのいずれか1つ以上を含む有機塩、例えばリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いる点である。還元剤供給塩12としてリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いることで1000mM以上の高濃度のリチウムイオンを浴塩5に溶解させることができる。高濃度のリチウムイオンにより、リチウムイオンの還元析出速度が速くなり、金属酸化物の還元速度を向上させることができる。
【0053】
有機塩の他の例としては、例えば、カリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、カルシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、マグネシウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドなどが挙げられる。
【0054】
本実施例の電解還元装置でも、陰極3と陽極4の間に電位差を与えることで、陰極3でリチウムイオンを還元剤である金属リチウムに還元し、金属リチウムと固体の金属酸化物2とを接触させることで金属酸化物2を固体のまま還元させることができる。
【0055】
その他の構成・動作は前述した実施例1の電解還元装置、および電解還元方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0056】
本発明の実施例2の電解還元装置、および電解還元方法においても、前述した実施例1の電解還元装置、および電解還元方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0057】
<実施例3>
本発明の実施例3の電解還元装置、および電解還元方法について
図3を用いて説明する。
図3は本実施例の電解還元装置の概略構成を示す図である。
【0058】
図3に示すように、本実施例の電解還元装置1Aは、
図1の電解還元装置1の構成に加えて、浴塩5を撹拌する撹拌装置13を更に備えている。
【0059】
この撹拌装置13は、
図3では、浴塩5中にN
2ガスや希ガスなどの不活性ガスや浴塩5との反応性に乏しいガスを導入する形態であるが、物理的に浴塩5を撹拌する撹拌羽などを用いることができる。
【0060】
その他の構成・動作は前述した実施例1の電解還元装置、および電解還元方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0061】
本発明の実施例3の電解還元装置、および電解還元方法においても、前述した実施例1の電解還元装置、および電解還元方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0062】
また、浴塩5を撹拌する撹拌装置13を更に備えたことにより、浴塩5が撹拌され、浴塩5中の還元剤の基となるリチウムイオンと酸素イオンの拡散速度を速くすることができ、金属酸化物2の還元速度の向上を図ることができる。
【0063】
なお、本実施例の電解還元装置および電解還元方法においても、実施例2のように還元剤供給塩12として有機塩を用いることができる。
【0064】
<実施例4>
本発明の実施例4の電解還元装置、および電解還元方法について
図4を用いて説明する。
図4は本実施例の電解還元装置の概略構成を示す図である。
【0065】
図4に示すように、本実施例の電解還元装置1Bは、
図1の電解還元装置1の構成に加えて、有機塩が電気分解した際に発生するガスを捕集するオフガス処理装置14を更に備えている。
【0066】
オフガス処理装置14は、オフガス処理装置14の不活性ガスとしてN2を流入させるためのN2ガス配管18、系外放出先にフッ素検知器15と三方コック16、そして活性アルミナなどのF2吸着剤17が設けられている。
【0067】
本実施例では、設置されたN2ガス配管18から系外放出先に向かってN2ガスが流入する。フッ素検知器15と三方コック16とは電気信号線19でつながれている。三方コック16の先は、F2ガス吸着材17が収容された容器と系外とに繋がっている。
【0068】
金属酸化物2の電解還元が平常に行われている際は、フッ素検知器15においてフッ素ガスは検知されず、三方コック16は系外へ開いている。
【0069】
しかし、万が一の確率で浴塩5である有機塩が電気分解し、フッ素ガスが発生した場合は、フッ素検知器15によりその発生が検知され、電気信号線19を介した電気信号によって三方コック16の接続方向が変更され、F2ガス吸着材17が入った容器側にフッ素ガスが流入する。容器に流入したフッ素ガスはF2ガス吸着材17によって捕集され、フッ素ガスが系外に放出されるとこを防ぐ構成となっている。
【0070】
その他の構成・動作は前述した実施例1の電解還元装置、および電解還元方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0071】
本発明の実施例4の電解還元装置、および電解還元方法においても、前述した実施例1の電解還元装置、および電解還元方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0072】
また、有機塩が電気分解した際に発生するガスを捕集するオフガス処理装置14を更に備えたことにより、万が一フッ素ガスなどの有毒なガスが発生したとしても、系外へ放出されることを防ぐことができ、より安全な操業が可能となる。
【0073】
なお、本実施例の電解還元装置および電解還元方法においても、実施例2のように還元剤供給塩12として有機塩を用いることができ、また実施例3のように撹拌装置13を設けることができる。
【0074】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0075】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0076】
例えば、本実施例では還元対象の金属酸化物として原子力発電所の使用済み酸化物燃料を用いているが、これには限られず例えば混合酸化物燃料や鉱物などとしても良い。
【符号の説明】
【0077】
1,1A,1B…電解還元装置
2…金属酸化物
3…陰極
4…陽極
5…浴塩
6…容器
7…直流電源
8…バスケット
9…本体
10…リード
11…気泡
12…還元剤供給塩
13…撹拌装置
14…オフガス処理装置
15…フッ素検知器
16…三方コック
17…F2ガス吸着材
18…N2ガス配管
19…電気信号線