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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】銅合金管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/08 20060101AFI20241118BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20241118BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20241118BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241118BHJP
【FI】
C22F1/08 P
C22C9/00
C22C9/06
C22F1/00 602
C22F1/00 626
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 651A
C22F1/00 651Z
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020128913
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022025817
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】311014705
【氏名又は名称】NJT銅管株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸井 努
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082301(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122423(WO,A1)
【文献】特開2007-039735(JP,A)
【文献】特開平02-022433(JP,A)
【文献】特開平10-068032(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111424224(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00-9/10
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.40~1.50質量%のNiと、0.10~0.50質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造する鋳造工程と、
該銅合金鋳塊を、熱間で加工する熱間加工工程と、
該熱間加工工程後に、冷間加工を行う冷間加工工程と、
を有し、
該熱間加工工程後、該冷間加工工程前又は該冷間加工工程後に、銅合金管を800~1000℃で加熱した後、加熱温度から225℃まで100℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することにより溶体化する溶体化処理と、
該溶体化処理後に、銅合金管を650±100℃で10~600分間加熱する第一熱処理(A1)及び該第一熱処理(A1)を行った後、加熱温度から300℃まで1℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する冷却と、
該第一熱処理(A1)後に、銅合金管を850±100℃で10~1800秒間加熱する第二熱処理(A2)及び該第二熱処理(A2)を行った後、加熱温度から225℃まで60℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する冷却と、
該第二熱処理(A2)後に、銅合金管を225℃±100℃で10~2000分間加熱する時効処理(A3)と、
を施すこと、
を特徴とする銅合金管の製造方法。
【請求項2】
前記第二熱処理(A2)の加熱時間が600秒以上であり、
前記第二熱処理(A2)を行った後の冷却において、前記第二熱処理(A2)加熱温度から225℃までの平均冷却速度が、1℃/秒以下であること、
を特徴とする請求項記載の銅合金管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度であり、且つ、加工性に優れた銅合金管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、銅材の高強度化を目的として、微量の元素を添加した銅合金が提案されている。そのうちの1つとして、Cu-Ni-P系の銅合金がある。(例えば、特許文献1:特開平4-218631号公報)。
【0003】
そして、高強度の銅合金管としては、特許文献2の請求項4には、0.40~3.5質量%のNiと、0.1~0.5質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金材料(A)を650℃±100℃で加熱する第一熱処理を行って引張強さ(σ2)が270~370MPaである銅合金材料(B)を得、銅合金材料(B)を850℃±100℃で加熱する第二熱処理を行って得られる、引張強さ(σ2)が300MPa以上、伸び(δ)が30%以上の銅合金材料(C)が開示されている。
【0004】
その実施例(実施例11~12)には、Niが0.41~3.30質量%、Pが0.12~0.40質量%、残部Cu及び不可避不純物からなる化学組成で鋳造-900℃に加熱して熱間押出-900℃で加熱後水冷(溶体化処理に該当)-冷間で引抜加工-650℃で第一熱処理-850℃で第二熱処理した銅管が開示されている。
【0005】
また、650℃での第一熱処理後の冷却は冷却速度は特に制限されないが、好ましくは2~10℃/分、850℃での第二熱処理後の冷却は冷却速度は特に制限されないが、好ましくは2~20℃/秒であるとの記載がある。
【0006】
また、特許文献3の請求項1には、0.4~1.5質量%のNiと、0.1~0.5質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造し、熱間加工及び冷間加工を行う銅合金管の製造工程として、溶体化処理後、550~750℃で加熱する第一熱処理と、750~950℃で加熱し加熱温度から300℃まで5℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する第二熱処理を有する銅合金管の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-218631号公報
【文献】国際公開第2015/122423号
【文献】特開2017-82301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
銅合金材料が銅合金管である場合、特に、ルームエアコン、パッケージエアコン等の空調機用熱交換器又は冷凍機等の伝熱管又は冷媒配管の場合、空調機用熱交換器又は冷凍機等は、管材を他の部材と共に組み付けた後、ろう付け加熱することにより、管材と他の部材をろう付けして製造されるが、このろう付け加熱を特許文献2及び特許文献3における第二熱処理(特許文献2における850℃±100℃熱処理)とすることができる。
【0009】
ところが、この場合、第二熱処理時間は600秒以上の長時間となる場合が多く、第二熱処理及び冷却後の銅合金管の強度は十分高いものとは言えない。そのため、Cu-Ni-P系の銅合金管のさらなる高強度化が望まれている。
【0010】
また、銅合金管の製造においては、後工程の加工性を考慮し、冷間加工により加工硬化した銅管の歪除去を行うために、冷間加工後に、650℃±100℃程度の温度で、加熱する熱処理が必要である。
【0011】
従って、本発明の目的は、冷間加工後に、650℃±100℃で加熱する熱処理が施された銅合金管であって、強度が高く且つ加工性に優れたCu-Ni-P系の銅合金管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記技術背景の基、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、銅合金のNi及びPの含有量を特定の範囲にした上で、冷間加工後に、650℃±100℃程度の温度で、加熱する熱処理を施した後、850℃±100℃の高温での熱処理と225±100℃の低温での熱処理を行うことにより、銅合金管の高強度化が可能であること、更には、850℃±100℃熱処理後の冷却速度を最適化することにより、更なる銅合金管の高強度化が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明()は、0.40~1.50質量%のNiと、0.10~0.50質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造する鋳造工程と、
該銅合金鋳塊を、熱間で加工する熱間加工工程と、
該熱間加工工程後に、冷間加工を行う冷間加工工程と、
を有し、
該熱間加工工程後、該冷間加工工程前又は該冷間加工工程後に、銅合金管を800~1000℃で加熱した後、加熱温度から225℃まで100℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することにより溶体化する溶体化処理と、
該溶体化処理後に、銅合金管を650±100℃で10~600分間加熱する第一熱処理(A1)及び該第一熱処理(A1)を行った後、加熱温度から300℃まで1℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する冷却と、
該第一熱処理(A1)後に、銅合金管を850±100℃で10~1800秒間加熱する第二熱処理(A2)及び該第二熱処理(A2)を行った後、加熱温度から225℃まで60℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する冷却と、
該第二熱処理(A2)後に、銅合金管を225℃±100℃で10~2000分間加熱する時効処理(A3)と、
を施すこと、
を特徴とする銅合金管の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明()は、前記第二熱処理(A2)の加熱時間が600秒以上であり、
前記第二熱処理(A2)を行った後の冷却において、前記第二熱処理(A2)加熱温度から225℃までの平均冷却速度が、1℃/秒以下であること、
を特徴とする()の銅合金管の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、冷間加工後に、650℃±100℃で加熱する熱処理が施された銅合金管であって、強度が高く且つ加工性に優れたCu-Ni-P系の銅合金管を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の銅合金管は、0.40~1.50質量%のNiと、0.10~0.50質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金からなり、
該銅合金は、銅合金を溶体化する溶体化処理と、該溶体化処理後に、650±100℃で加熱する第一熱処理(A1)と、該第一熱処理(A1)後に、850±100℃で加熱する第二熱処理(A2)と、該第二熱処理(A2)後に、225℃±100℃で加熱する時効処理(A3)と、が施された銅合金であること、
を特徴とする銅合金管である。
【0019】
銅合金管は、先ず、所定の化学組成の銅合金鋳塊を鋳造し、その後、種々の加工や処理を行うことにより、製造されるが、本発明者らは、銅合金の種々の加工や処理を行う中で、特定の化学組成の銅合金、すなわち、0.40~1.50質量%のNi、好ましくは0.70~1.20質量%のNiと、0.10~0.50質量%のP、好ましくは0.20~0.40質量%のPと、を含有する銅合金を、溶体化処理し、その後に行う熱処理として、650±100℃で加熱する第一熱処理(A1)と、第一熱処理(A1)後に、850±100℃で加熱する第二熱処理(A2)と、第二熱処理(A2)後に、225℃±100℃で加熱する時効処理(A3)と、を行うことにより、銅合金管を形成する銅合金中に、Ni12及び/又はNiの組成を有する析出物を析出させることができ、析出強化により銅合金材料の強度を向上させることができることを見出した。
【0020】
本発明の銅合金管は、0.40~1.50質量%のNiと、0.10~0.50質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金により形成されている。なお、本発明において、上記Ni及びPの含有量とは、時効処理(A3)を施した後の銅合金管中のNi及びPの含有量を指す。
【0021】
本発明の銅合金管のNi含有量は、0.40~1.50質量%である。Niは、銅合金が225℃±100℃で加熱された場合に、銅合金中でPとの化合物によりNi12及び/又はNiの組成を有する析出物を形成し、引張強さを向上させる成分である。Ni含有量が上記範囲にあることにより、銅合金管の引張強さが高くなる。一方、Ni含有量が上記範囲を超えると、伸びが低くなってしまい、ヘアピン曲げ加工及び拡管性が低くなり、また、Ni含有量が上記範囲未満だと、銅合金管の強度が低くなってしまう。特に、強度が高く且つ加工性に優れる点で、本発明の銅合金管のNi含有量は、0.70~1.20質量%であることが好ましい。
【0022】
本発明の銅合金管のP含有量は、0.10~0.50質量%である。Pは、銅合金が225℃±100℃で加熱された場合に、銅合金中でNiとの化合物により、Ni12及び/又はNiの組成を有する析出物を形成し、強度を向上させる成分である。P含有量が上記範囲にあることにより、銅合金管の強度が高くなる。一方、P含有量が上記範囲を超えると、加工性が低くなり、熱間加工や冷間加工において割れが生じるおそれがあり、また、P含有量が上記範囲未満だと、析出物の析出量が少なくなるため、銅合金材料の強度が低くなってしまう。特に、強度が高く且つ加工性に優れる点で、本発明の銅合金管のP含有量は、0.20~0.40質量%であることが好ましい。
【0023】
本発明の銅合金管は、0.40~1.50質量%のNi、好ましくは0.70~1.20質量%のNiと、0.10~0.50質量%のP、好ましくは0.20~0.40質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金を鋳造した後、種々の加工(例えば、熱間押出等の熱間加工、冷間圧延、冷間引抜等の冷間加工)、及び種々の熱処理を行う過程で、銅合金を加熱し、急冷する溶体化処理を行い、その後に行う熱処理として、650±100℃で加熱する第一熱処理(A1)と、第一熱処理(A1)後に、850±100℃で加熱する第二熱処理(A2)と、第二熱処理(A2)後に、225℃±100℃で加熱する時効処理(A3)と、を行うことにより得られる。
【0024】
溶体化処理であるが、銅合金を800~1000℃、好ましくは800~950℃に加熱した後、急冷する溶体化処理を行う。溶体化処理は、製造工程中のどこで行うかは、熱間加工前から冷間加工後までの間で適宜選択される。急冷は、例えば、加熱した銅合金を水冷することにより行われる。また、冷間加工を複数回行う場合は、熱間加工後且つ全ての冷間加工の前、冷間加工と冷間加工の間、又は全ての冷間加工の後に、銅合金を800~1000℃、好ましくは800~950℃に加熱した後、急冷する溶体化処理を行う。また、熱間加工後に、熱間加工された銅合金を急冷することによって、溶体化処理を行うこともできる。なお、急冷とは、加熱温度から225℃までの平均冷却速度が100℃/秒以上の冷却を指す。
【0025】
第一熱処理(A1)であるが、溶体化処理を行った後に、銅合金を650±100℃で加熱する第一熱処理(A1)を行う。第一熱処理(A1)の加熱温度が、上記範囲にあることにより、時効処理(A3)後に、銅合金中でNiとPの化合物により、Ni12及び/又はNiの組成を有する析出物を形成し、微細かつ均一な析出状態となり強度が高くなる。一方、第一熱処理(A1)の加熱温度が、上記範囲未満だと、冷間加工後の加工組織が残り、再結晶が十分でなく、耐力値が高く伸びが低くなって、後に加工度の高い加工や複雑な加工を行う場合の加工性が低くなり、また、上記範囲を超えると、第一熱処理(A1)後に析出物が粗大化して、時効処理(A3)後の高強度に寄与しなくなる 。
【0026】
第一熱処理(A1)での熱処理時間は、好ましくは10~600分間、特に好ましくは30~120分間である。第一熱処理(A1)での熱処理時間が上記範囲にあることにより、時効処理(A3)後に、銅合金管の強度向上効果を得ることができる程度に十分な量のNi12及び/又はNiの組成を有する析出物を析出させることができる。一方、第一熱処理(A1)での熱処理時間が、上記範囲未満だと、時効処理(A3)後のNi12及び/又はNiの組成を有する析出物の析出量が少なくなり易く、銅合金管の強度向上効果が得られ難くなり、また、上記範囲を超えると、第一熱処理(A1)後の析出物が大きくなり、銅合金管の強度が低下し易くなる。
【0027】
第一熱処理(A1)を行った後の冷却において、第一熱処理(A1)の加熱温度から300℃までの平均冷却速度は任意に選定できるが、1℃/秒以下であることが好ましい。第一熱処理(A1)を行った後の冷却における第一熱処理(A1)の加熱温度から300℃までの平均冷却速度が、上記範囲であることで、NiPの組成を有する析出物の生成が促進され、強度が高くなって、第一熱処理(A1)と第二熱処理(A2)の間の加工工程、例えば、銅合金管を熱交換器に組み立てる加工工程や、ハンドリング時に発生する変形やキズ等を防止する効果がある。
【0028】
第二熱処理(A2)であるが、第一熱処理(A1)を行った後に、銅合金を850±100℃で加熱する第二熱処理(A2)を行う。第二熱処理(A2)の加熱温度が、上記範囲にあることにより、NiPの組成を有する析出物を少なくとも一部に含むCu-Ni-P系の析出物が得られる。一方、第二熱処理(A2)の加熱温度が、上記範囲未満だと、第二熱処理(A2)後の冷却過程で、NiPの組成を有する析出物が析出し難く、また、上記範囲を超えても、NiPの組成を有する析出物が析出し難い。また、第二熱処理(A2)の加熱温度が、上記範囲未満だと、冷却過程で析出に十分な時間を確保できず、また、上記範囲を超えると、結晶粒が粗大化し過ぎた結晶組織となる。
【0029】
第二熱処理(A2)での加熱時間は、好ましくは10~1800秒間である。
【0030】
第二熱処理(A2)を行った後の冷却において、第二熱処理(A2)の加熱温度から225℃までの平均冷却速度を、60℃/秒以下とすることで、NiPの組成を有する析出物が析出し易く、時効処理(A3)により強度に寄与するNi12及び/又はNiの組成を有する析出物が析出し易くなる。第二熱処理(A2)の加熱温度から225℃までの平均冷却速度は、より好ましくは、1℃/秒以下である。第二熱処理(A2)の加熱温度から225℃までの平均冷却速度を、1℃/秒以下とすることで、時効処理(A3)後の材料強度をより高くすることができる。
【0031】
本発明の銅合金管が、ルームエアコン、パッケージエアコン等の空調機用熱交換器又は冷凍機等の伝熱管又は冷媒配管の場合、空調機用熱交換器又は冷凍機等は、管材を他の部材と共に組み付けた後、ろう付け加熱することにより、管材と他の部材をろう付けして製造されるが、このろう付け加熱を、本発明の銅合金管に係る第二熱処理(A2)とすることができる。つまり、0.40~1.50質量%のNi、好ましくは0.70~1.20質量%のNiと、0.10~0.50質量%のP、好ましくは0.20~0.40質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金である鋳塊を用いて熱間加工及び冷間加工を行い管材の形状に加工し、且つ、溶体化処理及び第一熱処理(A1)を行った管材を、空調機用熱交換器又は冷凍機を構成する他の部材と共に組み付け、次いで、850℃±100℃で加熱し、冷却して、管材と他の部材をろう付けすることにより、第二熱処理(A2)を行い、時効処理(A3)前の銅合金管を得ることもできる。第二熱処理(A2)後の冷却における冷却方式としては、例えば、加熱温度から225℃までの平均冷却速度が25~50℃/秒の場合は、強制空冷等の冷却方式が挙げられ、また、加熱温度から225℃までの平均冷却速度が20℃/秒以下の場合は、自然空冷等の冷却方式が挙げられ、さらに加熱温度から225℃までの平均冷却速度が1℃/秒以下の場合は、炉冷等の冷却方式が挙げられる。炉中ろう付けの場合、第二熱処理(A2)での加熱時間は600秒以上となる場合が多い。
【0032】
時効処理(A3)であるが、第二熱処理(A2)を行った後に、銅合金を225±100℃で加熱する時効熱処理(A3)を行う。時効処理(A3)の加熱温度が、上記範囲にあることにより、Ni12及び/又はNiの組成を有する析出物を少なくとも一部に含むCu-Ni-P系の析出物が得られる。一方、時効処理(A3)の加熱温度が、上記範囲未満だと、Ni12及び/又はNiの組成を有する析出物が析出し難く、また、上記範囲を超えても、Ni12及び/又はNiの組成を有する析出物が析出し難い。
【0033】
時効処理(A3)での加熱時間は、好ましくは10~2000分間、特に好ましくは30~1000分間である。時効処理(A3)での加熱時間が上記範囲にあることにより、銅合金管の強度向上効果を得ることができる程度に十分な量のNi12及び/又はNiの組成を有する析出物を析出させることができる。一方、時効処理(A3)での加熱時間が、上記範囲未満だと、Ni12及び/又はNiの組成を有する析出物の析出量が少なくなり易く、銅合金管の強度向上効果が得られ難くなり、また、上記範囲を超えると、析出物が大きくなり、銅合金管の強度が低下し易くなる。
【0034】
なお、本発明において、「溶体化処理後に第一熱処理(A1)が施された」とは、銅合金に、溶体化処理が施された直後に、第一熱処理(A1)が施されることのみを指すのではなく、溶体化処理と第一熱処理(A1)の間に、「加熱を伴わない処理又は工程」及び/又は「325℃を超える温度で加熱される処理又は工程」が施されてもよい。つまり、銅合金に、溶体化処理が施された直後に、第一熱処理(A1)が施されてもよいし、あるいは、溶体化処理が施された後に、「加熱を伴わない処理又は工程」及び/又は「325℃を超える温度で加熱される処理又は工程」が施されてから、第一熱処理(A1)が施されてもよい。また、溶体化処理が施された後、第一熱処理(A1)が施されるまでの間に、本発明の効果に影響しない程度の短時間であれば、125~325℃の範囲の温度に銅合金が晒されることがあってもよい。例えば、溶体化処理が施された後、第一熱処理(A1)が施されるまでの間に、325℃を超える温度で加熱される処理又は工程を施す場合においては、所定の温度までの昇温のために125~325℃の温度範囲を通過することになるが、125~325℃の温度範囲を通過する時間が、本発明の効果に影響しない程度の短時間であれば、許容される。
【0035】
また、本発明において、「第一熱処理(A1)後に第二熱処理(A2)が施された」とは、銅合金に、第一熱処理(A1)が施された直後に、第二熱処理(A2)が施されることのみを指すのではなく、第一熱処理(A1)と第二熱処理(A2)の間に、「加熱を伴わない処理又は工程」及び/又は「325℃を超える温度で加熱される処理又は工程」が施されてもよい。つまり、銅合金に、第一熱処理(A1)が施された直後に、第二熱処理(A2)が施されてもよいし、あるいは、第一熱処理(A1)が施された後に、「加熱を伴わない処理又は工程」及び/又は「325℃を超える温度で加熱される処理又は工程」が施されてから、第二熱処理(A2)が施されてもよい。また、第一熱処理(A1)が施された後、第二熱処理(A2)が施されるまでの間に、本発明の効果に影響しない程度の短時間であれば、125~325℃の範囲の温度に銅合金が晒されることがあってもよい。例えば、第一熱処理(A1)が施された後、第二熱処理(A2)が施されるまでの間に、325℃を超える温度で加熱される処理又は工程を施す場合においては、所定の温度までの昇温のために125~325℃の温度範囲を通過することになるが、125~325℃の温度範囲を通過する時間が、本発明の効果に影響しない程度の短時間であれば、許容される。
【0036】
また、本発明において、「第二熱処理(A2)後に時効処理(A3)が施された」とは、銅合金に、第二熱処理(A2)が施された直後に、時効処理(A3)が施されることのみを指すのではなく、第二熱処理(A2)と時効処理(A3)の間に、「加熱を伴わない処理又は工程」及び/又は「325℃を超える温度で加熱される処理又は工程」が施されてもよい。つまり、銅合金に、第二熱処理(A2)が施された直後に、時効処理(A3)が施されてもよいし、あるいは、第二熱処理(A2)が施された後に、「加熱を伴わない処理又は工程」及び/又は「325℃を超える温度で加熱される処理又は工程」が施されてから、時効処理(A3)が施されてもよい。また、第二熱処理(A2)が施された後、時効処理(A3)が施されるまでの間に、本発明の効果に影響しない程度の短時間であれば、125~325℃の範囲の温度に銅合金が晒されることがあってもよい。例えば、第二熱処理(A2)が施された後、時効処理(A3)が施されるまでの間に、325℃を超える温度で加熱される処理又は工程を施す場合においては、所定の温度までの昇温のために125~325℃の温度範囲を通過することになるが、125~325℃の温度範囲を通過する時間が、本発明の効果に影響しない程度の短時間であれば、許容される。
【0037】
本発明の銅合金管のビッカース硬さは、好ましくは125HV以上、特に好ましくは130HV以上である。
【0038】
本発明の銅合金管の製造方法は、0.40~1.50質量%のNiと、0.10~0.50質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造する鋳造工程と、
該銅合金鋳塊を、熱間で加工する熱間加工工程と、
該熱間加工工程後に、冷間加工を行う冷間加工工程と、
を有し、
該熱間加工工程後、該冷間加工工程前又は該冷間加工工程後に、銅合金管を溶体化する溶体化処理と、
該溶体化処理後に、銅合金管を650±100℃で加熱する第一熱処理(A1)と、
該第一熱処理(A1)後に、銅合金管を850±100℃で加熱する第二熱処理(A2)と、
該第二熱処理(A2)後に、銅合金管を225℃±100℃で加熱する時効処理(A3)と、
を施すこと、
を特徴とする銅合金管の製造方法である。
【0039】
本発明の銅合金管の製造方法は、鋳造工程と、熱間加工工程と、冷間加工工程と、を有する。
【0040】
鋳造工程は、常法に従って、溶解、鋳造し、0.40~1.50質量%のNiと、0.10~0.50質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊(ビレット)を得る工程である。鋳造工程では、例えば、銅の地金、工程内リサイクル材、Cu-Ni母合金、Cu-P母合金等を配合して、Ni及びP含有量が所定の含有量となるように成分調整を行い、次いで、高周波溶解炉等を用いて、ビレットを鋳造する。
【0041】
熱間加工工程では、鋳造工程を行い得られる銅合金鋳塊(ビレット)を、熱間押出して、銅合金鋳塊を熱間加工する。熱間押出では、熱間押出前にビレットを所定の温度で加熱した後、熱間押出加工を行う。熱間押出は、マンドレル押出によって行われる。すなわち、加熱前に、冷間で予め穿孔したビレット、あるいは、押出前に熱間で穿孔したビレットに、マンドレルを挿入した状態で、熱間押出を行なって、継目無銅合金管を得る。
【0042】
なお、熱間押出において、水中に銅合金管を押出して、急冷を行うことにより、溶体化処理を行うことができる。
【0043】
冷間加工工程では、熱間加工工程後に、冷却後の銅合金管を、冷間圧延又は冷間抽伸して、管の外径及び肉厚を減じていく冷間加工を行う。冷間加工工程では、複数回、冷間加工を行うことができる。
【0044】
また、冷間加工工程後に、400~700℃の保持温度で加熱する中間焼鈍処理を行った後に、転造加工を行うことができる。転造加工は、銅合金管の内面に、内面溝を形成させる転造加工を行う工程であり、中間焼鈍処理後の継目無銅合金管内に、外面にらせん状の溝加工を施した転造プラグを配置して、高速回転する複数の転造ボールによって、管の外側から押圧して、管の内面に転造プラグの溝を転写することにより行われる。また、通常、中間焼鈍処理を行った後、縮径加工を行ってから、転造加工を行う。
【0045】
本発明の銅合金管の製造方法では、銅合金管を溶体化する溶体化処理と、銅合金管を650±100℃で加熱する第一熱処理(A1)と、第一熱処理(A1)後に、銅合金管を850±100℃で加熱する第二熱処理(A2)と、第二熱処理(A2)後に、銅合金管を225℃±100℃で加熱する時効処理(A3)と、を施す。
【0046】
本発明の銅合金管の製造方法に係る溶体化処理、第一熱処理(A1)、第二熱処理(A2)及び時効処理(A3)は、本発明の銅合金管に係る溶体化処理、第一熱処理(A1)、第二熱処理(A2)及び時効処理(A3)と同様である。
【0047】
本発明の銅合金管は、ルームエアコン、パッケージエアコン等の空調機用熱交換器又は冷凍機等の伝熱管又は冷媒配管として、好適に用いられる。また、本発明の銅合金管には、内面に溝のないベアー管と、内面に溝を有する内面溝付管がある。
【実施例
【0048】
(実施例)
(1)Ni:0.93質量%、P:0.24質量%、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を溶解及び鋳造し、熱間押出用のビレットを作製した。
(2)上記ビレットを加熱し、900℃にて熱間押出を行い、押出素管を得た。次いで、熱間押出した押出素管を、水中に押出して急冷した(溶体化処理)。
・押出前に熱間で内径約75mm穿孔した。
・押出素管の外径は102mm、内径は75mmであった。
(3)上記押出素管を、冷間圧延し、冷間圧延素管を得た。次いで、該冷間圧延素管を、冷間にて抽伸を複数回行い、抽伸管を得た。
・抽伸管の外径は7.0mm、肉厚は1.0mmであった。
(4)上記抽伸管に、第一の熱処理(第一熱処理(A1))、第二の熱処理(第二熱処理(A2))及び時効処理(A3)を行い、銅合金管を得た。
<第一の熱処理>
・熱処理温度:700℃
・熱処理時間:1800秒
<第一の熱処理後の冷却>
・第一の熱処理の熱処理温度から300℃までの平均冷却速度:0.2℃/秒
<第二の熱処理>
・熱処理温度:850℃
・熱処理時間:表1に示す時間
<第二の熱処理後の冷却>
・第二の熱処理の熱処理温度から225℃までの平均冷却速度:表1に示す速度
<時効処理(A3)>
・熱処理温度:225℃
・熱処理時間:表1に示す時間
(5)第一の熱処理後の銅合金管及び時効処理後の銅合金管のビッカース硬さをそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1~4)
(1)、(2)及び(3)は、実施例と同様に行った。
(4)得られた冷間圧延管に、第一の熱処理及び第二の熱処理を行い、銅合金管を得た。つまり、第二の熱処理を行った後に、時効処理を行わない。
<第一の熱処理>
・熱処理温度:700℃
・熱処理時間:1800秒
<第一の熱処理後の冷却>
・第一の熱処理の熱処理温度から300℃までの平均冷却速度:0.2℃/秒
<第二の熱処理>
・熱処理温度:850℃
・熱処理時間:表1に示す時間
<第二の熱処理後の冷却>
・第二の熱処理の熱処理温度から225℃までの平均冷却速度:表1に示す速度
(5)第一の熱処理後の銅合金管及び第二の熱処理後の銅合金管のビッカース硬さをそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
1)第二の熱処理後の銅合金管のビッカース硬さ
2)時効処理後の銅合金管のビッカース硬さ