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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】検出装置及び検出方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/00 20060101AFI20241118BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
E04G23/00 ESW
G01N29/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020171208
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022062971
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003498
【氏名又は名称】弁理士法人アイピールーム
(74)【代理人】
【識別番号】100167117
【弁理士】
【氏名又は名称】打越 佑介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】會田 祐
(72)【発明者】
【氏名】大西 豊
(72)【発明者】
【氏名】関 新之介
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-082402(JP,A)
【文献】特開2017-058165(JP,A)
【文献】特開2018-197998(JP,A)
【文献】特開2015-028467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G23/00-23/08
G01N29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の外壁用のタイルの状態をコンピュータにより入出力する検出装置であって、
前記タイルへの擦過により生じた音を収音する収音部と、
前記タイルを含む全天球画像を撮影する撮影部と、
前記撮影部で撮影された全天球画像内のタイルに基づきグリッドマップを生成する処理部と、
前記収音部で収音された音から少なくとも正常音と異常音とを分析する分析部と、
前記分析部で分析された異常音を発するタイルを判別する判別部と、
前記判別部で判別されたタイルを前記処理部で生成されたグリッドマップで特定する特定部と、を備え
前記処理部は、前記全天球画像から前記タイルの各々の間に介在する目地を形成している座標群を、前記グリッドマップを形成する座標群に変換する
ことを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記収音部と、前記撮影部と、を備えた第1検出装置と、
前記第1検出装置から情報通信を受け、前記処理部と、前記分析部と、前記判別部と、前記特定部と、を備えた第2検出装置と、で構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記分析部は、所定の間隔に含まれる前記正常音と前記異常音との境界に基づいて前記異常音を発するタイルの枚数を算定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記判別部は、前記異常音の発生時間に擦過された前記全天球画像内のタイルと前記異常音とを関連付ける
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記特定部は、前記タイルの座標を前記グリッドマップ上の座標に変換し、変換された前記座標を含む前記グリッドマップ上の領域を可視化する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
コンピュータが実行する建築物の外壁用のタイルの状態検出方法であって、
前記タイルへの擦過により生じた音を収音し、
前記タイルを含む全天球画像を撮影し、
撮影した前記全天球画像内のタイルに基づきグリッドマップを生成し、
前記全天球画像から前記タイルの各々の間に介在する目地を形成している座標群を、前記グリッドマップを形成する座標群に変換し、
収音した前記音から少なくとも正常音と異常音とを分析し、
分析した前記異常音を発するタイルを判別し、
判別された前記タイルを生成した前記グリッドマップで特定する
ことを特徴とする検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、集合住宅の外壁用のタイルの付着状態を検出する検出装置及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、集合住宅等の建築物の外壁形成には、張り付け式のタイルが採用されていた。タイルの種類は多数あり、用途や目的に応じて、材質・サイズ・形状等が選択されていた。一般的に、タイルの張り付けは、建築物のコンクリート面や所定のシート面に、下地材としてモルタルを介してタイルを圧着する湿式工法や、別の下地材と所定の接着剤とを介してタイルを圧着する乾式工法があった。
【0003】
しかしながら、例えば、湿式工法で用いていたモルタルは、弾性変形しにくい欠点もあるため、地震や台風等の災害による建物の揺れや気候に伴う外部の温度や湿度の変化に伴う収縮作用によりタイルのひび割れやずれを誘発するのみならず、含有された石灰成分が水分とともに溶け出すことから、最終的にはタイルが壁面から剥離して浮き上がって落下する恐れもあった。
【0004】
そのため、建築物の完成から所定の年数経過後、タイル一つ一つの状態の検査(以下「打診検査」ともいう。)が行われていた。打診検査の古典的な方法として、作業員がタイル一つ一つを目視したり打診棒で叩いたりして状態を確認していた。しかしながら、高所のタイルを検査するための足場やゴンドラ等の準備や作業員による検査結果の記録等に対するコストや作業員の負担が問題視されていた。
【0005】
そこで、特許文献1では、外壁にレーザ式の2次元測域センサを設置することで、異常を伴うタイルの検出及び検査結果の記録を実現する技術が開示されている。具体的には、上記センサによる位置検出領域内のタイルに対し、作業員が打診棒で上記タイルの各々を叩いて状態を確認し、上記タイルが異常を有する場合、上記センサを介して打診棒の先端の位置を極座標系で検出すると共に、小型のスイッチを介して異常の旨を検査結果として記録する。
【0006】
特許文献2では、カメラで撮影した2枚以上の外壁の画像に基づき、上記外壁を形成するタイルに相当する区画毎に検査結果を入力する技術が開示されている。具体的には、外壁の画像を2台のカメラで撮影し、上記カメラで撮影した壁面画像の各々を正対化した後に統合して検査結果入力用の壁面画像を生成し、その後に作業員が打診棒でタイルを検査した結果を、端末装置から上記タイルに見立てた上記壁面画像内の区画毎に入力する。
【0007】
特許文献3では、タイルの剥離状態を打撃音に基づき診断する技術が開示されている。具体的には、マイクロフォンにより打診棒によるタイルの打撃音を測定信号として取得し、上記測定信号に基づいてマザーウェーブレットを生成し、上記マザーウェーブレットにて変換した変換測定信号についての時間及ぶ周波数における音圧分布に基づいてタイルの状態を診断する。
【0008】
特許文献4では、複数のマイクロフォンで所定の音源から音圧信号を取得し、カメラで撮影した画像上の上記音源に相当する箇所に、上記音圧信号に基づく音の大きさや高さ等の特徴を表示(プロット)して上記音の発信源を特定する技術が開示されている。すなわち、上記技術は、所定の検査対象における複数個所からの打診音の音源及び特徴を画像上で可視化することで、上記検査対象の正常又は異常かつ異常な部位を把握するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-174390号公報
【文献】特開2014-134471号公報
【文献】特開2007-309827号公報
【文献】特開2016-191633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では、作業員がタイルの異常を確認次第、その検査結果をその都度記録しなければならない。すなわち、異常を伴うタイルに対し、作業員は打診棒の先端を押し付けるのみならず、その状態のまま小型スイッチを操作しなければならず、手間と時間がかかる。また、2次元測域センサは電子機器として比較的高価であることから、容易に調達しにくく、作業員の作業性を低下させる恐れもある。
【0011】
特許文献2では、作業員が異常を有するタイル一つ一つの検査結果を、端末装置を介して記録しなければならない、すなわち、作業員はタイルに対する打診検査の終了後、個々のタイルの状態を思い出したり、打診検査中に撮影した動画を確認したりする手間がかかる。また、異常を有するタイルの特定を作業員が担うため、判断ミスや記録漏れ等のヒューマンエラーを誘発する恐れもある。
【0012】
特許文献3では、外壁全域に対して異常を有するタイルの相対的な位置を特定しにくい。すなわち、マザーウェーブレットに基づき音圧分布を算定して診断した上記タイルの位置が不明なため、複数のタイルを広範囲に張り付けた建築物には不向きである。さらに、タイルの剥離状態の詳細(表面剥離・下地剥離)までは不要な検査にとって、マザーウェーブレットによる算定は不向きである。
【0013】
特許文献4では、複数の検査対象の中から異常な部位を有する検査対象の数を把握しにくい。すなわち、外壁タイルは複数あることから、画像上でプロットされた異常な部位を有するタイルの数を把握するには、作業員等が目視で数える場合は数え間違い等のヒューマンエラーを誘発し、コンピュータが数える場合はタイル一つ一つの領域を認識した上でプロットされた箇所を数える複雑な処理を伴う恐れがある。
【0014】
そこで、上述した従来技術の問題点を踏まえて、発明者等は不具合なタイルの検出装置の簡易化及び小型化・検出の開始から終了までにかかる時間の短縮化・人的な作業工程の簡素化・作業漏れや記録ミス等のヒューマンエラーの回避・状況判断しやすい検出結果の可視化といった課題に着目したところ、創意工夫の末、情報技術の多様化や情報処理の高速化を活かして、これらの課題を解決する発明に辿り着いた。
【0015】
すなわち、本発明の目的は、打診検査に伴う作業の準備及び実行に手間取らず、作業員の経験や勘に依存せず、規則的な動作のみで不具合を伴う位置や数等の結果を可視化できる外壁用のタイルの付着状態の検出装置及び検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明は、建築物の外壁用のタイルの状態をコンピュータにより入出力する検出装置であって、上記タイルへの擦過により生じた音を収音する収音部と、上記タイルを含む全天球画像を撮影する撮影部と、上記撮影部で撮影された全天球画像内のタイルに基づきグリッドマップを生成する処理部と、上記収音部で収音された音から少なくとも正常音と異常音とを分析する分析部と、上記分析部で分析された異常音を発するタイルを判別する判別部と、上記判別部で判別されたタイルを上記処理部で生成されたグリッドマップで特定する特定部と、を備えていることを特徴とする。
【0017】
上記検出装置は、上記収音部と、上記撮影部と、を備えた第1検出装置と、上記第1検出装置から情報通信を受け、上記処理部と、上記分析部と、上記判別部と、上記特定部と、を備えた第2検出装置と、で構成されていることが望ましい。
【0018】
上記処理部は、上記全天球画像から上記タイルの各々の間に介在する目地を形成している座標群を、上記グリッドマップを形成する座標群に変換することが望ましい。
【0019】
上記分析部は、所定の間隔に含まれる上記正常音と上記異常音との境界に基づいて上記異常音を発するタイルの枚数を算定することが望ましい。
【0020】
上記判別部は、上記異常音の発生時間に擦過された上記全天球画像内のタイルと上記異常音とを関連付けることが望ましい。
【0021】
上記特定部は、上記タイルの座標を上記グリッドマップ上の座標に変換し、変換された上記座標を含む上記グリッドマップ上の領域を可視化することが望ましい。
【0022】
また、本発明は、コンピュータが実行する建築物の外壁用のタイルの状態検出方法であって、上記タイルへの擦過により生じた音を収音し、上記タイルを含む全天球画像を撮影し、撮影した上記全天球画像内のタイルに基づきグリッドマップを生成し、上記全天球画像から上記タイルの各々の間に介在する目地を形成している座標群を、上記グリッドマップを形成する座標群に変換し、収音した上記音から少なくとも正常音と異常音とを分析し、分析した上記異常音を発するタイルを判別し、判別された上記タイルを生成した上記グリッドマップで特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、打診検査に伴う作業の準備及び実行に手間取らず、作業員の経験や勘に依存せず、規則的な動作のみで不具合を伴うタイルの位置や数等の結果を可視化できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態における検出装置の概要図である。
図2】上記検出装置のシステム構成図である。
図3】上記検出装置による検出状況の一例を示す図である。
図4】上記検出装置が出力する検出結果の一例を示す図である。
図5】上記検出装置による検出動作の一例を示すフローチャートである。
図6】上記検出装置によるグリッドマップの生成例を示すフローチャートである。
図7】上記検出装置による収音結果の分析例を示すフローチャートである。
図8】上記検出装置による異常音の発信源の判別例及び特定例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図1図4にて、本発明の一実施形態における検出装置(以下「本検出装置」という。)について説明する。
【0026】
<本検出装置の概要>
図1に示すように、本検出装置は、例えば集合住宅の外壁に貼り付いたタイルTに対して打診棒Sの先端で擦過して生じた音を収音部10で収音すると共に、タイルTを含む全天球画像を撮影部20で撮影し、収音部10で収音した音及び撮影部20で撮影した画像に基づいてコンピュータC1でタイルTの状態に関する情報を取得(可視化)するものである。
【0027】
タイルTとは、モルタルや所定の接着剤でコンクリート製の躯体等の表面に貼り付けられたプレート状のもので、磁器質・せっ器室・陶器質・土器質のいずれでもよく、寸法・形状・個数・張り付け工法に限定はない。集合住宅におけるタイルTが存在する場所は、各居室の玄関やバルコニー等の比較的狭域な箇所でもよく、限定はない。
【0028】
タイルTの擦過を行うのは、打診棒Sを持った作業員が行っても、打診棒Sを取り付けて遠隔操作可能なロボット等の電子機器でもよい。タイルTの擦過方向は、外壁に対して水平方向に行い所定の範囲終了後に上又下に移動して再び水平方向でも、垂直方向に行い所定の範囲終了後に左又は右に移動して再び垂直方向でもよい。タイルTの擦過速度は、収音部10にて収音でき、一定又は規則的であることが好ましいが、変則的でもよい。
【0029】
「タイルTの状態に関する情報」は、例えば、収音部10が収音したタイルTへの擦過音、撮影部20が撮影したタイルTの画像、上記擦過音及び上記画像に基づいてコンピュータC1が導出したタイルTの付着状態が正常か異常かを判断する情報であり、コンピュータC1が処理するタイルTの付着状態が正常か異常かを判断する情報の全てを含んでもよい。
【0030】
「タイルTの付着状態が正常」とは、躯体表面に対してタイルTが剥離していない又は剥離した部位を有さないかつタイルTに亀裂等がなく損傷していない状態を意味し、「タイルTの付着状態が異常」とは、躯体表面に対してタイルTが剥離している部位を有する状態又はタイルTに亀裂等があり損傷している状態を意味してもよい。「タイルTが剥離している部位」とは、躯体表面に対するタイルTの略全部又は一部でもよく、「タイルTの一部」とは、タイルTの中央のみでも、タイルとタイルとの間の目地に隣接する部位でもよい。
【0031】
<本検出装置を構成する基本的なハードウェア・ソフトウェア>
本検出装置は、コンピュータ又は2つ以上のコンピュータで構成されたコンピュータシステムであって、例えば、OS(Operating System)・ミドルウェア・ファームウェア・アプリケーション等のソフトウェアやプログラムの実行を制御したり命令に基づいて演算したりするCPU(Central Processing Unit)を含むマイクロプロセッサ、上記ソフトウェア・プログラム・静止画像・動画像・音声・文字等の電子データを記憶する内部ストレージを含むROM(Read Only Memory)、CPUによる演算処理に伴い一時的に上記電子データを記憶するRAM(Random Access Memory)、加速度センサ・モーションセンサ・深度センサ・ジャイロセンサ・GPS・タッチセンサ・3次元センサ・RGBセンサ・赤外線センサ・レーザーセンサ・バッテリー監視センサ・温度/湿度センサ等のセンサ機器、RFチップ・ベースバンドチップ・その他通信モジュール等の通信機器、バッテリー等の電源機器、モーター等の稼働機器、キーボード・マウス・タッチパネル・マイク・カメラ・ボイスレコーダー等の入力機器、液晶や有機EL製のディスプレイ・スピーカー等の出力機器等のハードウェアを適宜組み合わせて形成されてもよく、上記ハードウェアの各々はバスやUSB等の入出力インタフェースを介して相互に接続されてもよい。
【0032】
コンピュータは、例えば、パーソナルコンピュータ・サーバ・スマートフォン・タブレット・カメラやマイクを含む入力機器である。コンピュータが搭載するハードウェアの数やサイズは、用途やスペックに応じて適宜決定してもよい。上記入力機器や上記出力機器は、コンピュータに内蔵されたものでも外付けされるものでもよい。
【0033】
2つ以上のコンピュータの各々は、上記入出力インタフェース又は上記通信機器から通信ネットワークを介して相互に接続され、これ以外の方式で接続されてもよい。通信ネットワークは、例えば、インターネット・イントラネット・エキストラネット・LAN・CATV通信網・VPN・電話回線・移動体通信網・衛星通信網である。通信ネットワークを構成する伝送媒体は、IEEE1394・電力線搬送・電話線等の有線やIrDA、ブルートゥース(登録商標)・IEEE802.11(wifi等)・携帯電話網・衛星回線・地上波デジタル網等の無線でもよい。コンピュータの各々は、上記通信機器から上記通信ネットワークを介して上記電子データを相互に送受信してもよい。
【0034】
<本検出装置の構造とハードウェアとの関係>
図2に示すように、本検出装置は、タイルTへの擦過により生じた音を収音する収音部10と、タイルTを含む全天球画像を撮影する撮影部20と、上記ソフトウェアの実行や上記電子データの入出力を含めタイルTの状態に関する情報を取得するために制御及び演算を行う制御部30と、上記ソフトウェアや上記電子データを含めタイルTの状態に関する情報を記憶する記憶部40と、制御部30の制御及び演算に基づいてタイルTの状態に関する情報を表示する表示部50と、制御部30の制御及び演算のための指示を含めタイルTの状態に関する情報を取得するための指示を伝達する操作部60と、制御部30の制御及び演算に基づいてタイルTの状態に関する情報を他のコンピュータと通信し合う通信部70と、図示しない入出力部とを搭載したコンピュータC1を備えている。コンピュータC1は、通信ネットワークNを介して所定の場所に設置されたサーバC2とタイルTの状態に関する情報を通信し合ってもよい。
【0035】
制御部30は、撮影部20で撮影された全天球画像内のタイルに基づきグリッドマップを生成する処理部301と、収音部10で収音された音から少なくとも正常音と異常音とを分析する分析部302と、分析部302で分析された異常音を発するタイルを判別する判別部303と、判別部303で判別されたタイルを処理部301で生成されたグリッドマップで特定する特定部304として機能を備えている。
【0036】
この構成によれば、所定時間連続してタイルの擦過音を収音部10で収音できると共に、打診検査の対象である建築物の外壁の全域又は広域及びタイルの擦過作業を撮影部20で撮影でき、上記擦過作業の結果を上記外壁に見立てて擬似的かつビジュアル的に表示するグリッドマップを撮影部20で撮影された全天球画像に基づいて処理部301で生成でき、上記擦過作業の結果として収音部10で収音した音に対して正常音及び異常音の有無や特徴を分析部302で分析でき、上記異常音を発するタイルが上記外壁内のどこに位置するかを判別部303で判別でき、さらに上記異常を発するタイルの位置を特定部304で上記グリッドマップに当てはめて特定できるため、擦過作業の準備及び実行に手間取らず、作業員の経験や勘に依存することなく、規則的な動作のみで不具合を伴うタイルの位置や数を含む検査結果を可視化できる効果を期待できる。
【0037】
本検出装置の一例としては、収音部10としてマイク及び撮影部20としてカメラを一体型にした第1検出装置と、制御部30として上記マイクロプロセッサを含むものと、記憶部40として上記ROMを含むものと、表示部50として上記ディスプレイと、操作部60として上記ディスプレイに表示される上記タッチパネルを含むキーボードと、通信部70として上記通信機器と、入出力部として上記入出力インタフェースとを少なくとも備えたパーソナルコンピュータ又はサーバに相当する第2検出装置とで、構成されている。第1検出装置は、地表面に三脚等で固定したり手摺等に延長棒を介して固定したりできればよいが、好ましくは作業員の頭部や胴部等の身体に装着可能な小型サイズであり、より好ましくはドローン等の浮遊式ロボットに装着可能な軽量タイプである。
【0038】
この構成によれば、タイルの擦過作業に伴う音及び画像に関する情報を第1検出装置が常時記録でき、擦過作業中でも擦過作業終了後でも収音部10及び撮影部20で記録した上記情報を第1検査装置から第2検査装置に通信次第、第2検査装置が上記情報に基づきタイルの状態に関する情報を出力できるため、作業員による作業工程の簡素化が期待できる。
【0039】
次に、本検出装置を構成する各部の詳細について説明する。
【0040】
<収音部>
収音部10は、マイク部101と、アンプ部102と、A/D変換部103とを有する。収音部10は、タイルへの擦過により生じる音を収音して、上記音に伴う音波信号を出力すると共に、上記音波信号を分析部302に伝達する。
【0041】
マイク部101は、例えば3Dマイクロフォン・単体マイクを2つ以上組み合わせたもの・マイクロホンアレイで構成されたものが該当し、所定の収音領域及び指向性を有してタイルへの擦過により生じる音(振動)から音波信号を取得するものであればよく、作業効率上好ましくは小型だが、機能・寸法・重量等の仕様を限定しない。アンプ部102は、マイク部101が取得した音波信号を増幅する。A/D変換部103は、音波信号をアナログ形式からデジタル形式に変換する。
【0042】
収音部10は、マイク部101のみを示してもよい。マイク部101とアンプ部102とA/D変換部103とは、全て搭載した機器でも、それぞれ別々の機器でも、例えばマイク部101とアンプ部102及びA/D変換部103を搭載した機器との組み合わせでもよく、マイク部101とアンプ部102及びA/D変換部103とが別々に配置されて有線又は無線で接続してもよい。収音部10は、打診棒Sに取り付けられずに打診棒Sとは別に移動してもよい。収音部10は、作業員と共に移動されても、遠隔操作可能なロボット等の電子機器で移動されてもよい。収音部10は、撮影部20での撮影に問題ない限り外壁から一定の距離を保ってもよく、打診棒Sによる擦過中は移動せず所定の位置に固定されてもよい。収音部10は、コンピュータC1に入出力インタフェースや通信ネットワークで外部接続してもよい。
【0043】
<撮影部>
撮影部20は、タイルの水平方向及び垂直方向を含む全方位(0°~360°)における全天球画像を撮影するものであればよく、作業効率上好ましくは小型だが、機能・寸法・重量等の仕様を限定しない。撮影部20は、一般的に360°カメラ・全天球カメラ・全方位カメラと称するもので、魚眼レンズを撮影方向の前後に装備したものであるが、全視野を撮影できるようにカメラを複数組み合わせたものでもよい。撮影部20は、加速度センサやジャイロセンサにより検知された3軸方向又は6軸方向における位置情報や角度情報を加味して画像を撮影してもよく、上記位置情報や上記角度情報を含むEXIF(Exchangeable image file format)情報を上記画像に付与してもよい。
【0044】
撮影部20が撮影する画像は、静止画像、所定のフレームレートの動画像、上記動画像を形成する所定のフレームに該当する静止画像でもよく、RGB等のカラー画素でも白黒画素でもよく、画素毎を含む所定単位毎に2次元や3次元の座標情報や次元数を限定しない画像特徴量を有してもよく、所定単位毎に撮影部20との相対的な位置情報・深度情報・角度情報を有してもよい。
【0045】
撮影部20に装備された魚眼レンズは、円周魚眼レンズであるが、対角線魚眼レンズでもよい。撮影部20で撮影された画像は、上記魚眼レンズを介して撮影された2つの魚眼画像をつなぎ合わせる処理等を経て正距円筒図法で示された全天球画像であるが、全天球画像と表示画面との間にケラレのない非サークル状の画像でもよい。
【0046】
撮影部20は、打診棒Sに取り付けられずに打診棒Sとは別に移動するが、打診棒Sに取り付けられて擦過されるタイルの正面に常に位置してもよい。撮影部20は、作業員と共に移動されても、遠隔操作可能なロボット等の電子機器で移動されてもよい。撮影部20は、収音部10での収音に問題ない限り外壁から一定の距離を保ってもよく、打診棒Sによる擦過中は移動せず所定の位置に固定されてもよい。撮影部20は、収音部10又はマイク部101のみの機能を実行する機器を内蔵していてもよい。撮影部20は、コンピュータC1に入出力インタフェースや通信ネットワークで外部接続してもよい。
【0047】
<収音部と撮影部との関係>
収音部10と撮影部20とは、オーディオ端子等の入出力インタフェースや通信ネットワークで外部接続した一体型でもよく、収音部10の収音可能領域及び/又は撮影部20の撮影可能領域に応じて移動させてもよい。収音部10は、撮影部20を中心に、外壁に対してマイク部101を前方左上向き・前方右下向き・後方左下向き・後方右上向きに4つ組み合わせたものでもよい。
【0048】
<処理部>
処理部301は、撮影部20で撮影された全天球画像に含まれるタイルの各々を1つの領域(一マス)とするグリッドマップを生成する。処理部301は、例えば上記全天球画像内の線分(エッジ)に基づく画像処理や、外壁の輪郭及びサイズとタイル1枚あたりのサイズとに基づく簡易的な算定処理によりグリッドマップを生成してもよい。処理部301は、生成したグリッドマップの各グリッドに連番を付したり固有の特徴を付したりしてもよい。グリッドマップは、所定のアプリケーション上で起動するものであり、画像データとして保存や出力されてもよい。
【0049】
処理部301は、全天球画像からタイルの各々の間に介在する目地を形成している座標群を、グリッドマップを形成する座標群に変換する。具体的には、例えば時間tに撮影された全天球画像を構成する所定単位毎の極座標[水平方向の角度(方位角)0°~360°:θ、垂直方向の角度(仰角)+90°~―90°:φ、中心から座標までの距離:r]に基づきハフ(Hough)変換等の公知の技術により、碁盤の目のようにタイルとタイルとの間に介在して縦方向及び横方向に交差する目地の座標群や外壁の縦方向及び/又は横方向の端部の座標群をエッジとして抽出し、上記エッジの座標群を変換することで上記グリッドマップを生成してもよい。
【0050】
この構成によれば、2次元の平面画像よりも相対的に外壁の全域又は広域を撮影した全天球画像に基づく画像処理により外壁に見立てたグリッドマップを生成できるため、外壁の一部(狭域)を撮影した平面画像同士の結合といった工程を省略できるのみならず、上記結合時に生じやすい画像処理の不具合を回避することができることから、人的な作業工程の簡素化も期待できる。
【0051】
処理部301は、上記極座標を以下の式にて3次元の直交座標(x、y、z)に変換後、2次元の平面座標に変換してもよい。すなわち、処理部301は、上記全天球画像を平面画像に変換して上記グリッドマップを生成してもよい。処理部301は、上記全天球画像又は上記平面画像が傾いている場合、各画像を回転して水平補正してもよい。
【数1】
【0052】
処理部301は、上記所定単位毎の極座標・直交座標・撮影部20との相対的な位置情報を含む画像特徴量のいずれか一つ又は2つ以上の組み合わせにより、タイル1枚あたりのサイズを算出し、上記サイズに基づいて上記エッジを補正して上記グリッドマップを作成してもよい。すなわち、処理部301は、タイル1枚あたりのサイズに基づいて、全天球画像や全天球画像から変換した平面画像に伴う上記エッジの歪みを補正してもよく、換言すれば、湾曲状のエッジを直線状のエッジに補正してもよい。
【0053】
処理部301は、時間tにおけるエッジに含まれる所定単位毎の画像特徴量及び撮影部20の移動に伴い検出した時間t+1におけるエッジに含まれる所定単位毎の画像特徴量に基づいて上記グリッドマップを作成してもよい。すなわち、処理部301は、移動前後に撮影部20が撮影した画像毎のエッジの画像特徴量を抽出し、時間tでの画像特徴量と時間t+1での画像特徴量との変化量を導出し、グリッドマップを構成する一マス一マスがタイルの形状と相似形になるように調整してもよい。
【0054】
処理部301は、検出対象の外壁の輪郭及び縦幅・横幅を含むサイズと、タイル1枚あたりの面積とに基づいてグリッドマップを生成してもよい。すなわち、処理部301は、グリッドマップの生成を、上述した画像処理ではなく、実際の外壁及びタイルの形状や寸法に基づく簡易的な算定処理で行ってもよい。
【0055】
<分析部>
分析部302は、収音部10で収音された音を分析する。分析部302は、収音部10から伝達された音における波形データ(音波信号)の周波数(振動数)・振幅・波長や発生時間を含む波形の特徴(以下「波形特徴量」という。)を抽出し、波形特徴量に基づいて上記音を分析する。
【0056】
分析部302が分析する音は、例えば、付着状態が正常なタイルから生じる音(以下「正常音」という。)と、付着状態が異常な部位を有するタイルから生じる音(以下「異常音」という。)とであるが、タイルとタイルとの間の段差に位置する目地から生じる音(以下「境界音」という。)や、上記音以外でタイルの付着状態が正常か異常かの判断に用いられる音を含んでもよい。分析部302は、正常音及び異常音と比べて相対的に短時間かつ定期的に抽出される波形特徴量を境界音と認識してもよく、境界音を正常音又は異常音に含めて分析してもよい。
【0057】
分析部302は、事前に分析したタイル1枚あたりの正常音の波形特徴量を基準値(又は閾値)として、上記基準値と一致又は近似する波形特徴量を正常音、上記基準値と一致しない又は近似しない波形特徴量を異常音と分析するが、上記基準値と一致しない又は近似しない波形特徴量の全てを異常音と分析してもよい。
【0058】
分析部302は、所定の間隔に含まれる正常音と異常音との境界に基づいて異常音を発するタイルの枚数を算定する。詳細には、図3に示すように、分析部302は、正常音の波形特徴量と異常音の波形特徴量との境界に基づいて、連続して付着状態が異常な部位を有するタイルの枚数や面積を算出し、また異常音の波形特徴量に基づいて、タイル1枚あたりの付着状態が異常な部位の座標位置及び横幅或いは縦幅を算出する。
【0059】
この構成によれば、所定の時間内で連続している波形データのうち、例えば相対的に波形特徴量の変化の度合いが大きく、かつ上記変化が不定期に生じている箇所を、正常音と異常音との境界とすることで、異常音の波形特徴量の詳細を分析することなく、異常な部位等を有するタイルの枚数や面積といった検査結果の中でも比較的重要な情報を、手間なく出力できる効果を期待できる。
【0060】
具体的には、分析部302は、図3(a)に示す基準となる正常音の波形特徴量と対比して、図3(b)に示すように、上記境界が発生してから異常音を介して次の境界が発生するまでの時間(以下「境界同士の間隔」という。)がタイル1枚あたりの正常音の発生時間より短くかつ境界音を正常音に含める場合、連続して付着状態が異常な部位を有するタイルが1枚、上記タイルにおける付着状態が異常な部位の位置座標及び横幅或いは縦幅が所定値として算定し、図3(c)に示すように、境界同士の間隔がタイル1枚あたりの正常音の発生時間より長くかつ境界音を異常音に含める場合、連続して付着状態が異常な部位を有するタイルが所定値(2枚以上)及び総面積が所定値として算定する。分析部302は、図3(d)に示すように、境界音を正常音にも異常音にも含めず、上記境界が発生してから境界音が発生するまでの時間又は境界音が発生してから異常音を介して次の境界が発生するまでの時間がタイル1枚あたりの基準となる正常音の発生時間より短い場合、連続して付着状態が異常な部位を有するタイルが2枚として算出してもよい。
【0061】
分析部302は、正常音及び/又は異常音の波形特徴量に基づいて、スペクトログラムを算出してもよい。スペクトログラムは、横軸を時間、縦軸を周波数とし、点の濃さや色で音の強さ(エネルギー)を表したものであり、上記波形特徴量を短時間フーリエ変換(STFT:Short-Time Fourier Transform)して算出されてもよい。分析部302は、正常音の波形特徴量と異常音の波形特徴量との差分に応じてスペクトログラムを算出してもよく、例えば、上記差分が大きい異常音と上記差分が相対的に小さい異常音とを色分けしてもよい。
【0062】
<判別部>
判別部303は、分析部302で分析された音のうち異常音の発信源を判別する。具体的には、判別部303は、異常音の発生時間に擦過された全天球画像内のタイルと異常音とを関連付ける。詳細には、判別部303は、例えば時間tでの撮影部20で撮影された全天球画像内に表示される打診棒Sにより擦過されたタイルの座標(中央部分等の方位角及び仰角)と、時間tでの分析部302で分析された異常音の波形特徴量とを関連付ける。すなわち、判別部303は、時間tでの上記方位角毎の異常音の有無と、時間tでの上記仰角毎の異常音の有無とを導出する。上記タイルの座標は、時間tにおける上記全天球画像内の打診棒の先端を認識することで上記タイルを導出してもよい。
【0063】
この構成によれば、所定の時間に発生した異常音の発信源であるタイルを全天球画像上で判別できる。すなわち、上記タイルを全天球画像上で判別できれば、別工程で上記タイルを特定する手間を省けるばかりでなく、作業員の記憶や判断に基づいて判別するよりも正確に判別できるため、相対的に短い時間で精度の高い検出結果を得られる効果を期待できる。
【0064】
判別部303は、収音部10が取得して分析部302が波形特徴量として分析する音波信号を処理することで、異常音の到来方向を示すスペクトログラムを算出してもよい。すなわち、図4に示すように、判別部303は、上記方位角及び上記仰角と関連付けた異常音の波形特徴量のうち、音の強度が大きいほど色を濃く、小さいほど色を薄く表示する。また、判別部303は、上記スペクトログラムを全天球画像から変換した平面画像に投影したり全天球画像上の位置座標に当てはめたりして上記異常音の発信源を判別してもよい。
【0065】
<特定部>
特定部304は、判別部303で判別された異常音の発信源を処理部301で生成されたグリッドマップで特定する。具体的には、特定部304は、上記発信源に相当するタイルの座標をグリッドマップ上の座標に変換し、変換された上記座標を含むグリッドマップ上の領域を可視化する。詳細には、特定部304は、判別部303で異常音の発信源と判別された方位角及び仰角を、上記グリッドマップを構成するマス目毎の座標に変換し、変換された座標に該当するマス目に対して着色や網掛け等の可視化用の目印を行う。特定部304は、上記マス目の総数や、横方向又は縦方向に連続している上記マス目の総面積を算定してもよい。
【0066】
この構成によれば、判別部303で判別した全天球画像上の異常音の発信源であるタイルの位置をより分かりやすく可視化できる。すなわち、上記全天球画像に基づきタイルの目地を活かして生成したグリッドマップを最終的な検査結果の集計用フォーマットにすることで、全天球画像との整合性も一致しているため、不具合を伴うタイルの正確な位置や個数や面積を特定できる効果を期待できる。
【0067】
次に、図5図8を加えた各図を参照しつつ、コンピュータとして検出装置が主体となって実行して付着状態が異常な部位を有するタイルを検出する流れの一例を説明する。
【0068】
前提として、検出装置は、図1に示す収音部10と撮影部20とを一体化したものであり、コンピュータ30での各種処理は、打診棒Sによるタイルへの打診検査の終了後に行う。収音部10及び撮影部20は、上記検査を行う作業員(又はロボット等の装置)に装着されており、上記作業員と共に移動するが、タイルへの擦過作業中は静止している。天候や周辺環境音等の外乱は、収音部10及び撮影部20の動作に影響を及ぼさないものとする。
【0069】
<検出装置の動作>
図5に示すとおり、まず収音部10及び撮影部20を外壁から所定の距離かつ収音部10の収音領域内に配置すると共に、収音及び撮影可能な状態に起動して、検出を開始する(ステップS110)。そして、外壁の縦方向の端部の一方から他方又は所定の箇所を目指して、タイルの表面を水平方向に擦過する(ステップS120)。
【0070】
上記収音領域内でのタイルの擦過作業が終了していない場合、例えば、擦過済みのタイルより下段のタイルの表面を水平方向に再び擦過して検出を開始してもよいが、上記擦過作業が終了した場合、次の収音領域に収音部10及び撮影部20を移動する(ステップS130、S140)。所望の範囲に対するタイルの擦過作業が終了していない場合、移動後に再び検出を開始するが、上記擦過作業が終了した場合、検出を終了する(ステップS150)。
【0071】
<画像処理によるグリッドマップの生成>
図6に示すとおり、まず図5で示した検出開始後に撮影部20が撮影した外壁の全天球画像から、タイルとタイルとの間の目地に相当するエッジの極座標を抽出する(ステップS210)。次に、上記全天球画像から抽出したエッジの極座標を、3次元の直交座標に変換し、その後2次元の直交座標に変換する(ステップS220)。極座標から直交座標に変換することで、外壁の全域又は広域に渡って撮影部20で撮影した全天球画像から、上記エッジに基づく平面状のグリッドマップを生成しやすい。
【0072】
2次元の直交座標に変換されたグリッドマップは、歪み等の不具合を解消するために、タイル1枚あたりの領域をタイルの形状やサイズに基づいてエッジの直交座標を適宜補正する(ステップS230)。さらに、図5で示したように、撮影部20の移動に伴い撮影された新たな全天球画像を生成済みのグリッドマップに加味する場合、上記全天球画像に伴うエッジを抽出する(ステップS240)。一方、上記新たな全天球画像を生成済みのグリッドマップに加味しない場合、生成済みの少なくとも1つのグリッドマップを補正したり、2つ以上のグリッドマップの各々を形成するエッジの直交座標に基づいて補正したりして調整し、上記調整が不要になり次第、グリッドマップの生成を終了する(ステップS250)。
【0073】
<収音結果の分析>
図7に示すように、収音部10で収音した波形データを、例えば1、2、・・・n段目のようなタイルの各段目の擦過作業に生じた時間毎に区分けする(ステップS310)。次に、区分けした波形データのうち、例えば事前に収音済みの正常音等に基づく基準値や閾値との一致又は近似を算定して正常音と異常音とを判別する(ステップS320)。正常音と判別した波形データに対しては、分析を終了する(ステップS330)。
【0074】
一方、異常音と判別した波形データに対しては、例えば擦過開始後t秒~t+1秒といった上記異常音の前後で判別された正常音との境界同士の間隔に基づいてさらに分析する(ステップS340、S350)。上記境界同士の間隔が上記基準値より短い場合、上記異常音を発する異常な部位を有するタイルが1枚と認定する(ステップS360)。一方、上記境界同士の間隔が上記基準値より長い場合、上記異常音を発する異常な部位を有するタイルは2枚以上と認定する(ステップS370)。
【0075】
<異常音の発信源の判別及び特定>
図8に示すように、収音結果の分析に基づき、上記境界同士の間隔と、上記間隔にて撮影した全天球画像内の擦過箇所とを照合する(ステップS410)。換言すれば、上記境界同士の間隔に基づいて、異常音を発したタイルの場所を上記全天球画像で確認する。照合後、上記全天球画像内の擦過箇所に相当する極座標上の方位角及び仰角を抽出する(ステップS420)。
【0076】
そして、抽出した上記方位角及び上記仰角を、3次元の直交座標に変換し、さらに2次元の直交座標に変換する(ステップS430)。すなわち、異常音を発したタイルの場所を、2次元の直交座標に変換することで、生成済みのグリッドマップの座標系と合わせられる。そして、変換した2次元の直交座標と、上記グリッドマップの座標系とを関連付け、関連付けられた上記グリッドマップ上の座標に位置するタイルを着色や網掛け等により可視化する(ステップS440)。
【0077】
なお、図5図8に示す流れと同等の作用及び効果を期待できる流れであれば、上述したハードウェアやソフトウェアを適宜採用して流れを変更したり新たな工程を追加したりしてもよく、限定しない。
【符号の説明】
【0078】
10 収音部
20 撮影部
30 制御部
301 処理部
302 分析部
303 判別部
304 特定部
T タイル
S 打診棒
C1 コンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8