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特許7589010蒸着マスク、蒸着マスクを用いたデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】蒸着マスク、蒸着マスクを用いたデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20241118BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20241118BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020180170
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071292
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】矢島 孝博
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】内田 達朗
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-293917(JP,A)
【文献】特表2020-521058(JP,A)
【文献】特開2008-208426(JP,A)
【文献】特開2001-185350(JP,A)
【文献】特開2010-056228(JP,A)
【文献】特開2005-042133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着マスクであって、
第1の厚さを有し、複数の貫通孔が配された部分を含む第1の領域と、前記第1の領域よりも外周に配され、前記第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する第2の領域と、を備えたシリコン基板を有し、
前記シリコン基板は、前記第1の領域と前記第2の領域の間の段差を構成する内壁を備えており、
前記第1の領域と前記第2の領域の間の境界は、前記内壁の外縁と一致し、
平面視において、前記内壁の外縁は曲線部を有することを特徴とする蒸着マスク。
【請求項2】
前記内壁と、前記第1の領域の前記シリコン基板の上面とのなす角が鋭角であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着マスク。
【請求項3】
平面視において、前記内壁の外縁は円形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着マスク。
【請求項4】
平面視において、前記第2の領域の前記シリコン基板の外縁は曲線部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
【請求項5】
断面視において、前記内壁は、複数の段差を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
【請求項6】
前記複数の段差は、第1の段差と第2の段差を有し、
前記第2の段差は、前記第1の段差よりも前記第1の領域に近い段差であり、
前記第2の段差を構成する第2の内壁と、前記第1の領域の前記シリコン基板の上面とのなす角は、前記第1の段差を構成する第1の内壁と、前記第1の領域の前記シリコン基板の上面とのなす角よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の蒸着マスク。
【請求項7】
前記第2の領域の前記シリコン基板の一部は、前記第1の領域の前記シリコン基板の上面よりも低い
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
【請求項8】
前記第2の領域の前記シリコン基板の厚さは、200μm以上750μm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
【請求項9】
前記第2の領域の前記シリコン基板の厚さは、300μm以上800μm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
【請求項10】
前記内壁の前記外縁の全長の少なくとも半分の範囲において、前記内壁の前記外縁は、曲線部を有する請求項1から9のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
【請求項11】
蒸着装置であって、
請求項1から10のいずれか1項に記載の蒸着マスクと、
蒸着材料と被蒸着基板との間で、前記蒸着マスクを保持する保持機構、を備えたことを特徴とする蒸着装置。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の蒸着マスクと、被蒸着基板とをアライメントする工程と、
前記蒸着マスクを用いて、蒸着材料を前記被蒸着基板に蒸着する工程と、を有することを特徴とするデバイスの製造方法。
【請求項13】
前記デバイスはOLEDであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
マスクホルダであって、
請求項1から10のいずれか1項に記載の前記蒸着マスクが保持できるように構成されていることを特徴とするマスクホルダ。
【請求項15】
請前記第2の領域の形状に対応した凹部が設けられていることを特徴とする請求項14に記載のマスクホルダ。
【請求項16】
前記蒸着マスクを前記マスクホルダに固定するためのピンが設けられていることを特徴とする請求項14または15に記載のマスクホルダ。
【請求項17】
平面視において、前記マスクホルダには、凸部が設けられており、
平面視において、前記蒸着マスクの前記第2の領域に設けられている凹部と、前記凸部が嵌合できるように構成されていることを特徴とする請求項14から16のいずれか1項に記載のマスクホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板を用いた蒸着マスク、蒸着マスクを用いたデバイスの製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(OLED:Organic Light Emitting Diode)を製造する方法が複数提案されている。具体的には、基板上に成膜された有機材料をエッチングして作製する方法、インクジェット方式によってディスペンスして有機材料を塗分ける方法、メタルマスクを用いて蒸着によって有機材料を塗分ける方法が用いられている。これらの中でもメタルマスクを用いて、有機材料を塗分ける方法が多く用いられている。しかしながら、メタルマスクを用いる場合、メタルマスクの厚さが薄くなると自重で撓むため、撓んだメタルマスクでは、精度良く有機材料を塗分けることが難しい。
【0003】
近年ではディスプレイの高精細化が進むにつれて、塗分けの高精細化や、塗る位置の高精度化がさらに必要になってきている。そのため、メタルマスクのさらなる薄化や、貫通孔の加工精度の向上が必要となる。しかし、貫通孔を所定の加工精度で作製したとしても、メタルマスクを用いる場合には、蒸着時のマスクの撓みが大きくなって貫通孔の形状が変化するため、蒸着位置の精度が低くなる。
【0004】
特許文献1では、軽量で引張強度の強いシリコン基板を用いた蒸着マスク(シャドウマスク)が示されている。特許文献1によれば、シリコン基板面の周囲にフレームを残すようにして、シリコン基板面の中心部に数十μmの厚さの蒸着マスク領域を形成している。このマスク領域は、フォトリソグラフィーおよびエッチングによって形成されている。メタルではなく、シリコン基板を用いることで撓みを少なくすることができ、蒸着位置の精度低下を抑制した蒸着マスクが提供可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-313564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シリコン基板はメタルと比べて加工精度が高く、軽量で引張強度が強いという反面、脆くて破損しやすいという特徴がある。そのため、適切な形状に加工しないと搬送時や蒸着時に破損してしまうリスクがある。
【0007】
図15に特許文献1に記載の単結晶シリコンで形成された蒸着マスク(シャドウマスク)101を示す。図15(a)は、特許文献1に記載の蒸着マスクの平面図であり、図15(b)は図15(a)の蒸着マスク101のA-A’断面図を示す図である。蒸着マスク101は、中心部にある厚さ数十μmのシャドウマスク領域103の周囲に中心部よりも厚いシリコンフレーム102が形成されている。シリコンフレーム102の内側のシャドウマスク領域103を、数十μmの厚さに加工するためには、硝酸/弗酸/氷酢酸混合液または水酸化カリウム水溶液を用いたエッチングまたは超音波加工法により薄化加工する。図15(a)のシリコンフレームの内壁104の外縁は、平面視で四角形をしており、平面視で角部Cを内壁104の四隅に持つ構造となっている。そのため、蒸着マスクを取り扱う際や保持基板に保持、固定する際に角部に応力が集中することにより蒸着マスクが破損するリスクがある。
【0008】
そこで、本発明は蒸着マスクを取り扱う際や、蒸着マスクを保持基板(マスクホルダ)に保持、固定する際に、蒸着マスクの破損リスクを低減可能であり、かつ、蒸着位置の精度低下を抑制した蒸着マスクを提供することを目的とする。また、この蒸着マスクを用いた蒸着装置、この蒸着マスクを利用したデバイスの製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
蒸着マスクであって、第1の厚さを有し、複数の貫通孔が配された部分を含む第1の領域と、前記第1の領域よりも外周に配され、前記第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する第2の領域と、を備えたシリコン基板を有し、前記シリコン基板は、前記第1の領域と前記第2の領域の間の段差を構成する内壁を備えており、前記第1の領域と前記第2の領域の間の境界は、前記内壁の外縁と一致し、平面視において、前記内壁の外縁は曲線部を有する蒸着マスクに関する。
【発明の効果】
【0010】
蒸着マスクの破損リスクを低減可能であり、かつ、蒸着位置の精度低下を抑制した蒸着マスク、該蒸着マスクを用いた蒸着装置、該蒸着マスクを利用したデバイスの製造方法等を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図2】第1の実施形態の蒸着マスクの断面図を示す図である。
図3】第1の実施形態の蒸着マスクの断面図を示す図である。
図4】第1の実施形態の蒸着マスクの断面図を示す図である。
図5】第2の実施形態の蒸着マスクの断面図を示す図である。
図6】第2の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図7】第3の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図8】第3の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図9】第4の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図10】第4の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図11】第4の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図12】第4の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図13】第4の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図14】第4の実施形態の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
図15】先行技術の蒸着マスクの平面図および断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1(a)は、本発明の実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図1(b)は図1(a)の蒸着マスク1の(A)-(A)’断面図を示す図である。ここで、平面図のことを平面視、断面図のことを断面視ということもある。また、図1(a)は、XY平面を示した図であり、図1(b)はXZ平面を示した図となる。ここで、X方向の長さを幅といい、Z方向の長さを高さという。すなわち、第1の面の高さが第2の面高さよりも高いということは、第1の面が第2の面よりも、Z方向の正方向に位置していることを意味する。逆に、第1の面の高さが第2の面の高さよりも低いということは、第1の面が第2の面よりも、Z方向の負方向に位置していることを意味する。また、シリコン基板に関しては、Z方向の長さを厚さということもある。
【0014】
図1(b)において、蒸着マスク1の被蒸着基板11側を上面とし、蒸着材料源10側を蒸着マスク1の下面とする。蒸着材料は蒸着マスク1の下面側から飛来し、貫通孔5を通過して被蒸着基板11に成膜される。貫通孔5は複数形成されており、貫通孔5が複数形成されている領域を第1の領域100とする。第1の領域100の周囲には、第1の領域100よりも基板の厚さが厚い第2の領域200が形成されている。第1の領域100の下面側の空間を取り囲むように内壁4が形成されている。内壁4は、第1の領域100と第2の領域200との間の段差を構成する部材ともいえる。
【0015】
第1の領域100は図1(a)で示すように、平面視において内壁4の外縁によって取り囲まれ、内壁4の外縁は平面視において曲線部を有している。例えば、内壁4の外縁は円形状を有している。ここで「曲線部」とは、角部がなく、連続的に曲がっている状態の部分のことである。また、ここで「角部」とは、1つの頂点から出ている2つの辺が作る形状のことである。このような角部を持たない構成では応力集中の発生を防ぐことができ、より機械的な強度を高めることができる。
【0016】
第1の領域100の周囲には、第1の領域100よりも基板の厚さが厚い第2の領域200が形成されている。平面視において、内壁4の外縁と同様に、第2の領域200の最外周の外縁も曲線部を有している。例えば、第2の領域200の最外周の外縁は円形状を有している。第1の領域100に対して基板の厚さが厚い第2の領域200を設けることにより、蒸着マスク1の機械的な強度を高めることができる。また、第2の領域200の最外周の外縁が曲線部を有していることから、応力集中の発生を防ぐことができ、より機械的な強度を高めることができる。
【0017】
以上により、半導体基板からなる蒸着マスクであっても、内壁4および最外周の外縁に曲線部を有することで、蒸着マスクを保持基板に保持、固定する際に、蒸着マスクにかかる応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減できる。また、半導体基板からなる蒸着マスクを用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制することが可能となる。
【0018】
なお、図1では、平面視において、すべての内壁4の外縁が曲線部を有している例と、すべての第2の領域の最外周の外縁が曲線部を有している例を示したが、発明の効果を奏するためには、すべての外縁が曲線部を有している必要はない。例えば、内壁4または最外周の外縁の全長の少なくとも半分の範囲において、角部を持たないように構成すればよい。また、半導体基板には、結晶軸の方向を示す直線の切れ込み(オリフラやノッチ)が設けられることが多い。しかし、本明細書において、これらは最外周の外縁における角部とは扱わない。
【0019】
[第1の実施形態]
図2(a)は、第1の実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図2(b)は図2(a)の蒸着マスクのA-A’断面図である。
【0020】
第1の実施形態の蒸着マスク1は、直径200mmの基板(±0.5mmの誤差を有してもよい)を用いることができる。この場合、基板の厚さが100μm以上~750μm以下のシリコン単結晶基板やSOI(Silicon On Insulator)基板などを用いることができる。また、直径300mmの基板(±0.2mmの誤差を有してもよい)を用いることもできる。この場合、基板の厚さが100μm以上~800μm以下のシリコン単結晶基板やSOI基板などを用いることができる。
【0021】
機械的強度を考慮して、第2の領域200を厚くしたままの状態で蒸着マスクとする場合がある。この場合、第2の領域の厚さは、直径200mmのシリコン基板では、200μm以上750μm以下となる。また、直径300mmのシリコン基板であれば、300μm以上800μm以下となる。なお、この厚さの値は、第2の領域で最も厚い厚さの値であり、以下で説明するザグリ部は含まれない。
【0022】
他方、第1の領域100の厚さは、1μmから100μm程度である。より具体的には、5μm以上50μm以下である。そのため、第1の領域100のシリコン基板の厚さと、第2の領域200のシリコン基板の厚さの比は、4から160となる。
【0023】
蒸着マスク1の製造方法は以下のとおりである。最初に、第1の領域100の上面に、貫通孔5を形成するためのマスクパターンをフォトリソグラフィーとエッチングによって形成しておく。次に、第1の領域100の下面から、Reactive Ion Etching(RIE)または機械加工によって、基板を数十μmまで薄くさせたのち、上面から貫通孔5をRIEによって形成する。第1の領域100の基板の薄化加工の際に、第1の領域100の下面側の空間を取り囲む内壁4が同時に形成される。
【0024】
平面視において内壁4の外縁は曲線部を有しており、例えば、円形状である。また、平面視において、第2の領域200の最外周の外縁も曲線部を有しており、例えば、円形状である。このような角部を持たない構成では、応力集中の発生を防ぐことができ、より機械的な強度を高めることができる。
【0025】
貫通孔5は、RIEによって加工することができるため、貫通孔5の寸法を高精度に形成することができる。貫通孔5の幅は5~40mmで、例えば30mmである。貫通孔5の形状は四角形だけでなく、必要に応じて任意に形を変えることができる。図2(b)で示すように、蒸着マスク1の上面6と内壁4のなす角度θは90°よりも小さくなっている。すなわち、鋭角となっている。そのため、第1の領域100の下面側と内壁4とのなす角度は上面とは反対に90°よりも大きくなる。このような構成では第1の領域100の下面側と内壁4とのなす角度が鈍角になる。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを取り扱う際や蒸着マスクを保持基板に保持、固定する際に、基板の厚さが薄い第1の領域100にかかる応力集中の発生をより低減することができる。また、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。
【0026】
(変形例1)
図3は、上記で説明した図2(a)の蒸着マスクのA-A’断面図と同じ位置断面であるが、内壁4の断面形状が図2(b)とは異なる。図3では、内壁4の形状が2段の段差形状になっており、それぞれ第1の領域100の上面となす角度が異なっている。蒸着マスク1の下面側の内壁4aと蒸着マスク1の上面6となす角度を角度θaとする。蒸着マスク1の上面側の内壁4bと蒸着マスク1の上面6となす角度を角度θbとする。この場合、θa>θbの関係になっている。そのため、第1の領域100の下面側と蒸着マスク1の上面側の内壁4bとなす角度は、第1の領域100の下面側と蒸着マスク1の下面側の内壁4aとなす角度よりも鈍角になる。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを取り扱う際や、蒸着マスクを保持基板に保持、固定する際に、基板厚さの薄い第1の領域100にかかる応力集中の発生をより低減することができる。また、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。
【0027】
また、図3では、2段構造の内壁4の場合を示したが、その限りではなく、段数を増やした構成を採用することで貫通孔5に近い側をより鈍角にすることが可能となる。これにより、より蒸着マスクの破損リスクを低減することが可能となる。
【0028】
(変形例2)
図4は、図2(a)の蒸着マスクのA-A’断面図と同じ位置の断面であるが、第2の領域200の断面形状が図2(b)とは異なる。
【0029】
図4では、第2の領域200の一部が蒸着マスク1の上面6から高さhだけ低いザグリ部7が形成されている。ザグリ部7は後述で説明するマスクホルダとの固定のための治具を押し当てる場所となる。また、ザグリ部7は、被蒸着基板11を蒸着マスク1に近づける際に被蒸着基板11を搬送する治具が蒸着マスク1と接触しないようにする場所となる。
【0030】
図4ではザグリ部7を2か所に設ける例を示したが、蒸着マスク1の複数個所にザグリ部7を設けることができる。また、ザグリ部7に押し当てる治具の形状に応じて、蒸着マスク1の上面6からの高さhを任意の高さに変えることができる。さらに、ザグリ部7は蒸着マスク1の一部を貫通していてもよい。
【0031】
図4に示すように、第2の領域200にザグリ部7が設けられているため、一部が薄くなったとしても、蒸着マスク1の内壁4および外周部の外縁が円形状である。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを取り扱う際や保持基板に保持、固定する際に、蒸着マスクへの応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。
【0032】
[第2の実施形態]
本実施形態では、蒸着装置と、蒸着マスクを用いてデバイスを作製する工程、具体的にはOLEDを作製する工程の一部について説明する。
【0033】
図5において、蒸着装置500(蒸着チャンバー)には、昇華させた蒸着材料を放出する蒸着材料源10と、被蒸着基板11を保持する基板ホルダー520(保持機構)が設けられている。また、蒸着装置500には、蒸着マスク1を保持するマスクベース600(保持機構)と、被蒸着基板11と蒸着マスク1との位置決めを行う固定プレート510が設けられている。蒸着マスク1は、被蒸着基板11と蒸着材料源10の間に配されている。図5では、マスクベース600は蒸着マスク1を直接保持しているが、以下の実施形態で説明するように、マスクホルダで蒸着マスク1を保持し、蒸着マスクとマスクホルダをマスクベースで保持してもよい。
【0034】
基板ホルダー520とマスクベース600が駆動されることにより、蒸着マスク1と被蒸着基板11とが位置調整される。すなわち、アライメント工程が行われる。
【0035】
蒸着材料源10から放出された蒸着材料源である発光材料は、貫通孔5を通過して被蒸着基板11の所望の位置に発光材料部12として成膜される。発光材料としては白色の有機材料または、Red,Green,Blue(R,G,B)の各色の有機材料を選ぶことができる。白色の有機材料の場合、例えば、貫通孔幅30mmに対応した発光エリアに発光材料部12を成膜し、カラーフィルタ(不図示)や電極(不図示)等を形成することにより、OLEDを作製できる。
【0036】
また、R,G,Bの各色の有機材料を塗分ける場合には、画素ごとにR,G,Bの有機材料を被蒸着基板11の所望の位置に成膜する必要があり、蒸着マスク1の貫通孔5の位置関係をR,G,Bの色ごとに変更する。貫通孔5の幅は、画素の大きさに応じて数μm程度まで小さくする。
【0037】
本実施形態で説明した内壁4と外周部の外縁に曲線部を有する蒸着マスクをOLED作製に利用すれば、蒸着位置の精度低下を抑制するとともに、蒸着マスクの破損リスクを低減することができるため、OLED製造の歩留まりを向上させることができる。
【0038】
(変形例)
本実施形態では、画素ごとにR,G,Bの有機材料を被蒸着基板11の所望の位置に塗分ける場合に関するものであり、R,G,Bのそれぞれに対応した蒸着マスクを用いて塗分ける場合の具体例を示す。
【0039】
図6に示すように、蒸着マスク1の第1の領域100にOLEDの画素エリア8を所望の位置に複数配置し、画素エリア8の中にR,G,Bのそれぞれに対応した微細貫通孔9を複数形成する。微細貫通孔9の貫通孔幅は数μmで、フォトリソグラフィーおよびRIEによって精度良く形成することができる。
【0040】
本実施形態で説明した内壁4と外周部の外縁に曲線部を有する蒸着マスクをOLED作製に利用すれば、蒸着位置の精度低下を抑制するとともに、蒸着マスクの破損リスクを低減することができるため、OLED製造の歩留まりを向上させることができる。
【0041】
[第3の実施形態]
図7(a)は、本実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図7(b)は、図7(a)の蒸着マスク1のA-A’断面図を示す図である。
【0042】
上記で説明した蒸着マスクを使用するにあたり、蒸着マスクはマスクホルダに保持・固定した状態で被蒸着基板と位置合わせをして使用することが多い。蒸着マスク1とマルクホルダ21は、蒸着材料源10と被蒸着基板11との間に配されている。図7(b)において、蒸着マスク1の被蒸着基板11側を上面とし、蒸着材料源10側を蒸着マスク1の下面とした場合、マスクホルダ21は蒸着マスク1の下面側に配置される。マスクホルダ21には蒸着マスク1の直径より小さい開口60が形成されており、蒸着マスク1の下面側から放射された蒸着材料が、マスクホルダ21の開口60と蒸着マスク1の貫通孔5を通過し、被蒸着基板11に成膜される。
【0043】
上記の実施形態で説明したように、蒸着マスク1には複数の貫通孔5が形成されている第1の領域100を有しており、第1の領域100の下面側の空間を取り囲むように内壁4が形成されている。
【0044】
また、マスクホルダ21の上面には蒸着マスク1を保持・固定するための落とし込み部22が形成されている。落とし込み部22は、蒸着マスク1の第2の領域の形状に対応した凹部構造である。蒸着マスク1をマスクホルダ21の落とし込み部22に合わせて設置するため、簡便に蒸着マスク1をマスクホルダ21に位置合わせすることができる。蒸着マスク1とマスクホルダ21をより確実に固定するために、落とし込み部22に接着剤(図示せず)を塗布して蒸着マスク1とマスクホルダ21を固定してもよい。
【0045】
本実施形態において、前述の蒸着マスク1を利用するため内壁4および外周部の外縁に曲線部を有している。このため、半導体基板で形成された蒸着マスク1をマスクホルダ21に落とし込んで保持、固定する場合でも蒸着マスクに応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。また、蒸着マスクにシリコン基板を用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制することができる。
【0046】
(変形例)
図8(a)は、本発明の蒸着マスクの平面図であり、図8(b)は、図8(a)の蒸着マスク1の(A)-(A)’断面図を示す図である。
【0047】
図8(b)の構成は、図7(b)と略同じであるが、蒸着マスク1の上面6とマスクホルダ21の上面との高さが略同じマスクホルダ21に落とし込み部22が形成されている。落とし込み部22の内縁と蒸着マスク1の外縁を接触させることで、蒸着マスク1をマスクホルダ21に固定する。図7(b)に示した構成と比べて、図8(b)の構成は、蒸着マスク1の外縁を落とし込み部22の内縁に合わせて落とし込むだけで、容易に位置合わせと固定ができるというメリットがある。
【0048】
本実施形態においても、前述の蒸着マスク1を利用するため、内壁4および外周部の外縁に曲線部を有している。このため、蒸着マスク1をマスクホルダ21に落とし込んで保持、固定する場合においても蒸着マスクに応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。また、蒸着マスクにシリコン基板を用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制ことができる。
【0049】
[第4の実施形態]
図9(a)は、本実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図9(b)は、図9(a)の蒸着マスク1のA-A’断面図を示す図である。
【0050】
マスクホルダ21の上面側に蒸着マスク1の位置を決めるための位置決めピン23が2本配置され、蒸着マスク1をマスクホルダ21に固定するための可動固定ピン24が配置されている。蒸着マスク1をマスクホルダ21にある2本の位置決めピン23で位置合わせをした後、可動固定ピン24をスライドさせて蒸着マスク1に押し当ててから可動固定ピン24をネジ(図示せず)で固定する。これにより、蒸着マスク1をマスクホルダ21に位置精度良く、確実に固定することができる。
【0051】
本実施形態においても、前述の実施形態に記載の蒸着マスク1を利用するため、内壁4および外周部の外縁に曲線部を有している。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを位置決めピン及び可動固定ピンを用いてマスクホルダ21に保持、固定する場合でも蒸着マスクに応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。また、蒸着マスクにシリコン基板を用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制することができる。
【0052】
(変形例1)
図10(a)は、本発明の本実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図10(b)は、図10(a)の蒸着マスク1のA-A’断面図を示す図である。
【0053】
本実施形態では、板バネ25を用いて蒸着マスク1をマスクホルダ21に固定する方法を示す。蒸着マスク1にザグリ部7が形成されており、ザグリ部7にマスクホルダ21上に設置してある板バネ25を合わせた後、固定ネジ26を用いて蒸着マスク1とマスクホルダ21を固定する。
【0054】
図10(b)では、押し込み部22に蒸着マスク1を落とし込んで位置合わせをしているが、図9(b)に示すように、位置決めピン23を用いて位置合わせをすることもできる。また、位置決めピン23上に板バネ25や固定ネジ26を配置して蒸着マスク1を固定することもできる。本実施形態において、板バネ25は2か所に設ける例を示しているが、固定する個所を増やすこともできる。蒸着マスク1をマスクホルダ21に固定する場所を複数個配置できるため、より確実に蒸着マスク1をマスクホルダ21に固定することができる。
【0055】
本実施形態においても、前述の実施形態に記載の蒸着マスク1を利用するため、内壁4および外周部の外縁に曲線部を有している。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを、板バネを用いてマスクホルダに保持、固定する場合でも蒸着マスクに応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。また、蒸着マスクにシリコン基板を用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制することができる。
【0056】
(変形例2)
図11(a)は、本実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図11(b)は、図11(a)の蒸着マスク1のA-A’断面図を示す図である。
【0057】
本実施形態では固定板27を用いて、蒸着マスク1をマスクホルダ21に固定する方法を示す。蒸着マスク1の内壁4よりも直径が大きい貫通孔を有する固定板27を蒸着マスク1およびマスクホルダの上方から被せ、固定ネジ26でマスクホルダに固定する。固定板27は蒸着マスク1の第2の領域200の略全周を覆うようにして蒸着マスク1を固定するため、より確実に固定することができる。
【0058】
本実施形態においても、前述の実施形態に記載の蒸着マスク1を利用するため、内壁4および外周部の外縁に曲線部を有している。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを、固定板を用いてマスクホルダに保持、固定する際に、蒸着マスクに応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。また、蒸着マスクにシリコン基板を用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制することができる。
【0059】
(変形例3)
図12(a)は、本実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図12(b)は、図12(a)の蒸着マスク1のA-A’断面図を示す図である。
【0060】
本実施形態は固定ピン29を用いて、蒸着マスク1をマスクホルダ21に固定する方法を示す。蒸着マスク1に貫通孔28を形成し、貫通孔28の内径とほぼ同じ外径の固定ピン29をマスクホルダ21の貫通孔28に押し付けて蒸着マスク1を固定する。固定ピン29を貫通孔28に通してマスクホルダ21に形成された穴に固定するため、固定ピン29のみで簡易に蒸着マスク1とマスクホルダ21の固定と位置合わせを同時に行うことができる。
【0061】
本実施形態においても、前述の実施形態に記載の蒸着マスク1を利用するため、内壁4および外周部の外縁に曲線部を有している。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを、固定ピンを用いてマスクホルダ21に保持、固定する際に、蒸着マスクに応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。また、蒸着マスクにシリコン基板を用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制することができる。
【0062】
(変形例4)
図13(a)は、本実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図13(b)は、図13(a)の蒸着マスク1のA-A’断面図を示す図である。
【0063】
本実施形態は図11と同様に固定ピン29を用いて、前述に記載の蒸着マスク1をマスクホルダ21に固定する方法を示す。図11と異なる点は、固定ピン29を図12(b)で示すように蒸着マスク1の貫通孔28の中に配置するのではなく、図13(b)で示すように蒸着マスク1の下面側に形成された貫通していない逃げ部30を配置する。また、図11と同じように蒸着マスク1とマスクホルダ21の固定と位置合わせを同時に行うことができる。さらに、図11と比べて貫通孔28が開いていないため、蒸着マスク1の機械的強度を高めることができるため、破損する可能性が低くなる。固定ピン29は、蒸着マスク1を設置する際に割れないように、例えばゴム製のものを用いるのが良い。
【0064】
本実施形態においても、前述の実施形態に記載の蒸着マスク1を利用するため、内壁4および外周部の外縁に曲線部を有している。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを、固定ピンを用いてマスクホルダ21に保持、固定する際に、蒸着マスクに応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。また、蒸着マスクにシリコン基板を用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制することができる。
【0065】
(変形例5)
図14(a)は、本実施形態の蒸着マスクの平面図であり、図14(b)は、図14(a)の蒸着マスク1のA-A’断面図を示す図である。
【0066】
本実施形態は、前述に記載の蒸着マスク1を、凸部31が設けられたマスクホルダ21に固定する方法を示す。蒸着マスク1の外周部にザグリ部7を形成し、ザグリ部7と嵌合できる形状の凸部31をマスクホルダに21に形成し、マスクホルダ21の凸部31と蒸着マスク1のザグリ部7とをかみ合うように設置する。凸部31はマスクホルダ21を削り出しで加工しても、別材料を接着させて作製してもよい。
【0067】
本実施形態の蒸着マスク1のザグリ部7は、図10のザグリ部7と異なり、蒸着マスク1の一部を除去したザグリ部7となっている。すなわち、ザグリ部7は、平面視において、凹部となっている。蒸着マスク1のザグリ部7(凹部)とマスクホルダ21の凸部31を嵌合させて固定するため、蒸着マスク1とマスクホルダ21との位置合わせおよび固定が容易にできる。
【0068】
本実施形態においても、前述の実施形態に記載の蒸着マスク1を利用するため、内壁4および外周部の外縁に曲線部を有している。このため、半導体基板で形成された蒸着マスクを嵌合でマスクホルダに保持、固定する際に、蒸着マスクに応力集中の発生を低減でき、蒸着マスクの破損リスクを低減することができる。また、蒸着マスクにシリコン基板を用いているため、蒸着位置の精度低下を抑制することができる。
以上、本発明に係る実施形態を複数説明したが、本発明はそれらの実施形態に限定されるものではない。上述した各実施形態は適宜変更、組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 蒸着マスク
2 第1の領域
3 第2の領域
4 内壁
5 貫通孔
6 上面
7 ザグリ部
8 画素エリア
9 微細貫通孔
10 蒸着材料源
11 被蒸着基板
12 発光材料部
21 マスクホルダ
22 落とし込み部
23 位置決めピン
24 可動固定ピン
25 板ばね
26 固定ネジ
27 固定板
28 貫通孔
29 固定ピン
30 逃げ部
31 凸部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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