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  • 特許-鉛蓄電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20241118BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20241118BHJP
   H01M 4/56 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M10/06 Z
H01M4/56
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020200272
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022088044
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 明尋
(72)【発明者】
【氏名】ブロダ・バラージ
(72)【発明者】
【氏名】サボー・ジョルト
(72)【発明者】
【氏名】マロスフォイ・ボトンド
(72)【発明者】
【氏名】コバチ・アンタル
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-270028(JP,A)
【文献】特開平07-153450(JP,A)
【文献】特開平06-076825(JP,A)
【文献】特開2017-183160(JP,A)
【文献】特開2006-086039(JP,A)
【文献】特開2005-025955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14
H01M 10/06
H01M 4/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極合剤を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤を有する負極板と、セパレータと、希硫酸からなる電解液とを備えた鉛蓄電池において、前記正極合剤を分散質とし、前記希硫酸を分散媒とする測定用懸濁液の赤色光の透過光の検出強度を、前記希硫酸のみで測定した赤色光の透過光の検出強度で除した値(赤色光の透過強度が、0.075以上0.150以下である鉛蓄電池。
【請求項2】
前記正極合剤中の正極活物質が含有するα-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)は、15%以上30%以下である請求項1に記載の鉛蓄電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車の電装の高機能化に伴って、電源として搭載される鉛蓄電池にも、より大きな放電容量が求められるようになった。鉛蓄電池の放電容量は、例えば正極活物質の利用率を上げることで改善できる。
【0003】
鉛蓄電池の正極活物質の利用率を向上する技術として、特許文献1には、ペースト式正極板、リテーナもしくはセパレータ、及びペースト式負極板を積層してなる鉛蓄電池において、該ペースト式正極板、及び/又は該ペースト式負極板が、アスペクト比が250~10000のアクリル短繊維を含有することを特徴とする鉛蓄電池が開示されている。特許文献1によれば、硫酸電解液のペースト式活物質内への吸液性及び保持性が、親水性短繊維によって大幅に向上するため、活物質利用率が高く、サイクル劣化の少ない鉛蓄電池が提供される。
他方、正極活物質の凝集性と利用率の関係に着目した研究報告はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4556506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者等が検討した結果、電解液中における正極合剤の凝集性を好適な条件とすることで、正極活物質の利用率を向上できることが分かった。
上記の事情を鑑み、本発明は、利用率が改善された新規の鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明の第一の実施形態によれば、正極活物質を含む正極合剤を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤を有する負極板と、セパレータと、希硫酸からなる電解液とを備えた鉛蓄電池において、前記正極合剤は、前記正極合剤を分散質とし、希硫酸を分散媒とする懸濁液を形成した際の当該懸濁液の赤色光の透過光強度が、0.075以上0.150以下である鉛蓄電池が提供される。
【0007】
発明者等の研究により、次の事実が判明した。
a)正極合剤を分散質とする希硫酸懸濁液において、赤色光の透過光強度の大小関係は、正極合剤に含まれる正極活物質の凝集性と正の相関関係にある。すなわち、正極活物質の凝集性が大きい場合、希硫酸懸濁液中において、速やかに凝集粒が形成されて沈降するため、当該懸濁液の赤色光の透過光強度は大きくなる。一方、正極活物質の凝集性が小さい場合、希硫酸懸濁液中において、凝集粒の形成が遅く沈降も生じにくいため、当該懸濁液の赤色光の透過光強度は小さくなる。
【0008】
b)正極合剤に含まれる正極活物質の凝集性は、正極活物質の利用率と正の相関関係にある。すなわち、正極合剤に含まれる正極活物質の凝集性が大きい場合、正極活物質の粒子間に良好な電子伝導経路が形成されるため、放電時の正極活物質の利用率が向上する。ただし、正極活物質の粒子の凝集性が大きすぎる場合は、正極合剤の多孔度が低下し正極活物質と電解液の接触面積が減少するため、放電時の正極活物質の利用率は低下する。一方、正極活物質の凝集性が小さいと、正極活物質の粒子間の電子伝導経路が少なくなるため、放電時の正極活物質の利用率が低下する。
【0009】
c)希硫酸を分散媒とする懸濁液を形成した際の当該懸濁液の赤色光の透過光強度が、0.075以上0.150以下であると、放電時の利用率が向上する。当該透過光強度の値は、化成後の正極合剤を用いた懸濁液における測定値である。なお、当該懸濁液の赤色光の透過光強度が、0.075以上0.150以下である鉛蓄電池は、明示的にも内在的にも知られていなかった。
【0010】
加えて、本発明の第二の実施形態によれば、前記第一の実施形態の鉛蓄電池において、正極合剤中の正極活物質が含有するα-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)は、15%以上30%以下である鉛蓄電池が提供される。
【0011】
二酸化鉛には、斜方晶系であるα層(α-二酸化鉛)と、正方晶系のβ層(β-二酸化鉛)がある。正極活物質が含有するα-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)は、15%以上30%以下であることが好ましい。このような構成であれば、正極活物質の利用率と耐久性とが好ましく両立される。
【発明の効果】
【0012】
以上の通り、本発明によれば、正極活物質の利用率が改善された優れた鉛蓄電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の光学試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0015】
[第一の実施形態の鉛蓄電池の構成]
第一の実施形態の鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群とを有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列され、各セル室に一つの極板群が配置されている。また、各セル室には電解液が注入されている。
【0016】
各極板群は、セパレータを介して交互に配置された複数枚の正極板および負極板からなる積層体を有する。
【0017】
正極板は、正極集電体と正極合剤(正極活物質を含む合剤)とを有する。正極集電体は、長方形の格子状基板と、格子状基板に連続する耳とを有し、格子状基板に正極合剤が保持されている。負極板は、負極集電体と負極合剤(負極活物質を含む合剤)とを有する。負極集電体は、長方形の格子状基板と、格子状基板に連続する耳とを有し、格子状基板に負極合剤が保持されている。なお、板状格子体の作製方法は特に限定されず、鋳造法、エキスパンド法、パンチング法、ワイヤカット法等を、鉛蓄電池に要求される性能に合わせて適宜選択して良い。
【0018】
複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されて積層体を形成している。積層体を構成する負極板の枚数Mnは正極板の枚数Mpよりも一枚多い。なお、負極板の枚数Mnは正極板の枚数Mpよりも一枚少なくても良いし、同枚数としても良い。
【0019】
セパレータは、複数本のリブが形成された平板状のベース部を折り曲げ、ギヤシール法によって一方に開口した袋状に形成され、袋状セパレータ内に負極板が収納されている。そして、負極板が入った袋状セパレータと正極板とを交互に重ねることで、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、正極板を袋状セパレータ内に収納して、負極板と交互に重ねてもよい。
【0020】
また、各極板群は、積層体を構成する複数の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップおよび負極ストラップと、正極ストラップおよび負極ストラップからそれぞれ立ち上がる正極中間極柱および負極中間極柱と、外部端子となる正極極柱および負極極柱を有する。正極ストラップおよび負極ストラップは、複数の正極板および負極板の耳をそれぞれ連結して固定している。隣接するセル室の正極中間極柱同士および負極中間極柱同士が抵抗溶接されて、隣接するセル間が電気的に直列に接続されている。正極極柱および負極極柱は、セル配列方向の両端のセル室に配置された正極ストラップおよび負極ストラップに、小片部を介して形成されている。
【0021】
電解液は、所定の比重の希硫酸を使用する。
【0022】
[正極合剤と凝集性について]
正極合剤は、正極活物質と、その他の補強材等を含有する。正極活物質は、鉛酸化物、水および硫酸を含み、さらに必要に応じて鉛丹(Pb)や四塩基性硫酸鉛(以下、4BSと呼ぶこともある)を含むこともある。その他の補強材等は、補強剤(例えば、ポリエステル繊維)および必要な添加剤(例えばBi、SnOのいずれかより選択される金属酸化物等)を含む。
【0023】
正極合剤を分散質とし、希硫酸を分散媒とする懸濁液を形成した際の当該懸濁液の赤色光の透過光強度は、0.075以上0.150以下である。当該透過光強度が前記数値範囲であると、鉛蓄電池の放電時における正極活物質の利用率が向上する。当該透過光強度は、少なくとも正極合剤の凝集性に依存し、正の相関関係にある。すなわち、当該透過光強度が大きい場合、正極合剤は凝集性が大きく、当該透過光強度が小さい場合、正極合剤は凝集性が小さい。
【0024】
なお、本発明における前記懸濁液の赤色光の透過光の検出強度は、後述する実施例の希硫酸懸濁液の作製工程において、懸濁液の撹拌作業の終了時点から起算して60秒後に光学測定を開始し、光学測定開始時点から1秒後の測定値を採用するものとする。この際、予め分散媒のみ(すなわち希硫酸のみ)の場合の赤色光の透過光の検出強度をリファレンス値として測定しておき、正極合剤を分散質として作製した前記懸濁液の赤色光の透過光の検出強度を前記リファレンス値で除した値を、赤色光の透過光強度とする。
【0025】
前記透過光強度の測定を行うための装置光学系について、図1を用いて説明する。
装置光学系は、制御PC1に接続された光源2および検出器3と、光学セル4に収容された懸濁液5を備える。制御用PC1は、少なくとも光源2のON/OFFおよび検出器3の信号検出方法を制御する制御プログラムを備える。光源2から照射された入射光21は、光学セル4および懸濁液5を透過した後、透過光22として検出器3において検出され、信号に変換され制御用PC1に送られる。検出器3は、信号のノイズを平滑化するために、単位時間当たりに複数回のサンプリング処理を行うことが望ましい。
【0026】
入射光21を発振する光源2は、ピーク発光波長が600nm~700nmの単色光(すなわち赤色光)を発振するものが好適であり、例えば赤色発光ダイオードが特に好適である。赤色光が好ましい理由は、可視光の中でも透過性に優れることによる。赤外光等を用いても良いが、光路が目視でき、検出器3の検出部や光学セル4の窓41との位置合わせが容易なことから、本測定においては可視光の赤色光が好ましい。
また、透過光22の検出器3としては、上述の事情から可視光~近赤外光の波長の光に対し十分な検出感度を有するフォトダイオードなどが好適である。なお、図示しないが、測定精度を高めるために光路にレンズや絞り等を設置して、信号強度を調整しても良い。
【0027】
光学セル4としては、互いに平行な窓41を有するキュベット等を用いることができ、当該キュベット等の材質は、窓41が可視光(波長400nm~800nm)を十分透過するものであれば特に限定されないが、ガラスや石英が好適である。
【0028】
懸濁液5は、分散質である正極合剤の凝集粒51と、分散媒である希硫酸52とを備える。なお、図示しないが、懸濁液5は、目視で確認できない程度の微細な正極合剤粒子を含みうる。このような微細な正極合剤粒子が懸濁液5に多く含まれるほど、透過光22の検出強度は小さくなる。
【0029】
[パラメータの技術的意義について]
正極合剤の凝集性は、本明細書中においては、正極活物質の粒子同士の凝集のしやすさ(すなわち二次粒子の形成のしやすさ)を指し、少なくとも正極活物質の粒子間の相互作用に影響されるパラメータである。より具体的には、破砕した正極合剤を分散質とし、希硫酸を分散媒とした懸濁液中における、単位時間当たりの正極活物質の凝集粒(実質的に正極合剤の凝集粒でもある)の形成速度を反映したパラメータである。近接した粒子間の相互作用と凝集性とは、荷電を帯びた粒子間のクーロン力(斥力)と、ファンデルワールス力(引力)の影響を受ける。前記凝集性の大小は、間接的に、懸濁液中における凝集粒の沈降速度の大小から推定できる。
【0030】
さらに、前記凝集粒の懸濁液中における沈降速度の大小は、懸濁液に照射した光の透過光強度の大小から推定できる。凝集粒の沈降速度が大きいと、懸濁液の透過光強度は大きくなり、沈降速度が小さいと、透過光強度は小さくなる。この凝集性の異なるサンプル同士の間における透過光強度の差は、懸濁液の作製から一定の間にかけては時間経過とともに大きくなるが、十分な時間が経過すると、凝集粒の沈降が一通り進行しきるため、透過光強度の差が小さくなる場合がある。鉛蓄電池の正極合剤の凝集性を同様の光学的手法によって評価する場合は、懸濁液の撹拌作業終了時点から数秒~数十秒程度を置いて光学測定を開始するのが適当である。本発明においては、懸濁液の撹拌作業の終了時点から起算して60秒後に懸濁液に対して赤色光を照射して光学測定を開始し、光学測定開始から1秒後の赤色光の透過光強度の測定値を採用する。
【0031】
正極合剤の凝集性が大きい場合、すなわち、正極合剤に含まれる正極活物質の凝集性が大きい場合、正極活物質の利用率も大きくなる。この正極活物質の凝集性と利用率の間の相関性は、次のように考えられる。
【0032】
正極合剤に含まれる正極活物質の凝集性が大きい場合、正極活物質の粒子同士の接触点が増加する。正極活物質の粒子同士の接触点が増加すると、化成後に正極合剤中に形成される電子伝導経路のネットワークがより強固なものになり、正極活物質の利用率が向上する。正極活物質の凝集性が大きい場合、充放電を繰り返しても、良好なネットワークが堅持される。ただし、正極活物質の粒子の凝集性が大きすぎる場合は、正極合剤の多孔度が低下し、正極活物質と電解液の接触面積が減少するため、かえって放電時の正極活物質の利用率は低下する。一方、正極活物質の凝集性が小さいと、正極活物質の粒子間の電子伝導経路が少なくなるため、放電時の正極活物質の利用率が低下する。
【0033】
[正極合剤中の添加剤が凝集性に及ぼす役割について]
正極合剤中の添加剤が凝集性に及ぼす役割については、本発明者等の研究により、以下のメカニズムによって説明されることが分かった。
【0034】
正極合剤中に必要に応じて添加される各種の添加剤(例えばBi、SnOのいずれか)は、正極活物質の粒子の表面電荷を好ましく変化させる。正極活物質である二酸化鉛の粒子は誘電率が低いため、希硫酸中では表面電荷が負となる。この負に帯電した表面状態ではクーロン斥力によって粒子間の結合が阻害され、凝集が生じにくくなるが、各種の添加剤は正イオンとして活物質粒子の電気二重層に吸収され、表面電荷を中和するため、凝集性を改善する。これら添加剤としては、希硫酸への溶解度が高く、かつPb(4価)イオンとイオン構造が近しい元素であるものが好ましい。具体的には、Bi、SnOが好ましい。
【0035】
また、鉛丹(Pb)や四塩基性硫酸鉛(4BS)は、正極ペーストを練り合わせる際に好適な量を添加しておくことで、その後の熟成や化成の工程で正極合剤中に良好な結晶のネットワーク構造の形成を促進し、前述の凝集による効果を高めると考えられる。
【0036】
[正極活物質が含有する二酸化鉛について]
二酸化鉛には、斜方晶系であるα層(α-二酸化鉛)と、正方晶系のβ層(β-二酸化鉛)がある。正極活物質が含有するα-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)は、15%以上30%以下であることが好ましい。このような構成であれば、電解液の成層化が生じにくいので、正極活物質の利用率と耐久性とが好ましく両立される。
【0037】
α-二酸化鉛は、多孔性に乏しく比表面積が小さいため放電能力が小さいが、結晶の崩壊が極めて徐々に進行するため軟化速度が小さい。一方、β-二酸化鉛は、多孔性に富み比表面積が大きいため放電能力が大きい反面、結晶の崩壊が早く進み軟化速度が大きい。よって、鉛蓄電池の長寿命化と優れた放電能力との両立のためには、正極活物質が含有するα-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)は、15%以上30%以下となるように、正極活物質内にα-二酸化鉛とβ-二酸化鉛が分散していることが好ましい。
【0038】
α-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)が15%よりも小さいと、鉛蓄電池の寿命が不十分となるおそれがある。一方、α-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)が30%よりも大きいと、鉛蓄電池の容量が低下するおそれがある。
【0039】
α-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βは、例えば粉末X線回折法を用いて求めることができる。上述の通りα-二酸化鉛とβ-二酸化鉛は結晶系が異なるため、斜方晶由来のピーク強度の比率からα-二酸化鉛の質量αが求まり、正方晶由来のピーク強度の比率からβ-二酸化鉛の質量βが求まる。
【実施例
【0040】
以下に従来例、実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
[従来例のテストセルの作製方法について]
初めに、従来例のテストセルの作製方法について、正極板の作製方法から順を追って説明する。言及のない手順や構成については、従来公知の技術から任意に選択して良い。まず、Pb-Ca-Sn系の鉛合金からなる板状格子体を鋳造法によって作製した。平面視において略長方形である板状格子体には、長方形の四辺をなす枠骨と、枠骨によって囲繞される複数本の内骨とを形成した。そして、長方形の一辺をなす枠骨には、面方向外側へ突出するようにして耳を形成した。説明の便宜上、当該耳を有する枠骨を上枠骨、上枠骨と平行な枠骨を下枠骨、上枠骨と下枠骨の左右の端部をそれぞれ接続する互いに平行な枠骨を左枠骨および右枠骨と呼称する。内骨は、上枠骨と下枠骨とを接続する縦桟と、左枠骨と右枠骨とを接続する横桟とを形成した。枠骨と内骨とによって、板状格子体には複数の開口部が形成されている。
【0041】
なお、板状格子体は、縦桟と横桟のいずれにも該当しない補強桟を有しても良い。補強桟とは、例えば、上枠骨から左右枠骨に向けて放射状に設けられる内骨や、上下左右の枠骨のいずれか一本にのみ接続する内骨や、いずれの枠骨にも接続しない短い内骨などが該当する。これら補強桟は、充放電時の電位分布の向上や、機械的強度の向上に寄与する。
【0042】
続いて、一酸化鉛を主成分とする鉛粉2000g、ポリエステル繊維のカットファイバー(例えば、テトロン(登録商標))5g、水400g、比重1.37の硫酸172gを、従来公知の手順によって練り合いすることで、正極ペーストを作製した。次に、作製した正極ペーストを板状格子体に充填した後、熟成温度40℃、湿度95%以上で48時間熟成を行い、さらに60℃で24時間以上乾燥させることで正極熟成板を得た。この正極熟成板1枚と、公知条件によって作製した負極熟成板2枚を用意し、それぞれの耳の上端に導線を取り付けた後、負極熟成板2枚はそれぞれポリエチレン製の袋状セパレータに収納した。そして正極熟成板と袋状セパレータに収納した負極熟成板とを交互に積層させた積層体を極板群とし、極板群に掛かる群圧が5kPaとなるようにアクリル板で挟持して固定した。
【0043】
次いで上方に開口したポリプロピレン製の電槽に前記極板群を収納した後、電槽に比重1.23の硫酸を500g投入した。この際、投入した硫酸の液面が、極板群をなす正極熟成板および負極熟成板のいずれの上枠骨よりも上方に位置し、かつそれぞれの耳に取り付けた導線のいずれの接続部分よりも下方に位置するように、電槽の容積を設計した。そして、2個の貫通孔を設けたポリプロピレン製の蓋を用意し、一方の貫通孔には正極側の導線を挿通し、他方の貫通孔には負極側の導線を挿通した上で、それぞれの貫通孔を耐酸性の樹脂で封止して正極端子と負極端子を形成した後、電槽の開口部に蓋を冠着してこれを密封した。最後に、充電電気量が正極理論容量の230%となるように電槽化成を行った後、電解液の比重が1.285になるように調整することで、端子間電圧が2Vの従来例のテストセルを得た。
【0044】
なお、本発明においてテストセルは同一の作製条件毎に6つずつ作製し、3つは電池性能試験に供し、残りの3つは化成後に解体し、光学試験および組成分析を行った。各試験および組成分析においては、3つのテストセルの平均値を採用した。同一の作製条件で得たテストセルは、同一の電池性能、光学特性、組成を有するものと推定した。
【0045】
[実施例および比較例のテストセルの作製方法について]
以下に、実施例1~6および比較例1~21のテストセルの詳細な作製方法を説明する。正極合剤の凝集性に影響を与えるパラメータとして、作製工程において、正極ペースト組成物の混合比率、電槽化成時の充電電気量(vs.正極理論容量)、電槽化成時に電槽に投入する硫酸の比重、熟成条件のいずれかを変化させた。
【0046】
(実施例1)
化成時の充電電気量を正極理論容量の250%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、実施例1のテストセルを作製した。
【0047】
(実施例2)
化成時の硫酸比重を1.25としたこと以外は従来例と同様の条件とし、実施例2のテストセルを作成した。
【0048】
(実施例3)
正極ペーストの練り合い時に酸化ビスマス(Bi)1gを添加したこと以外は、従来例と同様の条件とし、実施例3のテストセルを作製した。
【0049】
(実施例4)
正極ペーストの練り合い時に二酸化錫(SnO)1gを添加したこと以外は従来例と同様の条件とし、実施例4のテストセルを作製した。
【0050】
(実施例5)
正極ペーストの練り合い時に鉛粉1700g、鉛丹(Pb)300gを練り合いしたこと以外は従来例と同様の条件とし、実施例5のテストセルを作製した。
【0051】
(実施例6)
正極ペーストの練り合い時に粒径1μmの四塩基性硫酸鉛(4BS)20gを添加し、さらに熟成温度を50℃としたこと以外は従来例と同様の条件とし、実施例6のテストセルを作製した。
【0052】
(実施例7)
正極ペーストの練り合い時に鉛粉1700g、鉛丹(Pb)300gを練り合いし、かつ化成時の充電電気量を正極理論容量の220%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、実施例7のテストセルを作製した。
【0053】
(比較例1)
化成時の充電電気量を正極理論容量の220%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例1のテストセルを作製した。
【0054】
(比較例2)
化成時に使用する硫酸の比重を1.15としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例2のテストセルを作製した。
【0055】
(比較例3)
化成時に使用する硫酸の比重を1.10としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例3のテストセルを作製した。
【0056】
(比較例4)
化成時に使用する硫酸の比重を1.05としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例4のテストセルを作製した。
【0057】
(比較例5)
正極ペーストの練り合い時に、酸化ビスマス(Bi)1gを予め比重1.37の硫酸に分散させ、煮沸するまで加熱処理を行った後0℃に保った熱浴に接触させて急冷して再結晶させた白色懸濁液を練り合いして正極ペーストを作製したこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例5のテストセルを作製した。
【0058】
(比較例6)
正極ペーストの練り合い時に酸化亜鉛(ZnO)1gを添加したこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例6のテストセルを作製した。
【0059】
(比較例7)
正極ペーストの練り合い時に水酸化アルミニウム(Al(OH))1gを添加したこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例7のテストセルを作製した。
【0060】
(比較例8)
正極ペーストの練り合い時に酸化ビスマス(Bi)1gを添加し、かつ化成時の充電電気量を正極理論容量の220%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例8のテストセルを作製した。
【0061】
(比較例9)
正極ペーストの練り合い時に酸化ビスマス(Bi)1gを添加し、かつ化成時の充電電気量を正極理論容量の250%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例9のテストセルを作製した。
【0062】
(比較例10)
正極ペーストの練り合い時に酸化ビスマス(Bi)1gを添加し、かつ化成時に使用する硫酸の比重を1.15としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例10のテストセルを作製した。
【0063】
(比較例11)
正極ペーストの練り合い時に酸化ビスマス(Bi)1gを添加し、かつ化成時に使用する硫酸の比重を1.10としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例11のテストセルを作製した。
【0064】
(比較例12)
正極ペーストの練り合い時に酸化ビスマス(Bi)1gを添加し、かつ化成時に使用する硫酸の比重を1.05としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例12のテストセルを作製した。
【0065】
(比較例13)
正極ペーストの練り合い時に二酸化錫(SnO)1gを添加し、かつ化成時の充電電気量を正極理論容量の220%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例13のテストセルを作製した。
【0066】
(比較例14)
正極ペーストの練り合い時に二酸化錫(SnO)1gを添加し、かつ化成時の充電電気量を正極理論容量の250%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例14のテストセルを作製した。
【0067】
(比較例15)
正極ペーストの練り合い時に二酸化錫(SnO)1gを添加し、かつ化成時に使用する硫酸の比重を1.15としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例15のテストセルを作製した。
【0068】
(比較例16)
正極ペーストの練り合い時に二酸化錫(SnO)1gを添加し、かつ化成時に使用する硫酸の比重を1.10としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例16のテストセルを作製した。
【0069】
(比較例17)
正極ペーストの練り合い時に二酸化錫(SnO)1gを添加し、かつ化成時に使用する硫酸の比重を1.05としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例17のテストセルを作製した。
【0070】
(比較例18)
正極ペーストの練り合い時に鉛粉1700g、鉛丹(Pb)300gを練り合いし、かつ化成時の充電電気量を正極理論容量の250%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例18のテストセルを作製した。
【0071】
(比較例19)
正極ペーストの練り合い時に鉛粉1700g、鉛丹(Pb)300gを練り合いし、かつ化成時に使用する硫酸の比重を1.25としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例19のテストセルを作製した。
【0072】
(比較例20)
正極ペーストの練り合い時に粒径1μmの四塩基性硫酸鉛(4BS)20gを添加し、かつ熟成温度を50℃とし、かつ化成時の充電電気量を正極理論容量の220%としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例20のテストセルを作製した。
【0073】
(比較例21)
正極ペーストの練り合い時に粒径1μmの四塩基性硫酸鉛(4BS)20gを添加し、かつ熟成温度を50℃とし、かつ化成時に使用する硫酸の比重を1.15としたこと以外は従来例と同様の条件とし、比較例21のテストセルを作製した。
【0074】
以上に示す通り、実施例1~7および比較例1~21のテストセルを得た。これらのテストセルについて、以下に述べる試験および組成分析によって評価した。評価結果は表1にまとめて示した。
【0075】
[電池性能試験について]
従来例、実施例1~7、および比較例1~21の各テストセルについて、5HR(5時間率)容量試験を行い、正極利用率を評価した。5HR容量はJIS規格(JIS D 5301(2006年版))に従って実施した。
具体的に説明すると、各テストセルを25℃±2℃の水槽中に置き、電圧が10.50V±2Vに低下するまで、10.4Aの電流で放電した。持続時間(h)と電流値(A)を掛け、5HR容量(Ah)を算出した。
試験によって得られた5HR容量(Ah)から、式(2)の計算式によって正極利用率を算出した。
正極利用率=5HR容量/(セルあたりの正極活物質量/セルあたりの正極理論容量)・・・式(2)
【0076】
電池性能試験の結果については、以下の通り判定した。従来例の5HR利用率を100とし、5HR利用率が100を超過した水準は、優れていると判断し〇で示した。また従来例未満の利用率を示す水準は劣ると判断し×印で示した。
なお、本発明の特許請求の範囲に含まれない透過光強度を有する比較例については、表1中で範囲外であるパラメータに下線を付して強調した。
【0077】
[光学試験について]
正極合剤に含まれる正極活物質の凝集性を評価するため、以下の試験を実施した。
まず、正極合剤を分散質とし、希硫酸を分散媒とする懸濁液を作製するために、化成後のテストセルを解体し、正極板の任意の部分から正極合剤を2g回収し、乳鉢で十分細かく粉砕した後、比重1.285の硫酸20cmと混合した。この粉砕した正極合剤と硫酸の混合物を1cm試験管に加え、比重1.285の硫酸で10cmまで希釈した後、ボルテックスミキサー(DLAB社製 MX-S)で1500rpmの回転速度で30秒間撹拌して、測定用懸濁液を得た。
【0078】
作製した測定用懸濁液を、外形10mm×10mm×45mmであり、互いに平行な厚み1.5mmの窓を有し、窓を除く光路長が7mmである石英製のキュベットに3cm投入し、近赤外光~可視光を検出可能なフォトダイオード検出器(THORLABS社製 DET36A/M Si biased detector)とピーク発光波長が630-650nm、出力40mWの赤色LED光源(OPTOSUPPLY社製 OSNR5134B)を組み合わせた透過光強度測定装置に組み込んで透過光測定を開始した。この時周囲の明かりが与える影響を取り除くために、測定装置を暗幕や箱などで覆い、外部からの光を遮断した。
【0079】
前記透過光強度は、前記測定用懸濁液の作製工程において、懸濁液を撹拌するボルテックスミキサーの回転停止時点から起算して60秒後に測定を開始し、測定開始時点から1秒後の測定値を採用した。この際、予め分散媒である希硫酸のみをキュベットに投入した赤色光の透過光の検出強度をリファレンス値として測定しておき、正極合剤を分散質として作製した測定用懸濁液の赤色光の透過光の検出強度をリファレンス値で除した値を、赤色光の透過光強度とした。
なお、測定データにはノイズが含まれるため、透過光強度は100回/秒のサンプリングを継続的に行い、特定の時点における透過光強度は、隣接する100点の測定値によって隣接平均法をおこない、平滑化した値を採用した。
【0080】
[組成分析について]
正極合剤中の正極活物質に含まれるα-二酸化鉛の質量αとβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)は、粉末X線回折法を用いて、従来公知の手順によって測定した。
評価結果をまとめて表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示す結果から、測定用懸濁液の赤色光の透過光強度が0.075~0.150である実施例1~7は、5HR容量が101~105であり、透過光強度が0.155である従来例と比較して優れた正極利用率を有することが分かった。
【0083】
これに対して、透過光強度が0.052~0.069である比較例5~7、9、14、18、19は、5HR容量が92~99であり、いずれの正極利用率も従来例よりも劣ることが分かった。この結果について検討するため、光学試験後のキュベットをそれぞれ観察して比較したところ、透過光強度が0.069以下であった比較例の懸濁液は、透過光強度が0.075~0.150であった実施例の懸濁液と比較して、にごりが多く、正極合剤の凝集粒の沈降速度が比較的小さかったものと推定される。この結果は、比較例5~7、9、14、18、19の正極合剤の凝集粒のサイズが、実施例1~7の正極合剤の凝集粒のサイズよりも小さく、凝集性が低いことを示唆している。そしてこのことは、正極合剤の凝集性を高めることで、正極利用率を向上し得ることを示唆している。
【0084】
一方、透過光強度が0.152~0.213である比較例1~4、8、10~13、15~17、20、21は、5HR容量が73~98であり、いずれの正極利用率も従来例よりも劣ることが分かった。この結果について検討するため、光学試験後のキュベットをそれぞれ観察して比較したところ、透過光強度が0.152以上であった比較例の懸濁液は、透過光強度が0.075~0.150であった実施例の懸濁液と比較して、にごりが少なく、正極合剤の凝集粒の沈降速度が比較的大きかったものと推定される。
【0085】
この結果をもたらした理由についてはいくつか推定できるが、第一に、比較例1~4、8、10~13、15~17、20、21の正極合剤の凝集粒のサイズが、実施例1~7の正極合剤の凝集粒のサイズよりも大きく、すなわち凝集性が高いことを示唆している。そしてこのことは、正極合剤の凝集性が過度であることで、正極利用率が低下し得ることを示唆している。この結果は、正極合剤が過度に凝集することで、電解液が正極板中心付近の活物質まで浸透しにくくなり、活物質と電解液の接触が減少するモデルとして説明できる。他方、正極合剤の沈降速度が大きくなった第二の理由として、粗大な硫酸鉛結晶の形成が推定される。比較例1、8、13、20は化成時の充電電気量が従来例と比して小さいため、未化成の硫酸鉛結晶が残留した可能性がある。係る硫酸鉛結晶は、正極活物質の凝集粒と比して密度が大きくなるため、懸濁液中における沈降速度を大きくする要因となる。また、硫酸鉛結晶は不働態であり、正極合剤中に含まれると正極利用率の低下を招く。
【0086】
次に表2を用いて、正極合剤中の正極活物質に含まれるα-二酸化鉛の質量αおよびβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)について、正極利用率に及ぼす影響を説明する。
【0087】
【表2】
【0088】
表2より、透過光強度が0.090~0.146であって、α/(α+β)の値が15%~30%である実施例2~6は、5HR容量が102~105であり、従来例よりも優れた正極利用率を有することが分かった。特に、α/(α+β)の値が16%~25%である実施例4~6は、5HR容量が103~105であり、顕著に優れた正極利用率を有し、より好ましい。
【0089】
以上の結果より、正極活物質を含む正極合剤を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤を有する負極板と、セパレータと、希硫酸からなる電解液とを備えた鉛蓄電池において、前記正極合剤は、前記正極合剤を分散質とし、希硫酸を分散媒とする懸濁液を形成した際の当該懸濁液の赤色光の透過光強度が、0.075以上0.150以下であると、優れた正極利用率を有する鉛蓄電池が得られることが分かった。
さらに、正極合剤中の正極活物質に含まれるα-二酸化鉛の質量αおよびβ-二酸化鉛の質量βの比率α/(α+β)が15%~30%である鉛蓄電池は、顕著に優れた正極利用率を有することが分かった。
【0090】
[その他の知見について]
また、本検討の過程において、次のような知見が得られた。
(a)正極ペーストに同一種・同一量の添加剤等を添加して練り合わせた場合でも、化成時の充電電気量や硫酸比重、熟成条件を変化させることで、正極合剤中の正極活物質粒子の凝集性が変化し、この変化は懸濁液の透過光強度の違いとして現れる。係る透過光強度の違いに着目することで、従来よりも優れた正極利用率を有する鉛蓄電池が得られる。
【0091】
(b)比較例5、6、7より、Bi(SOや、ZnO、Al(OH)については、正極合剤中の正極活物質粒子の凝集性を高める効果が得られず、正極利用率の向上について優位な効果が見られなかった。
【0092】
(c)鉛粉の一部を鉛丹(Pb)に置き換えた正極合剤を有する実施例5、7は、従来例よりも高い正極利用率を示し、特に化成時の充電電気量を減らした実施例7においても良好な正極利用率を示した。一方、比較例18、19より、鉛粉の一部を鉛丹に置き換えた上で、従来例よりも化成時の充電電気量を増やす、あるいは化成時の硫酸比重を大きくすると、利用率向上効果が得られないことがわかった。鉛丹は正極活物質の粒子を微細化する効果があるが、比較例18のような条件では充電量が過剰となり、正極活物質の粒子間の結合が破壊されて凝集性が低下したものと思われる。また、比較例19のような条件では、硫酸イオンの供給が過剰となり、化成反応が過度に進行したことにより、比較例18と同様活物質粒子間の結合が破壊されて凝集性が低下したと考えられる。
【0093】
(d)正極ペーストを練り合わせる際に、予め四塩基性硫酸鉛(4BS)を添加しておくと、熟成と化成を経て、正極合剤中に棒状の粒子形状を有する正極活物質が多く生成する。このような粒子形状を有する正極活物質は、正極合剤中に強固なネットワークの形成を助け、正極活物質の凝集性が著しく高まった場合でも、正極板内部の細孔を維持する機能を発揮するため、電解液と活物質の接触面積を担保でき、優れた正極利用率を有する鉛蓄電池が得られる。正極合剤中において、電解液が行き渡らなかった部分は、体積の大きいα-二酸化鉛あるいは硫酸鉛として残るが、これらの物質は粒子の凝集に関与せず素早く沈殿してしまう。実施例6は予め4BSを添加したことで、より多くの正極活物質の凝集が進行し、結果として正極利用率が増加したが、比較例20、21は過剰に生成したα-二酸化鉛あるいは硫酸鉛が凝集せずに沈殿したため、透過光強度が好ましい範囲を外れ、正極利用率が低下したと考えられる。
【符号の説明】
【0094】
1 制御用PC
2 光源
21 入射光
22 透過光
3 検出器
4 光学セル
41 窓
5 懸濁液
51 凝集粒
52 希硫酸

図1