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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】舶用電源システム及び舶用推進プラント
(51)【国際特許分類】
   F01K 23/02 20060101AFI20241118BHJP
   F02B 43/00 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
F01K23/02 P
F02B43/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020216140
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022101823
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 英司
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍太
(72)【発明者】
【氏名】森 匡史
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0377108(US,A1)
【文献】特開2011-074866(JP,A)
【文献】特開2020-008216(JP,A)
【文献】特開2004-360559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 17/00-21/20
F01K 23/00-27/02
F01N 3/00、3/02、
3/04- 3/38、9/00-11/00
F02B 43/00-45/10
F02M 21/00-21/12
F23G 5/14- 5/18、7/06- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼器と、
舶用ガスエンジンから排出されたスリップメタンを含む排ガスを前記燃焼器に供給するための排ガス供給ラインと、
排ガスエコノマイザと、
前記燃焼器から排出された前記排ガスを前記排ガスエコノマイザに供給するための排ガス排出ラインと、
前記排ガス供給ラインにおける前記舶用ガスエンジンと前記燃焼器との間に位置するとともに前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記排ガスエコノマイザとの間に位置し、前記排ガス供給ラインを流れる前記スリップメタンを含む前記排ガスと前記排ガス排出ラインを流れる前記排ガスとの熱交換により前記排ガス供給ラインを流れる前記スリップメタンを含む前記排ガスを加熱するように構成されたガス‐ガスヒータと、
前記排ガスエコノマイザで生成された蒸気により駆動する蒸気タービン及び前記蒸気タービンに連結された第1発電機を含む蒸気タービン発電機と、
発電用ガスエンジン及び前記発電用ガスエンジンに連結された第2発電機を含むガスエンジン発電機と、
船内電力需要を示す需要情報と、前記船内電力需要を満たすような前記蒸気タービン発電機の負荷分担量と前記ガスエンジン発電機の負荷分担量との組み合わせを含む温室効果ガス排出量マップと、に基づいて、前記需要情報が示す前記船内電力需要に対する前記蒸気タービン発電機の負荷分担量と前記ガスエンジン発電機の負荷分担量とを決定するように構成された負荷分担量制御装置と、
を備える舶用電源システム。
【請求項2】
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要を満たすように前記蒸気タービン発電機と前記ガスエンジン発電機の少なくとも一方の負荷分担量を調節する複数の負荷分担量調節モードを実行可能であり、
前記温室効果ガス排出量マップは、前記船内電力需要と、前記複数の負荷分担量調節モードの各々との対応関係を含んでおり、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要と前記温室効果ガス排出量マップとに基づいて、前記複数の負荷分担量調節モードの中から前記船内電力需要に対応する負荷分担量調節モードを選択し、選択した前記負荷分担量調節モードに応じて、前記船内電力需要に対する前記蒸気タービン発電機の負荷分担量と前記ガスエンジン発電機の負荷分担量とを決定するように構成された、請求項1に記載の舶用電源システム。
【請求項3】
前記複数の負荷分担量調節モードは、第1負荷分担量調節モードを含み、
前記第1負荷分担量調節モードは、前記船内電力需要が増大するにつれて前記ガスエンジン発電機の運転を停止したまま前記蒸気タービン発電機の負荷分担量を増大させるモードであり、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要が第1閾値以下である場合には、前記第1負荷分担量調節モードを実行し、前記船内電力需要が前記第1閾値を超えた場合に前記ガスエンジン発電機を起動するように構成された、請求項2に記載の舶用電源システム。
【請求項4】
前記複数の負荷分担量調節モードは、第2負荷分担量調節モードを含み、
前記第2負荷分担量調節モードは、前記船内電力需要が増大するにつれて前記蒸気タービン発電機の負荷分担量を一定に維持しながら前記ガスエンジン発電機の負荷分担量を増大させるモードであり、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要が前記第1閾値よりも大きく第2閾値以下である場合に前記第2負荷分担量調節モードを実行するように構成された、請求項3に記載の舶用電源システム。
【請求項5】
前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記ガス‐ガスヒータとの間の位置において前記排ガス排出ラインから分岐し、前記排ガス排出ラインにおける前記ガス‐ガスヒータと前記排ガスエコノマイザとの間の位置において前記排ガス排出ラインに合流するバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられたバイパス弁と、
を備え、
前記複数の負荷分担量調節モードは、第3負荷分担量調節モードを含み、
前記第3負荷分担量調節モードは、前記船内電力需要が増大するにつれて前記ガスエンジン発電機の負荷分担量を一定に維持しながら前記バイパス弁の開度を大きくするモードであり、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要が前記第2閾値よりも大きい場合に前記第3負荷分担量調節モードを実行するように構成された、請求項4に記載の舶用電源システム。
【請求項6】
前記第3負荷分担量調節モードは、前記船内電力需要が増大するにつれて前記ガスエンジン発電機の出力を定格出力に維持しながら前記バイパス弁の開度を大きくするモードである、請求項5に記載の舶用電源システム。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の舶用電源システムと、
前記舶用ガスエンジンと、
を備える舶用推進プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、舶用電源システム及び舶用推進プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ディーゼルエンジンの排熱を排ガスエコノマイザで回収して蒸気を生成し、蒸気タービンを駆動させて発電を行う舶用電源システムが開示されている。
この舶用電源システムは、更に発電用ディーゼルエンジンを備えており、蒸気タービンに連結された発電機の出力と発電用ディーゼルエンジンに連結された発電機の出力とで船内電力需要を賄っている。また、この舶用電源システムは、蒸気タービンに連結された発電機と発電用ディーゼルエンジンに連結された発電機との負荷分担を船内電力需要に応じて決定する電力制御手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5155977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、LNGを燃料とするガス焚きのディーゼルエンジン(ガスエンジン)は、一般的に、油を燃料とするディーゼルエンジンよりもCOの排出量が少ない。このため、一見すると、温室効果ガス(Green House Gas: GHG)の排出量の削減効果が期待できるが、ガスエンジンからはメタンガスの一部が未燃状態で系外に排出されてしまう。このようにガスエンジンから未燃状態で排出されるメタンは、スリップメタン(slipped methane)と称されている。メタンの温暖化係数は二酸化炭素と比較して非常に高いため、スリップメタンの排出量が増大すると温室効果ガスの排出量の削減効果が限定的となる。
この点、特許文献1には、スリップメタンを考慮したCO換算の温室効果ガスの排出量を削減するための知見については開示されていない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示は、CO換算の温室効果ガス排出量が少ない舶用電源システム及びこれを備える舶用推進プラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る舶用電源システムは、
燃焼器と、
舶用ガスエンジンから排出されたスリップメタンを含む排ガスを前記燃焼器に供給するための排ガス供給ラインと、
排ガスエコノマイザと、
前記燃焼器から排出された前記排ガスを前記排ガスエコノマイザに供給するための排ガス排出ラインと、
前記排ガス供給ラインにおける前記舶用ガスエンジンと前記燃焼器との間に位置するとともに前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記排ガスエコノマイザとの間に位置し、前記排ガス供給ラインを流れる前記スリップメタンを含む前記排ガスと前記排ガス排出ラインを流れる前記排ガスとの熱交換により前記排ガス供給ラインを流れる前記スリップメタンを含む前記排ガスを加熱するように構成されたガス‐ガスヒータと、
前記排ガスエコノマイザで生成された蒸気により駆動する蒸気タービン及び前記蒸気タービンに連結された第1発電機を含む蒸気タービン発電機と、
発電用ガスエンジン及び前記発電用ガスエンジンに連結された第2発電機を含むガスエンジン発電機と、
船内電力需要を示す需要情報と、前記船内電力需要を満たすような前記蒸気タービン発電機の負荷分担量と前記ガスエンジン発電機の負荷分担量との組み合わせを含む温室効果ガス排出量マップと、に基づいて、前記需要情報が示す前記船内電力需要に対する前記蒸気タービン発電機の負荷分担量と前記ガスエンジン発電機の負荷分担量とを決定するように構成された負荷分担量制御装置と、
を備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る舶用推進プラントは、
上記舶用電源システムと、
舶用ガスエンジンと、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、CO換算の温室効果ガス排出量が少ない舶用電源システム及びこれを備える舶用推進プラントが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る舶用電源システム200の概略構成を示す図である。
図2図1に示した負荷分担量制御装置45のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図1及び図2に示した負荷分担量制御装置45の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4図3に示した負荷分担量制御装置45を用いた負荷分担量制御のフローを示す図である。
図5】船内電力需要を満たすための負荷分担量の調節方法(負荷分担量調節モード)について、船内電力需要とCO2換算の温室効果ガス排出量との関係を示す図である。
図6図5に示した内容とともに、温室効果ガス排出マップを太線で示している。
図7】複数の負荷分担量調節モードの中から実行すべき負荷分担量調節モードを選択するフローを示す図である。
図8】幾つかの比較例及び参考例と上記舶用電源システム200との温室効果ガス排出効率を比較した図である。
図9図8に示した比較例、参考例及び上記舶用電源システム200について、燃料費を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1は、一実施形態に係る舶用電源システム200の概略構成を示す図である。
舶用電源システム200は、スリップメタン処理装置2、ガスエンジン発電機40及び負荷分担量制御装置45を備える。舶用電源システム200は、不図示の船舶に搭載されており、船舶で使用される電力の需要(以下、「船内電力需要」という。)を賄うための電力を生成するように構成されている。
スリップメタン処理装置2は、舶用ガスエンジン100から未燃状態で排出されたメタンガス(以下、ガスエンジンから未燃状態で排出されたメタンガスを「スリップメタン」という。)を含む排ガスを燃焼処理するように構成されている。舶用ガスエンジン100は、例えばメタンガスを含む燃料ガス(例えば天然ガス等)を主燃料とする低圧予混合方式のディーゼルエンジン(主機エンジン)であり、船舶の推進力を得るためのプロペラ102に連結されている。舶用電源システム200、舶用ガスエンジン100及びプロペラ102は、舶用推進プラント210を構成する。以下、舶用ガスエンジン100を単にガスエンジン100という。
【0012】
図1に示すように、スリップメタン処理装置2は、排ガス供給ライン4、燃料ライン6、燃焼器8、排ガス排出ライン10、ガス‐ガスヒータ12、排熱回収装置14、燃料調整弁16、温度センサ18、燃焼器温度制御装置20、バイパスライン34及びバイパス弁36を備える。
【0013】
排ガス供給ライン4は、ガスエンジン100と燃焼器8とを接続しており、ガスエンジン100から排出されたスリップメタンを含む排ガスを燃焼器8に供給するように構成されている。
【0014】
燃料ライン6は、不図示の燃料源と燃焼器8とを接続しており、燃焼器8に加熱用燃料を供給するように構成されている。加熱用燃料は、例えば、ガスエンジン100に供給される燃料ガスと同じ燃料(例えば天然ガス等)である。燃料ライン6には、燃料ライン6から燃焼器8に供給する加熱用燃料の流量を調整可能な燃料調整弁16が設けられている。
【0015】
燃焼器8は、燃料ライン6から供給された加熱用燃料と排ガス供給ライン4から供給されたスリップメタンとを燃焼させて燃焼ガスを生成するように構成されている。燃焼器8の燃焼温度(燃焼器8で生成される燃焼ガスの温度)は、排ガス供給ライン4から供給されたスリップメタンが燃焼器8の内部で燃焼するような温度に設定される。
【0016】
図示する構成では、燃焼器8の燃焼温度(図示する例では燃焼器8の出口温度)を計測する温度センサ18が排ガス排出ライン10における燃焼器8と排熱回収装置14の排ガスエコノマイザ22との間の位置に設けられている。温度センサ18は、排ガス排出ライン10の排ガスの温度を計測することにより、燃焼器8の燃焼温度を計測する。燃焼器温度制御装置20は、温度センサ18の出力に基づいて、燃焼器8の燃焼温度をスリップメタンが燃焼器8の内部で燃焼するような設定温度(目標温度)に近づけるように燃料調整弁16の開度を制御する。燃焼器温度制御装置20は、燃焼器8の設定温度と温度センサ18で計測される燃焼温度との偏差を小さくするように燃料調整弁16の開度を制御する。なお、この設定温度は、メタンの発火点である537℃以上に設定されることが好ましい。この設定温度は、メタンの燃焼を促進しつつ燃焼器8の耐熱性に起因する高コスト化を抑制する観点から、例えば537℃以上1000℃以下であってもよく、排ガス排出ライン10の大型化を抑制しつつ耐熱性に起因する高コスト化を抑制する観点から、650℃以上850℃以下(例えば800℃程度)であってもよい。燃焼器8の設定温度は、人が手動で設定してもよいし、燃焼器温度制御装置20が自動で設定してもよい。燃焼器温度制御装置20は、燃焼器8の燃焼温度について、上記偏差に基づいて例えばP制御又はPI制御等を行ってもよい。
【0017】
燃焼器温度制御装置20は、電気回路から構成されてもよいし、コンピュータから構成されてもよい。燃焼器温度制御装置20は、コンピュータから構成される場合、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサとを備え、プロセッサが、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより、その機能を実現する。
【0018】
図1に示すように、排ガス排出ライン10は、燃焼器8と排熱回収装置14の排ガスエコノマイザ22とを接続しており、燃焼器8で加熱されて燃焼器8から排出された排ガス(燃焼排ガス)を排ガスエコノマイザ22に供給するように構成されている。
【0019】
ガス‐ガスヒータ12は、排ガス供給ライン4におけるガスエンジン100と燃焼器8との間に位置し、排ガス排出ライン10における燃焼器8と排熱回収装置14の排ガスエコノマイザ22との間に位置する。ガス‐ガスヒータ12は、排ガス供給ライン4を流れるスリップメタンを含む排ガスと排ガス排出ライン10を流れる排ガスとの熱交換により排ガス供給ライン4を流れるスリップメタンを含む排ガスを加熱する熱交換器として構成されている。なお、燃焼器8及びガス‐ガスヒータ12の各々は、共通の1つのダクトバーナの一部分として構成されてもよい。
【0020】
上記のようにガス‐ガスヒータ12を設けることにより、排ガス供給ライン4から燃焼器8に供給される排ガスの温度を、燃焼器8に供給される前に上昇させることができる。したがって、燃焼器8の燃焼温度をスリップメタンが燃焼器8の内部で燃焼するような温度にするために必要な燃料投入量(燃料ライン6から燃焼器8への燃料投入量)を削減することができ、CO換算の温室効果ガス排出量を削減することができる。
【0021】
バイパスライン34は、排ガス排出ライン10における燃焼器8とガス‐ガスヒータ12との間の位置において排ガス排出ライン10から分岐し、排ガス排出ライン10におけるガス‐ガスヒータ12と排ガスエコノマイザ22との間の位置において排ガス排出ライン10に合流するように構成されている。すなわち、バイパスライン34は、燃焼器8から排出される排ガスを、ガス‐ガスヒータ12を迂回して(ガス‐ガスヒータ12に供給せずに)排ガスエコノマイザ22に直接供給するように構成されている。バイパスライン34には、バイパスライン34を流れる排ガスの流量を調節可能なバイパス弁36が設けられている。
【0022】
排熱回収装置14は、排ガスエコノマイザ22、蒸気タービン24、発電機26、復水器28、蒸気ライン30及び復水ライン32、ダンプライン68及びダンプ弁70を含む。蒸気タービン24及び発電機26は、蒸気タービン発電機23を構成する。
【0023】
排ガスエコノマイザ22は、復水ライン32から供給された水(復水)を排ガス排出ライン10から供給された排ガスにより加熱して蒸発させ、蒸気を生成するように構成されている。排ガスエコノマイザ22で生成された蒸気は、排ガスエコノマイザ22と蒸気タービン24とを接続する蒸気ライン30を通って蒸気タービン24に供給されて、蒸気タービン24を駆動する。蒸気タービン24には発電機26が連結されており、排ガスエコノマイザ22から蒸気ライン30を通って供給された蒸気によって蒸気タービン24が駆動されることにより、発電機26から電力が得られる。発電機26から得た電力は、船内電力需要の少なくとも一部を賄うように当該船舶で消費される。排ガス排出ライン10から排ガスエコノマイザ22へ供給された排ガスは、排ガスエコノマイザ22で復水ライン32から供給された水との熱交換を行った後に、大気に放出される。
【0024】
蒸気タービン24を通過した蒸気は、復水器28で凝縮されて復水となり、復水器28と排ガスエコノマイザ22とを接続する復水ライン32を介して排ガスエコノマイザ22に再び供給される。
【0025】
ダンプライン68は、蒸気ライン30における排ガスエコノマイザ22と蒸気タービン24との間の位置において蒸気ライン30から分岐して、蒸気ライン30における蒸気タービン24と復水器との間の位置において蒸気ライン30に合流する。ダンプライン68は、排ガスエコノマイザ22で発生した蒸気を、蒸気タービン24を迂回して(蒸気タービン24に供給せずに)復水器28に導くように構成される。ダンプライン68にはダンプ弁70が設けられている。ダンプ弁70は、通常時は閉じられているが、負荷の急変時に開いて蒸気をダンプさせる(蒸気タービン24を迂回して復水器28に導く)ことができる。
【0026】
ガスエンジン発電機40は、発電用ガスエンジン42及び発電用ガスエンジン42に連結された発電機44を含む。発電用ガスエンジン42は、例えばメタンガスを含む燃料ガス(例えば天然ガス等)を主燃料とするデュアルフューエルディーゼルエンジン(補機エンジン)であり、発電用ガスエンジン42によって発電機44を駆動することで発電機44が発電し、発電機44から得られた電力によって船内電力需要の一部が賄われる。
【0027】
上記のようにバイパスライン34を有する構成によれば、バイパス弁36の開度を大きくするほど、燃焼器8から排出された排ガスの流量のうちガス‐ガスヒータ12を迂回してバイパスライン34を流れる排ガスの流量の割合を増大させることができる。すなわち、バイパス弁36の開度を大きくするほど、ガス‐ガスヒータ12での熱交換量(排ガス供給ライン4を流れる排ガスと排ガス排出ライン10を流れる排ガスとの熱交換量)を減少させつつ、排ガスエコノマイザ22での熱交換量(復水ライン32を流れる水と排ガス排出ライン10を流れる排ガスとの熱交換量)を増大させることができる。これにより、排ガスエコノマイザ22での熱回収量を増大させて、蒸気タービン24に連結された発電機26の発電量を増大させることができる。なお、バイパス弁36の開度を大きくするほど、ガス‐ガスヒータ12での熱交換量が減少して排ガス供給ライン4から燃焼器8に入る排ガスの温度は低下するため、燃料調整弁16の開度を増大させて燃料ライン6から燃焼器8へ投入する投入燃料量を増加させることとなる。
【0028】
図2は、図1に示した負荷分担量制御装置45のハードウェア構成の一例を示す図である。図3は、図1及び図2に示した負荷分担量制御装置45の機能的な構成の一例を示すブロック図である。図4は、図3に示した負荷分担量制御装置45を用いた負荷分担量制御のフローを示す図である。
【0029】
図2に示すように、負荷分担量制御装置45は、例えばCPU(Central Processing Unit)72、RAM(Random Access Memory)74、ROM(Read Only Memory)76、HDD (Hard Disk Drive)78、入力I/F80、及び出力I/F82を含み、これらがバス84を介して互いに接続されたコンピュータを用いて構成される。なお、負荷分担量制御装置45のハードウェア構成は上記に限定されず、制御回路と記憶装置との組み合わせにより構成されてもよい。また負荷分担量制御装置45は、負荷分担量制御装置45の各機能を実現するプログラムをコンピュータが実行することにより構成される。以下で説明する負荷分担量制御装置45における各部の機能は、例えばROM76に保持されるプログラムをRAM74にロードしてCPU72で実行するとともに、RAM74やROM76におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0030】
図3に示すように、負荷分担量制御装置45は、需要情報取得部46、負荷分担量決定部48、負荷分担量調節モード実行部50及びマップ記憶部52を含む。以下、図3に示す負荷分担量制御装置45の各部の機能について、図4に示す負荷分担量制御のフローを用いて説明する。
【0031】
図4に示すようにS11において、需要情報取得部46は、船内電力需要Dを示す需要情報を取得する。
S12では、負荷分担量決定部48は、需要情報取得部46によって取得した船内電力需要Dを示す需要情報と、マップ記憶部52から読み出した予め作成した温室効果ガス排出量マップと、に基づいて、需要情報が示す船内電力需要Dに対する蒸気タービン発電機23の負荷分担量L1(発電機26の負荷分担量)とガスエンジン発電機40の負荷分担量L2(発電機44の負荷分担量)とを決定する。
【0032】
ここで、S12で用いる温室効果ガス排出量マップについて、図5及び図6を用いて説明する。図5は、船内電力需要を満たすための負荷分担量の調節方法(負荷分担量調節モード)について、船内電力需要とCO換算の温室効果ガス排出量との関係を示す図であり、ガスエンジン100の負荷が50%の場合を例示している。なお、以下では、単に「温室効果ガス排出量」という場合は、CO換算の温室効果ガス排出量を意味することとする。
【0033】
負荷分担量調節モード実行部50は、後述するように、複数の負荷分担量調節モードを実行可能に構成されている。負荷分担量調節モードの各々は、需要情報取得部46によって取得した船内電力需要Dを満たすように蒸気タービン発電機23とガスエンジン発電機40の少なくとも一方の負荷分担量を調節するモードである。
【0034】
図5において、実線は、スリップメタン処理装置2の蒸気タービン発電機23の出力のみで船内電力需要の全てを賄う場合を示しており、船内電力需要が増大するにつれてガスエンジン発電機40の運転を停止したまま蒸気タービン発電機23の負荷分担量を増大させるモードを示している。以下では、図5に実線で示したように、船内電力需要が増大するにつれてガスエンジン発電機40の運転を停止したまま蒸気タービン発電機23の負荷分担量を増大させるモードを、第1負荷分担量調節モードということとする。第1負荷分担量調節モードでは、燃焼器8の燃焼温度は例えば800℃に設定され、排ガス供給ライン4におけるガス‐ガスヒータ12の出口温度は燃焼器8の投入燃料の量が最小となるように例えば750℃又は750℃以下の温度に設定される。負荷分担量調節モード実行部50は、第1負荷分担量調節モードにおいて、船内電力需要が増大するにつれてガスエンジン発電機40の運転を停止したまま蒸気タービン発電機23の出力を増大させる。
【0035】
なお、第1負荷分担量調節モードでは、船内電力需要が増大するにつれてバイパス弁36の開度を大きくして排ガスエコノマイザ22での蒸気発生量を増加させることにより、蒸気タービン発電機23の出力が増大する。バイパス弁36の開度を大きくするとガス‐ガスヒータ12の熱交換量が低下して排ガス供給ライン4におけるガス‐ガスヒータ12の出口温度が低下するため、第1負荷分担量調節モードでは、バイパス弁36の開度を大きくするにつれて燃焼器8に投入する投入燃料を増加させることにより、燃焼器8の燃焼温度を維持している。
【0036】
図5において、一点鎖線、点線、破線及び長破線の各々は、船内電力需要の増加分をガスエンジン発電機40の負荷分担量の増加により賄う場合を示しており、船内電力需要が増大するにつれて蒸気タービン発電機23の負荷分担量を一定に維持しながらガスエンジン発電機40の負荷分担量を増大させるモードを示している。また、一点鎖線、点線、破線及び長破線は、それぞれ、排ガス供給ライン4におけるガス‐ガスヒータ12の出口温度を750℃、725℃、700℃、650℃に固定した場合を例示しており、燃焼器8の燃焼温度は何れの場合も800℃に設定されている。以下では、図5に一点鎖線で示したように、船内電力需要が増大するにつれて蒸気タービン発電機23の負荷分担量を一定に維持しながらガスエンジン発電機40の負荷分担量を増大させるモードのうち、温室効果ガス排出量が最も少ないモード(図5に示す例ではガス‐ガスヒータ12の出口温度750℃に固定するモード)を、第2負荷分担量調節モードということとする。負荷分担量調節モード実行部50は、第2負荷分担量調節モードにおいて、船内電力需要が増大するにつれて蒸気タービン発電機23の出力を一定に維持しながらガスエンジン発電機40の出力を増大させる。
【0037】
なお、ガスエンジン発電機40が複数台ある場合、複数台を運転して電力需要の不足分を賄おうとすると、各ガスエンジン発電機40を燃焼効率の悪い低負荷域で運転させることとなり、燃費が悪化する懸念がある。上記懸念を防止するため、電力需要の不足分をガスエンジン発電機40で補う場合は、スリップメタン排出が少なく、可能な限り燃焼効率の高い負荷域(例えば高負荷)で運転されるのが望ましい(例えば2台の部分負荷運転ではなく、1台の高負荷運転が望ましい)。
【0038】
図5において、二点鎖線は、船内電力需要の増加分を、排ガス供給ライン4におけるガス‐ガスヒータ12の出口温度の低下に伴う蒸気タービン発電機23の負荷分担量の増加により賄う場合を示しており、船内電力需要が増大するにつれてガスエンジン発電機40の負荷分担量を一定に維持しながらバイパス弁の開度を大きくするモードを示している。前述のように、バイパス弁36の開度を大きくすると、ガス‐ガスヒータ12での熱交換量が減少して排ガス供給ライン4におけるガス‐ガスヒータ12の出口温度が低下する一方で、排ガスエコノマイザ22での蒸気の生成量が増大して、蒸気タービン24に連結された発電機26の発電量を増大させることができる。このため、バイパス弁36の開度を大きくすることにより、蒸気タービン発電機23の負荷分担量の増加に対応することができる。以下では、図5に二点鎖線で示したように、船内電力需要が増大するにつれてガスエンジン発電機40の負荷分担量を一定に維持しながらバイパス弁36の開度を大きくするモードを、第3負荷分担量調節モードということとする。第3負荷分担量調節モードでは、船内電力需要が増大するにつれてガスエンジン発電機40の出力を例えば定格出力に維持しながらバイパス弁36の開度を大きくしてもよい。
【0039】
図5に示すように、船内電力需要を満たすための負荷分担量の調節方法によって温室効果ガスの排出量は異なる。このため、図5に示したような複数の負荷分担調節モードの中から、温室効果ガス排出量が最小となるような負荷分担量調節モードを船内電力需要に応じて選択して、選択した負荷分担量調節モードに応じて蒸気タービン発電機23の負荷分担量とガスエンジン発電機40の負荷分担量とを決定することで、温室効果ガス排出量の少ない舶用電源システム200を実現することができる。
【0040】
図6は、図5に示した内容とともに、温室効果ガス排出マップを太線で示している。図6に示す温室効果ガス排出マップは、図5に示した複数の負荷分担調節モードのうち船内電力需要の各値について温室効果ガス排出量が最小となる負荷分担量調節モードの線を繋いだものに相当する。温室効果ガス排出量マップは、船内電力需要を入力とし、負荷分担量調節モード(負荷分担量調節モード実行部50が実行する負荷分担量調節モード)と、蒸気タービン発電機23の負荷分担量と、ガスエンジン発電機40の負荷分担量とを出力とする、入力と出力の相関関係を示す相関情報である。すなわち、温室効果ガス排出量マップは、船内電力需要を満たすような蒸気タービン発電機23の負荷分担量とガスエンジン発電機40の負荷分担量との組み合わせを含み、船内電力需要と複数の負荷分担量調節モードの各々との対応関係(船内電力需要と負荷分担量調節モード実行部50が実行する負荷分担量調節モードとの対応関係)を含む。
【0041】
図6に示すように、需要情報取得部46が取得した船内電力需要Dが第1閾値D1以下である場合には、第1負荷分担量調節モード(実線)の温室効果ガス排出量が最小となる。また、船内電力需要Dが第1閾値D1よりも大きく第2閾値D2以下である場合には、第2負荷分担量調節モード(一点鎖線)の温室効果ガス排出量が最小となる。また、船内電力需要Dが第2閾値D2よりも大きい場合には、第3負荷分担量調節モード(二点鎖線)の温室効果ガスが最小となる。
【0042】
このため、図6に太線で示す温室効果ガス排出マップは、第1閾値D1以下の範囲における第1負荷分担量調節モードの実線と、第1閾値D1よりも大きく第2閾値D2以下の範囲における第2負荷分担量調節モードの一点鎖線と、第2閾値D2以上の範囲における第3負荷分担量調節モードの二点鎖線とを繋いだ線に相当する。
【0043】
ここで、図4のS12の説明に戻る。S12では、負荷分担量決定部48は、需要情報取得部46によって取得した船内電力需要Dを示す需要情報と、マップ記憶部52から読み出した予め作成した温室効果ガス排出量マップと、に基づいて、船内電力需要Dに対応する負荷分担量調節モードを選択する。具体的には、図5に示すように、負荷分担量決定部48は、船内電力需要Dが第1閾値D1以下である場合には第1負荷分担量調節モードを選択し、船内電力需要Dが第1閾値D1よりも大きく第2閾値D2以下である場合には第2負荷分担量調節モードを選択し、船内電力需要Dが第2閾値D2よりも大きい場合には第3負荷分担量調節モードを選択する。
【0044】
図7示す例では、まずS121において、船内電力需要Dが第1閾値D1以下であるか否かを判断する。S121において船内電力需要Dが第1閾値D1以下である場合には、S122において第1負荷分担量調節モードを選択する。S121において、船内電力需要Dが第1閾値D1以下でない場合には、S123において、船内電力需要DがD2以下であるか否かを判断する。S123において船内電力需要DがD2以下である場合にはS124において第2負荷分担量調節モードを選択する。S123において船内電力需要DがD2以下でない場合にはS125において第3負荷分担量調節モードを選択する。
【0045】
そして、S12において、負荷分担量決定部48は、選択した負荷分担量調節モードに応じて、需要情報が示す船内電力需要Dに対する蒸気タービン発電機23の負荷分担量L1とガスエンジン発電機40の負荷分担量L2とを決定する。具体的には、負荷分担量決定部48は、第1負荷分担量調節モードを選択した場合(船内電力需要Dが第1閾値D1以下である場合)には、ガスエンジン発電機40の負荷分担量L2を0に維持したまま、船内電力需要Dの全量を蒸気タービン発電機23の負荷分担量L1とする。また、負荷分担量決定部48は、第2負荷分担量調節モードを選択した場合(船内電力需要Dが第1閾値D1よりも大きく第2閾値D2以下である場合)には、船内電力需要Dのうち第1閾値D1に相当する電力を蒸気タービン発電機23の負荷分担量L1とし、船内電力需要Dと第1閾値D1との差分(D-D1)に相当する電力をガスエンジン発電機40の負荷分担量L2とする。また、負荷分担量決定部48は、第3負荷分担量調節モードを選択した場合(船内電力需要Dが第2閾値D2よりも大きい場合)には、第2閾値D2と第1閾値D1との差分(D2-D1)に相当する電力をガスエンジン発電機40の負荷分担量L2とし、船内電力需要Dとガスエンジン発電機40の負荷分担量L2との差分(D-D2+D1)に相当する電力を蒸気タービン発電機23の負荷分担量L1とする。
【0046】
そして、S13において、負荷分担量調節モード実行部50は、S12で選択した負荷分担量調節モードを実行することにより、蒸気タービン発電機23の出力とガスエンジン発電機40の出力とを制御して蒸気タービン発電機23の負荷分担量とガスエンジン発電機40の負荷分担量とをS12で決定した負荷分担量L1及びL2に調節する。
【0047】
上記舶用電源システム200によれば、温室効果ガス排出量マップに沿って温室効果ガス排出量が最も少なくなるような負荷分担量L1,L2及び発電方法を実現することができる。
【0048】
図8は、幾つかの比較例及び参考例と上記舶用電源システム200との温室効果ガス排出効率を比較した図である。なお、温室効果ガス排出効率とは、温室効果ガス排出量を主機エンジン(舶用電源システム200ではガスエンジン100)の出力で割った値を意味する。図9は、図8に示した比較例、参考例及び上記舶用電源システム200について、燃料費を比較した図である。
【0049】
図8及び図9において、比較例1は、主機として舶用ガスオイル(Marin Gas Oil: MGO)を燃料とする舶用ディーゼルエンジンを用いて、補機として舶用ガスオイルを燃料とするディーゼルエンジン発電機のみで船内電力需要を賄う場合を示している。比較例2は、主機としてLNGを燃料とする舶用ガスエンジン(上記ガスエンジン100)を用いて、LNGを燃料とする補機としての2台のガスエンジン発電機(上記ガスエンジン発電機40)のみで船内電力需要を賄うが、主機及び補機のガスエンジンから排出されたスリップメタンの燃焼処理を行わない場合を示している。参考例は、上記スリップメタン処理装置2を備えており、主機としてLNGを燃料とするガスエンジン(上記ガスエンジン100)を用いるが、補機として発電用エンジンは用いず、船内電力需要をスリップメタン処理装置2の蒸気タービン発電機23のみで賄う場合を示している。実施例は、上記舶用電源システム200を示している。
【0050】
図8に示すように、舶用ガスオイルを燃料とした比較例1よりもLNGを燃料とした比較例2の方が温室効果ガス排出効率が良く、比較例2よりも参考例の方がスリップメタン処理装置2を用いることにより温室効果ガス排出効率が更に改善されることが分かる。また、実施例では、上記のように温室効果ガス排出量マップに沿って温室効果ガス排出量が最も少なくなるように負荷分担量を調節しているため、比較例1、比較例2及び参考例の何れよりも温室効果ガス排出量が低減されることが分かる。
【0051】
また、比較例2では、比較例1と比べて、燃料をMGOからLNGに変更したことによりCO2自体は削減される。一方で、CO2よりも温暖化係数の高いスリップメタンの発生により、CO2換算の温室効果ガス量の全体としては、削減効果が小さくなってしまう。また、参考例では、スリップメタン処理装置(燃焼器8)でスリップメタンを燃焼処理する為、比較例2と比べスリップメタン分の温室効果ガスは削減できる。また、参考例では、需要電力は排熱回収で賄う為、発電用ガスエンジンを運転せずに済み、比較例2と比べ発電用ガスエンジンからのCO2を無くすことができる。一方で、参考例では、燃焼器8に投入される加熱用燃料であるLNGの燃焼によってCO2が発生する為、温室効果ガス量の全体としては、削減効果が小さくなってしまう。これに対し、実施例では、温室効果ガス排出量マップに沿って蒸気タービン24と発電用ガスエンジン42の負荷分担量を調整するため、他の例と比較し、温室効果ガスの高い削減効果を得ることができる。
【0052】
また、図9に示すように、舶用ガスオイルを燃料とした比較例1よりもLNGを燃料とした比較例2の方が燃料費が削減されるが、参考例ではスリップメタン処理装置2の燃焼器8の燃料消費量に起因して比較例2よりは燃料費が増加することが分かる。また、実施例では、船内電力需要に応じて複数の負荷分担量調節モードを上記のように適切に使い分けることにより、比較例1、比較例2及び参考例の何れよりも燃料費を削減できることが分かる。
【0053】
また、比較例2では、比較例1と比べて燃料をMGOからLNGに変更したことにより、燃料費が削減されている。一方で、図8で説明のとおり、比較例2では温室効果ガスの削減効果は小さい。また、参考例では、スリップメタン処理装置(燃焼器)でスリップメタンを燃焼処理する為、比較例2と比べスリップメタン分の温室効果ガスは削減できる。一方で、参考例では、スリップメタン処理装置(燃焼器)で燃料を消費してしまう為、比較例2と比べ燃費は悪化してしまう。これに対し、実施例では、温室効果ガス排出量マップに沿って蒸気タービン24と発電用ガスエンジン42の負荷分担量を調整するため、他の例と比較し、燃料費を抑えつつ、温室効果ガスの高い削減効果を得ることができる。
【0054】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
上述した幾つかの実施形態では、燃焼器温度制御装置20と負荷分担量制御装置45とを便宜的に分けて説明したが、燃焼器温度制御装置20と負荷分担量制御装置45とは共通のハードウェアにより構成されていてもよい。
【0055】
また、上述した幾つかの実施形態では、温室効果ガス排出量マップは、負荷分担量制御装置45の内部に設けられたマップ記憶部52から読みだされて負荷分担量の決定に用いられたが、負荷分担量制御装置45の外部に設けられた記憶装置から読み出されて負荷分担量の決定に用いられてもよい。
また、図6に温室効果ガス排出マップの一例を示したが、温室効果ガス排出マップは、ガスエンジン100の負荷毎に異なるマップを用いてもよい。
【0056】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0057】
(1)本開示に係る舶用電源システム(例えば上述の舶用電源システム200)は、
燃焼器(例えば上述の燃焼器8)と、
舶用ガスエンジンから排出されたスリップメタンを含む排ガスを前記燃焼器に供給するための排ガス供給ライン(例えば上述の排ガス供給ライン4)と、
排ガスエコノマイザ(例えば上述の排ガスエコノマイザ22)と、
前記燃焼器から排出された前記排ガスを前記排ガスエコノマイザに供給するための排ガス排出ライン(例えば上述の排ガス排出ライン10)と、
前記排ガス供給ラインにおける前記舶用ガスエンジンと前記燃焼器との間に位置するとともに前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記排ガスエコノマイザとの間に位置し、前記排ガス供給ラインを流れる前記スリップメタンを含む前記排ガスと前記排ガス排出ラインを流れる前記排ガスとの熱交換により前記排ガス供給ラインを流れる前記スリップメタンを含む前記排ガスを加熱するように構成されたガス‐ガスヒータ(例えば上述のガス‐ガスヒータ12)と、
前記排ガスエコノマイザで生成された蒸気により駆動する蒸気タービン(例えば上述の蒸気タービン24及び前記蒸気タービンに連結された第1発電機(例えば上述の発電機26)を含む蒸気タービン発電機(例えば上述の蒸気タービン発電機23)と、
発電用ガスエンジン(例えば上述の発電用ガスエンジン42)及び前記発電用ガスエンジンに連結された第2発電機(例えば上述の発電機44)を含むガスエンジン発電機(例えば上述のガスエンジン発電機40)と、
船内電力需要を示す需要情報と、前記船内電力需要を満たすような前記蒸気タービン発電機の負荷分担量と前記ガスエンジン発電機の負荷分担量との組み合わせを含む温室効果ガス排出量マップと、に基づいて、前記需要情報が示す前記船内電力需要に対する前記蒸気タービン発電機の負荷分担量と前記ガスエンジン発電機の負荷分担量とを決定するように構成された負荷分担量制御装置(例えば上述の負荷分担量制御装置45)と、
を備える。
【0058】
上記(1)に記載の舶用電源システムによれば、温室効果ガス排出量が少なくなるような蒸気タービン発電機の負荷分担量とガスエンジン発電機の負荷分担量との組み合わせを船内電力需要に応じて温室効果ガス排出量マップとして予め作成しておくことにより、船内電力需要を示す需要情報と温室効果ガス排出量マップとに基づいて、温室効果ガス排出量が少なくなるような蒸気タービン発電機の負荷分担量とガスエンジン発電機の負荷分担量とを決定することができる。これにより、温室効果ガス排出量の少ない舶用電源システムを実現することができる。
【0059】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の舶用電源システムにおいて、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要を満たすように前記蒸気タービン発電機と前記ガスエンジン発電機の少なくとも一方の負荷分担量を調節する複数の負荷分担量調節モードを実行可能であり、
前記温室効果ガス排出量マップは、前記船内電力需要と、前記複数の負荷分担量調節モードの各々との対応関係を含んでおり、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要と前記温室効果ガス排出量マップとに基づいて、前記複数の負荷分担量調節モードの中から前記船内電力需要に対応する負荷分担量調節モードを選択し、選択した前記負荷分担量調節モードに応じて、前記船内電力需要に対する前記蒸気タービン発電機の負荷分担量と前記ガスエンジン発電機の負荷分担量とを決定するように構成される。
【0060】
上記(2)に記載の舶用電源システムによれば、温室効果ガス排出量が少なくなるような負荷分担量調節モードを船内電力需要に対応させて温室効果ガス排出量マップで予め規定しておくことにより、温室効果ガス排出量の少ない舶用電源システムを実現することができる。
【0061】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の舶用電源システムにおいて、
前記複数の負荷分担量調節モードは、第1負荷分担量調節モードを含み、
前記第1負荷分担量調節モードは、前記船内電力需要が増大するにつれて前記ガスエンジン発電機の運転を停止したまま前記蒸気タービン発電機の負荷分担量を増大させるモードであり、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要が第1閾値以下である場合には、前記第1負荷分担量調節モードを実行し、前記船内電力需要が前記第1閾値を超えた場合に前記ガスエンジン発電機を起動するように構成される。
【0062】
船内電力需要が比較的小さい場合には、舶用ガスエンジンから排出されたスリップメタンを燃焼器で燃焼させることにより温室効果ガス排出量を削減しつつ、その排熱を回収して蒸気タービン発電機で発電した電力で船内電力需要を満たすことができる。このため、記(3)に記載の舶用電源システムのように第1負荷分担量調節モードを実行することにより、温室効果ガス排出量の少ない舶用電源システムを実現することができる。
このため、上記(3)に記載の舶用電源システムのように、船内電力需要が第1閾値以下である場合(船内電力需要が比較的小さい場合)に第1負荷分担量調節モードを実行し、船内電力需要が前記第1閾値を超えてからガスエンジン発電機を起動することにより、船内電力需要が比較的小さい場合において温室効果ガス排出量の少ない舶用電源システムを実現することができる。
【0063】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載の舶用電源システムにおいて、
前記複数の負荷分担量調節モードは、第2負荷分担量調節モードを含み、
前記第2負荷分担量調節モードは、前記船内電力需要が増大するにつれて前記蒸気タービン発電機の負荷分担量を一定に維持しながら前記ガスエンジン発電機の負荷分担量を増大させるモードであり、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要が前記第1閾値よりも大きく第2閾値以下である場合に前記第2負荷分担量調節モードを実行するように構成される。
【0064】
船内電力需要がある一定量以上になると、スリップメタンの燃焼後の排熱を利用して蒸気タービン発電機で発電した電力で船内電力需要の全てを賄うよりも、船内電力需要の増加分をガスエンジン発電機によって賄う方が温室効果ガス排出量を削減することができる。このため、上記(4)に記載の舶用電源システムのように、船内電力需要が第1閾値よりも大きく第2閾値以下である場合に第2負荷分担量調節モードを実行することにより、船内電力需要がある程度大きい場合において温室効果ガス排出量の少ない舶用電源システムを実現することができる。
【0065】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載の舶用電源システムにおいて、
前記排ガス排出ラインにおける前記燃焼器と前記ガス‐ガスヒータとの間の位置において前記排ガス排出ラインから分岐し、前記排ガス排出ラインにおける前記ガス‐ガスヒータと前記排ガスエコノマイザとの間の位置において前記排ガス排出ラインに合流するバイパスライン(例えば上述のバイパスライン34)と、
前記バイパスラインに設けられたバイパス弁(例えば上述のバイパス弁36)と、
を備え、
前記複数の負荷分担量調節モードは、第3負荷分担量調節モードを含み、
前記第3負荷分担量調節モードは、前記船内電力需要が増大するにつれて前記ガスエンジン発電機の負荷分担量を一定に維持しながら前記バイパス弁の開度を大きくするモードであり、
前記負荷分担量制御装置は、前記船内電力需要が前記第2閾値よりも大きい場合に前記第3負荷分担量調節モードを実行するように構成される。
【0066】
上記(5)に記載のようにバイパス弁の開度を大きくすることにより、燃焼器から排出された排ガスの流量のうちガス‐ガスヒータを迂回してバイパスラインを流れる排ガスの流量の割合を増大させることができる。すなわち、バイパス弁の開度を大きくするほど、ガス‐ガスヒータでの熱交換量(排ガス供給ラインを流れる排ガスと排ガス排出ラインを流れる排ガスとの熱交換量)を減少させつつ、排ガスエコノマイザでの熱交換量(排ガスエコノマイザに供給される水と排ガス排出ラインを流れる排ガスとの熱交換量)を増大させて、排ガスエコノマイザでの熱回収量を増大させて、蒸気タービン発電機の出力を増大させることができる。
したがって、上記(4)に記載の第2負荷分担量調節モードによってガスエンジン発電機の負荷分担量が最大になった場合であっても、上記(5)に記載のように第3負荷分担量調節モードを実行することにより、温室効果ガス排出量の増大を抑制しつつより大きな船内電力需要を賄うことができる。
【0067】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかに記載の舶用電源システムにおいて、
前記第3負荷分担量調節モードは、前記船内電力需要が増大するにつれて前記ガスエンジン発電機の出力を定格出力に維持しながら前記バイパス弁の開度を大きくするモードである。
【0068】
上記(6)に記載の舶用電源システムによれば、温室効果ガス排出量の増大を抑制しつつより大きな船内電力需要を賄うことができる。
【符号の説明】
【0069】
2 スリップメタン処理装置
4 排ガス供給ライン
6 燃料ライン
8 燃焼器
10 排ガス排出ライン
12 ガスヒータ
14 排熱回収装置
16 燃料調整弁
18 温度センサ
20 燃焼器温度制御装置
22 排ガスエコノマイザ
23 蒸気タービン発電機
24 蒸気タービン
26,44 発電機
28 復水器
30 蒸気ライン
32 復水ライン
34 バイパスライン
36 バイパス弁
40 ガスエンジン発電機
42 発電用ガスエンジン
46 需要情報取得部
48 負荷分担量決定部
50 負荷分担量調節モード実行部
52 マップ記憶部
68 ダンプライン
70 ダンプ弁
72 CPU
74 RAM
76 ROM
78 HDD
80 入力I/F
82 出力I/F
84 バス
90 負荷分担量制御装置
100 舶用ガスエンジン
102 プロペラ
200 舶用電源システム
210 舶用推進プラント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9