(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】管理装置、管理方法、プログラム、および栽培システム
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20241118BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2020219687
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 聖子
(72)【発明者】
【氏名】井手上 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】幌岩 真理
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-214499(JP,A)
【文献】国際公開第2010/041502(WO,A1)
【文献】特開2013-226089(JP,A)
【文献】特開2009-142231(JP,A)
【文献】国際公開第2005/068379(WO,A1)
【文献】特開2017-139980(JP,A)
【文献】特開2004-146(JP,A)
【文献】国際公開第2015/088043(WO,A1)
【文献】特開2018-201353(JP,A)
【文献】特開2010-110277(JP,A)
【文献】特開平8-24883(JP,A)
【文献】特開2000-107786(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0013810(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0339853(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培液に微生物を含む有機養液栽培系を管理する管理装置であって、
前記栽培液中の酸化還元電位の時系列データを取得する電位取得部と、
前記電位取得部が取得した前記時系列データから、前記酸化還元電位の波形の特徴を抽出し、前記特徴に基づいて前記有機養液栽培系の状態を判定する状態判定部と
を備える管理装置。
【請求項2】
前記状態判定部は、前記栽培液中に有機物を添加した後に、前記酸化還元電位が定常状態に達したときのベースライン値に基づいて、前記有機養液栽培系の状態を判定する
請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記状態判定部は、前記栽培液中に有機物を添加してから、前記酸化還元電位が定常状態に達するまでの復帰時間に基づいて、前記有機養液栽培系の状態を判定する
請求項1に記載の管理装置。
【請求項4】
前記状態判定部は、前記栽培液中に有機物を添加した後に、前記酸化還元電位が定常状態に向かって回復する場合の、前記酸化還元電位の波形の傾きに基づいて、前記有機養液栽培系の状態を判定する
請求項1に記載の管理装置。
【請求項5】
前記状態判定部は、前記栽培液中に有機物を添加してから、前記酸化還元電位が定常状態に達するまでの前記波形における複数のピークに基づいて、前記有機養液栽培系の状態を判定する
請求項1に記載の管理装置。
【請求項6】
前記栽培液中の温度を示す温度データを取得する温度取得部を更に備え、
前記状態判定部は、前記温度データに基づいて前記酸化還元電位の前記時系列データを補正し、補正した前記時系列データから、前記酸化還元電位の波形の前記特徴を抽出する
請求項1から5のいずれか一項に記載の管理装置。
【請求項7】
過去に取得した前記温度データおよび前記時系列データに基づいて、前記時系列データを補正するための補正情報を生成する補正情報生成部を更に備える
請求項6に記載の管理装置。
【請求項8】
前記補正情報生成部は、予め定められた周期で前記補正情報を更新する
請求項7に記載の管理装置。
【請求項9】
前記状態判定部は、過去に抽出した前記特徴と、新たに取得した前記特徴とを比較して、前記有機養液栽培系の状態を判定する
請求項1から8のいずれか一項に記載の管理装置。
【請求項10】
前記状態判定部が判定した状態に基づいて、前記有機養液栽培系に対する処理内容を生成する処理生成部を更に備える
請求項1から9のいずれか一項に記載の管理装置。
【請求項11】
前記処理生成部は、前記有機養液栽培系に対する有機物の投入量および投入タイミングの少なくとも一方を示す前記処理内容を生成する
請求項10に記載の管理装置。
【請求項12】
前記処理生成部は、前記有機養液栽培系の周囲における光の照度、気温、湿度、二酸化炭素濃度、および栽培物の画像の少なくともいずれかに基づいて、前記有機物の投入量および投入タイミングの少なくとも一方を調整する
請求項11に記載の管理装置。
【請求項13】
前記状態判定部は、前記特徴として酸化還元電位の波形の予め定められた時間範囲における変化態様を抽出する、請求項1から12のいずれか一項に記載の管理装置。
【請求項14】
前記有機養液栽培系は、前記栽培液が流れる栽培槽を有し、
前記電位取得部は、前記栽培槽の複数個所における前記酸化還元電位の時系列データを取得し、
前記状態判定部は、前記複数個所における前記酸化還元電位の波形の前記特徴に基づいて、前記有機養液栽培系の状態を判定する
請求項10から12のいずれか一項に記載の管理装置。
【請求項15】
前記処理生成部は、前記状態判定部における判定結果に基づいて、前記栽培槽において有機物を投入する位置を決定し、当該位置を示す前記処理内容を生成する
請求項14に記載の管理装置。
【請求項16】
栽培液に微生物を含む有機養液栽培系を管理する管理方法であって、
前記栽培液中の酸化還元電位の時系列データを取得し、
前記時系列データから、前記酸化還元電位の波形の予め定められた時間範囲における特徴を抽出し、前記特徴に基づいて前記有機養液栽培系の状態を判定する
管理方法。
【請求項17】
コンピュータに、請求項16に記載の管理方法を実行させるためのプログラム。
【請求項18】
栽培液に微生物を含む有機養液栽培系と、
前記有機養液栽培系を管理する、請求項1から15のいずれか一項に記載の管理装置と
を備える栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理装置、管理方法、プログラム、および栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有用微生物培養槽において、酸化還元電位(ORP)の瞬時値が下限値以上かつ上限値以下の範囲に含まれる場合を正常と判定する一方、酸化還元電位の瞬時値が当該範囲から外れる場合を異常と判定し、判定内容に基づいて制御を実行する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
[特許文献]
特許文献1 特開2009-142231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術では、微生物反応の具体的な状態までは知ることができない。したがって、栽培液中への有機物の添加量または添加タイミング等については、栽培者の経験に基づいて決定しなければならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、栽培液に微生物を含む有機養液栽培系を管理する管理装置であって、栽培液中の酸化還元電位の時系列データを取得する電位取得部と、電位取得部が取得した時系列データから、酸化還元電位の波形の特徴を抽出し、特徴に基づいて有機養液栽培系の状態を判定する状態判定部とを備える管理装置を提供する。
【0005】
状態判定部は、栽培液中に有機物を添加した後に、酸化還元電位が定常状態に達したときのベースライン値に基づいて、有機養液栽培系の状態を判定してよい。
【0006】
状態判定部は、栽培液中に有機物を添加してから、酸化還元電位が定常状態に達するまでの復帰時間に基づいて、有機養液栽培系の状態を判定してよい。
【0007】
状態判定部は、栽培液中に有機物を添加した後に、酸化還元電位が定常状態に向かって回復する場合の、酸化還元電位の波形の傾きに基づいて、有機養液栽培系の状態を判定してよい。
【0008】
状態判定部は、栽培液中に有機物を添加してから、酸化還元電位が定常状態に達するまでの波形における複数のピークに基づいて、有機養液栽培系の状態を判定してよい。
【0009】
管理装置は、栽培液中の温度を示す温度データを取得する温度取得部を更に備えてよい。状態判定部は、温度データに基づいて酸化還元電位の時系列データを補正し、補正した時系列データから、酸化還元電位の波形の特徴を抽出してよい。
【0010】
管理装置は、過去に取得した温度データおよび時系列データに基づいて、時系列データを補正するための補正情報を生成する補正情報生成部を更に備えてよい。
【0011】
補正情報生成部は、予め定められた周期で補正情報を更新してよい。
【0012】
状態判定部は、過去に抽出した特徴と、新たに取得した特徴とを比較して、有機養液栽培系の状態を判定してよい。
【0013】
管理装置は、状態判定部が判定した状態に基づいて、有機養液栽培系に対する処理内容を生成する処理生成部を更に備えてよい。
【0014】
処理生成部は、有機養液栽培系に対する有機物の投入量および投入タイミングの少なくとも一方を示す処理内容を生成してよい。
【0015】
処理生成部は、有機養液栽培系の周囲における光の照度、気温、湿度、二酸化炭素濃度、および栽培物の画像の少なくともいずれかに基づいて、有機物の投入量および投入タイミングの少なくとも一方を調整してよい。
状態判定部は、特徴として酸化還元電位の波形の予め定められた時間範囲における変化態様を抽出してよい。
【0016】
有機養液栽培系は、栽培液が流れる栽培槽を有してよい。電位取得部は、栽培槽の複数個所における酸化還元電位の時系列データを取得してよい。状態判定部は、複数個所における酸化還元電位の波形の特徴に基づいて、有機養液栽培系の状態を判定してよい。
【0017】
処理生成部は、状態判定部における判定結果に基づいて、栽培槽において有機物を投入する位置を決定し、当該位置を示す処理内容を生成してよい。
【0018】
本発明の第2の態様においては、栽培液に微生物を含む有機養液栽培系を管理する管理方法であって、栽培液中の酸化還元電位の時系列データを取得し、時系列データから、酸化還元電位の波形の予め定められた時間範囲における特徴を抽出し、特徴に基づいて有機養液栽培系の状態を判定する、管理方法を提供する。
【0019】
本発明の第3の態様においては、コンピュータに、本発明の第2の態様の管理方法を実行させるためのプログラムを提供する。
【0020】
本発明の第4の態様においては、栽培液に微生物を含む有機養液栽培系と、有機養液栽培系を管理する本発明の第1の態様の管理装置とを備える栽培システムを提供する。
【0021】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図5】栽培液中の温度によるORPの補正の一例を示す。
【
図7】管理装置100による管理方法についてのフローチャートの一例を示す。
【
図8】時系列データの補正処理のフローチャートの一例を示す。
【
図9】有機養液栽培系200の状態判定処理のフローチャートの一例を示す。
【
図10】処理内容生成のフローチャートの一例を示す。
【
図11】処理内容生成のフローチャートの他例を示す。
【
図12】本発明の複数の態様が全体的又は部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0024】
図1は、栽培システム300の構成の概要を示す。栽培システム300は、有機養液栽培に関するシステムである。栽培システム300は、管理装置100および有機養液栽培系200を備える。有機養液栽培系200は、栽培槽210および貯水槽220を備える。栽培槽210は、栽培液230を用いて栽培物350を栽培するための槽である。また、本例の有機養液栽培系200は、有機質肥料242を貯水槽220内の栽培液230に加えるための施肥部240を有する。
【0025】
本例の栽培槽210は、施肥口212aから212d(施肥口212と総称する場合がある)および排水口214を有する。施肥口212は、貯水槽220からの栽培液230を栽培槽210の内部に供給する。排水口214は、栽培液230を栽培槽210の外部に排出する。排水口214から排出された栽培液230は、貯水槽220内に戻る。
【0026】
本例では、本例の栽培槽210は、複数の施肥口212aから212dを有する。各施肥口212aから212dには、栽培液230の供給量を制御するための制御弁213aから213dが設けられてよい。但し、施肥口212の数および設置位置は、
図1の場合に限られず、栽培物350の種類や数に応じて変えてよい。施肥口212は、一つであってもよく、この場合には、排水口214から最も遠くなる箇所に施肥口212が設けられてよい。これにより、栽培液230が栽培槽210内に拡がって流れる。
【0027】
貯水槽220は、栽培液230を貯蔵する。貯水槽220に貯蔵された栽培液230には、施肥部240によって有機物である有機質肥料242が投入される。有機質肥料242は、例えば、鰹煮汁またはトウモロコシ浸漬液である。栽培液230は、水、微生物、および有機質肥料242を含んでよい。貯水槽220では、栽培槽210から戻ってきた栽培液230を曝気する。栽培液230の曝気は、栽培液230を落下させる方法であっても、曝気用のポンプを用いる方法であってもよい。曝気によって、栽培液230の水分中に酸素を取り込ませる。これにより、栽培物350の根に酸素が供給される。
【0028】
施肥部240は、内部に有機質肥料242を格納する。施肥部240は、管理装置100等の装置からの制御によって、指示された投入量の有機質肥料242を、指示された投入時刻または投入タイミングで、貯水槽220に投入する。例えば、施肥部240は、指示された投入量を調整する調整弁、時刻を設定するタイマー、通信部、および制御部を含む。
【0029】
栽培液230は、栽培槽210と貯水槽220との間を循環する。栽培液230内の微生物は、主として栽培槽210において栽培物350の根の表面に付着する。微生物は、栽培物350の根の表面において有機質肥料242を無機養分に分解する。栽培物350は、有機質肥料242のままでは養分として吸収できず、分解された無機養分を吸収することによって成長する。栽培物350の根が大きくなるほど無機養分の吸収も多くなる。このように栽培液230の有機質肥料242は、主として栽培槽210で分解され、貯水槽220で新たに投入される。有機養液栽培系200において栽培液230に有機質肥料242を投入することを「施肥」と称する。
【0030】
施肥部240は、有機質肥料242を栽培液230に常時投入しているわけではない。施肥部240は、間欠的に有機質肥料242を栽培液230に投入してよい。施肥部240は、一回投入された有機質肥料242が微生物によって分解される時間を考慮して、新たに有機質肥料242を栽培液230に投入してよい。栽培液230は、ポンプ222によって貯水槽220から栽培槽210に供給される。
【0031】
栽培槽210の上部には定植パネル211が設けられてよい。定植パネル211には、複数の孔が設けられており、各孔に栽培物350が植えられている。また、栽培槽210には、液情報検出部250が取り付けられている。液情報検出部250は、栽培液230中の種々の物理量または化学量を測定する。後述するように、液情報検出部250は、少なくとも栽培液230中の酸化還元電位(Oxidation-reduction Potential:ORP)を測定するORPセンサ(酸化還元電位センサ)を含んでいる。また、液情報検出部250は、栽培液230の温度を測定する液温センサを含んでいてよい。液情報検出部250は、後述するように、他のセンサを含んでいてよい。
【0032】
本例では、複数の液情報検出部250aから250d(液情報検出部250と総称する場合がある)が設けられている。一例において、隣接する栽培物350の間の中央に一つの液情報検出部250が設けられてよい。但し、液情報検出部250の数および設置位置は、
図1の場合に限られず、栽培物350の種類および数に応じて変えてもよい。液情報検出部250は、貯水槽220に設けてもよい。液情報検出部250は、一つであってもよく、この場合には、施肥口212から距離が遠い場所に設けられてよい。施肥口212から遠いほど供給される栽培液230中の有機質肥料242が少なくなる。栽培液230中の有機質肥料242が少なくなる下流部に液情報検出部250を設置した方が、栽培液230の情報の測定および栽培液230の管理がしやすくなる。
【0033】
栽培槽210の周囲には、環境情報検出部260が設けられてよい。環境情報検出部260は、栽培物350の生育に影響を与える環境情報を検出する。後述するように、環境情報には、光の照度、気温、湿度、二酸化炭素濃度および窒素濃度等の雰囲気濃度、および栽培物の画像の少なくとも一つが含まれてよい。
【0034】
管理装置100は、栽培液230に微生物を含む有機養液栽培系200を管理する。本例では、管理装置100は、エッジ装置102(ゲートウェイ)およびクラウドシステム104を含む。エッジ装置102は、液情報検出部250および環境情報検出部260から測定データを受け取るコンピュータ装置である。エッジ装置102は、有機養液栽培系200の予め定められた距離内に配置されてよい。エッジ装置102は、液情報検出部250および環境情報検出部260との間のネットワークと、クラウドシステム104との間のネットワークとの間の通信を中継するゲートウェイであってよい。クラウドシステム104は、1又は通信可能に接続された複数のコンピュータで構成されてよい。クラウドシステムは、通信網上に構築される。
【0035】
エッジ装置102は、有機養液栽培系200の液情報検出部250および環境情報検出部260と無線通信等によって通信可能に接続されている。エッジ装置102とクラウドシステム104とは、通信回線によって通信可能に接続されている。通信回線は、インターネットまたは専用回線を含んでよい。エッジ装置102は、液情報検出部250による測定結果、および環境情報検出部260による測定データをクラウドシステム104に送信する。
【0036】
クラウドシステム104は、エッジ装置102から、栽培液230中のORPの時系列データを取得する。そして、クラウドシステム104は、時系列データから、ORPの波形の特徴を抽出する。クラウドシステム104は、抽出された特徴に基づいて有機養液栽培系200の状態を判定する。このように管理装置100は、ORPの瞬時値が下限値以上かつ上限値以下の範囲に含まれるか否かではなく、ORPの波形の特徴に基づいて、微生物状態を判定する。
【0037】
管理装置100は、有機養液栽培系200の状態の判定結果に基づいて、有機養液栽培系200における施肥部240を制御してよい。管理装置100は、効果的な養液栽培を実現する。養液栽培は、土耕栽培と比較して様々なメリットがある。養液栽培は、土の微生物環境を水にコピーできるので、場所と地域を選ばずに栽培ができる。また、天候の影響を受けにくく、病害および虫害を防止できるので、安定して栽培物350を生産できる。さらに、多段栽培が可能であるので、単位面積当たりの収穫量が増加する。これにより、農家の作業を簡便化することもできる。
【0038】
また、有機養液栽培は、無機栽培と比較して様々なメリットがある。有機養液栽培では、養液中に微生物のコロニーが存在するので、病原菌が繁殖しにくく、根の病気に強くなる。そのため、栽培環境の清潔さの要求レベルが下がり、様々な栽培環境で導入することができる。また、有機物は微生物によって無機肥料化されるので、化学肥料と比較して製造時のエネルギー消費量が少なく、廃棄される有機物も利活用できる。
【0039】
図2は、栽培システム300の構成の一例を示す。
図2は、主として管理装置100の構成について示している。液情報検出部250は、ORPセンサ251を有する。液情報検出部250は、一例において、液温センサ252を備える。液情報検出部250は、溶存酸素濃度センサ253、pHセンサ254、および導電率センサ255等の各種センサを備えてよい。液情報検出部250は、管理装置100と通信可能な通信部256を有してよい。
【0040】
溶存酸素濃度センサ253は、栽培液230中の溶存酸素量(DO)の計測により、有機物分解過程で微生物に消費される酸素の量を知る。pHセンサ254は、栽培液230の水素イオン指数(pH)を測定する。導電率センサ255は、栽培液230の導電率(electrical conductivity)を計測する。導電率は、1か月単位等の長期的な管理に用いられてよい。但し、溶存酸素濃度センサ253、pHセンサ254、および導電率センサ255は、省略されてもよい。
【0041】
環境情報検出部260は、気温センサ261、湿度センサ262、照度センサ263、栽培物監視用カメラ264、および雰囲気情報センサ265を含んでよい。環境情報検出部260は、管理装置100と通信可能な通信部266を有してよい。気温センサ261、湿度センサ262、および照度センサ263は、それぞれ、有機養液栽培系200の周囲における気温、湿度、および照度を測定する。栽培物監視用カメラ264は、栽培物350の画像を撮影する。栽培物監視用カメラ264は、液中における栽培物350の根を撮影してもよい。雰囲気情報センサ265は、有機養液栽培系200の周囲における二酸化炭素濃度および窒素濃度の少なくとも一つの成分濃度を測定する。但し、本実施形態と異なり、環境情報検出部260の全部または一部を省略してもよい。
【0042】
エッジ装置102は、液情報検出部250の通信部256との間および環境情報検出部260の通信部266との間で通信可能な通信部103を備えてよい。また、クラウドシステム104が、エッジ装置102、制御弁213、施肥部240、端末270、および温度調整器282等の機器との間で通信するための通信部106を備えてよい。
【0043】
管理装置100は、電位取得部110および状態判定部120を備える。さらに、管理装置100は、情報取得部130、データベース140、補正情報生成部150、および処理生成部160を備えてよい。本例では、これら各構成がクラウドシステム104に設けられている場合を説明したが、管理装置100は、この場合に限られない。これらの各構成の一部または全部がエッジ装置102に設けられており、エッジ装置102において、各データ収集、データ分析、および判断が実行されてもよい。複数の構成をどのようにエッジ装置102とクラウドシステムとに配分するかは適宜に決定してよい。また、エッジ装置102およびクラウドシステム104に代えて、一つのコンピュータを管理装置100として用いてもよい。
【0044】
電位取得部110は、栽培液230中のORPの時系列データを取得する。時系列データは、複数の時刻において、ORPセンサ251によって測定されたORPの値であってよい。
【0045】
図3は、ORPセンサの原理を示す。ORPセンサ251は、比較電極257、白金電極258、および電位差計259を備える。比較電極257は、銀電極、塩化銀電極、またはカロメル電極であってよい。比較電極257および白金電極258は、それぞれの一端が、測定対象の栽培液230に挿入される。比較電極257の他端と白金電極258の他端は、電位差計259に接続される。電位差計259は、比較電極257と白金電極258との間の電位差EhをORPとして計測する。
【0046】
酸化還元電位(ORP)であるEhは、ネルンストの式Eh=Eh0+(RT/nF)In([Ox]/[Red])で表される。Ehが実際の酸化還元電位である。Eh0は、標準酸化還元電位であり、酸化体の活量[Ox]と還元体の活量[Red]とが同じときの酸化還元電位を示す。Rは気体定数であり、Tは絶対温度、nは反応電子数、Fはファラデー定数である。[Ox]は酸化体の活量であり、[Red]は還元体の活量である。Inは、自然対数である。
【0047】
[Ox]は、有機養液栽培系200においては主として酸素濃度に対応する。[Red]は、有機養液栽培系200においては主として有機物(有機質肥料242)の濃度に対応する。酸素濃度は、貯水槽220における曝気によって、基本的には変動が抑えられている。したがって、ネルンストの式によれば、栽培液230中において有機質肥料242の濃度が高くなると、ORPは低くなり、有機質肥料242の濃度が低くなると、ORPが高くなる。
【0048】
図4は、ORPの波形の一例を示す。
図4は、電位取得部110によって取得されたORPの時系列データを、横軸が時間、縦軸が電位差(mV)として示した波形を図示している。施肥によって栽培液230中の有機質肥料242の濃度が高くなると、急速にORPの値が低下する。そして、微生物によって有機質肥料242が分解されるにつれて、栽培液230中における有機質肥料242の濃度が低くなるので、徐々にORPの値が上昇する。本例では、一日に施肥を1回実行しているが、この場合に限れない。一日あたり複数回にわけて施肥を実行してよい。
【0049】
本実施形態の管理装置100において、
図2に示される状態判定部120は、電位取得部110が取得した時系列データから、ORPの波形の特徴を抽出してよい。状態判定部120は、抽出された特徴に基づいて有機養液栽培系200の状態を判定する。なお、記状態判定部120は、特徴として酸化還元電位の波形の予め定められた時間範囲における変化態様を抽出してよい。「予め定められた時間範囲における変化態様」とは、ORPの瞬間の値ではなく、ある程度の期間におけるORPの時系列データの変化の態様を意味する。
【0050】
ORPの波形の特徴(変化態様)の例としては、(1)施肥してからORPが定常状態にもどるまでの復帰時間、(2)施肥してからORPが定常状態にもどるまでの極小値(ピーク)の本数または強度、および(3)施肥してからORPが定常状態に戻った時点でのORPの値等が挙げられる。変化態様については後述する。「定常状態」とは、一定期間にわたって、酸化還元電位(ORP)が安定した状態を意味してよく、特に、後述するように液温に基づく補正後の酸化還元電位(ORP)が一定期間にわたって安定した状態であってよい。
【0051】
状態判定部120によって判定される「有機養液栽培系200の状態」は、栽培液230中の有機物の濃度、微生物の状態(微生物が有機物を分解できる量または速度)、施肥量を増やすべき状態であるか減らすべき状態であるか、および施肥のタイミングを早めるべき状態であるか遅くするべき状態であるか等についての情報の少なくも一つを含んでよい。
【0052】
状態判定部120は、
図1に示されるように、複数の箇所に設置された液情報検出部250aから250d内の各ORPセンサ251によって測定された複数個所におけるORPの波形の変化態様に基づいて、有機養液栽培系200の状態を判定してもよい。例えば、複数個所におけるORPの波形の変化態様によれば、栽培槽210内における有機物(有機質肥料242)の凝集位置および有機物の分布がわかる。
【0053】
ネルンストの式には、絶対温度Tが変数として含まれている。また、ネルンストの式において[Ox]で表される酸素濃度も温度による影響を受ける。したがって、ORPは栽培液230の液温の影響を受ける。状態判定部120は、液温の温度データに基づいてORPの時系列データを補正し、補正された時系列データから、ORPの波形の特徴、特に、変化態様を抽出してもよい。
【0054】
図2に示される情報取得部130は、栽培液230中の温度を示す温度データを取得する温度取得部131を含んでよい。情報取得部130は、液情報検出部250および環境情報検出部260からの各種の測定データを時系列に取得してよい。データベース140は、過去の各時刻における栽培液230のORPの値と栽培液230の温度の値を記憶する。データベース140は、過去の各時刻における液情報検出部250および環境情報検出部260による各種の測定データについても記憶してよい。データベース140は、新たに取得されたORPの値、栽培液230の温度の値、および各種測定データを順次に記憶してよい。
【0055】
補正情報生成部150は、過去に取得した温度データ、およびORPの時系列データに基づいて、ORPの時系列データを補正するための補正情報を生成する。補正情報生成部150は、過去に取得した温度データ、およびORPの時系列データをデータベース140から取得してよい。
【0056】
補正情報生成部150は、予め定められた周期で補正情報を更新してよい。補正情報生成部150は、例えば、毎日、補正情報を更新する。更新する周期は、一定周期でなくてもよい。補正情報生成部150は、予め定められた事象が生じた場合に随時に補正情報を更新してよい。予め定められた事象は、栽培者によって入力された更新指示であってよい。状態判定部120は、補正情報に基づいてORPの時系列データを補正する。
【0057】
図5は、栽培液230中の温度によるORPの補正の一例を示す。
図5の横軸は栽培液230の温度(℃)を示し、縦軸は栽培液230のORP(mV)を示す。黒丸は、過去のORPの実測値を示す。白丸は、検量線(補正情報)により補正したORPを示す。
【0058】
実測値は、過去に取得した温度データおよびORPの時系列データである。定常状態における有機養液栽培系200において、夜および昼等の自然な温度変化を利用して得られた栽培液230の温度(℃)とORP(mV)との関係から、補正情報生成部150は、補正情報として検量線を生成してよい。本例では、栽培液230の温度が20℃における値に補正したORP(mV)は、-4.4(T-273)+222の検量線(但し、Tは絶対温度)によって与えられる。但し、補正情報としての検量線は、この場合に限られない。
【0059】
補正情報生成部150は、自然な温度変化を利用して補正情報を得る場合に限られない。一例において、有機養液栽培系200は、栽培液230の液温を制御するヒーター等の温度制御部を有してもよい。ヒーター等を用いて人為的に栽培液230の液温を変化させつつ各液温におけるORPを測定した測定データに基づいて、補正情報生成部150は、補正情報を生成してもよい。この場合、ヒーターは、液中の一部の領域だけに設置してよい。これにより、栽培に影響をあたえない場所で栽培液230を温度変化させることができる。
【0060】
図6は、ORPの波形における変化態様の一例を示す。
図6の上段は液温補正前のORPの波形10の一例を示し、
図6の下段は液温補正後のORPの波形20の一例を示す。状態判定部120は、温度データに基づいてORPの時系列データを補正し、補正した時系列データ(
図6の下段)から、ORPの波形20の特徴、特に、変化態様を抽出してよい。液温補正により、ORPの波形20の変化態様を抽出しやすくなる。
【0061】
状態判定部120は、過去に抽出した特徴と、新たに取得した特徴とを比較して、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。状態判定部120は、過去に抽出した変化態様との間の変化量を、予め定められた閾値、特徴量、または条件と比較した比較結果に基づいて有機養液栽培系200の状態を判定してよい。あるいは、状態判定部120は、新たに取得した変化態様を予め定められた閾値、特徴量、または条件と比較して、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。
【0062】
管理装置100は、機械学習することで、栽培者の勘と経験に依存することなく、予め定められた閾値、特徴量、または条件を決定してよい。例えば、管理装置100は、栽培液230の最終的なORPの画像の機械学習により、閾値、特徴量または条件を補正し、経時的に更新する。また、過去の栽培履歴データからのパターン認識によって、適応的に予め定められた閾値、特徴量、または条件を決定してよい。例えば、管理装置100は、栽培液230の最終的なORPの時系列データのパターン認識により、閾値、特徴量または条件を補正し、経時的に更新する[0]。
【0063】
状態判定部120は、栽培液230中に有機物である有機質肥料242を添加した後に、ORPが定常状態22に達したときのベースライン値に基づいて、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。有機物である有機質肥料242を添加は、施肥部240による施肥であってよい。定常状態22は、温度補正後のORP値の変動が、予め定められた値以下となった場合であってよく、施肥から予め定められた時間(一例において、7時間)が経過した状態であってもよい。ベースライン値は、定常状態22におけるORPの最小値、最大値、または平均値であってよい。
【0064】
一例において、状態判定部120は、過去のベースライン値(前回のベースライン値等)と今回のベースライン値との変化量に基づいて有機養液栽培系200の状態を判定してよい。状態判定部120は、過去のベースライン値(前回のベースライン値)または予め定められた値に比べてベースライン値が低下した場合、有機質肥料242の微生物による分解が十分に行われていないと判定してよく、ベースライン値が上がった場合、栽培物に吸収されない成分が栽培液中に蓄積していると判定してよい。これらの場合、状態判定部120は、施肥量を中断または減らすべき状態であると判定してよく、施肥のタイミングを遅らせるべき状態であると判定してもよい。
【0065】
状態判定部120は、栽培液230中に有機物を添加してから、ORPが定常状態22に達するまでの復帰時間t1に基づいて、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。あるいは、状態判定部120は、栽培液230中に有機物を添加してから、ORPが最小値(極小値)になるまでの期間t2、または施肥後に、ORPが最小値から定常状態の値になるまでの期間t3に基づいて、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。
【0066】
復帰時間t1が長くなった場合、または、ORPが所定時間内に定常状態22に復帰しない場合、有機質肥料242の微生物による分解が十分に行われていないと判定してよい。この場合、状態判定部120は、施肥を中断または施肥量を減らすべき状態であると判定してよく、施肥のタイミングを遅らせるべき状態であると判定してもよい。
【0067】
状態判定部120は、栽培液230中に有機物を添加した後に、ORPが定常状態22に向かって回復する場合の、ORPの波形20の傾きC1に基づいて、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。波形20の傾きC1は、単位時間あたりのORPの上昇分であってよい。波形20の傾きC1が予め定められた値より小さい場合には、有機質肥料242の微生物による分解が十分に行われていないと判定してよい。この場合、状態判定部120は、施肥量を減らすべき状態であると判定してよく、施肥のタイミングを遅らせるべき状態であると判定してもよい。
【0068】
状態判定部120は、栽培液230中に有機物を添加してから、ORPが定常状態22に達するまでの波形20における複数のピーク(谷、極小値)P1、P2に基づいて、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。状態判定部120は、複数のピークP1、P2の強度の相対関係、ピークP1、P2のそれぞれの半値幅、ピークP1、P2の間隔等により微生物状態を判定してよい。
【0069】
状態判定部120は、
図6に示される施肥領域面積Sに基づいて、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。施肥領域面積Sは、施肥した時点での波形20の第1点と定常状態22に到達した時点での波形の第2点とを結んだ線(
図6の点線)と、第1点および第2点の間の波形20とによって囲まれた範囲の面積であってよい。施肥領域面積Sが大きくなると、状態判定部120は、有機質肥料242の微生物による分解が十分に行われていないと判定してよい。この場合、状態判定部120は、施肥量を減らすべき状態であると判定してよく、施肥のタイミングを遅らせるべき状態であると判定してもよい。
【0070】
状態判定部120は、定常状態22における波形20の傾き(平坦度)C2の絶対値および正負によって、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。状態判定部120は、ベースライン値、復帰時間、波形の傾きC1、C2、ピークP1、P2の特性、および施肥領域面積S等から選ばれた複数種類の特徴に基づいて、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。
【0071】
状態判定部120は、ORPの波形の特徴と他の情報とを併用して、有機養液栽培系200の状態を判定してよい。他の情報としては、栽培液230中の溶存酸素濃度、水素イオン指数(pH)等の栽培液230の情報であってもよく、有機養液栽培系200の周囲における光の照度、気温、湿度、二酸化炭素濃度、窒素濃度、および栽培物350の育成具体を判断するための画像であってもよい。
【0072】
図2において、本実施形態の管理装置100は、状態判定部120が判定した状態に基づいて、有機養液栽培系200に対する処理内容を生成する処理生成部160を更に備えてよい。本例において、処理生成部160は、有機養液栽培系200に対する有機物の投入量および投入タイミングの少なくとも一方を示す処理内容を生成する。すなわち、処理生成部160は、施肥部240による施肥量および施肥タイミングについて制御内容を決定する。通信部106は、決定された制御内容に応じて施肥部240に制御信号を送信する。制御信号を受けた施肥部240は、受信した処理内容に基づいたタイミングおよび量の施肥を実行する。
【0073】
処理生成部160は、状態判定部120による判定結果とともに、有機養液栽培系200の周囲における光の照度、気温、湿度、二酸化炭素濃度、および栽培物の画像の少なくともいずれかの情報に基づいて、有機物の投入量および投入タイミングの少なくとも一方を調整してもよい。
【0074】
照度が高くなるほど、栽培物350による養分の吸収が多くなるので、処理生成部160は、有機物の投入量が多くなるように調整したり、投入頻度が高くなるように調整したりしてよい。栽培物350に適した気温の範囲がある。したがって、処理生成部160は、適切な気温範囲からの乖離が大きくなるほど有機物の投入量が少なくなるように調整したり、投入頻度が低くなるように調整したりしてよい。処理生成部160は、栽培物350を時系列に撮影した画像を比較することによって栽培物350の生育度合いを判定し、生育度合いに応じて有機物の投入量や投入タイミングを調整してもよい。一例において、処理生成部160は、生育度合いから、栽培物350が弱っていると判断される場合には、有機物の投入量が少なくなるように調整してよい。二酸化炭素濃度が予め定められた値より高い場合には、光合成が促進されるので、処理生成部160は、有機物の投入量が多くなるように調整してよい。
【0075】
処理生成部160は、有機物の投入量および投入タイミング以外の処理内容を生成してもよい。処理生成部160は、栽培者等の事前に登録された端末270に対して処理内容を通信部106経由で送信してよい。端末270は、携帯端末であってもよく、パソコン等のコンピュータ端末であってよい。端末270は、受信した処理内容を画面に表示してよい。
【0076】
処理生成部160は、状態判定部120が判定した状態に基づいて、栽培液230の温度を調整する温度調整器282を制御してよい。温度調整器282は、たとえばヒーターおよび冷却手段を備えてよい。
【0077】
処理生成部160は、有機養液栽培系200、特に貯水槽220に水を加えるための給水弁284を制御してよい。水の供給量が予め定められた値より少ないと、栽培液230の濃度が高くなって微生物や栽培物の根に影響を与えたり、水素イオン指数が高くなりすぎて栽培物の根に影響を与えたりする。したがって、処理生成部160は貯水槽220内の水分量を調整してよい。
【0078】
また、処理生成部160は、状態判定部120が判定した状態に基づいて、栽培液230全体を交換するように、栽培液交換機構286を制御してよい。栽培液交換機構286は、現在の栽培液230を有機養液栽培系200から抜くとともに、栽培前工程(耕水工程)において準備されて保存されている耕水および水を、新たな栽培液230として有機養液栽培系200に入れてよい。
【0079】
処理生成部160は、状態判定部120が判定した状態に基づいて、ポンプ222(
図1)を制御して、栽培液230の流速を変化させてもよい。処理生成部160は、状態判定部における判定結果に基づいて、施肥口212の開閉度合いを制御して、栽培槽210への栽培液230の供給量を調整してもよい。
【0080】
処理生成部160は、状態判定部における判定結果に基づいて、栽培槽210において有機物を投入する位置(投入位置)を決定し、当該位置を示す処理内容を生成してよい。有機物を投入する位置は、有機質肥料242を含んだ状態の栽培液230の施肥口212であってよい。処理生成部160は、複数の施肥口212aから212dのそれぞれの制御弁213aから213dの開閉および開閉度合いを制御してよい。
【0081】
図7は、管理装置100による管理方法についてのフローチャートの一例を示す。なお、コンピュータプログラムが、コンピュータに管理方法を実行させてよい。コンピュータプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体によって提供されてよい。管理方法は、栽培液230に微生物を含む有機養液栽培系200を管理する。電位取得部110は、栽培液230中のORPの時系列データを取得する(ステップS10)。状態判定部120および補正情報生成部150は、栽培液230中の温度を示す温度データに基づいてORPの時系列データを補正する(ステップS20)。状態判定部120は、栽培液230中のORPの時系列データあるいは温度補正された時系列データから、ORPの波形20の特徴として変化態様を抽出し、変化態様に基づいて有機養液栽培系200の状態を判定する(ステップS30)。処理生成部160は、状態判定段階(ステップS30)において判定された有機養液栽培系200の状態に基づいて、有機養液栽培系200に対する処理内容を生成する(ステップS40)。
【0082】
図8は、時系列データの補正処理のフローチャートの一例を示す。
図8は、
図7のステップS20の処理内容の一例を示す。温度取得部131は、栽培液230中の温度データを取得する(ステップS21)。
【0083】
補正情報生成部150は、過去に取得した温度データ、およびORPの時系列データに基づいて、ORPの時系列データを補正するための補正情報(検量線)を予め定められた周期で更新しておく。状態判定部120は、補正情報を参照することによって、ステップS21の温度データに基づいて、ORPの時系列データを補正する(ステップS22)。このように補正された時系列データを用いることによって、有機養液栽培系200の状態を判定する精度を高めることができる。
【0084】
図9は、有機養液栽培系200の状態判定処理のフローチャートの一例を示す。
図9は、
図7のステップS30の処理内容の一例を示す。状態判定部120は、栽培液230中のORPの時系列データ、特に温度補正された時系列データから、ORPの波形20の特徴として変化態様を抽出する(ステップS31)。変化態様としては、
図6に示されるとおり、(1)施肥後にORPが波形20の定常状態22に達したときのベースライン値、(2)施肥後にORPが定常状態22になるまでの復帰時間t1、(3)施肥後にORPが定常状態22に向かって回復する場合の波形20の傾きC1、(4)施肥後にORPが定常状態22になるまでの複数の極小点ピークP1、P2の態様(強度の相対関係、半値幅、ピーク間隔)等であってよい。
【0085】
状態判定部120は、ステップ31で抽出された変化態様を、対応する過去の変化態様、または過去の変化態様に基づく基準と比較する(ステップS32)。過去に抽出した変化態様との間の変化量が閾値以上であったり、新たに抽出した変化態様が条件を満たしたりした場合(ステップS32:YES)、状態判定部120は、微生物による有機物の分解が十分におこなわれていないと判断する(ステップS33)。一方、変化量が閾値未満であったり、新たに抽出した変化態様が条件を満たさなかったりした場合(ステップS32:NO)、微生物による有機物の分解が十分におこなわれていると判断する(ステップS34)。
【0086】
本実施形態の状態判定処理によれば、ORPの瞬時値が下限値以上かつ上限値以下の範囲に含まれるか否かにって正常または異常を判定する場合に比べて、より正確に有機養液栽培系200の状態を知ることができる。したがって、栽培物350の栽培経験が少なく、施肥条件の判断が難しい栽培者であっても、適切な施肥量と施肥タイミングを知ることができる。
【0087】
図10は、処理内容生成のフローチャートの一例を示す。
図10は、
図7のステップS40の処理内容の一例を示す。処理生成部160は、
図9におけるORPの変化態様に基づく有機養液栽培系200の状態判定結果を取得する(ステップS41)。
【0088】
処理生成部160は、状態判定部120が判定した状態に基づいて、有機養液栽培系200に対する処理内容を生成する。特に、施肥における有機物(有機質肥料242)の投入量(施肥量)、投入タイミング、または投入位置等の処理内容を決定する(ステップ42)。処理生成部160は、施肥部240等に制御信号を送信する(ステップS43)。制御信号を受けた施肥部240は、受信した処理内容に基づいたタイミングおよび量の施肥を実行する。
【0089】
図11は、処理内容生成のフローチャートの他の例を示す。
図11は、
図7のステップS40の処理内容の他の例を示す。ステップS51、ステップS53、およびステップS54の処理は、
図10のステップS41、ステップS42、およびステップS43の処理と同様である。したがって、繰り返しの説明を省略する。
【0090】
情報取得部130は、有機養液栽培系200の周囲における気温、湿度、照度、二酸化炭素濃度、窒素濃度、および栽培物の画像のうち少なくとも一つの情報を取得する(ステップS52)。本例において、状態判定部120は、ORPの変化態様のみならず、ステップS52で取得された各種の情報を併用して、施肥における有機物の投入量、投入タイミング、または投入位置等の処理内容を決定する(ステップS53)。
【0091】
状態判定部120は、有機物の投入量、投入タイミング、および投入位置以外の処理内容を生成してもよい。状態判定部120は、(1)栽培液230の温度制御、(2)貯水槽220への水の追加制御、(3)栽培槽210への栽培液230の供給量の制御、(4)栽培液230の交換制御、(5)栽培液230の流速の制御(ポンプ222の制御)、(6)栽培者等の端末270への情報送信のうち、少なくとも一つの処理を生成してよい。
【0092】
図10および
図11に示される処理によれば、施肥部240は、処理生成部160が算出した施肥条件に基づき、有機質肥料242を施肥する。例えば、施肥部240は、処理生成部160が算出した施肥量の有機質肥料242を施肥する。これにより、有機質肥料242を自動で施肥することができる。
【0093】
また、ORPの瞬時値が下限値以上かつ上限値以下の範囲に含まれるか否かにって正常または異常を判定する場合に比べて高い精度で、施肥量、施肥タイミング、施肥の位置、栽培液の温度、貯水槽220への水の追加、栽培槽210への栽培液の供給、栽培液230の交換、および栽培液230を流す流速を制御することができる。また、より高い精度で有機養液栽培系200の微生物状態を特定し、栽培者に知らせることができる。
【0094】
図12は、本発明の複数の態様が全体的又は部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。コンピュータ2200にインストールされたプログラムは、コンピュータ2200に、本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作又は当該装置の1又は複数のセクションとして機能させることができ、又は当該操作又は当該1又は複数のセクションを実行させることができ、及び/又はコンピュータ2200に、本発明の実施形態に係るプロセス又は当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ2200に、本明細書に記載のフローチャート及びブロック図のブロックのうちのいくつか又はすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく、CPU2212によって実行されてよい。
【0095】
本実施形態によるコンピュータ2200は、CPU2212、RAM2214、グラフィックコントローラ2216、及びディスプレイデバイス2218を含み、それらはホストコントローラ2210によって相互に接続されている。コンピュータ2200はまた、通信インタフェース2222、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROMドライブ2226、及びICカードドライブのような入/出力ユニットを含み、それらは入/出力コントローラ2220を介してホストコントローラ2210に接続されている。コンピュータはまた、ROM2230及びキーボード2242のようなレガシの入/出力ユニットを含み、それらは入/出力チップ2240を介して入/出力コントローラ2220に接続されている。
【0096】
CPU2212は、ROM2230及びRAM2214内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ2216は、RAM2214内に提供されるフレームバッファ等又はそれ自体の中にCPU2212によって生成されたイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス2218上に表示されるようにする。
【0097】
通信インタフェース2222は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ2224は、コンピュータ2200内のCPU2212によって使用されるプログラム及びデータを格納する。DVD-ROMドライブ2226は、プログラム又はデータをDVD-ROM2201から読み取り、ハードディスクドライブ2224にRAM2214を介してプログラム又はデータを提供する。ICカードドライブは、プログラム及びデータをICカードから読み取り、及び/又はプログラム及びデータをICカードに書き込む。
【0098】
ROM2230はその中に、アクティブ化時にコンピュータ2200によって実行されるブートプログラム等、及び/又はコンピュータ2200のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ2240はまた、様々な入/出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入/出力コントローラ2220に接続してよい。
【0099】
プログラムが、DVD-ROM2201又はICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読媒体から読み取られ、コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ2224、RAM2214、又はROM2230にインストールされ、CPU2212によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ2200に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置又は方法が、コンピュータ2200の使用に従い情報の操作又は処理を実現することによって構成されてよい。
【0100】
例えば、通信がコンピュータ2200及び外部デバイス間で実行される場合、CPU2212は、RAM2214にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インタフェース2222に対し、通信処理を命令してよい。通信インタフェース2222は、CPU2212の制御下、RAM2214、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROM2201、又はICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、又はネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0101】
また、CPU2212は、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROMドライブ2226(DVD-ROM2201)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイル又はデータベースの全部又は必要な部分がRAM2214に読み取られるようにし、RAM2214上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU2212は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0102】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、及びデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理を受けてよい。CPU2212は、RAM2214から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM2214に対しライトバックする。また、CPU2212は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU2212は、第1の属性の属性値が指定される、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0103】
上で説明したプログラム又はソフトウェアモジュールは、コンピュータ2200上又はコンピュータ2200近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワーク又はインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスク又はRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読媒体として使用可能であり、それによりプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ2200に提供する。
【0104】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0105】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0106】
10・・・波形、20・・・波形、22・・・定常状態、100・・・管理装置、102・・・エッジ装置、103・・・通信部、104・・・クラウドシステム、106・・・通信部、110・・・電位取得部、120・・・状態判定部、130・・・情報取得部、131・・・温度取得部、140・・・データベース、150・・・補正情報生成部、160・・・処理生成部、200・・・有機養液栽培系、210・・・栽培槽、211・・・定植パネル、212・・・施肥口、213・・・制御弁、214・・・排水口、220・・・貯水槽、222・・・ポンプ、230・・・栽培液、240・・・施肥部、242・・・有機質肥料、250・・・液情報検出部、251・・・ORPセンサ、252・・・液温センサ、253・・・溶存酸素濃度センサ、254・・・pHセンサ、255・・・導電率センサ、256・・・通信部、257・・・比較電極、258・・・白金電極、259・・・電位差計、260・・・環境情報検出部、261・・・気温センサ、262・・・湿度センサ、263・・・照度センサ、264・・・栽培物監視用カメラ、265・・・雰囲気情報センサ、266・・・通信部、270・・・端末、282・・・温度調整器、284・・・給水弁、286・・・栽培液交換機構、300・・・栽培システム、350・・・栽培物、2200・・・コンピュータ、2201・・・DVD-ROM、2210・・・ホストコントローラ、2212・・・CPU、2214・・・RAM、2216・・・グラフィックコントローラ、2218・・・ディスプレイデバイス、2220・・・入/出力コントローラ、2222・・・通信インタフェース、2224・・・ハードディスクドライブ、2226・・・DVD-ROMドライブ、2230・・・ROM、2240・・・入/出力チップ、2242・・・キーボード