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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】肥満を治療するための新規化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/65 20170101AFI20241118BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241118BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20241118BHJP
   A61K 38/26 20060101ALN20241118BHJP
【FI】
A61K47/65
A61P3/04
A61K47/68
C07K14/705 ZNA
A61K38/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020571527
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2019066358
(87)【国際公開番号】W WO2019243502
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】18179022.1
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ニコライ・クラヒン・ロエド
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・パオロ・バストナー・サンドリニ
(72)【発明者】
【氏名】イェスパー・ラウ
(72)【発明者】
【氏名】パウ・ブロッホ
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・セハー
(72)【発明者】
【氏名】ジム・マクガイア
(72)【発明者】
【氏名】アダム・ポール・チェンバース
(72)【発明者】
【氏名】ロッテ・ビェール・クヌーセン
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-531059(JP,A)
【文献】国際公開第2016/077840(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/208695(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
A61P 1/00- 43/00
C07K 14/705
A61K 38/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物、および血液脳関門(BBB)内に位置する受容体に対するアロステリックリガンドを含む構築物、またはその薬学的に許容可能な塩であって、
前記化合物が、
(i)GLP-1受容体(GLP-1R)に結合でき、前記受容体を活性化することができ、かつ
(ii)ポリペプチドまたはペプチドであり、かつ
(iii)配列番号16に記載されたアミノ酸配列、または配列番号16に記載されたアミノ酸配列と比較して、1つもしくは数個のアミノ酸の置換、付加および/もしくは欠失を有するアミノ酸配列を有するバリアントを含む、あるいは
配列番号11のアミノ酸1~31、配列番号13のアミノ酸1~28または配列番号15のアミノ酸1~31から選択されるアミノ酸配列を含む
GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)であり、前記血液脳関門内に位置する受容体が、トランスフェリン受容体(TfR)であり、前記アロステリックリガンドが、抗トランスフェリン受容体Fabである、構築物、またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
融合タンパク質または複合体である、請求項1に記載の構築物。
【請求項3】
リンカーをさらに含む、請求項1または2に記載の構築物。
【請求項4】
前記リンカーが、ペプチド性または非ペプチド性である、請求項に記載の構築物。
【請求項5】
食物摂取量を低下させる、請求項1~のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項6】
体重低下を引き起こす、請求項1~のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項7】
TfRと結合しないリガンドを組み込むことだけが前記構築物と異なる対照構築物と比較して、BBBによって保護されるGLP-1R発現脳領域への増加した結合を示し、GLP-1Rを発現するBBB保護脳領域が、(i)外側中隔核(LS)、歯状回(DG)、内側手綱(MH)、および傍小脳脚核(PB)から、ならびに/または(ii)側坐核(ACB)、視床下部の背内側核(DMH)、外側視床下部野(LHA)、および外側手綱(LH)から選択される1つ以上の領域である、請求項1~のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の構築物および少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む、組成物。
【請求項9】
医薬として使用するための、請求項1~のいずれか一項に記載の構築物、または請求項に記載の組成物。
【請求項10】
肥満の予防または治療に使用するための、請求項1~のいずれか一項に記載の構築物、または請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満症および関連する状態を治療するための新規化合物に関する。
【0002】
参照による配列表の組み込み
「配列表」と題される配列表は、9676バイトであり、2018年5月23日に作成され、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
肥満は、エネルギー摂取量が消費を上回る長期的な正のエネルギーバランスの結果である。中枢神経系(CNS)は、エネルギー摂取量を調節することで、狭い範囲内の体重を維持するのに重要な役割を果たす。エネルギー摂取量を調節するために、食物摂取量に関与する末梢器官から生じる神経および液性の両方のシグナルが、空腹および/または満腹に関する情報を脳に伝える。栄養状態に関する食事関連情報を脳に伝達することによる摂食調節の担い手として、食事により分泌されるグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)などの腸由来ホルモンが特定されている(Journal of Endocrinology(2014),vol.221(1),p.T1-T16)。
【0004】
CNSにおけるGLP-1受容体の存在、ならびに動物およびヒト研究からの発見は、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が誘発する満腹感および体重の影響が、少なくとも部分的に、脳に対するそれらの作用によって媒介されることを示すが、GLP-1およびGLP-1RAの脳への浸透は、大部分が不浸透性血液脳関門(BBB)によって厳しく制限される(Journal of Clinical Investigation(2014),vol.124(10),p.4473-4488)。
【0005】
BBBを介したタンパク質治療剤の送達を促進するための1つのアプローチは、受容体を介したトランスサイトーシス、すなわちリガンドが内皮細胞バリアを越えて輸送される内因性エンドサイトーシスプロセスを利用することである。この障害を克服するための多くの戦略の中には、トランスフェリン受容体(TfR)などの脳毛細血管内皮で発現する内因性受容体のトランスサイトーシス輸送経路を利用することが挙げられる(Science Translational Medicine(2011),vol.3(84),p.1-8)。
【0006】
WO2004/019872 A2は、少なくとも1つの治療用タンパク質またはペプチドと融合されたグリコシル化の低下を示すトランスフェリン(Tf)タンパク質を含む薬学的組成物、およびそれらを使用する方法に関する。予知的な実施例1は、「GLP-1-トランスフェリン融合タンパク質」と題される。
【0007】
GLP-1およびエキセンディン-4の類似体を用いたトランスフェリン融合タンパク質の調製は、論文「Transferrin Fusion Technology:A Novel Approach to Prolonging Biological Half-Life of Insulinotropic Peptides」、Byung-Joon Kim et al、Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,Vol.334 No.3(2010),p.682-691に開示される。これらの融合体は、それぞれGLP-1-TfおよびEx-4-Tfと示され、非グリコシル化型のヒトトランスフェリンで作製される。要約によると、GLP-1-Tfは、GLP-1受容体を活性化し、ペプチダーゼによる不活性化に抵抗性を示し、半減期は約2日間であった。また、この要約では、融合タンパク質が血液脳関門を通過しなかったことを明確にしているが、例えば、GLP-1-Tfは、糖尿病動物において天然GLP-1の急性グルコース依存性インスリン分泌特性を保持し、膵臓ベータ細胞の増殖に大きな影響を与えた。
【0008】
US2010/0077498 A1は、マウスにおける血液脳関門送達のための組成物および方法に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、肥満および関連する状態を治療するための新規化合物ならびにその使用に関する。
【0010】
一態様では、本発明は、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物、および血液脳関門(BBB)内に位置する受容体に対するアロステリックリガンドを含む構築物、ならびにその薬学的に許容可能な塩、アミドまたはエステルに関する。
【0011】
他の態様では、本発明は、かかる構築物および少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤、一般に、特に肥満および関連する状態の予防または治療において医薬として使用するための構築物を含む組成物に関する。
【0012】
一態様では、本発明の構築物は、体重の調節に関与する脳の領域への改善した結合を示す。結合は、BBBによって保護される領域内で特に改善される。
【0013】
一態様では、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物は、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)である。
【0014】
したがって、一態様では、本発明は、脳内の食欲調節領域へ、全身投与されるGLP-1RAのアクセシビリティを増加させる役割を果たす。
【0015】
さらに、または代替的に、本発明は、脳内の追加のGLP-1受容体(GLP-1R)集団、例えば、BBBによって保護される集団を標的とする役割を果たす。
【0016】
一態様では、食欲および体重に対するこれらの効果は、グルコース恒常性を従来のGLP-1療法(例えば、リラグルチドおよびセマグルチドのようなGLP-1誘導体を用いた)による全身治療と同じレベルに維持しながら得られる。
【0017】
さらに、または代替的に、本発明の構築物は、全身投与されたGLP-1RAの、GLP-1Rを発現する脳領域への結合を増加させる。これは、例えば、実施例16に記載される研究によって実証され得る(図16Aを参照されたい)。
【0018】
さらに、または代替的に、本発明の構築物は、全身投与されたGLP-1RAの、BBBによって保護されるGLP-1Rを発現する脳領域への結合を増加させる。これは、例えば、実施例16に記載される研究によって実証され得る(図16Cを参照されたい)。
【0019】
さらに、または代替的に、一態様では、構築物は、食物摂取量を低下する効果を有する。これは、例えば、実施例20、パートIに記載される研究によって実証され得る。
【0020】
さらに、または代替的に、一態様では、構築物は、体重低下を引き起こす効果を有する。これは、例えば、実施例20、パートIIIに記載される研究によって実証され得る。
【0021】
一態様では、BBB内に位置する受容体は、トランスフェリン受容体(TfR)である。
【0022】
TfRはBBB内皮中で高発現し、トランスフェリンの担体タンパク質である。トランスフェリンは、生体液中の遊離鉄(Fe)レベルを制御する鉄結合性血漿糖タンパク質である。トランスフェリンは鉄の細胞内への取り込みに必要であり,細胞内の鉄濃度により調節される。それは、受容体媒介性エンドサイトーシスを介してトランスフェリン-鉄複合体を内在化することによって鉄を移入する。したがって、この受容体経路を介した完全なトランスサイトーシスは起こりにくいと考えられ、これはTfRを送達系として用いるために克服すべき課題の1つである。
【0023】
本発明の特徴についてのより深い理解は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A図1Aは、実施例1に記載するように調製した抗TfR-Fabの構造を示す。
図1B図1Bは、実施例19で使用される、図1AのFabの蛍光標識されたバージョンの構造を示す。
図2図2は、実施例2に記載するように調製したTfRと結合しない対照Fabの構造を示す。
図3図3は、実施例3に記載するように調製した抗TfR-Fabの構造を示す。
図4図4は、実施例4に記載するように調製したTfRと結合しない対照Fabの構造を示す。
図5図5は、実施例5に記載するように調製した対照FabおよびGLP-1類似体の融合タンパク質の構造を示す。
図6図6は、実施例6に記載するように調製したGLP-1抗TfR-Fab融合タンパク質の構造を示す。
図7図7は、実施例7に記載するように調製したGLP-1対照Fab融合タンパク質の構造を示す。
図8図8は、実施例8に記載するように調製した蛍光標識したGLP-1抗TfR-Fab融合タンパク質の構造を示す。
図9図9は、実施例9に記載するように調製した蛍光標識したGLP-1対照Fab融合タンパク質の構造を示す。
図10図10は、実施例10に記載するように調製したGLP-1類似体の構造を示す。
図11図11は、実施例11に記載するように調製したGLP-1抗TfR-Fab複合体の構造を示す。
図12図12は、実施例12に記載するように調製したGLP-1対照Fab複合体の構造を示す。
図13図13は、実施例13に記載するように調製したGLP-1類似体の誘導体の構造を示す。
図14図14は、実施例14に記載するように調製したGLP-1対照Fab複合体の構造を示す。
図15図15は、実施例15に記載するように調製したGLP-1抗TfR-Fab複合体の構造を示す。
図16A図16Aは、マウスへの急性投与後の蛍光標識したGLP-1 Fab融合タンパク質のインビボイメージング、より詳細には、GLP-1Rを発現するすべての脳領域内における定量化後の、TfRと結合する「活性」構築物、およびTfRと結合しない「非活性」対照構築物の蛍光シグナルの総強度の結果を示す。
図16B図16Bは、マウスへの急性投与後の蛍光標識したGLP-1 Fab融合タンパク質のインビボイメージング、より詳細には、GLP-1Rを発現するがBBBを欠く脳室周囲器官内における定量化後の、TfRと結合する「活性」構築物、およびTfRと結合しない「非活性」対照構築物の蛍光シグナルの総強度の結果を示す。
図16C図16Cは、マウスへの急性投与後の蛍光標識したGLP-1 Fab融合タンパク質のインビボイメージング、より詳細には、BBBによって保護される例示的な脳構造内における定量化後の、TfRと結合する「活性」構築物、およびTfRと結合しない「非活性」対照構築物の蛍光シグナルの総強度の結果を示す。
図16D図16Dは、マウスへの急性投与後の蛍光標識したGLP-1 Fab融合タンパク質のインビボイメージング、より詳細には、GLP-1Rを発現しない脳領域内における定量化後の、TfRと結合する「活性」構築物、およびTfRと結合しない「非活性」対照構築物の蛍光シグナルの総強度の結果を示す。
図17A図17Aは、除脂肪マウスにおける急性インビボ研究、より詳細には、「活性」GLP-1抗TfR-Fab複合体の投与後最大24時間の期間にわたるgでの累積食物摂取量(FI)の結果を示す。
図17B図17Bは、除脂肪マウスにおける急性インビボ研究、より詳細には、「活性」GLP-1抗TfR-Fab複合体の投与後最大24時間の期間にわたって測定したpMでの血漿曝露レベルを示す。
図18A図18Aは、除脂肪マウスにおける急性インビボ研究、より詳細には、「活性」GLP-1抗TfR-Fab複合体または「非活性」GLP-1対照-Fab複合体のいずれかの投与後最大24時間の期間にわたるgでの累積食物摂取量(FI)の結果を示す。
図18B図18Bは、除脂肪マウスにおける急性インビボ研究、より詳細には、「活性」GLP-1抗TfR-Fab複合体または「非活性」GLP-1対照-Fab複合体のいずれかの投与後最大24時間の期間にわたって測定したpMでの血漿曝露レベルを示す。
図19A図19Aは、食餌誘発性肥満(DIO)マウスにおける亜慢性インビボ研究、より詳細には、「活性」GLP-1抗TfR-Fab複合体または「非活性」対照Fab複合体のいずれかを1日1回投与した、19日間の治療期間にわたって測定した%での体重低下の結果を示す(さらなる詳細については、実施例20、パートIIIを参照されたい)。
図19B図19Bは、食餌誘発性肥満(DIO)マウスにおける亜慢性インビボ研究、より詳細には、「活性」GLP-1抗TfR-Fab複合体または「非活性」対照Fab複合体のいずれかを1日1回投与した、19日間の治療期間にわたって測定した%での体重低下の結果を示す(さらなる詳細については、実施例20、パートIIIを参照されたい)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、ギリシャ文字は、その記号または対応する名称、例えば:α=アルファ、β=ベータ、ε=イプシロン、γ=ガンマ、δ=デルタ、ω=オメガなどによって表され得る。また、μのギリシャ文字は、「u」によって、例えばμl=ulまたはμM=uMによって表され得る。
【0026】
以下では、化学用語は当技術分野における慣例どおりに使用され、例えば、-C(O)-という名称は、以下のカルボニル基のジラジカルを指し、
化学物質7
【化1】
(COOH)は、例えば、-CH(COOH)-という名称で使用されると、以下の化学物質8のカルボン酸基のモノラジカルを指し、
【化2】
左に示す炭素原子(CH)に付着する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「a」という語は、概して「1つ以上」を意味する。例えば、本発明の構築物(体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする「1つの」化合物、および血液脳関門(BBB)内に位置する受容体に対する「1つの」アロステリックリガンドを含むように定義される)は、かかる化合物およびリガンドのうちの1つ以上が組み込まれ得る。
【0028】
本明細書に別途示されていない限り、単数形で示した用語は、概して複数の状態も含む。
【0029】
本発明はまた、本明細書に開示されるような構築物、化合物、リガンド、GLP-1 RA、GLP-1類似体、調製方法、組成物、および使用に関し、ここで、「~を含む(comprises)」および「~を含む(comprising)」などの制限のない用語は、「~からなる(consists of)」、「~からなる(consisting of)」などの閉鎖的な用語に置き換えられる。
【0030】
本発明は、肥満および関連する状態を治療するための新規化合物ならびにその使用に関する。本発明の化合物は、体重の調節に関与する脳の領域への改善された結合を示す。結合は、特に血液脳関門(BBB)によって保護される領域で改善される。
【0031】
一態様では、本発明は、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物、およびBBB内に位置する受容体に対するアロステリックリガンドを含む構築物、ならびにその薬学的に許容可能な塩、アミドまたはエステルに関する。
【0032】
構築物
「構築物」という用語は、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物、およびBBBに位置する受容体に対するアロステリックリガンドを含み、化合物およびリガンドが、任意でリンカーを介して共有結合する化学物質(分子)を指す。
【0033】
一実施形態では、構築物は、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物、BBBに位置する受容体に対するアロステリックリガンド、および任意のリンカーからなる。
【0034】
一実施形態では、化合物およびリガンドは、互いに直接結合される(リンカーが存在しない)。
【0035】
別の実施形態では、化合物およびリガンドは、リンカーを介して互いに結合される。
【0036】
融合タンパク質
一実施形態では、構築物は、融合タンパク質である。
【0037】
融合タンパク質は、宿主細胞中の融合タンパク質全体の組換え発現のステップを含むプロセスによって生成され得る化合物である。
【0038】
一実施形態では、融合タンパク質のアミノ酸配列は、コードされたアミノ酸のみからなる。
【0039】
一実施形態では、組み換え発現ステップから生じるタンパク質は、所望の融合タンパク質と同一であり、その場合、融合タンパク質は、「完全組み換え」プロセスによって生成されるか、または生成され得る。この場合、融合タンパク質のさらなる化学修飾は必要とされず、発現した融合タンパク質を単離および精製することができ、最終的な所望の生成物を構成する。
【0040】
融合タンパク質の非限定的な一例は、実施例6の融合タンパク質(図6)であり、GLP-1類似体は、ペプチドリンカー(4x(GlyGlyGlySer))を介して、抗TfR-FabのVドメインのN末端と融合する。これら3つの部分のそれぞれのアミノ酸配列は、全てコードされたアミノ酸からなる。
【0041】
複合体
一実施形態では、構築物は、複合体である。
【0042】
一実施形態では、「複合体」は、融合タンパク質ではない。
【0043】
一実施形態では、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物、アロステリックリガンド、および任意のリンカーの間の共有結合は、完全組換えプロセスを除く、任意の化学的プロセスによって形成され得る。
【0044】
一実施形態では、複合体の構造式は、少なくとも1つの非コードアミノ酸を含む。非コードアミノ酸の非限定的な一例は、アミノ酸Aibである(例えば、実施例11の複合体を参照されたい(図11)。
【0045】
さらに、または代替的に、複合体の構造式は、アミノ酸ではない少なくとも1つの要素を含む。かかる要素の非限定的な一例は、化学物質1:-CH-C(O)-(例えば、実施例11の複合体を参照されたい(図11)などの化学的リンカーであり、化学物質1のリンカーは、Lys485のイプシロンアミノ基およびCys377のチオール基を接続する。かかる要素の別の非限定的な例は、化学物質2:-CH-C(O)-Ado-gGlu-Ado(例えば、実施例15の複合体を参照されたい)の化学的リンカーであり、化学物質2のリンカーは、Lys438のイプシロンアミノ基およびCys377のチオール基を接続する。
【0046】
いくつかの実施形態では、複合体は、部分的組換えプロセスによって生成され得るか、または生成され、(例えば所望の複合体のタンパク質部分は、組換え発現ステップで生成され得るか、または生成され、所望の複合体の残りの部分(複数可)は、組換え発現ステップの後、宿主細胞の外側の1つ以上の化学反応ステップにおいて、1つ以上の別個のプロセスステップで追加され得るか、または追加される。こうした生成プロセスは、「半組換え」プロセスと称され得る。
【0047】
体重の調節に関与する脳内の領域
体重の調節に関与する脳内の領域の非限定的な例は、Bloemendaal et al、「Effects of glucagon-like peptide 1 on appetite and body weight:focus on the CNS」、Thematic Review、Journal of Endocrinology(2014)、221、T1-T16で言及され、例えばp.T8の図1を参照されたい。
【0048】
いくつかの実施形態では、体重の調節に関与する脳内の領域には、限定されないが、側方中隔核(LS)、歯状回(DG)、内側手綱(MH)、および/または傍小脳脚核(PB)が含まれる(図16Cおよび実施例16を参照されたい)。
【0049】
いくつかの実施形態では、体重の調節に関与する脳内の領域には、限定されないが、側坐核(ACB)、視床下部の背内側核(DMH)、外側視床下部野(LHA)、および/または外側手綱(LH)が含まれる。
【0050】
体重の調節
一実施形態では、体重の調節は、体重の減少を指す。
【0051】
一実施形態では、体重の減少は、食物摂取量の減少、カロリー摂取量の減少、食欲の減少、エネルギー消費量の増加、および/または食物嗜好の変化のうちの1つ以上に起因し得る。
【0052】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の構築物の化合物部分は、a)食物摂取量の減少、b)カロリー摂取量の減少、c)食欲の減少、d)エネルギー消費量の増加、および/またはe)食物嗜好の変化に関与する脳内の領域を標的とする。
【0053】
いくつかの実施形態では、本発明は、体重管理のための方法に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、食欲の減少のための方法に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、食物摂取量の減少のための方法に関する。
【0054】
一般に、肥満を患っているすべての対象は、過体重も患っていると考えられる。いくつかの実施形態では、本発明は、肥満を治療または予防するための方法に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、肥満を治療または予防するための本発明の構築物の使用に関する。いくつかの実施形態では、肥満を患っている対象は、成人のヒトまたは小児のヒト(幼児、児童、および青年を含む)などのヒトである。ボディマス指数(BMI)は、身長および体重に基づく体脂肪の指標である。計算式は、BMI=体重(キログラム)/身長(メートル)である。肥満を患っているヒト対象は30以上のBMIを有することがあり、この対象は肥満とも呼ばれる場合がある。いくつかの実施形態では、肥満を患っているヒト対象は、35以上のBMIを有するか、または30以上40未満の範囲のBMIを有する。いくつかの実施形態では、肥満は、ヒト対象が40以上のBMIを有する重度の肥満または病的肥満である。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明は、任意で少なくとも1つの体重に関連する併存疾患の存在下での過体重の治療または予防のための方法に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、任意で少なくとも1つの体重に関連する併存疾患の存在下での過体重の治療または予防のための本発明の構築物の使用に関する。いくつかの実施形態では、過体重を患っている対象は、成人のヒトまたは小児のヒト(幼児、児童、および青年を含む)などのヒトである。いくつかの実施形態では、過体重を患っているヒト対象は、25以上のBMI、例えば27以上のBMIなどを有する。いくつかの実施形態では、過体重を患っているヒト対象は、25~30未満の範囲または27~30未満の範囲のBMIを有する。いくつかの実施形態では、体重に関連する併存疾患は、高血圧、糖尿病(2型糖尿病など)、脂質異常症、高コレステロール、および閉塞性睡眠時無呼吸からなる群から選択される。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明は、体重の減少のための方法に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、体重の減少のための本発明の構築物の使用に関する。本発明による体重の減少を享受するヒトは、25以上のBMI、例えば27以上のBMIまたは30以上のBMIなどを有し得る。いくつかの実施形態では、本発明による体重の減少を享受するヒトは、35以上のBMIまたは40以上のBMIを有し得る。「体重の減少」という用語は、肥満および/もしくは過体重の治療または予防を含み得る。
【0057】
化合物
体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物には、これらに限定されないが、栄養状態に関する食事関連情報を脳に伝達することによって、栄養調節の担い手として特定されている腸由来ホルモンが含まれる。
【0058】
一実施形態では、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物は、タンパク質である。一実施形態では、化合物は、ポリペプチドである。一実施形態では、化合物は、ペプチドである。
【0059】
一実施形態では、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物は、ホルモンである。一実施態様では、化合物は、腸由来ホルモンである。一実施形態では、ホルモンは、エイコサノイド、ステロイド、およびアミノ酸/タンパク質誘導体からなる群から選択される。一実施形態では、ホルモンは、アミノ酸/タンパク質誘導体である。
【0060】
一実施形態では、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物は、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)である。
【0061】
一実施形態では、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物は、インスリン分泌剤である。この用語は、当技術分野で即知であるように、インスリン分泌促作用または生理学的効果をもたらすシグナル伝達経路を開始する能力を指す。
【0062】
一実施形態では、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物は、体重の調節に関与する脳内の経路を標的とする。一実施形態では、化合物は、体重の調節に関与する脳内の受容体を標的とする。
【0063】
BBB内に位置する受容体
血液脳関門(BBB)内に位置する受容体は、脳毛細血管内皮で発現する内因性受容体である。
【0064】
一実施形態では、BBB内に位置する受容体は、トランスフェリン受容体(TfR)である。
【0065】
アロステリック/オルソステリック
受容体の「オルソステリックリガンド」は、受容体の活性化を調節する内因性または一次的なリガンドである。オルソステリックリガンドが受容体と結合する部位は、受容体の「オルソステリック部位」と称される。
【0066】
受容体の「アロステリックリガンド」とは、内在性(オルソステリック)リガンドとは異なる部位で、すなわち受容体の「アロステリック部位」と結合するリガンドを指す。
【0067】
例として、トランスフェリン(Tf)は、トランスフェリン受容体(TfR)の活性化を調節するオルソステリックリガンドであり、TfはTfRのオルソステリック部位と結合する。TfRのアロステリックリガンドは、オルソステリックリガンド(Tf)とは異なる部位で、すなわちTfRのアロステリック部位と結合する。
【0068】
GLP-1受容体作動薬
受容体作動薬は、受容体と結合し、天然リガンドに典型的な応答を誘発する化合物として定義され得る。完全作動薬は、天然リガンドと同じ度合いの応答を誘発する作動薬として定義され得る(例えば、「Principles of Biochemistry」、AL Lehninger、DL Nelson、MM Cox、第2版、Worth Publishers、1993年、763ページを参照されたい)。
【0069】
したがって、例えば、「GLP-1受容体作動薬」(GLP-1RA)は、GLP-1受容体(GLP-1R)と結合することができ、それを活性化することができる化合物として定義され得る。また、「完全」GLP-1RAは、天然GLP-1と同等の程度のGLP-1受容体応答を誘発することができるGLP-1受容体作動薬として定義され得る。一実施形態では、GLP-1受容体は、ヒトGLP-1受容体である。
【0070】
ヒトGLP-1受容体を活性化する能力は、ヒトGLP-1受容体を発現する膜を含む培地において、および/またはヒトGLP-1受容体を発現する全細胞を用いたアッセイにおいて適切に決定され得る。
【0071】
例えば、ヒトGLP-1受容体を発現する安定なトランスフェクト細胞株から精製された原形質膜は、論点の化合物で刺激され得、cAMP生成の効力は、例えば、特定の抗体を使用して捕捉され得る、内因的に形成されたcAMPと外因的に添加されたビオチン標識cAMPとの間の競合に基づいて、測定され得る。
【0072】
さらに、または代替的に、ヒトGLP-1受容体の応答は、レポーター遺伝子アッセイ、例えばヒトGLP-1受容体を発現し、プロモーターと結合したcAMP応答要素(CRE)のDNAおよびホタルルシフェラーゼ(CREルシフェラーゼ)の遺伝子を含む、安定的にトランスフェクトされたBHK細胞株で測定され得る。GLP-1受容体の活性化の結果としてcAMPが生成されると、これは次にルシフェラーゼの発現をもたらす。ルシフェラーゼは、ルシフェリンを追加することによって決定することができ、これは酵素によってオキシルシフェリンに変換されて生物発光を生じ、これが測定されて、インビトロ効力の尺度となる。かかるアッセイの非限定的な一例は、実施例17に記載される。
【0073】
50%効果濃度(EC50)という用語は一般的に、用量反応曲線を参照することにより、ベースラインと最大との中間の反応を誘発する濃度を指す。EC50は、化合物の効力の尺度として使用され、その最大効果の50%が観察される濃度を表す。
【0074】
本発明の構築物およびGLP-1RA化合物のインビトロ効力は、上記のように決定され得、論点の化合物または構築物のEC50が決定され得る。EC50値がより低いほど、効力がより良好である。
【0075】
いくつかの実施形態では、本発明の構築物のGLP-1RAは、GLP-1類似体である。いくつかの実施形態では、本発明の構築物のGLP-1RAは、GLP-1誘導体である。
【0076】
GLP-1類似体の非限定的な例は、実施例6、10、および13(図6図10図13)、すなわち配列番号11のアミノ酸1~31、配列番号13のアミノ酸1~28、および配列番号15のアミノ酸1~31のそれぞれのものである。
【0077】
GLP-1誘導体の非限定的な例は、実施例10および13(配列番号13、配列番号15)に開示される。これらは、共有結合リンカーを有するGLP-1類似体である。
【0078】
リンカー
本発明の構築物は、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物を、BBB内に位置する受容体に対するアロステリックリガンドと接続するリンカーを含み得る。言い換えれば、リンカーは、任意である。
【0079】
一実施形態では、リンカーは、ペプチド性である。ペプチドリンカーは、アミノ酸からなる。一実施形態では、ペプチドリンカーは、アミノ酸からなる。一実施形態では、リンカーは、コードされたアミノ酸からなる。
【0080】
ペプチドリンカーの非限定的な例は、GQAPGQAPGQAPGQAPGQAPK(配列番号13)およびGGGSGGGSGGGSGGGS(配列番号11の残基32~47)であり、実施例11および6(図11および図6のそれぞれ)を参照されたい。
【0081】
別の実施形態では、リンカーは、非ペプチド性、または化学的である。非ペプチド性リンカーは、アミノ酸残基を含み得るが、それは完全にアミノ酸からなるものではない。
【0082】
非ペプチドリンカーの非限定的な例は、化学物質1:-CH-C(O)-であり、実施例11(図11)を参照されたく、化学物質2:-CH-C(O)-Ado-gGlu-Ado-であり、式中、Adoは、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸のジラジカルであり、化学物質3:-NH-(CH-O-(CH-O-CH-C(O)-であり、gGluは、L-ガンマ-グルタミン酸のジラジカルであり、化学物質4:-NH-CH(COOH)-(CH-C(O)-であり、実施例15(図15)を参照されたい。
【0083】
アミノ酸、ペプチド、タンパク質
アミノ酸は、アミン基およびカルボン酸基、ならびに任意で側鎖と称されることが多い1つ以上の追加の基を含む化合物として定義され得る。アミン基は、例えば、一級または二級アミノ基であり得る。プロリンは、二級アミノ基を含むアミノ酸の非限定的な一例である。
【0084】
アミノ酸のサブグループは、一級または二級アミノ基の窒素原子がα-炭素原子と結合されたα-アミノ酸である。
【0085】
アミノ酸残基は、ペプチドまたはタンパク質に組み込まれたアミノ酸のラジカルである。
【0086】
ペプチドは、サイズに基づいてポリペプチドおよびタンパク質と区別される。本文脈では、特に指定されない限り、ペプチドは、最大50個のアミノ酸残基からなるが、ポリペプチドおよびタンパク質は、50個を超えるアミノ酸残基からなる。タンパク質は、生物学的に機能的な方法で配置され得る1つ以上のポリペプチド鎖からなり得る。特定の実施形態では、ペプチドは、(i)少なくとも2個のアミノ酸残基、(ii)少なくとも5個のアミノ酸残基、(iii)少なくとも10個のアミノ酸残基、(iv)少なくとも20個のアミノ酸残基、(v)少なくとも30個のアミノ酸残基、または(vi)少なくとも40個のアミノ酸残基からなる。さらに特定の実施形態では、ポリペプチドは、(i)2000個以下のアミノ酸残基、(ii)1500個以下のアミノ酸残基、(iii)1000個以下のアミノ酸残基、または(iv)600個以下のアミノ酸残基からなる。さらに特定の実施形態では、タンパク質は、(i)2000個以下のアミノ酸残基、(ii)1500個以下のアミノ酸残基、(iii)1000個以下のアミノ酸残基、(iv)600個以下のアミノ酸残基、または(v)500個以下のアミノ酸残基からなる。
【0087】
アミノ酸は、コードされたアミノ酸または非コードアミノ酸として、起源に基づいて分類され得る。「コードされた」アミノ酸(「天然」アミノ酸とも称される)という用語は、IUPAC(セクション3AA-1内の表1)(http://www.chem.qmul.ac.uk/iupac/AminoAcid/AA1n2.html#AA1)を参照することによって定義され得、これらの20アミノ酸についての構造、慣用名、系統名、1および3文字の記号を記載する。これらはすべてα-アミノ酸である。
【0088】
非コードアミノ酸の非限定的な一例は、Aibであり、α-アミノイソ酪酸としても知られ、以下の構造を有する:
化学物質6:
【化3】
【0089】
GLP-1ペプチドおよび類似体
本明細書で使用される「GLP-1ペプチド」という用語は、ヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1(7~37))を指し、その配列は配列番号16として列挙される配列、またはその類似体に含まれる。配列番号16の配列を有するペプチドはまた、「天然」GLP-1と称され得る。
【0090】
本明細書で使用される「GLP-1類似体」または「GLP-1の類似体」という用語は、GLP-1(7~37)(配列番号16)のバリアントであるペプチドまたは化合物を指す。
【0091】
配列表では、配列番号16(ヒスチジン)の第1のアミノ酸残基には番号1が割り当てられている。しかしながら、当該技術分野において確立された慣行に従って、以下では、このヒスチジン残基は番号7と称され、それ以降のアミノ酸残基はそれに応じて番号付けされ、グリシン番号37で終わる。したがって、概して、本明細書におけるGLP-1(7-37)配列のアミノ酸残基番号または位置番号への言及は、7位のHisで始まり37位のGlyで終わる配列への言及である。
【0092】
本発明の構築物および誘導体のGLP-1類似体は、i)変化したアミノ酸残基(すなわち、天然GLP-1内の対応する位置)に対応する天然GLP-1(7-37)内のアミノ酸残基の番号、およびii)実際の変化を参照することにより説明され得る。
【0093】
GLP-1類似体は、天然GLP-1(7~37)(配列番号16)と比較した場合に、アミノ酸残基の番号が変化しているGLP-1(7~37)ペプチドである。これらの変化は、独立して、1つ以上のアミノ酸置換、付加、および/または欠失を表し得る。
【0094】
上記の例から明らかなように、アミノ酸残基は、その完全な名称、1文字コードおよび/または3文字コードによって特定され得る。これら3つの方法は、完全に同等である。
【0095】
「~に同等の位置」または「対応する位置」という表現は、天然GLP-1(7-37)(配列番号16)を参照してバリアントGLP-1(7-37)配列の変化部位を特徴付けるために使用され得る。同等の、または対応する位置、ならびに変化の数は、例えば単純な手書きおよび目測によって簡単に推定され、および/またはNeedleman-Wunschアルゴリズムに基づく「整列」などの標準タンパク質またはペプチド整列プログラムを使用してもよい。このアルゴリズムは、Needleman,S.B.and Wunsch,C.D.,(1970),Journal of Molecular Biology,48:443-453、およびMyers and W.Miller、「Optimal Alignments in Linear Space」 CABIOS(computer applications in the biosciences)(1988)4:11-17による整列プログラムに説明されている。整列のために、デフォルトのスコアマトリックスBLOSUM62およびデフォルトの同一性マトリックスを使用してもよく、またギャップの第1の残基に対するペナルティは-12、好ましくは-10に設定されてもよく、そしてギャップにおける追加的な残基に対するペナルティは-2、好ましくは-0.5に設定されてもよい。
【0096】
「ペプチド」という用語は、例えば本発明の誘導体のGLP-1類似体の文脈で使用される場合、アミド(またはペプチド)結合によって相互接続された一連のアミノ酸を含む化合物を指す。
【0097】
本発明のGLP-1ペプチドは、ペプチド結合によって結合された少なくとも5個の構成アミノ酸を含む。特定の実施形態では、GLP-1ペプチドは、少なくとも10個、好ましくは少なくとも15個、より好ましくは少なくとも20個、なおより好ましくは少なくとも25個、または最も好ましくは少なくとも28個のアミノ酸を含む。
【0098】
追加的な特定の実施形態では、ペプチドは、i)29、ii)30、iii)31、もしくはiv)32個のアミノ酸a)から構成されるか、またはb)それらからなる。
【0099】
なおさらなる特定の実施形態では、ペプチドは、ペプチド結合によって相互接続されたアミノ酸からなる。
【0100】
以下では、光学異性体が記載されていないGLP-1ペプチドのすべてのアミノ酸は、(別段の指定がない限り)L-異性体を意味すると理解されるべきである。
【0101】
薬学的に許容可能な塩、アミド、エステル
本発明の構築物は、薬学的に許容可能な塩、アミド、またはエステルの形態であり得る。これはまた、その構築化合物およびリガンド部分も同様である。
【0102】
塩は、例えば、塩基と酸との間の化学反応、例えば:2NH+HSO→(NHSOによって形成される。
【0103】
塩は塩基性塩、酸性塩である場合があり、またはどちらでもない場合もある(すなわち、中性塩)。塩基性塩は、水中で水酸化イオンを、酸性塩はヒドロニウムイオンを生成する。
【0104】
塩は、それぞれ、アニオン基またはカチオン基の間に、付加されたカチオンまたはアニオンで形成され得る。これらの基は、本発明の構築物の化合物部分、リガンド部分、および/または任意のリンカー部分に位置し得る。
【0105】
本発明の構築物のアニオン性基の非限定的な例には、遊離カルボン酸基、例えば、構築物のC末端アミノ酸における遊離カルボン酸基、およびAspおよびGluなどの内部酸アミノ酸残基における遊離カルボン酸基が含まれる。
【0106】
カチオン性基の非限定的な例には、存在する場合、N末端の遊離アミノ基、ならびにHis、ArgおよびLysなどの内部塩基アミノ酸残基の任意の遊離アミノ基が含まれる。
【0107】
本発明の構築物のエステルは、例えば、遊離カルボン酸基とアルコールまたはフェノールとの反応によって形成されてもよく、これは、アルコキシまたはアリールオキシ基による少なくとも1つのヒドロキシル基の置換をもたらす。
【0108】
エステル形成は、C末端の遊離カルボン酸基、および/または構築物の内部の任意の遊離カルボン酸基を含み得る。
【0109】
本発明の構築物のアミドは、例えば、遊離カルボン酸基とアミンもしくは置換アミンの反応によって、または遊離もしくは置換アミノ基とカルボン酸の反応によって形成され得る。
【0110】
アミド形成には、C末端における遊離カルボン酸基、構築物の内部の任意の遊離カルボン酸基、構築物のN末端の遊離アミノ基、および/または構築物の内部の任意の遊離もしくは置換アミノ基が含まれ得る。
【0111】
特定の実施形態では、構築物は、薬学的に許容可能な塩の形態である。別の特定の実施形態では、構築物は、薬学的に許与可能なアミドの形態であり、好ましくは、C末端にアミド基を有する。なおさらなる特定の実施形態では、構築物は、薬学的に許容可能なエステルの形態である。
【0112】
生成プロセス
本明細書に開示される対照Fab、抗TfR-Fab、およびGLP-1類似体のようなタンパク質およびペプチドの生成は、当技術分野で周知である。
【0113】
GLP-1類似体は、例えば、t-BocもしくはFmoc化学または他の定評のある技術を用いた従来のペプチド合成、例えば、固相ペプチド合成により生成されてもよく、例えば、Greene and Wuts,「Protective Groups in Organic Synthesi」、John Wiley & Sons,1999,Florencio Zaragoza Dorwald,「Organic Synthesis on solid Phase」、Wiley-VCH Verlag GmbH,2000,and 「Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis」,Edited by W.C.Chan and P.D.White,Oxford University Press,2000を参照されたい。
【0114】
さらに、または代替的に、それらは、遺伝子組換え方法により、すなわち、類似体をコードしているDNA配列を含み、かつペプチドの発現を許す条件下で、適切な栄養培地でペプチドを発現することができる宿主細胞を培養することによって、生成され得る。これらのペプチドの発現に適した宿主細胞の非限定的な例は、大腸菌、出芽酵母、ならびに哺乳類BHKまたはCHO細胞株である。
【0115】
非コードアミノ酸を含む本発明の構築物は、例えば、実験部分で記載されるように生成され得る。または、例えば、Hodgson et al:「The synthesis of peptides and proteins containing non-natural amino acids」,Chemical Society Reviews,vol.33,no.7(2004),p.422-430、および「Semi-recombinant preparation of GLP-1 analogues」と題されたWO2009/083549 A1を参照されたい。
【0116】
いくつかの構築物を調製する方法の特定の例は、実験部分に含まれる。
【0117】
医薬組成物
一実施形態では、本発明の組成物は、医薬組成物である。
【0118】
本発明の構築物またはその薬学的に許容可能な塩、アミド、もしくはエステルおよび薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物は、当該技術分野で公知のように調製され得る。
【0119】
「賦形剤」という語は、活性治療成分(複数可)以外の任意の成分を広く指す。賦形剤は、不活性物質、非活性物質、および/または医薬的に活性でない物質であり得る。
【0120】
賦形剤は、例えば、担体、ビヒクル、希釈剤、錠剤補助剤などの様々な目的を果たし、ならびに/あるいは活性物質の投与および/または吸収を改善するように機能し得る。
【0121】
様々な賦形剤を伴った薬学的に活性な成分の製剤は、当該技術分野で既知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(例えば、第19版(1995年)、および任意のそれ以降の版)を参照されたい。
【0122】
賦形剤の非限定的な例は、溶媒、希釈剤、緩衝液、防腐剤、張性調節剤、キレート剤、および安定剤である。
【0123】
製剤の例としては、液体製剤、すなわち水を含む水性製剤が含まれる。液体製剤は、溶液または懸濁液であり得る。水性製剤は、典型的には、少なくとも50%w/wの水、または少なくとも60%、70%、80%、もしくは少なくとも90%w/wの水を含む。
【0124】
代替的に、医薬組成物は、例えば、凍結乾燥または噴霧乾燥などの固体製剤であり得、そのまま使用してもよく、医師または患者が使用前に溶媒および/または希釈剤を追加して使用することもできる。
【0125】
医薬組成物は、緩衝液を含み得る。
【0126】
医薬組成物は、防腐剤を含み得る。
【0127】
医薬組成物は、キレート剤を含み得る。
【0128】
医薬組成物は、安定化剤を含み得る。
【0129】
医薬組成物は、1つ以上の界面活性剤を含み得る。
【0130】
医薬組成物は、1つ以上のプロテアーゼ阻害剤を含み得る。
【0131】
本発明の構築物は、医薬組成物の形態で投与され得る。医薬組成物は、それを必要とする患者に、いくつかの部位で投与され得る。
【0132】
投与経路は、例えば、非経口であり得る。
【0133】
組成物は、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、微乳濁液、複数の乳濁液、注射液、注入液として、いくつかの剤形で投与され得る。
【0134】
全身または非経口投与は、シリンジによって、任意にペン様シリンジまたは注入ポンプによって皮下、筋肉内、腹腔内または静脈内注射により実施され得る。
【0135】
本発明による構築物を用いた治療はまた、1つ以上の追加の薬理学的に活性な物質と組み合わせることもできる。
【0136】
本発明による構築物を用いた治療はまた、ブドウ糖レベル、および/または胃バンディングまたは胃バイパスなどの脂質恒常性に影響を与える手術と組み合わせることもできる。
【0137】
特定の実施形態
本発明は、以下の非限定的な実施形態によってさらに記載される。
1.構築物は、体重の調節に関与する脳内の領域を標的とする化合物、および血液脳関門(BBB)内に位置する受容体に対するアロステリックリガンドを含み、またはその薬学的に許容可能な塩、アミドもしくはエステルである。
2.実施形態1に記載の構築物は、化合物が、体重の調節に関与する脳内の経路を標的とする。
3.実施形態1または2に記載の構築物は、化合物が、体重の調節に関与する脳内の受容体を標的とする。0
4.実施形態1~3のいずれか1つに記載の構築物は、化合物が、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である。0
5.実施形態1~4のいずれか1つに記載の構築物は、化合物が、ホルモンである。0
6.実施形態5に記載の構築物は、ホルモンが、エイコサノイド、ステロイド、およびアミノ酸/タンパク質誘導体からなる群から選択される。
7.実施形態5に記載の構築物は、ホルモンが、アミノ酸/タンパク質誘導体である。0
8.実施形態1~7のいずれか1つに記載の構築物は、化合物が、腸由来ホルモンである。
9.実施形態1~8のいずれか1つに記載の構築物は、化合物が、インスリン分泌剤である。
10.実施形態1~9のいずれか1つに記載の構築物は、化合物が、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)である。
11.実施形態1~10のいずれか1つに記載の構築物は、BBB内に位置する受容体が、トランスフェリン受容体(TfR)である。
12.実施形態11に記載の構築物は、TfRと結合するアロステリックリガンドが、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である。
13.実施形態11または12に記載の構築物は、TfRと結合するアロステリックリガンドが、抗トランスフェリン受容体Fab(抗TfR-Fab)である。
14.実施形態1~13のいずれか1つに記載の構築物は、融合タンパク質または複合体である。
15.実施形態1~14のいずれか1つに記載の構築物は、リンカーをさらに含む。0
16.実施形態15に記載の構築物は、リンカーが、ペプチド性または非ペプチド性である。
17.実施形態1~16のいずれか1つに記載の構築物は、GLP-1RAである。0
18.実施形態1~17のいずれか1つに記載の構築物は、完全GLP-1RAである。0
19.実施形態1~18のいずれか1つに記載の構築物は、実施例17のアッセイを使用して決定された、1000pM以下のEC50に対応するインビトロ効力を有する。0
20.実施形態1~19のいずれか1つに記載の構築物は、GLP-1Rと結合することができる。
21.実施形態1~20のいずれか1つに記載の構築物は、実施例18のアッセイを使用して決定された、100nM以下のIC50に対応するGLP-1R結合親和性を有する。
22.実施形態1~21のいずれか1つに記載の構築物は、トランスフェリン受容体(TfR)と結合することができる。0
23.実施形態1~22のいずれか1つに記載の構築物は、TfR標的抗体の取り込みを阻害することができる。0
24.実施形態23に記載の構築物は、実施例19のアッセイを使用して決定された、100nM以下のIC50に対応するTfR標的抗体の取り込みを阻害する。
25.実施形態24に記載の構築物は、IC50値が、同じGLP-1RAを組み込んでいるが、TfRと結合しないリガンドを組み込んだ対照構築物のIC50値よりも低くなり、ここで、両方のIC50値は、実施例19のアッセイを使用して決定される。
26.実施形態11~25のいずれか1つに記載の構築物は、TfRと結合しないリガンドを組み込むことだけが構築物と異なる対照構築物と比較して、GLP-1Rを発現する脳領域への増加した結合を示す。
27.実施形態26に記載の構築物は、GLP-1Rを発現する脳領域への結合が、蛍光標識した構築物のインビボイメージングを使用して決定される。0
28.実施形態27に記載の構築物は、GLP-1Rを発現する脳領域の少なくとも大部分において、対照構築物と比較してより高い蛍光シグナルをもたらし、GLP-1Rを発現する脳領域は、図16Aに示される通りである。0
29.実施形態28に記載の構築物は、蛍光シグナルが、GLP-1R発現脳領域において少なくとも50%、60%、70%、80%、または好ましくは少なくとも90%高い。0
30.実施形態26~29のいずれか1つに記載の構築物は、GLP-1Rを発現する脳領域への結合が、本質的に実施例16に記載されるように決定される。
31.実施形態11~30のいずれか1つに記載の構築物は、TfRと結合しないリガンドを組み込むことだけが構築物と異なる対照構築物と比較して、BBBによって保護されるGLP-1R発現脳領域への増加した結合を示す。
32.実施形態31に記載の構築物は、GLP-1Rを発現するBBBで保護される脳領域の少なくとも大部分において、対照構築物と比較してより高い蛍光シグナルをもたらす。0
33.実施形態32に記載の構築物は、GLP-1Rを発現するBBBで保護される脳領域が、図16Cに示されるようにLS、DG、MH、およびPBである。0
34.実施形態32に記載の構築物は、GLP-1Rを発現するBBBで保護される脳領域が、ACB、DMH、LHA、およびLHである。0
35.実施形態32~34のいずれか1つに記載の構築物は、蛍光シグナルが、GLP-1R発現脳領域において少なくとも50%、60%、70%、80%、または少なくとも90%高い。
36.実施形態32~35のいずれか1つに記載の構築物は、蛍光シグナルが、対照構築物の蛍光シグナルよりも少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、または少なくとも10倍高い。
37.実施形態32~36のいずれか1つに記載の構築物は、BBBによって保護されるGLP-1R発現脳領域への結合が、本質的に実施例16に記載されるように決定される。
38.実施形態1~37のいずれか1つに記載の構築物は、食物摂取量を低下させる。0
39.実施形態38に記載の構築物は、食物摂取量を従属的に低下させる。0
40.実施形態38または39に記載の構築物は、TfRと結合しないリガンドを組み込むことだけが構築物と異なる対照構と比較して、より低い食物摂取量をもたらす。
41.実施形態38~40のいずれか1つに記載の構築物は、食物摂取量が、24時間の期間にわたるgでの累積食物摂取量である。
42.実施形態38~41のいずれか1つに記載の構築物は、食物摂取量が、本質的に実施例20、パートIまたはパートIIに記載されるように、除脂肪マウスにおける急性研究で決定される。
43.実施形態1~42のいずれか1つに記載の構築物は、体重低下を引き起こす。0
44.実施形態43に記載の構築物は、TfRと結合しないリガンドを組み込むことだけが構築物と異なる対照構と比較して、より高い体重低下を引き起こす。
45.実施形態43または44に記載の構築物は、体重低下が、本質的に実施例20、パートIIIに記載されるように、DIOマウスにおける亜慢性研究で決定される。
46.組成物は、実施形態1~45のいずれか1つに記載の構築物および少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む。0
47.実施形態1~45のいずれか1つに記載の構築物、または実施形態46の組成物は、医薬として使用するためのものである。
48.実施形態1~45のいずれか1つに記載の構築物、または実施形態46に記載の組成物は、肥満の予防または治療に使用するためのものである。00
49.肥満の予防または治療のための方法は、実施形態1~45のいずれか1つに記載の構築物または実施形態46の組成物を投与することを含む。00
【実施例
【0138】
この実験部分は、略語のリストで始まり、本発明の構築物を検出および特徴付けるための一般的な方法を含むセクションが続く。次に、特定の構築物部分および構築物の調製に関連するいくつかの実施例が続き、最後にこれらの類似体および誘導体の活性ならびに特性に関連するいくつかの実施例が含まれる(薬理学的方法という見出しのセクション)。
【0139】
実施例は、本発明を例証する役割を果たす。
【0140】
【表A-1】
【表A-2】
【表A-3】
【0141】
全般的な検出および特徴付けの方法
1.LC-MS法
【0142】
【表B】
【0143】
方法:LCMS_36
このプロトコルは、プロトコルタイトルで表されるMS法を概説し、方法の説明を分析結果にリンクするために使用される。この方法は、試料のクロマトグラフィー分離によって分析対象物の純度を測定し、質量スペクトルおよび総イオン数(TIC)によって成分を同定および定量するために使用される。
【0144】
【表C】
【0145】
実施例1:
抗TfR-Fabの一過性発現
本実施例は、図1A(配列番号3)に示される抗Tfr-Fabの一過性発現を説明する。

軽鎖(配列番号1):
DIQMTQSPASLSASLEEIVTITCQASQDIGNWLAWYQQKPGKSPQLLIYGATSLADGVPS
RFSGSRSGTQFSLKISRVQVEDIGIYYCLQAYNTPWTFGGGTKLELKRTVAAPSVFIFPP
SDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLT
LSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC

重鎖(配列番号2):
EVQLVESGGGLVQPGNSLTLSCVASGFTFSNYGMHWIRQAPKKGLEWIAMIYYDSSKMNYADTVKGRFTISRDNSKNTLYLEMNSLRSEDTAMYYCAVPTSHYVVDVWGQGVSVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGCLTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESK
【0146】
抗TfR-Fabは、US2010/0077498 A1で公開されている可変ドメイン、ならびにヒトCおよびIgG4C1ドメインを有するキメラFabとして設計した。C1ドメインは、A158C変異を担持し、化学的複合体化のためのシステインハンドルを生成する。
【0147】
抗TfR-Fabをコードする核酸配列をpTT5由来の発現ベクターにクローン化した。Fabを発現するために、HEK293 6E細胞を1x10E6細胞/mlの細胞密度まで培養し、リポフェクチン(Invitrogen、カタログ番号12347-500)を使用して発現ベクタープラスミドDNAをトランスフェクトした。発現上清を、トランスフェクションの5日後に遠心分離および濾過することにより、発現上清を回収した。
【0148】
分泌された抗TfR-Fabを含有する細胞培養上清を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で平衡化したプロテインGセファロース4FFアフィニティカラム(GE Healthcare)に適用した。結合したFabを、0.1Mグリシン-HCl、pH2.8で溶出した。画分を収集し、1/20体積2 M Tris-HCl、pH9.0で直ちに中和した。次いでプールした画分を25mM NaOAcpH5.0に希釈し、SP HPカラム(GE Healthcare)に適用した。結合したFabは、25mM NaOAc pH5.0中の100~400mMのNaCl線形勾配で溶出し、G25脱塩カラム(GE Healthcare)上でPBSに緩衝液交換した。精製したタンパク質を、0.2mmフィルター単位(Sartorius)を通して濾過により滅菌した。抗TfR-Fabの純度を、SDS-PAGEおよびサイズ排除HPLCで分析した。Fabの同一性を質量分析により確認した。
【0149】
純度は、SDS-PAGEでは95%、SEC-HPLC(A280nm)では99.1%を上回った。観察した質量は47198.3Daであり、理論質量(47198.5Da)と一致した。
【0150】
実施例2
対照Fabの一過性発現
この実施例は、TfRと結合しない図2に示す対照Fabの一過性発現を説明する。図2の対照Fabは、配列番号5のアミノ酸配列を有する。

軽鎖(配列番号4):
DIVMTQTPLSLSVTPGQPASISCRSSQSLLHSNGNTYLHWYLQKPGQSPQLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCSQSTHVPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSV
FIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSL
SSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0151】
対照Fabは、抗TNP抗体の軽鎖(配列番号4)の可変ドメイン、および実施例1の抗TfR抗体(配列番号2)と同じ重鎖を有するように設計した。
【0152】
実施例1に記載される同様の手順を使用して、対照Fabをクローン化し、発現させた。
【0153】
純度は、SDS-PAGEでは95%、SEC-HPLC(A280nm)では99.2%を上回った。観察した質量は47787.4Daであり、理論質量(47787.0Da)と一致した。
【0154】
実施例3:
抗TfR-Fabを発現する安定した細胞株の生成
本実施例は、図3に示される抗TfR-Fabを発現する安定細胞株の生成を説明する(図1A、配列番号3に示されるのと同じ)。
【0155】
実施例1の抗TfR-Fabを発現する安定細胞株は、GS選択を伴うCHO K1SV GS KO細胞株(Lonza)を使用して生成した。N末端CD33シグナルペプチド(配列番号17)を有するFab軽鎖(配列番号1)および重鎖(配列番号2)を、pEE17.4ベクター(Lonza)にサブクローン化した。DNAを線形化し、エレクトロポレーションによりCHO K1SV GS KO細胞株にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞マイクロプールを、CD CHO培地(Thermo Fisher Scientific)中で、25MのMSX(Sigma-Aldrich)濃度で2週間増殖させた。次に、細胞をMSXを含まない96ディープウェルプレートに移し、プロテインGセンサ(Fortebio)を使用したFortebio分析により、より高い発現量の24個のマイクロプールを選択した。
【0156】
より高い発現安定性を達成するために、単一細胞クローンを、限られた希釈により選択した高発現マイクロプールで単離した。細胞を2~3週間増殖させ、96個の単一クローンをピッキングし、Fortebioによりスクリーニングした。上位24個のクローンを24ウェルプレートでさらに増殖させ、プロテインGセンサおよびSDSPAGE分析を使用してFortebioによってランク付けした。6個のそれぞれの最も発現の高い細胞クローンを、さらなる安定性試験に使用した。HPLCによる発現レベル評価のため、フェッドバッチ培養で30日間の増殖前後の細胞を培養した(フェッドバッチ培養は、3日目および7日目に2つの栄養素を与えることを伴う12日間の培養である)。2つの単一クローンは、30日の継代後の発現レベルが70%を上回り、安定していた。
【0157】
Fabを発現する安定した細胞株が復活し、増殖した。次いで、細胞培養物を、13LのSartoriusバイオリアクタに、CD-CHO培地中の10.5Lの初期体積で播種し、細胞密度を0.3×10E6細胞/mlとした。フェッドバッチ細胞培養は、36.5℃、溶存酸素レベル40%、pH7(±0.3)に維持した。栄養素の供給は、細胞密度およびグルコースレベルに基づいて行った。MilliporeデプスフィルタMD0HC054H1を使用して、13日後に細胞培養液を回収した。
【0158】
抗TfR Fabを、実施例1に記載されるように、精製、滅菌、および分析した。
【0159】
純度は、SDS-PAGEでは95%、SEC-HPLC(A280nm)では96.7%を上回った。観察した質量は47199.3Daであり、理論質量(47198.5Da)と一致した。
【0160】
実施例4:
対照Fabを発現する安定した細胞株の生成
本実施例は、図4に示される対照Fabを発現する安定細胞株の生成を説明する(図2、配列番号5に示されるのと同じ)。
【0161】
実施例2の対照Fabを発現する安定細胞株は、配列番号1の代わりに配列番号4のFab軽鎖を使用したことを除いて、実施例3に記載されるように生成した。また、実施例3に記載されるより高い発現安定性を達成するための手段に従った。3つの単一クローンは、30日の継代後、70%を上回る発現レベルで安定していた。
【0162】
対照Fabを発現する安定細胞株を、実施例3に記載されるように、13LのSartoriusバイオリアクタでさらに培養した。
【0163】
分泌された対照Fabを含む細胞培養上清を濃縮し、接線流濾過(TFF)システム(Millipore)中の限外濾過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)を使用して25mM NaOAc pH5.0に緩衝液交換し、次いでSP HPカラム(GE Healthcare)に適用した。結合したFabを、25mM NaOAc pH5.0中の0~350mMのNaCl線形勾配で溶出し、TFFシステム(Millipore)中のUF/DFを使用してPBSに緩衝液交換した。
【0164】
精製対照Fabを、0.2mmフィルター単位(Sartorius)を通して濾過により滅菌した。純度を、SDS-PAGEおよびサイズ排除HPLCで分析した。Fabの同一性を質量分析により確認した。
【0165】
純度は、SDS-PAGEでは95%、SEC-HPLC(A280nm)では98.7%を上回った。観察した質量は47787.5Daであり、理論質量(47787.0Da)と一致した。
【0166】
実施例5:
GLP-1抗TNP-Fab融合タンパク質の一過性発現
本実施例は、対照FabおよびGLP-1類似体の図5(配列番号8)に示す融合タンパク質の発現を説明する。対照Fabは抗TNPFabであり、TNPは2,4,6-トリニトロフェノールを指す。

軽鎖(配列番号6):
HGEGTFTSDVSSYLEEQAAREFIAWLVKGRPGGGSGGGSGGGSGGGSDIVMTQTPLSLSVTPGQPASISCRSSQSLLHSNGNTYLHWYLQKPGQSPQLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCSQSTHVPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC

重鎖(配列番号7):
QVQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSISSGYWNWIRQPPGKGLEWIGTISYSGDTYYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARYGSYVFDYWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKHHHHHHHHHH
【0167】
二本鎖Fab融合タンパク質は、軽鎖(配列番号6)および重鎖(配列番号7)からなる。軽鎖では、活性GLP-1類似体は、柔軟な4x(GlyGlyGlySer)リンカーを介して、実施例2(配列番号4)の抗TNP-FabのVドメインのN末端に融合される。重鎖では、C1ドメインのC末端が伸長され、10xヒスチジン精製タグが含まれる。したがって、軽鎖は「GLP-1-(GGGS)-aTNP軽鎖」と称され得、重鎖は「aTNP-(His)10重鎖」と称され得る。
【0168】
抗TNP-Fab融合をコードする核酸配列を、実施例1に記載されているようにpTT由来発現ベクターにクローン化した。
【0169】
融合タンパク質を発現するために、Expi293F細胞(ThermoFisher Scientific、カタログ番号A14527)を、Expi293 Expression(商標)培地(ThermoFisher Scientific、カタログ番号A1435101)中で浮遊培養し、細胞密度を3x10E6細胞/mlとした。一過性トランスフェクションを、ExpiFectamine(商標)293試薬(ExpiFectamine(商標)293トランスフェクションキット、ThermoFisher Scientific、カタログ番号A14525)、および2つのタンパク質鎖をコードするプラスミドDNAの混合物を使用して実施した。ExpiFectamine(商標)293トランスフェクションキットのトランスフェクションエンハンサー1および2を、トランスフェクションの翌日に添加した。発現上清を、トランスフェクションの4日後に遠心分離および濾過することにより、発現上清を回収した。
【0170】
分泌されたGLP-1抗TNP-Fab融合タンパク質を含む細胞培養上清を、50mM NaP(リン酸ナトリウム)、300mM NaCl、10mMイミダゾールpH7.5で平衡化した2x5ml HisTrap Excelカラム(GE Healthcare)に適用した。結合した融合タンパク質を、50mM NaP、300mM NaCl、500mMイミダゾールpH7.5で溶出した。画分をプールし、PBSで平衡化したSuperdex200 16_600カラム(GE Healthcare)に適用した。精製したタンパク質を、0.2mmフィルター単位を通して濾過により滅菌した。融合タンパク質の純度を非還元SDS-PAGEで分析し、90%を超える純度を示す単一のバンドを生成し、サイズ排除HPLCは12%の高分子量種を示した。融合タンパク質の同一性を質量分析により確認した。トリプシンペプチドの測定した無傷の平均質量52977Daおよびペプチド質量マッピング(データは示さず)は、V1ドメイン(配列番号7)のN末端グルタミン酸が実際に精製タンパク質中のピログルタミン酸であることを示した。
【0171】
実施例6:
GLP-1抗TfR-Fab融合タンパク質の一過性発現
本実施例は、抗TfR-FabおよびGLP-1類似体の図6(配列番号11)に示す融合タンパク質の発現を説明する。

軽鎖(配列番号9):
HGEGTFTSDVSSYLEEQAAREFIAWLVKGRPGGGSGGGSGGGSGGGSDIQMTQSPASLSASLEEIVTITCQASQDIGNWLAWYQQKPGKSPQLLIYGATSLADGVPSRFSGSRSGTQFSLKISRVQVEDIGIYYCLQAYNTPWTFGGGTKLELKRADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC

重鎖(配列番号10):
EVQLVESGGGLVQPGNSLTLSCVASGFTFSNYGMHWIRQAPKKGLEWIAMIYYDSSKMNYADTVKGRFTISRDNSKNTLYLEMNSLRSEDTAMYYCAVPTSHYVVDVWGQGVSVTVSSAKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLGCLVKGYFPEPVTVTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVPSSTWPSETVTCNVAHPASSTKVDKKIVPRDCGHHHHHHHHHH
【0172】
二本鎖Fab融合タンパク質は、軽鎖(配列番号9)および重鎖(配列番号10)からなる。軽鎖では、活性GLP-1類似体は、柔軟な4x(GlyGlyGlySer)リンカーを介して抗TfR-FabのVドメインのN末端に融合される。重鎖では、C1FabドメインのC末端が伸長され、10xヒスチジン精製タグが含まれる。したがって、軽鎖は、「GLP-1-(GGGS)-aTfR軽鎖」と称され得、重鎖は「aTfR-(His)10重鎖」と称され得る。
【0173】
抗TfR-Fab融合をコードする核酸配列を、実施例1に記載されているようにpTT由来発現ベクターにクローン化した。
【0174】
融合タンパク質をexpi293F細胞で発現させ、上清を実施例5に記載されるように回収した。
【0175】
分泌されたGLP-1抗TfR-Fab融合タンパク質を含む細胞培養上清を2x5ml HisTrap Excelカラム(GE Healthcare)に適用し、HisTrap Excelカラムから溶出する前に、50mM NaP(リン酸ナトリウム)、300mM NaCl、30mMイミダゾールpH7.5で厳密に洗浄して、実施例5に記載されるようにさらに精製および滅菌した。
【0176】
融合タンパク質の純度をSDS-PAGEおよびサイズ排除HPLCで分析し、95%を超える純度を示した。融合タンパク質の同一性を質量分析により確認した。質量分析により無傷の平均質量は53243.7Daと測定され、それにより精製タンパク質の同一性を確認した。
【0177】
実施例7:
GLP-1対照Fab融合タンパク質の一過性発現
本実施例は、別の対照FabおよびGLP-1類似体の図7(配列番号12)に示す融合タンパク質の発現を説明する。
【0178】
このタンパク質の軽鎖(配列番号6)をコードするプラスミドDNAは、実施例5で使用したものと同じであり、このタンパク質の重鎖(配列番号10)をコードするプラスミドDNAは、実施例6で使用したものと同じである。これは、実施例6(配列番号11)のGLP-1抗TfR Fabと同様の活性GLP-1要素を依然として有するが、TfR結合を有しないハイブリッド構築物をもたらす。
【0179】
対照Fab融合をコードする核酸配列を、実施例1に記載されているようにpTT由来発現ベクターにクローン化した。
【0180】
融合タンパク質をexpi293F細胞で発現させ、上清を実施例5に記載されるように回収した。
【0181】
分泌された融合タンパク質を含む細胞培養上清を、2x5ml HisTrap Excelカラム(GE Healthcare)に適用し、実施例5に記載されるようにさらに精製および滅菌した。
【0182】
Fab融合タンパク質の純度をSDS-PAGEおよびサイズ排除HPLCで分析し、95%を超える純度を示した。融合タンパク質の同一性を質量分析により確認した。質量分析により無傷の平均質量は53662.9Daと測定され、それにより精製タンパク質の同一性を確認した。
【0183】
実施例8:
蛍光標識GLP-1抗TfR-Fab融合タンパク質の調製
本実施例は、実施例6(配列番号11)のGLP-1抗TfR-Fab融合タンパク質の蛍光標識を説明する。蛍光標識化化合物を図8に示す(示すように、標識化はN末端上だけではなく、ランダムに付着することに留意されたい)。
【0184】
実施例6の2mlのGLP-1抗TfR-Fab融合タンパク質(約92nmolを含む)に、120nmolのVivoTag750-NHSを追加し、これは、PerkinElmerから市販されているインビボイメージングアプリケーション用の生体分子を標識するためのアミン反応性(NHSエステル)近赤外蛍光色素である。
【0185】
通常、この蛍光標識は、Fabにかなり定量的に付着するが、この場合、非常に限られた標識しか得られなかった。600nmolのVivoTag750-NHSを追加し、カップリングを一晩進行させた。翌日、溶液をPBSで実行されているPD-10カラム(GE Healthcare)に適用し、標識された材料を1.6mlPBS中に収集した。青色の大部分は、後で加水分解されたタグとして溶出した。CLND(Chemiluminescent Nitrogen Detection)により濃度を32nmol/mlに決定し、溶液を5本のエッペンドルフチューブにそれぞれ320μLずつ分注して凍結した。
【0186】
LCMSは、分子あたり混合物0、1、2、3標識を示した(平均約1)。
【0187】
実施例9:
蛍光標識GLP-1対照Fab融合タンパク質の調製
本実施例は、実施例7(配列番号12)のGLP-1対照Fab融合タンパク質の蛍光標識を説明する。蛍光標識化化合物を図9に示す(示すように、標識化はN末端上だけではなく、ランダムに付着することに留意されたい)。
【0188】
実施例7の2mlのGLP-1対照Fab融合タンパク質(配列番号12)(約138nmolを含む)に、160nmolのVivoTag750-NHS(PerkinElmer)を追加した。
【0189】
実施例8に記載されているように、追加量の蛍光色素、この場合は900nmolを追加する必要があった。標識された材料のカップリングおよび収集は、実施例8に記載された通りである(この場合、標識された材料は、2mlのPBS中に収集した)。青色の大部分は、後で加水分解されたタグとして溶出した。実施例8に記載のようにCLNDにより49nmol/mlに決定し、溶液を5本のエッペンドルフチューブにそれぞれ400μLずつ分注して凍結した。
【0190】
LCMSは、分子あたり0、1、2、3標識の混合物を示した(平均約1)。
【0191】
実施例10:
複合に使用したGLP-1ペプチドの合成
本実施例は、図10に示すGLP-1ペプチドの合成を説明する。
【0192】
58位のC末端Lys残基のイプシロンアミノ基におけるブロモアセトアミド(BrAc)誘導体化を伴わない図10のペプチドは、配列番号13を有する(58位は、配列番号13の52位に対応する)。
【0193】
配列番号13のペプチドは、C末端ペプチドリンカーを有するGLP-1(7~37)の類似体(8Aib、22E、26R、34R)として定義され得る(すなわち、残基番号38~58がGLP-1(7~37)に付加され、残基38~58は、配列番号13の残基32~52に対応する)。ペプチドリンカーは、G-Q-A-P-G-Q-A-P-G-Q-A-P-G-Q-A-P-G-Q-A-P-Kであり、配列番号14を有する。
【0194】
使用したFmoc保護アミノ酸誘導体は、以下の標準的に推奨されるものである:Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Arg(Pbf)-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-His(Trt)-OH、Fmoc-lle-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、およびFmoc-Lys(Mtt)-OH、Fmoc-Aib-OHなどで、例えば、Anaspec、Bachem、Iris Biotech、またはNovabioChemから供給される。他に何も指定されていない場合、アミノ酸の天然L型が使用される。N末端アミノ酸を、アルファアミノ基(例えば、Boc-His(Trt)-OH)におけるN末端Boc保護とともに用いた。SPPSは、Protein Technologies(米国アリゾナ州ツーソン85714)製のSymphonyX Solid Phase Peptide Synthesizer(SymphonyX固相ペプチド合成装置)上でのFmocベースの化学を使用して実施した。ペプチド合成には、予め装填されたFmoc-Lys(Mtt)-wang LL樹脂(Novabiochem、装填0.33mmol/g)を使用した。Fmoc-脱保護は、DMF中の20%ピペリジンで達成した。ペプチド二重カップリングを最初の20サイクルで1時間行い、残りをキャッピング(無水酢酸を使用)した2時間単一カップリングを行った。アミノ酸/オキシマピュア/DIC溶液の混合物(4倍のモル過剰でDMF中0.3M/0.3M/0.3M)をすべてのカップリングに使用した。
【0195】
樹脂をフィルターを備えたガラス反応器に移した。HFIP/DCM/TIPS 75:22:3溶液(70ml)を加え、20分間撹拌し、ろ過し、さらに60mlで1回繰り返し、DCM(3x65ml)およびDMF(3x65ml)で洗浄した。
【0196】
DMF/DCM 1:1(50ml)中のブロモ酢酸(3.0g、12当量、22mmol)およびDIC(1.39g、6当量、11mmol)の混合物を10分間静置し、樹脂上に注いだ。
一晩静置し、撹拌した。濾過し、DMF(4x60ml)およびDCM(4x60ml)で洗浄した。
【0197】
ペプチドを、混合物(95TFA:2.5TIPS:2.5水、80ml)中で3時間、室温で攪拌することにより、樹脂から切断した。濾過し、樹脂を少量のTFAで洗浄した。
【0198】
溶液を12個のプラスチックバイアルに分割し、ドライアイス冷却ジエチルエーテル(25ml)を各バイアルに加え、さらに約20mlのエーテルを充填した。沈殿物をスピンダウンした。
【0199】
上清を除去し、生成物を分取HPLCで精製した。
LCMS_34:Rt=2.37分、M/4=1378.3
【0200】
実施例11:
GLP-1抗TfR-Fab複合体の合成
本実施例は、GLP-1ペプチドおよび抗TfR-Fabの複合体の合成を説明する。複合体の構造を図11に示す。
【0201】
要素
【化4】
は、His-Aib-Gluのトリペプチド(図11の残基434~436)を指す。
【0202】
図11のN末端部分(残基1~433)は、配列番号3の抗TfR-Fabと同一である(実施例1および3を参照されたい)。
【0203】
図11のC末端部分(残基434~485)は、配列番号13と同一である(実施例10を参照されたい)。
【0204】
図11に示されるように、Lys485のイプシロンアミノ基およびCys377のチオール基は、化学物質1:-CH-C(O)-を介して相互接続される。
【0205】
PBS緩衝液に溶解した実施例3の抗TfR-Fab(252.4mg、5348nmolの抗TfR-Fabを含む41ml)の溶液に、pH7.4、522ulの200mM EDTA緩衝液を加えた。
【0206】
TCEP(5.05mol/ml、1.05当量、1112L、5615nmol)をタンパク質溶液に加えた。
TCEP溶液の調製:TCEP、0.5M、pH7、MW:286g/mol、
25uLの0.5M TCEP溶液を、2475uL緩衝液(20mM TEA、2mM EDTA、pH8.5緩衝液)で希釈した。約2~3時間、または完全に減少するまで放置する。
【0207】
実施例10の3.6当量のペプチドをDMSO(1.5ml)に溶解し、Fab溶液に加え、フラスコを少量のpH9のトリス緩衝液で濯いだ。pHをpH9~pH8.3(pH=6.5で開始)のトリス緩衝液で調整し、一晩静置した。
【0208】
反応混合物を、Vivaspin 20、10Kフィルターで回転させることにより濃縮して13mlを得、GE HealthcareのAkta精製器で精製した。
カラム:Hiload 26/600、superdex 200pg SEC
緩衝液:PBS緩衝液、pH7.4
【0209】
得られた生成物の以下の特性を決定した:
LCMS_36:Rt=3.52分、m/30=1751.4、m/32=1642.0
【0210】
実施例12:
GLP-1対照-Fab複合体の合成
本実施例は、GLP-1ペプチドおよび対照Fabの複合体の合成を説明する。複合体の構造を図12に示す。
【0211】
要素
【化5】
は、His-Aib-Gluのトリペプチド(図12の残基439~441)を指す。
【0212】
この複合体は、実施例11に記載されるのと同じプロトコルを使用して、実施例10のブロモアセチルペプチド(図10)を用いた実施例4の対照FabのCysアルキル化によって調製した。
【0213】
図12のN末端部分(残基1~438)は、配列番号5の対照Fabと同一である(実施例2および4を参照されたい)。
【0214】
図12のC末端部分(残基439~490)は、配列番号13と同一である(実施例10を参照されたい)。
【0215】
図12に示されるように、Lys490のイプシロンアミノ基およびCys382のチオール基は、化学物質1:-CH-C(O)-を介して相互接続される。
【0216】
得られた生成物の以下の特性を決定した:
LCMS_36:Rt=3.01分、m/29=1832.1、m/31=1713.9
【0217】
実施例13:
複合に使用したGLP-1ペプチドの合成
本実施例は、図13のGLP-1ペプチド誘導体の合成を説明する。
【0218】
図13は、GLP-1(7~37)(配列番号15)のGLP-1類似体(8G、22E、26R、34R、36K)を組み込んでいる。
【0219】
図13はまた、化学物質5:-Ado-gGlu-Ado-として定義することができる非ペプチドリンカーを組み込んでおり、式中、Adoは、Gluの側鎖のガンマ位置でカルボン酸基が関与するアミド結合を介して別の分子に結合した場合に、アミノ酸Gluに対して8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸およびgGluを指す。Adoのジラジカルは、化学物質3:-NH-(CH-O-(CH-O-CH-C(O)-の式を有する。gGluのジラジカルは、化学物質4:-NH-CH(COOH)-(CH-C(O)-)の式を有する。リンカーの1つのAdoは、GLP-1類似体の36位のLys残基のイプシロンアミノ基と結合される。リンカーの他のAdoは、それぞれ実施例15および14に記載されるように、抗TfR Fabまたは対照Fabに後で結合するために、ブロモアセトアミドで誘導体化される。
【0220】
使用したFmoc保護アミノ酸誘導体は、以下の標準的に推奨されるものである:Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Arg(Pbf)-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-His(Trt)-OH、Fmoc-lle-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、およびFmoc-Lys(Mtt)-OH、Fmoc-Aib-OHなどで、例えば、Anaspec、Bachem、Iris Biotech、またはNovabioChemから供給される。他に何も指定されていない場合、アミノ酸の天然L型が使用される。N末端アミノ酸を、アルファアミノ基(例えば、N末端にTyrを有するペプチド用のBoc-Tyr(tBu)-OH)でN末端Boc保護とともに用いた。SPPSは、Protein Technologies(米国アリゾナ州ツーソン85714)製のSymphonyX Solid Phase Peptide Synthesizer(SymphonyX固相ペプチド合成装置)上でのFmocベースの化学を使用して実施した。C末端ペプチドの調製に使用した樹脂は、Fmoc-Gly-wang LL樹脂(Novabiochem、負荷、例えば0.29mmol/g)であった。Fmoc-脱保護は、DMF中の20%ピペリジンで達成した。1時間のペプチドカップリングを、アミノ酸/オキシマピュア/DIC溶液(4倍のモル過剰でDMF中0.3M/0.3M/0.3M)を使用して実行した。Mtt基は、樹脂をDCM(5x10mL)で洗浄する前に、HFIP/TIS/DCM(75:2.5:22.5、v/v/v)(3x10mLx30分)で洗浄することにより除去した。合成を、上述のようにFmoc-Ado-OHおよびFmoc-gGlu(OtBu)-OHで継続した。樹脂をフィルターを備えたガラス反応器に移した。
【0221】
DMF(16ml)中のブロモ酢酸(0.840g、12当量、6mmol)およびDIC(0.400ml、5.2当量、2.6mmol)の混合物を10分間静置し、樹脂上に注いだ。一晩静置した。濾過し、DMF(4x6ml)およびDCM(4x6ml)で洗浄した。
【0222】
ペプチドを、混合物(95TFA:2.5TIPS:2.5水、80ml)中で3時間、室温で攪拌することにより、樹脂から切断した。濾過し、樹脂を少量のTFAで洗浄した。溶液を12個のプラスチックバイアルに分割し、ドライアイスで冷却したジエチルエーテル(25ml)を各バイアルに加え、さらに約20mlのエーテルを充填した。沈殿物をスピンダウンした。上清を除去し、生成物を分取HPLCで精製した。
LCMS_34:Rt=2.45分、M/3=1328.2
【0223】
実施例14:
GLP-1対照Fab複合体の合成
本実施例は、GLP-1ペプチドおよび対照Fabの複合体の合成を説明する。複合体の構造を図14に示す。
【0224】
この複合体は、実施例13のペプチド誘導体を代わりに3.6当量で使用したことを除いて、実施例11に記載したのと同じプロトコルを使用して、実施例13のブロモアセチルペプチド誘導体(図13)を用いた実施例4の対照FabのCysアルキル化によって調製した。
【0225】
図14のN末端部分(残基1~438)は、配列番号5の対照Fabと同一である(実施例2および4を参照されたい)。
【0226】
図14のC末端部分(残基439~469)は、化学物質5:-Ado-gGlu-Ado-のリンカーの遠位Adoの実態を除いて、図13と同一であり、図13で誘導体化したブロモアセトアミドが、化学物質1化学リンカー(化学物質1:-CH-C(O)-)を介してCys382のチオール基と接続される。したがって、リンカー全体が、化学物質2:-CH-C(O)-Ado-gGlu-Ado-である。
【0227】
得られた生成物の以下の特性を決定した:
LCMS_36:Rt=3.14分、m/30=1720.0、m/32=1612.6
【0228】
実施例15:GLP-1抗TfR-Fab複合体の合成
本実施例は、GLP-1ペプチドおよび抗TfR-Fabの複合体の合成を説明する。複合体の構造を図15に示す。
【0229】
この複合体は、実施例14について上述したのと同じプロトコルを使用して、実施例13のブロモアセチルペプチド誘導体(図13)を用いた実施例3の抗TfR-FabのCysアルキル化によって調製した。
【0230】
図15のN末端部分(残基1~433)は、配列番号3の抗TfR-Fabと同一である(実施例1および3を参照されたい)。
【0231】
図15のC末端部分(残基434~464)は、化学物質5:-Ado-gGlu-Ado-のリンカーの遠位Adoの実態を除いて、図13と同一であり、図13で誘導体化したブロモアセトアミドが、化学リンカー(化学物質1:-CH-C(O)-)を介してCys377のチオール基と接続される。したがって、リンカー全体が、化学物質2:-CH-C(O)-Ado-gGlu-Ado-である。
【0232】
得られた生成物の以下の特性を決定した:
LCMS_36:Rt=3.55分、m/30=1700.4、m/32=1594.2
【0233】
薬理学的方法
実施例16:
蛍光標識したGLP-1 TfR融合タンパク質のインビボイメージング
本実施例は、「活性」および「不活性」GLP-1-Fab融合タンパク質(TfRと結合するという意味では「活性」、TfRと結合しないという意味では「不活性」)の脳の様々なGLP-1受容体発現領域へのアクセスを検討する。2つの融合タンパク質は、1つの同じGLP-1受容体作動薬化合物を含むが、Fab部分が異なる。これは、血液脳関門(BBB)によって保護される脳領域へのアクセスにおいて、活性融合タンパク質と不活性融合タンパク質との間に実質的な差があるかどうかを判断するためのものである。本研究は、マウスを用いた急性研究である。
【0234】
化合物投与:
マウス(C57BL/6J、雄、Taconic、n=4/群)は、実施例8、120nmol/kgの蛍光標識GLP-1抗TfR-Fab融合タンパク質(「GLP-1-活性TfR」)、または実施例9、120nmol/kgの蛍光標識GLP-1対照Fab融合タンパク質(「GLP-1不活性TfR」)の静脈内単回用量を受けた。化合物の投与後6時間(「6H」)イソフルランでマウスを麻酔し、10mlのヘパリン化(10U/ml)生理食塩水、続いて10mlの10%中性緩衝ホルマリン(NBF)で経心臓灌流により安楽死させた。脳を摘出し、10%NBFに浸し、さらに処理するまで4℃で一晩保存した。
【0235】
組織の浄化:
脳を脱水し、ジベンジルエーテル(DBE)で飽和させて、水の除去および屈折率の一致によるスキャン中の光の散乱を最小化した。脳組織を、脱塩HO(w/v)50/80/96/99%/2x100%で希釈した段階的テトラヒドロフラン(THF)中で、各ステップについて6~12時間室温で脱水した。次に、各ステップで6~12時間、3xDBEで室温で脳を浄化した。
【0236】
ライトシート蛍光顕微鏡法(LSFM)によるスキャン:
UltraMicroscope II LSFMシステム(Lavision Biotec、Bielefeld、Germany)を使用して、10.32μmの等方性解像度で脳試料をスキャンした。データ収集を、自家蛍光をイメージングするための620/60nm励起フィルターおよび680/30nm発光フィルター、ならびに特定のシグナルをイメージングするための710/75nm励起フィルターおよび780/40nm発光フィルターを使用して実行した。
【0237】
画像解析:
画像は、z平面(2D)の単一平面画像である。提示された特定のシグナルの画像における組織の自家蛍光の寄与を最小化するために、スペクトルのアンミキシングを実施した。アンミキシングは、インポートしたtiffファイル上のImaris(Release7.6.5、Zurich、Switzerland)で実施した。特定チャネル内の推定自家蛍光の寄与は、非特定記録内の選択されたボクセルと特定チャネル内の対応するボクセルとの間のボクセル強度の比率に基づいて計算され、除去した。比率は、非特定記録のヒストグラムに基づいて選択された40セットのボクセルについて計算した。アンミキシングアルゴリズムはMatlab(Release 2012b、MathWorks、Natick、Massachusetts、United States)で記述され、ImarisのXTプラグインとして適用した。
【0238】
画像は、Elastixソフトウェアライブラリバージョン4を使用して、視覚化および定量化のために共通の参照アトラススペースに登録した(Klein,Stefan,et al.「Elastix:a toolbox for intensity-based medical image registration.」IEEE transactions on medical imaging29.1(2010):196-205)。源画像I(x)は、I(T(x))をI(x)と空間的に位置合わせする座標変換T(x)を見つけることにより、標的アトラス画像I(x)に登録した。初期化のためにアフィン座標変換を使用し、その後、源と標的との間の相互情報に関して反復的に最適化された非剛性のb-スプライン座標変換を行った。LSFMデータのマッピングのための登録パラメータは、Renierらで使用したものと同様であった。画像登録後、正しい登録のために手動品質チェックを行った。登録された脳の一部がずれていた場合、これらの個々の領域に接続された測定値を除去した。したがって、一部の脳領域については、各群内の試料の数が3~4の間で変化した。定量化は、個々の脳領域内のすべてのボクセルの非混合強度値を合計することによって行われ、これらの領域の化合物からの蛍光シグナルの合計を示す。合計シグナルは任意の単位(「AU」)で報告される。合計シグナルは、個々の脳領域の比混合ボクセル強度値の合計である。したがって、合計シグナルは、これらの領域の化合物からの合計蛍光シグナルを示す。(Renier,Nicolas,et al.「Mapping of Brain Activity by Automated Volume Analysis of Immediate Early Genes.」Cell(2016))。
【0239】
結果:
画像分析の結果を図16A、16B、16C、および16Dに示す。
【0240】
図16Aでは、蛍光標識した化合物(「GLP-1-活性TfR」および「GLP-1-非活性TfR」)の合計強度は、GLP-1受容体(GLP-1R)を発現する脳領域内で定量化した。合計シグナルは任意の単位(AU)で報告され、平均を表す。図16Bは、GLP-1Rを発現するがBBBを欠く脳室周囲器官の例における蛍光標識した化合物の強度を示す。図16Cは、BBBによって保護されるGLP-1Rを発現する脳構造の例における蛍光標識した化合物の強度を示す。図16Dは、GLP-1Rを発現しない脳領域の例における蛍光標識した化合物の強度を示す。様々な脳領域に使用される略語は、略語のリストで定義される。
【0241】
図16Aは、GLP-1R発現領域において、GLP-1非活性TfRと比較して、GLP-1活性TfRから蛍光シグナルがより高かったことを示す。
【0242】
活性TfR化合物と不活性TfR化合物との間の差は、GLP-1Rを発現しているが、BBBを欠いている脳室周囲器官では小さかった(図16B)。TfRは毛細血管および脳実質の両方で発現する。したがって、これらの領域における活性TfR化合物からの寄与がわずかに高いことは、GLP-1Rによる結合に加えて、化合物のTfR結合からの寄与を示す。
【0243】
また、このシグナルは、GLP-1Rを発現しない脳領域でも定量化した(図16D)。ここで、シグナルは両方の化合物でほぼ同じであり、活性TfR化合物からのわずかに高い寄与は、化合物のTfR結合からの寄与を示す。
【0244】
BBBによって保護される脳構造の例を図16Cに示す。ここで、GLP-1不活性TfRと比較して、GLP-1活性TfRからのシグナルが著しく増加したことは、GLP-1成分がGLP-1自体が容易にアクセスできない領域に運ばれたことを示している。TfRとの結合は、このシグナルにも寄与し得るが、GLP-1Rを発現する領域における2つの化合物間の差は、GLP-1Rのない領域よりもはるかに大きい(図16D)。これは、シグナルの大部分がGLP-1Rとの結合に由来することを示唆している。
【0245】
結論:
BBBによって保護される脳構造に見られる活性TfR化合物と不活性TfR化合物との間のシグナル強度の明瞭かつ顕著な差(図16C)は、GLP-1R作動薬の抗TfR Fabへのカップリングが、GLP-1R作動薬がGLP-1R作動薬によって容易にアクセスできない脳の領域にGLP-1R作動薬を標的化する手段として使用できることを示す。ACB、DMH、LHA、およびLHなどのこれらの領域の一部は、体重の調節および食物摂取量に関連する行動において重要であることが示されている。
【0246】
実施例17:GLP-1インビトロ効力
本実施例の目的は、本明細書で開示される活性および不活性GLP-1融合体ならびに複合体のGLP-1活性を試験することである(活性/不活性という用語は、それぞれトランスフェリン受容体(TfR)と結合する/結合しない能力を指す)。GLP-1活性は、GLP-1インビトロ効力として決定され、全細胞アッセイにおけるヒトGLP-1受容体活性化の尺度である。
【0247】
原理:
インビトロ効力は、レポーター遺伝子アッセイにおけるヒトGLP-1受容体の応答を測定することによって決定した。アッセイは、ヒトGLP-1受容体を発現し、プロモーターと結合したcAMP応答要素(CRE)のDNAおよびホタルルシフェラーゼ(CREルシフェラーゼ)の遺伝子を含む安定にトランスフェクトされたBHK細胞株において行った。ヒトGLP-1受容体が活性化される場合、cAMPの生成をもたらし、これは順に、ルシフェラーゼタンパク質の発現をもたらす。アッセイインキュベーションが完了した時に、ルシフェラーゼ基質(ルシフェリン)を追加し、酵素がルシフェリンをオキシルシフェリンに変換して、生物発光を生じる。発光はアッセイの読み取り値として測定される。
【0248】
化合物のアルブミンとの結合を試験するために、血清アルブミンの非存在下、および血清アルブミンのかなり高い濃度(1.0%の最終アッセイ濃度)の存在下で、アッセイを実施することができる。血清アルブミンの存在下でのインビトロ効力、EC50値の増加は、血清アルブミンとの親和性を示し、動物モデルにおける試験物質の長期の薬物動態プロファイルを予測する方法を表す。
【0249】
細胞培養および調製:
このアッセイで使用した細胞(クローンFCW467-12A/KZ10-1)は、親細胞株としてBHKTS13を有するBHK細胞であった。細胞を、ヒトGLP-1受容体を発現するクローン(FCW467-12A)に由来し、CREルシフェラーゼでのさらなるトランスフェクションによって確立し、現在のクローンを得た。細胞は、細胞培養培地中、5%COで培養した。それらをアリコートし、液体窒素中に保存した。各アッセイ前に、アリコートを、PBS中で吸収し、2回洗浄した後、アッセイ特異的緩衝液中の所望濃度で懸濁した。96ウェルプレートの場合、5x10細胞/ウェルの最終濃度になるように懸濁液を作製した。
【0250】
材料:
以下の化学物質をアッセイで使用した:Pluronic F-68(10%v/v)(Gibco 2404)、ヒト血清アルブミン(HSA)(Sigma A9511)、オボアルブミン(Sigma A5503)、フェノールレッドなしのDMEM(Gibco 11880-028)、1M Hepes(Gibco 15630)、Glutamax 100x(Gibco 35050)、およびsteadylite plus(PerkinElmer 6016757)。
【0251】
緩衝液:
細胞培養培地は、10%w/v FBS(ウシ胎児血清、Invitrogen 16140-071)、1mg/ml G418(Invitrogen 15140-122)、240nM MTX(メトトレキサート、Sigma M9929)、および1%w/v pen/strep(ペニシリン/ストレプトマイシン、Invitrogen 15140-122)を有するDMEM培地からなる。
【0252】
アッセイ培地は、フェノールレッドなしのDMEM、10mM Hepes、および1xGlutamaxからなる。1%アッセイ緩衝液は、アッセイ培地中の2%オボアルブミン、0.2%Pluronic F-68、および2%HSAからなる 0%アッセイ緩衝液は、アッセイ培地中の2%w/vオボアルブミンおよび0.2%v/v Pluronic F-68からなる。
【0253】
手順:
1.細胞ストックを37℃水浴で解凍した。
2.細胞をPBSで3回洗浄した。
3.細胞をカウントし、アッセイ培地中に5x10細胞/50μl(1x10細胞/ml)に調整した。細胞の50μlアリコートをアッセイプレートの各ウェルに移した。
4.試験化合物のストックを、0%HSA CREルシフェラーゼアッセイについては0%アッセイ緩衝液中に、および1%HSA CREルシフェラーゼアッセイについては1%アッセイ緩衝液中に0.2μMの濃度に希釈した。化合物を10倍希釈して、2x10-7M、2x10-8M、2x10-9M、2x10-10M、2x10-11M、2x10-12M、2x10-13M、および2x10-14Mの濃度を得た。
5.化合物またはブランクの50μlアリコートを希釈プレートからアッセイプレートに移した。化合物は、1x10-7M、1x10-8M、1x10-9M、1x10-10M、1x10-11M、1x10-12M、1x10-13M、および1x10-14Mの最終濃度で試験した。
6.アッセイプレートを5% COのインキュベーター中、37℃で3時間インキュベートした。
7.アッセイプレートをインキュベーターから取り出し、室温で15分間放置した。
8.steadyliteの100μlアリコート+試薬をアッセイプレートの各ウェルに加えた(試薬は感光性であった)。
9.各アッセイプレートをアルミホイルで覆って遮光し、室温で30分間振盪した。
10.各アッセイプレートをマイクロタイタープレートリーダーで読み取った。
【0254】
計算および結果:
プレートリーダーからのデータを、GraphPad Prismソフトウェアに転送した。ソフトウェアは、非線形回帰を実行した(log(作動薬)対 応答)。ソフトウェアによって計算し、pMで報告されたEC50を以下の表1に示す。別々のアッセイプレートで各試料について最低2つの複製を測定した。報告された値は複製の平均である。いくつかの例では、複数のアッセイが実行され、この場合、報告されたデータは平均化された複製の平均である。
【0255】
【表D】
【0256】
すべての化合物には、それらがGLP-1受容体作動薬であることを確認する効力データがある。すべての化合物は、1000pMを下回る0%HSAでのEC50に対応する良好なGLP-1インビトロ効力を有していた。
【0257】
実施例18:GLP-1受容体結合
本実施例の目的は、本明細書で開示される活性および不活性GLP-1融合体ならびに複合体のインビトロでのGLP-1受容体結合活性を試験することである(活性/不活性という用語は、それぞれトランスフェリン受容体(TfR)と結合する/結合しない能力を指す)。受容体結合は、ヒトGLP-1受容体への化合物の親和性の尺度である。
【0258】
原理:
ヒトGLP-1受容体との結合は、競合結合アッセイで測定した。このタイプのアッセイでは、標識リガンド(この場合は125I-GLP-1)が受容体と結合される。各試験化合物を一連の濃度でヒトGLP-1受容体を含む単離した膜に添加し、標識したリガンドの置換をモニタリングした。受容体結合は、標識したリガンドの半分が受容体から置換された濃度として報告され、IC50値であった。誘導体のアルブミンとの結合を試験するために、アッセイは、血清アルブミンのかなり低い濃度(最大0.001%(w/v)最終アッセイ濃度)、および血清アルブミンのかなり高い濃度(2.0%(w/v)の最終アッセイ濃度)の存在下で実行され得る。血清アルブミンの存在下でのIC50値の増加は、血清アルブミンとの親和性を示す。
【0259】
材料:
以下の化学物質をアッセイで使用した:ヒト血清アルブミン(HSA)(Sigma A1653)、フェノールレッドなしのDMEM(Gibco 11880-028)、Pen/strep(Invitrogen 15140-122)、G418(Invitrogen 10131-027)、1M HEPES(Gibco 15630)、EDTA(Invitrogen 15575-038)、PBS(Invitrogen 14190-094)、ウシ胎児血清(Invitrogen 16140-071)、EGTA、MgCl(Merck 1.05832.1000)、Tween 20(Amresco 0850C335)、SPA粒子(小麦胚芽凝集素(WGA) SPAビーズ、Perkin Elmer RPNQ0001)、[125I]-GLP-1]-(7-36)NH(自社生成)、OptiPlate(商標)-96(Packard 6005290)。
【0260】
緩衝液1は20mM Na-HEPESと10mM EDTAからなり、pHを7.4に調整した。緩衝液2は20mM Na-HEPESと0.1mM EDTAからなり、pHを7.4に調整した。アッセイ緩衝液は、5mM EGTA、5mM MgCl、0.005%w/v Tween20を含む50mM HEPESからなり、pHを7.4に調整した。8%アルブミンストックは、8%(w/v)のアッセイ緩衝液で溶解したHSAからなる。0.02%アルブミンストックは、アッセイ緩衝液中に0.02%(w/v)で溶解したHSAからなる。
【0261】
細胞培養および膜調整:
このアッセイで使用した細胞(クローンFCW467-12A)は、親細胞株としてBHKTS13を有するBHK細胞であった。細胞はヒトGLP-1受容体を発現する。細胞を、5% CO、DMEM中10%w/v胎児仔ウシ血清、および1%w/vPen/Strep(ペニシリン/ストレプトマイシン)で増殖させた。膜調製物を作るために、細胞を約80%のコンフルエンスまで増殖させた。細胞をリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、回収した。細胞を短時間の遠心分離を用いてペレット化し、細胞ペレットを氷上に保持した。細胞ペレットを、適切な量の緩衝液1(例えば、10ml)中で20~30秒間、ULTRA-THURRAX(商標)分散装置でホモジネートした。ホモジネートを15分間遠心分離した。ペレットを10mlの緩衝液2に再懸濁(ホモジネートした)し、遠心分離した。このステップをもう一度繰り返した。得られたペレットを緩衝液2に再懸濁し、タンパク質濃度を測定した。膜をアリコートし、マイナス80℃で保存した。
【0262】
手順:
1.低HSA(0.001%)の存在下での受容体結合アッセイでは、50μlのアッセイ緩衝液をアッセイプレートの各ウェルに添加した。アッセイはステップ3で継続した。
2.高HSA(2.0%)の存在下での受容体結合アッセイでは、50μlの8%アルブミンストックをアッセイプレートの各ウェルに添加した。アッセイはステップ3で継続した。
3.試験化合物を連続希釈して、8x10-7M、8x10-8M、8x10-9M、8x10-10M、8x10-11M、8x10-12M、および8x10-13Mの濃度を得た。25μlをアッセイプレート中の適切なウェルに添加した。
4.細胞膜のアリコートを解凍し、作業濃度に希釈した。50ulをアッセイプレート中の各ウェルに添加した。
5.WGA SPAビーズを、20mg/mlのアッセイ緩衝液中に懸濁した。懸濁液を、アッセイプレートに添加する直前に、アッセイ緩衝液中で10mg/mlに希釈した。50ulをアッセイプレート中の各ウェルに添加した。
6.アッセイプレートの各ウェルに25ulの480pMの[125I]-GLP-1]-(7-36)NHの溶液を添加してインキュベートを開始した。合計数/ウェルを測定するために、25μlのアリコートを保留した。
7.アッセイプレートを30℃で2時間インキュベーした。
8.アッセイプレートを10分間遠心分離した。
9.アッセイプレートをPackard TopCount NXT装置で読み取った。
【0263】
計算:
TopCount装置からのデータを、GraphPad Prismソフトウェアに転送した。ソフトウェアは複製の値を平均化し、非線形回帰を実行した。IC50値をソフトウェアによって計算し、nMで報告した。
【0264】
結果:
以下の結果が得られた。
【0265】
【表E】
【0266】
すべての誘導体は、60nMを下回るIC50(低アルブミン)を有した。
【0267】
実施例19:トランスフェリン受容体取り込み阻害
本実施例の目的は、本明細書で開示される例示的な活性および不活性GLP-1融合体ならびに複合体のインビトロでのトランスフェリン受容体結合活性を試験することである(活性/不活性という用語は、それぞれトランスフェリン受容体(TfR)と結合する/結合しない能力を指す)。トランスフェリン受容体結合は、マウストランスフェリン受容体への化合物の親和性の尺度である。
【0268】
原理:
トランスフェリン受容体標的抗体の取り込みを阻害する実施例11~12および14~15の複合体の能力を、競合取り込みアッセイで測定した。Fab複合体の各セット(実施例11および12、ならびに実施例15および14)中の2つの化合物は、同じGLP-1R作動薬部分を含むが、TfRへの結合に関して、それぞれ「活性」および「不活性」であるFab部分に関しては異なる。
【0269】
各化合物を、一連の濃度で、市販のマウス線維芽細胞株(MEF-1)に、設定濃度の蛍光標識したFab断片(以下に説明)とともに添加した。各化合物による標識したFab断片の細胞取り込みの阻害は、最大シグナルの半分が得られた濃度として報告した(IC50値)。
【0270】
材料:
蛍光標識したFab断片の調製:
蛍光標識したFab断片を、実施例1の抗TfR-FabのCy5標識によって作製した。Cy5標識抗したTfR-Fabを図1Bに示し、Cy5色素がCysの377位に付着していることが示されている。
【0271】
226μLの200mM EDTA緩衝液を、実施例1の抗TfR-Fabの溶液(6.15mg/ml、17.5ml)に添加した。25uLのTCEP溶液(0.5M、pH7.0)を、2475ulの緩衝液(20mM TEA、2mM EDTA、pH8.5)で希釈した。517uL(1.25当量、2.9umol)の希釈したTCEP溶液を、抗TfR-Fab溶液に添加した。溶液を-80℃で保存した。
【0272】
1mLの上記で生成した溶液(6.15mg、131nmol)のアリコートをアルゴンでバブル化し、100uLの乾燥DMFに溶解した1mgのCy5(Amersham Cy5マレイミド単反応性色素)を添加した。混合物をアルゴン下で一晩、5℃で保持した。
【0273】
生成物を、以下のプロトコルを使用して、Zeba Spinn脱塩カラム、7K MWCO、5mlで精製した:カラムを1000Gで2分間回転させた。2.4mlを洗い流した。2.4mlのPBS緩衝液で3回洗浄し、毎回1000Gで2分間回転させた。3回実施した後、生成物(1ml+0.7ml洗浄)をカラムの上に配置し、1000Gで2分間回転させた。生成物(1.7ml)を回収した。正確な質量の計算値(m+z)/z(無次元):47859.88。検出される正確な質量(m+z)/z(無次元):47859.83。
【0274】
以下の追加の化学物質をアッセイで使用した:
DMEM(Gibco 31966-026)、Pen/strep(Invitrogen 15140-122)、G418 (Invitrogen 10131-027)、1M HEPES(Gibco 15630)、EDTA(Invitrogen 15575-038)、ウシ胎児血清(Invitrogen 16140-071)、PFA 4%(Chem Cruz Sc-281692)、ヒト血清アルブミン(Sigma A9511)、コラーゲンコーティングされたイメージングプレート(Becton Dickinson 734-0319)、DAPI Hoechst 33342(Sigma B2261)、小麦胚芽凝集素-Alexa488(Invitrogen W32464)、HBSS(Gibco 14025)。
【0275】
手順:
1.細胞プレートに播種する前に、MEF-1細胞を、DMEM中の5%CO、10%w/v胎児仔ウシ血清、および1%w/vペニシリン/ストレプトマイシンで増殖させた。各アッセイの前日に、細胞を5000細胞/ウェルに播種した。
2.アッセイ日に、細胞を0.1%(w/v)HSAを含有するHBSSで洗浄した。
3.試験化合物を連続希釈して、2x10-6M、2x10-7M、2x10-8M、2x10-9M、2x10-10M、2x10-11M、2x10-12M、および2x10-13Mの濃度を得た。100μlの各々をアッセイプレート中の適切なウェルに添加した。
4.各ウェルに蛍光標識したFab断片を5nMの最終濃度で添加した。
5.プレートを37℃で15分間インキュベートした。インキュベーション後、緩衝液を除去し、細胞を0.1%(w/v)HSAを含有するHBSSで洗浄した。
6.50μlの冷4%PFAをヒュームフード内で添加した。プレートを室温で10分間インキュベートした後、PFAを除去した。
7.50μlの標識溶液をプレートに添加し、10分間インキュベートした。標識溶液には、1:200(v/v;10mg/mlストックから)のDAPIおよび1:200(v/v;5mg/mlストックから)のWGA-Alexa488が含まれた。アッセイプレートを室温で10分間インキュベートした。
8.アッセイプレートを100μlのHBSSで3回洗浄し、洗浄ステップ後に100μlのHBSSを各ウェルに添加した。
9.アッセイプレートを、ハイコンテンツメージング装置(IN Cell 2200装置、GE)で読み取った。
【0276】
計算:
IN Cell装置からのデータを、装置に付属のソフトウェアを使用して解析した。核をDAPI染色した核を使用して定義し、細胞境界をWGA-Alexa488染色に基づいて構築した。内在化される蛍光の量は、装置のCy5チャネルで視認可能な顆粒を定義し、内在化Cy5標識Fab断片に対応することによって計算した。各細胞における顆粒の数および強度を計算した。さらなる計算に使用した装置からの読み取り値は、顆粒の総面積を各取得フィールドの細胞数で割ったものであった。典型的な実験には、ウェルあたり20倍の顕微鏡対物レンズを使用した32個のフィールドが含まれた。データをGraphPad Prismソフトウェアに転送し、X軸にlog M(Mは試験化合物のモル濃度)、y軸に細胞あたりの総顆粒面積を含む濃度応答曲線としてプロットした。ソフトウェアは、非線形回帰を実行した。IC50値をソフトウェアによって計算し、nMで報告した。
【0277】
結果:
以下の結果が得られた:
【0278】
【表F】
【0279】
活性Fab(TfR-Fab)を有するすべての誘導体は、20nMを下回るIC50値を有し、一方で不活性Fab(対照Fab)を有するすべての誘導体は、>1000nMのIC50を有した。
【0280】
実施例20:マウスでのインビボ研究
本実施例の目的は、肥満関連の特徴に焦点を当てて、GLP-1抗TfR-Fab複合体がインビボで生物学的に活性であるかを評価することである。
【0281】
本実施例のパートIは、急性静脈内投与した除脂肪マウスにおける本発明の「活性」GLP-1抗TfR-Fab複合体の食物摂取量の低下能力の研究を報告する。
【0282】
パートIIでは、この「活性」複合体と「非活性」GLP-1対照-Fab複合体の比較を報告し、TfRアームがパートIで得られた結果に寄与するかを判断する。
【0283】
パートIIIは、パートIおよびIIで観察した食物摂取量の減少が体重低下につながるかを調査する目的で、亜慢性的に治療した食餌誘発性肥満マウスでの研究を報告する。
【0284】
I.実施例11のGLP-1抗TfR-Fab複合体のインビボ研究
研究デザイン:
雄のC57Bl6Jマウス(Taconic、Denmark)に、実施例11のGLP-1抗TfR-Fab複合体を24時間にわたって静脈内に急性投与し(0~100nmol/kg)、biodaq自動モニタリングシステム(Research Diets、New Brunswick、NJ、USA)を用いて、食物摂取量を研究した。簡潔に述べると、マウスを食物(Altromin、カタログ番号1314、Lippe、Germany)および水道水を適宜利用できる状態で、12時間の明暗サイクル下で維持した。投与前に、マウス(群当たりn=4~6)を体重が均等に一致する5つの治療群のうちの1つに割り当て、試験および取扱い手順に適応させるために、投与の8日前にbiodaqシステムに配置した。実験の日に、マウスに、以下の表に従って、時間0で、ビヒクルまたは実施例11の化合物のいずれかを静脈内に投与した:
【0285】
【表G】
【0286】
血漿曝露:
24時間後、血液試料を、血漿分析中にペプチドを安定化することを目的とした50ml Trasylol、10.000KIU(カリクレイン不活化剤単位)、0.5ml 20mMVal-Pyr(16.48mg Val-pyr/4ml HOのpHは1M HClによって7.4に調整される)に溶解したプロテアーゼ阻害剤カクテルFluka03665(3.097g K3EDTA(MW 406.53)を含むEDTAチューブに、舌下神経叢を介して採取した。その後、麻酔下で放血とそれに続く頸椎脱臼により動物を安楽死させた。血液試料を氷上に保持し、4℃で30分以内に遠心分離(4分x4000g)した。次に、50μlの血漿を適切にラベル化したチューブに分注し、ドライアイス上に置き、分析までマイナス80℃で保存した。
【0287】
実施例11の化合物(およびパートIIおよびIIIについては実施例12の化合物も)の血漿濃度を、LOCI(発光酸素チャネリング免疫測定法)によって測定した。簡潔に述べると、LOCI試薬には、2つのラテックスビーズ試薬(ドナーおよびアクセプタビーズ)と、GLP-1のN末端エピトープを認識するビオチン化モノクローナル抗体が含まれていた。光感受性色素を含有するドナービーズ試薬をストレプトアビジンでコーティングした。第2のビーズ試薬であるアクセプタビーズは、サンドイッチを構成するGLP-1のC末端に特異的な別のモノクローナル抗体と複合体化された。アッセイ中、三つの反応物質を、血漿中の実施例11の化合物(または、パートIIおよびIIIでは、実施例11の化合物または実施例12の化合物のいずれか)と混合して、ビーズ凝集免疫複合体を形成した。複合体の励起により、ドナービーズから一重項酸素分子が放出され、アクセプタビーズに誘導され、EnVisionプレートリーダーで測定された化学発光応答を誘発した。生成された光の量は、1秒あたりのカウント(cps)として報告され、分析対象物の濃度に比例した。
【0288】
すべての標準物質、QC-試料およびEDTA血漿中の未知試料を、4回測定で分析した。
【0289】
分析手順は以下のとおりであった:
アクセプタビーズ/ビオチン化抗体およびドナービーズの両方の作業溶液をLOCI緩衝液で調製した。
【0290】
1μLの血漿試料/標準物質/QCをウェルごとに適用した。
【0291】
GLP-1のN末端エピトープを認識するビオチン化モノクローナル抗体およびGLP-1のC末端に特異的なモノクローナル抗体でコーティングされたアクセプタビーズを含む15μLの作業溶液を各ウェルに添加した。
【0292】
プレートを密封し、黒色の蓋で覆った。
【0293】
アッセイは、18~22℃で1時間インキュベートした。
【0294】
LOCI緩衝液で希釈した30μLのストレプトアビジンコーティングドナービーズを、緑色光下で添加した。
【0295】
プレートを黒色の蓋で覆い、18~22℃で30分間インキュベートした。
最後に、プレートをEnvisionで読み取った。
【0296】
解析は、Envisionソフトウェアによって制御されるEnvisionリーダーを使用して実行した。装置応答(1秒あたりのカウント数)をLOCI計算機にエクスポートし、そこで血漿中濃度を計算した。
【0297】
標準物質:実施例11の標準物質の化合物(およびパートIIおよびIIIについては、実施例12の標準物質の化合物も)の希釈ラインを、400.000~42pmol/Lの範囲をカバーするマウス血漿プールで調製した。マウス血漿プールを0 pM標準物質(ブランク)として含めた。標準物質はMicronicチューブにマイナス18℃で保存した。
【0298】
性能:
定量下限(LoQ)を40pmol/Lと決定した。定量上限(ULoQ)を25.000pMと決定した。不精密性(CV)は、12回の連続分析で3つの試料を測定し、同じ分析で3つの試料のそれぞれを21回測定することにより評価した。全体のCVは<10%であった。
【0299】
材料:
試薬:
LOCI緩衝液:25mM Hepes(Sigma H-3375)、50mM NaCl(Merck 8.22184)、10mM K-EDTA(Fluka 03664)、2mg/ml Dextran(Pharmacosmos 551005009007)、0.5% ovalbumin OA(Sigma-A 5573)、0.05% BGG(Sigma G-7516)、0.1% Tween20(Merck 8.22184)、0.01% Proclin 300(Sigma-Aldrich 48912-U)、0.01% Gentamycin(Biol.Indust.03-035-1)、0.2mg/ml HBR1(Scan.Lab.3KC533)、pH7.4
【0300】
希釈および標準物質用のマウス血漿:
雌のマウス血漿(C57BL/6)をBioreclamation、K2 EDTA、カタログ番号MSEPLEDTA2-C57-Fから入手した。
【0301】
アッセイプレート:
Perkin Elmer、PPN 6005359。
【0302】
データ分析:
Graph Pad(登録商標)ソフトウェアをすべての分析に使用した。データを平均値として示した。統計分析を、2元配置分散分析とそれに続くすべての群を比較するボンフェローニの多重比較検定を使用して実行した。
【0303】
結果:
結果を図17に示し、図17Aは、gでの累積食物摂取量(FI)を示し、図17Bは、投与の24時間後に測定したpMでの血漿曝露レベルを示す。データを平均値として示す。
【0304】
図17Aからは、実施例11の化合物が用量依存的な様式で食物摂取量を減少させたことが明白である。また図17Bは、用量が高いほど、血漿曝露が高くなることを示す。これは、化合物がインビボで生物学的に活性であることを確認する。
【0305】
II.実施例11および12の「活性」および「不活性」化合物のヘッドトゥーヘッドのインビボ研究
実施例11のGLP-1抗TfR-Fab複合体のTfRアームが、上記で決定されたように食物摂取量の低下能力に寄与したかを決定するために、実施例12のGLP-1対照-Fab複合体を用いてヘッドトゥーヘッドの比較を行い、ここでは同じGLP-1R作動薬が不活性なFabと結合し、対照化合物として機能する。
【0306】
簡潔に述べると、除脂肪C57Bl6Jマウスを、上記のパートIのように、食物および水を適宜利用できる状態で、12時間の明暗サイクル(午前11時に消灯)で維持した。また、上記のパートIと同様に、マウスを、体重が均等に一致する3つの治療群のうちの1つに割り当てられる前に、7日間、biodaq食物摂取量モニタリングシステムに馴化させた。実験の日に、マウスに、以下の表に従って、ビヒクルまたは100nmol/kgの実施例11の化合物または実施例12の化合物のいずれかを投与した:
【0307】
【表H】
【0308】
次の24時間にわたって1時間ごとに食物摂取量をモニタリングし、その後、麻酔下で放血とそれに続く頸椎脱臼によりマウスを安楽死させた。
【0309】
マウスのサテライト群を使用して、各化合物の曝露プロファイルを生成した。上記のパートIで説明したように、血液試料を舌下神経叢を介してプロテアーゼ阻害剤カクテルを含むEDTAチューブに採取し、血漿を収集して曝露について分析した。各化合物について、静脈内投与1時間後、4時間後、8時間後、10時間後、16時間後、18時間後、および24時間後の時点あたりn=3マウスの低密度なサンプリングを介して採血した。血漿試料は、上記のパートIで述べたように、曝露について分析した。
【0310】
データ分析:
Graph Pad(登録商標)ソフトウェアをすべての分析に使用した。データを平均値として示した。統計分析を、2元配置分散分析とそれに続くすべての群を比較するボンフェローニの多重比較検定を使用して実行した。
【0311】
結果:
結果を図18に示し、図18Aは、gでの累積食物摂取量(FI)を示し、図18Bは、24時間にわたって測定した血漿曝露レベル(pMでの血漿濃度)を示す。
【0312】
図18Aから、両方のGLP-1化合物が、24時間の観察にわたって、ビヒクル処置マウスと比較して食物摂取量を減少させたことは明らかである。しかしながら、食物摂取量の低下は、実施例12の化合物で処置したマウスと比較して、実施例11の化合物で処置したマウスにおいて有意に大きかった。図18Bは、実施例12の対照化合物で処置したマウスにおいて血漿曝露レベルが類似またはそれ以上であることを示し、類似体間の食物摂取量の低下の差がPKにおける差とは無関係であることを示す。むしろ、これらのデータは、実施例11の化合物中の活性TfR Fabが、より大きな食物摂取量の低下に寄与したことを示す。
【0313】
III.実施例11および12の「活性」および「不活性」化合物を用いた食餌誘発性肥満マウスにおける亜慢性インビボ研究、体重低下の決定
急性食物摂取量の低下の減少が肥満の前臨床モデルにおける体重低減につながるかを決定するために、次に、19日間亜慢性的に治療したDIOマウスで上記のパートIおよびIIで使用した化合物を比較した。簡潔に述べると、雄のC57Bl6Jマウス(Charles River、France)(n=79)は、約4週齢で開始した60%高脂肪食(D12492、Research Diets、New Brunswick、NJ、USA)で維持された。約20週齢で肥満マウスを試験施設に輸送し、温度および湿度が制御された環境、ケージあたりn=10、12~12時間の明暗サイクル(午後11:00に消灯)で飼育した。4日後、高脂肪食給餌群のマウスを60%~45%の高脂肪食(HFD D12451、Research Diets、New Brunswick、NJ、USA)に切り替えて、粉々になるのを防ぎ、より正確に食物摂取量を測定した。すべてのマウスをこの時点で単独で飼育し、さらに2週間、それらの新しい環境に順応させた。食物および水はいつでも適宜利用できた。
【0314】
体組成(Echo MRI 700、Houston、TX、USA)を投与前の5日目に測定し、投与前の3日目にマウスを脂肪および除脂肪組織量を均等に一致させた3つの治療群のうちの1つに割り当てた。
【0315】
投与の前日から始めて、食物摂取量および体重を毎日モニタリングした。化合物は、以下の表6に従って、1日目から始め、午後12時30分から開始して毎日投与した。マウスに、最初の1~4日目に静脈内に投与し、その後、5~19日目に皮下投与した。血漿曝露用の血液試料は、19日目の投与の2時間後に収集し、上記のパートIで説明したように分析した。
【0316】
【表I】
【0317】
結果:
結果を図19に示し、図19Aは、平均体重低下(%)を示し、図19Bは、19日目の投与の2時間後に測定した平均血漿濃度(pM)を示す。
【0318】
図19Aから、両方の化合物がビヒクル処置マウスと比較して体重を低下させたことは明らかである。図19Bは、血漿中曝露レベルの差が群間で類似していたことを示すが、実施例11の「活性」化合物で治療したDIOマウスは、実施例12の「不活性」化合物で治療したDIOマウスよりも多く体重を減少させ、TfR Fabを含む「活性」化合物が、対照化合物と比較して体重低減に追加の利点を与えることを示す。
【0319】
本発明のある特定の特徴を本明細書において例示および説明してきたが、数多くの修正、置換、変更、および均等物がここで当業者には思い浮かぶであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の真の趣旨の範囲内にあるそのような全ての修正および変更を網羅することを意図していることが理解されるべきである。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
【配列表】
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