(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】電池抵抗算出システム及び劣化検出システム
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20241118BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20241118BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20241118BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241118BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
G01R27/02 A
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/42 P
(21)【出願番号】P 2021009590
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 政信
(72)【発明者】
【氏名】平野 道人
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 亜美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽介
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179652(JP,A)
【文献】国際公開第2019/215786(WO,A1)
【文献】特開2017-068989(JP,A)
【文献】特開2014-044106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
G01R 31/389
G01R 31/392
H01M 10/48
H01M 10/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測定対象セルがバスバーで接続された測定対象モジュールにおいて前記測定対象セルの電池抵抗を算出する電池抵抗算出システムであって、
前記測定対象モジュールと電気的に等価であり、かつ、既知の抵抗を含む校正用ダミーセルの交流インピーダンスを測定する
と共に、前記測定対象モジュールの前記測定対象セルの交流インピーダンスを測定する交流インピーダンス測定手段と、
前記校正用ダミーセルの直流抵抗と前記交流インピーダンスのレジスタンス値との比である補正係数Gを算出し、前記測定対象モジュールの前記測定対象セルの交流
インピーダンスに前記補正係数Gを乗ずることで前記測定対象セルの交流
インピーダンスを補正する補正手段と、を備える電池抵抗算出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電池抵抗算出システムであって、
前記交流インピーダンス測定手段は、前記バスバーのレジスタンス値Rbとリアクタンス値Ibをさらに測定し、
前記補正手段は、前記測定対象セルの交流
インピーダンスに前記補正係数Gを乗じた後の値から前記バスバーのレジスタンス値Rbと前記リアクタンス値Ibを減ずることで、前記測定対象セルの交流
インピーダンスを補正する電池抵抗算出システム。
【請求項3】
請求項2に記載の電池抵抗算出システムであって、
前記バスバーのレジスタンス値Rbは、直流抵抗計及び/又は低周波交流抵抗計で測定されたものである電池抵抗算出システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の電池抵抗算出システムであって、
前記リアクタンス値Ibは、前記校正用ダミーセルのバスバーのインダクタンス値Lbを測定し、前記インダクタンス値Lbを所望の測定周波数点におけるリアクタンスIbに換算することで算出されたものである電池抵抗算出システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電池抵抗算出システムと、
前記補正手段の出力の高周波側の所定周波数の実軸最小値と、予め取得した電池劣化度と前記実軸最小値との相関特性と、を参照して測定対象セルの劣化度を診断する劣化度判定手段と、を備える劣化検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の抵抗を測定する電池抵抗算出システム、及びこの電池抵抗算出システムを備える劣化検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
等価回路モデルを使ってセルモジュールにおけるセルの抵抗を補正することが知られている(特許文献1)。従来より、インダクタンス成分を除去した等価回路を用いることで、セルの本来の抵抗成分を評価することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インダクタンス成分を除去してシミュレーションを行う上述の従来技術では、数100Hz以上の高周波帯において、セルの交流抵抗(交流インピーダンス)の補正精度が低いという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高周波帯においても、交流抵抗の精度の高い補正が可能な電池抵抗算出システム及びこの電池抵抗算出システムを備える劣化検出システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、バスバー及び測定対象セルから構成された回路と電気的に等価であり、かつ、既知の抵抗を含む校正用ダミーセルモジュールの交流インピーダンスを測定し、校正用ダミーセルモジュールの直流抵抗と交流インピーダンスのレジスタンス値との比である補正係数Gを算出し、測定対象モジュールの測定対象セルの交流抵抗に補正係数Gを乗ずることで測定対象セルの交流抵抗を補正することで、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高周波帯においても、測定対象セルの交流抵抗の精度の高い補正ができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)は校正用ダミーモジュールが接続された本実施形態に係る劣化検出システムを示すブロック図であり、
図1(b)は測定対象モジュールが接続された本実施形態に係る劣化検出システムを示すブロック図である。
【
図2】
図2(a-1)は測定対象モジュールの平面図であり、
図2(a-2)は測定対象モジュールの正面図であり、
図2(b-1)は校正用ダミーモジュールの平面図であり、
図2(b-2)は校正用ダミーモジュールの正面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る測定対象セルの劣化検出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4(a)は
図3に示すステップS1における制御処理のサブフローを示すフローチャートであり、
図4(b)は
図3に示すステップS2における制御処理のサブフローを示すフローチャートであり、
図4(c)は
図3に示すステップS3における制御処理のサブフローを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る測定対象セルの劣化検出方法において測定された交流抵抗と、補正後の交流抵抗と、の一例を示すナイキスト線図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る測定対象セルの劣化検出方法において、劣化度の評価に用いるマップデータの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1実施形態≫
本発明に係る劣化検出システム及び劣化検出方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)は校正用ダミーモジュール100が接続された本実施形態に係る劣化検出システム1を示すブロック図であり、
図1(b)は測定対象セル200が接続された本実施形態に係る劣化検出システム1を示すブロック図である。
【0010】
この劣化検出システム1は、車載用のセルモジュール等におけるセルの交流抵抗(交流インピーダンス)を測定し、当該測定値を補正し、補正後の交流抵抗に基づいて測定対象セルの劣化度を検出する。劣化検出システム1では、劣化検出システム1に測定対象モジュール200が接続される前に、校正用ダミーモジュール100を用いて交流抵抗の補正に用いる補正量を算出する。よって、
図1(a)は、この補正量を算出する際の劣化検出システム1を示しており、一方で、
図1(b)は、補正量の算出後に測定対象セルの劣化度を検出する際の劣化検出システム1を示している。
【0011】
図1(a)及び
図1(b)に示すように、劣化検出システム1は、交流電源2と、交流インピーダンス測定手段3と、補正手段4と、劣化度判定手段5と、を備えている。交流電源2は、校正用ダミーモジュール100又は測定対象モジュール200と接続され、校正用ダミーモジュール100又は測定対象モジュール200に交流信号を供給する。この交流電源2は、校正用ダミーモジュール100又は測定対象モジュール200の電極端子C0と電極端子C2と電気的に接続されており、電極端子C0から所望の周波数fを有する交流信号を入力する。
【0012】
図2(a-1)は測定対象モジュール200の平面図であり、
図2(a-2)は測定対象モジュール200の正面図である。ここでは、便宜上、モジュールケース等の図示及び説明は省略する。測定対象モジュール200は、複数(本例では4個)の測定対象セル201a,201b,202a,202bと、複数(本例では8本)のリード線203と、複数(本例では8枚)の電極タブ204、複数(本例では3枚)のバスバー205a~205cと、を備えている。測定対象セル201a,201bは、リード線203及び電極タブ204を介して第1のバスバー205a及び第2のバスバー205bと電気的に接続されており、測定対象セル202a,202bは、リード線203及び電極タブ204を介して第3のバスバー205c及び第2のバスバー205bと電気的に接続されている。測定対象セル201a,201b,202a,202bは、例えば、リチウムイオン二次電池である。また、第1のバスバー205aは電極端子C0と接続されており、第2のバスバー205bは電極端子C1と接続されており、第3のバスバー205cは電極端子C3と接続されている。交流電源2により電極端子C0から入力された交流信号は、第1のバスバー205a、測定対象セル201a,201b、第2のバスバー205b、測定対象セル202a,202b、をこの順で伝わり、最終的に、第3のバスバー205cと接続された電極端子C3から出力される。なお、測定対象セル及びバスバ等の数は特に限定されない。
【0013】
一方で、
図2(b-1)は校正用ダミーモジュール100の平面図であり、
図2(b-2)は校正用ダミーモジュール100の正面図である。この校正用ダミーモジュール100は、上記の測定対象モジュール200において、測定対象セル201a,201bを既知の抵抗値Rs
1(リード線103の抵抗を含む)を有する純抵抗器R
1に置き換えるとともに、測定対象セル202a,202bを既知の抵抗値Rs
2(リード線103の抵抗を含む)を有する純抵抗器R
2に置き換えたモジュールである。よって、第1~第3のバスバー205a~205cは、測定対象モジュール200のバスバと同一である。また、純抵抗器R
1,R
2は、実質的に静電容量Cを持っていない。なお、純抵抗器R
1,R
2は、実際には僅かな浮遊容量を有しているが、Rs
1,Rs
2≫(ωC)
-1の関係となるように設定されているため、静電容量Cを無視することができる。また、ωは交流電源2の出力の角周波数である。校正用ダミーモジュール100は、検出回路特性及びバスバーインダクタンス等を取得するために設けられるため、測定対象セルの静電容量Cは反って邪魔になる。そのため、静電容量Cを無視できる校正用ダミーモジュール100の仕様が好ましい。抵抗値Rs
2,Rs
2は、特に限定されないが、1mΩとすることができる。
【0014】
また、この校正用ダミーモジュール100の第1及び第2のバスバー205a,205b、2本のリード線103、及び純抵抗器R1から構成された第1の校正用ダミーセル101は、測定対象モジュール200の第1及び第2のバスバー205a,205b、4枚の電極タブ204、4本のリード線203、及び測定対象セル201a,201bから構成された測定対象セル201と電気的に等価となっていると共に、校正用ダミーモジュール100の第2及び第3のバスバー205b,205c、2本のリード線103、及び純抵抗器R2から構成された第2の校正用ダミーセル102は、測定対象モジュール200の第2及び第3のバスバー205b,205c、4枚の電極タブ204、4本のリード線203、及び測定対象セル202a,202bから構成された測定対象セル202と電気的に等価となっている。結果的に、校正用ダミーモジュール100が測定対象モジュール200と電気的に等価となっている。
【0015】
交流インピーダンス測定手段3は、校正用ダミーモジュール100及び測定対象モジュール200の交流インピーダンスを測定する。この交流インピーダンス測定手段3は、EIS(Electro-chemical Impedance Spectroscopy)計測等により交流インピーダンスを測定することができる。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、交流インピーダンス測定手段3は、増幅器30a~30cと、複素インピーダンス演算部31,32と、を備えている。増幅器30aは、所定の設定ゲインG
1を有するオペアンプである。この増幅器30aは、電極端子C0及び電極端子C1の出力値(第1の校正用ダミーセル101又は2並列の測定対象セル201)から、電極端子C0と電極端子C1との間の所定周波数における電圧Vs
1(ω)を演算する。増幅器30bは、所定の設定ゲインG
2を有するオペアンプである。この増幅器30bは、電極端子C1及び電極端子C2の出力値から、電極端子C1と電極端子C2との間の所定周波数における電圧Vs
2(ω)を演算する。増幅器30cは、交流電源2が出力する所定周波数における交流電流Iac(ω)を演算する。
【0016】
複素インピーダンス演算部31は、増幅器30aからの出力値Vs1(ω)を増幅器30cからの出力値Iac(ω)で除することで、電極端子C0,C1間の交流インピーダンスを算出し、演算した交流インピーダンスのレジスタンス値及びリアクタンス値を補正手段4に出力する。同様に、複素インピーダンス演算部31も、電極端子C1,C2間の交流インピーダンスを算出し、演算した交流インピーダンスのレジスタンス値(ω)及びリアクタンス値を補正手段4に出力する。なお、複素インピーダンス演算部31,32は、例えば、ROM又はRAMなどのメモリ、及び、CPUなどのプロセッサ等により構成されていてもよい。
【0017】
補正手段4は、
図1(a)に示すように校正用ダミーモジュール100が接続されている場合には、測定対象セルの交流インピーダンスを補正するための補正量(下記の補正係数及びオフセット)を算出し記憶する。ここで、本実施形態における補正手段4が算出する補正量について説明する。上述の従来技術では、数100Hz以上の高周波帯において交流インピーダンスの適切な補正ができなかった。本発明者等は、その原因として、以下の2つの原因を発見した。まず、第1の原因としては、高周波帯において、実軸(レジスタンス値)に変化が生じており、この変化が従来技術のような等価回路に表現及び説明できないことを発見した。そして、本発明者等の知見によれば、実軸の変化はインピーダンスの計測系の位相/群遅延特性が合成されて発現するものであることが分かった。具体的には、増幅器30a,30bのゲインG
1,G
2は、周波数に依存している。理想的には、ゲインG
1,G
2は、それぞれ同じ値(増幅率)を示すように回路設計するが、特に高周波においては周波数に応じてゲインが低下する傾向があることが分かった。そこで、当該低下を補うことで低周波帯と同様な検出振幅が得られるように、下記(1)式のG
1(ω)及び下記(2)式のG
2(ω)を周波数毎の補正係数として使用する。なお、下記(1)及び(2)式は、インピーダンス計測系の検出回路が線形特性(一次式で近似可能な周波数特性を確保している前提)であるため一次近似式としているが、これに限定されず、多項式であってもよい。同じ要領でゲインの補正係数を求めて適用すれば、検出回路のもつ僅かな非線形特性をも補正することが可能となる。
G
1(ω)=(Rb
1+Rs
1)/Rc
1(ω) ・・・ (1)
G
2(ω)=(Rb
2+Rs
2)/Rc
2(ω) ・・・ (2)
但し、上記(1)式において、G
1(ω)は周波数ごとの補正係数であり、Rb
1は第1の校正用ダミーセル101のバスバー205a,205bに由来する抵抗値であり、Rs
1は純抵抗R
1の既知の抵抗値であり、Rc
1(ω)は第1の校正用ダミーセル101の周波数毎の交流インピーダンスのレジスタンス値であり、ωは交流電源2からの出力の角周波数(変数)である。また、上記(2)式において、G
2(ω)は周波数ごとの補正係数であり、Rb
2は第2の校正用ダミーセル102のバスバー205b,205cに由来する抵抗値であり、Rs
2は純抵抗R
2の既知の抵抗値であり、Rc
2(ω)は第2の校正用ダミーセル102の周波数毎の交流インピーダンスのレジスタンス値であり、ωは交流電源2からの出力の角周波数(変数)である。
【0018】
なお、補正係数において利用する物理量が周波数依存を持たない抵抗成分だけである理由は、上記式(周波数毎)で計算することで周波数依存をもつ寄生容量・寄生インダクタンスによるゲイン誤差を周波数の関数として定義するためである。実際の抵抗素子は周波数依存成分を有するがその分は寄生容量・寄生インダクタンスに含めて扱う。純抵抗器の寄生容量・寄生インダクタンスは、抵抗値Rs,Rbに対して非常に低い。例えば、寄生容量・寄生インダクタンスは、抵抗値Rs,Rbに対して1%以下(Rs×0.01,Rb×0.01≫1/ωC、Rs×0.01,Rb×0.01≫ωL)となるように校正用ダミーセルを構成する。しかし、高周波になるとともに寄生容量・寄生インダクタンスが数%を超えてくる場合、その数%の寄生容量・寄生インダクタンスはバスバーインダクタンスLb(後述)に加えて用いる。なお、寄生容量が式に表れないのは符号反転でLbに加算されたものとして扱うためである。
【0019】
このようにして求めた補正係数をその周波数毎にセルモジュール測定結果に乗じることで、バスバー205a~205cや交流インピーダンス測定手段3の非直線性あるいは信号増幅誤差と、その他の計測系(ハーネス、プリント基板配線)に分布する寄生容量・寄生インダクタンスによる測定誤差を角周波数ω毎に補正することができる。
【0020】
上記(1)式の和(Rb1+Rs1)は、例えば、日置電機製RM3543等の直流抵抗計により、校正用ダミーモジュール100の電極端子C0,C1間の抵抗値を測定することで算出できる。すなわち、電極端子C0,C1間の抵抗値は、第1の校正用ダミーセル101のバスバー205a,205bの抵抗値Rb1と純抵抗器R1の抵抗値Rs1の和と見做すことができる。また、和(Rb1+Rs1)の測定には、Keysight Technologies社製E4980AL等の交流抵抗計(LCRメータ)を使用してもよい。交流抵抗計を用いるときには、直流電流又は約100Hz以下の周波数の交流電流を用いて上記と同様にして測定を行えばよい。直流抵抗計または低周波で抵抗測定する理由は、寄生インダクタンスによる抵抗計測誤差(高めの値を示す)を排除するためである。また、第1の校正用ダミーセル101のバスバー205a,205bの抵抗値Rb1をより正確に測定する場合には、バスバー205a,205bのそれぞれの両端部に直流抵抗計又は交流抵抗計を接続して抵抗値Rb1を計測してもよい。このとき、インダクタンスの測定周波数は交流インピーダンス測定手段の測定範囲のより高周波側或いはそれより高い周波数で測定すると、より高精度のインダクタンス値を得ることができる。また、インダクタンスの周波数特性の非線形性が強い計測系を用いる場合は、複数の周波数点のインダクタンスを測定し、周波数の関数とすることも有効である。また、測定には四端子法プローブを用いることが好ましい。
【0021】
本実施形態のように、測定対象セルを既知の純抵抗に置き換えて測定を行うことで、従来技術においてリード線及びバスバーの抵抗、自己インダクタンス、相互インダクタンスが合算された混合結果としてしか得られなかったリード線抵抗/インダクタンス値を精密に得る(抽出する)ことができる。
【0022】
また、Rc1(ω)は、校正用ダミーモジュール100の電極端子C0,C1間の周波数ごとの交流インピーダンスを交流インピーダンス測定手段3により測定することで算出することができる。
【0023】
上記(2)式の和(Rb2+Rs2)は、校正用ダミーモジュール100の電極端子C1,C2間の抵抗値を、上記と同様にして測定することで算出できる。また、Rc2(ω)は、校正用ダミーモジュール100の電極端子C1,C2間の周波数ごとの交流インピーダンスを交流インピーダンス測定手段3により測定することで算出することができる。
【0024】
また、本発明者等は、第2の原因として、大容量のEV用車載セルモジュールはバスバーを有する構造を有しているため、このバスバーに起因するレジスタンス及びインダクタンスの影響により、交流インピーダンスの適切な補正ができないことを発見した。具体的には、本発明者等は、上記バスバーに起因するインダクタンスの影響により、実際の測定対象セルのインピーダンスに対して、高周波において過大な値を取る内部バスバー等(セル以外)のインピーダンスが生じることを発見した。よって、この過大なインピーダンスを除去するため、交流インピーダンスの虚部に対しては下記(3)及び(4)式の周波数毎のオフセット値を使用し、実部に対しては上記抵抗値Rb(Rb1,Rb2)をオフセット値として使用する。具体的には、校正用ダミーセル101,102のバスバーのインダクタンス値Lbを測定し、インダクタンス値Lbを所望の測定周波数点におけるリアクタンスIbに換算したものを用いる。
Ib1(ω)=Lb1×ω ・・・ (3)
Ib2(ω)=Lb2×ω ・・・ (4)
但し、上記(3)式において、Ib1(ω)はオフセット値であり、Lb1は第1の校正用ダミーセル101のバスバー205a,205bに由来するインダクタンス値であり、ωは交流電源2からの出力の角周波数(変数)である。また、上記(4)式において、Ib2(ω)はオフセット値であり、Lb2は第2の校正用ダミーセル102のバスバー205b,205cに由来するインダクタンス値であり、ωは交流電源2からの出力の角周波数(変数)である。
【0025】
このように、測定対象モジュール200と同一の構成のバスバー205a~205cのレジスタンスとリアクタンスの実測値をオフセット値とすることで、実態に合った精密なバスバーインピーダンスを除去することとなる。従って、測定対象セル201,202の交流インピーダンスを精度よく検出することが可能になる。
【0026】
インダクタンス値Lb1の測定には、Keysight Technologies社製E4980AL等の交流抵抗計(LCRメータ)により、校正用ダミーモジュール100の電極端子C0,C1間のインダクタンス値を測定することで算出できる。また、第1の校正用ダミーセル101のバスバー205a,205bのインダクタンス値Lb1をより正確に測定する場合には、バスバー205a,205bのそれぞれの両端部に交流抵抗計を接続してインダクタンス値Lb1を計測してもよい。このとき、四端子法プローブを用いることが好ましい。このときの交流電流の周波数は、特に限定されないが、100kHzとすることができる。また、インダクタンス値Lb2の測定には、上記と同様に、交流抵抗計により、校正用ダミーモジュール100の電極端子C1,C2間のインダクタンス値を測定することで算出できる。
【0027】
補正手段4は、
図1(b)に示すように測定対象モジュール200が接続されている場合には、記憶された補正係数G(ω)及びオフセット値(Rb,Ib(ω))を用いて、下記(5)及び(6)式に示すように、交流インピーダンス測定手段3からの出力値Rd
1(ω),Id
1(ω)をRe
1(ω),Im
1(ω)に補正(校正)する。すなわち、測定対象セル201(2並列)の交流インピーダンスの測定値を補正する。
Re
1(ω)=G
1(ω)×Rd
1(ω)-Rb
1 ・・・ (5)
Im
1(ω)=G
1(ω)×Id
1(ω)-Ib
1 ・・・ (6)
但し、上記(5)式において、Re
1(ω)は補正後の交流インピーダンスのレジスタンス値であり、G
1(ω)は上述の補正係数であり、Rd
1(ω)は交流インピーダンス測定手段3により算出されたレジスタンス値であり、Rb
1は上述のオフセット値(バスバー205a,205bに由来する抵抗値)である。また、上記(6)式において、Im
1(ω)は補正後の交流インピーダンスのリアクタンス値であり、G
1(ω)は上述の補正係数であり、Id
1(ω)は交流インピーダンス測定手段3により算出されたリアクタンス値であり、Ib
1は上述のオフセット値である。
【0028】
また、補正手段4は、同様に、下記(7)及び(8)式に示すように、交流インピーダンス測定手段3からの出力値Rd2(ω),Id2(ω)をRe2(ω),Im2(ω)に補正する。すなわち、測定対象セル202の交流インピーダンスの測定値を補正する。
Re2(ω)=G2(ω)×Rd2(ω)-Rb2 ・・・ (7)
Im2(ω)=G2(ω)×Id2(ω)-Ib2 ・・・ (8)
但し、上記(7)式において、Re2(ω)は補正後の交流インピーダンスのレジスタンス値であり、G2(ω)は上述の補正係数であり、Rd2(ω)は交流インピーダンス測定手段3により算出されたレジスタンス値であり、Rb2は上述のオフセット値(バスバー205b,205cに由来する抵抗値)である。また、上記(8)式において、Im2(ω)は補正後の交流インピーダンスのリアクタンス値であり、G2(ω)は上述の補正係数であり、Id2(ω)は交流インピーダンス測定手段3により算出されたリアクタンス値であり、Ib2は上述のオフセット値である。
【0029】
そして、この補正手段4は、上記(5)~(8)式で算出した補正後の交流インピーダンスを周波数毎に劣化度判定手段5に出力する。劣化度判定手段5は、補正後の測定対象セル201,202の交流インピーダンスの値からそれぞれの測定対象セル201,202の劣化度を判定する。本実施形態では、補正手段4の出力の高周波側の所定周波数の実軸最小値(Re2(ω)の最小値)と、予め取得した電池劣化度(SOH)と実軸最小値との相関特性と、を参照して測定対象セルの劣化度を診断する。特に、SOC50%領域での実軸最小値を用いることが好ましい。本発明者等の知見によれば、同一のセルにおける実軸抵抗値は高SOCから中間SOCに向けて一旦、低抵抗値に推移し、SOC50%以下は再び高抵抗になることが分かった(二次関数的挙動)。そこで、このSOC感度が低くなる(折り返し領域)SOC50%領域での実軸抵抗値(=実軸最小値)を劣化度診断の指標として採用すれば、劣化度の診断結果のばらつきが小さくなる。つまり、SOCによる計測値のばらつきを低減することができる。
【0030】
次に、劣化検出システム1を用いた劣化検出方法について
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は、本実施形態に係る測定対象セルの劣化検出方法の手順を示すフローチャートである。
【0031】
ステップS1において、計測系(交流インピーダンス測定手段3)の周波数特性と、バスバー205a~205c(
図2参照)のインダクタンスを取得する。
図4(a)は
図3に示すステップS1における制御処理のサブフローを示すフローチャートである。まず、
図4(a)のステップS11において、校正用ダミーモジュール100に劣化検出システム1の交流電源2及び交流インピーダンス測定手段3を接続する(
図1(a)参照)。この校正用ダミーモジュール100は、測定対象モジュール200の測定対象セル201,202を、既知の抵抗値を有する純抵抗器R
1,R
2に置換したものである。次に、ステップS12において、交流電源2の出力を所望の測定周波数f(f=ω/2π)にセットする。ステップS13において、交流インピーダンス測定手段3により、当該所望の周波数における交流インピーダンスを測定し、補正手段4に出力する。本実施形態では、交流インピーダンスの実軸(レジスタンス値Rc(ω)(Rc
1(ω),Rc
2(ω)))及び虚軸(リアクタンス値Ic(ω)(Ic
1(ω),Ic
2(ω)))を出力する。補正手段4は、レジスタンス値Rc(ω)及びリアクタンス値Ic(ω)を記録する。
【0032】
ステップS14において、全ての所望の周波数における交流インピーダンスを測定したか否かを確認する。ここで、全ての所望の周波数における交流インピーダンスを測定していない場合には、ステップS12~ステップS14を繰り返すことで、全ての所望の周波数における交流インピーダンスを測定する。ステップS14において、全ての所望の周波数における交流インピーダンスを測定済みである場合には、第1及び第2の校正用ダミーセル101,102の端子間(電極端子C0、C1間及び電極端子C1、C2間)の直流抵抗Rb(Rb1,Rb2)を直流抵抗計又は低周波交流抵抗計により測定する。次に、ステップS16において、第1及び第2の校正用ダミーセル101,102の端子間のインダクタンスLb(Lb1,Lb2)を高周波交流抵抗計により測定する。以上のように、計測系の周波数特性と、バスバーのインダクタンスを取得する。
【0033】
次に、
図3のステップS2において、補正量(補正係数及びオフセット値)を算出する。
図4(b)は
図3に示すステップS2における制御処理のサブフローを示すフローチャートである。
図4(b)のステップS21において、上記(1)及び(2)式に基づき、周波数毎に上述の補正係数G(ω)(G
1(ω),G
2(ω))を算出する。次に、ステップS22において、周波数毎に上述のオフセット値Ib(ω)(Ib
1(ω),Ib
2(ω))を算出する。以上のように、補正量を算出する。
【0034】
次に、
図3のステップS3において、測定対象セル201,202の交流インピーダンスの測定値を補正し、当該補正後の交流インピーダンスの値に基づいて測定対象セル201,202の劣化度を診断する。
図4(c)は
図3に示すステップS3における制御処理のサブフローを示すフローチャートである。
図4(c)のステップS31において、校正用ダミーモジュール100から劣化検出システム1を取り外し、測定対象モジュール200に劣化検出システム1を接続する。ステップS32において、測定対象モジュール200に対する交流電源2の出力を所望の測定周波数fにセットする。ステップS33において、交流インピーダンス測定手段3により、当該所望の周波数における交流インピーダンスを測定し、補正手段4に出力する。本実施形態では、交流インピーダンスの実軸(レジスタンス値Rd(ω)(Rd
1(ω),Rd
2(ω)))及び虚軸(リアクタンス値Id(ω)(Id
1(ω),Id
2(ω)))を出力する。補正手段4は、このレジスタンス値Rd(ω)及びリアクタンス値Id(ω)を一次記憶する。次に、ステップS34において、補正手段4は、ステップS2で算出した補正量を使用して、レジスタンス値Rd(ω)及びリアクタンス値Id(ω)を補正する(上記(5)~(8)式参照)。
【0035】
図5は、本実施形態に係る測定対象セルの劣化検出方法において測定された交流抵抗(図中の曲線a)と、補正後の交流インピーダンス(図中の曲線b)と、の一例を示すナイキスト線図である。
図5の曲線aのように、補正前の交流抵抗は高周波領域において飽和(発散)してしまっており、正確な交流抵抗が測定できていないことがわかる。一方、
図5の曲線bのように、補正前の交流抵抗は高周波領域の点Pにおいて収束している。
【0036】
ステップS35において、全ての所望の周波数における交流インピーダンスを測定及び補正したか否かを確認する。ここで、全ての所望の周波数における交流インピーダンスを測定及び補正していない場合には、ステップS32~ステップS35を繰り返すことで、全ての所望の周波数における交流インピーダンスを測定及び補正する。ステップS35において、全ての所望の周波数における交流インピーダンスを測定及び補正済みである場合には、ステップS36において劣化度(SOH)を判定する。具体的には、予め取得した電池劣化度(SOH)と実軸最小値との相関特性(マップデータ)を参照して、補正後の交流インピーダンスの実軸最小値から電池劣化度を算出する。上述の
図5の例であれば、実軸最小値は点Pにおける実軸である。なお、点Pにおける周波数は約4kHzである。
【0037】
図6は、本実施形態に係る測定対象セルの劣化検出方法において、劣化度の評価に用いるマップデータの一例である。このマップデータは、劣化度の異なる2つの測定対象セルを充放電して予め求めたSOH(縦軸)と、交流インピーダンス測定手段と出力補正手段を用いて得たセルの高周波インピーダンス(横軸)をプロットしたもので、それぞれ測定対象セルの充電量SOCの2水準(SOC100%及びSOC20%)で重ね書きしてある。このグラフの横軸は周波数が約4kHzであるときの実軸である。ステップS36では、
図6のようなマップデータを参照して、測定対象セルの劣化度(SOH)を診断できる。このように測定対象セルのSOHと高周波インピーダンスの相関特性を所定のサンプル数で実測してマップデータを作成しておけば、以降、このマップデータの特性線図を参照して、未知の測定対象セルのSOHを推定することが可能となる。なお、高周波インピーダンスを用いる理由は、セルの正/負極に起因するインピーダンス変化の影響が低減するからであり、セルのSOHのうち、電解質劣化に伴う充放電容量FCCの変化を選択的に判定することが可能となるからである。
【0038】
本実施形態のように、従来技術の電気化学モデル(シミュレーション、フィッティング量)による補正では対応しきれない計測系の寄生インダクタンスや信号処理の非直線性を、実測値に基づいて算出した所望の周波数毎の補正係数により除去することで、検出系に起因する周波数依存の検出誤差を適切に補正することが可能になる。さらに、本実施形態のように、測定対象モジュール200と同一の構成のバスバー205a~205cのレジスタンスとリアクタンスの実測値を補正量とすることで実態に合った精密な内部バスバーインピーダンスを除去することができる。これにより、所望の周波数毎に測定されたインピーダンスの直線性(精度)が向上する。よって、測定対象セル201,202の高周波インピーダンスが検出可能となり、セルの高周波インピーダンスと相関のあるSEI(solid-electrolyte interphase)の蓄積等による電解質の劣化等を精密に検出できる。その結果、セルの不可逆な劣化(健全度SOH)の判定精度が向上する。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0040】
1…劣化検出システム
2…交流電源
3…交流インピーダンス測定手段
4…補正手段
5…劣化度判定手段
100…校正用ダミーモジュール
200…測定対象モジュール