(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/05 20060101AFI20241118BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
C08L83/05
C08F8/42
(21)【出願番号】P 2021023461
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】井手 正仁
(72)【発明者】
【氏名】稲成 浩史
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 貴雄
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-194215(JP,A)
【文献】特開2001-172504(JP,A)
【文献】特開2017-128640(JP,A)
【文献】特開2017-132904(JP,A)
【文献】特開2003-327838(JP,A)
【文献】特開平08-127683(JP,A)
【文献】特開平11-124502(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007789(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有する有機化合物と、
(B)ヒドロシリル化触媒と、
(C)一分子中に以下(α)、(β)、並びに(γ)の構造、およびSiH基を有する化合物を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
前記(α)が少なくとも2つのSi原子と結合しており、分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体構造であり、
前記(β)が、
ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、モノアリルジメチルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジベンジルイソシアヌレート、およびモノアリルジプロピルイソシアヌレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記(γ)がシロキサン構造である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)100重量%に対して前記(α)が15~85重量%である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(α)構造がイソブチレン重合体、水素添加イソプレン重合体、および水素添加ブタジエン重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を含む、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(γ)構造が、下記一般式(I)
【化1】
(式中R
1、R
2は炭素数1~10の有機基を表し同一であっても異なっても良く、nは1~10、mは0~10の数を表す)で表される、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)が、ビニルノルボルネン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、1,3-ビス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3-ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、1,4-シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、ビニルシクロへキセン、1,5-ヘキサジエン、1,9-デカジエン、ジアリルエーテル、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、1,3,5-トリス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3,5-トリス(ビニルオキシ)アダマンタン、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率および誘電損失が低く、接着性に優れた熱硬化性樹脂組成物に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス分野において広く利用されているエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に関し、近年、通信技術の飛躍的向上から、電子デバイスでの大容量な情報や信号を高速処理することが求められている。一方で、電子デバイスの封止材料などで用いられる熱硬化性樹脂についても誘電遅延・伝送ロスに影響を及ぼすことから低誘電率かつ低誘電損失な材料が強く切望されている。一方、飽和炭化水素系ポリマー、および、シロキサン系ポリマーは低極性であり、一般に低誘電率な素材として知られており、既にヒドロシリル化反応による熱硬化性樹脂は特許文献1、2などで提案されているが、特に誘電損失などの電気特性向上を志向した樹脂設計となっておらず、接着性に優れ、かつ、低誘電率・低誘電損失な熱硬化性樹脂組成物は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-127683号公報
【文献】特開2002-80733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電率および誘電損失が低く、接着性に優れた熱硬化性樹脂組成物を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する為に検討を重ねた結果、(A)一分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有する有機化合物、(B)ヒドロシリル化触媒、(C)一分子中に以下(α)、(β)、並びに(γ)の構造、およびSiH基を有する化合物を含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記(α)が少なくとも2つのSi原子と結合しており、分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体構造であり、前記(β)が少なくとも1つのSi原子と結合しており、分子量500以下であり、かつ、3置換イソシアヌレート構造、3置換トリアジン構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造、および炭素数6~24の直鎖もしくは分岐アルキルエーテル構造よりなる群から選択される少なくとも1種を含む有機構造であり、前記(γ)がシロキサン構造である、熱硬化性樹脂組成物が、優れた接着性、かつ、低誘電率および低誘電損失の優れた電気特性を兼ね備える事を見出すに至った。本発明は、以下からなるものである。
【0006】
〔1〕.(A)一分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有する有機化合物と、(B)ヒドロシリル化触媒と、(C)一分子中に以下(α)、(β)、並びに(γ)の構造、およびSiH基を有する化合物を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
前記(α)が少なくとも2つのSi原子と結合しており、分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体構造であり、
前記(β)が少なくとも1つのSi原子と結合しており、分子量500以下であり、かつ、3置換イソシアヌレート構造、3置換トリアジン構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造、および炭素数6~24の直鎖もしくは分岐アルキルエーテル構造よりなる群から選択される少なくとも1種を含む有機構造であり、
前記(γ)がシロキサン構造である、熱硬化性樹脂組成物。
【0007】
〔2〕.前記(C)100重量%に対して前記(α)が15~85重量%である、〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0008】
〔3〕.前記(α)構造がイソブチレン重合体、水素添加イソプレン重合体、および水素添加ブタジエン重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を含む、〔1〕または〔2〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0009】
〔4〕.前記(γ)構造が、下記一般式(I)
【0010】
【0011】
(式中R1、R2は炭素数1~10の有機基を表し同一であっても異なっても良く、nは1~10、mは0~10の数を表す)
で表される、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0012】
〔5〕.前記(A)が、ビニルノルボルネン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、1,3-ビス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3-ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、1,4-シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、ビニルシクロへキセン、1,5-ヘキサジエン、1,9-デカジエン、ジアリルエーテル、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、1,3,5-トリス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3,5-トリス(ビニルオキシ)アダマンタン、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0013】
〔6〕.前記(β)が、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、モノアリルジメチルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジベンジルイソシアヌレート、およびモノアリルジプロピルイソシアヌレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、(A)一分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有する有機化合物と、(B)ヒドロシリル化触媒と、(C)一分子中に以下(α)、(β)、並びに(γ)の構造、およびSiH基を有する化合物を含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記(α)が少なくとも2つのSi原子と結合しており、分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体構造であり、前記(β)が少なくとも1つのSi原子と結合しており、分子量500以下であり、かつ、3置換イソシアヌレート構造、3置換トリアジン構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造、および炭素数6~24の直鎖もしくは分岐アルキルエーテル構造よりなる群から選択される少なくとも1種を含む有機構造であり、前記(γ)がシロキサン構造であることによって、高接着性、かつ、電気特性に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(熱硬化性樹脂組成物について)
上記、熱硬化性樹脂組成物は、(A)一分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有する有機化合物、(B)ヒドロシリル化触媒、(C)一分子中に以下(α)、(β)、並びに(γ)の構造、およびSiH基を有する化合物を必須とする熱硬化性樹脂組成物であり、前記(α)が少なくとも2つのSi原子と結合しており、分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体構造であり、前記(β)が少なくとも1つのSi原子と結合しており、分子量500以下であり、かつ、3置換イソシアヌレート構造、3置換トリアジン構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造、および炭素数6~24の直鎖もしくは分岐アルキルエーテル構造よりなる群から選択される少なくとも1種を含む有機構造であり、前記(γ)がシロキサン構造であるものである。
【0016】
以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物で必須成分である各成分について説明する。
【0017】
(成分(A):一分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有する有機化合物)
上記、熱硬化性樹脂組成物を得るために、一分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有する有機化合物が必須であり、その他必須成分である、(B)、(C)成分と分離せず均一に相溶化するものであれば、特に限定せず使用することができる。
【0018】
具体的な化合物としては、ビニルノルボルネン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ジアリリデンペンタエリスリット、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、ジアリルジメチルグリコールウリル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、ノナンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ビスフェノールSジアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、1,4-ジイソプロペニルベンゼン、1,3-ビス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3-ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、ビニルシクロへキセン、1,5-ヘキサジエン、1,9-デカジエン、ジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、2,5-ジアリルフェノールアリルエーテル、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、1,3,5-トリス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3,5-トリス(ビニルオキシ)アダマンタン、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、1,3,5-トリス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3,5-トリス(ビニルオキシ)アダマンタン、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル等が挙げられる。
【0019】
特に、耐熱性、耐光性が高いという観点から、ビニルノルボルネン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、1,3-ビス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3-ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、1,4-シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、ビニルシクロへキセン、1,5-ヘキサジエン、1,9-デカジエン、ジアリルエーテル、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、1,3,5-トリス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3,5-トリス(ビニルオキシ)アダマンタン、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテルが好ましく、また密着性に優れるという観点より、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、ジアリルジメチルグリコールウリルが特に好ましい。
【0020】
また少なくとも2つのアルケニル基を有するケイ素系化合物についてもヒドロシリル化反応による熱硬化性樹脂の成分としてよく用いられるが、本発明の場合、熱硬化後に得られる硬化物・薄膜の接着性や電気特性(特に誘電損失)が悪化するため好ましくない。
【0021】
また(A)成分について、適用する用途や他成分との相溶性に応じて、2種類以上の化合物も用いてもよい。
【0022】
(A)成分の含有量としては、熱硬化性樹脂100重量%中、電気特性の観点から3~35重量%であることが好ましく、5~30重量%であることがより好ましく、10~25重量%であることが特に好ましい。
【0023】
(成分(B):ヒドロシリル化触媒)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、アルケニル基とSiH基とのヒドロシリル化反応により熱硬化するため、ヒドロシリル化触媒を必須として含有する。
【0024】
ヒドロシリル化触媒としては、例えば次のようなものを用いることができる。白金の単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させたもの、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体、白金-オレフィン錯体(例えば、Pt(CH2=CH2)2(PPh3)2、Pt(CH2=CH2)2Cl2)、白金-ビニルシロキサン錯体(例えば、Pt(ViMe2SiOSiMe2Vi)n、Pt[(MeViSiO)4]m)、白金-ホスフィン錯体(例えば、Pt(PPh3)4、Pt(PBu3)4)、白金-ホスファイト錯体(例えば、Pt[P(OPh)3]4、Pt[P(OBu)3]4)(式中、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を表し、n、mは、整数を示す。)、ジカルボニルジクロロ白金、カールシュテト(Karstedt)触媒、また、アシュビー(Ashby)の米国特許第3159601号及び3159662号明細書中に記載された白金-炭化水素複合体、ならびにラモロー(Lamoreaux)の米国特許第3220972号明細書中に記載された白金アルコラート触媒が挙げられる。更に、モディック(Modic)の米国特許第3516946号明細書中に記載された塩化白金-オレフィン複合体も本発明において有用である。
【0025】
また、白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh)3、RhCl3、RhAl2O3、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・2H2O、NiCl2、TiCl4、等が挙げられる。これらの中では、触媒活性の点から塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-ビニルシロキサン錯体等が好ましい。また、これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0026】
(B)成分の含有量としては、熱硬化性樹脂100重量%中、硬化性の観点から0.01~1重量%であることが好ましく、0.03~0.7重量%であることがより好ましく、0.05~0.3重量%であることが特に好ましい。
【0027】
また、上記触媒には助触媒を併用することが可能であり、例としてトリフェニルホスフィン等のリン系化合物、ジメチルマレート等の1、2-ジエステル系化合物、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-ブチン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等のアセチレンアルコール系化合物、単体の硫黄等の硫黄系化合物等が挙げられる。助触媒の添加量は特に限定されないが、ヒドロシリル化触媒1モルに対しての好ましい添加量の下限は、10-2モル、より好ましくは10-1モルであり、好ましい添加量の上限は102モル、より好ましくは10モルである。
【0028】
(成分(C):一分子中に(α)、(β)、並びに(γ)の構造、およびSiH基を有する化合物)
本発明において必須成分である成分(C)は、一分子中に(α)、(β)、並びに(γ)の構造、およびSiH基を有する化合物であれば特に限定はされない。この(α)、(β)、並びに(γ)の構造とは、
(α)少なくとも2つのSi原子と結合しており、分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体構造、
(β)少なくとも1つのSi原子と結合しており、分子量500以下であり、かつ、3置換イソシアヌレート構造、3置換トリアジン構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造、及び炭素数6~24の直鎖または分岐アルキルエーテル構造よりなる群から選択される少なくとも1種を含む有機構造、
(γ)シロキサン構造、
であり、これらの構造を分子中に導入する方法については限定されるものではないが、最も簡便かつ高収率で得られることからヒドロシリル化反応を用いる方法が好ましい。
【0029】
(C)成分の含有量としては、熱硬化性樹脂100重量%中、電気特性の観点から30~90重量%であることが好ましく、40~85重量%であることがより好ましく、50~80重量%であることが特に好ましい。
【0030】
((α)少なくとも2つのSi原子と結合しており、分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体構造)
(C)成分に(α)構造を導入するためには、少なくとも2つのアルケニル基を有する分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体をヒドロシリル化反応させることで得られ、特にその重合体の構造について限定されない。ただし、重合体中におけるアルケニル基の個数、および、位置について、ヒドロシリル化反応により反応生成物を得る場合、ゲル化しにくく反応が制御しやすいという観点より、重合体の両末端にアルケニル基を2個有する飽和炭化水素系重合体がより好ましい。
【0031】
この飽和炭化水素系重合体を得るために用いるモノマーとしても特に限定はされないが、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレンなどのような炭素数2~6のオレフィン系化合物を主モノマーとして重合させる方法、ブタジエン、イソプレンなどのようなジエン系化合物を単独重合させる方法、上記オレフィン系化合物とジエン系化合物とを共重合させたりした後水素添加する、などの方法により得ることができる。末端に官能基を導入しやすい、分子量制御しやすい、末端官能基の数を多くすることができるなどの観点から、イソブチレン重合体、水素添加イソプレン重合体、または水素添加ブタジエン重合体であるのが好ましい。
【0032】
前記イソブチレン重合体は、単量体単位のすべてがイソブチレン単位から形成されていてもよく、イソブチレンと共重合性を有する単量体単位をイソブチレン重合体中の好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下、特に好ましくは10重量%以下の範囲で含有してもよい。また共重合体成分の具体例としては、例えば1-ブテン、2-ブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ヘキセン、ビニルシクロヘキサン、β-ピネン、カンフェン等が挙げられる。
【0033】
前記水素添加ブタジエン重合体や他の飽和炭化水素系重合体においても、上記イソブチレン重合体の場合と同様に、主成分となる単量体単位の他に、他の単量体単位を含有させてもよい。また、本発明の(α)構造として用いる飽和炭化水素系重合体には、本発明の目的が達成される範囲でブタジエン、イソプレン、1,13-テトラデカジエン、1,9-デカジエン、1,5-ヘキサジエンのようなポリエン化合物のごとき重合後に、2重結合の残るような単量体単位を少量、好ましくは10重量%以下の範囲で含有させてもよい。
【0034】
前記(α)構造を構成する飽和炭化水素系重合体、好ましくはイソブチレン重合体、水素添加イソプレン重合体、または水素添加ブタジエン重合体の数平均分子量は、1000~100000であることが好ましく、2000~50000の液状物、流動性を有するものであることが取り扱いやすさなどの点からより好ましい。
【0035】
また本発明における(C)成分100重量%中の(α)構造の割合については、15~85重量%であることが好ましく、20~80重量%であることがより好ましく、30~70重量%であることが特に好ましい。熱硬化性樹脂組成物中における、(α)構造の割合が低すぎると低誘電率、低誘電損失の性能が発現せず、一方、割合が高すぎると得られる硬化物の架橋密度が低すぎる状態となり、かつ、樹脂組成物を硬化させた塗膜・硬化物表面のタック発生や樹脂強度の低下などの観点で好ましくない。
【0036】
成分(A)の飽和炭化水素系重合体にアルケニル基を導入する方法については、種々提案されているものを用いることができるが、重合後にアルケニル基を導入する方法と重合中にアルケニル基を導入する方法に大別することができる。重合後にアルケニル基を導入する方法としては、例えば、末端、主鎖、あるいは側鎖の水酸基を-ONa基や-OK基としたのち、一般式(II)で示される有機ハロゲン化合物を反応させることにより、末端アルケニル基を有する飽和炭化水素系重合体が製造される。
【0037】
【0038】
〔式中、Yは塩素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、R3 は-R4 -、-R4 -OC(=O)-または-R4 -C(=O)-(R4は炭素数1~20の2価の炭化水素基で、好ましい具体例としてはアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基が挙げられる)で示される2価の有機基である。〕
【0039】
末端ヒドロキシ飽和炭化水素系重合体の末端水酸基をオキシメタル基にする方法としては、Na、Kのごときアルカリ金属;NaHのごとき金属水素化物;NaOCH3のごとき金属アルコキシド;苛性ソーダ、苛性カリのごとき苛性アルカリなどと反応させる方法が挙げられる。前記方法では、出発原料として使用した末端ヒドロキシ飽和炭化水素系重合体とほぼ同じ分子量をもつ末端アルケニル基含有飽和炭化水素系重合体が得られるが、より高分子量の重合体を得たい場合には、一般式(II)の有機ハロゲン化合物を反応させる前に、塩化メチレン、ビス(クロロメチル)ベンゼン、ビス(クロロメチル)エーテルのような、1分子中にハロゲン原子を2個以上含む多価有機ハロゲン化合物と反応させれば分子量を増大させることができ、そののち一般式(II)で示される有機ハロゲン化合物と反応させれば、より高分子量でかつ末端にアルケニル基を有する飽和炭化水素系重合体を得ることができる。
【0040】
前記一般式(II)で示される有機ハロゲン化合物の具体例としては、例えばアリルクロライド、アリルブロマイド、ビニル(クロロメチル)ベンゼン、アリル(クロロメチル)ベンゼン、アリル(ブロモメチル)ベンゼン、アリル(クロロメチル)エーテル、アリル(クロロメトキシ)ベンゼン、1-ヘキセニル(クロロメトキシ)ベンゼン、アリルオキシ(クロロメチル)ベンゼンなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。これらのうちでは安価で、かつ容易に反応することからアリルクロライドが好ましい。また、共有結合Cl基を有する飽和炭化水素系重合体にアルケニル基を導入する方法としては、特に制限はないが、例えば、種々のアルケニルフェニルエーテル類とCl基のフリーデルクラフツ反応を行う方法、アリルトリメチルシラン等とCl基とをルイス酸存在下、置換反応を行う方法、および種々のフェノール類とCl基のフリーデルクラフツ反応により水酸基を導入した上で、さらに前記のアルケニル基導入方法を併用する方法などが挙げられる。
【0041】
重合中にアルケニル基を導入する方法としては、例えば、開始剤兼連鎖移動剤としてハロゲン原子を有し、該ハロゲン原子が結合している炭素原子が芳香環炭素に結合している化合物および/またはハロゲン原子を有し、該ハロゲン原子が結合している炭素原子が第3級炭素原子である化合物を使用しかつ、触媒としてルイス酸を使用してイソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーをカチオン重合させるにあたり、アリルトリメチルシランを重合系に添加することによるアリル末端を有するイソブチレン系ポリマー製造法や、同じく、1,9-デカジエンのような非共役ジエン類、またはp-ヘキセニルオキシスチレンのようなアルケニルオキシスチレン類を重合系に添加することによるアルケニル基を主鎖あるいは側鎖末端に有する飽和炭化水素系重合体の製造法が挙げられる。
【0042】
尚、カチオン重合触媒として用いられる成分であるルイス酸は、MX′n(Mは金属原子、X′はハロゲン原子)で表されるもの、例えばBCl3、Et2AlCl、EtAlCl2、AlCl3、SnCl4、TiCl4、VCl5、FeCl3、BF3などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのルイス酸のうちBCl3、SnCl4、BF3、TiCl4などが好ましく、特に好ましいものとしてTiCl4が挙げられる。前記ルイス酸の使用量は開始剤兼連鎖移動剤のモル数に対し0.1~10倍が好ましく、更に好ましくは2~5倍である。
【0043】
また本発明の技術と異なり、(α)構造について、(C)成分の様に予め反応させた成分ではなく、例えば、2個以上のアルケニル基を有する分子量1000~100000の飽和炭化水素系重合体を樹脂組成物に添加し、熱硬化性樹脂組成物とする方法も考えられるが、その場合、他の樹脂成分と分離し、均一な膜・硬化物が得られない等の問題が生じるため好ましくない。
【0044】
((β)構造:少なくとも1つのSi原子と結合しており、分子量500以下であり、かつ、3置換イソシアヌレート構造、3置換トリアジン構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造、および炭素数6~24の直鎖もしくは分岐アルキルエーテル構造よりなる群から選択される少なくとも1種を含む有機構造)
本発明の(C)成分において、熱硬化性樹脂組成物から得られる塗膜、硬化物の接着性や強度向上、および、表面タックの低減効果が得られるため、(β)構造は必須であるが、本構造を(C)成分に導入する方法についても(α)構造と同様、一分子中にアルケニル基を有する有機化合物をヒドロシリル化反応させて導入する方法が好適である。
【0045】
その際、用いる化合物としては、少なくとも1つのアルケニル基を有しており、分子量500以下で、かつ、3置換イソシアヌレート構造、3置換トリアジン構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造、および炭素数6~24の直鎖もしくは分岐アルキルエーテル構造よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであれば、特に限定せず使用することができる。また、用いる化合物の分子量が500を超えると、最終で得られる硬化物の強度や密着性が低いなど問題が発生する為好ましくない。
【0046】
本発明の(β)構造の分子量としては500以下であるが、好ましくは350以下である。また、分子量の下限は100以上が好ましく、150以上がより好ましい。
【0047】
上記3置換イソシアヌレート構造は、イソシアヌル酸の3つの窒素原子上に水素原子以外の置換基を有する構造を表し、上記3置換トリアジン構造は、トリアジン環状の3つの窒素原子上に水素原子以外の置換基を有する構造を表す。置換基として例えば、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルキルエーテル基、炭素数6~18のアリール基などが挙げられ、これらの基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子に置き換えられていてもよい。好ましくは炭素数1~12のアルキル基、または炭素数1~12のアルキルエーテル基である。
【0048】
上記炭素数7~16の縮合環構造としては、ノルボルナン構造、アダマンタン構造、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン構造などが挙げられ、これらの構造上の水素原子は炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルキルエーテル基、炭素数1~12のアルコキシ基で置換されていてもよい。好ましくは入手性の観点からノルボルナン構造を有する化合物が好ましい。
【0049】
上記炭素数6~12の脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン構造、シクロオクタン構造、シクロドデカン構造などが挙げられ、特に入手性が高いシクロヘキサン構造を有する化合物が好ましい。
【0050】
上記炭素数6~24の直鎖もしくは分岐アルキルエーテル構造としては、ペンタエリスリトール構造、トリメチロールプロパン構造などが挙げられる。
【0051】
これらの構造の中で、(α)構造の飽和炭化水素重合体構造との相溶性に優れる観点から、3置換イソシアヌレート構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造が好ましく、中でも硬化物の密着性が高くなりやすい観点より、3置換イソシアヌレート構造が特に好ましい。
【0052】
また本発明における(C)成分を構成する(β)構造の割合については、(C)成分100重量%に対して、10~45重量%である事が好ましく、10~40重量%であることがより好ましく、15~35重量%である事が特に好ましい。(β)構造の割合が低すぎると硬化物が柔軟になり過ぎ表面にタックが発生しやすくなるなどの観点で好ましくない。
【0053】
(β)構造を導入するために用いることができる具体的な化合物としては、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ジアリリデンペンタエリスリット、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、ノナンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ビスフェノールSジアリルエーテル、1,3-ビス(アリルオキシ)アダマンタン、1,3-ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、ジシクロペンタジエン、ビニルシクロへキセン、ジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、2,5-ジアリルフェノールアリルエーテル、ビニルアダマンタン、モノアリルジメチルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジベンジルイソシアヌレート、モノアリルジプロピルイソシアヌレート、カンフェン、β-ピネン、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0054】
特に、耐熱性、耐光性が高いという観点から、ジアリルモノメチルイソシアヌレート。ジアリルモノプロピルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノベンジルイソシアヌレート、モノアリルジメチルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジベンジルイソシアヌレート、またはモノアリルジプロピルイソシアヌレートがさらに好ましい。
【0055】
また密着性に優れるという観点より、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を分子内に有する有機化合物が好ましい。
【0056】
またこれら(β)構造を導入するための上記化合物は、用途に必要な特性に合わせて2種以上併用して用いても良い。
【0057】
((γ)構造:シロキサン構造)
上記(α)構造、(β)構造と同様、(γ)構造についても、導入方法は特に限定されないが、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン化合物をヒドロシリル化反応させ導入する方法が簡便で好ましく、この具体的な化合物の例としては、国際公開WO96/15194に記載される化合物が挙げられる。これらのうち、硬化物に柔軟性が付与されるという観点より、
【0058】
【0059】
(式中、R6、R7は炭素数1~6の有機基を表し同一であっても異なっても良く、nは1~50、mは0~10の数を表す。)
で表される、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状オルガノポリシロキサンが好ましい。またR6、R7は入手性、耐熱性の観点より特にメチル基であるものが好ましく、硬化物の強度が高くなるという観点より、特にフェニル基であるものが好ましい。
【0060】
これらのうち、硬化物の耐熱性が高いという観点より、
【0061】
【0062】
(式中、R8は炭素数1~6の有機基を表し、nは0~50の数を表す。)
で表される、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有し、分子中にTまたはQ構造を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、R8は入手性、耐熱性の観点より特にメチル基であるものが好ましい。
【0063】
また入手性およびヒドロシリル化反応性が良いという観点から、下記一般式(I)、
【0064】
【0065】
(式中R1、R2は炭素数1~10の有機基を表し同一であっても異なっても良く、nは1~10、mは0~10の数を表す)で表される、1分子中に少なくとも3個のSiH基を有する環状オルガノポリシロキサンが好ましい。
【0066】
一般式(I)で表される化合物中の置換基R1、R2は、C、H、Oからなる群から選択して構成されるものであることが好ましく、炭化水素基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。また一般式(I)で表される化合物としては、入手容易性及び反応性の観点からは、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンであることが好ましい。上記した各種化合物は単独もしくは2種以上のものを混合して用いることが可能である。
【0067】
また本発明における(C)成分100重量%中の(γ)構造の割合については、5~30重量%であることが好ましく、7~25重量%であることがより好ましく、10~25重量%であることが特に好ましい。熱硬化性樹脂組成物中における、(γ)構造の割合が高すぎると低誘電率、低誘電損失の性能が発現せず、一方、割合が低すぎると架橋密度が低くなり過ぎ、かつ、樹脂組成物を硬化させた塗膜・硬化物表面のタック発生や樹脂強度の低下などの観点で好ましくない。
【0068】
(ヒドロシリル化反応について)
(C)成分に(α)、(β)、並びに(γ)構造を導入するために用いるヒドロシリル化反応に関し、よりスムーズに反応を進行させる目的で(B)成分として上記にあるようなヒドロシリル化触媒を用いても良い。
【0069】
また(α)~(γ)構造導入にあたり、ヒドロシリル化反応させる順序については、まず立体障害の影響を受けやすい、(β)構造を有する化合物と(γ)構造を有するSiH化合物とを、SiH基量を多くした条件で先行して反応させ、アルケニル基が全て消失した後、比較的立体障害を受けにくい(α)構造を有する重合体を逐次で反応させる事で、効率よく所望の構造を導入させることができる。
【0070】
(溶剤)
また熱硬化性樹脂組成物として用いる際、多くは基板にコーティングして使用するため、溶剤に希釈して熱硬化性樹脂組成物とするが、使用できる溶剤としては、特に限定されるものではなく、具体的には、キシレン、トルエン、ヘキサンおよびヘプタン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソランおよびジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸ブチル、乳酸エチル、イソ酪酸イソブチルなどのエステル系溶媒、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート(PGMEA)およびエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレンおよび1,2-ジクロロエタン等のハロゲン系溶剤等が挙げられる。
【0071】
(その他)
上記感光性樹脂組成物には、老化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、充填材、着色剤、離型剤、難燃剤、難燃助剤、界面活性剤、消泡剤、乳化剤、レベリング剤、はじき防止剤、イオントラップ剤(アンチモン-ビスマス等)、チクソ性付与剤、粘着性付与剤、保存安定改良剤、オゾン劣化防止剤、光安定剤、増粘剤、可塑剤、反応性希釈剤、酸化防止剤、熱安定化剤、導電性付与剤、帯電防止剤、放射線遮断剤、核剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、防錆剤、金属不活性化剤、熱伝導性付与剤および物性調整剤等を、本発明の目的および効果を損なわない範囲において添加することができる。
【0072】
(電気特性について)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、誘電率・誘電正接などの電気特性に優れる特長を有しており、微細配線を有するデバイスや小型のデバイスにおいて、高速で信号処理を行う場合の信号遅延を抑制することができる。
【0073】
一般的に金属配線間の層間絶縁膜として用いられる感光性樹脂では、感光性発現の為、組成物中に多くの極性基を含有しており、吸湿もしやすいため、誘電率および誘電損失が高いものがほとんどである。信号遅延を引き起こさない優れた電気特性の値としては、周波数10GHzで比較した場合、誘電率では2.8以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。また誘電損失(tanδ)の値も非常に重要なパラメータであり、tanδの値が0.015以下であることが好ましく、0.007以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
(電気特性評価)
実施例および比較例で得られた熱硬化性樹脂組成物65%溶液をPETフィルム上にバーコーターを用いて50μm膜厚でコーティングした後、ホットプレート上で110℃、2分間加熱した。次に150℃のホットプレート上で10分間加熱して5cm×5cmの50μm厚のフィルムを切り出し、別途、ガラス基板に挟み最終200℃、60分間加熱して誘電率・誘電正接測定用フィルムを得た。
【0076】
誘電率および誘電正接は、得られた上記フィルムサンプルについて、室温24℃、湿度45%環境下、ベクトルネットワークアナライザ(アジレントテクノロジーズ社製、E8361A)を用い、空洞共振器摂動法で測定し評価した。
【0077】
(密着性評価)
実施例および比較例で得られた熱硬化性樹脂組成物溶液をCu製膜ウェハ基板上に膜厚10μmでスピンコーティングした後200℃1時間ホットプレートで加熱する事で、樹脂膜を形成した。次にJIS K5600-V-VI(ISO2409)に準じてクロスカット試験を行い、Cu薄膜への密着性評価を行った。また、高温高湿試験密着性についても、上記Cu製膜ウェハ基板上の樹脂膜付きサンプルを85℃/85%RH環境下に1000時間保管後、上記と同様のクロスカット試験を実施し密着性を評価した。
【0078】
●評価指標
0:剥離無し~5%未満剥離
1:5%以上剥離~15%未満剥離
2:15%以上剥離~30%未満剥離
3:30%以上剥離~50%未満剥離
4:50%以上剥離~80%未満剥離
5:80%以上剥離
【0079】
(製造例1)飽和炭化水素重合体A1の製造
3Lオートクレーブへ窒素フロー下、溶媒の塩化メチレン650mL、n-ヘキサン100mLを仕込み、次いで1,4-ビス(1-クロロ-1-メチルエチル)ベンゼン15mmolを溶解させた50mLの塩化メチレン溶液、α-ピコリン6.0mmolを添加し、容器本体を-70℃のドライアイス-アセトンバスに浸積して攪拌しながら1時間冷却した。次に、脱水したイソブチレン224gを導入し、窒素フロー下とし-70℃まで冷却した。そこで重合開始剤TiCl414.2g(75mmol)を添加し重合を開始させ、1時間経過した時点でアリルトリメチルシラン10.3g(90mmol)を添加した。さらに1時間反応させた後、反応混合物をメタノールに注ぎ反応を停止させた。ポリマーを沈殿分離させた後、ポリマーをn-ヘキサンに溶解させ、純水で3回洗浄後、溶媒を留去しアリル末端の飽和炭化水素重合体A1を得た。飽和炭化水素重合体A1の分子量は、GPC測定の結果、ポリスチレン換算で11000であった。
【0080】
(製造例2)飽和炭化水素重合体A2の製造
両末端に水酸基を有する水素添加ポリイソプレン(出光石油化学株式会社製、商品名エポール)300gにトルエン50mLを加え共沸脱気により脱水した。t-BuOK48gをテトラヒドロフラン200mLに溶解したものを加えた。50℃で1時間反応させた後、アリルクロライド47mLを約30分間かけて滴下した。滴下終了後50℃で1時間反応させ、反応終了後、生成した塩を吸着するために反応溶液にケイ酸アルミニウム30gを加え、30分間室温で攪拌した。ろ過精製によりケイ酸アルミニウムを分離後、1H-NMR分析により末端へのアリル基が導入されていることを確認し、アリル末端の飽和炭化水素重合体A2を得た。飽和炭化水素重合体A2の分子量は、GPC測定の結果、ポリスチレン換算で6400であった。
【0081】
(製造例3)飽和炭化水素重合体A3の製造
両末端に水酸基を有する水素添加ポリブタジエン(日本曹達株式会社製、商品名NISSO PB GI-3000)300gにトルエン50mLを加え共沸脱気により脱水した。t-BuOK48gをテトラヒドロフラン200mLに溶解したものを加えた。50℃で1時間反応させた後、アリルクロライド47mLを約30分間かけて滴下した。滴下終了後50℃で1時間反応させ、反応終了後、生成した塩を吸着するために反応溶液にケイ酸アルミニウム30gを加え、30分間室温で攪拌した。ろ過精製によりケイ酸アルミニウムを分離後、1H-NMR分析により末端へのアリル基が導入されていることを確認し、アリル末端の飽和炭化水素重合体A3を得た。飽和炭化水素重合体A3の分子量は、GPC測定の結果、ポリスチレン換算で3200であった。
【0082】
(合成例1)
300mL四つ口フラスコにトルエン30g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン10gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート8.9g、トルエン10g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)13mgの混合液を30分かけて滴下した。すべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認した後、次に上記製造例1で得た20gの飽和炭化水素重合体A1とトルエン20gの混合溶液を滴下した。さらに3時間反応させすべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認したのち、室温冷却し反応を終了した。溶媒のトルエンを減圧留去し、1H-NMR測定よりSiH基を有する反応生成物であることを確認し、イソ酪酸イソブチルで65%溶液に希釈した反応生成物溶液B1を得た。
【0083】
(合成例2)
300mL四つ口フラスコにトルエン30g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン10gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。ジアリルモノメチルイソシアヌレート4g、ビニルノルボルネン2g、トルエン10g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)4mgの混合液を30分かけて滴下した。すべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認した後、次に上記製造例1で得た20gの飽和炭化水素重合体A1とトルエン20gの混合溶液を滴下した。さらに3時間反応させすべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認したのち、室温冷却し反応を終了した。溶媒のトルエンを減圧留去し、1H-NMR測定よりSiH基を有する反応生成物であることを確認し、イソ酪酸イソブチルで65%溶液に希釈した反応生成物溶液B2を得た。
【0084】
(合成例3)
300mL四つ口フラスコにトルエン30g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン10gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート8.9g、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート10g、トルエン20g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)13mgの混合液を30分かけて滴下した。すべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認した後、次に上記製造例1で得た25gの飽和炭化水素重合体A1とトルエン25gの混合溶液を滴下した。さらに3時間反応させすべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認したのち、室温冷却し反応を終了した。溶媒のトルエンを減圧留去し、1H-NMR測定よりSiH基を有する反応生成物であることを確認し、イソ酪酸イソブチルで65%溶液に希釈した反応生成物溶液B3を得た。
【0085】
(合成例4)
300mL四つ口フラスコにトルエン30g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン10gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート8.9g、トルエン10g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)13mgの混合液を30分かけて滴下した。すべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認した後、次に上記製造例2で得た20gの飽和炭化水素重合体A2とトルエン20gの混合溶液を滴下した。さらに3時間反応させすべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認したのち、室温冷却し反応を終了した。溶媒のトルエンを減圧留去し、1H-NMR測定よりSiH基を有する反応生成物であることを確認し、イソ酪酸イソブチルで65%溶液に希釈した反応生成物溶液B4を得た。
【0086】
(合成例5)
300mL四つ口フラスコにトルエン30g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン10gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート8.9g、トルエン10g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)13mgの混合液を30分かけて滴下した。すべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認した後、次に上記製造例3で得た20gの飽和炭化水素重合体A3とトルエン20gの混合溶液を滴下した。さらに3時間反応させすべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認したのち、室温冷却し反応を終了した。溶媒のトルエンを減圧留去し、1H-NMR測定よりSiH基を有する反応生成物であることを確認し、イソ酪酸イソブチルで65%溶液に希釈した反応生成物溶液B5を得た。
【0087】
(比較合成例1)
300mL四つ口フラスコにトルエン30g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン10gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート8.9g、トルエン10g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)13mgの混合液を30分かけて滴下した。すべてのアルケニル基の反応率が100%であることを確認した後、室温冷却し反応を終了した。溶媒のトルエンを減圧留去し、1H-NMR測定よりSiH基を有する反応生成物であることを確認し、イソ酪酸イソブチルで65%溶液に希釈した反応生成物溶液B6を得た。
【0088】
(実施例1)
合成例1の反応生成物溶液B1を1g、ジアリルモノメチルイソシアヌレート0.18g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)83mg、1-エチニルシクロヘキサノール166mg配合し、熱硬化性樹脂組成物1を調製した。
【0089】
(実施例2)
B1に代えて、合成例2の反応生成物溶液B2を1g使用した以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物2を調製した。
【0090】
(実施例3)
B1に代えて、合成例3の反応生成物溶液B3を1g使用した以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物3を調製した。
【0091】
(実施例4)
B1に代えて、合成例4の反応生成物溶液B4を1g使用した以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物4を調製した。
【0092】
(実施例5)
B1に代えて、合成例5の反応生成物溶液B5を1g使用した以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物5を調製した。
【0093】
(実施例6)
合成例1の反応生成物溶液B1を1g、ビニルノルボルネン0.11g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)83mg、1-エチニルシクロヘキサノール166mg配合し、熱硬化性樹脂組成物6を調製した。
【0094】
(比較例1)
B1に代えて、比較合成例1の反応生成物溶液B6を1g使用した以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物7を調製した。
【0095】
(比較例2)
さらに、アルケニル化合物として製造例1の飽和炭化水素重合体A1を0.35g加えた以外は比較合成例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物8を調製した。
【0096】
(結果)
実施例1~6および比較例1、2で得られた熱硬化性樹脂組成物1~8に対し、前述の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0097】
【0098】
上記評価の結果から、一分子中に(α)飽和炭化水素系重合体構造、(β)少なくとも1つのSi原子と結合しており、分子量500以下であり、かつ、3置換イソシアヌレート構造、3置換トリアジン構造、炭素数7~16の縮合環構造、炭素数6~12の脂環式炭化水素構造、および炭素数6~24の直鎖もしくは分岐アルキルエーテル構造よりなる群から選択される少なくとも1種を含む有機構造、および(γ)シロキサン構造を同一分子中に有するSiH基含有化合物と一分子中に少なくとも2つのアルケニル基を有する化合物を含む熱硬化性樹脂組成物は、優れた金属への密着性と低誘電率・低誘電正接を示す樹脂として機能することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、半導体やディスプレイ等のエレクトロニクスデバイス用の封止剤、接着剤、絶縁層間膜などに利用することができる。