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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】木材及びイネ科植物用の防腐剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/44 20060101AFI20241118BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20241118BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20241118BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241118BHJP
   B27K 3/34 20060101ALI20241118BHJP
   A01N 47/12 20060101ALN20241118BHJP
   A01N 25/12 20060101ALN20241118BHJP
【FI】
A01N37/44
A01N61/00 D
A01P1/00
A01P3/00
B27K3/34 A
A01N47/12
A01N25/12 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021030715
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131660
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 久人
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/108871(WO,A1)
【文献】特開2015-157778(JP,A)
【文献】特開2014-122201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
B27K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材腐朽菌、木材変色菌に対して有効に作用する木材及び下記A群のイネ科植物用の防腐剤であって、該防腐剤は、少なくとも、下記一般式(I)で表されるシアノアクリレート構造を繰り返し単位中に有するポリマー成分から構成される粒子を有効成分として含有し、その含有量が0.1~30質量%であることを特徴とする木材及びイネ科植物用の防腐剤。
A群:竹、葦、藁及び薄の木質化した茎、これらの加工品
【化1】
〔上記式(I)中、Rは炭素数2~8のアルキル基である。〕
【請求項2】
前記粒子の平均粒子径が10~800nmであることを特徴とする請求項1記載の木材及びイネ科植物用の防腐剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、安全性が高く、安定性、防腐効果に優れた木材及びイネ科植物用の防腐剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木材やその加工品、竹や葦・藁等(その加工品も含む)のイネ科植物の防腐剤等としては、多種多様なものが知られている。
例えば、(1)各種の木材腐朽菌、カビ類、並びに不完全菌類による着色や表面汚染などに対して極めて低薬量にて優れた防腐効果を有し、経済性に優れる防腐剤を提供するために、3’-イソプロピル-2-トリフルオロメチル安息香酸アニリドを有効成分として含有する木材保存用防腐剤、およびその防腐剤を用いた木材処理方法(例えば、特許文献1参照)、
(2)カビ類及び木材腐朽菌に対して高い防腐能を有すると同時に、人体に対する毒性が低い木材用防腐剤を新規に提供するために、(A)炭素数8~22の脂肪酸又はその塩を15~45重量%、(B)炭素数8~18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20~50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10~30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0~10重量%、(E)水が0~55重量%、を少なくとも含む溶液1重量部に対し、水性基剤を1~500重量部の比率で混合してなる木材用防腐剤(例えば、特許文献2参照)、
(3)木材を防腐処理する際の泡立ちや泡かみが少なく、金属腐食性が少なく、かつ、防腐効果の耐水持続性に優れた防腐剤を提供するために、第4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤(A)および30℃での水への溶解度が1g以下/水100gである数平均分子量150~4,000のポリオール(B)を含有し、重量比(B)/(A)が0.01~1である水溶性もしくは水分散性の木材防腐剤組成物、並びにさらに防腐防蟻剤を含有する木材防腐防蟻剤組成物(例えば、特許文献3参照)、
【0003】
(4)エクステリア材、内装材、装飾材等の住宅関連素材として用いられる耐久性を付与した竹材であって、該竹材はこれを構成する細胞腔、細胞壁内等の組織内に不溶性の無機化合物を含有させたことを特徴とする改質竹材(例えば、特許文献4参照)、
(5)フェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒存在下に縮合して得られる水浴性のレソールタイプの初期縮合物と木、竹材とを接触し、ついで熱処理又は酸処理することを特徴とする木、竹材の防腐処理方法(例えば、特許文献5参照)、
(6)一定量の樹皮(杉、松、檜等の皮)を同一方向を向けて積み重ねて束ね、樹皮束を各樹皮が上下の方向を保つ様にして懸垂し、殺虫剤、例えば、パイエタン乳剤300倍溶液と硫酸銅300倍溶液とを混合した防腐防虫剤を入れた容器、降下浸漬させて一定時間保って防腐防虫剤液を木皮に浸透させた後、防腐防虫剤液から引き揚げて乾燥することを特徴とする、樹皮の防腐防虫加工法(例えば、特許文献6参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~6に記載の従来の木材用防腐剤などは、安全性の問題で使用量が制限されているものや、他の配合成分へ何らかの悪影響を与えるもの、または、防腐効果が十分でないものがあるなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2010/074129号(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2011-219415号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特表2008-265264号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開平2-217203号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開昭53-79004号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開昭53-12402号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記従来技術の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、安全性が高く、安定性、防腐効果に優れた木材及びイネ科植物用の防腐剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、特定物性となるポリマーを主体として構成される粒子を特定量含有せしめることにより、上記目的の木材及びイネ科植物用の防腐剤が得られることを見出し、本開示を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本開示の木材及びイネ科植物用の防腐剤は、少なくとも、下記一般式(I)で表されるポリマーを主体として構成される粒子を有効成分として含有し、その含有量が
0.01~30質量%であることを特徴とする。
【化1】
〔上記式(I)中、Rは炭素数2~8のアルキル基である。〕
前記粒子の平均粒子径は、10~800nmであることが好ましい。
本開示では、「イネ科植物」の被子植物単子葉類を対象とするものであるが、該イネ科植物において、この分類に含まれる竹(タケ亜科又は分類大系によってはタケ科:マダケ属、ホウライチク属、カンチク属、ナリヒラダケ属、トウチク属、シホウチク属、メダケ属、ヤダケ属、スズダケ属、ササ属など)、葦(ヨシ属)、藁(イネ科植物の茎を乾燥した物)、薄(ススキ属)などの木質化した中空などの茎やこれらの加工品を対象とするものである。
【発明の効果】
【0009】
安全性が高く、安定性、防腐効果に優れた木材及びイネ科植物用の防腐剤が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施形態の一側面に係る木材及びイネ科植物用の防腐剤について詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述するそれぞれの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
木材及びイネ科植物用の防腐剤は、少なくとも、下記一般式(I)で表されるポリマーを主体として構成される粒子を有効成分として含有し、その含有量が0.01~30質量%であることを特徴とするものである。
【化2】
〔上記式(I)中、Rは炭素数2~8のアルキル基である。〕
【0011】
有効成分として含有する粒子は、上記一般式(I)で表されるポリマーを主体として構成されるものであり、例えば、1)上記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子、2)上記一般式(I)で表されるポリマーに既知の木材用、イネ科植物用の防腐剤や抗菌剤を内包する粒子などが挙げられる。
上記一般式(I)で表されるポリマーを「主体」として構成とは、上記一般式(I)で表されるポリマー成分を50質量%以上、好ましくは70質量%以上で構成することを意味する。
上記一般式(I)中におけるRの炭素数2~8のアルキル基としては、エチル基、プロピル基(直鎖、分岐)、ブチル基(直鎖、分岐)、ペンチル基(直鎖、分岐)、ヘキシル基(直鎖、分岐)、ヘプチル基(直鎖、分岐)、オクチル基(直鎖、分岐)が挙げられ、好ましくは、外科領域において傷口の縫合のための接着剤にとして用いられている、炭素数4のアルキル基及び炭素数8のオクチル基が望ましく、特に好ましくは、イソブチル基、n-オクチル基及び2-オクチル基である。
【0012】
上記1)の一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子は、シアノアクリレート自身がカビ類、木材腐朽菌や不完全菌類などの細胞壁に接着し細胞壁合成を妨害し溶菌を生じさせ、上記菌類(カビ類も含む)の発育を阻止することにより、単独で、防腐効果(防菌性・防かび性)を有するものであり、安全性が高く、広い抗菌スペクトルを有し、安定性に優れ、木材及びイネ科植物に対して優れた防腐効果(防かび効果を含む)を奏するものとなる(これらの点においては後述する実施例等においても詳述する)。
この粒子の製造は、例えば、上記一般式(I)で表される構造単位(モノマー)をアニオン重合により重合することにより得られる。その際の重合開始及び重合の安定化のため重合薬剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、水酸基を有する単糖類及び二糖類から成る群より選ばれる少なくとも1種の糖が挙げられる。
【0013】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、パルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどが挙げられる。
【0014】
また、上記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとは別に、重合薬剤として糖を用いることで、さらにその効果を高めることができる。
用いる糖としては、水酸基を有する単糖又は二糖であればいずれの糖でもよく、好ましい例として、グルコース、マンノース、リボース、フルクトース、マルトース、トレハロース、ラクトース及びスクロースを挙げることができる。これらの糖は、環状、鎖状のいずれの形態であってもよく、また、環状の場合、ピラノース型やフラノース型等のいずれ
であってもよい。また、糖には種々の異性体が存在するがそれらのいずれでもよい。通常、単糖は、ピラノース型又はフラノース型の形態で存在し、二糖は、それらがα結合又はβ結合したものであり、このような通常の形態にある糖をそのまま用いることができる。単糖及び二糖は、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
重合反応の溶媒は、通常、水(蒸溜水、精製水、純水など)が用いられる。アニオン重合は、水酸イオンにより開始されるので、反応液のpHは、重合速度に影響する。反応液のpHが高い場合には、水酸イオンの濃度が高くなるので重合が速く、pHが低い場合には重合が遅くなる。通常、pHが2~4程度の酸性下で適度な重合速度が得られる。反応液を酸性にするために添加する酸としては、特に限定されないが、反応に悪影響を与えない、リン酸、塩酸、酢酸、フタル酸、クエン酸などを好ましく用いることができる。
【0016】
反応開始時の重合反応液中の上記式(I)で表される構造単位の濃度は、特に限定されないが、通常、0.1~10質量%程度、好ましくは、1~5質量%程度である。また、反応開始時の重合反応液中の重合薬剤の濃度(複数種類用いる場合はその合計濃度)は、特に限定されないが、通常、1~30質量%、好ましくは、5~20質量%程度である。また、反応温度は、特に限定されないが、室温で行なうことが簡便で好ましい。反応時間は、特に限定されないが、通常、0.5時間~4時間程度である。重合反応は、撹拌下に行なうことが好ましい。なお、粒子は、通常、中性の粒子として用いられるので、反応終了後、必要に応じて、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基を反応液に添加して中和することが好ましい。
【0017】
上記の重合反応により、上記式(I)で表される構造単位がアニオン重合し、一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子が生成する。上記方法により得られる粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、分散安定性の点、表面積の点などから、1000nm未満とすることが好ましく、より好ましくは、10~800nm、特に好ましくは、10~200nmであるものが望ましい。
この平均粒子径の調整は、反応液中の上記式(I)で表される構造単位の濃度、用いる重合薬剤種及びその量、反応時間などを調節することにより行うことができる。生成した粒子は、必要に応じて、遠心式限外ろ過等の常法により回収することもできる。
なお、本開示で規定する「平均粒子径」は、散乱光強度分布によるヒストグラム平均粒子径であり、本開示(後述する実施例を含む)では、粒度分布測定装置〔FPAR1000(大塚電子社製)〕にて、測定したD50の値である。
【0018】
上記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子は、上述に如く、木材及びイネ科植物に対して優れた防腐効果(防菌性・防かび性)を有する粒子となるものである。
また、上記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子は、粒子内部に従来から用いられている木材、イネ科植物の防腐剤や抗菌剤を内包(抱合)させて上記2)の粒子を得ることができる。
上記2)の粒子の製造としては、例えば、上記1)の製造の際に、所望の防腐剤や抗菌剤を添加して、上記1)の方法により粒子の形成と同時に、粒子の内部に所望の木材及びイネ科植物に用いる防腐剤や抗菌剤を内包(抱合)させることができる。
【0019】
内包させることができる防腐剤や抗菌剤としては、例えば、ヨードプロパルギル化合物(3-ヨード-2-プロピニル-n-ブチルカルバメート、3-ヨード-2-プロピニル4-クロロフェニルホルマール、3-ヨード-2-プロピニルカルバミン酸エステル等)、ストロビン類(アゾキシストロビン等)、スルオンアミド類(ジクロロフルアニド(エウパレン等)、べンズイミダゾール類(MBC等)、チオシアネート類(TCMTB、MBT等)、第4級アンモニウム化合物(ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ジデシル-ジメチル-アンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム等)、モルホリン誘導体(トリデモルフ、フェンプロピモルフ等)、フェノール類(o-フェニルフェノール等)、イソチアゾリン類(N-メチルイソチアゾリン-3-オン等)、ベンゾイソチアゾリン類(ベンゾイソチアゾリン、シクロペンタイソチアゾリン等)、ピリジン類(1-ヒドロキシ-2-ピリジンチオン(またはそのナトリウム塩、鉄塩、マンガン塩、亜鉛塩)等)、フェノキシエタノール、クロロメチルイソチアゾリノン(CMIT)、メチルイソチアゾリノン(MIT)、ベンゾイソトアゾリノン(BIT)などの少なくとも1種(各単独又は2種以上の混合物、以下同様)が挙げられる。
上記各化合物自体は、従来より公知であり、木材及びイネ科植物の防腐剤などに用いられているものであり、また、その製造方法も知られており、種々の製造方法で調製することができ、また、市販品があればそれらを使用することができる。
好ましくは、安全性の点、安定性の点などから、ベンゾイソチアゾリン、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート(以下、単に「IPBC」という場合がある)を少なくとも1種含むもの(IPBC単独又はIPBCを含む2以上の混合物)が望ましい。
【0020】
これらの内包される防腐剤などは、単独では、安全性の問題で使用量が制限されているものや、他の配合成分へ何らかの悪影響を与えるもの、または、特定の汚染源への効果が十分でないものがある場合でも、上記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子に上述の防腐剤などを内包(抱合)させることにより、粒子単独での防腐効果との一体作用で使用量の制限を回避でき、使用量も極力少なくすることができるものとなり、また、木材及びイネ科植物に用いる防腐剤が特定の汚染源への効果が十分でないものでも、粒子単独での抗菌作用等の一体作用により、優れた防腐効果、防菌効果を発揮できるものとなる。
【0021】
内包(抱合)させる量は、該防腐剤の性質、使用時に必要な用量等に応じて適宜設定することができる。例えば、粒子全量に対して、0.1~35質量%程度であるが、これらの範囲に限定されるものではない。
これらの防腐剤を内包(抱合)させた粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、上記1)の粒子と同様に、1000nm未満、好ましくは、10~800nmであるものが望ましい。
【0022】
上記特性の粒子〔上記1)~2)の各粒子〕は、各単独で、または2種以上を併用することができ、その有効成分の(合計)含有量は、防腐剤全量に対して、0.01~30質量%、好ましくは、0.1~20質量%とすることが望ましい。
本開示において、「有効成分」とは、防腐効果(防菌性・防かび性)を発揮する成分のみをいい、例えば、上記1)~2)の場合は、重合に用いる重合薬剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルや糖)、水などの各成分を含まないものである。上記1)の場合は、重合薬剤等の各成分を含まない粒子そのものが有効成分となり、上記2)の場合は、重合薬剤等を含まない粒子そのものと、該粒子に内包する防腐剤成分や抗菌剤成分とが有効成分となるものである。
この有効成分の含有量が0.01質量%未満であると、本開示の効果を発揮することができず、一方、30質量%超過であると、分散安定性が損なわれやすくなり、好ましくない。
【0023】
木材及びイネ科植物用の防腐剤は、含有される上記特性の粒子〔上記1)~2)の各粒子〕が優れた防腐効果(防かび効果を含む)を有すると共に、安定性に優れ、他の配合成分の品質に悪影響を及ぼすものでなく、これらの効果は木材及びイネ科植物に悪影響を及ぼすカビ類、木材腐朽菌、不完全菌類などの多くの菌類に防腐効果(防かび効果を含む)を発揮することができ、その持続効果も長期間に亘り、しかも、これらの粒子を含有する粒子水分散体などは保存などの安定性にも優れたものとなる。
【0024】
本開示の木材用及びイネ科植物用の防腐剤が有効に作用する木材腐朽菌としては、例えば、コニオフォラ・プテアナ(イドタケ)、トラメテス・ベルシコラー(カワラタケ)、ホミトプシス・パルストリス(オオウズラタケ)、ポスティア・プラセンタ、ポスティア・バポラリア、ポリア・バイランティー、グロエオフィリウム・セピアリウム、グロエオフィリウム・アドラタム、グロエオフィリウム・アビエティナム、グロエオフィリウム・トラベウム、グロエオフィリウム・プロタクタム、レンティナス・レピドウス、レンティナス・エドデス、レンティナス・シアチフォルメス、レンティナス・スクアロロサス、パキシラス・パヌオイデス、プレウロタス・オストレアタス、ドンキオポリア・エクスパンサ、セルプウラ・ラクリマンス(ナミダタケ)、セルプウラ・ヒマントイデス、グレノスポラ・グラフィー、ホミトプシス・リラシノギルバ、ペレニポリア・テフロポラ、アントロディア・キサンタ、アントロディア・バイランティーを含む担子菌類、クラドスポリウム・ヘルバラムを含む不完全菌類、ケトミウム・グロブサム、ケトミウム・アルバアレナラム、ペトリエラ・セティフェラ、トリチュラス・スピラリス、フミコウラ・グリセラを含む子嚢菌類などが挙げられ、また、本開示の木材用及びイネ科植物用の防腐剤が有効に作用する木材変色菌としては、例えば、オーレオバシディウム・プルランス、スクレロフ・ピティオフィラ、スコプウラ・フィコミセス、アスペルギルス・ニガー、ペニシリウム・バリアビル、トリコデルマ・ビリデ、トリコデルマ・リグノラム、ダクティレウム・フサリオイデスを含む不完全菌類、カラトシステス・ミナーを含む子嚢菌類、ムコール・スピノサスを含む接合菌類などが挙げられる。
【0025】
また、木材及びイネ科植物用の防腐剤は、様々な木製物質、竹、葦、藁、薄などの木質化した中空などの茎やこれらの加工品、松などの盆栽や園芸用途などの処理剤として利用可能であり、木材、木片、木粉、合板、単板積層材、ファイバーボード、パーティクルボード、木質加工品、竹、葦、藁、薄等の処理において優れた効果を得ることができる。
また、木材用及びイネ科植物用の防腐剤は、製材、木材、木材加工品、イネ科植物及びこれらの加工品、並びにこれらの建造物などの処理に使用でき、例えば、土台、大引、根太、床板、胴縁、間柱、床下地板、筋かい、垂木、屋根下地板、浴室軸組及び床組材、外構部材、ログハウス、バルコニー、テラス、門塀、東屋、ぬれ縁、デッキ材等の屋外建築用部材、枕木、電柱、基礎杭、道路用防音壁、橋梁等の土木用等に用いられる。木材等の形状は、丸太、板材、角材、棒材、合板、単板積層材、チップボード等のいずれにも適用できる。
【0026】
本開示の木材及びイネ科植物用の防腐剤を用いる処理は、上記の対象物に対し、通常、防腐対策、腐朽対策として施されている方法と同様の方法で施すことができる。例えば、塗布、吹き付け、浸漬、加圧、穿孔処理等が、合板、単板積層材に対する処理としては、単板処理、接着剤混入処理、成板処理等が通常行われ、これらのいずれにも適用できる。
更に、木材及びイネ科植物用の防腐剤は、建築用及び土木工事用の木材(合板を含む)、紙やパルプ等の工業製品製造用及び繊維原料用の木材、机や椅子、棚等の家具類である木材加工品やその加工品製造に用いる材料(上述のイネ科植物を含む)等を対象として使用される。木材の種類としては、特に限定されないが、木材腐朽菌が発生しやすいアカマツ、スギ、ブナ、ベイツガ及びベイマツ等に好適に用いることができる。これらの対象への使用方法としては、加圧注入法、浸漬法、塗布法及びスプレー法等が挙げられ、特に浸漬法及びスプレー法が、操作が簡便であることから好適である。本開示では、これらの使用対象及び方法のみに限定されるものではない。
【実施例
【0027】
次に、実施例及び比較例などにより更に詳細に説明するが、下記実施例等に限定されるものではない。
【0028】
〔実施例1~8:粒子A~Hの製造〕
下記実施例1~8により、木材用及びイネ科植物用の防腐剤(粒子水分散体)A~Hを製造した。なお、以下の「部」は質量部を表す。
【0029】
(実施例1:木材用及びイネ科植物用の防腐剤(粒子水分散体)Aの製造)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計を取り付け、水槽にセットし、蒸留水93.8部、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O)2部、リン酸0.2部、式(I)中のRがiso-ブチルのモノマー(イソブチルシアノアクリレート)4部を仕込んで、約15分撹拌してアニオン重合を終了し、木材用及びイネ科植物用の防腐剤(粒子水分散体)Aを得た。なお、この粒子Aの平均粒子径は、83nmであった。
【0030】
(実施例2~8、比較例1:粒子B~Iの製造)
下記表1に示す配合組成で、上記実施例1と同様にして各木材用及びイネ科植物用の防腐剤(粒子水分散体)B~Iを得た。なお、各粒子の平均粒子径は、下記表1に示す。
【0031】
得られた実施例1~8及び比較例1の各木材用及びイネ科植物用の防腐剤(粒子水分散体)A~Iについて、下記評価方法により、防腐効果(スギ木材片、孟宗竹の竹材片)について評価した。
これらの結果を下記表1に示す。
【0032】
<木材等防腐効果の評価方法>
JIS A 1571:2010に基づいて、防腐効力試験を行った。
(1)試験液の作製
実施例1~7及び比較例1の粒子をイオン交換水を用いて有効成分質量%に希釈し、試験液を調製した。
【0033】
(2)防腐処理
スギ木材片、および孟宗竹の竹材片(2cm×2cm×1cm)を試験片とし、減圧・常圧注入法(試験片を試験液中に浸し、減圧10cmHgで試験片中の空気を脱気した後、常圧に戻して5分間試験液に含浸させ試験片に試験液を注入する方法)により、試験液を含浸させた。その後、20日間風乾させた後、60±2℃の循風乾燥機で48時間乾燥させ、デシケーターにて冷却後、化学天秤にて質量(W0)を測定した。
ブランクとしてはスギ木材片、および孟宗竹の竹材片を処理無しで用いた。
【0034】
(3)防腐効果の評価
得られた実施例1~8及び比較例1の各防腐剤を上記の方法にて含浸させた試験片をJIS K 1571:2010に基づいて各評価を行った。
腐朽菌としては、オオウズラタケまたはカワラタケを用いた。菌糸が充分繁殖した試験基上に試験体を無菌的に3検体ずつ置くが、オオウズラタケの成育した試験基には湿熱滅菌した、耐熱プラスチック網を無菌的に置く。その上に、試験体試料を3検体無菌的に並べ、カワラタケの成育した試験基には、耐熱プラスチック網は置かず、そのまま試験体試料を3検体無菌的に並べる。その後、26℃で3ヶ月間(12週間)培養する。試験片を取り出し、表面の菌糸、その他の付着物を充分に取り除く。その後、24時間風乾した後、60±2℃の循風乾燥機で48時間乾燥させ、デシケーターにて冷却後、化学天秤にて質量(W1)を測定した。
【0035】
この防腐性能評価は、試験前後の試験片の重量減少率(%)で示し、次式(I)で計算されるもので、下記評価基準により判断する。重量減少率が小さいほど、防腐効果が高いことを意味する。
式(I):重量減少率(%)=(W0-W1)/W0×100
防腐性能評価基準:
○:質量減少率3%未満(オオウズラタケ及びカワラタケ)
△:質量減少率3%以上30%未満(オオウズラタケ)
質量減少率3%以上15%未満(カワラタケ)
×:質量減少率30%以上(オオウズラタケ)
質量減少率15%以上(カワラタケ)
【0036】
【表1】
【0037】
上記表1を考察すると、実施例1~8は、比較例1に較べて防腐効果に優れていることが判った。
また、実施例1~8の各木材及びイネ科植物用の防腐剤(粒子水分散体)について、密閉容器に入れ、26℃下で3ヶ月保存した後、目視により凝集物等を官能評価したところ、粒子等の凝集はなく、保存安定性も問題ないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0038】
園芸用途にも使用でき、安全性が高く、安定性、防腐効果に優れた木材及びイネ科植物用の防腐剤が得られる。