(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】電極群、二次電池、電池パック及び車両
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20241118BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241118BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20241118BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241118BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241118BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/485
H01M4/48
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2021041560
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】笹川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】原田 康宏
(72)【発明者】
【氏名】高見 則雄
(72)【発明者】
【氏名】松野 真輔
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-160416(JP,A)
【文献】特開2018-067384(JP,A)
【文献】特開2015-144097(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078159(WO,A1)
【文献】特開2016-100051(JP,A)
【文献】特開2008-004535(JP,A)
【文献】特開2016-028382(JP,A)
【文献】特開2018-113164(JP,A)
【文献】特開2017-168265(JP,A)
【文献】国際公開第2020/194439(WO,A1)
【文献】特開平07-130389(JP,A)
【文献】特開平08-050917(JP,A)
【文献】特開2015-056241(JP,A)
【文献】特開2014-132541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-10/0587
10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体、及び、前記正極集電体上に設けられた正極活物質含有層を含む正極と、 負極集電体、及び、前記負極集電体上に設けられた負極活物質含有層を含む負極と
、
前記正極及び前記負極の間に介在するセパレータとを備え、
前記負極活物質含有層の前記負極集電体に対する正射影の面積(NA1)は、前記正極活物質含有層の前記正極集電体に対する正射影の面積(PA1)と比較して大きく、
前記負極活物質含有層は、
前記セパレータを介して前記正極活物質含有層と対向している対向部と、
前記セパレータと対向し且つ前記正極活物質含有層と対向していない非対向部とを
同一の主面に含み、
前記負極活物質含有層の
前記主面上であって、前記非対向部の少なくとも一部には、第1ふっ素含有被膜が形成されており、
前記第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~10原子%の範囲内にあり、
前記非対向部の幅は、前記負極活物質含有層の面内方向に沿う第1方向について、前記負極活物質含有層の側面から、前記非対向部及び前記対向部の境界面までの距離で規定され、
前記第1ふっ素含有被膜は、前記負極活物質含有層の
前記主面上において、前記非対向部の幅のうち、前記負極活物質含有層の側面から10%以上150%以下の長さの位置まで、前記第1方向に沿って前記対向部に向かって形成されている、電極群。
【請求項2】
前記負極と前記正極とをその間に前記セパレータを介在させながら交互に積層した構造を有する、請求項1に記載の電極群。
【請求項3】
前記負極活物質含有層の前記主面上には、前記非対向部の前記負極集電体に対する正射影の面積(NA2)のうち、50%以上の割合で前記第1ふっ素含有被膜が形成されている請求項1
又は2に記載の電極群。
【請求項4】
前記負極活物質含有層の前記主面上であって、前記対向部の少なくとも一部には第2ふっ素含有被膜が形成されており、
前記第2ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、0.1原子%以上2.5原子%未満の範囲内にある請求項1
~3の何れか1項に記載の電極群。
【請求項5】
前記第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~6.0原子%の範囲内にある請求項1~
4の何れか1項に記載の電極群。
【請求項6】
前記面積(PA1)に対する、前記面積(NA1)の比(NA1/PA1)は、1.00<NA1/PA1≦1.20の範囲内にある請求項1~
5の何れか1項に記載の電極群。
【請求項7】
前記負極活物質含有層は負極活物質を含み、
前記負極活物質は、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム、スピネル構造を有するチタン酸リチウム、単斜晶型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物、直方晶型チタン含有複合酸化物、及び単斜晶型ニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のチタン含有酸化物を含む請求項1~
6の何れか1項に記載の電極群。
【請求項8】
前記負極活物質は、前記単斜晶型ニオブチタン複合酸化物を含み、
前記単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、一般式Li
xTi
1-yM1
yNb
2-zM2
zO
7+δで表される複合酸化物、及び、一般式Li
xTi
1-yM3
y+zNb
2-zO
7-δで表される複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つであり、前記M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つであり、前記M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記xは0≦x≦5を満たし、前記yは0≦y<1を満たし、前記zは0≦z<2を満たし、前記δは、-0.3≦δ≦0.3を満たす請求項
7に記載の電極群。
【請求項9】
請求項1~
8の何れか1項に記載の電極群と、電解質とを含む二次電池。
【請求項10】
請求項
9に記載の二次電池を具備する電池パック。
【請求項11】
通電用の外部端子と、
保護回路と
を更に具備する請求項
10に記載の電池パック。
【請求項12】
複数の前記二次電池を具備し、
前記二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項
10又は
11に記載の電池パック。
【請求項13】
請求項
11~
12の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
【請求項14】
前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む請求項
13に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極群、二次電池、電池パック及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度電池として、リチウムイオン二次電池のような非水電解質二次電池などの二次電池の研究開発が盛んに進められている。非水電解質二次電池などの二次電池は、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等の車両用、携帯電話基地局の無停電電源用などの電源として期待されている。そのため、二次電池は、高エネルギー密度に加えて、急速充放電性能、長期信頼性のような他の性能にも優れていることも要求されている。例えば、急速充放電が可能な二次電池は、充電時間が大幅に短縮されるだけでなく、ハイブリッド電気自動車等の車両の動力性能の向上や動力の回生エネルギーの効率的な回収も可能である。
【0003】
二次電池を製造する際、負極が過充電されるのを抑制する観点から、負極の面積を、正極の面積と比較して大きくする場合がある。この場合、正極端部に電流が集中するため、正極の劣化が生じやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-239302号公報
【文献】特開2017-168265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、自己放電が抑制されると共に、サイクル寿命特性に優れる電極群、この電極群を具備した二次電池、この二次電池を具備した電池パック、及びこの電池パックを具備した車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によると、電極群が提供される。電極群は、正極集電体、及び、正極集電体上に設けられた正極活物質含有層を含む正極と、負極集電体、及び、負極集電体上に設けられた負極活物質含有層を含む負極と、正極及び負極の間に介在するセパレータとを備える。負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の面積は、正極活物質含有層の正極集電体に対する正射影の面積と比較して大きい。負極活物質含有層は、セパレータを介して正極活物質含有層と対向している対向部と、セパレータと対向し且つ正極活物質含有層と対向していない非対向部とを同一の主面に含む。負極活物質含有層の主面上であって、非対向部の少なくとも一部には、第1ふっ素含有被膜が形成されている。第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~10原子%の範囲内にある。非対向部の幅は、負極活物質含有層の面内方向に沿う第1方向について、負極活物質含有層の側面から、非対向部及び対向部の境界面までの距離で規定される。第1ふっ素含有被膜は、負極活物質含有層の主面上において、非対向部の幅のうち、負極活物質含有層の側面から10%以上150%以下の長さの位置まで、第1方向に沿って対向部に向かって形成されている。
【0007】
他の実施形態によると、二次電池が提供される。二次電池は、実施形態に係る電極群と、電解質とを具備する。
【0008】
他の実施形態によると、電池パックが提供される。電池パックは、実施形態に係る二次電池を含む。
【0009】
他の実施形態によると、車両が提供される。車両は、実施形態に係る電池パックを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る電極群の一例を概略的に示す斜視図。
【
図2】
図1に示す電極群のII-II線に沿った断面図。
【
図3】実施形態に係る電極群の他の例を概略的に示す断面図。
【
図4】実施形態に係る電極群の他の例を概略的に示す断面図。
【
図5】実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
【
図6】
図5に示す二次電池のA部を拡大した断面図。
【
図7】実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図。
【
図8】
図7に示す二次電池のB部を拡大した断面図。
【
図9】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
【
図10】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
【
図11】
図10に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
【
図12】実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図。
【
図13】実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0012】
二次電池を製造する際、一般的に、負極が過充電されるのを防止する観点から、正極に対する負極のサイズを大きく設計する場合がある。正極と比較してより大きなサイズを有する負極の外周部から正極端部に電流が集中すると、正極からの金属溶出、これに伴うマイクロショートなどが生じて正極が劣化し易い。また、充放電により格子体積が増加する活物質を使用した負極においては、当該活物質を含む活物質含有層が、塑性変形を伴いながら厚さ方向のみならず横方向にも膨張しうる。つまり、正極よりも大きく設計された負極の活物質含有層が、充放電によって、横方向(面内方向)に更に膨張する場合がある。この場合には、例えば、負極の外周部から正極に向かって流れる電流が、より正極端部に集中しやすいという問題がある。とりわけ、アスペクト比の高い電極の場合には、長辺側において活物質含有層の膨張による正負極間の寸法差が生じ易いため、正極がより劣化し易い傾向にある。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態によると、電極群が提供される。電極群は、正極集電体、及び、正極集電体上に設けられた正極活物質含有層を含む正極と、負極集電体、及び、負極集電体上に設けられた負極活物質含有層を含む負極とを備える。負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の面積は、正極活物質含有層の正極集電体に対する正射影の面積と比較して大きい。負極活物質含有層は、正極活物質含有層と対向している対向部と、正極活物質含有層と対向していない非対向部とを含む。負極活物質含有層の主面上であって、非対向部の少なくとも一部には、第1ふっ素含有被膜が形成されている。第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~10原子%の範囲内にある。
【0014】
本願明細書及び特許請求の範囲における「正射影」とは、各電極において活物質含有層側から集電体方向に観察した場合の活物質含有層が存在する平面の面積をいう。
【0015】
実施形態に係る電極群は、負極活物質含有層のうち、正極活物質含有層と対向していない部分(非対向部)の主面上の少なくとも一部に、2.5原子%~10原子%という高濃度でふっ素原子を含むふっ素含有被膜を有している。2.5原子%~10原子%の存在比率でふっ素原子を含むふっ素含有被膜は電気抵抗が高い。それ故、負極活物質含有層の主面のうち、当該被膜で覆われた部分から、正極活物質含有層に対して電流が流れにくい。この結果、正極活物質含有層の端部への電流密度が低下するため、正極の早期劣化を抑制することができる。
【0016】
また、実施形態に係る電極群を含む二次電池を保存して経時変化させた場合には、自己放電を抑制することができる。即ち、経時変化による二次電池の電圧低下を抑制することができる。
【0017】
以下、実施形態に係る電極群について図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る電極群の一例を概略的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示す電極群のII-II線に沿った断面図である。
【0018】
以下の説明において、X方向及びY方向は、負極活物質含有層3bの主面に対して平行であり且つ互いに直交する方向である。また、Z方向は、X方向及びY方向に対して垂直な方向である。即ち、Z方向は、厚さ方向である。X方向及びY方向に対して平行な方向を面内方向とも呼ぶ。
【0019】
図1に示す電極群1は、負極3、正極5、及び、これらの間に介在するセパレータ4を備えている。負極3は、例えば金属箔からなる矩形の負極集電体3aと、この負極集電体3aの両面の表面上に形成された負極活物質含有層3bとを含む。負極3は、負極集電体3aの短辺に平行な一端部からなる負極集電タブ3c(負極タブ部)を更に含む。正極5は、例えば金属箔からなる矩形の正極集電体5aと、この正極集電体5aの両面の表面上に形成された正極活物質含有層5bとを含む。図示していないが、この二次電池の負極タブ部3cが突出している面と対向する面において、正極集電体5aの短辺に平行な一端部からなる正極集電タブ5c(正極タブ部)が正極集電体5aから突出している。即ち、正極5は正極タブ部5cを更に含む。
【0020】
負極活物質含有層3bの負極集電体3aに対する正射影の面積(NA1)は、正極活物質含有層5bの正極集電体5aに対する正射影の面積(PA1)と比較して大きい。負極活物質含有層3bの負極集電体3aに対する正射影の面積(NA1)は、例えば、負極活物質含有層3bのX方向についての長さと、Y方向についての長さとを乗じることで算出できる。また、正極活物質含有層5bの正極集電体5aに対する正射影の面積(PA1)は、例えば、正極活物質含有層5bのX方向についての長さと、Y方向についての長さとを乗じることで算出できる。電極群1において、負極3のX方向の寸法は正極5のX方向の寸法より大きく、負極3のY方向の寸法も正極5のY方向の寸法より大きい。
【0021】
正極活物質含有層5bの正極集電体5aに対する正射影の面積(PA1)に対する、負極活物質含有層3bの負極集電体3aに対する正射影の面積(NA1)の比(NA1/PA1)は、例えば、1.00<NA1/PA1≦1.20の範囲内にある。言い換えると、例えば、面積NA1は、面積PA1の100.1%~120%の大きさでありうる。一例として、電極群を組み立てた直後において、面積NA1は、面積PA1の105%の大きさであり得る。そして、後述する負極活物質として充放電により格子体積が変動するものを使用した場合には、充放電後の電極群において、面積NA1は、面積PA1の110%の大きさであり得る。負極と正極との寸法差は特に限定されるものではないが、寸法差が過度に大きいと、第1ふっ素含有被膜による正極端部への電流集中を抑制する効果が得られにくい傾向にある。
【0022】
負極活物質含有層3bのX方向についての長さに対する、Y方向についての長さの比(アスペクト比)は、例えば、1:1~20:1の範囲内にある。負極活物質含有層3bのX方向に沿った辺が、負極活物質含有層の長辺側であってもよく、短辺側であってもよい。また、負極活物質含有層3bのY方向に沿った辺が、負極活物質含有層の長辺側であってもよく、短辺側であってもよい。負極活物質含有層3bのX方向についての長さと、Y方向についての長さとは同一であってもよい。アスペクト比が5:1以上である場合、負極活物質含有層の長辺側において、負極活物質含有層3bの非対向部3b1から正極端部への電流集中を抑制する効果がより得られやすいため、好ましい。
【0023】
負極活物質含有層の寸法は特に限られるものではないが、例えば以下の寸法を有し得る。即ち、負極活物質含有層3bの短辺についての長さは、例えば2cm~20cmの範囲内にある。負極活物質含有層3bの長辺についての長さは、例えば2cm~40cmの範囲内にある。また、負極活物質含有層の厚さ(Z方向に沿った長さ)は、例えば、10μm~100μmの範囲内にある。
【0024】
正極活物質含有層の寸法は特に限られるものではないが、例えば以下の寸法を有し得る。即ち、正極活物質含有層5bの短辺についての長さは、例えば2cm~40cmの範囲内にある。正極活物質含有層5bの長辺についての長さは、例えば2cm~40cmの範囲内にある。また、正極活物質含有層の厚さ(Z方向に沿った長さ)は、例えば、10μm~100μmの範囲内にある。
【0025】
なお、負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の形状は特に限定されず、正方形、矩形、多角形、円形又は楕円形などであり得る。目的とする二次電池の形状に合わせて負極の形状を変化させることにより、当該正射影の形状は変化する。また、正極活物質含有層の正極集電体に対する正射影の形状は特に限定されず、多角形、正方形、矩形、円形又は楕円形などであり得る。正極活物質含有層の正極集電体に対する正射影の形状は、負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の形状と同一でありうる。
【0026】
図1及び
図2に示しているように、負極活物質含有層3bの一部は、正極活物質含有層5bと対向している。負極活物質含有層3bは、正極活物質含有層5bと対向していない非対向部3b1と、正極活物質含有層5bと対向している対向部3b2とで構成されている。非対向部3b1の三次元的な形状は、環状の角柱形状であり得る。非対向部3b1の形状は特に限定されず、環状の円柱形状であってもよい。非対向部3b1は、例えば、直方体形状であってもよい。
【0027】
負極活物質含有層3bの主面上には、ふっ素含有被膜10が形成されている。ふっ素含有被膜10と正極5との間には、負極3及び正極5の間における電気的な絶縁性を確保するために、セパレータ4が介在している。なお、負極活物質含有層3bの主面とは、X方向及びY方向に伸びる面を指す。負極集電体3aの主面と負極活物質含有層3bの主面とは、互いに平行又は略平行に伸びる面であり得る。ふっ素含有被膜10は、負極活物質含有層3bが有する2つの主面のうち、負極集電体3aと接していない側の主面上に形成されている。
【0028】
ふっ素含有被膜10は、例えば、高濃度のふっ素を含有する第1ふっ素含有被膜101と、第1ふっ素含有被膜101と比較してより低濃度のふっ素を含有する第2ふっ素含有被膜102とを含む。第1ふっ素含有被膜101及び第2ふっ素含有被膜102は、連続した1つのふっ素含有被膜10を構成しうる。ふっ素含有被膜10に含まれるふっ素の存在比率は、後述する走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX:Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により分析することができる。ふっ素含有被膜10においては、第1ふっ素含有被膜101から第2ふっ素含有被膜102に亘って、ふっ素の存在比率が連続的に変化していてもよい。
【0029】
負極活物質含有層3bの主面上であって、非対向部3b1上には、第1ふっ素含有被膜101が形成されている。上述の通り、高濃度のふっ素を含有する第1ふっ素含有被膜101は電気抵抗が高い。従って、負極活物質含有層3bの外周部、例えば非対向部3b1から、正極活物質含有層5bの端部に向かって集中的に電流が流れるのを抑制することができる。
図1及び
図2では、一例として、非対向部3b1上の全体に対して第1ふっ素含有被膜101が存在している場合を示している。しかしながら、第1ふっ素含有被膜101は、非対向部3b1上の少なくとも一部に存在していれば正極劣化を抑制する効果が得られる。
【0030】
負極活物質含有層3bの主面上には、非対向部3b1の負極集電体3aに対する正射影の面積(NA2)のうち、例えば10%~100%の割合で第1ふっ素含有被膜101が形成されている。上記割合は、30%~100%の範囲内にあってもよく、50%~80%の範囲内にあってもよい。上記割合が高いほど、正極活物質含有層5bの端部への電流集中を抑制することができる。
【0031】
第2ふっ素含有被膜102は、負極活物質含有層3bの主面上であって、対向部3b2上の少なくとも一部に形成されている。
図1及び
図2では、一例として、対向部3b2上の全体に対して第2ふっ素含有被膜102が存在している場合を示している。非対向部3b1上の少なくとも一部に第1ふっ素含有被膜101が形成されていれば、第2ふっ素含有被膜102は形成されていなくてもよい。この場合であっても、非対向部3b1上に第1ふっ素含有被膜101が形成されているため、正極5の劣化を抑制することができる。
【0032】
第1ふっ素含有被膜101に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~10原子%の範囲内にあり、好ましくは4.0原子%~8.0原子%の範囲内にある。第1ふっ素含有被膜101に含まれるふっ素原子の存在比率は2.5原子%~6.0原子%の範囲内にあってもよい。当該存在比率が2.5原子%未満であると、第1ふっ素含有被膜101によって電気抵抗を増大させる作用が不足し、正極の劣化を抑制しにくい可能性がある。当該存在比率が10原子%を超えると、出力特性が過度に劣る傾向があるため好ましくない。
【0033】
第2ふっ素含有被膜102に含まれるふっ素原子の存在比率は、例えば、0.1原子%以上2.5原子%未満の範囲内にあり、好ましくは0.2原子%~1.5原子%の範囲内にある。当該存在比率が過度に高いと、正負極間での電気抵抗が高まり、出力特性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0034】
第1ふっ素含有被膜101の厚さは、ふっ素原子の存在比率が2.5原子%~10原子%の範囲内にあれば特に限定されないが、例えば、10nm~100nmの範囲内にある。第2ふっ素含有被膜102の厚さは、例えば、10nm~30nmの範囲内にある。
【0035】
図1及び
図2では、一例として、電極群1が積層型電極群である場合を示しているが、実施形態に係る電極群は捲回型電極群であってもよい。
図1及び
図2では、電極群1は、2枚の負極3、2枚のセパレータ4及び正極5が積層された結果、略直方体形状を成している場合を示しているが、電極群1は略円柱形状であってもよい。電極群1の形状は、目的とする二次電池の形状に合わせて適宜変更することができる。
【0036】
図1及び
図2に示す電極群1では、2枚の負極3が、それぞれセパレータ4を介して正極5を挟み込んでいるが、負極3の枚数は1枚であってもよい。電極群1が、負極3及び正極5を1枚ずつ備える場合の一例を
図3に示す。負極活物質含有層3bは、例えば、負極集電体3aの片面上に形成されている。負極活物質含有層3bは、負極集電体3aの両面上に形成されていてもよい。また、正極活物質含有層5bは、正極集電体5bの片面上に形成されている。正極活物質含有層5bは、正極集電体5aの両面上に形成されていてもよい。
【0037】
図3に示す電極群1において、負極集電体3aの片面上に形成された負極活物質含有層3bと、正極集電体5bの片面上に形成された正極活物質含有層5bとは対向している。具体的には、負極活物質含有層3bと、正極活物質含有層5bとは、これらの間にセパレータ4を介して互いに対向している。加えて、負極活物質含有層3bの主面上には、ふっ素含有被膜10が形成されている。
図3に示す電極群1によれば、
図1及び
図2を参照しながら説明した電極群1と同様に、負極活物質含有層3bの非対向部3b1からの電流が、正極活物質含有層5bの端部に集中するのを抑制することができる。
【0038】
図4は、実施形態に係る電極群の他の例を概略的に示す断面図である。
図4に示す電極群1は、ふっ素含有被膜10の構成を除いて
図1及び
図2を参照しながら説明した電極群1と同様の構成を備える。
【0039】
図4に示す電極群1においては、第1ふっ素含有被膜101は、非対向部3b1上の全体に形成されていない。
図4に示す断面図において、負極活物質含有層3bの主面上(非対向部3b1上)に第1ふっ素含有被膜101が形成された領域を規定するために、まず、非対向部3b1の幅を規定する。非対向部3b1の幅は、負極活物質含有層3bの面内方向に沿う任意の一方向について、負極活物質含有層3bの側面から、非対向部3b1及び対向部3b2の境界面までの距離で規定される。負極活物質含有層3bの面内方向に沿う任意の一方向を、ここでは第1方向と呼ぶ。例えば、電極をZ方向に沿って任意の位置で切断した場合に、この切断面と直交する、負極活物質含有層3bの面内方向が第1方向となる。第1方向は、例えば、X方向と平行な方向でありうる。或いは、第1方向は、負極活物質含有層3bの面内方向に沿った長さが最大となる方向でありうる。
【0040】
図4に示す電極群1の断面図は、当該電極群1を第1方向(ここでは、X方向と平行な方向)に沿って切断された断面である。第1ふっ素含有被膜101は、負極活物質含有層3bの主面上において、非対向部3b1の幅のうち、負極活物質含有層3bの側面から50%の位置まで、第1方向に沿って対向部3b2に向かって形成されている。第1ふっ素含有被膜101が形成されている領域は、負極活物質含有層3bの主面上において、非対向部3b1の幅のうち、負極活物質含有層3bの側面から50%の位置までに限られない。第1ふっ素含有被膜101は、負極活物質含有層3bの主面上において、非対向部3b1の幅のうち、負極活物質含有層3bの側面から10%以上150%以下の長さの位置まで、第1方向に沿って対向部3b2に向かって形成されていてもよい。当該割合が100%を超える場合には、第1ふっ素含有被膜101が対向部3b2上にも存在していることを意味する。第1ふっ素含有被膜101は、非対向部3b1上の少なくとも一部に加えて、対向部3b2上の一部に形成されていてもよい。
【0041】
第1ふっ素含有被膜101は、負極活物質含有層3bの主面上において、非対向部3b1の幅のうち、負極活物質含有層3bの側面から30%以上120%以下の長さの位置まで形成されていることが好ましく、50%以上100%以下の長さの位置まで形成されていることがより好ましい。当該割合が過度に大きい場合、負極活物質含有層3bの対向部3b2における電気抵抗が高いため、出力特性に劣る可能性がある。
【0042】
<ふっ素含有被膜の組成分析>
ふっ素含有被膜の組成は、SEM-EDXにより分析することができる。SEM観察に用いる装置としては、例えば、日立製Miniscope TM3030を使用することができる。EDX分析に用いる装置としては、例えば、Bruker製Quantax70を使用することができる。
【0043】
まず、分析対象の二次電池を準備し、これを完全に放電状態とする。次に、不活性雰囲気下で二次電池を解体して電極群を取り出す。次いで、電極群から負極を取り出し、プロピレンカーボネートに3分間浸漬させた後、ジメチルカーボネートに3分間浸漬させて負極を洗浄する。洗浄後の負極を真空乾燥させて、分析用サンプルとした。別途、電極群を任意の方向(第1方向)に沿って切断し、得られた断面から非対向部の幅と、対向部の幅とを測定する。負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の外周が矩形の場合には、第1方向は、当該矩形の短辺又は長辺のいずれかと平行な方向とする。負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の外周が矩形以外の場合には、第1方向は、負極活物質含有層の面内方向に沿った長さが最大となる方向とする。
【0044】
分析用サンプルの負極について、負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の外周が矩形の場合には、SEM-EDXによる観察を以下の通り行う。即ち、非対向部としての四辺のそれぞれの中央の位置を測定点とする。4つの測定点のそれぞれについて、負極活物質含有層の端部から200μmの部分が含まれるように、200μm×200μmの視野についてSEM-EDXによる組成分析を行う。得られる4つの値の平均値を、非対向部におけるふっ素原子存在比率とする。また、当該矩形についての2本の対角線を結んだ交点を矩形の中心と見なす。この中心が含まれるように、200μm×200μmの視野でSEM-EDXによる観察を行い、得られた値を対向部のふっ素原子存在比率とする。
【0045】
一方、分析用サンプルの負極について、負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の外周が矩形以外の場合、例えば円形又は楕円形の場合には、SEM-EDXによる観察を以下の通り行う。円形又は楕円形について、長軸と短軸との交点を中心と見なす。当該中心を通り、負極活物質含有層の面内方向に沿う仮想の第1直線を設定する。また、上記中心で第1直線と直交し、且つ、負極活物質含有層の面内方向に沿う仮想の第2直線を設定する。第1直線と非対向部とが交差する二箇所、及び、第2直線と非対向部とが交差する二箇所の合計四箇所において、負極活物質含有層の端部から200μmの部分が含まれるように、200μm×200μmの視野についてSEM-EDXによる組成分析を行う。得られる4つの値の平均値を、非対向部におけるふっ素原子存在比率とする。また、長軸と短軸との交点で規定される中心が含まれるように、200μm×200μmの視野についてSEM-EDXによる観察を行い、得られた値を対向部のふっ素原子存在比率とする。
【0046】
負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の形状がいずれの場合であっても、複数箇所で分析されたふっ素の存在比率の平均値が2.5原子%~10原子%の範囲内にある場合、分析対象の電極群は、負極活物質含有層の非対向部の表面上に第1ふっ素含有被膜を備えていると判断することができる。
【0047】
また、負極活物質含有層の主面に対する元素マッピング画像から、非対向部の負極集電体に対する正射影の面積(NA2)のうち、何%の割合で第1ふっ素含有被膜が形成されているかを測定することができる。更に、負極活物質含有層の側面から第1方向に沿ってふっ素原子存在比率を測定することで、第1ふっ素含有被膜が形成されている長さの割合を測定することができる。得られた第1方向に沿ったふっ素の存在比率から、非対向部の幅に対する第1ふっ素含有被膜が形成されている幅の割合を算出できる。非対向部面積に対する第1ふっ素含有被膜の割合についても、非対向部の全域でふっ素濃度を測定することで算出できる。なお、算出にあたっては、非対向部全域を所定の測定倍率、所定のサンプリング間隔で測定したSEM像の分析結果を用いることができる。このとき、非対向部面積に対する第1ふっ素含有被膜の割合は、第1ふっ素含有被膜の濃度範囲を満たすSEM像数に対する全SEM像数である。測定精度の観点から全SEM像数は20以上であることが好ましい。
【0048】
第1ふっ素含有被膜及び/又は第2ふっ素含有被膜を構成する成分の詳細は明らかになっていないが、第1ふっ素含有被膜及び/又は第2ふっ素含有被膜は、例えば、フッ化リチウム、及び、有機系原子に結合したふっ素原子を含む化合物を含む。なお、有機系原子は、例えば、炭素原子及びリン原子のうちの少なくとも一方である。
【0049】
<電極群の製造方法>
負極活物質含有層の非対向部上にふっ素含有被膜を備えた電極群は、例えば、初充電後の二次電池を高温環境下で保持する、即ちエージングすることにより作製することができる。所定の条件でエージング処理を実施することで、電解液中のLi塩が分解して、負極活物質含有層の非対向部上に高濃度のふっ素原子を含有する被膜を形成することができる。或いは、実施形態に係る高濃度のふっ素含有被膜は、負極活物質含有層の主面に対してスパッタリングなどの蒸着を行うことで形成することができる。
【0050】
負極を備える二次電池を組み立てた後、この二次電池を初充電及びエージングに供する。初充電する際には、負極電位を1.2V(vs. Li+/Li)より低くすることが好ましい。負極電位を低くすることにより、ふっ素原子の存在比率が2.5原子%~10原子%の範囲内にある第1ふっ素含有被膜を形成しやすい。高濃度のふっ素含有被膜を形成するためには、初充電時の負極電位は、1.1V(vs. Li+/Li)以下とすることが好ましく、1.0V(vs. Li+/Li)以下とすることがより好ましい。
【0051】
エージングは、例えば、電池電圧が1.0V~3.2Vの範囲内にある二次電池に対してSOC80%~100%で実施するのが好ましい。また、エージング条件としては45℃~95℃の温度環境下で10時間~48時間に亘って行うことが好ましい。なお、ここでのSOCは、推奨電位内で充放電をした際の放電容量(C)とし、推奨放電状態から0.1C~1Cの電流値で充電した際の充電量とする。
【0052】
SOC、電池電圧、若しくはエージング温度が低すぎるか、又は、エージング時間が短すぎると、ふっ素原子の存在比率が2.5原子%~10原子%の範囲内にある第1ふっ素含有被膜が形成されない可能性がある。SOC、電池電圧、若しくはエージング温度が高過ぎるか、又は、エージング時間が長すぎると、第2ふっ素含有被膜中のフッ素濃度が高くなることで電池抵抗が増加するため好ましくない。エージング時の電池電圧は2.8V~3.2Vの範囲内とすることが好ましい。エージング温度は、60℃~80℃の範囲内とすることが好ましい。エージング時間は10時間~24時間の範囲内とすることがより好ましい。
【0053】
初充電及びエージングを含む方法で電極群を作製する場合には、電解液が、ふっ素原子を含む電解質塩を含有していることが望ましい。
【0054】
負極活物質含有層の主面に対する蒸着は、例えば以下の高周波スパッタリングにより行うことができる。10-3Paに減圧した真空チャンバ内に設置した電極に対して、フッ素系樹脂をスパッタリングターゲットとして蒸着させることで行う。フッ素系樹脂としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンジフルオライド)及びFEP(フルオロエチレンプロピレン)を使用することができる。投入電力100WでArスパッタリングを実施する。チャンバに設置する電極は所定の形状に打ち抜いたものでも、ロールを搬送しながら蒸着する形式でもよい。その際に、電極の中央部をマスクすることで、外周部のみに高濃度フッ素を含有する被膜を形成することができる。
【0055】
以下、実施形態に係る電極群が含む負極、正極及びセパレータについて説明する。電極群は、1つ以上の負極と、1つ以上の正極と、1つ以上のセパレータとを備えることができる。負極及び正極は、セパレータを介して交互に配置され得る。
【0056】
(1)負極
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含むことができる。負極活物質含有層は、負極集電体の片面又は両面に形成され得る。負極活物質含有層は、負極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0057】
負極活物質含有層の主面上には、正極と対向する面において、上述したふっ素含有被膜が形成されている。ふっ素含有被膜は、ふっ素の存在比率が2.5原子%~10原子%の範囲内にある第1ふっ素含有被膜を少なくとも含む。ふっ素含有被膜は、ふっ素の存在比率が0.1原子%以上2.5原子%未満の範囲内にある第2ふっ素含有被膜を更に含み得る。第2ふっ素含有被膜は、活物質表面の保護被膜として機能しうるため、活物質の劣化を抑制することができる。
【0058】
負極活物質は、炭素材料、シリコン、シリコン酸化物及びチタン含有酸化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む。炭素材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、及び、天然黒鉛を圧密化し炭素で被覆した紡錘状黒鉛などが挙げられる。
【0059】
チタン含有酸化物としては、例えば、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi2+yTi3O7、0≦y≦3)、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li4+xTi5O12、0≦x≦3)、単斜晶型二酸化チタン(TiO2)、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物、及び直方晶型(orthorhombic)チタン含有複合酸化物が挙げられる。中でも、高い容量と高いレート性能を両立できる観点から、負極活物質はチタン含有酸化物を含むことが好ましい。チタン含有酸化物の中でも、充放電の際に体積の膨張収縮が生じる単斜晶型ニオブチタン複合酸化物を用いると、本発明の効果が得られやすいため好ましい。負極活物質として単斜晶型ニオブチタン複合酸化物のみを含んでいてもよい。充放電時に体積の膨張収縮を生じない活物質の場合、負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の面積(NA1)がそれほど大きくならないため、正極端部への電流集中による正極劣化の問題が小さい。
【0060】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の例として、LixTi1-yM1yNb2-zM2zO7+δで表される化合物が挙げられる。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体例として、LixNb2TiO7(0≦x≦5)が挙げられる。
【0061】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の他の例として、Ti1-yM3y+zNb2-zO7-δで表される化合物が挙げられる。ここで、M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoより選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦y<1、0≦z≦2、-0.3≦δ≦0.3である。
【0062】
直方晶型チタン含有複合酸化物の例として、Li2+aM(I)2-bTi6-cM(II)dO14+σで表される化合物が挙げられる。ここで、M(I)は、Sr,Ba,Ca,Mg,Na,Cs,Rb及びKからなる群より選択される少なくとも1つでる。M(II)はZr,Sn,V,Nb,Ta,Mo,W,Y,Fe,Co,Cr,Mn,Ni,及びAlからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦a≦6、0≦b<2、0≦c<6、0≦d<6、-0.5≦σ≦0.5である。直方晶型チタン含有複合酸化物の具体例として、Li2+aNa2Ti6O14(0≦a≦6)が挙げられる。
【0063】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。あるいは、導電剤を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。
【0064】
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と負極集電体を結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリアクリル酸化合物、ポリイミド、ポリアミド、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0065】
負極活物質含有層中の負極活物質、導電剤及び結着剤の配合割合は、負極の用途に応じて適宜変更することができる。例えば、負極活物質、導電剤及び結着剤を、それぞれ、70質量%以上96質量%以下、2質量%以上28質量%以下及び2質量%以上28質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、負極活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上とすることにより、負極活物質含有層と集電体との結着性が十分となり、優れたサイクル性能を期待できる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ28質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0066】
負極集電体は、活物質にリチウム(Li)が挿入及び脱離される電位、例えば、1.0V(vs.Li/Li+)よりも貴である電位において、電気化学的に安定である材料が用いられる。例えば、集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0067】
また、負極集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
【0068】
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)は、1.8g/cm3以上2.8g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.1g/cm3以上2.6g/cm3以下であることがより好ましい。
【0069】
負極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、負極活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。溶媒の例として、水及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)が挙げられる。溶媒として水を使用した場合、上述した通り、結着剤量を低減したとしても、活物質含有層内の水分を一定程度残すことにより、塗膜(活物質含有層)乾燥時における活物質含有層のひび割れ及び集電体からの剥離を抑制できる。調製したスラリーを、負極集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、負極活物質含有層と負極集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、負極を作製する。
【0070】
或いは、負極は、次の方法により作製してもよい。まず、負極活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを負極集電体上に配置することにより、負極を得ることができる。
【0071】
(2)正極
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に形成され得る。正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。正極活物質含有層には、ゲルポリマー層としてのゲル電解質が含浸していてもよい。正極活物質含有層にゲル電解質が含浸しているか否かは、上述のゲル浸透クロマトグラフィーにより確認することができる。
【0072】
正極活物質としては、例えば、酸化物又は硫化物を用いることができる。正極は、正極活物質として、1種類の化合物を単独で含んでいてもよく、或いは2種類以上の化合物を組み合わせて含んでいてもよい。酸化物及び硫化物の例には、Li又はLiイオンを挿入及び脱離させることができる化合物を挙げることができる。
【0073】
このような化合物としては、例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4又はLixMnO2;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4;0<x≦1、0<y<2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4;0<x≦1、LixFe1-yMnyPO4;0<x≦1、0<y<1、LixCoPO4;0<x≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV2O5)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnzO2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。
【0074】
上記のうち、正極活物質としてより好ましい化合物の例には、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4;0<x≦1、0<y<2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4;0<x≦1)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnzO2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。これらの化合物を正極活物質に用いると、正極電位を高めることができる。
【0075】
電池の電解質として常温溶融塩を用いる場合、リチウムリン酸鉄、LixVPO4F(0≦x≦1)、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、又はこれらの混合物を含む正極活物質を用いることが好ましい。これらの化合物は常温溶融塩との反応性が低いため、サイクル寿命を向上させることができる。常温溶融塩の詳細については、後述する。
【0076】
正極活物質の一次粒径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0077】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0078】
結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxy methyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0079】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブのような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
【0080】
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0081】
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0082】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0083】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0084】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0085】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0086】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0087】
正極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、活物質含有層と集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、正極を作製する。
【0088】
或いは、正極は、次の方法により作製してもよい。まず、活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを集電体上に配置することにより、正極を得ることができる。
【0089】
(3)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
【0090】
セパレータとして、固体電解質粒子を含む固体電解質層を使用することもできる。固体電解質層は、1種類の固体電解質粒子を含んでいても良く、複数種類の固体電解質粒子を含んでいてもよい。固体電解質層は、固体電解質粒子を含む固体電解質複合膜であってもよい。固体電解質複合膜は、例えば、固体電解質粒子を、高分子材料を用いて膜状に成形したものである。固体電解質層は、可塑剤及び電解質塩からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいても良い。固体電解質層が電解質塩を含んでいると、例えば、固体電解質層のアルカリ金属イオン伝導性をより高めることができる。
【0091】
高分子材料の例は、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリエチレン系、シリコーン系及びポリスルフィド系を含む。
【0092】
固体電解質としては、無機固体電解質を用いることが好ましい。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を挙げることができる。酸化物系固体電解質としては、NASICON型構造を有し、一般式LiM2(PO4)3で表されるリチウムリン酸固体電解質を用いることが好ましい。上記一般式中のMは、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の元素であることが好ましい。元素Mは、Ge、Zr及びTiの何れか1つの元素と、Alとを含むことがより好ましい。
【0093】
NASICON型構造を有するリチウムリン酸固体電解質の具体例としては、LATP(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3)、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3を挙げることができる。上記式におけるxは、0<x≦5の範囲内にあり、0.1≦x≦0.5の範囲内にあることが好ましい。固体電解質としては、LATPを用いることが好ましい。LATPは、耐水性に優れ、二次電池内で加水分解を生じにくい。
【0094】
また、酸化物系固体電解質としては、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.3N0.46)、又はガーネット型構造のLLZ(Li7La3Zr2O12)を用いてもよい。
【0095】
第1実施形態によると、電極群が提供される。電極群は、正極集電体、及び、正極集電体上に設けられた正極活物質含有層を含む正極と、負極集電体、及び、負極集電体上に設けられた負極活物質含有層を含む負極とを備える。負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の面積は、正極活物質含有層の正極集電体に対する正射影の面積と比較して大きい。負極活物質含有層は、正極活物質含有層と対向している対向部と、正極活物質含有層と対向していない非対向部とを含む。負極活物質含有層の主面上であって、非対向部の少なくとも一部には、第1ふっ素含有被膜が形成されている。第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~10原子%の範囲内にある。この電極群は、自己放電を抑制できる上に、サイクル寿命特性に優れる。
【0096】
(第2実施形態)
第2実施形態によると、第1実施形態に係る電極群と、電解質とを含む二次電池が提供される。二次電池は、例えばリチウムイオン二次電池であり得る。二次電池は、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池であり得る。
【0097】
二次電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。電解質は、電極群に保持され得る。電解質は、例えば、負極活物質含有層、正極活物質含有層、セパレータ及びこれらの層間に保持されうる。
【0098】
二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子、及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0099】
以下、負極、正極、セパレータ、電解質、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。
【0100】
(1)負極
第2実施形態に係る二次電池が具備する負極は、例えば、第1実施形態において説明した負極でありうる。
【0101】
(2)正極
第2実施形態に係る二次電池が具備する正極は、例えば、第1実施形態において説明した正極でありうる。
【0102】
(3)セパレータ
第2実施形態に係る二次電池が具備するセパレータは、例えば、第1実施形態において説明したセパレータでありうる。
【0103】
(4)電解質
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。電解質塩の濃度は、0.5mol/L以上2.5mol/L以下であることが好ましい。
【0104】
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質塩は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0105】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
【0106】
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide;PEO)、又はこれらの混合物が含まれる。
【0107】
或いは、非水電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
【0108】
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンとの組合せからなる有機塩の内、常温(15℃以上25℃以下)で液体として存在し得る化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質塩と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩、又はこれらの混合物が含まれる。一般に、二次電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
【0109】
高分子固体電解質は、電解質塩を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
【0110】
無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。
【0111】
電解質は、水を含んだ水系電解質であってもよい。
【0112】
水系電解質は、水系溶媒と電解質塩とを含む。水系電解質は、例えば、液状である。液状水系電解質は、溶質としての電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される水溶液である。水系溶媒は、例えば、水を50体積%以上含む溶媒である。水系溶媒は、純水であってもよい。
【0113】
水系電解質は、水系電解液と高分子材料とを複合化したゲル状の水系電解質であってもよい。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。
【0114】
水系電解質は、溶質となる塩1molに対し、水系溶媒量が1mol以上であることが好ましい。さらに好ましい形態は、溶質となる塩1molに対する水系溶媒量が3.5mol以上である。
【0115】
水系電解質に水が含まれていることは、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)測定により確認できる。また、水系電解質中の塩濃度および水含有量の算出は、例えばICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分析などで測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる塩濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。また水系電解質の比重を測定することで、溶質と溶媒のモル数を算出できる。
【0116】
水系電解質は、例えば電解質塩を1-12mol/Lの濃度で水系溶媒に溶解することにより調製される。
【0117】
水系電解質の電気分解を抑制するために、LiOH又はLi2SO4などを添加し、pHを調整することができる。pHは、3-13であることが好ましく、4-12であることがより好ましい。
【0118】
(5)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
【0119】
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
【0120】
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
【0121】
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
【0122】
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0123】
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0124】
(6)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0125】
(7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上4.5V以下の電位範囲(vs.Li/Li+)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0126】
次に、第2実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0127】
図5は、第2実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。
図6は、
図5に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
【0128】
図5及び
図6に示す二次電池100は、袋状外装部材2と、電極群1と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
【0129】
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0130】
図5に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、
図6に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
【0131】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、
図6に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
【0132】
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bとを含んでいる。
【0133】
図5に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
【0134】
第2実施形態に係る二次電池は、
図5及び
図6に示す構成の二次電池に限らず、例えば
図7及び
図8に示す構成の電池であってもよい。
【0135】
図7は、第2実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。
図8は、
図7に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
【0136】
図7及び
図8に示す二次電池100は、
図7及び
図8に示す電極群1と、
図7に示す外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、外装部材2内に収納されている。電解質は、電極群1に保持されている。
【0137】
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0138】
電極群1は、
図8に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
【0139】
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
【0140】
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。
図6に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
【0141】
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
【0142】
第2実施形態に係る二次電池は、第1実施形態に係る電極群を含んでいる。そのため、この二次電池は、自己放電を抑制できる上に、サイクル寿命特性に優れる。
【0143】
(第3実施形態)
第3実施形態によると、組電池が提供される。第3実施形態に係る組電池は、第2実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
【0144】
第3実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0145】
次に、第3実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0146】
図9は、第3実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。
図9に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第2実施形態に係る二次電池である。
【0147】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、
図9の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
【0148】
5つの単電池100a-100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a-100eうち少なくとも1つの電池の負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
【0149】
第3実施形態に係る組電池は、第2実施形態に係る二次電池を具備する。従って、この組電池は、自己放電を抑制できる上に、サイクル寿命特性に優れる。
【0150】
(第4実施形態)
第4実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第3実施形態に係る組電池を具備している。この電池パックは、第3実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第2実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
【0151】
第4実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0152】
また、第4実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0153】
次に、第4実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0154】
図10は、第4実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。
図11は、
図10に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0155】
図10及び
図11に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0156】
図10に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0157】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0158】
複数の単電池100の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、
図11に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0159】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0160】
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
【0161】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0162】
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
【0163】
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
【0164】
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
【0165】
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0166】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0167】
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
【0168】
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0169】
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0170】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0171】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子の正側端子と負側端子としてそれぞれ用いてもよい。
【0172】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0173】
第4実施形態に係る電池パックは、第2実施形態に係る二次電池又は第3実施形態に係る組電池を備えている。従って、この電池パックは、自己放電を抑制できる上に、サイクル寿命特性に優れる。
【0174】
(第5実施形態)
第5実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第4実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0175】
第5実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含んでいてもよい。
【0176】
第5実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0177】
車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0178】
車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0179】
次に、第5実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0180】
図12は、実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
【0181】
図12に示す車両400は、車両本体40と、実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。
図12に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0182】
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0183】
図12では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0184】
次に、
図13を参照しながら、第5実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
【0185】
図13は、第5実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図である。
図13に示す車両400は、電気自動車である。
【0186】
図13に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位の制御装置である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
【0187】
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、
図13に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
【0188】
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
【0189】
電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a-300cは、前述の電池パック300と同様の電池パックであり、組電池200a-200cは、前述の組電池200と同様の組電池である。組電池200a-200cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
【0190】
組電池200a-200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。組電池200a-200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
【0191】
電池管理装置411は、組電池監視装置301a-301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a-200cに含まれる単電池100のそれぞれについて電圧及び温度などに関する情報を収集する。これにより、電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を収集する。
【0192】
電池管理装置411と組電池監視装置301a-301cとは、通信バス412を介して接続されている。通信バス412では、1組の通信線が複数のノード(電池管理装置411と1つ以上の組電池監視装置301a-301cと)で共有されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
【0193】
組電池監視装置301a-301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a-200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
【0194】
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との間の電気的な接続の有無を切り替える電磁接触器(例えば
図13に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a-200cへの充電が行われるときにオンになるプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、組電池200a-200cからの出力が負荷へ供給されるときにオンになるメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチ及びメインスイッチのそれぞれは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフに切り替わるリレー回路(図示せず)を備えている。スイッチ装置415等の電磁接触器は、電池管理装置411又は車両400全体の動作を制御する車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。
【0195】
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411又は車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。インバータ44が制御されることにより、インバータ44からの出力電圧が調整される。
【0196】
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。駆動モータ45の回転によって発生する駆動力は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
【0197】
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構(リジェネレータ)を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。変換された直流電流は、車両用電源41に入力される。
【0198】
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子417に接続されている。接続ラインL1には、負極端子414と負極入力端子417との間に電池管理装置411内の電流検出部(電流検出回路)416が設けられている。
【0199】
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子418に接続されている。接続ラインL2には、正極端子413と正極入力端子418との間にスイッチ装置415が設けられている。
【0200】
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
【0201】
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置411を含む他の管理装置及び制御装置とともに車両用電源41、スイッチ装置415、及びインバータ44等を協調制御する。車両ECU42等の協調制御によって、車両用電源41からの電力の出力及び車両用電源41の充電等が制御され、車両400全体の管理が行われる。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
【0202】
第5実施形態に係る車両は、第4実施形態に係る電池パックを搭載している。それ故、本実施形態によれば、自己放電を抑制できると共にサイクル寿命特性に優れる電池パックを搭載した車両を提供することができる。
【0203】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0204】
(実施例1)
<負極の作製>
負極活物質粉末(NbTi2O7)100重量%、アセチレンブラック10重量%、ポリフッ化ビニリデン10重量%及びNMPを混合しスラリーを調製した。調製したスラリーを、負極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ15μm、幅12cm)の両面に、それぞれ100g/m2の塗布量で塗布して積層体を得た。スラリーが塗布された積層体を乾燥し、プレスを行い、負極活物質含有層を備える帯状の負極を作製した。帯状の負極を、負極集電体と負極活物質含有層との積層方向に沿って矩形状に打ち抜いた。打ち抜かれた負極において、負極活物質含有層の寸法は、短辺100mm及び長辺500mmであった。同様にして、計5枚の負極を作製した。
【0205】
<正極の作製>
正極活物質粉末(LiNi0.5Co0.2Mn0.3)100重量%、アセチレンブラック10重量%、ポリフッ化ビニリデン10重量%及びNMPを混合しスラリーを調製した。調製したスラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ15μm、幅12cm)の両面に100g/m2の塗布量で塗布して積層体を得た。スラリーが塗布された積層体を乾燥し、プレスを行い、正極活物質含有層を備える帯状の正極を作製した。帯状の正極を、正極集電体と正極活物質含有層との積層方向に沿って矩形状に打ち抜いた。打ち抜かれた正極において、正極活物質含有層の寸法は、短辺100mm及び長辺500mmであった。同様にして、計5枚の正極を作製した。
【0206】
<非水電解質の調製>
エチレンカーボネート及びジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートを1:1:1の体積比で混合し、混合溶媒を調製した。この混合溶媒中に、六フッ化リン酸リチウムを1Mの濃度で溶解させて非水電解質を調製した。
【0207】
<ラミネートセルの作製>
複数の正極及び複数の負極を、ポリエチレンセパレータを間に挟みながら各5枚を積層し、樹脂テープで固定してスタック体とした。なお、各正極及び各負極の積層は、それぞれの負極活物質含有層の周縁部が正極活物質含有層と対向しないようにして行った。つまり、各負極が備える負極活物質含有層において、非対向部は枠状の四辺に形成されていた。
【0208】
スタック体が備える、複数の正極集電体及び複数の負極集電体のそれぞれに対してアルミニウムタブを接続した。次に、スタック体を外装部材に収納して、非水電解質が注液されていないラミネートセルを作製した。このラミネートセルを80℃で、12時間に亘り乾燥させた。その後、アルゴン雰囲気内でラミネートセルに対して非水電解質を注液して熱封止することでラミネートセルを完成させた。
【0209】
<初充電>
作製したラミネートセルに対して、25℃環境下、2.8V-1.5Vの電圧範囲において1時間率の電流値で初充放電を1回行った後、電池電圧を2.8Vに調整した。
【0210】
<エージング処理>
初充電後、ラミネートセルを80℃環境下で24時間に亘り保持することでエージングを行い、実施形態に係る電極群を備える二次電池を作製した。
【0211】
実施例1に係る二次電池について、後述のサイクル容量維持率測定を行った後、SEM-EDX観察の際に下記の寸法を測定した。負極活物質含有層の長辺方向と平行な方向(第1方向)について、片側に存在する非対向部の幅は1.0mmであった。負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の面積(NA1)は52020mm2であり、正極活物質含有層の正極集電体に対する正射影の面積(PA1)は50000mm2であった。面積(PA1)に対する、面積(NA1)の比(NA1/PA1)は1.04であった。非対向部の負極集電体に対する正射影の面積(NA2)は2020mm2であった。
【0212】
(実施例2)
電池電圧を3.0Vに調整したラミネートセルに対してエージング処理を行ったことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0213】
(実施例3)
電池電圧を2.4Vに調整したラミネートセルに対してエージング処理を行ったことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0214】
(実施例4)
エージング温度を95℃に、エージング時間を48時間に変更したことを除いて、実施例3と同様の方法で二次電池を作製した。
【0215】
(実施例5)
負極活物質としてTiO2(B)を使用したことを除いて、実施例4と同様の方法で二次電池を作製した。
【0216】
(比較例1)
エージング処理を行わなかったことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0217】
(比較例2)
エージング温度を100℃に変更し、且つ、電池電圧を3.0Vに調整したラミネートセルに対してエージング処理を行ったことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0218】
(比較例3)
実施例1で説明したのと同様の方法で負極を5枚作製した。別途、10重量%の濃度でPTFEを含むNMP溶液を準備した。その後、各負極が備える負極活物質含有層の周縁部の四辺に対して、PTFE含有溶液を、端部から1mmの幅で刷毛を用いて塗布した。このとき、負極活物質含有層のうち、正極活物質含有層との対向部の主面上をマスキングテープで保護した。塗布後に120℃のホットプレート上で乾燥した後、同様の塗布工程を負極の両面に施した。PTFE含有溶液の乾燥後に塗布量を測定した結果、片面上の塗布量は0.1g/m2であった。その後、マスキングテープを剥離して、比較例3に係る二次電池を得た。この二次電池にはエージング処理が施されていない。
【0219】
(比較例4)
負極活物質としてLi4Ti5O12を使用したことを除いて、比較例3と同様の方法で二次電池を作製した。
【0220】
(比較例5)
PTFE含有溶液を負極活物質含有層の主面の全面に対して塗布したことを除いて、比較例3と同様の方法で二次電池を作製した。PTFE含有溶液の乾燥後に塗布量を測定した結果、片面上の塗布量は2.5g/m2であった。
【0221】
<SEM-EDX分析>
各実施例及び各比較例で作製した二次電池が備える電極群について、第1実施形態において説明した方法に従ってSEM-EDXによる組成分析を実施した。分析結果を下記表1に示す。
【0222】
<サイクル容量維持率測定>
各実施例及び各比較例で作製した二次電池を、25℃にて2.8V-1.5Vの電圧範囲で充放電を繰り返し、500サイクル後の容量維持率を測定した。
【0223】
<設計容量に対するセル容量比>
設計容量は、正負極それぞれの単極評価の結果から計算できる。まず、ラミネートセルと同様の塗布量で別途作製した正極又は負極を作用極とし、対極を金属リチウムとしたコインセルを作製する。次に、正負極のそれぞれに対応するコインセルについて、所定充電電圧での電極容量を測定する。この際に得られた、正極の充電曲線及び放電曲線を重ね合わせると共に、負極の充電曲線及び放電曲線を重ね合わせる。そして、正極の電圧から負極の電圧を差し引いた充放電曲線がセルの充放電曲線に対応している。それ故、カットオフ電圧での単位面積当たりの容量から、セルの設計容量を求めることができる。なお、正負極の間で単位面積当たりの充電容量が一致するように、これらの塗布量又は充電電圧を設定する。
【0224】
以上の結果を下記表1に示す。
表1において、「ふっ素存在比率(原子%)」の列には、上記SEM-EDXにより分析されたふっ素含有被膜中のふっ素の存在比率を示している。「正極との対向部」の列には、負極活物質含有層のうち正極活物質含有層と対向している対向部の表面におけるふっ素の存在比率を示している。「正極との非対向部」の列には、負極活物質含有層のうち正極活物質含有層と対向していない非対向部の表面におけるふっ素の存在比率を示している。「非対向部の幅に対する第1ふっ素含有被膜の割合(%)」の列には、負極活物質含有層の主面上において、第1ふっ素含有被膜が、非対向部の幅のうち負極活物質含有層の側面から何%の位置まで形成されていたのかを示している。また、「非対向部面積に対する第1ふっ素含有被膜の割合(%)」の列には、負極活物質含有層の主面上において、非対向部の負極集電体に対する正射影の面積(NA2)のうち、何%の割合で第1ふっ素含有被膜が形成されていたのかを示している。
【0225】
【0226】
実施例1~5に係る電極群は、何れも、負極活物質含有層の主面上且つ正極活物質含有層と対向していない非対向部においてふっ素含有被膜(第1ふっ素含有被膜)を有していた。そして、これら実施例1~5において、第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~10原子%の範囲内にあったため、電池の設計容量に対して実際に測定されたセル容量はほぼ同一であった。また、これら実施例1~5において、500サイクル後の容量維持率は優れていた。これは、負極活物質含有層の主面上において、所定の存在比率でふっ素原子を含む第1ふっ素含有被膜が存在していたため、正極活物質含有層の端部への電流密度が低下し、正極の早期劣化を抑制することができたためと考えられる。
【0227】
比較例1に示すように、エージングを実施しない場合には、負極活物質含有層の主面上且つ正極との非対向部におけるふっ素原子の存在比率が0.3原子%であった。つまり、この場合、ふっ素原子を含む被膜はほとんど形成されていなかった。それ故、負極の端部から正極の端部へ向かう電流密度を低減することができず、充放電サイクルを重ねることにより正極が早期に劣化したと考えられる。
【0228】
実施例1~3に示しているように、エージング時の電池電圧を高めることにより、第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素の存在比率が高まる傾向があることが分かる。しかしながら、エージング時の電池電圧を3.0Vとし、100℃という高温環境下でエージングを行った比較例2においては、第1ふっ素含有被膜中のふっ素原子が10%を超えるほどの過剰な被膜が形成された。この比較例2では、実施例1~5と比較して、設計容量に対する電池容量及び容量維持率が大きく劣っていた。
【0229】
また、比較例3~5に示すように、負極活物質含有層の端部に対して、刷毛を用いてPTFE含有溶液を塗布した場合には、過剰な被膜が形成される。この場合、電池抵抗が大きく高まることから、設計容量に対する電池容量及び容量維持率は劣る傾向がある。但し、スピネル型のリチウムチタン複合酸化物(Li4Ti5O12)を負極活物質として使用した場合には、充放電に伴う活物質の膨張収縮が生じないため、容量維持率に関しては優れていた。
【0230】
以上に述べた少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、電極群が提供される。電極群は、正極集電体、及び、正極集電体上に設けられた正極活物質含有層を含む正極と、負極集電体、及び、負極集電体上に設けられた負極活物質含有層を含む負極とを備える。負極活物質含有層の負極集電体に対する正射影の面積は、正極活物質含有層の正極集電体に対する正射影の面積と比較して大きい。負極活物質含有層は、正極活物質含有層と対向している対向部と、正極活物質含有層と対向していない非対向部とを含む。負極活物質含有層の主面上であって、非対向部の少なくとも一部には、第1ふっ素含有被膜が形成されている。第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~10原子%の範囲内にある。この電極群は、自己放電を抑制できる上に、サイクル寿命特性に優れる。
【0231】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 正極集電体、及び、前記正極集電体上に設けられた正極活物質含有層を含む正極と、 負極集電体、及び、前記負極集電体上に設けられた負極活物質含有層を含む負極とを備え、
前記負極活物質含有層の前記負極集電体に対する正射影の面積(NA1)は、前記正極活物質含有層の前記正極集電体に対する正射影の面積(PA1)と比較して大きく、
前記負極活物質含有層は、前記正極活物質含有層と対向している対向部と、前記正極活物質含有層と対向していない非対向部とを含み、
前記負極活物質含有層の主面上であって、前記非対向部の少なくとも一部には、第1ふっ素含有被膜が形成されており、
前記第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~10原子%の範囲内にある電極群。
[2] 前記負極活物質含有層の前記主面上には、前記非対向部の前記負極集電体に対する正射影の面積(NA2)のうち、50%以上の割合で前記第1ふっ素含有被膜が形成されている[1]に記載の電極群。
[3] 前記非対向部の幅は、前記負極活物質含有層の面内方向に沿う第1方向について、前記負極活物質含有層の側面から、前記非対向部及び前記対向部の境界面までの距離で規定され、
前記第1ふっ素含有被膜は、前記負極活物質含有層の主面上において、前記非対向部の幅のうち、前記負極活物質含有層の側面から10%以上150%以下の長さの位置まで、前記第1方向に沿って前記対向部に向かって形成されている[1]又は[2]に記載の電極群。
[4] 前記負極活物質含有層の前記主面上であって、前記対向部の少なくとも一部には第2ふっ素含有被膜が形成されており、
前記第2ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、0.1原子%以上2.5原子%未満の範囲内にある[1]~[3]の何れか1項に記載の電極群。
[5] 前記第1ふっ素含有被膜に含まれるふっ素原子の存在比率は、2.5原子%~6.0原子%の範囲内にある[1]~[4]の何れか1項に記載の電極群。
[6] 前記面積(PA1)に対する、前記面積(NA1)の比(NA1/PA1)は、1.00<NA1/PA1≦1.20の範囲内にある[1]~[5]の何れか1項に記載の電極群。
[7] 前記負極活物質含有層は負極活物質を含み、
前記負極活物質は、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム、スピネル構造を有するチタン酸リチウム、単斜晶型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物、直方晶型チタン含有複合酸化物、及び単斜晶型ニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のチタン含有酸化物を含む[1]~[6]の何れか1項に記載の電極群。
[8] 前記負極活物質は、前記単斜晶型ニオブチタン複合酸化物を含み、
前記単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、一般式Li
x
Ti
1-y
M1
y
Nb
2-z
M2
z
O
7+δ
で表される複合酸化物、及び、一般式Li
x
Ti
1-y
M3
y+z
Nb
2-z
O
7-δ
で表される複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つであり、前記M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つであり、前記M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記xは0≦x≦5を満たし、前記yは0≦y<1を満たし、前記zは0≦z<2を満たし、前記δは、-0.3≦δ≦0.3を満たす[7]に記載の電極群。
[9] [1]~[8]の何れか1項に記載の電極群と、電解質とを含む二次電池。
[10] [9]に記載の二次電池を具備する電池パック。
[11] 通電用の外部端子と、
保護回路と
を更に具備する[10]に記載の電池パック。
[12] 複数の前記二次電池を具備し、
前記二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている[10]又は[11]に記載の電池パック。
[13] [10]~[12]の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
[14] 前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む[13]に記載の車両。
【符号の説明】
【0232】
1…電極群、2…外装部材、3…負極、3a…負極集電体、3b…負極活物質含有層、3c…負極集電タブ、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極活物質含有層、6…負極端子、7…正極端子、10…ふっ素含有被膜、21…バスバー、22…正極側リード、22a…他端、23…負極側リード、23a…他端、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、41…車両用電源、42…電気制御装置、43…外部端子、44…インバータ、45…駆動モータ、100…二次電池、200…組電池、200a…組電池、200b…組電池、200c…組電池、300…電池パック、300a…電池パック、300b…電池パック、300c…電池パック、301a…組電池監視装置、301b…組電池監視装置、301c…組電池監視装置、342…正極側コネクタ、343…負極側コネクタ、345…サーミスタ、346…保護回路、342a…配線、343a…配線、350…通電用の外部端子、352…正側端子、353…負側端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、400…車両、411…電池管理装置、412…通信バス、413…正極端子、414…負極端子、415…スイッチ装置、416…電流検出部、417…負極入力端子、418…正極入力端子、L1…接続ライン、L2…接続ライン、W…駆動輪。