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特許7589083アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20241118BHJP
   B25J 19/00 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
B25J19/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021049442
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022147956
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 智弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 智明
(72)【発明者】
【氏名】金子 広幸
(72)【発明者】
【氏名】澤村 大祐
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-160687(JP,A)
【文献】特開2014-52913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ー 21/02
G05B 11/00 ー 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータであって、
駆動源と、
前記駆動源によって駆動される負荷体と、
前記駆動源が発生する動力を前記負荷体に伝達するワイヤを含む動力伝達系と、
前記負荷体の位置及び速度を取得するための負荷位置センサと、
前記ワイヤの張力を取得するための張力センサと、
前記負荷体の与えられた目標位置を実現するように前記駆動源の出力を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置が、前記目標位置と前記負荷体の前記位置とに基づいて前記負荷体に作用させるべき目標出力を設定し、前記ワイヤの前記張力と前記目標出力との偏差に前記動力伝達系の柔軟係数と速度ゲインとの乗算値である力制御ゲインを乗じて、前記駆動源の目標付加速度を設定し、前記目標付加速度に基づいて前記出力を制御するアクチュエータ。
【請求項2】
前記制御装置が、前記負荷位置センサから取得される前記負荷体の前記速度を換算して得た従動駆動源速度と前記目標付加速度とに基づいて前記駆動源の目標速度を設定し、前記目標速度を実現するように前記出力を制御する請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記負荷体が相反する2つの変位方向に変位可能に設けられ、前記ワイヤが前記負荷体を両変位方向に駆動し得るように前記負荷体に対して前記変位方向の両側に配置され、
前記負荷体に作用する前記ワイヤの前記張力を前記両変位方向について取得するべく、前記張力センサが前記負荷体に対して前記変位方向の前記両側にて前記ワイヤ上に設けられている請求項1又は請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記動力伝達系が、前記駆動源と前記ワイヤとの間に介在するばね要素を更に含み、
前記張力センサが、前記ばね要素の変位を計測する変位センサであり、
前記制御装置が、前記変位センサが計測した前記変位に前記ばね要素のばね定数を乗じることによって前記ワイヤの前記張力を取得する請求項1又は請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記動力伝達系が、前記ワイヤの前記張力が作用する方向と相反する方向に前記ワイヤを常時付勢する付勢部材を更に含み、
前記制御装置が、前記付勢部材による付勢力に対向する力を加算して、前記目標出力を設定する請求項1又は請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記駆動源と前記負荷体との間に少なくとも1つの関節が設けられ、前記ワイヤが前記関節を通過するように設けられ、前記張力センサが前記関節に対して前記駆動源の側に配置される請求項1~請求項のいずれか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
駆動源と、前記駆動源によって駆動される負荷体と、前記駆動源が発生する動力を前記負荷体に伝達するワイヤを含む動力伝達系とを備えるアクチュエータの制御方法であって、
前記負荷体の与えられた目標位置に基づいて前記負荷体作用させるべき目標出力を設定し、前記ワイヤの張力と前記目標出力との偏差に前記動力伝達系の柔軟係数と速度ゲインとの乗算値である力制御ゲインを乗じて、前記駆動源の目標付加速度を算出し、前記目標付加速度に基づいて前記駆動源の出力を制御するアクチュエータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤを含む動力伝達系を備えたアクチュエータ及びそのアクチュエータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームが外力を受けたときに、アーム又はその構成要素がダメージを受けないように、アームにコンプライアンス又は柔軟性を与えるパッシブコンプライアンス(受動柔軟性)制御が公知である(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載のアクチュエータは、外力に応じたリンクの動作のコンプライアンスを、環境や用途に鑑みて適切に調節する。このアクチュエータは、駆動機構(例えば、モータ等の駆動源)と、負荷(例えば、リンク等の負荷体)と、駆動源と負荷体との間に介在する柔軟要素と、駆動源の動作を制御する制御装置とを備える。制御装置は、負荷体に作用させる目標力(目標出力)と、負荷体の実速度と、駆動源及び負荷体のそれぞれの実位置と、柔軟要素の特性を表す柔軟係数とに基づいて駆動源の目標従動速度(作用させるべき目標速度)を設定する。制御装置は、負荷体の目標速度(速度指令)と目標従動速度との合成結果としての合成目標速度に基づいて駆動指令速度を設定し、駆動指令速度に基づいて駆動源の駆動速度を制御する。すなわち、アクチュエータは、柔軟係数(線形な柔軟特性)を有する柔軟要素を動力伝達系に備えており、位置と力とを組み合わせたハイブリッド制御によってパッシブコンプライアンス制御を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-160687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたパッシブコンプライアンス制御は、動力伝達系に介在する柔軟要素が、柔軟係数(すなわち、ばねのように線形な柔軟特性)を有することを前提としている。
【0006】
ここで、動力伝達系がワイヤを含むワイヤ駆動式のアクチュエータの制御にこのパッシブコンプライアンス制御を適用することについて検討すると、以下の課題が発生する。すなわち、動力伝達系のワイヤは、ワイヤが巻き掛けられるプーリとの摩擦やワイヤが収容されるアウタチューブ(例えば、蛇管)との摩擦の影響を受ける。そのため、動力伝達系の特性、具体的には、駆動源の位置と負荷体が発生する力との関係を示す、上記柔軟係数に対応する特性が、非線形(動作の向きに応じて特性が変化するヒステリシスを含む特性)になる。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑み、アクチュエータの動力伝達系が非線形な特性を有していてもパッシブコンプライアンス制御を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明のある実施形態は、アクチュエータ(30)であって、駆動源(23)と、前記駆動源によって駆動される負荷体(32)と、前記駆動源が発生する動力を前記負荷体に伝達するワイヤ(36)を含む動力伝達系(33)と、前記負荷体の位置(θ)及び速度(ω)を取得するための負荷位置センサ(44)と、前記ワイヤの張力(Fa(Ta))を取得するための張力センサ(39、82)と、前記負荷体の与えられた目標位置(θt)を実現するように前記駆動源の出力(ω)を制御する制御装置(13、25)とを備え、前記制御装置が、前記目標位置(θt)と前記負荷体の前記位置(θ)とに基づいて前記負荷体に作用させるべき目標出力(Tt)を設定し、前記ワイヤの前記張力(Fa(Ta))と前記目標出力(Tt)との偏差(Terr)に力制御ゲイン(Ktp)を乗じて、前記駆動源の目標付加速度(ωadd)を設定し、前記目標付加速度に基づいて前記出力(ω)を制御する。
【0009】
この構成によれば、動力伝達系が柔軟要素であるワイヤを含んでいても、制御装置が、張力センサによって取得されたワイヤの張力と目標出力との偏差に、力制御ゲインを乗じることで駆動源の目標付加速度を設定することができる。そして、制御装置が目標付加速度に基づいて駆動源の出力を制御することで、負荷体にコンプライアンスを与えるパッシブコンプライアンス制御を従来と同様に実現することができる。
【0010】
好ましくは、前記力制御ゲイン(Ktp)は、前記動力伝達系の柔軟係数(1/Kspr)と速度ゲイン(Kp)との乗算値である。
【0011】
この構成によれば、力制御ゲインが柔軟係数を含むことで、ワイヤの張力と目標出力との偏差に柔軟係数を乗じた値がワイヤの実変位とワイヤの目標変位との変位差(Δθ)に相当する値として算出される。そしてこのワイヤの変位差に速度ゲインが乗じられることで、駆動源の目標付加速度が算出される。
【0012】
好ましくは、前記制御装置が、前記負荷位置センサから取得される前記負荷体の前記速度(ω)を換算して得た従動駆動源速度(ωf)と前記目標付加速度(ωadd)とに基づいて前記駆動源の目標速度(ωt)を設定し、前記目標速度を実現するように前記出力(ω)を制御するとよい。
【0013】
この構成によれば、制御装置が、目標出力とワイヤの張力とに基づいて、駆動源の目標速度を制御媒体として駆動源の出力を制御することができる。
【0014】
好ましくは、上記の構成において、前記負荷体が相反する2つの変位方向に変位可能に設けられ、前記ワイヤが前記負荷体を両変位方向に駆動し得るように前記負荷体に対して前記変位方向の両側に配置され、前記負荷体に作用する前記ワイヤの前記張力を前記両変位方向について取得するべく、前記張力センサ(39)が前記負荷体に対して前記変位方向の前記両側にて前記ワイヤ上に設けられているとよい。
【0015】
この構成によれば、ワイヤの張力を両変位方向について取得できるため、制御装置が両変位方向について目標出力を負荷体に作用させるように駆動源の出力を制御することができる。
【0016】
或いは、上記の構成において、前記動力伝達系が、前記駆動源と前記ワイヤとの間に介在するばね要素(81)を更に含み、前記張力センサが、前記ばね要素の変位を計測する変位センサ(82)であり、前記制御装置が、前記変位センサが計測した前記変位に前記ばね要素のばね定数を乗じることによって前記ワイヤの前記張力を取得するとよい。
【0017】
この構成によれば、ワイヤだけでなく、ばね要素によっても負荷体の動きに所望のコンプライアンスを与えることができる。また、ばね要素の変位からワイヤの両方向の張力を計測することができるため、変位センサが1つで済み、ワイヤ上に設けられる張力センサのように2つのセンサを設ける必要がないため、ワイヤ周り及びセンサ周りの構成を小型化することができる。
【0018】
或いは、上記の構成において、前記動力伝達系が、前記ワイヤの前記張力が作用する方向と相反する方向に前記ワイヤを常時付勢する(線形特性を有する)付勢部材(42)を更に含み、前記制御装置が、前記付勢部材による付勢力に対向する力(Tc)を加算して、前記目標出力を設定するとよい。
【0019】
この構成によれば、ワイヤが張力を一方のみに伝達するように配置され、他方への力が付勢部材によって与えられても、目標出力を負荷体に作用させるように駆動源の出力を制御することができる。また、負荷体を両方向に駆動し得るようにワイヤを配置する必要がないため、アクチュエータの大型化を抑制できる。
【0020】
好ましくは、前記駆動源と前記負荷体との間に少なくとも1つの関節(12)が設けられ、前記ワイヤが前記関節を通過するように設けられ、前記張力センサが前記関節に対して前記駆動源の側に配置されるとよい。
【0021】
この構成によれば、関節に対して負荷体の側に張力センサを設ける必要がないため、アクチュエータの負荷体側の部分の大型化を抑制することができる。
【0022】
課題を解決するために、本発明のある実施形態は、駆動源(23)と、前記駆動源によって駆動される負荷体(32)と、前記駆動源が発生する動力を前記負荷体に伝達するワイヤ(36)を含む動力伝達系(33)とを備えるアクチュエータ(30)の制御方法であって、前記負荷体の与えられた目標位置(θt)に基づいて前記負荷体作用させるべき目標出力(Tt)を設定し、前記ワイヤの張力(Fa(Ta))と前記目標出力(Tt)との偏差(Terr)に力制御ゲイン(Ktp)を乗じて、前記駆動源の目標付加速度(ωadd)を設定し、前記目標付加速度に基づいて前記駆動源の出力を制御する。ここで、前記力制御ゲインは、前記動力伝達系の柔軟係数と速度ゲインとの乗算値である。
【0023】
この構成によれば、アクチュエータの動力伝達系が柔軟要素であるワイヤを含んでいても、張力センサによって取得されたワイヤの張力と、目標出力の張力に対応する力との偏差に、力制御ゲインを乗じることで駆動源の目標付加速度を算出することができる。そして、目標付加速度に基づいて駆動源の出力を制御することで、負荷体にコンプライアンスを与えるパッシブコンプライアンス制御を従来と同様に実現することができる。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明によれば、アクチュエータの動力伝達系が非線形な特性を有していてもパッシブコンプライアンス制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係るロボットの概略構成図
図2】ロボットの手部の概略構成図
図3】手部の第1アクチュエータのモデル図
図4】手部の第2アクチュエータのモデル図
図5】手部のアクチュエータのシステム構成図
図6】手部のアクチュエータの概略的な機能ブロック図
図7】第1アクチュエータに係るコントローラの要部の機能ブロック図
図8】第2アクチュエータに係るコントローラの要部の機能ブロック図
図9】(A)従来技術、(B)本発明のそれぞれの制御の説明図
図10】実施形態に係る制御による応答性の効果を示すボード線図
図11】第2アクチュエータの応答を示すタイムチャート
図12】実施形態に係る制御システムによる応答を示すタイムチャート
図13】他の実施形態に係る第1アクチュエータのモデル図
図14】他の実施形態に係る第2アクチュエータのモデル図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は、実施形態に係るロボット1の概略構成図である。図1に示すように、ロボット1はヒューマノイドロボットである。ロボット1は、基体2と、基体2の上方に配置された頭部3と、基体2の上部から延設された左右の腕部4と、腕部4の先端に設けられた手部5と、基体2の下部から延設された左右の脚体6と、脚体6の先端に設けられた足部7とを備えている。以下の説明では、ロボット1の前後方向をX軸、左右方向をY軸、上下方向をZ軸とする。
【0028】
基体2はZ軸回りに相対的に回動し得るように上下に連結された上部及び下部により構成されている。頭部3は基体2に対してZ軸回りに回動する等、動くことができる。
【0029】
腕部4は上腕リンク8と前腕リンク9とを備えている。基体2と上腕リンク8とは肩関節10を介して連結され、上腕リンク8と前腕リンク9とは肘関節11を介して連結され、前腕リンク9と手部5とは手根関節12を介して連結されている。肩関節10はX軸、Y軸及びZ軸回りの回動自由度を有し、肘関節11はY軸回りの回動自由度を有し、手根関節12はX軸、Y軸、Z軸回りの回動自由度を有している。基体2には、ロボット1の全体の動作を制御する第1制御装置13が設けられている。
【0030】
図2に示すように、手部5は、掌部14と、掌部14から延設された複数の指部15とを備えている。指部15のそれぞれは、第1指リンク16と、第2指リンク17と、第3指リンク18とを備えている。掌部14と第1指リンク16とは第1指関節19を介して連結され、第1指リンク16と第2指リンク17とは第2指関節20を介して連結され、第2指リンク17と第3指リンク18とは第3指関節21を介して連結されている。第1指関節19~第3指関節21はY軸回りの回動自由度を有している。親指に対応する指部15の第1指関節19は、更にX軸回りの回動自由度を有している。前腕リンク9、掌部14、第1指リンク16~第3指リンク18、手根関節12及び第1指関節19~第3指関節21はアウタケース22によって覆われている。
【0031】
前腕リンク9には、各指の関節を駆動するための複数のモータ23(駆動源)と、これらのモータ23の動作を制御する第2制御装置25とが設けられている。本実施形態では、第3指関節21は第2指関節20と連動するように構成されており、各指部15について、第1指関節19を駆動するためのモータ23と、第2指関節20及び第3指関節21を駆動するためのモータ23との2つのモータ23が使用される。第2制御装置25は、全ての指部15のモータ23を駆動するものであり、複数のアクチュエータ30(30A、30B)に共通となっている。
【0032】
第2制御装置25は、基体2に搭載された第1制御装置13(図1)から指令を受け、指令に基づいてモータ23の動作を制御することによって手部5の全ての指部15を駆動する。モータ23はロボット1に搭載されているバッテリ(図示略)から供給される電力によって動作する。指部15のそれぞれはアクチュエータ30を構成する。つまり、上腕リンク8から掌部14までの部分は、肩関節10を介して基体2に支持されたアーム31をなし、掌部14は、アーム31の基部をなす前腕リンク9に手根関節12を介して連結され、指部15を支持するハンド部をなしている。
【0033】
本実施形態では、指部15が複数のモータ23によって駆動される複数の関節(19~21)を有している。つまり、本実施形態の指部15は複数のアクチュエータ30を含んでいると言える。以下、第1指関節19を駆動するアクチュエータ30を第1アクチュエータ30A(図3参照)と言い、第2指関節20を駆動するアクチュエータ30を第2アクチュエータ30B(図4参照)と言う。第1アクチュエータ30Aは、掌部14に対して指部15の全体をY軸回りに回動駆動する。第2アクチュエータ30Bは、第1指リンク16に対して第2指リンク17及び第3指リンク18をY軸回りに回動駆動する。以下、第1アクチュエータ30Aにおける駆動対象である指部15、並びに、第2アクチュエータ30Bにおける第2指リンク17及び第3指リンク18を、単に負荷体32(図3及び図4参照)と言う。各負荷体32は直接又は他の負荷体32を介して間接的にアーム31に対して変位可能に設けられる。なお、他の実施形態では、指が1つのモータ23のみによって駆動されてもよい。
【0034】
図3は、手部5の第1アクチュエータ30Aのモデル図である。図3に示すように、第1アクチュエータ30Aは、前腕リンク9に設けられたモータ23と、モータ23によって駆動される負荷体32と、モータ23が発生する動力を負荷体32に伝達する動力伝達系33とを備えている。動力伝達系33は、モータ23によって回転駆動される駆動プーリ34と、負荷体32の回動軸回りに負荷体32に一体に形成された従動プーリ35と、駆動プーリ34及び従動プーリ35に巻き掛けられたワイヤ36とを含んでいる。ワイヤ36にはアイドラプーリ37及びテンショナ38が適所に設けられている。
【0035】
ワイヤ36は無端環状をなしており、駆動プーリ34の両回転方向のトルク、すなわち負荷体32を屈曲させる方向の屈曲トルクTb及び伸展させる方向の伸展トルクTeを従動プーリ35に伝達する。すなわち、ワイヤ36は負荷体32を両方向に駆動し得るように配置されており、屈曲トルクTb及び伸展トルクTeを伝達可能に駆動プーリ34と従動プーリ35とを連結している。
【0036】
本実施形態では、ワイヤ36の屈曲側張力Fbを伝達する部分と伸展側張力Feを伝達する部分とに2つのテンショナ38が設けられている。ワイヤ36上の従動プーリ35と2つのテンショナ38との間のそれぞれには、ワイヤ36の張力Fを取得するための張力センサ39(39A、39B)が設けられている。張力センサ39の一方は、ワイヤ36の屈曲側張力Fbを検出する第1張力センサ39Aであり、張力センサ39の他方は、ワイヤ36の伸展側張力Feを検出する第2張力センサ39Bである。張力センサ39(39A、39B)は前腕リンク9(図2)に設けられる。張力センサ39と従動プーリ35との間のワイヤ36の部分は手根関節12(図2)を通過する。ワイヤ36の手根関節12を通過する部分には図示しないアウタチューブが設けられる。
【0037】
モータ23の出力軸と駆動プーリ34との間には、所定の減速比RRを有する減速機40が設けられている。ここでは、駆動プーリ34の半径と従動プーリ35の半径とは互いに同一とされており、駆動プーリ34と従動プーリ35とは同速で回転する。他の実施形態では、駆動プーリ34と従動プーリ35との半径比による減速機構が追加されてもよい。動力伝達系33は全体として柔軟係数(1/Kspr)を有している。なお、柔軟係数は動力伝達系33のばね剛性Kspr(ばね定数)の逆数である。
【0038】
図4は、手部5の第2アクチュエータ30Bのモデル図である。図4に示すように、第2アクチュエータ30Bは、前腕リンク9に設けられたモータ23と、モータ23によって駆動される負荷体32と、モータ23が発生する動力を負荷体32に伝達する動力伝達系33とを備えている。動力伝達系33は、モータ23によって回転駆動される駆動プーリ34と、負荷体32の回動軸回りに負荷体32に一体に形成された従動プーリ35と、駆動プーリ34及び従動プーリ35に巻き掛けられたワイヤ36とを含んでいる。ワイヤ36は屈曲側張力Fbを伝達可能に駆動プーリ34と従動プーリ35とを連結している。
【0039】
ワイヤ36は、駆動プーリ34に固定された一端から延びて従動プーリ35に巻き掛けられ、他端において掌部14(ハンド部、図2)に固定されている。従動プーリ35に対しワイヤ36の他端側には、ワイヤ36を掌部14に向けて常時付勢する付勢部材42が設けられている。付勢部材42は例えば引っ張りコイルばねや弦巻ばねであってよい。ワイヤ36は、駆動プーリ34によって引っ張られると、屈曲側張力Fbによって負荷体32を屈曲させる向きのトルクを従動プーリ35に伝達する。ワイヤ36は、駆動プーリ34からの屈曲側張力Fbが作用する方向と相反する方向に付勢部材42によって付勢されると、付勢力によって負荷体32を伸展させる向きのトルクを従動プーリ35に伝達する。
【0040】
本実施形態では、ワイヤ36上の駆動プーリ34と従動プーリ35との間に、ワイヤ36の張力Fを取得するための張力センサ39、すなわちワイヤ36の屈曲側張力Fbを検出する第1張力センサ39Aが設けられている。第1張力センサ39Aは前腕リンク9(図2)に設けられる。第1張力センサ39Aと従動プーリ35との間のワイヤ36の部分は手根関節12(図2)を通過する。ワイヤ36の手根関節12を通過する部分には図示しないアウタチューブが設けられる。
【0041】
モータ23と駆動プーリ34との間には、所定の減速比RRを有する減速機40が設けられる。ここでは、駆動プーリ34の半径と従動プーリ35の半径とは互いに同一とされている。モータ23の出力軸は駆動プーリ34に直接結合(剛結)されている。動力伝達系33は、ワイヤ36を含むことにより、ワイヤ剛性の逆数である柔軟係数1/Ksprを有している。
【0042】
図5は手部5のアクチュエータ30のシステム構成図である。図5に示すように、ロボット1に設けられた手部5のアクチュエータシステムは、第1制御装置13と、第2制御装置25と、複数のモータ23と、複数のモータ角センサ43と、複数の張力センサ39と、複数の関節角センサ44とを備えている。第2制御装置25は通信線45を介して第1制御装置13に接続されている。複数のモータ23、モータ角センサ43及び関節角センサ44は、通信線45を介して第2制御装置25に接続されている。
【0043】
第1制御装置13は、CPU、ROM、RAM、I/O、アナログ回路等によって構成される電子制御装置である。第1制御装置13はCPUでプログラムに沿った演算処理を実行することで、各種の運動制御を実行する。第1制御装置13は1つのハードウェアとして構成されていてもよく、複数のハードウェアからなるユニットとして構成されていてもよい。第1制御装置13をロボット1の制御装置として機能させるための「運動制御プログラム」は、ROM等の記憶装置に予め格納されていてよい。或いは、このプログラムは、任意のタイミングでサーバからネットワークや放送を介して配信され、第1制御装置13の記憶装置に格納されてもよく、サーバに保存された状態でネットワークや放送を介して第1制御装置13に利用されてもよい。第1制御装置13は、運動制御プログラムに沿った演算処理を実行することで、各アクチュエータ30の負荷体32の運動目標値を設定し、運動目標値に基づいて負荷体32の目標トルクTtを設定する。
【0044】
第2制御装置25は、プログラマブルロジックデバイス、モータドライバ、I/O、アナログ回路等によって構成される電子制御装置である。プログラマブルロジックデバイスは、プログラムに沿った演算処理を実行することでアクチュエータ30の動作制御を実行するものであり、例えばFPGA(field-programmable gate array)であってよい。第2制御装置25をアクチュエータ30の制御装置として機能させるための「動作制御プログラム」は、プログラマブルロジックデバイスに予め格納されている。第2制御装置25は、第1制御装置13から受け取る負荷体32の目標トルクTtの指令に従って、モータ23の出力を制御することによってアクチュエータ30を動作させる。すなわち、第2制御装置25は、第1制御装置13と協働して、負荷体32の与えられた目標位置を実現するようにモータ23の出力を制御する。
【0045】
モータ角センサ43は、対応するモータ23の出力軸の角度であるモータ角度θ(位置)及びモータ角速度ω(速度)を取得するためにモータ角度θを検出する角度センサである。すなわち、モータ角センサ43は、駆動源の位置及び速度を取得するための駆動源の位置を検出する駆動位置センサである。モータ角センサ43は、例えばエンコーダであってよく、モータ角度θに応じた信号を出力する。
【0046】
張力センサ39は、ワイヤ36の屈曲側張力Fbを検出する第1張力センサ39A(図6参照)又は、ワイヤ36の伸展側張力Feを検出する第2張力センサ39B(図6参照)として構成される。張力センサ39は、ワイヤ36の張力Fに応じた信号を出力する。
【0047】
関節角センサ44は、モータ23により駆動される負荷体32の支持部材に対する角度位置、すなわち関節の関節角度θ(位置)及び関節角速度ω(速度)を取得するために、関節角度θを検出する角度センサである。すなわち、関節角センサ44は、負荷体32の位置及び速度を取得するために負荷体32の位置を検出する負荷位置センサである。関節角センサ44は、例えばエンコーダであってよく、関節角度θに応じた信号を出力する。
【0048】
上記のように第1制御装置13はロボット1の基体2に配置され、第2制御装置25及び複数のモータ23はロボット1の前腕リンク9に配置されている。そのため、第1制御装置13と第2制御装置25との間には肩関節10及び肘関節11が介在する。
【0049】
図6は、手部5のアクチュエータ30の概略的な機能ブロック図である。図6に示すように、第1制御装置13は、関節目標値設定部51と、目標張力設定部52とを有している。関節目標値設定部51は、上記運動制御プログラムに沿った演算処理を実行することで、負荷体32の運動目標値を設定する。負荷体32の運動目標値には、目標関節角度θt及び目標関節角速度ωtが含まれる。負荷体32の運動目標値に関節トルク指令が含まれてもよい。
【0050】
目標張力設定部52には、目標関節角度θt及び目標関節角速度ωtと、張力センサ39から取得された関節角度θ及び関節角速度ωとが入力される。目標張力設定部52は、入力されるこれらの値の偏差に基づいて、負荷体32の目標出力としての目標トルクTtを設定するインピーダンス制御を行う。このようにして目標張力設定部52は、少なくとも目標関節角度θt(目標位置)と関節角度θ(負荷体32の位置)とに基づいて負荷体32に作用させるべき目標出力を設定する。
【0051】
第2制御装置25は、張力制御部53と、モータ制御部54と、電流制御部55と、センサデータ取得部56とを有している。センサデータ取得部56は微分器57を備えている。センサデータ取得部56は、張力センサ39(39A、39B)、モータ角センサ43及び関節角センサ44から出力される信号を取得して必要な処理を行ったうえで、これらの信号を必要とする各機能部へ分配する。微分器57は、モータ角センサ43から取得したモータ角度θに応じた信号を微分することによってモータ角速度ωを算出し、関節角センサ44から取得した関節角度θに応じた信号を微分することによって関節角速度ωを算出する。
【0052】
センサデータ取得部56は、モータ角速度ω をモータ制御部54に送信し、ワイヤ36の張力F(Fb、Fe)及び関節角速度ωを張力制御部53に送信し、関節角度θ及び関節角速度ωを第1制御装置13の目標張力設定部52に送信する。なお、第1アクチュエータ30Aでは、屈曲側張力Fb及び伸展側張力Feの両方が張力制御部53に送信され、第2アクチュエータ30Bでは、屈曲側張力Fbのみが張力制御部53に送信される。
【0053】
張力制御部53は、目標張力設定部52にて設定された目標トルクTt、センサデータ取得部56から送信される張力F(Fb、Fe)及び関節角速度ωに基づいて、目標モータ角速度ωtを設定する。
【0054】
モータ制御部54は、張力制御部53にて設定された目標モータ角速度ωt、及び、センサデータ取得部56から送信されるモータ角速度ωに基づいて、モータ23に供給すべき目標電流Itを設定する。電流制御部55は、モータ制御部54にて設定された目標電流Itがモータ23に供給されるようにバッテリからモータ23へ流れる電流Iを制御する。このようにして第2制御装置25は、駆動源の出力であるモータ角速度ωを制御する。以下、第1制御装置13と第2制御装置25とを合わせてコントローラと言う。
【0055】
図7は、第1アクチュエータ30Aに係るコントローラの要部の機能ブロック図であり、図8は、第2アクチュエータ30Bに係るコントローラの要部の機能ブロック図である。まず、図7を参照して、第1アクチュエータ30Aのコントローラの機能について説明する。
【0056】
第1制御装置13の目標張力設定部52は、第1減算器61、第2減算器62、積分器63及び加算器64を備えている。第1減算器61は、関節目標値設定部51により設定された目標関節角度θtから、関節角センサ44により検出された実測時の関節角度θを減じることで、関節角度差Δθを算出する。第2減算器62は、関節目標値設定部51により設定された目標関節角速度ωtから、関節角センサ44により検出された実測時の関節角速度ωを減じることで、角速度差Δωを算出する。積分器63は関節角度差Δθを積分する。目標張力設定部52は、関節角度差Δθに比例ゲインKpを乗じて負荷体32のトルク値に換算し、角速度差Δω に微分ゲインKdを乗じて負荷体32のトルク値に換算し、関節角度差Δθの積分値に積分ゲインKiを乗じて負荷体32のトルク値に換算する。加算器64は、これら3つの値を加算することで、負荷体32に作用させるべきトルク目標値Ttを算出する。
【0057】
また目標張力設定部52は、駆動側トルク変換部65及び制限部66を備えている。駆動側トルク変換部65は、負荷体32に作用させるべきトルク目標値Ttを、駆動側のトルクに変換する。本実施形態では、負荷体32とワイヤ36との間に減速機構はなく、負荷体32のトルクと動力伝達系33のワイヤ36部分のトルクとが一致する。そのため、駆動側トルク変換部65はトルク目標値Ttを目標トルクTtとして制限部66に向けてそのまま出力する。制限部66は、-C1<Tt<C1となるように、目標トルクTtを制限する。ここで、C1は正の値であり、この動力伝達系33においてワイヤ36が破断しないトルクの上限値である。制限部66は、制限処理を実行した後、目標トルクTtを張力制御部53に向けて出力する。
【0058】
目標張力設定部52は、これらの比例ゲインKp、微分ゲインKd及び積分ゲインKiを変更して第1アクチュエータ30Aの機械的なインピーダンス(ばね剛性Kspr)を調整することにより、第1アクチュエータ30Aの特性を変更することができる。具体的には、動力伝達系33にワイヤ36が含まれていても、これらのゲインを大きくすることにより、負荷体32の位置応答性を高めることができる。また、これらのゲインを小さくすることにより、手部5の負荷体32の柔軟性を高め、例えば衝撃吸収性能を高めることができる。
【0059】
第2制御装置25の張力制御部53は、減算器71、駆動側トルク変換部72、減算器73及び加算器74を備えている。減算器71は、第1張力センサ39Aから取得された屈曲側張力Fbから、第2張力センサ39Bから取得された伸展側張力Feを減算し、従動プーリ35にトルクとして作用するワイヤ36の実トルク張力Faを算出する。駆動側トルク変換部72は、減算器71により算出された実トルク張力Faに駆動プーリ34の半径を乗じることで動力伝達系33のワイヤ36部分の実トルクTaを算出する。減算器73は、目標張力設定部52により設定された目標トルクTtから実トルクTaを減じることで、負荷体32に付加すべきトルク偏差Terrを算出する。
【0060】
張力制御部53は、トルク偏差Terrに力制御ゲインKtpを乗じることにより、駆動源の付加速度指令(目標付加速度)である目標付加角速度ωaddを算出する。目標付加角速度ωaddは加算器74に入力される。ここで、力制御ゲインKtpは、動力伝達系33の柔軟係数(1/Kspr)に、位置指令である角度を速度指令である角速度に変換するための速度ゲインである比例ゲインKpを乗じて得られる。以下に、力制御ゲインKtpについて詳細に説明する。
【0061】
図9は(A)従来技術、(B)本発明のそれぞれの制御の説明図である。特許文献1に示される従来のパッシブコンプライアンス制御では、動力伝達系33に介在する柔軟要素が線形な柔軟特性を有している。そのため、図9(A)に示すように、トルク指令である目標トルクTtに柔軟要素の柔軟係数(1/Kspr)を乗じることで位置指令である角度指令値θtが算出されていた。また、角度指令値θtから、駆動側と負荷側との間の角度(角度差「θ-θ」)が減じられることで角度差Δθが算出されていた。そしてこの角度差Δθに、角度指令を角速度指令に変換するための比例ゲインKpが乗じられることで角速度指令が算出されていた。
【0062】
これに対し本実施形態では、動力伝達系33がワイヤ36を含むために、動力伝達系33の特性が非線形になる。そのため張力制御部53では、駆動側と負荷側との間の角度(角度差「θ-θ」)に動力伝達系33のばね剛性Ksprを乗じることで得られる、駆動側と負荷側との間の実トルクTaが、張力センサ39の検出値から取得される。また、トルク指令である目標トルクTtから実トルクTaが減じられることでトルク偏差Terrが算出される。そして、トルク偏差Terrに動力伝達系33の柔軟係数(1/Kspr)が乗じられることで従来の角度差Δθに相当する値が算出され、この値に比例ゲインKpが乗じられることで角速度指令が算出される。このように張力制御部53は、等価交換によって位置ではなく力(実トルクTa)を用いて同様の処理を行うことにより、ヒステリシスを有する動力伝達系33のばね特性をモデル化しなくても、速度指令(目標角速度ωt)を算出できる。
【0063】
図7に戻って説明を続ける。張力制御部53は駆動側速度変換部75を更に備える。駆動側速度変換部75は、関節角センサ44により取得された関節角速度ωを駆動側の角速度に変換する。具体的には、駆動側速度変換部75は、関節角速度ωに減速機40の減速比RRを乗じることで、関節角速度ωに対応する従動モータ角速度ωfを算出する。ここで、従動モータ角速度ωfは、モータ23の駆動に従動して回動した負荷体32の関節角速度ωをモータ角速度ωに換算して得た従動駆動源速度に相当する角速度である。
【0064】
張力制御部53は、従動モータ角速度ωfに制御ゲインKvffを乗じて従動モータ角速度ωfを適正化する。制御ゲインKvffは通常は1に設定されており、本実施形態でも1である。従動モータ角速度ωfは加算器74にフィードフォワード項として入力される。加算器74は、目標付加角速度ωaddに従動モータ角速度ωfを加算することで、駆動源の目標速度に相当する目標モータ角速度ωtを算出する。目標モータ角速度ωtはモータ制御部54に供給され、上記のようにモータ制御部54はモータ角速度ωに基づき目標電流Itを設定する角速度制御を実行する。
【0065】
このように第2制御装置25及びこれによる制御方法は、ワイヤ36の実トルク張力Faに対応する実トルクTaと目標トルクTtとの偏差であるトルク偏差Terrに、力制御ゲインKtpを乗じて、駆動源の目標角速度ωtである目標付加角速度ωaddを設定する。そして、第2制御装置25が目標付加角速度ωaddに基づいて駆動源の出力であるモータ角速度ωを制御することで、負荷体32にコンプライアンスを与えるパッシブコンプライアンス制御を従来と同様に実現することができる。
【0066】
ここで、上記のように力制御ゲインKtpは、動力伝達系33の柔軟係数(1/Kspr)と速度ゲインとしての比例ゲインKpとの乗算値である。つまり、力制御ゲインKtpが柔軟係数(1/Kspr)を含むことで、トルク偏差Terrに柔軟係数(1/Kspr)を乗じた値が、ワイヤ36の実変位とワイヤ36の目標変位との変位差に対応する、駆動側と負荷側との間の角度(図9の角度差Δθ)として算出される。そしてこのワイヤ36の変位差(図9の角度差Δθ)に比例ゲインKpが乗じられることで、駆動源の目標付加角速度ωaddが算出される。
【0067】
また第2制御装置25は、関節角センサ44から取得される負荷体32の関節角速度ωを換算して得た従動モータ角速度ωfと目標付加角速度ωaddとに基づいて目標モータ角速度ωtを設定する。そして第2制御装置25は、目標モータ角速度ωtを実現するようにモータ角速度ωを制御する。そのため、第2制御装置25は、目標トルクTtとワイヤ36の実トルク張力Faに対応する実トルクTaとに基づいて、目標モータ角速度ωtを制御媒体としてモータ角速度ωを制御することができる。
【0068】
図3に示すように第1アクチュエータ30Aでは、ワイヤ36が負荷体32を両方向に駆動し得るように配置され、負荷体32に作用するワイヤ36の張力Fを両方向について取得するべく、張力センサ39(39A、39B)が負荷体32の両側に設けられる。この構成により、ワイヤ36の張力Fを両方向について取得できるため、第2制御装置25が両方向について目標トルクTtを負荷体32に作用させるようにモータ角速度ωを制御することができる。
【0069】
次に、図8を参照して、第2アクチュエータ30Bのコントローラの機能及び効果について説明する。第2アクチュエータ30Bについては、第1アクチュエータ30Aと相違する点のみを説明する。
【0070】
第2アクチュエータ30Bでは、第1制御装置13の目標張力設定部52が付勢力補償部67を更に備えている。一方、第2制御装置25の張力制御部53は減算器71を備えていない。駆動側トルク変換部72には、第1張力センサ39Aから取得された屈曲側張力Fbが入力される。駆動側トルク変換部72は、入力された屈曲側張力Fbをワイヤ36の実トルク張力Faとし、実トルク張力Faに駆動プーリ34の半径を乗じることで動力伝達系33のワイヤ36部分の実トルクTaを算出する。ただし、この実トルク張力Faには、図4の付勢部材42による付勢力に対抗する力が含まれている。
【0071】
そこで、第1制御装置13の目標張力設定部52では、付勢力補償部67が、付勢部材42の伸び変位に相当する関節角度θに、付勢部材42のばね定数に相当する補償係数を乗じることで、付勢部材42の付勢力への対抗力に相当する対抗トルクTcを算出する。目標張力設定部52は、対抗トルクTcにトルクフィードフォワードゲインKtffを乗じて負荷体32のトルク値に換算する。この値は加算器64に入力され、他の3つの値に加算される。これにより付勢部材42の付勢力が相殺される。
【0072】
第2アクチュエータ30Bの制限部66は、目標トルクTtを、-C2<Tt<C1となるように制限する。ここで、C2はC1よりも小さな正の値であり、ワイヤ36が緩まない下限値である。その他は、図7に示す第1アクチュエータ30Aのコントローラと同様であり、第2アクチュエータ30Bのコントローラにおいても、第1アクチュエータ30Aのコントローラと同様の作用効果が得られる。
【0073】
また図4に示すように第2アクチュエータ30Bでは、動力伝達系33が、ワイヤ36の張力Fが作用する方向と相反する方向にワイヤ36を常時付勢する線形特性を有する付勢部材42を含む。そして、図8に示すように第1制御装置13は、付勢部材42による付勢力に相当する対抗トルクTcを加算して、目標トルクTtを設定する。
【0074】
特許文献1に示される従来のパッシブコンプライアンス制御は、動力伝達系33が金属ばねのような柔軟要素を介して連続し、正負両方向に対して力を伝達できることを前提としていた。そのため、ワイヤ36が張力Fを一方のみに伝達するように配置され、他方への力が付勢部材42によって与えられる場合には、従来の制御を利用することができなかった。
【0075】
本実施形態では、ワイヤ36が張力Fを一方のみに伝達するように配置され、他方への力が線形特性を有する付勢部材42によって与えられても、コントローラが、目標トルクTtを負荷体32に作用させるようにモータ角速度ωを制御することができる。また、負荷体32を両方向に駆動し得るようにワイヤ36を配置する必要がないため、アクチュエータ30の大型化が抑制される。
【0076】
図10は実施形態に係る制御による応答性の効果を示すボード線図である。グラフ中の一点鎖線は、第1制御装置13の目標張力設定部52が、関節角度差Δθの積分値に積分ゲインKiを乗じて換算した負荷体32のトルク値を加算器64に加算しない場合、すなわちPD制御を行った場合の周波数特性を示す。実線は、実施形態に係る制御の周波数特性を示す。目標張力設定部52が関節角度θを用いたPD制御を行った場合には、一点鎖線で示すように、0.5~1Hzの周波数領域において共振点が発生し、ゲインが高くなる一方で位相遅れが生じ、応答性が低下する。これに対し、本実施形態では、この周波数領域における共振が抑えられ、応答性が向上する。
【0077】
図11は第2アクチュエータ30Bの応答を示すタイムチャートである。縦軸は関節角度θを示している。チャート中の破線は関節角度θの指令値(目標関節角度θt)を示し、実線は本発明の実測値(関節角度θ)を示し、一点鎖線は比較例の実測値を示している。比較例は、目標張力設定部52(図8)が、二次側の関節角速度ωを駆動側速度変換部75にて一次側(駆動側)の従動モータ角速度ωfに換算し、この値に制御ゲインKvffを乗じた値をフィードフォワード項として加算器74にて加算しない場合を示す。
【0078】
図11に示すように、比較例では、関節角度θの指令値が小さく変化したとき(伸展側への回動指令のとき)、0°に向けた関節角度θの戻りが遅い。これに対し本発明では、目標張力設定部52が関節角速度ωに基づく従動モータ角速度ωfに関するフィードフォワード項を加算して目標モータ角速度ωtを演算することにより、関節角度θが屈曲側への指令のときと同様に指令値に追従して変化しており、0°に向けた関節角度θの戻りが早い。つまり、ワイヤ36が張力Fを一方のみに伝達するように配置され、他方への力が付勢部材42によって与えられても、第2制御装置25が関節角センサ44から取得される負荷体32の関節角速度ωを換算して得た従動モータ角速度ωfと目標付加角速度ωaddとに基づいて目標モータ角速度ωtを設定することにより、負荷体32の応答性が向上する。
【0079】
図12は実施形態に係る制御システムによる応答を示すタイムチャートである。縦軸は関節角度θを示している。チャート中の破線は関節角度θの指令値(目標関節角度θt)を示し、実線は本発明の実測値(関節角度θ)を示し、一点鎖線は比較例の実測値を示している。
【0080】
比較例は、従来システムの構成によるものである。ここで、本発明との相違を明確にするために従来システムの構成について説明する。従来システムでは、第2制御装置25はモータ23の出力を制御するモータドライバとしての機能のみを有していた。つまり、モータ23の出力であるモータ角速度ωを制御する張力制御部53は第1制御装置13に設けられ、第1制御装置13が負荷体32の関節角度θを関節角センサ44から得て、関節角度θから関節角速度ωを算出して張力制御部53に提供していた。
【0081】
これに対し本発明では、図6に示すように、モータ角速度ωを制御するモータドライバをなす第2制御装置25に、張力制御部53が一体に設けられている。第2制御装置25は、第1制御装置13を経由することなく、負荷体32の位置を表す関節角度θを関節角センサ44から直接得て、関節角度θに基づいて負荷体32の関節角速度ωを算出する。そして、第2制御装置25がワイヤ36の張力Fに対応する実トルクTaと負荷体32の関節角速度ωとに基づいてモータ23の出力である関節角速度ωを制御する。これにより、第2制御装置25が負荷体32の関節角速度ωを短時間で算出してモータ角速度ωを目標モータ角速度ωtに近付けることができ、負荷体32の動作が滑らかになる。
【0082】
また図7及び図8に示すように、第2制御装置25では、張力制御部53が、目標トルクTtとワイヤ36の実トルク張力Faに相当する動力伝達系33のワイヤ36部分の実トルクTaとに基づいて、モータ23の目標付加角速度ωaddを設定する。張力制御部53は、目標付加角速度ωaddと、負荷体32の関節角速度ωを換算して得た従動モータ角速度ωfとに基づいて、目標モータ角速度ωtを設定する。そしてモータ制御部54が、目標モータ角速度ωtに基づいてモータ23を駆動する。このように第2制御装置25は、第1制御装置13によって設定された目標トルクTtと実トルクTaとに基づいて、目標モータ角速度ωtを制御媒体としてモータ23の出力を制御する。これにより、動力伝達系33が柔軟要素であるワイヤ36を含んでいても、負荷体32にコンプライアンスを与える従来のようなパッシブコンプライアンス制御をコントローラが実現できる。
【0083】
また図2に示すアーム31において、負荷体32を支持するハンド部をなす掌部14は、アーム基部をなす前腕リンク9に手根関節12を介して連結される。そのため、図3及び図4に示すワイヤ36は、手根関節12を通過するように設けられる。一方、上記のように第2制御装置25及び張力センサ39(39A、39B)は共に前腕リンク9に設けられていることから、第2制御装置25による張力制御処理の時間が短縮される。これにより、負荷体32の動きが滑らかになる。また、装置やセンサの実装による掌部14の大型化が回避される。
【0084】
言い換えれば、張力センサ39(39A、39B)が手根関節12に対してモータ23の側に配置される。これにより、手根関節12に対して負荷体32の側に張力センサ39(39A、39B)を設ける必要がないため、アクチュエータ30の負荷体32側の部分の大型化を抑制することができる。
【0085】
また図1に示すように、ロボット1はアーム31を支持する基体2を備え、第1制御装置13が基体2に設けられ、第2制御装置25がアーム31に設けられている。これにより、第1制御装置13の実装によるアーム31の大型化が回避される。
【0086】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、一例としてロボット1の手部5のアクチュエータ30に適用して本発明の説明を行ったが、本発明は手部5以外の部分や、ヒューマノイドロボット以外のロボット1にも広く適用することができる。
【0087】
上記実施形態では、第1アクチュエータ30Aが図3に示すように2つの張力センサ39を備えている。他の実施形態では第1アクチュエータ30Aが、図13に示すように構成されてもよい。この第1アクチュエータ30Aでは、モータ23と駆動プーリ34との間にばね要素81が設けられている。ばね要素81は例えば捩じりコイルばねであってよい。図3のように2つの張力センサ39がワイヤ36上に設けられる代わりに、この実施形態では、ばね要素81の変位を計測する変位センサ82が設けられている。変位センサ82はばね要素81の変位を計測することで、モータ23の負荷体32に対する駆動力を両方向について取得することができる。
【0088】
この実施形態では、動力伝達系33が、モータ23とワイヤ36との間に介在する線形特性を有するばね要素81を含み、ワイヤ36の屈曲側張力Fbと伸展側張力Feとの張力差によって駆動プーリ34に発生するトルクを取得するためのセンサとして、ばね要素81の変位を計測する変位センサ82が設けられる。そして、第2制御装置25は、変位センサ82が計測した変位にばね要素81のばね定数を乗じることによってワイヤ36の屈曲側張力Fbと伸展側張力Feとの張力差によって駆動プーリ34に発生するトルク(=(Fb-Fe)×r、ただし、r:駆動プーリ34の半径)を取得する。この構成により、ワイヤ36だけでなく、ばね要素81によっても負荷体32の動きに所望のコンプライアンスを与えることができる。また、ばね要素81の変位からワイヤ36の屈曲側張力Fbと伸展側張力Feとの張力差によって駆動プーリ34に発生するトルクを計測することができるため、変位センサ82が1つで済み、ワイヤ36上に設けられる張力センサ39のように2つのセンサを設ける必要がないため、ワイヤ36周り及びセンサ周りの構成の小型化が可能である。
【0089】
また、他の実施形態では第2アクチュエータ30Bが、図14に示すように構成されてもよい。この第2アクチュエータ30Bでは、動力伝達系33のワイヤ36上の適所にアイドラプーリ37及びテンショナ38が設けられている。図示例では、ワイヤ36の屈曲側張力Fbを伝達する部分に、1つアイドラプーリ37及び1つのテンショナ38が設けられている。このようにアイドラプーリ37やテンショナ38が動力伝達系33に追加されてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、第1制御装置13がロボット1の基体2に配置されているが、第1制御装置13がロボット1の前腕リンク9に配置されてもよく、各装置の配置はこれに限られない。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度、手順など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0091】
12 :手根関節
13 :第1制御装置
23 :モータ(駆動源)
25 :第2制御装置
30 :アクチュエータ
30A :第1アクチュエータ
30B :第2アクチュエータ
32 :負荷体
33 :動力伝達系
36 :ワイヤ
39 :張力センサ
39A :第1張力センサ(屈曲側)
39B :第2張力センサ(伸展側)
42 :付勢部材
44 :関節角センサ(負荷位置センサ)
81 :ばね要素
82 :変位センサ(張力センサ)
F :張力
Fa :実トルク張力
Fb :屈曲側張力
Fe :伸展側張力
Kp :比例ゲイン(速度ゲイン)
Kspr :ばね剛性
1/Kspr :柔軟係数
Ta :実トルク
Tc :対抗トルク(付勢力に対向する力)
Tt :目標トルク
Δθ :角度差(変位差)
θ :関節角度(位置)
θt :目標関節角度(目標位置)
θ :モータ角度(位置)
ω :関節角速度(速度)
ω :モータ角速度(速度、駆動源の出力)
ωt :目標モータ角速度(目標速度)
ωadd :目標付加角速度(目標付加速度)
ωf :従動モータ角速度(従動駆動源速度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
図12
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図14