(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】ノイズ抑制シート及びこれを備えるコイル装置
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241118BHJP
H01F 38/14 20060101ALI20241118BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20241118BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20241118BHJP
H02J 50/70 20160101ALI20241118BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01F38/14
H01F17/04 A
H02J50/12
H02J50/70
(21)【出願番号】P 2021052657
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】得居 通久
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 陽介
(72)【発明者】
【氏名】千代 憲隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓也
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/066081(WO,A1)
【文献】特開2014-138551(JP,A)
【文献】特開平06-314862(JP,A)
【文献】特開2001-156408(JP,A)
【文献】特開2007-288079(JP,A)
【文献】特開2005-150590(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0152245(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01F 38/14
H01F 17/04
H02J 50/12
H02J 50/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材と、
前記絶縁性基材の表面に設けられた導体パターンと、を備え、
前記導体パターンは、第1の方向に延在する第1
、第2及び第3の線状パターンを含み、
前記第1の線状パターンは、第1の部分を介して電気的にグランドに接続され、前記第1の部分とは前記第1の方向における位置が異なる第2の部分において前記第2の線状パターンに接続され、
前記第2の線状パターンは、前記第2の部分とは前記第1の方向における位置が異なる第3の部分において前記第3の線状パターンに接続され、
前記第1の線状パターンの導体厚は、前記第3の線状パターンの導体厚よりも厚く、
前記第1及び第2の線状パターンは、前記絶縁性基材に近いほどパターン幅が広くなる断面形状を有している、ノイズ抑制シート。
【請求項2】
前記第2の線状パターンの導体厚は、前記第1の線状パターンの導体厚よりも薄く、且つ、前記第3の線状パターンの導体厚よりも厚い、請求項
1に記載のノイズ抑制シート。
【請求項3】
前記第2の線状パターンは、前記第1の方向における一端において前記第1の線状パターンに接続され、前記第1の方向における他端において前記第3の線状パターンに接続され、
前記第2の線状パターンと前記第1及び第3の線状パターンを接続する接続パターンは、ラウンド形状を有している、請求項
1又は2に記載のノイズ抑制シート。
【請求項4】
絶縁性基材と、
前記絶縁性基材の表面に設けられた導体パターンと、を備え、
前記導体パターンは、第1の方向に延在する第1及び第2の線状パターンを含み、
前記第1の線状パターンは、第1の部分を介して電気的にグランドに接続され、前記第1の部分とは前記第1の方向における位置が異なる第2の部分において前記第2の線状パターンに接続され、
前記第1及び第2の線状パターンは、前記絶縁性基材に近いほどパターン幅が広くなる断面形状を有しており、
前記導体パターンは、前記第1及び第2の線状パターンを含む第1のグループと、前記第1のグループに対して前記第1の方向と直交する第2の方向に配置され、前記第1の方向と平行な線を対称軸として前記第1グループと線対称な形状を有する第2のグループとを含む、
ノイズ抑制シート。
【請求項5】
前記導体パターンは、前記第1及び第2のグループによって前記第2の方向から挟まれるように配置され、前記第1のグループの一部と同じパターン形状を有する第3及び第4のグループをさらに含む、請求項
4に記載のノイズ抑制シート。
【請求項6】
絶縁性基材と、
前記絶縁性基材の表面に設けられた導体パターンと、を備え、
前記導体パターンは、第1の方向に延在する第1、第2、第3及び第4の線状パターンを含み、
前記第1の線状パターンは、第1の部分を介して電気的にグランドに接続され、前記第1の部分とは前記第1の方向における位置が異なる第2の部分において前記第2の線状パターンに接続され、
前記第3の線状パターンは、第3の部分を介して電気的にグランドに接続され、前記第3の部分とは前記第1の方向における位置が異なる第4の部分において前記第4の線状パターンに接続され、
前記第2及び第4の部分は、前記第1及び第3の線状パターンの前記第1の方向における略中央部に位置
し、
前記第1及び第2の線状パターンは、前記絶縁性基材に近いほどパターン幅が広くなる断面形状を有している、ノイズ抑制シート。
【請求項7】
前記第1の方向と直交する第2の方向に延在し、電気的にグランドに接続される連結パターンをさらに備え、
前記第1の線状パターンは、前記第1の部分において前記連結パターンに接続されるとともに、前記第2の方向における端部に配置され、
前記連結パターンと前記第1の線状パターンを接続する接続パターンは、ラウンド形状を有している、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載のノイズ抑制シート。
【請求項8】
前記第1及び第2の線状パターンの厚みは、前記絶縁性基材の厚みより大きい、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載のノイズ抑制シート。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか一項に記載のノイズ抑制シートと、
磁性体シートと、
前記ノイズ抑制シートと前記磁性体シートの間に配置されたコイルパターンと、を備えるコイル装置。
【請求項10】
前記第1及び第2の線状パターンのパターン幅は、前記コイルパターンに流れる電流によって生じ、前記第1及び第2の線状パターンに入射する電磁界の表皮深さよりも小さい、請求項
9に記載のコイル装置。
【請求項11】
前記第1及び第2の線状パターンの導体厚は、前記コイルパターンに流れる電流によって生じ、前記第1及び第2の線状パターンに入射する電磁界の表皮深さよりも小さい、請求項
9又は10に記載のコイル装置。
【請求項12】
前記コイルパターンと前記導体パターンの離間距離は、前記コイルパターンに流れる電流によって生じ、前記第1及び第2の線状パターンに入射する電磁界の表皮深さよりも小さい、請求項
9乃至11のいずれか一項に記載のコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はノイズ抑制シート及びこれを備えるコイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源ケーブルを用いることなく、送電コイルから受電コイルにワイヤレスにて電力を伝送するワイヤレス電力伝送システムが注目されている(特許文献1参照)。ワイヤレス電力伝送システムは、送電コイルを有するワイヤレス送電装置と、受電コイルを有するワイヤレス受電装置とを含んで構成され、送電コイルから生じる磁束が受電コイルと鎖交することによって、ワイヤレス電力伝送が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、送電コイルから生じる磁束の一部は受電コイルと鎖交することなく、輻射ノイズとして周囲に放射される。このような輻射ノイズは、周囲の電子機器を誤動作させる原因となることから、できる限り抑制することが望ましい。
【0005】
したがって、本開示は、不要な輻射ノイズの放射を抑えることが可能なノイズ抑制シート及びこれを備えるコイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施態様によるノイズ抑制シートは、絶縁性基材と、絶縁性基材の表面に設けられた導体パターンとを備え、導体パターンは、第1の方向に延在する第1及び第2の線状パターンを含み、第1の線状パターンは、第1の部分を介して電気的にグランドに接続され、第1の部分とは第1の方向における位置が異なる第2の部分において第2の線状パターンに接続され、第1及び第2の線状パターンは、絶縁性基材に近いほどパターン幅が広くなる断面形状を有している。
【発明の効果】
【0007】
このように、本開示によれば、不要な輻射ノイズの放射を抑えることが可能なノイズ抑制シート及びこれを備えるコイル装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の第1の実施形態によるノイズ抑制シート1Aの構造を説明するための模式的な平面図である。
【
図4】
図4は、ノイズ抑制シート1Aを用いたワイヤレス電力伝送システム100の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、ノイズ抑制シート1Aと送電コイル2の位置関係を説明するための模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、第1の変形例によるノイズ抑制シート1Aaの構造を説明するための模式的な平面図である。
【
図7】
図7は、第2の変形例によるノイズ抑制シート1Abの構造を説明するための略斜視図である。
【
図8】
図8は、本開示の第2の実施形態によるノイズ抑制シート1Bの構造を説明するための模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0010】
<第1の実施形態>
図1は、本開示の第1の実施形態によるノイズ抑制シート1Aの構造を説明するための模式的な平面図である。また、
図2は
図1に示す領域Aの拡大図であり、
図3は
図2に示すB-B線に沿った略断面図である。
【0011】
図1~
図3に示すように、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1Aは、絶縁性基材10と、絶縁性基材10の表面11に設けられた導体パターン20によって構成されている。絶縁性基材10の材料については特に限定されないが、PCBに用いるリジッドな材料よりもPETフィルムなど可撓性を有する材料を用いることが好ましい。絶縁性基材10の厚みTについては、機械的強度が確保される限りにおいてできるだけ薄いことが好ましい。一例として、絶縁性基材10の材料としてPETフィルムを用いた場合、その厚みTを20μm程度とすることができる。絶縁性基材10の裏面12には導体パターン20は設けられていない。
【0012】
導体パターン20は、銅(Cu)などの良導体からなり、y方向に延在する複数の線状パターンを含む第1~第4のグループ21~24と、x方向に延在する連結パターン25と、ターミナル接続部26と、連結パターン25とターミナル接続部26を接続する複数の接続パターン27とを含んでいる。これら導体パターン20には、ターミナル接続部26を介してグランド電位が与えられる。
【0013】
第1~第4のグループ21~24はx方向に配列され、いずれもy方向に延在する複数の線状パターンがミアンダ状に接続された構造を有している。y方向は第1の方向の一例であり、x方向は第2の方向の一例である。
【0014】
第1のグループ21は、n本の線状パターン211~21nを有しており、第1の線状パターン211のy方向における一端(-y方向における端部であり、第1の部分)が連結パターン25に接続され、第1の線状パターン211のy方向における他端(+y方向における端部であり、第2の部分)が第2の線状パターン212のy方向における一端(+y方向における端部)に接続され、第2の線状パターン212のy方向における他端(-y方向における端部であり、第3の部分)が第3の線状パターン213のy方向における一端(-y方向における端部)に接続される。このようにして、i番目(iは奇数)に位置する線状パターン21iの+y方向における端部と、i+1番目に位置する線状パターン21i+1の+y方向における端部が接続され、i+1番目に位置する線状パターン21i+1の-y方向における端部と、i+2番目に位置する線状パターン21i+2の-y方向における端部が接続される。これにより、n本の線状パターン211~21nがミアンダ状に接続される。n番目の線状パターン21nの端部は開放されている。つまり、第1のグループ21は、一端が連結パターン25に接続され、他端が開放されたミアンダパターンを構成している。また、第1のグループ21は、第1の線状パターン211のy方向における一端(-y方向における端部であり、第1の部分)を介して電気的にグランドに接続される。
【0015】
n本の線状パターン211~21nのうち、x方向における端部に配置された線状パターン211は、曲線的なラウンド形状を有する接続パターン28を介して接続される。x方向に隣接する線状パターン211~21n同士についても、ラウンド形状を有する接続パターン29を介して接続される。接続パターン28は、連結パターン25から線状パターン211に向かって、延在方向がx方向からy方向へと徐々に変化する形状を有している。接続パターン29はx方向に延在し、その両端は、延在方向がx方向からy方向へと徐々に変化する形状を有している。このように、接続パターン28,29は角部を有していないことから、接続パターン28,29に流れる電流の偏りが低減され、その結果、ノイズ抑制シート1Aによる損失が低減される。ラウンド形状を有する接続パターン28の曲率半径は比較的大きく、その結果、1本目の線状パターン211を含むいくつかの線状パターンについては、y方向における長さが短縮されている。本実施形態においては、線状パターン211~214のy方向における長さが他の線状パターン215~21nのy方向における長さよりも短い。
【0016】
第2のグループ22は、第1のグループ21と類似したパターン形状を有している。つまり、n-1本の線状パターン221~22n-1がミアンダ状に接続されており、1番目の線状パターン221の一端が連結パターン25に接続され、n-1番目の線状パターン22n-1の一端が開放されている。グループ21はx方向における一端に配置され、グループ22はx方向における他端に配置されている。
【0017】
第3及び第4のグループ23,24は、グループ21,22によってx方向から挟まれるように配置され、m本の線状パターン231~23m,241~24mがミアンダ状に接続された構成を有している。そして、1番目の線状パターン231,241の一端が連結パターン25に接続され、m番目の線状パターン23m,24mの一端が開放されている。本実施形態においてはn>mであり、これにより、グループ23,24は、いずれもグループ21,22の一部と同じパターン形状を有している。本実施形態においては、線状パターン231~23m,241~24mのy方向における長さは互いに等しい。
【0018】
このように、各グループ21~24は、複数の線状パターンがミアンダ状に接続された構成を有し、その一端が連結パターン25に接続され、他端が開放された構造を有している。このため、ノイズ抑制シート1Aに対してz方向の磁界が印加されると、一部の磁界はグループ21~24を構成する線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mに印加されて渦電流を発生させるが、各グループ21~24はループ状のパターンを構成しないため、磁界によって生じた電流が大きくループすることによる損失は発生しない。
【0019】
ここで、連結パターン25のy方向におけるパターン幅はW1であり、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mのx方向におけるパターン幅はW2である。また、連結パターン25と接続パターン29のx方向における間隔はS1であり、x方向に隣接する線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mのx方向における間隔はS2である。さらに、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mの導体厚はHである。導体厚Hは、1~35μm程度であり、連結パターン25に接続された線状パターン211,221,231,241から、端部が開放された線状パターン21n,22n,23m,24mに向かって、徐々に厚みが薄くなっても構わない。一例として、線状パターン212の導体厚は、線状パターン211の導体厚よりも薄く、且つ、線状パターン213の導体厚よりも厚くても構わない。このように、連結パターン25に接続された線状パターン211,221,231,241に近いほど導体厚Hを厚くし、端部が開放された線状パターン21n,22n,23m,24mに近いほど導体厚Hを薄くすることにより、単位断面積当たりの電流値の差が緩和され、その結果、ノイズ抑制シート1Aによる損失が低減される。
【0020】
上述の通り、絶縁性基材10の厚みTは十分に薄く、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mの導体厚Hよりも薄くすることが好ましい。また、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mのパターン幅W2は、導体厚Hより大きくても構わない。これによれば、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mが細くなりすぎず、且つ、厚くなりすぎないため、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mの作製が容易となる。
【0021】
線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mのパターン幅W2は、絶縁性基材10と接する部分の幅であり、上面のパターン幅W3は絶縁性基材10と接する部分のパターン幅W2よりも小さい。つまり、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mは、絶縁性基材10に近いほどパターン幅が広くなる断面形状を有している。このような断面形状により、絶縁性基材10に対する密着強度を十分に確保しつつ、渦電流を抑制することができる。
【0022】
本実施形態においては、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mのパターン幅W2よりも、間隔S2の方が大きくなるよう設計されている。つまり、S2>W2である。これは、間隔S2を十分に確保することにより、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mの間を磁束が通過しやすくなるためである。一例として、パターン幅W2を0.1~0.2mm程度、間隔S2を0.1~1mm程度とすることができる。
【0023】
連結パターン25のパターン幅W1は、例えば0.1~5mm程度であり、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mのパターン幅W2よりも大きいことが好ましい。これは、多数の線状パターンに接続される連結パターン25のパターン幅W1を大きくすることにより、線状パターンの電位がより安定するからである。但し、連結パターン25のパターン幅W1が広すぎると磁束が通過しにくくなるため、連結パターン25のパターン幅W1は、間隔S2よりも小さいことが好ましい。一例として、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mのパターン幅W2が0.1mm、間隔S2が0.9mmであれば、連結パターン25のパターン幅W1は0.2mm程度とすることができる。連結パターン25と接続パターン29のx方向における間隔S1については、0.3~0.5mm程度とすることができる。
【0024】
図1に示すように、ターミナル接続部26は、複数の接続パターン27を介して連結パターン25に接続される。ターミナル接続部26の接続位置は、連結パターン25の端部近傍であり、x方向にオフセットして配置されている。これにより、ターミナル接続部26と磁束の干渉を低減することができる。また、ターミナル接続部26は連結パターン25と直接接続されるのではなく、y方向に延在しx方向に配列された複数の接続パターン27を介して接続されていることから、ターミナル接続部26の近傍を磁束が通過しやすくなる。
【0025】
図4は、ノイズ抑制シート1Aを用いたワイヤレス電力伝送システム100の構成を示すブロック図である。
【0026】
図4に示すワイヤレス電力伝送システム100は、送電コイル2及び受電コイル3と、送電コイル2に交流電流を流す送電回路4と、受電コイル3に流れる交流電流を受ける受電回路5とを備えており、送電コイル2と受電コイル3の間にノイズ抑制シート1Aが配置される。送電回路4には、電源回路6を介して直流電力が供給される。受電回路5から出力される直流電力は、負荷回路7に供給される。これにより、ワイヤレス電力伝送システムが構成され、送電コイル2及び送電回路4はワイヤレス送電装置を構成し、受電コイル3及び受電回路5はワイヤレス受電装置を構成する。
【0027】
送電コイル2に交流電流が流れると、送電コイル2からは磁束φが発生する。この磁束φの大部分は受電コイル3と鎖交し、これによって受電コイル3に交流電流が流れる。しかしながら、送電コイル2から発生する磁束φの一部は、受電コイル3と鎖交することなく、輻射ノイズとして周囲に放射される。このような輻射ノイズは、周囲の電子機器を誤動作させるおそれがあることから、できる限り抑制することが望ましい。本実施形態によるノイズ抑制シート1Aは、このような輻射ノイズを低減するものであり、送電コイル2と受電コイル3の間であって、送電コイル2の近傍に配置することにより、受電コイル3と鎖交する磁束φを確保しつつ、多くの輻射ノイズを遮蔽することができる。このように本実施形態によるノイズ抑制シート1Aは、ワイヤレス電力伝送システムに用いることが可能である。
【0028】
図5は、ノイズ抑制シート1Aと送電コイル2の位置関係を説明するための模式的な断面図である。
【0029】
図5に示すように、送電コイル2は、PETフィルム等からなる絶縁性基材30と、絶縁性基材30の表面31及び裏面32にそれぞれ形成されたコイルパターン41,42を備えている。コイルパターン41,42は、直列または並列に接続されることによりコイル導体を構成する。絶縁性基材30の表面31に形成されたコイルパターン41の表面は、送電コイル2のコイル放射面2aを構成する。絶縁性基材30の裏面32に形成されたコイルパターン42の表面は、送電コイル2のコイル裏面2bを構成する。そして、コイル放射面2aと向かい合うようにノイズ抑制シート1Aが配置され、コイル裏面2bと向かい合うように磁性体シート8が配置される。コイル放射面2aとコイル裏面2bに構造上の差は無いが、ノイズ抑制シート1Aと向かい合う側がコイル放射面2a、磁性体シート8と向かい合う側がコイル裏面2bと定義される。送電コイル2、ノイズ抑制シート1A及び磁性体シート8は、コイル装置を構成する。
【0030】
送電コイル2のコイル放射面2aには、絶縁性を有するレジスト51を介して、ノイズ抑制シート1Aを構成する絶縁性基材10の裏面12が積層されている。レジスト51は、コイルパターン41の表面に導電性の異物が付着することを防止するために設けられる絶縁性部材である。これにより、コイルパターン41と導体パターン20の間には、レジスト51と絶縁性基材10が介在することになる。コイル放射面2aから導体パターン20の表面までの距離、つまり、レジスト51と絶縁性基材10の合計厚みはL1である。
【0031】
送電コイル2のコイル裏面2bは、絶縁性を有する接着シート52を介して、磁性体シート8に接着される。コイル放射面2aから磁性体シート8の表面までの距離、つまり、コイルパターン41,42、絶縁性基材30及び接着シート52の合計厚みはL2である。ここで、コイル放射面2aから導体パターン20の表面までの距離L1は、コイル放射面2aから磁性体シート8の表面までの距離L2以下であることが好ましく、距離L2の半分以下であることがより好ましい。これは、距離L1をできるだけ短くすることにより、不要な輻射ノイズをより効果的に遮蔽することができるからである。特に、距離L1は、コイルパターン41,42に流れる電流によって生じ、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mに入射する電磁界の表皮深さよりも小さいことが好ましい。これによれば、送電コイル2のQ値を十分に確保しつつ、不要な輻射ノイズをより効果的に遮蔽することが可能となる。
【0032】
また、不要な輻射ノイズをより効果的に遮蔽するためには、ノイズ抑制シート1Aに設けられる導体パターン20の外形サイズD1が送電コイル2の外形サイズD2よりも大きいことが好ましく、平面視で、送電コイル2の全体が導体パターン20の形成領域で覆われることが好ましい。このように、送電コイル2の全体を導体パターン20の形成領域で覆うことにより、不要な輻射ノイズをより効果的に遮蔽することが可能となる。
【0033】
さらに、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mのパターン幅W2及び導体厚Hは、コイルパターン41,42に流れる電流によって生じ、線状パターン211~21n,221~22n,231~23m,241~24mに入射する電磁界の表皮深さよりも小さいことが好ましい。これによれば、コイルパターン41,42から放射される搬送波の減衰が小さくなる。一例として、コイルパターン41,42に流れる搬送波の周波数が0.1MHz~0.2MHzである場合、表皮深さは147μm~207μmであることから、パターン幅W2及び導体厚Hをこれ未満とすることにより、搬送波の減衰を抑えることが可能となる。
【0034】
また、ノイズ抑制シート1Aを送電コイル2の近傍に配置するのに加え、或いは、ノイズ抑制シート1Aを送電コイル2の近傍に配置するのに代えて、ノイズ抑制シート1Aを受電コイル3の近傍に配置しても構わない。この場合、受電コイル3、ノイズ抑制シート1A及び磁性体シート8がコイル装置を構成する。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によるノイズ抑制シート1Aを送電コイル2と受電コイル3の間に配置すれば、送電コイル2のQ値を十分に確保しつつ、周囲に放射される不要な輻射ノイズを低減することが可能となる。しかも、本実施形態によるノイズ抑制シート1Aは、グループ21~24を構成する複数の線状パターンがミアンダ状に接続されていることから、特定の周波数においてノイズが増加するという現象が抑えられ、ノイズ規制規格の周波数領域の幅広い領域においてノイズ抑制効果を得ることが可能となる。さらに、接続パターン28がラウンド形状を有していることから、平面視においてコイルパターン41,42のエッジからノイズ抑制シート1Aのエッジまでの距離の周方向におけるバラつきが抑えられ、その結果、導体パターン20を流れるノイズ電流のばらつきが抑えられ、ノイズ低減効果が向上する。
【0036】
図6は、本実施形態の第1の変形例によるノイズ抑制シート1Aaの構造を説明するための模式的な平面図である。第1の変形例によるノイズ抑制シート1Aaは、グループ22を構成する線状パターンがグループ21を構成する線状パターンと対称形である点において、
図1に示したノイズ抑制シート1Aと相違している。つまり、グループ21を構成する線状パターン21
1~21
nと、グループ21を構成する線状パターン22
1~22
nは、y方向に延在する仮想線Sを対称軸として互いに線対称な形状を有している。このように、グループ21,22を対称形とすれば、線状パターンの設計が容易となる。
【0037】
図7は、本実施形態の第2の変形例によるノイズ抑制シート1Abの構造を説明するための略斜視図である。第2の変形例によるノイズ抑制シート1Abは、絶縁性基材10の表面11にミアンダ状に接続された線状パターン70
1~70
kが設けられており、その一端がターミナル接続部26に直接接続され、他端が開放された構成を有している。このように、線状パターンを複数のグループにグループ分けする点は必須でなく、且つ、連結パターンを用いる点も必須でない。
【0038】
<第2の実施形態>
図6は、本開示の第2の実施形態によるノイズ抑制シート1Bの構造を説明するための模式的な平面図である。また、
図7は、
図6に示す領域Aの拡大図である。
【0039】
図6及び
図7に示すように、第2の実施形態によるノイズ抑制シート1Bは、導体パターン20のグループ21~24がグループ61~63に置き換えられている点において、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1Aと相違している。その他の基本的な構成は第1の実施形態によるノイズ抑制シート1Aと同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
グループ61~63はx方向に配列されている。第1のグループ61は、4本の線状パターン611~614を有しており、第1の線状パターン611のy方向における一端(-y方向における端部であり、第1の部分)が連結パターン25に接続され、第1の線状パターン611のy方向における略中央部(第2の部分)が第2の線状パターン612のy方向における略中央部に接続され、第3の線状パターン613のy方向における一端(-y方向における端部であり、第3の部分)が連結パターン25に接続され、第3の線状パターン613のy方向における略中央部(y方向における位置が第2の部分と等しい第4の部分)が第4の線状パターン614のy方向における略中央部に接続される。このように、奇数番目に位置する線状パターン611,613のy方向における一端が連結パターン25に接続され、偶数番目に位置する線状パターン612,614のy方向における略中央部が線状パターン611,613のy方向における略中央部にそれぞれ接続される。線状パターン611,613のy方向における他端(+y方向における端部)は開放される。線状パターン612,614のy方向における両端も開放される。
【0041】
第2のグループ62は、4本の線状パターン621~624を有しており、線状パターン621,623のy方向における一端が連結パターン25に接続され、線状パターン622のy方向における略中央部が線状パターン623のy方向における略中央部に接続され、線状パターン624のy方向における略中央部が第3のグループに属する線状パターン63pのy方向における略中央部に接続される。このように、奇数番目に位置する線状パターン621,623のy方向における一端が連結パターン25に接続され、偶数番目に位置する線状パターン622,624のy方向における略中央部が奇数番目に位置する線状パターン623,63pのy方向における略中央部にそれぞれ接続される。線状パターン621,623のy方向における他端(+y方向における端部)は開放される。線状パターン622,624のy方向における両端も開放される。
【0042】
第3のグループ63は、グループ61,62によってx方向から挟まれるように配置され、p本の線状パターン631~63pを有している。そして、グループ61,62と同様、奇数番目に位置する線状パターン631,633・・・のy方向における一端が連結パターン25に接続され、偶数番目に位置する線状パターン632,634・・・のy方向における略中央部が線状パターン631,633・・・のy方向における略中央部にそれぞれ接続される。線状パターン631,633・・・のy方向における他端(+y方向における端部)は開放される。線状パターン632,634・・・のy方向における両端も開放される。
【0043】
このように、グループ61~63には、2本の線状パターンがアルファベットの「H」の形状に接続されてなる単位を複数備えた構造を有している。このような構造であっても、各グループ61~63はループ状のパターンを構成しないため、磁界によって生じた電流が大きくループすることによる損失は発生しない。
【0044】
ここで、x方向における端部に配置された線状パターン611,621は、ラウンド形状を有する接続パターン28を介して接続される。これにより、接続パターン28に流れる電流の偏りが低減され、その結果、ノイズ抑制シート1Bによる損失が低減される。ラウンド形状を有する接続パターン28の曲率半径は比較的大きく、その結果、グループ61,62を構成する線状パターン611~614,621~624については、グループ63を構成する線状パターン631~63pよりもy方向における長さが短い。
【0045】
本実施形態によるノイズ抑制シート1Bについても、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1Aと同様、送電コイル2と受電コイル3の間に配置することによって、不要な輻射ノイズをより効果的に遮蔽することが可能である。そして、本実施形態によるノイズ抑制シート1Bは、複数の線状パターンが上述した構造を有していることから、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1Aの効果に加え、ノイズ規制規格の周波数領域においてバランスよくノイズ抑制効果を得ることが可能となる。
【0046】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、上記の実施形態に限定されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本開示の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0047】
本開示に係る技術には、以下の構成例が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0048】
本開示の一実施態様によるノイズ抑制シートは、絶縁性基材と、絶縁性基材の表面に設けられた導体パターンとを備え、導体パターンは、第1の方向に延在する第1及び第2の線状パターンを含み、第1の線状パターンは、第1の部分を介して電気的にグランドに接続され、第1の部分とは第1の方向における位置が異なる第2の部分において第2の線状パターンに接続され、第1及び第2の線状パターンは、絶縁性基材に近いほどパターン幅が広くなる断面形状を有している。
【0049】
このような構成を有するノイズ抑制シートは、磁界を発生させるコイルパターンの表面に配置することにより、周囲に放射される不要な輻射ノイズを低減することが可能となる。
【0050】
導体パターンは、第1の方向に延在する第3の線状パターンをさらに含み、第2の線状パターンは、第2の部分とは第1の方向における位置が異なる第3の部分において第3の線状パターンに接続されても構わない。これによれば、第1~第3の線状パターンがミアンダ状に接続されることから、特定の周波数においてノイズが増加するという現象が抑えられる。
【0051】
第1の線状パターンの導体厚は、第3の線状パターンの導体厚よりも厚くても構わないし、第2の線状パターンの導体厚は、第1の線状パターンの導体厚よりも薄く、且つ、第3の線状パターンの導体厚よりも厚くても構わない。これによれば、単位断面積当たりの電流値の差が緩和される。
【0052】
第2の線状パターンは、第1の方向における一端において第1の線状パターンに接続され、第1の方向における他端において第3の線状パターンに接続され、第2の線状パターンと第1及び第3の線状パターンを接続する接続パターンは、ラウンド形状を有していても構わない。これによれば、接続パターンに流れる電流の偏りが低減され、その結果、ノイズ抑制シートによる損失が低減される。
【0053】
導体パターンは、第1及び第2の線状パターンを含む第1のグループと、第1のグループに対して第1の方向と直交する第2の方向に配置され、第1の方向と平行な線を対称軸として第1グループと線対称な形状を有する第2のグループとを含んでいても構わない。これによれば、導体パターンを流れるノイズ電流による発生磁界が互いに打ち消され、ノイズ抑制効果が高められる。また、導体パターンは、第1及び第2のグループによって第2の方向から挟まれるように配置され、第1のグループの一部と同じパターン形状を有する第3及び第4のグループをさらに含んでいても構わない。これによれば、導体パターンの設計が容易となる。また、コイルパターンから発生する磁界が大きい中央付近の導体パターンの線路長が短くなり、導体パターンを流れるノイズ電流による損失が低減される。
【0054】
導体パターンは、第1の方向に延在する第3及び第4の線状パターンをさらに含み、第3の線状パターンは、第3の部分を介して電気的にグランドに接続され、第3の部分とは第1の方向における位置が異なる第4の部分において第4の線状パターンに接続されても構わない。これによれば、ノイズ規制規格の周波数領域においてバランスよくノイズ抑制効果を得ることが可能となる。この場合、第2及び第4の部分は、第1及び第3の線状パターンの第1の方向における略中央部に位置しても構わない。これによれば、ノイズ抑制効果が高められる。
【0055】
ノイズ抑制シートは、第1の方向と直交する第2の方向に延在し、電気的にグランドに接続される連結パターンをさらに備え、第1の線状パターンは第1の部分において連結パターンに接続されるとともに第2の方向における端部に配置され、連結パターンと第1の線状パターンを接続する接続パターンは、ラウンド形状を有していても構わない。これによれば、接続パターンに流れる電流の偏りが低減され、その結果、ノイズ抑制シートによる損失が低減される。
【0056】
第1及び第2の線状パターンの厚みは、絶縁性基材の厚みより大きくても構わない。これによれば、線状パターンをコイルパターンにより近づけることが可能となる。
【0057】
また、本開示の一実施態様によるコイル装置は、上記の磁気抑制シートと、磁性体シートと、上記磁気抑制シートと上記磁性体シートの間に配置され、上記磁気抑制シートと向かい合うコイル面を有するコイルパターンとを備えることを特徴とする。
【0058】
係るコイル装置によれば、コイルパターンから周囲に放射される不要な輻射ノイズを低減することが可能となる。
【0059】
第1及び第2の線状パターンのパターン幅は、コイルパターンに流れる電流によって生じ、第1及び第2の線状パターンに入射する電磁界の表皮深さよりも小さくても構わない。また、第1及び第2の線状パターンの導体厚は、コイルパターンに流れる電流によって生じ、第1及び第2の線状パターンに入射する電磁界の表皮深さよりも小さくても構わない。これによれば、コイルパターンから放射される搬送波の減衰が小さくなる。
【0060】
コイルパターンと導体パターンの離間距離は、コイルパターンに流れる電流によって生じ、第1及び第2の線状パターンに入射する電磁界の表皮深さよりも小さくても構わない。これによれば、コイルパターンのQ値を十分に確保しつつ、不要な輻射ノイズをより効果的に遮蔽することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1A,1Aa,1Ab,1B ノイズ抑制シート
2 送電コイル
2a コイル放射面
2b コイル裏面
3 受電コイル
4 送電回路
5 受電回路
6 電源回路
7 負荷回路
8 磁性体シート
10 絶縁性基材
11 絶縁性基材の表面
12 絶縁性基材の裏面
20 導体パターン
21~24 グループ
211~21n,221~22n,231~23m,241~24m 線状パターン
25 連結パターン
26 ターミナル接続部
27~29 接続パターン
30 絶縁性基材
31 絶縁性基材の表面
32 絶縁性基材の裏面
41,42 コイルパターン
51 レジスト
52 接着シート
61~63 グループ
611~614,621~624,631~63p,701~70k 線状パターン
100 ワイヤレス電力伝送システム
φ 磁束