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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】車両用電力変換装置の接地回路
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/08 20060101AFI20241118BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241118BHJP
【FI】
B60L3/08 A
B60L3/00 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021094477
(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公開番号】P2022186320
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松島 清人
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-68309(JP,A)
【文献】実開昭55-163703(JP,U)
【文献】実開平4-61401(JP,U)
【文献】特開2008-213530(JP,A)
【文献】特開2006-6002(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1610450(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸と前記車軸の一端に設けられた第1車輪と前記車軸の他端に設けられた第2車輪とを含む台車を含む車両に適用される車両用電力変換装置から出力される電車電流を前記第1車輪及び前記車軸を介して、前記車両が走行する一対のレールのうちの一方である第1レールへ流すための第1接地装置と、
前記電車電流を前記第2車輪及び前記車軸を介して前記一対のレールのうちの他方である第2レールへ流すための第2接地装置と、
前記車両用電力変換装置の出力と、前記第1接地装置及び前記第2接地装置のそれぞれとの間を接続するために、前記車両用電力変換装置の前記出力の下流側に設けられた接地電線と、
を含み、
前記接地電線は、
前記車両用電力変換装置の出力に直接接続されるか、或いは、前記出力に接続された前記接地電線以外の他の導電体に接続される分岐前電線と、
前記分岐前電線から前記第1接地装置に向かって分岐し、一端が前記第1接地装置に接続された第1分岐電線と、
前記分岐前電線から前記第2接地装置に向かって分岐し、一端が前記第2接地装置に接続された第2分岐電線と、
を含み、
前記接地電線は、
前記第1分岐電線の一部がコイル状に巻回された第1コイル巻線部及び前記第2分岐電線の一部がコイル状に巻回された第2コイル巻線部を含む、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用電力変換装置の接地回路において、
前記第1コイル巻線部及び前記第2コイル巻線部は、磁気的に結合している、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用電力変換装置の接地回路において、
前記第1コイル巻線部の巻数と、前記第2コイル巻線部の巻数とが同じである、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用電力変換装置の接地回路において、
前記第1コイル巻線部及び前記第2コイル巻線部は、一体の一つのコイル巻線を構成し、
前記分岐前電線が前記第1分岐電線及び前記第2分岐電線に分岐する分岐点が、前記一つのコイル巻線の軸方向の中点の位置にある、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用電力変換装置の接地回路において、
前記車軸の両端間の抵抗値は、前記第1接地装置の抵抗、前記第1車輪と前記レールとの間の接触抵抗、前記第2接地装置の抵抗、及び、前記第2車輪と前記レールとの間の接触抵抗に比べて大きい、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用電力変換装置の接地回路において、
前記分岐前電線の前記一端が、前記車両用電力変換装置の前記出力に直接接続されている、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用電力変換装置の接地回路において、
前記他の導電体は、前記車両用電力変換装置が生成する三相電力により駆動する電動機のフレームを含み、
前記分岐前電線の前記一端が、前記フレームに接続されている、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項8】
請求項4に記載の車両用電力変換装置の接地回路において、
前記一つのコイル巻線で生じる磁束量を検出するための情報を取得するための磁気センサと、
前記磁気センサから前記情報を取得し、前記情報に基づいて求めた前記磁束量に基づいて、前記一対のレールを流れる電車電流の不平衡が生じているか否かを判定する磁束検出部と、
を更に備える、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項9】
車軸と前記車軸の一端に設けられた第1車輪と前記車軸の他端に設けられた第2車輪とを含む台車を含む車両に適用される車両用電力変換装置から出力される電車電流を前記第1車輪及び前記車軸を介して、前記車両が走行する一対のレールのうちの一方である第1レールへ流すための第1接地装置と、
前記電車電流を前記第2車輪及び前記車軸を介して前記一対のレールのうちの他方である第2レールへ流すための第2接地装置と、
前記車両用電力変換装置の出力と、前記第1接地装置及び前記第2接地装置のそれぞれとの間を接続するために、前記車両用電力変換装置の前記出力の下流側に設けられた接地電線と、
を含み、
前記接地電線は、
前記車両用電力変換装置の出力に直接接続されるか、或いは、前記出力に接続された前記接地電線以外の他の導電体に接続される分岐前電線と、
前記分岐前電線から前記第1接地装置に向かって分岐し、一端が前記第1接地装置に接続された第1分岐電線と、
前記分岐前電線から前記第2接地装置に向かって分岐し、一端が前記第2接地装置に接続された第2分岐電線と、
を含み、
前記接地電線は、
前記分岐前電線の一部がコイル状に巻回された分岐前コイル巻線部、前記第1分岐電線の一部がコイル状に巻回された第1コイル巻線部及び前記第2分岐電線の一部がコイル状に巻回された第2コイル巻線部を、少なくとも一つ含む、
車両用電力変換装置の接地回路。
【請求項10】
第1車軸と前記第1車軸の一端に設けられた第1車輪と前記第1車軸の他端に設けられた第2車輪とを含む第1輪軸と、第2車軸と前記第2車軸の一端に設けられた第3車輪と前記第2車軸の他端に設けられた第4車輪とを含み、レール方向において前記第1輪軸と隣接する第2輪軸とを含む台車を含む車両に適用される車両用電力変換装置から出力される電車電流を前記第1車輪及び前記第1車軸を介して、前記車両が走行する一対のレールのうちの一方である第1レールへ流すための第1接地装置と、
前記電車電流を前記第4車輪及び前記第2車軸を介して前記一対のレールのうちの他方である第2レールへ流すための第2接地装置と、
前記車両用電力変換装置の出力と、前記第1接地装置及び前記第2接地装置のそれぞれとの間を接続するために、前記車両用電力変換装置の前記出力の下流側に設けられた接地電線と、
を含み、
前記接地電線は、
前記車両用電力変換装置の出力に直接接続されるか、或いは、前記出力に接続された前記接地電線以外の他の導電体に接続される分岐前電線と、
前記分岐前電線から前記第1接地装置に向かって分岐し、一端が前記第1接地装置に接続された第1分岐電線と、
前記分岐前電線から前記第2接地装置に向かって分岐し、一端が前記第2接地装置に接続された第2分岐電線と、
を含み、
前記接地電線は、
前記分岐前電線の一部がコイル状に巻回された分岐前コイル巻線部、前記第1分岐電線の一部がコイル状に巻回された第1コイル巻線部及び前記第2分岐電線の一部がコイル状に巻回された第2コイル巻線部を、少なくとも一つ含む、
車両用電力変換装置の接地回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電力変換装置の接地回路に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道信号システムの信号保安装置として、一対のレールと鉄道車両の輪軸とで構成する閉回路内を還流する信号電流によって、車両の在線検知等を行う軌道回路が多く用いられている。
【0003】
新幹線電車で採用されているATC(Automatic Train Control:自動列車制御)では、上記信号電流に信号現示等の情報を付加して車両に伝送し、運行制御等に活用している。電気鉄道は、一対のレールを電車電流の帰還経路としているため、上述した信号保安装置は信号電流と電車電流(「帰線電流」とも称呼されている。)と、を区別する必要がある。このため、信号保安装置はインピーダンスボンドと呼ばれる特殊なトランス装置を含み、上記閉回路内を還流する信号電流のみ受電し、一対のレール上を平衡して流れる電車電流を受電しないよう機能させている。
【0004】
しかし、レール上に、電車電流の不平衡(即ち、「一対のレールを流れる電車電流の電車電流量(大きさ)に差が生じること」)が発生した場合、電車電流と信号電流との判別ができなくなる。このため、「軌道回路の誤動作」や「大電流の電車電流を受電することに起因する装置故障」等が発生する可能性がある。更に、車両上のATC受電部にも、同様に、信号電流と電車電流とを判別できる構成が採用されているので、電車電流の不平衡が通信ノイズとして表出し、通信不良等を誘発する可能性がある。
【0005】
このような電車電流の不平衡が発生しないようにするため(即ち、不平衡電流(電車電流の不平衡が生じた場合の一対のレールを流れる電車電流の差)が発生しないようにするため)、従来技術では、次のようなことが行われている。
【0006】
即ち、鉄道車両の接地回路では、電車電流の経路を車両内の各接地装置に向かって分岐させた場合、分岐点から各接地装置までの各電車電流経路の抵抗値が全て等しくなるように、分岐点から各接地装置までの各電線の電線長を等しく設計し、各電線を敷設している。
【0007】
更に、通信ノイズの影響を低減するために、例えば、特許文献1は、以下に述べる従来技術を開示する。即ち、特許文献1は、従来技術として、電車電流の接地電線を車軸の両端に設けた接地装置の両側に接続する構成例を開示する。この構成例は、接地回路に近接して配置されるATC受電器に流入する電車電流の磁界を相殺させ、通信ノイズがATC受電器に与える影響を低減する。
【0008】
より具体的に述べると、特許文献1は、「接地線60を接地する接地ブラシが収納されている端子台110を、車軸72の両側、或いは中央等に配置する。」構成例を開示する。特許文献1には、この構成例により、ATC受信機31,32に対する高周波ノイズの影響を同等にすることにより、ATC受信機31,32に対する高周波ノイズの影響を打ち消すことができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-68309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術は、電車電流経路のうち理想的な電線の抵抗値しか考慮していない。従来技術は、「電線製作時の誤差」、「電線端子部の接触具合」、「接地装置の個体差」、「劣化具合」及び「レール面の錆」に起因する抵抗値の差、並びに、「走行時の振動」及び「輪重差」に依る接触抵抗値の変動等を考慮できていない。
【0011】
一般に電車電流は数百A以上と大きいため、各電車電流経路に僅かな抵抗差が生じた場合であっても、大きな不平衡電流が発生してしまう傾向にあるので、電車電流の不平衡が軌道回路及びATCに影響を与えてしまう可能性がある。
【0012】
本発明は上述した課題を対処するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、一対のレールを流れる電車電流の不平衡を抑制できる車両用電力変換装置の接地回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の車両用電力変換装置の接地回路は、車軸と前記車軸の一端に設けられた第1車輪と前記車軸の他端に設けられた第2車輪とを含む台車を含む車両に適用される車両用電力変換装置から出力される電車電流を前記第1車輪及び前記車軸を介して、前記車両が走行する一対のレールのうちの一方である第1レールへ流すための第1接地装置と、前記電車電流を前記第2車輪及び前記車軸を介して前記一対のレールのうちの他方である第2レールへ流すための第2接地装置と、前記車両用電力変換装置の出力と、前記第1接地装置及び前記第2接地装置のそれぞれとの間を接続するために、前記車両用電力変換装置の前記出力の下流側に設けられた接地電線と、を含み、前記接地電線は、前記車両用電力変換装置の出力に直接接続されるか、或いは、前記出力に接続された前記接地電線以外の他の導電体に接続される分岐前電線と、前記分岐前電線から前記第1接地装置に向かって分岐し、一端が前記第1接地装置に接続された第1分岐電線と、前記分岐前電線から前記第2接地装置に向かって分岐し、一端が前記第2接地装置に接続された第2分岐電線と、を含み、前記接地電線は、前記第1分岐電線の一部がコイル状に巻回された第1コイル巻線部及び前記第2分岐電線の一部がコイル状に巻回された第2コイル巻線部を含む。
【0014】
本発明の車両用電力変換装置の接地回路は、車軸と前記車軸の一端に設けられた第1車輪と前記車軸の他端に設けられた第2車輪とを含む台車を含む車両に適用される車両用電力変換装置から出力される電車電流を前記第1車輪及び前記車軸を介して、前記車両が走行する一対のレールのうちの一方である第1レールへ流すための第1接地装置と、前記電車電流を前記第2車輪及び前記車軸を介して前記一対のレールのうちの他方である第2レールへ流すための第2接地装置と、前記車両用電力変換装置の出力と、前記第1接地装置及び前記第2接地装置のそれぞれとの間を接続するために、前記車両用電力変換装置の前記出力の下流側に設けられた接地電線と、を含み、前記接地電線は、前記車両用電力変換装置の出力に直接接続されるか、或いは、前記出力に接続された前記接地電線以外の他の導電体に接続される分岐前電線と、前記分岐前電線から前記第1接地装置に向かって分岐し、一端が前記第1接地装置に接続された第1分岐電線と、前記分岐前電線から前記第2接地装置に向かって分岐し、一端が前記第2接地装置に接続された第2分岐電線と、を含み、前記接地電線は、前記分岐前電線の一部がコイル状に巻回された分岐前コイル巻線部、前記第1分岐電線の一部がコイル状に巻回された第1コイル巻線部及び前記第2分岐電線の一部がコイル状に巻回された第2コイル巻線部を、少なくとも一つ含む。
【0015】
本発明の車両用電力変換装置の接地回路は、第1車軸と前記第1車軸の一端に設けられた第1車輪と前記第1車軸の他端に設けられた第2車輪とを含む第1輪軸と、第2車軸と前記第2車軸の一端に設けられた第3車輪と前記第2車軸の他端に設けられた第4車輪とを含み、レール方向において前記第1輪軸と隣接する第2輪軸とを含む台車を含む車両に適用される車両用電力変換装置から出力される電車電流を前記第1車輪及び前記第1車軸を介して、前記車両が走行する一対のレールのうちの一方である第1レールへ流すための第1接地装置と、前記電車電流を前記第4車輪及び前記第2車軸を介して前記一対のレールのうちの他方である第2レールへ流すための第2接地装置と、前記車両用電力変換装置の出力と、前記第1接地装置及び前記第2接地装置のそれぞれとの間を接続するために、前記車両用電力変換装置の前記出力の下流側に設けられた接地電線と、を含み、前記接地電線は、前記車両用電力変換装置の出力に直接接続されるか、或いは、前記出力に接続された前記接地電線以外の他の導電体に接続される分岐前電線と、前記分岐前電線から前記第1接地装置に向かって分岐し、一端が前記第1接地装置に接続された第1分岐電線と、前記分岐前電線から前記第2接地装置に向かって分岐し、一端が前記第2接地装置に接続された第2分岐電線と、を含み、前記接地電線は、前記分岐前電線の一部がコイル状に巻回された分岐前コイル巻線部、前記第1分岐電線の一部がコイル状に巻回された第1コイル巻線部及び前記第2分岐電線の一部がコイル状に巻回された第2コイル巻線部を、少なくとも一つ含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一対のレールを流れる電車電流の不平衡を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは鉄道信号装置が設置された電気鉄道における電車電流及び信号電流の経路を示した概略図である。
図1B図1Bは鉄道信号装置が設置された電気鉄道における電車電流及び信号電流の経路を示した概略図である。
図2A図2Aは鉄道信号装置が設置された電気鉄道において、レール上電車電流の偏りが発生した場合の電車電流及び信号電流の経路を示した概略図である。
図2B図2Bは鉄道信号装置が設置された電気鉄道において、レール上電車電流の偏りが発生した場合の電車電流及び信号電流の経路を示した概略図である。
図3図3は本発明の第1実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(第1接地回路)の構成例を示す概略図である。
図4図4は第1接地回路の変形例を示す図である。
図5図5は第1接地回路のノイズ低減効果検証を目的とした等価回路解析モデル図である。
図6A図6Aは第1接地回路のノイズ低減効果検証を目的とした等価回路解析結果を示すグラフである。
図6B図6Bは第1接地回路のノイズ低減効果検証を目的とした等価回路解析結果を示すグラフである。
図7図7は本発明の第2実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(第2接地回路)の構成例を示す概略図である。
図8図8は本発明の第3実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(第3接地回路)の構成例を示す概略図である。
図9図9は本発明の第4実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(第4接地回路)の構成例を示す概略図である。
図10図10は本発明の第5実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(第5接地回路)の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<<本発明の技術背景及び課題>>
まず本発明の理解を容易にするため、本発明の技術背景及び課題の詳細について説明する。図1A及び図1Bは、電気鉄道における電車電流及び信号電流の経路を示す概略図である。図1Aは軌道回路が配置された電気鉄道における電車電流及び信号電流の経路を示す概略図である。図1BはATCが配置された電気鉄道における電車電流と信号電流の経路を示す概略図である。
【0019】
なお、図1A及び図1B中に示す車両TR1は、列車(電車)が備える複数の車両の一つある。図1A及び図1Bでは、列車に関しては、車両TR1の主要な構成のみを示している(図2A及び図2Bにおいても同様。)。なお、隣接する2つの輪軸(「車軸106とその両端に設けられた車輪105とのセット」)で1つの台車を表している。
【0020】
車両TR1の主変換装置100は、架線200からパンタグラフ201及び高圧電線202を通して電力を取得し、図示しない電動機を回転駆動する三相交流電力を生成する。この際に、パンタグラフ201と高圧電線202上を流れる電流が電車電流である。電車電流は、一対のレール107を通して、電源である変電所へと帰還する経路を流れる。このために、主変換装置100を起点に、電車電流をレール107まで流すための接地回路が構成される。
【0021】
接地回路は、車両TR1内に設けられた複数の接地装置104(例えば、接地ブラシ等)と、主変換装置100の出力と接地装置104までの間を接続する接地電線DL1と、車輪105と、車輪105に電気的に接続されると共に接地装置104に電気的に接続される車軸106とを含む。
【0022】
接地電線DL1は、主変換装置100の出力に接続された分岐前電線101と、分岐前電線101から各接地装置104に向かって分岐する複数の分岐電線102とを含む。なお、図1A及び図1Bにおいて、分岐前電線101は、主変換装置100の出力から分岐点SP0までの間の電線と分岐点SP0にて分岐後の電線とから構成される。即ち、本明細書において、分岐前電線101は、分岐前電線101から2つの接地装置104に向かって2つの分岐電線102に分岐する前の電線のことをいう。従って、図1A及び図1Bに示すように、分岐前電線101は、その中で分岐していてもよい。
【0023】
主変換装置100から出力された電車電流は、分岐前電線101、分岐電線102、接地装置104、車軸106及び車輪105を通り、一対のレール107まで流れる。
【0024】
図1Aに示す軌道回路では、一対のレール107と電気鉄道(車両TR1)の車輪105と車軸106とで構成される閉回路に信号電流を流すことで、所定の軌道回路区間における列車の有無を検知する。しかしながら、前述した通り、電車電流はレール107上を流れて変電所へ戻る経路を取るため、軌道回路では、この電車電流と信号電流が区別できなければならない。
【0025】
電車電流と信号電流とを区別する機能は所定の軌道回路区間の両端に設けるインピーダンスボンド203により実現される。インピーダンスボンド203は、インピーダンスボンド203に含まれるコイルを一方向に流れる電流のみ、同コイルと磁気的に結合するコイルを含む在線検知装置204側に伝送する。
【0026】
在線検知装置204は、回路内に在線検知リレー204aを含む。在線検知装置204は、所定の軌道回路区間の他端より伝送される信号電流が検出される場合に在線検知リレー204aを打上げる。これに対して、在線検知装置204は、列車(車両TR1)の車輪105及び車軸106により軌道回路が短絡されて信号電流が到達しない場合には在線検知リレー204aを落下させる。在線検知リレー204aが落下した状態になった場合、列車在線と判定される。
【0027】
一方、電車電流はインピーダンスボンド203内のコイルの中点MP1から隣接する軌道回路側へと伝搬する経路を流れる。理想的な電車電流は一対の各レール107上を等量且つ逆方向に流れるため、インピーダンスボンド203内のコイルで電車電流による磁束は相殺され、在線検知装置204に伝送されることはない。
【0028】
図1Bに示すATC装置が設置された電気鉄道においては、車両TR1上にレール107上の信号電流を検出する一対の受電器205と受信した信号電流を復調するATC受電部206とを配置する。一対の受電器205は差動接続してATC受電部206に入力されるため、逆方向に流れる信号電流の受電電圧は重ね合わせにより増幅するように、同一方向に流れる電車電流の受電電圧は相殺されてATC受電部206に入力される。
【0029】
図2A及び図2Bは、一対のレール107上の電車電流量に差異が発生した場合の電車電流及び信号電流の経路を示す概略図である。なお、図2Aは軌道回路における電車電流及び信号電流の経路を示し、図2BはATCにおける電車電流及び信号電流の経路を示す。
【0030】
図2Aに示すように、軌道回路が設置された電気鉄道において、図面において手前側のレール107上の電車電流が増加した場合、インピーダンスボンド203内のコイルにおいて、中点MP1より上側と下側とを流れる電車電流の電流量に差分が生じる。このため、電車電流による磁束は、インピーダンスボンド203内のコイルで相殺されず、差分が在線検知装置204に伝送されてしまう。一般に電車電流は数百A以上と非常に大きいため、レール107上の電車電流の偏り(電車電流の不平衡)はインピーダンスボンド203の飽和や在線検知装置204の誤動作を引き起こす可能性がある。
【0031】
図2Bに示すように、ATCにおいても同様に、レール107上の電車電流の偏り(電車電流の不平衡)が発生すると、各受電器205の差動接続によっても電車電流の受電電圧を相殺できなくなる(なお、ATC受電部206の手前の輪軸により、ある程度、電車電流は平準化される場合であっても、各受電器205の差動接続によっても電車電流の受電電圧を相殺できなくなる。)。このため、ATCにおいても、レール107上の電車電流の偏り(電車電流の不平衡)は、通信ノイズとして表出し、通信不良等を誘発する可能性がある。本発明は、上述したこれらの課題を解決するためになされた。
【0032】
以下、本発明の各実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、各実施形態では、特定構成の車両用電力変換装置の接地回路の形態を説明するが、本発明は各実施形態に限定されるものではない。各実施形態の接地回路の構成は、車両に搭載する装置や電線の構成、配置等に応じて、本発明の範囲内において適宜変更されてもよい。各実施形態の接地回路を適用する車両は、架線や第三軌条より電力を取得して走行する車両に限定されない。一対のレールを電車電流の帰還経路として使用する車両であれば、各実施形態の接地回路が適用されてもよい。
【0033】
<<第1実施形態>>
本発明の第1実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(以下、「第1接地回路」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0034】
<構成>
図3は、第1接地回路が適用された鉄道信号システムの構成例を示した概略図である。なお、図3に示す車両TR2は、列車(電車)が備える複数の車両の一つある。図3では、列車に関しては車両TR2の主要な構成のみを示している。
【0035】
既述した通り、主変換装置100は、架線200からパンタグラフ201及び高圧電線202を通して電力を取得し、電動機(不図示)を回転駆動する三相交流電力を生成する。この際に、パンタグラフ201及び高圧電線202上を流れる電車電流が、第1接地回路を通してレール107まで流れる。
【0036】
第1接地回路は、接地電線DL1と、第1接地装置104aと、第2接地装置104bと、第1接地装置104a及び第2接地装置104bに電気的に接続される車軸106と、車軸106に電気的に接続された2つの車輪105とを含む。
【0037】
接地電線DL1は、架線200より取得する電車電流を一対のレール107に流すための接地電線である。接地電線DL1は、主変換装置100の出力に接続された分岐前電線101と、分岐前電線101から分岐する第1分岐電線102aと第2分岐電線102bとを含む。
【0038】
第1分岐電線102aは、分岐点SP1にて分岐前電線101から第1接地装置104aに向かって分岐し、その一端が第1接地装置104aに接続される。第2分岐電線102bは、分岐点SP1にて分岐前電線101から第2接地装置104bに向かって分岐し、その一端が第2接地装置104bに接続される。
【0039】
第1分岐電線102aは、その一部がコイル状に巻かれた第1コイル巻線部102a1を含む。第2分岐電線102bは、その一部がコイル状に巻かれた第2コイル巻線部102b1を含む。
【0040】
第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1は、一体に形成された一つのコイル巻線であり、分岐点SP1がこの一つのコイル巻線の中点に位置している。即ち、第1コイル巻線部102a1の軸方向の長さ(分岐点SP1から第1コイル巻線部102a1の分岐点SP1とは反対側の一端までの長さ)と、第2コイル巻線部102b1の軸方向の長さ(分岐点SP1から第2コイル巻線部102b1の分岐点SP1とは反対側の一端までの長さ)とが等しくなっている。従って、第1コイル巻線部102a1の巻数と第2コイル巻線部102b1の巻数とが等しくなっている。
【0041】
更に、第1コイル巻線部102a1のコイル巻線方向と、第2コイル巻線部102b1のコイル巻線方向とが、同一方向になっている。更に、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1が磁気的に結合している。第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1は、オートトランスを構成しているともいえる。
【0042】
よって、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1の相互誘導効果によって、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1に流れる電車電流を平準化する効果が得られる。即ち、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1の相互誘導効果により、第1コイル巻線部102a1と第2コイル巻線部102b1とに同じ量の電流を流そうとする効果が得られる。以下、説明の便宜上、本明細書において、この効果は、「オートトランス効果」とも称呼される場合がある。
【0043】
なお、分岐点SP1は、一つのコイル巻線の中点に位置しなくてもよい。この場合、例えば、分岐点SP1は、一つのコイル巻線の軸方向において、「一つのコイル巻線の中点から左側に所定距離だけ離れた第1位置」から「一つのコイル巻線の中点から右側に所定距離だけ離れた第2位置」までの間の中央範囲内にあってもよい。この所定距離は、例えば、一つのコイル巻線の軸方向の長さに対して、5%の長さである。一方で、より大きなオートトランス効果を得るためには、分岐点SP1は、一つのコイル巻線の中点に位置することが好ましい。
【0044】
分岐点SP1が一つのコイル巻線の中点に位置しない場合であっても、オートトランス効果を得るためには、第1コイル巻線部102a1の巻数と第2コイル巻線部102b1の巻数とが等しくなっていることが好ましい。
【0045】
第1分岐電線102aの長さ(分岐点SP1から第1接地装置104aまでの長さ)及び第2分岐電線102bの長さ(分岐点SP1から第2接地装置104bまでの長さ)は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。なお、分岐点SP1から第1接地装置104aまでの間の電流経路のインピーダンスと、分岐点SP1から第2接地装置104bまでの間の電流経路のインピーダンスとの差をより低減する観点から、第1分岐電線102a及び第2分岐電線102bの長さが同じである方がより好ましい。
【0046】
更に、図4に示すように、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1は、一体に形成された一つのコイル巻線でなくてもよい。即ち、第1コイル巻線部102a1は、第1分岐電線102a上において、分岐点SP1から所定の第1距離だけ離れた位置から巻回が開始されるようにしてもよい。第2コイル巻線部102b1は、第2分岐電線102b上において、分岐点SP1から所定の2距離だけ離れた位置から巻回が開始されるようにしてもよい。この場合において、オートトランス効果を得る観点から、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1は、磁気的に結合していることが好ましい。
【0047】
更に、詳細は後述するが、車軸106の抵抗値は、より大きなオートトランス効果を得ることによって、不平衡電流を低減できる観点から、より大きい方が好ましい。従って、車軸106は、絶縁性を有する絶縁車軸が特に好ましい。
【0048】
<効果>
以上説明したように、第1接地回路では、接地電線DL1が第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1を含む。これにより、第1接地回路は、主変換装置100の出力から第1接地装置104a及び第2接地装置104bまでのそれぞれの間の電流経路において、高周波の電流に対するインピーダンスを大きくすることができる。これにより、第1接地回路は、主変換装置100の出力から接地装置までの間の電流経路の高周波の電流に対するインピーダンスが、電車電流が分岐点SP1から第1接地装置104aを通りレール107に至る電車電流経路と、電車電流が分岐点SP1から第2接地装置104bを通りレール107に至る電車電流経路との間に、諸要因によって生じるインピーダンス変動(及び高周波の電流に対するインピーダンスの差(それぞれの経路において生じるインピーダンス変動を要因とするインピーダンス差))に対して、相対的に大きくなる。従って、第1接地回路は、電車電流の不平衡を抑制できる。このような効果を得るためには、接地電線DL1が、その一部がコイル状に巻回されたコイル巻線部を含んでいればよい。なお、以下では、説明の便宜上、電車電流が分岐点SP1から第1接地装置104aを通りレール107に至る電車電流経路は、「第1電車電流経路」とも称呼される場合がある。電車電流が分岐点SP1から第2接地装置104bを通りレール107に至る電車電流経路は、「第2電車電流経路」とも称呼される場合がある。)。
【0049】
更に、第1接地回路は、オートトランス効果によって、第1電車電流経路と第2電車電流経路とに同じ電流を流そうとする効果を得ることができるので、第1接地回路は、電車電流の不平衡をより抑制する(不平衡電流をより低減する)ことができる。
【0050】
以下、上述したこれらの作用効果についてより詳細に説明する。典型的な車両の構成においては、車両から一対のレール107上に流出する電車電流量を等しくするため、車両内の各接地装置104に向かって分岐する各電車電流経路の抵抗値が全て等しくなるように、各接地装置104までの電線長を等しく設計した電線を、敷設している。
【0051】
しかし、この場合、電車電流経路を構成する理想的な電線の抵抗値だけが等しくなるにすぎない。よって、次のことが生じる可能性がある。即ち、電車電流経路において、インピーダンスの変動要因である「電線製作時の誤差」、「電線端子部の接触具合」、「接地装置の個体差及び劣化具合」、「レール面の錆に起因する抵抗値の差」、「走行時の振動及び/又は輪重差に起因する接触抵抗値の変動」等が生じる場合がある。この場合、各電車電流経路において、インピーダンスの変動が生じ得る(インピーダンスの変動が生じ、且つ、その変動量が異なることが生じ得る。)。従って、この場合、各電車電流経路の間にインピーダンスの差が生じ得るため。電車電流の不平衡が発生する可能性がある。
【0052】
接地回路において、上述のインピーダンス変動要因の影響を低減するために、第1接地回路は、接地電線DL1に第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1を含む。これにより、接地電線DL1において、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1が形成された部分に、接地回路のインピーダンスに比して、十分に大きいインダクタンス(なお、比較的大きな高周波の電流(信号)に対しては大きなインピーダンス)を付加することができる。よって、接地回路の各電車電流経路において、インピーダンスの変動(及びこれにより生じる各電車電流経路の間のインピーダンスの差)を、接地回路のインピーダンスに対して相対的に低減することができるので、電車電流の不平衡を抑制(不平衡電流を低減)することができる。
【0053】
なお、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1(一つのコイル巻線)のインダクタンス値は、対象周波数と接地回路のインピーダンスとに基づいて設定することが好ましい。例えば、軌道回路信号周波数の一つである50Hzを対象とした場合、接地回路のインピーダンスは通常0.1mΩより低いレベルで変動することを踏まえ、一つのコイル巻線のインダクタンスを0.5mH以上とすれば5倍以上のインピーダンスが得られる。即ち、対象となる信号電流の周波数に対応する接地回路のインピーダンスの変動レベルに対するインダクタンスの比の値(=「インダクタンス」/「インピーダンスの変動レベル」)に応じて(比の値が大きくなるほど)より大きな不平衡電流の低減効果(電車電流の不平衡の抑制効果)を得ることが可能となる。
【0054】
更に、第1接地回路は、接地電線DL1に第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1を、一体の一つのコイル巻線として含む。このように、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1を、双方のコイル巻線方向を同一とし、磁気的に結合させたオートトランスとして構成することで、第1接地回路は、次の効果を得ることができる。即ち、第1接地回路は、相互誘導効果によって、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1に流れる電流を平準化する効果(オートトランス効果)を得ることができる。従って、第1接地回路は、不平衡電流を更に低減することが可能となる。これらの結果、第1接地回路は、軌道回路の誤動作及び故障、並びに、ATCの通信不良発生を防止することができる。
【0055】
<試験例>
以上説明した第1接地回路の効果を確認することを目的として、図5に示す構成を元に等価回路解析を実施した。
【0056】
実施例1-1:分岐前電線101の上流に定電流源S1を設け、図5中の点線部の分岐部SA1及びSA2において、図3に示すように、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1のそれぞれを1mHのコイル巻線で構成するオートトランスを設置した。なお、車軸106は低抵抗車軸で構成した。
【0057】
実施例1-2:車軸106を絶縁車軸(開放)で構成したこと以外、実施例1-1と同様の構成の第1接地回路を、実施例1-2とした。
【0058】
比較例1:図5中の点線部の分岐部SA1及びSA2において各々1mHのコイル巻線で構成するオートトランスを設置しなかったこと以外、実施例1-1と同様の構成の接地回路を、比較例1とした。
【0059】
実施例1-1、比較例1-2及び比較例1のそれぞれについて、以下の評価を行った。
【0060】
接地装置抵抗値と車輪-レール間の接触抵抗値とを100mΩの0%~50%の範囲内で回路中にランダムに割当て、電流計300aにより軌道回路の在線検知装置上への影響(図6A)を、電流計300bと300cとの差分によりATCへの影響(図6B)を評価した。評価結果を図6A及び図6Bに示す。
【0061】
図6Aに示すように、接地電線分岐部へのオートトランス追加により、通常の低抵抗車軸においても(実施例1-1)、軌道回路周波数帯である20~約1kHz帯において、従来構成(比較例1)比1~3dBの低減効果が得られた。図6Bに示すように、ATC周波数帯である20kHz帯においては、従来構成比40dBの低減効果を得られた。
【0062】
更に、図6Aに示すように、絶縁車軸とした場合(実施例1-2)には、軌道回路周波数帯においては一律20~40dB以上もの不平衡電流抑制効果を得ることができた。
【0063】
図6Bに示すように、絶縁車軸とした場合(実施例1-2)には、ATC周波数帯においては80dBもの不平衡電流抑制効果を得ることができた。
【0064】
なお、実施例1-1と実施例1-2との間で低減効果(不平衡電流抑制効果)の差が生じる理由としては、以下のことが考えられる。即ち、オートトランスによって、分岐電線102を経由して接続する車軸106の抵抗値が、車輪105-レール107間の接触抵抗値よりも小さい値をとる場合に、オートトランスの並列出力ポート双方が短絡接続に近い状態となってしまう(即ち、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1は、単なるインダクタとしての働きしか持たない。)。このため、実施例1-1では、インピーダンス変動を相対的に小さく見せる効果やオートトランスの相互誘導効果(オートトランス効果)が実施例1-2に比べて低減してしまうことが理由であると考えられる。
【0065】
このため、電車電流の接地回路を構成する車軸の抵抗値は高ければ高いほど望ましい。一方で、実施例1-1のような典型的な低抵抗車軸においてもATCについては十分なノイズ低減効果を得られる(図6Bの実施例1-1と比較例1との比較を参照。)し、軌道回路についても一定のノイズ低減効果を得ることができる(図6Aの実施例1-1と比較例1との比較を参照。)。
【0066】
更に、オートトランスの相互誘導効果により、第1接地回路を構成する一対の接地装置(第1接地装置104a及び第2接地装置104b)に流れる電車電流差は上記等価回路解析においても0.5dB未満に収まっている。よって、第1接地回路は、接地装置の劣化ばらつきを抑制し、効果的なメンテナンスを実現する効果を得ることもできる。
【0067】
これに加えて、低周波数の低減効果(不平衡電流の低減効果)を得るためにコイル巻線をmHオーダとした場合においても、オートトランス内を逆向きに流れる分岐後電流の磁束相殺効果によって、主電動機側から見たインダクタンスを極めて低く見せることができるため、低インピーダンスの接地回路として機能させることができる。更に、分岐部にオートトランスを構成する大きいインダクタンス(第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1)が存在することによって、レール107上を流れる他車両電車電流の吸い上げを抑制することも可能となる。
【0068】
<<第2実施形態>>
本発明の第2実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(以下、「第2接地回路」と称呼される。)について説明する。図7は、第2接地回路が適用された鉄道信号システムの構成例を示した概略図である。なお、図7に示す車両TR3は、列車(電車)が備える複数の車両の一つである。図7では、列車に関しては車両TR3の主要な構成のみを示している。
【0069】
車両TR3は、主変換装置100が生成する三相交流電力を送電する三相電線108と、同三相交流電力による回転駆動する電動機109と、電動機109の回転動力を車軸106に伝えるギアボックス110とを含む。分岐前電線101の分岐点SP1と反対側の一端は電動機109のフレームに接続されている。以上の構成以外、第1接地回路と同様である。
【0070】
<効果>
第2接地回路は、第1接地回路と同様の効果を奏する。なお、第2接地回路では、電動機109のフレームを起点とする主変換装置100に戻る帰線の有無に関わらず不平衡電流の低減効果を得ることができる。
【0071】
なお、第2接地回路は、上記帰線が存在しない車両TR3に適用される場合、上記帰線が存在する車両TR3に適用される場合に比べて、不平衡電流の低減効果がより有効に発揮する。以下、この理由について説明する。
【0072】
即ち、従来の構成において、特に上記帰線が存在しない車両では、フローティング電圧等発生防止、また、ギアボックス等意図しない経路を、ノイズ電流が流れることが無いように電動機フレームを車軸上一方の接地装置のみに接続されることが多い。
【0073】
しかし、この場合において、従来では、レール上に流出して主変換装置に還流する不平衡電流についてあまり考慮されてこなかった。主変換装置が発生させるスイッチングノイズ電流は幅広い範囲の周波数成分を持つことから、同ノイズのレール上不平衡電流は、様々な信号装置に影響を及ぼす可能性が高い。
【0074】
これに対して、第2接地回路は、電動機109のフレームを起点に分岐前電線101を引き出し、オートトランス(第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1)を介して分岐後の第1分岐電線102a及び第2分岐電線102bをそれぞれ車軸106の両側の第1接地装置104a及び第2接地装置104bに接続するように、構成される。
【0075】
この構成によれば、各電車電流経路に(第1電車電流経路及び第2電車電流経路のそれぞれに)インピーダンス変動が発生した場合であっても、電動機109のフレーム上に表出する幅広い周波数範囲のノイズ電流を、相互誘導効果により、第1電車電流経路及び第2電車電流経路に平準化して分配して流すことが可能となる。従って、第2接地回路は、レール107上に流出する不平衡電流を低減することができる。
【0076】
よって、第2接地回路は、上記帰線が存在しない車両TR3に適用される場合、上記帰線が存在する車両TR3に適用される場合に比べて、不平衡電流の低減効果がより有効に発揮する(より効果的になる。)。
【0077】
<<第3実施形態>>
本発明の第3実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(以下、「第3接地回路」と称呼される。)について説明する。図8は、第3接地回路が適用された鉄道信号システムの構成例を示した概略図である。なお、図8に示す車両TR4は、列車(電車)が備える複数の車両の一つである。図8では、列車に関しては車両TR4の主要な構成のみを示している。
【0078】
第3接地回路は、第3接地回路を構成する車軸として、車軸両端間の抵抗値が100mΩ以上となるような抵抗体車軸111を備えている。以上の点以外、第1接地回路と同様である。従って、以下では、この相違点を中心として説明する。
【0079】
既述した通り、上記試験例によれば、第1接地回路を構成する車軸両端の抵抗値は高ければ高くなるほど、レール上不平衡電流の抑制効果が大きくなるので、信号装置へのノイズ量をより低減することができることがわかった。
【0080】
これに鑑みて、第3接地回路は、接地回路を構成する車軸として、車軸両端間の抵抗値が100mΩ以上となるような抵抗体車軸111を含む。この抵抗値は、各接地装置の抵抗及び車輪-レール間の接触抵抗よりも5倍以上あれば一定のオートトランスによる不平衡電流を低減する効果を得ることができるとの試験例の結果に基づいている。
【0081】
抵抗体車軸111としては、例えば車軸内に可動部を有する可変長車軸が採用される。その他、抵抗体車軸111としては、上記電気抵抗値を示すような合金による車軸が採用されてもよい。更に、抵抗体車軸111としては、高抵抗又は絶縁体の金属等で構成される車軸が採用されてもよく、接地装置104が、車輪105に接続されてもよい。
【0082】
<効果>
第3接地回路は、車軸両端間の抵抗値が、接地装置の抵抗及び車輪-レール間の接触抵抗よりも高いため、より大きなオートランスの効果を得ることできるので、不平衡電流をより低減する効果を奏する。
【0083】
<<第4実施形態>>
本発明の第4実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(以下、「第4接地回路」と称呼される。)について説明する。図9は第4接地回路が適用された鉄道信号システムの構成例を示した概略図である。なお、図9に示す車両TR5は、列車(電車)が備える複数の車両の一つである。図9では、列車に関しては車両TR5の主要な構成のみを示している。
【0084】
第4接地回路は、以下に述べる点以外、第1接地回路と同様である。図9に示すように、車両TR5は、台車BO1を含む。台車BO1は、第1輪軸WL1と、レール107の長手方向において第1輪軸WL1と隣接する第2輪軸WL2とを含む。なお、第1輪軸WL1は、第1車軸106a及び当該第1車軸106aの両端に設けられた2つの車輪105aのセットであり、第2輪軸WL2は、第2車軸106b及び当該第2車軸106bの両端に設けられた2つの車輪105bのセットである。
【0085】
第1接地装置104aは、図面の奥側を台車BO1の前方とした場合、第2車軸106bの左端に設置され、第2接地装置104bは、第1車軸106aの右端に設置されている。従って、第1接地装置104a及び第2接地装置104bは、台車BO1内で(第2輪軸WL2及び第1輪軸WL1において)対角の位置にある。
【0086】
第4接地回路では、分岐前電線101から分岐する第1分岐電線102aの一端が、第1接地装置104aに接続される。分岐前電線101から分岐する第2分岐電線102bの一端が、第1接地装置104aに対して対角の位置にある第2接地装置104bに接続されている。従って、第4接地回路では、第1接地回路に比べて、分岐点SP1から第1接地装置104aまでの電車電流経路(電線の長さ)及び分岐点SP1から第2接地装置104bまでの電車電流経路(電線の長さ)が長くなることにより、第4接地回路のインピーダンスが第1接地回路に比べて大きくなる。
【0087】
よって、第4接地回路は、第1電車電流経路及び第2電車電流経路のインピーダンス変動を、相対的に小さくする効果を、第1接地回路に比べて高めることができる。その結果、第4接地回路は、第1接地回路に比べて、レール107に発生する不平衡電流をより低減することができる。
【0088】
<効果>
以上説明した通り、第4接地回路は、レール107に発生する不均衡電流をより低減することができる。
【0089】
<<第5実施形態>>
本発明の第5実施形態に係る車両用電力変換装置の接地回路(以下、「第5接地回路」と称呼される。)について説明する。図10は第5接地回路が適用された鉄道信号システムの構成例を示した概略図である。なお、図10に示す車両TR6は、列車(電車)が備える複数の車両の一つである。図10では、列車に関しては車両TR6の主要な構成のみを示している。
【0090】
図10に示すように、第5接地回路は、第1接地回路に対して、磁気センサ112及び磁束検出部113が追加されている点以外、第1接地回路と同様である。
【0091】
磁気センサ112は、例えば、ホール素子等で構成されて、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1の中点(分岐点SP1)の近傍に、設置されている。磁束検出部113は、磁束密度に応じて磁気センサ112が発生する情報(例えば、出力(電圧))を受信し、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1の磁束量を判定する(検出する。)。磁束検出部113は、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1の磁束量に基づいて、各レール107に流出する電車電流の不平衡の発生を判定する。即ち、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1(オートトランス)の中点付近においては、各第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1上の電流の大きさが等しければ、各々が発生させる磁束は相殺されるため、磁気センサ112と磁束検出部113では何も検出されない(検出される磁束量は小さくなる。)。従って、磁束検出部113は、例えば、検出した磁束量が所定の閾値磁束量以上である場合、電車電流の不平衡が発生していると判定する。これに対して、磁束検出部113は、例えば、検出した磁束量が所定の閾値磁束量より小さい場合、電車電流の不平衡が発生していないと判定する。
【0092】
<効果>
第5接地回路は、第1接地回路と同様の効果を奏する。更に、第5接地回路によれば、簡易な方法により、電車電流の偏りの発生(異常発生)のタイミングを検出し、トレース(分析、記録)することができる。従って、第5接地回路は、不具合発生時の調査分析及び接地装置のメンテナンス判断等に活用されることができる。
【0093】
<<変形例>>
本発明は上記各実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。更に上記各実施形態の特徴は、本発明の範囲を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0094】
例えば、各実施形態において、漏れ磁束を減少させるために、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1にフィライトコアが挿入されるようにしてもよい。例えば、各実施形態において、分岐前電線101はその一部がコイル状に巻回された分岐前コイル巻線部を含むようにしてもよい。例えば、各実施形態において、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1の何れかが省略されてもよい。例えば、各実施形態において、第1コイル巻線部102a1及び第2コイル巻線部102b1の両方が省略され、分岐前電線101が分岐前コイル巻線部を含むようにしてもよい。
【符号の説明】
【0095】
100…主変換装置、101…分岐前電線、102a…第1分岐電線、102b…第2分岐電線、102a1…第1コイル巻線部、102b1…第2コイル巻線部、104a…第1接地装置、104b…第2接地装置、105…車輪、106…車軸、107…レール、200…架線、201…パンタグラフ、202…高圧電線
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10