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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】非常時制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/14 20060101AFI20241118BHJP
【FI】
B60T7/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021094990
(22)【出願日】2021-06-07
(65)【公開番号】P2022187137
(43)【公開日】2022-12-19
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 仁希
(72)【発明者】
【氏名】増田 敦
(72)【発明者】
【氏名】巻幡 智明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光伸
(72)【発明者】
【氏名】及川 和紀
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-063048(JP,A)
【文献】特表2020-524112(JP,A)
【文献】国際公開第2020/230896(WO,A1)
【文献】特開2019-077228(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0123644(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/14
B60T 7/12
B60W 40/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの異常時に車両を制動する非常時制動制御を行う非常時制動制御部と、
前記車両が、ブレーキペダルの操作量に応じて算出された減速指示値に基づいてブレーキを駆動制御する電子制御ブレーキシステムを搭載したEBS車であるか、又は前記電子制御ブレーキシステムを搭載していない非EBS車であるか、を判定するEBS判定部と、を備え、
前記非常時制動制御部は、前記EBS判定部の判定結果に対応した減速指示値に基づいて前記非常時制動制御を行う、
非常時制動制御装置。
【請求項2】
前記非常時制動制御部は、前記EBS判定部により前記車両が前記非EBS車であると判定された場合、前記EBS判定部により前記車両が前記EBS車であると判定された場合に比べて緩やかに減速が行われるように、前記非常時制動制御を行う、
請求項1に記載の非常時制動制御装置。
【請求項3】
前記非常時制動制御部は、
前記EBS判定部により前記車両が前記EBS車であると判定された場合、第一減速度の前記減速指示値に基づいて前記非常時制動制御を行い、
前記EBS判定部により前記車両が前記非EBS車であると判定された場合、減速度が徐々に大きくなって前記第一減速度となる前記減速指示値に基づいて前記非常時制動制御を行う、
請求項1又は2に記載の非常時制動制御装置。
【請求項4】
前記EBS判定部は、前記電子制御ブレーキシステムからの信号を受信した場合は、前記車両が前記EBS車であると判定し、前記電子制御ブレーキシステムからの信号を受信していない場合は、前記車両が前記非EBS車であると判定する、
請求項1~3の何れか一項に記載の非常時制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバの異常時に車両を減速させる非常時制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子制御ブレーキシステム(EBS:Electronic BrakeSystem)を搭載したEBS車が知られている(例えば、特許文献1参照)。電子制御ブレーキシステムでは、ブレーキペダルの操作量に応じて算出された減速指示値に基づいてブレーキを駆動制御している。また、ドライバの異常時に車両を制動する非常時制動制御を行う非常時制動制御装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-063048号公報
【文献】特表2020-524112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、EBS車では、電子制御ブレーキシステムによりブレーキペダルの操作量に応じて算出された減速指示値に基づいてブレーキを駆動制御している。このため、EBS車に非常時制動制御装置を搭載する場合、非常時制動制御装置は、電子制御ブレーキシステムを利用して、所定の減速指示値に基づくブレーキの駆動制御により、非常時制動制御を行うことができる。
【0005】
一方、EBSを搭載していない非EBS車では、ワイヤー、エア圧、油圧等の物理的な動力伝達手段を利用して、ブレーキペダルの操作量に応じてブレーキを駆動している。このため、非EBS車に非常時制動制御装置を搭載する場合、非常時制動制御装置は、EBS車のように電子制御ブレーキシステムを利用して非常時制動制御を行うことができない。そこで、例えば、ワイヤー、エア圧、油圧等の物理的な動力伝達手段を利用してブレーキを駆動するブレーキシステムに、電子制御ブレーキシステムのような減速指示値に基づくブレーキの駆動制御を可能とする装置を取り付けることで、非EBS車に非常時制動制御装置を搭載することができる。
【0006】
しかしながら、EBS車と非EBS車とでは、ブレーキの駆動系統が異なるため、非常時制動制御装置から同じ減速指示値を出力しても実制動量が異なるという問題が生じる。例えば、非EBS車では、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大きくなり易いため、EBS車に比べて実制動量が大きくなったり小さくなったりする現象が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、EBS車と非EBS車との間の実制動量の乖離を抑制することができる非常時制動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る非常時制動制御装置は、ドライバの異常時に車両を制動する非常時制動制御を行う非常時制動制御部と、車両が、ブレーキペダルの操作量に応じて算出された減速指示値に基づいてブレーキを駆動制御する電子制御ブレーキシステムを搭載したEBS車であるか、又は電子制御ブレーキシステムを搭載していない非EBS車であるか、を判定するEBS判定部と、を備え、非常時制動制御部は、EBS判定部の判定結果に対応した減速指示値に基づいて非常時制動制御を行う。
【0009】
この非常時制動制御装置では、非常時制動制御部が、車両がEBS車であるか非EBS車であるかの判定結果に対応した減速指示値に基づいて非常時制動制御を行うため、EBS車と非EBS車との間の実制動量の乖離を抑制することができる。
【0010】
非常時制動制御部は、EBS判定部により車両が非EBS車であると判定された場合、EBS判定部により車両がEBS車であると判定された場合に比べて緩やかに減速が行われるように、非常時制動制御を行ってもよい。この非常時制動制御装置では、車両が非EBS車であると判定された場合、車両がEBS車であると判定された場合に比べて緩やかに減速が行われるように、非常時制動制御が行われることで、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大きくなるのを抑制することができる。
【0011】
非常時制動制御部は、EBS判定部により車両がEBS車であると判定された場合、第一減速度の減速指示値に基づいて非常時制動制御を行い、EBS判定部により車両が非EBS車であると判定された場合、減速度が徐々に大きくなって第一減速度となる減速指示値に基づいて非常時制動制御を行ってもよい。EBS車では、非常時制動制御装置は電子制御ブレーキシステムを利用して非常時制動制御を行うことができる。このため、車両がEBS車であると判定された場合、第一減速度の減速指示値に基づいて非常時制動制御を行うことで、迅速に車両を減速させることができる。一方、非EBS車では、非常時制動制御装置は電子制御ブレーキシステムを利用して非常時制動制御を行うことができない。このため、この非常時制動制御装置では、車両が非EBS車であると判定された場合、減速度が徐々に大きくなって第一減速度となる減速指示値に基づいて非常時制動制御を行うことで、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大きくなるのを抑制することができる。
【0012】
EBS判定部は、電子制御ブレーキシステムからの信号を受信した場合は、車両がEBS車であると判定し、電子制御ブレーキシステムからの信号を受信していない場合は、車両が非EBS車であると判定してもよい。この非常時制動制御装置では、電子制御ブレーキシステムからの信号を受信有無によって車両がEBS車であるか非EBS車であるかを判定することで、車両がEBS車であるか非EBS車であるかを容易に判定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、EBS車と非EBS車との間の実制動量の乖離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る非常時制動制御装置が搭載されたEBS車を示すブロック構成図である。
図2】実施形態に係る非常時制動制御装置が搭載された非EBS車を示すブロック構成図である。
図3】EBS車用減速指示値マップの一例を示す図である。
図4】非EBS車用減速指示値マップの一例を示す図である。
図5】EBS車における非常時制動制御の減速指示値と実制動量との関係を示す図である。
図6】非EBS車における非常時制動制御の減速指示値と実制動量との関係を示す図である。
図7】比較例の非EBS車における非常時制動制御の減速指示値と実制動量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、実施形態に係る非常時制動制御装置4Aが搭載されたEBS車1Aを示すブロック構成図である。図1に示すように、EBS車1Aは、電子制御ブレーキシステム2Aと、ブレーキ3Aと、非常時制動制御装置4Aと、を備える。つまり、EBS車1Aは、電子制御ブレーキシステム2Aを備えた車両1である。
【0017】
電子制御ブレーキシステム2Aは、CAN(Controller AreaNetwork)等の通信回線を通じて、ドライバによるブレーキペダルの操作等に応じて算出された減速指示値に基づいてブレーキ3Aを駆動制御するシステムである。ブレーキ3Aは、CAN等の通信回線を通じた電子制御ブレーキシステム2Aの駆動制御によりブレーキアクチュエータ(不図示)を作動させる制動装置である。ドライバによりブレーキペダルが操作されると、電子制御ブレーキシステム2Aは、ブレーキペダルの操作量等に応じた減速指示値を算出する。減速指示値は、ブレーキ3Aを駆動制御するための減速度の指示値である。そして、電子制御ブレーキシステム2Aは、CAN等の通信回線等を通じて、算出した減速指示値をブレーキ3Aに出力する。ブレーキ3Aは、実制動量が減速指示値となるようにブレーキアクチュエータを作動させる。実制動量は、ブレーキ3Aの駆動制御により車両1に実際に作用している減速度である。
【0018】
非常時制動制御装置4Aは、ドライバの異常時に、EBS車1Aを制動する非常時制動制御を行う。非常時制動制御は、ドライバの操作によらず、EBS車1Aを減速させて停車させる制御である。EBS車1Aでは、電子制御ブレーキシステム2Aを利用して非常時制動制御装置4Aによる非常時制動制御を行う。つまり、EBS車1Aでは、非常時制動制御装置4Aは、電子制御ブレーキシステム2Aと同様に、CAN等の通信回線等を通じて、所定の減速指示値をブレーキ3Aに出力し、ブレーキ3Aは、実制動量が減速指示値となるようにブレーキアクチュエータを作動させる。また、電子制御ブレーキシステム2Aは、電子制御ブレーキシステム2Aが作動しているか否かを示すEBS作動有無信号を非常時制動制御装置4A等に出力する。
【0019】
図2は、実施形態に係る非常時制動制御装置4Bが搭載された非EBS車1Bを示すブロック構成図である。図2に示すように、非EBS車1Bは、ブレーキ3Bと、非常時制動制御装置4Bと、を備える。つまり、非EBS車1Bは、EBSを備えない車両1である。
【0020】
ブレーキ3Bは、ワイヤー、エア圧、油圧等の物理的な動力伝達手段を利用して、ドライバによるブレーキペダルの操作に基づいてブレーキアクチュエータを作動させる制動装置である。また、ブレーキ3Bは、ワイヤー、エア圧、油圧等の物理的な動力伝達手段とは別に、CAN等の通信回線が接続されており、CAN等の通信回線を通じた非常時制動制御装置4Bによる駆動制御が可能となっている。つまり、ブレーキ3Bは、CAN等の通信回線を通じた非常時制動制御装置4Bによる駆動制御によりブレーキアクチュエータ(不図示)を作動させることが可能となっている。
【0021】
非常時制動制御装置4Bは、EBS車1Aに搭載される非常時制動制御装置4Aと同じである。つまり、非常時制動制御装置4Bは、ドライバの異常時に、非EBS車1Bを制動する非常時制動制御を行う。非常時制動制御は、非EBS車1Bを減速させて停車させる制御である。非EBS車1Bでは、ワイヤー、エア圧、油圧等の物理的な動力伝達手段ではなく、CAN等の通信回線を通じて、非常時制動制御装置4Bによる非常時制動制御を行う。つまり、非EBS車1Bでは、非常時制動制御装置4Bは、EBS車1AのようにCAN等の通信回線等を通じて、所定の減速指示値をブレーキ3Bに出力し、ブレーキ3Bは、実制動量が減速指示値となるようにブレーキアクチュエータを作動させる。
【0022】
非常時制動制御装置4Aと非常時制動制御装置4Bとは、搭載される車両1がEBS車1Aであるのか非EBS車1Bであるのかの違いだけで、基本的に同じ構成であるため、特に分けて説明する場合を除き、非常時制動制御装置4として纏めて説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、非常時制動制御装置4は、ドライバ異常判定部11と、EBS判定部12と、非常時制動制御部13と、を備える。非常時制動制御装置4は、CPU、ROM、RAM等を有する電子制御ユニット(ECU)である。非常時制動制御装置4では、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、CPUで実行することで、各種の制御を実行する。非常時制動制御装置4は、単一の電子制御ユニットにより構成されていてもよく、複数の電子制御ユニットにより構成されていてもよい。また、ドライバ異常判定部11、EBS判定部12、及び非常時制動制御部13は、同じ電子制御ユニットにより構成されていてもよく、異なる電子制御ユニットにより構成されていてもよい。
【0024】
ドライバ異常判定部11は、ドライバが異常であるか否かを判定する。ドライバの異常とは、運転に支障が生じるようなドライバの異常をいう。ドライバ異常判定部11は、例えば、ドライバの頭部の位置が所定範囲内に無い場合、ドライバの顔の向きが所定範囲内に無い場合、ドライバの姿勢が所定範囲内に無い場合、ドライバの眼が所定時間以上閉ざされている場合等に、ドライバが異常であると判定する。
【0025】
EBS判定部12は、非常時制動制御装置4が搭載されている車両1が、EBS車1Aであるのか非EBS車1Bであるのかを判定する。EBS判定部12は、例えば、EBS車1Aが出力するEBS作動有無信号を受信しているか否かに基づいて、非常時制動制御装置4が搭載されている車両1が、EBS車1Aであるのか非EBS車1Bであるのかを判定する。つまり、EBS判定部12は、EBS作動有無信号を受信している場合は、非常時制動制御装置4が搭載されている車両1がEBS車1Aであると判定し、EBS作動有無信号を受信していない場合は、非常時制動制御装置4が搭載されている車両1が非EBS車1Bであると判定する。なお、EBS判定部12は、車両1の出荷時又は出荷後の設定により、非常時制動制御装置4が搭載されている車両1が、EBS車1Aであるのか非EBS車1Bであるのかを判定してもよい。
【0026】
非常時制動制御部13は、ドライバ異常判定部11及びEBS判定部12の判定結果に基づいて、非常時制動制御を行う。非常時制動制御部13は、EBS判定部12により車両1が非EBS車1Bであると判定された場合、EBS判定部12により車両1がEBS車1Aであると判定された場合に比べて緩やかに減速が行われるように、非常時制動制御を行う。例えば、非常時制動制御装置4は、EBS判定部12により車両1がEBS車1Aであると判定された場合、第一減速度の減速指示値に基づいて非常時制動制御を行い、EBS判定部12により車両1が非EBS車1Bであると判定された場合、減速度が徐々に大きくなって第一減速度となる減速指示値に基づいて非常時制動制御を行う。
【0027】
具体的に説明すると、、非常時制動制御部13は、ドライバ異常判定部11によりドライバが異常と判定され、かつ、EBS判定部12で車両1がEBS車1Aであると判定された場合に、EBS車用減速指示値マップに示された減速指示値により、非常時制動制御を行う。また、非常時制動制御部13は、ドライバ異常判定部11によりドライバが異常と判定され、かつ、EBS判定部12で車両1が非EBS車1Bであると判定された場合に、非EBS車用減速指示値マップに示された減速指示値により、非常時制動制御を行う。
【0028】
図3は、EBS車用減速指示値マップの一例を示す図である。図4は、非EBS車用減速指示値マップの一例を示す図である。図3及び図4に示すように、非常時制動制御部13は、EBS車用減速指示値マップ及びEBS車用減速指示値マップを備えている。EBS車用減速指示値マップ及び非EBS車用減速指示値マップは、横軸に、非常時制動制御を開始してからの経過時間を示しており、縦軸に、減速指示値を示している。EBS車用減速指示値マップ及びEBS車用減速指示値マップは、例えば、非常時制動制御装置4からアクセス可能な記憶装置に記憶されている。そして、非常時制動制御部13は、非常時制動制御を行う際に記憶装置から読み出す。
【0029】
図3に示すように、EBS車用減速指示値マップでは、時間0で、減速指示値が第一減速度D1となり、時間0から時間t1まで、減速指示値が第一減速度D1に維持され、時間t1で、減速指示値が第一減速度D1から第二減速度D2に立ち上がり、時間t1以降は、減速指示値が第二減速度D2に維持される。第一減速度D1は、例えば0.1Gであり、第二減速度D2は、例えば0.25Gである。このため、EBS車1Aに搭載された非常時制動制御装置4Aの非常時制動制御部13は、非常時制動制御を開始すると、第一減速度D1の減速指示値を出力し、時間t1になるまで第一減速度D1の減速指示値を出力し続け、時間t1になると第二減速度D2の減速指示値を出力し続ける。
【0030】
図4に示すように、非EBS車用減速指示値マップでは、時間0から時間t2まで、減速指示値が0Gから第一減速度D1まで連続的又は段階的に高くなり、時間t2から時間t1まで、減速指示値が第一減速度D1に維持され、時間t1で、減速指示値が第一減速度D1から第二減速度D2に立ち上がり、時間t1以降は、減速指示値が第二減速度D2に維持される。なお、時間t2は、時間0と時間t1との間の時間である。このため、非EBS車1Bに搭載された非常時制動制御装置4Bの非常時制動制御部13は、非常時制動制御を開始すると、時間t2になるまで0Gから第一減速度D1まで連続的又は段階的に高くなる減速指示値を出力し、時間t2になると時間t1になるまで第一減速度D1の減速指示値を出力し続け、時間t1になると第二減速度D2の減速指示値を出力し続ける。
【0031】
このように、EBS車用減速指示値マップでは、時間0で、減速指示値が一気に第一減速度D1となる。これに対し、非EBS車用減速指示値マップでは、時間0で、減速指示値が一気に第一減速度D1となるのではなく、時間0から時間t2まで、減速指示値が0Gから第一減速度D1まで連続的又は段階的に高くなる。このため、非常時制動制御部13は、EBS判定部12により車両1が非EBS車1Bであると判定された場合、EBS判定部12により車両1がEBS車1Aであると判定された場合に比べて緩やかに減速が行われるように、非常時制動制御を行う。より具体的には、EBS判定部12により車両1がEBS車1Aであると判定された場合、非常時制動制御部13は、第一減速度D1の減速指示値に基づいて非常時制動制御を行う。一方、EBS判定部12により車両1が非EBS車1Bであると判定された場合、非常時制動制御部13は、減速度が徐々に大きくなって第一減速度D1となる減速指示値、つまり、0Gから第一減速度D1まで連続的又は段階的に高くなる減速指示値に基づいて非常時制動制御を行う。
【0032】
ここで、図5図7を参照して、EBS車1A、非EBS車1B、及び比較例の非EBS車における、非常時制動制御の減速指示値と実制動量との関係について説明する。図5は、EBS車1Aにおける非常時制動制御の減速指示値と実制動量との関係を示す図である。図6は、非EBS車1Bにおける非常時制動制御の減速指示値と実制動量との関係を示す図である。図7は、比較例の非EBS車における非常時制動制御の減速指示値と実制動量との関係を示す図である。図5図7では、減速指示値を実線で示し、実制動量を破線で示している。比較例の非EBS車では、EBS車1Aと同様の減速指示値マップ(図3に示すEBS車用減速指示値マップ)に基づいて減速指示値を出力する。なお、図5図7では、非常時制動制御が開始される時間を時間0としている。
【0033】
EBS車1Aでは、電子制御ブレーキシステム2Aを利用して非常時制動制御装置4Aによる非常時制動制御を行う。このため、図5に示すように、EBS車1Aでは、時間0で減速指示値が一気に第一減速度D1となっても、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが小さい。このため、EBS車1Aでは、時間0で減速指示値が第一減速度D1となることで、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートを抑制しつつ、ドライバ異常時に出来るだけ早く制動することができる。
【0034】
比較例の非EBS車では、EBS車1Aとは異なり、ドライバ正常時は、ワイヤー、エア圧、油圧等の物理的な動力伝達手段によりブレーキ3Bを駆動制御し、ドライバ異常時は、EBS車1AのようにCAN等の通信回線等を通じてブレーキ3Bを駆動制御する。このため、図7に示すように、比較例の非EBS車では、時間0で減速指示値が一気に第一減速度D1となると、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大きくなる。
【0035】
非EBS車1Bでは、比較例の非EBS車と同様に、ドライバ正常時は、ワイヤー、エア圧、油圧等の物理的な動力伝達手段によりブレーキ3Bを駆動制御し、ドライバ異常時は、EBS車1AのようにCAN等の通信回線等を通じてブレーキ3Bを駆動制御する。しかしながら、図6に示すように、非EBS車1Bでは、時間0で減速指示値が一気に第一減速度D1となるのではなく、時間0から時間t2まで減速指示値が0Gから第一減速度D1まで連続的又は段階的に高くなるため、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが、比較例の非EBS車に比べて大幅に小さくなる。
【0036】
なお、減速している車両の減速度を高くする場合は、減速していない車両(減速度が0の車両)を減速させる場合に比べて、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大幅に小さくなる。このため、図6及び図7に示すように、非EBS車1B及び比較例の非EBS車の何れにおいても、時間t1で減速指示値が第一減速度D1から第二減速度D2に立ち上がっているが、第二減速度D2の減速指示値が出力されたときの、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが抑制されている。
【0037】
但し、第一減速度D1及び第二減速度D2の設定、車両の走行状態、道路状態等によっては、減速している車両の減速度を高くする場合であっても、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大きくなる可能性がある。特に、非EBS車1Bでは、この傾向が大きく表れやすい。このため、図3及び図4の破線で示すように、EBS車用減速指示値マップ及び非EBS車用減速指示値マップでは、時間t1から時間t3まで、減速指示値が第一減速度D1から第二減速度D2まで連続的又は段階的に高くなり、時間t3以降は、減速指示値が第二減速度D2に維持されていてもよい。つまり、第一減速度D1から第二減速度D2まで、減速度の変化に時間的な傾斜を持たせたてもよい。時間t3は、時間t1以降の時間である。この場合、非常時制動制御部13は、時間t1から時間t3まで、減速指示値が第一減速度D1から第二減速度D2まで連続的又は段階的に高くなる減速指示値を出力し、時間t3になると第二減速度D2の減速指示値を出力し続ける。これにより、第二減速度D2の減速指示値が出力されたときの、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが更に抑制される。
【0038】
また、図3及び図4の破線で示すように、減速指示値が第一減速度D1から第二減速度D2まで連続的又は段階的に高くなる場合であっても、時間経過に対する減速指示値の変化割合が大きくなると、つまり、減速指示値が第一減速度D1から第二減速度D2になる速度が大きくなると、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大きくなりやすくなる。このような場合、非常時制動制御部13は、EBS判定部12により車両1が非EBS車1Bであると判定された場合、EBS判定部12により車両1がEBS車1Aであると判定された場合に比べて、第一減速度D1から第二減速度D2までの時間経過に対する減速指示値の変化割合を小さくしてもよい。これにより、非EBS車1Bにおける減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが小さくなる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る非常時制動制御装置4では、非常時制動制御部13が、車両1がEBS車1Aであるか非EBS車1Bであるかの判定結果に対応した減速指示値に基づいて非常時制動制御を行うため、EBS車1Aと非EBS車1Bとの間の実制動量の乖離を抑制することができる。
【0040】
また、車両1が非EBS車1Bであると判定された場合、車両1がEBS車1Aであると判定された場合に比べて緩やかに減速が行われるように、非常時制動制御が行われることで、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大きくなるのを抑制することができる。
【0041】
また、EBS車1Aでは、非常時制動制御装置4Aは電子制御ブレーキシステム2Aを利用して非常時制動制御を行うことができる。このため、車両1がEBS車1Aであると判定された場合、第一減速度D1の減速指示値に基づいて非常時制動制御を行うことで、迅速に車両1を減速させることができる。一方、非EBS車1Bでは、非常時制動制御装置4Bは電子制御ブレーキシステムを利用して非常時制動制御を行うことができない。このため、この非常時制動制御装置4では、車両1が非EBS車1Bであると判定された場合、減速度が徐々に大きくなって第一減速度D1となる減速指示値に基づいて非常時制動制御を行うことで、減速指示値に対する実制動量のオーバーシュートが大きくなるのを抑制することができる。
【0042】
また、電子制御ブレーキシステム2Aからの信号を受信有無によって車両1がEBS車1Aであるか非EBS車1Bであるかを判定することで、車両1がEBS車1Aであるか非EBS車1Bであるかを容易に判定することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…車両、1A…EBS車、1B…非EBS車、2A…電子制御ブレーキシステム、3A…ブレーキ、3B…ブレーキ、4…非常時制動制御装置、4A…非常時制動制御装置、4B…非常時制動制御装置、11…ドライバ異常判定部、12…EBS判定部、13…非常時制動制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7