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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】二次電池、電池パック及び車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20241118BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241118BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241118BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241118BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241118BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20241118BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M50/489
H01M50/449
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021117887
(22)【出願日】2021-07-16
(65)【公開番号】P2023013584
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 隼人
(72)【発明者】
【氏名】久保木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】松野 真輔
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-092955(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218456(WO,A1)
【文献】特開2009-110931(JP,A)
【文献】特開2020-149875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/58
H01M 50/489
H01M 50/449
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータと、
少なくとも前記正極に保持される第1水系電解質とを含み、
前記第1水系電解質のpHは8.1以上13.9以下であり、
前記正極活物質は、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物を含み、
前記セパレータは、25℃において1×10 -10 S/cm以上のリチウムイオン伝導度を有する固体電解質を含む固体電解質膜、及び/又は、透気係数が1×10 -19 2 以上1×10 -15 2 未満の範囲内にある多孔質シートを備える二次電池。
【請求項2】
前記第1水系電解質のpHは13.0以上である請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記リチウム含有化合物は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムマンガンコバルト複合酸化物、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、及び、リチウムバナジウムリン酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記セパレータは、前記多孔質シートの少なくとも一方の主面上に前記固体電解質膜が積層された複合固体電解質膜を備える請求項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記複合固体電解質膜の透気係数は、1×10-192以上1×10-152未満の範囲内にある請求項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記負極に少なくとも保持される第2水系電解質を更に含み、
前記第2水系電解質のpHは8.0以上である請求項1~の何れか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記第2水系電解質のpHは13.0以上である請求項に記載の二次電池。
【請求項8】
請求項1~の何れか1項に記載の二次電池を具備した電池パック。
【請求項9】
通電用の外部端子と、保護回路とを更に含む請求項に記載の電池パック。
【請求項10】
複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が、直列、並列、又は、直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項又はに記載の電池パック。
【請求項11】
請求項~1の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
【請求項12】
前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む請求項1に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池、電池パック及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として炭素材料又はリチウムチタン酸化物を、正極活物質としてニッケル、コバルト及びマンガン等を含有する層状酸化物用いた非水電解質電池、特にリチウム二次電池が、幅広い分野における電源として既に実用化されている。このような非水電解質電池の形態は、各種電子機器用などの小型の物から、電気自動車用などの大型の物まで多岐にわたる。これらリチウム二次電池の電解液には、ニッケル水素電池又は鉛蓄電池と異なり、エチレンカーボネートやメチルエチルカーボネートなどが混合された非水系の有機溶媒が用いられている。これらの溶媒を用いた電解液は、水溶液電解液よりも耐酸化性および耐還元性が高く、溶媒の電気分解が起こりにくい。そのため、非水系のリチウム二次電池では、2V~4.5Vの高い起電力を実現することができる。
【0003】
一方で、有機溶媒の多くは可燃性物質であるため、有機溶媒を用いた二次電池の安全性は、水溶液を用いた二次電池に比べて原理的に劣りやすい。有機溶媒を含む電解液を用いたリチウム二次電池の安全性を向上させるために種々の対策がなされているものの、必ずしも十分とはいえない。また、非水系のリチウム二次電池は、製造工程において、ドライ環境が必要になるため、製造コストが必然的に高くなる。そのほか、有機溶媒を含む電解液は導電性が劣るので、非水系のリチウム二次電池の内部抵抗が高くなりやすい。このような課題は、電池安全性及び電池コストが重要視される電気自動車又はハイブリッド電気自動車、更には電力貯蔵向けの大型蓄電池用途においては、大きな欠点となっている。
【0004】
これらの課題を解決するために、電解液の水溶液化の検討がなされている。電解液を水溶液化する場合の問題点の1つとして、水系電解液を用いる二次電池が備える正極では、正極活物質材料中において、プロトンとリチウムとの間でプロトン交換反応を生じることが挙げられる。プロトン交換反応は、例えば、結晶格子におけるリチウムがプロトンと交換したり、結晶構造中のリチウムイオンが挿入されうるサイトをプロトンが占有したりする反応である。充放電サイクルを繰り返すことによりプロトン交換反応が生じると、二次電池の容量が徐々に低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開第2018-160342号公報
【文献】特開第2019-160748号公報
【文献】特開第2020-149930号公報
【文献】特開第2018-163893号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yong-gang et al. "Hybrid Aqueous Energy Storage Cells Using Activated Carbon and Lithium-Ion Intercalated Compounds" Journal of The Electrochemical Society, 154(3) A228-A234 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされ、優れたサイクル寿命特性を示す二次電池、この二次電池を具備した電池パック、及びこの電池パックを具備した車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によると、二次電池が提供される。この二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、正極及び負極の間に配置されたセパレータと、少なくとも正極に保持される第1水系電解質とを含む。第1水系電解質のpHは8.1以上13.9以下である。正極活物質は、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物を含む。セパレータは、25℃において1×10 -10 S/cm以上のリチウムイオン伝導度を有する固体電解質を含む固体電解質膜、及び/又は、透気係数が1×10 -19 2 以上1×10 -15 2 未満の範囲内にある多孔質シートを備える。
【0009】
他の実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、実施形態に係る二次電池を含む。
【0010】
他の実施形態によると、車両が提供される。この車両は、実施形態に係る電池パックを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に二次電池の一例を概略的に示す部分切欠断面図。
図2図1の二次電池の側面図。
図3】実施形態の二次電池の他の例を概略的に示す部分切欠斜視図。
図4図3のA部の拡大断面図。
図5】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
図6】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
図7図6に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
図8】実施形態に係る車両の一例を概略的に示す断面図。
図9】実施形態に係る車両の他の例を概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態によると、二次電池が提供される。この二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、正極及び負極の間に配置されたセパレータと、少なくとも正極に保持される第1水系電解質とを含む。第1水系電解質のpHは7超である。正極活物質は、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物を含む。
【0014】
二次電池に水系電解質が用いられる場合は、水系電解質の副反応として水の電気分解が起こり得る。水の電気分解では、負極において式(1)に示す化学反応が起こり、正極において式(2)で示す化学反応が起こる。
2H + 2e ⇒ H (1)
2HO⇒ O + 4H+ + 4e (2)
【0015】
また、水の電気分解等の水系電解質の酸化還元反応では、酸化反応による分解が発生しない電位窓、及び、還元反応による分解が発生しない電位窓が、存在する。例えば、水の電気分解では、ネルンストの式から、負極の電位E1に関して式(3)で示す関係が成立すると、還元反応によって負極において水素が発生し易くなる。そして、正極の電位E2に関して式(4)で示す関係が成立すると、酸化反応によって正極において酸素が発生し易くなる。ここで、式(3)及び式(4)においてpHは、水系電解質のpHを示す。
E1 < -0.059 × pH (3)
E2 > 1.23 - 0.059 × pH (4)
【0016】
式(4)から分かるように、或る作動電位を示す正極活物質について、正極と接するpHが低いほど、右辺がより大きくなるため、酸素が発生し難くなる傾向がある。一方、正極と接するpHが高いほど、右辺がより小さくなるため、酸素が発生し易くなる傾向がある。
【0017】
これまで、水系電解質を用いた二次電池においては、酸素発生を抑制する観点から、正極側水系電解質のpHを酸性(即ち、pH7未満)とすることが行われていた。しかしながら、正極側水系電解質のpHを酸性にした場合、当該溶液中のプロトン濃度が高いため、正極におけるプロトン交換が生じ易い。その結果、充放電サイクルを繰り返すことにより容量維持率が低下し易いことが分かってきた。実施形態に係る二次電池は、正極側水系電解質のpHが塩基性(即ち、pH7超)であるため、正極におけるプロトン交換が抑制される。加えて、実施形態に係る二次電池は、正極活物質として平均作動電位が4.0V(vs.Li/Li)未満のリチウム含有化合物を含む。それ故、上記式(4)における左辺が小さいため、酸素発生が抑制される。その結果、実施形態に係る二次電池は、優れたサイクル寿命特性を示すことができる。
【0018】
以下、実施形態に係る二次電池について詳細に説明する。
【0019】
実施形態に係る二次電池において、正極、負極及びセパレータは、電極群を構成することができる。二次電池は、少なくとも負極に保持される第2水系電解質を備えることができる。二次電池は、正極側及び負極側の水系電解質として、互いに同一の第1水系電解質を備えていてもよい。言い換えると、二次電池は、正極側の水系電解質として第1水系電解質を備え、且つ、負極側の水系電解質として第1水系電解質を備えていてもよい。
【0020】
二次電池は、電極群、第1水系電解質及び第2水系電解質を収容可能な外装部材を更に具備することができる。また、二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0021】
以下、正極、負極、第1水系電解質、第2水系電解質、セパレータ及び外装部材について詳細に説明する。
【0022】
(1)正極
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に形成され得る。正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0023】
正極は、少なくとも第1水系電解質を保持している。第1水系電解質は、例えば、正極活物質含有層に含浸されている。第1水系電解質の詳細は後述する。
【0024】
正極活物質は、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物を含む。この場合、酸素過電圧が高くなるため酸素発生を抑制することができる。正極活物質に含まれるリチウム含有化合物の平均作動電位は、3.9V(vs.Li/Li+)以下であってもよく、3.8V以下であってもよく、3.7V以下であってもよい。低い平均作動電位を有する正極活物質を用いると、酸素発生が抑制されるため、正極劣化を抑制することができる。つまり、高い放電容量維持率を達成できる。電池容量の観点から、正極活物質に含まれるリチウム含有化合物の平均作動電位は、3.5V(vs.Li/Li+)以上であることが望ましい。
【0025】
金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物の例に、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2;0<x≦1、0<y<1)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4;0<x≦1、LixTi2(PO43;0<x≦1、LixFe1-yMnyPO4;0<x≦1、0<y<1、LixCoPO4;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)、及び、リチウムバナジウムリン酸化物(例えばLix2(PO4);0<x<3)が含まれる。
【0026】
これらの中でも、正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)を含むことが好ましい。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、塩基性条件下においても酸素を発生させることなしに高い電圧を維持することができる。即ち、高いエネルギー密度を実現することができる。また、塩基性条件下でリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物に対するプロトン交換は抑制されやすいため、優れた容量維持率を実現することができる。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の具体的な例として、例えば、LiNi0.5Co0.2Mn0.32、LiNi0.8Co0.1Mn0.12、LiNi0.6Co0.2Mn0.22及びLiNi0.333Co0.333Mn0.3332を挙げることができる。
【0027】
実施形態に係る正極活物質は、平均作動電位が4.0V(vs.Li/Li+)以上である他の活物質を含んでいてもよい。正極活物質全体に占める他の活物質の割合は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。つまり、正極活物質は、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物のみからなっていてもよい。
【0028】
正極活物質の一次粒径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0029】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0030】
結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidenefluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシルメチルセルロース(carboxylmethylcellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0031】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
【0032】
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0033】
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0034】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0035】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0036】
正極集電体は、チタン、アルミニウム及びステンレスなどの金属箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。集電体と電解質との反応による集電体の腐食を防止するため、集電体表面を異種元素で被覆してもよい。
【0037】
正極集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
【0038】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0039】
正極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、正極活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、正極集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、正極活物質含有層と正極集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、正極を作製する。
【0040】
或いは、正極は、次の方法により作製してもよい。まず、正極活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを正極集電体上に配置することにより、正極を得ることができる。
【0041】
(2)負極
負極は、負極集電体と、負極集電体の片面又は両面に担持される負極活物質含有層とを含み得る。負極活物質含有層は、負極活物質を含んでいる。負極活物質含有層は、負極集電体の少なくとも1つの面上に配置されている。例えば、負極集電体上の1つの面に負極活物質含有層が配置されていてもよく、負極集電体上の1つの面とその裏面とに負極活物質含有層が配置されていてもよい。
【0042】
負極集電体の材料には、アルカリ金属イオンが挿入又は脱離するときの負極電位範囲において、電気化学的に安定である物質が用いられる。負極集電体は、例えば、アルミニウム箔、又は、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)及びケイ素(Si)から選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。負極集電体は、多孔体又はメッシュなどの他の形態であってもよい。負極集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0043】
また、負極集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
【0044】
負極活物質含有層の多孔度は、20%以上50%以下にすることが望ましい。これにより、水系電解質との親和性に優れ、かつ高密度な負極を得ることができる。負極活物質含有層の多孔度は、25%以上40%以下であることがより好ましい。
【0045】
負極活物質含有層の多孔度は、例えば、水銀圧入法により得ることができる。具体的には、まず、水銀圧入法により、活物質含有層の細孔分布を得る。次いで、この細孔分布から全細孔量を算出する。次いで、全細孔量と活物質含有層の体積との比から、多孔度を算出することが出来る。
【0046】
負極活物質としては、リチウムイオン吸蔵放出電位が金属リチウムを基準とする電位で、1V(vs.Li/Li)以上3V以下(vs.Li/Li)である化合物を用いることができる。すなわち、第1実施形態に係る二次電池は、上述したように、初回充電後は、負極の水素発生電位を低い状態で維持することができる。したがって、この二次電池の負極活物質には、リチウムイオン吸蔵放出電位の下限値が比較的低いものを用いることができる。このような負極活物質を用いると、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。それゆえ、この二次電池は非水電解質を用いた電池と同等のエネルギー密度を実現することができる。
【0047】
負極活物質としては、具体的には、チタン酸化物、又はチタン含有酸化物を使用することができる。チタン含有酸化物としては、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物、ナトリウムニオブチタン複合酸化物などを使用することができる。負極活物質は、チタン酸化物及びチタン含有酸化物を1種、又は2種以上含むことができる。
【0048】
チタン酸化物は、例えば、単斜晶構造のチタン酸化物、ルチル構造のチタン酸化物、アナターゼ構造のチタン酸化物を含む。各結晶構造のチタン酸化物は、充電前の組成をTiO2、充電後の組成をLiTiO(xは0≦x≦1)で表すことができる。また、単斜晶構造のチタン酸化物の充電前構造をTiO(B)と表すことができる。
【0049】
リチウムチタン酸化物は、例えば、スピネル構造のリチウムチタン酸化物(例えば一般式Li4+xTi12(xは-1≦x≦3))、ラムスデライト構造のリチウムチタン酸化物(例えば、Li2+xTi(-1≦x≦3))、Li1+xTi(0≦x≦1)、Li1.1+xTi1.8(0≦x≦1)、Li1.07+xTi1.86(0≦x≦1)、LiTiO(0<x≦1)などを含む。また、リチウムチタン酸化物は、異種元素が導入されているリチウムチタン複合酸化物であってもよい。
【0050】
ニオブチタン複合酸化物は、例えば、LiTiMNb2±β7±σ(0≦a≦5、0≦b≦0.3、0≦β≦0.3、0≦σ≦0.3、MはFe,V,Mo及びTaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)で表されるものを含む。
【0051】
ナトリウムチタン複合酸化物は、例えば、一般式Li2+VNa2―WM1Ti6-y-zNbM214+δ(0≦v≦4、0≦w<2、0≦x<2、0≦y<6、0≦z<3、-0.5≦δ≦0.5、M1はCs,K,Sr,Ba,Caより選択される少なくとも1つを含み、M2はZr,Sn,V,Ta,Mo,W,Fe,Co,Mn,Alより選択される少なくとも1つを含む)で表される直方晶(orthorhombic)型Na含有ニオブチタン複合酸化物を含む。
【0052】
負極活物質としては、アナターゼ構造のチタン酸化物、単斜晶構造のチタン酸化物、スピネル構造のリチウムチタン酸化物又はこれらの混合物を用いることが好ましい。これらの酸化物を負極活物質として用いると、例えば正極活物質としてのリチウムマンガン複合酸化物と組み合わせることで、高い起電力を得ることができる。
【0053】
負極活物質は、例えば粒子の形態で負極活物質含有層に含まれている。負極活物質粒子は、一次粒子、一次粒子の凝集体である二次粒子、あるいは、単独の一次粒子及び二次粒子の混合物であり得る。粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円形状、扁平形状、及び繊維状などにすることができる。
【0054】
負極活物質の一次粒子の平均粒子径(直径)は3μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上1μm以下である。負極活物質の二次粒子の平均粒子径(直径)は30μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0055】
この一次粒子径及び二次粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求めた粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径を意味している。レーザー回折式の粒度分布測定装置としては、例えば、島津SALD-300を用いる。測定に際しては、2秒間隔で64回光度分布を測定する。この粒度分布測定を行う際の試料としては、負極活物質粒子の濃度が0.1重量%乃至1重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドンで希釈した分散液を用いる。あるいは、測定試料としては、0.1gの負極活物質を、界面活性剤を含む1~2mlの蒸留水に分散させたものを用いる。
【0056】
負極活物質含有層は、負極活物質の他に、導電剤及び結着剤などを含んでいてもよい。導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために、必要に応じて配合される。結着剤は、活物質、導電剤及び集電体を結着させる作用を有する。
【0057】
導電剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛及びコークスなどの炭素質物が含まれる。導電剤は、1種類であってもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0058】
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と負極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidenefluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシルメチルセルロース(carboxymethylcellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0059】
負極活物質含有層における導電剤及び結着剤の配合比は、それぞれ、活物質100重量部に対して1重量部以上20重量部以下、0.1重量部以上10重量部以下の範囲であることが好ましい。導電剤の配合比が1重量部以上であると負極の導電性を良好にすることができ、20重量部以下であると導電剤表面での水系電解質の分解を低減することができる。結着剤の配合比が0.1重量部以上であると十分な電極強度が得られ、10重量部以下であると電極の絶縁部を減少させることができる。
【0060】
負極は、例えば、以下の方法により得ることができる。まず、活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製する。次いで、このスラリーを集電体の片面又は両面に塗布する。集電体上の塗膜を乾燥することにより活物質含有層を形成する。その後、集電体及びその上に形成された活物質含有層にプレスを施す。活物質含有層としては、活物質、導電剤及び結着剤の混合物をペレット状に形成したものを用いてもよい。
【0061】
正極活物質及び負極活物質の結晶構造及び元素組成は、例えば、以下に説明する粉末X線回折(XRD:X-ray diffraction)測定及び誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光法により確認することができる。
【0062】
<活物質の粉末X線回折測定>
活物質の粉末X線回折測定は、例えば次のように行うことができる。
まず、対象試料を平均粒子径が5μm程度となるまで粉砕する。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、ひび割れ、空隙等が生じないように、過不足ない量の試料を充填するように注意する。次いで、外部から別のガラス板を押し付けて、ホルダー部分に充填された試料の表面を平らにする。充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。
【0063】
次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu-Kα線を用いて回折パターン(XRDパターン;X‐Ray Diffraction pattern)を取得する。
【0064】
なお、試料の粒子形状により粒子の配向が大きくなる場合がある。試料の配向性が高い場合は、試料の充填の仕方によってピークの位置がずれたり、強度比が変化したりする可能性がある。このように配向性が著しく高い試料は、ガラスキャピラリを用いて測定する。具体的には、試料をキャピラリに挿入し、このキャピラリを回転式試料台に載置して測定する。このような測定方法により、配向性を緩和することができる。ガラスキャピラリとしては、直径1mm~6mmφのリンデマンガラス製キャピラリを用いることが好ましい。
【0065】
二次電池又は電極に含まれる活物質について粉末X線回折測定を行う場合は、例えば以下のように行うことができる。
まず、活物質の結晶状態を把握するために、活物質からリチウムイオンが完全に離脱した状態にする。例えば、活物質が負極において用いられている場合、電池を完全に放電状態にする。例えば、電池を25℃環境において0.1C電流で定格終止電圧又は電池電圧が1.0Vに到達するまで放電させることを複数回繰り返し、放電時の電流値が定格容量の1/100以下となるようにすることで、電池を放電状態にすることができる。放電状態でも残留したリチウムイオンが存在することもある。
【0066】
次に、アルゴンを充填したグローブボックス中で電池を分解し、電極を取り出して、適切な溶媒で洗浄する。適切な溶媒としては、例えばエチルメチルカーボネートを用いることができる。電極の洗浄が不十分であると、電極中に残留したリチウムイオンの影響で、炭酸リチウムやフッ化リチウムなどの不純物相が混入することがある。その場合は測定雰囲気を不活性ガス中で行える気密容器を用いるとよい。このとき、集電体である金属箔、導電剤及びバインダなどに由来するピークを、EDXを用いてあらかじめ測定して把握しておく。もちろん、これらを事前に把握できているのであれば、この操作は省略することができる。集電体のピークと活物質のピークとが重なる場合、集電体から活物質含有層を剥離して測定することが望ましい。これは、ピーク強度を定量的に測定する際、重なったピークを分離するためである。活物質含有層を物理的に剥離しても良い。活物質含有層は、適切な溶媒中で超音波をかけると剥離しやすい。集電体から活物質含有層を剥離するのに超音波処理を行った場合、溶媒を揮発させることで、電極体粉末(活物質、導電剤、バインダを含む)を回収することができる。回収した電極体粉末を、例えばリンデマンガラス製キャピラリ等に充填して測定することで、活物質の粉末X線回折測定を行うことができる。なお、超音波処理を行って回収した電極体粉末は、粉末X線回折測定以外の各種分析に供することもできる。
【0067】
<ICP発光分光法>
活物質の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法を用いて分析することができる。このとき、各元素の存在比(モル比)は、使用する分析装置の感度に依存する。従って、測定されるモル比が、実際のモル比から測定装置の誤差分だけ数値がずれることがある。しかしながら、分析装置の誤差範囲で数値が逸脱したとしても、実施形態に係る活物質の性能を十分に発揮することができる。
【0068】
電池に組み込まれている活物質の組成をICP発光分光法により測定するには、具体的には以下の手順により行う。
【0069】
まず、粉末X線回折測定の項で説明した手順により、二次電池から、測定対象たる活物質を含んだ電極を取り出し、洗浄する。洗浄した電極から、活物質含有層など電極活物質が含まれている部分を剥離する。例えば、超音波を照射することにより電極活物質が含まれている部分を剥離することができる。具体例として、例えば、ガラスビーカー中に入れたエチルメチルカーボネートに電極を入れ、超音波洗浄機中で振動させることで、電極集電体から電極活物質を含む活物質含有層を剥離させることができる。
【0070】
次に、剥離した部分を大気中で短時間加熱して(例えば、500℃で1時間程度)、バインダ成分やカーボンなど不要な成分を焼失させる。この残渣を酸で溶解することで、活物質を含む液体サンプルを作成できる。このとき、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素などを使用できる。この液体サンプルをICP分析に供することで、活物質中の組成を知ることができる。
【0071】
<正極活物質の平均作動電位の測定>
二次電池を解体し、正極を取り出す。取り出した正極を純水で3回すすいだ後、120℃で12時間以上に亘って真空乾燥させる。その後、この正極において正極活物質含有層が両面に形成されている場合は、片面の層をNMPで剥がし、片面電極を作製する。片面電極の作製は、露点-20℃以下のドライ環境で行う。得られた電極を正極とし、対極をLiとしてコインセルを作製する。セパレータには例えばガラスフィルターを使うことができる。電解液にはエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:2の体積比で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させた電解液を用いる。
【0072】
対極Liに対して、4Vまで定電流充電した後、3Vまで定電流放電を行うことで充放電曲線を得る。活物質量当たりの容量をmAh/gと設定し、50mAh/gのときの充電電圧及び放電電圧の平均値を正極活物質の作動電位とする。なお、活物質量当たりに含まれている容量を決定するには、電極の単位重量当たりの活物質重量を求める必要がある。電極の単位重量当たりの活物質重量は、電極に対するXRD測定の結果を用いてリートベルト解析を行うことにより、電極に含まれる活物質の重量比率を算出することにより求めることができる。
【0073】
(3)第1水系電解質
第1水系電解質は、少なくとも正極に保持されている。第1水系電解質は、正極のみならず、負極及びセパレータのうち少なくとも一方にも保持され得る。二次電池が備える水系電解質は、第1水系電解質の1種類のみでもよい。即ち、第1水系電解質は、正極、負極及びセパレータの全てに保持されていてもよい。
【0074】
第1水系電解質は、例えば、水系溶媒と、電解質塩としてのリチウム塩とを含む液状水系電解質でありうる。第1水系電解質は、液状水系電解質と第1高分子材料とを複合化したゲル状水系電解質であってもよい。第1高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。第1水系電解質中の第1高分子材料の含有量は、例えば、0.5重量%以上10重量%以下の範囲内にある。
【0075】
水系溶媒は、水を含む溶媒であり、水単独、又は、水と水以外の溶媒からなり得る。水以外の溶媒として、水溶性の有機溶媒が挙げられる。水溶性の有機溶媒には、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、アルコール類、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及び、テトラヒドロフラン等が挙げられる。第1水系電解質の水系溶媒に含まれる溶媒の種類は、1種類又は2種類以上にすることができる。第1水系電解質の水系溶媒では、水以外の溶媒の含有量は、20重量%以下にすることが望ましい。
【0076】
第1水系電解質のpH値は7.0より大きい。即ち、第1水系電解質は塩基性である。第1水系電解質のpHが7超であるため、正極においてプロトン交換が生じるのを抑制することができる。その結果、充放電サイクルを繰り返した場合にも、例えば、正極活物質中に存在するリチウムイオンサイトがプロトンで占有されにくくなり、高い放電容量を維持しやすい。第1水系電解質のpHは、8.0以上であることが好ましく、13.0以上であることがより好ましい。
【0077】
第1水系電解質のpH値は、後述する第2水系電解質のpH値と同一であってもよく、異なっていてもよい。第1水系電解質のpH値及び第2水系電解質のpH値の双方が塩基性である場合、正極においてはプロトン交換が抑制される効果が得られ、負極においては水素発生が抑制される効果が得られるため、優れたサイクル寿命特性を達成することができる。実施形態に係る二次電池において、第1水系電解質のpH値及び第2水系電解質のpH値の双方が8.0以上であることが好ましく、これらの双方が13.0以上であることがより好ましい。
【0078】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、水系電解質のpH値は、25℃におけるpH値を意味する。
【0079】
第1水系電解質のpHは、例えば、HCl、H2SO4、LiOH、NaOH、KOH、テトラエチルアミンヒドロキシド溶液などの試薬で調整することができる。
【0080】
第1水系電解質は、例えば電解質塩を1~14mol/Lの濃度で水系溶媒に溶解することにより調製される。水系電解質中のリチウムイオンの濃度は6M(mol/L)以上であることが好ましい。これにより電解液のイオン伝導性が向上し、電池としての出力が向上する。また、リチウム塩濃度を高めると、水分子1つ当たりに対するリチウム原子の配位数が増加する。それ故、配位構造が安定化し、水の電気分解反応が抑制され、クーロン効率及びサイクル特性の向上に繋がる。より好ましい濃度は、6M~14Mの範囲内である。
【0081】
リチウム塩の例は、LiCl、LiBr、LiOH、Li2SO4、LiNO3、LiN(SO2CF32(LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiN(SO2F)2(LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、及びLiB[(OCO)2]2(LiBOB:リチウムビスオキサレートボラート)などを含む。使用するリチウム塩の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。また、水系電解質は、リチウム塩以外の塩を含んでいてもよい。リチウム塩以外の塩としては、例えば、ZnSO4を挙げることができる。
【0082】
第1水系電解質は、ナトリウム塩を更に含んでいてもよい。ナトリウム塩の例は、NaCl、Na2SO4、NaOH、NaNO3及びNaTFSA(ナトリウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)などを含む。使用するナトリウム塩の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0083】
(4)第2水系電解質
二次電池が第2水系電解質を備える場合、第2水系電解質は、少なくとも負極に保持されている。第2水系電解質は、負極のみならず、正極及びセパレータのうち少なくとも一方にも保持され得る。
【0084】
第2水系電解質は、例えば、水系溶媒と、電解質塩としてのリチウム塩とを含む液状水系電解質でありうる。第2水系電解質は、液状水系電解質と第2高分子材料とを複合化したゲル状水系電解質であってもよい。第2高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。第2水系電解質中の第2高分子材料の含有量は、例えば、0.5重量%以上10重量%以下の範囲内にある。
【0085】
水系溶媒は、水を含む溶媒であり、水単独、又は、水と水以外の溶媒からなり得る。水以外の溶媒として、水溶性の有機溶媒が挙げられる。水溶性の有機溶媒には、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、アルコール類、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及び、テトラヒドロフラン等が挙げられる。第2水系電解質の水系溶媒に含まれる溶媒の種類は、1種類又は2種類以上にすることができる。第2水系電解質の水系溶媒では、水以外の溶媒の含有量は、20重量%以下にすることが望ましい。
【0086】
第2水系電解質のpH値は、特に制限されないが、7.0より大きいことが好ましい。即ち、第2水系電解質は塩基性であることが好ましい。第2水系電解質のpHが7.0超である場合、負極における水素過電圧が高くなるため水素発生が抑制される。それ故、負極での充放電効率が高まる。その結果、二次電池において高い放電容量が得られると共に、二次電池の保存性能(自己放電性能)とサイクル寿命性能が向上する。第2水系電解質のpHは、8.0以上であることが好ましく、13.0以上であることがより好ましい。
【0087】
第2水系電解質のpHは、例えば、HCl、H2SO4、LiOH、NaOH、KOH、テトラエチルアミンヒドロキシド溶液などの試薬で調整することができる。
【0088】
第2水系電解質は、例えば電解質塩を1~14mol/Lの濃度で水系溶媒に溶解することにより調製される。水系電解質中のリチウムイオンの濃度は6M(mol/L)以上であることが好ましい。これにより、負極における水の電気分解を抑制し、負極からの水素発生を低減させることができる。より好ましい濃度は、6M~14Mの範囲内である。
【0089】
リチウム塩の例は、LiCl、LiBr、LiOH、Li2SO4、LiNO3、LiN(SO2CF32(LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiN(SO2F)2(LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、及びLiB[(OCO)2]2(LiBOB:リチウムビスオキサレートボラート)などを含む。使用するリチウム塩の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。また、水系電解質は、リチウム塩以外の塩を含んでいてもよい。リチウム塩以外の塩としては、例えば、ZnSO4を挙げることができる。
【0090】
第2水系電解質は、ナトリウム塩を更に含んでいてもよい。ナトリウム塩の例は、NaCl、Na2SO4、NaOH、NaNO3及びNaTFSA(ナトリウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)などを含む。使用するナトリウム塩の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0091】
第1水系電解質及び第2水系電解質は、それぞれ、溶質となる塩1molに対し、水系溶媒量が1mol以上であることが好ましい。さらに好ましい形態は、溶質となる塩1molに対する水系溶媒量が3.5mol以上である。
【0092】
第1水系電解質及び第2水系電解質のそれぞれに水が含まれているか否かは、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)測定により確認できる。また、水系電解質中の塩濃度および水含有量の算出は、例えばICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分析などで測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる塩濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。また水系電解質の比重を測定することで、溶質と溶媒のモル数を算出できる。
【0093】
<水系電解質のpH測定>
第1水系電解質及び第2水系電解質のpHの測定方法は、以下の通りである。
【0094】
二次電池を放電した後、電池を解体して電極群を取り出す。正極及び負極中の水系電解質(電解液)をそれぞれ抽出し、液量を測定後、pHメータでpH値を測定する。pH測定の測定は、例えば、25℃環境下にて以下のように行う。この測定には、例えば株式会社堀場製作所製のF-74を使用する。まず、pH4.0、7.0及び9.0の標準液を用意する。次に、これら標準液を用いて、F-74の校正を行う。測定対象の電解質(電解液)を適量調整したものを容器に入れ、pHを測定する。pHの測定後に、F-74のセンサー部を洗浄する。別の測定対象を測定する際は、上述した手順、即ち、校正、測定及び洗浄をその都度実施する。
【0095】
なお、水系電解質のpHは、電池を解体してから測定しても、水系電解質を調製した際に測定しても、その値は変わらない。充放電により局所的に(正極又は負極のごく近傍にて)pHが変動することはあり得るが、水系電解質全体、例えば第1水系電解質の全体、又は、第2水系電解質の全体ではpHは変動しない。
【0096】
(5)セパレータ
正極と負極との間にはセパレータを配置することができる。セパレータは、例えば、正極及び負極の対向部のうちの少なくとも一部に介在している。セパレータを絶縁材料で構成することで、正極と負極とが電気的に接触することを防止することができる。セパレータの例に、固体電解質膜、セラミックス膜、及び、多孔質シートが含まれる。セパレータとして、これらを単独で使用してもよく、これらの少なくとも2つが積層されたものを使用してもよい。多孔質シートとしては、例えば、不織布、フィルム及び紙などが挙げられる。セパレータは、例えば、多孔質シートの少なくとも一方の主面上に固体電解質膜を具備する複合固体電解質膜でありうる。複合固体電解質膜は、25℃において1×10-10S/cm以上のリチウムイオン伝導度を有する固体電解質を含む固体電解質膜、及び、透気係数が1×10-192以上1×10-152未満の範囲内にある多孔質シートを含むことが好ましい。なお、セパレータの透気係数は、特に制限されないが、1×10-192以上1×10-152未満の範囲内にあることが好ましい。
【0097】
固体電解質膜は、固体電解質粒子と、高分子材料(第3高分子材料)とを含み得る。固体電解質膜は、固体電解質粒子のみからなっていてもよい。固体電解質膜は、1種類の固体電解質粒子を含んでいてもよく、複数種類の固体電解質粒子を含んでいてもよい。固体電解質膜は、可塑剤及び電解質塩からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。固体電解質膜が電解質塩を含んでいると、例えば、固体電解質膜のアルカリ金属イオン伝導性をより高めることができる。なお、高分子材料の形態は、例えば、粒状、繊維状でありうる。
【0098】
固体電解質膜のリチウムイオン伝導度は、例えば、25℃において2×10-14S/cm以上である。25℃における固体電解質膜のリチウムイオン伝導度は、1×10-10S/cm以上であることが好ましく、1×10-7S/cm以上であることがより好ましい。固体電解質膜のリチウムイオン伝導度が2×10-14S/cm未満の場合、二次電池の充放電効率が低下する可能性がある。
【0099】
固体電解質膜は、板状で、ピンホールのような細孔の少ない、又はないものであることが好ましい。固体電解質膜の厚さは、特に制限されないが、例えば150μm以下であり、好ましくは20μm以上50μm以下の範囲内にある。
【0100】
固体電解質膜はリチウムイオン伝導性を有する。固体電解質膜の透気係数は特に制限されないが、例えば1×10-192以上、0以下である。固体電解質膜の透気係数は0であってもよい。固体電解質膜の透気係数は、1×10-192以上1×10-152未満の範囲内にあることが好ましい。この場合、第1水系電解質と第2水系電解質との時間による熱力学的な混合を、速度論的に抑制することができる。第1水系電解質と第2水系電解質とで同じpHの電解質を用いたとしても、例えば、初回充放電~20サイクル目の充放電までの間に副反応が生じる。この副反応により、セパレータと電極間の局所的な部分において、第1水系電解質は酸性になり酸化に強い電解質となる。一方、第2系電解質は塩基性になり還元に強い電解質となる。上記透気係数においては、この局所的なpHの変化を維持することが可能なため、第1水系電解質の酸化反応及び第2水系電解質の還元反応を抑制、クーロン効率及びサイクル特性を向上させることができる。
【0101】
また、正極側と負極側とで異なる電解質を用いてもよい。具体的には、例えば、正極側では酸化に強い第1水系電解質、負極側では還元に強い第2水系電解質を用いることができる。この場合にも、第1水系電解質の酸化反応及び第2水系電解質の還元反応を抑制することができるため、優れたクーロン効率及びサイクル特性を達成できる。
【0102】
セラミックス膜は、リチウムイオン伝導性を有していてもよく、有していなくてもよい。セラミックス膜のリチウムイオン伝導度は、例えば、25℃において2×10-14S/cm未満である。
【0103】
セラミックス膜の透気係数は、例えば1×10-192以上、0以下である。セラミックス膜の透気係数は0であってもよい。セラミックス膜を構成する材料の例に、酸化亜鉛(例えばZnO、ZnO)、アルミナ(例えばAl)、ジルコニア(例えばZrO)、酸化ホウ素(例えばB)及びチタン酸化物(例えばTiO、TiO)が含まれる。セラミックス膜は、固体電解質膜と同様に、高分子材料(第3高分子材料)を含んでいてもよい。
【0104】
不織布、フィルム及び紙などを構成する多孔質シートの構成材料の例に、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン、並びに、セルロースが含まれる。好ましい多孔質シートの例に、セルロース繊維を含む不織布、ポリオレフィン繊維を含む多孔質フィルムを挙げることができる。
【0105】
多孔質シートの透気係数は1×10-192以上1×10-152未満であることが好ましい。多孔質シートの透気係数が1×10-192以上の場合、多孔質シートに対して電解質が含浸しやすい。それ故、多孔質シートのリチウムイオン伝導性が高まり、抵抗が低くなる傾向がある。一方、多孔質シートの透気係数が1×10-152未満の場合、正負極間の電解質の速度論的な液混合を十分に防ぐことができる。つまり、正負極の水系電解質それぞれを、目的の電解質組成のまま保つことができるため、正極では酸化反応を、負極では還元反応を生じにくくすることができる。これにより、正負極表面におけるガス発生が抑制され、高いクーロン効率及びサイクル寿命特性を達成することができる。
【0106】
多孔質シートの気孔率は60%以上にすることが好ましい。また、繊維径は10μm以下が好ましい。繊維径を10μm以下にすることで、電解質に対する多孔質シートの親和性が向上するので電池抵抗を小さくすることができる。繊維径のより好ましい範囲は3μm以下である。気孔率が60%以上のセルロース繊維含有不織布は、電解質の含浸性が良く、低温から高温まで高い出力性能を出すことができる。また、長期充電保存、フロート充電、過充電においても負極と反応せず、リチウム金属のデンドライト析出による負極と正極の短絡が発生しない。より好ましい範囲は62%~80%である。
【0107】
多孔質シートは、厚さが20μm以上100μm以下、密度が0.2g/cm以上0.9g/cm以下であることが好ましい。この範囲であると、機械的強度と電池抵抗の軽減のバランスを取ることができ、高出力で内部短絡が抑制された二次電池を提供することができる。また、高温環境下でのセパレータの熱収縮が少なく、良好な高温貯蔵性能を出すことが出来る。
【0108】
セパレータは、25℃において1×10-10S/cm以上のリチウムイオン伝導度を有する固体電解質を含む固体電解質膜、及び/又は、透気係数が1×10-192以上1×10-152未満の範囲内にある多孔質シートを備えることが好ましい。この場合、第1水系電解質と第2水系電解質との時間による熱力学的な混合を、速度論的に抑制することができる。それ故、優れたクーロン効率及びサイクル寿命特性を達成することができる。
【0109】
複合固体電解質膜の透気係数は、例えば、1×10-192以上1×10-152未満の範囲内にあり、好ましくは1×10-182以上1×10-162以下の範囲内にある。固体電解質膜又は複合固体電解質膜の透気係数は、例えば、これらを作製する際の熱プレス時間を長くしたり、熱プレス圧力を高めたりすることによって、低める(即ち、通気性を悪くする)ことができる。或いは、固体電解質膜又は複合固体電解質膜が高分子材料を含む場合には、膜内に含まれる高分子材料の含有量を増大させることにより透気係数を低めることができる。これは高分子材料が熱プレスにより溶解して、膜内の空隙を埋めやすいためである。
【0110】
第3高分子材料として、第1又は第2高分子材料を用いてもよいが、第3高分子材料は水系溶媒に不溶な高分子材料が望ましい。この条件を満たす高分子材料には、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、フッ素含有高分子材料などが挙げられる。フッ素含有高分子材料を用いることにより、セパレータに撥水性を付与することができる。また、無機固体電解質は水に対する安定性が高く、かつリチウムイオン伝導度に優れている。リチウムイオン伝導性の無機固体電解質とフッ素含有高分子材料とを複合体化することにより、アルカリ金属イオン伝導性で柔軟性のある固体電解質膜が実現可能となる。この固体電解質膜からなるセパレータは、抵抗を低減することができるため、二次電池の大電流性能を向上することができる。
【0111】
フッ素含有高分子材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられる。フッ素含有高分子材料の種類は1種類または2種類以上にすることができる。
【0112】
固体電解質膜が第3高分子材料を含む場合、固体電解質膜に占める第3高分子材料の含有割合は1重量%以上20重量%以下が好ましい。この範囲であると、固体電解質膜の厚さを10~100μmの範囲にした際に高い機械的強度が得られ、かつ抵抗を低減することができる。さらに、固体電解質がリチウムイオン伝導性を阻害する要因になる恐れが低い。当該割合のより好ましい範囲は3重量%以上10重量%以下である。
【0113】
固体電解質としては、無機固体電解質を用いることが好ましい。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を挙げることができる。酸化物系固体電解質としては、NASICON型構造を有し、一般式LiM2(PO43で表されるリチウムリン酸固体電解質を用いることが好ましい。上記一般式中のMは、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の元素であることが好ましい。元素Mは、Ge、Zr及びTiの何れか1つの元素と、Alとを含むことがより好ましい。
【0114】
NASICON型構造を有するリチウムリン酸固体電解質の具体例としては、LATP(Li1+xAlTi2-x(PO)、Li1+xAlGe2-x(PO、Li1+xAlZr2-x(POを挙げることができる。上記式におけるxは、0<x≦5の範囲内にあり、0.1≦x≦0.5の範囲内にあることが好ましい。固体電解質としては、LATPを用いることが好ましい。LATPは、耐水性に優れ、二次電池内で加水分解を生じにくい。
【0115】
また、酸化物系固体電解質としては、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.30.46)、又はガーネット型構造のLLZ(Li7La3Zr212)を用いてもよい。
【0116】
<リチウムイオン伝導度の測定>
固体電解質膜のリチウムイオン伝導度は、以下のように測定することができる。二次電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で解体して、セパレータとしての固体電解質膜を備える電極群を取り出す。電極群を洗浄し、室温下で真空乾燥する。
【0117】
次いで、固体電解質膜の一部を削り取り、錠剤成形器を用いて、圧粉体に成形する。この圧粉体の両面に金(Au)電極を蒸着し、測定試料とする。その後、この測定試料に対して、ソーラトロン社製周波数応答アナライザ1260型を用いて測定を行う。測定周波数範囲は、5Hzから32MHzの範囲とする。測定は、測定試料を大気に暴露することなく乾燥アルゴン雰囲気下に入れ、25℃環境下にて行う。測定結果から、Liイオン伝導の交流インピーダンス成分ZLi[ohm]を求める。このZLiと測定試料の面積S[cm2]及び厚さd[cm]とから、下記式によって、固体電解質膜のイオン伝導率σLi[S/cm]を算出できる。
σLi=(1/ZLi)×(d/S)
【0118】
<透気係数測定>
セパレータの透気係数(m)は、以下のようにして算出する。透気係数KTの算出では、例えば、厚さL(m)のセパレータを測定対象とする場合、測定面積A(m)の範囲に、粘性係数σ(Pa・s)の気体を透過させる。この際、投入される気体の圧力p(Pa)が互いに対して異なる複数の条件で、気体を透過させ、複数の条件のそれぞれにおいて、セパレータを透過した気体量Q(m/s)を測定する。そして、測定結果から、圧力pに対する気体量Qをプロットし、傾きであるdQ/dpを求める。そして、厚さL、測定面積A、粘性係数σ及び傾きdQ/dpから、式(5)のようにして、透気係数KTが算出される。
【0119】
【数1】
【0120】
透気係数KTの算出方法の一例では、それぞれに直径10mmの孔が開いた一対のステンレス板でセパレータを挟み込む。そして、一方のステンレス板の孔から空気を圧力pで送り込む。そして、他方のステンレス板の孔から漏れる空気の気体量Qを測定する。孔の面積(25πmm)が測定面積Aとして用いられ、粘性係数σとしては0.000018Pa・sが用いられる。また、気体量Qは、100秒の間に孔から漏れる量δ(m)を測定し、測定された量δを100で割ることにより算出する。
【0121】
そして、圧力pが互いに対して少なくとも1000Pa離れる4点で、前述のようにして圧力pに対する気体量Qを測定する。例えば、圧力pが1000Pa、2500Pa、4000Pa及び6000Paとなる4点のそれぞれで、圧力pに対する気体量Qを測定する。そして、測定した4点について圧力pに対する気体量Qをプロットし、直線フィッティング(最小二乗法)によって圧力pに対する気体量Qの傾き(dQ/dp)を算出する。そして、算出した傾き(dQ/dp)に(σ・L)/Aを乗算することにより、透気係数KTを算出する。
【0122】
なお、セパレータの透気係数の測定においては、まず、電池を解体し、セパレータを電池の他の部品から分離する。セパレータの両面を純水で洗い流した後、純水に浸漬させて48時間以上放置する。その後、更に、セパレータの両面を純水で洗い流し、100℃の真空乾燥炉にて48時間以上乾燥させた後に、透気係数の測定を行う。測定した4箇所の中での透気係数が最も低い値になる箇所での値を、セパレータの透気係数とする。
【0123】
(6)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
【0124】
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
【0125】
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
【0126】
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
【0127】
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0128】
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0129】
本実施形態に係る二次電池は、角形、円筒形、扁平型、薄型、コイン型等の様々な形態で使用され得る。二次電池は、バイポーラ構造を有する二次電池であってもよい。この場合、複数直列のセルを1個のセルで作製できる利点がある。
【0130】
実施形態の二次電池の一例を図1図4を参照して説明する。
【0131】
図1及び図2に、金属製容器を用いた二次電池の一例を示す。
【0132】
電極群1は、矩形筒状の金属製容器2内に収納されている。電極群1は、正極3及び負極4をその間にセパレータ5を介在させて偏平形状となるように渦巻き状に捲回した構造を有する。第1水系電解質(図示しない)は、電極群1中の正極3に保持されている。一方、第2水系電解質(図示しない)は、電極群1中の負極4に保持されている。図2に示すように、電極群1の端面に位置する正極3の端部の複数個所それぞれに帯状の正極リード6が電気的に接続されている。また、この端面に位置する負極4の端部の複数個所それぞれに帯状の負極リード7が電気的に接続されている。この複数ある正極リード6は、一つに束ねられた状態で正極導電タブ8と電気的に接続されている。正極リード6と正極導電タブ8から正極端子が構成されている。また、負極リード7は、一つに束ねられた状態で負極導電タブ9と接続されている。負極リード7と負極導電タブ9から負極端子が構成されている。金属製の封口板10は、金属製容器2の開口部に溶接等により固定されている。正極導電タブ8及び負極導電タブ9は、それぞれ、封口板10に設けられた取出穴から外部に引き出されている。封口板10の各取出穴の内周面は、正極導電タブ8及び負極導電タブ9との接触による短絡を回避するために、絶縁部材11で被覆されている。
【0133】
図3及び図4に、ラミネートフィルム製金属製容器を用いた二次電池の一例を示す。
【0134】
積層型電極群1は、2枚の樹脂フィルムの間に金属層を介在したラミネートフィルムからなる袋状容器2内に収納されている。第1水系電解質(図示しない)は、電極群1中の正極3に保持されている。一方、第2水系電解質(図示しない)は、電極群1中の負極4に保持されている。積層型電極群1は、図4に示すように正極3と負極4とをその間にセパレータ5を介在させながら交互に積層した構造を有する。正極3は複数枚存在し、それぞれが集電体3aと、集電体3aの両面に形成された正極活物質含有層3bとを備える。負極4は複数枚存在し、それぞれが集電体4aと、集電体4aの両面に形成された負極活物質含有層4bとを備える。各負極4の集電体4aは、一辺が正極3から突出している。突出した集電体4aは、帯状の負極端子12に電気的に接続されている。帯状の負極端子12の先端は、容器2から外部に引き出されている。また、図示しないが、正極3の集電体3aは、集電体4aの突出辺と反対側に位置する辺が負極4から突出している。負極4から突出した集電体3aは、帯状の正極端子13に電気的に接続されている。帯状の正極端子13の先端は、負極端子12とは反対側に位置し、容器2の辺から外部に引き出されている。電極群1の両方の最外層にセパレータ5が位置している。一方の最外層のセパレータ5が正極3と対向し、他方の最外層のセパレータ5が負極4と対向している。
【0135】
図1図4に示す二次電池には、容器内に発生した水素ガスを外部に放出させるための安全弁を設けることができる。安全弁は、内圧が設定値よりも高くなった場合に作動し、内圧が低下すると封止栓として機能する復帰式、一度作動すると封止栓としての機能が回復しない非復帰式のいずれでも使用可能である。また、図1図4に示す二次電池は、密閉式であるが、水素ガスを水に戻す循環システムを備える場合には開放系とすることが可能である。
【0136】
以上に説明した第1実施形態によると、二次電池が提供される。この二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、正極及び負極の間に配置されたセパレータと、少なくとも正極に保持される第1水系電解質とを含む。第1水系電解質のpHは7超である。正極活物質は、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物を含む。この二次電池では、正極活物質に対するプロトン交換が抑制される上、正極における酸素発生も抑制される。従って、実施形態に係る二次電池は、優れたサイクル寿命特性を達成することができる。
【0137】
(第2実施形態)
第2実施形態によると、組電池が提供される。第2実施形態に係る組電池は、第1実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
【0138】
第2実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0139】
次に、第2実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0140】
図5は、第2実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。図5に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第1実施形態に係る二次電池である。
【0141】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子12と、隣に位置する単電池100bの正極端子13とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、図5の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
【0142】
5つの単電池100a-100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子13は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a-100eうち少なくとも1つの電池の負極端子12は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
【0143】
第2実施形態に係る組電池は、第1実施形態に係る二次電池を具備する。従って、この組電池は、優れたサイクル寿命特性を示すことができる。
【0144】
(第3実施形態)
第3実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第2実施形態に係る組電池を具備している。この電池パックは、第2実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第1実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
【0145】
第3実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0146】
また、第3実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0147】
次に、第3実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0148】
図6は、第3実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。図7は、図6に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0149】
図6及び図7に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0150】
図6に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0151】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0152】
複数の単電池100の少なくとも1つは、第3実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、図7に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0153】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0154】
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
【0155】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0156】
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
【0157】
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
【0158】
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
【0159】
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0160】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0161】
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
【0162】
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0163】
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0164】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0165】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子の正側端子と負側端子としてそれぞれ用いてもよい。
【0166】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0167】
第3実施形態に係る電池パックは、第1実施形態に係る二次電池又は第2実施形態に係る組電池を備えている。従って、この電池パックは、優れたサイクル寿命特性を示すことができる。
【0168】
(第4実施形態)
第4実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第3実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0169】
第4実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含んでいてもよい。
【0170】
第4実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0171】
車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0172】
車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0173】
次に、第4実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0174】
図8は、実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
【0175】
図8に示す車両400は、車両本体40と、実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。図8に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0176】
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0177】
図8では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0178】
次に、図9を参照しながら、第4実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
【0179】
図9は、第4実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図である。図9に示す車両400は、電気自動車である。
【0180】
図9に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位の制御装置である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
【0181】
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、図9に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
【0182】
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
【0183】
電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a-300cは、前述の電池パック300と同様の電池パックであり、組電池200a-200cは、前述の組電池200と同様の組電池である。組電池200a-200cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
【0184】
組電池200a-200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。組電池200a-200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
【0185】
電池管理装置411は、組電池監視装置301a-301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a-200cに含まれる単電池100のそれぞれについて電圧及び温度などに関する情報を収集する。これにより、電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を収集する。
【0186】
電池管理装置411と組電池監視装置301a-301cとは、通信バス412を介して接続されている。通信バス412では、1組の通信線が複数のノード(電池管理装置411と1つ以上の組電池監視装置301a-301cと)で共有されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
【0187】
組電池監視装置301a-301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a-200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
【0188】
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との間の電気的な接続の有無を切り替える電磁接触器(例えば図9に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a-200cへの充電が行われるときにオンになるプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、組電池200a-200cからの出力が負荷へ供給されるときにオンになるメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチ及びメインスイッチのそれぞれは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフに切り替わるリレー回路(図示せず)を備えている。スイッチ装置415等の電磁接触器は、電池管理装置411又は車両400全体の動作を制御する車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。
【0189】
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411又は車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。インバータ44が制御されることにより、インバータ44からの出力電圧が調整される。
【0190】
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。駆動モータ45の回転によって発生する駆動力は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
【0191】
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構(リジェネレータ)を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。変換された直流電流は、車両用電源41に入力される。
【0192】
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子417に接続されている。接続ラインL1には、負極端子414と負極入力端子417との間に電池管理装置411内の電流検出部(電流検出回路)416が設けられている。
【0193】
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子418に接続されている。接続ラインL2には、正極端子413と正極入力端子418との間にスイッチ装置415が設けられている。
【0194】
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
【0195】
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置411を含む他の管理装置及び制御装置とともに車両用電源41、スイッチ装置415、及びインバータ44等を協調制御する。車両ECU42等の協調制御によって、車両用電源41からの電力の出力及び車両用電源41の充電等が制御され、車両400全体の管理が行われる。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
【0196】
第4実施形態に係る車両は、第3実施形態に係る電池パックを搭載している。それ故、本実施形態によれば、優れたサイクル寿命特性を示すことができる電池パックを搭載した車両を提供することができる。
【0197】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0198】
本願明細書において、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2を「NCM523」と呼ぶ。LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2を「NCM811」と呼ぶ。LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2を「NCM622」と呼ぶ。LiNi0.333Co0.333Mn0.333O2を「NCM111」と呼ぶ。LiNi0.5Mn0.5O2を「NM55」と呼ぶ。LiNi0.5Co0.5O2を「NC55」と呼ぶ。NCM523の平均作動電位は3.9V(vs.Li/Li)である。NCM811の平均作動電位は3.8V(vs.Li/Li)である。NCM622の平均作動電位は3.85V(vs.Li/Li)である。NCM111の平均作動電位は3.95V(vs.Li/Li)である。NM55の平均作動電位は3.95V(vs.Li/Li)である。NC55の平均作動電位は3.95V(vs.Li/Li)である。
【0199】
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などのロックソルト型の結晶構造を有するリチウム含有化合物において、1mol当たりのリチウム含有化合物中に含まれるニッケルの割合が増加するほど、平均作動電位は低下する傾向がある。
【0200】
参考例1)
<正極の作製>
以下のようにして正極を作製した。
【0201】
正極活物質としてロックソルト型の結晶構造を有するNCM523(5g)、導電剤としてアセチレンブラック(0.25g)、及び、結着剤としてPVDF分散液(固形分率8%のNMP溶液、6.25g)を、混練機を用いて3分間混合して、粘稠性スラリーを得た。このスラリーを、Ti箔の片面上に塗布した。その後、120℃で溶媒を留去して積層体を得た。次いで、この積層体を、ロールプレスを用いて圧延した。その後、この積層体を乾燥させた後、直径10mmの円形に打ち抜いた。
【0202】
<負極の作製>
負極活物質としてLiTi12(10g)、導電剤としてグラファイト(1g)、結着剤としてPTFE分散液(固形分40重量%, 1g)、及び、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)8gを、混練機を用いて3分間混合して、スラリーを得た。このスラリーを、Zn箔の片面上に塗布した。その後、120℃で溶媒を留去して積層体を得た。次いで、この積層体を、ロールプレスを用いて、圧延した。その後、この積層体を乾燥させた後、直径10mmの円形に打ち抜いた。
【0203】
<水系電解質の調整>
第1水系電解質(正極側水系電解質)及び第2水系電解質(負極側水系電解質)として、それぞれ、12mol/Lの濃度で塩化リチウム(LiCl)を含む液状電解質を調製した。このうちの一方についてpH調製用の試薬として水酸化リチウム(LiOH)を用いて、第1水系電解質のpHを7.4に調整した。他方についてpH調製用の試薬として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて、第2水系電解質のpHを13.0に調整した。
【0204】
<セパレータの作製>
無機固体電解質粒子としてのLATP(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43)と、高分子材料としてのポリビニルブチラール(PVB)とを、溶媒としてのNMPに分散させて固体電解質膜形成用スラリーを調製した。LATPとPVBとの混合比(質量比)は、9:1であった。得られたスラリーを不織布上に塗布し、130℃の温度で60秒間に亘り熱プレスすることにより、複合固体電解質膜を作製した。
【0205】
<試験用二次電池の作製>
プラスチック板上に、アルミニウム板を固定し、その上に負極を固定した。別のプラスチック板上にTi板を固定し、その上に正極を固定した。負極の上に、先に作製した第2水系電解質を滴下し、その上にセパレータを置いて、負極とセパレータとを密着させた。セパレータ表面のうち、負極と接していない側に第1水系電解質を滴下し、この上から正極を置いてセパレータと正極とを密着させた。その後、負極、セパレータ及び正極を挟み込んでいる2枚のプラスチック板同士をねじで固定した。
【0206】
参考例2,実施例-7)
第1水系電解質のpHを表1に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0207】
(実施例8-13)
第1及び第2水系電解質のpHを表1に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0208】
参考例14,15,実施例1-26)
正極活物質として、NCM523の代わりにNCM811を使用し、第1及び第2水系電解質のpHを表1に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0209】
参考例27,28,実施例2-39)
正極活物質として、NCM523の代わりにNCM622を使用し、第1及び第2水系電解質のpHを表2に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0210】
参考例40-42、実施例4-52)
正極活物質として、NCM523の代わりにNCM111を使用し、第1及び第2水系電解質のpHを表2に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0211】
参考例53,54,実施例5-65)
正極活物質として、NCM523の代わりにNM55を使用し、第1及び第2水系電解質のpHを表3に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0212】
参考例66,67,実施例6-78)
正極活物質として、NCM523の代わりにNC55を使用し、第1及び第2水系電解質のpHを表3に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0213】
参考例79,実施例80-90)
正極活物質として、NCM523の代わりにオリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43を使用し、第1及び第2水系電解質のpHを表4に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。オリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43の平均作動電位は3.5V(vs.Li/Li)である。
【0214】
(実施例91)
第1水系電解質のpHを表4に示すように変更すると共に、セパレータとして、透気係数が1×10-162である複合固体電解質膜を使用したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0215】
透気係数が1×10-162である複合固体電解質膜は、熱プレスを100℃で実施したことを除いて、参考例1で作製した複合固体電解質膜と同様の方法で作製した。熱プレス温度を低下させるとバインダとしての高分子材料が軟化しにくくなるため、複合固体電解質膜の緻密性が向上しにくい。言い換えれば、透気係数が高い(通気性が高い)複合固体電解質膜を作製することができる。
【0216】
(実施例92)
正極活物質としてオリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43を使用したことを除いて、実施例91と同様の方法で二次電池を作製した。
【0217】
(実施例93)
セパレータとして、透気係数が1×10-182である複合固体電解質膜を使用したことを除いて、実施例91と同様の方法で二次電池を作製した。
【0218】
透気係数が1×10-182である複合固体電解質膜は、LATPとPVBとの混合比(質量比)を8:2としたことを除いて、参考例1で作製した複合固体電解質膜と同様の方法で作製した。固体電解質膜内におけるバインダとしての高分子材料の含有量が高まると、透気係数が低い(通気性が低い)、緻密な膜を作製することができる。
【0219】
(実施例94)
正極活物質としてオリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43を使用したことを除いて、実施例93と同様の方法で二次電池を作製した。
【0220】
(実施例95)
セパレータとして、透気係数が0m2であるLATP固体電解質膜を使用したことを除いて、実施例91と同様の方法で二次電池を作製した。LATP固体電解質膜は、以下のように作製した。まず、原料粉末としてLiO、Al、TiO及びPの粉末を準備した。これらを混合し、500℃以上の温度で焼結させた。この際、圧力をかけながら焼結することで、密度が高く粒子界面の少ないLATP固体電解質膜を作成した。LATP固体電解質膜のLiイオン伝導度を第1実施形態において記載した方法に従って測定したところ、3.0×10-4S/cmであった。
【0221】
(実施例96)
正極活物質としてオリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43を使用したことを除いて、実施例95と同様の方法で二次電池を作製した。
【0222】
参考例97)
セパレータとして、透気係数が1×10-152である多孔質フィルムを使用したことを除いて、実施例91と同様の方法で二次電池を作製した。

【0223】
参考例98)
正極活物質としてオリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43を使用したことを除いて、参考例97と同様の方法で二次電池を作製した。
【0224】
(実施例99)
セパレータとして、透気係数が1×10-162である多孔質フィルムを使用したことを除いて、実施例91と同様の方法で二次電池を作製した。
【0225】
(実施例100)
正極活物質としてオリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43を使用したことを除いて、実施例99と同様の方法で二次電池を作製した。
【0226】
参考例101)
セパレータとして、透気係数が0m2であるアルミナ(Al23)セラミックス膜を使用したことを除いて、実施例95と同様の方法で二次電池を作製した。アルミナセラミックス膜のLiイオン伝導度を第1実施形態において記載した方法に従って測定したところ、0S/cmであった。アルミナセラミックス膜は、Al23粒子を1000℃の環境下で圧力を加えながら加熱することにより作成した。
【0227】
参考例102)
正極活物質としてオリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43を使用したことを除いて、参考例101と同様の方法で二次電池を作製した。
【0228】
参考例103)
セパレータとして、透気係数が1×10-132である多孔質フィルムを使用したことを除いて、実施例91と同様の方法で二次電池を作製した。
【0229】
参考例104)
正極活物質としてオリビン型の結晶構造を有するLiFe(PO43を使用したことを除いて、参考例103と同様の方法で二次電池を作製した。
【0230】
(比較例1及び2)
第1水系電解質のpHを表5に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0231】
(比較例3及び4)
正極活物質として、NCM523の代わりに、平均作動電位が4.7V(vs.Li/Li)のLiCoPO4を使用し、第1水系電解質のpHを表5に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0232】
(比較例5)
正極活物質として、平均作動電位が4.0V(vs.Li/Li)のリチウムマンガン複合酸化物(LixMn24:LMO)を使用し、第1水系電解質のpHを表5に示すように変更したことを除いて、参考例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0233】
(比較例6)
正極活物質として、平均作動電位が4.1V(vs.Li/Li)の岩塩構造を有するLiNi0.5Mn1.54を使用したことを除いて、比較例5と同様の方法で二次電池を作製した。
【0234】
(比較例7)
正極活物質として、平均作動電位が4.6V(vs.Li/Li)のスピネル型結晶構造を有するLiNi0.5Mn1.54を使用したことを除いて、比較例5と同様の方法で二次電池を作製した。
【0235】
(比較例8)
正極活物質として、平均作動電位が4.2V(vs.Li/Li)のLiCoO2を使用したことを除いて、比較例5と同様の方法で二次電池を作製した。
【0236】
<定電流充放電試験>
各例において作製した試験用二次電池について、電池の作製後に待機時間無しで速やかに試験を開始した。充電及び放電のいずれも0.5Cレートで行った。充電時は、電流値が0.25Cになるまで、充電時間が130分間になるまで、又は、充電容量が170mAh/gになるまで、のいずれか早いものを終止条件とした。放電時は130分後を終止条件とした。
【0237】
上記充電を1回行い、上記放電を1回行うことを充放電の1サイクルとし、20サイクル目の充電容量と放電容量とから以下の式に従ってクーロン効率(充放電効率)を百分率にて算出した。
[クーロン効率](%)=100×[放電容量]/[充電容量]
【0238】
更に充放電サイクルを繰り返して、100サイクル目の放電容量を測定した。そして、5サイクル目の放電容量(mAh/g)に対する100サイクル目の放電容量(mAh/g)(放電容量維持率)を下記式に従って百分率にて算出した。
[放電容量維持率](%)=100×[100サイクル目放電容量]/[5サイクル目放電容量]
【0239】
<透気係数測定>
第1実施形態において説明した方法に従って各例に係る二次電池を分解し、セパレータの透気係数を測定した。
【0240】
以上の結果を表1~表5にまとめる。表1~表5には、各例における正極活物質組成、正極活物質の平均作動電位(V)、第1水系電解質の組成、第1水系電解質のpH、第2水系電解質の組成、第2水系電解質のpH、セパレータの種類又は組成、セパレータの透気係数、20サイクル後充放電効率(%)、及び、100サイクル後放電容量維持率(%)を示している。
【0241】
【表1】
【0242】
【表2】
【0243】
【表3】
【0244】
【表4】
【0245】
【表5】
【0246】
表1~表5から読み取れるように、第1水系電解質のpHが7を超えており、正極活物質として、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物を含む実施例3~13,16~26,29~39,43~52,55~65,68~78、80~96、99~100は、20サイクル後充放電効率、及び、100サイクル後放電容量維持率の双方について優れていた。
【0247】
第1水系電解質のpHが7以下である比較例1及び2は、充放電効率については比較的優れていたが、放電容量維持率は劣っていた。これは、高いプロトン濃度を有する第1水系電解質と接する正極において、充放電サイクルを繰り返すことによるプロトン交換が徐々に生じたためと考えられる。
【0248】
比較例3及び4は、いずれも、第1水系電解質のpHが7以下であり、且つ、平均作動電位が4.7V(vs.Li/Li)の正極活物質を使用した例である。これら例においては、プロトン交換による放電容量維持率の低下に加えて、正極における酸素発生が増加したため、充放電効率も劣っていたと考えられる。
【0249】
比較例5-8に示すように、正極活物質の組成を変化させた場合であっても、その平均作動電位が4.0V(vs.Li/Li)以上の場合には、第1水系電解質のpHが7を超えていても、サイクル寿命特性に劣る。塩基性条件下において、平均作動電圧が4.0V(vs.Li/Li)以上の正極活物質を使用すると、プロトン交換による放電容量の低下は抑制できる。即ち、充放電効率は比較的優れている。一方で、塩基性条件下では水の酸化反応(O2発生)が、正極活物質へのLi挿入脱離反応よりも有利に進むため、放電容量維持率が劣っていたと考えられる。
【0250】
第1水系電解質のpHが高まると、高い充放電効率を保ったまま、放電容量維持率が改善する。このことは、例えば、実施例-7、1-20、2-33、4-46、5-59、6-72及び80―84から読み取ることができる。第1水系電解質のpHは8.0以上であることが好ましく、13.0以上であることがより好ましい。
【0251】
また、負極側の第2水系電解質のpHが高いほど、前述の通り水素発生が抑制される効果がある。このことは、例えば、実施例8-13、21-26、34-39、47-52、60-65、73-78及び85-90から読み取ることができる。これら実施例においては、第2水系電解質のpHが高いほど、サイクル寿命特性に優れていることを示している。
【0252】
実施例91-94に示しているように、複合固体電解質膜の透過係数を変化させた場合であっても優れたサイクル寿命特性を達成できた。また、リチウムイオン伝導度が25℃において1×10-10S/cm以上のLATP固体電解質膜を用いた場合には、他の実施例と同様に優れたサイクル寿命特性を達成できた(実施例95及び96)。更に、セパレータとして多孔質フィルムのみを使用した実施例97-100、103及び104において、透過係数が低いほど優れた放電容量維持率を示した。これは、透気係数が低いほど第1水系電解質と第2水系電解質との混合を防ぐことができ、サイクル初期における第1水系電解質の局所的な(正極のごく近傍)酸性化、第2水系電解質の局所的な(負極のごく近傍)塩基性化を保持できることから、水の電気分解反応を抑制することができたためと考えられる。
【0253】
実施例101及び102は、セパレータとして、アルミナを含むセラミックス膜を使用した例である。アルミナのリチウムイオン伝導性は25℃において0である上に、このセラミックス膜は透気係数が0であったが、優れた充放電効率及び放電容量維持率を示した。
【0254】
以上述べた少なくとも1つ実施形態及び実施例によれば、二次電池が提供される。この二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、正極及び負極の間に配置されたセパレータと、少なくとも正極に保持される第1水系電解質とを含む。第1水系電解質のpHは7超である。正極活物質は、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物を含む。この二次電池では、正極活物質に対するプロトン交換が抑制される上、正極における酸素発生も抑制される。それ故、優れたサイクル寿命特性を達成できる。
【0255】
本発明のいくつか実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 正極活物質を含む正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータと、
少なくとも前記正極に保持される第1水系電解質とを含み、
前記第1水系電解質のpHは7超であり、
前記正極活物質は、金属リチウム基準で4.0V未満の平均作動電位を示すリチウム含有化合物を含む二次電池。
[2] 前記第1水系電解質のpHは8.0以上である[1]に記載の二次電池。
[3] 前記第1水系電解質のpHは13.0以上である[1]又は[2]に記載の二次電池。
[4] 前記リチウム含有化合物は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムマンガンコバルト複合酸化物、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、及び、リチウムバナジウムリン酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である[1]~[3]の何れか1項に記載の二次電池。
[5] 前記セパレータは、25℃において1×10 -10 S/cm以上のリチウムイオン伝導度を有する固体電解質を含む固体電解質膜、及び/又は、透気係数が1×10 -19 2 以上1×10 -15 2 未満の範囲内にある多孔質シートを備える[1]~[4]の何れか1項に記載の二次電池。
[6] 前記セパレータは、前記多孔質シートの少なくとも一方の主面上に前記固体電解質膜が積層された複合固体電解質膜を備える[5]に記載の二次電池。
[7] 前記複合固体電解質膜の透気係数は、1×10 -19 2 以上1×10 -15 2 未満の範囲内にある[6]に記載の二次電池。
[8] 前記負極に少なくとも保持される第2水系電解質を更に含み、
前記第2水系電解質のpHは8.0以上である[1]~[7]の何れか1項に記載の二次電池。
[9] 前記第2水系電解質のpHは13.0以上である[8]に記載の二次電池。
[10] [1]~[9]の何れか1項に記載の二次電池を具備した電池パック。
[11] 通電用の外部端子と、保護回路とを更に含む[10]に記載の電池パック。
[12] 複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が、直列、並列、又は、直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている[10]又は[11]に記載の電池パック。
[13] [10]~[12]の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
[14] 前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む[13]に記載の車両。
【符号の説明】
【0256】
1…電極群、2…容器(外装部材)、3…正極、3a…正極集電体、3b…正極活物質含有層、4…負極、4a…負極集電体、4b…負極活物質含有層、5…セパレータ、6…正極リード、7…負極リード、8…正極導電タブ、9…負極導電タブ、10…封口板、11…絶縁部材、12…負極端子、13…正極端子、21…バスバー、22…正極側リード、23…負極側リード、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、41…車両用電源、42…電気制御装置、43…外部端子、44…インバータ、45…駆動モータ、100…二次電池、200…組電池、200a…組電池、200b…組電池、200c…組電池、300…電池パック、300a…電池パック、300b…電池パック、300c…電池パック、301a…組電池監視装置、301b…組電池監視装置、301c…組電池監視装置、342…正極側コネクタ、343…負極側コネクタ、345…サーミスタ、346…保護回路、342a、343a…配線、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、350…通電用の外部端子、400…車両、411…電池管理装置、412…通信バス、413…正極端子、414…負極端子、415…スイッチ装置、L1…接続ライン、L2…接続ライン、W…駆動輪。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9