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特許7589120成形装置及び該成形装置を用いた成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】成形装置及び該成形装置を用いた成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/22 20060101AFI20241118BHJP
   B21D 24/04 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
B21D22/22
B21D24/04 F
B21D24/04 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021135134
(22)【出願日】2021-08-20
(65)【公開番号】P2023029056
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】石原 好光
(72)【発明者】
【氏名】千田 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘規
(72)【発明者】
【氏名】岡田 光史
(72)【発明者】
【氏名】脇田 直治
(72)【発明者】
【氏名】六川 雄太
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-005724(JP,U)
【文献】特開2006-068778(JP,A)
【文献】特開2016-163899(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0301163(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/22
B21D 24/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランク材を絞り成形して型閉め方向に沿った鉛直部を有したワークを得る成形装置において、
第1鉛直面を含む凸状成形部を有する下型と、
前記下型に向かい合って相対移動可能であり、前記凸状成形部の挿入される凹状成形部と該凹状成形部に隣接する上側保持部とを有し、前記凹状成形部が第2鉛直面を含み、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間で前記鉛直部を成形する上型と、
前記上型の前記上側保持部に向かい合い、前記ブランク材を前記上側保持部に向けて押圧するブランクホルダと、
を備え、
前記上型は、前記凹状成形部と前記上側保持部との間に、
前記上型から離間する方向に膨出するように湾曲して前記ブランク材に第1曲げ部を成形する第1湾曲部と、
前記第1湾曲部とは反対方向に湾曲して前記ブランク材に第2曲げ部を成形する第2湾曲部と、
を備え、
前記第1湾曲部は、前記凹状成形部と前記第2湾曲部との間に配置され、
前記ブランクホルダは、前記上側保持部に向かい合って前記ブランク材を保持するブランク保持部を有し、前記ブランク保持部は、前記第2湾曲部に向かい合い該第2湾曲部に沿って湾曲したブランク湾曲部を備え、
前記上側保持部と前記ブランク保持部との間に前記ブランク材を保持した状態で、前記上型と前記下型とを相対移動させて、前記ブランク材に対して絞り成形を行い、
前記絞り成形において、前記ブランク材のうち最終的に前記鉛直部となる鉛直予定部を、前記上側保持部と前記ブランク保持部との間から、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間に移動させ、
前記絞り成形において前記鉛直予定部を移動させる過程で、前記鉛直予定部を前記第2湾曲部によって曲げ成形し、前記第2湾曲部で成形された前記鉛直予定部を前記第1湾曲部で曲げ成形し、前記下型の前記第1鉛直面と前記上型の前記第2鉛直面との間に移動した前記鉛直予定部を、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面とによって平坦状に成形する、成形装置。
【請求項2】
請求項1記載の成形装置において、
前記第2湾曲部の曲率半径が、前記第1湾曲部の曲率半径より小さい、成形装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の成形装置において、
前記上側保持部は、前記ブランクホルダに向けて突出した突状部を備え、
前記ブランク保持部は、前記突状部に向かい合い前記上型から離間する方向に窪んだ溝部を備え、
前記第2湾曲部及び前記ブランク湾曲部は、前記突状部及び前記溝部よりも前記下型に近接して配置される、成形装置。
【請求項4】
ブランク材を絞り成形して型閉め方向に沿った鉛直部を有したワークを得る成形装置において、
第1鉛直面を含む凸状成形部を有する下型と、
前記下型に向かい合って相対移動可能であり、前記凸状成形部の挿入される凹状成形部と該凹状成形部に隣接する上側保持部とを有し、前記凹状成形部が第2鉛直面を含み、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間で前記鉛直部を成形する上型と、
前記上型の前記上側保持部に向かい合い、前記ブランク材を前記上側保持部に向けて押圧するブランクホルダと、
を備え、
前記上型は、前記凹状成形部と前記上側保持部との間に、
前記上型から離間する方向に膨出するように湾曲して前記ブランク材に第1曲げ部を成形する第1湾曲部と、
前記第1湾曲部とは反対方向に湾曲して前記ブランク材に第2曲げ部を成形する第2湾曲部と、
を備え、
前記第1湾曲部は、前記凹状成形部と前記第2湾曲部との間に配置され、
前記ブランクホルダは、前記上側保持部に向かい合って前記ブランク材を保持するブランク保持部を有し、前記ブランク保持部は、前記第2湾曲部に向かい合い該第2湾曲部に沿って湾曲したブランク湾曲部を備え、
前記第2湾曲部は、前記ワークの最終形状における製品曲げ部に対応した位置に配置され前記ブランク材を成形する、成形装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の成形装置において、
前記ブランク材は、高張力鋼板である、成形装置。
【請求項6】
成形装置により、ブランク材を絞り成形して型閉め方向に沿った鉛直部を有したワークを得る成形装置を用いた成形方法において、
前記成形装置は、
第1鉛直面を含む凸状成形部を有する下型と、
前記下型に向かい合って相対移動可能であり、前記凸状成形部の挿入される凹状成形部と該凹状成形部に隣接する上側保持部とを有し、前記凹状成形部が第2鉛直面を含み、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間で前記鉛直部を成形する上型と、
前記上型の前記上側保持部に向かい合い、前記ブランク材を前記上側保持部に向けて押圧するブランクホルダと、
を備え、
前記上型は、前記凹状成形部と前記上側保持部との間に、
前記上型から離間する方向に膨出するように湾曲して前記ブランク材に第1曲げ部を成形する第1湾曲部と、
前記第1湾曲部とは反対方向に湾曲して前記ブランク材に第2曲げ部を成形する第2湾曲部と、
を備え、
前記第1湾曲部は、前記凹状成形部と前記第2湾曲部との間に配置され、
前記ブランクホルダは、前記上側保持部に向かい合って前記ブランク材を保持するブランク保持部を有し、前記ブランク保持部は、前記第2湾曲部に向かい合い該第2湾曲部に沿って湾曲したブランク湾曲部を備え、
前記成形方法は、
前記上側保持部と前記ブランク保持部との間に前記ブランク材を保持する保持工程と、
前記上型と前記下型とを相対移動させて、前記ブランク材を絞り成形する成形工程と、を有し、
前記成形工程において、前記ブランク材のうち最終的に前記鉛直部となる鉛直予定部は、前記上側保持部と前記ブランク保持部との間から、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間に移動し、
前記成形工程は、
前記鉛直予定部を前記第2湾曲部によって曲げ成形する工程と、
前記第2湾曲部で成形された前記鉛直予定部を前記第1湾曲部で曲げ成形する工程と、
前記下型の前記第1鉛直面と前記上型の前記第2鉛直面との間に移動した前記鉛直予定部を、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面によって平坦状に成形する工程と、
を有する、成形装置を用いた成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランク材をプレス成形する成形装置及び該成形装置を用いた成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の主要骨格部品は、金属板材をプレス成形することによって生産される。例えば、主要骨格部品の一つであるサイドパネルは、サイドドア用の開口部を備える。サイドパネルの下端は、前記開口部の下部に配置されると共に自動車の下部を構成する。サイドパネルの下端には剛性が求められる。そのため、サイドパネルの下端は深絞り成形によって成形される。
【0003】
この深絞り成形では、成形によって得られる成形体にスプリングバックが発生しやすいことが知られている。スプリングバックは、例えば、金属板材を曲げ変形させる変形部に対し、塑性変形が生じるまで張力を付与することで低減可能である。この場合、金属板材に付与される張力を調整する必要がある。例えば、ブランクホルダによって金属板材の押さえ力を高める。又は、金属板材にドロービードを備えることが行われる。
【0004】
近年、自動車の主要骨格部品には、高張力鋼板が用いられることが多い。高張力鋼板は、強度が高くなるにつれて延性が低くなるという特性を有する。そのため、主要骨格部品を、高張力鋼板を深絞り成形してサイドパネルを製造するときには、鋼板に付与される張力を高めると破断を招くことが懸念される。
【0005】
従って、一般的に、高張力鋼板を深絞り成形するときには、成形によって得られた1次成形品に対し、次の工程で2次成形するリストライクが行われる。リストライク工程では、1次成形品に生じた反りとは反対方向へ向けてワークを押圧し、1次成形品の反りを反対方向へ変形させる。これにより、リストライク工程において、1次成形品で生じた反りを矯正して2次成形品としている。
【0006】
例えば、特許文献1に開示された成形装置では、ポンチとダイスとによって素材を曲げ変形させる。ポンチとダイスとの間の隙間を、素材の板厚の1.0~1.4倍に管理する。ポンチとダイスとの間で素材に曲げ部を成形するとき、隙間内において前記曲げ部と反対方向に曲げられる逆曲げが生じる。逆曲げによって素材を成形したときの反りが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭56-117831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1の成形装置では、素材を成形した成形品にリストライクを行う必要がない。そのため、成形装置に要する設備コストを抑制できる。また、リストライクを不要とすることで製造時間の短縮が可能である。しかしながら、前記成形装置では、成形する素材の板厚又は材質等によって、ポンチとダイスとの間の隙間を適切に管理する必要がある。そのため、板厚等に応じた隙間の管理が煩雑である。また、隙間の管理状況によって成形品の精度にばらつきが発生するという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様は、ブランク材を絞り成形して型閉め方向に沿った鉛直部を有したワークを得る成形装置において、
第1鉛直面を含む凸状成形部を有する下型と、
前記下型に向かい合って相対移動可能であり、前記凸状成形部の挿入される凹状成形部と該凹状成形部に隣接する上側保持部とを有し、前記凹状成形部が第2鉛直面を含み、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間で前記鉛直部を成形する上型と、
前記上型の前記上側保持部に向かい合い、前記ブランク材を前記上側保持部に向けて押圧するブランクホルダと、
を備え、
前記上型は、前記凹状成形部と前記上側保持部との間に、
前記上型から離間する方向に膨出するように湾曲して前記ブランク材に第1曲げ部を成形する第1湾曲部と、
前記第1湾曲部とは反対方向に湾曲して前記ブランク材に第2曲げ部を成形する第2湾曲部と、
を備え、
前記第1湾曲部は、前記凹状成形部と前記第2湾曲部との間に配置され、
前記ブランクホルダは、前記上側保持部に向かい合って前記ブランク材を保持するブランク保持部を有し、前記ブランク保持部は、前記第2湾曲部に向かい合い該第2湾曲部に沿って湾曲したブランク湾曲部を備える。
【0011】
本発明の態様は、成形装置により、ブランク材を絞り成形して型閉め方向に沿った鉛直部を有したワークを得る成形装置を用いた成形方法において、
前記成形装置は、
第1鉛直面を含む凸状成形部を有する下型と、
前記下型に向かい合って相対移動可能であり、前記凸状成形部の挿入される凹状成形部と該凹状成形部に隣接する上側保持部とを有し、前記凹状成形部が第2鉛直面を含み、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間で前記鉛直部を成形する上型と、
前記上型の上側保持部に向かい合い、前記ブランク材を前記上側保持部に向けて押圧するブランクホルダと、
を備え、
前記上型は、前記凹状成形部と前記上側保持部との間に、
前記上型から離間する方向に膨出するように湾曲して前記ブランク材に第1曲げ部を成形する第1湾曲部と、
前記第1湾曲部とは反対方向に湾曲して前記ブランク材に第2曲げ部を成形する第2湾曲部と、
を備え、
前記第1湾曲部は、前記凹状成形部と前記第2湾曲部との間に配置され、
前記ブランクホルダは、前記上側保持部に向かい合って前記ブランク材を保持するブランク保持部を有し、前記ブランク保持部は、前記第2湾曲部に向かい合い該第2湾曲部に沿って湾曲したブランク湾曲部を備え、
前記成形方法は、
前記上側保持部と前記ブランク保持部との間に前記ブランク材を保持する保持工程と、
前記上型と前記下型とを相対移動させて、前記ブランク材を絞り成形する成形工程と、を有し、
前記成形工程において、前記ブランク材のうち最終的に前記鉛直部となる鉛直予定部は、前記上側保持部と前記ブランク保持部との間から、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間に移動し、
前記成形工程は、
前記鉛直予定部を前記第2湾曲部によって曲げ成形する工程と、
前記第2湾曲部で成形された前記鉛直予定部を前記第1湾曲部で曲げ成形する工程と、
前記下型の第1鉛直面と前記上型の第2鉛直面との間に移動した前記鉛直予定部を、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面によって平坦状に成形する工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0013】
すなわち、上型は、凹状成形部と上側保持部との間に、第1湾曲部と、第2湾曲部とを備える。第1湾曲部は、上型から離間する方向に膨出するように湾曲する。第1湾曲部は、ブランク材に第1曲げ部を成形する。第2湾曲部は、第1湾曲部とは反対方向に湾曲する。第2湾曲部は、ブランク材に第2曲げ部を成形する。
【0014】
上型と下型との型閉め方向に沿った鉛直部を有したワークを成形する過程で、ブランク材のうち最終的に鉛直部となる部位(鉛直予定部)は、第2湾曲部と第1湾曲部をこの順で経由して、下型の第1鉛直面と上型の第2鉛直面との間に到達する。すなわち、鉛直予定部は、第1湾曲部にて曲げ変形を付与される前に、第1湾曲部で付与される曲げ変形の方向とは逆方向の曲げ変形を第2湾曲部にて付与される。このため、鉛直予定部が第1鉛直面と第2鉛直面との間に到達して鉛直部が成形されたとき、当該鉛直部における残留応力は低減されている。これにより、鉛直部を有したワークを成形するとき、簡素な構成で鉛直部における残留応力の発生を抑制できる。その結果、ワークにおける鉛直部の反りを好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態に係る成形装置で成形されるワークの全体正面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、成形装置の一部を示す要部断面図である。
図4図4は、図3の拡大断面図である。
図5図5は、上型の要部拡大断面図である。
図6図6は、成形装置の上型及びブランクホルダによってブランク材を保持した成形途中の段階を示す断面図である。
図7図7は、図6の成形装置の上型と下型とによってブランク材を成形し始めた途中の段階を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この成形装置10は、ブランク材12を絞り成形してワークWを得るために用いられる。本実施形態において、ワークWは自動車用のサイドアウターパネルである。ブランク材12は、例えば、高張力鋼板である。
【0017】
ワークWであるサイドアウターパネルは、成形装置10によって得られる成形品である。ワークWは、自動車におけるボディの側部を構成する。図1に示されるように、ワークWは、フロントピラー14と、リアピラー16と、センターピラー18と、ルーフ部20と、サイドシル22とを備える。
【0018】
サイドシル22は、フロントピラー14の下端からリアピラー16の下端まで略水平に延在する。サイドシル22は、フロントピラー14の下端、センターピラー18の下端、リアピラー16の下端にそれぞれ接続される。
【0019】
ワークWは、第1開口24を備える。第1開口24は、フロントピラー14、センターピラー18、ルーフ部20、サイドシル22によって囲まれる。第1開口24には、図示しないフロントドアが装着可能である。ワークWは、第2開口26を備える。第2開口26は、センターピラー18、リアピラー16、ルーフ部20、サイドシル22によって囲まれる。第2開口26には、図示しないリアドアが装着可能である。
【0020】
サイドシル22は、自動車の前後方向(矢印A1、A2方向)に沿って一直線状に延在する。サイドシル22は、図1及び図2に示されるように、アンダー部(鉛直部)28と、サイド部30と、フランジ部32とを備える。アンダー部28は、サイドシル22の下部に配置される。アンダー部28は、平坦で水平方向に延在する。アンダー部28は、ワークWを用いた自動車において地面に向かい合う。すなわち、アンダー部28は、図示しない地面と略平行に配置される。
【0021】
サイド部30は、ワークWを用いた自動車の車幅方向において側部に配置される。サイド部30は、自動車の車幅方向において幅方向外方の端部であるアンダー部28の幅方向外端に配置される。サイド部30は、ベース部34と、張り出し部36とを備える。
【0022】
ベース部34は、サイド部30において上部に配置される。ベース部34は、略鉛直方向に沿って一直線状に延在する。ベース部34は、アンダー部28と略直交する。ベース部34の上端は、第1開口24、第2開口26に向かい合うと共に、センターピラー18の下端に接続される。
【0023】
張り出し部36は、ベース部34よりも車幅方向外方に配置される。張り出し部36は、ベース部34の下方(矢印B2方向)に配置される。張り出し部36の上端は、最も車幅方向外方へ突出する。張り出し部36は、張り出し部36の上端から下端に向けて車幅方向内側へと傾斜する。張り出し部36の上端とベース部34との下端とが傾斜部37によって接続される。傾斜部37は、ベース部34の延在方向に対して傾斜する。
【0024】
張り出し部36は、車幅方向外方に向けて若干湾曲する。張り出し部36の下端は、アンダー部28の車幅方向外方の端部である幅方向外端に接続される。張り出し部36とアンダー部28との接続角度は鈍角である。張り出し部36とアンダー部28の幅方向外端との間に円弧部38が配置される。円弧部38の断面形状は、径方向外側へ向けて湾曲した円弧状である。円弧部38によって張り出し部36とアンダー部28の幅方向外端とが接続される。
【0025】
フランジ部32は、自動車の車幅方向において、サイド部30とは反対方向となるアンダー部28の車幅方向内方の端部である幅方向内端に配置される。フランジ部32はアンダー部28とは略直交する。フランジ部32は、自動車においてアンダー部28から下方(矢印B2方向)に向けて突出する。フランジ部32の幅方向内方には、自動車の底面を構成するアンダーフロア(図示せず)が溶接等によって接続される。
【0026】
フランジ部32とアンダー部28との間に第1曲げ部40が配置される。第1曲げ部40の断面形状は、アンダー部28から離間する方向(幅方向内方)へ向けて湾曲した円弧状である。第1曲げ部40の一部は、フランジ部32よりも幅方向内方に配置される。
【0027】
第1曲げ部40とフランジ部32の上端との間に第2曲げ部42を有する。第2曲げ部42の断面形状は、アンダー部28に向けて湾曲した円弧状である。第2曲げ部42は、フランジ部32の上端と第1曲げ部40の下端とを接続する。第2曲げ部42は、サイドシル22の幅方向において、第1曲げ部40において最も幅方向内方に位置する部位とフランジ部32との間に配置される。第2曲げ部42の曲率半径は、第1曲げ部40の曲率半径よりも小さい。
【0028】
次に、上述したワークWを成形する成形装置10について説明する。
【0029】
成形装置10は、図3図7に示されるように、下型44と、上型46と、ブランクホルダ48とを備える。この成形装置10では、上述したワークW(ブランク材12)を水平方向となる幅方向(矢印D1、D2方向)に沿って載置し、前記ワークWの成形を行う。すなわち、成形装置10では、ワークWにおける上下方向が、成形装置10で成形されるときの水平方向(幅方向)となる。
【0030】
下型44は、図示しない基台等に固定された固定型である。下型44は、下側成形部50を備える。下側成形部50は、下型44の幅方向外縁に配置される。下側成形部50は、ワークWのサイドシル22を成形可能である。下側成形部50は、第1凸状部位(凸状成形部)52と、第1凹状部位54とを備える。
【0031】
第1凸状部位52は、下側成形部50の幅方向外縁に配置される。第1凸状部位52は、第1鉛直面56と、突部58と、湾曲面60とを備える。第1鉛直面56は、第1凸状部位52の幅方向外縁に配置される。第1鉛直面56は、幅方向(矢印D1、D2方向)と直交する上型46と下型44との型開き方向(矢印E1、E2方向)に沿って延在する。第1鉛直面56は、型開き方向(矢印E1、E2方向)に沿って平坦である。上型46と下型44とでワークWを成形するとき、第1鉛直面56は、サイドシル22のアンダー部28を成形可能である。
【0032】
突部58は、第1鉛直面56から上型46に向けて突出する。突部58は、第1鉛直面56から離間するのに伴って徐々に幅方向内方(矢印D1方向)へ向かって突出する。突部58は、湾曲面60を備える。湾曲面60を含む突部58の断面形状は、上型46に向けて湾曲した円弧状である。突部58の断面形状は、サイドシル22の張り出し部36の断面形状に対応する。突部58の湾曲面60と第1鉛直面56の上端とが接続される。突部58における幅方向内方の端部である幅方向内端が第1凹状部位54と接続される。
【0033】
第1凹状部位54は、第1凸状部位52よりも幅方向内方(矢印D1方向)に配置される。第1凹状部位54は、第1凸状部位52の突部58よりも下方(矢印E2方向)に窪んでいる。第1凹状部位54の断面形状は、サイドシル22のベース部34及び傾斜部37の断面形状に対応する。第1凹状部位54の幅方向外方となる幅方向外端が、第1凸状部位52の突部58に接続される。
【0034】
図1に示されるワークWの前後方向(矢印A1、A2方向)に沿った中央より前方において、第1凹状部位54の幅方向内端は、第1開口24を構成する。第1凹状部位54の幅方向内端は、フロントピラー14に接続される。ワークWの前後方向に沿った中央より後方において、第1凹状部位54の幅方向内端は、第2開口26を構成する。第1凹状部位54の幅方向内端は、リアピラー16に接続される。ワークWの前後方向に沿った中央において、第1凹状部位54の幅方向内端は、センターピラー18に接続される。
【0035】
上型46は、図示しない昇降装置に固定された可動型である。上型46は、下型44の上方(矢印E1方向)に配置される。上型46は、前記昇降装置が駆動することで、下型44に接近又は離間可能である。上型46は、上側成形部62を備える。上側成形部62は、上型46の幅方向外方となる幅方向外縁に配置される。上側成形部62は、ワークWのサイドシル22を成形可能である。上側成形部62は、第1成形部位64と、第2成形部位66とを備える。
【0036】
第1成形部位64は、下型44の下側成形部50に向かい合う。上型46と下型44とが互いに接近して型閉めされたとき、第1成形部位64と下側成形部50とが係合される。第1成形部位64は、第2凹状部位(凹状成形部)68と、第2凸状部位70とを備える。
【0037】
第2凹状部位68は、第1成形部位64の幅方向外方の端部である幅方向外端に配置される。第2凹状部位68は、下型44から離間する方向(矢印E1方向)に窪む。第2凹状部位68の断面形状は、第1凸状部位52の断面形状と同一である。第2凹状部位68は、サイドシル22の張り出し部36及び傾斜部37の断面形状に対応する。
【0038】
第2凸状部位70は、第1成形部位64の幅方向において、第2凹状部位68よりも幅方向内方(矢印D1方向)に配置される。第2凸状部位70は、第2凹状部位68よりも下型44に向けて突出する。第2凸状部位70の断面形状は、第1凹状部位54の断面形状と同一である。第2凸状部位70は、下型44の第1凹状部位54に挿入可能である。第2凸状部位70は、サイドシル22のベース部34及び傾斜部37の断面形状に対応する。
【0039】
第2成形部位66は、第1成形部位64よりも幅方向外方(矢印D2方向)に配置される。第2成形部位66は、ブランクホルダ48に向かい合う。第2成形部位66は、第1成形部位64より下方(矢印E2方向)へ突出する。第2成形部位66は、上側保持面(上側保持部)72と、突状部74と、第2鉛直面76と、第1湾曲部78と、第2湾曲部80とを備える。
【0040】
上側保持面72は、上型46と下型44の型開き方向(矢印E1、E2方向)と直交する幅方向(矢印D1、D2方向)に延在する。上側保持面72は、平坦である。上側保持面72は、ブランクホルダ48のブランク保持面82に向かい合う。上側保持面72は、後述するブランクホルダ48のブランク保持面82と平行である。
【0041】
突状部74は、上側保持面72からブランクホルダ48に向けて突出する。突状部74の断面形状は、ブランクホルダ48に向けて膨出した半円状である。突状部74は、上側保持面72において下型44から幅方向外方(矢印D2方向)へ所定距離離れている。突状部74は、成形装置10の型開き方向(矢印E1、E2方向)において、後述するブランクホルダ48の溝部84に向かい合う。突状部74は、ワークW(ブランク材12)にビード81を成形可能である。
【0042】
第2鉛直面76は、第2成形部位66の幅方向内方の端部である幅方向内端に配置される。第2鉛直面76は、成形装置10の幅方向と直交する上型46と下型44との型開き方向(矢印E1、E2方向)に沿って延在する。第2鉛直面76は、型開き方向に沿って平坦である。第2鉛直面76は、下型44の第1鉛直面56に向かい合う。第2鉛直面76と第1鉛直面56とは平行である。上型46と下型44とを互いに接近させて型閉めしたとき、第2鉛直面76と第1鉛直面56との間で、ワークWのアンダー部28を成形可能である。
【0043】
第2鉛直面76の上端は、第1成形部位64の第2凹状部位68と接続される。第2鉛直面76の下端には、第1湾曲部78が接続される。第1湾曲部78は、第2鉛直面76と上側保持面72との間に配置される。第1湾曲部78の断面形状は、上型46から離間する方向に湾曲した円弧状である。図5に示されるように、第1湾曲部78の曲率半径Rは、後述する第2湾曲部80の曲率半径Sよりも大きい(R>S)。
【0044】
第1湾曲部78は、図5に示されるように、上側保持面72より下方(矢印E2方向)へオフセットした仮想線Lに接する。仮想線Lと上側保持面72とは平行である。上型46は、第1湾曲部78と仮想線Lとが接する接点Gを有する。第1湾曲部78は、接点Gを越えて上側保持面72まで延在する。第1湾曲部78は、上側保持面72よりも所定距離だけ下方(矢印E2方向)へ突出している。
【0045】
第2湾曲部80は、第1湾曲部78と上側保持面72との間に配置される。第2湾曲部80の断面形状は、上型46に向けて湾曲した円弧状である。第2湾曲部80の曲率半径Sは、第1湾曲部78の曲率半径Rよりも小さい(S<R)。第2湾曲部80は、上型46に向かうように湾曲する。第1湾曲部78と上側保持面72とが第2湾曲部80によって接続される。第1湾曲部78の湾曲方向(曲げ方向)と第2湾曲部80の湾曲方向(曲げ方向)とは反対方向である。
【0046】
ブランクホルダ48は、図3図4図6図7に示されるように、下型44の幅方向外方となる幅方向外縁よりも幅方向外方(矢印D2方向)に配置される。ブランクホルダ48は、上型46の第2成形部位66に向か合う。ブランクホルダ48は、下型44に配置される。ブランクホルダ48は、図示しないピン機構によって下型44に対して独立して昇降可能である。前記ピン機構の作動に伴って、ブランクホルダ48は、上型46に接近可能である。ブランクホルダ48は、図示しないピン機構によって上側保持面72に向けて付勢されブランク材12を押圧する。
【0047】
ブランクホルダ48は、ブランク保持面(ブランク保持部)82と、溝部84と、ブランク湾曲面(ブランク湾曲部)86とを備える。ブランク保持面82は、上型46と下型44の型開き方向と直交する幅方向(矢印D1、D2方向)に延在する。ブランク保持面82は、平坦で水平に延在する。ブランク保持面82は、上型46の上側保持面72に向かい合う。ブランク保持面82は、上側保持面72と平行である。上型46と下型44とを互いに接近させて型閉めしたとき、ブランク保持面82と上側保持面72との間にブランク材12を保持する。
【0048】
溝部84は、ブランク保持面82に配置される。溝部84は、上型46から離間するように下方(矢印E2方向)に向けて窪む。溝部84は、上型46と下型44との型開き方向(矢印E1、E2方向)において、上型46の突状部74に向かい合う。溝部84の断面形状は、突状部74と同様の半円状である。上型46と下型44とを互いに接近させて型閉めしたとき、溝部84の内部にブランク材12と共に突状部74が挿入される。溝部84と突状部74とによってビード81が成形される。
【0049】
ブランク湾曲面86は、溝部84よりも幅方向内方(矢印D1方向)に配置される。ブランク湾曲面86は、ブランク保持面82に接続される。ブランク湾曲面86は、水平面88と、ブランク湾曲部90とを備える。
【0050】
水平面88は、ブランク湾曲面86の幅方向内方の端部である幅方向内端に配置される水平面88は、下型44の第1鉛直面56に隣接する。水平面88は、上型46と下型44との型開き方向と直交する幅方向(矢印D1、D2方向)に延在する。水平面88は、平坦でありブランク保持面82よりも下方(矢印E2方向)へオフセットして配置される。上型46と下型44とを互いに接近させて型閉めしたとき、水平面88と第1湾曲部78とが向かい合う。
【0051】
ブランク湾曲部90は、水平面88とブランク保持面82との間に配置される。ブランク湾曲部90の断面形状は、上型46に向かって膨出する方向に湾曲した円弧状である。上型46と下型44との型開き方向において、ブランク湾曲部90は、上型46の第2湾曲部80に向かい合う。ブランク湾曲部90の曲率半径は、第2湾曲部80の曲率半径Sに対応している。上型46と下型44とを互いに接近させて型閉めしたとき、ブランク湾曲部90と第2湾曲部80との間で、ワークWの第2曲げ部42を成形可能である。
【0052】
次に、成形装置10を用いてブランク材12のドロー工程を行ってワークWを絞り成形する場合について、図3図4図6及び図7を参照しながら説明する。ブランク材12は、一定厚さを有した平板状の高張力鋼板である。図6及び図7に示されるブランク材12において、最終的にアンダー部28となる部位(鉛直予定部)をPと示す。
【0053】
先ず、上型46と下型44とを上下方向(矢印E1、E2方向)に離間させて型開きする。成形装置10の型開きでは、下型44及びブランクホルダ48の上方(矢印E1方向)に上型46が離間して配置される。ブランクホルダ48のブランク保持面82と上型46の上側保持面72とが上下に離間する。図6に示されるように、ブランクホルダ48は、下型44の第1凸状部位52よりも上方(矢印E1方向)に位置している。
【0054】
そして、ブランクホルダ48のブランク保持面82にブランク材12を配置する。ブランク材12における幅方向外縁の近傍がブランク保持面82によって保持される。
【0055】
次に、図示しない昇降装置を駆動させて上型46を下降させる。図6に示されるように上型46の下降に伴い、上型46の第2成形部位66がブランクホルダ48に向かって移動する。第2成形部位66の上側保持面72とブランクホルダ48のブランク保持面82との間でブランク材12が挟持される。これにより、ブランク材12の幅方向外縁の近傍が、上側保持面72とブランク保持面82とによって保持される。
【0056】
上型46の下降に伴って、突状部74がブランク材12をブランクホルダ48の溝部84に向けて押圧していく。突状部74がブランク材12と共に溝部84へ挿入される。これにより、ブランク材12が突状部74によって押圧されて塑性変形する。突状部74と溝部84との間でブランク材12が変形し、下方に向けて突出した円弧状のビード81が成形される。ビード81は、ワークWにおけるフランジ部32の延在方向(矢印D2方向)に対して直交方向(矢印E2方向)に突出する。ビード81は、図1に示されるワークWの前後方向(矢印A1、A2方向)に沿って延在する。
【0057】
上型46のさらなる下降に伴って、ブランク材12においてビード81よりも幅方向内方となる部位が、第2湾曲部80とブランク湾曲部90によって挟持される。第2湾曲部80とブランク湾曲部90との間では、曲げ成形部921が成形される。曲げ成形部921は、上型46に向けて膨出するように湾曲する。
【0058】
この曲げ成形部921を塑性変形させるとき、該曲げ成形部921には曲げ応力が発生する。曲げ応力は、一般的に、曲げ部の曲率半径が小さいほど大きくなる。すなわち、曲げ応力の大きさと曲げ部の曲率半径とは反比例する。
【0059】
次に、図7に示されるように、上型46がさらに下降することでブランクホルダ48が押し下げられる。上型46とブランクホルダ48とが一体的に下降する。下型44の第1凸状部位52が上型46の第2凹状部位68の内部に挿入され始める。第1凸状部位52の第2凹状部位68への挿入に伴って、ブランク材12の幅方向内方(矢印D1方向)の部位は、下型44の第1凸状部位52と共に上型46の第2凹状部位68の内部へ挿入される。このとき、最終的にアンダー部28となる部位Pは、突状部74及び溝部84よりも幅方向外方(矢印D2方向)に位置する。
【0060】
ブランク材12の幅方向内方は、第1凸状部位52によって上方(矢印E1方向)へ向けて押し上げられる。ブランク材12の幅方向内方は、第1凸状部位52によって第2凹状部位68の内部に進入する。このとき、ブランク材12には幅方向内方(矢印D1方向)へ向かう張力F(図7参照)が付与される。第1凸状部位52によってブランク材12の幅方向外縁が幅方向内方へ向けて引っ張られる。これにより、ブランク材12の幅方向外端は、上型46の第2成形部位66とブランクホルダ48との間で、幅方向内方(矢印D1方向)に向けて移動する。
【0061】
ブランク材12の幅方向外縁が幅方向内方へと移動するとき、ブランク材12の移動量はビード81によって調整される。ブランク材12の幅方向への移動量は、ビード81の高さ寸法、ビード81の数量、ビード81の配置によって調整可能である。ブランク材12の幅方向への移動量を調整することで、ブランク材12の第2凹状部位68の内部への進入量が調整される。最終的にアンダー部28となる部位Pは、ブランク材12の移動に伴って、突状部74及び溝部84の間を介してビード81よりも幅方向内方(矢印D1方向)に移動する。
【0062】
そして、図7に示されるように、最終的にアンダー部28となる部位Pは、第2湾曲部80とブランク湾曲部90との間で曲げ成形される。この最終的にアンダー部28となる部位Pは曲げ成形部921となる。曲げ成形部921は、上型46に向けて膨出するように湾曲する。曲げ成形部921は、第2湾曲部80及びブランク湾曲部90に沿った断面円弧状である。曲げ成形部921の曲率半径は、第2湾曲部80の曲率半径S(図5参照)に対応する。
【0063】
ブランク材12の幅方向内方が第2凹状部位68の内部に進入するのに伴って、図7に示されるように、前記ブランク材12がさらに幅方向内方へと移動する。ブランク材12の移動に伴って、最終的にアンダー部28となる部位Pである曲げ成形部921が、第1湾曲部78に向かい合う位置まで移動する。ブランク材12の幅方向内方が第2凹状部位68の内部に進入することで、曲げ成形部921は上型46の第1湾曲部78に倣うように塑性変形する。
【0064】
これにより、第1湾曲部78では、上型46から離間する方向へ膨出する円弧状の曲げ成形部922が部位Pに成形される。この曲げ成形部922は、第2湾曲部80で成形された曲げ成形部921とは反対方向に湾曲する。曲げ成形部922の曲率半径は、第1湾曲部78の曲率半径に対応する。曲げ成形部922の曲率半径は、曲げ成形部921の曲率半径よりも大きい。
【0065】
このように、最終的にアンダー部28となる部位Pにおいて、曲げ成形部921を第1湾曲部78で塑性変形させ曲げ成形部922を成形する。曲げ成形部922には、曲げ応力が発生する。
【0066】
このとき、最終的にアンダー部28となるブランク材12の部位Pにおいて、曲げ成形部922の湾曲方向と曲げ成形部921の湾曲方向とは反対方向である。そのため、曲げ成形部922に生じる曲げ応力と曲げ成形部921に生じる曲げ応力とが相反する方向に働く。
【0067】
曲げ成形部922の曲率半径が、曲げ成形部921の曲率半径よりも大きい。そのため、最終的にアンダー部28となるブランク材12の部位Pにおいて、曲げ成形部921を成形するときに生じる曲げ応力が、曲げ成形部922を成形するときに生じる曲げ応力よりも大きい。そのため、曲げ成形部922を成形するときに生じる曲げ応力が、曲げ成形部921を成形するときに生じた曲げ応力によって好適に相殺される。これにより、最終的にアンダー部28となるブランク材12の部位Pにおける残留応力が低減される。
【0068】
そして、図3及び図4に示されるように、上型46が昇降装置の駆動によってさらに下降する。上型46の下降に伴って、第2凹状部位68の内部にブランク材12と共に下型44の第1凸状部位52が挿入される。これにより、ブランク材12の幅方向内方が、さらに第1凸状部位52によって第2凹状部位68の内部へと進入する。ブランク材12の幅方向外端は、上型46の第2成形部位66とブランクホルダ48との間で、幅方向内方(矢印D1方向)に向けてさらに移動する。このとき、最終的にアンダー部28となるブランク材12の部位P(曲げ成形部922)が、下型44の第1鉛直面56と上型46の第2鉛直面76との間まで移動する。
【0069】
上型46が下型44に最も近接した位置に到達して成形装置10が型閉めされる。成形装置10の型閉めでは、上型46と下型44との間にブランク材12が挟持される。上型46の第1成形部位64と下型44の下側成形部50との間でブランク材12が成形される。
【0070】
成形装置10が型閉めされることで、第2凹状部位68の内部には、第1凸状部位52と共にブランク材12が挿入される。第1鉛直面56と第2鉛直面76との間にブランク材12が挟持される。第1鉛直面56と第2鉛直面76との間で、最終的にアンダー部28となる部位Pが挟持され、ワークWにおけるアンダー部28が成形される。アンダー部28は、平坦で上型46と下型44との型閉め方向(鉛直方向)に沿って延在する。アンダー部28は、成形装置10の型閉め方向(矢印E1、E2方向)に沿って直線状である。
【0071】
第1湾曲部78によって、ワークWにおける第1曲げ部40が成形される。第2湾曲部80とブランク湾曲部90によってワークWにおける第2曲げ部42が成形される。上側保持面72とブランク保持面82とによって、平坦なフランジ部32が成形される。第1曲げ部40は、アンダー部28と第2曲げ部42とを接続する。第2曲げ部42は、フランジ部32と第1曲げ部40とを接続する。
【0072】
最終的にアンダー部28となるブランク材12の部位Pに曲げ成形部921を成形し、前記部位Pに第1湾曲部78によって曲げ成形部922を成形した後に、前記部位Pは、成形装置10の型閉め方向(矢印E1、E2方向)に沿った直線状に成形されたアンダー部28となる。すなわち、アンダー部28を直線状に成形する前に、アンダー部28に対応する部位に湾曲方向の異なる2つの曲げ成形部921、922を順に成形している。これにより、アンダー部28に生じる残留応力が好適に抑制される。この結果、アンダー部28における反り(スプリングバック)が抑制される。
【0073】
換言すれば、ブランク材12において、最終的にアンダー部28となる部位Pに、湾曲方向の異なる曲げ成形部921、922を順に成形する。ブランク材12を成形するとき、アンダー部28における残留応力に起因して生じる反り(スプリングバック)とは反対方向へ曲げ変形を加えておく。これにより、ワークWを成形したとき、アンダー部28における残留応力を低減して反りの発生を抑制可能である。
【0074】
上型46と下型44との型閉めに伴って、下型44の第1凸状部位52と上型46の第2凹状部位68との間では、ブランク材12が上方に向かって押し出されて塑性変形する。第1凸状部位52の突部58と第2凹状部位68とによって、ワークWにおけるサイド部30の張り出し部36が成形される。第1凹状部位54と第2凸状部位70との間においてブランク材12が塑性変形することで、第1凸状部位52の突部58及び第2凹状部位68によってワークWにおけるサイド部30のベース部34及び傾斜部37が成形される。
【0075】
これにより、型閉めされた成形装置10において、上型46の上側成形部62、下型44の下側成形部50、ブランクホルダ48のブランク湾曲面86との間でブランク材12が成形される。これにより、ブランク材12からワークWのサイドシル22が得られる。なお、ワークWにおけるサイドシル22以外の部位は、上型46及び下型44の成形部位によって前記サイドシル22と同時に形成される。
【0076】
ワークWの成形が完了した後、図示しない昇降装置を駆動させて上型46を上昇させる。上型46が上昇することで、上型46が下型44及びブランクホルダ48から上方(矢印E1方向)へと離間する。ワークWは、上型46と共に上昇することで、下型44及びブランクホルダ48から離型する。
【0077】
そして、図示しないイジェクタ機構によって、ワークWを上型46から下方(矢印E2方向)へ向けて押圧する。ワークWが、上型46から離型して取り出される。
【0078】
成形されたワークWにおいて、フランジ部32のビード81は、ワークWの成形を行うときに必要とされる。ワークWの成形後では、ビード81は不要である。そのため、上述したワークWの絞り成形(ドロー工程)の後、トリム工程においてビード81を含むフランジ部32の端部近傍を切除する。これにより、ワークWのフランジ部32は、ビード81が取り除かれてアンダー部28から下方へ向けて所定長さを有した形状となる。
【0079】
フランジ部32のトリム工程が完了した後、製品形状(最終形状)とするためにベンド工程を経て、製品であるサイドアウターパネルが得られる。図2において、ワークWにおける第1曲げ部40からフランジ部32にかけて成形した製品形状を二点鎖線で示す。ベンド工程を経て得られた製品形状では、図2に示されるように、第1曲げ部40が略直角に折り曲げられると共に、第2曲げ部42を起点としてフランジ部32が折り曲げられて最終フランジ部94となる。第2曲げ部42が折り曲げられた製品曲げ部96を起点とし、最終フランジ部94が内側へ向けて平坦に延在する。最終フランジ部94は、フランジ部32よりも内側へ折り曲げられる。製品曲げ部96は、第2曲げ部42が略直角に折り曲げられる。
【0080】
以上のように、本発明の実施形態では、成形装置10において、ブランク材12を絞り成形して型開き方向に沿ったアンダー部28を有したワークWを得る。成形装置10は、下型44と、上型46と、ブランクホルダ48とを備える。下型44は、第1凸状部位52を備える。上型46は、下型44に向かい合って相対移動可能である。上型46は、第2凹状部位68と、該第2凹状部位68に隣接する上側保持面72とを有する。第2凹状部位68には、下型44の第1凸状部位52が挿入可能である。ブランクホルダ48は、上型46の上側保持面72に向かい合う。ブランクホルダ48は、上側保持面72に向かい合ってブランク材12を保持するブランク保持面82を有する。ブランクホルダ48は、ブランク材12を上側保持面72に向けて押圧して保持する。
【0081】
上型46は、第2凹状部位68と上側保持面72との間に、第1湾曲部78と、第2湾曲部80とを備える。第1湾曲部78は、断面円弧状で上型46から離間する方向へ膨出するように湾曲する。第2湾曲部80は、断面円弧状で第1湾曲部78とは反対方向へ膨出するように湾曲する。ブランク保持面82は、第2湾曲部80に向かい合う。ブランク保持面82は、第2湾曲部80に沿って窪んだブランク湾曲面86を備える。
【0082】
上型46において、第2湾曲部80の湾曲方向は、第1湾曲部78の湾曲方向と反対方向である。これにより、アンダー部28を有したワークWを成形するとき、第2湾曲部80でブランク材12を成形するときに発生する曲げ応力の方向は、第1湾曲部78でブランク材12を成形するときに発生する曲げ応力の方向と反対方向である。
【0083】
その結果、成形装置10において、第1湾曲部78とは反対の湾曲方向を有する第2湾曲部80を上型46に備えるという簡素な構成で、第1曲げ部40に隣接するアンダー部28に生じる残留応力を低減し、前記残留応力に起因したアンダー部28の反り(スプリングバック)を抑制できる。
【0084】
上型46において、第2湾曲部80の曲率半径Sが、第1湾曲部78の曲率半径Rより小さい(S<R)。曲げ応力は、曲げ部の半径が小さいほど大きくなる特性を有する。そのため、第2湾曲部80で曲げ成形部921を成形したときに生じる曲げ応力を、第1湾曲部78で曲げ成形部922を成形したときに生じる曲げ応力よりも大きくできる。その結果、第1湾曲部78によって成形される第1曲げ部40の近傍であっても、アンダー部28に生じる残留応力を好適に低減できる。そのため、ワークWのアンダー部28における反り(スプリングバック)の発生を効果的に抑制できる。また、第2湾曲部80の曲率半径Sを小さくすることで、上型46における上側成形部62の構造を小型化できる。その結果、上型46の形状変更を最小限として製造コストの増加を抑制できる。
【0085】
上型46の上側保持面72は、ブランクホルダ48に向けて突出した突状部74を備える。ブランクホルダ48のブランク保持面82は、上型46から離間する方向に窪んだ溝部84を備える。溝部84は、突状部74に向かい合う。上型46の第2湾曲部80は、突状部74よりも下型44に近接して配置される。ブランクホルダ48のブランク湾曲面86は、溝部84よりも下型44に近接して配置される。
【0086】
これにより、ブランク材12の成形を行うとき、突状部74と溝部84との間でビード81を成形する。上型46の第2凹状部位68の内部にブランク材12が押し込まれるとき、ブランク材12に幅方向内方に向けて付与される張力Fをビード81によって調整可能である。第2湾曲部80をビード81よりも下型44に近接させることで、ワークWのアンダー部28に対し、第1曲げ部40が成形されるときの曲げ応力と反対方向へ曲げ応力を与えることができる。その結果、ワークWにおけるアンダー部28の残留応力を低減し、前記残留応力に起因した反り(スプリングバック)を抑制可能となる。
【0087】
第2湾曲部80は、ワークWの最終形状(製品形状)であるサイドアウターパネルの製品曲げ部96に対応した位置に配置されブランク材12を成形する。すなわち、ワークWにおいて、フランジ部32における第2曲げ部42を、最終形状であるサイドアウターパネルの製品曲げ部96の位置と一致させている。これにより、ベンド工程を経た最終形状において、製品曲げ部96に隣接するサイドアウターパネルの最終フランジ部94(平面部)に凹凸が生じることがない。
【0088】
ブランク材12は、高張力鋼板である。高張力鋼板は、強度が高くなるにつれて延性が低くなるという特性を有している。上型46に第1及び第2湾曲部78、80を備える。第1湾曲部78で第1曲げ部40を成形し、第2湾曲部80で第2曲げ部42を成形する。ブランク材12を成形してワークWを成形するとき、最終的にアンダー部28となる部位Pにおいて、第1曲げ部40で湾曲する方向と、第2曲げ部42で湾曲する方向とが互いに反対方向である。これにより、ブランク材12に絞り成形を行ったとき、前記部位Pにおける残留応力が低減され、アンダー部28に生じる反り(スプリングバック)を好適に抑制可能である。
【0089】
上記の実施形態をまとめると、以下のようになる。
【0090】
上記の実施形態は、ブランク材(12)を絞り成形して型閉め方向に沿った鉛直部(28)を有したワーク(W)を得る成形装置(10)において、
第1鉛直面(56)を含む凸状成形部(52)を有する下型(44)と、
前記下型に向かい合って相対移動可能であり、前記凸状成形部の挿入される凹状成形部(68)と該凹状成形部に隣接する上側保持部(72)とを有し、前記凹状成形部が第2鉛直面(76)を含み、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間で前記鉛直部を成形する上型(46)と、
前記上型の上側保持部に向かい合い、前記ブランク材を前記上側保持部に向けて押圧するブランクホルダ(48)と、
を備え、
前記上型は、前記凹状成形部と前記上側保持部との間に、
前記上型から離間する方向に膨出するように湾曲して前記ブランク材に第1曲げ部(40)を成形する第1湾曲部(78)と、
前記第1湾曲部とは反対方向に湾曲して前記ブランク材に第2曲げ部(42)を成形する第2湾曲部(80)と、
を備え、
前記第1湾曲部は、前記凹状成形部と前記第2湾曲部との間に配置され、
前記ブランクホルダは、前記上側保持部に向かい合って前記ブランク材を保持するブランク保持部(82)を有し、前記ブランク保持部は、前記第2湾曲部に向かい合い該第2湾曲部に沿って窪んだブランク湾曲部(86)を備える。
【0091】
前記第2湾曲部の曲率半径(S)が、前記第1湾曲部の曲率半径(R)より小さい。
【0092】
前記上側保持部は、前記ブランクホルダに向けて突出した突状部(74)を備え、
前記ブランク保持部は、前記突状部に向かい合い前記上型から離間する方向に窪んだ溝部(84)を備え、
前記第2湾曲部及び前記ブランク湾曲部は、前記突状部及び前記溝部よりも前記下型に近接して配置される。
【0093】
前記第2湾曲部は、前記ワークの最終形状における製品曲げ部(921)に対応した位置に配置され前記ブランク材を成形する。
【0094】
前記ブランク材は、高張力鋼板である。
【0095】
成形装置により、ブランク材を絞り成形して型閉め方向に沿った鉛直部を有したワークを得る成形方法において、
前記成形装置は、
第1鉛直面を含む凸状成形部を有する下型と、
前記下型に向かい合って相対移動可能であり、前記凸状成形部の挿入される凹状成形部と該凹状成形部に隣接する上側保持部とを有し、前記凹状成形部が第2鉛直面を含み、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間で前記鉛直部を成形する上型と、
前記上型の上側保持部に向かい合い、前記ブランク材を前記上側保持部に向けて押圧するブランクホルダと、
を備え、
前記上型は、前記凹状成形部と前記上側保持部との間に、
前記上型から離間する方向に膨出するように湾曲して前記ブランク材に第1曲げ部を成形する第1湾曲部と、
前記第1湾曲部とは反対方向に湾曲して前記ブランク材に第2曲げ部を成形する第2湾曲部と、
を備え、
前記第1湾曲部は、前記凹状成形部と前記第2湾曲部との間に配置され、
前記ブランクホルダは、前記上側保持部に向かい合って前記ブランク材を保持するブランク保持部を有し、前記ブランク保持部は、前記第2湾曲部に向かい合い該第2湾曲部に沿って湾曲したブランク湾曲部を備え、
前記成形方法は、
前記上側保持部と前記ブランク保持部との間に前記ブランク材を保持する保持工程と、
前記上型と前記下型とを相対移動させて、前記ブランク材を絞り成形する成形工程と、を有し、
前記成形工程において、前記ブランク材のうち最終的に前記鉛直部となる鉛直予定部(P)は、前記上側保持部と前記ブランク保持部との間から、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面との間に移動し、
前記成形工程は、
前記鉛直予定部を前記第2湾曲部によって曲げ成形する工程と、
前記第2湾曲部で成形された前記鉛直予定部を前記第1湾曲部で曲げ成形する工程と、
前記下型の第1鉛直面と前記上型の第2鉛直面との間に移動した前記鉛直予定部を、前記第1鉛直面と前記第2鉛直面によって平坦状に成形する工程と、
を有する。
【0096】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【符号の説明】
【0097】
10…成形装置 12…ブランク材
22…サイドシル 28…アンダー部
30…サイド部 32…フランジ部
44…下型 46…上型
48…ブランクホルダ 78…第1湾曲部
80…第2湾曲部 921、922…曲げ成形部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7