IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧

<>
  • 特許-電力変換装置 図1
  • 特許-電力変換装置 図2
  • 特許-電力変換装置 図3
  • 特許-電力変換装置 図4
  • 特許-電力変換装置 図5
  • 特許-電力変換装置 図6
  • 特許-電力変換装置 図7
  • 特許-電力変換装置 図8
  • 特許-電力変換装置 図9
  • 特許-電力変換装置 図10
  • 特許-電力変換装置 図11
  • 特許-電力変換装置 図12
  • 特許-電力変換装置 図13
  • 特許-電力変換装置 図14
  • 特許-電力変換装置 図15
  • 特許-電力変換装置 図16
  • 特許-電力変換装置 図17
  • 特許-電力変換装置 図18
  • 特許-電力変換装置 図19
  • 特許-電力変換装置 図20
  • 特許-電力変換装置 図21
  • 特許-電力変換装置 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20241118BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20241118BHJP
   B60L 58/20 20190101ALI20241118BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
H02J7/00 H
B60L9/18 A
B60L58/20
H02J7/00 P
H02J7/00 303C
H02J7/00 302C
H02M3/155 F
H02M3/155 H
H02M3/155 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021156704
(22)【出願日】2021-09-27
(65)【公開番号】P2023047658
(43)【公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】田口 義晃
(72)【発明者】
【氏名】小笠 正道
(72)【発明者】
【氏名】門脇 悟志
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 興介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 有人
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-111074(JP,A)
【文献】特表2014-533085(JP,A)
【文献】特開2021-136703(JP,A)
【文献】特開2008-054477(JP,A)
【文献】特開2016-036249(JP,A)
【文献】特開昭57-186979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
B60L 9/18
B60L 58/20
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1蓄電デバイス、第2蓄電デバイス、及び負荷回路の間に介在して電力を融通する電力変換装置であって、
前記第1蓄電デバイスが接続される第1端子と、
前記第2蓄電デバイスが接続される第2端子と、
前記負荷回路が接続される負荷端子と、
を備え、
前記第1端子と前記第2端子との間の電圧を1次側電圧とし、前記負荷端子と前記第2端子との間の電圧を2次側電圧として、1次側と2次側との間の通流を制御することで、前記第1蓄電デバイス及び前記第2蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御する電力変換装置。
【請求項2】
第1蓄電デバイス、第2蓄電デバイス、及び負荷回路の間に介在して電力を融通する電力変換装置であって、
前記第1蓄電デバイスが接続される第1端子と、
前記第2蓄電デバイスが接続される第2端子と、
前記負荷回路が接続される負荷端子と、
電流可逆チョッパ回路と、
を備え、
前記第1端子は、前記電流可逆チョッパ回路の高圧側接続点に接続され、
前記第2端子は、前記電流可逆チョッパ回路の接地接続点に接続され、
前記負荷端子は、前記電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続され、
前記第1端子、前記第2端子、及び前記負荷端子の各端子間の通流を制御することで、前記第1蓄電デバイス及び前記第2蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御する電力変換装置。
【請求項3】
第1蓄電デバイス、第2蓄電デバイス、及び負荷回路の間に介在して電力を融通する電力変換装置であって、
前記第1蓄電デバイスが接続される第1端子と、
前記第2蓄電デバイスが接続される第2端子と、
前記負荷回路が接続される負荷端子と、
低圧側接続点同士及び接地接続点同士を互いに接続することで並列接続された2つの電流可逆チョッパ回路と、
を備え、
前記第1端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路のうち、一方の電流可逆チョッパ回路の高圧側接続点に接続され、
前記第2端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路の前記接地接続点に接続され、
前記負荷端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路のうち、他方の電流可逆チョッパ回路の高圧側接続点に接続され、
前記第1端子、前記第2端子、及び前記負荷端子の各端子間の通流を制御することで、前記第1蓄電デバイス及び前記第2蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御する電力変換装置。
【請求項4】
第1蓄電デバイス、第2蓄電デバイス、及び負荷回路の間に介在して電力を融通する電力変換装置であって、
前記第1蓄電デバイスが接続される第1端子と、
前記第2蓄電デバイスが接続される第2端子と、
前記負荷回路が接続される負荷端子と、
高圧側接続点同士及び接地接続点同士を互いに接続することで並列接続された2つの電流可逆チョッパ回路と、
を備え、
前記第1端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路のうち、一方の電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続され、
前記第2端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路の前記接地接続点に接続され、
前記負荷端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路のうち、他方の電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続され、
前記第1端子、前記第2端子、及び前記負荷端子の各端子間の通流を制御することで、前記第1蓄電デバイス及び前記第2蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御する電力変換装置。
【請求項5】
第1蓄電デバイス、第2蓄電デバイス、及び負荷回路の間に介在して電力を融通する電力変換装置であって、
前記第1蓄電デバイスが接続される第1端子と、
前記第2蓄電デバイスが接続される第2端子と、
前記負荷回路が接続される負荷端子と、
一方側接続点が前記第1端子に接続され、他方側接続点が前記負荷端子に接続され、接地接続点が前記第2端子に接続された電流可逆昇降圧チョッパ回路と、
を備え、
前記第1端子、前記第2端子、及び前記負荷端子の各端子間の通流を制御することで、前記第1蓄電デバイス及び前記第2蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御する電力変換装置。
【請求項6】
前記第2蓄電デバイスは、前記第1蓄電デバイスよりもパワー密度が大きく、且つ、エネルギー密度が小さい、
請求項1~の何れか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道では、省エネルギーの実現のために、電気車に搭載される蓄電システムの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-226127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気車に搭載される蓄電システムは、設置スペースの関係からその体積に制限があり、燃費の関係からできるだけ軽量であることが望まれる。蓄電システムの設計においては、単一種類の蓄電デバイスを利用するよりも、パワー密度やエネルギー密度が異なる複数種類の蓄電デバイスを併用することで、システム全体の小形化・軽量化を図れる可能性が有る。
【0005】
しかし、複数種類の蓄電デバイスを単純に接続しただけでは、各蓄電デバイスの充放電電流は受動的に決まるため、併用の効果が充分に得られない。このため、複数種類の蓄電デバイスを併用する場合、併用の効果を高めるために、電力変換装置によって各蓄電デバイスの充放電電流を能動的に制御する必要がある。しかし、電力変換装置を用いる従来の考え方は、プラス/マイナスの両端子を蓄電デバイス1つ1つに対して用意・接続し、1つ1つの蓄電デバイス全体の電圧をもとに制御する考え方であった。そのため、複数種類の蓄電デバイスの各容量に対して十分に制御可能な、電圧定格の大きい電力変換装置を用意する必要があった。そのため、大形の電力変換装置が必要となる結果、電力変換装置の放熱器も含めてシステム全体が大形化し、重量が増加する可能性があり、複数種類の蓄電デバイスを併用する効果を上回るほどの利点が得られない可能性があった。すなわち、システム全体の小形化要望に対して逆行し得た。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、併用する複数種類の蓄電デバイスの充放電電流を制御する電力変換装置の小形化・軽量化を図ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
第1蓄電デバイス、第2蓄電デバイス、及び負荷回路の間に介在して電力を融通する電力変換装置であって、
前記第1蓄電デバイスが接続される第1端子と、
前記第2蓄電デバイスが接続される第2端子と、
前記負荷回路が接続される負荷端子と、
を備え、
前記第1端子、前記第2端子、及び前記負荷端子の各端子間の通流を制御することで、前記第1蓄電デバイス及び前記第2蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御する電力変換装置である。
【0008】
第1の発明によれば、複数種類の蓄電デバイスの充放電電流を制御する電力変換装置の小形化・軽量化を図ることができる。電力変換装置は、各端子間の通流を制御することで、各蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御するが、例えば、第1端子と第2端子との間の電圧は第1蓄電デバイスと第2蓄電デバイスとの電圧差であり、負荷端子と第2端子との間の電圧は負荷回路と第2蓄電デバイスとの電圧差である。この電圧差が電力変換装置の入出力電圧となるため、電力変換装置の寸法の目安となる定格容量を小さくすることができる。これにより、電力変換装置の小形化・軽量化を図ることができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記第1端子と前記第2端子との間の電圧を1次側電圧とし、前記負荷端子と前記第2端子との間の電圧を2次側電圧として、1次側と2次側との間の通流を制御することで、前記第1蓄電デバイス及び前記第2蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御する電力変換装置である。
【0010】
第2の発明によれば、電力変換装置の1次側電圧は第1蓄電デバイスと第2蓄電デバイスとの電圧差であり、2次側電圧は負荷回路と第2蓄電デバイスとの電圧差である。これらの電圧差が電力変換装置の入出力電圧となるため、電力変換装置の寸法の目安となる定格容量を小さくすることができる。これにより、電力変換装置の小形化・軽量化を図ることができる。
【0011】
電力変換装置の具体的な構成としては、次のように構成してもよい。
【0012】
第3の発明として、第1又は第2の発明において、
電流可逆チョッパ回路(例えば、図2の電流可逆チョッパ回路41)を備え、
前記第1端子は、前記電流可逆チョッパ回路の高圧側接続点に接続され、
前記第2端子は、前記電流可逆チョッパ回路の接地接続点に接続され、
前記負荷端子は、前記電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続されている、
電力変換装置(例えば、図2の電力変換装置30A)を構成してもよい。
【0013】
第4の発明として、第1又は第2の発明において、
低圧側接続点同士及び接地接続点同士を互いに接続することで並列接続された2つの電流可逆チョッパ回路(例えば、図3の電流可逆チョッパ回路42a,42b)を備え、
前記第1端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路のうち、一方の電流可逆チョッパ回路の高圧側接続点に接続され、
前記第2端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路の前記接地接続点に接続され、
前記負荷端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路のうち、他方の電流可逆チョッパ回路の高圧側接続点に接続されている、
電力変換装置(例えば、図3の電力変換装置30B)を構成してもよい。
【0014】
第5の発明として、第1又は第2の発明において、
高圧側接続点同士及び接地接続点同士を互いに接続することで並列接続された2つの電流可逆チョッパ回路(例えば、図4の電流可逆チョッパ回路43a,43b)を備え、
前記第1端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路のうち、一方の電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続され、
前記第2端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路の前記接地接続点に接続され、
前記負荷端子は、前記2つの電流可逆チョッパ回路のうち、他方の電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続されている、
電力変換装置(例えば、図4の電力変換装置30C)を構成してもよい。
【0015】
第6の発明として、第1又は第2の発明において、
一方側接続点が前記第1端子に接続され、他方側接続点が前記負荷端子に接続され、接地接続点が前記第2端子に接続された電流可逆昇降圧チョッパ回路(例えば、図5の電流可逆昇降圧チョッパ回路44)、
を備える電力変換装置(例えば、図5の電力変換装置30D)を構成してもよい。
【0016】
第7の発明として、第1の発明において、
高圧側接続点同士及び接地接続点同士を互いに接続することで並列接続された3つの電流可逆チョッパ回路(例えば、図6の電流可逆チョッパ回路45a~45c)を備え、
前記第1端子は、前記3つの電流可逆チョッパ回路のうちの第1の電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続され、
前記第2端子は、前記3つの電流可逆チョッパ回路のうちの第2の電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続され、
前記負荷端子は、前記3つの電流可逆チョッパ回路のうちの第3の電流可逆チョッパ回路の低圧側接続点に接続されている、
電力変換装置(例えば、図6の電力変換装置30E)を構成しても良い。
【0017】
第8の発明は、第1~第7の何れかの発明において、
前記第2蓄電デバイスは、前記第1蓄電デバイスよりもパワー密度が大きく、且つ、エネルギー密度が小さい、
電力変換装置である。
【0018】
第8の発明によれば、種類が異なる蓄電デバイスを併用し、各蓄電デバイスの充放電流を制御する電力変換装置を備える蓄電システムにおいて、小形化・軽量化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】蓄電システムの構成例。
図2】第1実施例の電力変換装置の回路構成例。
図3】第2実施例の電力変換装置の回路構成例。
図4】第3実施例の電力変換装置の回路構成例。
図5】第4実施例の電力変換装置の回路構成例。
図6】第5実施例の電力変換装置の回路構成例。
図7】電気車の力行時の電流制御例。
図8】電気車の力行時の電流制御例。
図9】電気車の惰行・停車時の電流制御例。
図10】電気車の惰行・停車時の電流制御例。
図11】電気車の惰行・停車時の電流制御例。
図12】電気車の回生・充電時の電流制御例。
図13】電気車の回生・充電時の電流制御例。
図14】電気車の力行時の電流制御の回路シミュレーション結果。
図15】電気車の回生・充電時の電力変換装置の回路シミュレーション結果。
図16】電気車の回生・充電時の電力変換装置の回路シミュレーション結果。
図17】電力変換装置をマイナス側回路とした蓄電システムの構成例。
図18】第1実施例の電力変換装置をマイナス側に接続する場合の回路の構成例。
図19】第2実施例の電力変換装置をマイナス側に接続する場合の回路の構成例。
図20】第3実施例の電力変換装置をマイナス側に接続する場合の回路の構成例。
図21】第4実施例の電力変換装置をマイナス側に接続する場合の回路の構成例。
図22】第5実施例の電力変換装置をマイナス側に接続する場合の回路の構成例。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0021】
[システム構成]
図1は、本実施形態の電力変換装置を適用した蓄電システム1の構成例を示す図である。本実施形態の蓄電システム1は、鉄道の電気車に搭載され、回生電力や架線電力等を蓄電し力行電力等として供給するために用いられる。図1に示すように、蓄電システム1は、第1蓄電デバイス10と、第2蓄電デバイス20と、電力変換装置30と、制御部60とを備える。
【0022】
第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20は、種類が異なる蓄電デバイスである。本実施形態では、第1蓄電デバイス10は、第2蓄電デバイス20に比較して、エネルギー密度が大きいがパワー密度は小さい蓄電デバイスである。例えば、二次電池や燃料電池等で実現される。また、第2蓄電デバイス20は、第1蓄電デバイス10に比較して、パワー密度が大きいがエネルギー密度が小さい蓄電デバイスである。例えば、電気二重層キャパシタ等で実現される。
【0023】
電力変換装置30は、直流-直流の電力変換を行う装置であり、第1蓄電デバイス10、第2蓄電デバイス20及び負荷回路100の間に介在して電力を融通する。電力変換装置30は、第1蓄電デバイス10が接続される第1端子31と、第2蓄電デバイス20が接続される第2端子32と、負荷回路100が接続される負荷端子33との3つの入出力端子を備える。負荷回路100は、主電動機を含む主回路や、補機用の静止形インバータ(SIV:Static Inverter)、パンタグラフ等の集電装置等である。
【0024】
制御部60は、電力変換装置30の各入出力端子の通流を制御することで、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の充電動作及び放電動作を制御する。つまり、負荷回路100の出力電力を直流変換して第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20を充電する充電動作や、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の放電電力を直流変換して負荷回路100に供給する放電動作等を制御する。
【0025】
ここで、蓄電システム1における各部の電圧及び電流を図1のように定める。つまり、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20それぞれの端子電圧を「Vb1」,「Vb2」とし、出力電流を「Ib1」,「Ib2」とし、負荷回路100の電圧(負荷電圧)を「VL」とし、負荷回路100への出力電流(負荷電流)「IL」とする。すると、電力変換装置30に入出力する電流及びエネルギーの関係は、電力変換装置30内部の電力損失を無視した場合には、次式(1),(2)を満たす必要がある。
Ib1+Ib2=IL ・・・(1)
Vb1・Ib1+Vb2・Ib2=VL・IL ・・・(2)
【0026】
電力変換装置30は、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20それぞれの出力電流Ib1,Ib2を制御(分流制御)することができる。電流ILに対する電流Ib1の比率(分流比)を「d」とすると、電流Ib1,Ib2は、次式(3),(4)で表される。
Ib1=d・IL ・・・(3)
Ib2=(1-d)・IL ・・・(4)
【0027】
この式(3),(4)を式(2)に代入すると、電圧に関する次式(5)が得られる。
VL=d・Vb1+(1-d)Vb2 ・・・(5)
この式(5)から、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の端子電圧Vb1,Vb2と分流比dとに応じて負荷電圧VLが決定されることがわかる。
【0028】
分流比dは、任意の実数とすることができる。分流比dが「0」とは、電流Ib1が「0」、つまり、電力変換装置30を介して第2蓄電デバイス20及び負荷回路100でなる閉ループのみに電流が流れている状態である。また、分流比dが「1」とは、電流Ib2が「0」、つまり、電力変換装置30を介して第1蓄電デバイス10及び負荷回路100でなる閉ループのみに電流が流れている状態である。また、分流比dが「1より大」又は「負値」とは、第1蓄電デバイス10と第2蓄電デバイス20の出力電流が逆極性の状態である。
【0029】
なお、分流比dの制御(分流制御)は、制御部60によってなされる。後述するように、電力変換装置30はチョッパ回路を備えて構成されるが、制御部60によってなされるこのチョッパ回路の各スイッチング素子のスイッチング制御(オン・オフ制御)によって、分流制御が実現される。
【0030】
以下、電力変換装置30の具体的な5つの実施例を順に説明する。
【0031】
[第1実施例]
図2は、第1実施例の電力変換装置30Aの回路構成を示す図である。第1実施例の電力変換装置30Aは、電流可逆チョッパ回路41を備える。電力変換装置30Aの第1端子31に電流可逆チョッパ回路41の高圧側接続点51が接続され、第2端子32に電流可逆チョッパ回路41の接地接続点53が接続され、負荷端子33に電流可逆チョッパ回路41の低圧側接続点52が接続されている。また、電力変換装置30Aは、第1端子31と第2端子32の間に接続された入出力用のコンデンサC1と、負荷端子33と第2端子32との間に接続された入出力用のコンデンサC2とを有する。
【0032】
電力変換装置30Aは、第1端子31に印加される電圧Vb1と、第2端子32に印加される電圧Vb2との差電圧(=Vb1-Vb2)を1次側電圧とし、負荷端子33に印加される負荷電圧VLと、第2端子32に印加される電圧Vb2との差電圧(=VL-Vb2)を2次側電圧とすると、電流可逆チョッパ回路41により1次側電圧と2次側電圧との間の双方向の直流変換を行うことができる。つまり、電流可逆チョッパ回路41による双方向の直流変換によって1次側と2次側との間の直流変換ができ、これにより、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の充電動作及び放電動作を制御することができる。電流可逆チョッパ回路41の直流変換は、制御部60によるスイッチング素子のスイッチング制御によって実現される。
【0033】
また、電流Ib1,Ib2の分流制御(分流比dの制御)は、スイッチング素子のスイッチング制御によってなされる。このため、分流を能動的に制御するためには、各スイッチング素子の逆並列ダイオードが常時オンとならないよう、電力変換装置30Aの各入出力端子の電圧Vb1,Vb2,VLを定める必要がある。従って、電圧Vb1,Vb2,VLが満たすべき大小関係の条件は、Vb2<VL<Vb1、となる。
【0034】
[第2実施例]
図3は、第2実施例の電力変換装置30Bの回路構成を示す図である。電力変換装置30Bは、2つの電流可逆チョッパ回路42a,42bを備える。2つの電流可逆チョッパ回路42a,42bは、リアクトルLを共有して、低圧側接続点52同士及び接地接続点53同士を互いに接続することで並列接続されている。そして、電力変換装置30Bの第1端子31に、2つの電流可逆チョッパ回路42a,42bのうち、一方の電流可逆チョッパ回路42aの高圧側接続点51が接続され、第2端子32に、2つの電流可逆チョッパ回路42a,42bの接地接続点53が接続され、負荷端子33に、2つの電流可逆チョッパ回路42a,42bのうち、他方の電流可逆チョッパ回路42bの高圧側接続点51が接続されている。また、電力変換装置30Bは、第1端子31と第2端子32の間に接続された入出力用のコンデンサC1と、負荷端子33と第2端子32との間に接続された入出力用のコンデンサC2とを有する。
【0035】
電力変換装置30Bは、第1端子31に印加される電圧Vb1と、第2端子32に印加される電圧Vb2との差電圧(=Vb1-Vb2)を1次側電圧とし、負荷端子33に印加される負荷電圧VLと、第2端子32に印加される電圧Vb2との差電圧(=VL-Vb2)を2次側電圧とすると、電流可逆チョッパ回路42a,42bにより1次側電圧と2次側電圧との間の双方向の直流変換を行うことができる。つまり、電流可逆チョッパ回路42a,42bによる双方向の直流変換によって1次側と2次側との間の直流変換ができ、これにより、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の充電動作及び放電動作を制御することができる。電流可逆チョッパ回路42a,42bの直流変換は、制御部60によるスイッチング素子のスイッチング制御によって実現される。
【0036】
また、電流Ib1,Ib2の分流制御(分流比dの制御)は、スイッチング素子のスイッチング制御によってなされる。このため、分流を能動的に制御するためには、各スイッチング素子の逆並列ダイオードが常時オンとならないよう、電力変換装置30Bの各入出力端子の電圧Vb1,Vb2,VLを定める必要がある。従って、電圧Vb1,Vb2,VLが満たすべき大小関係の条件は、Vb2<VL、かつ、Vb2<Vb1、となる。
【0037】
[第3実施例]
図4は、第3実施例の電力変換装置30Cの回路構成を示す図である。電力変換装置30Cは、2つの電流可逆チョッパ回路43a,43bを備える。2つの電流可逆チョッパ回路43a,43bは、リンクコンデンサCmを介して、高圧側接続点51同士及び接地接続点53同士を互いに接続することで並列接続されている。そして、電力変換装置30Cの第1端子31に、2つの電流可逆チョッパ回路43a,43bのうち、一方の電流可逆チョッパ回路43aの低圧側接続点52が接続され、第2端子32に、2つの電流可逆チョッパ回路43a,43bの接地接続点53が接続され、負荷端子33に、2つの電流可逆チョッパ回路43a,43bのうち、他方の電流可逆チョッパ回路43bの低圧側接続点52が接続されている。また、電力変換装置30Cは、第1端子31と第2端子32の間に接続された入出力用のコンデンサC1と、負荷端子33と第2端子32との間に接続された入出力用のコンデンサC2とを有する。
【0038】
電力変換装置30Cは、第1端子31に印加される電圧Vb1と、第2端子32に印加される電圧Vb2との差電圧(=Vb1-Vb2)を1次側電圧とし、負荷端子33に印加される負荷電圧VLと、第2端子32に印加される電圧Vb2との差電圧(=VL-Vb2)を2次側電圧とすると、電流可逆チョッパ回路43a,43bにより1次側電圧と2次側電圧との間の双方向の直流変換を行うことができる。つまり、電流可逆チョッパ回路43a,43bによる双方向の直流変換によって1次側と2次側との間の直流変換ができ、これにより、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の充電動作及び放電動作を制御することができる。電流可逆チョッパ回路43a,43bの直流変換は、制御部60によるスイッチング素子のスイッチング制御によって実現される。
【0039】
また、電流Ib1,Ib2の分流制御(分流比dの制御)は、スイッチング素子のスイッチング制御によってなされる。このため、分流を能動的に制御するためには、各スイッチング素子の逆並列ダイオードが常時オンとならないよう、電力変換装置30Cの各入出力端子の電圧Vb1,Vb2,VLを定める必要がある。従って、電力変換装置30Cの各入出力端子の電圧(端子電圧)が満たすべき条件は、Vb2<VL、かつ、Vb2<Vb1、となる。
【0040】
[第4実施例]
図5は、第4実施例の電力変換装置30Dの回路構成を示す図である。電力変換装置30Dは、電流可逆昇降圧チョッパ回路44を備える。電力変換装置30Dの第1端子31に、電流可逆昇降圧チョッパ回路44の一方側接続点54が接続され、負荷端子33に、電流可逆昇降圧チョッパ回路44の他方側接続点55が接続され、第2端子32に、電流可逆昇降圧チョッパ回路44の接地接続点56が接続されている。また、電力変換装置30Dは、第1端子31と第2端子32との間に接続された入出力用のコンデンサC1と、負荷端子33と第2端子32との間に接続された入出力用のコンデンサC2とを有する。
【0041】
電力変換装置30Dは、第1端子31に印加される電圧Vb1と、第2端子32に印加される電圧Vb2との差電圧(=Vb1-Vb2)を1次側電圧とし、負荷端子33に印加される負荷電圧VLと、第2端子32に印加される電圧Vb2との差電圧(=VL-Vb2)を2次側電圧とすると、電流可逆昇降圧チョッパ回路44により1次側電圧と2次側電圧との間の双方向の直流変換を行うことができる。つまり、電流可逆昇降圧チョッパ回路44による双方向の直流変換によって、1次側と2次側との間を直流変換することができ、これにより、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の充電動作及び放電動作を制御することができる。電流可逆昇降圧チョッパ回路44の直流変換は、制御部60によるスイッチング素子のスイッチング制御によって実現される。
【0042】
また、電流Ib1,Ib2の分流制御(分流比dの制御)は、スイッチング素子のスイッチング制御によってなされる。このため、分流を能動的に制御するためには、各スイッチング素子の逆並列ダイオードが常時オンとならないよう、電力変換装置30Dの各入出力端子の電圧Vb1,Vb2,VLを定める必要がある。従って、電圧Vb1,Vb2,VLが満たすべき大小関係の条件は、VL<Vb2<Vb1、となる。
【0043】
[第5実施例]
図6は、第5実施例の電力変換装置30Eの回路構成を示す図である。電力変換装置30Eは、3つの電流可逆チョッパ回路45a,45b,45cを備える。電流可逆チョッパ回路45a,45b,45cは、リンクコンデンサCmを介して、高圧側接続点51同士及び接地接続点53同士を互いに接続することで並列接続されている。電力変換装置30Eの第1端子31に、3つの電流可逆チョッパ回路45a,45b,45cのうちの第1の電流可逆チョッパ回路45aの低圧側接続点52が接続され、第2端子32に、3つの電流可逆チョッパ回路45a,45b,45cのうちの第2の電流可逆チョッパ回路45bの低圧側接続点52が接続され、負荷端子33に、3つの電流可逆チョッパ回路45a,45b,45cのうちの第3の電流可逆チョッパ回路45cの低圧側接続点52が接続されている。また、電力変換装置30Eは、第1の電流可逆チョッパ回路45aの低圧側接続点52と接地接続点53との間に接続された入出力用のコンデンサC1と、第2の電流可逆チョッパ回路45bの低圧側接続点52と接地接続点53との間に接続された入出力用のコンデンサC2と、第3の電流可逆チョッパ回路45cの低圧側接続点52と接地接続点53との間に接続された入出力用のコンデンサC3とを有する。
【0044】
また、電流Ib1,Ib2の分流制御(分流比dの制御)は、スイッチング素子のスイッチング制御によってなされる。このため、分流を能動的に制御するためには、各スイッチング素子の逆並列ダイオードが常時オンとならないよう、電力変換装置30Eの各入出力端子の電圧Vb1,Vb2,VLを定める必要がある。電力変換装置30Eでは、第1端子31、第2端子32、及び負荷端子33の各入出力端子間に、それぞれ2つのスイッチング素子の逆並列ダイオードが相互に逆向きに接続されている。このため、逆並列ダイオードが常時オンすることがない。従って、電圧Vb1,Vb2,VLが満たすべき大小関係の条件はない。
【0045】
[電力変換装置の制御例]
次に、電力変換装置30の具体的な制御例を説明する。何れの制御例においても、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20それぞれの出力電圧Vb1,Vb2は予め設計されており、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20それぞれの出力電流Ib1,Ib2が所望の値となるように分流比dを決定・制御する。出力電流Ib1,Ib2は、負荷回路100への出力電流ILに応じて、電流の関係式(1)を満たす値としている。出力電流Ib1,Ib2が「負値」とは、第1蓄電デバイス10や第2蓄電デバイス20への入力電流(充電電流)であることに相当し、出力電流ILが「負値」とは、負荷回路100からの入力電流であることに相当する。なお、簡単のため、電力変換装置30の損失は無い理想的な状態を想定している。
【0046】
図7図8は、電気車が力行する際に、負荷回路100が電流IL=400Aを消費する場合の制御例である。この場合、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20を放電動作させて、負荷回路100が消費する電流IL=400Aを出力する。
【0047】
図7は、パワー密度が高い第2蓄電デバイス20に、負荷回路100が消費する電流IL=400Aの全てを負担させる制御例である。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1を「0A」、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2を「400A」としており、分流比dは「0」である。そして、電圧の関係式(5)から、負荷電圧VLは「1400V」となる。この図7の制御例は、負荷回路100への電力供給を大電力で行う必要がある場合に好適である。例えば、電気車の加速時、再加速時が該当する。
【0048】
図8は、負荷回路100が消費する電流IL=400Aを、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の両方に負担させる制御例である。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1を「100A」、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2を「300A」としており、分流比dは「0.25」である。そして、電圧の関係式(5)から、負荷電圧VLは「1450V」となる。この図8の制御例は、図7の制御例に続けて負荷回路100に継続的に大きな電力供給を行う必要がある場合に好適である。例えば、電気車の走行速度を徐々に高めていく場合や、ほぼ一定の速度で力行走行する場合が該当する。
【0049】
図9図11は、電気車が惰行又は停車している際に、負荷回路100が電流IL=20Aを消費する場合の制御例である。なお、この場合の電流ILは、補機が消費する電流を想定している。力行時と同じく、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の双方又は一方を放電動作して、負荷回路100が消費する電流IL=20Aを出力する。
【0050】
図9は、第1蓄電デバイス10に、負荷回路100が消費する電流IL=20Aの全てを負担させる制御例である。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1を「20A」、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2を「0A」としており、分流比dは「1」である。そして、電圧の関係式(5)から、負荷電圧VLは「1600V」となる。この図9の制御例は、第2蓄電デバイス20が充電の必要のない状態(例えば満充電の状態)である場合に好適である。
【0051】
図10は、第1蓄電デバイス10に、負荷回路100が消費する電流IL=20Aの全てを負担させつつ、第2蓄電デバイス20を充電する制御例である。具体的には、蓄積エネルギーに余裕がある第1蓄電デバイス10を放電動作して、放電電流を負荷回路100へ出力しつつ、放電電流の一部を蓄積エネルギー残量が低下した第2蓄電デバイス20にも出力して第2蓄電デバイス20を充電している。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1を「40A」、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2を「-20A」としており、分流比dは「2」となる。出力電流Ib2がマイナスであるため、第2蓄電デバイス20への入力電流(充電電流)であることを意味する。そして、電圧の関係式(5)から、負荷電圧は「1800V」となる。
【0052】
なお、図10の制御例は、電圧の大小関係が「Vb2<Vb1<VL」であるため、第1実施例の電力変換装置30A(図2参照)、第4実施例の電力変換装置30D(図5参照)では実施できない。
【0053】
図11は、図10の制御例と同様に、第1蓄電デバイス10に、負荷回路100が消費する電流IL=20Aの全てを負担させつつ、第2蓄電デバイス20を充電する制御例である。但し、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の電圧Vb1,Vb2が同じである点が、図10の制御例と異なる。つまり、出力電流Ib1を「60A」、出力電流Ib2を「-40A」としており、分流比dは「3」である。出力電流Ib2がマイナスであるため、第2蓄電デバイス20への入力電流(充電電流)であることを意味する。そして、電圧の関係式(5)から、負荷電圧は「1600V」となる。
【0054】
また、この場合、Vb1=Vb2、を電圧の関係式(5)に代入すると、VL=Vb1=Vb2、が得られる。つまり、負荷電圧VLは、分流比dによらず、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の出力電圧Vb1,Vb2に応じて決まる。従って、第2蓄電デバイス20への充電電流(出力電流Ib2の負値に相当)を変化(増加又は減少)させるために分流比dを変化させたとしても負荷電圧VLは変化しないため、分流比dの自由度が大きい。
【0055】
なお、図11の制御例は、電圧の大小関係が「Vb2=Vb1=VL」であるため、電圧の大小関係に条件のない第5実施例の電力変換装置30E(図6参照)のみで実施できる。
【0056】
図12図13は、電気車が減速して回生している又は架線等から充電する際に、負荷回路100から電流IL=400Aが入力される場合の制御例である。この場合、負荷回路100から入力される電流IL=400Aで第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の双方又は一方を充電動作させる。
【0057】
図12は、負荷回路100からの入力電流IL=400Aの全てを、第2蓄電デバイス20に充電する制御例である。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1を「0A」、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2を「-400A」とし、分流比dは「0」である。出力電流Ib2がマイナスであるため、第2蓄電デバイス20への入力電流(充電電流)であることを意味する。そして、電圧の関係式(5)から、負荷電圧VLは「1400V」となる。この図12の制御例は、第1蓄電デバイス10が充電の必要のない状態(例えば満充電の状態)である場合に好適である。
【0058】
図13は、負荷回路100からの入力電流IL=400Aを分流させて、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の両方を充電する制御例である。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1を「-100A」、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2を「-300A」としており、分流比dは「0.25」である。出力電流Ib1、Ib2がマイナスであるため、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20への入力電流(充電電流)であることを意味する。そして、電圧の関係式(5)から、負荷電圧VLは「1450V」となる。
【0059】
[電力変換装置の回路シミュレーション例]
続いて、電力変換装置30の回路シミュレーション結果を説明する。このシミュレーションは、電気車の(1)力行時、(2)惰行時、(3)回生時、のそれぞれについて、負荷回路100への出力電流ILを固定として分流比dを変化させる条件で行った。
【0060】
図14は、電気車の力行時の回路シミュレーション結果であり、図15は、電気車の惰行時の回路シミュレーション結果であり、図16は、電気車の回生時の回路シミュレーション結果である。図14図16の何れにおいても、横軸を共通の時間として、電圧Vb1,Vb2,VLと、電流Ib1,Ib2,ILとのそれぞれのグラフを示している。但し、グラフの見易さのために、出力電流Ib1,Ib2については、符号を反転させた値「-Ib1,-Ib2」のグラフとして示している。また、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20での電圧降下と、電力変換装置30の各スイッチング素子の寄生抵抗による電圧降下とを考慮している。このため、理想的な値とはわずかに異なっている。
【0061】
図14は、電気車の力行時の回路シミュレーション結果である。このシミュレーションでは、電力変換装置30の回路構成を第1実施例の構成(図2参照)として行った。そして、電力変換装置30の分流制御として、図7に示した制御状態から、図8に示した制御状態に移行させることを想定して行った。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電圧Vb1を「約1600V」、第2蓄電デバイス20の出力電圧Vb2を「約1400V」、負荷回路100が消費する電流ILを「400A」とした。そして、分流比dを、図7の制御状態に相当する「0」から、図8の制御状態に相当する「0.25」に変化させた。
【0062】
図14において、時間「0~0.02秒」の期間が、図7の制御状態に相当する期間(分流比d=0)であり、時間「0.03~0.06秒」の期間が、図8の制御状態に相当する期間(分流比d=0.25)である。分流比dが「0」の期間では、電力変換装置30の各スイッチング素子はオン又はオフに固定されている状態である。そして、時間「0.02秒」から0.01秒間をかけて、分流比dを「0.25」まで直線的に増加し、電力変換装置30の各スイッチング素子のスイッチング制御を開始した。すると、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1が「0A」から「100A」に変化し、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2が「400A」から「300A」に変化し、負荷電圧VLが「約1400V」から「約1450V」に変化した。この図14の回路シミュレーション結果から、本実施形態の電力変換装置30は、力行中に分流比を変化させる制御が可能であることが分かる。
【0063】
なお、分流比dが「0」より大となっている期間では、電力変換装置30の各スイッチング素子のスイッチング制御(オン・オフ制御)に起因して、電圧VL、及び、電流Ib1,Ib2に脈動が生じている。
【0064】
図15は、電気車の惰行時の回路シミュレーション結果である。このシミュレーションでは、電力変換装置30の回路構成を第5実施例の構成(図6参照)として行った。そして、電力変換装置30の分流制御として、負荷回路100への出力電流ILを第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20それぞれの出力電流Ib1,Ib2に均等に負担させていた制御状態(分流比dが「0.5」の状態。「初期制御状態」という)から、図11に示した制御状態に移行させることを想定して行った。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電圧Vb1、及び、第2蓄電デバイス20の出力電圧Vb2をともに「約1600V」、負荷回路100が消費する電流ILを「20A」とした。そして、分流比dを、「0.5」から、図11の制御状態に相当する「3」に変化させた。
【0065】
図15において、時間「0~0.02秒」の期間が、初期制御状態に相当する期間(分流比d=0.5)であり、時間「0.03~0.06秒」の期間が、図11の制御状態に相当する期間(分流比d=3)である。時間「0.02秒」から0.01秒間をかけて、分流比dを「3」まで直線的に増加し、電力変換装置30の各スイッチング素子のスイッチング制御を開始した。すると、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1が「10A」から「60A」に変化し、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2が「10A」から「-40A(充電電流に相当)」に変化した。しかし、負荷電圧VLは、上述した電圧降下の影響は生じているが「約1600V」のままである。これは、図11において説明したように、Vb1=Vb2であるから、分流比dが変化しても負荷電圧VLは変化しないからである。この図15の回路シミュレーション結果から、本実施形態の電力変換装置30は、惰行中に分流比を変化させる制御が可能であることが分かる。
【0066】
なお、電力変換装置30の各スイッチング素子のスイッチング制御(オン・オフ制御)に起因して、電圧VL、及び、電流Ib1,Ib2に脈動が生じている。
【0067】
図16は、電気車の回生時の回路シミュレーション結果である。このシミュレーションでは、電力変換装置30の回路構成を第1実施例の構成(図2参照)として行った。そして、電力変換装置30の分流制御として、図12に示した制御状態から、図13に示した制御状態に移行させることを想定して行った。つまり、第1蓄電デバイス10の出力電圧Vb1を「約1600V」、第2蓄電デバイス20の出力電圧Vb2を「約1400V」、負荷回路100から入力される電流ILを「400A」とした。そして、分流比dを、図12の制御状態に相当する「0」から、図13の制御状態に相当する「0.25」に変化させた。
【0068】
図16において、時間「0~0.02秒」の期間が、図12の制御状態に相当する期間(分流比d=0)であり、時間「0.03~0.06秒」の期間が、図13の制御状態に相当する期間(分流比d=0.25)である。分流比dが「0」の期間では、電力変換装置30の各スイッチング素子はオン又はオフに固定されている状態である。そして、時間「0.02秒」から0.01秒間をかけて、分流比dを「0.25」まで直線的に増加し、電力変換装置30の各スイッチング素子のスイッチング制御(分流制御)を開始した。すると、第1蓄電デバイス10の出力電流Ib1が「0A」から「-100A(充電電流に相当)」に変化し、第2蓄電デバイス20の出力電流Ib2が「-400A(充電電流に相当)」から「-300A(充電電流に相当)」に変化し、負荷電圧VLが「約1400V」から「約1450V」に変化した。この図16の回路シミュレーション結果から、本実施形態の電力変換装置30は、回生中に分流比を変化させる制御が可能であることが分かる。
【0069】
なお、分流比dが「0」より大となっている期間では、電力変換装置30の各スイッチング素子のスイッチング制御(オン・オフ制御)に起因して、電圧VL、及び、電流Ib1,Ib2に脈動が生じている。
【0070】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、複数種類の蓄電デバイスの充放電電流を制御する電力変換装置30の小形化・軽量化を図ることができる。これにより、種類が異なる第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20を併用し、各蓄電デバイスの充放電電流を制御する電力変換装置30を備える蓄電システム1の小形化・軽量化を図ることが可能となる。
【0071】
電力変換装置30は、各入力端子間の通流を制御することで各蓄電デバイスの充電動作及び放電動作を制御するが、第1端子31と第2端子32との間の1次側電圧は、第1蓄電デバイス10の電圧Vb1と第2蓄電デバイス20の電圧Vb2との電圧差(=Vb1-Vb2)であり、負荷端子33と第2端子32と間の2次側電圧は、負荷回路100の電圧VLと第2蓄電デバイス20の電圧との電圧差である。これらの電圧差が電力変換装置30の入出力電圧となるため、電力変換装置の寸法の目安となる定格容量を小さくすることができる。これにより、電力変換装置30の小形化・軽量化を図ることができる。
【0072】
また、電力変換装置30はチョッパ回路を備えて構成されるが、このチョッパ回路が有する各スイッチング素子には、第1蓄電デバイス10及び第2蓄電デバイス20の電圧Vb1,Vb2や負荷電圧VLそのものではなく、電圧Vb1,Vb2の差電圧や、電圧Vb2と負荷電圧VLとの差電圧が印加される。このため、スイッチング素子として、定格電圧が小さく、小形で低損失の素子を用いることができる。このような理由からも、電力変換装置30の小形化・軽量化を図ることができる。
【0073】
更に、小形で低損失のスイッチング素子を用いることで、電力変換装置30としての損失が小さくなり、省エネルギーに寄与するとともに、電力変換装置30に備える放熱器の小形化・軽量化にも繋がり、これも、電力変換装置30の小形化に寄与する。
【0074】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0075】
例えば、上述の実施形態では、電力変換装置30を、蓄電デバイスのプラス側(正極側)に接続するプラス側回路として用いたが、蓄電デバイスのマイナス側(負極側)に接続するマイナス側回路として用いてもよい。
【0076】
図17は、電力変換装置をマイナス側回路として用いた蓄電システム1Xの構成例である。蓄電システム1Xにおいて、電力変換装置30の第1端子31には、第1蓄電デバイス10の負極側が接続され、第2端子32には、第2蓄電デバイス20の負極側が接続され、負荷端子33には、負荷回路100の負極側が接続される。そして、入出力端子に入出力する電流Ib1,Ib2,ILは、上述の実施形態における電力変換装置30(図1参照)とは正負が反転した値となる。電気車の多くでは回路のマイナス側が接地されるため、電力変換装置をマイナス側回路として用いることは、電力変換装置の対地電位を低減できるため、絶縁設計の面で有利となる。
【0077】
電力変換装置30Xの具体的な回路構成としては、基本的には、上述の実施例(第1~第5実施例)の回路構成における各素子の配置を上下に逆転させた配置の回路構成となる。具体的に図示すると、図18図22のように構成される。図18は、第1実施例の電力変換装置30A(図2参照)をマイナス側に接続する場合の回路の回路構成図であり、図19は、第2実施例の電力変換装置30B(図3参照)をマイナス側に接続する場合の回路の回路構成図であり、図20は、第3実施例の電力変換装置30C(図4参照)をマイナス側に接続する場合の回路の回路構成図であり、図21は、第4実施例の電力変換装置30D(図5参照)をマイナス側に接続する場合の回路の回路構成図であり、図22は、第5実施例の電力変換装置30E(図6参照)をマイナス側に接続する場合の回路の回路構成図である。
【符号の説明】
【0078】
1…蓄電システム
10…第1蓄電デバイス
20…第2蓄電デバイス
30(30A~30E)…電力変換装置
31…第1端子
32…第2端子
33…負荷端子
41,42a,42b,43a,43b,45a,45b,45c…電流可逆チョッパ回路
51…高圧側接続点
52…低圧側接続点
53…接地接続点
44…電流可逆昇降圧チョッパ回路
54…一方側接続点
55…他方側接続点
56…接地接続点
60…制御部
100…負荷回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22