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特許7589148エチレンの製造方法、及び重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】エチレンの製造方法、及び重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/24 20060101AFI20241118BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20241118BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20241118BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241118BHJP
【FI】
C07C1/24
C07C11/04
C08F10/02
C07B61/00 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021530689
(86)(22)【出願日】2020-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2020026426
(87)【国際公開番号】W WO2021006245
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019126307
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 周知
(72)【発明者】
【氏名】沼田 憲男
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-517448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0157322(US,A1)
【文献】特開2019-048743(JP,A)
【文献】特開2017-137464(JP,A)
【文献】特開2010-030902(JP,A)
【文献】特開2012-001441(JP,A)
【文献】特開昭58-038220(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0133708(US,A1)
【文献】”ごみ”を”エタノール”に変換する世界初の革新的生産技術を確立,積水化学工業株式会社ホームページ [online],2017年12月06日,pp.1-3,インターネット,[2020年8月18日検索],URL:<https://www.sekisui.co.jp/news/2017/1314802_29186.html>
【文献】“ごみ”をエタノールに変換するパイロットプラントを初公開-世界初の革新的生産技術による「都市油田」の実現に向けて-,積水化学工業株式会社プレスリリース [online],2018年04月17日,インターネット,[2020年8月18日検索],URL:<https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M104863/201804162973/_prw_OR1fl_6UCQsC40.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物由来の合成ガスから、ガス資化性微生物による微生物発酵により、エタノール含有培養液を生成するエタノール変換工程と、
得られたエタノール含有培養液から、微生物を含む成分を分離して、エタノール含有液を得る分離工程と、
前記エタノール含有液を蒸留装置を用いて精製して、廃棄物由来のエタノールを含む原料エタノールを得る前段精製工程と、
前記原料エタノールをクロマトグラフィー、蒸留装置、及び活性炭吸着のいずれかで炭素数6~14の脂肪族不飽和炭化水素を除去するようにさらに精製する第1の精製工程と
前記第1の精製工程を経た原料エタノールから、エチレンを含むエチレン含有生成物を得るエチレン生成工程
を含むエチレンの製造方法。
【請求項2】
製造されたエチレンにおいて、炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素の含有量が、0.3体積%以下である、請求項1に記載のエチレンの製造方法。
【請求項3】
前記エチレン生成工程の後に、前記エチレン含有生成物から炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素、炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素、炭素数3~10のアルコール、炭素数3~10のエーテル、一酸化炭素、及び酸素からなる群から選択される少なくとも1つを除去する第2の精製工程をさらに含む、請求項1又は2に記載のエチレンの製造方法。
【請求項4】
前記第2の精製工程において一酸化炭素及び酸素を除去する請求項3に記載のエチレンの製造方法。
【請求項5】
廃棄物由来の合成ガスから、ガス資化性微生物による微生物発酵により、エタノール含有培養液を生成するエタノール変換工程と、
得られたエタノール含有培養液から、微生物を含む成分を分離して、エタノール含有液を得る分離工程と、
前記エタノール含有液を蒸留装置を用いて精製して、廃棄物由来のエタノールを含む原料エタノールを得る前段精製工程と、
前記原料エタノールから、エチレンを含むエチレン含有生成物を得るエチレン生成工程と、
前記エチレン生成工程の後に一酸化炭素、及び酸素を除去するように前記エチレン含有生成物を精製する第2の精製工程と
を含むエチレンの製造方法。
【請求項6】
エチレン生成工程の前に、前記原料エタノールから炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素、炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素、炭素数3~10のアルコール、及び炭素数3~10のエーテルからなる群から選択される少なくとも1つを除去する第1の精製工程を含む、請求項5に記載のエチレンの製造方法。
【請求項7】
製造されたエチレンにおいて、一酸化炭素の含有量が、1体積%以下であり、かつ酸素の含有量が1体積%以下である請求項4~6のいずれか1項に記載のエチレンの製造方法。
【請求項8】
前記炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素が、プロピレンを含む、請求項3または6に記載のエチレンの製造方法。
【請求項9】
前記炭素数3~10のアルコールが、2-プロパノールを含む、請求項3、6、及び8のいずれか1項に記載のエチレンの製造方法。
【請求項10】
前記炭素数3~10のエーテルが、ジブチルエーテルを含む、請求項3、6、8及び9のいずれか1項に記載のエチレンの製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法で製造されるエチレンを含むモノマーを重合して重合体を得る重合工程を含む、重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物由来のエタノールを含む原料エタノールからエチレンを製造するエチレンの製造方法、及びその製造方法で得られたエチレンを原料として重合体を製造する重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレンは、ナフサ、原油、天然ガス等を原料として製造される。エチレンは、重合反応および重合体の品質上の要求から高い純度が要求されている。例えば、高圧法によるエチレン重合では、99.9%以上の純度のエチレンが用いられる。そのため、従来、エチレンなどの原料オレフィンを精製した後、原料オレフィンを重合する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、二酸化炭素を不純物として含有する、原料オレフィンを活性アルミナとゼオライトの混合物からなるハイブリッド系吸着剤と接触させ、原料オレフィンを精製した後に、精製オレフィンを遷移金属錯体触媒に接触させて重合することを特徴とする、オレフィンの重合方法に係る発明が記載されている。
特許文献1によれば、従来使用されているチーグラー・ナッタ触媒が有する欠点が少ないメタロセン触媒が開発されていること、メタロセン触媒は原料オレフィン中の不純物に対して極めて敏感であること、ナフサ、原油、天然ガス等を用いて得られる工業用エチレン中には数ppm(容量)~数百ppm(容量)程度の二酸化炭素が含まれること、二酸化炭素は、メタロセン触媒の重合において触媒毒として悪影響をもたらすことが記載されている。そして、特許文献1に記載の発明は、前記ハイブリッド系吸着剤を用いて経済的で、簡易かつ効率的に二酸化炭素を除去することで、メタロセン触媒等の遷移金属錯体触媒によるオレフィン重合において、不純物による触媒活性の低下を十分に抑止でき、高い生産性で重合体を工業的に安定して生産することが可能となることが記載されている。
【0004】
近年、カーボンニュートラルや炭素循環の重要性が議論されているところ、サトウキビ等から製造されるバイオエタノール、廃棄物由来のエタノール等が研究されている。このうち、バイオエタノールは、食料競合や生物多様性の観点から問題があり、廃棄物由来のエタノールが注目されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-137464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、廃棄物由来のエタノールを原料として、従来技術を適用して、エチレン、さらにそのエチレンを用いて重合体を製造すると、従来の工業用エチレンとは由来が異なるため、重合反応が適切に進行せず、また、重合体の品質が十分でない場合があることが判明した。
【0007】
そこで、本発明は、廃棄物由来のエタノールを原料としてエチレンを製造した場合でも、エチレンの重合反応が適切に進行し、かつ得られる重合体の品質が良好となるエチレンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]~[8]を要旨とする。
[1]廃棄物由来のエタノールを含む原料エタノールから、エチレンを含むエチレン含有生成物を得るエチレン生成工程と、
前記エチレン生成工程の前に、前記原料エタノールを精製する第1の精製工程、及び前記エチレン生成工程の後に前記エチレン含有生成物を精製する第2の精製工程の少なくともいずれかとを含む、
エチレンの製造方法。
[2]前記第1の精製工程が、前記原料エタノールから炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素、炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素、炭素数3~10のアルコール、及び炭素数3~10のエーテルからなる群から選択される少なくとも1つを除去することを含む、上記[1]に記載のエチレンの製造方法。
[3]前記第2の精製工程が、前記エチレン含有生成物から炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素、炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素、炭素数3~10のアルコール、炭素数3~10のエーテル、一酸化炭素、及び酸素からなる群から選択される少なくとも1つを除去することを含む、上記[1]又は[2]に記載のエチレンの製造方法。
[4]前記炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素が、プロピレンを含む、上記[2]または[3]に記載のエチレンの製造方法。
[5]前記炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素が、炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素を含む、上記[2]~[4]のいずれか1項に記載のエチレンの製造方法。
[6]前記炭素数3~10のアルコールが、2-プロパノールを含む、上記[2]~[5]のいずれか1項に記載のエチレンの製造方法。
[7]前記炭素数3~10のエーテルが、ジブチルエーテルを含む、上記[2]~[6]のいずれか1項に記載のエチレンの製造方法。
[8]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法で製造されるエチレンを含むモノマーを重合して重合体を得る重合工程を含む、重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、廃棄物由来のエタノールを原料としてエチレンを製造した場合でも、エチレンの重合反応が好適に進行し、かつ得られる重合体の品質が良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、実施形態を参照して説明する。
本発明は、廃棄物由来のエタノールを含む原料エタノールから、エチレンを含むエチレン含有生成物を得るエチレン生成工程と、エチレン生成工程の前に、原料エタノールを精製する第1の精製工程、及びエチレン生成工程の後にエチレン含有生成物を精製する第2の精製工程の少なくともいずれかとを含むものである。
本発明においては、エチレン生成工程の前、後、又はこれら両方に精製工程を行うことで、廃棄物由来のエタノールを原料とした場合でも、エチレンの重合反応が適切に進行し、かつ、重合体の分子量が十分に高くなるなど得られる重合体の品質が良好となる。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
[原料エタノール]
本発明で原料として使用する原料エタノールは、廃棄物由来のエタノールを含むものである。廃棄物由来のエタノールは、廃棄物を燃焼、熱分解などさせることで得られる廃棄物由来ガスから生成される。
廃棄物としては、産業固形廃棄物などの産業廃棄物でもよいし、都市固形廃棄物(MSW)などの一般廃棄物でもよく、プラスチック廃棄物、生ゴミ、廃棄タイヤ、バイオマス廃棄物、食料廃棄物、建築資材、木材、木質チップ、繊維、紙類等の可燃性物質が挙げられる。これらのなかでは、都市固形廃棄物(MSW)が好ましい。
廃棄物由来ガスは、好ましくはガス資化性微生物又は金属触媒のいずれかにより、エタノールに変換される。
【0012】
廃棄物由来ガスは、好ましくは一酸化炭素及び水素を含む合成ガスである。以下、廃棄物由来ガスが合成ガスである場合の例を詳細に説明する。合成ガスは、廃棄物をガス化させることによって原料ガスを生成する原料ガス生成工程を行い、さらに、生成された原料ガスから様々な汚染物質、ばいじん粒子、不純物、好ましくない量の化合物等の特定の物質を、除去ないし低減させる合成ガス精製工程を行うことで得ることができる。
【0013】
(原料ガス生成工程)
原料ガス生成工程において廃棄物のガス化は、例えばガス化炉を用いるとよい。ガス化炉は、炭素源を燃焼(不完全燃焼)させる炉であり、例えば、シャフト炉、キルン炉、流動床炉、ガス化改質炉、プラズマガス化炉等が挙げられる。廃棄物を原料ガスにガス化する際の温度は、特に制限されるものではないが、通常100~2500℃であり、好ましくは200~2100℃である。
【0014】
廃棄物をガス化して得られる原料ガスは、一酸化炭素および水素を含むとよいが、二酸化炭素、酸素、窒素をさらに含んでもよい。また、原料ガスは、スス、タール、窒素化合物、硫黄化合物、リン系化合物、有機化合物等の成分をさらに含んでもよい。原料ガスは、典型的には、一酸化炭素を0.1体積%以上80体積%以下、水素を0.1体積%以上80体積%以下含む。また、二酸化炭素を0.1体積%以上70体積%以下含むとよい。
【0015】
原料ガスは、廃棄物を燃焼(不完全燃焼)させる熱処理(通称:ガス化)を行うことにより、即ち、廃棄物を部分酸化させることにより、一酸化炭素を、特に制限はないが、0.1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上含むガスとして生成されるとよい。
【0016】
(合成ガス精製工程)
原料ガスは、上記の通り様々な汚染物質、ばいじん粒子、不純物、好ましくない量の化合物等の特定の物質を除去ないし低減することで合成ガスとするとよい。合成ガスを微生物発酵によりにエタノールを得る場合には、原料ガスから、微生物の安定培養に好ましくない物質や、好ましくない量の化合物等を低減ないし除去し、原料ガスに含まれる各成分の含有量が微生物の安定培養に好適な範囲となるようにしておくことが好ましい。また、合成ガスより金属触媒を用いてエタノールを得る場合にも、金属触媒を失活させる物質を低減ないし除去するとよい。
【0017】
合成ガス精製工程では、例えば、ガスチラーなどよりなる水分分離装置、低温分離方式(深冷方式)の分離装置、サイクロン、バグフィルターの各種フィルターで代表されるススなどの微粒子を分離する微粒子分離装置、スクラバーなどの水溶性不純物分離装置、脱硫装置(硫化物分離装置)、膜分離方式の分離装置、脱酸素装置、圧力スイング吸着方式の分離装置(PSA)、温度スイング吸着方式の分離装置(TSA)、圧力温度スイング吸着方式の分離装置(PTSA)、活性炭を用いた分離装置、脱酸素触媒、具体的には、銅触媒またはパラジウム触媒を用いた分離装置等のうちの1種または2種以上などを用いて処理を行うことで原料ガスを精製して、合成ガスを得るとよい。
【0018】
また、微生物発酵によりにエタノールを得る場合には、原料ガス中の二酸化炭素ガス濃度を低減させることが好ましい。例えば、ゼオライトを含む再生吸着材を充填した圧力スイング吸着方式の分離装置を用いて、合成ガス中の二酸化炭素ガスを再生吸着材に吸着させ、合成ガス中の二酸化炭素ガス濃度を低減することが好ましい。
【0019】
得られる合成ガスは、上記のとおり少なくとも一酸化炭素及び水素を必須成分として含み、二酸化炭素、窒素をさらに含むとよい。合成ガス中の一酸化炭素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常20体積%以上80体積%以下であり、好ましくは25体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは30体積%以上45体積%以下である。
合成ガス中の水素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常10体積%以上80体積%以下であり、好ましくは30体積%以上55体積%以下であり、より好ましくは30体積%以上50体積%以下である。
【0020】
合成ガス中の二酸化炭素濃度は、特に限定されないが、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常0.1体積%以上40体積%以下、好ましくは0.3体積%以上30体積%以下である。二酸化炭素濃度は、微生物発酵により、エタノール生成を行う場合に二酸化炭素濃度を低くすることが特に好ましく、そのような観点から、より好ましくは0.5体積%以上25体積%以下である。
合成ガス中の窒素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常40体積%以下であり、好ましくは1体積%以上20体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上15体積%以下である。
【0021】
合成ガスにおける一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の濃度は、廃棄物の種類、原料ガス生成工程におけるガス化温度、ガス化時の供給ガスの酸素濃度等の燃焼条件を適宜変更することで、所定の範囲とすることができる。
例えば、一酸化炭素や水素濃度を変更したい場合は、廃プラ等の炭化水素(炭素および水素)の比率が高い廃棄物に変更し、窒素濃度を低下させたい場合は原料ガス生成工程において酸素濃度の高いガスを供給する方法等がある。
さらに、原料ガス及び合成ガスの少なくともいずれかは、一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の各成分の濃度調整を適宜行ってもよい。濃度調整は、これら成分の少なくとも1種を原料ガス又は合成ガスに添加するとよい。添加量は、原料ガス又は合成ガスの全量に対して、例えば50体積%未満、好ましくは30体積%未満、より好ましくは10体積%未満である。
【0022】
(エタノール変換工程)
合成ガスは、エタノール変換工程においてエタノールに変換される。合成ガスは、エタノール変換工程において、上記のとおりガス資化性微生物又は金属触媒のいずれかにより、エタノールに変換させるとよいが、ガス資化性微生物により変換させることが好ましい。ガス資化性微生物を用いて、エタノールに変換する場合、微生物発酵槽に合成ガスを供給し、微生物発酵槽にて合成ガスを微生物発酵させて、エタノールを製造する。微生物発酵槽は、連続発酵装置とすることが好ましい。
【0023】
一般に、微生物発酵槽は任意の形状のものを用いることができ、撹拌型、エアリフト型、気泡塔型、ループ型、オープンボンド型、フォトバイオ型が挙げられるが、本発明においては、微生物発酵槽が、主槽部と還流部とを有する公知のループリアクターを好適に用いることができる。
微生物発酵槽に供給する合成ガスは、上記した合成ガス精製工程を経て得られた合成ガスをそのまま合成ガスとして用いてもよいし、別の所定のガスを追加してから供給してもよい。別の所定のガスとして、例えば二酸化硫黄等の硫黄化合物、リン化合物、および窒素化合物からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
微生物発酵槽には、合成ガスと微生物培養液とが連続的に供給されてもよいが、合成ガスと微生物培養液とを同時に供給する必要はなく、予め微生物培養液を供給した微生物発酵槽に合成ガスを供給してもよい。ある種の嫌気性微生物は、発酵作用によって、合成ガス等の基質ガスから、エタノール等を生成することが知られており、この種のガス資化性微生物は、液状の培地で培養される。例えば、液状の培地とガス資化性細菌とを供給して収容しておき、この状態で液状の培地を撹拌しつつ、微生物発酵槽内に合成ガスを供給してもよい。これにより、液状の培地中でガス資化性細菌を培養して、その発酵作用により合成ガスからエタノールを生成することができる。
【0025】
微生物発酵槽において、培地の温度(培養温度)は、任意の温度を採用してよいが、好ましくは30~45℃程度、より好ましくは33~42℃程度、さらに好ましくは36.5~37.5℃程度とすることができる。また、培養時間は、好ましくは連続培養で1時間以上、より好ましくは7日以上、特に好ましくは30日以上、最も好ましくは60日以上であり、上限は特に設定されないが設備の定修等の観点から720日以下が好ましく、より好ましくは365日以下である。なお、培養時間とは、種菌を培養槽に添加してから、培養槽内の培養液を全量排出するまでの時間を意味するものとする。
【0026】
微生物培養液に含まれる微生物(種)は、一酸化炭素を主たる原料として合成ガスを微生物発酵させることによってエタノールを製造できるものであれば、特に限定されない。例えば、微生物(種)は、ガス資化性細菌の発酵作用によって、合成ガスからエタノールを生成するものであること、特にアセチルCOAの代謝経路を有する微生物であることが好ましい。ガス資化性細菌のなかでも、クロストリジウム(Clostridium)属がより好ましく、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxidivorans)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、アセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)等が挙げられる。これらのなかでもクロストリジウム・オートエタノゲナムが特に好ましい。
【0027】
上記した微生物(種)を培養する際に用いる培地は、菌に応じた適切な組成であれば特に限定されないが、主成分の水と、この水に溶解または分散された栄養分(例えば、ビタミン、リン酸等)とを含有する液体である。このような培地の組成は、ガス資化性細菌が良好に成育し得るように調製される。例えば、微生物にクロストリジウム属を用いる場合の培地は、米国特許出願公開第2017/260552号明細書の「0097」~「0099」等を参考にすることができる。
【0028】
微生物発酵により、エタノールを含有する培養液(エタノール含有培養液)が得られる。エタノールを含有する培養液は、次いで分離工程に付される。
分離工程では、例えば、エタノール含有培養液を、0.01~1000kPa(絶対圧)の条件下、23~500℃に加熱して、微生物を含む液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに分離するとよい。このような分離工程を実施することにより、後述するエタノールの分離精製時の蒸留操作において、蒸留装置内で発泡が生じなくなるため、連続的に蒸留操作を行うことができる。また、後述する分離精製時に効率的にエタノールの分離精製を行うことができる。
【0029】
上記分離工程では、微生物やその死骸、微生物由来のタンパク質等が含まれる液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに効率的に分離する観点から、好ましくは10~200kPaの条件下、より好ましくは50~150kPaの条件下、さらに好ましくは常圧下で、好ましくは50~200℃の温度、より好ましくは80℃~180℃の温度、さらに好ましくは100~150℃の温度でエタノール含有培養液の加熱を行う。
上記分離工程で得られたエタノールを含む気体成分は、凝縮により液化してエタノール含有液とするとよい。液化工程で用いられる装置は、特に限定されないが、熱交換器、特にコンデンサー(凝縮器)を用いることが好ましい。凝縮器の例としては、水冷式、空冷式、蒸発式等が挙げられ、それらのなかでも水冷式が好ましい。凝縮器は一段でもよいし、複数段からなるものでもよい。
【0030】
また、分離工程では、上記したように微生物を含む液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに分離する代わりに、微生物を含む固体成分とエタノールを含む液体成分(エタノール含有液)とを、固液分離フィルター装置などの固液分離装置により分離してもよい。
【0031】
分離工程の後、エタノール含有液をさらに精製する前段精製工程を行うとよい。前段精製工程は、後述する第1の精製工程の前段に行う精製工程を意味する。また、微生物発酵で得られたエタノール含有液が、微生物等の成分が既に除去されている場合に、上記した分離工程を経ないで前段精製工程を行ってもよい。
前段精製工程は、エタノール含有液を、エタノールの濃度を高めた留出液と、エタノールの濃度を低下させた缶出液とに分離する工程である。精製工程に用いられる装置は、例えば、蒸留装置、浸透気化膜を含む処理装置、ゼオライト膜を含む処理装置、エタノールより沸点の低い低沸点物質を除去する処理装置、エタノールより沸点の高い高沸点物質を除去する処理装置、イオン交換膜を含む処理装置等が挙げられる。これらの装置は単独でまたは2種以上を組み合わせてもよい。単位操作としては、蒸留装置又は膜分離を好適に用いることができ、蒸留装置がより好ましい。また、膜分離としては、ゼオライト膜を好適に用いることができる。
【0032】
蒸留装置を用いる場合には加熱蒸留を行う。加熱蒸留では、所望のエタノールを留出液として、高純度で得ることができる。エタノールの蒸留時における蒸留装置内の温度は、特に限定されないが、110℃以下であることが好ましく、70~105℃程度であることがより好ましい。蒸留装置内の温度を前記範囲に設定することにより、エタノールとその他の成分との分離、即ち、エタノールの蒸留をより確実に行うことができる。
【0033】
加熱蒸留においては、エタノール含有液を、100℃以上のスチームを用いた加熱器を備えた蒸留装置に導入し、蒸留塔底部の温度を30分以内に90℃以上まで上昇させた後、上記エタノール含有液を蒸留塔中部から導入して行うとよい。また、蒸留装置を用いた加熱蒸留では、塔底部、塔中部、頭頂部の各部の温度差が、±15℃以内にて蒸留工程を行うことが好ましい。温度差が±15℃以内では、高純度のエタノールを得やすくなる。蒸留温度差は、好ましくは±13℃であり、より好ましくは±11℃である。これらの蒸留温度差であれば、その他の成分との分離、即ち、エタノールの蒸留による精製をより確実に行うことができる。
【0034】
エタノールの蒸留時における蒸留装置内の圧力は、常圧であってもよいが、好ましくは大気圧未満、より好ましくは60~95kPa(絶対圧)程度である。蒸留装置内の圧力を前記範囲に設定することにより、エタノールの分離効率を向上させること、ひいてはエタノールの収率を向上させることができる。
【0035】
上記前段精製工程を経て得られたエタノールは、後述するエチレン生成工程において、エチレン含有生成物を得るための原料として使用される。本発明において原料として使用される「エタノール」は、化合物として純粋なエタノール(化学式:CHCHOHで表されるエタノール)を意味するものではなく、不純物を含む組成物であり、「原料エタノール」ともいう。不純物は、上記した各工程を経て製造された原料エタノールに含まれるものであり、その多くは廃棄物由来の化合物である。
【0036】
また、原料エタノールは、上記の通り、金属触媒を用いて合成ガスより生成されてもよい。金属触媒としては、水素化活性金属、又は水素化活性金属と助活性金属との集合物が挙げられる。水素化活性金属としては、従来、混合ガスからエタノールを合成できる金属として知られているものであればよく、例えば、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、マンガン、レニウム等、周期表の第7族に属する元素、ルテニウム等、周期表の第8族に属する元素、コバルト、ロジウム等の周期表の第9族に属する元素、ニッケル、パラジウム等の周期表の第10族に属する元素等が挙げられる。
これらの水素化活性金属は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。水素化活性金属としては、CO転化率のさらなる向上、エタノールの選択率が向上する点から、ロジウム、マンガン及びリチウムを組み合わせたものや、ルテニウム、レニウム及びナトリウムを組み合わせたもの等、ロジウム又はルテニウムとアルカリ金属とその他の水素化活性金属とを組み合わせたものが好ましい。
【0037】
助活性金属としては、例えば、チタン、マグネシウム、バナジウム等が挙げられる。水素化活性金属に加えて助活性金属が担持されていることで、CO転化率やエタノール選択率などをより高めることができる。
金属触媒としては、ロジウム系触媒が好ましい。ロジウム系触媒は、ロジウム系触媒以外の他の金属触媒を併用してもよい。他の金属触媒としては、銅単独又は銅と銅以外の遷移金属とが担体に担持された触媒が挙げられる。
金属触媒を使用する場合には、通常はエタノールに加えてアセトアルデヒドや酢酸を含む生成物が得られるので、該生成物は、蒸留などの前段精製工程を経て原料エタノールとされるとよい。
【0038】
なお、前段精製工程を省略してもよい。すなわち、エタノール生成後、精製工程として、前段精製工程と、後述する第1の精製工程の両方を行わなくてもよく、第1の精製工程のみ行ってもよい。この場合、上記したエタノール含有液が、原料エタノールとなり、第1の精製工程は、蒸留装置又は膜分離で行うことが好適であり、蒸留装置を用いた加熱蒸留が特に好ましく、加熱蒸留の詳細は上記したとおりである。もちろん、第2の精製工程を行う場合には、前段精製工程と第1の精製工程の両方を省略してもよい。ただし、前段精製工程を行うほうが好ましく、合わせて第1の精製工程を行うことがより好ましい。
【0039】
原料エタノールは、エタノール純度(すなわち、エタノール含有量)が、例えば85容量%以上である。エタノール純度が上記下限値以上であると、第1及び第2の精製工程の少なくともいずれかを経ることで、エチレンを原料とした重合反応が好適に進行し、また、エチレンから得られる重合体の品質が良好となる。原料エタノールのエタノール純度は、好ましくは90容量%以上、より好ましくは95容量%以上、さらに好ましくは99.5容量%以上である。また、原料エタノールは、エタノール純度が100容量%未満であればよい。
また、原料エタノールは、廃棄物由来のエタノールを含むものであれば、市販品を使用してもよい。
【0040】
[エチレン生成工程]
原料エタノールは、エチレン生成工程によりエタノールをエチレンに変換させ、それにより、エチレン含有生成物が得られる。具体的には、原料エタノールを触媒に接触させて、エチレンに変換させればよい。原料エタノールは、脱水反応によりエチレンに変換される。
【0041】
使用する触媒としては、エタノールをエチレンに変換できる触媒であれば限定されないが、ゼオライト、P改質ゼオライトなどの改質ゼオライト、シリカ-アルミナ、アルミナ、シリケート化、チタネート化、ジルコネート化またはフッ素化したアルミナ、シリコアルミノホスフェートなどの酸触媒(以下、これらを総称して「ゼオライト又はアルミナ系触媒」ともいうことがある)が挙げられる。また、ヘテロポリ酸担持触媒なども挙げられる。
【0042】
ゼオライトとしては、少なくとも一種の10員環を構造中に含むものが有利であり、珪素、アルミニウム、酸素および任意成分としての硼素から成るミクロポーラス材料を有し、具体的には、MFI(ZSM-5、シリカライト-1、ボラライトC、TS-1)、MEL(ZSM-11、シリカライト-2、ボラライトD、TS-2、SSZ-46)、FER(フェリエ沸石、FU-9、ZSM-35)、MTT(ZSM-23)、MWW(MCM-22、PSH-3、ITQ-1、MCM-49)、TON(ZSM-22、Theta-1、NU-10)、EUO(ZSM-50、EU-1)、MFS(ZSM-57)、ZSM-48などが挙げられる。
【0043】
ゼオライトとしては、Si/Al比が10以上であるゼオライトが好ましい。Si/Al比が10以上であるゼオライトは、Si/Al比が100以上であることが好ましく、また、好ましくはMFI及びMELから選択される少なくとも1種を含む。
【0044】
また、ゼオライトは、脱アルミニウム化したゼオライトも好ましい。脱アルミニウム化したゼオライトでは、約10質量%のアルミニウムを除去するのが有利である。この脱アルミニウム化はスチーム処理で行い、その後に必要に応じて浸出(leaching)するのが有利である。
ゼオライト、及び脱アルミニウム化したゼオライトは、基本的にH型であるのが有利である。また、副成分(約50%以下の成分)として、金属補償イオン、例えばNa、Mg、Ca、La、Ni、Ce、Zn、Coから選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0045】
ゼオライトは、バインダ、好ましくは無機バインダと混合され、ペレット状などの所望の形状に成形される。バインダは本発明の脱水プロセスで使用する温度、その他の条件に耐久性のあるものが選ばれる。バインダはクレー、シリカ、金属シリケート、金属酸化物(例えばZrO2)またはシリカと金属酸化物との混合物を含むゲルから選択される少なくとも1種の無機材料である。
【0046】
P改質ゼオライトは、燐改質(phosphorus modified)ゼオライトである。エチレン生成工程では、P改質ゼオライトを使用する態様も好ましい。燐改質ゼオライトは、例えば初期の原子比Si/Al比が4~500であるミクロポーラスを有するゼオライト、具体的には、MFI、MOR、MEL、クリノプチロライト、FER、MWW、TON、EUO、MFS、ZSM-48などをベースにして製造できる。初期の原子比Si/Al比は、100以下であることが好ましく、4~30であることがより好ましい。本製法のP改質ゼオライトは、Si/Al比が低い(30以下の)安価なゼオライトをベースにしても得ることができる。
【0047】
また、P改質ゼオライトにおいても、Mg、Ca、La、Ni、Ce、Zn、Co、Ag、Fe、及びCuから選択される少なくとも1種の金属でさらに改質することができる。
P改質ゼオライトにおけるリン原子含有率は、少なくとも0.05質量%であり、好ましくは0.3~7質量%であるのが有利である。
また、原料となるゼオライトに対して、浸出によって少なくとも10質量%のアルミニウムがゼオライトから抽出および除去されているのが有利である。
【0048】
P改質ゼオライトを用いた触媒は、P改質ゼオライト自体を触媒にしてもよいし、P改質ゼオライトと他の材料を組合せた配合型のP改質ゼオライトにしてもよい。配合型とすることで、触媒の硬度又は触媒活性などを改善できる。
P改質ゼオライトと混合できる材料としては、種々の不活性若しくは触媒活性材料、又は種々の結合剤材料などが挙げられる。具体的には、カオリン、その他のクレーのような組成物、各種形態の希土類金属、燐酸塩、アルミナまたはアルミナゾル、チタニア、ジルコニア、石英、シリカまたはシリカゾルおよびこれらの混合物が挙げられる。これらの成分は触媒および配合触媒の圧縮強度の増加に有効である。触媒はペレット、球に成形したり、その他の形状に押出したり、噴霧乾燥粒子にすることができる。最終触媒生成物中に含まれるP改質ゼオライトの量は全触媒の10~90質量%、好ましくは全触媒の20~70質量%である。
P改質ゼオライトの好適な例は、シリコアルミノホスフェートであり、より好ましくはAELグループのシリコアルミノホスフェートであり、その代表的な例はSAPO-11である。SAPO-11はALPO-11をベースにし、Al/P比は基本的に1原子/原子である。合成中に珪素先駆体を加えてALPO骨格中に珪素を挿入することで、10員環のゼオライトのミクロポアの表面に酸サイトができる。珪素の含有量は0.1~10原子%である(Al+P+Siは100)。
【0049】
エチレン生成工程における触媒としてアルミナ(特にγ-アルミナ)を使用する態様も好ましい。また、シリケート化、ジルコネート化、チタネート化またはフッ素化されたアルミナを使用することも好ましい。アルミナは、一般に広範囲の酸強度分布とルイス-タイプおよびブロンステッド(Bronsted)タイプの酸サイトを有するという特徴を有する。アルミナとしては、活性アルミナを使用するとよい。
【0050】
アルミナは、表面上に珪素、ジルコニウム、チタン、蛍石などを析出させることで触媒の選択性を向上させることも好ましい。すなわち、シリケート化、ジルコネート化、チタネート化することで触媒の選択性を向上させてもよい。このような触媒の製造には、適当な市販のアルミナ、好ましくは表面積が10~500m2/gでアルカリ含有量が0.5%以下のイータまたはガンマ・アルミナを使用するとよい。また、珪素、ジルコニウム、チタンなどを合計で0.05~10質量%で加えて調製されるとよい。これらの金属の添加はアルミナ製造時に行ってもよいし、製造後のアルミナに加えて行うこともでき、またこれら金属は、前駆体の形態で加えてもよい。また、フッ素化アルミナ自体は公知であり、従来技術に従って製造できる。
【0051】
エチレン生成工程では、触媒としてヘテロポリ酸担持触媒を使用する態様も好ましい。ヘテロポリ酸担持触媒は、適当な触媒担体上に担持されたヘテロポリ酸を含む。用語「ヘテロポリ酸」は、遊離酸の形態又はアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、嵩高なカチオンの塩、及び/又は金属塩(これらの場合、塩は完全な塩又は部分的な塩のいずれであってもよい)などのヘテロポリ酸塩の形態にある、ヘテロポリ酸化合物を指す。
ヘテロポリ酸のアニオンは、典型的には、1種又は複数種の中心原子を対称的様式で取り巻く周辺原子として知られる、12~18個の酸素が結合した多価金属原子を含む。周辺原子は、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタル、及びそれらの組合せから適当に選択される。中心原子は、好ましくはケイ素又はリンである。また、中心原子は、元素の周期表中のI~VIII族の原子から選択される任意の1つ、例えば、銅、ベリリウム、亜鉛、コバルト、ニッケル、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、セリウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、クロム、ロジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、バナジウム、イオウ、テルル、マンガンニッケル、白金、トリウム、ハフニウム、テルル及びヨウ素などを含むことができる。適当なヘテロポリ酸としては、Keggin、Wells-Dawson及びAnderson-Evans-Perloffヘテロポリ酸が挙げられる。
【0052】
ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分は、好ましくは、ヘテロポリタングステン酸であり、それは、周辺原子がタングステン原子であるヘテロポリ酸である。好ましいヘテロポリタングステン酸は、Keggin又はWells-Dawson構造を主成分とする任意のものである。
適当なヘテロポリタングステン酸の例として、18-リンタングステン酸(H[P1862]・xHO)、12-リンタングステン酸(H[PW1240]・xHO)、12-ケイタングステン酸(H[SiW1240]・xHO)、ケイタングステン酸セシウム水素(CsH[SiW1240]・xHO)、リンタングステン酸一カリウム(KH[P1862]・xHO)、12-ケイタングステン酸一ナトリウム(NaK[SiW1240]・xHO)、及びカリウムリンタングステン酸(K[P1862]・xHO)が挙げられる。2種以上の異なるヘテロポリタングステン酸及び塩の混合物も使用することができる。
【0053】
より好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分は、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、及びそれらの混合物、例えば、12-ケイタングステン酸(H[SiW1240]・xHO)、12-リンタングステン酸(H[PW1240]・xHO)、及びそれらの混合物から選択される。さらに好ましくは、ヘテロポリ酸は、ケイタングステン酸であり、最も好ましくはヘテロポリ酸は12-ケイタングステン酸である。
【0054】
ヘテロポリ酸の分子量は、好ましくは700を超えて8500未満、より好ましくは2800を超えて6000未満である。そのようなヘテロポリ酸はこれらの二量化錯体も含む。
【0055】
ヘテロポリ酸担持触媒で使用する触媒担体は、当技術分野において知られた任意の適当な触媒担体であってよい。触媒担体に適当な原料として、モルデナイト(例えばモンモリロナイト)、粘土、ベントナイト、珪藻土、チタニア、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、シリカ-チタニアコゲル、シリカ-ジルコニアコゲル、炭素コートアルミナ、ゼオライト、酸化亜鉛、及び炎熱分解酸化物が含まれる。シリカゲル担体及びSiCl4の火炎加水分解により製造された担体などのシリカを主成分とする触媒担体が好ましい。
触媒担体の形状は、特に限定されず、例えば、粉末形態、顆粒状形態、ペレット化形態、球状形態、又は押し出された形態であってよい。
【0056】
原料エタノールは、特に限定されないが、気相にて触媒に接触してエチレンに変換されることが好ましい。また、原料エタノールは、さらに水と混合されてもよく、また、原料エタノール及び水以外にも適宜任意成分が混合されてもよく、水及び任意成分の一方又はこれらの両方は、原料エタノールとともにガスとして触媒に接触させるとよい。
触媒を例えば反応容器に充填して、その触媒を充填した反応容器に、原料エタノール、又は、原料エタノールと、水及びその他の任意成分から選択される少なくとも1種とをガスとして供給し、気相脱水反応をすることで、反応容器から気相でエチレン含有生成物を排出させるとよい。反応容器から排出されるガスにエタノールが残る場合には、エチレン含有生成物からエタノールを含む成分を分離して、そのエタノールを含む成分を再度反応容器に供給してもよい。
【0057】
ゼオライト又はアルミナ系触媒の場合、反応容器の温度は例えば280~600℃、好ましくは300~550℃、より好ましくは330~530℃である。また、反応容器の圧力(絶対圧力)は、例えば50kPa~3MPa、好ましくは50kPa~1MPa、さらに好ましくは0.12MPa~0.65MPaである。
【0058】
また、ヘテロポリ酸担持触媒の場合、反応容器の温度は例えば170℃以上、好ましくは180~270℃の範囲内、より好ましくは190~260℃の範囲内、さらに好ましくは200~250℃の範囲内である。また、圧力は、好ましくは0.1~4.5MPa、より好ましくは1.0~3.5MPa、さらに好ましくは1.0~2.8MPaの範囲内の圧力である。
なお、ヘテロポリ酸担持触媒の場合には、原料エタノールと接触する前に、ヘテロポリ酸担持触媒を220℃以上の温度に加熱し、その温度で十分な時間保つことでヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から結合水を除去してもよい。
【0059】
[第1及び第2の精製工程]
本発明のエチレンの製造方法では、上記のとおり、エチレン生成工程の前に、原料エタノールを精製する第1の精製工程、又は、エチレン生成工程の後にエチレン含有生成物を精製する第2の精製工程の少なくともいずれかを行う。また、好ましくは第1及び第2の精製工程の両方を行う。
なお、本明細書では、第2の精製工程が行われる場合には、第2の精製工程により精製されたエチレン含有生成物を、本発明の製造方法で製造される「エチレン」とし、第2の精製工程が省略される場合には、エチレン生成工程で得られたエチレン含有生成物を、本発明の製造方法で製造される「エチレン」とする。本発明の製造方法で製造される「エチレン」は、エチレン単独からなるものでもよいが、合成ないし精製を経ても不可避的に混入される不純物を含む組成物であってもよい。
【0060】
第1の精製工程では、原料エタノールから炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素、炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素、炭素数3~10のアルコール、及び炭素数3~10のエーテルから選択される少なくとも1つの有機化合物を除去することが好ましい。
廃棄物には、様々な成分が含まれ、そのため、廃棄物から生成された原料エタノールには、様々な有機化合物が含有される。また、有機化合物のうち、上記炭素数の有機化合物は、様々な工程を経て得られた原料エタノールに残存していることが多い。原料エタノールにこのような有機化合物が残存していると、エチレン生成工程における脱水反応や、さらに後段のエチレンを使用した重合反応を阻害したり、エチレンから得られる重合体の品質を低下させたりすることがある。したがって、第1の精製工程において、特定の炭素数の炭化水素やアルコール、エーテルを除去することで、エチレンの重合反応を好適に進行させ、また、得られる重合体の品質も良好にしやすくなる。
【0061】
一方で、第2の精製工程では、生成されたエチレン含有生成物から、炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素、炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素、炭素数3~10のアルコール、及び炭素数3~10のエーテルからなる特定の有機化合物、一酸化炭素、並びに酸素から選択される少なくとも1つを除去することが好ましい。
なお、第1及び第2の精製工程でいう「除去」とは、原料エタノール又はエチレン含有生成物から対象物質を完全に除く態様のみならず、対象物質の含有量を低減する態様も含まれる。
【0062】
第2の精製工程においても、上記第1の精製工程の説明で述べたとおり、特定の炭素数の炭化水素やアルコール、エーテルを除去することで、エチレンの重合反応を好適に進行させ、また、得られる重合体の品質も良好にしやすくなる。
一酸化炭素及び酸素は、電気陰性度が高く、エチレンの重合反応において重合反応を阻害することがある。例えば、チーグラー・ナッタ触媒等の特定の触媒を用いた場合に、重合反応を阻害することがある。また、酸素は、高圧重合などのラジカル重合では重合開始剤になり得るため、酸素が多く含まれることで重合が暴走することなどもある。そのため、第2の精製工程において、一酸化炭素や酸素をエチレン含有組成物から取り除くことで、これらによりエチレンの重合反応が阻害されることを防止できる。
【0063】
本発明で製造されたエチレンは、一酸化炭素が除去されることで、一酸化炭素の含有量が、1体積%以下となることが好ましい。1体積%以下とすることで、エチレンを用いた重合反応において、重合反応が一酸化炭素によって阻害されることを防止できる。そのような観点から、一酸化炭素の含有量は、0.5体積%以下がより好ましく、0.1体積%以下がさらに好ましい。また、本発明で製造されたエチレンは、一酸化炭素が全く含有していなくてもよく、したがって、一酸化炭素の含有量の下限は、0体積%である。
【0064】
本発明で製造されたエチレンは、酸素が除去されることで、酸素の含有量が、1体積%以下となることが好ましい。1体積%以下とすることで、エチレンを用いた重合反応において、重合反応が酸素によって阻害されることを防止できる。そのような観点から、酸素の含有量は、0.5体積%以下がより好ましく、0.1体積%以下がさらに好ましい。また、本発明で製造されたエチレンは、酸素を全く含有していなくてもよく、したがって、酸素の含有量の下限は、0体積%である。
【0065】
炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素は、第1の精製工程、第2の精製工程、又はこれらの両方で取り除かれるとよいが、いずれかの工程で取り除かれる炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素には、プロピレンが含まれることが好ましい。プロピレンがエチレンに含まれると、そのエチレンを用いて重合反応を行う場合、プロピレンが重合体の分岐鎖となるので、プロピレンを除去することで分岐鎖を少なくすることができる。したがって、エチレンから後述するように、高密度ポリエチレン(HDPE)を製造する場合など、重合体の分岐鎖を少なくしたい場合に除去することが特に好適である。
【0066】
本発明で製造されたエチレンは、プロピレンが除去されることで、プロピレンの含有量が、1体積%以下となることが好ましい。1体積%以下とすることで、分岐鎖を少なくする効果を発揮できる。そのような観点から、プロピレンの含有量は、0.5体積%以下がより好ましく、0.1体積%以下がさらに好ましい。また、本発明で製造されたエチレンは、プロピレンが全く含有していなくてもよく、したがって、プロピレンの含有量の下限は、0体積%である。
【0067】
また、炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素は、第1の精製工程、第2の精製工程、又はこれらの両方で取り除かれるとよいが、いずれかの工程で取り除かれる炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素には、炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素が含まれることが好ましい。炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素は、直鎖状でもよいし、分岐構造及び環状構造の少なくともいずれかを有してもよいが、直鎖状であることが好ましい。炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素の具体例として、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、n-ドデカン、およびn-テトラデカンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
これら比較的炭素数が大きい(炭素数6~14)脂肪族飽和炭化水素は、廃棄物由来の原料エタノールには比較的多く含まれる。一方で、これら脂肪族飽和炭化水素は、食品に含まれる油脂成分との相溶性が高く、本発明で製造されるエチレンから生成される重合体を食品用途で包装材などに使用すると、食品への流出が懸念される。そのため、比較的炭素数が大きい脂肪族飽和炭化水素を取り除くことで、食品安全上好ましい。
また、上記したいずれかの工程で取り除かれる炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素は、廃棄物由来の原料エタノールに多く含有される観点から、炭素数10~14の脂肪族飽和炭化水素を含むことが好ましい。
【0068】
本発明で製造されるエチレンは、炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素が除去されることで、炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素の含有量が、0.3体積%以下となることが好ましく、0.2体積%以下がより好ましく、0.1体積%以下であることがより好ましい。また、本発明で製造されたエチレンは、炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素が全く含有していなくてもよく、したがって、炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素の含有量の下限は、0体積%である。
【0069】
また、炭素数3~10のアルコールは、第1の精製工程、第2の精製工程、又はこれらの両方で取り除かれるとよいが、いずれかの工程で取り除かれる炭素数3~10のアルコールには、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノールから選択される少なくとも1種が含まれる。これらアルコールは、廃棄物由来の原料エタノールに比較的多く含まれ、第1の精製工程、第2の精製工程、又はこれらの両方でこれらアルコールが除去されることで、後述するエチレンを用いた重合反応を好適に進行させ、また、得られる重合体の品質も良好にしやすくなる。
【0070】
また、上記したいずれかの工程で取り除かれる炭素数3~10のアルコールには、2-プロパノールが含まれることが好ましい。2-プロパノールがエチレンに含まれると、そのエチレンを用いて重合反応を行う場合、2-プロパノールが重合体の分岐鎖となるので、2-プロパノールを除去することで重合体における分岐鎖を少なくすることができる。したがって、エチレンから後述するように、高密度ポリエチレン(HDPE)を製造する場合など、重合体の分岐鎖を少なくしたい場合に2-プロパノールを除去することが特に好適である。
【0071】
本発明で製造されたエチレンは、2-プロパノールが除去されることで、2-プロパノールの含有量が、0.3体積%以下となることが好ましい。0.3体積%以下とすることで、分岐鎖を少なくする効果を発揮しやすくなる。そのような観点から、2-プロパノールの含有量は、0.1体積%以下がより好ましく、0.05体積%以下がさらに好ましい。また、本発明で製造されたエチレンは、2-プロパノールが全く含有していなくてもよく、したがって、2-プロパノールの含有量の下限は、0体積%である。
【0072】
炭素数3~10のエーテルは、第1の精製工程、第2の精製工程、又はこれらの両方で取り除かれるとよいが、いずれかの工程で取り除かれる炭素数3~10のエーテルには、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルから選択される少なくとも1種が含まれる。これらエーテルは、廃棄物由来の原料エタノールに比較多く含まれ、第1の精製工程、第2の精製工程、又はこれらの両方でこれらエーテルが除去されることで、後述するエチレンを用いた重合反応を好適に進行させ、また、得られる重合体の品質も良好にしやすくなる。
【0073】
上記したいずれかの工程で取り除かれる炭素数3~10のエーテルは、ジブチルエーテルを含むことが好ましい。ジブチルエーテルは揮発性有機化合物(VOC)であることからジブチルエーテルを除くことで、VOCにより生じうる健康リスク等の悪影響の危険性を低減できるという点において有益である。
【0074】
本発明で製造されたエチレンは、ジブチルエーテルが除去されることで、ジブチルエーテルの含有量が、0.3体積%以下となることが好ましい。0.3体積%以下とすることで、健康リスク等の悪影響の危険性を低減できるという効果を発揮しやすくなる。そのような観点から、ジブチルエーテルの含有量は、0.1体積%以下がより好ましく、0.05体積%以下がさらに好ましい。また、本発明で製造されたエチレンは、ジブチルエーテルが全く含有していなくてもよく、したがって、ジブチルエーテルの含有量の下限は、0体積%である。
【0075】
また、エチレン生成工程では、脱水反応により水が生成されるので、第2の精製工程にいて、少なくとも水が除去されることが好ましい。また、エチレン生成工程で生成されたエチレン含有生成物には、未反応のエタノールも一般的に残存するので、未反応のエタノールも除去することが好ましい。水やエタノールが除去されることで、後述するエチレンを用いた重合反応を好適に進行させ、また、得られる重合体の品質も良好にしやすくなる。
【0076】
本発明で製造されたエチレンは、第2の精製工程において水が除去されることで、水の含有量が、0.3体積%以下であることが好ましい。0.3体積%以下とすることで、エチレンを用いた重合反応を好適に進行させやすくなり、また、得られる重合体の品質も良好にしやすくなる。そのような観点から、水の含有量は、0.1体積%以下がより好ましく、0.05体積%以下がさらに好ましい。また、本発明で製造されたエチレンは、水を全く含有していなくてもよく、したがって、水の含有量の下限は、0体積%である。
【0077】
本発明で製造されたエチレンは、第2の精製工程においてエタノールが除去されることで、エタノールの含有量が、0.3体積%以下となることが好ましい。0.3体積%以下とすることで、エチレンを用いた重合反応を好適に進行させやすくなり、また、得られる重合体の品質も良好にしやすくなる。そのような観点から、エタノールの含有量は、0.1体積%以下がより好ましく、0.05体積%以下がさらに好ましい。また、本発明で製造されたエチレンは、エタノールを全く含有していなくてもよく、したがって、エタノールの含有量の下限は、0体積%である。
【0078】
なお、本発明で製造されるエチレンは、一般的に気体であり、その気体であるエチレンをGC-TCD及びGC-FIDを用いて、各無機ガス(酸素、一酸化炭素など)と、有機物ガスとを分析することで、上記各成分の体積%を測定できる。
【0079】
第1及び第2の精製工程それぞれにおける精製方法としては、ガスチラーなどよりなる水分分離装置、活性炭などの吸着剤を用いた分離装置、圧力スイング吸着方式の分離装置(PSA)、温度スイング吸着方式の分離装置(TSA)、圧力温度スイング吸着方式の分離装置(PTSA)、低温分離方式(深冷方式)の分離装置、スクラバーなどの水溶性不純物分離装置、脱硫装置(硫化物分離装置)、膜分離方式の分離装置、蒸留装置、クロマトグラフィーを有する分離装置、溶液吸収装置などが挙げられる。
【0080】
低温分離方式としては、種々の形態を使用できるが、例えば、凝縮器を使用したものが挙げられる。溶液吸収装置は、ガスを接触させることで所定のガス成分を選択的に吸収する吸収溶液を備える装置であり、吸収溶液として、アミン溶液などのアルカリ性溶液などを使用するとよい。例えば、第1の精製工程においてアルカリ性溶液を使用すると、ガス化された原料エタノール中の二酸化炭素などを吸収できる。
【0081】
第1の精製工程では、上記のとおり、炭素数3~14の脂肪族不飽和炭化水素、炭素数3~14の脂肪族飽和炭化水素、炭素数3~10のアルコール、及び炭素数3~10のエーテルのうちいずれかが除去されることが好ましいが、中では、比較的炭素数の大きいものが除去されることがより好ましく、特に炭素数6~14の脂肪族不飽和炭化水素が除去されることが好ましい。炭素数の大きい有機化合物は、エタノールとの分子量の違いから、第1の精製工程に簡便に除去しやすく、また、除去することでエチレン生成工程における反応をより適切に進行させやすくなる。
第1の精製工程において、炭素数6~14の脂肪族不飽和炭化水素を除去する方法は、特に限定されないが、クロマトグラフィーを有する分離装置により除去されるとよい。クロマトグラフィーとしては、逆相クロマトグラフィーなどを使用するとよい。さらに、蒸留装置、活性炭吸着などにより除去してもよい。
【0082】
第2の精製工程では、エチレン生成工程において生成された水、及び未反応エタノールのいずれか一方が除去されることが好ましく、これらの両方が除去されることが好ましい。また、第2の精製工程では、上記のとおり、特定の有機化合物、一酸化炭素、及び酸素から選択される少なくとも1つを除去することが好ましく、特定の有機化合物は、比較的分子量の低い低分子量有機化合物(例えば、炭素数が3~5)が除去されることがより好ましい。すなわち、第1の精製工程において、炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素が除去されるとともに、第2の精製工程において、水及び未反応のエタノールに加え、比較的分子量の低い特定の低分子量有機化合物が少なくとも除去されることがより好ましく、第2の精製工程においては、これらに加えてさらに一酸化炭素、及び酸素が除去されることも好ましい。
第2の精製工程において除去される特定の有機化合物には、具体的には、2-プロパノールなどの低分子量アルコール、ジエチルエーテルなどの低分子量エーテルから選択される少なくとも1つが含まれることがさらに好ましい。また、第2の精製工程において除去される特定の有機化合物には、これらに加えて、プロピレンなどの低分子量の脂肪族不飽和炭化水素などもさらに含まれることがよりさらに好ましい。すなわち、第2の精製工程では、低分子量有機化合物として、プロパノール及びジエチルエーテルが除去されることがよりさらに好ましく、これらに加えてさらに、プロピレンが除去されることが特に好ましい。
低分子量有機化合物は、特定の分離装置を使用することで、未反応のエタノール、一酸化炭素、酸素などとともに効率的にエチレンから除去できる。
また、ジエチルエーテルは、エチレン生成工程においてはエタノールと共にエチレンを生成する原料になり得る。したがって、ジエチルエーテルは、第1の精製工程よりも、第2の精製工程において多い割合で除去することが好ましい。なお、割合とは、第1の精製工程では原料エタノール、第2の精製工程ではエチレン含有生成物に対する割合である。
【0083】
第2の精製工程では、特に限定されないが、好ましくは低温分離方式の分離装置により精製を行うとよい。具体的には、エチレンの融点以下(常圧では-170℃以下)に冷却された冷媒(チラー)を用いた凝縮器により、エチレンを固化させてエチレンを分離する方法が挙げられる。
この場合、エチレンよりも融点が高い水、二酸化炭素、エタノールその他の有機化合物などの物質は、冷媒の温度が上記凝縮器よりも高い1又は2以上の前段の凝縮器を用いて、取り除いておくとよい。前段の凝縮器としては、例えば、冷媒の温度が比較的高い(例えば、常圧では0~25℃)第1の凝縮器と、第1の凝縮器よりも冷媒の温度が低い第2の凝縮器(例えば、常圧では-50~-90℃)とを組み合わせて使用してもよい。
また、凝縮器はいかなる形態のものでもよく、冷媒が通された金属管などに、気相のエチレン含有生成物を接触させてもよいし、冷媒とエチレン含有生成物を直接接触させてもよい。
【0084】
[重合体の製造方法]
本発明で製造されたエチレンは、様々な用途に使用可能であるが、好ましくは、エチレン由来の構成単位を含む重合体を製造する重合工程に供される。重合工程では、エチレンを含むモノマーを重合して重合体が得られる。重合体は、エチレン単体を重合して得られたホモポリエチレンでもよいが、エチレンとエチレン以外のモノマー成分を重合した共重合体でもよい。
【0085】
重合体は、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などのポリエチレン樹脂が好ましい。
また、エチレン由来の構成単位を含む重合体であればこれら以外でもよく、例えば、エチレン以外のモノマーとの共重合体であってもよい。当該エチレン以外のモノマーとしては、特に制限されないが、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-へプテン、1-オクテン、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリルニトリル、フッ化ビニル、塩化ビニル、臭化ビニル、テトラフルオロエチレン、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、一酸化炭素等が挙げられる。具体的な共重合体としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。
【0086】
低密度ポリエチレンは、分子構造上、短鎖分岐と長鎖分岐とを有し、密度が0.910g/cm以上0.942g/cm未満であり、典型的には密度が0.930g/cm以下である。高密度ポリエチレンは、分子構造上分岐が少なく、密度が0.942g/cm以上のポリエチレンである。なお、密度が0.930g/cm以上0.942g/cm未満のポリエチレンを中密度ポリエチレンと呼ぶ場合がある。
直鎖状低密度ポリエチレンは、一般的にエチレンと、少量のエチレン以外のα-オレフィンとの共重合体であり、エチレン以外のα-オレフィンとしては、炭素数3~10のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチル-ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、デセン-1等が挙げられる。直鎖状低密度ポリエチレンの密度は0.942g/cm未満であり、典型的には密度は0.930g/cm以下であり、また、例えば0.880g/cm以上、典型的には0.910g/cm以上である。
【0087】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、一般的なポリエチレンよりも分子量が大きいポリエチレンであり、例えば重量平均分子量が40万以上のポリエチレン樹脂であり、好ましくは重量平均分子量が100万以上である。超高分子量ポリエチレンは、重量平均分子量が高くなることで各種の機械強度が良好となる。また、超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、重合の容易性の観点などから、700万以下が好ましく、400万以下がさらに好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、エチレン単独重合体であってもよいが、エチレンとエチレン以外のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。エチレン以外のα-オレフィンは、上記LLDPEで述べたとおりである。
【0088】
エチレンは、例えばラジカル開始剤存在下に重合してポリエチレン樹脂とすることができる。ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、またはそれらの組み合わせなどの酸素ベースの開始剤を含む。ラジカル開始剤の具体例としては、特に限定されないが、t-ブチルペルオキシピバレート、di-t-ブチルペルオキシド(DTBP)、t-ブチルペルオキシアセテート(TBPO)、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート(PND)、t-ブチルペルオキシオクトエート、およびこれらの任意の2以上の組み合わせが挙げられる。
【0089】
また、エチレンは、レドックス触媒などの触媒存在下に重合することでポリエチレン樹脂とすることもできる。レドックス触媒としては、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒、フィリップス触媒、スタンダード触媒などが挙げられる。
【0090】
チーグラー・ナッタ触媒としては、例えばトリエチルアルミニウム-四塩化チタン固体複合物を使用する。チーグラー・ナッタ触媒は、例えば、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し、更に各種の電子供与体及び電子受容体で処理して得られた三塩化チタン組成物と、有機アルミニウム化合物と、芳香族カルボン酸エステルとを組み合わせてもよいし、ハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと各種の電子供与体を接触させ担持型触媒としてもよい。
メタロセン触媒としては、例えば、遷移金属をπ電子系の不飽和化合物で挟んだ構造を有するビス(シクロペンタジエニル)金属錯体等の化合物が挙げられる。より具体的には、チタン、ジルコニウム、ニッケル、パラジウム、ハフニウム、及び白金等の四価の遷移金属に、1又は2以上のシクロペンタジエニル環又はその類縁体がリガンド(配位子)として存在する化合物が挙げられる。
チーグラー・ナッタ触媒及びメタロセン触媒は、それぞれ特定の共触媒(助触媒)と組み合わせて使用してもよい。具体的な共触媒としては、メチルアルミノキサン(MAO)、ホウ素系化合物等が挙げられる。
【0091】
フィリップス触媒としては、たとえば酸化クロム等のクロム化合物を含む触媒系であり、具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ-チタニア等の固体酸化物に、三酸化クロム、クロム酸エステル等のクロム化合物を担持した触媒を例示することができる。
また、スタンダード触媒としては、酸化モリブデンを使用した公知の触媒であり、例えば、ガンマ-アルミナ・酸化モリブデンなどが挙げられる。
【0092】
エチレンの重合法としては、ラジカル開始剤を使用する場合には、高圧法が挙げられる。高圧法では、エチレンを1000~4000気圧、100~350℃の環境下で、例えば多段ガス圧縮機を用いて重合するとよい。その後、残留モノマーを分離し、冷却して得られる。エチレンは、高圧法により製造されることで、低密度ポリエチレン(LDPE)が製造できる。
【0093】
チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒、フィリップス触媒、スタンダード触媒などの触媒を使用する場合には、エチレンは、低圧法、中圧法で重合を行うとよい。これら触媒を使用する場合には、液相重合法、気相重合法、懸濁重合法のいずれで行うことが好ましい。これら触媒を使用し、低圧法又は中圧法でエチレンを重合することでHDPEを製造できる。また、これら触媒を使用して、エチレンと、エチレン以外の若干量のα-オレフィンを共重合することで、LLDPEも製造することができる。さらに、例えば低圧の懸濁重合法により、長期間重合を行うことで超高分子量ポリエチレンを得ることができる。
【実施例
【0094】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0095】
<原料エタノールの製造>
(原料ガス生成工程)
ごみ焼却設備で一般廃棄物を燃焼した後に排出されるガスを用いた。原料ガスの成分は、一酸化炭素約30体積%、二酸化炭素約30体積%、水素約30体積%および窒素は約10体積%であった。
【0096】
(合成ガス精製工程)
上記にて製造された原料ガスを、圧力スイング吸着方式の分離装置(PSA)を用いて、ガス温度を80℃まで加温した条件にて、合成ガス中に含まれている二酸化炭素を、60~80体積%除去した後、150℃のスチームを用いた二重管式熱交換器にて、ガスの昇温と25℃の冷却水を用いた二重管式熱交換器を用いて再冷却を行い、不純物を析出させ析出した不純物をフィルターで除去することにより、合成ガスを製造した。
【0097】
(エタノール変換工程)
主反応器、合成ガス供給孔、および排出孔を備えた、クロストリジウム・オートエタノゲナム(微生物)の種菌と、菌培養用の液状培地(リン化合物、窒素化合物および各種ミネラル等を適切量含む)を充填した連続発酵装置(微生物発酵槽)に、上記のようにして得られた合成ガスを連続的に供給し、37℃で培養(微生物発酵)を連続300時間行った。その後、排出孔からエタノールを含有する培養液を約8000L抜き出した。
【0098】
(分離工程)
上記エタノール変換工程で得られた、エタノールを含有する培養液を、固液分離フィルター装置を用いて培養液導入圧200kPa以上、温度37℃の条件にて固液分離して、エタノール含有液を得た。
【0099】
(前段精製工程)
続いて、エタノール含有液を、170℃のスチームを用いた加熱器を備えた蒸留装置に導入した。蒸留塔底部の温度を8~15分以内に101℃まで上昇させた後、上記エタノール含有液を蒸留塔中部から導入し、連続運転時においては、塔底部を101℃、塔中部を99℃、頭頂部を91℃にて、15秒/Lの条件にて連続運転し、精製されたエタノールを得た。蒸留塔内部の圧力は60~95kPa(絶対圧)であった。精製されたエタノール(原料エタノール)は、エタノール純度が90容量%以上であった。
【0100】
(第1の精製工程)
得られたエタノールを逆相クロマトグラフィーにより精製し、主に炭素数6~14の脂肪族飽和炭化水素を除去する。
【0101】
(エチレン生成工程)
第1の精製工程で精製された原料エタノールからエチレンを含む生成物を製造する。
具体的には、活性アルミナ触媒を反応管に充填し、温度525℃、圧力0.5MPaGに調整する。第1の精製工程で得られるエタノールを反応管に供給し、気相脱水反応をすることで、エチレンを含むエチレン含有生成物を製造する。
【0102】
(第2の精製工程)
5℃に冷却した第1の凝縮器、-70℃に冷却した第2の凝縮器、及び-170℃に冷却した第3の凝縮器をこの順に配置して、これらに上記で製造したエチレン含有生成物を順次バブリングすることで精製したエチレンを製造する。第1の凝縮器で主に水を除去し、第2の凝縮器で主に未反応のエタノール、2-プロパノール、ジエチルエーテルを除去し、第3の凝縮器で主にプロピレン、一酸化炭素、及び酸素を除去する。
【0103】
(ポリエチレン樹脂の製造)
反応管を窒素置換した後、助触媒である修飾メチルアルミノキサン(MMAO)、チーグラー・ナッタ触媒、およびトルエンを添加する。常圧下に室温で撹拌した後、50℃まで昇温し、エチレンを供給して重合を行うことで、ポリエチレン樹脂(HDPE)を製造する。
本実施例で製造されるポリエチレンは、第1及び第2の精製工程を経ることで、エチレンの重合反応における重合活性が好適に進行し、かつ得られる重合体の品質を良好にできる。比較として市販高純度のエチレンを用いて重合されたポリエチレンとしても、分子量は同等のものができる。