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特許7589168タンパク質含有製剤を安定化するための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】タンパク質含有製剤を安定化するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241118BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241118BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241118BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
A61K39/395 M
A61K47/28
A61K9/08
A61K9/19
A61K47/10
A61K47/26
A61K38/00
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/22
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021558810
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 US2020025683
(87)【国際公開番号】W WO2020205716
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】62/827,402
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アデム, イルマ ティー.
(72)【発明者】
【氏名】カダン, ランス ジェイ.
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0037809(US,A1)
【文献】特開2000-086532(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0098946(US,A1)
【文献】特開平4-5243(JP,A)
【文献】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,2017年,Vol.114,pp.263-277
【文献】Cytokine & Growth Factor Reviews,2007年,Vol.18,pp.389-394
【文献】International Journal of Pharmaceutics,1989年,Vol.53,pp.227-235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体、および25℃の水中で2.0mM以上または0.2%(w/v)以上の臨界ミセル濃度(CMC)値を有する少なくとも1のコール酸塩界面活性剤を含む、抗体製剤であって、前記コール酸塩界面活性剤が、グリココール酸ナトリウム水和物(SGH)、タウロコール酸ナトリウム水和物(STH)、コール酸ナトリウム水和物(SCH)、またはSdTHから選択され、前記抗体製剤が、少なくとも175mMの塩、少なくとも200mMの塩、少なくとも225mMの塩、または少なくとも250mMの塩を含み、
前記抗体製剤は、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、病巣内または関節内経路による、注射または注入のためである、製剤。
【請求項2】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記コール酸塩界面活性剤が、SGH、STH、またはSCHから選択される、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
0.5%以下の濃度(w/v)でSGH、STH、またはSCHを含む、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
アニオン性コール酸塩界面活性剤を含み、且つ少なくとも200mMの塩、少なくとも225mMの塩、または少なくとも250mMの塩を含む、高イオン強度製剤である、請求項1からのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項6】
ナトリウム、アルギニン、またはヒスチジン塩を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
凍結乾燥に供されていない、請求項1からのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項8】
再構成凍結乾燥製剤である、請求項1からのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項9】
非コール酸塩界面活性剤をいずれも含まない、請求項1からのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項10】
少なくとも1のコール酸塩界面活性剤、少なくとも1の抗体種、少なくとも一種のバッファー種、および少なくとも1の非界面活性剤の安定剤から本質的になる、請求項またはに記載の製剤。
【請求項11】
少なくとも1の非界面活性剤の安定剤が、糖、糖アルコール、アミノ酸、またはペプチドである、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
少なくとも1のポリソルベートまたはポロキサマーをさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の製剤。
【請求項13】
ポリソルベート20またはポリソルベート80をさらに含む、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
0.05%以下または0.01%以下のポリソルベート20または80を含む、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
前記コール酸塩界面活性剤および前記ポリソルベート20または80以外のいずれの界面活性剤も含まない、請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
少なくとも1の治療用抗体種、および0.5%以下の濃度(w/v)のSTH、SGH、またはSCHから本質的になる界面活性剤を含む、治療用の請求項1に記載の抗体製剤であって、
前記抗体製剤が、少なくとも175mMの塩、少なくとも200mMの塩、少なくとも225mMの塩、または少なくとも250mMの塩を含む高イオン強度製剤であり、バッファー、凍結乾燥保護剤、または糖、糖アルコールもしくはアミノ酸のうちの1以上を含む安定剤のうちの1以上をさらに含んでもよく、
前記抗体製剤が、使用前に凍結乾燥されていない液体製剤であってもよい、製剤。
【請求項17】
前記界面活性剤が、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%(w/v)のSTH、SGH、またはSCHから本質的になる、請求項16に記載の製剤。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の抗体製剤を製造する方法であって、前記抗体を前記少なくとも1のコール酸塩界面活性剤と混合して、コール酸塩含有水溶液を形成することを含む、方法。
【請求項19】
水溶液中に存在する抗体の凝集を阻害する方法であって、25℃の水中で2mM以上または0.2%(w/v)の臨界ミセル濃度(CMC)値を有する少なくとも1種のコール酸塩界面活性剤を、25℃の水中でそのCMC値より低い濃度で前記水溶液に添加して、コール酸塩含有水溶液を形成することを含前記コール酸塩界面活性剤が、グリココール酸ナトリウム水和物(SGH)、タウロコール酸ナトリウム水和物(STH)、コール酸ナトリウム水和物(SCH)、またはSdTHから選択され、前記コール酸塩含有水溶液が、少なくとも175mMの塩、少なくとも200mMの塩、少なくとも225mMの塩、または少なくとも250mMの塩を含む、方法。
【請求項20】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記コール酸塩含有水溶液を凍結乾燥することをさらに含む、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記コール酸塩含有水溶液を凍結乾燥することを含まない、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療上有用な製剤中の抗体および他のタンパク質の貯蔵安定性を増強するための組成物を含む、ある特定のコール酸塩界面活性剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質製剤の安定剤が、振盪、撹拌、剪断および凍結融解時の変性からタンパク質を保護するために、または界面での静止状態で必要とされる場合、非イオン性洗剤(detergent)(すなわち、界面活性剤)がしばしば使用される(例えば、米国特許第5,183,746号を参照されたい)。これは、多くのタンパク質含有製品におけるポリソルベートの使用によって例示される。例えば、ポリソルベート20および80(Tween(登録商標)20およびTween(登録商標)80としても公知)は、表面吸着の防止およびタンパク質の凝集に対する安定剤の両方のための生物治療用製品の製剤に使用される(Kerwin、J.Pharm.Sci.97(8):2924~2936(2008))。ポリソルベートは、ポリオキシエチレン(POE)ソルビタンの脂肪酸エステルで構成される両親媒性の非イオン性界面活性剤であり、ポリソルベート20についてはポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートであり、ポリソルベート80についてはポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートである。
【0003】
残念なことに、ポリソルベートは、酸化または加水分解のいずれかを介して分解を受ける可能性がある。ポリソルベート分子が分解すると、例えば、遊離脂肪酸、POEソルビタン、PEG、PEGエステルおよびアルキル酸を含む様々な分解副産物が生じる。遊離脂肪酸(FFA)を含むこれらの副産物のいくつかは、タンパク質含有製剤の濁度およびタンパク質の凝集を増加させる可能性があり、製剤中のタンパク質を凝集または酸化から保護することができるインタクトなポリソルベートの量を減少させ得る。したがって、ポリソルベートはタンパク質安定剤として一般的に使用されているが、ポリソルベート分解から経時的に放出される脂肪酸および他の分解副産物は、ポリソルベートがタンパク質含有製剤において示す保護効果に悪影響を及ぼし得る。
【0004】
タンパク質は、精製および貯蔵中に様々な程度の分解を受け、酸化(光誘起酸化を含む)は、タンパク質の安定性および効力に破壊的な影響を有する主要な分解経路の1つである。酸化反応は、アミノ酸残基の破壊、ペプチド結合加水分解、したがってタンパク質の三次構造およびタンパク質の凝集の変化によるタンパク質の不安定性を引き起こす(Davies、J.Biol.Chem.262:9895~901(1987))。タンパク質医薬品の酸化は、Nguyen(「Formulation and Delivery of Protein and Peptides」(1994)の第4章)、Hovorka(J.Pharm Sci.90:25369(2001))およびLi(Biotech Bioengineering 48:490~500(1995))によって概説されている。
【0005】
上記を考慮すると、タンパク質含有製剤中のタンパク質の安定性を増強し、凝集および/または酸化を防止するのに有用な組成物の同定の必要性があることは明らかである。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、ある特定のコール酸塩界面活性剤が、治療上有用な製剤中の抗体または他のタンパク質の安定化および/または凝集を低減するために、またそのような製剤中のポリソルベート界面活性剤の分解を低減するために有用であるという新規な知見に基づいている。さらに、本明細書のコール酸塩界面活性剤は、タンパク質安定化剤または凝集低減剤として、少なくとも約2.0mMまたは少なくとも約0.2%(重量体積、w/v)の臨界ミセル濃度(CMC)値未満の濃度でタンパク質含有治療用製剤を安定化するのに有用であり得る。ある特定の実施形態では、コール酸塩系界面活性剤はまた、CMC値未満の濃度でアルキルグリコシド界面活性剤よりも効果的に治療用タンパク質製剤を保護し得る。したがって、一態様では、本開示は、25℃の水中で測定したCMC値より低い濃度で少なくとも1種のコール酸塩界面活性剤を含む治療的使用を意図したタンパク質などのタンパク質の製剤に関する。ある特定の実施形態では、物質の組成物中に存在するタンパク質は抗体であり、任意にモノクローナル抗体であり得る。本開示はまた、そのような製剤を保持する容器、そのような容器を含む物品、および製剤を調製する方法に関する。
【0007】
いくつかの実施形態では、製剤は水性であってもよく、約2~8℃の温度で少なくとも1年間安定であり得、および/または約30℃の温度で少なくとも1ヶ月間安定であり得る。いくつかの実施形態では、製剤は、ポリソルベートおよびポロキサマーを含まない。他の実施形態では、製剤は、ポリソルベートおよび/またはポロキサマーを含む。いくつかの実施形態では、製剤はアルキルグリコシドを含まない。他の実施形態では、製剤はアルキルグリコシドを含む。いくつかの実施形態では、製剤は、コール酸塩以外の他の界面活性剤を含まない。他の実施形態では、製剤は他の界面活性剤を含む。
【0008】
本開示は、とりわけ、タンパク質、および25℃の水中で2.0mM以上または0.2%(w/v)以上の臨界ミセル濃度(CMC)値を有する少なくとも1種のコール酸塩界面活性剤を含むタンパク質製剤を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質は、モノクローナル抗体などの抗体である。いくつかの実施形態では、コール酸塩界面活性剤は双性イオン性、非イオン性、アニオン性であるか、またはCHAPS(3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート)、SGH(グリココール酸ナトリウム水和物)、タウロコール酸ナトリウム水和物(STH)、コール酸ナトリウム水和物(SCH)、SdTH、SdCH、ScdCH、およびBigCHAP(N,N’-ビス-(3-D-グルコンアミドプロピル)コールアミド)から選択される。いくつかの実施形態では、製剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、0.02%以下、0.01~0.5%、0.01~0.1%、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%の濃度(w/v)でCHAPSを含む。いくつかの実施形態では、製剤は、0.025%~0.05%(w/v)の濃度でCHAPSを含む。いくつかの実施形態では、製剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、0.02%以下、0.01~0.5%、0.01~0.1%、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%の濃度(w/v)でBigCHAPを含む。いくつかの実施形態では、製剤は、0.025%~0.05%(w/v)の濃度でBigCHAPを含む。いくつかの実施形態では、製剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、0.02%以下、0.01~0.5%、0.01~0.1%、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%の濃度(w/v)でSGH、STH、またはSCHを含む。いくつかの実施形態では、製剤は、0.025%~0.05%の濃度でSGH、STH、またはSCHを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1種のコール酸塩界面活性剤は、25℃の水中でそのCMC値より低い濃度で存在する。
【0009】
いくつかの実施形態では、製剤は、双性イオン性または非イオン性コール酸塩界面活性剤を含み、低イオン強度製剤である。いくつかのそのような場合、製剤は、50mM未満の塩、40mM未満の塩、30mM未満の塩、または25mM未満の塩、例えばナトリウム、アルギニン、またはヒスチジン塩を含有する。
【0010】
いくつかの実施形態では、製剤は、アニオン性コール酸塩界面活性剤を含み、高イオン強度製剤である。いくつかのそのような場合、製剤は、少なくとも175mMの塩、少なくとも200mMの塩、少なくとも225mMの塩、または少なくとも250mMの塩、例えばナトリウム、アルギニン、またはヒスチジン塩を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、製剤は治療的使用に適している。いくつかの実施形態では、製剤は、すぐに使用できる液体製剤など、凍結乾燥に供されていない。あるいは、製剤は、再構成された凍結乾燥製剤である。
【0012】
いくつかの実施形態では、製剤は、ポリソルベート、ポロキサマー、プルロニック、Brij、およびアルキルグリコシド界面活性剤のいずれも含まない。いくつかの実施形態では、製剤はいずれの非コール酸塩界面活性剤を含まない。いくつかの実施形態では、製剤は、少なくとも1種のコール酸塩界面活性剤、少なくとも1種のタンパク質種、少なくとも1種のバッファー種、および少なくとも1種の非界面活性剤安定剤(例えば、糖、糖アルコール、アミノ酸、ペプチド、塩、または他のタンパク質)から本質的になる。いくつかの実施形態では、製剤は、ポリソルベート20またはポリソルベート80などの少なくとも1種のポリソルベートまたはポロキサマーをさらに含む。いくつかの実施形態では、製剤は、1.0%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、0.02%以下、または0.01%以下のポリソルベート20または80を含む。他の実施形態では、製剤は、コール酸塩界面活性剤およびポリソルベート20または80以外のいかなる界面活性剤も含まない。
【0013】
本開示はまた、治療用タンパク質製剤を含み、該治療用タンパク質製剤は、少なくとも1種の治療用タンパク質種、および0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、0.02%以下、0.01~0.5%、0.01~0.1%、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%の濃度(w/v)のCHAPSから本質的になる界面活性剤を含み、および任意に、バッファー、塩、凍結乾燥保護剤、または糖、糖アルコール、アミノ酸、もしくは他のタンパク質種のうちの1つ以上を含む安定剤のうちの1つ以上をさらに含み、任意に:(a)製剤は低イオン強度であり;(b)少なくとも1種の治療用タンパク質は抗体であり;および/または(c)製剤は、使用前に凍結乾燥されていない液体製剤である。いくつかの実施形態では、界面活性剤は、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%(w/v)のCHAPSから本質的になる。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の治療用タンパク質種、および0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、0.02%以下、0.01~0.5%、0.01~0.1%、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%の濃度(w/v)のBigCHAPから本質的になる界面活性剤、および任意に、バッファー、塩、凍結乾燥保護剤、または糖、糖アルコール、アミノ酸、もしくは他のタンパク質種のうちの1つ以上を含む安定剤のうちの1つ以上をさらに含み、任意に、(a)製剤は低イオン強度であり;(b)少なくとも1種の治療用タンパク質は抗体であり;および/または(c)製剤は、使用前に凍結乾燥されていない液体製剤である。いくつかの実施形態では、界面活性剤は、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%(w/v)のBigCHAPから本質的になる。
【0014】
本開示はまた、治療用タンパク質製剤を含み、該治療用タンパク質製剤は、少なくとも1種の治療用タンパク質種、および0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、0.02%以下、0.01~0.5%、0.01~0.1%、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%の濃度(w/v)のSTH、SGH、またはSCHから本質的になる界面活性剤を含み、製剤は高イオン強度製剤であり、任意に、バッファー、塩、凍結乾燥保護剤、または糖、糖アルコール、アミノ酸、もしくは他のタンパク質種のうちの1つ以上を含む安定剤のうちの1つ以上をさらに含み、任意に、(a)少なくとも1種の治療用タンパク質は抗体であり;および/または(b)製剤は、使用前に凍結乾燥されていない液体製剤である。いくつかの実施形態では、界面活性剤は、0.01~0.05%、または0.025%~0.05%(w/v)のSTH、SGH、またはSCHから本質的になる。
【0015】
いくつかの実施形態では、製剤は、以下の特性の1つ以上を有する:(a)製剤は、室温で毎分100回転(rpm)で24時間撹拌した後、目に見える凝集体を示さない;(b)製剤は、室温で100rpmで24時間撹拌した後、2%以下の高分子量タンパク質の凝集体を示す;(c)製剤は、室温で100で24時間撹拌した後、1%以下の高分子量タンパク質の凝集体を示す;(d)製剤中の高分子量タンパク質の凝集体は、撹拌していない対照と比較して、室温で100rpmで24時間撹拌した後に0.2%を超えて増加しない;(e)製剤がポリソルベート20またはポリソルベート80を含む場合、製剤中のポリソルベート20またはポリソルベート80は、同じ成分および濃度を有するがコール酸塩を含まない製剤よりも、40℃で2週間貯蔵した後またはカンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)のリパーゼB(CALB、Sigma Aldrich CAS#9001-62-1)リパーゼによる処理後に、大部分がインタクトである。
【0016】
本開示はまた、本明細書に開示の製剤を含む容器、および製剤を含む容器を含む製品を含む。
【0017】
本開示は、タンパク質を少なくとも1種のコール酸塩界面活性剤と混合してコール酸塩含有水溶液を形成することを含む、本明細書のタンパク質製剤を作製する方法をさらに含む。本開示はまた、水溶液中に存在するタンパク質の凝集を阻害する方法を含み、前記方法は、25℃の水中で約2.0mM以上または0.2%(w/v)の臨界ミセル濃度(CMC)値を有する、25℃の水中でそのCMC値より低い濃度で少なくとも1種のコール酸塩界面活性剤を水溶液に添加して、コール酸塩含有水溶液を形成することを含む。いくつかのこのような実施形態では、タンパク質はモノクローナル抗体などの抗体である。いくつかの実施形態では、方法は、コール酸塩含有水溶液を凍結乾燥することをさらに含む。他の実施形態では、方法は、コール酸塩含有水溶液を凍結乾燥することを含まない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】0.05%(w/v)のコール酸塩界面活性剤または対照界面活性剤(コール酸塩CHAPS、SGH、またはSTH、ポリソルベート20(PS20)、またはポロキサマー188(PX188))を、pH5.5の20mMヒスチジンアセテートおよび240mMスクロース中、1mg/mLの例示的モノクローナル抗PDL1抗体と混合した結果を示す。溶液は、15mLガラスバイアル中に5mLの体積であった。上記成分を含むが界面活性剤は含まない対照溶液も調製した。この図は、毎分100回転(rpm)のアームシェーカー(Glas-Colベンチトップアームシェーカー)にて、周囲温度で24時間撹拌した後、目に見える凝集体が形成されるかどうかを示す。
図2】pH5.8の200mMアルギニンスクシネートの溶液中、1mg/mLの例示的なモノクローナル抗トリプターゼ抗体を混合することから示す。溶液は、15mLガラスバイアル中に5mLの体積であった。上記成分を含むが界面活性剤は含まない対照溶液も調製した。この図は、100rpmのアームシェーカーにて、周囲温度で24時間撹拌した後、目に見える凝集体が形成されるかどうかを示す。
図3】コール酸塩がタンパク質溶液中の遊離脂肪酸を沈殿から保護することができることを示す。pH5.8の5mg/mL抗トリプターゼ抗体および200mMアルギニンスクシネートおよび0.02%PS20を含有する溶液を、様々な濃度のコール酸塩界面活性剤と混合し、次いで5℃で0.04単位/mL CALBでスパイクした。コール酸塩がPS20をFFAへの分解から保護する場合、目に見えるFFA沈殿粒子はタンパク質溶液中に形成されるはずはなく、またはこのような粒子は、形成されても、コール酸塩の添加時に再可溶化するはずであり、一方、コール酸塩が保護または可溶化をもたらさない場合、目に見えるFFA沈殿粒子は、コール酸塩が添加されなかったタンパク質溶液と同程度に形成されるはずである。結果は、0.5%のSCH、SGH、またはCHAPSの添加が溶液中の目に見える微粒子形成を防ぐが、そのような微粒子は、0.02%~0.1%で各界面活性剤が添加されると依然として形成することを示す。
図4】CALBリパーゼの添加によって誘導されるPS20分解に対し、異なる濃度のコール酸塩界面活性剤のインキュベーション結果の要約を示す。グラフの破線は、「リパーゼのみ」の対照溶液によって示されるように、完全分解時に観察されるPS20濃度を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、具体的な実施形態および本明細書に含まれる実施例の以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に理解されるだろう。
【0020】
別段の定義がない限り、本発明に関連して使用される科学的および技術的用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈上別段の必要がない限り、単数形の用語には複数形が含まれ、複数形の用語には単数形が含まれるものとする。
【0021】
本出願では、「または」の使用は、特に明記しない限り、「および/または」を意味する。多数項従属請求項の文脈では、「または」の使用は、2つ以上の先行する独立請求項または従属請求項のいずれかのみを指す。また、「要素」または「構成成分」などの用語は、特に明記しない限り、1つの単位を含む要素および構成成分と、2つ以上のサブユニットを含む要素および構成成分の両方を包含する。
【0022】
本明細書に記載の場合、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率の範囲、または整数範囲は、別段示されない限り、列挙された範囲内のあらゆる整数、および適切な場合、それらの分数(整数の10分の1および100分の1など)の値を含むと理解されるべきである。
【0023】
単位、接頭辞、および記号は、国際単位系(SI)で受け入れられている形式で示されている。数値範囲は、範囲を定義する数を含む。測定値は、有効数字および測定に関連する誤差を考慮して、近似値であると理解される。
【0024】
本明細書で使用される場合、パーセンテージ(「%」)は、別途指定されない限り、重量対体積(「w/v」)パーセンテージである。
【0025】
本開示は、製剤を含むタンパク質およびコール酸塩に関する。このような「製剤」はまた、本明細書では互換的に「組成物」または「調製物」と呼ばれ得る。
【0026】
本明細書のいくつかの実施形態では、製剤は「低イオン強度」または「高イオン強度」であり得る。「イオン強度」は、溶液中の電界の強度を表し、存在する各種のイオンのモル濃度の合計にそれらの電荷の二乗を乗じたものに等しい。本明細書で使用される場合、「低イオン強度」製剤は、50mM以下、例えば20mM~50mMの塩濃度(例えば、ナトリウム、アルギニン、ヒスチジン、または類似の塩)を有する。本明細書で使用される場合、高イオン強度製剤は、150mM以上、例えば150mM~300mMの塩濃度(例えば、ナトリウム、アルギニン、ヒスチジン、または類似のもの)を有する。
【0027】
「等張」製剤は、ヒト血液と本質的に同じ浸透圧を有するものである。等張製剤は、一般的に、約250~350mOsmの浸透圧を有する。「低張」という用語は、ヒト血液のものより低い浸透圧を有する製剤を表す。同様に、「高張」という用語は、ヒト血液のものより高い浸透圧を有する製剤を表すために使用される。等張性は、例えば蒸気圧浸透圧計または凝固点降下浸透圧計を使用して測定することができる。本開示の製剤は、塩および/またはバッファーの添加の結果として高張であり得る。
【0028】
「凍結乾燥」製剤は、凍結乾燥された製剤または凍結乾燥プロセスに供された製剤である。本明細書の製剤は、貯蔵のために凍結乾燥されてもよく、あるいは、液体溶液として貯蔵することを意図してもよい。「再構成」製剤は、タンパク質が再構成製剤中に分散されるように、凍結乾燥したタンパク質または抗体製剤を希釈剤に溶解することによって調製されたものである。再構成製剤は、目的のタンパク質で処置される患者への投与などの使用に適し得る。
【0029】
「界面活性剤」は、それらが溶液中で凝集してミセルを形成することを可能にする明確に定義された極性および非極性領域を有する分子である。極性エリアの性質に応じて、界面活性剤は、非イオン性、アニオン性、カチオン性、および双性イオン性であり得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、「コール酸塩」または「コール酸塩界面活性剤」は、コール酸骨格に基づく分子を指し、コンジュゲーション部位で官能化され、コール酸塩骨格のC7およびC12のいずれかまたは両方のヒドロキシル基を除去することによって、コリル-CoAから誘導体化され得る。本明細書のコール酸塩は界面活性剤の一種である。
【0031】
「ポリペプチド」または「タンパク質」は、その鎖長が三次構造を生成するのに十分であるアミノ酸の配列を意味する。したがって、本明細書のタンパク質は、一般にいかなる三次構造も有さない短いアミノ酸系分子である「ペプチド」とは区別される。典型的には、本明細書で使用のタンパク質は、少なくとも約5~20kD、あるいは少なくとも約15~20kD、好ましくは少なくとも約20kDの分子量を有する。本明細書のポリペプチドまたはタンパク質には、例えば抗体が含まれる。
【0032】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、モノクローナル抗体(免疫グロブリンFc領域を有する全長抗体を含む)、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体、ダイアボディ、および一本鎖分子、ならびに抗体結合断片(例えば、Fab、F(ab’)、およびFv)を含む。本明細書の抗体は、特定の抗原を共同して認識する重(H)鎖および軽(L)鎖可変ドメインに位置する相補的依存領域(CDR)のセットを含む。本明細書の抗体は、抗原認識のためのCDRのセットを含むのに十分な重鎖および軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、全長の重鎖および軽鎖可変ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、全長であってもなくてもよい重鎖および/または軽鎖定常領域をさらに含む。
【0033】
「免疫グロブリン」(Ig)という用語は、本明細書で抗体と互換的に使用される。
【0034】
「医薬製剤」または「治療用製剤」または「治療用調製物」という用語は、少なくとも1種の有効成分(例えば、タンパク質)、および少なくとも1種の追加の構成成分または賦形物質を含み、有効成分の生物学的活性が哺乳動物対象において有効であることを可能にするような形態であり、「治療的使用に適している」または「医薬的使用に適している」調製物または組成物を指し、これは、製剤全体が哺乳動物対象に対して許容できないほど毒性ではなく、製剤が投与される哺乳動物対象に対して許容できないほど毒性であるか、またはそれらを対象に対して許容できないほど毒性にする濃度の構成成分を含有しないことを意味する。
【0035】
「安定」製剤は、含まれるタンパク質が貯蔵中に物理的および/または化学的安定性を本質的に保持するものである。安定性は、選択された温度にて選択された期間測定することができる。好ましくは、製剤は、室温(約30℃)もしくは40℃で少なくとも1ヶ月間安定であり、および/または約2~8℃で少なくとも1年間、好ましくは少なくとも2年間安定である。例えば、貯蔵中の凝集の程度は、タンパク質の安定性の指標として用いることができる。したがって、「安定」製剤は、タンパク質の約10%(w/v)未満および好ましくは5%未満、3%未満、または2%未満が製剤中に凝集体として存在するものであってよい。タンパク質の安定性を測定するための様々な分析技法が当技術分野で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery、247~301、Vincent Lee編、Marcel Dekker,Inc.、New York、N.Y.、Pubs.(1991)およびJones,A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29~90(1993)に概説されている。
【0036】
タンパク質含有製剤の「安定性」を増加させることは、その製剤中のタンパク質の凝集体または製剤の他の構成成分の分解産物の形成を(未処理のタンパク質含有製剤と比較して)低減させることまたは防止することを含み得、その結果、それらの他の構成成分は、タンパク質の安定性を維持するように作用し続けることができる。
【0037】
「安定化剤」または「安定剤」という用語は、本明細書で使用される場合、製剤を安定または不変の状態に維持するために製剤に添加される化学物質または化合物である。場合によっては、凝集、酸化、色の変化などを防ぐのを助けるために安定剤を添加することができる。
【0038】
「凝集体」または「凝集」という用語は、本明細書で使用される場合、例えばタンパク質分子の凝集のように、一緒になること、または塊もしくは全体に集まることを意味する。凝集体は、自己凝集性であり得るか、または他の要因、例えば凝集剤、沈殿剤、撹拌、またはタンパク質が一緒になる他の手段および方法の存在に起因して凝集し得る。「凝集しやすい」タンパク質は、特に撹拌時に他のタンパク質分子と凝集することが観察されているタンパク質である。凝集は、溶液中で過去には透明なタンパク質製剤が濁るかまたは沈殿物を含む場合など、視覚的に、または製剤中のタンパク質をサイズによって分離するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)などの方法によって観察することができる。
【0039】
凝集体は、タンパク質種の二量体、三量体、および多量体を含み得る。本明細書で使用される場合、「高分子量種」(HMWS)は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーによって観察され得、所望のタンパク質分子の少なくとも二量体を表す、すなわち製剤中の所望のタンパク質種の分子量の少なくとも2倍を有するタンパク質の凝集体を指す。その通常の形態または所望の形態で既に多量体、例えば二量体または四量体である抗体などのタンパク質種の場合、HMWSは、タンパク質の通常の所望の多量体形態の少なくとも二量体を表す。
【0040】
撹拌誘発性凝集を「阻害する」または「防止する」とは、少なくとも1種の撹拌誘発性凝集の阻害剤を含むタンパク質含有溶液中に存在する凝集体の量を、少なくとも1種の撹拌誘発性凝集の阻害剤を含まないタンパク質含有溶液中に存在する凝集体の量と比較することによって測定される、撹拌誘発性凝集体の防止、その量を低減または減少させることを意味することが意図される。
【0041】
「臨界ミセル濃度」(CMC)は、界面活性剤が溶液中で凝集してミセルと呼ばれるクラスタを形成する閾値濃度である。本明細書で使用される場合、任意の特定の界面活性剤のCMC値は、水中25℃で測定され、mMまたはパーセント(w/v)の単位で表され得る。構成モノマーからのミセルの形成は平衡を伴うので、それ未満では溶液が無視できる量のミセルを含み、それを超えると実質的にすべての追加の界面活性剤が追加のミセルの形態で見出されるミセルの狭い濃度範囲の存在が確立されている。水溶液中の数百の化合物に対するCMCの資料は、Mukerjee,P.およびMysels,K.J.(1971)Critical Micelle Concentrations of Aqueous Surfactant Systems、NSRDS-NBS 36.Superintendent of Documents、U.S.Government Printing Office、Washington,DCに整えられている。http://www.anatrace.com/docs/detergent_data.pdfも参照されたい。
【0042】
「単離された」は、本明細書に開示の様々なポリペプチドおよび抗体を記述するために使用される場合、その産生環境の構成成分から同定、分離および/または回収されたポリペプチドまたは抗体を意味する。好ましくは、単離されたポリペプチドは、その産生環境からの他のすべての構成成分と会合していない。トランスフェクトした組換え細胞由来のものなど、その産生環境の混入成分は、典型的にはポリペプチドの診断的または治療的使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質を含み得る。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、(1)スピニングカップシークエネーター(spinning cup sequenator)を使用してN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(2)クマシーブルーもしくは好ましくは銀染色を使用して非還元条件もしくは還元条件下でSDS-PAGEによって均一になるまで精製される。しかしながら、通常、単離されたポリペプチドまたは抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製されるであろう。
【0043】
本明細書のいくつかの実施形態では、医薬製剤は、1種類以上の賦形剤および1つ以上の非コール酸塩界面活性剤などの成分を「含まない」。この文脈における「含まない」という表現は、除外される成分が、例えば、意図的に添加された他の成分に見られる汚染物または不純物によって、微量レベルを超えて存在しないことを意味する。
【0044】
本明細書において製剤の成分の混合物を指す場合の「から本質的になる」という用語は、明示的に列挙されたもの以外の成分が存在してもよいが、そのような成分は、タンパク質濃度、タンパク質の凝集レベル、タンパク質の酸化レベル、粘度、熱安定性、オスモル濃度、およびpHを含む製剤の基本的な特徴が不変であるような微量、そうでなければ十分に低い量でのみ見出されることを示す。
【0045】
タンパク質の凝集
タンパク質の凝集は、主に疎水性相互作用によって引き起こされ、最終的に変性をもたらす。部分的または完全に折り畳まれていないタンパク質の疎水性領域が水にさらされると、通常は埋め込まれている疎水性内部が親水性の水性環境にさらされるため、熱力学的に好ましくない状況が生じる。その結果、疎水性領域の周りの構造化水分子からのエントロピーの減少は、主に露出した疎水性領域を介して、変性タンパク質を凝集させる。したがって、タンパク質の溶解性も損なわれ得る。場合によっては、天然またはミスフォールドしたタンパク質サブユニットの自己会合が、ある特定の条件下で起こり得、これは沈殿および活性の喪失をもたらし得る。
【0046】
溶液中のタンパク質の凝集に影響を及ぼす要因には、一般に、タンパク質濃度、pH、温度、他の賦形剤、および機械的ストレスが含まれる。いくつかの要因(例えば、温度)は、他の要因(例えば、機械的ストレス)よりも精製、配合、製造、貯蔵および使用中に容易に制御することができる。製剤研究は、凝集を誘発しないおよび/または実際には凝集の防止に役立つpHおよび賦形剤の適切な選択を決定するだろう。タンパク質濃度は、必要な治療用量によって決定され、この濃度が何であるかに応じて、より高い会合状態(二量体、四量体など)の可能性が存在するかどうかが決定され、これは溶液中での凝集をもたらし得る。どの要因がタンパク質の凝集に影響を及ぼし、次いでこれらの要因をどのように排除または制御することができるかを決定するために、製剤開発中に慎重な研究を行わなければならない。
【0047】
非経口投与または他の投与に使用するための抗体または他のタンパク質の安定な溶液調製物を同定したいという要望は、物理的安定性に対する様々な添加剤の影響を評価するための試験方法論の開発につながり得る。タンパク質の凝集に影響を及ぼす既知の要因およびそのような用途の要件に基づいて、タンパク質溶液の撹拌または回転を含む機械的手順を使用して物理的安定性を評価することができる。凝集を防止するための様々な添加剤の能力を特定するための物理的ストレス試験のための方法論は、水平面内での振盪または撹拌、または垂直面内で「n」rpmで回転するホイールの軸から「x」cmの回転への曝露を含み得る。凝集から生じる濁度は、通常、目視検査または光散乱分析によって時間の関数として決定される。あるいは、沈殿による可溶性タンパク質含有量の減少は、時間の関数としてHPLCアッセイによって定量することができる。
【0048】
水の表面上のタンパク質は、特に撹拌されると、タンパク質単層のアンフォールディングおよびその後の凝集のために凝集する。界面活性剤は、タンパク質を変性させることができるが、表面変性に対してそれらを安定化させることもできる。一般に、イオン性界面活性剤はタンパク質を変性させることができる。しかしながら、非イオン性界面活性剤は通常、1%(w/v)の比較的高い濃度であってもタンパク質を変性させない。本開示は、ある特定のコール酸塩界面活性剤が治療上有用な製剤中の抗体または他のタンパク質の安定化または凝集を低減するのに有用であるという新規な知見に基づいている。
【0049】
コール酸塩界面活性剤および製剤
本開示は、ある特定のコール酸塩界面活性剤が治療上有用な製剤中の抗体または他のタンパク質の安定化または凝集を低減するのに有用であるという新規な知見に基づいている。例示的なコール酸塩には、双性イオン性コール酸塩、例えば25℃の水中で約8~10mMまたは0.5~0.6%の臨界ミセル濃度(CMC)を有するCHAPS(3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート)(CAS75621-03-3)、アニオン性コール酸塩、例えばSGH(グリココール酸ナトリウム水和物)(CAS338950-81-5)(25℃の水中でCMC約13mMまたは約0.6%(w/v))、タウロコール酸ナトリウム水和物(STH)(CAS345909-26-4)(25℃の水中でCMC約3~11mMまたは約0.2%~0.6%)およびコール酸ナトリウム水和物(SCH)(25℃の水中でCMC約9~15mMまたは約0.4%~0.7%)、ならびに非イオン性コール酸塩、例えば「BigCHAP」(N,N’-ビス-(3-D-グルコンアミドプロピル)コールアミド)(CAS86303-22-2)(25℃の水中でCMC約2.9~3.4mMまたは約0.26%)が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、コール酸塩は、25℃の水中で少なくとも1mM、または少なくとも2mM、または少なくとも0.1%(w/v)、または少なくとも0.2%(w/v)のCMCを有し得る。
【0050】
特定のコール酸塩は、抗体または他のタンパク質の安定化剤として単独で用いられてもよく、または他のコール酸塩との組合せで用いられてもよい。本発明の特定の実施形態では、コール酸塩(単剤として用いられる場合)またはコール酸塩(組合せで用いられる場合)は、用いられるコール酸塩のCMC値未満であり得る0.01%~0.5%の濃度で水性抗体または他のタンパク質含有製剤中に存在してもよい。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のコール酸塩は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、または0.02%以下の濃度で存在してもよい。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のコール酸塩は、0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、0.025%~0.05%、または0.025%~0.1%の濃度で存在してもよい。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のコール酸塩は、0.01%~0.05%の濃度で存在してもよい。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のコール酸塩は、0.025%~0.05%の濃度で存在してもよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、特定のコール酸塩を、25℃の水中でのそのそれぞれのCMC値よりも低い濃度で抗体または他のタンパク質の安定化剤として用いることができる。いくつかの実施形態では、コール酸塩は、25℃の水中で少なくとも1mM、または少なくとも2mM、または少なくとも0.1%(w/v)、または少なくとも0.2%(w/v)のCMCを有し得る。いくつかの実施形態では、混合物が25℃の水中で混合物のCMC値よりも低い全体濃度であるように、コール酸塩の混合物を用いることができる。いくつかのこのような実施形態では、1つまたは複数のコール酸塩は、組成物中に存在する唯一の種類の界面活性剤であり得、したがって、他の界面活性剤は存在しない。
【0052】
現在使用されているほとんどの治療上許容され得る非イオン性界面活性剤は、ポリソルベートまたはポリエーテル基のいずれかに由来する。ポリソルベート20および80は、上市された治療用タンパク質製剤における現在の界面活性剤安定剤である。しかしながら、治療用タンパク質製剤に使用される他の界面活性剤には、プルロニック(Pluronic)(登録商標)F-68および「Brij」クラスのメンバーおよびポロキサマーおよびアルキルグリコシドが含まれる。本明細書のいくつかの実施形態では、これらの他の界面活性剤のいずれも製剤中に存在しないが、他の実施形態では、これらの他のクラスの界面活性剤の1つ以上が含まれる。
【0053】
いくつかの実施形態では、組成物は、ポリソルベート、プルロニック、Brij、ポロキサマー、およびアルキルグリコシド界面活性剤を含まない。他の実施形態では、組成物は、少なくとも1つの他の界面活性剤を含む。他の実施形態では、組成物はまた、PS20またはPS80などの1つ以上のポリソルベートを含むか、またはアルキルグリコシドもしくはアルキルグリコシドの組合せを含み得る。製剤がポリソルベート界面活性剤および/またはアルキルグリコシド界面活性剤を含むいくつかのそのような場合、製剤は、コール酸塩ならびにポリソルベートおよび/またはアルキルグリコシド界面活性剤以外の他の界面活性剤を含まない。
【0054】
いくつかの実施形態では、コール酸塩界面活性剤はCHAPSである。いくつかの実施形態では、製剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、または0.02%以下の濃度(w/v)でCHAPSを含む。いくつかの実施形態では、CHAPSは、0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、0.025%~0.05%、または0.025%~0.1%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、CHAPSは、0.01%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、CHAPSは、0.025%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、製剤の界面活性剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、または0.02%以下の濃度のCHAPSから本質的になる。いくつかの実施形態では、CHAPSは、0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、0.025%~0.05%、または0.025%~0.1%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、CHAPSは、0.01%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、CHAPSは、0.025%~0.05%の濃度で存在する。
【0055】
いくつかの実施形態では、製剤は、少なくとも1種の治療用タンパク質種、および0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、もしくは0.02%以下、0.01%~0.5%、または0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、もしくは0.025%~0.05%の濃度(w/v)のCHAPSから本質的になる界面活性剤、任意に、バッファー、塩、凍結乾燥保護剤、または糖、糖アルコール、アミノ酸、もしくは他のタンパク質種のうちの1つ以上を含む安定剤のうちの1つ以上を含み、任意に、製剤は低イオン強度であり;少なくとも1種の治療用タンパク質は抗体であり;および/または製剤は、使用前に凍結乾燥されていない液体製剤である。他の実施形態では、製剤は、PS20またはPS80などのポリソルベートをさらに含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、コール酸塩界面活性剤はBigCHAPである。いくつかの実施形態では、製剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、または0.02%以下の濃度でBigCHAPを含む。いくつかの実施形態では、BigCHAPは、0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、0.025%~0.05%、または0.025%~0.1%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、BigCHAPは、0.01%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、BigCHAPは、0.025%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、製剤の界面活性剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、または0.02%以下の濃度のBigCHAPから本質的になる。いくつかの実施形態では、BigCHAPは、0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、0.025%~0.05%、または0.025%~0.1%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、BigCHAPは、0.01%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、BigCHAPは、0.025%~0.05%の濃度で存在する。
【0057】
いくつかの実施形態では、製剤は、少なくとも1種の治療用タンパク質種、および0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、もしくは0.02%以下、0.01%~0.5%、または0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、もしくは0.025%~0.05%の濃度のBigCHAPから本質的になる界面活性剤、任意に、バッファー、塩、凍結乾燥保護剤、または糖、糖アルコール、アミノ酸、もしくは他のタンパク質種のうちの1つ以上を含む安定剤のうちの1つ以上を含み、任意に、製剤は低イオン強度であり;少なくとも1種の治療用タンパク質は抗体であり;および/または製剤は、使用前に凍結乾燥されていない液体製剤である。他の実施形態では、製剤は、PS20またはPS80などのポリソルベートをさらに含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、コール酸塩界面活性剤は、SGH、STH、またはSCHである。いくつかの実施形態では、製剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、または0.02%以下の濃度でSGH、STH、またはSCHを含む。いくつかの実施形態では、SGH、STHまたはSCHは、0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、0.025%~0.05%、または0.025%~0.1%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、SGH、STHまたはSCHは、0.01%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、SGH、STHまたはSCHは、0.025%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、製剤の界面活性剤は、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、または0.02%以下の濃度のSGH、STH、またはSCHから本質的になる。いくつかの実施形態では、SGH、STHまたはSCHは、0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、0.025%~0.05%、または0.025%~0.1%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、SGH、STHまたはSCHは、0.01%~0.05%の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、SGH、STHまたはSCHは、0.025%~0.05%の濃度で存在する。SGH、STHまたはSCH界面活性剤を含む上記の実施形態のいくつかでは、溶液は高イオン強度を有する。
【0059】
いくつかの実施形態では、製剤は、少なくとも1種の治療用タンパク質種、および0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.025%以下、もしくは0.02%以下、0.01%~0.5%、または0.01%~0.1%、0.01%~0.05%、もしくは0.025%~0.05%の濃度(w/v)のコール酸塩から本質的になる界面活性剤、任意に、バッファー、塩、凍結乾燥保護剤、または糖、糖アルコール、アミノ酸、もしくは他のタンパク質種のうちの1つ以上を含む安定剤のうちの1つ以上を含み、任意に、製剤は高イオン強度であり;少なくとも1種の治療用タンパク質は抗体であり;および/または製剤は、使用前に凍結乾燥されていない液体製剤である。他の実施形態では、製剤は、PS20またはPS80などのポリソルベートをさらに含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、製剤全体は低イオン強度を有する。本明細書の低イオン強度製剤は、例えば、50mM以下、例えば10~50mM、20~50mM、20~40mM、20~30mM、15~30mM、15~25mM、40mM以下、30mM以下、25mM以下、または20mM以下の塩濃度(例えば、ナトリウム、酢酸塩、リン酸塩、アルギニン、ヒスチジン、クエン酸塩)を有し得る。いくつかの実施形態では、例えばアニオン性コール酸塩種を使用する場合、製剤全体は高イオン強度を有する。本明細書の高イオン強度製剤は、150mM以上の塩濃度、例えば175mM以上、200mM以上、250mM以上、150~300mM、200~300mM、200~250mM、175~250mM、または150~250mMを有し得る。
【0061】
例示的なタンパク質
本発明の製剤は、多種多様なタンパク質またはポリペプチドと適合性である。
【0062】
本明細書の定義内に包含されるポリペリプチドの例としては、哺乳動物のタンパク質、例えば、様々な抗体、レニン;ヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ-1-アンチトリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;凝固因子、例えば第VIIIC因子、第IX因子、組織因子、およびフォン・ヴィレブランド因子;抗凝固因子、例えばプロテインC;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;プラスミノーゲン活性化因子、例えばウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA);ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子-アルファおよび-ベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(活性化時に調節され、T細胞が正常に発現および分泌している);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-アルファ);血清アルブミン、例えばヒト血清アルブミン;ミュラー管抑制物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;微生物タンパク質、例えばベータ-ラクタマーゼ;DNase;IgE;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA)、例えばCTLA-4;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);ホルモンまたは成長因子の受容体;プロテインAまたはD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、ニューロトロフィン-5、もしくはニューロトロフィン-6(NT-3、NT-4、NT-5、もしくはNT-6)、または神経成長因子、例えばNGF-β;血小板由来増殖因子(PDGF);線維芽細胞増殖因子、例えばaFGFおよびbFGF;上皮成長因子(EGF);形質転換成長因子(TGF)、例えばTGF-アルファおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、またはTGF-β5を含むTGF-ベータ;インスリン様成長因子IおよびII(IGF-IおよびIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP);CDタンパク質、例えばCD3、CD4、CD8、CD19およびCD20;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン、例えばインターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ、およびインターフェロン-ガンマ;コロニー刺激因子(CSF)、例えばM-CSF、GM-CSF、およびG-CSF;インターロイキン(IL)、例えばIL-1~IL-10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原、例えばAIDSエンベロープの一部分;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;調節タンパク質;インテグリン、例えばCD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4およびVCAM;腫瘍関連抗原、例えばCA125(卵巣がん抗原)、またはHER2、HER3、もしくはHER4受容体;イムノアドヘシン;ならびに上述のタンパク質のうちのいずれかの断片および/またはバリアント、ならびに抗体断片であり上記のタンパク質のうちのいずれかに結合する抗体が挙げられる。
【0063】
製剤化されるタンパク質は、好ましくは本質的に純粋であり、望ましくは本質的に均質である(すなわち、夾雑タンパク質を含まない)。「本質的に純粋な」タンパク質は、組成物の総重量に基づいて少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95重量%のタンパク質を含む組成物を意味する。「本質的に均質な」タンパク質は、組成物の総重量に基づいて少なくとも約99重量%のタンパク質を含む組成物を意味する。
【0064】
タンパク質は、所与の時点でのタンパク質の生物学的活性が、製剤が調製された時点で呈される生物学的活性の約10%以内(アッセイの誤差以内)である場合、医薬製剤中で「生物学的活性」を保持する。標的分子または抗原に結合することによって機能することが意図される抗体またはタンパク質の場合、生物学的活性は、インビトロまたはインビボで抗原に結合し、測定可能な生物学的応答をもたらすタンパク質の能力によって決定され得る。
【0065】
本明細書のタンパク質は、天然に存在するタンパク質、ならびに例えば2つの別個のタンパク質を互いに共有結合させることによって形成された融合タンパク質、および他のタンパク質または核酸、小分子薬物、もしくは固相などの非タンパク質分子に共有結合されたタンパク質を含むタンパク質コンジュゲートを広く包含する。「固相」という用語は、本発明のタンパク質が付着することができる非水性マトリックスを表す。本明細書に包含される固相の例としては、ガラス(例えば、制御された細孔ガラス)、多糖類(例えば、アガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコールおよびシリコーンから部分的または全体的に形成されたものが挙げられる。ある特定の実施形態では、状況に応じて、固相はアッセイプレートのウェルを含むことができ、他のものでは、精製用カラム(例えば、アフィニティークロマトグラフィーカラム)である。この用語はまた、離散粒子の不連続固相、例えば、米国特許第4,275,149号に記載されているものを含む。この用語はまた、溶液中に懸濁され得るビーズまたはチップを包含する。
【0066】
本明細書のタンパク質は、抗体も包含する。
【0067】
例示的な抗体
抗体は、典型的には、目的の「抗原」に対して指向する。所与の抗原に「対して指向する」または「特異的に結合する」または「特異的な」抗体は、任意の他のポリペプチドまたはポリペプチドエピトープに実質的に結合することなく、その特定の抗原に結合する抗体である。特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド抗原上のエピトープに「対して指向する」または「特異的に結合する」または「特異的な」抗体は、任意の他のポリペプチドまたはポリペプチドエピトープに実質的に結合することなく、その特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド抗原上のエピトープに結合する抗体である。
【0068】
好ましくは、抗原は、生物学的に重要な分子であり、疾患または障害に罹患している哺乳動物への抗体の投与により、その哺乳動物に治療的利益がもたらされ得る。タンパク質抗原および非タンパク質抗原の両方に対して指向する抗体(腫瘍関連糖脂質抗原など;米国特許第5,091,178号を参照されたい)が企図される。抗原がタンパク質である場合、それは、膜貫通分子(例えば、受容体)または成長因子などのリガンドであり得る。例示的な抗原としては、上で論じられたタンパク質が挙げられる。本発明によって包含される抗体の例示的な分子標的には、CDポリペプチド、例えばCD3、CD4、CD8、CD19、CD20およびCD34;HER受容体ファミリーのメンバー、例えば、EGF受容体(HER1)、HER2、HER3またはHER4受容体;細胞接着分子、例えばLFA-1、Mac1、p150,95、VLA-4、ICAM-1、VCAMおよびaもしくはbサブユニットのいずれかを含むav/b3インテグリン(例えば抗CD11a、抗CD18または抗CD11b抗体);成長因子、例えばVEGF;IgE;血液型抗原;flk2/flt3受容体;肥満(OB)受容体;mpl受容体;CTLA-4;ポリペプチドCなどが含まれる。任意に、他の分子にコンジュゲートされる可溶性抗原またはその断片は、抗体を生成するための免疫原として使用され得る。受容体などの膜貫通分子の場合、これらの断片(例えば、受容体の細胞外ドメイン)が免疫原として使用され得る。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞が免疫原として使用され得る。このような細胞は、天然源(例えば、がん細胞株)由来であり得るか、または膜貫通分子を発現するように組換え技法によって形質転換された細胞であり得る。
【0069】
本明細書で精製される抗体の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標)(Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:4285~4289(1992)、米国特許第5,725,856号)およびペルツズマブ(OMNITARG(商標))(WO01/00245)を含むHER2抗体;CD20抗体(下記参照);IL-8抗体(St Johnら、Chest、103:932(1993)、および国際公開WO95/23865);ヒト化VEGF抗体huA4.6.1ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))およびラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))(Kimら、Growth Factors、7:53~64(1992)、国際公開WO96/30046、および1998年10月15日公開のWO98/45331)などのヒト化および/または親和性成熟VEGF抗体を含むVEGFまたはVEGF受容体抗体;PSCA抗体(WO01/40309);エファリズマブ(RAPTIVA(登録商標))を含むCD11a抗体(米国特許第6,037,454号、米国特許第5,622,700号、WO98/23761、Stoppaら、Transplant Intl.4:3~7(1991)、およびHourmantら、Transplantation 58:377~380(1994));オマリズマブ(XOLAIR(登録商標))を含むIgEに結合する抗体(Prestaら、J.Immunol.151:2623~2632(1993)、および国際公開WO95/19181;1998年2月3日発行の米国特許第5,714,338号、または1992年2月25日発行の米国特許第5,091,313号、1993年3月4日公開のWO93/04173、または1998年6月30日出願の国際公開PCT/US98/13410、米国特許第5,714,338号);CD18抗体(1997年4月22日発行の米国特許第5,622,700号、または1997年7月31日公開のWO97/26912のように);Apo-2受容体抗体抗体(1998年11月19日公開のWO98/51793);組織因子(TF)抗体(1994年11月9日登録の欧州特許第0 420 937 B1);α-αインテグリン抗体(1998年2月19日発行のWO98/06248);EGFR抗体(例えばキメラまたはヒト化225抗体、セツキシマブ、ERBUTIX(登録商標)1996年12月19日公開のWO96/40210のように);CD3抗体、例えばOKT3(1985年5月7日発行の米国特許第4,515,893号);CD25またはTac抗体、例えばCHI-621(SIMULECT(登録商標))およびZENAPAX(登録商標)(1997年12月2日発行の米国特許第5,693,762号を参照されたい);CD4抗体、例えばcM-7412抗体(Choyら、Arthritis Rheum39(1):52~56(1996));CD52抗体、例えばCAMPATH-1H(ILEX/Berlex)(Riechmannら、Nature332:323~337(1988));Fc受容体抗体、例えばFcγRIに対して指向するM22抗体(Grazianoら、J.Immunol.155(10):4996~5002(1995))のように);癌胎児性抗原(CEA)抗体、例えばhMN-14(Sharkeyら、Cancer Res.55(23付録):5935s~5945s(1995));huBrE-3、hu-Mc3およびCHL6を含む乳腺上皮細胞に対して指向する抗体(Cerianiら、Cancer Res.55(23):5852s~5856s(1995);およびRichmanら、Cancer Res.55(23付録):5916s~5920s(1995));結腸癌細胞、例えばC242に結合する抗体(Littonら、Eur J.Immunol.26(1):1~9(1996));CD38抗体、例えばAT13/5(Ellisら、J.Immunol.155(2):925~937(1995));CD33抗体、例えばHuM195(Jurcicら、Cancer Res55(23付録):5908s~5910s(1995))およびCMA-676またはCDP771;EpCAM抗体、例えば17-1A(PANOREX(登録商標));GpIIb/IIIa抗体、例えばアブシキシマブまたはc7E3 Fab(REOPRO(登録商標));RSV抗体、例えばMEDI-493(SYNAGIS(登録商標));CMV抗体、例えばPROTOVIR(登録商標);HIV抗体、例えばPRO542;肝炎抗体、例えばHepB抗体OSTAVIR(登録商標);抗MUC16を含むCA125抗体(WO2007/001851;Yin,BWTおよびLloyd,KO、J.Biol.Chem.276:27371~27375(2001))およびOvaRex;イディオタイプGD3エピトープ抗体BEC2;αvβ3抗体(例えばVITAXIN(登録商標);Medimmune);ヒト腎細胞癌抗体、例えばch-G250;ING-1;抗ヒト17-1An抗体(3622W94);抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体(A33);GD3ガングリオシドに対して指向する抗ヒト黒色腫抗体R24;抗ヒト有棘細胞癌(SF-25);ヒト白血球抗原(HLA)抗体、例えばSmart ID10および抗HLA DR抗体Oncolym(Lym-1);CD37抗体、例えばTRU016(Trubion);IL-21抗体(Zymogenetics/Novo Nordisk);抗B細胞抗体(Imferon);B細胞標的化MAb(Immunogen/Aventis);1D09C3(Morphosys/GPC);LymphoRad131(HGS);Lym-1抗体、例えばLym-1Y-90(USC)または抗Lym-1 Oncolym(USC/Peregrine);LIF226(Enhanced Lifesci.);BAFF抗体(例えばWO03/33658);BAFF受容体抗体(例えばWO02/24909を参照されたい);BR3抗体;Blys抗体、例えばベリムマブ;LYMPHOSTAT-B(商標);ISF154(UCSD/Roche/Tragen);ゴミリキシマ(Idec152;Biogen Idec);IL-6受容体抗体、例えばアトリズマブ(ACTEMRA(商標);中外製薬株式会社/Roche);IL-15抗体、例えばHuMax-Il-15(Genmab/Amgen);ケモカイン受容体抗体、例えばCCR2抗体(例えばMLN1202;Millennium);抗補体抗体、例えばC5抗体(例えばエクリズマブ、5G1.1;Alexion);ヒト免疫グロブリンの経口製剤(例えばIgPO;Protein Therapeutics);IL-12抗体、例えばABT-874(CAT/Abbott);テネリキシマブ(BMS-224818;BMS);S2C6およびそのヒト化バリアントを含むCD40抗体(WO00/75348)およびTNX100(Chiron/Tanox);cA2またはインフリキシマブを含むTNF-α抗体(REMICADE(登録商標)、CDP571、MAK-195、アダリムマブ(HUMIRA(商標))、ペグ化TNF-α抗体断片、例えばCDP-870(Celltech)、D2E7(Knoll)、抗TNF-αポリクローナル抗体(例えばPassTNF;Verigen);CD22抗体、例えばエプラツズマブY-90およびエプラツマブI-131を含むLL2またはエプラツズマブ(LYMPHOCIDE(登録商標);Immunomedics)、Abiogen社のCD22抗体(Abiogen、Italy)、CMC544(Wyeth/Celltech)、combotox(UT Southwestern)、BL22(NIH)およびLympoScan Tc99(Immunomedics)。
【0070】
CD20抗体の例としては、以下が挙げられる:現在は「リツキシマブ」(「RITUXAN(登録商標)」)と呼ばれている「C2B8」(米国特許第5,736,137号);「Y2B8」と命名されたイットリウム-[90]-標識2B8マウス抗体またはIDEC Pharmaceuticals,Inc.から市販されている「イブリツモマブチウキセタン」(ZEVALIN(登録商標))(米国特許第5,736,137号、1993年6月22日に受託番号HB11388でATCCに寄託されている2B8);「トシツモマブ」とも呼ばれ、任意に131Iで標識されて「131I-B1」を生成するマウスIgG2a「B1」、またはCorixaから市販されている「ヨウ素I131トシツモマブ」抗体(BEXXAR(商標))(米国特許第5,595,721号も参照されたい);マウスモノクローナル抗体「1F5」(Pressら、Blood 69(2):584~591(1987))および「フレームワークパッチド」またはヒト化1F5(WO2003/002607、Leung,S.;ATCC受託HB-96450)を含むそのバリアント;マウス2H7およびキメラ2H7抗体(米国特許第5,677,180号);ヒト化2H7(WO2004/056312、Lowmanら、);2F2(HuMax-CD20)、B細胞の細胞膜中のCD20分子を標的とする完全ヒト高親和性抗体(Genmab、デンマーク;例えばGlennieおよびvan de Winkel、Drug Discovery Today 8:503~510(2003)ならびにCraggら、Blood 101:1045~1052(2003);WO2004/035607;US2004/0167319を参照されたい);WO2004/035607およびUS2004/0167319に記載のヒトモノクローナル抗体(Teelingら);US2004/0093621に記載のFc領域にN-グリコシド結合複合型糖鎖が結合した抗体(Shitaraら);CD20に結合するモノクローナル抗体および抗原結合断片(WO2005/000901、Tedderら)、例えばHB20-3、HB20-4、HB20-25、およびMB20-11;抗体のAMEシリーズのようなCD20結合分子、例えばWO2004/103404およびUS2005/0025764に記載のAME33抗体(Watkinsら、Eli Lilly/Applied Molecular Evolution、AME);US2005/0025764に記載のCD20結合分子(Watkinsら);A20抗体またはそのバリアント、例えばキメラもしくはヒト化A20抗体(それぞれ、cA20、hA20)またはIMMU-106(US2003/0219433、Immunomedics);US2005/0069545A1およびWO2005/16969(Carrら)に記載のように、エピトープ欠失Leu-16、1H4または2B8を含み、任意にIL-2とコンジュゲートしたCD20結合抗体;CD22およびCD20に結合する二重特異性抗体、例えばhLL2xhA20(WO2005/14618、Changら);International Leukocyte Typing Workshopから入手可能なモノクローナル抗体L27、G28-2、93-1B3、B-C1またはNU-B2(Valentineら、
Leukocyte Typing III(McMichael編、440頁、Oxford University Press(1987));1H4(Haismaら、Blood 92:184(1998));抗CD20アウリスタチンEコンジュゲート(Seattle Genetics);抗CD20-IL2(EMD/Biovation/City of Hope);抗CD20MAb療法(EpiCyte);抗CD20抗体TRU015(Trubion)。
【0071】
例示的な抗体構造
基本的な4本鎖の抗体ユニットは、2つの同一な軽(L)鎖と2つの同一な重(H)鎖とから構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である。IgM抗体は、5つの基本的なヘテロ四量体ユニットと併せて、J鎖と呼ばれる追加のポリペプチドからなり、10個の抗原結合部位を含むが、一方でIgA抗体は、2~5個の基本的な4本鎖ユニットから構成されており、このユニットは、重合してJ鎖と組み合わさった多価集合体を形成することができる。IgGの場合、4本鎖ユニットは、一般に、約150,000ダルトンである。各L鎖は、1つのジスルフィド共有結合によってH鎖に連結されているが、一方で2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結されている。H鎖およびL鎖はそれぞれ、規則的に離間した鎖内ジスルフィド架橋も有する。各H鎖は、N末端に可変ドメイン(V)を有し、続いてαおよびγ鎖のそれぞれについては3つの定常ドメイン(C)、ならびにμおよびεアイソタイプについては4つのCドメインを有する。各L鎖は、N末端に可変ドメイン(V)を有し、続いてその反対側の末端に定常ドメインを有する。Vは、Vと整列しており、Cは、重鎖の第1の定常ドメイン(C1)と整列している。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間に界面を形成すると考えられている。VとVとが一緒に対合することにより、単一の抗原結合部位を形成する。様々なクラスの抗体の構造および特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology、第8版、Daniel P.Sties,Abba I.TerrおよびTristram G.Parsolw(編)、Appleton&Lange、Norwalk、Conn.、1994、71頁および第6章を参照されたい。
【0072】
任意の脊椎動物種に由来するL鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパおよびラムダと呼ばれる2つの明確に異なる種類のうちの1つに割り当てられ得る。それらの重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てられ得る。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの5つのクラスがあり、それぞれ、α、δ、ε、γおよびμと表記される重鎖を有する。γおよびαクラスは、CH配列および機能における比較的わずかな相違に基づいてさらにサブクラスに分類され、例えば、ヒトは、以下のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2を発現する。
【0073】
「可変領域」または「可変ドメイン」または「Vドメイン」または「V領域」という用語は、重鎖および軽鎖のある特定のセグメントの配列が抗体間で大きく異なるという事実を指す。Vドメインは、抗原結合を媒介し、特定の抗体の、その特定の抗原に対する特異性を規定する。しかしながら、可変性は、可変ドメイン全体に均等に分布しているわけではない。代わりに、V領域は、各々およそ9~12アミノ酸残基長である「超可変領域」(HVR)または時として「相補性決定領域」と呼ばれる極度に可変性なより短い領域によって分離した約15~30アミノ酸残基のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる相対的に不変のストレッチからなる。天然重鎖および軽鎖の可変ドメインは各々、主にβシート構成を採用する4つのFRを含み、これらは、3つの超可変領域により連結され、これら超可変領域はβシート構造を連結し、ある場合にはその一部を形成するループを形成する。各鎖内の超可変領域は、FRによって近接近し、一緒に保持されており、他方の鎖からの超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD、(1991)を参照されたい。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与しないが、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)への関与などの様々なエフェクター機能を呈する。
【0074】
「超可変領域」(「相補性決定領域」またはCDRとしても公知)という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合部位を形成し、抗原特異性の主な決定基である免疫グロブリンのV領域ドメイン内にある(通常、極端に配列可変性な3つまたは4つの短い領域)抗体のアミノ酸残基を指す。CDR残基を同定するために、少なくとも2つの方法がある:(1)種間配列可変性に基づくアプローチ(すなわち、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health、Bethesda、M S 1991);(2)抗原抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ(Chothia,C.ら、J.Mol.Biol.196:901~917(1987))。しかしながら、2つの残基同定技法が、重複するが同一ではない領域を定義する範囲で、それらを組み合わせてハイブリッドCDRを定義することができる。
【0075】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指す。すなわち、その集団をなす個々の抗体は、微量で存在する可能性がある、自然に起こり得る変異および/または翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化、脱アミド化)を除き、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して指向されている。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対して指向する様々な抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養により合成され、他の免疫グロブリンが混入していないという点で、有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体の集団から得られるという抗体の特徴を示すものであり、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈すべきではない。例えば、本明細書に従って使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohlerら、Nature 256:495(1975)によって記載されたハイブリドーマ法によって作製されても、または組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)によって作製されてもよい。「モノクローナル抗体」はまた、Clacksonら、Nature、352:624~628(1991)およびMarksら、J.Mol.Biol.、222:581~597(1991)に記載の技法を使用してファージ抗体ライブラリから単離され得る。
【0076】
本明細書におけるモノクローナル抗体には、具体的には、重鎖および/または軽鎖の一部分が、特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一または相同である一方で、鎖(複数可)の残りの部分が、別の種に由来するか、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびに所望の生物学的活性を呈する限り、そのような抗体の断片が含まれる(米国特許第4,816,567号;Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851~6855(1984))。本明細書の目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列、およびヒト内容領域配列とを含む、「霊長類化」抗体が含まれる。
【0077】
「インタクトな」または「全長」抗体は、抗原結合部位ならびにCLおよび少なくとも重鎖ドメインC1、C2およびC3を含むものである。定常ドメインは、天然型配列の定常ドメイン(例えば、ヒトの天然型配列の定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列バリアントであり得る。好ましくは、インタクトな抗体は、1つ以上のエフェクター機能を有する。
【0078】
「抗体」という用語は、「抗体断片」および「抗原結合断片」を含む。「抗体断片」または「抗原結合断片」は、インタクトな抗体の抗原結合部分および/または可変領域を含み、抗原に特異的に結合するインタクトな抗体の部分を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)およびFv断片;ダイアボディ:直鎖状抗体(米国特許第5,641,870号、実施例2;Zapataら、Protein Eng.8(10):1057~1062[1995]):一本鎖抗体分子、ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0079】
抗体のパパイン消化により、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片と、容易に結晶化する能力を反映して名付けられた残留「Fc」断片とが生じる。Fab断片は、H鎖の可変領域ドメイン(V)と合わせたL鎖全体、および1つの重鎖の第1の定常ドメイン(C1)からなる。各Fab断片は、抗原結合に関しては一価である。すなわち、単一の抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処理は、異なる抗原結合活性を有する2つのジスルフィド連結Fab断片におおよそ対応する単一の大きなF(ab’)断片を生じ、これは依然として抗原を架橋することができる。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含む、C1ドメインのカルボキシ末端に数個の追加の残基を有することにより、Fab断片とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を保有するFab’の本明細書における名称である。F(ab’)抗体断片は、元来、間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として産生された。抗体断片の他の化学的カップリングも既知である。
【0080】
Fc断片または「Fc」は、ジスルフィドによって一緒に保持された両方のH鎖のカルボキシ末端部分を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域における配列によって決定され、この領域はまた、ある特定の細胞型に見られるFc受容体(FcR)によって認識される。
【0081】
「Fv」は、完全な抗原認識および抗原結合部位を含む最小抗体断片である。この断片は1つの重鎖および1つの軽鎖可変領域ドメインが、非共有結合で緊密に会合した二量体からなる。これらの2つのドメインの折畳みにより、抗原結合のためのアミノ酸残基を提供し、かつ抗原結合特異性を抗体に与える6つの超可変ループ(H鎖およびL鎖から各3つのループ)が生じる。しかしながら、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的なCDRを3つのみ含むFvの半分)でさえも、全結合部位よりも低い親和性ではあるが、抗原を認識してそれに結合する能力を有する。
【0082】
「sFv」または「scFv」とも略される「一本鎖Fv」は、単一のポリペプチド鎖に接続されたVHおよびVL抗体ドメインを含む抗体断片である。好ましくは、sFvポリペプチドは、VドメインとVドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、このリンカーにより、sFvが抗原結合に望ましい構造を形成することが可能となっている。sFvの概説については、PluckthunのThe Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻、RosenburgおよびMoore編、Springer-Verlag、New York、269~315頁(1994)を参照されたい。
【0083】
「ダイアボディ」という用語は、鎖内ではなく鎖間のVドメイン対合を達成し、それによって二価断片、すなわち、2つの抗原結合部位を有する断片が得られるように、VドメインとVドメインとの間に短いリンカー(約5~10)残基)を用いてsFv断片(前の段落を参照されたい)を構築することによって調製される小さな抗体断片を指す。二重特異的ダイアボディは、2つの抗体のVドメインおよびVドメインが異なるポリペプチド鎖上に存在する2つの「クロスオーバー」sFv断片のヘテロ二量体である。ダイアボディは、例えば、EP404,097;WO93/11161;Hollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444~6448(1993)にさらに詳述されている。
【0084】
非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含む、多くがヒト配列のキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはそれらの断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)、または抗体の他の抗原結合部分配列など)である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの超可変領域(CDRでもある)からの残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット、ウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基によって置き換えられている。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられている。さらに、「ヒト化抗体」は、本明細書で使用される場合、レシピエント抗体にもドナー抗体にもいずれにも見られない残基も含み得る。これらの修飾を行って、抗体性能をさらに改良および最適化する。ヒト化抗体はまた、最も有利には、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部も含むことになる。さらなる詳細については、Jonesら、Nature、321:522~525(1986);Reichmannら、Nature、332:323~329(1988);およびPresta、Curr.Op.Struct.Biol.、2:593~596(1992)を参照されたい。「ヒト」または「完全ヒト」抗体には、ヒト抗体に見られるフレームワークおよび定常ドメイン配列を含むものが含まれる。
【0085】
本明細書で使用される場合、「イムノアドヘシン」という用語は、異種タンパク質(「アドヘシン」)の結合特異性と、免疫グロブリン定常ドメインのエフェクター機能とを組み合わせた、抗体様分子を表す。構造的には、イムノアドヘシンは、抗体(すなわち、「異種の」)の抗原認識および結合部位以外である所望の結合特異性を持つアミノ酸配列と、免疫グロブリン定常ドメイン配列との融合物を含む。イムノアドヘシン分子のアドヘシン部分は、典型的には、少なくとも受容体またはリガンドの結合部位を含む連続するアミノ酸配列である。イムノアドヘシンにおける免疫グロブリン定常ドメイン配列は、IgG-1、IgG-2、IgG-3、またはIgG-4サブタイプ、IgA(IgA-1およびIgA-2を含む)、IgE、IgDまたはIgMなどの任意の免疫グロブリンから得られ得る。Ig融合物は、好ましくは、Ig分子内の少なくとも1つの可変領域の場所に、本明細書に記載のポリペプチドまたは抗体のドメインの置換を含む。特に好ましい実施形態では、免疫グロブリン融合物は、IgG1分子のヒンジ、CH2およびCH3、またはヒンジ、CH1、CH2およびCH3領域を含む。免疫グロブリン融合物の生産については、1995年6月27日発行の米国特許第5,428,130号も参照されたい。
【0086】
タンパク質製剤および追加の賦形剤
本明細書の開示は、例えば治療的使用のための特定のタンパク質製剤に関する。本明細書の製剤は、少なくとも1種のタンパク質種および少なくとも1種のコール酸塩界面活性剤を含むが、以下に記載のように、他の賦形剤または成分を含んでもよい。例えば、本明細書の製剤は、薬学的に許容され得る酸または塩基、バッファー、塩、凍結乾燥保護剤(製剤が凍結乾燥される場合)、糖、糖アルコール、アミノ酸、追加のタンパク質種、希釈剤、保存剤、多価金属塩、および場合によっては別の界面活性剤のうちの1つ以上を含み得る。
【0087】
例えば、いくつかの実施形態では、製剤は、タンパク質、コール酸塩界面活性剤、および少なくとも1つのバッファーまたは塩を含み得る。いくつかの実施形態では、製剤は、製剤化されるタンパク質の必要性に応じて、糖、糖アルコール、アミノ酸または多価金属塩などの1つ以上の安定剤をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、製剤は、ポリソルベート、ポロキサマー、プルロニック、Brij、またはアルキルグリコシド界面活性剤などのさらなる界面活性剤を含み得る。
【0088】
本明細書の「安定剤」は、製剤を安定なまたは不変の状態に維持することを助けるために、製剤に添加される任意の添加賦形剤を意味する。場合によっては、凝集、酸化、色の変化などを防ぐのを助けるために安定剤を添加することができる。
【0089】
「薬学的に許容され得る酸」は、製剤化される濃度および様式にて非毒性である無機および有機酸を含む。例えば、適切な無機酸には、塩酸、過塩素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、スルファニル酸、リン酸、炭酸などが含まれる。適切な有機酸には、直鎖および分岐鎖アルキル、芳香族、環状、脂環式、アリール脂肪族、複素環式、飽和、不飽和のモノ、ジおよびトリカルボン酸(例えばギ酸、酢酸、2-ヒドロキシ酢酸、トリフルオロ酢酸、フェニル酢酸、トリメチル酢酸、t-ブチル酢酸、アントラニル酸、プロパン酸、2-ヒドロキシプロパン酸、2-オキソプロパン酸、プロパン二酸、シクロペンタンプロピオン酸、シクロペンタンプロピオン酸、3-フェニルプロピオン酸、ブタン酸、ブタン二酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、2-アセトキシ-安息香酸、アスコルビン酸、ケイ皮酸、ラウリル硫酸、ステアリン酸、ムコン酸、マンデル酸、コハク酸、エンボン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、マロン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、グリコン酸、グルコン酸、ピルビン酸、グリオキサル酸、シュウ酸、メシル酸、コハク酸、サリチル酸、フタル酸、パルモ酸、パルメイン酸、チオシアン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-コロベンゼンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]-オクト-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、4,4’-メチレンビス-3-(ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、ヒドロキシナフトエ酸が含まれる。
【0090】
「薬学的に許容され得る塩基」は、製剤化される濃度および様式にて非毒性である無機および有機塩基を含む。例えば、好適な塩基には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウムなどの無機塩基を形成する金属から形成されるもの;N-メチルグルカミン、モルホリン、ピペリジン、ならびに有機非毒性塩基(第一級、第二級、および第三級アミン、置換アミン、環状アミン、ならびに塩基性イオン交換樹脂、[例えばN(R’)+(式中、R’は、独立して、HまたはC1-4アルキル例えばアンモニウム、トリス)]を含む)、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジエチルアミノエタノール、トリメタミン、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂など)が含まれる。特に好ましい有機非毒性塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメタミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン、およびカフェインである。
【0091】
本発明で使用することができるさらなる薬学的に許容され得る酸および塩基には、アミノ酸、例えばヒスチジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、およびアスパラギンに由来するものが含まれる。
【0092】
本明細書の製剤はまた、1つ以上のバッファーまたは塩を含み得る。バッファーおよび塩には、上記の酸および塩基の酸および塩基付加塩の両方に由来するものが含まれる。具体的なバッファーおよび/または塩には、アルギニン、ヒスチジン、スクシネート、およびアセテートが含まれる。
【0093】
製剤を凍結乾燥させる場合、凍結乾燥保護剤を添加してもよい。「凍結乾燥保護剤」は、目的のタンパク質と組み合わせた場合、凍結乾燥およびその後の貯蔵時のタンパク質の物理化学的不安定性を有意に防止または低減する分子である。例示的な凍結乾燥保護剤には、糖およびそれらの対応する糖アルコール;アミノ酸、例えばグルタミン酸一ナトリウムまたはヒスチジン;メチルアミン、例えばベタイン;リオトロピック塩、例えば硫酸マグネシウム;ポリオール、例えば三価またはそれより高い分子量の糖アルコール、例えばグリセリン、デキストラン、エリトリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトール;プロピレングリコール;ポリエチレングリコール;プルロニック(Pluronics)(登録商標);ならびにそれら組合せが含まれる。さらなる例示的な凍結乾燥保護剤には、グリセリンおよびゼラチン、ならびに糖メリビオース、メレジトース、ラフィノース、マンノトリオース、およびスタキオースが含まれる。還元糖の例としては、グルコース、マルトース、ラクトース、マルツロース、イソマルツロース、およびラクツロースが挙げられる。非還元糖の例としては、糖アルコールおよび他の直鎖多価アルコールから選択されるポリヒドロキシ化合物の非還元グリコシドが挙げられる。好ましい糖アルコールは、モノグリコシド、特にラクトース、マルトース、ラクツロース、およびマルツロースなどの二糖類の還元により得られる化合物である。グリコシド側鎖は、グルコシドまたはガラクトシドのいずれかであり得る。糖アルコールのさらなる例は、グルシトール、マルチトール、ラクチトール、およびイソマルツロースである。好ましい凍結乾燥保護剤は、非還元糖トレハロースまたはスクロースである。
【0094】
凍結乾燥保護剤は、「凍結乾燥保護量」で凍結乾燥前製剤に添加され、これは、凍結乾燥保護剤の凍結乾燥保護量の存在下でのタンパク質の凍結乾燥後、タンパク質が凍結乾燥および貯蔵時にその物理化学的安定性を本質的に保持することを意味する。
【0095】
「薬学的に許容され得る糖」は、目的のタンパク質と混合した場合に、貯蔵の際のタンパク質の物理化学的不安定性を有意に防止または低減する分子である。製剤を凍結乾燥させ、次いで再構成することを意図する場合、「薬学的に許容され得る糖」は、「凍結乾燥保護剤」としても知られ得る。例示的な糖およびそれらに対応する糖アルコールには、アミノ酸、例えばグルタミン酸一ナトリウムまたはヒスチジン;メチルアミン、例えばベタイン;リオトロピック塩、例えば硫酸マグネシウム;ポリオール、例えば三価またはそれより高い分子量の糖アルコール、例えばグリセリン、デキストラン、エリトリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトール;プロピレングリコール;ポリエチレングリコール;プルロニック(Pluronics)(登録商標);ならびにそれら組合せが含まれる。さらなる例示的な凍結乾燥保護剤には、グリセリンおよびゼラチン、ならびに糖メリビオース、メレジトース、ラフィノース、マンノトリオース、およびスタキオースが含まれる。還元糖の例としては、グルコース、マルトース、ラクトース、マルツロース、イソマルツロース、およびラクツロースが挙げられる。非還元糖の例としては、糖アルコールおよび他の直鎖多価アルコールから選択されるポリヒドロキシ化合物の非還元グリコシドが挙げられる。好ましい糖アルコールは、モノグリコシド、特にラクトース、マルトース、ラクツロース、およびマルツロースなどの二糖類の還元により得られる化合物である。グリコシド側鎖は、グルコシドまたはガラクトシドのいずれかであり得る。糖アルコールのさらなる例は、グルシトール、マルチトール、ラクチトール、およびイソマルツロースである。好ましい薬学的に許容され得る糖は、非還元糖トレハロースまたはスクロースである。
【0096】
薬学的に許容され得る糖は、タンパク質がその物理化学的安定性を貯蔵中(例えば再構成および貯蔵の後)に本質的に保持することを意味する「保護量」(例えば凍結乾燥前)で製剤に添加される。
【0097】
本明細書の目的の「希釈剤」は、薬学的に許容され得る(ヒトへの投与について安全かつ非毒性である)、液体製剤の調製物、例えば凍結乾燥後に再構成される製剤のために有用であるものである。例示的な希釈剤には、滅菌水、注射用の静菌水(BWFI)、pH緩衝溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)、滅菌食塩水溶液、リンゲル液、またはデキストロース溶液が含まれる。代替の実施形態では、希釈剤は、塩の水溶液、および/またはバッファーを含み得る。
【0098】
「保存剤」は、細菌の活性を低減するために本明細書の製剤に添加することができる化合物である。保存剤の添加は、例えば、複数使用(複数回用量)製剤の製造を容易にすることがある。可能性のある保存剤の例としては、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド(アルキル基が長鎖化合物であるアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリドの混合物)およびベンゼトニウムクロリドが挙げられる。他の種類の保存剤には、芳香族アルコール、例えばフェノール、ブチル、およびベンジルアルコール、アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、およびm-クレゾールが含まれる。本明細書の最も好ましい保存剤は、ベンジルアルコールである。
【0099】
本明細書に記載の製剤は、再構成凍結乾燥製剤として調製され得る。本明細書に記載のタンパク質または抗体を凍結乾燥し、次いで再構成して本発明の液体製剤を作製する。この特定の実施形態では、上記の目的のタンパク質の調製後、「凍結乾燥前製剤」が作製される。凍結乾燥前製剤中に存在するタンパク質の量は、所望の用量体積、投与様式などを考慮して決定される。例えば、インタクトな抗体の出発濃度は、約2mg/ml~約50mg/ml、好ましくは約5mg/ml~約40mg/ml、最も好ましくは約20~30mg/mlであり得る。
【0100】
製剤化されるタンパク質は、一般に溶液中に存在する。例えば、本発明の液体製剤において、タンパク質は、約4~8、好ましくは約5~7のpHのpH緩衝溶液中に存在し得る。バッファー濃度は、例えば、バッファーおよび製剤の(例えば、再構成された製剤の)所望の張度に応じて、約1mM~約20mM、あるいは約3mM~約15mMであり得る。例示的なバッファーおよび/または塩は、薬学的に許容され得、適切な酸、塩基およびそれらの塩、例えば「薬学的に許容され得る」酸、塩基またはバッファーの下で定義されるものから作製され得るものである。
【0101】
いくつかの実施形態では、凍結乾燥保護剤を凍結乾燥前製剤に添加する。凍結乾燥前製剤中の凍結乾燥保護剤の量は、一般に、再構成時に得られる製剤が等張になるような量である。しかしながら、高張性再構成製剤も好適であり得る。さらに、凍結乾燥保護剤の量は、凍結乾燥時にタンパク質が許容できない量の分解/凝集が起こるほどに低すぎてはならない。しかしながら、凍結乾燥前製剤中の例示的な凍結乾燥保護剤濃度は、約10mM~約400mM、あるいは約30mM~約300mM、あるいは約50mM~約100mMである。例示的な凍結乾燥保護剤には、糖および糖アルコール、例えばスクロース、マンノース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マンニトールが含まれる。しかしながら、特定の状況下では、ある特定の凍結乾燥保護剤も製剤の粘度の増加に寄与し得る。したがって、この効果を最小化または中和する特定の凍結乾燥保護剤を選択するように注意すべきである。さらなる凍結乾燥保護剤は、本明細書において「薬学的に許容され得る糖」とも呼ばれる「凍結乾燥保護剤」の定義の下で上に記載されている。
【0102】
凍結乾燥保護剤に対するタンパク質の比は、それぞれの特定のタンパク質または抗体と凍結乾燥保護剤との組合せごとに異なり得る。選択されるタンパク質としての抗体および高タンパク質濃度を有する等張性再構成製剤を生成するための凍結乾燥保護剤としての糖(例えば、スクロースまたはトレハロース)の場合、抗体に対する凍結乾燥保護剤のモル比は、抗体1モルに対して約100~約1500モルの凍結乾燥保護剤、好ましくは抗体1モルに対して約200~約1000モルの凍結乾燥保護剤、例えば抗体1モルに対して約200~約600モルの凍結乾燥保護剤であり得る。
【0103】
凍結乾燥前製剤の調製において、凍結乾燥保護剤(スクロースまたはトレハロースなど)と増量剤(例えば、マンニトールまたはグリシン)との混合物を使用してもよい。増量剤は、その中に過剰なポケットなどがない均一な凍結乾燥ケーキの生産を可能にし得る。Remington’s Pharmaceutical Sciences第16版、Osol,A.編(1980)に記載されているような他の薬学的に許容され得る担体、賦形剤、または安定剤は、それらが製剤の所望の特徴に悪影響を及ぼさない限り、凍結乾燥前製剤(および/または凍結乾燥製剤および/または再構成製剤)に含まれ得る。許容され得る担体、賦形剤、または安定剤は、用いられる投与量および濃度ではレシピエントに対して無毒であり、さらなる緩衝剤;保存剤;共溶媒;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);ポリエステルなどの生分解性ポリマー;および/またはナトリウムなどの塩形成対イオンを含む。
【0104】
凍結乾燥製剤の場合、タンパク質、任意の凍結乾燥保護剤および他の任意の構成要素を一緒に混合した後、製剤を凍結乾燥する。この目的のために、Hull50(商標)(Hull、米国)またはGT20(商標)(Leybold-Heraeus、ドイツ)凍結乾燥機などの多くの異なる凍結乾燥機が利用可能である。凍結乾燥は、製剤を凍結し、続いて一次乾燥に適した温度で凍結物から氷を昇華させることによって達成される。この条件下では、生成物の温度は、共晶点または製剤の崩壊温度より低い。典型的には、一次乾燥のための保存温度は、典型的には約50~250mTorrの範囲の適切な圧力で約-30~25℃の範囲である(ただし、生成物が一次乾燥中に凍結したままであることを条件とする)。試料を保持する容器(例えば、ガラスバイアル)の製剤、サイズおよび種類、ならびに液体の体積は、乾燥に必要な時間を主に決定し、これは数時間から数日(例えば、40~60時間)の範囲であり得る。任意に、生成物中の所望の残留水分レベルに応じて、二次乾燥段階を実施することもできる。二次乾燥が実施される温度は、主に容器の種類およびサイズならびに用いられるタンパク質の種類に応じて、約0~40℃の範囲である。例えば、凍結乾燥の水除去段階全体にわたる保存温度は、約15~30℃(例えば、約20℃)であり得る。二次乾燥に必要な時間および圧力は、例えば温度および他のパラメータに依存して、適切な凍結乾燥ケーキを生成する時間および圧力である。二次乾燥の時間は、生成物中の所望の残留水分レベルによって決定され、典型的には少なくとも約5時間(例えば、10~15時間)かかる。圧力は、一次乾燥工程中に用いられる圧力と同じであってもよい。凍結乾燥条件は、製剤およびバイアルサイズに応じて変えることができる。
【0105】
患者への投与前に、凍結乾燥製剤は、典型的には、再構成製剤中のタンパク質濃度が少なくとも約50mg/ml、例えば約50mg/ml~約400mg/ml、あるいは約80mg/ml~約300mg/ml、あるいは約90mg/ml~約150mg/mlであるように、薬学的に許容され得る希釈剤で再構成される。再構成製剤中のそのような高いタンパク質濃度は、再構成製剤の皮下送達が意図される場合に特に有用であると考えられる。しかしながら、静脈内投与などの他の投与経路では、再構成製剤中のタンパク質のより低い濃度が望ましい場合がある(例えば、再構成製剤中の約5~50mg/mlまたは約10~40mg/mlのタンパク質)。ある特定の実施形態では、再構成製剤中のタンパク質濃度は、凍結乾燥前製剤中のタンパク質濃度よりも有意に高い。例えば、再構成製剤中のタンパク質濃度は、凍結乾燥前製剤の約2~40倍、あるいは3~10倍、あるいは3~6倍(例えば、少なくとも3倍または少なくとも4倍)であり得る。
【0106】
再構成は、一般に、完全な水和を確実にするために約25℃の温度で行われるが、必要に応じて他の温度を用いてもよい。再構成に必要な時間は、例えば、希釈剤の種類、賦形剤(複数可)およびタンパク質の量に依存する。例示的な希釈剤には、滅菌水、注射用の静菌水(BWF)、pH緩衝溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)、滅菌食塩水溶液、リンゲル液、またはデキストロース溶液が含まれる。希釈剤は、任意に保存剤を含む。例示的な保存剤が上に記載されており、芳香族アルコール、例えばベンジルまたはフェノールアルコールが好ましい保存剤である。用いられる保存剤の量は、タンパク質との適合性および保存効力試験のために異なる保存剤濃度を評価することによって決定される。例えば、保存剤が芳香族アルコール(ベンジルアルコールなど)である場合、約0.1~2.0%、好ましくは約0.5~1.5%、最も好ましくは約1.0~1.2%の量で存在し得る。
【0107】
好ましくは、再構成製剤は、10μm以上のサイズで、バイアル当たり6000個未満の粒子を有する。
【0108】
本明細書の製剤は、処置される特定の適応症に必要な2種以上のタンパク質も含んでいてもよく、好ましくは、他のタンパク質に有害な影響を与えない相補的な活性を有するものを含んでいてもよい。例えば、所望の標的(例えば、受容体または抗原)に結合する2種以上の抗体を単一の製剤で提供することが望ましい場合がある。このようなタンパク質は、意図される目的に有効な量で組み合わせて好適に存在する。
【0109】
アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミン)または免疫グロブリン(例えば、IgG定常領域)などの追加のタンパク質を添加して、目的のタンパク質をさらに安定化してもよい。
【0110】
インビボ投与のために使用される製剤は、滅菌されていなければならない。これは、凍結乾燥および再構成の前または後に、滅菌濾過膜を通す濾過によって容易に達成される。あるいは、混合物全体の無菌性は、例えば、タンパク質を除く成分を約120℃で約30分間オートクレーブすることによって達成され得る。
【0111】
治療用製剤は、所望の純度を有する有効成分をさらなる任意の担体、賦形剤または安定剤と混合することによって貯蔵のために調製される(Remington’s Pharmaceutical Sciences第18版、Mack Publishing Co.、Easton、Pa.18042[1990])。許容され得る担体、賦形剤、または安定剤は、用いられる投与量および濃度でレシピエントに非毒性であり、バッファー、アスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE、およびメタ重亜硫酸ナトリウムを含む抗酸化剤、保存剤、等張剤、安定剤、金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体)、および/またはEDTAなどのキレート剤を含む。
【0112】
治療剤が抗体断片である場合、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合する最小断片が好ましい場合がある。例えば、抗体の可変領域配列に基づいて、標的タンパク質配列に結合する能力を保持する抗体断片またはペプチド分子さえも設計することができる。このようなペプチドは、組換えDNA技術によって化学的に合成および/または産生され得る(例えば、Marascoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:7889~7893[1993]を参照されたい)。
【0113】
バッファーは、特に安定性がpH依存的である場合、治療有効性を最適化する範囲でpHを制御するために使用される。バッファーは、好ましくは、約50mM~約250mMの範囲の濃度で存在する。本発明での使用に適した緩衝剤には、有機酸および無機酸の両方ならびにそれらの塩が含まれる。例えば、シトレート、ホスフェート、スクシネート、タルテート、フマレート、グルコネート、オキサレート、ラクテート、アセテート。さらに、バッファーは、ヒスチジンおよびトリメチルアミン塩、例えばトリスから構成され得る。
【0114】
保存剤は、微生物の成長を遅らせるために添加されてもよく、典型的には0.2%~1.0%(w/v)の範囲で存在する。本発明での使用に適した保存剤には、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムハライド(例えば、クロリド、ブロミド、ヨージド)、ベンゼトニウムクロリド;チメロサール、フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール、3-ペンタノールおよびm-クレゾールが含まれる。
【0115】
例えば、液体組成物の張度を調整または維持するために、等張化剤を含めてもよい。タンパク質および抗体などの大きい荷電生体分子と共に使用される場合、そのような薬剤は、アミノ酸側鎖の荷電基と相互作用し、それによって、分子間および分子内相互作用の可能性を低減させ得る。等張化剤は、他の成分の相対量を考慮して、0.1重量%~25重量%、好ましくは、1%~5%の量で存在し得る。好ましい等張化剤には、多価糖アルコール、好ましくは、三価以上の糖アルコール、例えばグリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトールおよびマンニトールが含まれる。
【0116】
本明細書のいくつかの製剤では、追加の界面活性剤が含まれる。本明細書の他の製剤には、コール酸塩界面活性剤のみが含まれ、他の種類の界面活性剤は含まれない。
【0117】
さらなる界面活性剤の例としては、ポリソルベート、例えばポリソルベート20(PS20)およびポリソルベート80(PS80)が挙げられる。他のさらなる界面活性剤には、ポロキサマーおよびプルロニック、例えばポロキサマー188またはプルロニックF68、またはBrijが含まれ得る。他のさらなる界面活性剤には、アルキルグリコシド、例えば、オクチルマルトシド、デシルマルトシド、ドデシルマルトシドまたはオクチルグルコシドが含まれ得る。より一般的には、「アルキルグリコシド」は、当技術分野で公知のように、任意の疎水性アルキルへのリンケージによって連結された任意の糖を含む。疎水性アルキル鎖と親水性糖との間のリンケージは、他の可能性の中でも、グリコシド、エステル、チオグリコシド、チオエステル、エーテル、アミドもしくはウレイド結合またはリンケージを含むことができる。例示的なアルキルグリコシドは、例えば、WO2011/163458に提供されている。
【0118】
さらなる賦形剤には、以下の1つ以上として働くことができる薬剤が含まれる:(1)増量剤、(2)溶解度向上剤、(3)安定剤、および(4)変性または容器壁への付着を防止する薬剤。このような賦形剤には、以下が含まれる:多価糖アルコール(上に列挙);アミノ酸、例えばアラニン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、オルニチン、ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、トレオニンなど;有機糖または糖アルコール、例えばスクロース、ラクトース、ラクチトール、トレハロース、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、リビトール、ミオイニシトース、ミオイニシトール、ガラクトース、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール;硫黄含有還元剤、例えば尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロールおよびチオ硫酸ナトリウム;低分子量タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチンまたは他の免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;単糖類(例えばキシロース、マンノース、フルクトース、グルコース);二糖類(例えば、ラクトース、マルトース、スクロース);三糖類、例えばラフィノース;ならびに多糖類、例えばデキストリンまたはデキストラン。
【0119】
本明細書の製剤は、処置される特定の適応症に必要な2種以上の活性化合物、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有する化合物も含んでいてもよい。あるいは、または加えて、組成物は、細胞傷害性薬剤、サイトカインまたは成長阻害剤を含み得る。このような分子は、意図される目的に有効な量で、組み合わせて好適に存在する。
【0120】
有効成分はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、もしくは界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)中に、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)中に、またはマクロエマルション中に取り込まれ得る。このような技法は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、上記に開示されている。
【0121】
徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の好適な例としては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、これらのマトリックスは、成形物品、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタメートとのコポリマー、非分解性エチレン-ビニルアセテート、分解性の乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマーおよびロイプロリドアセテートから構成される注射用ミクロスフェア)、ならびにポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。徐放性のための組換えタンパク質のマイクロカプセル化は、ヒト成長ホルモン(rhGH)、インターフェロン-(rhIFN-)、インターロイキン-2およびMN rpg 120を用いて首尾よく行われている。Johnsonら、Nat.Med.2:795~799(1996);Yasudaら、Biomed.Ther.27:1221~1223(1993);Horaら、Bio/Technology 8:755~758(1990);Cleland、Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approachの「Design and Production of Single Immunization Vaccines Using Polylactide Polyglycolide Microsphere Systems」、PowellおよびNewman編、(Plenum Press:New York、1995)、439~462頁;WO97/03692;WO96/40072;WO96/07399;および米国特許第5,654,010号。
【0122】
これらのタンパク質の徐放性製剤は、その生体適合性および広範囲の生分解性のために、ポリ乳酸-コグリコール酸(PLGA)ポリマーを使用して開発されてもよい。PLGA、乳酸およびグリコール酸の分解産物は、人体内で迅速に除去され得る。さらに、このポリマーの分解性は、その分子量および組成に応じて数ヶ月から数年に調整することができる。Lewis,Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systemsの「Controlled release of bioactive agents from lactide/glycolide polymer」(Marcel Dekker;New York、1990)、M.ChasinおよびR.Langer(編)1~41頁。
【0123】
エチレン-酢酸ビニルおよび乳酸-グリコール酸などのポリマーが100日間超にわたり分子の放出を可能にする一方で、ある特定のヒドロゲルは、より短い期間にわたってタンパク質を放出する。カプセル化抗体が長期間体内に留まると、それらは、37℃での水分への曝露の結果として変性または凝集する場合があり、生物学的活性の喪失および免疫原性に考えられる変化をもたらし得る。関与する機序に応じて、安定化のための合理的な戦略が講じられ得る。例えば、凝集の機序がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であると見出される場合、安定化は、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥し、水分含量を制御し、適切な添加剤を使用し、特定のポリマーマトリックス組成物を開発することにより達成してもよい。
【0124】
リポソーム組成物またはプロテノイド組成物はまた、本明細書に開示のタンパク質または抗体を製剤化するために使用され得る。米国特許第4,925,673号および同第5,013,556号を参照されたい。
【0125】
本明細書に記載のタンパク質および抗体の安定性は、非毒性「水溶性多価金属塩」の使用によって増強され得る。例としては、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Sn2+、Sn3+、Al2+およびAl3+が挙げられる。上記多価金属カチオンと水溶性塩を形成することができるアニオンの例としては、無機酸および/または有機酸から形成されるものが挙げられる。そのような水溶性塩は、少なくとも約20mg/ml、あるいは少なくとも約100mg/ml、あるいは少なくとも約200mg/mlの水への溶解度(20℃)を有する。
【0126】
「水溶性多価金属塩」を形成するために使用することができる適切な無機酸には、塩酸、酢酸、硫酸、硝酸、チオシアン酸およびリン酸が含まれる。使用することができる適切な有機酸には、脂肪族カルボン酸および芳香族酸が含まれる。この定義内の脂肪族の酸は、飽和または不飽和C2-9カルボン酸(例えば、脂肪族モノ-、ジ-およびトリ-カルボン酸)として規定され得る。例えば、この定義内の例示的なモノカルボン酸には、飽和C2-9モノカルボン酸酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリルペラルゴン酸およびカプリオニック酸、ならびに不飽和C2-9モノカルボン酸アクリル酸、プロプリオールメタクリル酸、クロトン酸およびイソクロトン酸が含まれる。例示的なジカルボン酸には、飽和C2-9ジカルボン酸マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸およびピメリン酸が含まれ、一方、不飽和C2-9ジカルボン酸には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸およびメサコン酸が含まれる。例示的なトリカルボン酸には、飽和C2-9トリカルボン酸トリカルバリル酸および1,2,3-ブタントリカルボン酸が含まれる。さらに、この定義のカルボン酸はまた、ヒドロキシカルボン酸を形成するために1つまたは2つのヒドロキシル基を含み得る。例示的なヒドロキシカルボン酸には、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸が含まれる。この定義内の芳香族の酸には、安息香酸およびサリチル酸が含まれる。
【0127】
本発明のカプセル化ポリペプチドの安定化を助けるために使用され得る一般的に用いられる水溶性多価金属塩には、例えば、以下が含まれる:(1)ハライド(例えば、塩化亜鉛、塩化カルシウム)、スルフェート、ニトレート、ホスフェートおよびチオシアネートの無機酸金属塩;(2)脂肪族カルボン酸金属塩(例えば、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、プロピオン酸カルシウム、グリコール酸亜鉛、乳酸カルシウム、乳酸亜鉛および酒石酸亜鉛);ならびに(3)ベンゾエートおよびサリチレートの芳香族カルボン酸金属塩(例えば、安息香酸亜鉛)。
【0128】
製剤の特性
コール酸塩界面活性剤を含む本明細書のある特定の製剤は、貯蔵またはストレスに供されていない対照溶液と比較して、貯蔵後またはストレス(撹拌または高温貯蔵などの)後に、目に見える凝集体または高分子量種(HMWS)の存在のいずれかで、タンパク質の凝集体の程度の低下を示し得る。
【0129】
「撹拌誘発性凝集の阻害」量のコール酸塩が、本明細書のいくつかの製剤に含まれ得る。これは、室温で24時間100rpmで撹拌するなどの特定の条件セットの下、コール酸塩の非存在下で同一に処理されたタンパク質と比較して、タンパク質の撹拌誘発性凝集を検出可能に阻害するコール酸塩の量である。例えば、製剤中の凝集を非撹拌対照溶液と比較して、目に見える凝集体またはHMWSの存在を調べることができる。
【0130】
本明細書のいくつかの実施形態では、製剤は、撹拌誘発性凝集実験後に以下の特性の1つ以上を有する。このような実験は、以下の実施例に記載されるように、100rpmなどの速度で適切な実験室振盪装置で行うことができる。具体的には、製剤は、室温で100rpmで24時間撹拌した後、目に見える凝集体を示さない場合がある;室温で100rpmで24時間撹拌した後、2%以下の高分子量タンパク質の凝集体を示し得る;室温で100rpmで24時間撹拌した後、1%以下の高分子量タンパク質の凝集体を示し得る;および/または製剤中の高分子量タンパク質の凝集体は、撹拌していない対照と比較して、室温で100rpmで24時間撹拌した後、0.2%を超えて増加しない場合がある。例えば、単純な目視検査を使用して、溶液の濁りまたは沈殿物の存在のいずれかによって、目に見える凝集体の存在をチェックすることができる。高分子量種は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって検出され得る。高分子量種を検出することができるか、またはサイズ、電荷、疎水性もしくは質量に応じて製剤中の種を分離することができる他の手段には、ゲル電気泳動、等電点電気泳動、キャピラリー電気泳動、クロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、ペプチドマッピング、オリゴ糖マッピング、質量分析、紫外線吸光分光、蛍光分光、円二色性分光、等温滴定熱量測定、示差走査熱量測定、分析用超遠心分離、動的光散乱、タンパク質分解および架橋、濁度測定、フィルタ遅延アッセイ、免疫学的アッセイ、蛍光色素結合アッセイ、タンパク質染色アッセイ、顕微鏡、ならびにELISAまたは他の結合アッセイによる凝集体の検出が含まれる。
【0131】
いくつかの実施形態では、製剤がポリソルベート20またはポリソルベート80を含む場合、製剤中のポリソルベート20またはポリソルベート80は、同じ成分および濃度を含むがコール酸塩を含まない製剤よりも、40℃で2週間貯蔵した後、または代替的にCALBリパーゼで処理した後に、大部分がインタクトなままである。例えば、いくつかの実施形態では、例えば0.05%~0.5%のコール酸塩界面活性剤の添加は、40℃で2週間貯蔵した後、またはCALBリパーゼ処理後の製剤から、ポリソルベート20またはポリソルベート80の遊離脂肪酸の目に見える沈殿を低減または根絶させる。例えば、いくつかの実施形態では、0.05%~0.5%のCHAPSの添加は、40℃で2週間貯蔵した後、またはCALBリパーゼ処理後の製剤から、ポリソルベート20またはポリソルベート80の遊離脂肪酸の目に見える沈殿を低減または根絶させる。
【0132】
本開示の製剤を利用する治療的処置
「処置」とは、治療的処置および予防的または防止措置の両方を指す。処置を必要とする者には、障害を既に有する者、および障害を予防するべき者が含まれる。処置には、障害の症状の軽減、対象の生活の質の改善、ならびに障害の安定化、本開示の悪化の予防、治癒、再発のリスクの低減などの対象の任意の緩和または改善が含まれる。
【0133】
「対象」および「患者」は互換的に使用され、一般に処置を受けている哺乳動物を指す。処置の目的のための「哺乳動物」は、哺乳動物として分類される任意の動物、例えば、ヒト、家畜および農場動物、ならびに動物園、スポーツまたはペット動物、例えば、イヌ、ウマ、ウサギ、ウシ、ブタ、ハムスター、アレチネズミ、マウス、フェレット、ラット、ネコなどを指す。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0134】
「障害」とは、タンパク質での処置から利益を得る任意の状態である。これには、哺乳動物を問題の障害に罹りやすくする病理学的状態を含む慢性および急性障害または疾患が含まれる。本明細書で処置される障害の非限定的な例としては、癌腫および炎症が挙げられる。
【0135】
「治療有効量」は、特定の障害の測定可能な処置をもたらすために少なくとも必要最小限の濃度である。既知のタンパク質薬物の治療有効量は当技術分野で周知であるが、以下に見られるタンパク質の有効量は、当業者、例えば通常の医師の技術の範囲内にある標準的な技法によって決定することができる。
【0136】
抗体および他のタンパク質は、液体形態または凍結乾燥形態のいずれかで本発明に従って製剤化され得る。投与経路は、単回もしくは複数回のボーラスまたは好適な様式での長期間にわたる注入、例えば、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、病巣内、もしくは関節内による、局所投与、吸入または徐放手段もしくは持続放出手段による注射もしくは注入の既知の認められている方法に従う。
【0137】
障害の処置のために、活性薬剤の適切な投与量は、上記に定義されるように、処置される障害の種類、障害の重症度および経過、薬剤が予防目的または治療目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴および薬剤への反応、ならびに担当医の裁量に依存するだろう。薬剤は、好適には、患者に一度にまたは一連の処置にわたって投与される。
【0138】
本明細書の方法は、併用または追加の処置工程として、または治療製剤の追加の構成成分として、障害に対する既知の処置方法と組み合わせることができる。本明細書の医薬組成物の投与量および所望の薬物濃度は、想定される特定の使用に応じて変化し得る。
【0139】
凍結乾燥されていない液体製剤および再構成製剤を含むがこれらに限定されない本発明の製剤は、ボーラスとしての静脈内投与または一定期間にわたる連続注入、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液嚢内、髄腔内、経口、局所、または吸入経路などの公知の方法に従って、タンパク質による処置を必要とする哺乳動物、例えばヒトに投与され得る。いくつかの実施形態では、製剤は、皮下(すなわち、皮膚の下)投与によって哺乳動物に投与される。このような目的のために、製剤は、シリンジを使用して注射され得る。しかしながら、注射デバイス(例えば、Inject-ease(商標)およびGenject(商標)デバイス);ペン型注射器(GenPen(商標)など);自動注射デバイス、無針デバイス(例えば、MediJector(商標)およびBioJector(商標));および皮下パッチ送達システムなどの製剤を投与するための他のデバイスが利用可能である。
【0140】
いくつかの具体的な実施形態では、本開示は、本発明の製剤を含む容器に関する。例えば、製剤は、単回使用もしくは複数回使用バイアルまたは単回用量投与ユニット用のキットに包装され得る。本発明の別の実施形態では、製剤を含む容器を含み、その使用説明書も提供し得る製品が提供される。適切な容器には、例えば、ボトル、バイアル(例えば、デュアルチャンバーバイアル)、シリンジ(シングルまたはデュアルチャンバーシリンジなど)および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。このような容器またはキットは、シングルチャンバーまたはマルチチャンバーの充填済シリンジの両方を含む。例示的な充填済シリンジは、ドイツ、RavensburgのVetter GmbHから入手可能である。製剤を保持する容器上にあるかまたはそれに付随するラベルは、再構成および/または使用のための指示を示し得る。ラベルは、製剤が皮下投与に有用であるか、または皮下投与を意図していることをさらに示し得る。製剤を保持する容器は、反復投与(例えば、2~6回の投与)を可能にする複数回使用バイアルであり得る。製品は、例えば、凍結乾燥製剤の再構成のための適切な希釈剤(例えば、BWFI)を含む第2の容器をさらに含み得る。製品は、他のバッファー、希釈剤、フィルタ、針、シリンジ、および使用に関する指示を有する添付文書を含む、商業的観点および使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含み得る。
【0141】
タンパク質の適切な投与量(「治療有効量」)は、例えば、処置される状態、状態の重症度および経過、タンパク質が予防目的または治療目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴およびタンパク質への応答、使用されるタンパク質の種類、ならびに担当医の裁量に依存するだろう。タンパク質は、一度にまたは一連の処置にわたって患者に好適に投与され、診断時から任意の時点で患者に投与され得る。タンパク質は、唯一の処置として、または問題になっている状態の処置に有用な他の薬物もしくは療法と共に投与され得る。
【実施例
【0142】
本発明は、以下の例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。しかしながら、これらの例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0143】
実施例1:タンパク質/抗体の凝集を予防するためのコール酸塩界面活性剤の調査
一般的な方法
振盪または撹拌誘発性凝集
この一連の研究では、モノクローナル抗体の緩衝溶液(20mMヒスチジンアセテートまたは200mMアルギニンスクシネートまたは20mM酢酸ナトリウム、pH5.5~5.8)を室温で100rpmのアームシェーカーでの振盪に供した。これらの研究は、15ccガラスバイアルに充填した5mLの抗体溶液を使用して実施した。試料を一定の時間間隔で取り出し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用してサイズバリアント分布について分析した。コール酸塩のクラスの様々な界面活性剤を、振盪中のタンパク質の凝集を防止するためのそれらの有効性について評価した。界面活性剤は、それぞれの臨界ミセル濃度(CMC)未満またはそれを超える濃度で使用した。
【0144】
実験および結果
本発明者らはまず、0.05%(w/v)のコール酸塩が、低イオン強度または高イオン強度の製剤条件で、激しい撹拌条件からモノクローナル抗体を保護するのに十分であるかどうかを調べた。本発明者らは、0.05%(w/v)のコール酸塩界面活性剤(CHAPS、SGHまたはSTH)または対照界面活性剤(PS20またはPX188)を、pH5.5の20mMヒスチジンアセテートおよび240mMスクロースの低イオン強度溶液中で1mg/mLの例示的モノクローナル抗体(抗PDL1)またはpH5.8の200mMアルギニンスクシネートの高イオン強度溶液中で1mg/mLの別の例示的モノクローナル抗体(抗トリプターゼ)と混合した。両溶液を15ccガラスバイアル中に、充填体積5mLで充填した。上記成分を含むが界面活性剤は含まない対照溶液も調製し、充填した。溶液を、100rpmのアームシェーカー(Glas-Colベンチトップアームシェーカー)にて、周囲温度で24時間撹拌した。図1および図2に示すように、界面活性剤を含まない対照溶液の撹拌は、目に見える濁った溶液をもたらしたが、他のすべての溶液は視覚的に透明のままであった。
【0145】
各溶液中のHMWSのパーセンテージも、タンパク質の凝集の程度を決定する手段として、24時間の撹拌後にSECによって測定した。結果を、以下の表1および表2に示す。
表1-撹拌試験-低イオン強度バッファーに製剤化した抗PDL1抗体-HMWS(%)
【0146】
表1は、pH5.5の20mMヒスチジンアセテートおよび240mMスクロースの低イオン強度溶液中で1mg/mLの抗PDL1抗体を24時間撹拌した後の総HMWSパーセンテージを示す。アニオン性SGHおよびSTH界面活性剤は、対照および他の界面活性剤クラスよりも少なくとも約2倍高い総HMWSパーセントを示す。界面活性剤を含まない対照試料は、HMWSパーセントの有意な増加を示す。
【0147】
表2-撹拌試験-高イオン強度バッファーに製剤化した抗トリプターゼ抗体-HMWS(%)
【0148】
表2は、pH5.8の200mMアルギニンスクシネートを含む高イオン強度溶液中で1mg/mLの抗トリプターゼ抗体を24時間撹拌した後の総HMWSパーセントを示す。表2に示すように、すべての界面活性剤は、高イオン強度バッファー条件で撹拌誘発性可溶性凝集体の形成から低濃度の抗トリプターゼ抗体を保護した。
【0149】
双性イオン性CHAPS界面活性剤は、低イオン強度バッファー(表1;図1)および高イオン強度バッファー(表2;図2)の両方における可溶性凝集体の形成に対する抗体の保護において良好に機能したので、イオン強度製剤は、アニオン性界面活性剤(SGHおよびSTH)を効果的に機能させる役割を果たすことが可能である。製剤中の高いイオン強度の存在は、SGHおよびSTHなどのアニオン性界面活性剤が主に界面活性剤として作用するように電荷遮蔽を形成する可能性がある。この仮説を試験するために、本発明者らは、2つの溶液中の抗体を入れ替え、実験を繰り返した。結果を、以下の表3に示す。
表3:撹拌試験-高および低イオン強度バッファーに製剤化された抗トリプターゼ抗体(HMWS(%))(表2も参照)
【0150】
表3は、撹拌していない対照と比較した各バッファー中の総HMWSパーセントを示す。結果は、CHAPS、PS20およびPX188がすべて、イオン強度にかかわらず、撹拌誘発性凝集から抗トリプターゼを保護することを示す。アニオン性コール酸塩界面活性剤、SGHおよびSTHは、高イオン強度製剤中の抗トリプターゼを可溶性凝集体の形成から保護するが、低イオン強度製剤では保護しない。同様の結果が抗PDL1について表4に示されている。
表4:撹拌試験-高および低イオン強度バッファーに製剤化された抗PDL1抗体-HMWS(%)(表1も参照)
【0151】
実施例2:コール酸塩界面活性剤による凝集保護に対するイオン強度の影響の試験
撹拌後の目に見える微粒子を、以下の界面活性剤の濃縮ストック溶液から0.01%、0.025%、または0.05%(w/v)のスパイクインで様々なコール酸塩界面活性剤を含む、低イオン強度製剤(20mMヒスチジンアセテート、240mMスクロース、pH5.5)および高イオン強度製剤(20mMヒスチジンアセテート、272mM NaCl、pH5.5)で1mg/mLの抗タウモノクローナル抗体を含む溶液中で評価した:グリココール酸ナトリウム水和物(SGH)、タウロコール酸ナトリウム水和物(STH)、コール酸ナトリウム水和物(SCH)、デオキシタウロコール酸ナトリウム水和物(SDTH)、デオキシコール酸ナトリウム水和物(SDCH)、ケノデオキシコール酸ナトリウム水和物(SCDCH)、CHAPS、およびBigCHAP。すべての製剤をヒスチジンアセテートバッファーを使用して調製し、高イオン強度製剤をアルギニンスクシネートの代わりに塩化ナトリウムを使用して調製した。これは、バッファー種を同じに保つためである。目的は、イオン強度が実際にHMWS形成を防止する役割を果たすが、製剤に使用されるバッファー種(例えば、アルギニン)は防止しないかどうかを理解することである。
【0152】
特定の条件下で目に見える微粒子が観察されたかどうかを以下の表5および表6に示し、一方、撹拌していない対照と比較したHMWSの形成を以下の表7および表8に示す。
表5:撹拌試験-低イオン強度バッファーに製剤化された抗タウ-目に見える微粒子の分析
表6:撹拌試験-高イオン強度バッファーに製剤化された抗タウ-目に見える微粒子の分析
【0153】
表5および表6の結果は、アニオン性界面活性剤が、0.025%または0.05%(w/v)の濃度で試験した場合に、より高いイオン強度の製剤での撹拌誘発性不溶性凝集体の形成(目に見える粒子の形成)から抗タウ抗体をより良好に保護することを示す。すべてのアニオン性界面活性剤(試験した濃度のいずれにおいても目に見える粒子の形成から抗タウを保護しなかったSdCHおよびScdCHを除く)および双性イオン性のCHAPSは、少なくとも0.025%(w/v)の濃度で目に見える粒子の形成から十分に抗体を保護した。BigCHAPは、製剤のイオン強度にかかわらず、試験したすべての濃度で撹拌誘発性の目に見える粒子の形成から抗タウを保護した。
表7:撹拌試験-低イオン強度バッファーに製剤化された抗タウ
-HMWS(%)
表8:撹拌試験-高イオン強度バッファーに製剤化された抗タウ
-HMWS(%)
【0154】
表7および表8の結果は、アニオン性界面活性剤が、0.025%または0.05%(w/v)の濃度である場合に、より高いイオン強度の製剤での撹拌誘発性可溶性凝集体の形成から抗タウ抗体をより良好に保護することを示す。双性イオン性CHAPS、BigCHAPおよびアニオン性STHは、0.025%(w/v)または0.05%(w/v)の濃度で、低イオン強度製剤および高イオン強度製剤の両方における可溶性凝集体の形成から抗タウを保護する。すべてのアニオン性界面活性剤は、試験した濃度のいずれにおいても可溶性凝集体の形成から抗タウを保護しなかったSdCHおよびScdCHを除いて、少なくとも0.025%(w/v)の濃度で可溶性凝集体の形成から抗タウを十分に保護した。
【0155】
これらの研究からの結果は、アニオン性界面活性剤が、撹拌誘発性の物理的不安定性からモノクローナル抗体を保護することを可能にしたのは製剤のイオン強度であり、製剤に使用された賦形剤の種類(塩化ナトリウムアルギニン)ではないことを確認している。
【0156】
実施例3:タンパク質電荷不均一性に対するコール酸塩界面活性剤の効果(iCIEF)-撹拌研究
抗体電荷バリアント分布を、画像化キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)を使用して実施例2に記載の撹拌実験に従って評価し、コール酸塩が試験された抗体の相対電荷バリアント分布に影響を及ぼすかどうかを判定した。以下の表9および表10に示す結果は、撹拌後に電荷バリアント分布が維持されたこと、およびコール酸塩は、それらが荷電種であるにもかかわらず、抗体の電荷不均一性を変化させなかったことを示す。抗PDL1(1mg/mL)を、20mMヒスチジンアセテートpH5.5の低イオン強度バッファー(表9)中で0.05%の界面活性剤と共にインキュベートした。抗トリプターゼ(1mg/mL)を、200mMアルギニンスクシネートpH5.8の高イオン強度バッファー(表10)中で0.05%の界面活性剤と共にインキュベートした。
表9:撹拌試験-低イオン強度バッファーに製剤化された抗PDL1-電荷バリアントアッセイ結果(icIEF)
表10:撹拌試験-低イオン強度バッファーに製剤化された抗トリプターゼ-電荷バリアントアッセイ結果(icIEF)
*これは予想外の変化または値であり、アッセイのアーチファクトである可能性がある
【0157】
本明細書の実施例1~3の結果に基づいて、すべてのゼロ正味電荷のコール酸塩界面活性剤は、24時間の振盪ストレス後、0.05%(w/v)の濃度で可溶性凝集体の形成を防止する。アニオン性界面活性剤(SGH、STH、SCHおよびSDTH)は、20mMヒスチジンアセテート(HisOAc)などの低イオン強度バッファーと比較して、200mMアルギニンスクシネートなどの高イオン強度バッファーにおいて可溶性凝集体の形成をより良好に防止するようである。対照的に、双性イオン性界面活性剤CHAPSは、高いイオン強度または低いイオン強度に対する優先性を示さず、イオン強度は、アニオン性コール酸塩界面活性剤で見られる差異において役割を果たすことを示している。
【0158】
長期間貯蔵すると、ポリソルベート20(PS20)は分解して、溶液から沈殿する可能性がある遊離脂肪酸種(FFA)になる可能性があり、おそらく溶液中のタンパク質の保護が少なくなり、タンパク質製剤中または再構成時に形成するPS20関連微粒子の存在は望ましくない。このような分解は、PS20を含有する治療用タンパク質製剤の保存可能期間を制限し得る。低濃度のコール酸塩界面活性剤の添加が、PS20分解を加速した形式で模倣する条件下でポリソルベートの安定性に影響を与えるかどうかを試験するために、本発明者らは、PS20を含有する製剤にコール酸塩をスパイクし、リパーゼを使用して強制的にPS20を分解し、PS20の分解を測定した。
【0159】
具体的には、pH5.8の200mMアルギニンスクシネート、0.02%(w/v)PS20中に製剤化された5mg/mL抗トリプターゼ抗体を含む溶液を様々な濃度のコール酸塩界面活性剤と混合し、次いで0.04単位/mL CALBでスパイクし、5℃で12時間インキュベートした。製剤中のコール酸塩の存在がFFAへの分解からPS20を保護するか、または形成されたFFAを可溶化する場合、目に見えるFFA関連粒子はタンパク質溶液中で観察されないはずである。コール酸塩が保護または可溶化をもたらさない場合、目に見えるFFA関連粒子は、コール酸塩が添加されていないタンパク質溶液と同程度に形成されるはずである。
【0160】
この実験の結果を図3および図4に示す。
【0161】
結果は、0.5%のSCH、SGHまたはCHAPSの添加が溶液中の目に見える微粒子形成を防ぐが、そのような微粒子は各界面活性剤が0.02%~0.1%で添加されると、依然として形成されることを示している(図3)。
【0162】
PS20の量を出発材料中で測定して、0.25mg/mLの標準曲線法を用いてHPLC-ELSD(Hewittら、Journal of Chromatography A.1215(2008)156~160)によって対照の最大量を得た。図4に示すように、リパーゼ処理後、インタクトなPS20の濃度は0.1mg/mL未満に低下する。対照的に、CHAPS、SGHおよびSTHは、0.1%~0.5%(w/v)の濃度で溶液中のPS20を分解から保護した。具体的には、界面活性剤を添加しないリパーゼ分解後に0.05mg/mLに低下させながら、開始PS20の濃度を0.25mg/mL超として測定した。0.1%~0.5%(w/v)のCHAPSの添加により、リパーゼ処理時にPS20の濃度を約0.13%~0.17%(w/v)の間に維持することができた。0.1%~0.5%(w/v)のSGHの添加により、リパーゼ処理時にPS20の濃度を約0.06%~0.13%(w/v)に維持することができた。0.1%~0.5%(w/v)のSTHの添加により、リパーゼ処理時にPS20の濃度を0.10%超~約0.16%(w/v)に維持することができた。
【0163】
実施例5:タンパク質製剤中のポリソルベート20の熱分解に対するコール酸塩界面活性剤の効果
コール酸塩がPS20含有タンパク質溶液を安定化できるかどうかをさらに試験するために、本発明者らは、PS20を含有するタンパク質溶液にCHAPSまたはSGHのいずれかを添加し、溶液を40℃で2週間の熱ストレスに供した。試料を0日目(D0)、D7およびD14に取り出し、インタクトなPS20 HPLC-ELSD定量法を使用して試験した。以下の2つのモノクローナル抗体をそれらのベース製剤で試験した:20mM酢酸ナトリウムpH5.5中の30mg/mL抗PDL1および200mMアルギニンスクシネートpH5.8中の抗トリプターゼ。界面活性剤スパイクイン設定および抗PDL1および抗トリプターゼ抗体を使用した試験の結果を表11に示す。
表11:抗体溶液に共製剤化された界面活性剤-40℃で2週間の熱ストレス
【0164】
データは、CHAPSがPS20と共製剤化された場合に、熱分解からPS20を保護するのに特に効果的であることを示唆している。
図1
図2
図3
図4