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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】歯科用修復材組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/889 20200101AFI20241118BHJP
   A61K 6/80 20200101ALI20241118BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/80
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021567612
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048454
(87)【国際公開番号】W WO2021132463
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019233577
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】堀口 広敬
(72)【発明者】
【氏名】梶川 達也
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181832(WO,A1)
【文献】特開2007-314484(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107534(WO,A1)
【文献】MORAES, R.R. et al.,Control of polymerization shrinkage and stress in nanogel-modified monomer and composite materials,Dent Mater,2011年,Vol. 27,pp. 509-19,ISSN 0109-5641
【文献】GOTTI, V.B. et al.,Influence of nanogel additive hydrophilicity on dental adhesive mechanical performance and dentin bo,Dent Mater,2016年,Vol. 32,pp. 1406-13,ISSN 0109-5641
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、重合開始剤(C)、及び有機無機複合フィラー(D)を含有し、前記モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、下記一般式(I)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)、及び下記一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、歯科用修復材組成物。
【化1】
【化2】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して下記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、Xは炭素数1~6の二価の炭化水素基又は酸素原子である。
【化3】
【化4】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数である。)]
【請求項2】
有機無機複合フィラー(D)の含有量が、歯科用修復材組成物の全量において30~75質量%である、請求項1に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項3】
有機無機複合フィラー(D)が、平均一次粒子径0.5μm以下の無機フィラーが有機マトリックス中に分散されている平均粒子径3μm以上25μm以下の有機無機複合フィラーである、請求項1又は2に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項4】
前記有機マトリックスが、重合性単量体(d2)の重合体を含み、前記重合性単量体(d2)が、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)を含む、請求項3に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項5】
有機無機複合フィラー(D)が、屈折率(nD)が1.50<nD≦1.70である有機無機複合フィラー(D-1)と屈折率が1.45≦nD≦1.50である有機無機複合フィラー(D-2)とを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項6】
モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項7】
Xが酸素原子である、請求項6に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項8】
k及びlが0又は1である、請求項1~7のいずれか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項9】
さらに、無機フィラー(E)を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項10】
さらに、ポリマー(F)を含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項11】
ポリマー(F)が未反応の重合性官能基を有するプレポリマー(F-1)である、請求項10に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項12】
プレポリマー(F-1)の重量平均分子量が1,000以上1,000,000以下である、請求項11に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項13】
全重合性単量体混合物の23℃における粘度が2000cP以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項14】
1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が、芳香環を有する化合物(A-1)を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項15】
1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が水酸基を有さない化合物である、請求項1~14のいずれか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得る歯科用修復材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の歯科治療において、歯の欠損部や虫歯を審美的及び機能的に修復するための材料として歯科用コンポジットレジンなどの歯科用修復材組成物が多用されている。一般に歯科用コンポジットレジンは、数種類の重合性単量体からなるマトリックスレジンと、無機フィラーや有機無機複合フィラー等の充填材と、重合開始剤とを含むペースト状の組成物である。
【0003】
歯科用修復材組成物に求められる要件として、高い機械的強度、研磨性、天然歯に類似の色調及び光透過性に加え、歯科医師が充填操作を行う際の操作性に優れることなどが挙げられる。
【0004】
従来、歯科用コンポジットレジンを歯牙窩洞に適用する際は、光硬化深度等の関係から、許容される層厚の上限は通常約2mmとされ、2mmを超える深い歯牙窩洞の場合は充填と光硬化とを繰り返して修復する方法が一般的であった。最近では、歯科用コンポジットレジンのカテゴリーの一つとして、修復治療の時間短縮の観点から4~5mmの層厚みを一度に硬化させる「バルクフィル」コンポジットレジンが注目されている。しかしながら、バルクフィルコンポジットレジンを用いた深い歯牙窩洞に対する修復では、一度に硬化させるコンポジットレジンの量が多くなることから、光硬化させる際に歯牙窩洞との接着界面により大きな重合収縮応力がかかることになる。この大きな重合収縮応力により、歯科用コンポジットレジンがその硬化中に歯牙窩洞から剥がれてコントラクションギャップが生じることがあり、二次う蝕、歯髄刺激、着色、硬化物の脱落などの臨床的な不具合の原因になりやすいという問題があった。そのため、現在の臨床現場においては、深い窩洞に対しても、バルクフィルコンポジットレジンを用いることなく、従来型の歯科用コンポジットレジンを用いて、積層と光照射とを繰り返して修復治療を行うことも多い。
【0005】
重合収縮応力の低減を図った歯科用修復材組成物としては、例えば、特許文献1には、硬化前の重合性単量体混合物の屈折率をフィラーの屈折率と近似させて、高い硬化深度を得るとともに、単官能重合性単量体を含有させることにより架橋ネットワークが密になることが抑制されることで、重合収縮応力を低減させたラジカル重合性歯科用材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-524020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載のラジカル重合性歯科用材料は、単官能重合性単量体を一定量以上含有することで、重合収縮応力の抑制効果は認められるものの、満足する重合収縮応力の抑制効果を得るために単官能重合性単量体の含有量を多くすると機械的強度が大きく低下してしまい、重合収縮応力の抑制とは両立できないことがわかった。また、研磨性とペーストの操作性とを確保するために有機無機複合フィラーを含有させると、さらに機械的強度も低下することがわかった。
【0008】
そこで、本発明は、重合収縮応力が小さく、かつ硬化物の機械的強度と研磨性に優れる歯科用修復材組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、特定のモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物、重合開始剤、及び有機無機複合フィラーを含む組成物が、上記の目的を達成できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、重合開始剤(C)、及び有機無機複合フィラー(D)を含有し、前記モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、下記一般式(I)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)、及び下記一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、歯科用修復材組成物。
【化1】
【化2】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して下記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、Xは炭素数1~6の二価の炭化水素基又は酸素原子である。
【化3】
【化4】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数である。)]
[2]有機無機複合フィラー(D)の含有量が、歯科用修復材組成物の全量において30~75質量%である、[1]に記載の歯科用修復材組成物。
[3]有機無機複合フィラー(D)が、平均一次粒子径0.5μm以下の無機フィラーが有機マトリックス中に分散されている平均粒子径3μm以上25μm以下の有機無機複合フィラーである、[1]又は[2]に記載の歯科用修復材組成物。
[4]前記有機マトリックスが、重合性単量体(d2)の重合体を含み、前記重合性単量体(d2)が、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)を含む、[3]に記載の歯科用修復材組成物。
[5]有機無機複合フィラー(D)が、屈折率(nD)が1.50<nD≦1.70である有機無機複合フィラー(D-1)と屈折率が1.45≦nD≦1.50である有機無機複合フィラー(D-2)とを含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用修復材組成物。
[6]モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用修復材組成物。
[7]Xが酸素原子である、[6]に記載の歯科用修復材組成物。
[8]k及びlが0又は1である、[1]~[7]のいずれかに記載の歯科用修復材組成物。
[9]さらに、無機フィラー(E)を含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用修復材組成物。
[10]さらに、ポリマー(F)を含有する、[1]~[9]のいずれかに記載の歯科用修復材組成物。
[11]ポリマー(F)が未反応の重合性官能基を有するプレポリマー(F-1)である、[10]に記載の歯科用修復材組成物。
[12]プレポリマー(F-1)の重量平均分子量が1,000以上1,000,000以下である、[11]に記載の歯科用修復材組成物。
[13]全重合性単量体混合物の23℃における粘度が2000cP以下である、[1]~[12]のいずれかに記載の歯科用修復材組成物。
[14]1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が、芳香環を有する化合物(A-1)を含む、[1]~[13]のいずれかに記載の歯科用修復材組成物。
[15]1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が水酸基を有さない化合物である、[1]~[14]のいずれかに記載の歯科用修復材組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科用修復材組成物は、重合収縮応力が小さく、硬化物の機械的強度と研磨性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯科用修復材組成物は、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、重合開始剤(C)、及び有機無機複合フィラー(D)を含有する。前記モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、上記一般式(I)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)及び上記一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが重要である。
【0013】
前記構成により本発明の効果が得られる理由は必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下のように推定している。歯科材料に求められる研磨性を実現するためには、フィラーとして平均一次粒子径の小さい粒子を含有させることが知られているが、平均一次粒子径が小さくなるとフィラーの比表面積が増大するため、重合収縮応力が大きくなるという問題も生じることがわかった。ここで、研磨性の向上と重合収縮応力の低減とを両立する手法として、有機無機複合フィラーを含有させることが知られているが、得られる硬化物の機械的強度が低くなる傾向にあった。このように、有機無機複合フィラーを含有する組成物は、研磨性に優れ、かつ重合収縮応力も低減される傾向にある一方で、機械的強度の点で改善の余地があった。本発明において、単官能性かつ複数の芳香環を有する特定のモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)を含有させることで、その単官能性に起因して、比較的ポリマーネットワークの網が大きくなるため重合収縮応力がさらに低減されつつ、芳香環のπ-π相互作用のために、重合後の高分子鎖間の相互作用が強固になり硬化物の機械的強度にも優れた歯科用修復材組成物が得られたものと推定している。
【0014】
以下、本発明について詳細を説明する。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。また、本明細書において、式中の各記号の数値も、適宜組み合わせ可能である。
【0015】
[1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)]
1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)は、本発明の歯科用修復材組成物において、歯科用修復材組成物の硬化物に、耐水性及び機械的強度を高めるために用いられる。本発明における1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)(以下、これを「(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)」ということがある。)は、本発明の効果を奏し、歯科用コンポジットレジン等に使用される公知の(メタ)アクリル酸エステル化合物であれば特に限定されないが、硬化後の機械的強度を向上させるために、剛直な骨格である環状構造を有する化合物を含むことが好ましい。環状構造を有する化合物としては、芳香環を有する化合物(A-1)、脂環を有する化合物(A-2)、複素環を有する化合物(A-3)が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)としては、環状構造を有しない化合物(A-4)を含んでいてもよい。(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)は、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する限り、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基以外の1つ以上の他の重合性官能基を有する多官能性重合性化合物であってもよく、1分子中に2つの(メタ)アクリロイルオキシ基のみを有する2官能性重合性化合物であってもよい。本発明において、(メタ)アクリロイルオキシ基と、他の重合性官能基を合わせて「重合性官能基」と総称する。(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が有する重合性官能基としては、後述するプレポリマー(F-1)と同様のものが例示され、(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基がより好ましい。ある好適な実施形態としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が有する重合性官能基は(メタ)アクリロイルオキシ基のみである歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。他の好適な実施形態では、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が芳香環を有する化合物(A-1)又は脂環を有する化合物(A-2)を有し、芳香環を有する化合物(A-1)又は脂環を有する化合物(A-2)が有する重合性官能基は(メタ)アクリロイルオキシ基のみである歯科用修復材組成物が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
さらに、後述のモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)とπ-π相互作用することで硬化後の機械的強度をより向上できる点で、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)は、芳香環を有する化合物(A-1)を含むことがより好ましく、ビスフェノールA骨格を有する化合物を含むことがさらに好ましい。なお、本発明において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。「(メタ)アクリレート」等のこれに類する表記も同様である。
【0017】
本発明における(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)の例を以下に示す。
【0018】
芳香環を有する化合物(A-1)の芳香環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ベンゾフェノン、フェニルエーテル、ビスフェノールA等が挙げられ、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と組み合わせることで硬化物の機械的強度及び耐水性がより優れる点から、ビスフェノールAが好ましい。芳香環を有する化合物(A-1)としては、例えば、2,2-ビス[4-〔3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス[4-〔2-(アクリロイルオキシ)エトキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-〔2-(メタクリロイルオキシ)エトキシ〕フェニル]プロパン(通称「Bis-MEPP」)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(例えば、エトキシ基の平均付加モル数2.6)、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕エタン、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA骨格を有する2,2-ビス[4-〔3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(エトキシ基の平均付加モル数2.6のもの(通称「D2.6E」))が硬化後の機械的強度の観点からより好ましい。
【0019】
脂環を有する化合物(A-2)の脂環としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ジシクロデカン、トリシクロデカン、アダマンタン、イソボルニル等が挙げられる。脂環を有する化合物(A-2)としては、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート及びアダマンチルジ(メタ)アクリレート、アダマンチルトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
複素環を有する化合物(A-3)の複素環としては、例えば、トリアジン、カルバゾール、ピロール、ピラゾール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピラジン、ピリミジン、ピリジン、ピリダジン、テトラゾール等のヘテロ原子として窒素原子のみを含む複素環;フラン、テトラヒドロフラン、ピラン、オキサン、ジオキサン、ジオキソラン等のヘテロ原子として酸素原子のみを含む複素環;オキサゾール、イソオキサゾール、オキサジン、モルホリン等のヘテロ原子として酸素原子と窒素原子を含む複素環;チオフェン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン等のヘテロ原子として硫黄原子のみを含む複素環、チアジン、チアゾール等のヘテロ原子として硫黄原子と窒素原子を含む複素環等が挙げられる。複素環を有する化合物(A-3)としては、複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ある好適な実施形態としては、複素環を有する化合物(A-3)を実質的に含まない、歯科用修復材組成物が挙げられる。他の好適な実施形態としては、窒素原子を含む複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物を実質的に含まない、歯科用修復材組成物が挙げられる。窒素原子を含む複素環は、前記ヘテロ原子として窒素原子のみを含む複素環、ヘテロ原子として酸素原子と窒素原子を含む複素環、及びヘテロ原子として硫黄原子と窒素原子を含む複素環を含む。「窒素原子を含む複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物を実質的に含まない」とは、窒素原子を含む複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物の含有量が、歯科用修復材組成物において0.1質量%未満であり、好ましくは0.05質量%未満であり、より好ましくは、0.01質量%未満であり、さらに好ましくは0質量%であることを意味する。「複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物(A-3)を実質的に含まない」も同様の量で、複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物(A-3)を含まないことを意味する。
【0021】
環状構造を有しない化合物(A-4)としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシプロピルアミドなどの脂肪族化合物系の二官能性単量体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなど三官能性以上の単量体が挙げられ、これらの中でも、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(通称「DD」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)が好ましい。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)は、ペーストのベタツキを低減し、ペーストの操作性に優れる観点から、水酸基を有しない化合物を含むことが好ましい。例えば、芳香環を有する化合物(A-1)、脂環を有する化合物(A-2)、複素環を有する化合物(A-3)、又は環状構造を有しない化合物(A-4)は、水酸基を有しない化合物が好ましい。
【0023】
ある実施形態では、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)の重量平均分子量(Mw)は、ペーストの操作性及び硬化後の機械的強度の観点から、500~50000が好ましく、750~30000がより好ましく、1000~15000がさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)は、後述のプレポリマー(F-1)の重量平均分子量の測定方法と同様の方法で測定できる。
【0024】
本発明の歯科用修復材組成物における(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量に対して、10~99質量%であることが好ましく、機械的強度、耐水性、及びペーストの操作性により優れる点から、30~95質量%であることがより好ましく、50~90質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
[モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)]
モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、本発明の歯科用修復材組成物において、硬化時の重合収縮応力を低減させつつ、硬化物の機械的強度及び耐水性を高めるために用いられる。また、歯科用修復材組成物を低粘度化でき、優れたペーストの操作性を付与することもできる。モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を併用してもよい。モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、上記一般式(I)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)(以下、これを「モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)」ということがある。)、及び上記一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)(以下、これを、「モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)」ということがある。)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいればよい。以下、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)について説明する。モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、上記一般式(I)で表される骨格、及び上記一般式(II)で表される骨格が剛直かつ疎水性を示すため、得られる歯科用修復材組成物の硬化物は吸水性が低く、機械的強度の低下を抑制することができる。
【0026】
式(I)の各記号について説明する。式(I)中、Rは上記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、得られる歯科用修復材組成物が硬化性に優れる点から、式(i)又は(ii)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である。R及びRはそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基である。前記炭化水素基としては、得られる歯科用修復材組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~4がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましい。R及びRの前記二価の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基;炭素数3~10のシクロアルキレン基;フェニレン基が挙げられる。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソペンチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基が挙げられる。シクロアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基等が挙げられる。k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数であり、得られる歯科用修復材組成物の粘度が低く、硬化物における気泡の発生を抑制でき、硬化性に優れる点から、kは0~4が好ましく、0~3がより好ましく、0~2がさらに好ましく、0又は1が特に好ましい。また、lは0~4が好ましく、0~2がより好ましく、0又は1がさらに好ましい。
【0027】
モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)の例としては、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる歯科用修復材組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点で、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノールアクリレートがより好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノールアクリレートがさらに好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレートが特に好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレートが最も好ましい。
【0028】
式(II)の各記号について説明する。式(II)中、Xは炭素数1~6の二価の炭化水素基又は酸素原子であり、得られる歯科用修復材組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、酸素原子が好ましい。また、Rは上記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、得られる歯科用修復材組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、式(i)又は(ii)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である。R及びRはそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基である。前記炭化水素基としては、得られる歯科用修復材組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~4がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましい。前記炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基;炭素数3~10のシクロアルキレン基;フェニレン基が挙げられる。R及びRはアルキレン基及びシクロアルキレン基は式(I)のR及びRと同様である。Xの前記二価の炭化水素基としては、炭素数1~4が好ましく、炭素数1~3がより好ましく、炭素数1~2がさらに好ましい。Xの前記二価の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~6のアルキレン基;炭素数3~6のシクロアルキレン基が挙げられる。Xのアルキレン基及びシクロアルキレン基は同一の炭素数のR及びRのアルキレン基及びシクロアルキレン基と同様である。k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数であり、得られる歯科用修復材組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、kは0~4が好ましく、0~3がより好ましく、0~2がさらに好ましく、0又は1が特に好ましい。また、lは0~4が好ましく、0~2がより好ましく、0又は1がさらに好ましい。ある好適な実施形態としては、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含む、歯科用修復材組成物が挙げられる。他のある好適な実施形態としては、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含み、Xが酸素原子であり、Rは一般式(i)で表される基である、歯科用修復材組成物が挙げられる。さらに、他のある好適な実施形態としては、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含み、Xが酸素原子であり、Rは一般式(i)で表される基であり、kが0又は1である、歯科用修復材組成物が挙げられる。
【0029】
モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)の例としては、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、3-(o-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(m-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(p-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、4-(o-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(m-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(p-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、5-(o-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(m-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(p-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、6-(o-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(m-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(p-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる歯科用修復材組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点で、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチルアクリレートがより好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレートがさらに好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレートが特に好ましく、m-フェノキシベンジルアクリレートが最も好ましい。
【0030】
本発明の歯科用修復材組成物におけるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量に対して、1.0~90質量%が好ましく、機械的強度及び耐水性、ペーストの操作性により優れる点から、5~80質量%がより好ましく、10~70質量%がさらに好ましい。
【0031】
本発明の歯科用修復材組成物に含まれる重合性単量体は、実質的に(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)のみから構成されていてもよい。重合性単量体が、実質的に(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)のみから構成されるとは、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)以外の他の重合性単量体の含有量が、歯科用修復材組成物に含まれる重合性単量体の総量に対して10.0質量%未満であることを指し、好ましくは5.0質量%未満であり、より好ましくは1.0質量%未満であり、さらに好ましくは0.1質量%未満であり、特に好ましくは0.01質量%未満であることを意味する。
【0032】
本発明の歯科用修復材組成物に含まれる全重合性単量体の混合物の粘度は、23℃で2000cP以下であることが好ましく、1500cP以下であることがより好ましい。粘性が高すぎると、容器からの押出しが重くなったり、ペーストのベタツキが大きくなりインスツルメントでの取り扱い性が悪くなることがある。全重合性単量体混合物の粘度の下限値は特に限定されないが、例えば5cP以上とすることができる。粘度の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0033】
[重合開始剤(C)]
本発明の歯科用修復材組成物は、重合開始剤(C)を含有する。重合開始剤(C)は、一般的に使用可能な重合開始剤から選択して使用でき、特に歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。なかでも、光重合開始剤及び/又は化学重合開始剤を使用できる。重合開始剤(C)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキシド類及びその塩、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α-ジケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、α-アミノケトン類等が挙げられる。
【0035】
(ビス)アシルホスフィンオキシド類及びその塩としては、アシルホスフィンオキシド類及びその塩、ビスアシルホスフィンオキシド類及びその塩がある。アシルホスフィンオキシド類及びその塩としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、及びこれらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩等(例えば2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩等))等が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類及びその塩としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド及びこれらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩等)等が挙げられる。
【0036】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類及びその塩の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩が好ましい。
【0037】
チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩としては、例えば、チオキサントン、2-クロルチオキサンセン-9-オン、2-ヒドロキシ-3-(9-オキシ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキシ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドが挙げられる。
【0038】
これらのチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩の中でも、好適なチオキサントン類は、2-クロルチオキサンセン-9-オンであり、好適なチオキサントン類の第4級アンモニウム塩は、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドである。
【0039】
ケタール類としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。
【0040】
α-ジケトン類としては、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。これらの中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが好ましい。
【0041】
ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
【0042】
α-アミノケトン類としては、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0043】
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類及びその塩、並びにα-ジケトン類からなる群より選ばれる少なくともいずれか1種を用いることが好ましい。
【0044】
化学重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物が好ましく用いられる。アゾ化合物、有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的なアゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0045】
ケトンペルオキシドとしては、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド及びシクロヘキサノンペルオキシド等が挙げられる。
【0046】
ヒドロペルオキシドとしては、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド及びt-ブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0047】
ジアシルペルオキシドとしては、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド及びラウロイルペルオキシド等が挙げられる。
【0048】
ジアルキルペルオキシドとしては、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン等が挙げられる。
【0049】
ペルオキシケタールとしては、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン及び4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレリックアシッド-n-ブチルエステル等が挙げられる。
【0050】
ペルオキシエステルとしては、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタラート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート及びt-ブチルペルオキシマレイックアシッド等が挙げられる。
【0051】
ペルオキシジカーボネートとしては、ジ-3-メトキシペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)ペルオキシジカーボネート及びジアリルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0052】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルペルオキシドがより好ましく用いられる。
【0053】
重合開始剤(C)の含有量は、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)とモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の混合物100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~7質量部がより好ましく、0.15~6質量部がさらに好ましく、0.5~5質量部が特に好ましい。
【0054】
[重合促進剤]
本発明の歯科用修復材組成物は、さらに重合促進剤を含有していてもよい。重合促進剤としては、例えば、アミン類、スルフィン酸及びその塩、アルデヒド類、ボレート化合物、トリアジン化合物、チオール化合物等が挙げられる。重合促進剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ある好適な実施形態では、重合開始剤(C)が光重合開始剤を含み、さらに光重合開始剤の重合促進剤を含み、前記重合促進剤が第3級アミン類である、歯科用修復材組成物が挙げられる。
【0055】
前記アミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミン等が挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましい。
【0056】
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルが挙げられる。これらの中でも、歯科用修復材組成物の硬化性を向上できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種が好ましく用いられる。
【0057】
スルフィン酸及びその塩としては、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0058】
アルデヒド類としては、テレフタルアルデヒドやベンズアルデヒド誘導体等が挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-メトキシベンズアルデヒド、p-エトキシベンズアルデヒド、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒド等が挙げられる。これらの中でも、歯科用修復材組成物の硬化性を向上できる観点から、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましく用いられる。
【0059】
ボレート化合物としては、アリールボレート化合物が好ましい。当該アリールボレート化合物としては、例えば、1分子中に1~4個のアリール基を有するボレート化合物などが挙げられる。
【0060】
1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p-クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0061】
1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p-クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-フルオロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ(p-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0062】
1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0063】
1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素、(p-フルオロフェニル)トリフェニルホウ素、[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]トリフェニルホウ素、(p-ニトロフェニル)トリフェニルホウ素、(m-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
【0064】
アリールボレート化合物の中でも、保存安定性の観点から、1分子中に3個又は4個のアリール基を有するボレート化合物が好ましい。なお、アリールボレート化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
トリアジン化合物としては、例えば、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4,6-トリス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メチルチオフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2,4-ジクロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-ブロモフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-トリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-n-プロピル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(α,α,β-トリクロロエチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-スチリル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(o-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-ブトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(1-ナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-エチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-メチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ジアリルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンなどが挙げられる。
【0066】
これらのトリアジン化合物の中でも、重合活性の点では、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましく、また保存安定性の点では、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましい。なお、トリアジン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
チオール化合物としては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸等が挙げられる。
【0068】
重合促進剤の含有量は特に限定されないが、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)とモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の混合物100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~7質量部がより好ましく、0.2~5質量部がさらに好ましい。
【0069】
[有機無機複合フィラー(D)]
本発明の歯科用修復材組成物は、重合収縮応力が小さく、かつ硬化物の機械的強度と研磨性に優れる点から、有機無機複合フィラー(D)を含有する。有機無機複合フィラー(D)の平均粒子径は3~25μmが好ましく、4~20μmであることがより好ましく、5~20μmがさらに好ましい。有機無機複合フィラー(D)の平均粒子径が小さすぎると、歯科用修復材組成物のベタツキが大きくなり操作性が低下することがある。平均粒子径が大きすぎると、ペーストのザラツキが生じるため操作性が低下することがある。平均粒子径の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。なお、本発明において、有機無機複合フィラーとは、無機フィラーと重合性単量体の重合体とを含むフィラーを示す。
【0070】
有機無機複合フィラー(D)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明の歯科用修復材組成物の硬化前のペースト状態での操作性の観点から、平均粒子径の異なる2種以上の有機無機複合フィラーを組み合わせて用いることが好ましい。ある実施形態では、有機無機複合フィラー(D)は、平均粒子径10μm以上50μm以下の有機無機複合フィラー及び平均粒子径3μm以上10μm未満の有機無機複合フィラーを含有することが好ましい。また、平均粒子径13μm以上25μm以下の有機無機複合フィラー及び平均粒子径3μm以上8μm以下の有機無機複合フィラーを含有することがより好ましい。
【0071】
有機無機複合フィラー(D)は、屈折率(nD)の異なる2種類の有機無機複合フィラーを含有することが好ましく、屈折率が1.50<nD≦1.70である有機無機複合フィラー(D-1)と屈折率が1.45≦nD≦1.50である有機無機複合フィラー(D-2)とを含有することが好ましい。また、2種類の有機無機複合フィラーの屈折率差の絶対値として0.01以上0.20以下が好ましく、0.01以上0.10以下がより好ましく、0.02以上0.10以下がさらに好ましい。屈折率の異なる2種類の有機無機複合フィラーを含有することにより、光拡散性が付与されて色調適合性が向上する。屈折率の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0072】
有機無機複合フィラー(D)の含有量は、操作性と重合収縮応力の観点から歯科用修復材組成物の全量において30~75質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、30~60質量%がさらに好ましい。有機無機複合フィラー(D)の含有量が多くなると、ペースト性状にザラツキが生じたり、伸びが悪くなることがある。また、含有量が少な過ぎると重合収縮応力が高くなることがある。また、本発明の歯科用修復材組成物が、後述する無機フィラー(E)を含有する場合、有機無機複合フィラー(D)と後述する無機フィラー(E)の含有量との含有量の質量比は、特に限定されないが、有機無機複合フィラー(D)の含有量が、無機フィラー(E)の含有量より多いことが好ましい。すなわち、前記質量比は、(D)/(E)>1であることが好ましい。有機無機複合フィラー(D)の含有量が無機フィラー(E)の含有量より多いことによって、歯科用修復材組成物は、ベタツキが小さくなり、また、賦形性に優れ、研磨性が向上する。本発明では、無機フィラー(E)と有機無機複合フィラー(D)の合計含有量が、歯科用修復材組成物において、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよい。無機フィラー(E)と有機無機複合フィラー(D)の合計含有量は、83質量%以下であってもよい。
【0073】
本発明における有機無機複合フィラー(D)としては、無機フィラー(d1)が有機マトリックス中に分散されていることが好ましく、その作製方法は特に限定されない。例えば、公知の無機フィラー(d1)に公知の重合性単量体(d2)及び公知の重合開始剤(d3)を予め添加し、ペースト状にした後に、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合、バルク重合により重合させ、粉砕して作製してもよい。
【0074】
重合性単量体(d2)は特に限定されず、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)などの、重合性単量体として例示した重合性単量体を用いてもよく、重合性単量体と同一の組成の重合性単量体を用いてもよい。また、精製工程を経た重合性単量体を用いることが好ましい。精製工程を経ていない重合性単量体を用いると、重合性単量体中の不純物により、有機無機複合フィラー(D)が着色することがあり、所望の色調に調整できないばかりでなく、硬化後の歯科用修復材組成物の審美性が低下することがある。ある好適な実施形態としては、有機マトリックスが、重合性単量体(d2)の重合体を含み、前記重合性単量体(d2)が、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)を含む、歯科用修復材組成物が挙げられる。
【0075】
重合開始剤(d3)は特に限定されず、公知の重合開始剤を用いることができる。例えば、紫外線、可視光線等を利用した光重合開始剤、過酸化物と促進物との反応、加熱等を利用した化学重合開始剤がある。重合開始剤(d3)は、重合開始剤(C)として例示した重合開始剤の中から適宜選択することができ、重合開始剤(C)と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0076】
無機フィラー(d1)の平均一次粒子径は、0.5μm以下が好ましく、0.005~0.3μmがより好ましく、0.01~0.2μmがさらに好ましい。有機無機複合フィラー(D)に用いられる無機フィラー(d1)の平均一次粒子径が0.5μmを超えると、硬化後の歯科用修復材組成物において良好な研磨性が得られないことがある。ある好適な実施形態としては、有機無機複合フィラー(D)が、平均一次粒子径0.5μm以下の無機フィラー(d1)が有機マトリックス中に分散されている平均粒子径3μm以上25μm以下の有機無機複合フィラーである、歯科用修復材組成物が挙げられる。平均一次粒子径の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0077】
有機無機複合フィラー(D)に含まれる無機フィラー(d1)の含有量は、有機無機複合フィラー(D)の全量において40~90質量%が好ましく、45~85質量%がより好ましく、55~85質量%がさらに好ましい。上記含有量を採用することにより、硬化後の歯科用修復材組成物の機械的強度を好ましい値に制御することができる。
【0078】
無機フィラー(d1)の材質には特に制限がなく、後述する無機フィラー(E)として例示した無機フィラーを用いてもよく、無機超微粒子を用いてもよい。また、無機フィラー(d1)は、重合性単量体との親和性を改善したり、重合性単量体との化学結合性を高めて有機無機複合フィラーの機械的強度を向上させる観点から、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤及び表面処理方法は、後述する無機フィラー(E)において例示した処理剤及び方法をなんら制限なく用いることができる。
【0079】
無機フィラー(d1)に用いる無機超微粒子としては、後述する無機フィラー(E)と同様に、公知の無機超微粒子がなんら制限なく使用され、好適な材料も、後述する無機フィラー(E)と同様である。
【0080】
無機フィラー(d1)に用いる無機超微粒子の平均一次粒子径の好ましい範囲及びその測定方法は、後述する無機フィラー(E)と同様である。
【0081】
無機フィラー(d1)に用いる無機超微粒子は、重合性単量体(d2)と組み合わせて有機無機複合フィラー(D)に用いることから、重合性単量体(d2)との親和性を改善したり、重合性単量体(d2)との化学結合性を高めて有機無機複合フィラー(D)の機械的強度を向上させるために、無機超微粒子に予め表面処理剤で表面処理を施しておくことが好ましい。表面処理剤及び表面処理方法は、後述する無機フィラー(E)において例示した処理剤及び方法をなんら制限なく用いることができる。
【0082】
有機無機複合フィラー(D)中の成分において、発明の効果を阻害しない範囲で目的に応じて公知の重合禁止剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、蛍光剤、表面活性剤、分散剤、増粘剤等をさらに添加することも可能である。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。重合禁止剤としては、2,6-ジ-ブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキノン、ジブチルヒドロキノン、ジブチルヒドロキノンモノメチルエーテル、2,6-t-ブチルフェノール等が挙げられ、これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。紫外線吸収剤としては、公知の化合物を用いることができるが、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
[無機フィラー(E)]
本発明の歯科用修復材組成物は、無機フィラー(E)を含むことが硬化物の機械的強度の観点から好ましい。無機フィラー(E)は、本発明の効果を損なわない限りその材質や種類に制限はなく、歯科用コンポジットレジン等に使用される公知の無機フィラーが使用され、例えば各種ガラス類、凝集粒子が挙げられる。
【0084】
各種ガラス類(シリカを主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム等の酸化物を含有する)としては、例えば、溶融シリカ、石英、ソーダライムシリカガラス、Eガラス、Cガラス、ボロシリケートガラス〔パイレックス(登録商標)ガラス〕等の一般的な組成のガラス粉末、ストロンチウム・ボロアルミノシリケートガラス「E-3000」(ESSTECH社製)、バリウムボロアルミノシリケートガラス「GM27884」、「8235シリーズ(8235 UF0.7等)」(SCHOTT社製)、バリウムシリケートガラス「E-2000」(ESSTECH社製)、ランタンガラスセラミックス「GM31684」(SCHOTT社製)、フルオロアルミノシリケートガラス「GM35429」、「G018-091」、「G018-117」(SCHOTT社製)等の歯科用ガラス粉末、各種セラミック類、複合酸化物、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト等が挙げられる。これらの中でも屈折率の観点からバリウムガラス、シリカジルコニア複合酸化物、シリカチタニア複合酸化物、シリカアルミナジルコニア複合酸化物、結晶石英、フッ化イッテルビウムが好ましい。
【0085】
無機フィラー(E)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また無機フィラーの形状は特に限定されるものではないが、球状、略球状、又は不定形を用いることが好適である。なお、ここでいう略球状とは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みを帯びており、その最大径に直行する方向の粒子をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上であることを意味する。無機フィラー(E)は、歯科用修復材組成物の硬化物の機械的強度を向上する観点から、不定形フィラーを用いることが好ましい。
【0086】
無機フィラー(E)の平均一次粒子径は、歯科用修復材組成物の操作性と硬化物の研磨性の観点から、1.2μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下がさらに好ましい。平均一次粒子径が小さくなると、ペーストのザラツキが軽減し、伸びの良いペーストになり操作性が向上する。一方で、平均一次粒子径が大きくなりすぎると、硬化物の研磨性が低下することがある。平均一次粒子径の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0087】
無機フィラー(E)は、無機超微粒子又は各種ガラス類を凝集させて調製した凝集粒子(凝集フィラー)であってもよい。無機超微粒子としては、公知の無機超微粒子がなんら制限なく使用される。
【0088】
無機超微粒子の平均一次粒子径としては、5~50nmが好ましく、10~40nmがより好ましい。なお、無機超微粒子の平均一次粒子径は、無機超微粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、無作為に選択した100個の超微粒子の一次粒子径の平均値として測定できる。無機超微粒子が非球状である場合には、無機超微粒子の最長の長さと最短の長さとの算術平均値をもって一次粒子径とする。
【0089】
無機超微粒子としては、公知の無機超微粒子がなんら制限なく使用される。好ましくは、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物粒子、又はこれらからなる複合酸化物粒子、燐酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、フッ化イットリウム、フッ化イッテルビウム等が挙げられる。好ましくは、火炎加水分解法で作製されるシリカ、アルミナ、チタニア等の粒子であり、例えば、日本アエロジル株式会社製、商品名:アエロジル(登録商標)、アエロキサイド(登録商標)AluC、アエロキサイド(登録商標)TiOP25や、EVONIK社製、VP Zirconium Oxide 3-YSZ、VP Zirconiumxide 3-YSZ PHが挙げられる。
【0090】
無機フィラー(E)の含有量は、操作性の観点から歯科用修復材組成物の全量に対して1~50質量%が好ましい。また、平均一次粒子径が0.3μm以下の場合には1~40質量%が好ましく、平均一次粒子径が0.1μm以下の場合には1~20質量%が好ましい。さらに、平均一次粒子径が50nm以下の場合には1~10質量%が好ましい。但し、無機フィラー(E)が凝集フィラーの場合には、3~50質量%が好ましい。
【0091】
無機フィラー(E)は、重合性単量体との結合強化の観点から、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、例えば、γ-メタクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン(メタクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12)、γ-メタクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン(メタクリロイルオキシ基と珪素原子との間の炭素数:3~12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等の有機珪素化合物が挙げられる。
【0092】
表面処理剤の処理量は、表面処理される無機フィラー(E)100質量部に対して、0.05~100質量部が好ましく、0.10~50質量部がより好ましい。
【0093】
表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができ、例えば、無機フィラー(E)を激しく撹拌しながら表面処理剤をスプレー添加する方法、適当な溶媒へ無機フィラー(E)と表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶媒を除去する方法、あるいは水溶液中で表面処理剤のアルコキシ基を酸触媒により加水分解してシラノール基へ変換し、該水溶液中で無機フィラー(E)の表面に付着させた後、水を除去する方法がある。いずれの方法においても、通常50~150℃の範囲で加熱することにより、無機フィラー(E)の表面と表面処理剤との反応を完結させ、表面処理を行うことができる。
【0094】
[ポリマー(F)]
本発明の歯科用修復材組成物は、重合収縮応力の低減の観点から、さらにポリマー(F)を含んでもよい。ポリマーの種類について特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリル系重合体、イソプレン系重合体、ブタジエン系重合体、スチレン系重合体ブロック-ブタジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体の水素添加物、スチレン系重合体ブロック-イソプレン系重合体ブロックからなるブロック共重合体の水素添加物、又はこれらの構造を含む後述のプレポリマー(F-1)などが挙げられる。ポリマー(F)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
[プレポリマー(F-1)]
本発明の歯科用修復材組成物は、重合収縮応力の低減の観点から、ポリマー(F)の中でも、プレポリマー(F-1)を含むことが好ましい。「プレポリマー」とは、重合性単量体の重合を適当なところで止めた中間生成物、又は重合後に官能基を導入したポリマーであり、いずれも、未反応の重合性官能基を有していて、さらなる重合が可能となっている。プレポリマー(F-1)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
プレポリマー(F-1)が有する未反応の重合性官能基の種類に特に制限はない。当該重合性官能基としては、例えば、炭素-炭素二重結合、ビニル基、ビニロキシ基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイル基、マレオイル基、スチリル基、シンナモイル基などが挙げられる。重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基がより好ましい。また、プレポリマー(F-1)が有する未反応の重合性官能基の数は、プレポリマー(F-1)1分子あたり平均して、1個以上であることが好ましく、2個以上であることがより好ましく、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、5個以上であることがさらに好ましく、10個以上であることが特に好ましく、15個以上、20個以上、さらには25個以上であってもよく、また、1,000個以下であることが好ましく、500個以下であることがより好ましく、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、100個以下であることがさらに好ましく、50個以下であることが特に好ましい。プレポリマー(F-1)の有する未反応の重合性官能基の数の測定方法は特に制限がないが、例えば、NMR測定によってプレポリマーが有する未反応の重合性官能基の濃度(mol/g)を求め、これに後述するプレポリマー(F-1)の重量平均分子量を乗じることにより求めることができ、より具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0097】
プレポリマー(F-1)の分子量に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、プレポリマー(F-1)の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、また、1,000,000以下であることが好ましく、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、500,000以下であることがより好ましく、300,000以下であることがさらに好ましく、100,000以下であることが特に好ましく、80,000以下、さらには60,000以下であってもよい。プレポリマー(F-1)の重量平均分子量の測定方法は特に制限がないが、GPC測定などにより測定することができ、より具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。
【0098】
本発明の歯科用修復材組成物におけるプレポリマーの含有量に特に制限はないが、得られる歯科用修復材組成物の稠度安定性、重合収縮応力及び操作性、さらには得られる硬化物の機械的強度などの観点から、歯科用修復材組成物の質量に基づいて、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、また、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、12質量%以下、さらには8質量%以下であってもよい。
【0099】
[歯科用修復材組成物]
本発明の歯科用修復材組成物には、前記成分以外に、目的に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤(例えば、顔料、染料)、連鎖移動剤、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤などをさらに添加することも可能である。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。重合禁止剤、紫外線吸収剤としては、有機無機複合フィラー(D)に加えることのできる重合禁止剤、紫外線吸収剤として例示したものをなんら制限なく用いることができる。
【0100】
前記顔料としては、歯科用コンポジットレジンに用いられている公知の顔料が何ら制限なく用いられる。前記顔料としては、無機顔料及び/又は有機顔料のいずれでもよく、無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、バリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;銀朱、カドミウム黄、硫化亜鉛、カドミウムレッド等の硫化物;硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩;アンチモン白、亜鉛華、チタン白、ベンガラ、鉄黒、酸化クロム等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;ケイ酸カルシウム、群青等のケイ酸塩;カーボンブラック、グラファイト等の炭素等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、ナフトールグリーンB、ナフトールグリーンY等のニトロソ化合物;ナフトールイエローS、リソールファストイエロー2G等のニトロ系顔料;パーマネントレッド4R、ブリリアントファストスカーレット、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー等の不溶性アゾ系顔料;リソールレッド、レーキレッドC、レーキレッドD等の難溶性アゾ系顔料;ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、ピグメントスカーレット3B、ボルドー10B等の可溶性アゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、スカイブルー等のフタロシアニン系顔料;ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性化合物;ピーコックブルーレーキ、エオシンレーキ、キノリンイエローレーキ等の酸性化合物等が挙げられる。前記顔料は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよく、目的とする色調に応じて適宜選択される。
【0101】
本発明の歯科用修復材組成物における顔料の含有量は、所望の色調によって適宜調整されるため、特に限定されないが、歯科用修復材組成物100質量部において、好ましくは0.000001質量部以上であり、より好ましくは0.00001質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下である。また、顔料の含有量は、歯科用修復材組成物100質量部において、好ましくは0.000001~5質量部であり、より好ましくは0.00001~1質量部である。
【0102】
前記連鎖移動剤としては、例えば、メルカプタン系化合物(n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン等)、ハロゲン系化合物(四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム等)、不飽和炭化水素化合物(2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、α-テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等)、チオール類(メルカプト酢酸、メルカプト酢酸2-エチルヘキシル、メルカプト酢酸3-メトキシブチル、β-メルカプトプロピオン酸、β-メルカプトプロピオン酸メチル、β-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、β-メルカプトプロピオン酸3-メトキシブチル、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等)等が挙げられる。
【0103】
本発明の歯科用修復材組成物は、重合収縮応力が小さく、硬化物の機械的強度と研磨性に優れるため、歯科材料として好適に用いることができる。具体的には、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得る歯科材料(特に歯科用コンポジットレジン)に好適に用いることができる。特に、本発明の歯科用修復材組成物は重合収縮応力が小さいことから、歯科用コンポジットレジンの中でも、バルクフィルコンポジットレジンとしてより好適に用いることができる。
【実施例
【0104】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0105】
[1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、重合性単量体(d2)]
D2.6E:2,2-ビス〔4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)
UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
9G:ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート
【0106】
[モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)]
POB-A:m-フェノキシベンジルアクリレート(共栄社化学株式会社製)
POB-MA:m-フェノキシベンジルメタクリレート(共栄社化学株式会社製)
[モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物]
IBX-MA:イソボルニルメタクリレート(東京化成工業株式会社製)
D-MA:ドデシルメタクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0107】
[重合開始剤(C)、重合開始剤(d3)]
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
CQ:カンファーキノン
TMDPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
[重合促進剤]
JJA:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
【0108】
[有機無機複合フィラー(D)]
有機無機複合フィラー(D)は、後述の製造例1~3により作製した。
【0109】
[無機フィラー(E)、無機フィラー(d1)]
[E-1]
火炎加水分解法で作製される超微粒子シリカ粉末(日本アエロジル株式会社製、アエロジル(登録商標)130、平均一次粒子径:0.02μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン20g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、無機フィラー(E-1)(以下、単に「E-1」と表記することがある)を得た。
【0110】
[E-2]
バリウムボロアルミノシリケートガラス(SCHOTT社製、GM27884 NF180グレード、平均一次粒子径:0.18μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン13g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、無機フィラー(E-2)(以下、単に「E-2」と表記することがある)を得た。
【0111】
[E-3]
バリウムボロアルミノシリケートガラス(SCHOTT社製、GM27884 UF0.4グレード、平均一次粒子径:0.4μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン9.4g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、無機フィラー(E-3)(以下、単に「E-3」と表記することがある)を得た。
【0112】
[E-4]
バリウムボロアルミノシリケートガラス(SCHOTT社製、GM27884 UF1.2グレード、平均一次粒子径:1.2μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン2.6g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、無機フィラー(E-4)(以下、単に「E-4」と表記することがある)を得た。
【0113】
(製造例1)
予め重合開始剤としてAIBNを1質量%溶解した、表1に示す質量比の重合性単量体(d2)を含む組成物100質量部に対して、無機フィラー(d1)としてE-1を100質量部添加(無機フィラーの含有量:50質量%)、混合しペースト化した。これを100℃、減圧雰囲気下で5時間加熱重合した。得られた重合硬化物を、振動ボールミルを用いて、所望の平均粒子径となるまで粉砕した。得られた粉砕フィラー100gに対して、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン2質量%含有エタノール溶液200mL中、90℃で5時間還流することで表面処理を行ない、有機無機複合フィラー(D-2)を得た。
【0114】
(製造例2~3)
表1に記載の無機フィラー(d1)及び重合性単量体(d2)を用いて、所望の無機フィラー(d1)の含有量及び平均粒子径になるように変更した以外は製造例1と同様にして、製造例2~3の有機無機複合フィラー(D-1A)及び(D-1B)を作製した。
【0115】
【表1】
【0116】
[プレポリマー(F-1)]
重合性単量体としてD2.6E13g及びIBX-MA7g、連鎖移動剤として2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン11g、及び溶媒としてトルエン90gとを三口フラスコに入れて溶解し、30分間窒素バブリングを行った。これに重合開始剤としてベンゾイルペルオキシド0.7gを加えて撹拌し、トルエン溶液を得た。
このトルエン溶液を還流下にオイルバスにて80℃で加熱撹拌した。240分後に加熱を停止し、ヘキサン500g中に滴下し、底に沈殿した沈殿物を得た。これを一晩常温で減圧乾燥して白色粉末状のプレポリマー(F-1)を得た。得られたプレポリマーの重量平均分子量は46,000、重合性官能基の数は17個/1分子であった。
【0117】
前記製造例、後述する実施例、比較例における各物性評価及びそれらの材料に関する測定は、以下の方法に従って測定した。
【0118】
[全重合性単量体混合物の粘度]
後述の実施例及び比較例で作製した、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)を含む全重合性単量体の混合物(以下、単に「全重合性単量体混合物」と表記することがある)の粘度は、粘度計(東機産業株式会社製、TV-30E型粘度計、JIS K-7117-2:1999に準拠、コーン・プレートタイプ)を用いて、0.8°×R24のコーンロータで、サンプル量0.6mL、23℃にて測定した。1分間のプレヒートを行った後、測定を開始し、5分後の測定値をその粘度とした(n=1)。
【0119】
[屈折率]
(フィラーの屈折率)
フィラー(有機無機複合フィラー(D)又は無機フィラー(E))を溶媒に懸濁させ、複数の溶媒を用いて溶媒の屈折率を変化させながら透明になるように懸濁液を調整し、透明になった時の懸濁液を、アベック屈折率計を用いて20℃下で測定してフィラーの屈折率とした(n=1)。使用した溶媒はペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、スチレン、アニリン等を用いた。
【0120】
[曲げ強さ]
後述の実施例及び比較例で作製した各歯科用修復材組成物を、ステンレス製の金型(寸法:2mm×2mm×25mm)に充填し、上下をスライドガラスで圧接し、歯科重合用LED光照射器(商品名「ペンキュアー2000」、株式会社モリタ製)で1点10秒、片面を5点ずつ、両面に光を照射して硬化させた。各実施例及び比較例について、硬化物を試料として5本ずつ作製した。硬化物の試料を金型から取り出した後、万能試験機(株式会社島津製作所製、商品名「AG-I 100kN」)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分の条件下で硬化物の試料の3点曲げ強さ及び曲げ弾性率を測定し、各試料の測定値の平均値を算出し、曲げ強さ及び曲げ弾性率とした(n=5)。
【0121】
[重合収縮応力]
厚さ4.0mmのガラス板上に設置したリング状の金型(ステンレス製、内径5.5mm×厚さ0.8mm)内に、後述の実施例及び比較例で作製した歯科用修復材組成物を充填した。前記ガラス板は、粒子径50μmのアルミナパウダーでサンドブラスト処理したものを使用した。充填した歯科用修復材組成物上に、万能試験機(株式会社島津製作所製、商品名「マイクロオートグラフMST-I」)と連結したステンレス製治具(φ5mm)を設置し、前記歯科用修復材組成物を挟み込んだ。次いで、歯科重合用LED光照射器(商品名「ペンキュアー2000」、株式会社モリタ製)を用いて、ガラス板越しに歯科用修復材組成物に20秒間光照射して歯科用修復材組成物を硬化させた。この際、かかる光照射によって進行する歯科用修復材組成物の重合反応による硬化に伴う重合収縮応力を、上記万能試験機で測定した(n=5)。測定した平均値を表2、3に示す。重合収縮応力が小さいほどコントラクションギャップが生じにくく好ましい。また、重合収縮応力が小さいと、一度により多くの歯科用修復材組成物を充填することができるようになり、作業の面からも好ましい。重合収縮応力としては、11.0MPa以下であることが好ましく、10.0MPa以下であることがより好ましく、9.0MPa以下であることがさらに好ましい。
【0122】
[光沢度]
後述の実施例及び比較例で作製した各歯科用修復材組成物を直径10mm×高さ5mmの円柱状の型枠に充填し、十分に光重合を行って硬化させた。その後に型枠から硬化物を取り出し、硬化物を37℃水中に24時間浸漬したものを研磨性試験の試料とした。この試料の片表面を耐水研磨紙1500番で研磨後、歯科用研磨ディスク(3M社製、Sof-Lex(登録商標) Superfine)にて一分間仕上げ研磨した。表面の光沢について、測定範囲を直径6mmとし、測定角度60°の光沢度が93.5%の標準板でキャリブレーションした光沢度計(日本電色工業株式会社製、VG 2000、JIS Z 8741:1997に準拠)を用い、60°の角度で測定し(n=2)、研磨性の指標とした。測定した平均値を表2、3に示す。研磨性としては、光沢度65%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
【0123】
[フィラーの平均一次粒子径]
有機無機複合フィラー(D)及び無機フィラー(E)の平均一次粒子径の測定方法は以下の通りである。平均一次粒子径が0.10μm以上のフィラーの平均一次粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-7500nano、株式会社島津製作所製)により体積基準で測定した。分散媒には、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いた。平均一次粒子径が0.10μm未満のフィラー(無機超微粒子)の平均一次粒子径は、粒子の透過電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、H-800NA型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック))を用いて測定することにより求めた(n=1)。このとき、粒子の粒子径は、最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0124】
[光拡散度]
後述の実施例及び比較例で作製した各歯科用修復材組成物を直径30mm×厚さ0.25±0.01mmの円柱状の型枠に充填し、十分に光重合を行って硬化させ試験片とした。この試験片について、ゴニオフォトメーター(村上色彩技術研究所、GP-200)を用いて、透過光の光度分布を測定した(n=1)。光拡散度は以下の式に従って計算した。
光拡散度={(I20/cos20°)+(I70/cos70°)}/(2×I
ここで、Iは試料を透過した光の光度を表し、I、I20、I70は光の入射方向に対してそれぞれ、0°、20°、70°方向の光の強さを表す。三角関数は光度を測定した方向の余弦を示し、角度の単位は度(°)である。
【0125】
[プレポリマーの重量平均分子量]
プレポリマーの重量平均分子量はGPC測定により求めた。すなわち、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「TSKgel SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。またGPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製の「HLC-8320GPC」を用いた。測定には、まずプレポリマー4mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解させて試料溶液を作製した。次いで、カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35mL/分で試料溶液20μLを注入してプレポリマーのクロマトグラムを測定した。一方、分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づき、上記のように測定したプレポリマーのクロマトグラムからプレポリマーの重量平均分子量を求めた(n=1)。
【0126】
[プレポリマーが有する未反応の重合性官能基の数(1分子あたりの平均)]
H-NMR測定にてプレポリマーが有する未反応の重合性官能基の濃度ρ(mol/g)を求め、これに前述の方法で求めた重量平均分子量(M)を乗じた値(ρ×M)を算出し、これをプレポリマーが有する未反応の重合性官能基の数(1分子あたりの平均)とした。
なお、上記H-NMR測定では、プレポリマー約30mg及び内標としてのテレフタル酸ジメチル(分子量:194.19)約2mgを秤量し(プレポリマーの秤量値をW(mg)、テレフタル酸ジメチルの秤量値をW(mg)とする)、重水素化クロロホルム3mLに溶解した。続いて核磁気共鳴装置(Bruker社製「ULTRA SHIELD 400 PLUS」)を用いて、室温、積算回数16回の条件にて測定し、メタクリロイル基由来のプロトンピーク(5.55ppmと6.12ppm)の積分値とテレフタル酸ジメチルの芳香族プロトンピーク(8.10ppm)の積分値とから、以下の式でメタクリロイル基とテレフタル酸ジメチルのモル比(RP/D)を求めた。
P/D=[(I5.55+I6.12)/2]/(I8.10/4)
(ここで、I5.55は5.55ppmのピークの積分値を示し、I6.12は6.12ppmのピークの積分値を示し、I8.10は8.10ppmのピークの積分値を示す。)
そして、得られたメタクリロイル基とテレフタル酸ジメチルのモル比(RP/D)を用いて、以下の式でプレポリマー中の重合性官能基の濃度ρ[mol/g]を求めた(n=1)。
ρ=[RP/D×W/194.19]/W
(ここで、Wはテレフタル酸ジメチルの秤量値(mg)を示し、Wはプレポリマーの秤量値(mg)を示す。)
【0127】
(実施例1)
表2に記載の質量比にて重合性単量体に重合開始剤及び重合促進剤を完全に溶解させた後、メノウ乳鉢を用いて、有機無機複合フィラー(D)としてD-1A(平均粒子径:5μm)、無機フィラー(E)としてE-2(平均一次粒子径:0.18μm)を表2に記載の質量比にて前記溶液に加えて混練し、均一なペーストとした。さらに、このペーストを減圧下で微細な気泡を除去し、上記の方法に基づいて各物性を評価した。
【0128】
(実施例2~15及び比較例1~5)
表2、3に示す組成(質量部)に従って、実施例1と同様に、実施例2~15及び比較例1~5の歯科用修復材組成物を調製し、各物性を評価した。結果を表2、3に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
表2及び表3に示すように、本発明の歯科用修復材組成物は、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、特定のモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、重合開始剤(C)、及び有機無機複合フィラー(D)を含有する組成物とすることで、重合収縮応力が小さく、硬化物の機械的強度と研磨性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の歯科用修復材組成物は、重合収縮応力が小さく、硬化物の機械的強度が高く、かつ研磨性にも優れるため、歯科用コンポジットレジン等に好適に用いることができる。特に、本発明の歯科用修復材組成物は重合収縮応力が小さいことからバルクフィルコンポジットレジンとしてより好適に用いることができる。