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特許7589201非水電解液二次電池用の正極板、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用の正極板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用の正極板、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用の正極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241118BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20241118BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241118BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241118BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241118BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0566
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/139
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022128380
(22)【出願日】2022-08-10
(65)【公開番号】P2024025158
(43)【公開日】2024-02-26
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-131123(JP,A)
【文献】特開2010-205430(JP,A)
【文献】特開2013-062105(JP,A)
【文献】特開2022-055890(JP,A)
【文献】特開2022-100812(JP,A)
【文献】特開2011-216472(JP,A)
【文献】特開2018-174096(JP,A)
【文献】特開2015-095423(JP,A)
【文献】特開2006-086116(JP,A)
【文献】特開2008-021614(JP,A)
【文献】特開2011-129442(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0144600(US,A1)
【文献】国際公開第2001/091211(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0117752(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第110957476(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 10/0566
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質と導電材を含む正極合材からなる正極合材層を備えた非水電解液二次電池において、
前記正極合材中での前記導電材の割合をR、前記導電材の比表面積をB、前記正極合材中の前記正極活物質の割合をR、前記正極活物質の比表面積をB、合計表面積比をRとし、
=(R×B)/(R×B)としたときに、
前記導電材のアスペクト比ARが30以上で、
前記合計表面積比Rが0.20~1.93であり、
空隙率P[%]が40~55[%]とし、
前記正極活物質の比表面積B [m /g]を1.6~3.3[m /g]、
前記導電材の比表面積B [m /g]を180~500[m /g]、
前記正極合材中での前記導電材の割合R [%]を0.2~1.5[%]
としたことを特徴とする非水電解液二次電池用の正極板。
【請求項2】
前記正極板の前記正極合材層を、前記セパレータ側と前記正極集電体側とに2分割した場合、
前記セパレータ側に存在する前記導電材の質量MUP[g]が、前記正極集電体側に存在する質量MLOW[g]より多いことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用の正極板。
【請求項3】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質と導電材を含む正極合材からなる正極合材層を備えた非水電解液二次電池において、
前記正極合材中での前記導電材の割合をR、前記導電材の比表面積をB、前記正極合材中の前記正極活物質の割合をR、前記正極活物質の比表面積をB、合計表面積比をRとし、
=(R×B)/(R×B)としたときに、
前記導電材のアスペクト比ARが30以上で、
前記合計表面積比Rが0.20~1.93であり、
空隙率P[%]が40~55[%]とし、
前記正極板の前記正極合材層を、前記セパレータ側と前記正極集電体側とに2分割した場合、
前記セパレータ側に存在する前記導電材の質量MUP[g]が、前記正極集電体側に存在する質量MLOW[g]より多く
前記正極合材層に存在する前記正極集電体側の質量MLOW[g]に対する前記導電材の前記セパレータ側の質量MUP[g]の質量比である導電材上下比Rが1.5~20であることを特徴とする非水電解液二次電池用の正極板。
【請求項4】
前記正極集電体側の空隙率PLOW[%]が、前記セパレータ側の空隙率PUP[%]より大きいことを特徴とする請求項2に記載の非水電解液二次電池用の正極板。
【請求項5】
前記セパレータ側の空隙率PUP[%]に対する前記正極集電体側のPLOW[%]の比である空隙率上下比Rが1.1~12であることを特徴とする請求項4に記載の非水電解液二次電池用の正極板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用の正極板を備えたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項7】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質と導電材を含む正極合材からなる正極合材層を備えた非水電解液二次電池の正極板の製造方法であって、
正極合材ペースト調製工程と、正極合材ペースト塗布工程と乾燥工程とを備え、
前記正極合材ペースト調製工程は、前記正極合材中での前記導電材の割合をR、前記導電材の比表面積をB、前記正極合材中の前記正極活物質の割合をR、前記正極活物質の比表面積をB、合計表面積比をRとし、
=(R×B)/(R×B)としたときに、
前記導電材のアスペクト比ARを30以上とし、
前記合計表面積比Rを0.20~1.93とし、
空隙率P[%]を40~55[%]とし
前記正極活物質の比表面積B [m /g]を1.6~3.3[m /g]、
前記導電材の比表面積B [m /g]を180~500[m /g]、
前記正極合材中での前記導電材の割合R [%]を0.2~1.5[%]とした
ことを特徴とする非水電解液二次電池用の正極板の製造方法。
【請求項8】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質と導電材を含む正極合材からなる正極合材層を備えた非水電解液二次電池の正極板の製造方法であって、
正極合材ペースト調製工程と、正極合材ペースト塗布工程と乾燥工程とを備え、
前記正極合材ペースト調製工程は、前記正極合材中での前記導電材の割合をR、前記導電材の比表面積をB、前記正極合材中の前記正極活物質の割合をR、前記正極活物質の比表面積をB、合計表面積比をRとし、
=(R×B)/(R×B)としたときに、
前記導電材のアスペクト比ARを30以上とし、
前記合計表面積比Rを0.20~1.93とし、
空隙率P[%]を40~55[%]とし
前記正極板の前記正極合材層を、前記セパレータ側と前記正極集電体側とに2分割した場合、
前記正極合材ペースト調製工程は、正極合材ペーストの固形分率NVを調整するとともに、前記乾燥工程における乾燥温度及び乾燥時間を制御することで、
前記乾燥工程後の前記正極合材層を、前記正極合材層に存在する正極集電体側の質量MLOW[g]に対する前記導電材の前記セパレータ側の質量MUP[g]の質量比である導電材上下比Rを1.5~20とし、
前記セパレータ側の空隙率PUP[%]に対する前記正極集電体側の空隙率PLOW[%]の割合である空隙率上下比Rを1.1~12とすることを特徴とする非水電解液二次電池用の正極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用の正極板、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用の正極板の製造方法に係り、詳しくは導電材の配合を適正化した非水電解液二次電池用の正極板、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用の正極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池の正極板は、正極合材層に電池の主反応を担う正極活物質を備えている。また、正極活物質自体の導電性は高くないため、非水電解液と正極活物質との導電性を高めるため導電材が添加される。そこで、この正極活物質を金属箔などからなる基板となる正極集電体に固定するため、結着剤、粘度調整剤からなるバインダが混合される。そして、これらの正極活物質、導電材、バインダ、溶媒を加えて混練されペースト状にされる。このように混練されて製造されたペーストを基板となる正極集電体に塗工工程で塗工する。塗工後は、乾燥されて溶媒が除去されて固形分が基板に固定され正極合材層が形成される。この正極合材層は、プレス工程で、均一の厚さにプレスされて整形される。
【0003】
このような正極板では、主反応を担う正極活物質の表面積により反応量が変化するため、正極活物質の比表面積が大きい方が望ましいといえる。一方、電極合材層の導電性を高めるためには導電材の表面積も必要であるが、過度に導電材を添加すれば、却って正極活物質の量が減り、その表面積も減少することから電池の性能が低下する。このため、正極活物質と導電材の配合には、その表面積[m]のバランスが重要な要素となっている。
【0004】
そこで、特許文献1に記載された発明では、正極に、金属リチウム基準で4.5V以上の高電位を発現する正極活物質と、導電剤として難黒鉛化炭素とカーボンブラックと、を有する。正極合剤に占める正極活物質の表面積(SA)に対する導電剤の表面積(SC)の比率(SC)/(SA)が、0.5以上2.5以下となるよう正極を構成するものが開示されている。
【0005】
また、特許文献2に記載の発明では、正極活物質であるリン酸鉄リチウムは、BET比表面積が5~30[m/g]の範囲に設定されている。3種の炭素材料は、それぞれの重量とそのBET比表面積との積で表される表面積の総合計が、リン酸鉄リチウムの表面積を1としたときに0.1~1.2の範囲に調整されているものが開示されている。
【0006】
これらのような発明であれば正極板の表面積を制御することで正極活物質と導電材との配合を適正化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-129442号公報
【文献】特開2010-205430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、正極板の比表面積は導電材の配合を決定するための重要な要素ではあるが、それだけでは理想的な電極状態(最も性能がでる状態)とすることはできない。本発明者らの解析によれば導電材の種類、電極の空隙率等によっても影響を受けることが判明した。
【0009】
本発明の非水電解液二次電池用の正極板、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用の正極板の製造方法が解決しようとする課題は、非水電解液二次電池用の正極板の導電材の配合を適正化することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池用の正極板は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質と導電材を含む正極合材からなる正極合材層を備えた非水電解液二次電池において、前記正極合材中での前記導電材の割合をR、前記導電材の比表面積をB、前記正極合材中の前記正極活物質の割合をR、前記正極活物質の比表面積をB、合計表面積比をRとし、R=(R×B)/(R×B)としたときに、前記導電材のアスペクト比ARが30以上で、前記合計表面積比Rが0.20~1.93であり、空隙率P[%]が40~55[%]であることを特徴とする。
【0011】
前記正極活物質の比表面積B[m/g]を1.6~3.3[m/g]、前記導電材の比表面積B[m/g]を180~500[m/g]、前記正極合材中での前記導電材の割合R[%]を0.2~1.5[%]とすることが好ましい。
【0012】
また、前記正極板の前記正極合材層を、前記セパレータ側と前記正極集電体側とに2分割した場合、前記セパレータ側に存在する前記導電材の質量MUP[g]が、前記正極集電体側に存在する質量MLOW[g]より多くなるようにすることもできる。
【0013】
この場合、前記正極合材層に存在する前記正極集電体側の質量MLOW[g]に対する前記導電材の前記セパレータ側の質量MUP[g]の質量比である導電材上下比Rが1.5~20とすることも好ましい。
【0014】
また、前記正極集電体側の空隙率PLOW[%]が、前記セパレータ側の空隙率PUP[%]より大きくすることもできる。
この場合、前記セパレータ側の空隙率PUP[%]に対する前記正極集電体側のPLOW[%]の比である空隙率上下比Rが1.1~12とすることも好ましい。
【0015】
非水電解液二次電池は、上記の非水電解液二次電池用の正極板を備えることが望ましい。
また、本発明の非水電解液二次電池用の正極板の製造方法は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質と導電材を含む正極合材からなる正極合材層を備えた非水電解液二次電池の正極板の製造方法であって、正極合材ペースト調製工程と、正極合材ペースト塗布工程と乾燥工程とを備え、正極合材ペースト調製工程は、前記正極合材中での前記導電材の割合をR、前記導電材の比表面積をB、前記正極合材中の前記正極活物質の割合をR、前記正極活物質の比表面積をB、合計表面積比をRとし、R=(R×B)/(R×B)としたときに、
前記導電材のアスペクト比ARを30以上とし、前記合計表面積比Rを0.20~1.93とし、空隙率P[%]を40~55[%]としたことを特徴とする。
【0016】
前記正極板の前記正極合材層を、前記セパレータ側と前記正極集電体側とに2分割した場合、前記正極合材ペースト調製工程は、正極合材ペーストの固形分率NVを調整するとともに、前記乾燥工程における乾燥温度及び乾燥時間を制御することで、前記乾燥工程後の前記正極合材層を、前記正極合材層に存在する前記正極集電体側の質量MLOW[g]に対する前記導電材の前記セパレータ側の質量MUP[g]の質量比である導電材上下比Rを1.5~20とし、前記セパレータ側の空隙率PUP[%]に対する前記正極集電体側の空隙率PLOW[%]の割合である空隙率上下比Rを1.1~12とすることも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の非水電解液二次電池用の正極板、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用の正極板の製造方法によれば、非水電解液二次電池用の正極板の導電材の配合を適正化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成の概略を示す斜視図である。
図2】本実施形態の捲回される電極体の構成を示す模式図である。
図3】正極活物質の粒子と導電材と非水電解液の関係を示し、(a)空隙率Pが高く、アスペクト比ARが低い状態の正極活物質の粒子と導電材と非水電解液の関係を示す。(b)空隙率Pが適正で、かつアスペクト比ARが大きいひも状の正極活物質の粒子と導電材と非水電解液の関係を示す。(c)空隙率Pが低い正極活物質の粒子と導電材と非水電解液の関係を示す。
図4】正極板製造工程の手順を示すフローチャートである。
図5】正極板製造工程の手順を示す模式図である。(a)表面正極合材ペースト塗布工程1を示す模式図である。(b)乾燥工程1を示す模式図である。(c)裏面正極合材ペースト塗布工程の手順を示す模式図である。
図6】実験例1を示す表である。
図7】実験例2を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の非水電解液二次電池用の正極板、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用の正極板の製造方法を、リチウムイオン二次電池1及びその正極板2の製造方法の一実施形態により図1~7を参照して説明する。
【0020】
(定義)
まず本実施形態の前提となる用語の定義等を説明する。
<比表面積[m/g]>
比表面積[m/g]は、単位質量[g]当たりの面積[m]で表される。比表面積の測定は、吸着法、湿潤熱法、反応法などがあり、吸着法は、BET法や、Langmuir法がある。
【0021】
本実施形態では、広く普及している、BET法(Berunauer Emmett and Teller’s method・ガス吸着法)により正極合材層を構成する正極活物質や導電材の粒子の比表面積を求める方法を用いている。具体的には、BET比表面積測定装置は、例えばQuanta chrome社製のQuantasorb(登録商標)を使用し、窒素ガスを吸着ガスとした。なお、吸着ガスをクリプトンにすることにより、さらに小さなサンプルでの測定も可能である。サンプルセルにはバルクソリッドセルを使用し、正極活物質や導電材の粒子のサンプルをこのセルの中に丸めてセットして測定した。
【0022】
本実施形態では、このようにして測定したBET[m/g]の値を比表面積B[m/g]とする。そして正極活物質22bの比表面積[m/g]を正極活物質比表面積B[m/g]とする。また、導電材22cの比表面積[m/g]を導電材比表面積B[m/g]とする。
【0023】
<表面積S[m]>
表面積S[m]は、前述のBET比表面積測定装置により直接測定してもよいし、上述のBETの値に基づいて、質量[g]から導き出してもよい。
【0024】
このように導き出した正極合材層22の全体に含まれる正極活物質22bの表面積をS[m]とする。また、正極合材層22の全体に含まれる導電材22cの表面積をS[m]とする。
【0025】
<空隙率P[%]>
ここで空隙率P(Porosity)[%]とは、粒子間空隙などの空間を含む量を表す尺度である。空隙率P[%]は、一般に透水係数と比例する関係を有するため、本実施形態では、セル内の非水電解液13が正極合材層22に流通する効率を示す指標としている。
【0026】
図3(c)に示すように、空隙率P[%]は、正極合材層22内の正極活物質22b間の間隙Gの指標ともなる。
空隙率P[%]は、例えば、多孔質試料をぬれ性のいい液体に浸漬し、空隙部を液体で飽和させる液浸法で測定する。また、試料断面の顕微鏡観察を通じ、物質面積および視認可能な空隙の面積を決定する光学法を用いてもよい。さらに、表面張力が強い水銀を微細な小孔に侵入させる外部から圧力の大きさに対する圧入量を測定することで小孔径の分布と空孔容積を求める水銀圧入法などで測定してもよい。
【0027】
<平均径>
本実施形態では、「平均径」は、特に断りがない限り体積基準の粒度分布における累積50%に相当するメジアン径(D50:50%体積平均粒径)を意味する。他の「平均」についても同様である。平均粒径がおおよそ1μm以上の範囲については、レーザ回折・光散乱法により求めることができる。また、平均粒径がおおよそ1μm以下の範囲については、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)法により求めることができる。DLS法に基づく平均粒径は、JISZ8828:2013に準じて測定することができる。
【0028】
<アスペクト比AR>
「アスペクト比(Aspect Ratio)」とは、図3(b)に示すように繊維状の導電材22cの長さと径の比率を表す。正極合材層22の導電ネットワークの向上のために導電材22cのアスペクト比ARは30以上が好ましい。アスペクト比ARが30以上であれば、すくない質量でも効果的な導電ネットワークを形成することができるため、正極合材層22への導電材22cの添加量を減らして空隙率P[%]を高めることができる。図3(a)に示す従来の導電材22cは、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)などの粒子が用いられている。これらは、アスペクト比ARが小さい粒状の形状をしている。このため導電ネットワークを効率的に形成するためには、一定の密度が要求される。導電ネットワークを効率的に形成する特性を持った導電材22cとしては、アスペクト比ARの大きな導電材22c、例えばカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)が挙げられる。
【0029】
<固形分率NV>
固形分率NV(Non-Volatile matter content)[%]は、固体と液体の混合物を作る時における、液体に対する固形分の割合をいう。濃度の表現には重量表示[wt%]と容積表示[vol%]があり、固体と液体の混合物では重量表示[wt%]、液体同士の混合物では重量表示[wt%]、容積表示[vol%]のいずれかが用いられる。本実施形態では、塗工工程後の正極合材ペーストの質量[g]に対する、乾燥工程後の正極合材ペーストの質量[g]の割合をいう。具体的には、「JIS K 5601_1_2塗料成分試験方法-第1部-第2節:加熱残分」に規定する方法で測定する。
【0030】
言い換えれば、固形分率NV[%]が低ければ、溶媒の質量の比率が多く、正極合材ペースト22aの流動性が高い。このため、塗工工程(S2、S4)直後では正極活物質22bの粒子が重力により沈殿しやすく、逆に比重の小さい導電材22cは浮き上がりやすい。
【0031】
(本実施形態の原理)
<表面積Sと比表面積B>
背景技術で述べたように、電極体12の正極板2では、主反応を担う正極活物質22bの表面積S[m]により反応量が変化するため、正極活物質22bの粒子の表面積S[m]が大きい方が望ましいといえる。また、同じ正極活物質22bの配合量でも、比表面積(BET)[m/g]が大きければ、反応面積が増大するので、比表面積(BET)[m/g]も大きい方が望ましい。
【0032】
他方、正極合材層22の導電性を高めるためには導電材22cが必要であるため、十分な量の導電材22cを配合することが望ましいといえる。しかしながら過度に導電材22cを添加すれば、導電材22c自体は電池の主反応に寄与しないため、却って正極活物質22bの量が減り、電池の性能が低下する。また、同じ導電材22cの配合量でも、比表面積(BET)[m/g]が大きければ導電ネットワークを形成しやすいので、比表面積(BET)[m/g]も大きい方が望ましい。
【0033】
以上のように、正極活物質22bと導電材22cの適切な配合には、比表面積(BET)[m/g]を勘案した表面積S[m]のバランスが重要な要素となっている。
<アスペクト比ARと空隙率P>
図3は、正極活物質22bの粒子と導電材22cと結着材22d及び非水電解液13の関係を示す。図3(a)は、空隙率Pが高く、アスペクト比ARが低い導電材22cを用いた状態の正極活物質22bの粒子と導電材22cと非水電解液13の関係を示す。
【0034】
ここでは、従来のように、導電材22cは、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)などの粒子などが用いられている。これらの導電材22cは、アスペクト比AR(径に対する長さの比率)が小さい粒状の形状をしている。このようなアスペクト比ARが小さな導電材22cの場合は、一定以上の密度が無いと、導電材22c間の接触が少なく、非水電解液13と正極活物質22b間の有効な導電ネットワークを形成することができない。
【0035】
図3(b)は、空隙率Pが高く、かつアスペクト比ARが大きいひも状の正極活物質22bと導電材22cと非水電解液13の関係を示す。例えば、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)のようにアスペクト比ARが30以上の導電材22cは、ひも状の形状をなしている。このため、図3(b)に示すように、アスペクト比ARが大きい導電材22cは、配合量が少量でも相互に導電材22cが接触しやすく、効果的な導電ネットワークを形成することができる。このため、アスペクト比ARの小さな導電材22cと比較すると、導電材22cの配合量を少なくしても、同等の導電ネットワークを形成することができる。言い換えると、導電材22cの配合を少なくすることができるので、より正極活物質22bの配合を多くすることができる。
【0036】
図3(c)は、空隙率Pが低い正極活物質22bの粒子と導電材22cと非水電解液13との関係を示す。例えば、表面積S[m]の拡大を意図して正極活物質22bの粒子と導電材22cのいずれも多量に正極合材層22に配合すると、正極活物質22bの粒子と導電材22cとの間隙Gの平均値が小さくなる。そうすると、正極活物質22bの粒子の表面積S[m]と導電材22cのそれぞれの表面積S[m]はそれぞれ増大するが、正極合材層22における空隙率P[%]が低下する。そうすると、正極合材層22に、非水電解液13が浸み込みにくくなる。このため、結果的に正極活物質22bにおけるLiイオンの拡散が損なわれ主反応を損なってしまう。このような理由から、電池の主反応に必要な非水電解液13の流通を確保するためには、適正な空隙率P[%]が必要となる。
【0037】
<本実施形態の特徴>
以上のような事情を総合的に考慮した結果、より高い電池性能を達成するには、以下のような要素などを考慮して、より望ましい配合とする必要がある。すなわち導電材22cの割合R[%]、導電材22cの比表面積B[m/g]、導電材22cの表面積S[m]である。また、正極合材中の正極活物質22bの割合R[%]、正極活物質22bの比表面積B[m/g]、正極活物質22bの表面積S[m]である。
【0038】
そこで、本実施形態では、これらを総合的に適正化するため合計表面積比Rという概念を導入し、R=(R×B)/(R×B)という式から最適値を導き出す。
また、アスペクト比ARや、空隙率P[%]についても考慮することで、さらに望ましい配合比とすることができる。
【0039】
以下、本実施形態を詳細に説明する。
(本実施形態の構成)
まず、前提となる本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成について説明する。
【0040】
<リチウムイオン二次電池1の構成>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。次に本実施形態のリチウムイオン二次電池1についてその構成を説明する。図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11の本体を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11には蓋に穿設された注液孔から非水電解液13が充填される。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、レーザ溶接などで本体と蓋が密封されて気密な電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は、図1に示されるものに限定されない。
【0041】
<電極体12>
図2は、捲回される電極体12の一部を展開した構成を示す模式図である。電極体12は、多数の正極板2と負極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが扁平に捲回されて形成されている。
【0042】
正極板2は、基材となる正極集電体21上に正極合材層22が形成される。図2に示すように、正極集電体21が捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側(図2において上、負極接続部33と反対側)に正極接続部23が設けられている。正極接続部23には、正極合材層22が形成されておらず正極集電体21の金属が露出したものとなっている。
【0043】
負極板3は、基材となる負極集電体31上に負極合材層32が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の他端側(図2において下)に負極合材層32が形成されておらず負極集電体31が露出した負極接続部33が設けられている。
【0044】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である正極板2、負極板3、セパレータ4について説明する。
【0045】
<正極板2>
正極板2は、正極集電体21と、ここに塗工された正極合材層22とから構成される。
<正極集電体21>
正極基材となる正極集電体21の両面に正極合材層22が形成されて正極板2が構成されている。正極集電体21は、実施形態ではAl箔から構成されている。正極集電体21は、正極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0046】
まず、正極集電体21を構成する正極基材は、Al箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができるが、正極集電体21の構成はこれに限られるものではない。
【0047】
<正極合材層22>
正極合材層22は、正極合材ペースト22aを正極集電体21に塗工、乾燥して形成される。正極合材層22は、正極活物質22bのほか、導電材22c、結着材22d、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0048】
<正極合材層22における正極活物質22bと導電材22cの配合>
正極合材中での導電材22cの割合をR、導電材22cの比表面積[m/g]をB[m/g]、正極合材中の正極活物質22bの割合をR、正極活物質22bの比表面積[m/g]をB[m/g]、合計表面積比をRとする。また、R=(R×B)/(R×B)とする。このとき合計表面積比Rを0.20~1.93としている。
【0049】
その前提として、導電材22cのアスペクト比ARが30以上である。
また、空隙率Pが40~55となるようにしている。
好ましくは、合計表面積比Rは0.92~1.93であり、かつ、正極活物質の比表面積B[m/g]を1.6[m/g]以上、2.0[m/g]以下とする。また、導電材22cの比表面積B[m/g]を180[m/g]以上、200[m/g]以下、正極合材中での導電材22cの割合Rを1.0[%]以上、1.5[%]以下とする。
【0050】
<正極合材層22における密度差>
図3(b)正極板2の正極合材層22を、上(セパレータ4)側と下(正極集電体21)側とに2分割する。この場合、セパレータ4側に存在する導電材22cの質量MUP[g]が、正極集電体側に存在する導電材22cの質量MLOW[g]より多くなるように構成されている。
【0051】
また、正極集電体21側の空隙率PLOW[%]が、セパレータ4側の空隙率PUP[%]より大きくなるように構成されている。
より具体的には、正極合材層22に存在する正極集電体21側の質量MLOW[g]に対する導電材22cのセパレータ4側の質量MUP[g]の質量比である導電材上下比Rが1.5以上、17.75以下となるように構成されている。
【0052】
また、セパレータ4側の空隙率PUP[%]に対する正極集電体21側の空隙率PLOW[%]の空隙率上下比Rが1.1以上、1.70以下となるように構成されている。
<正極合材ペースト22a>
正極合材ペースト22aは、正極活物質22bのほか、導電材22c、結着材22d及び分散剤等の添加剤に、溶媒22eを添加してペースト状にしたものである。溶媒22eは、非水の有機溶剤であり、正極合材ペースト22aの粘度を調整する。粘度の調整は、設定された固形分率NVに基づいて調整される。
【0053】
図5は、正極板製造工程の手順を示す模式図である。図5(a)は、表面正極合材ペースト塗布工程(S2)を示す模式図である。図5(b)は、乾燥工程1(S3)を示す模式図である。図5(c)は、裏面正極合材ペースト塗布工程(S4)の手順を示す模式図である。
【0054】
正極合材層22は、図4に示す塗工工程(図5(a)に示す表面正極合材ペースト塗工工程(S2)、図5(c)に示す裏面正極合材ペースト塗工工程(S4))で、正極合材ペースト22aが正極集電体21に塗工される。その後乾燥工程(図5(b)に示す乾燥工程1(S3)、図示しない乾燥工程2(S5))で、乾燥固着される。図5(a)に示す正極合材ペースト22aの段階では、溶媒22eが配合されている。しかし、図5(b)に示す乾燥工程1(S3)後の正極合材層22では、溶媒22eは揮発して消失している。
【0055】
<正極活物質22bの組成>
正極活物質22bの一次粒子は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0056】
正極活物質22bは、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
【0057】
好ましい一態様において、正極活物質22bは、下記一般式(1)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li+xNiCoMn(1-y-z)MAαMBβ…(1)
上記式(1)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.6を満たす実数であり得る。MAは、W、CrおよびMoから選択される少なくとも1種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示している。しかし、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
【0058】
<導電材22c>
導電材22cは、正極合材層22中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層22に適量の導電材を混合することにより、正極内部の導電性を高めて、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。本実施形態の導電材22cとしては、前述のようにアスペクト比ARが30以上のひも状のものを用いる。例えば、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)などの炭素材料を用いることができる。
【0059】
<結着材22d>
結着材22dには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0060】
<負極板3>
負極基材となる負極集電体31の両面に負極合材層32が形成されて負極板3が構成されている。負極集電体31は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体31は、負極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。本実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0061】
負極板3は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着材(バインダ)とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極集電体31に塗工して乾燥することで作製される。
<セパレータ4>
セパレータ4は、正極板2及び負極板3の間に非水電解液13を保持するためのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂シートを用いることができる。このような多孔性樹脂シートは、各種材料を単独で用いた単層構造であってもよく、各種材料を組み合わせた多層構造であってもよい。
【0062】
<非水電解液13>
図1に示すように非水電解液13は、電池ケース11により構成される電槽内に充填されている。リチウムイオン二次電池1の非水電解液13は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。非水電解液として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。非水電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0063】
<正極板2の製造方法>
図4は、正極板製造工程の手順を示すフローチャートである。本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板2は、以下の工程で製造される。図4のフローチャートを参照して、それぞれの手順について説明する。
【0064】
<正極合材ペースト調製工程(S1)>
正極合材ペースト調製工程(S1)は、上述のような配合で正極合材ペースト22aを製造する。このとき、所定の粘度[Pa・s]となるように設定した固形分率NVに基づいて溶媒22eの配合量を決定して粘度の調整を行う。
【0065】
<表面正極合材ペースト塗布工程(S2)>
図5(a)に示すように、表面正極合材ペースト塗布工程(S2)では、図示しない切断前の長尺の正極集電体21が巻き取られた供給リールから、ベルトコンベアなどの定速の搬送機により搬送されている。この定速で搬送される正極集電体21の上部に塗工機5が配置されている。塗工機5には、図示しない正極合材ペースト22aが貯留された貯留タンクから十分に攪拌され均一化された正極合材ペースト22aが供給されている。塗工機5は、この正極合材ペースト22aを、定圧、定量でノズル51から吐出する。ノズル51は、正極集電体21と一定のギャップを有し、ノズル51から吐出された正極合材ペースト22aは、重力により流下して正極集電体21の表面(図5(a)において上面)に一定の厚さとなるように塗工される。
【0066】
表面正極合材ペースト塗布工程(S2)で塗工されたばかりの正極合材ペースト22aは、固形分率NVにより粘度が調整されている。
<乾燥工程1(S3)>
乾燥工程1(S3)は、表面正極合材ペースト塗布工程(S2)で塗工された正極合材ペースト22aを加熱して溶媒22eを揮発させることにより乾燥、硬化させる。
【0067】
この乾燥工程1(S3)においては、開始から徐々に正極合材層22の温度が上昇するが、このとき「マイグレーション(migration)」という現象を生じる。マイグレーションとは電界の影響で金属成分が非金属媒体の上や中を横切って移動する現象である。一般的に電流を流したときに生じるエレクトロマイグレーション(electro migration)の場合が顕著である。しかしながら、電流を流さない場合においても電解現象によるイオンマイグレーション(ionic migration)を生じることがある。
【0068】
本実施形態の乾燥工程1(S3)においても、図5(b)に示すように比較的密度が高い正極活物質22bは、重力加速度も加わって正極集電体21に引き寄せられるように下に移動する。一方、導電材22cや結着材22dは、比較的密度も低く、図示を省略したが正極集電体21から離れるように図5(b)において上に移動する。結着材22dが正極集電体21から離れるように図5(b)において上に移動する。このため、正極集電体21に引き寄せられた正極活物質22bの空隙率PLOW[%]が小さくなる。
【0069】
このマイグレーションによる移動は、粘度[Pa・s]と時間[s]により変化する。このため、設定したバランスとなるように、固形分率NVに基づいて正極合材ペースト22aの粘度[Pa・s]を設定する。また、乾燥温度[°C]と乾燥時間[s]を設定することで、移動時間を制御する。そうすると、正極活物質22bや導電材22c、バインダなどの移動量を、所望の状態にすることができる。
【0070】
具体的には、乾燥工程1(S3)後の正極合材層22が、導電材上下比Rが1.5以上、20以下となるように設定する。導電材上下比Rは、正極合材層22に存在する正極集電体21側の質量MLOW[g]に対する導電材22cのセパレータ4側の質量MUP[g]の割合である。
【0071】
また、空隙率上下比Rが1.1~12となるように設定する。空隙率上下比Rは、セパレータ4側の空隙率PUP[%]に対する正極集電体21側の空隙率PLOW[%]の割合である。
【0072】
<裏面正極合材ペースト塗布工程(S4)>
図5(c)に示すように、乾燥工程1(S3)による乾燥が完了して、正極合材層22が硬化したら、上下反転して裏面の裏面正極合材ペースト塗布工程(S4)を行う。
【0073】
ここでの手順は、表面正極合材ペースト塗布工程(S2)と同様な手順である。
なお、この例示は、正極集電体21の片面のみに正極合材層22を形成したものや、両面の正極合材層22の厚さを変更したような態様を排除する意図ではない。
【0074】
<乾燥工程2(S5)>
この乾燥工程2(S5)は、乾燥工程1(S3)と同様な工程である。
<プレス工程(S6)>
乾燥工程2(S5)が終了したら、プレス工程(S6)で、図示しないローラプレス機により所定のギャップで正極合材層22が形成された正極板2をプレスする。その結果、正極板2の表面が平坦に整形されるとともに、設定した厚さに整形される。
【0075】
<切断工程(S7)>
プレス工程(S6)で整形された正極板2は、目的の長さに切断される。
<後工程>
なお、完成した正極板2は、図2に示すように、正極板2と、負極板3と、正極板2および負極板3を絶縁するセパレータ4とともに捲回され電極体12が組み立てられる。電極体12の正極接続部23には、正極外部端子14が電池ケース11の蓋を介して接続される。電極体12の負極接続部33には、負極外部端子15が電池ケース11の蓋を介して接続される。そして、電極体12は、電池ケース11の本体に収容される。そして電池ケース11の蓋と本体がレーザ溶接などで密封される。その後、乾燥工程で電池ケース11内が乾燥される。電池ケース11内が乾燥したら、注液工程で非水電解液13が電池ケース11内に充填される。その後、コンディショニング工程として、初充電によりSEI被膜が形成され、またエージング工程で微小短絡の解消を経て各種の検査が行われる。検査は開放電圧OCV、電池容量、内部抵抗などが行われ、異常がない場合は製品として出荷される。
【0076】
(本実施形態の作用)
本実施形態のリチウムイオン二次電池1及びその正極板2の製造方法では、以下のような作用を奏する。
【0077】
・アスペクト比ARが30以上の繊維状のCNTなどの導電材22cを用いることで効率的に導電ネットワークを形成できるため、導電材22cの配合量を少なくする。
・さらに導電材22cの配分量が少ない分空隙率P[%]を高くすることができ、Liイオンの拡散抵抗を低下させる。
【0078】
・アスペクト比ARが30以上の導電材22cの必要量は正極活物質22bの比表面積Bと導電材比表面積Bから決まり、合計表面積比Rを指定の範囲にすることで導電材22cの配合量を最小とすることができる。
【0079】
・正極活物質22bの比表面積Bが大きい場合、導電材22cの配合を大きくすることで、必要な導電パスを形成する。
逆に、導電材22cの比表面積Bが大きい場合、導電材22cの配合を小さくしても導電パスを形成しやすいので導電材料は少なくする。
【0080】
・空隙率が高すぎる場合、接点が少なく導電パスが形成できない。逆に空隙率Pが低過ぎる場合、導電パスは形成できるが、空隙が少なくなることで非水電解液13が正極板2の正極活物質22bに進入しにくくなり、液拡散抵抗が増加する。このため、Liイオンの拡散を阻害する。空隙率Pは指定範囲以下とすることでこれらの問題が生じないようにしている。
【0081】
<実験例1>
本実施形態のリチウムイオン二次電池1及びその正極板2の製造方法では、上述のような構成及び作用を備える。ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の実施例と比較例について説明する。
【0082】
図6は、実験例1を示す表である。表の各行は、基準値、実施例1~5と、比較例1~7を示す。表の各列は、左から、まず正極活物質22bについて、正極合材中の正極活物質22bの割合R[%]、正極活物質22bの比表面積B(BET値)[m/g]、正極活物質22bの表面積S[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比AR、正極合材中の導電材22cの割合R[%]、導電材22cの比表面積(BET値)B[m/g]、導電材22cの表面積S[m]を示す。また、続いて、(R=(R×B)/(R×B))から導かれる合計表面積比Rを示す。正極合材層22の空隙率P[%]を示す。そして、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗DC-IR[mΩ]を示す。
【0083】
<基準値>
基準値は、本発明の好ましい範囲を示している。基準値の範囲内であれば、本実施形態の実施例となる。一方、基準値から外れた場合は、本実施形態の比較例となる。但し、本発明を限定するものではない。
【0084】
アスペクト比ARの基準値は30以上である。合計表面積比Rの基準値は0.2~1.93である。正極合材層22の空隙率P[%]の基準値は40-55[%]である。また、内部抵抗DC-IR[mΩ]は、439[mΩ]以下を基準値としている。
【0085】
<実施例1>
実施例1では、正極活物質22bについて、割合R[%]が97[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が1.6[m/g]、表面積S[m]が155[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が1.5[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が200[m/g]、表面積S[m]が300[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが1.93を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が55[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が486[mΩ]を示す。
【0086】
アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの基準値の条件はすべて満たしている。
<実施例2>
実施例2では、正極活物質22bについて、割合R[%]が98[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が2.0[m/g]、表面積S[m]が196[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が1.0[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が180[m/g]、表面積S[m]が180[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.92を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が44[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が490[mΩ]を示す。
【0087】
アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの基準値の条件はすべて満たしている。
<実施例3>
実施例3では、正極活物質22bについて、割合R[%]が98[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が3.3[m/g]、表面積S[m]が323[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が0.2[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が330[m/g]、表面積S[m]が66[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.20を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が40[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が493[mΩ]を示す。
【0088】
アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの基準値の条件はすべて満たしている。
<実施例4>
実施例4では、正極活物質22bについて、割合R[%]が99[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が3.0[m/g]、表面積S[m]が297[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が0.3[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が500[m/g]、表面積S[m]が150[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.51を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が50[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が491[mΩ]を示す。
【0089】
アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの基準値の条件はすべて満たしている。
<実施例5>
実施例5では、正極活物質22bについて、割合R[%]が98[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が3.3[m/g]、表面積S[m]が323[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが30、割合R[%]が1.0[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が200[m/g]、表面積S[m]が200[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.62を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が50[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が490[mΩ]を示す。
【0090】
アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの基準値の条件はすべて満たしている。
<比較例1>
比較例1では、正極活物質22bについて、割合R[%]が94[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が1.0[m/g]、表面積S[m]が94[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が1.0[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が250[m/g]、表面積S[m]が250[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが2.66を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が39[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が519[mΩ]を示す。
【0091】
アスペクト比ARの条件は満たしている。合計表面積比Rは過大で、空隙率Pは過少で、いずれも基準値の条件は満たしていない。
内部抵抗DC-IR[mΩ]が上昇した理由は、正極活物質22bの表面積が小さく、合計表面積比Rが低いことである。このため導電材過剰で、かつまた、空隙率Pも過少のため、非水電解液13の拡散が不足していると思われる。
【0092】
<比較例2>
比較例2では、正極活物質22bについて、割合R[%]が99[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が3.3[m/g]、表面積S[m]が327[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が0.3[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が180[m/g]、表面積S[m]が54[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.17を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が48[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が518[mΩ]を示す。
【0093】
アスペクト比ARの条件は満たしている。合計表面積比Rは過少で、空隙率Pは過大で基準値の条件は満たしていない。
内部抵抗DC-IR[mΩ]が上昇した理由は、正極活物質22bの表面積Sが大きく、合計表面積比Rが低いことである。このため導電材22cが不足で、かつ空隙率Pも過大なため、導電パスが十分形成されていないと思われる。
【0094】
<比較例3>
比較例3では、正極活物質22bについて、割合R[%]が99[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が2.0[m/g]、表面積S[m]が198[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が0.1[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が220[m/g]、表面積S[m]が22[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.11を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が48[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が528[mΩ]を示す。
【0095】
アスペクト比ARの条件は満たしている。合計表面積比Rは過少、空隙率Pは過大で、いずれも基準値の条件は満たしていない。
内部抵抗DC-IR[mΩ]が上昇した理由は、導電材22cの比表面積Bが小さく、合計表面積比Rが低い。このため導電材22cが不足で、かつ空隙率Pも過大なため、導電パスが十分形成されていないと思われる。
【0096】
<比較例4>
比較例4では、正極活物質22bについて、割合R[%]が96[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が2.0[m/g]、表面積S[m]が192[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が2.0[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が250[m/g]、表面積S[m]が500[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが2.60を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が31[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が538[mΩ]を示す。
【0097】
アスペクト比ARの条件は満たしている。合計表面積比Rは過大、空隙率Pは過小で、いずれも基準値の条件は満たしていない。
内部抵抗DC-IR[mΩ]が上昇した理由は、導電材22cの表面積Sが大きく、合計表面積比Rが高い。このため導電材22cが過剰で、かつ空隙率Pも過少で非水電解液13の拡散が不十分であると思われる。
【0098】
<比較例5>
比較例5では、正極活物質22bについて、割合R[%]が98[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が2.0[m/g]、表面積S[m]が196[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが20、割合R[%]が1.0[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が180[m/g]、表面積S[m]が180[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.92を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が38[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が537[mΩ]を示す。
【0099】
アスペクト比ARが過少で条件を満たしてない。合計表面積比Rは基準値の条件を満たしているが、空隙率Pが過小で基準値の条件は満たしていない。
内部抵抗DC-IR[mΩ]が上昇した理由は、アスペクト比ARが低く、導電材22cが過少で、空隙率Pが過少であっても導電パスが十分形成されていないと思われる。
【0100】
<比較例6>
比較例6では、正極活物質22bについて、割合R[%]が98[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が2.0[m/g]、表面積S[m]が196[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が0.5[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が330[m/g]、表面積S[m]が165[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.84を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が33[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が539[mΩ]を示す。
【0101】
アスペクト比ARは、基準値の条件を満たしている。合計表面積比Rは基準値の条件を満たしているが、空隙率Pが過小で基準値の条件は満たしていない。
内部抵抗DC-IR[mΩ]が上昇した理由は、空隙率Pが過少で、間隙Gが狭く非水電解液13の拡散が不十分であると思われる。
【0102】
<比較例7>
比較例7では、正極活物質22bについて、割合R[%]が98[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が2.0[m/g]、表面積S[m]が196[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が1.0[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が180[m/g]、表面積S[m]が180[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.92を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が67[%]を示す。内部抵抗DC-IR[mΩ]が549[mΩ]を示す。
【0103】
アスペクト比ARは、基準値の条件を満たしている。合計表面積比Rは基準値の条件を満たしているが、空隙率P[%]が過大で基準値の条件は満たしていない。
内部抵抗DC-IR[mΩ]が上昇した理由は、空隙率P[%]が過大で、導電パスが十分形成されていないと思われる。
【0104】
<実験1のまとめ>
以上の実験を通して導かれる結果をまとめる。まず、実施例1~5については、いずれもアスペクト比ARが30~100の範囲で、合計表面積比Rが0.20~1.93の範囲であり、空隙率P[%]が40~55の範囲となっている。そして、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗DC-IR[mΩ]が486~493[mΩ]と低い抵抗値の範囲となっている。
【0105】
実施例1~5において、特に実施例1~2が、内部抵抗DC-IR[mΩ]が486~490[mΩ]と低くなっている。このときの条件は、合計表面積比Rが0.92~1.93となっている。また、正極活物質22bの比表面積B[m/g]は、1.6~2.0[m/g]となっている。導電材22cの比表面積B[m/g]は、180~200[m/g]となっている。また、正極合材中での導電材22cの割合R[%]は、1.0~1.5[%]となっている。
【0106】
一方、実施例3では、合計表面積比Rが0.20と比較的低くなっており、内部抵抗DC-IR[mΩ]が493[mΩ]と若干高くなっている。
また、実施例4では、導電材22cの比表面積B[m/g]が500[m/g]と比較的大きくなっている。この内部抵抗DC-IR[mΩ]は491[mΩ]と若干高くなっている。
【0107】
また、実施例5では、内部抵抗DC-IR[mΩ]が490[mΩ]と低くなっている。
<アスペクト比AR>
「アスペクト比AR」に関しては、比較例1~4、比較例6~7は、いずれもアスペクト比ARが100と基準を満たしている。
【0108】
一方、比較例5に関してはアスペクト比ARが20と基準値の下限である30を下回っている。この場合、空隙率P[%]が38[%]と空隙がやや小さく、むしろ導電パスについては有利な条件ともいえる。また、合計表面積比Rが0.92と基準値を満たしている。しかしながら、内部抵抗DC-IR[mΩ]が537[mΩ]と大きくなっている。この結果は、発明者らが見出したアスペクト比ARが30以上であるという基準値を満たさない。このため、導電材22c間の接触が少なく導電パスが不足して、十分な導電ネットワークが形成されていないものと推定できる。
【0109】
<合計表面積比R
「合計表面積比R」に関しては、比較例5~7はいずれも、基準値の0.20~1.93の範囲を満たしている。
【0110】
一方、比較例1~4は、基準値を満たしていない。特に比較例2及び比較例3は、アスペクト比ARや空隙率P[%]の基準値を満たしているにも拘わらず、内部抵抗DC-IR[mΩ]が518,528[mΩ]と大きくなっている。これは、合計表面積比Rが、0.17,0.11と基準値を下回っているのが原因であると考えられる。比較例2の場合は、正極活物質22bの比表面積B[m/g]が高く、表面積S[m]が大きいため、導電材22cが不足しているといえる。また、比較例3では、導電材22cの表面積S[m]が小さいことから、導電材22cが不足しているといえる。なお、比較例1及び比較例4の場合は、合計表面積比Rが基準値より大きくなっている。この場合は、導電材22cの配合が過剰で、かつ空隙率P[%]も過少であるため、非水電解液13の正極合材層22における拡散が不十分になっているものと思われる。
【0111】
<空隙率P[%]>
続いて「空隙率P[%]」に関しては、比較例2及び比較例3では、基準値40~55を満たしている。一方、比較例1、4~6は、基準値の下限値40を下回っている。
【0112】
特に比較例6はアスペクト比ARと合計表面積比Rの基準値を満たしているが、空隙率P[%]が基準値の下限値を下回って、内部抵抗DC-IR[mΩ]が539[mΩ]と大きくなっている。これは、空隙率P[%]が低く、非水電解液13の正極合材層22における拡散が不十分になっているものと思われる。
【0113】
また、比較例7はアスペクト比ARと合計表面積比Rの基準値を満たしているが、空隙率P[%]が基準値の上限値を上回って、内部抵抗DC-IR[mΩ]が549[mΩ]と大きくなっている。これは、空隙率P[%]が高く、アスペクト比ARが高い導電材22cが十分存在していても、導電材22c間の接触が少ないため導電パスが不足して、十分な導電ネットワークを形成できないものと思われる。
【0114】
<まとめ>
以上の実験から内部抵抗DC-IR[mΩ]を低下させるためには、基準値である以下の範囲とすることが必要十分な条件であることが分かった。すなわちアスペクト比ARが30~100の範囲で、合計表面積比Rが0.20~1.93の範囲であり、空隙率P[%]が40~55の範囲である。そして、その結果リチウムイオン二次電池1の内部抵抗DC-IR[mΩ]を486~493[mΩ]と低い抵抗値に抑制することができる。
【0115】
望ましくは、内部抵抗DC-IR[mΩ]を486~490[mΩ]と低い範囲である、合計表面積比Rが0.92~1.93である。また、正極活物質22bの比表面積B[m/g]が、1.6~2.0[m/g]である。また、導電材22cの比表面積B[m/g]が、180~200[m/g]である。また、正極合材中での導電材22cの割合R[%]が、1.0~1.5[%]である。
【0116】
<実験2:導電材上下比R、空隙率上下比R
図7は、実験2を示す表である。前述の乾燥工程1(S3)や、乾燥工程2(S5)において、マイグレーションが生じることで、セパレータ4側と正極集電体21側の間で粒子の移動が生じることを説明した。
【0117】
また、この移動は、固形分率NVに基づいて正極合材ペースト22aの粘度[Pa・s]を設定したり、乾燥温度[°C]と乾燥時間[s]を設定したりすることで、移動時間を制御することができることを説明した。
【0118】
そして、正極板2の正極合材層22を、セパレータ4側と正極集電体21側とに2分割した場合、セパレータ4側に存在する導電材22cの質量MUP[g]が、正極集電体側に存在する質量MLOW[g]より多くなるように構成することができる。また、正極集電体21側の空隙率PLOW[%]が、セパレータ4側の空隙率PUP[%]より大きくなるように構成することができる。
【0119】
そこで、図7に示すように導電材上下比R、空隙率上下比Rを変化させた実施例2-2,2-3,2-4について、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗DC-IR[mΩ]を測定した。なお、アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率P[%]は、実施例2と同一の条件である。
【0120】
<実施例2>
実施例2の条件は、正極活物質22bについて、割合R[%]が98[%]、比表面積B(BET値)[m/g]が2.0[m/g]、表面積S[m]が196[m]を示す。次に、導電材22cについて、アスペクト比ARが100、割合R[%]が1.0[%]、比表面積(BET値)B[m/g]が180[m/g]、表面積S[m]が180[m]を示す。続いて、合計表面積比Rが0.92を示す。正極合材層22の空隙率P[%]が44[%]を示す。アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの基準値の条件はすべて満たしている。
【0121】
新たに、測定した「導電材上下比R」は、1.20であり、「空隙率上下比R」は、1.00であった。
つまり、実施例2では、セパレータ4側と正極集電体21側では、空隙率P[%]は同一である。一方、「導電材上下比R」は、1.20であるので、導電材22cは、正極集電体21側より、セパレータ4側に移動していることがわかる。
【0122】
実施例2の内部抵抗DC-IR[mΩ]は、実施例1~4において、比較的良好な490[mΩ]を示す。
<実施例2-2>
アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの条件はすべて実施例2と同一で、基準値を満たしている。その上で、導電材上下比Rは、1.40で、空隙率上下比Rは、1.05となっている。つまり、実施例2と比較して、導電材22cは正極集電体21側より、セパレータ4側にさらに移動しているだけでなく、実施例2と比較して正極集電体21側の空隙率Pが、セパレータ4側の空隙率P[%]が大きくなっている。
【0123】
このことは、非水電解液13が、正極合材層22の正極集電体21側に浸透し易くなっていることを意味する。
その結果、実施例2-2の内部抵抗DC-IR[mΩ]は488[mΩ]を示し、改善していることが分かった。
【0124】
<実施例2-3>
アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの条件はすべて実施例2と同一で、基準値を満たしている。その上で、導電材上下比Rは、2.24で、空隙率上下比Rは、1.25となっている。つまり、実施例2-2と比較しても、導電材22cは正極集電体21側より、セパレータ4側にさらに移動しているだけでなく、実施例2-2と比較しても正極集電体21側の空隙率Pが、セパレータ4側の空隙率P[%]が大きくなっている。
【0125】
このことは、正極合材層22においては正極集電体21から遠ざかるほど導電パスが取れなくなり内部抵抗DC-IR[mΩ]が増加する。そのため、導電材上下比Rが大きくなるということは導電材22cをセパレータ4側に移動させていることになる。このため、正極合材層22の表面側で導電パスを多くして正極集電体21側との導電ネットワークが形成されていることがわかる。
【0126】
さらに、非水電解液13が、正極合材層22の正極集電体21側に浸透し易くなっていることを意味する。
その結果、実施例2-3の内部抵抗DC-IR[mΩ]は479[mΩ]を示し、実施例2-2よりさらに改善していることが分かった。
【0127】
<実施例2-4>
アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの条件はすべて実施例2と同一で、基準値を満たしている。その上で、導電材上下比Rは、17.75で、空隙率上下比Rは、1.70となっている。つまり、実施例2-3と比較しても、導電材22cは正極集電体21側より、セパレータ4側にさらに移動しているだけでなく、実施例2-2と比較しても正極集電体21側の空隙率Pが、セパレータ4側の空隙率P[%]が大きくなっている。
【0128】
このため、正極合材層22の表面側で導電パスをさらに多くして正極集電体21側との導電ネットワークが形成されていることがわかる。但し、導電材上下比Rは、17.75と、極端に導電材22cが上(セパレータ4)側に偏位すると、却って下(正極集電体21)側の導電材22cが減少して導電パスが不足するものと思われる。
【0129】
さらに、非水電解液13が、正極合材層22の正極集電体21側にさらに浸透し易くなっていることを意味する。
その結果、実施例2-4の内部抵抗DC-IR[mΩ]は481[mΩ]を示し、実施例2-3より悪化していることが分かった。
【0130】
<実験2まとめ>
以上、実験2から導かれることは、実施例2において、アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率Pの基準値の条件はすべて実施例2と共通で、基準値を満たしている。その上で、導電材上下比R、空隙率上下比Rのみを変更して比較している。
【0131】
<導電材上下比R
実施例2自体は、導電材上下比Rが1.20である。一方、空隙率上下比Rは、1.00、すなわち下(正極集電体21)側と、上(セパレータ4側)では、空隙率P[%]には差がない。実験2では、導電材上下比Rが1.00の実施例の記載はないが、導電材22cが上(セパレータ4)側に移動することは好ましい。また、内部抵抗DC-IR[mΩ]も490[mΩ]と低くなっている。
【0132】
すなわち、ここから導かれる結論は、導電材上下比Rが1.20以上であれば、好ましい実施例であるということである。
<空隙率上下比R
実施例2,2-2,2-3,2-4については、順次導電材上下比R、空隙率上下比Rのそれぞれの値が大きくなっている。
【0133】
一方、内部抵抗DC-IR[mΩ]を見ると、実施例2-3が479[mΩ]と最も低く、実施例2-4は481[mΩ]と却って大きくなっている。
ここから導かれる結論は、上(セパレータ4)側に導電材22cが移動することは好ましいが、極端に導電材22cが上(セパレータ4)側に偏ってしまうと却って内部抵抗DC-IR[mΩ]が大きくなってしまうということである。
【0134】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板2、及び正極板2の製造方法によれば、リチウムイオン二次電池1の正極板2の正極合材層22において、正極活物質22bと導電材22cの配合を適正化することができるという効果がある。
【0135】
適切な正極活物質22bと導電材22cの配合比により、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗DC-IR[mΩ]を低減することができるという効果がある。
(2)正極合材中での導電材22cの割合をR、導電材22cの比表面積[m/g]をB[m/g]、正極合材中の正極活物質22bの割合をR、正極活物質22bの比表面積[m/g]をB[m/g]とした。また、合計表面積比をRとし、R=(R×B)/(R×B)とした。このときに、導電材22cのアスペクト比ARを30以上、合計表面積比Rを0.2~1.93、空隙率P[%]を40~55[%]とした。
【0136】
このため、導電材22cのアスペクト比ARと、正極合材層22における空隙率P[%]を前提として考慮して導かれた正極活物質22bと導電材22cの表面積[m]の配合バランスが良く、いずれにも無駄がなく、効率的な配合となっているという効果がある。
【0137】
(3)さらに、合計表面積比Rを0.92~1.93、正極活物質の比表面積B[m/g]を1.6~2.0[m/g]、導電材22cの比表面積B[m/g]を180~500[m/g]とした。さらに、正極合材中での導電材22cの割合Rを1.0~1.5%とした。
【0138】
このため、容易に適切な正極活物質22bと導電材22cの表面積[m]の配合とすることができるという効果がある。
(4)正極板2の正極合材層22を、セパレータ4側と正極集電体21側とに2分割した場合、セパレータ4側に存在する導電材22cの質量MUP[g]が、正極集電体21側に存在する質量MLOW[g]より多くなるようにした。
【0139】
このため、セパレータ4側では、十分な導電材22cにより効果的な導電ネットワークを形成することができるという効果がある。
特に正極合材層22に存在する正極集電体21側の質量MLOW[g]に対する導電材22cのセパレータ4側の質量MUP[g]の質量比である導電材上下比Rを1.5~20とすれば、より内部抵抗DC-IR[mΩ]を低減する効果がある。
【0140】
(5)正極集電体21側の空隙率PLOW[%]が、セパレータ4側の空隙率PUP[%]より大きくなるようにした。
このため、正極集電体21側では、十分な空隙により非水電解液13のLiイオンの正極活物質への拡散が良好となるという効果がある。
【0141】
特に、セパレータ4側の空隙率PUP[%]に対する正極集電体21側のPLOW[%]の比である空隙率上下比Rを1.1~12とすれば、より内部抵抗DC-IR[mΩ]を低減する効果がある。
【0142】
(6)また、正極合材ペースト調製工程(S1)において正極合材ペースト22aの固形分率NVを調整するとともに、乾燥工程1(S3)、乾燥工程2(S5)において乾燥温度及び乾燥時間を制御する。
【0143】
このため、マイグレーションを利用することで、導電材上下比Rと、空隙率上下比Rを任意の数値に制御することができるという効果がある。
(変形例)
上記実施形態は、本発明の実施の一例であり、以下のように変形して実施することができる。
【0144】
○各種の数値、範囲は一例であり、当業者により実施において最適化されて実施することができる。
○本実施形態では、導電材上下比R、及び空隙率上下比Rを規定しているが、必ずしも必須の構成ではなく、アスペクト比AR、合計表面積比R、空隙率P[%]に加え、さらに任意に組み合わせることができる構成である。
【0145】
○本実施形態では、正極集電体21の両面に正極合材層22が形成され、いずれの面でも本実施形態の発明が実施されている。しかしながら、正極集電体21のいずれか一方のみにおいて本実施形態の発明が実施されているような態様でもよい。
【0146】
○本実施形態では、非水電解液二次電池の例として、車載用の板状のセル電池であるリチウムイオン二次電池1を例示したが、これに限定されず円筒形など他の形状、定置用など他の用途でも実施できる。また、電極体12も扁平の捲回型に限定されず、長方形の板状の電極を積層したものでもよい。また、正極外部端子14や負極外部端子15の形状なども限定されるものではない。
【0147】
○図面は、本実施形態の説明に用いるための模式図であり、見やすくするために寸法バランスなどは誇張している場合があるため、これらに限定されるものではない。
図4に示すフローチャートは本発明の一例であり、その工程を付加し、削除し、順序を変更し、又は入れ替えて実施することができる。例えば、乾燥工程1(S3)と裏面正極合材ペースト塗工工程(S4)の間にもプレス工程を付加してもよい。
【0148】
○正極合材ペースト22aの組成や、材料の特性などは、本発明の一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
○本実施形態は本発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0149】
…正極合材中の正極活物質割合[%]
…正極合材中の導電材の割合[%]
…正極活物質の比表面積(BET値)[m/g]
…導電材の比表面積(BET値)[m/g]
…正極活物質の表面積[m
…導電材の表面積[m
…合計表面積比(R=(R×B)/(R×B))
AR…アスペクト比
P…空隙率[%]
…空隙率上下比(PLOW/PUP
M…質量[g]
…導電材上下比(MUP/MLOW
G…間隙
L…捲回方向
W…幅方向(捲回軸方向)
1…リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)
11…電池ケース
12…電極体
13…非水電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
2…正極板
21…正極集電体
22…正極合材層
22a…正極合材ペースト
22b…正極活物質
22c…導電材
22d…結着材
22e…溶媒
23…正極接続部
3…負極板
31…負極集電体
32…負極合材層
33…負極接続部
4…セパレータ
5…塗工機
51…ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7