(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】光造形用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20241118BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20241118BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241118BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241118BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241118BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20241118BHJP
A61K 6/893 20200101ALI20241118BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20241118BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20241118BHJP
A61C 13/01 20060101ALI20241118BHJP
A61C 7/08 20060101ALI20241118BHJP
A61M 16/06 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
C08F290/06
B29C64/124
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
A61K6/887
A61K6/893
A61K6/62
A61C13/00 Z
A61C13/01
A61C7/08
A61M16/06 D
(21)【出願番号】P 2022500423
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2021004832
(87)【国際公開番号】W WO2021162007
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2020020826
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲司
(72)【発明者】
【氏名】伊東 美咲
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-534804(JP,A)
【文献】特表2017-524020(JP,A)
【文献】特開2020-158417(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203981(WO,A1)
【文献】特表2013-530229(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189566(WO,A1)
【文献】特開2010-189534(JP,A)
【文献】国際公開第2012/011434(WO,A1)
【文献】特開2019-001939(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181833(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/071552(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/218446(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/132699(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00-290/14
A61C 1/00-19/10
A61K 6/00-6/90
A61M 16/06
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)
、光重合開始剤(C)
及び重合禁止剤(D)を含有し、
前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)が、ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)及び/又はポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)であり、
前記ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)の重量平均分子量が1000未満であり、
前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)の分子量が1000未満であり、
前記ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、下記の一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-I)、及び下記の一般式(II)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-II)
【化1】
【化2】
[式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して下記の一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、Xは炭素数1~6の二価の炭化水素基又は酸素原子である。
【化3】
【化4】
(式中、R
3及びR
5はそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、R
4及びR
6はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数である。)]
からなる群より選ばれる少なくとも1種を含
み、
前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)の含有量が、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル(B)の総量100質量部において、30~99質量部であり、
前記重合禁止剤(D)の含有量が、光重合開始剤(C)100質量部に対して0.1~100質量部であり、
光造形用樹脂組成物の硬化物の曲げ強さが90MPa以上であり、かつ曲げ弾性率が2.1GPa以上4.0GPa以下である、
歯科材料に用いる光造形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)及びポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)に含まれるウレタン結合の数が1分子当たり3個以下である、請求項1に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)が前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)を含む、請求項1又は2に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)が、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む、請求項3に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)が、多官能性(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)が、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、及び/又はN,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレートを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項7】
前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)を含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)が、(メタ)アクリル酸エステル化合物である、請求項
7に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)の含有量が、重合性化合物100質量%において51~95質量%である、請求項
7又は
8に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリマー構造が、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる構造である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項11】
k及びlはそれぞれ独立して1~4の整数である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項12】
前記ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が前記(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-II)を含有し、Xが酸素原子である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項13】
R
2が前記一般式(ii)で表される基である、請求項
12に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項14】
前記ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が前記(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-I)を含有し、R
1が前記一般式(i)で表される基である、請求項1~
13のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項15】
前記光重合開始剤(C)の含有量が、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量100質量部に対して0.01~20質量部である、請求項1~
14のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項16】
さらに重合禁止剤(D)を含有し、重合禁止剤(D)の含有量が、光重合開始剤(C)100質量部に対して0.1~100質量部である、請求項1~
15のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項17】
前記光造形用樹脂組成物の硬化物の曲げ強さが100MPa以上
であり、かつ曲げ弾性率が2.1GPa以上
3.5GPa以下である、請求項1~
16のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項18】
請求項1~
17のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物の造形物からなる、歯科材料。
【請求項19】
請求項1~
17のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物の造形物からなる、義歯床材料。
【請求項20】
請求項1~
17のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物の造形物からなる、歯科用咬合スプリント。
【請求項21】
請求項1~
17のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物を用いて、光学的立体造形法によって立体造形物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光造形用樹脂組成物に関する。より詳細には、本発明は、造形物の強度、靭性及び耐水性に優れた立体造形物を得ることができる。特に義歯床材料、歯科用咬合スプリント及び睡眠時無呼吸症候群の治療具に好適である。
【背景技術】
【0002】
液状光硬化性樹脂組成物に必要量の制御された光エネルギーを供給して、薄層状に硬化させ、その上にさらに液状光硬化性樹脂組成物を供給した後、制御下に光照射して薄層状に積層硬化させるという工程を繰り返すことによって立体造形物を製造する方法、いわゆる光学的立体造形法が特許文献1によって開示された。そして、その基本的な実用方法がさらに特許文献2によって提案されて以来、光学的立体造形技術に関する多数の提案がなされている。
【0003】
立体造形物を光学的に製造する際の代表的な方法としては、容器に入れた液状光硬化性樹脂組成物の液面に、所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線レーザーを選択的に照射して所定の厚さで硬化させて硬化層を形成し、次にその硬化層の上に1層分の液状光硬化性樹脂組成物を供給して、同様に紫外線レーザーを照射して前記と同じように硬化させて連続した硬化層を形成させるという積層操作を繰り返して最終的な形状の立体造形物を製造する液槽光造形という方法が一般に採用されている。この方法による場合は、造形物の形状がかなり複雑であっても、簡単にかつ比較的短時間で精度良く目的とする立体造形物を製造することができるために近年大きな注目を集めている。
【0004】
そして、光造形法によって得られる立体造形物が単なるコンセプトモデルから、テストモデル、試作品等へと用途が展開されるようになっており、それに伴ってその立体造形物は造形精度に優れていることが益々要求されるようになっている。しかも、そのような特性と併せて目的に合わせた特性も優れていることが求められている。とりわけ、歯科材料分野においては、義歯床、歯科用咬合スプリント、睡眠時無呼吸症候群の治療具は、患者個人ごとに形状が異なり、かつ形状が複雑であることから、光造形法の応用が期待されている。
【0005】
義歯床材料は、歯の喪失により義歯を装着する際の、歯肉部分に使用される材料のことである。近年、高齢者人口の増加に伴い義歯の需要が急激に増加している。
【0006】
歯科用咬合スプリントは、顎位を矯正するために装着するもの、歯ぎしりによる歯の摩耗を抑制するために歯列に装着するもの、コンタクトスポーツにおいて、競技中に歯牙や顎骨に大きな外力が加わることにより発生する外傷を低減し、顎口腔系及び脳を保護するために口腔内に装着するものである。近年、歯科矯正においては審美性の良さや外したいときに外せるため急速に利用が拡大している装置である。
【0007】
本発明で対象とする睡眠時無呼吸症候群の治療具は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の治療のために夜間就寝中に歯列に装着する装置(オーラルアプライアンス:OA)であり、睡眠時無呼吸症候群の治療具として急速に利用が進んでいる。
【0008】
これら、義歯床材料、歯科用咬合スプリント及びOAには、強度、靭性及び耐水性が共通して要求されている。特に通称ノンクラスプデンチャーと言われるメタルクラスプを含まない部分義歯床で要求される。強度が低いと咬合時のたわみや変形が大きくなり装着感の悪いものとなり、靭性が損なわれると咬合の衝撃や装着時の変形によって破壊しやすくなり、頻繁に作り直す必要があるといった問題がある。さらに、耐水性が損なわれると使用中に力学的特性が低下し、装着時に変形しやすくなったり、破壊しやすくなり、実用に耐えないものとなる問題がある。
【0009】
また、通常、義歯床材料及び歯科用咬合スプリント、睡眠時無呼吸症候群の治療具を作製する際には、口腔内の印象を取得することが必要となるが、その不快感から患者負担となることや、技工操作に熟練を要するといった課題が従来から指摘されていた。近年では、デジタル技術の発達から、印象取得については、光学的な口腔内スキャンを応用する試みがなされ、成形においては光学的立体造形を応用する試みがなされている。造形においては光造形用樹脂組成物を使用するが、一般に強度を発現する樹脂組成物ほど、脆化する傾向となり、一方、靭性も付与しようとした場合、分子構造がフレキシブルになり水分が侵入しやすくなるため、強度、靭性及び耐水性をいずれも満足させることは困難であった。
【0010】
このような背景の中、硬化物の靭性及び耐水性に優れ、光学的立体造形が可能な技術として、例えば、特許文献3には、特定のオリゴマー骨格を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物と2つの芳香環を有する特定のモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物とを必須成分とする光硬化性樹脂組成物が開示されているが、特許文献3の樹脂組成物は、マウスガード等の柔軟な材料を想定しているため強度が低く、義歯床等への適用は好ましくない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭56-144478号公報
【文献】特開昭60-247515号公報
【文献】国際公開第2019/189566号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、強度、靭性及び耐水性に優れる光造形用樹脂組成物を提供することを目的とする。特に義歯床材料及び歯科用咬合スプリント、睡眠時無呼吸症候群の治療具に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有し、
前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)が、ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)及び/又はポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)であり、
前記ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)の重量平均分子量が1000未満であり、
前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)の分子量が1000未満であり、
前記ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、下記の一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-I)、及び下記の一般式(II)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-II)
【化1】
【化2】
[式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して下記の一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、Xは炭素数1~6の二価の炭化水素基又は酸素原子である。
【化3】
【化4】
(式中、R
3及びR
5はそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、R
4及びR
6はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数である。)]
からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、光造形用樹脂組成物;
[2]前記ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)及びポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)に含まれるウレタン結合の数が1分子当たり3個以下である、[1]に記載の光造形用樹脂組成物;
[3]前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)が前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)を含む、[1]又は[2]に記載の光造形用樹脂組成物;
[4]前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)が、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む、[3]に記載の光造形用樹脂組成物;
[5]前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)が、多官能性(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[6]ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)が、実質的に、ポリマー構造を有しない化合物(A-2)のみから構成される、[1]~[5]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[7]前記ポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)が、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、及び/又はN,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレートを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[8]前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[9]前記ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)が、(メタ)アクリル酸エステル化合物である、[8]に記載の光造形用樹脂組成物;
[10]前記ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)の含有量が、重合性化合物100質量%において51~95質量%である、[8]又は[9]に記載の光造形用樹脂組成物;
[11]前記ポリマー構造が、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる構造である、[1]~[10]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[12]k及びlはそれぞれ独立して1~4の整数である、[1]~[11]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[13]前記ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が前記(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-II)を含有し、Xが酸素原子である、[1]~[12]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[14]R
2が前記一般式(ii)で表される基である、[13]に記載の光造形用樹脂組成物;
[15]前記ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が前記(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-I)を含有し、R
1が前記一般式(i)で表される基である、[1]~[14]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[16]前記光重合開始剤(C)の含有量が、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量100質量部に対して0.01~20質量部である、[1]~[15]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[17]さらに重合禁止剤(D)を含有し、重合禁止剤(D)の含有量が、光重合開始剤(C)100質量部に対して0.1~100質量部である、[1]~[16]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[18]前記光造形用樹脂組成物の硬化物の曲げ強さが100MPa以上、曲げ弾性率が2.1GPa以上である、[1]~[17]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物;
[19][1]~[18]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物の造形物からなる、歯科材料;
[20][1]~[18]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物の造形物からなる、義歯床材料;
[21][1]~[18]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物の造形物からなる、歯科用咬合スプリント;
[22][1]~[18]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物の造形物からなる、睡眠障害治療材料;
[23][1]~[18]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物を用いて、光学的立体造形法によって立体造形物を製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光造形用樹脂組成物は、造形物の強度、靭性及び耐水性に優れる。このため、本発明の光造形用樹脂組成物は、義歯床材料及び咬合用スプリントに適しており、睡眠時無呼吸症候群の治療具用材料としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光造形用樹脂組成物は、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)と、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と、光重合開始剤(C)を含有する。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。また、本明細書において、式中の各記号の数値も、適宜組み合わせ可能である。
【0016】
[ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)]
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)は、本発明の光造形用樹脂組成物において、光造形用樹脂組成物の造形物に、強度及び造形性を付与するために用いられる。ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)は、ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)(以下、単に「ポリマー構造を有する化合物(A-1)」ともいう。)及び/又はポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)(以下、単に「ポリマー構造を有しない化合物(A-2)」ともいう。)である。ポリマー構造を有する化合物(A-1)は、ポリマー構造に起因して、分子量分布を有する。分子量分布の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で行うことができる。本明細書において、ポリマー構造とは、2以上の重合度を有する単量体の繰り返し構造を意味する。
【0017】
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)は、例えば、アルキレン骨格、シクロアルキレン骨格、フェニレン骨格を含有し、かつイソシアネート基を有する化合物と、水酸基(-OH)を有する(メタ)アクリル化合物とを付加反応させることにより、容易に合成することができる。また、前記複数のイソシアネート基を有する化合物とポリオールとを反応させ、ポリオールの末端にイソシアネート基を導入した後、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物とを付加反応させることによっても容易に合成することができる。しかしながら、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物とを直接反応させた場合の方が、極性の高いウレタン結合の1分子中の個数が小さくなるため、耐水性の観点から好ましい。一方、ポリマー構造を有する化合物(A-1)は、強度に優れる観点から重量平均分子量(Mw)は1000未満であることが必要である。重量平均分子量が1000以上の場合、造形物が柔軟化する傾向となる。強度及び耐水性の観点から、重量平均分子量は950未満であることが好ましく、850未満であることがより好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。なお、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を有しない化合物(A-2)である場合、重量平均分子量の概念がないため、分子量を適用し、強度に優れる観点から分子量は1000未満であることが必要である。分子量が1000以上の場合、造形物が柔軟化する傾向となる。強度及び耐水性の観点から、分子量は750未満であることが好ましく、500未満であることがより好ましい。分子量は、ポリマー構造を有しない化合物(A-2)の構造を特定し、当該構造を構成する元素の原子量から算出できる。化合物の構造の特定方法は、特に限定されず、公知の分子構造解析の方法(質量分析(MSスペクトル)法;核磁気共鳴法等の磁気分析法;X線結晶構造解析法等)を使用できる。
【0018】
さらに、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル等のポリマー構造を有しない化合物(A-2)を含むことが好ましい。ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を含有している場合、柔軟化するだけでなく、極性を有する官能基濃度が上昇することから耐水性が低下する傾向となる。ただし、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を有する化合物(A-1)を含む光造形用樹脂組成物であっても、ポリマー構造を有する化合物(A-1)の重量平均分子量が1000未満であることなどによって、極性を有する官能基の濃度上昇も抑制でき、所望の強度及び耐水性を有する造形物が得られる。ポリマー構造を有する化合物(A-1)及びポリマー構造を有しない化合物(A-2)のいずれにおいても、ウレタン結合の数は耐水性の観点から1分子当たり3個以下であることが好ましく、2個以下であることがより好ましい。ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ある好適な実施形態(X-1)としては、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)が実質的にポリマー構造を有しない化合物(A-2)のみから構成される、すなわち、実質的にポリマー構造を有する化合物(A-1)を含まない、光造形用樹脂組成物が挙げられる。ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)が、実質的にポリマー構造を有しない化合物(A-2)のみから構成されるとは、光造形用樹脂組成物に含まれるウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)の総量100質量部においてポリマー構造を有する化合物(A-1)の含有量が、10.0質量部未満であり、好ましくは5.0質量部未満であり、より好ましくは1.0質量部未満であり、さらに好ましくは0.1質量部未満であり、特に好ましくは0.01質量部未満であることを意味する。また、ポリマー構造を有する化合物(A-1)は、(メタ)アクリルアミド基を含まないものが好ましい。他の好適な実施形態(X-2)としては、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を有する化合物(A-1)を含み、前記ポリマー構造を有する化合物(A-1)に含まれるウレタン結合の数が1分子当たり3個以下である、光造形用樹脂組成物が挙げられる。ウレタン結合の数は、公知の方法で制御可能であるが、1分子中のウレタン結合の数を少なくする点から、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との直接反応させる付加反応を優先させることによって調整することもできる。例えば、ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)及びポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)に含まれるウレタン結合の数を1分子当たり3個以下にするためには、実質的に、ジイソシアネート又はイソシアネート基を3個有するポリイソシアネートと、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との反応物を原料に使用する或いは前記反応物を用いることで、ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)及びポリマー構造を有しないウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-2)に含まれるウレタン結合の数を1分子当たり3個以下にできる。
【0019】
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、メチレンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、トリシクロデカンジイソシアネート(TCDDI)、アダマンタンジイソシアネート(ADI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、及びこれらの化合物から誘導されるイソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネート等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明の光造形用樹脂組成物の造形物が強度及び靭性に優れる観点から、HDI、IPDI、TMHMDI、TCDDIが好ましく、IPDI、TMHMDIがより好ましい。
【0020】
水酸基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物;N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明の光造形用樹脂組成物の造形物の靭性に優れる観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0021】
イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との付加反応は、公知の方法に従って行うことができ、特に限定はない。
【0022】
ポリマー構造を有する化合物(A-1)は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれるポリマー構造並びにウレタン結合を有することが好ましく、前記ポリマー構造及びウレタン結合を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物であることがより好ましい。
【0023】
ポリマー構造を有する化合物(A-1)は、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれるポリマー構造を含有するポリオールと、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とを付加反応させることにより、容易に合成することができる。ポリエステルとしては、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~18の脂肪族ジオールの重合体、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~18の脂肪族グリコールの重合体、β-プロピオラクトンの重合体、γ-ブチロラクトンの重合体、δ-バレロラクトン重合体、ε-カプロラクトン重合体及びこれらの共重合体などが挙げられ、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~12の脂肪族ジオールの重合体、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~12の脂肪族グリコールの重合体が好ましい。ポリカーボネートとしては、炭素数2~18の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~18の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートなどが挙げられ、炭素数2~12の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~12の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートが好ましい。ポリウレタンとしては、炭素数2~18の脂肪族ジオールと炭素数1~18のジイソシアネートの重合体などが挙げられ、炭素数2~12の脂肪族ジオールと炭素数1~12のジイソシアネートの重合体が好ましい。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリ(1-メチルブチレングリコール)などが挙げられる。ポリ共役ジエン及び水添ポリ共役ジエンとしては、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-イソプレン)、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(イソプレン-スチレン)、ポリファルネセン、及びこれらの水添物が挙げられる。これらの中でも、靭性に優れる点で、ポリエステルの構造が好ましい。さらに、ポリエステルの構造が、耐水性と靭性に優れる点で、分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位に由来する構造を有するポリオール部分とイソフタル酸エステル又はセバシン酸エステルを含有することが好ましく、耐水性と造形性に優れる点で、分岐構造を有する炭素数4~12の脂肪族ジオール単位に由来する構造を有するポリオール部分とイソフタル酸エステル又はセバシン酸エステルを含有することがより好ましく、分岐構造を有する炭素数5~12の脂肪族ジオール単位に由来する構造を有するポリオール部分とイソフタル酸エステル又はセバシン酸エステルを含有することがさらに好ましい。ポリマー構造を有する化合物(A-1)の製造には、前記したポリマー構造を有するポリオールを用いることができる。これらの中でも、強度と耐水性に優れる点で、ポリエステル、ポリカーボネート及びポリ共役ジエンの構造が好ましい。ポリマー構造を有する化合物(A-1)の製造には、前記したポリマー構造を有するポリオールを用いることができる。
【0024】
前記分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位としては、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、2,8-ジメチル-1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,10-デカンジオール、2,9-ジメチル-1,10-デカンジオール、2-メチル-1,11-ウンデカンジオール、2,10-ジメチル-1,11-ウンデカンジオール、2-メチル-1,12-ドデカンジオール、2,11-ジメチル-1,12-ドデカンジオール、2-メチル-1,13-トリデカンジオール、2,12-ジメチル-1,13-トリデカンジオール、2-メチル-1,14-テトラデカンジオール、2,13-ジメチル-1,14-テトラデカンジオール、2-メチル-1,15-ペンタデカンジオール、2,14-ジメチル-1,15-ペンタデカンジオール、2-メチル-1,16-ヘキサデカンジオール、2,15-ジメチル-1,16-ヘキサデカンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、光造形用樹脂組成物が硬化性に優れ、低粘度である観点から、2-メチル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、2,8-ジメチル-1,9-ノナンジオールなどのメチル基を側鎖として有する炭素数5~12の脂肪族ジオールをポリオール成分として使用することが好ましく、2-メチル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオールがより好ましく、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールがさらに好ましい。
【0025】
ポリマー構造を有する化合物(A-1)としては、前記の、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリマー構造を有するポリオールと、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との任意の組み合わせの反応物が挙げられ、前記反応物は(メタ)アクリル酸エステル化合物が好ましい。ポリマー構造を有する化合物(A-1)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ある実施形態(X-3)では、例えば、ポリマー構造を有する化合物(A-1)は(メタ)アクリルアミド系オリゴマーを含まない、光造形用樹脂組成物が挙げられる。
【0026】
ポリマー構造を有しない化合物(A-2)の例としては、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称:UDMA)、2,4-トリレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、ビスヒドロキシエチルメタクリレート-イソホロンジウレタン、2,4-トリレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、ヘキサメチレンビス{2-カルバモイルオキシ-3-フェノキシプロピル}ジアクリレート等の二官能性(メタ)アクリレート;N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレート、2,4-トリレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ヘキサアクリレート等の三官能以上の(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル化合物が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも強度及び靭性の観点から、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレートが好ましく、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートがより好ましい。
【0027】
本発明の光造形用樹脂組成物におけるウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)の含有量(ポリマー構造を有する化合物(A-1)及びポリマー構造を有しない化合物(A-2)の両方を含む場合は、これらの合計含有量)は、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量(以下、単に「総量」ともいう。)100質量部において、10~99質量部であることが好ましく、造形性、造形物の強度により優れる点から、30~90質量部であることがより好ましく、50~80質量部であることがさらに好ましい。ある好適な実施形態(X-4)では、光造形用樹脂組成物に含まれるウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を有しない化合物(A-2)を含み、該ポリマー構造を有しない化合物(A-2)の含有量は、前記総量100質量部において、10~99質量部であることが好ましく、造形性、造形物の強度により優れる点から、30~90質量部であることがより好ましく、50~80質量部であることがさらに好ましい。他のある好適な実施形態(X-5)では、光造形用樹脂組成物に含まれるウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を有する化合物(A-1)を含み、該ポリマー構造を有する化合物(A-1)の含有量は、前記総量100質量部において、51~95質量部であることが好ましく、造形性、造形物の強度により優れる点から、55~90質量部であることがより好ましく、60~85質量部であることがさらに好ましい。さらに前記好適な実施形態(X-5)では、ポリマー構造を有する化合物(A-1)の含有量は、重合性化合物100質量%において、51~95質量%であることが好ましく、造形性、造形物の強度により優れる点から、55~90質量%であることがより好ましく、60~85質量%であることがさらに好ましい。前記重合性化合物100質量%とは、光造形用樹脂組成物が(メタ)アクリルアミド化合物(D)を含む場合、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)及び(メタ)アクリルアミド化合物(D)の合計100質量%を意味する。他の好適な実施形態(X-6)では、光造形用樹脂組成物に含まれるポリマー構造を有する化合物(A-1)の含有量が、光造形用樹脂組成物の全体において、51~95質量%であることが好ましく、靭性により優れる点から、55~90質量%であることがより好ましく、60~85質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
[ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)]
ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、本発明の光造形用樹脂組成物において、光造形用樹脂組成物を低粘度化でき、造形物に靭性及び耐水性を付与するために用いられる。ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、上記の一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-I)(以下、これを「(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-I)」という。)、及び上記の一般式(II)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-II)(以下、これを、「(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-II)」という。)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいればよい。以下、(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-I)及び(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-II)について説明する。
【0030】
式(I)の各記号について説明する。式(I)中、R1は上記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、得られる本発明の光造形用樹脂組成物が硬化性に優れる点から、式(i)又は(ii)中、R4及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、光造形用樹脂組成物の造形性及び硬化物の靭性が優れる点から、水素原子が好ましい。R3及びR5はそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基である。前記炭化水素基としては、得られる光造形用樹脂組成物の粘度が低く、造形性に優れる点から、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~4がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましい。前記炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基;炭素数3~10の二価のシクロアルキレン基;フェニレン基が挙げられる。k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数であり、得られる光造形用樹脂組成物の粘度が低く、造形性に優れる点から、kは1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましく、1が特に好ましい。また、lは1~4が好ましく、1~2がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-I)の例としては、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でも、光造形用樹脂組成物の造形性及び硬化物の靭性と耐水性が優れる点で、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノールアクリレートがより好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノールアクリレートがさらに好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレートが特に好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレートが最も好ましい。
【0032】
式(II)の各記号について説明する。式(II)中、Xは炭素数1~6の二価の炭化水素基又は酸素原子であり、得られる光造形用樹脂組成物の粘度が低く、造形性に優れる点から、酸素原子が好ましい。また、R2は上記の一般式(i)又は(ii)から選ばれる基であり、得られる本発明の光造形用樹脂組成物が硬化性に優れる点から、式(i)又は(ii)中、R4及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、光造形用樹脂組成物の硬化性及び硬化物の柔軟性が優れる点から、水素原子が好ましい。R3及びR5はそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基である。前記炭化水素基としては、得られる光造形用樹脂組成物の粘度が低く、硬化性に優れる点から、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~4がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましい。前記炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基;炭素数3~10の二価のシクロアルキレン基;フェニレン基が挙げられる。k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数であり、得られる光造形用樹脂組成物の粘度が低く、造形性に優れる点から、kは1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましく、1が特に好ましい。また、lは1~4が好ましく、1~2がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(b-II)の例としては、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、3-(o-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(m-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(p-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、4-(o-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(m-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(p-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、5-(o-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(m-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(p-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、6-(o-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(m-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(p-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でも、光造形用樹脂組成物の造形性及び造形物の靭性と耐水性が優れる点で、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチルアクリレートがより好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレートがさらに好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレートが特に好ましく、m-フェノキシベンジルアクリレートが最も好ましい。
【0034】
本発明の光造形用樹脂組成物におけるウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の含有量は、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル(B)の総量100質量部において、1~90質量部が好ましく、造形性、造形物の靭性及び耐水性により優れる点から、10~70質量部がより好ましく、20~50質量部がさらに好ましい。他のある好適な実施形態(X-7)としては、前記実施形態(X-5)又は(X-6)において、光造形用樹脂組成物に含まれるウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)がポリマー構造を有する化合物(A-1)を含み、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の含有量は、前記総量100質量部において、5~49質量部が好ましく、造形性、造形物の靭性及び耐水性により優れる点から、10~45質量部がより好ましく、15~40質量部がさらに好ましい。さらに、前記好適な実施形態(X-7)では、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の含有量は、重合性化合物100質量%において、5~49質量%であることが好ましく、造形性、造形物の靭性及び耐水性により優れる点から、10~45質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の光造形用樹脂組成物に含まれる重合性化合物は、実質的にウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)のみから構成されていてもよい。重合性化合物が、実質的にウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)のみから構成されるとは、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)以外の他の重合性化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド系ウレタンオリゴマー等のエチレン性不飽和基を有する化合物等)の含有量が、光造形用樹脂組成物に含まれる重合性化合物の総量100質量部において10.0質量部未満であり、好ましくは5.0質量部未満であり、より好ましくは1.0質量部未満であり、さらに好ましくは0.1質量部未満であり、特に好ましくは0.01質量部未満であることを意味する。
【0036】
[光重合開始剤(C)]
本発明に用いられる光重合開始剤(C)は、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に使用されている光重合開始剤が好ましい。
【0037】
光重合開始剤(C)としては、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物等が挙げられる。光重合開始剤(C)は、1種を単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
これらの光重合開始剤(C)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類と、α-ジケトン類とからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、紫外領域及び可視光域での光硬化性に優れ、レーザー、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、及びキセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す光造形用樹脂組成物が得られる。
【0039】
(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド等が挙げられる。さらに、特開2000-159621号公報に記載されている化合物を挙げることができる。
【0040】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩を光重合開始剤(C)として用いることが特に好ましい。
【0041】
α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンが挙げられる。この中でも、可視光域の光源を使用する場合には、カンファーキノンが特に好ましい。
【0042】
本発明の光造形用樹脂組成物における光重合開始剤(C)の含有量は特に限定されないが、得られる光造形用樹脂組成物の硬化性等の観点から、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量100質量部に対し、光重合開始剤(C)が0.01~20質量部が好ましい。光重合開始剤(C)の含有量が0.01質量部未満の場合、重合が十分に進行せず、成形品が得られないおそれがある。光重合開始剤(C)の含有量は、前記総量100質量部に対し、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、0.5質量部以上が特に好ましく、1.5質量部以上が最も好ましい。一方、光重合開始剤(C)の含有量が20質量部を超える場合、重合開始剤自体の溶解性が低い場合には、光造形用樹脂組成物からの析出を招くおそれがある。光重合開始剤(C)の含有量は、前記総量100質量部に対し、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましく、3.0質量部以下が最も好ましい。
【0043】
本発明の光造形用樹脂組成物は、上記のウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有していれば特に限定はなく、例えば、これ以外の成分を含んでいてもよい。例えば、(メタ)アクリルアミド化合物(D)を含有してもよい。(メタ)アクリルアミド化合物(D)は、(メタ)アクリルアミド骨格を有していれば特に限定されないが、例としては、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド等の単官能性(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ある好適な実施形態(X-8)としては、例えば、前記実施形態(X-1)~(X-7)のいずれかにおいて、(メタ)アクリルアミド化合物(D)を含まない光造形用樹脂組成物が挙げられる。本発明の光造形用樹脂組成物は、公知の方法に準じて製造できる。
【0044】
本発明の光造形用樹脂組成物は、本発明の趣旨を損なわない範囲内で、光硬化性の向上を目的として、重合促進剤を含むことができる。重合促進剤としては、例えば、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、光造形用樹脂組成物に優れた硬化性を付与する観点から、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群より選択される少なくとも1つが好ましく用いられる。
【0045】
本発明の光造形用樹脂組成物には、ペースト性状を調整するために、又は、光造形用樹脂組成物の造形物の機械的強度を高めるために、フィラーがさらに配合されていてもよい。フィラーとして、例えば、有機フィラー、無機フィラー、有機-無機複合フィラー等が挙げられる。フィラーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
有機フィラーの材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用できる。
【0047】
無機フィラーの材料としては、例えば、石英、シリカ、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスが挙げられる。これらもまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機フィラーの形状は特に限定されず、不定形フィラー又は球状フィラー等を適宜選択して使用できる。
【0048】
本発明の光造形用樹脂組成物には、本発明の趣旨を損なわない範囲内で、柔軟性、流動性等の改質を目的として重合体を添加することができる。例えば、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム及びその水素添加物、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム及びその水素添加物、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリルゴム、イソプレン-イソブチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、又はスチレン系エラストマーを添加することができる。添加可能な他の重合体の具体例としては、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロック共重合体、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリブタジエン-ポリ(α-メチルスチレン)ブロック共重合体、ポリ(p-メチルスチレン)-ポリブタジエン-ポリ(p-メチルスチレン)ブロック共重合体、又はこれらの水素添加物等が挙げられる。
【0049】
本発明の光造形用樹脂組成物は、必要に応じて、軟化剤を含有していてもよい。軟化剤としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル等の石油系軟化剤、及び、パラフィン、落花生油、ロジン等の植物油系軟化剤が挙げられる。これらの軟化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。軟化剤の含有量は、本発明の趣旨を損なわない限り特に制限はないが、通常、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量100質量部に対して200質量部以下であり、好ましくは100質量部以下である。
【0050】
また、本発明の光造形用樹脂組成物には、物性の劣化抑制、又は光硬化性の調整、さらに強度と弾性率の向上を目的として、公知の安定剤を配合することができる。前記安定剤としては、例えば、重合禁止剤(D)、紫外線吸収剤、酸化防止剤が挙げられる。安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
重合禁止剤(D)としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルヒドロキノン、ジブチルヒドロキノンモノメチルエーテル、4-t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤(D)の含有量は、物性の劣化抑制の効果及び硬化性の観点から、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)及びウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量100質量部に対し、0.001~5.0質量部が好ましく、0.05~2.5質量部がより好ましく、0.1~1.0質量部がさらに好ましい。さらに、強度及び弾性率を向上させる効果の観点から、重合禁止剤(D)の含有量は、光重合開始剤(C)100質量部に対し、0.1~100質量部であることが好ましく、1.0~60質量部であることがより好ましく、10~40質量部であることがさらに好ましい。
【0052】
また、本発明の光造形用樹脂組成物には、色調の調整又はペースト性状の調整を目的として、公知の添加剤を配合することができる。前記添加剤としては、例えば、顔料、染料、有機溶媒等の溶媒、増粘剤が挙げられる。添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本発明の光造形用樹脂組成物は、造形性に加えて、造形物の強度、靭性及び耐水性に優れる。従って、本発明の光造形用樹脂組成物は、このような利点が生かされる用途に適用でき、特に、義歯床材料、咬合用スプリント及び睡眠時無呼吸症候群の治療具に最適である。本発明の光造形用樹脂組成物を用いる造形物の形状は、各用途に応じて変更することができる。また、本発明の光造形用樹脂組成物は、必要に応じて、義歯床材料、咬合用スプリント及び睡眠時無呼吸症候群の治療具等の用途毎に、各成分(ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、重合開始剤(C)及び各種任意の成分((メタ)アクリルアミド化合物(D)、重合促進剤、フィラー、重合体、軟化剤、安定剤、添加剤等))の種類及び含有量を調整することができる。
【0054】
本発明の光造形用樹脂組成物の硬化物の曲げ弾性率としては、2.1~4.0GPaの範囲であることが好ましく、2.5~3.5GPaの範囲であることがより好ましく、2.75~3.25GPaの範囲であることがさらに好ましい。また、本発明の光造形用樹脂組成物の硬化物の曲げ強さ(3点曲げ強さ)としては、80MPa以上であることが好ましく、90MPa以上であることがより好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましく、120MPa以上が特に好ましい。曲げ弾性率及び曲げ強さの測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。本発明の光造形用樹脂組成物の硬化物は、強度、及び靭性の点から、厚さ2mm×長さ11cm×幅5cmのシートの試験片(造形物)を用いて、JIS K 7215:1986に基づいて、タイプAデュロメータ(高分子計器株式会社 アスカーゴム硬度計A型)で23℃における硬化物の硬度(A硬度、タイプAデュロメータ硬さ)を測定した場合に、23℃におけるA硬度が86以上であることが好ましく、90以上であることがより好ましく、95以上であることがさらに好ましい。前記試験片を用いて、JIS K 7215:1986に基づいて、タイプDデュロメータ(高分子計器株式会社 アスカーゴム硬度計D型)で23℃における硬化物の硬度(D硬度)を測定した場合に、23℃におけるD硬度が40~95であることがより好ましく、50~90であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の光造形用樹脂組成物は、その特性、特に光で硬化した際に、体積収縮率が小さくて造形精度に優れ、しかも造形物の柔軟性及び力学的特性に優れる成形品あるいは立体造形物、さらにはその他の造形物が得られるという特性を活かして種々の用途に使用することができ、例えば、光学的立体造形法による立体造形物の製造、流延成形法や注型等による膜状物あるいは型物等の各種成形品の製造、被覆用、真空成形用金型等に用いることができる。
【0056】
そのうちでも、本発明の光造形用樹脂組成物は、上記した光学的立体造形法で用いるのに適しており、その場合には、光硬化時の体積収縮率を小さく保ちながら、造形精度に優れ、且つ靭性及び力学的特性に優れる立体造形物を円滑に製造することができる。
【0057】
本発明の他の実施形態としては、前記したいずれかの光造形用樹脂組成物を用いて、従来公知の光学的立体造形法(例えば、吊り上げ式液槽光造形法)によって立体造形物を製造する方法が挙げられる。
【0058】
本発明の光造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行うに当たっては、従来公知の光学的立体造形法(例えば、吊り上げ式液槽光造形法)及び装置(例えば、DWS社製 DIGITALWAX(登録商標) 028J-Plus等の光造形機)のいずれもが使用できる。そのうちでも、本発明では、樹脂を硬化させるための光エネルギーとして、活性エネルギー光線を用いるのが好ましい。「活性エネルギー光線」は、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などのような光造形用樹脂組成物を硬化させ得るエネルギー線を意味する。例えば、活性エネルギー光線は、300~400nmの波長を有する紫外線であってもよい。活性エネルギー光線の光源としては、Arレーザー、He-Cdレーザーなどのレーザー;ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LED、水銀灯、蛍光灯などの照明などが挙げられ、レーザーが特に好ましい。光源としてレーザーを用いた場合には、エネルギーレベルを高めて造形時間を短縮することが可能であり、しかもレーザー光線の良好な集光性を利用して、造形精度の高い立体造形物を得ることができる。
【0059】
上記したように、本発明の光造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行うに当たっては、従来公知の方法(例えば、吊り上げ式液槽光造形法)及び従来公知の光造形システム装置のいずれもが採用でき特に制限されないが、本発明で好ましく用いられる光学的立体造形法の代表例としては、所望のパターンを有する硬化層が得られるように、光造形用樹脂組成物に活性エネルギー光線を選択的に照射して硬化層を形成する工程、次いでその硬化層にさらに未硬化液状の光造形用樹脂組成物を供給し、同様に活性エネルギー光線を照射して前記の硬化層と連続した硬化層を新たに形成する積層する工程を繰り返すことによって、最終的に目的とする立体造形物を得る方法を挙げることができる。また、それによって得られる立体造形物はそのまま用いても、また場合によってはさらに光照射によるポストキュアあるいは熱によるポストキュア等を行って、その力学的特性あるいは形状安定性等を一層高いものとしてから使用するようにしてもよい。
【0060】
光学的立体造形法によって得られる立体造形物の構造、形状、サイズ等は特に制限されず、各々の用途に応じて決めることができる。本発明の光学的立体造形法の代表的な応用分野としては、設計の途中で外観デザインを検証するためのモデル;部品の機能性をチェックするためのモデル;鋳型を制作するための樹脂型;金型を制作するためのベースモデル;試作金型用の直接型等の作製等が挙げられる。より具体的には、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車用部品、各種容器類、鋳物、金型、母型等のためのモデルあるいは加工用モデル等の製作が挙げられ、特に光造形用樹脂組成物の造形物の強度、靭性に優れるという特性を活かして、構造物(例えば、建築構造物)中の複雑な形状をしたクッション材、真空成形用金型等の用途に極めて有効に使用することができる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変更が本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0062】
実施例又は比較例に係る光造形用樹脂組成物に用いた各成分を略号とともに以下に説明する。
【0063】
[ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A)]
UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(共栄社化学株式会社製、分子量:471)
U4TH:N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール]テトラメタクリレート(共栄社化学株式会社製、分子量:673)
【0064】
[ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)]
POBA:m-フェノキシベンジルアクリレート(共栄社化学株式会社製)
EPPA:エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(新中村化学工業株式会社製)
【0065】
[光重合開始剤(C)]
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド
【0066】
[重合禁止剤(D)]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
【0067】
<合成例1>[ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)-aの製造]
(1)撹拌機、温度調節器、温度計及び凝縮器を備えた内容積5Lの四つ口フラスコに、2,4-トリレンジイソシアネート500g、及びジラウリル酸ジ-n-ブチルスズ0.2gを添加して、撹拌下に70℃に加熱した。
(2)一方、ポリエチレングリコール(日油株式会社製「PEG#200(登録商標)」、重量平均分子量Mw:200)600gを側管付きの滴下漏斗に添加し、この滴下漏斗の液を、上記(1)のフラスコ中に滴下した。なお、上記(1)のフラスコ中の溶液を撹拌しつつ、フラスコの内温を65~75℃に保持しながら4時間かけて等速で滴下した。さらに、滴下終了後、同温度で2時間撹拌して反応させた。
(3)次いで、別の滴下漏斗に添加した2-ヒドロキシエチルアクリレート400gとヒドロキノンモノメチルエーテル0.4gとを均一に溶解させた液をフラスコの内温を55~65℃に保持しながら2時間かけて等速で滴下した後、フラスコ内の溶液の温度を70~80℃に保持しながら4時間反応させることにより、ポリマー構造を有するウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)-a(重量平均分子量:800、1分子当たりのウレタン結合の数:4個)を得た。前記重量平均分子量は、GPCで測定を行い、ポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0068】
<参考例1>[ウレタン化(メタ)アクリル化合物1の製造]
(1)撹拌機、温度調節器、温度計及び凝縮器を備えた内容積5Lの四つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート250g、及びジラウリル酸ジ-n-ブチルスズ0.15gを添加して、撹拌下に70℃に加熱した。
(2)一方、ポリカーボネートポリオール(株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標) C-1090」;1,6-ヘキサンジオール/3-メチル-1,5-ペンタンジオール=9/1(質量比)からなる重合体、重量平均分子量:1000)500gを側管付きの滴下漏斗に添加し、この滴下漏斗の液を、上記(1)のフラスコ中に滴下した。なお、上記(1)のフラスコ中の溶液を撹拌しつつ、フラスコの内温を65~75℃に保持しながら4時間かけて等速で滴下した。さらに、滴下終了後、同温度で2時間撹拌して反応させた。
(3)次いで、別の滴下漏斗に添加した2-ヒドロキシエチルアクリレート150gとヒドロキノンモノメチルエーテル0.4gとを均一に溶解させた液をフラスコの内温を55~65℃に保持しながら2時間かけて等速で滴下した後、フラスコ内の溶液の温度を70~80℃に保持しながら4時間反応させることにより、ウレタン化(メタ)アクリル化合物1(重量平均分子量:1500、1分子当たりのウレタン結合の数:4個)を得た。前記重量平均分子量は、GPCで測定を行い、ポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0069】
[重量平均分子量の測定]
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(A-1)-a及びウレタン化(メタ)アクリル化合物1の重量平均分子量はGPC測定により求めた。溶離液としてテトラヒドロフランを用い、カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「TSKgel SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。またGPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製の「HLC-8320GPC」を用いた。測定には、まず試料4mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解させて試料溶液を作製した。次いで、カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35mL/分で試料溶液20μLを注入して試料のクロマトグラムを測定した。一方、分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づき、上記のように測定した試料のクロマトグラムから重量平均分子量を求めた(n=1)。
【0070】
[実施例1~9及び比較例1~2]
表1及び表2に示す分量で各成分を常温(20℃±15℃、JIS(日本工業規格) Z 8703:1983)下で混合して、実施例1~9及び比較例1~2に係る光造形用樹脂組成物としてのペーストを調製した。
得られた光造形用樹脂組成物について、光造形機(DWS社製 DIGITALWAX(登録商標) 020D)を用いて、JIS T 6501:2012(義歯床用アクリル系レジン)に記載の寸法の試験片(長さ64.0mm、幅10.0mm、厚さ3.3mm)の造形を行った。
【0071】
<強度(曲げ弾性率、曲げ強さ)、靭性(曲げ破断点変位)>
各実施例及び各比較例に係る光造形用樹脂組成物の硬化物について、上記試験片を空気中で1日保管後、該試験片を用いて3点曲げ試験を行って評価し、これを初期値とした。すなわち、万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG-I 100kN)を用いて、支点間距離50mm、クロスヘッドスピード5mm/minで該試験片を用いて3点曲げ試験を実施した(n=5)。測定値の平均値を表1、2に示す。試験片の曲げ弾性率としては、2.1~4.0GPaの範囲が好ましく、2.5~3.5GPaの範囲がより好ましく、2.75~3.25GPaの範囲がさらに好ましい。曲げ強さとしては、80MPa以上が好ましく、90MPa以上がより好ましく、100MPa以上がさらに好ましく、120MPa以上が特に好ましい。破断点変位としては、破断しないことが好ましい。破断点変位について、変位10mm以上で破断した場合を靭性が良好「○」とし、変位5mm超10mm未満で破断した場合を靭性が中程度「△」とし、変位5mm以下で破断した場合を靭性が悪い「×」とし、△以上を合格とした。
【0072】
<耐水性>
靭性の測定で作製した硬化物と同様にして作製した、各実施例及び各比較例に係る光造形用樹脂組成物の硬化物について、37℃水中浸漬168時間後、上記曲げ強さ試験と同様に、曲げ強さを測定した(n=5)。測定値の平均値を表1、2に示す。上記靭性における曲げ強さの測定結果を初期の曲げ強さとし、初期の曲げ強さに対する、37℃水中浸漬168時間後の曲げ強さの変化率(低下率)が5%以下であれば耐水性に優れ、2%以下であればより耐水性に優れる。
曲げ強さの変化率(低下率)(%)=〔{初期の曲げ強さ(MPa)-37℃水中浸漬168時間後の曲げ強さ(MPa)}/初期の曲げ強さ(MPa)〕×100
【0073】
<硬度>
各実施例及び各比較例に係る光硬化性樹脂組成物の硬化物について、上記の曲げ試験片を用いて、JIS K 7215:1986に基づいて、タイプAデュロメータ(高分子計器株式会社 アスカーゴム硬度計A型 製造番号32330)及びタイプDデュロメータ(高分子計器株式会社 アスカーゴム硬度計D型 製造番号35318)で23℃における硬化物の硬度を測定し、硬度の指標とした。結果を表1及び表2にそれぞれ示す。この測定において、23℃におけるA硬度が86以上又はD硬度が40~95である場合、その硬化物は、咬合の対して適度な硬さを有するため、義歯床材料、歯科用咬合スプリント及び睡眠時無呼吸症候群の治療具として適切といえる。
【0074】
【0075】
【0076】
表1及び表2に示す通り、実施例1~9における光造形用樹脂組成物の造形物は強度、靭性及び耐水性に優れていた。特に、実施例1~9に係る光造形用樹脂組成物の造形物の強度は、比較例1の樹脂組成物の造形物のものに比べて優れていた。また、実施例1~9に係る光造形用樹脂組成物の造形物の靭性は、比較例2の樹脂組成物の造形物のものに比べて優れていた。実施例1~9に係る光造形用樹脂組成物の造形物の耐水性は、比較例2のものに比べて優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の光造形用樹脂組成物は、造形物の強度、靭性及び耐水性に優れるため、各種歯科材料(特に義歯床材料、歯科用咬合スプリント)又は各種睡眠障害治療材料(特に睡眠時無呼吸症候群の治療具)等の口腔内用途に適している。