(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】剥離シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241118BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20241118BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241118BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20241118BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/26
B32B27/36
C08L15/00
C08L67/02
(21)【出願番号】P 2022508131
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2021004713
(87)【国際公開番号】W WO2021186953
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2020045283
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古野 会美子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴紀
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171617(JP,A)
【文献】特開2017-217838(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087885(WO,A1)
【文献】特開2017-177434(JP,A)
【文献】特開2019-127666(JP,A)
【文献】特開2009-131977(JP,A)
【文献】特開2019-093686(JP,A)
【文献】特開2003-181594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 5/20
7/61
7/65
109/00
167/00
C08K 5/3492
C08L 47/00
67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に形成された剥離層とを有し、
前記剥離層が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と、架橋剤(B)と、前記架橋剤(B)と反応する架橋性官能基を有するポリブタジエン(C)とを含む剥離剤組成物から形成された層であり、
前記剥離剤組成物における前記ポリブタジエン(C)の含有量が、前記シリコーン変性アルキド樹脂(A)と前記架橋剤(B)と前記ポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して20~70質量部
であり、
前記剥離剤組成物における前記シリコーン変性アルキド樹脂(A)の含有量が、前記架橋剤(B)100質量部に対して100~300質量部である、剥離シート。
【請求項2】
前記架橋性官能基が水酸基である、請求項1に記載の剥離シート。
【請求項3】
前記ポリブタジエン(C)が臭素価20g/100g以下の水素添加物である、請求項1又は2に記載の剥離シート。
【請求項4】
前記架橋剤(B)がアミン系化合物を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の剥離シート。
【請求項5】
前記アミン系化合物がメラミン化合物である、請求項4に記載の剥離シート。
【請求項6】
前記剥離剤組成物における前記ポリブタジエン(C)の含有量が、前記架橋剤(B)100質量部に対して50~700質量部である、請求項1から5のいずれか1項に記載の剥離シート。
【請求項7】
前記剥離剤組成物における前記シリコーン変性アルキド樹脂(A)の含有量が、
前記シリコーン変性アルキド樹脂(A)と前記架橋剤(B)と前記ポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して15~50質量部である、請求項1から6のいずれか1項に記載の剥離シート。
【請求項8】
前記剥離剤組成物がフィラーを更に含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の剥離シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、剥離シート(「工程シート」ということもある)は、例えば、紙、プラスチックフィルム、ポリエチレンラミネート紙等の基材と、基材上に設けられた剥離層とを有する。剥離層は、反応性化合物を含む剥離剤組成物を基材上に塗布して硬化させることにより形成される。
剥離シートは、例えば、粘着シート等が有する粘着剤層の保護用シート、樹脂シート作製用工程フィルム、セラミックグリーンシート成膜用工程フィルム、合成皮革製造用工程フィルム等として幅広く用いられている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、剥離シートの剥離層上に保護層(ハードコート層)及び接着剤層をこの順で備えた転写シート(転写箔)や、保護層と接着剤層の間に加飾層等の機能性付与層を有する転写シート、あるいは保護層及び機能性を有する接着剤層を備えた転写シートなどが知られている。転写シートを対象物に積層して剥離シートを剥離することにより、対象物の表面にハードコート性、装飾性、または任意の機能性を付与することができる。
ところで、このような転写シートにおいて、保護層及び接着剤層等の転写樹脂が硬化性の樹脂組成物であり、対象物へ転写シートを積層して加熱接着した後に剥離シートを除去する場合がある。その際に、対象物に転写シートを積層しつつ、保護層及び接着剤層が硬化する前の状態で、裁断等の加工が施されることがある。このため、保護層及び接着剤層が硬化する前の状態では、裁断等の加工で目的外の剥離が生じない程度に、保護層が剥離層から剥離しないような剥離特性が必要である。一方、保護層及び接着剤層が硬化した後の状態では、保護層が剥離層から容易に剥離できるような剥離特性が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-171617号公報
【文献】特開2017-177434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、保護層及び接着剤層が未硬化状態から硬化状態に変わって、剥離層と保護層との界面間の分子間力や極性が変化する化学的状態変化が生じるとともに、保護層及び/又は接着剤層が硬化することで剥離層とこれらの層との弾性率の差が桁違いとなる物理的状態変化が生じる。このような化学的物理的状態変化により剥離層と保護層との界面の剥離性を制御することが極めて困難である。さらに、保護層や接着剤層の硬化を加熱プレス処理によって行うこともあるため、剥離性を制御するためには、加熱プレス処理の温度や圧力の影響についても考慮する必要がある。したがって、加熱プレス処理前の保護層の未硬化状態における裁断等の加工によって剥離層が保護層から剥離してしまうことがなく、且つ、加熱プレス処理後の保護層の硬化状態には剥離層を保護層から容易に剥離することができる剥離シートの開発が強く望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、加熱プレス処理前における裁断等の加工によって剥離層が保護層から剥離してしまうことがなく、且つ、加熱プレス処理後には剥離層を保護層から容易に剥離することができる剥離シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シリコーン変性アルキド樹脂と、架橋剤と、所定量の特定ポリブタジエンとを含む剥離剤組成物から形成された剥離層を有する剥離シートが、上記の課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]に関する。
[1] 基材と、前記基材上に形成された剥離層とを有し、前記剥離層が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と、架橋剤(B)と、前記架橋剤(B)と反応する架橋性官能基を有するポリブタジエン(C)とを含む剥離剤組成物から形成された層であり、前記剥離剤組成物における前記ポリブタジエン(C)の含有量が、前記シリコーン変性アルキド樹脂(A)と前記架橋剤(B)と前記ポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して20~70質量部である、剥離シート。
[2] 前記架橋性官能基が水酸基である、上記[1]に記載の剥離シート。
[3] 前記ポリブタジエン(C)が臭素価20g/100g以下の水素添加物である、上記[1]又は[2]に記載の剥離シート。
[4] 前記架橋剤(B)がアミン系化合物を含む、上記[1]から[3]のいずれかに記載の剥離シート。
[5] 前記アミン系化合物がメラミン化合物である、上記[4]に記載の剥離シート。
[6] 前記剥離剤組成物における前記ポリブタジエン(C)の含有量が、前記架橋剤(B)100質量部に対して50~700質量部である、上記[1]から[5]のいずれかに記載の剥離シート。
[7] 前記剥離剤組成物における前記シリコーン変性アルキド樹脂(A)の含有量が、前記架橋剤(B)100質量部に対して100~300質量部である、上記[1]から[6]のいずれかに記載の剥離シート。
[8] 前記剥離剤組成物がフィラーを更に含む、上記[1]から[7]のいずれかに記載の剥離シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱プレス処理前における裁断等の加工によって剥離層が保護層から剥離してしまうことがなく、且つ、加熱プレス処理後には剥離層を保護層から容易に剥離することができる剥離シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態の剥離シートの概略断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態の剥離シートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の剥離シート(「工程フィルム」ということもある)は、基材と、基材上に形成された剥離層とを有し、剥離層が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)(以下、「(A)成分」ともいう)と、架橋剤(B)(以下、「(B)成分」ともいう)と、架橋剤(B)と反応する架橋性官能基を有するポリブタジエン(C)(以下、「(C)成分」ともいう)とを含む剥離剤組成物から形成された層であり、剥離剤組成物におけるポリブタジエン(C)の含有量が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して20~70質量部である。
本発明では、剥離剤組成物がポリブタジエン(C)をシリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計に対して特定量含有するため、加熱プレス処理前における裁断等の加工によって剥離層が保護層から剥離してしまうことがなく、且つ、加熱プレス処理後には剥離層を保護層から容易に剥離することができるという優れた効果を発現する。
【0012】
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
また、本明細書において、「有効成分」とは、剥離剤組成物に含まれる成分のうち、希釈溶媒を除いた成分を指す。
また、本明細書において、「樹脂成分」とは、剥離層(剥離剤組成物)の総固形分からフィラー(有機フィラー及び無機フィラー)を除いたものである。即ち、フィラーが有機フィラーを含む場合であっても、樹脂成分に有機フィラーは含まれない。
さらに、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0013】
[剥離シートの構成]
本発明の剥離シートは、基材と、該基材上に設けた剥離層とを有する。
図1は、本発明の第1実施形態の剥離シートの概略断面図である。剥離シート1は、基材10と該基材10上に設けられた剥離層11とを有する。剥離層11は、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と、架橋剤(B)と、特定のポリブタジエン(C)とを含む剥離剤組成物から形成された架橋物である。
なお、基材10と剥離層11との間には、図示しない易接着層、帯電防止層等の他の層が設けられていてもよい。
以下、本発明の剥離シートを構成する剥離層と基材とについて説明する。
【0014】
<剥離層>
本発明の剥離シートが有する剥離層は、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と、架橋剤(B)と、特定のポリブタジエン(C)とを含む剥離剤組成物から形成することができ、剥離剤組成物におけるポリブタジエン(C)の含有量が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して20~70質量部である。
以下、剥離層の形成材料である剥離剤組成物について説明する。
なお、以降の記載において、「剥離剤組成物中の有効成分の全量に対する各成分の含有量」は、「当該剥離剤組成物から形成された剥離層中の各成分の含有量」とみなすこともできる。
【0015】
<<剥離剤組成物>>
剥離剤組成物は、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と、架橋剤(B)と、特定のポリブタジエン(C)、すなわち、架橋剤(B)と反応する架橋性官能基を有するポリブタジエン(C)とを含む。
なお、以降の説明では、「架橋剤(B)と反応する架橋性官能基を有するポリブタジエン(C)」を「ポリブタジエン(C)」と略記することもある。
【0016】
本発明者らは、加熱プレス処理前においては、剥離剤組成物から形成した剥離層が、裁断等の加工によって保護層から剥離せず、一方、加熱プレス処理後においては、剥離剤組成物から形成した剥離層を、保護層から容易に剥離することができるための処方について種々検討を行った。その結果、剥離層が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と、架橋剤(B)と、架橋剤(B)と反応する架橋性官能基を有するポリブタジエン(C)との組み合わせが、有効な処方であることを見出した。
この結果を踏まえ、本発明者らは、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と、架橋剤(B)と、所定量の特定のポリブタジエン(C)とを含む剥離剤組成物から形成された剥離層を有する剥離シートが、上記問題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0017】
なお、本発明の一態様において、剥離剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外の添加剤を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0018】
以下、剥離剤組成物に含まれる各成分について説明する。
【0019】
(シリコーン変性アルキド樹脂(A))
本発明で用いるシリコーン変性アルキド樹脂(A)は、多価アルコールと多塩基酸との縮合物であるアルキド樹脂をシリコーン変性剤で変性したものであり、ベースとなる離型剤として機能し得る。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の二価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の三価アルコール;ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、マンニット、ソルビット等の四価以上の多価アルコール;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメット酸等の芳香族多塩基酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族飽和多塩基酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水シトラコン酸等の脂肪族不飽和多塩基酸;シクロペンタジエン-無水マレイン酸付加物、テルペン-無水マレイン酸付加物、ロジン-無水マレイン酸付加物等のディールズ-アルダー反応による多塩基酸;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
シリコーン変性剤としては、アルコキシシリル基やシラノール基を有する化合物を用いることができる。シリコーン変性剤の具体例としては、例えば、ジメチルポリシロキサン等の有機基を有するオルガノポリシロキサン、などが挙げられ、有機基の一部がフェニル基、エチル基、イソプロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、水酸基、ビニル基等であってもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アルキド樹脂をシリコーン変性剤により変性する方法として、多価アルコールと多塩基酸とを反応させる際にアルコール成分としてジオールポリシロキサンを反応させてもよく、また、アルキド樹脂にオルガノポリシロキサンを反応させてもよい。
シリコーン変性アルキド樹脂の市販品としては、テスファイン309、同319、TA31-209E(以上、いずれも日立化成ポリマー(株)製、商品名)等が挙げられる。
なお、これらのシリコーン変性アルキド樹脂(A)の市販品には該アルキド樹脂(A)を硬化するための硬化剤として、予めメラミン化合物等が配合されたものがある。このような市販品を用いる場合には、該市販品に硬化剤として配合されたメラミン化合物等を後述する架橋剤(B)成分として扱い、残りのシリコーン変性アルキド樹脂の正味分を(A)成分として扱う。
【0022】
剥離剤組成物におけるシリコーン変性アルキド樹脂(A)の含有量は、特に制限はないが、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して、好ましくは15~50質量部、より好ましくは20~45質量部、特に好ましくは25~40質量部である。剥離剤組成物におけるシリコーン変性アルキド樹脂(A)の含有量が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して、上記下限値以上であると、加熱プレス処理後の保護層から剥離層が容易に剥離するようにすることができ、また、上記上限値以下であると、加熱プレス処理前の保護層から剥離層が容易に剥離しないようにすることができる。
【0023】
剥離剤組成物において、シリコーン変性アルキド樹脂(A)の含有量は、特に制限はないが、後述する架橋剤(B)100質量部に対して、好ましくは100~300質量部、より好ましくは130~250質量部、特に好ましくは170~200質量部である。
シリコーン変性アルキド樹脂(A)の含有量が、上記下限値以上であると、保護層から剥離層が必要以上に剥離しにくくなるのを抑制することができ、また、上記上限値以下であると、得られる剥離層の硬度が低下するのを抑制することができる。
【0024】
本発明の一態様において、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)との含有比率(A/B)は、質量比で、好ましくは5/95~95/5であり、より好ましくは10/90~90/10である。上記含有比率(A/B)が上記下限値以上であると、剥離層が保護層から容易に剥離しなくなるのを抑制し、また、剥離層の柔軟性が低下して層割れを起こしやすくなるのを抑制する。一方、上記含有比率(A/B)が上記上限値以下であると、剥離層中の剥離剤組成物が硬化不足となるのを抑制し、剥離層の保護層からの剥離が不安定となって剥離層成分の保護層への移行が起きやすくなるのを抑制する。
【0025】
(架橋剤(B))
架橋剤(B)はポリブタジエン(C)の架橋剤として使用され、ポリブタジエン(C)が有する架橋性官能基と架橋反応が可能な化合物であれば、特に制限はないが、アミン系化合物を含むことが好ましく、アミン系化合物であることがより好ましい。
剥離剤組成物が架橋剤(B)を含むことによって、当該剥離剤組成物によって形成される剥離層の皮膜強度を向上させることができる。
なお、架橋剤(B)は、シリコーン変性アルキド樹脂(A)の硬化剤としても機能し得る。
【0026】
-アミン系化合物-
アミン系化合物としては、例えば、メラミン化合物、ベンゾグアナミン化合物、尿素化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、入手容易性、低コストの観点から、メラミン化合物が好ましい。
【0027】
--メラミン化合物--
メラミン化合物は、塩基性触媒の存在下でメラミンとホルムアルデヒドを付加反応させることにより得られる。この際、メラミンとホルムアルデヒドの量比を調節することによって、トリアジン核当たりの一級又は二級アミノ基の数を制御することができる。
メラミン化合物としては、例えば、メチロール化メラミン樹脂、イミノメチロール化メラミン樹脂、アルキル化メラミン樹脂、などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、剥離剤組成物中の他の成分との相溶性を向上させる観点から、アルキル化メラミン樹脂が好ましい。
アルキル化メラミン樹脂は、メチロール化メラミン樹脂中のメチロール基の一部又は全部を、アルキルモノアルコールによってアルキルエーテル化したものである。アルキルモノアルコールの種類やエーテル化率は、特に制限はなく、シリコーン変性アルキド樹脂(A)との相溶性、溶剤に対する溶解性、得られる剥離剤組成物の硬化性、基材との密着性等を考慮して、適宜選択することができる。
アルキル化メラミン樹脂の具体例としては、例えば、メチル化メラミン樹脂;エチル化メラミン樹脂;プロピル化メラミン樹脂;ノルマルブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂等のブチル化メラミン樹脂;ヘキシル化メラミン樹脂;ノルマルオクチル化メラミン樹脂等のオクチル化メラミン樹脂;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、シリコーン変性アルキド樹脂(A)との相溶性の観点から、炭素数が3以下のアルキル基を有するアルキル化メラミン樹脂が好ましく、メチル化メラミン樹脂がより好ましい。
メチロール化メラミン樹脂の市販品としては、ニカラックMS-11、同MW-12LF(以上、いずれも三和ケミカル株式会社製、商品名)等が挙げられる。
イミノメチロール化メラミン樹脂の市販品としては、ニカラックMS-001、同MX-750、同MX-706、同MX-035(以上、いずれも三和ケミカル株式会社製、商品名)等が挙げられる。
イミノ化メラミン樹脂の市販品としては、ニカラックMZ-351、同MX-730(以上、いずれも三和ケミカル株式会社製、商品名)等が挙げられる。
メチル化メラミン樹脂の市販品としては、サイメル303、同325、同327、同350、同370(以上、いずれも日本サイテックインダストリーズ株式会社製、商品名)、テスファイン200(日立化成ポリマー株式会社製、商品名)等が挙げられる。
剥離剤組成物における架橋剤(B)の含有量は、特に制限はないが、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して、5~30質量部が好ましく、より好ましくは10~25質量部、特に好ましくは15~20質量部である。剥離剤組成物における特定の架橋剤(B)の含有量が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して、上記下限値以上であると、熱プレス処理後において剥離層を保護層から容易に剥離することができ、また、上記上限値以下であると、剥離剤組成物の硬化性を十分に得ることができる。
また、シリコーン変性アルキド樹脂(A)とメラミン化合物等の架橋剤(B)は別々に調製したものを用いてもよく、シリコーン変性アルキド樹脂(A)とメラミン化合物等の架橋剤(B)との含有量が上記の範囲となるようにシリコーン変性アルキド樹脂(A)とメラミン化合物等の架橋剤(B)とを予め混合して調製したものを用いてもよい。
【0028】
(ポリブタジエン(C))
本発明では、ポリブタジエン(C)として、架橋性官能基を有するポリブタジエンを用いる。
本明細書において、「架橋性官能基」とは、架橋剤(B)と反応する官能基を意味する。
【0029】
ポリブタジエン(C)が有する架橋性官能基は、架橋剤(B)との関係で選択される。
ポリブタジエン(C)が有する架橋性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、チオール基、ビニル基、などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、架橋剤(B)として好ましいメラミン化合物との反応性をより良好なものとする観点から、架橋性官能基は、水酸基であることが好ましい。
また、ポリブタジエン(C)は、架橋性官能基を少なくとも1つ有していればよいが、架橋性官能基を2つ以上有することが好ましい。ポリブタジエン(C)が架橋性官能基を2つ以上有する場合、これらの官能基は互いに同一であっても異なっていてもよいが、互いに同一であることが好ましい。
【0030】
ポリブタジエン(C)が有する架橋性官能基の位置は、架橋性官能基が架橋剤(B)と反応し得る位置であれば、特に限定されない。
ここで、本発明の一態様において、架橋点間の距離を長くして、剥離性により優れた剥離層を形成する観点から、好ましくは、ポリブタジエン(C)のポリマー骨格を構成する分子鎖の少なくとも一方の末端に架橋性官能基を有し、より好ましくは、ポリブタジエン(C)のポリマー骨格を構成する分子鎖の両末端に架橋性官能基を有し、特に好ましくは、ポリブタジエン(C)のポリマー骨格を構成する主鎖の両末端のみに架橋性官能基を有する。
【0031】
ポリブタジエンは、1,4-シス体、1,4-トランス体、及び1,2-ビニル体をユニットとするポリマーである。各ユニットの含有比率が異なるポリブタジエンは各種市販されている。また、各ユニットの含有比率が異なるポリブタジエンは、定法により合成することもできる。
ポリブタジエン(C)は、該ポリブタジエン(C)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むことが好ましい。
ポリブタジエン(C)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエン(C)を剥離剤組成物に使用することで、保護層に対する剥離しやすさの経時変化が小さい剥離層を有する剥離シートを得ることができる。
ポリブタジエン(C)における1、2-ビニル体の含有比率は、ポリブタジエン(C)の合成をより容易とする観点から、より好ましくは60モル%以上、更により好ましくは70~90モル%、特に好ましくは80~90モル%である。
【0032】
ポリブタジエン(C)の数平均分子量(Mn)は、特に制限はなく、好ましくは1,000~30,000、より好ましくは1,000~20,000、更により好ましくは1,000~10,000、特に好ましくは1,000~5,000である。
【0033】
また、ポリブタジエン(C)は、水素添加物であってもよい。ポリブタジエン(C)の水素添加の程度は、部分水添であってもよいし、完全水添であってもよいが、剥離層の化学的安定性を向上させる観点からは、ビニル基の残存率が低い部分水添物であることが好ましく、完全水添物であることがより好ましい。
かかる観点から、ポリブタジエン(C)は、臭素価が低いことが好ましい。臭素価が低い程、ポリブタジエン(C)中のビニル基の残存率が低く、酸化等の化学変化を受けにくいことから剥離層の剥離しやすさの経時安定性を良好なものとし易い。
具体的には、ポリブタジエン(A)の水素添加物の臭素価は、好ましくは20g/100g以下、より好ましくは10g/100g以下、特に好ましくは8g/100g以下である。
なお、臭素価は、JIS K 2605に準拠して測定した値である。
なお、ポリブタジエン(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、本発明の一態様において、ポリブタジエン(A)は、水素添加物と非水素添加物の混合物であってもよい。
【0034】
剥離剤組成物における特定のポリブタジエン(C)の含有量としては、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して、20~70質量部である限り、特に制限はないが、好ましくは30~65質量部、より好ましくは40~60質量部、特に好ましくは45~55質量部以上である。剥離剤組成物における特定のポリブタジエン(C)の含有量が、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して、20質量部未満であると、加熱プレス処理後において剥離層が保護層から剥離しにくくなるのを抑制することができず、70質量部超であると、剥離剤組成物の硬化性が十分に得られず、加熱プレス処理後に重剥離化してしまう。
【0035】
本発明の一態様において、剥離層の経時安定性をより向上させる観点から、ポリブタジエン(C)と架橋剤(B)との含有比率(C/B)は、質量比で、好ましくは5/95~95/5であり、より好ましくは10/90~90/10である。
ポリブタジエン(C)と架橋剤(B)との更に好ましい含有比率(C/B)の範囲は、求められる剥離層の保護層との剥離しやすさによって異なる。例えば、ポリブタジエン(C)と架橋剤(B)との組み合わせにより得られる剥離層が保護層から剥離しにくいこと求められる場合には、ポリブタジエン(C)と架橋剤(B)との更に好ましい含有比率(C/B)は、質量比で、5/95~30/70であり、更により好ましくは10/90~20/80である。逆に、ポリブタジエン(C)と架橋剤(B)との組み合わせにより得られる剥離層が保護層から剥離しやすいことが求められる場合には、ポリブタジエン(C)と架橋剤(B)との更に好ましい含有比率(C/B)は、質量比で、70/30~95/5であり、更により好ましくは80/20~90/10である。
【0036】
(シリコーン変性アルキド樹脂(A)、架橋剤(B)、及びポリブタジエン(C)の合計含有量)
シリコーン変性アルキド樹脂(A)、架橋剤(B)、及びポリブタジエン(C)の合計含有量(以下、「(A)~(C)成分の合計量」ということもある)としては、特に制限はなく、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上、更により好ましくは90質量部以上、特に好ましくは95質量部以上である。
【0037】
(フィラー)
剥離剤組成物中には、フィラーが含有されていてもよい(例えば、
図2参照)。フィラーは、剥離層において表面凹凸を形成することにより、剥離剤層に接する保護層等にマット性を付与する働きをする。
【0038】
フィラーの平均粒子径としては、特に制限はなく、マット性付与及び粒子脱落防止の観点から、好ましくは1~10μm、より好ましくは2~8μmである。
なお、フィラーの平均粒子径の測定は、剥離フィルムの断面のフィラーを走査型電子顕微鏡で観察を行い、フィラー100個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とする方法で行う。
【0039】
フィラーの形状としては、特に制限はなく、球状及び球状でない不定形状のいずれであってもよい。
【0040】
フィラーは、有機フィラー、無機フィラーのいずれであってもよく、有機フィラー及び無機フィラーを併用してもよい。
有機フィラーの具体例としては、例えば、架橋ポリメチルメタアクリレート粒子、架橋メチルメタアクリレート-スチレン共重合体粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋メチルメタアクリレート-メチルアクリレート共重合粒子、架橋アルキルアクリレート-スチレン共重合粒子、架橋アルキルメタアクリレート-スチレン共重合粒子、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリアクリロニトリル樹脂粒子等の樹脂粒子、などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機フィラーの具体例としては、例えば、シリカ粒子、などが挙げられる。
【0041】
フィラーの含有量としては、特に制限はなく、樹脂成分100質量部に対して、マット性付与及び粒子脱落防止の観点から、好ましくは20~70質量部、より好ましくは40~60質量部である。
【0042】
(硬化触媒)
剥離剤組成物においては、硬化触媒を含んでいてもよい。硬化触媒を用いることで、ポリブタジエン(C)と架橋剤(B)との架橋反応性を向上させて、剥離層の剥離しやすさの経時安定性をより向上させやすいものとすることができる。
硬化触媒としては、酸性触媒が好ましい。酸性触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類;酢酸、モノクロル酢酸、ジクロル酢酸、酪酸等のカルボン酸(有機酸類);ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機スルホン酸(有機酸類);アルキルリン酸エステル(有機酸類);などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、酸性触媒の含有量としては、特に制限はないが、ポリブタジエン(C)100質量部に対し、好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.5~10質量部、特に好ましくは1~5質量部である。
【0043】
(その他の添加剤)
剥離剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述の(A)~(C)成分、フィラー、並びに硬化触媒以外の添加剤を含んでいてもよい。
このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、光開始剤、光安定剤、艶消し剤、粘度調整剤、レベリング剤等の各種添加剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記剥離剤組成物において、上記の他の添加剤を含有する場合、上記他の添加剤の含有量は、(A)~(C)成分の合計量100質量部に対し、好ましくは30質量部以下、より好ましくは0.1~15質量部である。
【0044】
(希釈溶媒)
剥離剤組成物は、基材への塗布性を向上させる観点から、上述した各種有効成分に希釈溶媒を加えて、溶液の形態としてもよい。
希釈溶媒は、上述の(A)~(C)成分の溶解性が良好である有機溶剤の中から選択される。
このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール、n-ブタノール、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、希釈溶媒として使用する有機溶剤は、上述の(A)~(C)成分の合成時に使用された有機溶剤をそのまま用いてもよいし、剥離剤組成物を均一に塗布できるように、上述の(A)~(C)成分の合成時に使用された有機溶剤及び/又はそれ以外の1種以上の有機溶剤を加えてもよい。
上記剥離剤組成物溶液を用いる場合には、該溶液を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱して乾燥させることが好ましい。
【0045】
希釈溶媒の量は、剥離剤組成物が塗布時に適度な粘度を有する量となるように適宜選定すればよい。
剥離剤組成物溶液の固形分濃度としては、特に制限はないが、好ましくは0.1~60質量%、より好ましくは0.2~50質量%、特に好ましくは0.5~40質量%である。
【0046】
<剥離層の厚み>
剥離層の厚みは、特に制限はないが、通常25~5000nmであればよく、好ましくは100~3000nmである。剥離層の厚みが25nm以上であれば、塗布量のバラつきによる剥離力のバラつきを抑制することができる。また、剥離層の厚みが5000nm以下であれば、剥離剤組成物の塗布膜の硬化性を良好にすることができる。
剥離層の厚みは、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0047】
<剥離層の表面>
剥離層表面の60°グロスとしては、特に制限はないが、被転写面に意図した意匠性を付与する観点から、好ましくは20%以下である。
なお、剥離層表面の60°グロスは、実施例に記載の方法で測定された値である。
剥離層の表面粗さRaとしては、特に制限はないが、被転写面のマット性、及び、生産性向上の観点から、好ましくは0.2~2.5μmである。
また、剥離層の表面粗さRaは、JIS B601:2001に準拠して測定された値である。
【0048】
<基材>
本発明の剥離シートに用いる基材としては、剥離層を支持できるものであれば、特に制限はなく、例えば、紙基材、樹脂フィルム、などが挙げられる。
紙基材としては、例えば、上質紙、中質紙、グラシン紙、アート紙、コート紙、クレーコート紙、キャストコート紙、クラフト紙等の紙類;これらの紙類にポリエチレン樹脂等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙;合成紙;などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;アセテート樹脂;ポリスチレン樹脂;塩化ビニル樹脂;等の合成樹脂からなるフィルムなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
基材は、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
基材の厚みとしては、特に制限はないが、通常、5~300μmであればよく、好ましくは10~200μmである。基材の厚みが5~300μmであれば、例えば、剥離シートを用いた粘着シート等に、印刷、裁断、貼付等の加工を施すのに適したコシや強度を与えることができる。
【0049】
また、基材として合成樹脂を用いる場合、基材の剥離層を設ける表面には、基材と剥離層との密着性を向上させるために、所望により酸化法や凹凸化法等の方法により表面処理を施すことができる。
酸化法としては、例えば、コロナ放電表面処理、クロム酸表面処理(湿式)、火炎表面処理、熱風表面処理、オゾン・紫外線照射表面処理等が挙げられる。また、凹凸化法としては、例えば、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は、基材の種類に応じて適宜選定されるが、一般には、コロナ放電表面処理法が効果及び操作性の観点から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0050】
本発明の剥離シートは、剥離層側の面にエンボス加工等を施して、剥離シートの表面に凹凸を形成してもよい。
また、本発明の剥離シートは、基材と剥離層のみからなっていてもよく、基材と剥離層との間に、易接着層、帯電防止層等の他の層が設けられていてもよい。剥離シートが易接着層を備えることにより、剥離シートからの剥離層の脱落を効果的に防止することができる。
【0051】
易接着層は、通常、基材における剥離層側の面上に易接着コート剤を塗布して形成される。易接着コート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート含有樹脂およびこれらの共重合体、並びに、天然ゴムや合成ゴムを主成分とするコート剤、などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、基材表面に対する易接着コート剤の塗布性、および基材と易接着層との密着性を向上させるため、基材における易接着コート剤を塗布する面に対して、化学処理、放電処理等の表面処理を行ってもよい。
【0052】
易接着層の厚みとしては、特に制限はないが、好ましくは50nm~5μm、より好ましくは100nm~1μmである。易接着層の厚みが、上記下限値以上であると、易接着層の効果を良好に得ることができ、上記上限値以下であると、易接着層の基材とは反対側の面の滑り性が良好なものとなり、易接着層上に剥離剤組成物を塗布する作業性が良好になる。
【0053】
[剥離シートを対象物から剥離する剥離力]
一般に、剥離シートを対象物から剥離する剥離力は、適用される用途や積層する保護層や接着剤層の種類によってさまざまであり、剥離時の剥離操作がスムーズになるよう低い剥離力が好ましい場合があったり、剥離操作するまでの対象物の保持性を向上させるために高い剥離力が好ましい場合があったりする。
加熱プレス処理前における、剥離シートを対象物から剥離する剥離力としては、例えば、160mN/50mm以上である。
加熱プレス処理後における、剥離シートを対象物から剥離する剥離力としては、例えば、50~1000mN/50mmである。
なお、剥離シートを対象物から剥離する剥離力は、剥離シートにおける基材の厚みや硬さ、対象物の剛性、保護層や接着剤層の成分や物理的特性、によって異なるため、その評価方法としては、後述する実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0054】
[剥離シートの製造方法]
本発明の剥離シートは、例えば、基材の少なくとも一方の面上に、剥離剤組成物を塗布し、加熱処理して、シリコーン変性アルキド樹脂(A)を硬化させ、ポリブタジエン(C)を架橋させて剥離層を形成することにより製造することができる。
基材上に形成された塗膜は、加熱により硬化させてもよく、(A)成分又は(B)成分が活性エネルギー線で反応する官能基を有する場合には、活性エネルギー線の照射により硬化させてもよく、加熱及び活性エネルギー線の照射を併用して硬化させてもよい。活性エネルギー線としては、紫外線、電子線等が挙げられる。
剥離剤組成物は、上述したように、希釈溶媒により希釈された溶液の形態であってもよい。
【0055】
加熱処理温度としては、特に制限はないが、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~230℃、さらにより好ましくは100~170℃、特に好ましくは130~160℃である。
また、加熱処理時間としては、特に制限はないが、好ましくは15秒間~5分間、より好ましくは20秒間~5分間、特に好ましくは30秒間~3分間である。
【0056】
剥離剤組成物の塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ゲートロールコート法、ダイコート法、などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
剥離剤組成物の塗布厚みは、得られる剥離層の厚みが、上述の範囲となるように調整される。
【0058】
[剥離シートの用途]
本発明の剥離シートは、粘着シート等の各種粘着体の保護シートとして使用可能であり、例えば、基材と、基材の一面に設けられる粘着剤層とを備える粘着シートの粘着剤層側の面に貼付して使用される。また、各種樹脂シート、セラミックグリーンシート、合成皮革、各種複合材料等を作製するときの工程フィルムとしても使用可能である。さらに、電磁波シールドフィルム等を作製するときの転写シートとしても使用可能である。本発明の剥離シートを工程フィルムや転写シートとして使用する場合には、剥離シートの剥離層側の面に樹脂等を塗布等して形成した各種のシート材料を剥離シートから剥離する工程にて使用する。
【0059】
[剥離シートの使用方法]
本発明の剥離シートは、様々な用途において次のような形で使用される。
例えば、本発明の剥離シートを転写シート用として使用する場合について説明する。まず、剥離シートの剥離層上に転写シートの転写層を構成する保護層や接着剤層を形成するための塗布液(保護層用塗布液、接着剤層用塗布液)を用意する。剥離シートの剥離剤層上に、保護層用塗布液、接着剤層用塗布液を順次、塗布し、必要に応じて加熱乾燥を行って、転写シートを形成する。塗布された最表層である接着層が乾燥後も粘着性を持っている場合には、別の剥離シートを積層して、接着層の粘着性の面を保護してもよい。ここで、剥離シートに直接接する保護層の成分としては、例えば、熱硬化性のアクリル樹脂等が好適に挙げられる。
このようにして得られた転写シートの転写層(保護層)を、転写される対象物に転写することになる。転写を行うためには、転写シートを必要とされるサイズに裁断する裁断工程、別の剥離シートを剥離する剥離工程、当該対象物に積層する積層工程、積層した転写層(保護層)を対象物に接着固定するよう加熱プレスをする加熱プレス工程、剥離シートを剥離する剥離工程などが行われ、「対象物-接着剤層-保護層」となる構成の物品が製造される。なお、ここでは、接着剤層と保護層が直接接しているものとしたが、接着剤層と保護層との層間に任意の機能層を設けるようにしてもよい。
上記転写を行う操作には、上記裁断工程のように、その工程内で剥離をしてはいけない操作が含まれると共に、上記加熱プレス工程のように、剥離シートと転写層(保護層)との層間の剥離性を変化させ得る操作が含まれる。上記加熱プレス工程の加熱プレス処理の温度としては、好ましくは100~240℃、より好ましくは130~210℃、さらに好ましくは160~180℃である。また、上記加熱プレス工程の加熱プレス処理の圧力としては、好ましくは0.1~10MPa、より好ましくは0.5~5MPa、さらに好ましくは1~3MPaである。さらに、上記加熱プレス工程の加熱プレス処理の時間としては、好ましくは1秒間~30分間、より好ましくは1~10分間、さらに好ましくは2~8分間である。
【実施例】
【0060】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例及び比較例]
実施例1~6及び比較例1~6の剥離シートを、以下の手順で作製した。
【0062】
<実施例1>
メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液(固形分濃度45質量%、メラミン樹脂とシリコーン変性アルキド樹脂との質量比(メラミン樹脂/シリコーン変性アルキド樹脂)=35/65)(商品名:TA31-209E、日立化成ポリマー株式会社製)50質量部(固形分換算)、両末端水酸基変性水添ポリブタジエン(臭素価:8g/100g、固形分濃度100質量%、数平均分子量:2,000)(商品名:GI-2000、日本曹達株式会社製)50質量部、トルエン514質量部、メチルエチルケトン342.7質量部の混合溶液中に不定形シリカ粒子(平均粒子径:2.0μm)(商品名:ニップシールSS-50B、東ソー・シリカ株式会社製)を32.1質量部添加し、ディスパーを用いて2,000rpmで20分間分散した。その液に硬化触媒としてのp-トルエンスルホン酸のメタノール溶液を2.2質量部(固形分換算)添加し、ディスパーを用いて1,500rpmで5分間撹拌した。
得られた剥離剤組成物の塗布液を、マイヤーバーを用いて、厚み50μmPETフィルム(商品名:ダイアホイルT-100、三菱ケミカル株式会社製)の片面に塗工し、150℃で1分間乾燥および硬化させ、硬化後の厚みが約2.0μmである剥離層を有する剥離シートを作製した。
なお、ここでいう「質量部」は、有効成分(固形分)換算での質量部を意味しており、以下、特にことわりのない限り、同様の意味である。
p-トルエンスルホン酸は、メタノール溶媒を用いて固形分濃度50質量%に希釈した溶液として添加した。
【0063】
<実施例2>
実施例1において、不定形シリカ粒子の添加量を、32.1質量部から21.6質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0064】
<実施例3>
実施例1において、「メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液」の添加量を50質量部(固形分換算)から30質量部(固形分換算)に変更し、且つ、両末端水酸基変性水添ポリブタジエンの添加量を50質量部から70質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0065】
<実施例4>
実施例1において、「メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液」の添加量を50質量部(固形分換算)から60質量部(固形分換算)に変更し、且つ、両末端水酸基変性水添ポリブタジエンの添加量を50質量部から40質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0066】
<実施例5>
実施例1において、「メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液」の添加量を50質量部(固形分換算)から70質量部(固形分換算)に変更し、且つ、両末端水酸基変性水添ポリブタジエンの添加量を50質量部から30質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0067】
<実施例6>
実施例1において、不定形シリカ粒子の添加量を、32.1質量部から0質量部(未添加)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0068】
<比較例1>
実施例1において、「メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液」の添加量を50質量部(固形分換算)から100質量部(固形分換算)に変更し、且つ、両末端水酸基変性水添ポリブタジエンの添加量を50質量部から0質量部(未添加)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0069】
<比較例2>
実施例1において、「メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液」の添加量を50質量部(固形分換算)から10質量部(固形分換算)に変更し、且つ、両末端水酸基変性水添ポリブタジエンの添加量を50質量部から90質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0070】
<比較例3>
実施例1において、両末端水酸基変性水添ポリブタジエンをアクリル樹脂(商品名:アクリディックA-817、DIC株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0071】
<比較例4>
実施例1において、「メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液50質量部(固形分換算)」を、「メラミン化合物であるヘキサメトキシメチルメラミン(固形分濃度:80質量%)(商品名:テスファイン200、日立化成ポリマー株式会社製)3.6質量部とメラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アクリル樹脂溶液(固形分濃度35質量%、メラミン樹脂とシリコーン変性アクリル樹脂との質量比(メラミン樹脂/シリコーン変性アクリル樹脂)=30/70)(商品名:X-62-9088、信越化学工業株式会社製)46.4質量部(固形分換算)との混合物」に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0072】
<比較例5>
実施例1において、「メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液50質量部(固形分換算)」を、「メラミン化合物であるヘキサメトキシメチルメラミン(固形分濃度:80質量%)(商品名:テスファイン200、日立化成ポリマー株式会社製)9.4質量部とメラミン樹脂が配合されたステアリル変性アルキド樹脂溶液(固形分濃度48質量%、メラミン樹脂とステアリル変性アルキド樹脂との質量比(メラミン樹脂/ステアリル変性アルキド樹脂)=20/80)(商品名:テスファイン303、日立化成ポリマー株式会社製)40.6質量部(固形分換算)との混合物」に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0073】
<比較例6>
実施例1において、「メラミン樹脂が配合されたシリコーン変性アルキド樹脂溶液50質量部(固形分換算)」を、「メラミン化合物であるヘキサメトキシメチルメラミン(固形分濃度:80質量%)(商品名:テスファイン200、日立化成ポリマー株式会社製)50質量部((固形分換算))」に変更したこと以外は、実施例1と同様にして剥離シートを作製した。
【0074】
実施例1~6及び比較例1~6の剥離シートについて、以下の測定及び評価を実施した。
【0075】
[剥離層の厚み]
剥離層の厚みは、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社製、商品名:分光エリプソメトリー 2000U)を用いて測定した。
【0076】
[耐溶剤性]
実施例1~6及び比較例1~6で得られた剥離シートの剥離層上に、メチルエチルケトンを含浸させた不織布(商品名:ベムコットン、旭化成株式会社製)を置き、上方から100g荷重をかけて5回払拭した。目視で剥離層表面を観察し、剥離層表面に変化がない場合をAとし、剥離層表面が傷などで白化した場合をBとして評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[加熱プレス処理前剥離力]
実施例1~6及び比較例1~6で得られた剥離シートの剥離層上に保護層用の熱硬化性樹脂としてのアクリル樹脂(商品名:UC-3000、東亜合成株式会社製)を塗工し、160℃30秒間乾燥させることにより、厚みが約3μmのアクリル樹脂を製膜した。得られたサンプルを万能引張試験機(商品名:オートグラフAGS-20NX、株式会社島津製作所製)に固定し、JIS K6854:1999に準拠して、180°方向に引張速度0.3m/分の速度で、アクリル樹脂から剥離シートを剥離した。このときの剥離に要した応力を、加熱プレス処理前における剥離シートの剥離力(mN/50mm)とした。結果を表1に示す。
【0078】
[加熱プレス処理後剥離力]
実施例1~6及び比較例1~6で得られた剥離シートの剥離層上に保護層用の熱硬化性樹脂としてのアクリル樹脂(商品名:UC-3000、東亜合成株式会社製)を塗工し、160℃30秒間乾燥させることにより、厚みが約3μmのアクリル樹脂を製膜した。得られたサンプルにプレス機(商品名:手動油圧加熱プレス180C、株式会社井元製作所製)を用いて、170℃、2MPa、5分間の条件で加熱プレス処理を行った。その後、万能引張試験機(商品名:オートグラフAGS-20NX、株式会社島津製作所製)に固定し、JIS K6854:1999に準拠して、180°方向に引張速度0.3m/分の速度で、アクリル樹脂から剥離シートを剥離した。このときの剥離に要した応力を、加熱プレス処理後における剥離シートの剥離力(mN/50mm)とした。結果を表1に示す。
【0079】
[転写樹脂のグロス]
実施例1~6及び比較例1~6で得られた剥離シートの加熱プレス処理後剥離力を測定した後、光沢計(商品名:VG7000、日本電色工業株式会社製)を用いて、アクリル樹脂の剥離シート(工程フィルム)が積層されていた面の角度60°の光沢度(60°グロス)を測定することにより、保護層等の転写樹脂へのマット感付与性を評価した。結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1より、シリコーン変性アルキド樹脂(A)と架橋剤(B)とポリブタジエン(C)との合計100質量部に対して、ポリブタジエン(C)を20~70質量部含有する剥離剤組成物を用いた実施例1~6では、加熱プレス処理前剥離力を160mN/50mm以上に調整し、且つ、加熱プレス処理後剥離力を1000mN/50mm以下に調整することができるという優れた効果を発現することが分かった。
表1より、フィラーを含有する剥離剤組成物を用いた実施例1~5では、フィラーを含有しない剥離剤組成物を用いた実施例6と比べて、角度60°の光沢度(60°グロス)が小さくなり、保護層等の転写樹脂へのマット感付与性を向上させることができることが分かった。
【符号の説明】
【0082】
1,1A 剥離シート
10 基材
11 剥離層
12 フィラー