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特許7589234LiDARアプリケーションのためのMEMSフェーズドアレイ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】LiDARアプリケーションのためのMEMSフェーズドアレイ
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20241118BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20241118BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G02B26/10 101
G02B26/08 E
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022513282
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 US2020048179
(87)【国際公開番号】W WO2021041660
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】62/891,977
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/947,514
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/001,477
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504438783
【氏名又は名称】シリコン・ライト・マシーンズ・コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】ハマン ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ソルガード オラブ
(72)【発明者】
【氏名】ペイン アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】エンガ ラーズ
(72)【発明者】
【氏名】ハンター ジェームス
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0004151(US,A1)
【文献】国際公開第2019/046135(WO,A1)
【文献】特開2007-164061(JP,A)
【文献】国際公開第2004/051345(WO,A1)
【文献】特開2018-197678(JP,A)
【文献】特開2001-056492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0234984(US,A1)
【文献】特開2013-125165(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0301872(US,A1)
【文献】特開2007-079443(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0267148(US,A1)
【文献】MOHAMMAD, Tarek et al.,A MEMS Optical Phased Array Based on Pitch Tunable Silicon Micromirrors for LiDAR Scanners,Journal of Microelectromechanical Systems,Volume: 30, Issue: 5,米国,IEEE,2021年07月07日,Page(s): 712 - 724,インターネット: <URL: https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=9475875><DOI: 10.1109/JMEMS.2021.3092701>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
G02B 6/35
26/00 - 26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から光を受信し、受信した光の少なくとも一部の位相を変調して、照明のスワスを形成するために光が分散される第1の方向と前記光源から受信された光の位相の変調によって前記スワスが誘導される第2の次元とを含む2次元で、遠景に光を投影する、光送信器と、
前記遠景から光を受信し、受信した光の少なくとも一部を検出器上に導く、複数の第1微小電気機械システム(MEMS)フェーズドアレイを有する、光受信器と、
を備え、
前記複数の第1MEMSフェーズドアレイは、背景光を除去しながら、前記遠景から反射された前記光源からの光を前記検出器に導いて、受信した光をデスキャンするように構成される、
光スキャナ。
【請求項2】
請求項1に記載の光スキャナであって、
前記光送信器が、前記光源から光を受信し、受信した光の少なくとも一部の位相を変調して、2次元で前記遠景に光を投影する、複数の第2MEMSフェーズドアレイを備える、
光スキャナ。
【請求項3】
請求項2に記載の光スキャナであって、
前記光送信器が、前記複数の第2MEMSフェーズドアレイからの光を前記遠景に投影する投影光学系をさらに備え、前記投影光学系が、前記光を前記第1の方向に分散させて照明の前記スワスを形成し、前記光スキャナの視野(FOV)を増大させるための、レンチキュラーアレイを備える、
光スキャナ。
【請求項4】
請求項3に記載の光スキャナであって、
前記光源が、光パワーを増加させ、目に安全なパワーの限界を拡張する、複数のエミッタを有する垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)アレイを備える、
光スキャナ。
【請求項5】
請求項4に記載の光スキャナであって、
前記光送信器が、前記光源からの光で前記複数の第2MEMSフェーズドアレイを照明する照明光学系をさらに備え、前記照明光学系において、前記複数の第2MEMSフェーズドアレイの1以上の光変調器を個別に照明するためのレンチキュラーアレイを備える、
光スキャナ。
【請求項6】
請求項5に記載の光スキャナであって、
前記光受信器は、前記遠景から光を受信し、受信した光を前記複数の第1MEMSフェーズドアレイ上に導く受信光学系をさらに備え、前記受信光学系は、前記複数の第1MEMSフェーズドアレイの有効フィルファクタを高めるためのレンチキュラーアレイを備える、
光スキャナ。
【請求項7】
請求項1に記載の光スキャナであって、
前記検出器が、1次元(1D)検出器アレイを備え、前記光受信器が、ポインティング受信器であり、ここにおいて、前記第1MEMSフェーズドアレイが前記遠景のスライスから反射された光を前記1D検出器アレイに選択的に導く一方で、前記スライス外の前記遠景からの反射光および背景光を除去する、
光スキャナ。
【請求項8】
請求項1に記載の光スキャナであって、
前記複数の第1MEMSフェーズドアレイが、基板上に平行に配列されて保持された複数のリボンを含むリボンMEMSフェーズドアレイを備え、各リボンは、光反射面と、前記リボンMEMSフェーズドアレイの長軸と直交する長尺性と、を有し、前記リボンMEMSフェーズドアレイは、前記複数のリボンの少なくともいくつかを前記基板に向けて偏向させて、そこから反射される光の位相を変調して、角度次元および前記フェーズドアレイの前記長軸に平行な軸方向次元で、前記遠景をスキャンするように構成されている、
光スキャナ。
【請求項9】
請求項8に記載の光スキャナであって、
前記複数の第1MEMSフェーズドアレイが、前記光スキャナの有効アパーチャを増加させるために、配列された複数のリボンMEMSフェーズドアレイを備える、
光スキャナ。
【請求項10】
請求項9に記載の光スキャナであって、
前記リボンMEMSフェーズドアレイは、長波長の光の位相の変調を可能とするために、前記複数のリボンと前記基板との間に、減衰構造をさらに備える、
光スキャナ。
【請求項11】
請求項8に記載の光スキャナであって、
前記光スキャナの有効アパーチャを増加させるために、前記複数のリボンの各々が、その長さに沿って柱によって分割されて、並列に配置された複数のリボンMEMSフェーズドアレイを形成する、
光スキャナ。
【請求項12】
請求項8に記載の光スキャナであって、
前記リボンMEMSフェーズドアレイが、ブレーズプロファイルを有するリボンを備え、前記リボンMEMSフェーズドアレイからの0次の反射光をシフトさせる、
光スキャナ。
【請求項13】
光源から光を受信し、照明のスワスを形成するために光が分散される第1の方向と前記光源から受信された光の少なくとも一部の位相の変調によって前記スワスが誘導される第2の次元とを含む2次元で、遠景に光を投影する、複数の微小電気機械システム(MEMS)フェーズドアレイを含む、光送信器と、
前記遠景から反射された前記光送信器からの光の少なくとも一部を含む光を受信し、受信した光の少なくとも一部を検出器上に導く、光受信器と、
を備え、
前記光送信器が、前記複数のMEMSフェーズドアレイからの光を前記遠景に投影する投影光学系をさらに備え、前記投影光学系が、前記光を前記第1の方向に分散させて照明の前記スワスを形成し、光スキャナの視野(FOV)を増大させるための、レンチキュラーアレイを備える、
光スキャナ。
【請求項14】
請求項13に記載の光スキャナであって、
前記複数のMEMSフェーズドアレイが、基板上に平行に配列されて保持された複数のリボンを含むリボンMEMSフェーズドアレイを備え、各リボンは、光反射面と、前記リボンMEMSフェーズドアレイの長軸と直交する長尺性と、を有し、前記リボンMEMSフェーズドアレイは、前記複数のリボンの少なくともいくつかを前記基板に向けて偏向させて、前記光源から受けた光の位相を変調して、角度次元および前記リボンフェーズドアレイの前記長軸に平行な軸方向次元で、前記遠景に光を投影するように構成されている、
光スキャナ。
【請求項15】
請求項14に記載の光スキャナであって、
前記リボンMEMSフェーズドアレイが、ブレーズプロファイルを有するリボンを備える、
光スキャナ。
【請求項16】
遠景に光を送信する光送信器と前記遠景から光を受信する光受信器との間で共有される共有微小電気機械システム(MEMS)フェーズドアレイと、
コヒーレント光源と、
前記コヒーレント光源からの光で前記共有MEMSフェーズドアレイを照明する照明光学系と、
前記共有MEMSフェーズドアレイからの光を前記遠景に投影する投影光学系と、
前記遠景から光を受信し、受信した光を前記共有MEMSフェーズドアレイ上に導く受信光学系と、
前記共有MEMSフェーズドアレイが、受信した光の少なくとも一部をそこに導く検出器と
を備え、
前記共有MEMSフェーズドアレイが、
第1の時間において、前記コヒーレント光源からの光の位相を変調し、2次元(2D)で前記遠景に光を投影し、
第2の時間において、前記遠景から反射された前記コヒーレント光源からの光を前記検出器に導き、背景光を除去して、前記受信した光をデスキャンするように構成されている、
光スキャナ。
【請求項17】
請求項16に記載の光スキャナであって、
前記共有MEMSフェーズドアレイが、基板上に平行に配列されて保持された複数のリボンを含むリボンMEMSフェーズドアレイを備え、各リボンは、光反射面と、前記リボンMEMSフェーズドアレイの長軸と直交する長尺性と、を有し、前記リボンMEMSフェーズドアレイは、前記複数のリボンの少なくともいくつかを前記基板に向けて偏向させて、そこから反射される光の位相を変調して、角度次元および前記リボンフェーズドアレイの前記長軸に平行な軸方向次元で、前記遠景に光を投影するように構成されている、
光スキャナ。
【請求項18】
請求項17に記載の光スキャナであって、
前記共有MEMSフェーズドアレイが、前記システムの有効アパーチャを増加させるために、並列に配置された複数のリボンフェーズドアレイを備える、
光スキャナ。
【請求項19】
請求項17に記載の光スキャナであって、
前記システムの有効アパーチャを増加させるために、前記複数のリボンの各々が、その長さに沿って柱によって分割されて、並列に配置された複数のリボンMEMSフェーズドアレイを形成する、
光スキャナ。
【請求項20】
請求項16に記載の光スキャナであって、
前記照明光学系、前記投影光学系、または、前記受信光学系のうちの少なくとも1個が、
折り曲げられたアナモルフィック光学系を備える、
光スキャナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年8月24日に出願された米国非仮出願番号17/001,477の国際出願であり、米国特許法第119条(e)に基づき、2019年12月12日に出願された米国仮特許出願第62/947,514号、および、2019年8月27日に出願された米国仮特許出願第62/891,977号の優先権の利益を主張するものであり、これら両方の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、光による検知と測距(LIDAR)システムに関し、より具体的には、微小電気機械システムデバイス(MEMS)ベースのフェーズドアレイを備えるLIDARシステム、および、その動作方法に関する。
【背景技術】
【0003】
光による検知と測距、すなわちLIDARシステムは、自動車、ロボット、および、無人または自動運転車を含む多くの異なる用途において、マッピング、物体の検知と識別、および、ナビゲーションのために、広く使用される。一般に、LIDARシステムは、典型的にはレーザのようなコヒーレント光源からの光ビームを、遠景(ファーフィールドシーン:far field scene)にあるターゲットに照射し、その反射光をセンサで検出することで動作する。光が戻るまでの時間や波長の違いがLiDARシステムで解析されることで、ターゲットまでの距離が測定される。また、アプリケーションによっては、ターゲットのデジタル3Dモデルがレンダリングされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のLiDARシステムでは、ターゲット上に光ビームを誘導するために、回転ミラーや移動ミラーなどの機械的なスキャナが使用される。しかしながら、これらの機械的なLIDARシステムは、やや大きく、比較的高価な機器であるため、多くのアプリケーションでの使用には不適である。
【0005】
より最近の技術として、ソリッドステート型のLiDARシステムがある。ここでは、スキャナが、単一の基板またはチップ上に全体的に構築されたMEMSフェーズドアレイ(MEMS phased-array)を形成するために使用されるMEMSベースの空間光変調器で置き換えられている。ソリッドステート型のLiDARシステムによると、従来のLiDARシステムに比べて、より安価で、よりコンパクトなシステムを、より高い分解能で、提供できる可能性がある。少なくとも理論的には、従来の機械的なLiDARシステムに比べて、はるかに高速なビームステアリングが可能である。しかしながら、より大きな視野角(FOV)と分解能のために求められる大きなスキャン角度を達成するためには、光の波長をLiDARシステムで一般的に使用されるものに近づけつつも、MEMSのミラーと素子を小型化することが求められる。すると今度は、MEMSフェーズドアレイが高コスト化するとともに複雑化し、そのせいで、従来のLiDARシステムの機械的スキャナに対する、DMDベースのMEMSフェーズドアレイの速度の優位性を維持することが難しくなる。
【0006】
このため、LiDARアプリケーションに用いるにあたって、高速なビームステアリングと大きなスキャン角度とを提供できるMEMSフェーズドアレイと、その動作方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
LiDARシステムに好適に使用されるMEMSフェーズドアレイ(以下、MEMSフェーズドアレイ)を形成するための微小電気機械システム(MEMS)ベースの空間光変調器を備える光スキャナ、その製造方法、および、その動作方法が、提供される。
【0008】
一実施形態では、光スキャナは、コヒーレント光源から光を受信し、受信した光の少なくとも一部の位相を変調して、2次元(2D)で遠景をスキャンするように構成された、複数の第1MEMSフェーズドアレイを含む、光送信器と、遠景から光を受信し、受信した光の少なくとも一部を検出器に導くように構成された、複数の第2MEMSフェーズドアレイを含む、光受信器と、を備える。概して、第2MEMSフェーズドアレイは、背景光を除去しながら、遠景から反射されたコヒーレント光源からの光を検出器に導いて、受信した光をデスキャン(de-scan)するように構成される。
【0009】
別の実施形態では、光スキャナは、単一の共有(shared)MEMSフェーズドアレイを使用して実現することができる。ここにおいて、MEMSフェーズドアレイは、第1の時間において、コヒーレント光源からの光の位相を変調し、第1の時間において、遠景をスキャンし、第2の時間において、遠景から反射されたコヒーレント光源からの光を検出器に導き、背景光を除去して、受信した光をデスキャンするように構成される。
【0010】
別の態様では、複数のMEMSフェーズドアレイを備える光スキャナの動作方法が提供される。概して、この方法は、第1の微小電気機械システム(MEMS)MEMSフェーズドアレイを、コヒーレント光源からの光で照明することから始まる。次に、第1MEMSフェーズドアレイが、コヒーレント光源からの光の位相を変調し、第1MEMSフェーズドアレイからの変調された光を遠景に投影して、遠景を2次元(2D)でスキャンするように、制御される。最後に、遠景からの光が、第2MEMSフェーズドアレイで受信され、第2MEMSフェーズドアレイが制御されることによって、コヒーレント光源を起点として遠景から反射された光が、背景光を除去されながら、検出器に導かれることにより、受信された光がデスキャンされる。
【0011】
本発明の実施形態は、以下に続く詳細な説明と、添付された図面および特許請求の範囲から、より十分に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ソリッドステート型の光スキャナを備える、光による検知と測距(LiDAR:ライダー)システムの実施形態を示すブロック図である。
図2A図2Aは、微小電気機械システムデバイス(MEMS)フェーズドアレイが、光のビームまたはスワスを誘導させるために動作される方法を示す模式図である。
図2B図2Bは、微小電気機械システムデバイス(MEMS)フェーズドアレイが、光のビームまたはスワスを誘導させるために動作される方法を示す模式図である。
図2C図2Cは、微小電気機械システムデバイス(MEMS)フェーズドアレイが、光のビームまたはスワスを誘導させるために動作される方法を示す模式図である。
図3図3は、MEMSフェーズドアレイを有する光スキャナを備えるLiDARシステムの模式図であり、MEMSを使用して遠景をスキャンすることを可能とする方法の実施形態が示されている。
図4図4は、周波数変調連続波(FMCW)技術を用いたLiDARシステムにおける、出射パルスの周波数の時間変化を示す図である。
図5A図5Aは、スキャナの光送信器にMEMSフェーズドアレイを備える、ソリッドステート型の光スキャナの一実施形態を示す、ブロック図である。
図5B図5Bは、図5Aのソリッドステート型の光スキャナの他の実施形態を示すブロック図であり、スキャナの光送信器に第1MEMSフェーズドアレイを備え、光受信器に第2MEMSフェーズドアレイを備える。
図5C図5Cは、図5Aのソリッドステート型の光スキャナのさらに他の実施形態を示すブロック図であり、送信側と受信側の光路の両方に、共有MEMSフェーズドアレイを備える。
図6図6は、光スキャナの一実施形態を示すブロック図であり、スキャナの光受信器にMEMSフェーズドアレイを備える。
図7A図7Aは、光スキャナに使用するのに好適なMEMSフェーズドアレイを形成するために使用されるMEMSベースのリボン型の空間光変調器(SLM)の一実施形態を示す図である。
図7B図7Bは、光スキャナに使用するのに好適なMEMSフェーズドアレイを形成するために使用されるMEMSベースのリボン型の空間光変調器(SLM)の一実施形態を示す図である。
図8図8は、ビームステアリングの際の図7Aおよび図7BのSLMの複数の個々のリボンのピッチと振幅を、模式的に示す図である。
図9図9は、ブレーズパターンで配置された図7Aおよび図7BのSLMの変調器の線形アレイの一部分におけるピッチと振幅を、模式的に示す図である。
図10図10は、図9で表されるアレイの、ステアリング角度に対する強度のグラフであり、高速のビームステアリングおよび大きなスキャン角度を必要とするアプリケーションへのMEMSフェーズドアレイの適合性を示している。
図11図11は、図7Aおよび図7Bのリボン型SLMのリボンを、バネ上のコンデンサ(capacitor-on-a-spring)としてモデル化した模式図である。
図12図12は、減衰構造を備える、図7Aおよび図7BのSLMの一部分の側断面図である。
図13図13は、MEMSフェーズドアレイの実施形態の平面図を示す図であり、該MEMSフェーズドアレイは、1次元(1D)アレイを有するリボン型SLMを複数備え、これらは、その上を変調光がスキャンされるMEMSフェーズドアレイの長軸に平行な軸方向寸法を増大させるように、積み重ねられる。
図14図14は、MEMSフェーズドアレイの実施形態の平面図を示す図であり、該MEMSフェーズドアレイは、1次元(1D)アレイを有するリボン型SLMを複数備え、これらは、並列に配置される。
図15A図15Aは、MEMSフェーズドアレイの他の実施形態を示す図であり、該MEMSフェーズドアレイは、リボン型SLMを1個、備え、該リボン型SLMにおいて、SLMの各リボンがその長さに沿って柱によって分割されて、複数の並列な1Dアレイを形成する。
図15B図15Bは、MEMSフェーズドアレイの他の実施形態を示す図であり、該MEMSフェーズドアレイは、リボン型SLMを1個、備え、該リボン型SLMにおいて、SLMの各リボンがその長さに沿って柱によって分割されて、複数の並列な1Dアレイを形成する。
図15C図15Cは、MEMSフェーズドアレイの他の実施形態を示す図であり、該MEMSフェーズドアレイは、リボン型SLMを1個、備え、該リボン型SLMにおいて、SLMの各リボンがその長さに沿って柱によって分割されて、複数の並列な1Dアレイを形成する。
図16A図16Aは、別の実施形態に係る、ブレーズ型プロファイルを有するリボン型SLMの、細長い素子またはリボンの断面を示す。
図16B図16Bは、リボン型SLMの一実施形態の断面図を示し、これが備えるブレーズ型のリボンが非活性化状態である。
図16C図16Cは、リボン型SLMの一実施形態の断面図を示し、これが備えるブレーズ型のリボンが完全活性化状態である。
図17図17は、遠景をスキャンするために光を誘導するMEMSフェーズドアレイを備える光スキャナの、照明および投影光学系を示す光学系図である。
図18A図18Aは、遠景をスキャンするために光を誘導するMEMSフェーズドアレイを備える光スキャナの光学系における、水平または長手軸に沿った単一画素(ピクセル)の照明および投影光路を示す光学系図である。
図18B図18Bは、図18Aに示される投影光学系のフーリエアパーチャ(Fourier aperture)における、0次ビームと回折した±1次ビームを示す光学系図である。
図19図19は、コンパクトMEMSフェーズドアレイを備えるコンパクト光スキャナの概略ブロック図であり、照明光学系、投影光学系、および、受信光学系のための、折り曲げられた光路を示す。
図20A図20Aは、レンチキュラーアレイの平面図を示す、概略ブロック図である。
図20B図20Bは、図20Aのレンチキュラーアレイの断面図である。
図20C図20Cは、図20Aのレンチキュラーアレイの単一の要素による、リボンMEMSフェーズドアレイの単一の変調器の0次の照明を示す、光学系図である。
図21図21は,光による検知と測距(LiDAR:ライダー)システムで使用する、MEMSフェーズドアレイを備える光スキャナの動作方法を示す、フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
光による検知と測距(LiDAR)システムに好適に使用される、微小電気機械システム(MEMS)MEMSフェーズドアレイを備える光スキャナ、その製造方法、および、その動作方法が、提供される。以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために、特定の材料、寸法、および、プロセスパラメータ、などについて、多数の具体的な内容が記載される。しかしながら、特定の実施形態は、これらの具体的な内容の1以上を採用することなく実施することが可能であり、また、他の既知の方法、材料、および装置と組み合わせて実施することも可能である。また例えば、本発明を不必要に不明瞭にするのを避けるために、よく知られた半導体設計および製造技術は詳細には説明されていない。本明細書全体を通して「実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、材料、または、特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の各所で「一実施形態において」という表現が登場するのは、必ずしも本発明の同一の実施形態を指すものではない。さらに、特定の特徴、構造、材料、または特性は、1つまたは複数の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わされることができる。
【0014】
図1は、本開示によるソリッドステート型の光学スキャニングシステムまたは光スキャナ102を備えるLiDARシステム100の一実施形態を示す、ブロック図である。図1を参照すると、LiDARシステム100は、概ね、光スキャナ102を含むLiDARシステムの他の構成要素の動作を制御するとともに、ホストシステム(図示せず)と連携するための、マイクロコントローラまたはコントローラ104を備える。コントローラ104は、プロセッサとデータ処理回路を含んでおり、遠景106における物体の位置を検知および測定するために、光スキャナ102からの信号を解析し、物体とLiDARシステム100またはホストとの間の距離の飛行時間(TOF)を推定し、上記の測定を経時的に繰り返すことによって、遠景における移動する物体の速度および方向を検知および測定する。一般に、コントローラ104は、追加の回路およびメモリをさらに含み、遠景106において感知された車や歩行者などの個別の物体のサイズを測定して識別する。必要に応じて、コントローラ104は、遠景106の3次元(3D)モデルを作成するメモリおよび回路をさらに含むことができる。
【0015】
光スキャナ102は、光を生成し、送信し、遠景106を少なくとも2次元でスキャンする光送信器108と、遠景からの反射光を受信する光受信器110とを備える。概して、光送信器108と光受信器110の両方は、いずれも、ソリッドステート型である。ソリッドステート型とは、光送信器108の光スキャニング素子と、光受信器110の集光素子との両方が、シリコン基板、半導体基板、または、他のタイプの基板上に、微小電気機械システムデバイス(MEMs)、および、半導体または集積回路(IC)の製造技術を利用して製造または形成されることを意味している。特に、光スキャナ102のビームステアリング素子または光スキャニング素子は、従来のLiDARシステムで使用される回転ミラーや移動ミラーなどの機械的なスキャナの代わりに、複数のMEMSフェーズドアレイを使用して形成される。図1に示されるようないくつかの実施形態では、光スキャナ102、コントローラ104を含む実質的なLiDARシステムの全体が、ホストシステムへの任意のインタフェース(この図には示されていない)とともに、単一の集積回路(IC112)上に、一体的に形成されている。光スキャナ102は、従来のLiDARシステムのような移動素子または回転素子を含まない。その結果、光スキャナおよびLiDARシステムは、振動に対してより耐性があり、はるかに小さくすることができ、また、安価にすることができる。
【0016】
次に、光学的なMEMSベースのフェーズドアレイを動作させて、ビームステアリングまたはスキャニングを実行する態様または方法を、図2A図2Cを参照して説明する。概して、光学的なMEMSベースのフェーズドアレイ(以下、MEMSフェーズドアレイ)は、変調器の列を使用して、それぞれの素子からの信号の相対的な位相を調整することによって、コヒーレントな光ビームの方向を変更する。図2A図2Cには、MEMSフェーズドアレイ200の構成要素となる2つの隣り合う光反射素子202または画素が、模式的に示されている。2つの画素または光反射素子202のみが図示されているが、LiDARアプリケーションに使用されるMEMSフェーズドアレイは、典型的には、数百から数千の光反射素子を含むであろうことが理解されよう。特に、図2Aおよび図2Bは、角度スキャンの両端(すなわち、MEMSフェーズドアレイ200の長軸208と直交する0度または後方反射から、±1次まで)を表すものである。これらの図に示されるように、隣り合う画素または光反射素子202の間で可能な位相傾斜の最大値は、1πまたは4分の1波長(λ/4)の偏向である。図2Cは、図2A図2Bの間の中間角度に光を誘導するために、隣り合う画素または光反射素子202間の偏向を、λ/xとした構成を示している。ここにおいて、xは、四(4)より大きい整数である。
【0017】
図2Aを参照すると、MEMSフェーズドアレイ200は、コヒーレントな入射光204のラインで照明される。光反射素子202を、静止状態または偏向のない状態から、入射光204の波長(λ)に対して異なる量で、個別にアドレス指定または偏向させると、MEMSフェーズドアレイ200から反射した波面206が、MEMSフェーズドアレイの長軸208に対して、角度(φ)をなして、MEMSフェーズドアレイから離れる方向に、伝播することができる。図2Aは、静止状態または偏向のない状態の光反射素子202を示しており、ここでは、反射光が、MEMSフェーズドアレイの軸208に平行な方向に伝播または誘導されている。図2Cは、入射光204の波長(λ)の0.25倍に等しい量で偏向された状態の光反射素子202を示しており、これによって、反射光が、MEMSフェーズドアレイの軸208に対して、第1の角度(φ’)で、離れる方向に誘導または伝播される。図2Bは、入射光204の波長(λ)のX<.25倍に等しい量で偏向された状態の光反射素子202を示しており、これによって、反射光が、MEMSフェーズドアレイの軸208に対して、第2の角度(φ)で、離れる方向に誘導または伝播される。
【0018】
入射光204の波長(λ)の0.25倍は、位相のアンビギュイティ(phase ambiguity)を導入せずに隣り合う光反射素子202を偏向させることができる最大の値であり、正と負の1次ビームを作るバイナリパターンをもたらすことに留意すべきである。したがって、φの2倍の値が、変調された光のラインまたはスワスを誘導またはスキャンさせることができる視野角(FOV)の最大角度を表すものとなり、これは1次の反射光の間の角度によって決定される。1次の反射光に関するこれらの角度の実際の値は、光反射素子202の幅または光反射素子202間のピッチと、入射光204の波長(λ)に依存するが、一般的には、次の式で与えられる。
【数1】
ここで、λは入射光の波長であり、dは光反射素子202の2つの幅である。
【0019】
次に、MEMSフェーズドアレイを備えるLiDARシステムにおいて、遠景をスキャンするための動作方法について、図3を参照しながら説明する。図3は、コントローラ301とソリッドステート型の光スキャナ302とを備えるLiDARシステム300の一部を概略的に示す機能構成図である。ソリッドステート型の光スキャナ302は、少なくとも1つのMEMSフェーズドアレイ306を備える光送信器304を有する。光送信器304は、光源から、整形または照明光学系(この図には示されていない)を介して光を受信し、受信した光の少なくとも一部の位相を変調し、位相変調された光のビームを、投影光学系308を介して送信または投影して、照明のラインまたはスワス310を誘導して、遠景312をスキャンするように構成されている。MEMSフェーズドアレイ306は、MEMSフェーズドアレイの異なる部分に入射する光の位相変調を変えることによって、光ビームを誘導して、遠景312をスキャンする。概して、第1MEMSフェーズドアレイ306は、少なくとも、角度次元(θ)、および、MEMSフェーズドアレイの長軸に平行な軸方向次元(矢印314で示す)を含むような2次元(2D)で、遠景312をスキャンするように構成される。
【0020】
光スキャナ304は、単一のMEMSフェーズドアレイ306を備えるように概略的に示されているが、これはすべての実施形態において必要ではなく、一般にそうでないことに留意すべきである。むしろ、以下で詳細に説明するように、光スキャナ304が、一体となって動作する複数の隣り合うMEMSフェーズドアレイ306を含むこと、または、単一のMEMSフェーズドアレイが、複数の隣り合うアレイを有することで、アパーチャ(aperture)の幅または長さのいずれかを増大させて、送信光または受信光のパワーまたは放射光束を増大させ、システムの点広がり分解能(point spread resolution)を増大させることが、多くの場合において有利である。
【0021】
光スキャナ304はさらに、光受信器316を備える。光受信器316は、遠景312からの光を取り込むための収集または受信光学系318を備える。取り込まれた光は、検出器320上に導かれる。
【0022】
図3を参照して、LiDARシステム300から遠景312内のターゲットまたは物体322までの深さまたは距離の情報は、パルス式、振幅変調連続波(amplitude-modulated-continuous-wave:AMCW)、または、周波数変調連続波(frequency-modulated-continuous-wave:FMCW)を含む、複数の標準的なLiDAR技術のうちのいずれかを用いて得ることが可能である。パルス式およびAMCWのLiDARシステムでは、送信光の強度の振幅が、パルス化されるか、信号で変調され、LiDARシステム300から物体322までのTOFは、戻り信号が時間遅延される量を測定することによって得られる。反射物体までの距離は、この時間の半分に、光速を乗じることで求められる。
図4は、FMCW技術を用いたLiDARシステムにおける、送信光の出射パルスの周波数の時間変化を示す図である。図3および図4を参照すると、FMCWのLiDARでは、送信光の出射チャープまたはパルス400の周波数は、光のスワス310が遠景312をわたって連続的にスキャンされるにつれて、時間とともに連続的に変化する。物体322までの時間は、物体から反射された光の周波数をローカル発振器の周波数と比較することによって求めることができ、物体までの距離は、先に述べたように、光速を用いることによって求められる。FMCWのLiDARシステムは、ローカル発振器が、検出された信号の固有の増幅を提供するという点で、振幅変調よりも有利である。
【0023】
TOFに関する情報を用いて、LiDARシステムのコントローラ301は、次に、遠景312における物体322の位置を計算することができる。X軸324に沿う物体312の位置は、MEMSフェーズドアレイから光が送信されたときのMEMSフェーズドアレイ306のステアリングの方向から計算され、Y軸326に沿う物体312の位置は、検出器の長軸に平行な検出器320の軸(矢印328で示される)に沿った物体の検出位置から計算される。
【0024】
次に、本開示による光スキャナの実施形態であって、遠景における人、建物、自動車などの物体またはターゲットをスキャンおよび/または識別するためのLiDARシステムでの使用に特に適しているものを、図5A図5Cおよび図6のブロック図を参照して説明する。
【0025】
図5Aを参照すると、第1の実施形態において、光スキャナ500は、光送信器504、および、光受信器506を備える。光送信器504は、概ね、光源508と、光源からの光でMEMSフェーズドアレイ512を照明する整形または照明光学系510と、MEMSフェーズドアレイからの位相変調光を遠景516に送信または投影して、遠景を少なくとも2次元でスキャンする結像または投影光学系514とを備える。
【0026】
光源508は、MEMSフェーズドアレイ512からの光が位相および/または振幅について変調されることを可能とするべく、コヒーレント光を、十分なパワーレベルまたはパワー密度で、また、単一の波長または周波数、あるいは、狭い範囲の波長または周波数で、連続して放出またはパルス化できる、任意の種類および数の発光デバイスを含むことができる。一般に、光源508は、光を連続的に放射する連続波光源であり、放射される光は、AMCWのLiDARの場合は、振幅について変調され、FMCWのLiDARの場合は、周波数について変調される。遠景内の物体が連続的に照らされるので、該光源は、パルス式のシステムにおける高いピークパワーと比較して、より少ないパワーで動作することができる。光源508は、ダイオードレーザ、垂直共振器面発光レーザ(vertical-cavity surface-emitting lasers:VCSELS)、などといったレーザまたはレーザエミッタを、複数備えることができる。一実施形態では、光源光源508は、目に安全なパワーの限界(eye-safe power limit)を満たす、あるいは拡張しつつ、光パワーを増加させるために、複数のレーザエミッタを有するVCSELアレイを備える。別の実施形態では、光源508は、約750から約2000未満(<2000)nmの波長(λ)で、約5000から約40,000ミリワット(mW)のパワーを生じさせる高出力レーザを、複数備える。
【0027】
照明光学系510は、レンズ積分器、ミラー、および、プリズムを含む複数の要素を備えることができ、光源508からの光を第1MEMSフェーズドアレイ512に伝達して、MEMSフェーズドアレイの全体の幅および/または長さを実質的にカバーする所定幅のラインを、照明するように構成される。一実施形態では、照明光学系510は、第1MEMSフェーズドアレイ512内の1個以上の変調器を個別に照明するための、マイクロレンズ、または、レンチキュラーアレイ(以下でより詳細に説明する)を備える。
【0028】
投影光学系514もまた、レンズ、積分器、ミラー、および、プリズムを備えることができ、MEMSフェーズドアレイ512からの光を伝達して、遠景516内のラインまたはスワスを照明するように構成される。一般に、投影光学系514は、フーリエ変換(FT)レンズおよびミラーなどの拡大光学系または要素を含み、光スキャナ500の視野(FOV)を増大させる。一実施形態では、投影光学系514は、遠景516において投影光が移動または誘導される方向と直交する照明のスワスを形成するために、第1の方向に光を分散させる、レンチキュラーアレイを備える。
【0029】
光受信器506は、概ね、遠景から光を収集または受信し、受信した光を検出器520または検出器アレイへと導くまたは通過させる、受信光学系518を備える。照明および投影光学系と同様に、受信光学系518は、レンズ、積分器、ミラー、および、プリズムを備えることができ、遠景516からの光を受信して検出器520上に伝達するように構成される。一実施形態では、受信光学系518は、検出器520の有効フィルファクタを高めるためのレンチキュラーアレイを備える。
【0030】
一般に、検出器520は、光源508によって生成される波長の光に感度を有する、任意の種類の検出器を備えることができる。これには、ローリングシャッターカメラ、または、カメラ、フォトダイオード検出器の1次元または2次元アレイ、または、単一光子アバランシェダイオード(single photon avalanche diode:SPAD)アレイ、が含まれる。図5Aに示す実施形態では、受信光学系は2Dであり、検出器は、検出器の2Dアレイ、または、2D検出器アレイである。自動車で使用されるLiDARシステムでは、遠距離を検出するために、検出器520は、APDなどの低密度で高感度のデバイスを使用することができる。
【0031】
図5Bに示す別の実施形態では、光受信器506は、第2MEMSフェーズドアレイ522を備えるポインティング光受信器であり、背景光を実質的に除去しながら、遠景516のスライスから反射された光を検出器520上に選択的に導くことによって、収集または受信された光をデスキャンする。例えば、第2MEMSフェーズドアレイは、これが光を誘導する方向を、第1MEMSフェーズドアレイ512が光ビームを誘導する方向の情報に基づいて調整することにより、遠景516から反射された光源からの光を、検出器520上に導く。必要に応じて、図示の実施形態のように、光受信器506は、第2MEMSフェーズドアレイ522からの光を検出器520に伝達する検出器光学系524を、さらに備えることができる。照明光学系510、投影光学系514、および、受信光学系518と同様に、検出器光学系524は、レンズ、積分器、ミラー、および、プリズムを備えることができ、実質的に、検出器520をフィル(fill)、または、オーバーフィル(over fill)するように構成される。一実施形態では、受信光学系518は、積み重ねられたフェーズドアレイ522の有効フィルファクタを高めるためのレンチキュラーアレイを備える。
【0032】
検出器520が一次元(1D)検出器アレイを備え、光受信器506がポインティング受信器(pointing- receiver)であるいくつかの実施形態においては、第2MEMSフェーズドアレイ522が、スライス外の遠景からの反射光および背景光を除去しつつ、遠景516のスライスから反射された光を1D検出器アレイ上に選択的に導く。
【0033】
図5Aに示す実施形態と同様に、光スキャナ500は、光送信器504、および、光受信器506を備える。光送信器504は、さらに、光源508と、光源からの光で第1MEMSフェーズドアレイ512を照明する照明光学系510と、MEMSフェーズドアレイからの位相変調光を遠景516に送信または投影する投影光学系514と、を備える。光受信器506は、第2MEMSフェーズドアレイ522に加えて、検出器520と、遠景516から光を収集または受信し、その光を第2MEMSフェーズドアレイ522および検出器520へと導くまたは通過させる受信光学系518と、を備える。第2MEMSフェーズドアレイ522が、遠景から反射された光源からの光を検出器520上に導くので、第2MEMSフェーズドアレイ522が設けられていない場合と比較して、検出器520のサイズまたは幅を小さくすることが可能である。すなわち、第2MEMSフェーズドアレイ522が、2Dシーン516のスライスを検出器520に結像することができるため、検出器を、1Dアレイ検出器を備えるものとすることができる。シーンの全体は、第2MEMSフェーズドアレイのスキャニングによって再構成される。
【0034】
図5Cに示すさらに別の実施形態では、光スキャナ500は、共有MEMSフェーズドアレイ526を含んでいる。共有MEMSフェーズドアレイ526は、第1の時間において、光源508からの光の位相を変調して遠景516をスキャンし、第2の時間において、背景光を実質的に除去しながら、遠景516から反射された光源からの光を検出器520上に導き、収集または受信した光をデスキャンするように構成される。図5Aおよび図5Bに示す実施形態と同様、光スキャナ500は、光送信器504、および、光受信器506を備える。光送信器504は、光源508、および、共有MEMSフェーズドアレイ526に加えて、光源からの光でMEMSフェーズドアレイを照明する照明光学系510と、MEMSフェーズドアレイからの位相変調光を遠景516に送信又は投影する投影光学系514と、を備える。光受信器506は、検出器520および共有MEMSフェーズドアレイ526に加えて、遠景516から光を収集または受信する受信光学系518と、必要に応じて、共有MEMSフェーズドアレイおよび検出器520上へと光を導くまたは通過させる検出器光学系524と、を備える。
【0035】
図6に示す別の実施形態では、光スキャナ600は、スキャナの光受信器604にMEMSフェーズドアレイ602を備え、光送信器608に空間光変調器(SLM606)を備えることができる。光送信器608におけるSLM606は、ソリッドステート型のデバイスを備える必要はなく、代替的に、遠景610上で光ビームを誘導するために、回転ミラーや移動ミラーなどの機械的なスキャナを備えることができる。上述した実施形態と同様に、光受信器604は、MEMSフェーズドアレイ602に加えて、遠景610から光を収集または受信し、その光をMEMSフェーズドアレイおよびそこから検出器614上へと導くまたは通過させる受信光学系612を備える。光送信器608は、さらに、光源616と、光源からの光でSLM606を照明する照明光学系618と、MEMSフェーズドアレイからの位相変調光を遠景610に送信または投影する投影光学系620と、を備える。
【0036】
次に、光スキャナでの使用に適したMEMSフェーズドアレイを形成するためのMEMSベースの空間光変調器(SLM)の実施形態を説明する。
【0037】
LIDARシステムのMEMSフェーズドアレイに用いて光ビームを変調または誘導するのに適したMEMSベースのSLMの1つのタイプは、カリフォルニア州サニーベルのシリコンライトマシーンズ社から市販されている、グレーティング光バルブ(Grating Light Valve)(GLV(商標))などの、複数の静電偏向可能リボンを備えるリボン型SLM(ribbon-type SLM)またはリボンMEMSフェーズドアレイである。リボン型SLMは、一般に、一次元(1D)の線形アレイを備える。線形アレイは、各々が基板の表面上に支持された光反射面を有し、独立して設けられ、アドレス指定可能で静電作動する、細長い素子やリボンなどの可動構造体を、数千個含んで構成される。各リボンは、電極を備える。また、各リボンは、リボン内の電極と基板内または基板上に形成され得るベース電極との間に電圧が印加されたときに発生する静電気力によって、ギャップまたはキャビティを介して、基板に対して偏向可能である。リボン電極は、アレイと同じ基板上に一体的に形成されたドライバ内の駆動チャネルによって、駆動される。リボン型SLMは、小型、高速、低コストのシステムであり、製造、統合、パッケージングが容易でありつつも、大きな回折角度を提供できることから、幅広いLiDARアプリケーションに適している。さらに、リボン型SLMは、ローリングシャッターカメラ、フォトダイオード検出器アレイ、SPADアレイ、および、複数の半導体ダイオードレーザあるいはVCSELsを用いたレーザアレイあるいはバーなどを含む幅広い照明源と、組み合わせて使用することにより、3Dスキャンあるいは3Dモデルを作成することが可能である。
【0038】
次に、本発明のリボン型SLMの一実施形態について、図7Aおよび図7Bを参照しながら説明する。明確化のために、一般的なMEMSおよびMEMSベースのSLMについての詳細の多く、特に、広く知られている内容および本発明に関連しない内容は、以下の説明においては省略されている。記載された図面は、概略的なものに過ぎず、非限定的なものである。説明の便宜上、図面において、一部の要素の大きさは、誇張され、縮尺どおりに描かれていない場合がある。寸法および相対的な寸法は、本発明の実施に対する実際の縮小に対応しない場合がある。
【0039】
図7Aおよび図7Bを参照すると、ここに示される実施形態において、SLMは、一次元(1D)リボン型SLM700であり、線形アレイ702を備える。線形アレイ702は、各々が基板708の表面上に支持された光反射面706を有し、独立して設けられ、アドレス指定可能で静電作動するリボン704を、数千個含んで構成される。各リボン704は、電極710を備える。また、各リボン704は、リボン内の電極と基板内または基板上に形成され得るベース電極714との間に電圧が印加されたときに発生する静電気力によって、ギャップまたはキャビティ712を介して、基板708に対して偏向可能である。リボン電極710は、線形アレイ702と同じ基板708上に一体的に形成されたドライバ718内の駆動チャネル716によって、駆動される。
【0040】
図7Bには、図7AのSLM700における、細長い素子またはリボン704の側断面図が概略的に示されている。図7Bを参照すると、リボン704は、基板708の表面722の上方にリボンを支持するための弾性機械層720と、導電層または電極710と、機械層および導電層の上にあって、反射面706を備える反射層724と、を備える。
【0041】
一般に、機械層720は、張りのあるシリコン窒化膜(silicon-nitride film)(SiNx)を備え、リボン704の両端において、典型的には同じくSiNxからなる複数の柱または構造体によって、基板708の表面722の上方に柔軟に支持されている。導電層または電極710は、図示のように、機械層720の上にこれと物理的に直接に接触して形成されてもよいし、あるいは、機械層の下に形成されてもよい。導電層またはリボン電極710は、標準的なMEMS製造技術に適合する、任意の適切な導電または半導体材料を含むことができる。例えば、電極710は、ドープされた多結晶シリコン(polycrystalline silicon)(ポリ)層、または、金属層を含むことができる。あるいは、反射層724が金属である場合は、これが電極710としても機能し得る。
【0042】
独立した個別の反射層724を備える場合、これは、標準的なMEMS製造技術に適合し、反射面706を形成するために標準的なリソグラフィー技術を使用してパターン化することができる、任意の適切な金属材料、誘電材料、または、半導体材料を含むことができる。
【0043】
図示の実施形態では、単一のドライバチャネル716によって駆動されるアレイ内のリボンを少なくとも含む複数のリボンが合わせてグループ化されて、多数個のMEMS画素726が形成される。
図8は、図7Aおよび図7Bにおける一群のSLMリボンのピッチおよび振幅が、光ビームを誘導するためにどのように調整され得るかを示す、模式図である。図8を参照すると、垂直な入射ビーム802を、反射ステアリング角度θで誘導するために、リボン804は、ピッチまたは周期Λの「ブレーズ(blaze)」パターン806に配置される。ブレーズのピッチΛが小さくなるにつれて、光はより大きな角度θで誘導される。なお、ブレーズ周期Λは、ステアリング角度θの連続的な変調を可能にするために、整数または非整数の値を取ることができる。ブレーズ周期が2本のリボンで構成されている場合に、ステアリング角度は最大値となる。
図9は、リボン型SLMにおけるリニアアレイ902の一部を模式的に示す、リボンの長軸方向の断面図である。リボン906の偏向は、アレイに沿って単調な位相変化(monotonic phase variation)が付与されるように、変化される。位相変化が1個の波(すなわち、半波の偏向)を超えると、ブレーズグループ903を形成する波長によるモジュロ除算(modulo division)によって偏向パターンが継続されることに留意する。プログラム可能なMEMS素子(リボン906)を有するSLMによると、光が角度について連続的にスキャンされ得るので、LIDARなどのステアリングアプリケーションに特に有用である。
【0044】
図10は、ステアリング角度に対する強度のグラフであり、図9に模式的に表されるリボン型SLMの、フェーズドアレイアプリケーションへの適合性を示している。図10を参照すると、図9に示されたリボン型SLMに沿った周期的な空間パターンが、フェーズドアレイの反射を形成することがわかる。パターンの空間周期および振幅を変化させると、反射ビームの角度が変わるので、複数のパターンを迅速に循環させることで、リボン型SLMが、フィールドを横断してビームを掃引することが可能となる。特に次の点に注意するべきである。つまり、アレイ902上の空間パターンの周期が増加すると、すなわち、各周期がより多数のリボンを含むと、アレイ902から反射される光の最大強度1008は、矢印1010で示されるように左側にシフトする。空間周期が減少する、すなわち、各周期におけるリボンの数が減少すると、アレイ902から反射される光の最大強度1008は、矢印1012で示されるように右側にシフトする。
【0045】
リボン型SLMは、スイッチング速度が速いため、LiDARなどのMEMSフェーズドアレイのアプリケーションに有効である。しかし、LiDAR用のリボン型SLMを設計するには、2つの課題がある。第1は、一般的に、大きなストローク(すなわち、個々のリボンを偏向させることができる量)が使用されることである。多くの場合、リボン型SLMは、変調または誘導される光の波長の2分の1まで、あるいは、それを超えるストロークを有することが、示唆される。例えば、1550nmの波長を使用するLIDARのアプリケーションでは、十分な位相シフトを得るために、約0.8μmのストロークが望ましいことが分かっている。位相変調器のストロークは、波長に対してリニアに変化する。
【0046】
MEMSフェーズドアレイに使用されるリボン型SLMの第2の課題は、広い角度のスイングを実現するために、リボンが、狭いリボン幅を有するべきということである。一般に、MEMSフェーズドアレイアプリケーションのリボン型SLMに使用されるリボンは、リボン幅が、おおよそ<5μmまたはそれより小さいことが示唆され、いくつかの実施形態では、0.5μmの狭さとすることができる。
【0047】
大きなストロークと狭いリボン幅というこれらの要件のために、ビームステアリングに望ましいとされるリボン型SLMの高速な切り替えが、非常に困難となる。というのも、大きなエアギャップ上の狭いリボンは、非常に減衰しにくく、ギターの弦のように挙動して、落ち着くまでに時間がかかり、それによって、ビームを誘導できる速度が制限されるからである。
【0048】
次に、エアギャップとリボン幅が、セトリングタイムに与える影響について、図11を参照しながら説明する。図11は、リボン型SLMのリボンを、バネ上のコンデンサとしてモデル化した模式図である。図11を参照すると、リボン1102と接地された下部または基板電極1104との間に印加された電位V(t)は、リボンを基板電極の方へ距離x偏向させる静電クーロン引力を生じさせる。静電気力は、弾性復元力(図11ではバネ1106で表される)によって、釣り合わされる。静電気力が除去されてしまうと、張りのあるシリコン窒化膜の機械層(図7Bでは機械層720として示されている)に起因する弾性復元力によって、リボン1120は中立状態または位置へ戻ることができる。さらに、リボンの瞬間速度に比例してリボン1102の動きを遅くする、または減衰させる、スクイーズ膜効果から生じる減衰力(図11ではダンパー1108で表される)が存在する。スクイーズ膜の減衰は、リボン幅とエアギャップの厚みの両方に強く依存する。セトリングタイムは、エアギャップの厚みの3乗に比例し、リボン幅の3乗に反比例する。したがって、幅の狭いリボンで十分な制振作用を得るには、エアギャップを非常に薄くすることが示唆される。
【0049】
クーロン引力(Fcoulomb)は、次式で与えられる。
【数2】
ここで、εは、自由空間(free space)の誘電率であり、Aは、リボンの有効容量面積(effective capacitive area)(単位:平方メートル)(m)であり、Gは、ギャップの厚みであり、xは、基板電極に対するリボンの直線変位(単位:メートル)である。
【0050】
弾性復元力(FElastic)は、次式で与えられる。
【数3】
ここで、kは、機械層のバネ定数であり、xは、基板電極1104に対するリボン1102の直線変位(単位:メートル)である。
【0051】
減衰力(FDamping)は、次式で与えられる。
【数4】
ここで、bは、エアギャップの減衰定数であり、dx/dtは、リボン1002の中心の基板電極1004に対する速度(単位:メートル/秒)である。
【0052】
したがって、平衡状態では、クーロン引力、弾性復元力、および、減衰力の3つの力が、釣り合う必要がある。
【0053】
しかしながら、リボン1102が、中立状態のリボンと基板電極1104との間のギャップ(G)のトータルの厚みの1/3を越えて変位すると、静電気力が、弾性復元力を圧倒してしまうことがある。その結果、リボン1102が基板電極1104にピタッと密着してしまい、静電気力がなくなってもそこに貼りついたままとなる、一般に「スナップダウン(snap-down)」または「プルイン(pull-in)」と呼ばれる破壊的な現象が、発生する可能性がある。一般に、スナップダウンは、リボン1102が元のギャップの厚みの3分の1だけ偏向したx=G/3の特徴的な変位において発生することが確認されている。したがって、従来のリボン型SLMのリボンは、スナップダウンを防止するために、G/3より大きな距離で偏向されないように動作または駆動されるのが一般的である。しかしながら、これでは、ギャップGの下部分の2/3が空いてしまい、スクイーズ膜の減衰が不十分になってしまう。
【0054】
したがって、細いリボンで十分な減衰を得るためには、アプリケーションに応じた物理的ストローク(x)に近づけつつ、非常に薄いスクイーズ膜のギャップを形成することが望ましく、一方で、プルインを避けるためには、かなり大きな「電気的なギャップ(electrical gap)」を形成することが望ましい。
【0055】
電気的なギャップを維持または増加させながら、スクイーズ膜のギャップを減少させるには、リボンと基板電極の間に、誘電体を挿入すればよい。一実施形態では、リボンの下に、固体誘電体膜を使用し、これによって減衰(と熱伝導)を改善する。誘電体の厚みがGの場合、等価な電気的な厚みはG/εとなる。ここで、εは、比誘電率である。例えば、比誘電率がε=3.9である二酸化ケイ素(silicon dioxide)の固体誘電体膜と、比誘電率がε=1である真空またはエアギャップでは、電気的なギャップを1μm増やすために、基板電極上であってこれとリボンとの間に、ほぼ4μmの追加の誘電体材料を設ける必要がある。ただし、リボン型SLMの製造に用いられる既存のMEMSプロセスにおいて、厚みが大きな膜、すなわち約2μmを超える厚みの膜を統合することは、困難または実用的でない場合があることに留意すべきである。というのも、このような厚みが大きな膜では、膜固有の応力によってボイドや剥離が発生する可能性があり、また、膜の厚みが増加するにつれて膜の粗さも極端に増大するためである。このような理由から、低誘電率材料がよく使われる。
【0056】
別の実施形態では、製造工程の中で基板電極の上に形成された電気透過性の減衰構造を使用することにより、電気的なギャップを維持または増加させつつ、スクイーズ膜のギャップを減少させることができる。一般に、電気透過性の減衰構造は、第1のギャップまたは第1のエアギャップを設けつつ基板電極から分離されてその上方に保持された誘電体層を含み、誘電体層は、エアギャップの少なくとも上面を規定する。この第1のギャップは、エアギャップとも呼ばれるが、空気で満たされている必要はなく、代替的に、排気されていてもよいし、他の気体の混合物が充填されていてもよいことに留意すべきである。いくつかの実施形態では、誘電体層が実質的にエアギャップを取り囲んで、密閉または気密に封止された空洞が形成されてもよい。他の実施形態では、第1のエアギャップは、電気透過性の減衰構造とリボンの下面との間の第2のギャップまたはエアギャップを含むMEMsの周囲環境に対して、開放されており、リボン型SLMの周囲環境の全体が排気、または、充填ガスで充填されて、気密に封止されていてもよい。適切な充填ガスには、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、または、キセノンのうちの1つ以上を、純粋な形で含有するもの、あるいは混合されたものが、含まれる。
【0057】
一実施形態では、リボン型SLMは、良好な減衰を維持しながら大きなストロークを提供するために、電気透過性の減衰構造を備え、それによって、高速なビームステアリングおよび大きなスキャン角度が可能となり、さらに、対応することができる変調または誘導される光の波長を、約10μmまでの長波長(long wavelengths)を超えさせることが可能となる。図12は、このような減衰構造を備える、図7Aおよび図7Bのリボン型SLMの一部を示す側断面図である。図12を参照すると、リボン型SLM1200は、基板1204の上に形成された下部または底部電極1202と、下部電極の上に形成された、静的で電気透過性の減衰構造とを備える。一般に、電気透過性の減衰構造は、第1のエアギャップ1206と、第1のエアギャップを設けつつ下部電極1202から分離されてその上方に保持された誘電体層1208と、リボン型SLM1200の複数のリボン1212の可動部分の端から端までを誘電体層から分離する、誘電体層上方の第2のエアギャップ1210と、を含む。図6Aおよび図6Bに関連して説明したリボン型SLMの実施形態と同様に、リボン1212の各々は、典型的には、張りのある窒化ケイ素(silicon nitride)の層から形成された機械層と、複数の駆動チャネル(図示せず)の1つにバス1214を介して結合されたリボンまたは上部電極とを備え、上部電極と下部電極との間に発生した静電気力によって、下部電極に向かって偏向するように構成される。一般に、図7Aおよび図7Bの実施形態と同様に、駆動チャネルは、リボン1212の線形アレイと同じ基板1204上に一体的に形成される。
【0058】
必要に応じて、図示された実施形態のように、デバイスは、下部電極を電気的に絶縁するために、基板1204と下部電極1202との間に、二酸化ケイ素(silicon dioxide)などの薄い中間誘電体層1216を、さらに含むことが可能である。
【0059】
動作の際には、リボン1212は、第2のエアギャップ1210の厚さに実質的に等しい距離だけ、底部電極1202に向かって独立して偏向可能である。一般に、第2のエアギャップ1210の厚さは、~G/3であり、第1のエアギャップ1206の厚さは、~2G/3である。ここで、Gは、下部電極1202と、非偏向状態または静止状態のリボン1212との間の距離である。リニアアレイの長軸を横切る幅が10μmから0.5μmであるようなリボン1212を有し、LiDARアプリケーションに適した近赤外波長で動作する、リボン型SLM1200において、上述のような電気透過性の減衰構造であって、約2.5μmの第1のエアギャップ1206と、約1.5μmまでの第2のエアギャップ1210とを有するものは、高いスイッチング速度を維持しつつ、さらに、リボン1212のプルインまたはスナップダウンを十分に防ぎつつ、セトリングタイムを改善できることがわかっている。なお、より強い減衰が必要となるより細いリボンに対応するために、第1のエアギャップの厚みに対する第2のエアギャップの厚みの比が小さくされてもよい。厚みの比率を変えて、合計の厚み(第1のエアギャップ+第2のエアギャップ)を同じに維持することで、全体として所望のストロークが維持される。
【0060】
図13に示されるような一実施形態では、MEMSフェーズドアレイ1300は、それぞれが1次元(1D)のアレイ1304a,1304bを有する、複数のリボン型SLM1302a,1302bを備える。複数のリボン型SLM1302a,1302bは、共通または共有の(shared)長軸1306に沿って一列に配置されて、その上を変調光がスキャンされる領域を増大させるように動作し、アレイの長軸に平行な軸方向の寸法を増大するように積み重ねられる。図13を参照すると、アレイ1304a,1304bの各々は、独立して設けられ、アドレス指定可能で静電作動するリボン1308a,1308bを、数百または数千個、備える。図7Aおよび図7Bに関して上述したリボン型SLM700と同様、リボン1308a,1308bの各々は、光反射面を有し、電極を備え、リボン内の電極と基板内のベース電極との間に電圧が印加されたときに発生する静電気力によって、ギャップまたはキャビティを介して、基板1310に対して偏向可能である。リボン1308a,1308bの各々は、アレイ1304a,1304bと同じ基板1310上に一体的に形成されたドライバ1314a,1314b内の駆動チャネル1312a,1312bによって、駆動される。
【0061】
いくつかの実施形態では、図示されるように、アレイ1304a,1304bおよびドライバ1314a,1314bを備えるリボン型SLM1302a,1302bの各々は、単一の、共有基板1310上に一体的に形成される。あるいは、リボン型SLM1302a,1302bのそれぞれが別々の基板上に一体的に形成されてから、それらが単一の、共有集積回路(IC)パッケージにパッケージされる。さらに別の代替実施形態では、リボン型SLM1302a,1302bの各々が、別々にパッケージされてから、単一の、共有プリント回路基板(PCB)に実装される。
【0062】
図14および図15A図15Cに示す他の実施形態では、MEMSフェーズドアレイは、光スキャナの有効アパーチャ(active aperture)を増加させるために、並列に配置されて、並行に動作される、複数のリボン型SLM、または、複数の1次元(1D)のアレイを有する単一のリボン型SLMを備えてもよい。このようにして、MEMSフェーズドアレイの機能領域を増やすことで、デスキャン動作での集光量アップによる感度の向上が可能となるだけでなく、光学系をシンプルにすることができ、視野角(FOV)の向上、システムの点拡がり分解能(system point spread resolution)の向上も可能となる。
【0063】
図14は、MEMSフェーズドアレイ1400の実施形態の平面図を示す図であり、該MEMSフェーズドアレイ1400は、各々が複数のリボン1406のアレイ1404を有する複数のリボン型SLM1402Aおよび1402Bを備え、これらは、並列に配置される。一般に、図示の実施形態のように、リボン型SLM1402Aおよび1402Bは、共有基板1408上に一体的に形成され、リボン1406は、アレイ1404と同じ基板1408上に一体的に形成されたドライバ1418内の駆動チャネル1416によって、駆動される。あるいは、図示しない実施形態では、複数のリボン型SLM1402Aおよび1402Bの全てが、単一の共有ドライバ1418によって駆動されてもよい。
【0064】
図15A図15Cは、MEMSフェーズドアレイ1500の他の実施形態を示す図であり、該MEMSフェーズドアレイ1500は、1個のリボン型SLM1502を備え、該リボン型SLM1502において、SLMの各リボン1504が、その長軸に沿って柱1506によって分割されて、複数の並列な1Dアレイ1508a,1508bおよび1508cを形成する。並列な1Dアレイ1508a,1508b,1508cが3個だけ示されているが、リボン型SLM1502は、2から50を超える任意の個数の、並列な1Dアレイに分割されてもよいことが理解されよう。図15Bには、非偏向状態または静止状態における、図15AのSLM1502の可動リボン1504の側断面図が、模式的に示されている。図15Cには、偏向状態または活性状態における、図15AのSLM1502の可動リボン1504の側断面図が、模式的に示されている。図7Aおよび図7Bに関して説明したSLM700の実施形態と同様に、リボン1504は、基板1514の表面に形成された下部電極1512の上方にリボンを支持するための弾性機械層1510と、リボンまたは上部電極1516と、機械層または上部電極の上にあって、光反射面を備える反射層1518と、を備える。一般に、図7Aの実施形態に示すように、SLM1502は、リニア1Dアレイ1508a,1508b,1508cと同じ基板1514上に一体的に形成されたドライバ1522内の複数の駆動チャネル1520をさらに備える。
【0065】
別の実施形態では、MEMSフェーズドアレイは、リボン型SLMの各細長い素子またはリボンが、ブレーズ型プロファイルの反射面を有する、ブレーズ型格子(blazed grating)のリボン型またはリボンMEMSアレイを備える。ブレーズ型プロファイルとは、各リボンが有する反射面が、リボンの幅方向を横切って、SLMの表面またはSLMが形成された基板の表面に対して、ブレーズ角度で角度を付けられていることを意味する。いくつかの実施形態では、反射面は、ブレーズ角度での有効なブレーズを形成するために、段差状プロファイルを有する。リボン上のブレーズ角度によって、SLMからのゼロ次(0th)および高次の変調光におけるパワーおよびコントラストが調整され、これによって、0次においてより高いコントラストが与えられ、1次(1st)および高次においてより高いコントラストおよび/またはパワーが与えられる。図8図10に関して上述したブレーズ型の動作または方法と併せて、ブレーズ型のリボンを使用してスキャン動作を行えば、「スキャンエンベロープ(scan envelope)」(フラットなリボンのSLMにおける、+/- 1次の間の角度)の中心が、1次の方へシフトして、0番目(0th)の次数あるいは入射角から遠ざかる。「スキャンエンベロープ」の中心をシフトさせることの利点は、リボン間の隙間から露出するSLMの他の表面からの反射が、0次のみに現れ、したがってスキャンされないので、より大きいあるいはより高いコントラストで、光学的により効率的なシステムが得られることである。
【0066】
次に、ブレーズ型プロファイルのリボンを備えるリボン型SLMの実施形態について、図16A図16Cを参照しながら説明する。図16Aは、ブレーズ角度がブレーズ角度γの有効なブレーズ面1604を形成する段差状プロファイルを有する、単一の細長い素子またはリボン1602の、断面図を示している。リボン1602は、概ね、長方形の本体1606と、段差のある反射器1608とを備える。長方形の本体1606は、窒化ケイ素(silicon nitride)を含むことができ、段差のある反射器1608は、アルミニウムなどの光学反射材料を含むことができる。段差のある反射器1608は、リボン1602の第1および第2の表面1610および1612を形成する。第1および第2の表面1610および1612は、概ね、入射光の8分の1波長λ/8の高低差で分離されて、ブレーズプロファイル1614を形成する。ブレーズプロファイル1614は、ブレーズ角度γの有効なブレーズ面1604を形成する。ここでブレーズ角度γは、式:γ=arctan(λ/(4A))で与えられる。
【0067】
図16Bには、非活性化状態のブレーズ型のリボン型またはリボンMEMSフェーズドアレイ1616の一部の第1の断面図が示される。ここでは、リボン1602がグレーティングピッチAにあり、第1の表面1610がグレーティング面1618を画定している。非活性化状態において、リボン1602と下部または底部電極1620との間には、概ねゼロの電気バイアスが存在する。波長λの入射光(I)は、グレーティング面1618に垂直な角度で、ブレーズ型のリボンMEMSフェーズドアレイ1616を照射し、ブレーズ型のリボン1602のプロファイルに基づく複数の回折次数D、D-1、および、Dで回折する。非活性化状態では、0次回折であるDは、グレーティング面1618に垂直である。回折次数DおよびD-1は、式:θ=arcsin(λ/A)によって与えられる第1の回折角θにある。ここにおいて、Aは、リボン1602の第1および第2の表面1610および1612のグレーティングピッチである。入射光の8分の1波長λ/8の高低差で分離される第1および第2の表面1610および1612を有する図示の実施形態においては、回折角θは、ブレーズ角度γの約4倍、すなわち約15°未満となる。段差状の反射器1608の吸収による第1の光損失と、隣り合う一対のリボン1602の間の隙間を通過する入射光Iによる第2の光損失とを無視すると、ブレーズ型のリボンMEMSフェーズドアレイ1616に入射した光の半分が、0次回折であるDに回折され、入射光Iの4分の1が、1次回折次数DおよびD-1のそれぞれに回折される。
【0068】
図16Cには、活性化状態のブレーズ型のリボンMEMSフェーズドアレイ1616の第2の断面図が示される。ここでは、リボンと底部電極1620との間に電気バイアスを印加することによって、リボン1602が基板1622に向かって移動している。一般に、図示された実施形態のように、ブレーズ型のリボンMEMSフェーズドアレイ1616は、図8図10に関して上述したものと同様のブレーズ型の動作または方法を用いて、動作される。図16Cを参照すると、垂直な入射ビーム(I)を、1次の反射ステアリング角度θで誘導するために、ブレーズプロファイル1614を有するリボン1602は、ピッチまたは周期Λの「ブレーズ」パターン1624に配置される。活性化状態において、波長λの入射光Iは、上記のように、ブレーズ型のリボン1602のプロファイルによって第1の角度θに回折し、さらに、ブレーズパターン1624によって生じる、式:θ=arcsin(λ/Λ)によって与えられる1次回折角θで、回折または誘導される。ここにおいて、Λは、ブレーズパターン1624のブレーズピッチΛである。なお、ブレーズ周期Λは、ステアリング角度θの連続的な変調を可能にするために、整数または非整数の値を取ることができる。ブレーズ周期Λが小さくなるにつれて、光が誘導されるθからθまでの角度がより大きくなる。
【0069】
図17は、光1708を誘導して遠景1710をスキャンする複数のMEMSフェーズドアレイ1706を備える光スキャナの、照明光学系1702および投影光学系1704を示す光学系図である。図17に示す実施形態では、照明光学系1702は、コヒーレント光源からの光の個別の列を形成するレンチキュラーアレイまたはマイクロシリンダレンズのアレイ1712と、コリメートされた光をMEMSフェーズドアレイ1706の個々の変調器上に集光する結像レンズ1716と、を備えることができる。図示される実施形態では、光コヒーレント光源は、VCSELレーザ1718などの発光デバイスのアレイを備える。コヒーレント光源がVCSELアレイ1718を使用して生成されるパルス式またはフラッシュ式のLiDARでは、照明光学系1702および投影光学系1704は、10ナノ秒(ns)のパルスで、5ワット(W)以上のピークパワーを、最大1MHzの繰り返し率で、達成することができる。一方で、遠景に投影される各光線の平均パワーは、約2.5マイクロワット(mW)未満であるので、目に安全である。
【0070】
投影光学系1704は、MEMSフェーズドアレイから遠景に向かう光を、少なくとも、MEMSフェーズドアレイ1706の位相変調によって光がスキャンされる軸方向次元を横切る角度次元について、広げるための、フーリエレンズ1702および魚眼レンズなどの1以上のレンズを備えることができる。図17を参照すると、コヒーレント光源がVCSELアレイ1718を使用して生成されるパルス式またはフラッシュ式のLiDARでは、照明光学系1702および投影光学系1704は、10ナノ秒(ns)のパルスで、5ワット(W)以上のピークパワーを、最大1MHzの繰り返し率で、達成することができる。一方で、遠景に投影される各光線の平均パワーは、約2.5マイクロワット(mW)未満であるので、クラス1で目に安全である。さらに、サイズが4.25μmの個々の素子を有する、3mmの筐体アパーチャを備えるMEMSフェーズドアレイ1706では、MEMSフェーズドアレイは、1000本以上の解像可能なラインで、25.5度のFOVを提供することが可能である。
【0071】
いくつかの実施形態では、照明光学系、投影光学系、または、受信光学系の少なくとも1個が、光源からの光をMEMSフェーズドアレイに集光し、および/または、MEMSフェーズドアレイからの変調光を遠景に集光する、アナモルフィック光学系(anamorphic optics)を備える。アナモルフィック光学系は、MEMSフェーズドアレイの垂直軸に沿い、光がスキャンされる方向を横断する、垂直または横断開口数(numerical aperture)(NA)として、アレイから反射される変調光の垂直あるいはスキャン方向の横断軸に沿う回折角度よりも小さい値を与え、水平またはアレイの長手軸に沿う、水平または長手NAとして、垂直または横断NAよりも大きい値を与えることが、好ましい。垂直軸と水平軸とでは、要求される視野角や分解能が異なる場合があるためである。水平軸の光学系は、フェーズドアレイデバイスのFOVを、システムの水平スキャンの要件に合わせることになり、垂直スキャンのFOVは、照明装置または検出器アレイシステムによって設定される垂直開口数によって、決定される。
【0072】
図18Aおよび図18Bは、本開示の一実施形態による、アナモルフィック照明および結像光学系の光路の平面図および側面図の両方を示す光学系図である。平面図は、画素の配列方向に沿った光路を示している。図18Aを参照すると、光路は、レーザ1802などの光源から始まる。この実施形態では、光源は、バーレーザとして配置された複数の発光ダイオードまたはレーザダイオード1804を備えるものとして示される。光源から始まった光路は、第1の光学素子またはレンズ1808および第2の光学素子またはレンズ1810を含むアナモルフィック照明光学系1807を介して、SLMの1Dまたは2Dアレイ1806の実質的に直線状の部分を、照明する。図示された実施形態では、アナモルフィック照明光学系1807は、2つの単一レンズ1808および1810によって描かれるまたは表されるが、アナモルフィック照明光学系は、レーザ1802からの光を屈折させてリニアアレイ1806に送信して、リニアアレイを完全に照明するために、任意の数のプリズム、レンズを備え得ることが、理解されるであろう。レンズ1808は、通常、FACレンズ(Fast Axis Collimator)と呼ばれ、エミッタからのレーザを、エミッタの垂直軸または進相軸(fast axis)に沿ってコリメートする。図示される実施形態では、レーザ1802は、共通の長軸に沿って配置された複数の半導体ダイオードレーザまたはエミッタを備えるバーレーザである。バーレーザの各エミッタは、空間的にシングルモードのレーザとして働き、垂直軸に沿ってガウシアン型のビームプロファイルを有する。図18Aの側面図に示すように、ほぼ理想的なコリメートビームを実現することが可能である。垂直軸に沿った変調器のサイズは、1ミリメートルあるいは数ミリメートルであるため、集光光学系あるいは縮小光学系は必要ない。つまり、垂直方向に沿った照明ビームのNAは、ほぼゼロとなる。パウエルレンズなどの光学デバイスを挿入して、ガウシアン型のプロファイルをトップハット型のプロファイルに変換すれば、1画素の中で垂直に並んだ変調器を、均一に照明することができる。図18Aの平面図において、光学素子またはレンズ1810は、水平軸に沿って空間右変調器アレイ全体を照明するために働く。バーレーザの発光ダイオードまたはレーザダイオード1804からの光を均質にするために、光学要素またはレンズ1810が、光パイプまたはフライアイレンズアレイを備えるものとされてもよい。バーレーザは、複数のエミッタを持ち、水平軸に沿う幅が概ね10mmであるため、NAとしてある程度機能する。光学素子またはレンズ1810が1個のシリンドリカルレンズである例では、NAは、D/2fとなる。ここにおいて、Dは、バーレーザのサイズであり、fは、光学素子またはレンズ1810におけるシリンドリカルレンズの焦点距離である。光学素子またはレンズ1810に、照明光を均質にするための光学デバイスが挿入される場合、NA数は、拡張される。したがって、進相軸または垂直軸に沿ったNAが低い一方で、遅相軸(slow axis)または水平軸に沿ったNAは、進相軸よりもはるかに大きくなり得る。
【0073】
図18Aに開示されているように、リニアアレイ1806の画素の配列方向は、バーレーザ1802のエミッタ配列方向と平行に設定されている。このような構成とすることで、回折ビームを有効に利用することができる。焦点が水平軸上にある場合、リニアアレイ1806による回折ビームの分離条件は制限されるものの、エミッタアレイの大きさのために、照明光学系のNAが多少の数値をもつ。結像光学系1812は、フーリエ変換(FT)レンズ1816などの拡大要素、および、フーリエアパーチャ1818を備えてもよい。上述したように、アレイは水平方向に沿って1個または数個の画素を備え、1次ビームは、照明NAがほぼゼロである場合にのみ、0次ビームから分離され得る。そのため、1次ビームの一部が、0次ビームに干渉する。図18Aにおいて、破線は、1次ビームを示し、実線の太線は、主となる0次ビームを示す。照明ビームのNAは、リニアアレイ1806で1次ビームに回折された後も維持されるため、1次ビームの一部は、フーリエアパーチャ1818を通過する。一方、垂直軸に沿った照明光学系のNAは小さく、1画素の変調器の個数が多いので、回折が生じ、主ビームが分離される。
【0074】
そして、リニアアレイ1806からの変調された光は、結像光学系1812を通って結像面1814に送信される。図18Aに示されるようないくつかの実施形態では、結像光学系1812は、ここではアナモルフィックレンズ1820およびマイクロレンズまたはレンチキュラーアレイ1822によって表される、アナモルフィック光学系を備えることもできる。この実施形態は、アレイ1806の画素サイズが正方形でない場合に、特に有利である。結像光学系1812にアナモルフィック結像光学系を使用するまたは追加することによって、垂直方向に沿って、リニアアレイの縮小画像が、結像面上に投影され、それによって、リニアアレイ1806の任意の歪みまたは非正方形の画素を、補正または補償することができる。
【0075】
図18Bは、フーリエアパーチャ1818上における、0次ビームと、回折された±1次ビームとを示す。図18Bを参照すると、楕円1824は、0次ビームを表し、楕円1826は、垂直方向に沿った1次ビームを表し、楕円1828は、水平方向に沿った1次ビームを表している。垂直軸に沿ったアパーチャサイズ(垂直NA1830)は、1次ビームの回折角度と同等であり、0次ビーム(楕円1824で表される)の水平軸に沿ったサイズは、照明光学系(図18Aのレンズ1808および1810)の水平NA1832と同じである。再び図18Bを参照すると、0次ビーム(楕円1824で表される)が、フーリエアパーチャ1818を通過できる一方で、垂直軸に沿った±1次ビーム(楕円1826で表される)は、完全に遮断され、水平軸に沿った±1次ビーム(楕円1828で表される)は、概ね遮断される、または、大幅にパワーダウンされることが分かる。この結果、コントラスト比(CR)の低下は僅かなものとなる。したがって、図18Aの実施形態の照明および結像光学系は、図1および図3に示されるようなLiDARシステムで使用するのに適している。
【0076】
複数のレーザダイオードを含むバーレーザの出力は、上記の例ほど高くはなく、概ね100ワット(W)以下である。トータルの照明出力を上げるためには、複数のバーレーザを使用すればよい。したがって、いくつかの実施形態では、より高い出力を達成するために、垂直に積み重ねられた複数のバーレーザを使用することができる。
【0077】
図19は、切断図で示された、1つ以上のMEMSフェーズドアレイ1904,1906を備えるコンパクト光スキャナ1902の概略ブロック図である。この図では、MEMSフェーズドアレイを照明し、そこから変調光を投影し、検出器1908上に光を受信してデスキャンするための、折り曲げられた光路を図示している。図19に示されるように、折り曲げられた光路によって、コンパクト光スキャナ1902のサイズを、例えば、約7cm×7cmで厚さ約2cmのサイズ、または、1組のカード(a deck of cards)程度のサイズとすることができる。
【0078】
図19を参照すると、光スキャナ1902は、ハウジングまたは筐体1910と、1つまたは複数の開口部またはアパーチャ1912,1914と、を備える。アパーチャ1912,1914を通して、光を投影して遠景(この図には示されていない)をスキャンすることができ、また、遠景から戻る光を受信することができる。一般に、アパーチャ1912,1914は、投影光をさらに拡大または拡張するために、受信された光を集光するために、および/または、光スキャナ1902のための環境的に密閉された筐体1910を提供するために、レンズ1916,1918によってカバーまたは封止される。図示されるようないくつかの実施形態では、レンズ1916,1918は、光スキャナ1902の視野(FOV)をさらに増大させるために、魚眼レンズを備えることができる。
【0079】
光スキャナ1902は、コヒーレント光源1922からの光をMEMSフェーズドアレイ1904上に導く照明光学系1920、MEMSフェーズドアレイからの位相変調光を遠景に送信または投影する結像または投影光学系1924、および、遠景から光を受信して検出器1908に導く受信光学系1926を、さらに備える。上述の実施形態と同様に、光源1922は、レーザ、ダイオードレーザ、または、VCSELSなどといった任意の種類および数の発光デバイスを備えることができる。照明光学系1920は、1以上のレンズ1920a、および、積分器、ミラー、または、プリズム1920bを含む、複数の要素を備えることができ、光源1922からの光をMEMSフェーズドアレイ1904に伝達して、MEMSフェーズドアレイの幅方向の長さの全体を実質的にカバーする所定幅のラインを、照明するように構成される。投影光学系1924もまた、レンズ1924a、および、積分器、ミラー、または、プリズム1924bを備えることができ、MEMSフェーズドアレイ1904からの光を伝達して、遠景内のラインまたはスワスを照明するように構成される。照明光学系および投影光学系と同様に、受信光学系1926は、1つまたは複数のレンズ1926a,1926b、積分器、ミラー、および/または、プリズムを備えることができ、遠景からの光を受光して検出器1908上に伝達するように構成される。一般に、検出器1908は、光源1922によって生成される波長のコヒーレント光に感度を有する任意の種類の検出器を備えることができる。これには、ローリングシャッターカメラ、または、カメラ、フォトダイオード検出器の1次元または2次元アレイ、または、SPADアレイ、が含まれる。
【0080】
最後に、光スキャナ1902の筐体1910は、コントローラなどの光スキャナの動作に必要な電子回路1928と、コントローラ、光源1922、MEMSフェーズドアレイ1904,1906、および、検出器1908のための電源と、1つまたは複数のメモリと、ホストシステムへのインターフェースとを、さらに含むまたは収容することができる。
【0081】
上記のように、照明光学系510、投影光学系514、受信光学系518、および、検出光学系524の1つまたは複数が、マイクロレンズ、または、レンチキュラーアレイを備えることができる。特に、レンチキュラーアレイを備える送信器の照明光学系は、図17に示すように、VCSELアレイを含む光源と組み合わせて、独立した光チャネルを提供するのに有用である。また、図13図15に示すような光送信器または光受信器において、光を複数のアレイに分配するために複数のリボン型MEMSフェーズドアレイに光を分配するにあたって、および/または、投影光学系において、遠景内に照明のスワスを形成するために分散させるために、レンチキュラー光学アレイは特に有用である。最後に、レンチキュラーアレイは、受信機アレイ光学系において、受信機アレイの有効フィルファクタを高めるのに、有用である。
【0082】
次に、これらのアプリケーションの一部または全部に使用するのに適したレンチキュラーアレイの一実施形態を、図20A図20Cを参照して説明する。図20Aは、レンチキュラーアレイの実施形態の平面図を示す概略ブロック図であり、図20Bは、図20Aのレンチキュラーアレイの断面図であり、図20Bは、図20Aのレンチキュラーアレイの単一の要素による、リボンMEMSフェーズドアレイの単一の変調器の0次の照明を示している。図20Aを参照すると、レンチキュラーアレイ2000は、マイクロレンズまたはシリンドリカルレンズなどの個別のレンズまたは素子を複数個形成する成形面を含み、光を特定の方向に集中、集光または投影するように構成される。図示された実施形態では、レンチキュラーアレイ2000は、リボンMEMSフェーズドアレイ2002の個々のリボン、または、柱によって分割されたリボン部分に、光を集光するように適合または構成される。そして、個別のレンズまたは素子は、シリンダーレンズ2004を含み、各シリンダーレンズ2004の長軸は、図13に示すように積み重ねられるか、または、図14および図15に示すように並列に配置される、1つまたは複数のリボンMEMSフェーズドアレイの長軸2006と平行であり、また、リボンの長軸2008と直交する。図20Bのレンチキュラーアレイ2000の断面図に示すように、シリンドリカルレンズ2004は、入射光2010を、リボンMEMSフェーズドアレイ2002の個々のリボンまたは分割されたリボン部分の中心に、集光または集中させる。
【0083】
図20Cを参照して、リボンMEMSフェーズドアレイにおいて、アクティブなリボン2012と基板または下部電極との間に静電電位の差が与えられると、リボンは、図示されるように、放物線状のプロファイルに偏向される。その結果、リボン2012の中心線付近の狭い領域にのみ、回折格子が確立されることになる。この光学的な「スイートスポット2014」の外側の領域は、リボンMEMSフェーズドアレイの表面と平行でもなく、所望される量の変位もしていないため、効率的なステアリングが提供されない。このため、レンチキュラーアレイ2000を用いて、照明光をリボンMEMSフェーズドアレイのリボンの中央部分に慎重に整形または集光したり、リボンの中央部分からの変調された光だけをコリメートして投影することが、望ましい。目安としては、スイートスポット2014の幅は、コントラスト比にもよるが、大まかに言えば、リボン1012の長さのおよそ1/10から1/3であることが望ましい。さらに、受信光学系によって集められ、光受信器のリボンMEMSフェーズドアレイ上に集光された光、または、リボンMEMSフェーズドアレイによってデスキャンされ、検出器上に集光された光に関して特に言えば、個別のレンズまたは素子は、0次以外の光2018を除去しながら、0次の光2016のみをスイートスポット2014に集光させる、あるいは、スイートスポット2014で変調させることができ、それによって、光スキャナのコントラストおよび分解能が増大される。
【0084】
次に、光による検知と測距(LiDAR)システムで使用するための、第1微小電気機械システム(MEMS)フェーズドアレイを備える光スキャナの動作方法について、図21のフローチャートを参照して説明する。図21を参照すると、この方法は、第1MEMSフェーズドアレイを、コヒーレント光源からの光で照明することから始まる(2102)。第1MEMSフェーズドアレイは、コヒーレント光源からの光の位相を変調し、第1MEMSフェーズドアレイからの変調された光を遠景に投影するように、制御される(2104)。そして、第1MEMSフェーズドアレイは、さらに遠景をスキャンするように、動作または制御される(2106)。上述したように、第1MEMSフェーズドアレイは、角度次元および第1MEMSフェーズドアレイの長軸に平行な軸方向次元を含む2次元(2D)で、遠景をスキャンするように、適合または構成される。次に、遠景からの光が第2MEMSフェーズドアレイで受信され(2108)、第2MEMSフェーズドアレイが、背景光を除去しながら、実質的にコヒーレント光源を起点として遠景から反射された光だけを検出器に導くことによって、受信した光をデスキャンするように、制御される(2110)。
【0085】
いくつかの実施形態では、第1MEMSフェーズドアレイと第2MEMSフェーズドアレイは、同じ、共有MEMSフェーズドアレイであり、第1MEMSフェーズドアレイを制御することは、第1の時間に共有MEMSフェーズドアレイを制御して、コヒーレント光源からの光の位相を変調し、遠景を2Dでスキャンすることを含み、第2MEMSフェーズドアレイを制御することは、第2の時間に共有MEMSフェーズドアレイを制御して、遠景から反射されたコヒーレント光源からの光を検出器に導き、背景光を除去して、受信した光をデスキャンすることを含む。
【0086】
このように、1DのMEMSフェーズドアレイを含むLiDARシステムの実施形態と、それを動作させる方法とが、説明された。本開示は、特定の例示的な実施形態を参照して説明されてきたが、本開示のより広い精神および範囲から逸脱することなく、これらの実施形態に対して様々な修正および変更がなされ得ることは、明らかである。したがって、明細書および図面は、制限的な意味ではなく、例示的な意味とみなされる。
【0087】
本開示の要約は、読者が技術開示の一つ以上の実施形態の性質を迅速に確認することを可能とする要約を要求する米国特許法施行規則第1.72(b)(37C.F.R.§1.72(b))に準拠するために提供される。これは、特許請求の範囲または意味を解釈または制限するために使用されないという理解の下に、提出される。加えて、上記の詳細な説明では、本開示を合理化する目的で、様々な特徴が単一の実施形態にまとめられていることがわかる。この開示の方法は、特許請求される実施形態が、各請求項において明示的に列挙された特徴よりも多くの特徴を必要とするものとして解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の主題は、開示された単一の実施形態の全ての特徴よりも少ないものの中に存在する。したがって、以下の特許請求の範囲は、詳細な説明に組み込まれ、各請求項はそれだけで個別の実施形態として成立している。
【0088】
本説明における一実施形態あるいはある実施形態への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、回路または方法の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の種々の箇所における一実施形態という句の出現は、すべて同一の実施形態を指すとは限らない。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C
図17
図18A
図18B
図19
図20A
図20B
図20C
図21