(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】組成物及びその製造方法、硬化体、並びに金属ベース基板
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20241118BHJP
C09C 1/00 20060101ALI20241118BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241118BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241118BHJP
C08F 220/06 20060101ALI20241118BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20241118BHJP
C08F 220/34 20060101ALI20241118BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20241118BHJP
H05K 1/05 20060101ALI20241118BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
C09C3/10
C09C1/00
C09D201/00
C09D7/62
C08F220/06
C08F220/26
C08F220/34
C08F220/10
H05K1/05 A
H05K1/03 610R
(21)【出願番号】P 2022555446
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2021036482
(87)【国際公開番号】W WO2022075226
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020169122
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】権田 悠平
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 良太
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-241039(JP,A)
【文献】特開2018-172461(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106699958(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00 - 3/12
C09D 15/00 - 17/00
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 - 246/00
C08F 301/00
H05K 1/03
H05K 1/05
H05K 3/44 - 3/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラーと、下記式(1)を満たすように前記無機フィラーの表面を処理可能な表面処理剤とを選定する工程aと、
前記無機フィラー及び前記表面処理剤を混合して組成物を得る工程bと、
を備える組成物の製造方法
であって、
前記表面処理剤が、
アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる(メタ)アクリル系単量体単位Aと、
第三級アミノ基を有する単官能の(メタ)アクリル系単量体単位Bと、
カチオン性基及びアニオン性基のいずれも含まず、炭化水素基を有する単官能の(メタ)アクリル系単量体単位Cと、
を有する共重合体であり(ただし、前記共重合体が、炭素数9~12の飽和脂環式構造と少なくとも2個の重合性二重結合とを有するモノマーまたはオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を有する場合を除く)、
前記共重合体が有する全単量体単位の合計100モル%に対して、前記単位Aの含有量が0.1モル%以上であり、前記単位Bの含有量が0.1モル%以上であり、前記単位Cの含有量が80モル%以上である、組成物の製造方法。
|Z|<|Zt| …(1)
[式(1)中、Zは、前記無機フィラーのゼータ電位を表し、Ztは、前記無機フィラー100質量部に対して0.01~10質量部の前記表面処理剤で表面処理した後の無機フィラーのゼータ電位を表す。]
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系単量体単位Cが、ベンジルメタクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びメトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる一種以上を含む、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程bにおいて、樹脂を更に混合する、請求項
1又は2に記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
前記工程bにおいて、前記樹脂を硬化させる硬化剤を更に混合する、請求項
3に記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
無機フィラーと、
下記式(1)を満たすように前記無機フィラーの表面を処理可能な表面処理剤と、
を含有する組成物
であって、
前記表面処理剤が、
アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる(メタ)アクリル系単量体単位Aと、
第三級アミノ基を有する単官能の(メタ)アクリル系単量体単位Bと、
カチオン性基及びアニオン性基のいずれも含まず、炭化水素基を有する単官能の(メタ)アクリル系単量体単位Cと、
を有する共重合体であり(ただし、前記共重合体が、炭素数9~12の飽和脂環式構造と少なくとも2個の重合性二重結合とを有するモノマーまたはオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を有する場合を除く)、
前記共重合体が有する全単量体単位の合計100モル%に対して、前記単位Aの含有量が0.1モル%以上であり、前記単位Bの含有量が0.1モル%以上であり、前記単位Cの含有量が80モル%以上である、組成物。
|Z|<|Zt| …(1)
[式(1)中、Zは、前記無機フィラーのゼータ電位を表し、Ztは、前記無機フィラー100質量部に対して0.01~10質量部の前記表面処理剤で表面処理した後の無機フィラーのゼータ電位を表す。]
【請求項6】
請求項
5に記載の組成物の硬化体。
【請求項7】
金属板と、
前記金属板上に配置された請求項
6に記載の硬化体と、
前記硬化体上に配置された金属箔と、
を備える、金属ベース基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物及びその製造方法、硬化体、並びに金属ベース基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ケイ素等で形成される無機フィラーは、絶縁性、熱伝導性等を向上させる目的で種々の分野で使用されている。このような場合、無機フィラーは、一般的に、樹脂等に分散されて用いられる。
【0003】
より具体的な例として、無機フィラーは、金属ベース基板(金属ベース回路基板)における絶縁層を形成するための組成物に用いられる場合がある。例えば、特許文献1には、低弾性率であり、かつ接着性、耐熱性、耐湿性に優れる無機フィラーを含有する硬化性の樹脂からなる組成物を提供し、その利用として金属板と導電回路との密着性に優れ、しかも応力緩和性に優れ、急激な加熱/冷却を受けても半田或いはその近傍でクラック発生時の異常を生じない、耐熱性、耐湿性及び放熱性に優れる回路基板、特に金属ベース回路基板を提供することを目的として、特定のエポキシ樹脂及び硬化剤と、無機フィラーとを必須成分とする回路基板用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した金属ベース基板には、従来よりも更に高電圧を印加した場合でも絶縁信頼性を確保することが求められており、特に高温又は高温高湿度環境下における絶縁信頼性の向上が望まれる。
【0006】
そこで、本発明の一側面は、高温又は高温高湿度環境下での高電圧に対する絶縁信頼性に優れる金属ベース基板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、金属ベース基板の絶縁層を形成するための組成物において、無機フィラーに対して、特定のゼータ電位となるような表面処理が可能な表面処理剤を用いることにより、高温又は高温高湿度環境下での高電圧に対する絶縁信頼性に優れる金属ベース基板が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、いくつかの側面において、以下の[1]~[12]を提供する。
[1] 無機フィラーと、下記式(1)を満たすように無機フィラーの表面を処理可能な表面処理剤とを選定する工程aと、無機フィラー及び表面処理剤を混合して組成物を得る工程bと、を備える組成物の製造方法。
|Z|<|Zt| …(1)
[式(1)中、Zは、無機フィラーのゼータ電位を表し、Ztは、無機フィラー100質量部に対して0.01~10質量部の表面処理剤で表面処理した後の無機フィラーのゼータ電位を表す。]
[2] 表面処理剤が、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Aと、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Bと、(メタ)アクリル系単量体単位A及び(メタ)アクリル系単量体単位B以外の(メタ)アクリル系単量体単位Cと、を有する共重合体である、[1]に記載の組成物。
[3] アニオン性基が、カルボキシ基、リン酸基、及びフェノール性ヒドロキシ基からなる群より選ばれる一種以上を含む、[2]に記載の組成物の製造方法。
[4] (メタ)アクリル系単量体単位Aが、アニオン性基に結合した電子吸引性基を更に有する、[2]又は[3]に記載の組成物の製造方法。
[5] カチオン性基が、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び第四級アンモニウム塩基からなる群より選ばれる一種以上を含む、[2]~[4]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
[6] (メタ)アクリル系単量体単位Bが、カチオン性基に結合した電子供与性基を更に有する、[2]~[5]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
[7] (メタ)アクリル系単量体単位Cが、オキシアルキレン基、シロキサン基、炭化水素基、及びリン酸エステル基からなる群より選ばれる一種以上を含む、[2]~[6]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
[8] 工程bにおいて、樹脂を更に混合する、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
[9] 工程bにおいて、樹脂を硬化させる硬化剤を更に混合する、[8]に記載の組成物の製造方法。
[10] 無機フィラーと、下記式(1)を満たすように無機フィラーの表面を処理可能な表面処理剤と、を含有する組成物。
|Z|<|Zt| …(1)
[式(1)中、Zは、前記無機フィラーのゼータ電位を表し、Ztは、無機フィラー100質量部に対して0.01~10質量部の表面処理剤で表面処理した後の無機フィラーのゼータ電位を表す。]
[11] [10]に記載の組成物の硬化体。
[12] 金属板と、金属板上に配置された[11]に記載の硬化体と、硬化体上に配置された金属箔と、を備える、金属ベース基板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、高温又は高温高湿度環境下での高電圧に対する絶縁信頼性に優れる金属ベース基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】金属ベース基板の一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】金属ベース基板の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
本発明の一実施形態は、無機フィラーと表面処理剤とを含有する組成物の製造方法である。この製造方法は、無機フィラーと表面処理剤とを選定する工程aと、無機フィラー及び表面処理剤を混合して組成物を得る工程bと、を備えている。
【0013】
工程aにおいて、無機フィラーは、例えば、絶縁性及び熱伝導性が求められる用途に用いられる公知の無機フィラーから選定されてよい。無機フィラーは、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれる一種以上を含んでよく、高湿度環境下での絶縁信頼性に更に優れる観点から、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムからなる群より選ばれる一種以上を含んでよく、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムからなる群より選ばれる一種以上を含んでよい。
【0014】
無機フィラーの形状は、例えば、粒子状、鱗片状、多角形状等であってよい。無機フィラーの平均粒子径は、熱伝導性の向上の観点から、0.05μm以上、0.1μm以上、5μm以上、10μm以上、20μm以上、又は30μm以上であってよく、絶縁性の更なる向上の観点から、200μm以下、150μm以下、100μm以下、又は80μm以下であってよい。本明細書において、無機フィラーの平均粒子径は、無機フィラーの体積基準の粒度分布におけるd50径を意味する。無機フィラーの体積基準の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される。
【0015】
無機フィラーは、互いに平均粒子径の異なる二種以上の無機フィラーを含有していてよい。例えば、無機フィラーは、平均粒子径が25μm以上の第一の無機フィラーと、平均粒子径が4μm以下の第二の無機フィラーとを含んでよい。このような無機フィラーによれば、第一の無機フィラー同士の隙間に第二の無機フィラーが充填されることで、充填密度が増し、熱伝導性の向上に寄与する。
【0016】
第一の無機フィラーの平均粒子径は、30μm以上又は40μm以上であってもよく、200μm以下又は150μm以下であってよい。第二の無機フィラーの平均粒子径は、3.5μm以下又は3μm以下であってもよく、0.05μm以上又は0.1μm以上であってよい。
【0017】
工程aでは、上記の無機フィラーに加えて、下記式(1)を満たすように無機フィラーの表面を処理可能な表面処理剤が選定される。
|Z|<|Zt| …(1)
式(1)中、Zは、無機フィラーのゼータ電位を表し、Ztは、無機フィラー100質量部に対して0.01~10質量部の表面処理剤で表面処理した後の無機フィラーのゼータ電位を表す。なお、無機フィラー100質量部に対して、表面処理剤の添加量「0.01~10質量部」の少なくとも一点において、上記式(1)が満たされればよい。
【0018】
つまり、工程aでは、無機フィラーのゼータ電位が、表面処理剤による表面処理の前後でどのように変化するかを指標として、表面処理剤を選定する。より具体的には、工程aでは、表面処理後の無機フィラーのゼータ電位の絶対値が、表面処理前の無機フィラーのゼータ電位の絶対値より大きくなるような表面処理が可能な表面処理剤を選定する。このような表面処理剤を用いると、組成物中における無機フィラー同士の静電反発力が増大し、無機フィラーの分散性が向上すると考えられる。その結果として、理由は定かではないが、当該組成物を用いて金属ベース基板の絶縁層を形成したときに、高温又は高温高湿度環境下での高電圧に対する絶縁信頼性に優れる金属ベース基板が得られる。
【0019】
表面処理前の無機フィラーのゼータ電位Zは、無機フィラー0.02gをイオン交換水100gに、100Hzの超音波を5分間照射することにより分散して分散液を調製する。この分散液を18時間静置した後の上澄み液10gを回収し、25℃において、印加電圧60V、積算回数5回の条件で、ゼータ電位測定システム(例えば大塚電子社製:ELS-Z2)によりゼータ電位を測定する。
【0020】
表面処理後の無機フィラーのゼータ電位Ztは、以下の方法で測定される。
まず、表面処理剤0.1~10質量部を溶剤10000質量部に溶解させて溶液を調製する。溶剤は、表面処理剤を溶解し得る溶剤であればよいが、後述する条件で揮発する溶剤を選択する。続いて、この溶液に無機フィラー100質量部を加え、25℃において、マグネットスターラーを用いて30分間撹拌して、表面処理剤により無機フィラーの表面処理を行う。その後、80℃のオーブン中で12時間加熱することにより、溶剤を揮発させて除去する。次いで、表面処理後の無機フィラーについて、上記の表面処理前の無機フィラーと同様にしてゼータ電位を測定する。
【0021】
表面処理剤は、|Zt|が|Z|の1.05倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、又は1.4倍以上となるような表面処理剤であってもよい。なお、無機フィラー100質量部に対して、表面処理剤の添加量「0.01~10質量部」の少なくとも一点において、このような|Zt|と|Z|との関係が満たされればよい。
【0022】
このような表面処理剤は、例えば、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位A(以下「単位A」ともいい、単位Aを与える単量体を「単量体A」ともいう)と、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位B(以下「単位B」ともいい、単位Bを与える単量体を「単量体B」ともいう)と、(メタ)アクリル系単量体単位A及び(メタ)アクリル系単量体単位B以外の(メタ)アクリル系単量体単位C(以下「単位C」ともいい、単位Cを与える単量体を「単量体C」ともいう)を有する共重合体であってよい。なお、共重合体は、アニオン性基及びカチオン性基の両方を有する(メタ)アクリル系単量体単位(単位X)を有していてもよい。この場合、単位Xは、単位Aに該当しかつ単位Bにも該当するものとみなす。言い換えれば、単位Xを有する共重合体は、単位A及び単位Bの両方を有するものとみなす。
【0023】
本明細書において、「単量体」は、重合前の重合性基を有するモノマーを意味する。「単量体単位」は、当該単量体に由来し、共重合体を構成する構造単位を意味する。「(メタ)アクリル系単量体」は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体を意味する。「(メタ)アクリル系単量体」は、アクリル系単量体及びそれに対応するメタクリル系単量体を意味し、「(メタ)アクリロイル基」等の類似表現も同様の意味である。
【0024】
共重合体は、単位A、単位B、及び単位Cをそれぞれ一種又は二種以上有している。共重合体は、一実施形態において、単位A、単位B及び単位Cのみを有していてよい。共重合体は、ランダム共重合体であってよく、ブロック共重合体であってもよい。単量体A、単量体B、及び単量体Cは、それぞれ、(メタ)アクリロイル基を一つ有する単量体(単官能の(メタ)アクリル系単量体)であってよく、(メタ)アクリロイル基を二つ以上有する単量体(多官能の(メタ)アクリル系単量体)であってもよく、好ましくは単官能の(メタ)アクリル系単量体である。
【0025】
単位Aが有するアニオン性基は、例えば、カルボキシ基、リン酸基、フェノール性ヒドロキシ基、及びスルホン酸基からなる群より選ばれる一種以上である。当該アニオン性基は、無機フィラーの分散性を更に向上させる観点から、好ましくは、カルボキシ基、リン酸基、及びフェノール性ヒドロキシ基からなる群より選ばれる一種以上である。
【0026】
単位Aは、無機フィラーの分散性を更に向上させる観点から、好ましくは、アニオン性基に結合した電子吸引性基を更に有する。電子吸引性基は、アニオン性基のアニオンを安定化させる作用を有する。電子吸引性基としては、例えばハロゲン基(ハロゲノ基ともいう)が挙げられる。電子吸引性基が結合したアニオン性基としては、例えば、カルボキシ基のα位の炭素原子にハロゲン基が結合した基が挙げられる。
【0027】
単位Aは、アニオン性基に結合した電子供与性基を有さなくてよい。電子供与性基は、アニオン性基のアニオンを不安定化させる場合がある。電子供与性基としては、例えばメチル基が挙げられる。
【0028】
単量体Aとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アシッドフォスフォキシプロピルメタクリレート、アシッドフォスフォキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドフォスフォキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート、リン酸変性エポキシアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、4-ヒドロキシフェニルアクリレート、4-ヒドロキシフェニルメクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。単量体Aは、無機フィラーの分散性を更に向上させる観点から、好ましくは、アクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、4-ヒドロキシフェニルメクリレート、及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸からなる群より選ばれる一種以上であり、より好ましくはアクリル酸である。
【0029】
単位Bが有するカチオン性基は、例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び第四級アンモニウム塩基からなる群より選ばれる一種以上である。当該カチオン性基は、無機フィラーの分散性を更に向上させる観点から、好ましくは第三級アミノ基である。
【0030】
単位Bは、無機フィラーの分散性を更に向上させる観点から、好ましくは、カチオン性基に結合した電子供与性基を更に有する。電子供与性基は、カチオン性基のカチオンを安定化させる作用を有する。電子供与性基としては、例えばメチル基が挙げられる。電子供与性基が結合したカチオン性基としては、例えば、アミノ基のα位の炭素原子にメチル基が結合した基が挙げられる。
【0031】
単位Bは、カチオン性基に結合した電子吸引性基を有さなくてよい。電子吸引性基は、カチオン性基のカチオンを不安定化させる場合がある。電子吸引性基としては、例えばカルボキシ基が挙げられる。
【0032】
単量体Bとしては、例えば、1-アミノエチルアクリレート、1-アミノプロピルアクリレート、1-アミノエチルメタクリレート、1-アミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド四級塩等が挙げられる。単量体Bは、無機フィラーの分散性を更に向上させる観点から、好ましくは、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート及び2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレートからなる群より選ばれる一種以上であり、より好ましくは1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートである。
【0033】
単量体Cは、カチオン性基及びアニオン性基のいずれも含まない(メタ)アクリル系単量体である。単量体Cは、(メタ)アクリロイル基に加えて、両親媒性基、疎水性基、又は親水性基を有していてよい。すなわち、単位Cは、両親媒性基、疎水性基、又は親水性基を有していてよい。両親媒性基としては、例えばオキシアルキレン基が挙げられる。疎水性基としては、例えば、シロキサン基及び炭化水素基が挙げられる。親水性基としては、例えばリン酸エステル基が挙げられる。なお、ここでいう炭化水素基には、メタクリロイル基を構成するメチル基は含まれない(以下、単量体C及び単位Cにおける炭化水素基について同様)。
【0034】
単位Cは、組成物が樹脂を更に含有する場合の共重合体と樹脂との親和性又は相溶性の観点から、オキシアルキレン基、シロキサン基、及び炭化水素基からなる群より選ばれる一種以上を有し、より好ましくは、シロキサン基及び炭化水素基からなる群より選ばれる一種以上を有する。
【0035】
オキシアルキレン基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、フェノール(エチレンオキサイド2モル変性)(メタ)アクリレート、フェノール(エチレンオキサイド4モル変性)(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(エチレンオキサイド4モル変性)(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(エチレンオキサイド8モル変性)(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(プロピレンオキサイド2.5モル変性)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性フタル酸(メタ)アクリレ-ト、エチレンオキシド変性コハク酸(メタ)アクリレート、及びテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0036】
シロキサン基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えばα-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンが挙げられる。炭化水素基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びメトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0037】
リン酸エステル基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば(メタ)アクリロイルオキエチルジアルキルホスフェートが挙げられる。
【0038】
単量体Cは、上記以外にも、例えばヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体であってもよい。ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、及び3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0039】
単量体Cは、例えばアミド結合を有する(メタ)アクリル系単量体であってもよい。アミド結合を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、及びアクリロイルモルホリンが挙げられる。
【0040】
単量体Cは、例えば多官能の(メタ)アクリル系単量体であってもよい。多官能の(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、2-エチル-2-ブチル-プロパンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、及びビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0041】
単位Aの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、0.03モル%以上、0.1モル%以上、0.5モル%以上、1モル%以上、2モル%以上、3モル%以上、4モル%以上、又は5モル%以上であってよく、70モル%以下、60モル%以下、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、又は15モル%以下であってよい。単位Aの含有量は、共重合体が有する全単量体単位の合計100モル%に対して、上記の範囲内であってもよい。単位Aの含有量が0.03モル%以上であることにより、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。単位Aの含有量が70モル%以下であることにより、組成物の粘性がより低下し、組成物のハンドリング性がより向上する傾向にある。
【0042】
単位Bの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、0.02モル%以上、0.05モル%以上、0.07モル%以上、又は0.1モル%以上であってよく、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、3モル%以下、又は1モル%以下であってよい。単位Bの含有量は、共重合体が有する全単量体単位の合計100モル%に対して、上記の範囲内であってもよい。単位Bの含有量が0.02モル%以上であることにより、共重合体の無機フィラーに対する親和性がより良好となる傾向にある。単位Bの含有量が20モル%以下であることにより、組成物の粘性がより低下し、組成物のハンドリング性がより向上する傾向にある。
【0043】
単位Cの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、10モル%以上、20モル%以上、30モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上であってよく、99.8モル%以下、99モル%以下、98モル%以下、97モル%以下、又は96モル%以下であってよい。単位Cの含有量は、共重合体が有する全単量体単位の合計100モル%に対して、上記の範囲内であってもよい。単位Cの含有量が10モル%以上であることにより、組成物の粘性がより低下し、組成物のハンドリング性がより向上する傾向にある。単位Cの含有量が99.8モル%以下であることにより、共重合体の無機フィラーに対する親和性がより良好となる傾向にある。
【0044】
単位A及び単位Bの含有量の合計は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、0.05モル%以上、0.2モル%以上、1モル%以上、2モル%以上、3モル%以上、4モル%以上、又は5モル%以上であってよく、90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、60モル%以下、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、又は10モル%以下であってよい。単位A及び単位Bの含有量の合計は、共重合体が有する全単量体単位の合計100モル%に対して、上記の範囲内であってもよい。単位A及び単位Bの含有量の合計が0.05モル%以上であることにより、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。単位A及び単位Bの含有量の合計が90モル%以下であることにより、組成物のハンドリング性がより向上する傾向にある。
【0045】
単位Bに対する単位Aのモル比(単位A/単位B)は、0.01以上、0.9以上、1以上、5以上、10以上、20以上、又は30以上であってよく、200以下、150以下、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、又は10以下であってよい。単位Bに対する単位Aのモル比が上記範囲内であることにより、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。
【0046】
共重合体の重量平均分子量は、1,000以上、5,000以上、7,000以上、10,000以上、20,000以上、30,000以上、40,000以上、又は50,000以上であってよく、1,000,000以下、500,000以下、300,000以下、100,000以下、90,000以下、80,000以下、70,000以下、又は60,000以下であってよい。共重合体の重量平均分子量が1,000以上であることにより、組成物が高温環境下で長時間保管された場合であっても、無機フィラーの分散性を維持し、組成物の硬度上昇を抑制することができる。加えて、組成物の形状保持性が向上し、斜面や垂直な面に塗布した際に、組成物のずれやたれ落ちが抑制される。共重合体の重量平均分子量が1,000,000以下であることにより、組成物の粘性がより低下し、組成物のハンドリング性がより向上する傾向にある。共重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として求められる。
【0047】
上述した共重合体は、単量体A、単量体B、及び単量体Cを公知の重合方法により重合することにより得られる。重合方法としては、例えばラジカル重合及びアニオン重合が挙げられる。重合方法は、好ましくはラジカル重合である。
【0048】
ラジカル重合に用いられる重合開始剤は、熱重合開始剤又は光重合開始剤であってよい。熱重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、及び、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシドなどの有機過酸化物が挙げられる。光重合開始剤としては、例えばベンゾイン誘導体が挙げられる。重合開始剤は、ATRP、RAFTなどのリビングラジカル重合に用いる公知の重合開始剤であってもよい。
【0049】
重合条件は、単量体の種類、重合開始剤等に応じて、適宜調整することができる。共重合体がランダム共重合体である場合、各単量体を予め混合して重合してよい。共重合体がブロック共重合体である場合、各単量体を重合系に順次添加してよい。
【0050】
続いて、工程bでは、工程aで選定された無機フィラー及び表面処理剤を混合して、当該無機フィラー及び表面処理剤を含有する組成物を得る。混合は、例えば、遊星攪拌機、万能混合攪拌機、ニーダー、ハイブリッドミキサー等を用いて行われてよい。
【0051】
無機フィラーの含有量は、熱伝導性の向上の観点から、組成物の全体積を基準として、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、又は50体積%以上であってよい。無機フィラーの含有量は、絶縁性の更なる向上の観点から、組成物の全体積を基準として、80体積%以下、70体積%以下、又は60体積%以下であってよく、高温又は高温高湿度環境下での高電圧に対する絶縁信頼性に更に優れる金属ベース基板が得られる観点から、好ましくは55体積%以下であってよい。
【0052】
表面処理剤の含有量は、組成物を用いて金属ベース基板の絶縁層を形成したときに、高温又は高温高湿度環境下での高電圧に対する絶縁信頼性に優れる金属ベース基板が得られる観点から、無機フィラー100質量部に対して、好ましくは、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は1質量部以上であってよく、より好ましくは、2質量部以上、2.5質量部以上、3質量部以上、4質量部以上、又は5質量部以上であってもよい。表面処理剤の含有量は、同様の観点から、無機フィラー100質量部に対して、好ましくは、10質量部以下、9.5質量部以下、又は9質量部以下であってよく、より好ましくは、8質量部以下、7.5質量部以下、7質量部以下、6質量部以下、又は5質量部以下であってもよい。
【0053】
工程bでは、無機フィラー及び表面処理剤に樹脂を更に混合してもよい。ここでいう樹脂は、上述した共重合体とは異なるものである。樹脂は、好ましくは熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂である。樹脂は、一種単独で又は二種以上の組合せで用いられる。
【0054】
樹脂の含有量は、絶縁性の更なる向上の観点から、組成物の全体積を基準として、20体積%以上、30体積%以上、又は40体積%以上であってよい。樹脂の含有量は、熱伝導性の向上の観点から、組成物の全体積を基準として、80体積%以下、70体積%以下、60体積%以下、又は50体積%以下であってよい。
【0055】
工程bにおいて、無機フィラー及び表面処理剤に樹脂を混合する場合、樹脂を硬化させる硬化剤を更に混合してもよい。硬化剤は、樹脂の種類に応じて適宜選択される。例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、アミン系樹脂、酸無水物系樹脂、及びフェノール系樹脂が挙げられる。硬化剤は、一種単独で又は二種以上の組合せで用いられる。
【0056】
硬化剤の含有量は、組成物の全体積を基準として、1体積%以上であってよく、10体積%以下であってよい。
【0057】
工程bでは、その他の成分を更に混合してもよい。その他の成分としては、例えば、硬化促進剤、カップリング剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、湿潤剤、及び安定化剤が挙げられる。
【0058】
以上の製造方法により、無機フィラー及び表面処理剤を含有する(更には必要に応じて用いられる樹脂、硬化剤及びその他の成分を更に含有する)組成物が得られる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、無機フィラー及び表面処理剤を含有する(更には必要に応じて用いられる樹脂、硬化剤及びその他の成分を更に含有する)組成物である。この組成物における各成分の種類や含有量は、上述した製造方法で説明したのと同様であってよい。
【0059】
この組成物は、特に当該組成物が樹脂及び硬化剤を含有する場合、硬化されて用いられる。すなわち、本発明の一実施形態は、上述した組成物の硬化体である。硬化体は、半硬化された状態(Bステージ)であってよく、完全硬化された状態(Cステージ)であってもよい。
【0060】
硬化体は、例えば、上述した組成物を熱処理して硬化させることで得られる。熱処理の条件(加熱温度、加熱時間等)は、樹脂及び硬化剤の種類、所望の硬化状態などに応じて適宜設定される。熱処理は、一段階で行われてよく、二段階で行われてもよい。
【0061】
硬化体は、例えばシート状であってよい。シート状の硬化体は、例えば、上述した組成物を基材上に塗布し、加熱(及び必要に応じて加圧)することにより得られる。シート状の硬化体は、半硬化された状態のBステージシートであってよく、完全硬化された状態のCステージシートであってもよい。
【0062】
上述した組成物及び硬化体は、金属ベース基板の絶縁層の形成に好適に用いられる。すなわち、上記組成物及び硬化体は、それぞれ金属ベース基板用組成物及び金属ベース基板用硬化体ということもできる。
【0063】
図1は、金属ベース基板の一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示すように、一実施形態に係る金属ベース基板10Aは、金属板1と、金属板上に配置された硬化体(上述した組成物の硬化体)2と、硬化体2上に配置された金属箔3Aと、を備えている。この金属ベース基板10Aでは、金属板1と金属箔3Aとは、硬化体2によって隔離されており、互いに電気的に絶縁状態を保っている。つまり、硬化体2が、絶縁層として機能している。
【0064】
金属板1を構成する金属材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鉄、及びステンレスが挙げられる。金属板1は、一種の金属材料から構成されていてよく、二種以上の金属材料から構成されていてもよい。金属板1は、単層構造であってよく、多層構造であってもよい。
【0065】
金属箔3Aを構成する金属材料としては、例えば、銅、アルミニウム、及びニッケルが挙げられる。金属箔3Aは、一種の金属材料から構成されていてよく、二種以上の金属材料から構成されていてもよい。金属箔3Aは、単層構造であってよく、多層構造であってもよい。
【0066】
金属板1の厚みは、例えば、0.5mm以上であってよく、3mm以下であってよい。硬化体2の厚みは、例えば、50μm以上であってよく、300μm以下であってよい。金属箔3Aの厚みは、例えば、5μm以上であってよく、1mm以下であってよい。
【0067】
上記実施形態では、金属箔3Aが硬化体2上の略全面に配置されているが、他の一実施形態では、金属箔は硬化体2上の一部のみに配置されていてよい。
図2は、金属ベース基板の他の一実施形態を示す模式断面図である。
図2に示すように、他の一実施形態に係る金属ベース基板10Bは、金属板1と、金属板上に配置された硬化体(上述した組成物の硬化体)2と、硬化体2上に配置された金属箔3Bと、を備えている。
【0068】
この金属ベース基板10Bでは、金属箔3Bが、例えば、所定のパターンに加工(例えばエッチング加工)され、回路を構成している。すなわち、この金属ベース基板10Bは、金属板1と、金属板上に配置された硬化体2と、硬化体2上に配置された金属回路と、を備えている、ともいえる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
<無機フィラー>
まず、以下の無機フィラーを選定した。
無機フィラー(1)
窒化ホウ素フィラー(デンカ社製、FP-40、平均粒子径40μm)
無機フィラー(2)
アルミナフィラー(デンカ社製、DAS-45、平均粒子径40μm)
無機フィラー(3)
窒化アルミニウムフィラー(デンカ社製、AlN-32、平均粒子径32μm)
【0071】
<表面処理剤>
表面処理剤(共重合体)の合成に用いた単量体を以下に示す。
(アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体A)
・アクリル酸(東亞合成株式会社製)
(カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体B)
・メタクリル酸1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル(ADEKA株式会社製「アデカスタブLA-82」)
((メタ)アクリル系単量体C)
・ベンジルメタクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトエステルBZ」)
【0072】
まず、撹拌機付のオートクレーブ内に、表1に示す単量体組成(モル%)からなる(メタ)アクリル系単量体100質量部を添加した。次いで(メタ)アクリル系単量体の合計100質量部に対して、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(東京化成社製)0.5質量部と、溶媒としてトルエン(試薬特級)及び2-プロパノール(試薬特級)の混合溶液(トルエン:2-プロパノール=7:3(体積比))1000質量部とを加え、オートクレーブ内を窒素で置換した。その後、オートクレーブをオイルバス中で65℃にて20時間加熱し、ラジカル重合を行った。重合終了後、減圧下に120℃で1時間脱気し、表面処理剤(共重合体)1~5を得た。
【0073】
単量体の仕込み量100%に対する重合率は、ガスクロマトグラフィ分析により分析したところ、98%以上であった。このことから、表面処理剤(共重合体)が有する各単量体単位の比率は、単量体の仕込み比と同程度と推定された。
【0074】
また、得られた表面処理剤(共重合体)1~5の重量平均分子量を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めた。結果を表1に示す。なお、測定条件は以下のとおりである。
高速GPC装置:東ソー社製「HLC-8020」
カラム :東ソー社製「TSK guardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、及び東ソー社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
展開溶媒 :テトラヒドロフラン
ディテクター :RI(示差屈折率計)
【0075】
【0076】
<ゼータ電位の測定>
表面処理前の無機フィラー(1)~(3)のゼータ電位Zを以下のとおり測定した。まず、無機フィラー0.02gをイオン交換水100gに、100Hzの超音波を5分間照射することにより分散して分散液を調製した。この分散液を18時間静置した後の上澄み液10gを回収し、25℃において、印加電圧60V、積算回数5回の条件で、ゼータ電位測定システム(大塚電子社製:ELS-Z2)によりゼータ電位を測定した。結果を表2に示す。
【0077】
また、無機フィラー(1)~(3)のいずれかと、表面処理剤1~5のいずれかとを組み合わせて、表面処理後の無機フィラーのゼータ電位Ztを以下のとおり測定した。
まず、表2に示す種類及び量(質量部)の表面処理剤をダイアセトンアルコール(株式会社ゴードー製、溶剤)10000質量部に溶解させて溶液を調製した。続いて、この溶液に表2に示す種類の無機フィラー100質量部を加え、25℃において、マグネットスターラーを用いて30分間撹拌して、表面処理剤により無機フィラーの表面処理を行った。その後、80℃のオーブン中で12時間加熱することにより、溶剤を揮発させて除去する。次いで、表面処理後の無機フィラーについて、上記の表面処理前の無機フィラーと同様にしてゼータ電位を測定した。結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
上記のとおり、表2に示す無機フィラーと表面処理剤との各組合せにおいて、|Z|<|Zt|であった。
【0080】
<組成物の作製>
(実施例1)
樹脂としてナフタレン型エポキシ樹脂HP-4032D(DIC株式会社製、比重1.2g/cm3)42.3体積%と、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂VH-4150(DIC株式会社製、比重1.1g/cm3)5.7体積%とを170℃で攪拌し、樹脂に硬化剤を溶解させた。硬化剤を溶解させた樹脂と、上記で選定した無機フィラー(1)50.5体積%と、表面処理剤1 1.0体積%と、硬化促進剤としてイミダゾール化合物1B2PZ(四国化成工業社製、比重1.1g/cm3)0.4体積%とを、プラネタリーミキサーで15分間攪拌混合し、組成物を作製した。
【0081】
<硬化体の作製>
得られた組成物を、厚さ0.038mmのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム上に、硬化後の厚さが0.20mmになるように塗布し、100℃50分加熱乾燥させ、これにより半硬化状態の硬化体(Bステージシート)を作製した。
【0082】
<金属ベース基板の作製>
得られた硬化体(Bステージシート)をPETフィルムからはがし、金属板(厚さ2.0mmの銅板)の粗化面上に配置した。次いで、硬化体上に金属箔(厚さ0.5mmの銅箔)の粗化面を配置した後、プレス機によって面圧10MPaをかけながら、180℃で410分間加熱硬化した。
【0083】
次いで、所定の位置をエッチングレジストでマスクした後、硫酸-過酸化水素混合溶液をエッチング液として銅箔をエッチングした。エッチングレジストを除去し、洗浄乾燥することで、直径20mmの円電極(銅箔)を有する金属ベース基板を得た。
【0084】
(実施例2~13及び比較例1)
組成物の組成を表3,4に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、組成物、硬化体、及び金属ベース基板を作製した。
【0085】
[高温環境下での絶縁信頼性の評価]
得られた金属ベース基板について、125℃環境下で、金属箔-金属板間に直流10kVの電圧を印加する試験条件で、高温高圧バイアス試験(V-t)を行った。電圧印加開始時から、耐電圧試験機で測定した漏れ電流値が10mA以上となった時点までの時間を耐久時間とした。耐久時間が200分以上であった場合をA、200分未満100分以上であった場合をB、100分未満であった場合をCとして評価した。評価がA、Bであれば、高温環境下での絶縁信頼性が優れた金属ベース基板であるといえる。結果を表3,4に示す。
【0086】
[高温高湿度環境下での絶縁信頼性の評価]
得られた金属ベース基板について、85℃85湿度%環境下で、金属箔-金属板間に直流1.2kVの電圧を印加する試験条件で、高温高圧バイアス試験(THB)を行った。電圧印加開始時から、耐電圧試験機で測定した漏れ電流値が10mA以上となった時点までの時間を耐久時間とした。耐久時間が250時間以上であった場合をA、250時間未満100時間以上であった場合をB、100時間未満であった場合をCとして評価した。評価がA、Bであれば、高温高湿度環境下での絶縁信頼性が優れた金属ベース基板であるといえる。結果を表3,4に示す。
【0087】
【0088】
【符号の説明】
【0089】
1…金属板、2…硬化体、3A,3B…金属箔、10A,10B…金属ベース基板。