(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】素子
(51)【国際特許分類】
H01Q 23/00 20060101AFI20241118BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20241118BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20241118BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20241118BHJP
H03B 7/08 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
H01Q23/00
G01J1/02 C
G01J1/02 Q
H01Q13/08
H01Q21/06
H03B7/08
(21)【出願番号】P 2023117649
(22)【出願日】2023-07-19
(62)【分割の表示】P 2019173084の分割
【原出願日】2019-09-24
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 泰史
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-200065(JP,A)
【文献】特開2008-010811(JP,A)
【文献】特開2005-123385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 23/00
G01J 1/02
H01Q 13/08
H01Q 21/06
H03B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波の利得を有する第1半導体層と第1導体層とを有し、基板の上に配された第1アンテナと、
テラヘルツ波の利得を有する第2半導体層と第2導体層とを有し、前記基板の上に配された第2アンテナと、
前記基板の上に配され、前記第1アンテナと前記第2アンテナとを電気的に接続する第3導体層と、
前記基板の上に配され、前記第3導体層に電気的に接続するシャント素子と、
を有し、
平面視において、前記シャント素子は、少なくとも前記第1導体層と重ならな
らず、
前記シャント素子は、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの間において前記第3導体層に接続されている、
ことを特徴とする素子。
【請求項2】
前記平面視において、前記シャント素子は、前記第2導体層と重ならない、
ことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記シャント素子は、少なくとも第1容量を有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の素子。
【請求項4】
前記第1容量は、少なくとも第4導体層を有する、
ことを特徴とする請求項3に記載の素子。
【請求項5】
前記素子は、前記基板の上に配された第5導体層を有し、
前記第5導体層は、前記第1導体層と前記基板の間と、前記第4導体層と前記基板の間とに位置する、
ことを特徴とする請求項4に記載の素子。
【請求項6】
前記第5導体層は、接地電位が供給される、
ことを特徴とする請求項5に記載の素子。
【請求項7】
前記基板から前記第4導体層までの距離は、前記基板から前記第1導体層までの距離より短い、
ことを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の素子。
【請求項8】
前記シャント素子は、少なくとも第2容量を有し、
前記平面視において、前記第3導体層は、前記第1容量と前記第2容量との間に位置する、
ことを特徴とする請求項3から7のいずれか1項に記載の素子。
【請求項9】
前記シャント素子は、少なくとも第1抵抗と第2抵抗を有し、
前記平面視において、前記第1抵抗は、前記第3導体層と前記第1容量との間に位置し、前記第2抵抗は、前記第3導体層と前記第2容量との間に位置する、
ことを特徴とする請求項8に記載の素子。
【請求項10】
前記第1抵抗と前記第1容量が直列に接続し、前記第2抵抗と前記第2容量が直列に接続している、
ことを特徴とする請求項9に記載の素子。
【請求項11】
前記基板から前記第3導体層までの長さは、前記基板から前記第1導体層までの長さと等しい、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の素子。
【請求項12】
前記シャント素子は、前記第3導体層における前記テラヘルツ波の電界の節に接続されている、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の素子。
【請求項13】
前記素子は、更に複数のアンテナを有し、
前記第1アンテナと前記第2アンテナと前記複数のアンテナは、m×nのマトリクスに配されている(m≧2,n≧2)、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の素子。
【請求項14】
前記第1導体層は、パッチアンテナを構成する、
ことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の素子。
【請求項15】
前記第1半導体層および前記第2半導体層の少なくともいずれかは、負性抵抗素子を含む、
ことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の素子。
【請求項16】
前記負性抵抗素子は、共鳴トンネルダイオードである、
ことを特徴とする請求項15に記載の素子。
【請求項17】
前記テラヘルツ波は、30GHz以上30THz以下の周波数領域の電磁波である、
ことを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を発振または検出する素子に関する。
【背景技術】
【0002】
30GHz以上30THz以下の周波数領域の電磁波であるテラヘルツ波を発生する電流注入型の光源として、テラヘルツ波の電磁波利得を有する半導体素子と共振器とを集積した発振器が知られている。なかでも、共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling Diode:RTD)とアンテナを集積した発振器は、1THz近傍の周波数領域で室温動作する素子として期待されている。
【0003】
非特許文献1には、半導体基板上にRTDとスロットアンテナ共振器とを集積したテラヘルツ波の発振器が記載されている。非特許文献1では、InP基板上にエピタキシャル成長されたInGaAs量子井戸層とAlAsトンネル障壁層とからなる2重障壁型のRTDを用いている。このようなRTDを用いた発振器では、電圧-電流(V-I)特性で微分負性抵抗が得られる領域においてテラヘルツ波の発振が室温において実現できる。
【0004】
また、特許文献1には、RTDとアンテナを集積した発振器を、同一基板上に複数配置したテラヘルツ波のアンテナアレイが記載されている。特許文献1に記載されたアンテナアレイは、隣接する各々のアンテナが相互に同期することによりアンテナ利得とパワーを増強することができる。非特許文献2には、隣接するアンテナ間をチップ抵抗によって接続して、モード安定化する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.47,No.6(2008)、pp.4375-4384
【文献】IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES, VOL. 42, NO. 4, APRIL 1994
【文献】J.Appl.Phys.,Vol.103,124514(2008)
【文献】J Infrared Milli Terahz Waves (2014) 35:425-431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アンテナアレイにおけるアンテナ数(負性抵抗素子数)の増加に従い同期するモード数(共振周波数帯の数)が増加するため、アンテナ数が増えるほど素子のテラヘルツ波の発生または検出の安定化が難しい。このため、複数のアンテナを備える素子において、同期するモード数が複数存在してしまうことによって、効率のよいテラヘルツ波の発生または検出が実現できないことがあった。
【0008】
そこで、本発明は、複数のアンテナを備える素子において、より効率のよいテラヘルツ波の発生または検出を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、
テラヘルツ波の利得を有する第1半導体層と第1導体層とを有し、基板の上に配された第1アンテナと、
テラヘルツ波の利得を有する第2半導体層と第2導体層とを有し、前記基板の上に配された第2アンテナと、
前記基板の上に配され、前記第1アンテナと前記第2アンテナとを電気的に接続する第3導体層と、
前記基板の上に配され、前記第3導体層に電気的に接続するシャント素子と、
を有し、
平面視において、前記シャント素子は、少なくとも前記第1導体層と重ならならず、
前記シャント素子は、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの間において前記第3導体層に接続されている、
ことを特徴とする素子である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のアンテナを備える素子において、より効率のよいテラヘルツ波の発生または検出を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係る半導体素子の等価回路を示す図である。
【
図2】実施形態1に係る半導体素子の構成を示す図である。
【
図3】実施形態1に係る半導体素子のインピーダンスを示す図である。
【
図4】変形例1に係る半導体素子の構成を示す図である。
【
図5】変形例2に係る半導体素子の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
以下にて、実施形態1に係る半導体素子100について説明する。半導体素子100は、周波数(共振周波数;発振周波数)fTHzのテラヘルツ波(30GHz以上30THz以下の周波数領域の電磁波)を発生(発振)または検出する。なお、以降の説明では、半導体素子100を発振器として用いる例について説明する。また、半導体素子100の積層方向における各構成の長さを「厚さ」または「高さ」と呼ぶ。
【0014】
[半導体素子の回路構成に関する説明]
以下では、まず、半導体素子100の回路構成について説明する。
図1(a)は、半導体素子100の等価回路を説明する図である。
図1(c)は、半導体素子100が有するバイアス回路V
a,V
bの等価回路を説明する図である。
【0015】
半導体素子100は、アンテナが複数設けられたアンテナアレイを有する。本実施形態では、半導体素子100は、アンテナ100aとアンテナ100bが隣接して設けられたアンテナアレイを有する。アンテナ100aは、テラヘルツ波を共振するための共振器と、テラヘルツ波を送信または受信するための放射器を兼ねており、テラヘルツ波(電磁波
)を発生または検出するための半導体層115aを内部に有する。アンテナ100bも、アンテナ100aと同様の構成である。以下、アンテナ100aの構成について詳細に説明し、アンテナ100bにおけるアンテナ100aと同じ構成要素については、詳細な説明は省略する。
【0016】
また、本実施形態では、アンテナが2つ設けられた半導体素子100について説明するが、アンテナの数は3個以上であってもよい。例えば、3×3のマトリクス状に配置するアレイや、縦または横方向に3個のアンテナを線状に配置したリニアアレイのような形態であってもよい。半導体素子100は、アンテナがm×nのマトリクス状(m≧2,n≧2)に配置されるアンテナアレイを有する構成であってもよい。また、これらのアンテナは、周波数fTHzのテラヘルツ波の波長の整数倍のピッチで配置されるとよい。
【0017】
なお、以下では、アンテナ100aとアンテナ100bに属する構成部材の符号の末尾において、対応するアンテナを示すアルファベットを付している。より詳細には、アンテナ100aが有する構成部材には符号の末尾に「a」を付し、アンテナ100bが有する構成部材には符号の末尾に「b」を付している。
【0018】
図1(a)に示すように、アンテナ100aでは、半導体102aと、アンテナの放射および導体損失によって決まる抵抗R
aと、構造によって決まるLC成分(容量C
aおよびインダクタンスL
a)とが並列に接続されている。また、半導体102aにバイアス信号を給電するためのバイアス回路V
aが、半導体102aと並列に接続されている。
【0019】
半導体102aは、テラヘルツ波に対する電磁波の利得またはキャリアの非線形性(電流電圧特性における電圧変化に伴う電流の非線形性)を有する。本実施形態では、半導体102aとして、テラヘルツ波の周波数帯で電磁波利得を有する典型的な半導体である共鳴トンネルダイオード(Resonant tunneling Diode:RTD)を用いている。半導体102aは、RTDの微分負性抵抗とダイオード容量が並列接続された回路を含む(不図示)。
【0020】
なお、アンテナ100bは、アンテナ100aと同様に、半導体102b、抵抗Rb、LC成分(CbおよびLb)、バイアス回路Vbとが並列に接続された回路によって構成される。各アンテナは、周波数fTHzのテラヘルツ波を単体で送信または受信する。
【0021】
バイアス回路V
a,V
bは、アンテナ100aの半導体102aおよびアンテナ100bの半導体102bにバイアス信号を供給するための電源および安定化回路を有する。バイアス回路V
a,V
bはそれぞれ、
図1(c)に示すように、シャント抵抗121、配線122、電源123、容量124を含む。
【0022】
シャント抵抗121は、半導体102a,102bと並列に接続されている。容量124は、シャント抵抗121と並列に接続されている。電源123は、半導体102a,102bを駆動するために必要な電流を供給し、半導体102a,102bにかかるバイアス信号を調整する。半導体102a,102bにRTDを用いている場合であれば、バイアス信号は、RTDの微分負性抵抗領域となる電圧から選択される。バイアス回路Va,Vbのシャント抵抗121および容量124は、バイアス回路Va,Vbに起因した比較的低周波の共振周波数(典型的にはDCから10GHzの周波数帯)の寄生発振を抑制する。
【0023】
隣接するアンテナ100aとアンテナ100bの間はカップリングライン109によって相互に結合されている。カップリングライン109は、半導体102a,102bのそれぞれと並列に接続されたシャント素子130に接続される。このように、シャント素子
130が配置されていることによって、所望のテラヘルツ波の動作周波数fTHz以外の周波数において短絡されて、当該周波数において半導体素子100が低インピーダンスにされる。このため、複数の周波数帯での共振(マルチモード共振)の発生が抑制される。なお、アンテナの放射効率の観点では、シャント素子130は、カップリングライン109において定在する共振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界の節に配置(接続)されることが好ましい。ここで、「カップリングライン109において定在する共振周波数fTHzのテラヘルツ波の電解の節となる位置」とは、例えば、カップリングライン109において定在する共振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界強度が1桁程度低下する位置のことである。
【0024】
シャント素子130は、
図1(a)に示すように、抵抗R
cおよび容量C
cが直列に接続されている。ここで、抵抗R
cは、並列接続された半導体102a,102bの合成された微分負性抵抗の絶対値と等しいか少し小さい値が選択される。また、容量C
cは、並列接続された半導体102aおよび半導体102bの合成された微分負性抵抗の絶対値とインピーダンスが等しいか、少し低くなるように設定される。すなわち、抵抗R
cおよび容量C
cの値のそれぞれは、半導体102aおよび半導体102bの利得に相当する負性抵抗(インピーダンス)の絶対値より低インピーダンスをとるように設定されることが好ましい。テラヘルツ帯において用いるRTDの負性抵抗の典型値は0.1~1000Ωであることを考えると、抵抗R
cの値は0.1~1000Ωの範囲において設定される。また、10GHzから1000GHzの周波数範囲でのシャント効果を得るために、容量C
cの値は、典型的には0.1~1000pFの範囲で設定される。なお、RTDの負性抵抗に対する抵抗R
cと容量C
cのインピーダンスの条件は、共振周波数f
THzより低い周波数帯において満たされていればよい。
【0025】
[半導体素子の構造に関する説明]
続いて、半導体素子100の具体的な構造について説明する。
図2(a)は半導体素子100の上面図である。
図2(b)は
図2(a)における半導体素子100のA-A’断面図であり、
図2(c)は半導体素子100の
図2(a)におけるB-B’断面図である。
【0026】
アンテナ100aは、基板113、第1の導体層106、半導体層115a、電極116a、導体117a、誘電体層104、第2の導体層103aを含む。アンテナ100aは、
図2(b)に示すように、第1の導体層106と第2の導体層103aの二つの導体によって、第1の誘電体層1041と第2の誘電体層1042と第3の誘電体層1043の3層からなる誘電体層104を挟んだ構成である。このような構成は、マイクロストリップ型のアンテナとして知られている。本実施形態では、アンテナ100a,100bを、代表的なマイクロストリップ型の共振器であるパッチアンテナとして用いている例について説明する。
【0027】
第2の導体層103aは、アンテナ100aのパッチ導体であり、誘電体層104(半導体層115a)を介して第1の導体層106と対向するように配置されている。第2の導体層103aは、半導体層115aと電気的に接続される。アンテナ100aは、第2の導体層103aのA-A’方向(共振方向)の幅がλTHz/2である共振器にされるように設定されている。また、第1の導体層106は、接地導体であり、電気的に接地されている。ここで、λTHzは、アンテナ100aで共振するテラヘルツ波の誘電体層104における実効波長であり、テラヘルツ波の真空中における波長をλ0とし、誘電体層104の実効的な比誘電率をεrとするとλTHz=λ0×εr
-1/2で表わされる。
【0028】
半導体層115aは、
図1(a)に示す等価回路の半導体102aに相当し、テラヘルツ波に対する電磁波の利得またはキャリアの非線形性を有する半導体から構成される活性
層101aを含む。本実施形態では、活性層101aとしてRTDを用いている例について説明する。以降は、活性層101aをRTD101aとして説明する。
【0029】
半導体層115aは、基板113の上に形成された第1の導体層106の上に配置され、半導体層115aと第1の導体層106とは電気的に接続されている。なお、オーム性損失を低減するため、半導体層115aと第1の導体層106は、低抵抗な接続がされることが好ましい。
【0030】
RTD101aは、複数のトンネル障壁層を含む共鳴トンネル構造層を有する。RTD101aでは、複数のトンネル障壁の間に量子井戸層が設けられており、キャリアのサブバンド間遷移によりテラヘルツ波を発生する多重量子井戸構造を備える。RTD101aは、電流電圧特性の微分負性抵抗領域において、フォトンアシストトンネリング現象に基づくテラヘルツ波の周波数領域の電磁波利得を有し、微分負性抵抗領域において自励発振する。RTD101aは、第2の導体層103aの重心から共振方向(すなわちA-A’方向)に40%シフトした位置に配置されている。
【0031】
アンテナ100aは、RTD101aを含む半導体層115aとパッチアンテナが集積されたアクティブアンテナである。アンテナ100a単体から発振されるテラヘルツ波の周波数fTHzは、パッチアンテナと半導体層115aのリアクタンスとを組み合わせた全並列共振回路の共振周波数として決定される。具体的には、非特許文献1に記載された発振器の等価回路から、RTDとアンテナのアドミタンス(YRTDおよびYaa)を組み合わせた共振回路について、(1)式の振幅条件と(2)式の位相条件とを満たす周波数が共振周波数fTHzとして決定される。
Re[YRTD]+Re[Yaa]≦0 (1)
Im[YRTD]+Im[Yaa]=0 (2)
【0032】
ここで、Y
RTDは、半導体層115aのアドミタンスであり、Reは実部を示し、Imは虚部を示す。半導体層115aは、活性層として負性抵抗素子であるRTD101aを含むので、Re[Y
RTD]は負の値を有する。また、Y
aaは、半導体層115aから見たアンテナ100aの全体のアドミタンスを示す。従って、Y
aaは、
図1(a)の等価回路におけるアンテナの各成分R
a、C
a、L
aが主要な回路要素となり、Y
RTDは、半導体102aの微分負性抵抗およびダイオード容量が主要な回路要素となる。
【0033】
なお、活性層101aの他の例として、数百から数千層の半導体多層構造を持つ量子カスケード構造(Quantum Cascade Laser:QCL)を用いてもよい。この場合、半導体層115aは、QCL構造を含む半導体層である。また、活性層101aとして、ミリ波帯でよく用いられるガンダイオードやインパットダイオードのような負性抵抗素子を用いてもよい。また、活性層101aとして、一端子を終端したトランジスタなどの高周波素子を用いてもよく、例えば、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、化合物半導体系FET、高電子移動度トランジスタ(HEMT)などが好適である。また、活性層101aとして、超伝導体を用いているジョセフソン素子の微分負性抵抗を用いてもよい。
【0034】
誘電体層104は、第1の導体層106と第2の導体層103aとの間に形成されている。誘電体層104には、厚膜が形成可能なこと(典型的には3μm以上の厚膜)、テラヘルツ帯で低損失・低誘電率であること、かつ、微細加工性がよいこと(平坦化やエッチングによる加工性)が求められる。パッチアンテナなどのマイクロストリップ型の共振器は、誘電体層104を厚くすることによって導体ロスが低減され放射効率が改善できる。ここで、誘電体層104の厚さは、厚いほど放射効率は上がるが、厚すぎると多モードの共振が生じる。このため、誘電体層104の厚さは、発振波長の1/10以下の範囲であ
ることが好ましい。
【0035】
一方、発振器の高周波化と高出力化には、ダイオードの微細化と高電流密度化が求められる。このため、誘電体層104には、ダイオードの絶縁構造体として、リーク電流抑制やマイグレーション対策も求められる。本実施形態では、これらの目的を満たすために、誘電体層104は、第1の誘電体層1041と第2の誘電体層1042の材料の異なる2種類の誘電体層を含む。
【0036】
第1の誘電体層1041には、BCB(ベンゾシクロブテン、ダウケミカル社製、εr1=2)やポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドなどの有機誘電体材料が好適に用いられる。εr1は、第1の誘電体層1041の比誘電率である。また、第1の誘電体層1041には、比較的厚膜が形成可能であり、誘電率が低いTEOS酸化膜やスピンオングラスなどの無機の誘電体材料を用いてもよい。
【0037】
第2の誘電体層1042には、絶縁性(直流電圧に対して電気を通さない絶縁体・高抵抗体としてふるまう性質)、バリア性(電極に用いる金属材料の拡散防止の性質)、加工性(サブミクロンの精度で加工が可能な性質)が求められる。これらの性質を満たすように、第2の誘電体層1042には、酸化シリコン(εr2=4)、窒化シリコン(εr2=7)、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどの無機の絶縁体材料が好適に用いられる。εr2は、第2の誘電体層1042の比誘電率である。
【0038】
第3の誘電体層1043については後述する。なお、本実施形態のように誘電体層104が3層の構造の場合、誘電体層104の比誘電率をεrは、第1の誘電体層1041~第3の誘電体層1043のそれぞれにおける厚さと比誘電率から決定される実効的な比誘電率である。また、半導体素子100において、誘電体層104は3層構造である必要はなく、1層のみの構造であってもよい。
【0039】
また、アンテナと空気(空間)のインピーダンス整合という観点からは、アンテナと空気の誘電率差は少ない方が好ましい。このため、第1の誘電体層1041は、第2の誘電体層1042と異なる材料であり、第2の誘電体層1042よりも比誘電率が低い材料を用いることが好ましい(εr1<εr2)。
【0040】
電極116aは、半導体層115aにおける第1の導体層106が配置されている側と反対側に配置されている。電極116aと半導体層115aとは電気的に接続されている。半導体層115aおよび電極116aは、第2の誘電体層1042(第2の誘電体層1042と第3の誘電体層1043)に埋め込まれている。より詳細には、半導体層115aおよび電極116aは、第2の誘電体層1042(第2の誘電体層1042と第3の誘電体層1043)とによって周囲を被覆されている。
【0041】
電極116aは、半導体層115aとオーム性接続された導体層であれば、直列抵抗に起因したオーム性損失やRC遅延の低減に好適である。電極116aをオーミック電極として用いる場合、電極116aの材料として、例えば、Ti/Pd/Au、Ti/Pt/Au、AuGe/Ni/Au、TiW、Mo、ErAsなどが好適に用いられる。
【0042】
また、半導体層115aにおける電極116aと接する領域が高濃度に不純物がドーピングされた半導体であれば、より接触抵抗が低くでき、高出力化と高周波化に好適である。テラヘルツ波帯で用いられるRTD101aの利得の大きさを示す負性抵抗の絶対値は概ね1~100Ωのオーダーであるため、電磁波の損失は、その1%以下に抑えるとよい。従って、オーミック電極におけるコンタクト抵抗は目安として1Ω以下に抑制するとよい。
【0043】
また、テラヘルツ波帯において動作するためには、半導体層115aの幅(≒電極116a)は典型値として0.1~5μm程度である。このため、抵抗率を10Ω・μm2以下にして、コンタクト抵抗を0.001~数Ωの範囲に抑制する。また、他の形態として、電極116aには、オーム性ではなくショットキー接続するような金属を用いてもよい。この場合、電極116aと半導体層115aとの接触界面は整流性を示し、アンテナ100aはテラヘルツ波の検出器として好適な構成である。なお、以下、本実施形態では、電極116aとしてオーミック電極を用いる構成について説明する。
【0044】
RTD101aにおける積層方向では、
図2(b)に示すように、基板113側から、第1の導体層106、半導体層115a、電極116a、導体117a、第2の導体層103aの順に積層される。
【0045】
導体117aは、誘電体層104の内部に形成されており、第2の導体層103aと電極116aとは、導体117aを介して電気的に接続されている。ここで、導体117aの幅が大きすぎると、アンテナ100aの共振特性の劣化と寄生容量増加による放射効率の低下が生じる。このため、導体117aの幅は、共振電界に干渉しない程度の寸法が好ましく、典型的には、λ/10以下が好適である。また、導体117aの幅は、直列抵抗を増やさない程度に小さくすることが可能であり、目安として表皮深さの2倍程度まで縮小できる。よって、直列抵抗が1Ωを超えない程度まで小さくすることを考えると、導体117aの幅は、典型的には0.1μm以上20μm以下の範囲が目安である。
【0046】
導体117aのように、上下の層間を電気的に接続する構造はビアと呼ばれる。第1の導体層106および第2の導体層103aは、パッチアンテナを構成する部材としての役割に加えて、ビアと接続されることによって、RTD101aに電流を注入するための電極も兼ねている。導体117aの材料は、抵抗率が1×10-6Ω・m以下の材料が好ましい。具体的には、導体117aの材料として、Ag、Au、Cu、W、Ni、Cr、Ti、Al、AuIn合金、TiNなどの金属および金属化合物が好適に用いられる。
【0047】
第2の導体層103aは、線路108a1,108a2に接続されている。線路108a1,108a2は、バイアス回路Vaを含むバイアスラインに接続される引き出し線である。線路108a1,108a2の幅は、第2の導体層103aの幅より細く設定される。ここで、幅とは、アンテナ100a内の電磁波の共振方向(=A-A’方向)における幅である。例えば、線路108a1,108a2の幅は、アンテナ100aに定在する共振周波数fTHzのテラヘルツ波の実効波長λの1/10以下(λ/10以下)が好適である。この理由は、線路108a1,108a2は、アンテナ100a内の共振電界に干渉しない程度の寸法および位置に配置することが、放射効率の改善の観点から好ましいためである。
【0048】
また、線路108a1,108a2の位置は、アンテナ100aに定在する共振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界の節に配置することが好ましい。このとき、線路108a1,108a2は、共振周波数fTHz付近の周波数帯においてRTD101aの微分負性抵抗の絶対値よりインピーダンスが十分に高い構成である。言い換えると、線路108a1,108a2は、共振周波数fTHzにおいてRTDからみて高インピーダンスであるようにアンテナと接続されている。この場合、半導体素子100の各アンテナとアンテナ100aとは、周波数fTHzにおいて、線路108a1と線路108a2およびバイアス回路Vaを含むバイアスライン経由の経路ではアイソレーション(分離)されている。これにより、バイアスラインを経由して、各アンテナに誘起される共振周波数fTHzの電流が隣接する他のアンテナに作用(影響)することが抑制される。また、アンテナ100a内を定在する共振周波数fTHzの電界とこれらの給電部材との干渉が抑制された
構成でもある。
【0049】
バイアス回路V
a,V
bはそれぞれ、シャント抵抗121、配線122、電源123、容量124を含む。配線122は、寄生的なインダクタンス成分を必ず伴うため、
図1(c)ではインダクタとして表示している。電源123は、RTD101aとRTD101bを駆動するために必要なバイアス信号を供給する。バイアス信号の電圧は、典型的には、RTD101a,101bに用いているRTDの微分負性抵抗領域の電圧から選択される。アンテナ100aの場合、バイアス回路V
a,V
bからのバイアス電圧は、線路108a1,108a2を経由してアンテナ100a内のRTD101aに供給される。
【0050】
ここで、バイアス回路Va,Vbのシャント抵抗121および容量124は、バイアス回路Va,Vbに起因した比較的低周波の共振周波数(典型的にはDCから10GHzの周波数帯)の寄生発振を抑制する役割を有する。シャント抵抗121の値は、並列接続されたRTD101a,101bの合成された微分負性抵抗の絶対値と等しいか少し小さい値が選択される。容量124も、シャント抵抗121と同様に、並列接続されたRTD101a,101bの合成された微分負性抵抗の絶対値とインピーダンスが等しいか、少し低くなるように設定される。すなわち、バイアス回路120は、これらのシャント素子により、DCから10GHzの周波数帯において利得に相当する合成した負性抵抗の絶対値より低インピーダンスであるように設定されている。一般的には、容量124は上述の範囲内であれば大きい方が好ましく、本実施形態では、数十pF程度の容量を使用している。容量124は、デカップリング容量であり、例えば、アンテナ100aと基板を共にしたMIM(Metal-insulator-Metal)構造を利用してもよい。
【0051】
[アンテナアレイに関する説明]
半導体素子100は、2つのアンテナ100a,100bがE面結合(E-Plane
Coupled)したアンテナアレイを有する。各アンテナは、単体では周波数fTHzのテラヘルツ波を発振する。隣接したアンテナ間はカップリングライン109で相互に結合されており、テラヘルツ波の共振周波数fTHzにおいて相互注入同期される。
【0052】
ここで、相互注入同期とは、複数の自励発振器の全てが、相互作用により引き込み同期して発振することである。例えば、アンテナ100aとアンテナ100bとは、カップリングライン109によって相互に結合されている。なお、「相互に結合される」とは、あるアンテナに誘起された電流が他の隣接するアンテナに作用し互いの送受信特性を変化させる現象のことである。相互に結合されたアンテナを同位相または逆位相で同期することで、相互注入同期現象により各アンテナ間における電磁界の強め合いまたは弱め合いを引き起こし、アンテナ利得の増減を調整することができる。
【0053】
アンテナアレイを有する半導体素子100の発振条件は、J.Appl.Phys.,Vol.103,124514(2008)(非特許文献3)に開示された2つ以上の個別のRTD発振器を結合した構成における相互注入同期の条件により決定できる。具体的には、アンテナ100aとアンテナ100bとがカップリングライン109で結合されているアンテナアレイの発振条件を考える。このとき、正位相の相互注入同期と逆位相の相互注入同期との二つの発振モードが生じる。正位相の相互注入同期の発振モード(evenモード)の発振条件は(4)式および(5)式で表され、逆位相の相互注入同期の発振モード(oddモード)の発振条件は(6)式および(7)式で表される。
正位相(evenモード):周波数f=feven
Yeven=Yaa+Yab+YRTD
Re(Yeven)≦0 (4)
Im(Yeven)=0 (5)
逆位相(oddモード):周波数f=fodd
Yodd=Yaa+Yab+YRTD
Re(Yodd)≦0 (6)
Im(Yodd)=0 (7)
【0054】
ここで、Yabは、アンテナ100aとアンテナ100bとの間の相互アドミタンスである。Yabはアンテナ間の結合の強さを表す結合定数に比例し、理想的には-Yabの実部が大きく、虚部がゼロであることが好ましい。本実施形態の半導体素子100は正位相での相互注入同期する条件で結合されており、共振周波数fTHz≒fevenである。他のアンテナについても同様に、各アンテナ間はカップリングライン109で上述の正位相の相互注入同期条件を満たすように結合されている。
【0055】
カップリングライン109は、誘電体層104の上に積層された第3の導体層110と第1の導体層106とによって誘電体層104を挟んだ構造のマイクロストリップラインから構成される。半導体素子100において、各アンテナ間はDC結合によって結合されている。アンテナ間を共振周波数fTHzで相互に同期するために、アンテナ100aとアンテナ100bとを結合するカップリングライン109の上導体である第3の導体層110は、第2の導体層103aと第2の導体層103bとに直接接続されている。半導体素子100において、第3の導体層110と、第2の導体層103a,103bは同じ層に形成されている。
【0056】
このようなカップリングライン109を有する構造により、アンテナ100aと隣接するアンテナ100bは相互に結合されており、発振するテラヘルツ波の周波数fTHzにおいて相互に同期して動作する。DC結合によって同期されたアンテナアレイは、隣接アンテナ間を強い結合で同期することができるため、引き込みによる同期動作がしやすく、各アンテナの周波数や位相のばらつきが発生しにくい。
【0057】
半導体素子100では、カップリングライン109の中心にシャント素子130が配置(接続)されている。シャント素子130とカップリングライン109とは、ビア114を介して接続されている。具体的には、カップリングライン109の第3の導体層110と、シャント素子130と接続する導体層111とが、第1の誘電体層1041の内部に形成されたビア114を介して接続される。ここで、ビア114は、カップリングライン109を定在する共振周波数fTHzの高周波電界の節で第3の導体層110と接続される。つまり、シャント素子130は、カップリングライン109における定在する共振周波数fTHzの高周波電界の節でカップリングライン109と接続されているといえる。このように接続されたシャント素子130により、テラヘルツ波の共振周波数fTHz以外の周波数において短絡されて、当該周波数において半導体素子100が低インピーダンスにされるため、マルチモードの共振の発生が抑制できる。
【0058】
導体層111は、第2の誘電体層1042の上に積層された電極であり、第2の誘電体層1042の上に積層された抵抗体層1191,1192と接続される。
図1(a)に示した等価回路におけるシャント素子130の抵抗R
cは、抵抗体層1191,1192により形成される。抵抗体層1191,1192は、第2の誘電体層1042の上に積層された導体層1121,1122と接続されている。導体層1121,1122は、ビア1071,1072を介して、第3の誘電体層1043の上に積層された第4の導体層1181,1182に接続される。第4の導体層1081,1182は、第1の導体層106と第2の導体層103a,103bとの間の層に形成されている。
図1(a)に示した等価回路におけるシャント素子130の容量C
cは、第4の導体層1181,1182と第1の導体層106とで、誘電体層104の一部である第3の誘電体層1043を挟んだMIM容量構造により形成される。
【0059】
また、抵抗Rcに対して、アンテナアレイの集積化のために微細化が求められている。このため、本実施形態では、抵抗体層1091,1092として、比較的抵抗率が高く、融点が高い抵抗率0.7Ω・μmのW-Ti(0.2μm厚)薄膜を用いている。
【0060】
半導体素子100のシャント素子130は、2つのシャント素子を含む。1つは、抵抗体層1191からなる抵抗と、第4の導体層1181と第1の導体層106とで第3の誘電体層1043を挟んだ容量が直列に接続されたシャント素子である。もう1つは、抵抗体層1192からなる抵抗と、第4の導体層2182と第1の導体層106とで第3の誘電体層1043を挟んだ容量が直列に接続されたシャント素子である。なお、各シャント素子の材料や寸法・構造を適宜設計することによって、抵抗Rcと容量Ccの値が上述した範囲であるようにできる。また、導体117a,117bの幅と同様にビア114の幅が大きすぎると、カップリングラインを伝搬するfTHzの高周波電界の共振特性の劣化や導体ロスのよる放射効率の低下が生じる。このため、ビア114の幅は、共振電界に干渉しない程度の寸法が好ましく、典型的には、λ/10以下が好適である。
【0061】
半導体素子100では、第1の誘電体層1041、第2の誘電体層1042、第3の誘電体層1043の3層の誘電体層を、誘電体層104として用いている。第3の誘電体層1043は、シャント素子130の容量Ccの誘電体に用いられるので、MIM容量構造の小型化のために比較的誘電率の高い窒化シリコン(εr3=7)が用いられている。εr3は、第3の誘電体層1043の比誘電率である。本実施形態のように誘電体層104が3層構成の場合には、実効的な比誘電率は、第3の誘電体層1043の厚さと比誘電率も加味して決定される。
【0062】
[従来の半導体素子との比較に関する説明]
図3は、本実施形態に係る半導体素子100のインピーダンスと、シャント素子130を有しない従来の半導体素子のインピーダンスとの解析の結果の比較を示す。解析には、ANSYS社製の有限要素法高周波電磁界ソルバーであるHFSSを用いている。ここで、インピーダンスZは、アンテナ100aの全構造のアドミタンスであるY
aaの逆数に相当する。また、Z_w/_shuntは、本実施形態のようにシャント素子130を有する場合のインピーダンスZである。Z_w/o_shuntは、従来のようにシャント素子130を有しない場合のインピーダンスZである。また、ReおよびImは、それぞれ実部および虚部を表し、虚部のインピーダンスが0である周波数において共振が生じる。
【0063】
図3に示すように、従来構造のインピーダンスでは、マルチピークが発生しており、0.42THz付近および0.52THz付近の2つの周波数帯において共振モードが生じる可能性がある。一方で、本実施形態に係る半導体素子100のインピーダンスは所望の共振周波数であるf
THz=0.48THzに単一のピークがあるのみで、マルチモードが抑制されている。また、本実施形態に係る半導体素子100では、シャント素子130によって、
図3に示すグラフの範囲外の低い周波数帯(0.1THz以下)における共振の発生の抑制効果がある。
【0064】
半導体素子100では、カップリングライン109に、RTDと並列なシャント素子130を配置している。このことによって、比較的高い周波数(典型的には10GHzから1000GHz)の周波数帯におけるマルチモード共振を抑制し、所望のテラヘルツ波の動作周波数fTHzの共振のみを選択的に安定化させることができる。また、本実施形態に係る半導体素子100では、アンテナ間を抵抗によって直列に接続する構成に比べて、構造由来のインピーダンス変化が発生しにくく、位相や周波数のばらつきが生じにくい。
【0065】
従って、本実施形態によれば、アンテナアレイにおけるアンテナ数を増加させても、テラヘルツ波の動作周波数fTHzにおける単一モード動作を行うことができる。このため、並べられるアンテナ数の上限が多くでき、アレイ数の増加に伴う指向性や正面強度の大きな改善効果を期待することができる。従って、本実施形態によれば、効率のよいテラヘルツ波の発生または検出が実現できる半導体素子を提供することができる。
【0066】
なお、シャント素子は、
図1(a)に示す抵抗R
cと容量C
cを有するものには限られない。例えば、
図1(b)に示すように、シャント素子130を、半導体102a,102bと並列に接続された抵抗R
cのみから構成してもよい。
【0067】
<変形例1>
以下にて、変形例1に係る半導体素子200を説明する。
図4(a)~
図4(c)は、変形例1に係る半導体素子200を示す。半導体素子200は、2つのアンテナ200a,200bがH面結合(H-Plane Coupled)されたアンテナアレイを有する。半導体素子200は、アンテナ間をAC結合(容量結合)によって結合した構成のアンテナアレイを有する。アンテナ200a,200bの構成および構造において、半導体素子100におけるアンテナ100a,100bと同様である部分については詳細な説明を省略する。
【0068】
カップリングライン209は、
図4(b)に示すように、第3の導体層210と第1の導体層206とによって、誘電体層204および第4の誘電体層2044を挟んだマイクロストリップラインから構成される。誘電体層204は、第1の誘電体層2041、第2の誘電体層2042、第3の誘電体層2043から構成される。第2の導体層203a,203bは、第3の導体層210と第1の導体層206の間の層に形成されている。アンテナ200aとアンテナ200bとを結合するカップリングライン209の上導体である第3の導体層210は、積層方向から見ると(平面視において)、第2の導体層203a,203bと放射端付近で長さx=5μmだけ重なっている。この重なっている部分では、第2の導体層203a,203b、第4の誘電体層2044、第3の導体層210の順に積層されている。このため、第2の導体層203a,203bと第3の導体層210が第4の誘電体層2044を挟む、金属-絶縁体-金属(MIM)の容量構造が形成されている。ここで、第2の導体層203aと第2の導体層203bとの間はDCにおいてオープンであり、共振周波数f
THzより下の低周波領域において、結合の大きさは小さいので素子間アイソレーションが確保される。一方、共振周波数f
THzの帯域における、アンテナ間の結合の大きさは容量によって調整することができる。
【0069】
半導体素子200では、シャント素子2301,2302がカップリングライン209に接続されている。シャント素子2301,2302は、ビア2141,2142を介してカップリングライン209と接続されている。ビア2141,2142は、カップリングライン209を定在する共振周波数fTHzの高周波電界の節において、第3の導体層210と接続される。これにより、テラヘルツ波の共振周波数fTHz以外の周波数において短絡できるので、マルチモード共振の発生が抑制される。
【0070】
カップリングライン209の第3の導体層210と、第1の誘電体層2041の上に積層された抵抗体層2191,2192とは、第4の誘電体層2044内に形成されたビア2141,2142を介して接続される。また、抵抗体層2191,2192は、第1の誘電体層2041内に形成されたビア2071,2072を介して、第3の誘電体層2043の上に積層された第4の導体層2181,2182と接続される。
【0071】
第4の導体層2181,2182と第1の導体層206とによって、第3の誘電体層2043を挟んだMIM容量構造が形成されている。このようなAC結合の構造はアンテナ
間の結合を弱めることができるので、アンテナ間の伝送ロスの抑制にもつながり、アンテナアレイの放射効率向上が期待される。なお、比較的厚さのある第1の誘電体層2041の内部にビア2071,2072を形成するため、ビア2071,2072の幅が大きくされてしまうことがある。しかし、本変形例のように、カップリングライン209から離れた場所にビア2071,2072を配置する構成では、ビア2071,2072の幅が大きくても(典型的にはλ/10以上)、アンテナの共振電界との干渉が抑制される。このため、アンテナ利得の改善が期待できる。
【0072】
<変形例2>
以下にて、
図1(b)が示すシャント素子が抵抗のみから構成される具体例である、変形例2に係る半導体素子300について説明する。
図5(a)~
図5(c)は、変形例2に係る半導体素子300を示す。半導体素子300は、接地導体である第1の導体層306とパッチ導体である第2の導体層303a,303bとの間に配置したカップリングライン309(マイクロストリップライン)によって隣接するアンテナ間を接続したアンテナアレイを有する。アンテナ300a,300bの構成および構造において、半導体素子100におけるアンテナ100a,100bと同様である部分については詳細な説明を省略する。
【0073】
カップリングライン309は、上導体である第3の導体層310と、接地導体である第1の導体層306とで、第2の誘電体層3042を挟んだ構造のマイクロストリップラインであり、共振器を兼ねている。アンテナ300aは、第1の導体層306と第2の導体層303aとから構成されるパッチアンテナと、カップリングライン309のアンテナ300a側の片側半分とから構成された複合共振器にRTD301aが集積された構造である。カップリングライン309において、アンテナの共振方向に垂直な方向(すなわちA-A’方向)が長手方向である。
【0074】
カップリングライン309の長さとパッチアンテナのサイズが、アンテナ300a,300bのそれぞれが発振する電磁波の周波数を決定する重要なパラメータである。具体的には、アンテナ300aの共振周波数fTHzは、第2の導体層303aの長さと、第3の導体層310のA-A’方向における長さとから決定することができる。例えば、第3の導体層310のA-A’方向における長さの半分を所望の共振周波数の実効波長の整数倍にし、第2の導体層303aの長さを所望の共振周波数の実効波長の1/2にするとよい。
【0075】
バイアス回路Va,Vbは、第1の誘電体層3041の上に積層された導体層からなる線路308a,308bに接続されている。第3の導体層310は、ビア317aと接続されている。ビア317aは、第2の導体層303aとRTD301aの間を接続する。
【0076】
隣接するアンテナ間は、カップリングライン309によりDC結合で結合される。例えば、アンテナ300aとアンテナ300bの場合、カップリングライン309の上導体である第3の導体層310によって直接接続される。各アンテナ間の同期による引き込みを強くするためには、カップリングラインに定在する電磁波(共振周波数fTHz)の電界の最大点にRTD301a,301bを設置することが好ましい。
【0077】
半導体素子300には、カップリングライン309に4つのシャント素子3301~3304が配置されており、
図1(b)に示した抵抗R
cのみの等価回路の具体的な構成例である。例えば、
図5(c)に示したシャント素子3302の断面のように、カップリングライン309を構成する第3の導体層310は、抵抗体319a2を介して、第2の誘電体層3042の上に積層された導体層312a2に接続される。また、導体層312a2は、第2の誘電体層3042の内部に形成されたビア307a2を介して、接地導体で
ある第1の導体層306と接続される。本変形例では、容量構造の集積が必要ないシンプルな構造であるため、製造工数の削減ができる。
【0078】
<実施例1>
実施例1として、実施形態1に係る半導体素子100の具体的な構成について、
図2(a)~
図2(c)を用いて説明する。半導体素子100は、0.45~0.50THzの周波数帯域で単一モード発振が可能な半導体デバイスである。
【0079】
RTD101a,101bは、InPからなる基板113上に格子整合したInGaAs/AlAsによる多重量子井戸構造から構成され、本実施例では、二重障壁構造のRTDを用いている。当該RTDの半導体ヘテロ構造は、J Infrared Milli
Terahz Waves (2014) 35:425-431(非特許文献4)に開示された構造である。RTD101a,101bの電流電圧特性では、測定値で、ピーク電流密度が9mA/μm2であり、単位面積当たりの微分負性コンダクタンスが10mS/μm2である。
【0080】
アンテナ100aには、RTD101aを含む半導体層115aとオーミック電極である電極116aとから構成されるメサ構造が形成されている。本実施例では、直径2μmの円状のメサ構造が形成されている。このとき、RTD101aの微分負性抵抗の大きさは、ダイオード1個当たり約-30Ωである。この場合、RTD101aを含む半導体層115aの微分負性コンダクタンス(GRTD)は約30mSと見積もられ、RTD101aのダイオード容量(CRTD)は約10fFと見積もられる。
【0081】
アンテナ100aは、パッチ導体である第2の導体層103aと、接地導体である第1の導体層106とによって、誘電体層104を挟んだ構造のパッチアンテナである。アンテナ100aには、RTD101aを内部に含む半導体層115aが集積されている。アンテナ100aは、第2の導体層103aの一辺が150μmの正方形パッチアンテナであり、アンテナの共振器長Lは150μmである。第2の導体層103aと第1の導体層106には、抵抗率の低いAu薄膜を主体とした金属層を用いている。
【0082】
誘電体層104は、第2の導体層103aと第1の導体層106との間に配置されている。誘電体層104は、第1の誘電体層1041と第2の誘電体層1042と第3の誘電体層1043との3層によって構成される。第1の誘電体層1041は、5μm厚のBCB(ベンゾシクロブテン、ダウケミカル社製、εr1=2)から構成される。第2の誘電体層1042は、2μm厚のSiO2(プラズマCVD、εr2=4)から構成される。第3の誘電体層1043は、0.1μm厚のSiNx(プラズマCVD、εr3=7)から構成される。つまり、本実施例では、誘電体層104が含む3つの誘電体層は、それぞれ異なる材料によって構成されている。
【0083】
第1の導体層106は、Ti/Pd/Au層(20/20/200nm)と、電子濃度が1×1018cm-3以上のn+-InGaAs層(100nm)からなる半導体とから構成されている。第1の導体層106において、金属と半導体は、低抵抗なオーミック接触で接続されている。
【0084】
電極116aは、Ti/Pd/Au層(20/20/200nm)からなるオーミック電極である。電極116aは、半導体層115aに形成された電子濃度が1×1018cm-3以上のn+-InGaAs層(100nm)からなる半導体と、低抵抗なオーミック接触で接続されている。
【0085】
RTD101aの周囲の積層方向の構造は、基板113側から順に、基板113、第1
の導体層106、RTD101aを含む半導体層115a、電極116a、導体117a、第2の導体層103aの順に積層されており、互いに電気的に接続されている。導体117aは、Cu(銅)を含む導体から構成されている。
【0086】
RTD101aは、第2の導体層103aの重心から共振方向(A-A’方向)に40%(60μm)シフトした位置に配置されている。ここで、アンテナ100aにおけるRTD101aの位置により、RTDからパッチアンテナに高周波を給電する際の入力インピーダンスが決定される。第2の導体層103aは、線路108a1,108a2に接続される。
【0087】
線路108a1,108a2は、第1の誘電体層1041上に積層されたTi/Au(=5/300nm)を含む金属層から形成されており、バイアス回路Va,Vbに接続される。アンテナ100aは、RTD101aの負性抵抗領域にバイアスを設定することで、周波数fTHz=0.48THzにおいて0.2mWのパワーの発振が得られるように設計されている。線路108a1,108a2は、共振方向(=A-A’方向)における長さが75μmであり幅が10μmであるTi/Au(=5/300nm)を含む金属層のパターンから構成される。線路108a1,108a2は、第2の導体層103aの共振方向(=A-A’方向)における中心でありB-B’方向における端にて、第2の導体層103aと接続されている。接続位置は、アンテナ100aに定在するfTHzのテラヘルツ波の電界の節に相当する。
【0088】
半導体素子100は、2つのアンテナ100aとアンテナ100bが、放射される電磁波の電界方向(=E面方向)に並べられ、互いに結合したアンテナアレイを有する。各アンテナは、周波数fTHzのテラヘルツ波を単体で発振する設計であり、A-A’方向に340μmピッチで配置されている。隣接するアンテナ間は、Ti/Au(=5/300nm)から構成された第3の導体層110を含むカップリングライン109によって相互に結合されている。より詳細には、第2の導体層103aと第2の導体層103bとが、幅5μmであり長さ190μmである第3の導体層110によって接続されている。アンテナ100aとアンテナ100bは、共振周波数fTHz=0.48THzにおいて互いに位相がそろった状態(正位相)で、相互注入同期されて発振する。
【0089】
半導体素子100は、カップリングライン109の中心にシャント素子130が配置されている。シャント素子130とカップリングライン109とは、ビア114を介して接続されている。具体的には、カップリングライン109の第3の導体層110と、Ti/Au(=5/300nm)から構成された導体層111とが、第1の誘電体層1041内にCuで形成されたビア114を介して接続される。
【0090】
ビア114は、直径10μmであり、高さ5μmの円柱構造である。導体層111は、抵抗率0.7Ω・μmのW-Ti(0.2μm厚)で形成された抵抗体層1191,1192と接続される。このとき、抵抗体層1191,1192は、それぞれ20Ωであるように設計されており、幅4μmかつ長さ20μmのパターンに加工されている。
【0091】
抵抗体層1191,1192は、導体層1121,1122とビア1071,1072とを介して、第4の導体層1181,1182に接続される。導体層1121,1122および第4の導体層1181,1182は、Ti/Au(=5/300nm)から構成されている。ビア1071,1072は、Cuから形成されている。ビア1071,1072は、直径10μmφであり、高さ2μmである円柱構造である。
【0092】
第4の導体層1181,1182と第1の導体層106とによって第3の誘電体層1043を挟んだMIM容量構造と、抵抗体層1191,1192により、抵抗Rcと容量C
cが直列接続されたシャント素子130が形成されている。
【0093】
第3の誘電体層1043は、0.1μm厚の窒化シリコン(εr3=7)から構成される。第4の導体層1181,1182は、幅50μmであり長さ60μmである長方形パターンに加工されており、MIM構造1つあたり2pFの容量が形成されている。半導体素子100のように、カップリングライン109にシャント素子130を接続することによって、比較的高い周波数の周波数帯におけるマルチモード共振が抑制され、所望のテラヘルツ波の動作周波数fTHzのみを安定的に選択することができる。ここで、比較的高い周波数の周波数帯とは、典型的には10GHzから1000GHzである。
【0094】
半導体素子100への電力の供給はバイアス回路Va,Vbから行われ、通常は微分負性抵抗領域のバイアス電圧を印加してバイアス電流を供給する。本実施例で開示した半導体素子100の場合、負性抵抗領域における発振動作により、周波数0.48THzにおいて、0.4mWのテラヘルツ電磁波の放射が得られる。
【0095】
このように、本実施例によれば、電磁波の損失を従来よりも低減し、テラヘルツ波をより高効率に発振または検出できる。
【0096】
[半導体素子の製造方法]
次に、本実施例の半導体素子100の製造方法について説明する。半導体素子100は、以下のように製造(作製)される。
(1)InPの基板113上に、InGaAs/AlAs系の半導体多層膜構造がエピタキシャル成長されて、RTD101a,101bを含む半導体層115a,115bが形成される。エピタキシャル成長には、分子ビームエピタキシー(MBE)法や有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法が用いられる。
(2)半導体層115a,115bの上に、Ti/Pd/Au層(20/20/200nm)がスパッタリング法により成膜されることによって、電極116a,116bに形成される。
(3)電極116a,116bと半導体層115a,115bが、直径2μmの円形のメサ形状に成形されることによってメサ構造が形成される。ここで、メサ形状の形成にはフォトリソグラフィーとICP(誘導性結合プラズマ)によるドライエッチングが用いられる。
【0097】
(4)エッチングされた面にリフトオフ法によって基板113上に第1の電極106が形成された後に、プラズマCVD法により厚さ0.1μmの窒化シリコンが成膜されることによって、第3の誘電体層1043が形成される。
(5)第3の誘電体層1043の上に、第4の導体層1181,1182を構成するTi/Au層(=5/300nm)が形成される。これによって、第4の導体層1181,1182と、第1の導体層106とによって、第3の誘電体層1043を挟むような容量Ccが形成される。
(6)プラズマCVD法により、厚さ2μmの酸化シリコンが成膜されることによって、第2の誘電体層1042が形成される。
【0098】
(7)第2の誘電体層1042がドライエッチングされてビアホールが形成される。ビアホールが形成されると、スパッタリング法や電気めっき法や化学的機械研磨法を用いて、Cuによるビアホール埋め込みと平坦化が実施されて、ビア1071,1072が形成される。
(8)スパッタリング法およびドライエッチングを用いて、第2の誘電体層1042の上にW-Ti(0.2μm厚)の抵抗体層1191,1192が形成される。これによって、容量Ccと抵抗Rcが直列に接続されたシャント素子130が形成される。
(9)スパッタリング法およびドライエッチングを用いて、第2の誘電体層1042の上にTi/Au層(=5/300nm)の導体層111,1121,1122が形成される。
【0099】
(10)スピンコート法とドライエッチング法を用いて、BCBによる埋め込みおよび平坦化が行われて、厚さ5μmの第1の誘電体層1041が形成される。
(11)フォトリソグラフィーとドライエッチングにより導体117a,117b、ビア114を形成する部分のBCBおよび酸化シリコンが除去されて、ビアホールが形成される。
(12)ビアホール内にCuを含む導体が埋め込まれて、導体117a,117b、ビア114が形成される。導体117a,117b、ビア114の形成には、スパッタリング法、電気めっき法、化学的機械研磨法が用いられて、Cuによるビアホール埋め込みと平坦化が実施される。
【0100】
(13)電極Ti/Au層(=5/300nm)がスパッタリング法により成膜されて、第2の導体層103a,103bと第3の導体層110が形成される。
(14)フォトリソグラフィーとICP(誘導性結合プラズマ)によるドライエッチングによって、第2の導体層103a,103bと第3の導体層110のパターニングが行われる。これによって、カップリングライン109が形成される。
(15)チップ内にシャント抵抗121やMIM容量124が形成されて、シャント抵抗121やMIM容量124が、ワイヤーボンディングなどによって配線122および電源123と接続される。以上によって、半導体素子100が完成する。
【0101】
以上、本発明の好ましい実施形態および実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態および実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、上述の実施形態および実施例では、キャリアが電子である場合を想定して説明しているが、これに限定されるものではなく、正孔(ホール)を用いているものであってもよい。また、基板や誘電体の材料は用途に応じて選定すればよく、シリコン、ガリウムヒ素、インジウムヒ素、ガリウムリンなどの半導体や、ガラス、セラミック、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタラートなどの樹脂を用いることができる。なお、各実施形態および実施例における上述の構造と材料は、所望の周波数などに応じて適宜選定すればよい。
【0102】
さらに、上述の実施形態および実施例では、テラヘルツ波の共振器として正方形パッチアンテナを用いている。しかし、共振器の形状はこれに限られたものではなく、例えば、矩形および三角形などの多角形、円形、楕円形などのパッチ導体を用いている構造の共振器などを用いてもよい。
【0103】
また、半導体素子に集積する微分負性抵抗素子の数は、1つに限るものではなく、微分負性抵抗素子を複数有する共振器としてもよい。線路の数も1つに限定されず、複数の線路を設ける構成でもよい。
【0104】
また、上記では、RTDとして、InP基板上に成長したInGaAs/AlAsからなる2重障壁RTDについて説明してきた。しかし、これらの構造や材料系に限られることなく、他の構造や材料の組み合わせであってもよい。例えば、3重障壁量子井戸構造を有するRTDや、4重以上の多重障壁量子井戸構造を有するRTDを用いてもよい。
【0105】
また、RTDの材料として、以下の組み合わせのそれぞれを用いてもよい。
・GaAs基板上に形成したGaAs/AlGaAs/およびGaAs/AlAs、InGaAs/GaAs/AlAs
・InP基板上に形成したInGaAs/InAlAs、InGaAs/AlAs、InGaAs/AlGaAsSb
・InAs基板上に形成したInAs/AlAsSbおよびInAs/AlSb
・Si基板上に形成したSiGe/SiGe
【符号の説明】
【0106】
100:半導体素子、100a,100b:アンテナ、109:カップリングライン
115a,115b:半導体層、130:シャント素子