(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】試料支持体
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20241118BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
G01N27/62 F
H01J49/04 090
(21)【出願番号】P 2023201583
(22)【出願日】2023-11-29
【審査請求日】2024-10-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴将
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-119236(JP,A)
【文献】特開2023-119237(JP,A)
【文献】特開2020-159805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/00 - H01J 49/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイオン化用の試料支持体であって、
第1表面と、前記第1表面とは反対側の第2表面と、前記第1表面の縁部と前記第2表面の縁部とを接続する側面と、少なくとも前記第1表面及び前記側面に開口するように分布する空隙と、を有する多孔質基板を備え、
前記多孔質基板は、互いに連結された複数の粒子によって形成されており、
前記複数の粒子のうち前記側面を構成する複数の側面粒子の少なくとも一部の外面は、凹凸構造が形成された粗面とされている、試料支持体。
【請求項2】
前記複数の側面粒子の少なくとも一部は、前記粗面とは反対側において前記凹凸構造が形成されていない非粗面を有する、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記複数の側面粒子の少なくとも一部は、エネルギー線が照射されたことに応じてイオンを放出する物質によって形成されている、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記複数の側面粒子の少なくとも一部の前記粗面上には、エネルギー線が照射されたことに応じてイオンを放出する物質が配置されている、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記多孔質基板の表面に設けられた導電層を更に備え、
前記導電層は、前記第1表面における前記空隙の開口を塞がないように前記第1表面上に設けられた第1導電領域と、前記第1導電領域と接続されると共に前記側面における前記空隙の開口を塞がないように前記側面上に設けられた第2導電領域と、を含み、
前記第2導電領域は、前記複数の側面粒子の少なくとも一部の前記粗面上において、前記凹凸構造の表面形状に沿って設けられている、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項6】
前記第2導電領域における前記導電層の厚さは、前記第1導電領域における前記導電層の厚さよりも小さい、請求項5に記載の試料支持体。
【請求項7】
前記第1表面は、矩形状を有し、
前記第1表面の四隅に対応する部分には、前記導電層が設けられていない、請求項5に記載の試料支持体。
【請求項8】
前記側面は、前記第1表面から前記第2表面に向かうにつれて外側に広がるように傾斜する傾斜領域を含んでいる、請求項1に記載の試料支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
試料のイオン化に用いられる試料支持体として、主面及び側面を含む多孔質基板を備えた試料支持体が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような試料支持体の多孔質基板は、不規則に分布し且つ主面に開口する空隙を含んでいる。上記試料支持体によれば、多孔質基板の主面上に留まる試料の量を適切に調整し、試料の成分を好適にイオン化することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような試料支持体においては、試料の分析の高精度化が求められていると共に、分析作業時における試料支持体の使いやすさ(ハンドリング性)が求められている。
【0005】
本開示は、分析の高精度化を図ると共にハンドリング性を向上させることができる試料支持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、[1]~[8]の試料支持体を含む。
【0007】
[1]試料のイオン化用の試料支持体であって、
第1表面と、前記第1表面とは反対側の第2表面と、前記第1表面の縁部と前記第2表面の縁部とを接続する側面と、少なくとも前記第1表面及び前記側面に開口するように分布する空隙と、を有する多孔質基板を備え、
前記多孔質基板は、互いに連結された複数の粒子によって形成されており、
前記複数の粒子のうち前記側面を構成する複数の側面粒子の少なくとも一部の外面は、凹凸構造が形成された粗面とされている、試料支持体。
【0008】
上記[1]の試料支持体では、多孔質基板は、第1表面に開口する空隙を含んでいる。これにより、多孔質基板の第1表面に対して試料が導入されると、試料が多孔質基板の空隙内に適度に拡散し、第1表面上に留まる試料の量が適切に調整される。その結果、第1表面上に留まる試料を好適にイオン化することができる。また、多孔質基板の空隙は、側面にも開口している。これにより、例えば、試料支持体の第1表面に試料が転写された試料支持体を真空装置に導入した際等に、多孔質基板のガス抜き(すなわち、空隙内に溜まったガスの側面からの排出)を好適に行うことができる。また、第1表面の全面に試料を転写する際にも、第1表面から基板の内部に導入されたガスを側面の開口から逃すことができるため、多孔質基板の内部に余計なガス(残留ガス)が溜まることを抑制でき、ひいては当該残留ガスに起因する転写ムラの発生を抑制することができる。さらに、多孔質基板の側面の少なくとも一部の外面は、凹凸構造が形成された粗面とされている。これにより、例えば、作業者が多孔質基板の側面を指で保持する際や、試料支持体を支持するための器具を用いて多孔質基板の側面を保持する際等において、当該粗面が滑り止めの機能を発揮するため、試料支持体のハンドリング性を向上させることができる。以上により、上記試料支持体によれば、分析の高精度化を図ると共にハンドリング性を向上させることができる。
【0009】
[2]前記複数の側面粒子の少なくとも一部は、前記粗面とは反対側において前記凹凸構造が形成されていない非粗面を有する、[1]の試料支持体。
【0010】
上記[2]の試料支持体によれば、側面粒子の内側面を非粗面とすることにより、側面粒子と当該側面粒子の内側に位置する粒子との結合強度を十分に確保し、側面粒子のこぼれ落ち等を抑制できる。また、側面粒子の内側に凹凸構造を設けないことにより、側面粒子の内側にも凹凸構造が形成される場合と比較して、側面粒子の内側におけるガスの流通(例えば、上述した残留ガスの流通)の円滑化を図ることができ、ひいては側面の開口からのガス抜きを好適に行うことができる。
【0011】
[3]前記複数の側面粒子の少なくとも一部は、エネルギー線が照射されたことに応じてイオンを放出する物質によって形成されている、[1]又は[2]の試料支持体。
【0012】
[4]前記複数の側面粒子の少なくとも一部の前記粗面上には、エネルギー線が照射されたことに応じてイオンを放出する物質が配置されている、[1]~[3]のいずれかの試料支持体。
【0013】
上記[3]又は[4]の試料支持体によれば、試料支持体の第1表面に対してエネルギー線を照射し、第1表面上に存在する試料の成分(分子)をイオン化し、イオン化された成分の空間分布を二次元的に可視化する質量分析イメージング(MSI)を行うことにより得られるイメージング結果(以下、「MSI画像」という。)において、多孔質基板の側面に対応する部分(すなわち、試料支持体の外縁)を明瞭化することができる。より具体的には、粗面には凹凸構造(エッジ構造)が設けられているため、エネルギー線のエネルギーが粗面のエッジ部分に吸収され易い。これにより、当該エッジ部分にある物質の成分が好適にイオン化されて脱離し易くなる結果、MSI画像において、試料支持体の外縁に対応する箇所を容易且つ精度良く認識することが可能となる。さらに上記[4]の試料支持体においては、エッジ部分の表面でのイオン化がより好適に行われるため、MSI画像において、試料支持体の外縁に対応する箇所をより容易且つ精度良く認識することが可能となる。
【0014】
[5]前記多孔質基板の表面に設けられた導電層を更に備え、
前記導電層は、前記第1表面における前記空隙の開口を塞がないように前記第1表面上に設けられた第1導電領域と、前記第1導電領域と接続されると共に前記側面における前記空隙の開口を塞がないように前記側面上に設けられた第2導電領域と、を含み、
前記第2導電領域は、前記複数の側面粒子の少なくとも一部の前記粗面上において、前記凹凸構造の表面形状に沿って設けられている、[1]~[4]のいずれかの試料支持体。
【0015】
エネルギー線の照射(例えば、レーザ脱離イオン化法等)によって第1表面上に留まった試料の成分をイオン化する際には、第1表面上の導電層(第1導電領域)に電圧を印加する必要がある。第1導電領域に安定的に電圧を印加するためには、側面にも電圧を印加することが好ましく、側面上に第2導電領域を設けることが好ましい。そして、第2導電領域が、複数の側面粒子の少なくとも一部の粗面上において、凹凸構造の表面形状に沿って設けられていることで、上記[4]と同様の効果を得ることができる。
【0016】
[6]前記第2導電領域における前記導電層の厚さは、前記第1導電領域における前記導電層の厚さよりも小さい、[5]の試料支持体。
【0017】
上記[6]の試料支持体によれば、第1表面上の第1導電領域については一定の厚さを確保することにより、分析時において第1表面に安定的に電圧を印加することができる。一方、側面上の第2導電領域については、導電層の厚みを小さくすることにより、上記[4]と同様の効果をより一層好適に得ることができる。
【0018】
[7]前記第1表面は、矩形状を有し、
前記第1表面の四隅に対応する部分には、前記導電層が設けられていない、[5]又は[6]の試料支持体。
【0019】
上記[7]の試料支持体によれば、第1表面の四隅に対応する部分に導電層を設けないことにより、第1表面において導電層が設けられた部分と第1表面の四隅に対応する部分とを視覚的に区別することが容易となる。これにより、試料支持体を質量分析装置のステージ上に載置した状態でステージの位置合わせを行う際等において、第1表面の四隅に対応する部分を目印として用いることにより、位置合わせを容易化することができる。
【0020】
[8]前記側面は、前記第1表面から前記第2表面に向かうにつれて外側に広がるように傾斜する傾斜領域を含んでいる、[1]~[7]のいずれかの試料支持体。
【0021】
上記[8]の試料支持体によれば、分析時において試料支持体を試料台等の上に載置した際の試料支持体の安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、分析の高精度化を図ると共にハンドリング性を向上させることができる試料支持体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】
図1に示されるII-II線に沿った試料支持体の断面図である。
【
図3】
図1に示される多孔質基板の第1表面側の多孔質構造の一部を示す模式図である。
【
図4】
図1に示される多孔質基板の側面側の多孔質構造の一部を示す模式図である。
【
図7】一実施形態の質量分析方法の第3工程の一部を示す図である。
【
図8】一実施形態の質量分析方法を実施する質量分析装置の構成図である。
【
図9】
図1に示される試料支持体の効果を説明するための模式図である。
【
図10】比較例(左部)及び実施例(右部)の境界部のMSI画像及びカメラ画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面においては、実施形態に係る特徴部分を分かり易く説明するために誇張している部分がある。このため、図面における各部の寸法比率は、実際の寸法比率とは異なる場合がある。
【0025】
[試料支持体]
図1~
図4に示される試料支持体1は、試料のイオン化に用いられる。試料は、例えば、液体成分を含んだものであり、具体例としては生体試料、果物(例えば、イチゴ等)の切片等が挙げられる。試料支持体1は、基板(多孔質基板)2と、導電層3と、を備えている。
【0026】
基板2は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、第1表面2aの縁部と第2表面2bの縁部とを接続する側面2cと、を有している。一例として、基板2は、矩形板状に形成されている。基板2の厚さ(第1表面2aから第2表面2bまでの距離)は、例えば100μm~1500μm程度である。本明細書及び図面において、便宜上、基板2の厚さ方向(すなわち、第1表面2aと第2表面2bとが対向する方向)をZ軸方向と表し、Z軸方向に直交する一の方向(基板2の長手方向)をX軸方向と表し、Z軸方向及びX軸方向に直交する方向(基板2の短手方向)をY軸方向と表す。
【0027】
第1表面2aは、分析対象の試料S(
図7及び
図8参照)が配置(転写)される面である。第2表面2bは、所定の試料台(一例として、
図7及び
図8に示す支持基板8)に載置される面である。
図2に示されるように、側面2cは、第1表面2aから第2表面2bに向かうにつれて外側に広がるように傾斜する傾斜領域を含んでいる。本実施形態では、側面2cの全体が上記のようなテーパー状に傾斜する傾斜領域とされている。
【0028】
図3及び
図4に示されるように、基板2は、少なくとも第1表面2a及び側面2cに開口するように分布する空隙2dを含んでいる。すなわち、第1表面2aと側面2cとは、基板2の内部の空隙2dを介して連通している。空隙2dは、例えば、第1表面2a又は側面2cの1つの入口(開口)から基板2内に入って複数の経路に枝分かれするような構造、或いは、第1表面2a又は側面2cの複数の入口(開口)から基板2内に入って1つの経路に合流するような構造を有している。本実施形態では、空隙2dは、基板2内において不規則に分布している。すなわち、空隙2dは、特定の一方向に沿って延びる複数の細孔によって構成された規則的な構造とは異なる構造を有している。一例として、基板2は、互いに連結された複数の粒子20によって形成されており、上記空隙2dは、互いに隣り合う粒子20同士の間の空間によって形成されている。
【0029】
基板2の例として、複数の粒子20同士が接合又は接着された構造が挙げられる。例えば、複数の粒子20は、互いに接触して連結された状態が維持されるように、融着によって互いに接合されている。粒子20の径は、例えば、数十μm程度である。各粒子20の形状又は大きさ(直径)には、若干のばらつきがあってもよい。本実施形態では、粒子20は、絶縁性材料によって形成されている。一例として、粒子20は、ガラス、セラミック等によって形成されている。複数の粒子20が融着により接合された構造を製造し易くする観点から、粒子20の材料として、ガラスの中でも比較的融点が低いソーダガラスが使用されてもよい。また、粒子20は略球状に形成されている。このような略球状の粒子20の例としては、ガラスビーズ等が挙げられる。
【0030】
図3及び
図5に示されるように、第1表面2aは、複数の粒子20のうちZ軸方向における一方側の最外層に位置する複数の粒子20Aの当該一方側の表面21によって構成されている。なお、
図5は、導電層3が設けられる前の状態の基板2の第1表面2a(
図1に示されるような一部の領域A)のSEM像である。本実施形態では、第1表面2aを構成する粒子20Aの表面21は、後述する側面粒子20Bの外面(粗面21a)とは異なり、滑らかな面(非粗面)とされている。
【0031】
図4及び
図6に示されるように、側面2cは、複数の粒子20のうちX軸方向又はY軸方向における最外層に位置する複数の側面粒子20Bの外面(Z軸方向から見た場合に外側を向く面)によって構成されている。複数の側面粒子20BのうちZ軸方向における上記一方側の最外層に位置する粒子は、上述した粒子20Aにも該当する。なお、
図6は、導電層3が設けられる前の状態の基板2の側面2c(
図1に示されるような一部の領域B)のSEM像である。複数の側面粒子20Bの少なくとも一部の外面は、微細な凹凸構造4を含む粗面21aとされている。例えば、凹凸構造4は、外側に突出する(尖った)複数の凸部4aと、内側に窪んだ複数の凹部4bと、によって構成され得る。複数の凸部4a及び複数の凹部4bは、規則的に形成されてもよいし、不規則的に形成されてもよい。なお、本実施形態における凹凸構造4とは、1つの粒子20自身に形成された構造であり、複数の粒子20が隣り合って配置されることで生じる凹凸構造(例えば、互いに隣り合う粒子20間の溝部を凹部と見做した凹凸構造)ではない。
【0032】
粗面21aは、側面粒子20Bの外面を荒らすための種々の公知の粗面化処理によって形成され得る。粗面化処理の例としては、サンドブラスト処理、レーザ加工処理、エッチング(ドライエッチング)、型を用いた成形処理等が挙げられる。なお、一例として、基板2は、複数の粒子20の集合体によって形成されたベース基板(Z軸方向から見た場合に基板2よりも大きい面積を有する多孔質基板)を切断することによって形成され得るが、粗面21aは、ブレードダイシング、ウォータージェット加工、レーザカット等の切断方法を用いてベース基板を切断する切断工程に伴って形成されてもよい。上述したベース基板は、例えば、複数の粒子20の焼結体である。一例として、複数の粒子20をプレス機等によって押し固めた状態で、粒子20の融点以下の高温下で加熱することにより、複数の粒子20同士の表面が融着し、複数の粒子20からなる焼結体(ベース基板)が得られる。本実施形態では、粒子20は絶縁性材料によって形成されているため、ベース基板は絶縁性を有する。
【0033】
図4に示されるように、側面粒子20Bは、粗面21aとは反対側において凹凸構造4が形成されていない非粗面21bを有している。すなわち、側面粒子20Bの外側面は上述したような粗面21aとされているが、側面粒子20Bの内側面は、第1表面2aを構成する粒子20Aの表面21と同様の滑らかな面(非粗面21b)とされている。
【0034】
導電層3は、基板2の表面に設けられている。
図1及び
図2に示されるように、本実施形態では、導電層3は、第1表面2a及び側面2cを覆うように設けられている。つまり、上述したような絶縁性のベース基板から形成された基板2の第1表面2a及び側面2cを導電層3で覆って導電性を持たせることにより、基板2の第1表面2a及び側面2cに特定の電圧を印加可能な構造が実現されている。また、導電層3は、第1表面2aの四隅に対応する部分には設けられていない。すなわち、第1表面2aの四隅には、導電層3が設けられず、基板2の第1表面2a(粒子20Aの表面21)が露出した領域が設けられている。換言すれば、第1表面2aの四隅に対応する部分を除いたほぼ全面が、導電層3に覆われている。また、導電層3に覆われている側面2cが、導電層3に覆われた第1表面2aを包囲するように配置されており、第1表面2a上の導電層3と側面2c上の導電層3とが電気的に接続されている。これにより、第1表面2aのほぼ全面が同電位になると共に、第1表面2aを包囲する側面2cも第1表面2aと同電位になるため、第1表面2aの電位を安定化させることができる。
【0035】
図3に示されるように、導電層3は、第1表面2aにおける空隙2dの開口を塞がないように第1表面2a上に設けられた第1導電領域31を有している。例えば、第1導電領域31は、各粒子20Aの表面21に沿って成膜されることにより、第1表面2aにおける空隙2dの開口を完全に覆わないように設けられている。すなわち、第1導電領域31は、各粒子20Aの第1表面2a上に連続的に形成されつつも、Z軸方向から見た場合に空隙2dを塞がないように設けられている。これにより、第1表面2aに転写された試料Sの一部(例えば、余剰な液体成分)を基板2の内部に浸透させることが可能とされている。
【0036】
図4に示されるように、導電層3は、側面2cにおける空隙2dの開口を塞がないように側面2c上に設けられた第2導電領域32を有している。例えば、第2導電領域32は、各側面粒子20Bの表面(粗面21a)に沿って成膜されることにより、側面2cにおける空隙2dの開口を完全に覆わないように設けられている。すなわち、第2導電領域32は、各側面粒子20Bの表面上に連続的に形成されつつも、X軸方向又はY軸方向から見た場合に空隙2dを塞がないように設けられている。第2導電領域32は、第1導電領域31と接続されている。すなわち、第2導電領域32は、第1導電領域31と連続的に形成されている。第2導電領域32は、複数の側面粒子20Bの粗面21a上において、凹凸構造4の表面形状に沿って設けられている。すなわち、第2導電領域32の厚さは、側面粒子20Bの大きさ(径)に対して非常に薄くされている。これにより、側面粒子20Bの表面に成膜された導電層3の外面の形状は、凹凸構造4の表面形状(凹凸形状)に追従した形状となる。従って、
図4に示されるように、導電層3が成膜された後の状態においても、側面2cの凹凸形状(すなわち、各側面粒子20Bの粗面21aの凹凸形状)が維持される。
【0037】
導電層3は、導電性材料によって形成されている。導電層3の材料としては、分析対象の試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。このような観点から、導電層3の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層3は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層3の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
【0038】
導電層3は、導電性材料によって形成されている。導電層3の材料としては、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。このような観点から、導電層3の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層3は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層3の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
【0039】
[質量分析方法]
試料支持体1を用いた質量分析方法の一例(レーザ脱離イオン化法を用いた方法)について説明する。
図7及び
図8を参照して、質量分析装置の一例(質量分析装置10)を用いた質量分析方法について説明する。まず、試料支持体1が用意される(第1工程)。続いて、基板2の第1表面2aに試料Sが配置(転写)される(第2工程)。試料Sは、例えば果物(イチゴ等)の切片である。例えば、試料Sを基板2の第1表面2aに押し付けることにより、試料S(試料Sの一部)を、第1表面2a上に付着させる。
【0040】
続いて、第1表面2aに試料Sが付着した後に、第1表面2a(導電層3)に電圧を印加しつつ第1表面2aに対してエネルギー線を照射することにより、試料Sの成分(分子)をイオン化する(第3工程)。上述した第3工程は、例えば、
図8に示される質量分析装置10を用いることにより実施され得る。質量分析装置10は、支持部12と、照射部13と、電圧印加部14と、イオン検出部15と、カメラ16と、制御部17と、試料ステージ18と、を備えている。
【0041】
図7及び
図8に示されるように、一例として、試料支持体1は、基板2の第2表面2bが支持基板8の支持面8aに載置された状態で、導電性テープ9を介して支持基板8上に固定される。このように試料支持体1が支持基板8上に固定された状態で、支持基板8が、支持部12上に載置される。
図7に示されるように、一例として、導電性テープ9は、基板2の長手方向(X軸方向)の両側縁部の短手方向(Y軸方向)の中央部に設けられ、第1表面2a上の第1導電領域31の一部、側面2c上の第2導電領域32の一部、及び支持基板8の支持面8aに亘って配置される。これにより、導電層3は、導電性テープ9を介して、支持基板8の支持面8aと電気的に接続される。支持基板8は、例えばスライドグラスである。一例として、支持基板8は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板(ITOスライドグラス)であり、透明導電膜の表面が支持面8aとなっている。すなわち、本実施形態では、支持面8aの全体が導電性を有している。
【0042】
照射部13は、試料支持体1の第1表面2aに対してレーザ光L等のエネルギー線を照射する。電圧印加部14は、試料支持体1の第1表面2aに対して電圧を印加する。イオン検出部15は、イオン化された試料の成分(試料イオンSI)を検出する。カメラ16は、照射部13によるレーザ光Lの照射位置を含むカメラ画像を取得する。カメラ16は、例えば、照射部13に付随する小型のCCDカメラである。制御部17は、試料ステージ18、カメラ16、照射部13、電圧印加部14、及びイオン検出部15の動作を制御する。制御部17は、例えば、プロセッサ(例えば、CPU等)、及びメモリ(例えば、ROM、RAM等)等を備えるコンピュータ装置である。
【0043】
電圧印加部14によって、支持基板8の支持面8aに電圧が印加される。これにより、支持面8a及び導電性テープ9を介して導電層3に電圧が印加される。続いて、制御部17が、カメラ16により取得されたカメラ画像に基づいて、照射部13を動作させる。具体的には、制御部17は、レーザ照射範囲(例えば、カメラ画像に基づいて特定された基板2の全体)に対してレーザ光Lが照射されるように照射部13を動作させる。
【0044】
一例として、制御部17は、試料ステージ18を移動させると共に、照射部13によるレーザ光Lの照射動作(照射タイミング等)を制御する。すなわち、制御部17は、試料ステージ18が所定間隔移動したことを確認した後に、照射部13にレーザ光Lの照射を実行させる。例えば、制御部17は、レーザ照射範囲内をラスタスキャンするように試料ステージ18の移動(走査)と照射部13によるレーザ光Lの照射とを繰り返す。なお、第1表面2aに対する照射位置の変更は、試料ステージ18ではなく照射部13を移動させることによって行われてもよいし、試料ステージ18及び照射部13の両方を移動させることによって行われてもよい。
【0045】
上述した第3工程により、第1表面2a上の試料Sの成分がイオン化され、試料イオンSIが放出される。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層3から、第1表面2a上の試料Sの成分にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した成分が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンSIとなる。放出された試料イオンSIは、試料支持体1とイオン検出部15との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンSIは、電圧が印加された導電層3とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部15によって試料イオンSIが検出される(第4工程)。
【0046】
上述した第1工程~第3工程が、試料支持体1を用いたイオン化法に相当する。また、上述した第1工程~第4工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。また、レーザ光Lの照射位置毎に第4工程において検出された試料イオンSIの強度をマッピングすることにより、試料分子の二次元分布を示すMSI画像を得ることができる。これにより、質量分析イメージング(MSI)を行うことができる。
【0047】
[作用効果]
試料支持体1では、
図3及び
図5に示されるように、基板2は、第1表面2aに開口する空隙2dを含んでいる。これにより、基板2の第1表面2a(本実施形態では、第1表面2a上の第1導電領域31。以下同じ。)に対して試料Sが導入されると、試料Sが基板2の空隙2d内に適度に拡散し、第1表面2a上に留まる試料Sの量が適切に調整される。その結果、第1表面2a上に留まる試料Sを好適にイオン化することができる。
【0048】
また、
図4及び
図6に示されるように、基板2の空隙2dは、側面2cにも開口している。すなわち、基板2の内部の空隙2dを介して、第1表面2aと側面2cとが連通している。これにより、例えば、試料支持体1の第1表面2aに試料Sが転写された試料支持体1を真空装置(上述した質量分析装置10の一部)に導入した際等に、基板2のガス抜き(すなわち、空隙2d内に溜まったガスの側面2cからの排出)を好適に行うことができる。すなわち、
図9の(A)に示されるように、側面2cが塞がっていないことにより、基板2の内部に溜まったガスを側面2cから外部に排出することができるため、ガス抜き作業の速度(真空到達速度)を改善することができる。さらに、基板2の内部にガスが残留し難くなるため、上述したイオン化工程(第3工程)において、イオン検出部15による試料イオンSIの検出が残留ガスによって阻害されることを抑制することができる。
【0049】
また、
図9の(B)に示されるように、第1表面2aの全面に試料Sを転写する際にも、第1表面2aから基板2の内部に導入されたガスを側面2cの開口から逃すことができるため、基板2の内部に余計なガス(残留ガス)が溜まることを抑制でき、ひいては当該残留ガスに起因する転写ムラの発生を抑制することができる。補足すると、
図9の(B)に示されるように、試料Sの転写時には、第2表面2bには保護テープT等が設けられることによって、第2表面2bが外部に露出していない場合がある。このため、仮に基板2の内部の空隙2dが第1表面2aから第2表面2bまで連通していたとしても、側面2cが塞がっている場合には、転写時に第1表面2aから基板2の内部に導入されたガスの逃げ道がなくなってしまう。これに対して、試料支持体1では、上述したように空隙2dが側面2cにも開口するように構成されていることにより、第1表面2aの全面に試料Sを転写する場合であっても、転写時のガス抜きを好適に行うことができる。また、複数の試料支持体1をX軸方向又はY軸方向に並べて用いる場合(例えば、分析対象の試料Sの大きさが1つの試料支持体1の測定面(第1表面2a)内に収まらない場合等)に、各試料支持体1の基板2の側面2cが開口していることにより、隣り合う試料支持体1(基板2)の連続性を保つこともできる。
【0050】
さらに、基板2の側面2cの少なくとも一部の外面は、凹凸構造4が形成された粗面21aとされている。これにより、例えば、作業者が基板2の側面2cを指で保持する際や、試料支持体1を支持するための器具を用いて基板2の側面を保持する際等において、粗面21a(凹凸構造4)が滑り止めの機能を発揮するため、試料支持体1のハンドリング性を向上させることができる。以上により、試料支持体1によれば、分析の高精度化を図ると共にハンドリング性を向上させることができる。
【0051】
図4に示されるように、側面粒子20Bは、粗面21aとは反対側において凹凸構造4が形成されていない非粗面21bを有している。側面粒子20Bの内側面を非粗面21bとすることにより、側面粒子20Bと当該側面粒子20Bの内側に位置する粒子20との結合強度を十分に確保し、側面粒子20Bのこぼれ落ち等を抑制できる。また、側面粒子20Bの内側に凹凸構造4を設けないことにより、側面粒子20Bの内側にも凹凸構造4が形成される場合と比較して、側面粒子20Bの内側におけるガスの流通(例えば、上述した残留ガスの流通)の円滑化を図ることができ、ひいては側面2cの開口からのガス抜きを好適に行うことができる。
【0052】
側面粒子20Bの粗面21a上には、レーザ光Lが照射されたことに応じてイオンを放出する物質(以下、「特定物質」という。)が配置されている。特定物質の例としては、金属膜、光吸収性を有する物質(例えば、紫外光を吸収する有機材料、色素等)等が挙げられる。本実施形態では、
図4に示されるように、粗面21a上には、導電層3(第2導電領域32)が配置されている。導電層3は、金属膜であるため、特定物質に該当する。試料支持体1によれば、試料支持体1の第1表面2aの全体(Z軸方向から見た場合に側面2cを含む全体)に対してレーザ光Lを照射し、第1表面2a上に存在する試料Sの成分(分子)をイオン化し、イオン化された成分の空間分布を二次元的に可視化する質量分析イメージング(MSI)を行うことにより得られるイメージング結果(上述したMSI画像)において、基板2の側面2cに対応する部分(すなわち、試料支持体1の外縁)を明瞭化することができる。より具体的には、粗面21aには凹凸構造4(エッジ構造)が設けられているため、レーザ光Lのエネルギーが粗面21aのエッジ部分に吸収され易い。これにより、当該エッジ部分の表面にある特定物質(本実施形態では、導電層3(第2導電領域32)の一部)の成分が好適にイオン化されて脱離し易くなる結果、MSI画像において、試料支持体1の外縁に対応する箇所を容易且つ精度良く認識することが可能となる。
【0053】
図10を参照して、上記効果について補足する。
図10において、全体の画像Pは、カメラ(例えば、上述した質量分析装置10のカメラ16)によって得られたカメラ画像(スキャン画像)の一部である。画像Pは、所定の支持プレート(画像Pの中央部に写った複数の溝部を有する黒色のプレート)上に、比較例の試料支持体100と実施例の試料支持体1とを並べて配置し、比較例の一の外縁(側面2cを含む部分)の一部と実施例の一の外縁(側面2cを含む部分)の一部とを撮影することにより得られた画像である。比較例の試料支持体100は、側面粒子20Bの外面が粒子20Aの表面21と同様の滑らかな面とされている点(すなわち、試料支持体1の側面粒子20Bのような粗面21aが形成されていない点)において、試料支持体1と相違している。
【0054】
図10において、画像P上に重畳するように配置された部分的な画像P1,P2は、対応する箇所におけるイメージング結果(MSI画像の一部)を示している。すなわち、画像P1は、比較例(試料支持体100)の外縁(側面2c)を含む部分のMSI画像の一部を示している。画像P2は、実施例(試料支持体1)の外縁(側面2c)を含む部分のMSI画像の一部を示している。
図10の画像P1,P2に示されるように、実施例(画像P2)の方が、比較例(画像P1)よりも、試料支持体(基板2)の外縁(側面2c)において、高い信号強度が得られることが確認された。すなわち、側面粒子20Bの外面を粗面21aとすることにより、画像P1よりも試料支持体1の外縁の明瞭性が高い画像P2が得られることが確認された。これにより、MSI画像中の試料支持体1の外縁(側面2cに対応する境界線)の位置を容易且つ精度良く把握することができる。その結果、例えば、カメラ画像(画像P)とMSI画像(画像P2を含む画像)との位置合わせを容易且つ精度良く行うことが可能となり、分析(質量分析イメージング)の高精度化を図ることができる。
【0055】
図4に示されるように、第2導電領域32は、複数の側面粒子20Bの少なくとも一部の粗面21a上において、凹凸構造4の表面形状に沿って設けられている。例えば、上述したようなレーザ脱離イオン化法等によって第1表面2a上に留まった試料Sの成分をイオン化する際には、第1表面2a上の導電層3(第1導電領域31)に電圧を印加する必要がある。第1導電領域31に安定的に電圧を印加するためには、側面2cにも電圧を印加することが好ましく、側面2c上に第2導電領域32を設けることが好ましい。そして、第2導電領域32が、複数の側面粒子20Bの少なくとも一部の粗面21a上において、凹凸構造4の表面形状に沿って設けられていることで、上述した効果(MSI画像における試料支持体1の外縁の明瞭化)を得ることができる。また、第1導電領域31に電圧を印加するための構成としては、導電性を有する試料台(本実施形態では、支持基板8)上に試料支持体1を載置し、支持基板8と試料支持体1の導電層3とを導電性テープ9で接続することで、支持基板8及び導電性テープ9を介して導電層3に電圧を印加する構成が考えられる。試料支持体1によれば、このような構成を採用する場合において、導電性テープ9を側面粒子20Bの粗面21a上の導電層3(すなわち、第2導電領域32のうち側面粒子20Bの粗面21aの凹凸構造4と同様の表面形状を有する部分)を覆うように設けることにより、凹凸構造4によるアンカー効果を発揮させて、第2導電領域32に対する導電性テープ9の接着力を高めることができる。これにより、安定的に且つ確実に導電層3に電圧を印加することが可能となる。
【0056】
第2導電領域32における導電層3の厚さ(平均厚さ)は、第1導電領域31における導電層3の厚さ(平均厚さ)よりも小さくされてもよい。例えば、単位面積あたりの第2導電領域32の量(成膜量)は、単位面積あたりの第1導電領域31の量(成膜量)よりも少なくされてもよい。例えば、導電層3を蒸着により成膜する場合において、第1表面2aに対する蒸着の方向と側面2cに対する蒸着の方向とを異ならせることにより、「第2導電領域32の厚さ<第1導電領域31の厚さ」となるように、導電層3が成膜されてもよい。上記構成によれば、第1表面2a上の第1導電領域31については一定の厚さを確保することにより、分析時において第1表面2aに安定的に電圧を印加することができる。一方、側面2c上の第2導電領域32については、導電層3の厚みを小さくすることにより、上記の効果(すなわち、アンカー効果による第2導電領域32に対する導電性テープ9の接着力の向上、及びMSI画像における試料支持体1の外縁の明瞭化)をより一層好適に得ることができる。
【0057】
図1及び
図7に示されるように、基板2の第1表面2aは、矩形状を有しており、第1表面2aの四隅に対応する部分には、導電層3が設けられていない。本実施形態では一例として、第1表面2aの四隅には、三角形状に第1表面2aが露出する領域が設けられている。第1表面2aの四隅に対応する部分に導電層3を設けないことにより、第1表面2aにおいて導電層3が設けられた部分(すなわち、第1導電領域31)と第1表面2aの四隅に対応する部分とを視覚的に区別することが容易となる。これにより、試料支持体1を質量分析装置10の試料ステージ18上に載置した状態で試料ステージ18の位置合わせを行う際等において、第1表面2aの四隅に対応する部分を目印として用いることにより、位置合わせを容易化することができる。
【0058】
図2及び
図8に示されるように、側面2cは、第1表面2aから第2表面2bに向かうにつれて外側に広がるように傾斜する傾斜領域を含んでいる。上記構成によれば、分析時において試料支持体1を試料台等(本実施形態では、支持基板8)の上に載置した際の試料支持体1の安定性を向上させることができる。また、上述したような導電性テープ9を、第1表面2aの縁部、側面2cの傾斜領域、及び支持基板8の上面(支持面8a)を覆うように設けた場合に、導電性テープ9と試料支持体1との密着性を高めることができる。すなわち、導電性テープ9と試料支持体1の側面2c及び支持面8aとの間に隙間が生じることを抑制できるため、試料支持体1を支持面8aに対して安定的に固定すると共に、導電性テープ9の剥がれを抑制することができる。また、上記のように側面2cを傾斜させることにより、上述したレーザ脱離イオン化法において、側面粒子20Bの粗面21aに対してレーザ光Lが当たり易くなるため、
図10を用いて説明した上記効果(すなわち、MSI画像における試料支持体1の外縁の明瞭化)をより好適に得ることが可能となる。
【0059】
[変形例]
本開示は、上述した実施形態に限定されない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。また、上記実施形態に係る試料支持体1に含まれる一部の構成は、適宜省略又は変更されてもよい。例えば、上記実施形態では、試料支持体1に含まれるいくつかの特徴的な構成、及び各構成によって発揮されるいくつかの効果について説明したが、本開示に係る試料支持体は、必ずしも、上記実施形態で説明された全ての効果を発揮するように構成される必要はなく、上記実施形態で説明された一部の効果のみを発揮するように構成されてもよい。後者の場合には、試料支持体は、少なくとも当該一部の効果を発揮するために必須の構成を備えていればよく、当該一部の効果を発揮するために必須ではない構成は適宜省略又は変更されてもよい。以下、本開示の試料支持体について、いくつかの変形例を例示する。
【0060】
上記実施形態では、粒子20の材料としてガラス、セラミック等を例示したが、粒子20は、導電性を有する材料(例えばアルミニウム等の金属)によって形成されてもよい。この場合、上記実施形態における導電層3を省略することができる。
【0061】
上記実施形態では、レーザ脱離イオン化法によるイオン化法が用いられたため、試料支持体1に導電性を付与するために、絶縁性の基板2の表面に導電層3が設けられたが、試料支持体1に導電性が求められない場合(或いは、電気絶縁性が求められる場合)には、導電層3が省略されてもよい。この場合、基板2の第1表面2aに対して帯電した微小液滴を照射する脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI:Desorption Electrospray Ionization)等に試料支持体1を用いることが可能となる。
【0062】
上記実施形態では、
図5及び
図6に示されるような複数の粒子20の集合体(ガラスビーズの焼結体)によって基板2が構成されているため、空隙2dは、第1表面2a及び側面2cに開口すると共に、第2表面2bにも開口しているが、空隙2dは第2表面2bには開口していなくてもよい。例えば、基板2は、第2表面2bを含む平板状のプレートと、当該プレートにおける第2表面2bとは反対側の面上に設けられた多孔質構造(すなわち、複数の粒子20)と、によって構成されてもよい。一例として、基板2は、ガラスプレートと、ガラスプレート上に設けられた多孔質構造と、によって構成されてもよい。
【0063】
上記実施形態では、
図6に示されるように、側面2c(Z軸方向から見た場合の最外面)を構成する略全域の側面粒子20Bの外面が凹凸構造4を含む粗面21aとされているが、必ずしも略全域の側面粒子20Bの外面が粗面21aとされていなくてもよい。すなわち、側面2cを構成する複数の側面粒子20Bの少なくとも一部の外面が、粗面21aとされていればよい。例えば、側面2cのうち第1表面2a側の一部の範囲(第1表面2aと連続する一部の領域)に属する側面粒子20Bの外面のみが粗面21aとされてもよい。
【0064】
上記実施形態では、
図2に示されるように、側面2cの全体が、第1表面2aから第2表面2bに向かうにつれて外側に広がるように傾斜する傾斜領域として形成されているが、側面2cの一部(例えば、第1表面2aと接続される側の一部)のみが傾斜していてもよい。また、側面2cが傾斜領域を含むことは必須ではない。例えば、側面2cは、第1表面2a及び第2表面2bに対して垂直な方向(Z軸方向)に沿って延在するように形成されてもよい。
【0065】
上記実施形態では、第1表面2a及び側面2c上に連続的に設けられる導電層3が、特定物質として用いられたが、上述したように導電層3自体が省略される場合等において、
図10を用いて説明したような効果(MSI画像における試料支持体1の外縁の明瞭化)を得るだけの目的で、導電層3とは異なる特定物質が粗面21a上に配置(例えば成膜)されてもよい。或いは、複数の側面粒子20Bの少なくとも一部(例えば、側面粒子20Bそれ自体)が、特定物質によって形成されてもよい。この場合、側面粒子20B自身がイオン化される。このような構成によっても、試料支持体1の外縁が明瞭化されたMSI画像を得ることができる。
【0066】
粒子20の形状は、略球状に限られず、略球状以外の形状を有してもよい。
【0067】
上記実施形態では、試料支持体1が質量分析方法に用いられる例が示されたが、試料支持体1は、質量分析以外にも、試料のイオン化を含む種々の分析用途に用いることができる。また、試料支持体1の用途は、上記実施形態で示したレーザ脱離イオン化法のようなレーザ光Lの照射による試料のイオン化に限定されない。試料支持体1は、レーザ光以外のエネルギー線の照射による試料のイオン化にも用いることができる。例えば、試料支持体1は、エレクトロスプレーや、イオンビーム、電子線等のエネルギー線の照射による試料のイオン化にも用いることができる。上述したイオン化法及び質量分析方法では、このようなエネルギー線の照射によって試料をイオン化することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…試料支持体、2…基板(多孔質基板)、2a…第1表面、2b…第2表面、2c…側面、2d…空隙、3…導電層、4…凹凸構造、20,20A…粒子、20B…側面粒子、21…表面、21a…粗面、21b…非粗面、31…第1導電領域、32…第2導電領域、L…レーザ光(エネルギー線)、S…試料。
【要約】
【課題】分析の高精度化を図ると共にハンドリング性を向上させることができる試料支持体を提供する。
【解決手段】試料支持体1は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、第1表面2aの縁部と第2表面2bの縁部とを接続する側面2cと、少なくとも第1表面2a及び側面2cに開口するように分布する空隙2dと、を有する基板2を備えている。基板2は、互いに連結された複数の粒子20によって形成されている。複数の粒子20のうち側面2cを構成する複数の側面粒子20Bの少なくとも一部の外面は、凹凸構造4が形成された粗面21aとされている。
【選択図】
図1