(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】猫の腎機能障害の検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20241118BHJP
【FI】
G01N33/68
(21)【出願番号】P 2023215240
(22)【出願日】2023-12-20
【審査請求日】2024-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2022204807
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 錬
(72)【発明者】
【氏名】上田 玲瑛子
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/176691(WO,A1)
【文献】特表2013-527478(JP,A)
【文献】池田裕美,慢性腎臓病がイヌとネコの血漿および尿中遊離アミノ酸濃度に及ぼす影響,ペット栄養学会誌,2017年06月30日,Vol.20 第19回大会号,Page.47-48
【文献】SUMMERS Stacie C.,Serum and Fecal Amino Acid Profiles in Cats with Chronic Kidney Disease,Veterinary Sciences,2022年02月17日,Vol.9 No.2,Page.84
【文献】BROUGHTON-NEISWANGER Liam E.,Urinary chemical fingerprint left behind by repeated NSAID administration: Discovery of putative biomarkers using artificial intelligence,PLoS One,2020年02月13日,Vol.15 No.2,Page.e0228989
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
猫の腎機能障害を検査する方法であって、被験対象猫の尿について少なくともD-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンの5種のD-アミノ酸の総濃度を測定する工程を含む、腎機能障害の検査方法。
【請求項2】
さらに、D-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-ロイシン、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-アスパラギン酸を加えた20種のD-アミノ酸の総濃度を測定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
20種のD-アミノ酸の総濃度の測定が、D-アミノ酸オキシダーゼを用いた酵素測定法によって行われる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記D-アミノ酸の総濃度のL-アミノ酸の総濃度に対する比を算出する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記D-アミノ酸の総濃度のキラルバランスを算出する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項記載の方法を実施するための検査用キットであって、D-アミノ酸の総濃度を測定するための試薬を含有する、猫の腎機能障害の検査用キット。
【請求項7】
D-アミノ酸の総濃度を測定するための試薬がD-アミノ酸オキシダーゼを含む、請求項
6記載のキット。
【請求項8】
さらに比色又は蛍光プローブ及びペルオキシダーゼを含有する、請求項
6記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿中のD-アミノ酸を用いた猫の腎機能障害の検査に関する。
【背景技術】
【0002】
猫は、もともと乾燥地帯で進化してきたことから、腎臓で尿を高度に濃縮する能力を有し、元来飲水量が少ない動物である。そのため、猫は、特に尿細管障害由来の膀胱炎、尿路結石、尿道閉塞等の泌尿器症候群、さらには腎不全などの腎・泌尿器系疾患を起こし易い。さらに、近年のドライタイプのフードの普及により、猫の水分摂取量の不足の傾向は一層高まっている。水分摂取の不足は、若齢での泌尿器系疾患、及び中高齢での腎疾患を引き起こすリスクを高め、生活の質(QOL)の低下をもたらす。
【0003】
従来、猫の腎機能低下の指標として血清中クレアチニン濃度や対称性ジメチルアルギニン(SDMA)濃度を測定することが行われている。しかしながら、血清中クレアチニンは腎機能が約75%喪失するまでは上昇しないとされている。一方、SDMAは腎機能が40%喪失した時点で上昇が始まるとされているが、クレアチニンよりも早期に異常値を示すとは限らず、指標としての信頼性は必ずしも明確ではない。またストレスや痛みを伴う血液(低侵襲)ではなく、より簡易かつオンサイトモニタリングも可能な尿(非侵襲)の指標確立が求められている。
【0004】
また、グリシン以外の全てのアミノ酸にはD体とL体という2種類の鏡像異性体が存在する。近年の分析技術の進歩による分離能・感度の向上に伴い、ヒトを含む哺乳類におけるD-アミノ酸の存在とその役割が明らかにされるようになり、血中や尿中における特定のD-アミノ酸含量が腎機能の低下と関連することも報告されている。例えば、ヒト血中のD-セリンやD-アラニンがクリティカル期の腎障害を判定するためのマーカーとなり得ること(特許文献1、2)が報告されている。また、腎機能を低下させたマウスでは、尿中のD-セリン、D-ヒスチジン、D-アスパラギン、D-アルギニン、D-アロ-スレオニン、D-グルタミン酸、D-アラニン、D-プロリン、D-バリン、D-アロ-イソロイシン、D-フェニルアラニン、D-リジンの構成割合が減少し、これらが腎不全の早期診断の指標になり得ることが報告されている(特許文献3)。また、慢性腎臓病の犬、猫では、尿中のD-バリンが極端に減少することが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/080494号
【文献】国際公開第2020/080488号
【文献】特許第5740523号
【非特許文献】
【0006】
【文献】ペット栄養学会誌,20(第19回大会号),2017, 47-48, 池田ら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、猫の腎機能障害を検査するための、客観的で非侵襲的な方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、斯かる課題に鑑み検討したところ、腎機能が低下した猫において、尿中の特定のD-アミノ酸の存在量が変化し、当該D-アミノ酸レベルを指標として猫の腎機能障害の有無や程度の評価、腎機能モニタリング可能であることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の1)~4)に係るものである。
1)猫の腎機能障害を検査する方法であって、被験対象猫の尿についてD-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のレベルを測定する工程を含む、腎機能障害の検査方法。
2)猫の腎機能障害に対する予防又は治療的介入の存在下、被験対象猫の尿についてD-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のレベルを測定する工程を含む、当該介入効果の評価方法。
3)猫の腎機能障害を検査する方法であって、D-アミノ酸オキシダーゼを用いた酵素測定法によって測定可能な被験対象猫の尿中の全D-アミノ酸の総濃度を当該方法によって測定する工程を含む、腎機能障害の検査方法。
4)1)~3)の方法を実施するための検査用キットであって、D-アミノ酸のレベルを測定するための試薬を含有する猫の腎機能障害の検査用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、猫の腎機能障害の有無や程度を、非侵襲で客観的且つ簡便に検査することができ、腎機能低下の早期変化を的確に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3-1】猫尿中のD-アミノ酸のキラルバランス。
【
図3-2】猫尿中のD-アミノ酸のキラルバランス。
【
図4】猫尿中のD-アミノ酸及びL-アミノ酸の総濃度。
【
図5-1】猫尿中のD-アミノ酸量及びL-アミノ酸量の比(D/L)。
【
図5-2】猫尿中のD-アミノ酸量及びL-アミノ酸量の比(D/L)。
【
図5-3】猫尿中のD-アミノ酸総濃度及びL-アミノ酸総濃度の比(D/L)。
【
図5-4】猫尿中のD-アミノ酸総濃度のキラルバランス。
【
図6】猫尿中のD-アミノ酸(Tyr、Met、Trp、Orn及びHis)の総濃度。
【
図8-1】酵素法により測定された猫尿中のD-アミノ酸総濃度。
【
図8-2】酵素法により測定された猫尿中のD-アミノ酸総濃度のキラルバランス。
【
図8-3】酵素法により測定された猫尿中のD-アミノ酸総濃度/尿中クレアチニン比。
【
図8-4】酵素法により測定された猫尿中のD-アミノ酸総濃度/尿比重比。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の猫の腎機能障害の検査方法は、被験対象猫の尿について、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸レベルを測定する工程を含む。
【0013】
本発明において、「腎機能障害」とは、腎臓に何らかの異常が生じ、腎臓機能に障害が生じた状態を指すが、主として猫が罹患しやすい慢性腎疾患を指す。慢性腎疾患とは、腎臓の働きが徐々に低下し、腎不全に至る状態を意味する。
従来、猫の腎機能障害は、IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)ガイドライン、物理学的補助検査(色調、尿量、尿比重、pH)、問診に基づいた獣医師総合判断により行われている。特に腎機能障害の程度は、IRISガイドライン(2019 modified)によって、以下のように分類されている。
・健常:血清クレアチニン値が1.6(mg/dL)未満、あるいは対称性ジメチルアルギニン(SDMA)値が14(μg/dL)未満。
・ステージ1(初期):血清クレアチニン値が1.6(mg/dL)未満、あるいは対称性ジメチルアルギニン(SDMA)値が14~17(μg/dL)。
・ステージ2(軽度):血清クレアチニン値が1.6~2.8、あるいは対称性ジメチルアルギニン(SDMA)値が18~25。
・ステージ3(中度):血清クレアチニン値が2.9~5.0、あるいは対称性ジメチルアルギニン(SDMA)値が26~38。
・ステージ4(重度):血清クレアチニン値が5.0超過、あるいは対称性ジメチルアルギニン(SDMA)値が38超過。
【0014】
本発明において、「腎機能障害の検査」とは、腎機能障害の有無、腎機能障害の程度を含み、好ましくは、腎機能障害の有無の検査である。なお、本発明の腎機能障害の検査には、定期的に行なわれる検査や予防又は治療的介入効果を確認するための検査が当然に含まれる。
ここで、「検査」は、「測定」、「検出」、「判定」、「評価」又は「評価支援」という用語で言い換えることもできる。
【0015】
本発明において、被験対象猫は、特に限定されないが、好ましくは腎機能障害が疑われる猫、腎機能が低下している猫、腎機能障害の予防又は治療的介入が実施されている猫等が挙げられる。なお、猫としては、ネコ科の動物、即ち、哺乳綱食肉目ネコ科の動物であり、好ましくはネコ亜科のネコ属するネコが挙げられ、イエネコ、ハイイロネコ、ジャングルキャット、リビアヤマネコ、スナネコ、クロアシネコ、ヨーロッパヤマネコが好ましいが、イエネコ(Felis silvestris catus)がより好ましいが、その品種は特に限定されない。
【0016】
サンプルとして用いられる猫尿の採尿は、D-アミノ酸の測定が可能な状態で採取されれば、その採取方法は特に限定されないが、測定精度の点から、新鮮な尿であるのが好ましい。猫尿の採取方法としては、好ましくは自然採尿(ペット用トイレ等の使用含)、カテーテル、膀胱穿刺、圧迫採尿が挙げられるが、特に好ましくは、猫にストレスを与えにくい自然採尿が望ましい。
【0017】
後記実施例に示すとおり、猫尿では全20種のD-アミノ酸が検出された。これは、ヒト血液(4分子種程度)や尿(10分子種程度)、マウス血液・尿(10分子種程度)、ラット血液・尿(6分子種程度)よりも遥かに多い。
すなわち、D-アスパラギン(D-Asn)及びD-アスパラギン酸(D-Asp)を除く17種(D-フェニルアラニン(D-Phe)、D-メチオニン(D-Met)、D-グルタミン酸(D-Glu)、D-ロイシン(D-Leu)、D-スレオニン(D-Thr)、D-トリプトファン(D-Trp)、D-プロリン(D-Pro)、D-セリン(D-Ser)、D-アラニン(D-Ala)、D-リジン(D-Lys)、D-アルギニン(D-Arg)、D-チロシン(D-Tyr)、D-グルタミン(D-Gln)、D-アロ-イソロイシン(D-aIle)、D-アロ-スレオニン(D-aThr)、D-オルニチン(D-Orn)、D-バリン(D-Val))のキラルバランス及び当該D-アミノ酸とそのL-アミノ酸の量比(D/L)は腎臓病群では有意に低下し、D-ヒスチジン(D-His)のキラルバランスは前記特許文献3で報告されているマウスの場合とは異なり、腎臓病群では有意に増加することが判明し、腎機能障害に関与することが確認された(
図3-1、3-2)。このうち、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン及びD-オルニチンは、猫尿において顕著に検出されるが、他の哺乳類、例えばヒトやマウスの尿からは検出が認められない、ネコ特有のアミノ酸である。
したがって、猫尿中のD-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン及びD-オルニチンにD-ヒスチジンを加えたD-アミノ酸は、猫の腎機能障害を検査するための特有のマーカー分子であり、これらから選ばれる1種以上の存在レベルを測定することにより、被験対象猫の腎機能障害を評価することができる。
【0018】
本発明において測定されるD-アミノ酸レベルとしては、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる個々のD-アミノ酸のそれぞれについて、当該アミノ酸の濃度でも良いが、例えば当該D-アミノ酸のL-アミノ酸に対する量比(D-アミノ酸量/L-アミノ酸量)、当該D-アミノ酸のキラルバランス(D-アミノ酸量/(D-アミノ酸量+L-アミノ酸量)×100)等が好ましく、キラルバランスがより好ましい。
【0019】
猫尿中のD-アミノ酸のキラルバランスに関しては、当該D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上、好ましくはD-チロシン、D-トリプトファン及びD-オルニチンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-チロシン及びD-トリプトファンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のキラルバランスを測定することに加えて、さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-アラニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-アラニン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のキラルバランスを測定することを組み合わせて行うことができる。
【0020】
また、猫尿中のD-アミノ酸のL-アミノ酸に対する量比(D/L)に関しては、当該D-チロシン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-メチオニンから選ばれる1種以上、好ましくはD-チロシン、D-トリプトファン及びD-オルニチンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-チロシン及びD-トリプトファンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のL-アミノ酸に対する量比(D/L)を測定するのが好ましく、これに加えて、さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-プロリン、D-スレオニン、D-アラニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-プロリン、D-アラニン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のL-アミノ酸に対する量比(D/L)の測定を組み合わせることができる。
【0021】
また、猫尿中のD-アミノ酸濃度に関しては、当該D-チロシン、D-メチオニン、D
-トリプトファン及びD-オルニチンから選ばれる1種以上、好ましくはD-チロシン、D-トリプトファン及びD-オルニチンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸濃度を測定するのが好ましく、これに加えて、さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-アスパラギンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-アスパラギンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸の濃度を組み合わせて測定することができる。
【0022】
さらに、本発明におけるD-アミノ酸レベルの測定は、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンからなる5種のD-アミノ酸の総濃度、又は前記5種のD-アミノ酸にD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-ロイシン、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-アスパラギン酸から選ばれる1種以上のD-アミノ酸を加えた6種以上のD-アミノ酸の総濃度、好ましくは20種のD-アミノ酸(D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン、D-ヒスチジン、D-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-ロイシン、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン、D-アスパラギン酸)の総濃度を測定することによっても行うことができる。また、上記6種以上のD-アミノ酸を含む猫尿中のD-アミノ酸の総濃度は、アミノ酸を基質とする酵素反応により測定可能な全D-アミノ酸(酸性アミノ酸を除く全D-アミノ酸)の総濃度であってもよい。
さらに、当該D-アミノ酸の総濃度のL-アミノ酸の総濃度に対する比(D-アミノ酸の総濃度/L-アミノ酸の総濃度)や、当該D-アミノ酸の総濃度のキラルバランス(D-アミノ酸の総濃度/(D-アミノ酸の総濃度+L-アミノ酸総濃度))を算出し、これらを本発明のD-アミノ酸レベルとすることもできる。
また、D-アミノ酸の総濃度については、さらに当該D-アミノ酸の総濃度の尿比重に対する比(D-アミノ酸の総濃度/尿比重)や、当該D-アミノ酸の総濃度の尿中クレアチニン濃度に対する比(D-アミノ酸の総濃度/尿中クレアチニン濃度)を算出し、これらを本発明のD-アミノ酸レベルとすることもできる。
【0023】
本発明において、D-アミノ酸又はL-アミノ酸の測定は、尿中のD-アミノ酸とL-アミノ酸を分離して測定できればよく、その手段は限定されないが、一般的には液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)を組み合わせたLC-MS、LC-MS/MS等を用いた分離定量方法を採用できる。また、アミノ酸総濃度の測定には、D-アミノ酸を基質とするD-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸を基質とするL-アミノ酸オキシダーゼ等を用いた酵素反応(比色、蛍光、化学発光等)を利用した定量方法(酵素法)、あるいは酵素を素子としたバイオセンサー(電気化学検出等)による生体センシング方法を用いることもでき、酵素法が簡便性、迅速性の点からより好ましい。
D又はL-アミノ酸オキシダーゼを用いた酵素測定法は、D又はL-アミノ酸をD又はL-アミノ酸オキシダーゼによって酸化的脱アミノ化する際に生成する過酸化水素を比色/蛍光プローブで検出、測定する方法であり、これにより猫尿中の酸性アミノ酸を除く全D-アミノ酸総濃度又は全L-アミノ酸総濃度を測定することができる。
なお、尿中のアミノ酸の測定に際しては、家庭や医療機関等で採取された尿(カテーテル・膀胱穿刺・自然採尿等)について、凍結融解、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、除タンパク、希釈、固相抽出、液液分配、誘導体化等の分析のための前処理が適宜なされる。酵素測定法のための前処理においては本酵素反応阻害物質が含まれないことが望ましい。採取尿の輸送形態は常温~冷凍郵送等含め、その手段は限定されない。
【0024】
キラルアミノ酸の分離手法としては、例えば、4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-F)試薬を用いてアミノ酸をNBD誘導体とした後、逆相カラム(1次元目:分子種分離)とキラル識別子を担持した固定相を有するキラルカラム(2次元目:キラル分離)を用いた2次元液体クロマトグラフィー(LC)法による分離定量(J Chromatogr A. 2010 Feb 12;1217(7):1056-62. doi: 10.1016/j.chroma.2009.09.002. Epub 2009 Sep 6)や、1本の逆相カラム(ODSカラム)を用いた1次元LC法(Anal Chim Acta. 2015 May 22;875:73-82. doi: 10.1016/j.aca.2015.02.054. Epub 2015 Feb 23)、アミノ酸を6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシイミジルカルバメート(AQC)誘導体化し、1本のキラルカラムを用いた1次元LC法(J Pharm Biomed Anal. 2015 Nov 10;115:123-9. doi: 10.1016/j.jpba.2015.05.024. Epub 2015 Jun 16)の他、アミノ基をAQC誘導体化した後、弱アニオン交換型のキラル固定相を有する第一のキラルカラムと、両性イオン交換型のキラル固定相を有する第二のキラルカラムとを接続した液体クロマトグラフィーを用いて分離する方法(特許第6764778号公報)が知られているが、特許第6764778号公報の方法を用いるのが好ましい。
【0025】
斯くして、測定されたD-アミノ酸レベルを基準値と比較することにより、当該被験対象猫の腎機能障害を評価することができる。
ここで、基準値は、例えば、当該D-アミノ酸レベルと腎機能障害との関連付けから以下のように設定することができる。
腎機能障害を、前述したIRISガイドライン等の手段により評価する。その評価結果に基づき、腎機能障害が無い(健常)と判断される猫から構成される健常群と、腎機能障害が有ると判断される猫から構成される腎機能障害群に層別化する。これとは別途、前述の方法により本発明のD-アミノ酸のレベルを測定する。そして腎機能障害の評価結果とD-アミノ酸レベルとの相関性に基づき、腎機能障害を評価するのに適した基準値が決定される。具体的には、各群に属するD-アミノ酸レベルの統計解析結果に基づき、各群を特徴づけるD-アミノ酸レベルの数値範囲を決定する。この数値範囲は、各群の平均値を中心とした上下の一定範囲に設定することにより決定する。ここで「一定範囲」とは、標準偏差(SD)等の統計数値や、1/2SD値、1/3SD値などを用いてもよいし、各群の中央値を中心とした上下の一定範囲(第1四分位点や第3四分位点など)でもよい。
そして、例えば、被験対象猫から得られた尿中の本発明のD-アミノ酸レベルが腎機能障害群のD-アミノ酸レベルの範囲内に属する場合には、当該猫は「腎機能が低下している」、「腎機能障害がある」又は「腎機能障害がある可能性が高い」と評価できる。
【0026】
また、基準値は、統計学的解析により得られたカットオフ値を基元に決定されても良い。
カットオフ値としては、例えば、生体指標算出値における中央値若しくは平均値、ROC曲線解析に基づく値(例えば、Youden’s index、腎機能障害がある群とない群を分ける判別式を使用して作成されたROC曲線における左上隅座標(0,1)からの距離値等)が例示される。カットオフ値は複数設定することもできる。例えば、キラルバランスを指標とする場合は後述の表2、D-アミノ酸総濃度(5種、20種)を指標とする場合は後述の表3、D-アミノ酸濃度を指標とする場合は後述の表4、D-アミノ酸及びL-アミノ酸の量比(D/L)を指標とする場合は後述の表5、酵素法により測定されるD-アミノ酸総濃度を指標とする場合は後述の表8に示されるような、ROC曲線分析を行って求めたカットオフ値をそれぞれ設定することができる。
例えば、D-チロシンのキラルバランスが0.55%以下、D-メチオニンのキラルバランスが3.9%以下、D-トリプトファンのキラルバランスが0.10%以下、D-オルニチンのキラルバランスが40%以下、D-ヒスチジンのキラルバランスが2.2%以上、D-グルタミン酸のキラルバランスが4.8%以下、D-バリンのキラルバランスが8.9%以下、D-フェニルアラニンのキラルバランスが0.52%以下、D-アロ-イソロイシンのキラルバランスが9.8%以下、D-アラニンのキラルバランスが43%以下、D-プロリンのキラルバランスが5.5%以下、D-グルタミンのキラルバランスが1.2%以下、D-スレオニンのキラルバランスが0.91%以下、D-セリンのキラルバランスが71%以下、D-アロ-スレオニンのキラルバランスが4.0%以下、D-アルギニンのキラルバランスが3.0%以下、D-リジンのキラルバランスが20%以下、D-ロイシンのキラルバランスが0.16%以下である場合に「腎機能が低下している」、「腎機能障害がある」又は「腎機能障害がある可能性が高い」と評価できる。
また、例えば、酵素法により測定されるD-アミノ酸総濃度が380.0μM以下、同D-アミノ酸総濃度のキラルバランス(酵素法により測定されるD-アミノ酸の総濃度/(酵素法により測定されるD-アミノ酸の総濃度+酵素法により測定されるL-アミノ酸の総濃度))が0.54%以下、同D-アミノ酸総濃度の尿比重に対する比が350.0μM以下、同D-アミノ酸総濃度の尿中クレアチニン濃度に対する比が1.84mmol/10g Cre以下である場合に「腎機能が低下している」、「腎機能障害がある」又は「腎機能障害がある可能性が高い」と評価できる。
【0027】
斯くして、本発明の方法によれば、被験対象猫の腎機能障害の有無、腎機能障害の状態や程度を、非侵襲で簡便かつ的確に評価することができる。
なお、本発明の検査方法は、本発明以外の他の腎機能障害の診断指標と組み合わせて用いても良く、それにより腎機能障害をより多面的かつ適正に評価することが可能となる。
他の腎機能障害の診断指標としては、例えば、血中クレアチニン(Cre)、尿中クレアチニン、血中尿素窒素(BUN)、血中対称性ジメチルアルギニン(SDMA)、血中シスタチンC、尿中シスタチンC、尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)、尿蛋白、尿蛋白/クレアチニン比(UPC)、尿中アルブミン、等が挙げられる。また、特定の採尿容器を用いる簡易な尿比重評価方法(特許第7084128号公報)、尿色(特許第7216529号公報)、尿浸透圧、各種電解質の分画排泄率、血圧や画像検査といった物理指標等との組み合わせも可能である。
【0028】
本発明の検査方法は、定期的に実施して、当該D-アミノ酸レベルの変動を追跡することで、被験対象猫の腎機能障害の推移の検出に利用できる。
【0029】
また、本発明の検査方法は、猫の腎機能障害に対する予防又は治療的介入の存在下で実施することにより、当該介入の効果の評価に利用できる。
すなわち、本発明の介入効果の評価方法は、猫の腎機能障害に対する予防又は治療的介入の存在下、被験対象猫の尿についてD-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のレベルを測定する工程を含む。
【0030】
ここで、猫の腎機能障害に対する予防又は治療的介入とは、猫の腎機能障害に対して予防又は治療的効果を期待して実施される介入であり、化学的介入、物理的機械的介入又は食事療法が包含される。化学的介入としては、天然物質、合成物質、組成物等の物質の投与が挙げられ、物理的又は機械的介入としては、透析等の施術が挙げられる。食事療法としては低カロリーフード、低脂肪フード、ビタミン及びミネラル量を調整したサプリメント、及び低塩調整フード等の接種が挙げられる。
【0031】
介入効果の評価は、介入によって生じる被験対象猫の当該D-アミノ酸のレベルに基づいて評価することができる。例えば、介入存在下における被験対象猫の当該D-アミノ酸レベルを、対照(介入非存在下)と比較することで、その効果を評価することが挙げられる。
【0032】
本発明の猫の腎機能障害の検査用キットは、本発明の猫の腎機能障害の検査方法を実行するためのキットである。したがって、当該キットは、猫尿の採取に必要な用具、猫尿又は猫尿を含む砂やシート等を保存するための容器、1種以上のD-アミノ酸のレベルを測定するための試薬、D-アミノ酸のレベルを基準値と比較するための指標又はガイダンス等を含有するものであり得る。
D-アミノ酸のレベルを測定するための試薬としては、D又はL-アミノ酸を基質とする酵素(例えばD又はL-アミノ酸オキシダーゼ)、比色又は蛍光プローブ、及びペルオキシダーゼが挙げられる。
【0033】
上述した実施形態に関し、本発明においては更に以下の態様が開示される。
<1>猫の腎機能障害を検査する方法であって、被験対象猫の尿についてD-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のレベルを測定する工程を含む、腎機能障害の検査方法。
<2>さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-ロイシン、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-アスパラギン酸から選ばれる1種以上のD-アミノ酸のレベルを測定する、<1>の方法。
<3>D-アミノ酸のレベルを測定する工程が、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のキラルバランスを測定する工程である、<1>の方法。
<4>さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-アラニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-アラニン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のキラルバランスを測定する工程を含む、<3>の方法。
<5>D-アミノ酸のレベルを測定する工程が、D-チロシン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-メチオニンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のL-アミノ酸に対する量比を測定する工程である、<1>の方法。
<6>さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-プロリン、D-スレオニン、D-アラニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-プロリン、D-アラニン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のL-アミノ酸に対する量比を測定する工程を含む、<5>の方法。
<7>D-アミノ酸のレベルを測定する工程が、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン及びD-オルニチンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸濃度を測定する工程である、<1>の方法。
<8>さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-アスパラギンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-アスパラギンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸濃度を測定する工程を含む、<7>の方法。
<9>D-アミノ酸のレベルを測定する工程が、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンからなる5種のD-アミノ酸の総濃度、又は前記5種のD-アミノ酸にD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-ロイシン、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-アスパラギン酸から選ばれる1種以上のD-アミノ酸を加えた6種以上のD-アミノ酸の総濃度を測定する工程を含む、<1>の方法。
<10>さらに、前記D-アミノ酸の総濃度のL-アミノ酸の総濃度に対する比を算出する工程を含む、<9>の方法。
<11>さらに、前記D-アミノ酸の総濃度のキラルバランスを算出する工程を含む、<9>の方法。
<12>6種以上のD-アミノ酸の総濃度の測定が、D-アミノ酸を基質とする酵素反応を利用した定量方法によって行われる、<9>~<11>のいずれかの方法。
<13>猫の腎機能障害に対する予防又は治療的介入の存在下、被験対象猫の尿についてD-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のレベルを測定する工程を含む、当該介入効果の評価方法。
<14>さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-ロイシン、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-アスパラギン酸から選ばれる1種以上のD-アミノ酸のレベルを測定する、<13>の方法。
<15>D-アミノ酸のレベルを測定する工程が、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のキラルバランスを測定する工程である、<13>の方法。
<16>さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-アラニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-アラニン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のキラルバランスを測定する工程を含む、<15>の方法。
<17>D-アミノ酸のレベルを測定する工程が、D-チロシン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-メチオニンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のL-アミノ酸に対する量比を測定する工程である、<13>の方法。
<18>さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-プロリン、D-スレオニン、D-アラニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-プロリン、D-アラニン、D-アロ-イソロイシン及びD-バリンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸のL-アミノ酸に対する量比を測定する工程を含む、<17>の方法。
<19>D-アミノ酸のレベルを測定する工程が、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン及びD-オルニチンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸濃度を測定する工程である、<13>の方法。
<20>さらにD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-ロイシンから選ばれる1種以上、好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-アスパラギンから選ばれる1種以上、より好ましくはD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-スレオニン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン及びD-アスパラギンから選ばれる1種以上のD-アミノ酸濃度を測定する工程を含む、<19>の方法。
<21>D-アミノ酸のレベルを測定する工程が、D-チロシン、D-メチオニン、D-トリプトファン、D-オルニチン及びD-ヒスチジンからなる5種のD-アミノ酸の総濃度、又は前記5種のD-アミノ酸にD-フェニルアラニン、D-グルタミン酸、D-ロイシン、D-スレオニン、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、D-リジン、D-アルギニン、D-グルタミン、D-アロ-イソロイシン、D-アロ-スレオニン、D-バリン、D-アスパラギン及びD-アスパラギン酸から選ばれる1種以上のD-アミノ酸を加えた6種以上のD-アミノ酸の総濃度を測定する工程を含む、<13>の方法。
<22>さらに、前記D-アミノ酸の総濃度のL-アミノ酸の総濃度に対する比を算出する工程を含む、<21>の方法。
<23>さらに、前記D-アミノ酸の総濃度のキラルバランスを算出する工程を含む、<21>の方法。
<24>猫の腎機能障害を検査する方法であって、D-アミノ酸オキシダーゼを用いた酵素測定法によって測定可能な被験対象猫の尿中の全D-アミノ酸の総濃度を当該方法によって測定する工程を含む、腎機能障害の検査方法。
<25>さらに、前記D-アミノ酸の総濃度の尿比重に対する比を算出する工程を含む、<24>の方法。
<26>さらに、前記D-アミノ酸の総濃度の尿中クレアチニン濃度に対する比を算出する工程を含む、<24>の方法。
<27>さらに、L-アミノ酸オキシダーゼを用いた酵素測定法によって前記被験対象猫の尿中のL-アミノ酸の総濃度を測定する工程を含む、<24>の方法。
<28>さらに、前記D-アミノ酸の総濃度のキラルバランスを算出する工程を含む、<27>の方法。
<29>さらに、前記D-アミノ酸の総濃度のL-アミノ酸の総濃度に対する比を算出する工程を含む、<27>の方法。
<30><1>~<29>の方法を実施するための検査用キットであって、D-アミノ酸レベルを測定するための試薬を含有する、猫の腎機能障害の検査用キット。
<31>D-アミノ酸レベルを測定するための試薬がD-アミノ酸オキシダーゼを含む、<30>のキット。
<32>さらに比色又は蛍光プローブ及びペルオキシダーゼを含有する、<31>のキット。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
試験例1 腎臓病罹患猫尿中のキラルアミノ酸一斉分離解析
(1)猫試験について
健常群(N=17)及び腎機能低下群(N=11、以下腎臓病群と記載)の猫(表1)を対象に、腎機能と尿成分関連解析を行った。なお尿採取後、現在のスタンダードであるIRIS(International Renal Interest Society:国際獣医腎臓病研究グループ)ガイドライン、物理学的補助検査(色調、尿量、尿比重、pH)及び獣医師問診に基づいた総合判断のもと分類した。健常群と腎臓病群の振り分けについては、特にIRISガイドラインに沿い、血中(血清)クレアチニン値が1.6(mg/dL)以上あるいは対称性ジメチルアルギニン(SDMA)値が18(μg/dL)以上である個体を腎臓病群とした(Stage2相当)。
【0035】
【0036】
(2)試料溶液及び標準品の調製
猫尿(自然採尿)10μLを10mLスピッチグラス(商品名:強化硬質ねじ口試験管)に入れ、メタノール:水(9:1,v/v)溶液490μLを混合後、遠心機(HITACHI製/CF5RE)にて冷蔵(4℃)で5分間、2130×g(3000rpm)にて遠心分離を行うことで除タンパクし、上清のアミノ酸を採取した。次いで、別途10mLスピッチグラスに、0.2mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.9)、採取溶液、AccQ・Tag Ultra誘導体化試薬、すなわちAQC溶液(AdipoGen製:AQC粉末を3mg/1mL,すなわち10mmol/Lの濃度で超脱水アセトニトリルに溶解)を各々70μL、10μL、20μL(7:1:2)の順番で混合し、直ちに撹拌後、55℃10分間加熱することにより誘導体化試料溶液を調製した。
同様に、0.2mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.9)、100μmol/L D、L-アミノ酸標準溶液(アミノ酸:Ala/アラニン、Arg/アルギニン、Asn/アスパラギン、Asp/アスパラギン酸、Cys/システイン、Gln/グルタミン、Glu/グルタミン酸、Gly/グリシン、His/ヒスチジン、Ile/イソロイシン、allo-Ile/アローイソロイシン、 Leu/ロイシン、Lys/リジン,Met/メチオニン、Phe/フェニルアラニン、Pro/プロリン、Ser/セリン,Thr/スレオニン、allo-Thr/アロースレオニン、Trp/トリプトファン、Tyr/チロシン,
Val/バリン、Cit/シトルリン、Orn/オルニチン、0.2mol/L ホウ酸緩衝液溶解)、AQC溶液を各々70μL、10μL、20μL(7:1:2)の順番で混合し、直ちに撹拌後、55℃で10分間加熱することにより誘導体化アミノ酸標準溶液を調製した。
【0037】
(3)LC-MS/MS分析
(2)で調製した誘導体化試料溶液及び誘導体化アミノ酸標準溶液を、下記の条件下(特許第6764778号準拠)でLC-MS/MS分析し、各種キラルアミノ酸の分離検出及び定量を行った。
(装置)
Exion LCシリーズ(AB SCIEX社)、質量分析計/QTRAP6500+
リニアイオントラップ型(AB SCIEX社)
(クロマトグラフィー分離)
分離キラルカラム:CHIRALPAK QN-AX<DAICEL社>
2.1mm内径×150mm、粒径5μm(第一のキラルカラム)及びCHIRALP AK ZWIX(+)<DAICEL社>
3.0mm内径×150mm、粒径3μm(第二のキラルカラム)をこの順序で直列接続(40℃)
溶離液:0.1%(v/v)ギ酸及び55mMギ酸アンモニウム含有メタノール:水(90:10,v/v)溶液
溶離法:アイソクラティック
移動相流量:0.25mL/min
注入量:5μL
(質量分析)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
極性:正イオン
Curtain Gas(CUR):30psi
Ionspray voltage(IS):4500V
Temperature(TEM):600℃
Ion Source Gas1(GS1):80psi
Ion Source Gas1(GS2):80psi
Collision Gas(CAD):10
(検出モード)
プリカーサーイオンにプロトンイオン付加分子([M+H]+)、プロダクトイオンに
AQCフラグメントイオン(m/z=171)を設定した正イオンモードによるSRM(Selected Reaction Monitoring)検出。
【0038】
(4)データ解析
1)キラルアミノ酸の解析
(3)で得られたデータを、保持時間とイオン強度の2軸を有するクロマトグラムに展開し、猫尿におけるAQC誘導体化各種キラルアミノ酸の解析を行った。健常群及び腎臓病群における、尿中キラルアミノ酸濃度を測定した(D-アミノ酸(DAA):D-Pro,D-Ser,D-Ala,D-Lys,D-Arg,D-His,D-Tyr,D-Gln,D-allo-Ile(aIle),D-Thr,D-allo-Thr(aThr),D-Orn,D-Val,D-Phe,D-Met,D-Glu,D-Asp,D-Asn,D-Leu,D-Trpの測定値を
図1-1及び
図1-2に示す。また、L-アミノ酸(LAA):L-Pro,L-Ser,L-Ala,L-Lys,L-Arg,L-His,L-Tyr,L-Gln,L-Ile,L-Thr,L-Orn,L-Val,L-Phe,L-Met,L-Glu,L-Asp,L-Asn,L-Leu,L-Trpの測定値を
図2-1及び
図2-2に示す。)。
そして、これらの尿中キラルアミノ酸濃度から算出した個々のキラルバランス(D体存在比率:D/(D+L)×100(%))を
図3-1及び
図3-2に示す。
【0039】
D-Asn及びD-Aspを除く17種(D-Phe,D-Met,D-Glu,D-Leu,D-Thr,D-Trp,D-Pro,D-Ser,D-Ala,D-Lys,D-Arg,D-Tyr,D-Gln,D-allo-Ile(aIle),D-allo-Thr(aThr),D-Orn,D-Val)のキラルバランスは腎臓病群では有意に低下し、D-Hisのキラルバランスは腎臓病群では有意に増加することが判明し、腎機能に関与することが確認された。このうち、D-Tyr、D-Met、D-Trp、D-Ornは、猫尿において顕著に検出される猫尿特有のアミノ酸である。
【0040】
さらに、DAAあるいはLAA総濃度を
図4に、個々のD/Lを
図5-1、5-2に、総濃度のD/Lを
図5-3に、総濃度のキラルバランス(D体存在比率:D/(D+L)×100(%))を
図5-4に示す。前述の個々のキラルバランス及び濃度に加え、総濃度、個々のDAAとLAAの量比(D/L)も腎臓病群と健常群で有意差が認められ(D-Phe,D-Glu,D-Thr,D-Trp,D-Pro,D-Ser,D-Ala,D-Tyr,D-Gln,D-aIle,D-aThr,D-Orn,D-Val)、DAAとLAAの総濃度比(D/L)及び総濃度から算出したキラルバランスも有意な低下が認められ、腎機能障害の指標として利用できることが示された。なおD-Tyr、D-Met、D-Trp、D-Orn及びD-Hisのみを抽出した総濃度も
図6に示す。同様に腎臓病群では有意な低下が認められた。
【0041】
2)有用性検証
エクセル統計処理ソフト(BellCurve for Excel,株式会社 社会情報サービス)を用いて、健常群対腎臓病群(キラルバランス、総濃度、D-アミノ酸濃度、D-アミノ酸及びL-アミノ酸の量比(D/L)におけるROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を描き、カットオフポイント(Cut off)、ROC曲線下面積(AUC)、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、p値(診断能)を各々算出した(表2:個々のキラルバランス、表3:総濃度、表4:D-アミノ酸濃度、表5:D-アミノ酸及びL-アミノ酸の量比(D/L))。なおCut offは左上隅から最も近い点とし、帰無仮説をAUC=0.50とした時の検定では、キラルバランス、(総)濃度、D-アミノ酸及びL-アミノ酸の量比(D/L)において、有意な結果となり診断能を有することが確認された。AUCが0.90以上であるDAA分子種も多数検出された。簡易的な総濃度(DAA(D-Tyr,D-Trp, D-Orn, D-Met, D-His);DAA(Total
):D-Pro,D-Ser,D-Ala,D-Lys,D-Arg,D-His,D-Tyr,D-Gln,D-aIle,D-Thr,D-aThr,D-Orn,D-Val,D-Phe,D-Met,D-Glu,D-Asp,D-Asn,D-Leu,D-Trp;LAA(Total):L-Pro,L-Ser,L-Ala,L-Lys,L-A
rg,L-His,L-Tyr,L-Gln,L-Ile,L-Thr,L-Orn,L-Val,L-Phe,L-Met,L-Glu,L-Asp,L-Asn,L-Leu,L-Trp)も腎機能評価に有用であることが見出され、尿中キラルアミノ酸(特に尿中DAA)の有用性が認められた。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
試験例2 猫尿中のD-アミノ酸の経時的推移
下記表6に示す症例1~3について、試験例1と同様にして、腎機能と尿成分関連解析を行った(猫種(1):アビシニアン(去勢♂,3~6歳)は2019年9月の血液検査でStage2の腎臓病と診断、猫種(2):シャム(♂,3~4歳)は2020年11月の血液検査でStage2の腎臓病と診断、猫種(3):ベンガル(去勢♂,4~7歳)は2016年11月の血液検査でStage2の腎臓病と診断)。
経時変化、すなわち、横断研究のみならず縦断研究においても、尿中キラルバランス(例えば、D-His、D-aIle、D-Val等)及び尿中DAA濃度(総濃度)は腎機能との連関が認められ、改めて腎機能の非侵襲評価・非侵襲モニタリングに有用であることが確認された(
図7-1,7-2,7-3)。尿中DAAは各個体を対象とした腎重症度(病態)・超早期リスクを精密に評価可能な腎モニタリング指標である。
【0047】
【0048】
試験例3 酵素法による猫尿中D,L-アミノ酸解析
(1)猫試験について
健常群(N=14)及び腎機能低下群(N=4、以下腎臓病群と記載)の猫を対象(表7)に、腎機能と尿成分関連解析を行った。
試験例1と同様、尿採取後、現在のスタンダードであるIRIS(International Renal Interest Society:国際獣医腎臓病研究グループ)ガイドライン及び獣医師問診に基づいた総合判断のもと分類した。猫尿補助検査として、pH(株式会社堀場製作所社製、コンパクトpHメータ LAQUAtwin)、尿比重(USG)(株式会社アタゴ社製、PAL-犬猫尿比重計)、尿中クレアチニン濃度(CRE)(アークレイ株式会社製、尿化学分析装置 thinka RT-4010)の測定も合わせて実施した。
【0049】
【0050】
(2)猫尿中D-アミノ酸(DAA)総濃度測定
検量線作成及び定量値算出
D-Amino Acid Assay Kit(MET-5136,Colorimetric,Cell Biolabs社製)プロトコルに準拠。キット内蔵標準品(D-Alanine)を用時調製した0,1.56,3.13,6.25,12.5,25,50,100μMの検量線を描き、猫尿中のD-アミノ酸総濃度(酸性アミノ酸を除く全D-アミノ酸)測定を実施した。
具体的には、猫尿10μLを10mLスピッチグラス(商品名:強化硬質ねじ口試験管)に入れ、キット内蔵Assay buffer(緩衝液)90μLを混合後、遠心機(HITACHI製/CF5RE)にて冷蔵(4℃)で5分間、2130×g(3000rpm)にて遠心分離を行うことで除タンパクし、上清のアミノ酸を採取した。次いで、上記の用時調製標準液50μL及び猫尿50μLを各々96穴マイクロプレート(No.655801,Greiner bio-one社製)に添加した。次いで、各々にキット内蔵酵素反応液(Colorimetric Probe,HRP,D-Amino Acid Oxidase混液)50μL添加し、直ちに遮光下で混合後、1時間37℃にて保温した(D-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)反応)。最終的にマイクロプレートリーダー(SH-9000 Lab,コロナ電気株式会社製)を使用して酵素反応液中のDAA総濃度測定(波長570nm)を行った。
【0051】
(3)猫尿中L-アミノ酸(LAA)総濃度測定
検量線作成及び定量値算出
L-Amino Acid Assay Kit(MET-5054,Colorimetric,Cell Biolabs社製)プロトコルに準拠。キット内蔵標準品(L-Alanine)を用時調製した0,62.5,125,250,500,1000μMの検量線を描き、猫尿中の全L-アミノ酸総濃度測定を実施した。
具体的には、猫尿10μLを10mLスピッチグラス(商品名:強化硬質ねじ口試験管)に入れ、キット内蔵Assay buffer(緩衝液)990μLを混合後、遠心機(HITACHI製/CF5RE)にて冷蔵(4℃)で5分間、2130×g(3000rpm)にて遠心分離を行うことで除タンパクし、上清のアミノ酸を採取した。次いで、上記の用時調製標準液50μL及び猫尿50μLを各々96穴マイクロプレート(No. 655801,Greiner bio-one社製)に添加した。次いで、各々にキット内蔵酵素反応液(Colorimetric Probe,HRP,L-Amino Acid Oxidase混液)50μL添加し、直ちに遮光下で混合後、3時間37℃にて保温した(L-アミノ酸オキシダーゼ(LAO)反応)。
最終的にマイクロプレートリーダー(SH-9000 Lab,コロナ電気株式会社製)を使用して酵素反応液中のLAA総濃度測定(波長570nm)を行った。
【0052】
(4)データ解析
1)猫尿中DAA関連指標の解析
健常群及び腎臓病群における酵素法により測定されたDAA総濃度、総濃度キラルバランス(D体存在比率:酵素法により測定されたDAA総濃度/(酵素法により測定されたDAA総濃度+酵素法により測定されたLAA総濃度)×100(%)、総濃度比(酵素法により測定されたDAA総濃度/酵素法により測定されたLAA総濃度)と同相関)、酵素法により測定されたDAA総濃度/尿中CRE濃度比及び酵素法により測定されたDAA総濃度/USG比を示す(
図8-1,8-2,8-3,8-4)。
【0053】
2)有用性検証
エクセル統計処理ソフト(BellCurve for Excel,株式会社 社会情報サービス)を用いて、健常群対腎臓病群(猫尿中DAA関連指標)におけるROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を描き、カットオフポイント(Cut off)、ROC曲線下面積(AUC)、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、p値(診断能)を各々算出した(表8)。なおCut offは左上隅から最も近い点とし、帰無仮説をAUC=0.50とした時の検定では、猫尿中DAA関連指標は診断能を有することが確認された。酵素法によるDAA総濃度及びその関連比率は腎機能評価に特に有用であることが見出された。
【0054】