(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】発光素子及び表示パネル
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20241118BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20241118BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241118BHJP
H10K 85/00 20230101ALI20241118BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20241118BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20241118BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K50/15
H10K59/10
H10K85/00
G09F9/30 365
H10K101:40
(21)【出願番号】P 2023521623
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 CN2021118821
(87)【国際公開番号】W WO2022127231
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】202011476315.5
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520032974
【氏名又は名称】云谷(固安)科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100112656
【氏名又は名称】宮田 英毅
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】劉孟宇
(72)【発明者】
【氏名】高宇
(72)【発明者】
【氏名】王曉文
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109346500(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0040678(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第108963093(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光色が赤色又は緑色のいずれかの色光の原色である発光素子であって、
ホスト材料を含む発光層と、
正孔を搬送しかつ前記発光層の正孔注入側に設置される補償層とを備え、
前記発光素子は点灯状態及び動作状態を有し、前記発光素子は、前記点灯状態での点灯電圧が前記動作状態での動作電圧より低く、
前記点灯状態において、前記ホスト材料の活性化エネルギーと前記補償層の活性化エネルギーとの間に第1の活性化エネルギー差ΔEa
1を有し、前記第1の活性化エネルギー差はΔEa
1<0eVを満た
し、
前記発光素子は前記発光層の正孔注入側に設置された正孔転送層をさらに備え、前記補償層は前記正孔転送層と前記発光層との間に設置され、
前記点灯状態において、前記補償層の活性化エネルギーはいずれも前記正孔転送層の活性化エネルギーと前記ホスト材料の活性化エネルギーより高く、
前記点灯状態において、前記補償層の活性化エネルギーと前記正孔転送層の活性化エネルギーとの間に第2の活性化エネルギー差ΔEa
2
を有し、前記第2の活性化エネルギー差ΔEa
2
の数値範囲は0.2eV~0.3eVである発光素子。
【請求項2】
前記第1の活性化エネルギー差ΔEa
1の値は-0.12eV~-0.08eVである請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記発光素子は、発光層の正孔注入側に設けられる正孔注入層をさらに備え、且つ
発光層の正孔注入方向に沿って、前記正孔注入層、前記正孔転送層及び前記補償層が順に積層して設けられる請求項
1に記載の発光素子。
【請求項4】
前記動作状態において、前記ホスト材料と前記補償層との間に第4の活性化エネルギー差ΔEa
4を有し、前記第4の活性化エネルギー差はΔEa
4≧0eVを満たす請求項
3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記補償層の活性化エネルギーは前記正孔転送層の活性化エネルギーと前記ホスト材料の活性化エネルギーとの間にあり、又は
前記第4の活性化エネルギー差ΔEa
4の数値範囲は0eV~0.05eVである請求項
4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記動作状態において、前記補償層の正孔注入側に積層して設けられた正孔転送層の活性化エネルギーが前記補償層の活性化エネルギーよりも低く、
前記動作状態において、前記補償層の活性化エネルギーと前記正孔転送層の活性化エネルギーとの間に第5の活性化エネルギー差ΔEa
5を有し、前記第5の活性化エネルギー差ΔEa
5の数値範囲は0.08eV~0.12eVであり、
前記動作状態において、前記ホスト材料の活性化エネルギーと前記正孔転送層の活性化エネルギーとの間に第6の活性化エネルギー差ΔEa
6を有し、前記ΔEa
6の数値範囲は0.1eV~0.2eVである請求項
5に記載の発光素子。
【請求項7】
前記発光層は前記ホスト材料にドープされたゲスト材料をさらに含む請求項1に記載の発光素子。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の発光素子を含む表示パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年12月15日に提出された名称「発光素子及び表示パネル」である中国特許出願の第202011476315.5号の優先権を要求し、該出願の全ての内容は引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本願は、表示技術分野に関し、具体的には発光素子及び表示パネルに関する。
【背景技術】
【0003】
電子機器の急速な発展に伴い、有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode、OLED)表示パネルは高画質、省電力、機体薄及び応用範囲が広いなどの利点を有するため、携帯電話、テレビ、パーソナルデジタルアシスタント、デジタルカメラ、ノートパソコン、デスクトップコンピュータなどの様々な消費性電子製品に広く応用され、表示分野における主な表示パネルとなってきた。
【0004】
OLED表示パネルにおいて赤色光、緑色光及び青色光の発光素子の点灯電圧が一致しないため、表示パネルは、低階調で表示する場合、一般的に真の白色光画像をよく保持できず、表示の色ずれの現象が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本願の実施例の一つの態様は発光素子を提供し、その発光色が赤色又は緑色のいずれかの色光の原色であり、ホスト材料を含む発光層と、正孔を搬送しかつ発光層の正孔注入側に設置される補償層とを備え、発光素子は点灯状態及び動作状態を有し、発光素子は、点灯状態での点灯電圧が動作状態での動作電圧より低く、点灯状態で、ホスト材料の活性化エネルギーと補償層の活性化エネルギーとの間に第1の活性化エネルギー差ΔEa1を有し、第1の活性化エネルギー差はΔEa1<0eVを満たす。
【0006】
本願の実施例の一つの態様に係る発光素子は高い点灯電圧を有し、青色光の発光素子の点灯電圧との差が縮小されるので、表示パネルは、低階調で表示する場合に表示の色ずれが発生するという問題を回避し、表示パネルの発色精度を向上させる。
【0007】
本願の実施例の他の態様は、本願の一つの態様の発光素子を有する表示パネルを提供する。本願の実施例の別の態様の表示パネルは、発色精度が高く、表示効果が良い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本願の一つの態様の比較例1における第1の赤色発光素子の点灯状態での各機能層の活性化エネルギーのエネルギー準位の関係図である。
【
図2】本願の一つの態様の比較例1における第1の赤色発光素子の動作状態での各機能層の活性化エネルギーのエネルギー準位の関係図である。
【
図3】本願の一つの態様の実験例1における第2の赤色発光素子の点灯状態での各機能層の活性化エネルギーのエネルギー準位の関係図である。
【
図4】本願の一つの態様の実験例1における第2の赤色発光素子の動作状態での各機能層の活性化エネルギーのエネルギー準位の関係図である。
【
図5】本願の一つの態様の比較例2における第1の緑色発光素子の点灯状態での各機能層の活性化エネルギーのエネルギー準位の関係図である。
【
図6】本願の一つの態様の比較例2における第1の緑色発光素子の動作状態での各機能層の活性化エネルギーのエネルギー準位の関係図である。
【
図7】本願の一つの態様の実験例2における第2の緑色発光素子の点灯状態での各機能層の活性化エネルギーのエネルギー準位の関係図である。
【
図8】本願の一つの態様の実験例2における第2の緑色発光素子の動作状態での各機能層の活性化エネルギーのエネルギー準位の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明者らは、検討の上で、表示パネルは、低階調で表示する過程において、赤色、緑色及び青色の発光素子の点灯電圧が異なるため、表示パネルの表示面が純白色の表示を行うことができないと分かる。表示パネルは、低階調で白画面を表示する場合に、単色が純粋でないことや色歪みの色ずれ現象が存在する。E=hc/λの式に応じて異なる色の発光素子の点灯電圧を計算し、理論的には青色発光素子の点灯電圧は2.7Vであり、緑色発光素子の点灯電圧は2.34Vであり、赤色発光素子の点灯電圧は2.0Vである。上記式においてh=6.626×1034(m2kg/s)、c=3×108(m/s)、1eV=1.6×10-19(J)、J=kg×m2/s2、青色光の波長が460nmであり、緑色光の波長が530nmであり、赤色光の波長が520nmである。赤色発光素子の点灯電圧及び緑色発光素子の点灯電圧はいずれも青色発光素子の点灯電圧より低いため、青色発光素子を点灯すると、表示パネルにクロストーク電流が発生し、赤色発光素子及び/又は緑色がわずかに点灯され、表示パネルに表示の色ずれが発生する。
【0010】
これに対し、本願の一つの態様は発光素子を提供し、その発光色が赤色又は緑色のうちのいずれか一つの色光の原色である。発光素子は発光層及び正孔を搬送しかつ発光層の正孔注入側に設置されている補償層を含み、発光層はホスト材料を含む。発光素子は点灯状態及び動作状態を有し、発光素子の点灯状態での点灯電圧は発光素子の動作状態での動作電圧より低い。
【0011】
点灯状態で、ホスト材料の活性化エネルギーと補償層の活性化エネルギーとの間に第1の活性化エネルギー差ΔEa1を有し、第1の活性化エネルギー差がΔEa1<0eVを満たす。
【0012】
いくつかの選択可能な実施例において、第1の活性化エネルギー差ΔEa1の値は-0.12eV~-0.08eVである。
【0013】
本願の一つの態様に係る発光素子は、点灯状態で点灯電圧が向上され、点灯電圧が高い他の発光素子(例えば青色発光素子)が点灯する時に発生する電流クロストークから保護され、自身の点灯状態への影響を回避することができる。本願の一つの態様に係る発光素子は表示パネルの低階調で表示する時の発色精度を向上させ、表示効果及びユーザ体験を向上させる。
【0014】
本願の実施例における活性化エネルギーは、電子又は正孔が発光素子の異なる機能層の間に伝達する時に抗すべき障壁を指す。本願の実施例における単層又は複数層の機能層の活性化エネルギーは、電子(又は正孔)が陰極側(又は陽極側)から単層又は複数層の機能層を流れて抗すべき障壁と理解することができ、機能層は発光素子におけるキャリア層及び発光層を指す。発光素子におけるキャリア層は、電子転送層、正孔ブロック層、補償層、正孔転送層および正孔注入層などを含む。あるいは、本願の実施例における活性化エネルギーは、電子が陰極側から電子キャリアの機能層を流れる必要なエネルギー、正孔が陽極側から正孔キャリアの機能層を流れる必要なエネルギーと理解することができる。
【0015】
機能層が単一の材料で構成される場合、該材料の活性化エネルギーEaは該機能層に対応する活性化エネルギーEaである。機能層が2種類又は2種類以上の材料で構成される場合、該機能層の活性化エネルギーの計算方式は以下のとおりであってもよい。まず各材料の活性化エネルギーと各材料に対応する質量モル分率の乗算値を取得し、次に上記各乗算値を加算することにより、機能層の全体的な活性化エネルギーを取得する。
【0016】
活性化エネルギーは、アレニウス(Arrhenius)の式であるEa=E0+mRTを用いて計算することで取得することができ、Eaは活性化エネルギーであり、E0及びmは温度と無関係な定数であり、Tは温度であり、Rはモル気体定数である。つまり、上記式から分かるように、活性化エネルギーは温度に関連する。また、上記計算式により得られた活性化エネルギーの単位はジュールJであり、簡単な換算式により上記活性化エネルギーの単位をエレクトロンボルトeVに変換することができ、換算式は1eV=1.602176565×10-19Jである。本願の実施例においてEaを計算する基礎式が与えられ、当業者は本願の実施例に与えられた基礎アレニウス(Arrhenius)の式又は該アレニウス(Arrhenius)の式の様々な変形に基づいてEaを計算することができる。
【0017】
いくつかの実施例において、発光素子における発光層の正孔注入側に位置するキャリア層と発光層の活性化エネルギーを計算し、正孔注入側のキャリア層の間の活性化エネルギー差、及び発光層と正孔注入側のキャリア層との間の活性化エネルギー差を計算することは、いずれも下記のように実現できる。即ち、正孔オンリー素子を作製し、かつ正孔オンリー素子に通電テストを行うことにより正孔オンリー素子のI-V曲線(すなわち電流-電圧曲線)を取得し、正孔オンリー素子のI-V曲線を取得する上でアレニウス(Arrhenius)の式又は該アレニウス(Arrhenius)の式の様々な変形を採用して活性化エネルギーを計算して取得することができる。なお、本願の実施例における正孔オンリー素子は正孔のみの通過を許可する。
【0018】
具体的な例として、発光素子における正孔転送層とホスト材料の活性化エネルギーとの間の差ΔEaを計算する場合、正孔転送層を有する第1の正孔オンリー素子を作製し、第1の正孔オンリー素子に通電テストを行い、第1のI-V曲線を得て、アレニウス(Arrhenius)の式を用いて正孔転送層のEa1を計算する。正孔転送層及び発光層(ホスト材料のみを有する)を有する第2の正孔オンリー素子を作製し、第2の正孔オンリー素子に通電テストを行うことにより、正孔が正孔転送層から発光層へ流れ、第2のI-V曲線を得て、アレニウス(Arrhenius)の式を採用して正孔転送層及び発光層(ホスト材料のみを有する)のEa2を計算する。差計算法を利用することができ、すなわちΔEa=Ea2-Ea1に基づいて、発光素子における正孔転送層の活性化エネルギーとホスト材料の活性化エネルギーとの間の差ΔEaを計算する。正孔オンリー素子は、正孔のみを通過させる。
【0019】
いくつかの例において、正孔のみを通過させる第1の正孔オンリー素子を作製し、第1の正孔オンリー素子は積層設置された陽極、第1の正孔転送層、電子ブロック層及び陰極を含む。正孔のみを通過させる第2の正孔オンリー素子を作製し、該第2の正孔オンリー素子は積層設置された陽極、第2の正孔転送層、発光層(ホスト材料のみを有する)、電子ブロック層及び陰極を含む。ここで第1の正孔転送層と第2の正孔転送層は同じであり、第1の正孔オンリー素子と第2の正孔オンリー素子は発光層のみ(ホスト材料のみを有する)を単変数として通電テストを行う。また、電子ブロック層は、陰極で生成された電子が正孔オンリー素子での転送を堰き止めることができ、正孔オンリー素子が正孔転送のみを許可するという目的を達成する。
【0020】
いくつかの実施例において、発光素子における発光層の電子注入側に位置するキャリア層と発光層の活性化エネルギーを計算し、電子注入側のキャリア層の間の活性化エネルギー差、及び発光層と電子注入側のキャリア層との間の活性化エネルギー差を計算することは、いずれも下記のように実現できる。即ち、単一電子素子を作製し、かつ単一電子素子に通電テストを行うことにより、単一電子素子のI-V曲線(すなわち電流-電圧曲線)を取得し、単一電子素子のI-V曲線を取得する上でアレニウスプロット(Arrhenius)の式又は該アレニウスプロット(Arrhenius)の式の様々な変形を採用して活性化エネルギーを計算して取得することができる。
【0021】
本願の実施例において単一電子素子は電子のみの通過を許可する。具体的な例として、発光素子における電子転送層とホスト材料の活性化エネルギーとの間の差ΔEa’を計算する場合、電子転送層を有する第1の単一電子素子を作製し、第1の単一電子素子に通電テストを行い、第1のI-V曲線を得て、アレニウス(Arrhenius)の式を用いて電子転送層のEa1’を計算して得る。電子転送層及び発光層(ホスト材料のみを有する)を有する第2の単一電子素子を作製し、第2の単一電子素子に通電テストを行うことにより、電子が電子転送層から発光層へ流れ、第2のI-V曲線を得て、アレニウス(Arrhenius)の式を用いて電子転送層及び発光層(ホスト材料のみを有する)のEa2’を計算して得る。差計算法を利用することができ、すなわちΔEa’=Ea2’-Ea1’に基づいて、発光素子における電子転送層の活性化エネルギーとホスト材料の活性化エネルギーとの間の差ΔEa’を計算する。
【0022】
いくつかの例において、電子のみの通過を許可する第1の単一電子素子を作製し、第1の単一電子素子は積層設置された陽極、正孔ブロック層、第1の電子転送層及び陰極を含む。電子のみの通過を許可する第2の単一電子素子を作製し、該第2の単一電子素子は積層設置された陽極、正孔ブロック層、発光層(ホスト材料のみを有する)、第2の電子転送層及び陰極を含む。第1の電子転送層と第2の電子転送層は同じであり、第1の単一電子素子と第2の単一電子素子は発光層のみ(ホスト材料のみを有する)を単変数として通電テストを行う。正孔ブロック層は陽極で生成された正孔が単一電子素子での転送を堰き止めることができ、単一電子素子が電子転送のみを許可する目的を実現できる。
【0023】
他の実施例において、機能層の活性化エネルギーは熱重量分析の方法を採用して得ることができる。例えば正孔転送層、補償層又は発光層中のホスト材料に対してそれぞれ熱重量分析を行い、熱重量分析構造に基づいて上記各機能層の活性化エネルギーを直接計算して取得する。熱重量分析とは、プログラム制御の温度で、物質質量の温度(又は時間)に伴う変化関係を取得する分析方法を指す。熱重量分析技術を利用して熱重量曲線を取得した後、差減微分(Freeman-Carroll)法又は積分(OWAZa)法などにより平均活性化エネルギーを計算して取得することができる。
【0024】
一般的には、最高被占分子軌道HOMO及び最低非占有分子軌道LUMOを利用して発光素子における各機能層のエネルギー準位整合状況を判断し、最高被占分子軌道HOMO及び最低非占有分子軌道LUMOに基づいて予測して得られたエネルギー準位整合状況により、OLED表示パネルにおける発光素子の各機能層材料の選択を行う。HOMO及びLUMOはキャリアの注入効率のみを考慮し、温度、キャリア転送などのような他の要因の、キャリアの各機能層での転送過程への影響を総合的に考慮しない。したがって、最高被占分子軌道HOMO及び最低非占有分子軌道LUMOを用いて発光素子における各機能層のエネルギー準位整合状況を判断することにより各機能層の間のエネルギー準位差の計算結果のずれが大きくなりやすく、予想に合致する発光素子を設計することができない。
【0025】
本願の実施例において発光素子における機能層の活性化エネルギー及び各機能層の間の活性化エネルギーの差を用いて発光素子を設計して得て、発光素子における実際の機能層の間のキャリアの注入、キャリアの転送及び温度などの多方面の要因を総合することができ、発光素子の点灯状態及び/又は動作状態での各機能層の活性化エネルギーの間の差関係(すなわち各機能層の間のエネルギー障壁関係)をより正確に定義することができる。本願の実施例における発光素子の各機能層の活性化エネルギーの間の差関係に合致して赤色又は緑色の発光素子が点灯状態で点灯電圧が低すぎるという問題をよりよく解決することができ、さらに発光素子がクロストーク電流の影響を受けた後に表示パネルの低階調での表示の色ずれを引き起こすという問題をよく解決することができる。
【0026】
いくつかの選択可能的な実施例において、本願の第1の態様の発光素子における第1の活性化エネルギー差ΔEa1の値は-0.12eV~-0.08eVである。
【0027】
いくつかの選択可能的な実施例において、発光素子はさらに発光層の正孔注入側に設置されている正孔転送層を含み、補償層は正孔転送層と発光層との間に設置される。発光素子における正孔転送層及び補償層はいずれも正孔を転送するために用いられる。発光素子の点灯状態で、補償層の活性化エネルギーはいずれも正孔転送層とホスト材料の活性化エネルギーより高い。これらの実施例において、発光素子における補償層は発光素子が点灯状態にある時に正孔転送層とホスト材料との間の正孔転送エネルギー障壁層に相当し、正孔は正孔転送層から補償層が所在される活性化エネルギー準位を跨いで発光層に流入すると、該発光素子に対してより多くの電流を印加して初めて、正孔が正孔転送層から発光層の発光材料に伝達することを実現できる。発光素子が発光する過程において、より多くの電流を印加することは以下のように表現される。正孔が正孔転送層から発光層の発光材料に伝達されることを実現するために、発光素子に対してより多くの電圧を印加する必要があり、したがって、発光素子の点灯電圧の向上にさらに役立つことができる。
【0028】
いくつかの選択可能的な実施例において、発光素子は点灯状態で、補償層と正孔転送層の活性化エネルギーとの間に第2の活性化エネルギー差ΔEa2を有し、第2の活性化エネルギー差ΔEa2の数値範囲は0.2eV~0.3eVである。
【0029】
いくつかの選択可能的な実施例において、発光素子は点灯状態で、ホスト材料と正孔転送層との間に第3の活性化エネルギー差ΔEa3を有し、ΔEa3の数値範囲は0.1eV~0.2eVである。
【0030】
いくつかの選択可能的な実施例において、点灯状態で、発光素子のホスト材料と補償層の活性化エネルギーとの間に第1の活性化エネルギー差ΔEa1を有し、ΔEa1<0eVを満たす。発光素子の動作状態で、発光素子のホスト材料と補償層との間に第4の活性化エネルギー差ΔEa4を有し、第4の活性化エネルギー差はΔEa4≧0eVを満たす。
【0031】
いくつかの実施例において、第4の活性化エネルギー差ΔEa4の数値範囲は0eV~0.05eVである。これらの実施例において、発光素子は点灯状態での点灯電圧が向上され、同時に発光素子の動作状態(駆動状態又は操作状態とも呼ばれる)での動作電圧が基本的に一定に維持される。
【0032】
これらの実施例において、発光素子の点灯電圧の向上により、電流クロストークの影響による発光素子の誤点灯を回避することができ、表示パネルの色ずれ特に低階調低輝度時の色ずれが発生することを回避し、表示精度を向上させる。発光素子が動作状態にある場合、発光素子の動作電圧は基本的に一定に維持されて発光素子の発光効率及び発光輝度などのパラメータが影響を受けないことを確保でき、さらに表示パネルの表示効果を確保する。発光素子は点灯状態で低階調にあり、かつ発光素子の点灯状態での発光輝度は発光素子の動作状態での発光輝度に対して低輝度である。発光素子は動作状態で高階調にあり、かつ発光素子の動作状態での発光輝度は、発光素子の点灯状態での発光輝度に対して高輝度である。
【0033】
いくつかの例において、低階調の範囲は0階調~64階調であり、高階調の範囲は250階調~255階調である。理論的には青色発光素子の点灯電圧は2.7Vであり、緑色発光素子の点灯電圧は2.34Vであり、赤色発光素子の点灯電圧は2.0Vである。一般的に、青色、緑色及び赤色発光素子の動作電圧の数値範囲は3.5V~4.0Vであり、青色発光素子の動作電圧は緑色発光素子の動作電圧より高い、緑色発光素子の動作電圧は赤色発光素子の動作電圧より高い。
【0034】
いくつかの選択可能的な実施例において、動作状態での発光素子において補償層の正孔注入側に積層設置されている正孔転送層の活性化エネルギーは補償層の活性化エネルギーより低い。そして、発光素子のホスト材料と補償層との間に第4の活性化エネルギー差ΔEa4を有し、第4の活性化エネルギー差はΔEa4≧0eVを満たす。すなわち、補償層の活性化エネルギーは正孔転送層の活性化エネルギーと発光層のホスト材料の活性化エネルギーとの間にある。これらの選択可能な実施例において、補償層の活性化エネルギーは正孔転送層の活性化エネルギーとホスト材料の活性化エネルギーとの間にあるため、発光素子の動作状態での動作電圧が基本的に一定に維持され、向上されなく、発光素子の発光効率を確保しながら発光素子の電力消費が大きすぎることを回避する。また、補償層の活性化エネルギーが正孔転送層の活性化エネルギーとホスト材料の活性化エネルギーとの間にあることは、正孔転送層とホスト材料との間に正孔注入準位バッファ層を形成することに相当し、正孔転送層からホスト材料に転送する過程における正孔の転送効率及び質量をさらに向上させ、ホスト材料と正孔転送層との間に大きな活性化エネルギー差により生成された接合面衝撃を回避し、発光素子の耐用年数を向上させることができる。
【0035】
いくつかの選択可能な実施例において、発光素子は動作状態である場合、補償層の活性化エネルギーと正孔転送層の活性化エネルギーとの間に第5の活性化エネルギー差ΔEa5を有し、第5の活性化エネルギー差ΔEa5の数値範囲は0.08eV~0.12eVである。
【0036】
いくつかの選択可能な実施例において、発光素子は動作状態である場合、発光層のホスト材料の活性化エネルギーと正孔転送層の活性化エネルギーとの間に第6の活性化エネルギー差ΔEa6を有し、ΔEa6の数値範囲は0.1eV~0.2eVである。
【0037】
いくつかの実施例において、発光素子は動作状態である場合、ホスト材料の活性化エネルギーと補償層の活性化エネルギーとの間の第4の活性化エネルギー差ΔEa4の数値範囲は0eV~0.05eVである。
【0038】
いくつかの選択可能な実施例において、発光素子の発光層はホスト材料及びホスト材料にドープされるゲスト材料を含む。
【0039】
いくつかの実施例において、発光素子は発光層の正孔注入側に設置されかつ発光層の正孔注入方向に積層される正孔注入層、正孔転送層及び補償層を含む。発光素子は、発光層の電子注入側に設置され且つ発光層の電子注入方向に積層される電子転送層と、正孔ブロック層とをさらに含む。
【0040】
本願の一つの態様に係る発光素子が表示パネルの低階調の色ずれを解決する効果をさらに示すために、以下の二つのグループの比較実験を設計する。第1のグループの実験は赤色発光素子の点灯電圧及び動作電圧のテスト実験である。第2のグループの実験は緑色発光素子の点灯電圧及び動作電圧のテスト実験である。
【0041】
第1のグループの実験は、比較例1および実験例1を含む。比較例1において正孔転送層、補償層及び発光層を含む第1の赤色発光素子を作製して点灯電圧及び動作電圧のテストを行う。また、比較例1の第1の赤色発光素子における発光層は、第1の赤色ホスト材料を有する。比較例1における第1の赤色発光素子が点灯状態にある場合に正孔転送層、補償層及び発光層の活性化エネルギー関係は
図1に示し、HT-1は正孔転送層を示し、R′-1は赤色補償層を示し、RH-1は赤色ホスト材料を示す。Fは正孔注入方向を示し、Eは電子注入方向を示し、正孔注入方向に正孔転送層の活性化エネルギーは補償層の活性化エネルギーより小さく、かつ補償層の活性化エネルギーは赤色ホスト材料の活性化エネルギーより小さい。比較例1における第1の赤色発光素子の動作状態での正孔転送層、補償層及び発光層の活性化エネルギー関係は
図2に示し、正孔注入方向に正孔転送層の活性化エネルギーは補償層の活性化エネルギーより小さく、かつ補償層の活性化エネルギーは赤色ホスト材料の活性化エネルギーより小さい。
【0042】
第1のグループの実験における実験例1では、正孔転送層、補償層および発光層を含む第2の赤色発光素子を作製し、点灯電圧および動作電圧のテストを行う。また、実験例1における発光層は第1の赤色ホスト材料を有し、かつ実験例1の第2の赤色発光素子において補償層が比較例1と異なり、他の機能層がいずれも同じであり、すなわち実験例1と比較例1において補償層のみを変数として実験を行う。実験例1における第2の赤色発光素子が点灯状態にある場合に正孔転送層、補償層及び発光層の活性化エネルギー関係は
図3に示し、正孔注入方向に正孔転送層の活性化エネルギーは第1の赤色ホスト材料の活性化エネルギーより低く、かつ補償層の活性化エネルギーは第1の赤色ホスト材料の活性化エネルギー及び正孔転送層の活性化エネルギーより高い。実験例1における第2の赤色発光素子が動作状態にある場合に正孔転送層、補償層及び発光層の活性化エネルギー関係は
図4に示し、正孔注入方向に正孔転送層の活性化エネルギーは補償層の活性化エネルギーより小さく、かつ補償層の活性化エネルギーは第1の赤色ホスト材料の活性化エネルギーより小さい。
【0043】
表1は比較例1及び実験例1のテスト実験結果である。
【0044】
【0045】
表1において、Vonは点灯電圧を表し、Vdは動作電圧を表し、Eff.は効率(cd/A)を表す。表1から分かるように、実験例1の点灯電圧は比較例1の点灯電圧に対して0.24V向上され、実験例1の動作電圧と比較例1の動作電圧との間の差は-0.03Vであり、これは実験例1の動作電圧が比較例1の動作電圧に基本的に相当することを表す。したがって、第1のグループの実験から明らかにわかるように、本願の実施例の発光素子は点灯状態で点灯電圧が向上され、同時に動作状態で動作電圧が基本的に一定に維持され、発光素子は表示パネルの低階調で表示する時のクロストーク電流の悪影響から保護され、表示パネルの表示色ずれの問題を回避し、表示パネルの発色、特に低階調時の発色の精度をさらに向上させることができる。
【0046】
第2のグループの実験には、比較例2および実験例2が含まれる。比較例2において正孔転送層、補償層及び発光層を含む第1の緑色発光素子を作製して点灯電圧及び動作電圧のテストを行う。比較例2における正孔オンリー素子の発光層は第1の緑色ホスト材料を有し、比較例2における第1の緑色発光素子が点灯状態にある場合に正孔転送層、補償層及び発光層の活性化エネルギー関係は
図5に示し、正孔注入方向に正孔転送層の活性化エネルギーは補償層の活性化エネルギーより小さく、かつ補償層の活性化エネルギーは第1の緑色ホスト材料の活性化エネルギーより小さい。比較例2における第1の緑色発光素子の動作状態での正孔転送層、補償層及び発光層の活性化エネルギー関係は
図6に示し、正孔注入方向に正孔転送層の活性化エネルギーは補償層の活性化エネルギーより小さく、かつ補償層の活性化エネルギーは第1の緑色ホスト材料の活性化エネルギーより小さい。
【0047】
第2のグループの実験における実験例2では、正孔転送層、補償層および発光層を有する第2の緑色発光素子を作製し、点灯電圧および動作電圧のテストを行った。また、実験例2における発光層は第1の緑色ホスト材料を有し、かつ実験例2の第2の緑色発光素子における補償層は比較例2と異なり、他の機能層はいずれも同じである。すなわち、実験例2と比較例2において補償層のみを変数として実験を行う。実験例2における第2の緑色発光素子が点灯状態にある場合に正孔転送層、補償層及び発光層の活性化エネルギー関係は
図7に示し、正孔注入方向に正孔転送層の活性化エネルギーは第1の緑色ホスト材料の活性化エネルギーより低く、かつ補償層の活性化エネルギーはいずれも第1の緑色ホスト材料の活性化エネルギー及び正孔転送層の活性化エネルギーより高い。実験例2における第2の緑色発光素子の動作状態での正孔転送層、補償層及び発光層の活性化エネルギー関係は
図8に示し、正孔注入方向に正孔転送層の活性化エネルギーは補償層の活性化エネルギーより小さく、かつ補償層の活性化エネルギーは第1の緑色ホスト材料の活性化エネルギーより小さい。
【0048】
表2は比較例2及び実験例2のテスト実験結果である。
【0049】
【0050】
表2においてVonは点灯電圧を表し、Vdは動作電圧を表し、Eff.は効率(cd/A)を表す。表2から分かるように実験例2の点灯電圧は比較例2の点灯電圧に対して0.17V向上され、実験例2の動作電圧と比較例2の動作電圧との間の差は-0.05Vであり、実験例2の動作電圧が比較例2の動作電圧に基本的に相当することを表す。したがって第2のグループの実験から明らかなように、本願の実施例の発光素子は点灯状態で点灯電圧が向上し、及び動作状態での動作電圧が基本的に一定に維持され、発光素子は表示パネルの低階調で表示する時のクロストーク電流の影響から保護され、表示パネルの表示色のずれの問題を回避し、さらに表示パネルの発色、特に低階調時の発色の精度を向上させる。
【0051】
本願の他の態様は、本願の一つの態様の発光素子を有する表示パネルを提供する。本願の別の態様の表示パネルは、発色精度が高く、表示効果が高い。