(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20241118BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20241118BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20241118BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20241118BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20241118BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241118BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20241118BHJP
【FI】
C08L67/04 ZNM
C08L1/02 ZBP
D01F6/92 307Z
D01F6/62 305A
C08J3/20 Z CEP
C08J3/20 Z CFD
C08J5/18 CEP
C08J5/18 CFD
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2024041660
(22)【出願日】2024-03-15
【審査請求日】2024-03-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505417437
【氏名又は名称】MNインターファッション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小森 一廣
(72)【発明者】
【氏名】有田 稔彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 雅弘
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/193193(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/050286(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第116120723(CN,A)
【文献】特開2014-162880(JP,A)
【文献】特開2017-095628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
C08J 3/20
C08J 5/18
D01F 6/92
D01F 6/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸に化学変性されていないセルロースナノクリスタルのみを均一に分散され、
前記ポリ乳酸に均一に分散されたセルロースナノクリスタルの量が、作製される混合物全重量の0.01~60.0重量%であることを特徴とする
ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸に均一に分散されたセルロースナノクリスタルが、塩酸による加水分解によって生成された一度も化学変性されていないセルロースナノクリスタルであり、結晶化度が90%以上のセルロースナノクリスタルであることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸に均一に分散されたセルロースナノクリスタルによる結晶核効果により、ポリ乳酸の結晶化度と結晶化速度が向上し、複数の結晶間に跨るタイ分子の形成による結晶ネットワーク構造を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項4】
前記ポリ乳酸に均一に分散されたセルロースナノクリスタルの最大粒子径が、2-プロパノールを分散溶媒とした粒度分布測定で60μm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項5】
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の改良される物性が耐熱性および/または強靭性であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項6】
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の改良される物性が強度、伸度、弾性率のいずれかの物性であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項7】
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の使用用途が繊維であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項8】
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の使用用途がフィルム・シートであることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項9】
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の使用用途が射出成形や押出成形、ブロー成形、プレス成形の何れかの成形方法で形成された成形物であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【請求項10】
ポリ乳酸に、化学変性されていないセルロースナノクリスタルを添加し、混合する工程を含み、
ポリ乳酸に添加されるセルロースナノクリスタルの量が、作製される混合物全重量の0.01~60.0重量%であることを特徴とするポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【請求項11】
ポリ乳酸に添加されるセルロースナノクリスタルが、セルロース原料を塩酸による加水分解をすることによって生成された、一度も化学変性されていないセルロースナノクリスタルであることを特徴とする、請求項10に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【請求項12】
ポリ乳酸に添加したセルロースナノクリスタルによる結晶核効果により、ポリ乳酸の結晶化度と結晶化速度を向上させ、複数の結晶間に跨るタイ分子の形成による結晶ネットワーク構造を形成することにより物性を改良する、請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【請求項13】
ポリ乳酸に添加されるセルロースナノクリスタルの最大粒子径が、2-プロパノールを分散溶媒とした粒度分布測定で60μm以下であることを特徴とする請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【請求項14】
ポリ乳酸およびセルロースナノクリスタル混合物の製造方法によって改良される物性が耐熱性および/または強靭性であることを特徴とする請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【請求項15】
ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法によって改良される物性が強度、伸度、弾性率のいずれかの物性であることを特徴とする請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【請求項16】
セルロースナノクリスタルをポリ乳酸に添加する方法が、下記の(1)の要件を満足し、ポリ乳酸内でセルロースナノクリスタルが均一に分散していることを特徴とする請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
(1) ポリ乳酸の重合からペレット形成の工程のいずれかの工程時に、セルロースナノクリスタルを作製される混合物全重量の0.01~60.0重量%になるように添加する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性プラスチックに属する。より詳しくは、生分解性樹脂であるPLAの最大の特徴である生分解性を保ちながら、使用用途に応じて物性を改良することを特徴とするPLA、CNC混合物に属するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、石油を原材料とした合成樹脂は、その汎用性の高さから様々な使用用途や使用シーンで使用されており、生活に欠かせないものになっている。ホテルのアメニティーやレジ袋、飲食用のストロー、フォーク等に使用されているポリプロピレンやポリエチレン等や使い捨ての注射器などの医療器具に使用されているポリプロピレンや塩化ビニル等、インスタントラーメンや加工食品に使用されている調味料の袋等に使用されているポリスチレン、ナイロンやポリエチレンテレフタレート (以下PET) 等、飲料用ボトルの素材としてほとんどのボトルで使用されているPETなどはその代表例である。
【0003】
また、私達の生活に欠かせない衣服やカーペット、カーテン等の繊維製品についても石油を原材料とした合成繊維が多く使用されている。特にPET、カチオン可染PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等を含むポリエステル系の合成繊維は、寸法安定性、防皺性、強度等、衣料用素材として極めて優れた特性を有しており、世界で使用されている衣料用素材の65%を占めている。
【0004】
広く利用されている合成樹脂であるが、使用量が多く大量廃棄されるため、廃棄に対して多くの問題を抱えている。
【0005】
焼却して廃棄をする場合、樹脂の種類によっては800℃以上の高温で焼却しないとダイオキシン等の有害な環境ホルモン物質が放出されてしまうため焼却にエネルギーコストがかかってしまうとともに、燃焼に使用される燃料および焼却される合成樹脂製品から大量の二酸化炭素が放出され地球温暖化に拍車をかける結果となる。
【0006】
埋立てによる廃棄の場合、合成樹脂製品は生分解されないため100年近い年数がたっても埋められた時のまま土中に存在することとなる。
【0007】
また、回収されず投棄された合成樹脂製品は、紫外線により劣化・破砕され環境汚染の汚染源となる。現在問題となっている海洋マイクロプラスチック問題がその良い例である。
【0008】
この状況を打開する素材として、生分解性樹脂の使用が提唱されている。生分解性樹脂は、文字通り土中や水中に生息するバクテリアの力で分解されて消失する樹脂の総称で、焼却に対するエネルギーコストも低く土中に埋めても数ヶ月から数年で無くなるものである。また原材料が植物から作られたものであれば、植物の生育時期に吸収した二酸化炭素が、焼却や分解で排出されることになるため地球環境の二酸化炭素の増減に関与しないカーボンニュートラルな素材となる。
【0009】
特にPLAは、トウモロコシの澱粉やサトウキビの廃蜜を原料とし、その原料を乳酸発酵によって乳酸にしてその乳酸をエステル結合で重合したポリエステル系の生分解性樹脂で、生分解性樹脂の中では、融点が高く汎用性の高い環境に優しい樹脂である。PLAの製造工程は、植物由来の原材料から糖分を取り出し、それを、微生物を用いて乳酸発酵して乳酸を製造し、その乳酸を重合して製造される。一般的に言われるトウモロコシからの製造工程は、以下の通りである。
トウモロコシ⇒デンプンから糖分抽出⇒乳酸発酵⇒重合⇒PLA
【0010】
この工程において、もっともエネルギーが必要でCO2が発生するのは200~220℃で重合する重合工程であり、それ以外は、100℃以下、工程によっては50℃以下の工程もあり、工程の短さ、やCO2の発生量、エネルギー使用量に対しても環境に優しい樹脂である。世界一汎用的に使用されているPET樹脂の製造工程と比較すると、その環境負荷低減性は明らかである。比較のため一般的なPETの製造工程を原材料であるナフサや天然ガスから重合までを記載すると、その工程は以下の通りとなる。
<すべて石油から合成する場合>
石油(ナフサ)⇒エチレン、キシレン精製⇒エチレングリコール、テレフタル酸合成⇒重合⇒PET
<石油と天然ガスから合成する場合>
石油(ナフサ)⇒キシレン精製⇒テレフタル酸合成
天然ガス⇒エチレン精製⇒エチレングリコール合成
テレフタル酸+エチレングリコール⇒重合⇒PET
【0011】
PET製造は、各工程とも200℃以上の熱がかかり、エネルギー使用量やCO2発生量はかなり多い。PLAで一番エネルギーが必要な重合工程と比較するPETの重合温度は、280℃~300℃であり、PLAの重合よりもかなりの高温が必要なことが分かる。
【0012】
近年、原材料を植物由来に変更し、バイオマス化したPETが提唱されているが、その製造工程は以下の通りで、石油や天然ガスからの製造よりも工程がかかり、エネルギー使用量やCO2発生量はかなり多くなる。
<石油とトウモロコシから合成する場合>
石油(ナフサ)⇒キシレン精製⇒テレフタル酸合成
トウモロコシ(澱粉)⇒発酵⇒蒸留+脱水(エタノール採取)⇒エチレン精製⇒エチレングリコール合成
テレフタル酸+エチレングリコール⇒重合⇒PET
【0013】
また近年では、テレフタル酸をエチレングリコールと同様に植物由来の原材料から製造する方法が開発されており、100%バイオマス化したPETの開発が待たれているが、エチレングリコールのみをバイオマス化したPETよりもさらに工程がかかり、エネルギー使用量やCO2発生量はさらに多くなる。原材料が植物由来であるため、バイオマスPETはカーボンニュートラル素材だと考えられているが、工程負荷とエネルギー使用量やCO2発生量から原材料の植物が吸収したCO2消費量よりも発生量が上回り、石油や天然ガス由来のPETよりもCO2発生量が多くなる懸念もあると考えられている。
【0014】
上記の状況を踏まえ、製造工程と条件からPLAと石油から製造されたPETのライフサイクルアセスメント(以下LCA)試算を行うと、下記の結果となる。
PLA ; エネルギー消費量 92MJ/Kg、CO2排出量 4.1~6.5Kg/Kg
PET ; エネルギー消費量 142MJ/Kg、CO2排出量 8.9~12.2Kg/Kg
【0015】
このようにPLAは、汎用的に使用されているPETに比べ、エネルギー消費量が約60%、CO2排出量が約50%となり、PLAがポリエステルと比べるとかなり環境配慮性の高い樹脂であることが分かる。また、PLAは、原材料が植物由来の再生可能資源から製造されており、製造工程を見ても原材料の植物のCO2消費量よりも発生量が上回らないカーボンニュートラルな素材であるため、サステナブルな現代社会においてなくてはならない素材になってくると考えられる。
【0016】
そのためPLAが開発されてから現在まで様々な用途に対して使用の検討がなされてきた。ただPLAは、広く使用されている合成樹脂、特に汎用的に使用されているPETと比べ強度が低く融点が低いため使用できる用途が限られ、未だ広く社会で使用されていない。
【0017】
これらを改善する目的で、PLAを改質して汎用的な樹脂として使用する方法が上げられている。PLAの結晶形態をステレオコンプレックス形態に改質して強度と耐熱温度(融点)を向上させる方法(例えば、特許文献1)やPLAに他の物質を重合して耐熱性を上げる方法(例えば、特許文献2および3)、PLAに無機フィラーを添加した結晶核構造による改質方法(例えば、特許文献4)が上げられる。近年では、サステナブルの観点から有機フィラーの添加による改質が研究されており、特にセルロースナノファイバーを使用した改質方法(例えば、特許文献5や非特許文献1)がその代表例になっている。
【0018】
ただステレオコンプレックス形態への改質は、生分解性がほとんどなくなってしまう改質であり、他の物質を重合する改質方法は、耐熱性を上げるだけのもので強度アップせず重合する他の物質の影響で生分解性が大きく低下してしまうという結果となっている。また無機フィラーの添加の場合、PLAとの相性が悪く粒子径がPLAの結晶よりも大きいため、成形物への使用は可能になるが、繊維やフィルムを使用用途として考えた場合、ノズルに無機フィラーが詰まって紡糸やフィルムキャストができなくなる。仮にできたとしても次工程の延伸によるPLAの配向結晶化を阻害するという製造トラブルが発生する。また、無機フィラーを使用しているので、添加した無機フィラーが生分解や特に焼却の際に残留することとなり無機フィラーの成分によっては環境汚染にもなりかねない。そういった意味では、無機フィラーを添加したPLAは生分解性素材とは言えなくなる。すなわちいずれの改質方法も、生分解性が大きく低下するもしくは環境毒性の高い改質方法となっている。
【0019】
サステナブルな有機フィラーであるセルロースナノファイバーを添加する場合、解繊してセルロースナノファイバーを取り出した後に化学変性を施さないとフィラーとして使用できるレベルまで小さくできず、変性していないセルロースナノファイバーは、粗大でフィラーとして使用できる精度のものが得られない。また、セルロースナノファイバーには、セルロースだけでなくヘミセルロースやリグニンという成分も含まれているため、耐熱性に難があり、200℃を越えた高温をかけるとメイラード反応による着色が発生してしまうため溶融タイプの樹脂への添加には問題がある。さらに有機フィラーは、燃焼する際に二酸化炭素等の燃焼ガスが発生するが、セルロースナノファイバーの場合、化学変性して使用されているため、変性する改質剤やマッチング材等の影響で有害ガスが発生する可能性が考えられる。
【0020】
よって、生分解性を低下させず、環境負荷を増加させない、なおかつ強度等の力学特性が改良された生分解性樹脂、PLAの開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】特開2005-023512号公報
【文献】特開2009-024058号公報
【文献】特開2008-255500号公報
【文献】特開2003-327803号公報
【文献】特開2022-062595号公報
【非特許文献】
【0022】
【文献】「セルロースナノファイバー 研究と実用化の最前線」 エヌ・ティー・エス出版 2021年11月発行 ISBN ; 978-4-86043-751-0 第1編第4~5章ならびに第3編4~6章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明はかかる現状を鑑みて行われたものであり、生分解性樹脂であるPLAに本来必要な生分解性を保ちながら、環境負荷を増加させず、汎用的に必要とされる物性へと改良したPLA、CNC混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達し本発明を完成させた。
【0025】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0026】
本発明のPLA、CNC混合物は、PLAに生分解性の物質で一度も化学変性されていないCNCのみを添加し、PLA内に分散されたCNCが結晶核となって結晶化の促進やタイ分子の形成による結晶ネットワーク構造を形成することにより生分解性を保ちながら環境負荷を軽減させて汎用的に必要とされる物性へと改良したPLA、CNC混合物である。
【0027】
ここで、「化学変成されていない」とは、他の官能基(例えば、スルホ基、リン酸基など)がセルロースに付加されてなく、元のセルロース構成単位(化1)と同じ構成単位を有することをいう。また、「一度も化学変性されていない」とは、何らかの化学修飾がされた後、それを元に戻す操作をして化1の構成単位になるようにしたものを除く趣旨である。セルロースの構成単位としては下記の式の構造単位が好適に用いられる。
【0028】
【0029】
本発明において、CNC中のセルロースの好ましい含有率は、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上であり、高いほど好ましい。CNCを製造する原料としては、特に限定されないが、例えば、ワタのような種子毛繊維、麻のような靭皮もしくは葉脈繊維などが好ましく用いられる。
【0030】
タイ分子とは、樹脂内に形成される結晶と結晶の間に跨って存在する高分子鎖のことで、本発明は、CNCを結晶核として多数の結晶を形成し、それに跨るタイ分子を樹脂内に張り巡らせることで、ネットワーク状の構造を形成し、その構造によって強度や耐熱性のような汎用性向上に重要な物性へと改良するものである。
【0031】
本発明は、PLAに環境負荷となる化学物質を架橋や重合してPLAを変性する改質や環境負荷のかかる化学物質を添加してPLAを改質するのではなく、生分解性で環境負荷のないナチュラルな高結晶性CNCを添加することによってPLA自身の結晶化と結晶構造を変えて改質する混合物である。そのため、ポリ乳酸の持つ生分解性を保ちながら汎用的に必要とされる物性へと改良したPLA、CNC混合物になる。また、本発明に用いるCNCは、未変性であるため、食用も可能なほど安全な物質であり、PLAは、食品包装にも使用可能な安全なもののみを使用しているため、生分解後の土壌や燃焼による燃焼ガスに対しても安全性が保持され、環境に対しても負荷が増加されないPLA、CNC混合物になる。
【0032】
本発明は、PLAに添加されるCNCの粒子径や添加量、添加方法等によって得られる改良物性が異なることを特徴とするPLA、CNC混合物である。
【0033】
本発明の詳細な要旨は、以下の項目通りである。
【0034】
請求項.1
ポリ乳酸に化学変性されていないセルロースナノクリスタルのみを均一に分散され、前記ポリ乳酸に均一に分散されたセルロースナノクリスタルの量が、作製される混合物全重量の0.01~60.0重量%であることを特徴とするポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0035】
請求項.2
前記ポリ乳酸に均一に分散されたセルロースナノクリスタルが、塩酸による加水分解によって生成された一度も化学変性されていないセルロースナノクリスタルであり、結晶化度が90%以上のセルロースナノクリスタルであることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0036】
請求項.3
前記ポリ乳酸に均一に分散されたセルロースナノクリスタルによる結晶核効果により、ポリ乳酸の結晶化度と結晶化速度が向上し、複数の結晶間に跨るタイ分子の形成による結晶ネットワーク構造を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0037】
請求項.4
前記ポリ乳酸に均一に分散されたセルロースナノクリスタルの最大粒子径が、2-プロパノールを分散溶媒とした粒度分布測定で60μm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0038】
請求項.5
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の改良される物性が耐熱性および/または強靭性であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0039】
請求項.6
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の改良される物性が強度、伸度、弾性率のいずれかの物性であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0040】
請求項.7
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の使用用途が繊維であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0041】
請求項.8
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の使用用途がフィルム・シートであることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0042】
請求項.9
前記ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の使用用途が射出成形や押出成形、ブロー成形、プレス成形の何れかの成形方法で形成された成形物であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物。
【0043】
請求項.10
ポリ乳酸に、化学変性されていないセルロースナノクリスタルを添加し、混合する工程を含み、
ポリ乳酸に添加されるセルロースナノクリスタルの量が、作製される混合物全重量の0.01~60.0重量%であることを特徴とするポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【0044】
請求項.11
ポリ乳酸に添加されるセルロースナノクリスタルが、セルロース原料を塩酸による加水分解をすることによって生成された、一度も化学変性されていないセルロースナノクリスタルであることを特徴とする、請求項10に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【0045】
請求項.12
ポリ乳酸に添加したセルロースナノクリスタルによる結晶核効果により、ポリ乳酸の結晶化度と結晶化速度を向上させ、複数の結晶間に跨るタイ分子の形成による結晶ネットワーク構造を形成することにより物性を改良する、請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【0046】
請求項.13
ポリ乳酸に添加されるセルロースナノクリスタルの最大粒子径が、2-プロパノールを分散溶媒とした粒度分布測定で60μm以下であることを特徴とする請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【0047】
請求項.14
ポリ乳酸およびセルロースナノクリスタル混合物の製造方法によって改良される物性が耐熱性および/または強靭性であることを特徴とする請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【0048】
請求項.15
ポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法によって改良される物性が強度、伸度、弾性率のいずれかの物性であることを特徴とする請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
【0052】
請求項.16
セルロースナノクリスタルをポリ乳酸に添加する方法が、下記の(1)の要件を満足し、ポリ乳酸内でセルロースナノクリスタルが均一に分散していることを特徴とする請求項10または11に記載のポリ乳酸、セルロースナノクリスタル混合物の製造方法。
(1) ポリ乳酸の重合からペレット形成の工程のいずれかの工程時に、セルロースナノクリスタルを作製される混合物全重量の0.01~60.0重量%になるように添加する方法。
【発明の効果】
【0056】
本発明のPLA、CNC混合物は、PLAの持つ生分解性を保ち、環境負荷を増加させず汎用的に必要な物性へと改良された混合物である。
【0057】
本発明によれば、生分解性を保ちながら環境負荷を増加させず汎用的に必要な物性へと改良されたPLA、CNC混合物を得ることができる。また、従来のPLAもしくは改質PLAよりも使用用途に応じて必要な物性に改良することのできる汎用的に使用可能なPLA、CNC混合物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】
図1は、実施例1のDSC測定したチャートグラフである。
【
図2】
図2は、比較例1のDSC測定したチャートグラフである。
【
図3】
図3は、実施例10のDSC測定したチャートグラフである。
【
図4】
図4は、比較例2のDSC測定したチャートグラフである。
【
図5】
図5は、実施例11のDSC測定したチャートグラフである。
【
図6】
図6は、比較例3のDSC測定したチャートグラフである。
【
図7】
図7は、実施例13を倍率5倍で偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図8】
図8は、実施例13を倍率40倍で偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図9】
図9は、実施例15を倍率5倍で偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図10】
図10は、実施例15を倍率40倍で偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図11】
図11は、比較例4を倍率5倍で偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図12】
図12は、比較例4を倍率40倍で偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図13】
図13は、実施例13を倍率40倍で位相差観察した写真である。
【
図14】
図14は、実施例13を倍率40倍で微分干渉観察した写真である。
【
図15】
図15は、実施例15を倍率40倍で位相差観察した写真である。
【
図16】
図16は、実施例15を倍率40倍で微分干渉観察した写真である。
【
図17】
図17は、比較例4を倍率40倍で位相差観察した写真である。
【
図18】
図18は、比較例4を倍率40倍で微分干渉観察した写真である。
【
図19】
図19は、実施例13を延伸したフィルムの偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図20】
図20は、実施例15を延伸したフィルムの偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図21】
図21は、比較例4を延伸したフィルムの偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図22】
図22は、実施例13を延伸したフィルムの位相差観察した写真である。
【
図23】
図23は、実施例15を延伸したフィルムの位相差観察した写真である。
【
図24】
図24は、比較例4を延伸したフィルムの位相差観察した写真である。
【
図25】
図25は、実施例13を延伸したフィルムの微分干渉観察した写真である。
【
図26】
図26は、実施例15を延伸したフィルムの微分干渉観察した写真である。
【
図27】
図27は、比較例4を延伸したフィルムの微分干渉観察した写真である。
【
図28】
図28は、実施例20の延伸フィルムをクロスニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図29】
図29は、実施例20の延伸フィルムをオープンニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図30】
図30は、実施例21の延伸フィルムをクロスニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図31】
図31は、実施例21の延伸フィルムをオープンニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図32】
図32は、実施例22の延伸フィルムをクロスニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図33】
図33は、実施例22の延伸フィルムをオープンニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図34】
図34は、比較例9の延伸フィルムをクロスニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図35】
図35は、比較例9の延伸フィルムをオープンニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図36】
図36は、実施例18のマルチフィラメントをクロスニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図37】
図37は、実施例19のマルチフィラメントをクロスニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図38】
図38は、比較例7のマルチフィラメントをクロスニコルで偏光顕微鏡観察した写真である。
【
図39】
図39は、実施例19および比較例7のマルチフィラメントをTMA装置で測定した測定チャートグラフである。
【
図40】
図40は、実施例20および比較例9の延伸フィルムをTMA装置で測定した測定チャートグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0060】
本発明は、PLAに化学変性されていないCNCのみを添加したPLA、CNC混合物である。
【0061】
(1) PLA
本発明に使用されるPLAは、通常使用されているPLAで良い。本発明のPLA、CNC混合物の使用用途に合わせ異性体であるL-体、D-体の混合比率、分子量、繊維用、フィルム用、射出成形用、押出成形用等の呼称で呼ばれる製品グレードのPLA樹脂を適宜選択し使用すればよい。異性体であるL-体、D-体の混合比率については、特に限定はされないが、例えば繊維に使用する場合生分解性や製糸性の観点からL-体を主体としたL-体、D-体の混合物もしくは共重合体のPLAの使用が好ましい。D-体の含有量は、PLAとして重合された全モノマーユニットに対して0~0.7モル%であることが好ましく、0.1~0.6モル%であることがより好ましく、0.1~0.5モル%であることがさらに好ましい。D-体の含有量がPLAとして重合された全モノマーユニットに対して0.7モル%より多いと、製糸性が低下したり、耐熱性や繊維強度が低下したりする場合があり、本発明での使用は好ましくない。もちろん本発明は、D-体の純度が高くL-体の含有比率が低いものでもL-体主体のPLAと同様の効果が得られるため、本発明のPLA、CNC混合物の使用用途に合わせL-体、D-体、どちらの異性体が主体になったPLAでも適宜選択し使用すればよい。使用するPLAの分子量についても使用用途に応じて適宜選択し使用すればよく、特に限定はされない。
【0062】
また使用されるPLAは、原材料にトウモロコシ、サトウキビ、ビーツ、キャッサバ等、いずれの原料を使用したものでも良く、重合方法も、ラクチド法や直接重合法、溶融法等、いずれの方法で重合したものでも良い。
【0063】
(2) CNC
本発明に使用されるCNCは、植物等の主成分であるセルロースをナノレベルまで微細に解きほぐしたナノ構造化セルロースの1種である。CNCは、硫酸や塩酸、リン酸、硝酸等の強酸による酸加水分解法によって植物等のセルロース原料からリグニンやヘミセルロース等、セルロース以外の成分や非晶域成分を溶解し結晶性のセルロースのみを抽出し精製したものである。本発明では、酸加水分解法によって精製されたCNCの内、化学変性されていないCNCを使用する。
【0064】
使用されるセルロース原料は、天然セルロース原料および再生セルロース原料が挙げられる。
【0065】
天然セルロース原料としては、広葉樹又は針葉樹から得られる木材パルプ、竹、綿系繊維、麻系繊維、バガス、ケナフ、リンター等から得られる非木材パルプ、および双方の精製パルプ(精製リンター等)等が使用できる。また動物系の天然セルロースとしては、ホヤの被嚢(外皮)等が挙げられる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプやコットンリントパルプを含むコットン由来パルプ、麻系のアバカ(例えばエクアドル産又はフィリピン産のもの)やザイサル麻からなる麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプ等が挙げられる。またコットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプおよびワラ由来パルプの原料から、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程、漂白工程等を経て得られる精製パルプも天然セルロース原料の原料として挙げることができる。
【0066】
本発明のCNCの原料として好ましいのは、PLA内での結晶核効果をより発現できるCNCが好ましく、結晶化度が高く強固なCNCが多く抽出できる原料の使用が好ましい。本発明に使用されるCNCの原料の結晶化度は高ければ高いほど望ましいが、少なくとも85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上が望ましい。本発明に使用されるCNCの原料は、木材パルプよりも結晶化度が高く安定して供給が望める綿繊維や麻繊維等を原料としたパルプの使用が好ましく、使用する綿繊維や麻繊維の原料が、廃棄衣料や紡績、製織、製編、縫製等の各工程で排出される裁断屑等の未利用(廃棄)資源であれば環境配慮型のCNCとなるためより好ましい。水草や廃棄農作物等の使用も環境配慮の観点から好ましい。
【0067】
本発明者らは、上記のCNCをPLAに添加することで汎用的に必要な物性への改良がなされることを発見し、さらに一度も化学変性されていないCNCを使用することで変性による環境負荷の増加が抑えられることを発見して鋭意検討した結果、本発明に到達し本発明を完成させた。
【0068】
本発明の化学変性されていないCNCとは、PLAに添加する際に化学変性されていないCNCを言う。例えば、塩酸による酸加水分解されたCNCは、酸加水分解の精製工程から化学変性されないCNCとなるため望ましい。本発明に使用される一度も化学変性されていないナチュラルなCNCとは、この塩酸によって酸加水分解され精製されたCNCのことを言う。一度も化学変性されていないCNCは、結晶性が保たれることで結晶核効果が高くなるだけでなく、食用に使用できるほど安全性が高いものであり、環境負荷の増加を抑えるだけでなく、人体への安全性も高いものである。
【0069】
また、セルロース原料を硫酸で酸加水分解した場合、加水分解中に硫酸エステル化が同時に起こるため、CNC表面の改質が起き、精製されたCNCは、硫酸エステル化による化学変性されてしまうが、その後の化学反応により、脱硫酸エステル化をして未変性に戻すことができ、本発明のCNCには、このような方法で未変性に戻したCNCも含まれる。ただし、未変性に戻したCNCは、一度も変性していないCNCよりも結晶性が低下するため、物性を改良するのに充分な結晶核効果を得ることが難しくなってくる。本発明においては、結晶性が高く、充分な結晶核効果を発現する一度も化学変性されていないCNCの使用が望ましい。
【0070】
本発明は、CNCをPLA内部に均一に分散するように添加する。ここでいう「均一に分散」とは、PLAとCNCの粒子が均一に分散した状態を指すが、必ずしも100%均一に分散されていなくてもよく、全体の60%以上又は70%以上の部分が均一であってもよく、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、が均一に分散されていてもよい。また、2軸混練機(又は2軸混練押出機)で混練して得られる程度の分散であっても「均一に分散」に含まれる。均一に分散されたCNCが結晶核効果によってPLAの結晶化速度を早め、微細なPLAの結晶を均一に分散した状態で形成する。均一に分散した状態で形成されたPLAの結晶は、相互干渉を引き起こし、結晶間にタイ分子を形成し、形成した結果微細な結晶と結晶がタイ分子で繋がる結晶ネットワークのような構造を形成する。この構造によって結晶化後のPLAに靭性が与えられ、その形成される結晶ネットワーク構造をCNCの添加量等で制御することで強度や伸度、弾性率という物性を向上させることができる。また、結晶間に形成されるタイ分子がPLAの非晶域の熱流動を抑制するため結果的に耐熱性が向上することとなる。本発明は、添加されたCNCの結晶核効果によって形成された微細な結晶とタイ分子による結晶ネットワーク構造を制御することで使用用途に合わせた物性の改良が可能になるものである。
【0071】
本発明のPLA、CNC混合物は、CNCが作製される混合物全重量の0.01~60.0重量%の量を均一に分散した混合物である。CNCの添加量が0.01重量%未満であると、PLA内に均一に分散されたCNCの量が少なく、結晶間の相互干渉が引き起こされず結晶ネットワーク構造ができないためPLAの改質がされないこととなる。またCNCの量が0.01重量%未満であると、均一に混ぜ合わせることが難しくなるため均一な分散ができず、結晶ネットワーク構造の形成ができない。CNCの添加量が60.0重量%より多くなると、PLAとCNCの均一な混ぜ合わせができず、CNCが凝集してしまうため安定した物性を得ることができなくなる。また、混合物を使用して射出成形等の成形をする際、粘度が上がり過ぎて型の隅々まで混合物が送れず、成形が困難になる。
【0072】
本発明におけるCNCの添加量は、混合物から作製される製品の形態、製品の使用用途等によって適宜選択すればよい。例えば、繊維化する場合は、作製する繊維の繊度や繊維径等を考慮してCNCの添加量を選択すればよく、CNCの添加量は作製される混合物全重量の0.01~3.0重量%の範囲であることが好ましく、0.1~1.2重量%がより好ましく、0.3~1.0重量%がさらに好ましい。フィルムやシート化する場合は、作製するフィルムやシートの膜厚や透明性等を考慮してCNCの添加量を選択すればよく、CNCの添加量は作製される混合物全重量の0.01~1.5重量%の範囲であることが好ましく、0.03~1.0重量%がより好ましく、0.05~0.7重量%がさらに好ましい。成形品化する場合は、成形方法、使用用途、必要性能等を考慮してCNCの添加量を選択すればよく、CNCの添加量は作製される混合物全重量の0.1~60.0重量%の範囲であることが好ましく、0.5~55.0重量%がより好ましく、1.0~50.0重量%がさらに好ましい。
【0073】
CNCは、酸加水分解法で強酸溶液内に分散された状態で精製され、強酸溶液から濾過した後に洗浄、洗浄液からの濾過を繰り返すことによって精製される加水分解セルロースを、更に微細に解きほぐすことで得られる。そのため、酸加水分解法で精製された加水分解セルロースは、最小単位はナノサイズの紡錘形のクリスタルが、束状にナノからミリまでの様々なサイズの径に固まった状態の粒子が混在した状態となっている。濾過後の濡れた状態であれば、再度水に溶くことで酸加水分解直後程度のサイズにまで解きほぐすことが可能であるが、ひとたび乾燥させると、セルロースの水酸基を介した水素結合により完全に解きほぐすのが困難なほど強固な凝集体を形成する。本発明の場合、高温で溶融したPLAに添加して使用されるため、CNCを乾燥して水分を充分に除去した粉体の状態で添加しなければならない。CNCを乾燥する際、加水分解セルロースを更に解きほぐしながら乾燥させるのであるが、完全に解きほぐせず、さらに乾燥時の二次凝集が発生してナノからミリまでのかなり広い範囲の粒子が混在した粉体になる。本発明のPLA、CNC混合物は、使用用途に応じて汎用的に必要な物性へと改良し、繊維やフィルム・シート、成形物等に汎用的に使用可能な混合物であるため、CNCの粒径が制御されていることが不可欠となる。
【0074】
そこで、本発明に使用されるCNCは、ナノサイズからミクロンサイズの紡錘形のセルロースクリスタルが凝集した粒子が混在した粉体製品で、粒度分布測定装置で2-プロパノールを分散溶媒として使用して測定された最大粒子径が60μm以下の粒子径の粉体を使用する。発明者らは、上記に記載したCNCの製造の状態を鑑みて、鋭意検討を繰り返し、最大粒子径の大きさから使用するCNCの粒度分布状態が推察でき、使用用途に応じた使用可否の判断基準となることを見出した。本発明者らが見出した判断基準で選択するCNCを使用した本発明のPLA、CNC混合物は、使用用途に応じて汎用的に必要な物性への改良が可能な製品を作製することができる。
【0075】
本発明に使用されるCNCの最大粒径は、混合物から作製される製品の形態、製品の使用用途等によって適宜選択すればよい。例えば、繊維化する場合は、作製する繊維の繊度や繊維径等を考慮してCNCの最大粒径を選択すればよく、CNCの最大粒径は12μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましい。フィルムやシート化する場合は、作製するフィルムやシートの膜厚や透明性等を考慮して使用するCNCの最大粒径を選択すればよく、CNCの最大粒径は12μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましい。成形品化する場合は、成形方法、使用用途、必要性能等を考慮して使用するCNCの添最大粒径を選択すればよく、用途によって例えば100μm以下でも構わず特に制限はないが、CNCの最大粒径は80μm以下であることが好ましく、70μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。
【0076】
(3) PLAとCNCの混合
本発明は、CNCがPLAに CNCを分散して混合することによりPLA、CNC混合物を作製する。
【0077】
本発明におけるPLAとCNCの混合方法は、公知の混合方法を用いればよい。ポリプロピレン、ナイロン、PET、PLAのような樹脂ペレットを溶融して紡糸やフィルムキャスト、各種の成形を行うポリマーにCNCのようなフィラーを混合する場合、「1.溶融ポリマーの重合からペレット形成の工程のいずれかの工程でフィラーを混合する」、「2.混練機を用いて溶融ポリマーとフィラーを溶融混練して混合する」といういずれかの方法で混合されるのが一般的である。本発明のPLA、CNC混合物は、いずれの方法で混合しても良い。もちろん、1.の混合方法に対し、PLAを重合したポリマーをペレット化せず直接紡糸などの製品製造工程に送られる工程や製品製造前の熱流動の工程で混合する公知の方法で混合しても良い。また、2.の混合方法で作製した混練ペレットは、そのまま混練ペレット100%で使用してもよいし、混練ペレットをマスターチップとして使用し、製品作製時にPLA100%のペレットと混合してCNCの混率を調整してもよい。
【0078】
2.の混合方法に使用される混練機は、公知の二軸押出し混練機を使用するのが一般的であり、本発明の混合にもこの混練機を用いればよい。この混練機を使用する場合、CNCのようなフィラーの混入は、PLAと同時に樹脂ポッパーから混入する方法と別ブロックから粉体フィーダーを使用して溶融したPLAに混入する方法が公知の方法として知られているが、本発明の混合は、いずれの方法を用いても良い。ただ、CNCを高混率で混入する場合は、CNCの均一な分散と混練を考慮し、別ブロックから粉体フィーダーを使用してCNCを混入する方が望ましい。
【0079】
本発明のPLA、CNC混合物の混合に対して注意すべき点は、混合の温度である。混合の温度は、PLAの融点やCNCの熱分解温度を考慮して適宜設定すればよいが、混合の温度が高過ぎると、PLAの熱分解が促進され、分子量が低下してしまうため、製品の強度低下が引き起こされ充分な物性改良がおこなわれなくなる可能性がある。またCNCも熱分解を開始し、メイラード反応による変色が始まり褐色に着色した混合物となってしまう。この着色は、漂白等の無色化処理を施しても消失しないため、意匠性に劣り、製品としての汎用性に欠けるものとなってしまう。本発明のPLA、CNC混合物は、これらの現象を発生させないように温度設定等、注意が必要となる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。実施例におけるPLA、CNC混合物の性能評価については、下記の方法により行った。
【0081】
[1]評価試験および評価方法
(1) 結晶化速度
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用い、PerkinElmer社製の入力補償型ダブルファーネスDSC8500示差走査熱量(以下DSC)計を使用して、0℃から210℃までの温度範囲で昇温速度2℃/分、210℃で10分保持後降温速度1℃/分として測定を実施、降温再結晶化ピーク温度を測定した。
【0082】
(2) PLA、CNC混合物の結晶化状態の観察
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用い、そのままでは光源が通過しないためフィルム状にしてオリンパス(株)社製の偏光顕微鏡BX51を使用して結晶化状態を観察した。また、そのフィルムに一軸方向の3倍の延伸を(株)井元製作所社製のフィルム二軸延伸機IMC-1AA6を使用して加え、延伸状態での結晶状態の変化を観察した。さらにPLA、CNC混合物からの作製物として実施例および比較例のマルチフィラメントの結晶状態の観察を実施した。
【0083】
(3) PLA、CNC混合物から作製された作製物の物性
(3)-1 マルチフィラメントの物性
(3)-1-1 引張強さおよび伸び率
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用いて作製した実施例および比較例のマルチフィラメントを用い、JIS L-1013に則り正量繊度B法で見掛け繊度を測定した後、(株)島津製作所社製の引張試験機AG-10kNX plusを使用し定速伸長法で測定を実施した。
(3)-1-2 見掛けヤング率
上記(3)-1-1で測定した数値より算出した。
(3)-1-3 引張強さおよび伸び率
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用いて作製した実施例および比較例のマルチフィラメントを用い、JIS L-1013に則り(株)島津製作所社製の引張試験機AG-10kNX plusを使用し伸長弾性率A法で測定を実施した。
(3)-2 延伸フィルムの物性
(3)-2-1 引張強さおよび伸び率
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用いて作製した実施例および比較例の延伸フィルムを用い、JIS L-1096の引張強伸度A法を準用して(株)島津製作所社製の引張試験機AG-10kNX plusを使用して測定を実施した。
(3)-3 短冊形射出成形試験片の物性
(3)-3-1 曲げ弾性率
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用いて作製した実施例および比較例の短冊形射出成形試験片を用い、JIS K-7171の曲げ試験A法に則り(株)島津製作所製の精密万能試験機オートグラフAGS-kNXを使用して試験速度2mm/分で測定を実施した。
【0084】
(4) PLA、CNC混合物から作製された作製物の耐熱性
(4)-1 マルチフィラメントの耐熱性
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用いて作製した実施例および比較例のマルチフィラメントを用い、(株)日立ハイテクサイエンス社製の熱機械分析TMA/SS7100(以下TMA)装置を使用して、サンプル長20mmのマルチフィラメントに荷重50mNをかけ、昇温速度10℃/分、測定温度範囲を25℃~150℃として測定を実施、測定グラフから繊維が緩和収縮から伸長に転ずる温度、荷重軟化温度を算出した。
(4)-2 延伸フィルムの耐熱性
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用いて作製した実施例および比較例の延伸フィルムを用い、(株)日立ハイテクサイエンス社製の熱機械分析TMA/SS7100(以下TMA)装置を使用して、サンプル長20mmの延伸フィルムに荷重10mNをかけ、昇温速度10℃/分、測定温度範囲を30℃~140℃として測定を実施、測定グラフから緩和収縮から伸長に転ずる温度、荷重軟化温度を算出した。
(4)-3 短冊形射出成形試験片の耐熱性
実施例および比較例で得られたPLA、CNC混練ペレットを用いて作製した実施例および比較例の短冊形射出成形試験片を用い、JIS K-7191-1,2のA法に則り、(株)東洋精機製作所製のHDT試験機 S6-MHを使用し、試験片に加える曲げ圧力を1.8 MPa、昇温速度 ; 120℃/時間の条件で荷重タワミ温度の測定を実施した。
【0085】
実施例1
PLAは、TotalEnergies Corbion社製の高耐熱グレードのPLAペレット「Luminy L-105」(ゲル浸透クロマトグラフィー(以下GPC)分析による重量平均分子量(以下Mw)が99,248)を用いた。CNCは、フイラーバンク(株)社製の綿由来CNC「AirCrystCC01S」を用いた。このグレードの粒度分布計での最大粒子径は
8μmであった。
(株)アイシンナノテクノロジーズ社製のマイクロンフィーダーTF-70-EC(L)を押出機の第3ブロックに設置した(株)パーカーコーポレーション社製の二軸押出機HK25D-41を使用し、最低温度を180℃、最高温度を240℃として溶融ブロック1つ1つを設定した後、CNCを0.5重量%(以下wt%)の混率になるように溶融したPLAに投入した。CNC投入開始から10分間溶融混練樹脂を流した後、押し出したストランドを水冷してペレタイザ―でカットしPLA、CNC混合物のペレットを得た。
次に得られたペレットをヤマト科学(株)社製の樹脂乾燥機DP-63Pを使用し、110℃×8時間で混練ペレットを再結晶化させ実施例1のペレットを得た。
【0086】
実施例2~5
実施例1において、CNCの混率を0.01wt%、0.2wt%、1.0wt%、10.0wt%に変更すること以外は実施例1とすべて同一の方法で実施例2(0.01wt%)、3(0.2wt%)、4(1.0wt%)、5(10.0wt%)のペレットを得た。
【0087】
実施例6
実施例1において、使用するCNCを粒度分布計での最大粒子径60μmのグレードのフイラーバンク(株)社製の綿由来CNC 「AirCrystCC03L」に変更し、使用する計量フィーダーをコペリオンK-トロン社製のツインスクリューフィーダーK-CL-SFS-KT20に変更し、CNCの混率を40.0wt%に変更すること以外は実施例1とすべて同一の方法で実施例6のペレットを得た。
【0088】
実施例7~9
実施例6において、CNCの混率を30.0wt%、50.0wt%、60.0wt%に変更すること以外は実施例6とすべて同一の方法で実施例7(30.0wt%)、8(50.0wt%)、9(60.0wt%)のペレットを得た。
【0089】
実施例10
実施例6において、使用するPLAをTotalEnergies Corbion社製の高耐熱グレードのPLAペレット「Luminy L-130」(GPC分析によるMwが144,387)に変更すること以外は実施例7とすべて同一の方法で実施例10のペレットを得た。
【0090】
実施例11
実施例6において、使用するPLAをTotalEnergies Corbion社製の高耐熱グレードのPLAペレット「Luminy L-175」(カタログによるMwが175,000)に変更すること以外は実施例6とすべて同一の方法で実施例11のペレットを得た。
【0091】
実施例12
実施例1において、使用するPLAをハイケム(株)社製のPLAペレット「FY-601」(GPC分析によるMwが149,992)に変更すること以外は実施例1とすべて同一の方法で実施例12のペレットを得た。
【0092】
実施例13~15
実施例12において、CNCの混率を0.7wt%、1.0wt%、3.0wt%に変更すること以外は実施例1とすべて同一の方法で実施例13(0.7wt%)、14(1.0wt%)、15(3.0wt%)のペレットを得た。
【0093】
実施例16・17
実施例6において、使用するPLAをハイケム(株)社製のPLAペレット「FY-601」に変更し、使用するCNCを粒度分布計測定での最大粒子径が12μmのグレードのフイラーバンク(株)社製の綿由来CNC 「AirCrystCC02M」に変更し、CNCの混率を30.0wt%、50.0wt%に変更すること以外は実施例1とすべて同一の方法で実施例16(30.0wt%)、17(50.0wt%)のペレットを得た。
【0094】
比較例1
実施例1において、CNCを使用しないこと以外は実施例1とすべて同一の方法で比較例1のペレットを得た。
【0095】
比較例2
実施例10との比較例として、実施例10に使用したTotalEnergies Corbion社製の高耐熱グレードのPLAペレット「Luminy L-130」(GPC分析によるMwが144,387)を比較例2のペレットとした。
【0096】
比較例3
実施例11との比較例として、実施例11に使用したTotalEnergies Corbion社製の高耐熱グレードのPLAペレット「Luminy L-175」(カタログによるMwが175,000)を比較例3のペレットとした。
【0097】
比較例4
実施例12において、CNCを使用しないこと以外は実施例12とすべて同一の方法で比較例4のペレットを得た。
【0098】
比較例5
実施例1において、CNCの混率が0.008wt%となるように計量フィーダーからの投入量を調整し、実施例1とすべて同一の方法で比較例5のペレットを作製しようとしたところ、フィーダーから一定量での投入ができず均一に混練されないことが確認出来た。また、混練時に凝集したと考えられるCNCの塊が押し出されたストランドに確認できたためペレットの作製を中止した。
【0099】
比較例6
実施例16・17において、CNCの混率が65.0wt%となるように計量フィーダーからの投入量を調整し、実施例6とすべて同一の方法で比較例6のペレットを作製しようとしたところ、押し出されたストランドが凝集したCNCが多数表面に浮き出たストランドとなったためペレットの作製を中止した。
【0100】
実施例18
ヤマト科学(株)社製の樹脂乾燥機DP-63Pを使用し、90℃×12時間で真空乾燥して事前に実施例1で作製したペレットに残る水分を除去した。
24ホールのノズルを装着した(株)ムサシノキカイ社製の溶融紡糸マルチフィラメント製造装置を使用し、最低温度を180℃、最高温度を240℃としてエクストゥルーダーのシリンダー温度、ヘッドおよびポンプ部の温度、ノズル温度の各ブロック1つ1つを設定した後、上記の真空乾燥した実施例1で作製したペレットを投入し、エクストゥルーダー内のスクリューの回転数を一定にして供給樹脂量を一定にして紡糸を実施した。
次にノズルから紡出した糸を空冷にて冷却した後、竹本油脂(株)社製のPLA用紡糸油剤、デリオン PLA-1001の15%濃度の水溶液を付着させ、ネルソンローラーに巻き付け、糸の状態を見て70~90℃に調整した予熱ローラーと延伸ローラーに糸を巻き付け延伸倍率4倍で熱延伸し、糸の状態を見て110~130℃に調整した熱セットローラーに巻き付けて熱セットした後巻取り機で巻取り実施例18のマルチフィラメントを得た。
【0101】
実施例19
実施例18において、熱延伸倍率を4.5倍に変更すること以外は実施例18とすべて同一の方法で実施例19のマルチフィラメントを得た。
【0102】
比較例7
実施例18において、比較例1で作製したペレットを使用すること以外は実施例18とすべて同一の方法で比較例7のマルチフィラメントを得た。
【0103】
比較例8
比較例7において、熱延伸倍率を4.5倍に変更すること以外は比較例7とすべて同一の方法で比較例8のマルチフィラメントを得ようとしたところ、延伸ローラー、熱セットローラー、巻取り装置の各部分で糸切れが多発し、マルチフィラメントを採取することができなかったため作製を中止した。
【0104】
実施例20
ヤマト科学(株)社製の樹脂乾燥機DP-63Pを使用し、90℃×12時間で乾燥して事前に実施例1で作製したペレットに残る水分を除去した。
ダイス幅を150mm、クリアランスを750μmに設定したTダイ形ダイスを設置した(株)プラスチック工学研究所社製のTダイ法フィルム/シート成形装置GT-20-Aを使用し、最低温度を170℃、最高温度を190℃として溶融ブロックの1つ1つを設定した後、上記の乾燥した実施例1で作製したペレットを投入し、樹脂吐出速度を0.3m/分、フィルム巻取り速度を1m/分として膜厚240~260μmの実施例の未延伸フィルムを得た。
次に上記で得られた未延伸フィルムを(株)井元製作所社製のフィルム二軸延伸機IMC-1AA6を使用してフィルムの状態を見て予熱温度を70~90℃に調整し、フィルムキャスト方向に3.5倍、フィルムの巾方向に1.5倍、Total延伸倍率、5.25倍に設定して、延伸速度を120mm/分でフィルムの延伸を実施し、実施例20の延伸フィルムを得た。
【0105】
実施例21~24
実施例20において、使用するペレットを実施例2~5のペレットに変更すること以外は実施例20とすべて同一の方法で実施例21(0.01wt%)、22(0.2wt%)、23(1.0wt%)、24(10.0wt%)の延伸フィルムを得た。
【0106】
比較例9
実施例20において、比較例1で作製したペレットを使用すること以外は実施例20とすべて同一の方法で比較例9の延伸フィルムを得た。
【0107】
実施例25
ヤマト科学(株)社製の樹脂乾燥機DP-63Pを使用し、90℃×12時間で乾燥して事前に実施例10で作製したペレットに残る水分を除去した。
縦80mm、横10mm、厚さ4mmの短冊成形試験片の金型を設置した住友重機工業(株)の射出成形機 SE18DUZ-C30を使用し、最低温度を180℃、最高温度を230℃として溶融ブロックの1つ1つを設定した後、射出条件を射出圧力266MPa、射出率を101cm3/秒、理論射出量 ; 11cm3として成形を繰り返して試験片の状態を確認し条件調整して射出成形を実施し、実施例25の短冊形射出成形試験片を得た。
【0108】
実施例26
実施例25において、作製した短冊形射出成形試験片をヤマト科学(株)社製の樹脂乾燥機DP-63Pを使用し、90℃×3分でアニール処理を実施し、実施例26の短冊型射出成形試験片を得た。
【0109】
実施例27
実施例25において、使用するペレットを実施例11のペレットに変更すること以外は実施例25とすべて同一の方法で実施例の短冊型射出成形試験片を得た。
次に実施例26とすべて同一の方法でアニール処理し実施例27の短冊型射出成形試験片を得た。
【0110】
比較例10
実施例25において、比較例2で作製したペレットを使用すること以外は実施例25とすべて同一の方法で比較例10の短冊型射出成形試験片を得た。
【0111】
比較例11
実施例26において、比較例10で作製した短冊型射出成形試験片を使用すること以外は実施例26とすべて同一の方法で比較例11の短冊型射出成形試験片を得た。
【0112】
比較例12
実施例27において、比較例3で作製したペレットを使用すること以外は実施例27とすべて同一の方法で比較例12の短冊型射出成形試験片を得た。
【0113】
(1) 結晶化速度
得られた実施例1~5 のPLA、CNC混練ペレットおよび比較例1のPLAペレットのDSC計で測定した降温再結晶化ピーク温度を表1に示す。
【0114】
【0115】
表1から明らかなように、本発明による実施例1~5のPLA、CNC混練ペレットは、いずれも比較例1のCNCを混合していないPLAペレットよりも降温再結晶化ピーク温度が高温サイドにスライドしている。CNCによって結晶化速度が促進されていることが分かる。
【0116】
DSC計の実施例1の測定チャートを
図1に、比較例1の測定チャートを
図2に示す。
【0117】
図1と
図2の降温再結晶化の挙動を比較すると、
図1、
図2共にほぼ同じピーク面積であるが、
図1の方が、立ち上がりがシャープになっており、再結晶化開始温度から終了温度までが短い。結晶化速度が促進されていることが分かると共に短時間で結晶化が完了していることから、比較例1に比べ本発明による実施例1の方が小さな結晶が数多く形成されていることが分かり、混合したCNCが核となって結晶が形成されていることが分かる。
【0118】
さらに降温速度を1℃/分から2℃/分に変更してDSC計で測定した実施例1および比較例1の降温再結晶化ピーク温度を表2に示す。
【0119】
【0120】
表2から明らかなように、本発明による実施例1のPLA、CNC混練ペレットは、比較例1のCNCを混合していないPLAペレットと比べ降温速度変更による降温再結晶化ピーク温度の変動が少ない。CNCの作用によってPLAの結晶化速度が促進されていることが分かる。本発明によれば、与えられる熱挙動に関係なくPLA、CNC混合物の結晶化速度が促進されることが明らかである。
【0121】
次に、得られた実施例6~9 のPLA、CNC混練ペレットおよび比較例1のPLAペレットのDSC計で測定した降温再結晶化ピーク温度を表3に示す。
【0122】
【0123】
表3から明らかなように、本発明による実施例6、7、8、9のPLA、CNC混練ペレットは、いずれも比較例1のCNCを混合していないPLAペレットよりも降温再結晶化ピーク温度が高温サイドにスライドしている。CNC高混率のPLA、CNC混合ペレットにおいても結晶化速度が促進されていることが分かる。本発明によれば、混合するCNC混率に関係なくPLAの結晶化速度が促進されることが明らかである。
【0124】
得られた実施例10のPLA、CNC混練ペレットおよび比較例2のPLAペレットのDSC計で測定した降温再結晶化ピーク温度を表4に示す。
【0125】
【0126】
また、得られた実施例11のPLA、CNC混練ペレットおよび比較例3のPLAペレットのDSC計で測定した降温再結晶化ピーク温度を表5に示す。
【0127】
【0128】
次に、DSC計の実施例10の測定チャートを
図3に、比較例2の測定チャートを
図4に実施例11の測定チャートを
図5に、比較例3の測定チャートを
図4に示す。
【0129】
表1、表4、表5から明らかなように、本発明による実施例のPLA、CNC混練ペレットは、比較例のCNCを混合していないPLAペレットよりも降温再結晶化ピーク温度が高温サイドにスライドしている。使用するPLA樹脂の分子量が変化してもCNCによって結晶化速度が促進されていることが分かる。本発明によれば、使用するPLAの分子量に関係なく使用されたPLAの結晶化速度が促進されることが明らかである。
【0130】
図3と
図4、
図5と
図6の降温再結晶化の挙動を比較すると、
図4はかろうじてピークが確認出来るほど、
図6ではピークの立ち上がりが見られないほどゆっくりと結晶化しているのに対し、
図3と
図5はピークの立ち上がりがシャープになって表れており、再結晶化開始温度から終了温度までが短い。結晶化速度が促進されていることが分かると共に短時間で結晶化が完了していることから、比較例2に比べ本発明による実施例10の方が、比較例3に比べ本発明による実施例11の方が、小さな結晶が数多く形成されていることが分かり、混合したCNCが核となって結晶が形成されていることが分かる。
【0131】
得られた実施例12、15、16 PLA、CNC混練ペレットおよび比較例4のPLAペレットのDSC計で測定した降温再結晶化ピーク温度を表6に示す。
【0132】
【0133】
次に得られた実施例16、17のPLA、CNC混練ペレットおよび比較例4のPLAペレットのDSC計で測定した降温再結晶化ピーク温度を表7に示す。
【0134】
【0135】
表6、表7から明らかなように、本発明による実施例のPLA、CNC混練ペレットは、比較例のCNCを混合していないPLAペレットよりも降温再結晶化ピーク温度が高温サイドにスライドしている。使用するPLA樹脂のメーカーが違っても混合するCNC混率に関係なくCNCによって結晶化速度が促進されていることが分かる。本発明によれば、使用するPLAのメーカーに関係なく使用されたPLAの結晶化速度が促進されることが明らかである。
【0136】
(2) PLA、CNC混合物の結晶化状態の観察
得られた実施例13、15のPLA、CNC混練ペレットおよび比較例4のPLAペレットを偏光顕微鏡観察ができるように薄いフィルム化をして、偏光顕微鏡によるPLAの結晶化状態を観察した。また、位相差観察および微分干渉観察も併せて実施した。
【0137】
図7に実施例13を倍率5倍で偏光顕微鏡観察した写真、
図8に実施例13を倍率40倍で偏光顕微鏡観察した写真、
図9に実施例15を倍率5倍で偏光顕微鏡観察した写真、
図10に実施例15を倍率40倍で偏光顕微鏡観察した写真、
図11に比較例4を倍率5倍で偏光顕微鏡観察した写真、
図12に比較例4を倍率40倍で偏光顕微鏡観察した写真を示す。
【0138】
図7、9と
図11、
図8、10と
図12を比べても明らかなように、本発明による実施例の写真には、比較例には写っていないマルタ十字形のPLAの球晶と推測される影が画像に確認出来る。倍率を上げると、より顕著に確認できる。
【0139】
写真に確認出来るものがフィルムを作製した際の凹凸や歪みでないことを確認するため位相差観察および微分干渉観察を実施した。
【0140】
図13に実施例13を倍率40倍で位相差観察した写真、
図14に実施例13を倍率40倍で微分干渉観察した写真、
図15に実施例15を倍率40倍で位相差観察した写真、
図16に実施例15を倍率40倍で微分干渉観察した写真、
図17に比較例4を倍率40倍で位相差観察した写真、
図18に比較例4を倍率40倍で微分干渉観察した写真を示す。
【0141】
図13、15と
図17、
図14、16と
図18をそれぞれ比べても明らかなように、本発明による実施例の写真には、比較例には写っていないマルタ十字形のPLAの球晶と推測される影が画像に確認出来る。上記に記載された偏光顕微鏡による観察写真と同様にマルタ十字形のPLAの球晶と推測される影が画像に確認出来ることからCNCを混合することにより、全体的に結晶化したPLAが存在する構造になっている。
【0142】
偏光顕微鏡観察ができるように薄くフィルム化をして得られた実施例13、15のPLA、CNC混練ペレットおよび比較例4のPLAペレットのフィルムを一軸延伸して、偏光顕微鏡観察を実施した。
【0143】
図19に実施例13を延伸したフィルムの偏光顕微鏡観察した写真、
図20に実施例15を延伸したフィルムの偏光顕微鏡観察した写真、
図21に比較例4を延伸したフィルムの偏光顕微鏡観察した写真を示す。
【0144】
図19、20と
図21を比べても明らかなように、本発明による実施例の写真には、未延伸のフィルムと同様、比較例には少ないマルタ十字形のPLAの球晶と推測される影が重なり合って存在している様が確認出来る。また、
図19、20には、延伸によって生じたシシケバブ状の配向結晶と思われる縦横に筋状の影が画像に確認出来る。
図19と
図20をくらべると、CNCの混率が高くなるとこの筋状の影が細かく緻密になっている状態が確認出来る。
【0145】
未延伸と同様、写真に確認出来るものがフィルムを作製した際の凹凸や延伸した際の歪みでないことを確認するため位相差観察および微分干渉観察を実施した。
【0146】
図22に実施例13を延伸したフィルムの位相差観察した写真、
図23に実施例15を延伸したフィルムの位相差観察した写真、
図24に比較例4を延伸したフィルムの位相差観察した写真を示す。
【0147】
また、
図25に実施例13を延伸したフィルムの微分干渉観察した写真、
図26に実施例15を延伸したフィルムの微分干渉観察した写真、
図27に比較例4を延伸したフィルムの微分干渉観察した写真を示す。
【0148】
図22、23と
図24、
図25、26と
図27をそれぞれ比べても明らかなように、本発明による実施例の写真には、比較例には写っていないマルタ十字形のPLAの球晶と推測される影が画像に確認出来る。偏光顕微鏡による観察と同様に延伸によって生じた配向結晶ではないかと思われる縦横に筋状の影が画像に確認出来ることからCNCを混合することにより、全体的に結晶化したPLAが存在する構造になっている。
【0149】
次に、実際にPLA、CNC混合物からの作製物での結晶化状態の観察を実施した。まず、混練で作製した混合物ペレットからフィルム化した作製物の偏光顕微鏡観察の実証を行った。
【0150】
得られた実施例20~22 のPLA、CNC混練ペレットから作製された延伸フィルムおよび比較例9のPLAペレットから作製された延伸フィルムの偏光顕微鏡によるPLAの結晶化状態を観察した。写真に写るものが延伸した際の歪みや凹凸であるか否かを確認するため、クロスニコル(暗視野観察)とオープンニコル(明視野観察)で観察を実施した。
【0151】
図28に実施例20の延伸フィルムをクロス二コルで偏光顕微鏡観察した写真、
図29に実施例20の延伸フィルムをオープンニコルで偏光顕微鏡観察した写真、
図30に実施例21の延伸フィルムをクロス二コル偏光顕微鏡観察した写真、
図31に実施例21の延伸フィルムをオープンニコルで偏光顕微鏡観察した写真、
図32に実施例22の延伸フィルムをクロス二コルで偏光顕微鏡観察した写真、
図33に実施例22の延伸フィルムをオープンニコルで偏光顕微鏡観察した写真、
図34に比較例9の延伸フィルムをクロス二コルで偏光顕微鏡観察した写真、
図35に比較例9の延伸フィルムをオープンニコルで偏光顕微鏡観察した写真を示す。
【0152】
図28、30、32と
図34、
図29、31、33と
図35をそれぞれ比べても明らかなように、本発明による実施例の写真には比較例には写っていないマルタ十字形のPLAの球晶と推測される影が画像に確認出来る。CNCの混合でPLAの結晶化が促進されている構造になっていることが推測される。
図30でCNCが起因している結晶化されていると推測される影が画像に確認でき、DSC測定の降温再結晶化ピーク温度の結果と合わせると、CNC混率0.01wt%で結晶化促進されていることが推測される。また、
図28、30、32を比べると、CNCの混率が増加するほどマルタ十字形のPLAの球晶と推測される影が重なり合って存在しているように見えることから、PLAの結晶化促進は、CNCによるものではないかと推測される。
【0153】
さらにPLA、CNC混合物からの作製物での結晶化状態の観察を行うべく、得られた実施例18 のPLA、CNC混練ペレットから作製された延伸倍率4倍のマルチフィラメントおよび実施例19 のPLA、CNC混練ペレットから作製された延伸倍率4.5倍のマルチフィラメントと比較例7のPLAペレットから作製された延伸倍率4倍のマルチフィラメントの偏光顕微鏡観察によるPLAの結晶化状態を観察した。比較例8でも明らかなように、CNCを混合していないPLAペレットで4.5倍延伸のマルチフィラメントを採取することができず、CNCを混合したPLA、CNC混練ペレットから4.5倍延伸のマルチフィラメントを採取することができたことから、CNCが結晶核となって形成する結晶ネットワーク構造により高い延伸倍率のマルチフィラメントが採取できたと考えられる。偏光顕微鏡観察による結晶化状態の観察でその検証を実施した。
【0154】
図36に実施例18の延伸倍率4倍のマルチフィラメントをクロス二コルで偏光顕微鏡観察した写真、
図37に実施例19の延伸倍率4.5倍のマルチフィラメントをクロス二コルで偏光顕微鏡観察した写真、
図38に比較例7の延伸倍率4倍のマルチフィラメントをクロス二コルで偏光顕微鏡観察した写真を示す。
【0155】
図36と
図38を比べても明らかなように、本発明による実施例の写真は、シシケバブ状の配向結晶と思われる縦横に筋状の影がより鮮明に見えるため、比較例よりも結晶化されていることが確認できる。
図36、
図38共に延伸による配向結晶化が確認出来ることから、CNCが結晶核になって形成される結晶ネットワーク構造は、繊維の配向結晶化を阻害せず、繊維自身の結晶化を促進していることが確認できる。また、
図36と
図37を比べると、
図37の方が
図36よりも結晶化が促進され、結晶に覆われた緻密な結晶構造の繊維であるように見える。混合されたCNCによる結晶ネットワーク構造によってより結晶化が促進されるため、CNCを混合していないPLAペレットから作製されるマルチフィラメントよりも高い倍率の延伸ができ、強度の高いマルチフィラメントが作製できると考える。
【0156】
(3) PLA、CNC混合物から作製された作製物の物性
(3)-1 マルチフィラメントの物性
得られた実施例18、19 のPLA、CNC混練ペレットから作製されたマルチフィラメントの物性および比較例7のPLAペレットから作製されたマルチフィラメントの物性を表8に示す。
【0157】
【0158】
表8から明らかなように、本発明による実施例18のPLA、CNC混練ペレットから作製されたマルチフィラメントは、比較例7のCNCを混合していないPLAペレットから作製されたマルチフィラメントよりも引張強度が向上していることが分かる。さらに比較例8で作製できなかった延伸倍率を4.5倍にしたマルチフィラメント実施例19では、さらなる強度向上が見られる。
【0159】
実施例18、19と比較例7の伸び率を比べると、実施例の方が低い結果となっているが、これは実施例が延伸による配向結晶化以外にCNCを結晶核として細かい結晶が数多く形成されているため、それらの結晶を結ぶタイ分子によって形成された結晶ネットワーク構造がフィラメントの伸長に対して影響を及ぼしているものと考える。
【0160】
ただ、実施例18、19は、比較例7に比べ見掛けヤング率および伸長弾性率が向上していることから、靭性が向上して比較例7よりも強靭性になっていることが分かる。
【0161】
(3)-2 延伸フィルムの物性
得られた実施例20~24 のPLA、CNC混練ペレットから作製された延伸フィルムの物性および比較例9のPLAペレットから作製されたマルチフィラメントの物性を表9に示す。
【0162】
【0163】
表9から明らかなように、本発明による実施例20~24のPLA、CNC混練ペレットから作製された延伸フィルムは、いずれも比較例9のCNCを混合していないPLAペレットから作製された延伸フィルムよりも引張強度が向上していることが分かる。実施例18、19のマルチフィラメントと同様、延伸フィルムでもCNCを混合することによりPLAの結晶化が促進され、それによって強度が向上していることが分かる。実施例21の0.01wt%でも引張強さが向上していることから、CNCを混合することによるフィルムの不透明化の懸念は、CNCの混率によって解消できると考えられる。本発明のPLA、CNC混合物は、使用用途に応じて物性を改質する汎用性の高い混合物だということが分かる。
【0164】
実施例20~24と比較例9の伸び率を比べると、実施例の方が低い結果となっているが、これは実施例にCNCを結晶核とした細かい結晶が数多く形成されているため、それらの結晶を結ぶタイ分子によって形成された結晶ネットワーク構造がフィルムの伸長に対して影響を及ぼしているものと考える。
【0165】
(3)-3 短冊形射出成形試験片の物性
得られた実施例25、26、27 のPLA、CNC混練ペレットから作製された短冊形射出成形試験片の物性および比較例10、11、12のPLAペレットから作製された短冊形射出成形試験片の物性を表10に示す。
【0166】
【0167】
表10から明らかなように、本発明による実施例25のPLA、CNC混練ペレットから作製された短冊形射出成形試験片は、比較例10のCNCを混合していないPLAペレットから作製された短冊形射出成形試験片よりも曲げ弾性率が向上していることが分かる。実施例26と比較例11、実施例27と比較例12においても曲げ弾性率の向上が見られ、本発明による実施例は、比較例の約1.5倍向上されていることが分かる。CNCを高混率混合して硬化した成形物でも靭性が向上され、強靭性になっていることが分かる。
【0168】
(4) PLA、CNC混合物から作製された作製物の耐熱性
(4)-1 マルチフィラメントの耐熱性
得られた実施例19 のPLA、CNC混練ペレットから作製されたマルチフィラメントのTMA装置で測定した測定チャートおよび比較例7のPLAペレットから作製されたマルチフィラメントのTMA装置で測定した測定チャートを
図39に示す。
【0169】
図39から明らかなように、本発明による実施例19のPLA、CNC混練ペレットから作製されたマルチフィラメントの熱挙動は、比較例7のCNCを混合していないPLAペレットから作製されたマルチフィラメントの熱挙動よりも高温サイドにスライドしている。実施例19および比較例7のマルチフィラメントは、いずれも延伸で伸ばされる際に歪みが生じている分子鎖のエントロピー緩和でフィラメントに与えられている荷重よりも強い力で収縮した後、ガラス転移点を越えて加えられ続ける熱によって結晶が融解を始め、与えられている一定荷重に耐えられないほど軟化した時点で伸ばされ始める。この挙動開始温度をTMA測定データで確認すると、比較例7では、収縮開始温度が26.4℃、伸長開始温度(荷重軟化温度)が85.5℃に対し、実施例19では、収縮開始温度が53.5℃、伸長開始温度(荷重軟化温度)が97.8℃といずれも10℃以上の高温となっている。実施例19は、先の物性結果からCNCによる結晶化促進が確認されており、実施例19と比較例7の物性の差異は、そのCNCによる結晶化促進によるものだと考えられることから、TMA測定で確認出来たこの温度差も実施例19に生じているCNCを結晶核として形成されたPLAの結晶数およびタイ分子による結晶ネットワーク構造によるものであることがわかる。
【0170】
(4)-2 延伸フィルムの耐熱性
得られた実施例20 のPLA、CNC混練ペレットから作製された延伸フィルムのTMA装置で測定した測定チャートおよび比較例9のPLAペレットから作製された延伸フィルムのTMA装置で測定した測定チャートを
図40に示す。
【0171】
図40から明らかなように、本発明による実施例20のPLA、CNC混練ペレットから作製された延伸フィルムの熱挙動は、比較例9のCNCを混合していないPLAペレットから作製された延伸フィルムの熱挙動よりも高温サイドにスライドしている。実施例19および比較例7のマルチフィラメントの熱挙動と同様、比較例9の伸長開始温度(荷重軟化温度)が70.2℃、実施例20の伸長開始温度(荷重軟化温度)が71.5℃と1.3℃高温化していることが分かる。実施例19および比較例7のマルチフィラメントと同様、CNCを結晶核として形成されたPLAの結晶数およびタイ分子による結晶ネットワーク構造によって耐熱性が向上していることが分かる。
【0172】
(4)-3 短冊形射出成形試験片の耐熱性
得られた実施例25、26、27 のPLA、CNC混練ペレットから作製された短冊形射出成形試験片の荷重タワミ温度測定結果および比較例10、11、12のPLAペレットから作製された短冊形射出成形試験片の荷重タワミ温度測定結果を表11に示す。
【0173】
【0174】
表11から明らかなように、本発明による実施例25のPLA、CNC混練ペレットから作製された短冊形射出成形試験片は、比較例10のCNCを混合していないPLAペレットから作製された短冊形射出成形試験片よりも荷重タワミ温度が高くなっていることが分かる。実施例26と比較例11、実施例27と比較例12においていずれも荷重タワミ温度が高くなっており、本発明による実施例は、比較例よりも耐熱性が向上されていることが分かる。
【0175】
本発明によるPLA、CNC混合物は、生分解性を保ちながら環境負荷を軽減させて使用用途に応じて物性を改良することのできる汎用性の高い生分解性素材である。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明は、繊維産業やフィルム・シート産業、プラスチック成形産業などの化学産業において幅広く利用できる。
【要約】
【課題】PLAに本来必要な生分解性を保ちながら、環境を増加させず、汎用的に必要とされる物性へと改良したPLA、CNC混合物を提供する。
【解決手段】本発明のPLA、CNC混合物は、PLAに生分解性の物質で化学変性されておらず結晶化度90%以上のCNCのみを添加し、PLAに分散されたCNCが結晶核となり無数の結晶が形成されるため複数の結晶間に跨るタイ分子が形成され、PLA結晶ネットワーク構造を形成することとなり、その構造がPLAの物性の改良をなすPLA、CNC混合物になる。PLAに環境負荷となる物質や他の化学物質を架橋や重合してPLAを変性する改良や環境負荷のかかる化学物質を添加して改良するのではなく、生分解性で無毒、環境負荷のないCNCを添加することによってPLA自身の結晶化と結晶構造を変えて改質する混合物であるため、PLAの持つ生分解性を損なうことなく、保ちながら物性を改良したPLA、CNC混合物となる。
【選択図】
図1