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特許7589393滅菌処理したヘテロシクリデンアセトアミド誘導体含有懸濁液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】滅菌処理したヘテロシクリデンアセトアミド誘導体含有懸濁液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20241118BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241118BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241118BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241118BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K9/10
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/44
A61P27/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024521732
(86)(22)【出願日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2023035547
(87)【国際公開番号】W WO2024071348
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2024-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2022156060
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】山下 有希
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/066144(WO,A1)
【文献】特開2018-203648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の粉末を含む水性懸濁液剤であって、前記粉末が熱処理したものであり、前記熱処理が、滅菌工程内の処理であり、約150~約170℃での熱処理を含む、水性懸濁液剤。
【請求項2】
非イオン界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の水性懸濁液剤。
【請求項3】
前記熱処理が、約30分~約5時間行われる、請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項4】
E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の粉末、並びに非イオン界面活性剤を含む水性懸濁液剤であって、
前記粉末が熱処理したものであり、
前記熱処理が、滅菌工程内の処理であり、
前記熱処理が、約150~約170℃での熱処理を含み、
前記熱処理が、約30分~約5時間行われる、
水性懸濁液剤。
【請求項5】
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.0001w/v%~約1w/v%である、請求項2またはに記載の水性懸濁液剤。
【請求項6】
前記非イオン界面活性剤がチロキサポール、ポリソルベート80、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2またはに記載の水性懸濁液剤。
【請求項7】
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.0001w/v%~約1w/v%であり、
前記非イオン界面活性剤がチロキサポール、ポリソルベート80、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2またはに記載の水性懸濁液剤。
【請求項8】
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約5w/v%である、請求項1、2またはに記載の水性懸濁液剤。
【請求項9】
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドが、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである、
請求項1、2またはに記載の水性懸濁液剤。
【請求項10】
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の粉末を含む水性懸濁液剤であって、前記粉末が熱処理したものであり、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の再分散性が向上している、水性懸濁液剤であって、前記熱処理が、滅菌工程内の処理であり、約150~約170℃での熱処理を含む、水性懸濁液剤。
【請求項11】
前記再分散性の向上が、振盪操作で評価した場合に、約35回未満の振盪回数で懸濁粒子が再分散することである、請求項1に記載の水性懸濁液剤。
【請求項12】
前記再分散性の向上が、転倒操作で評価した場合に、約50回未満の転倒回数で懸濁粒子が再分散することである、請求項1または1に記載の水性懸濁液剤。
【請求項13】
E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の粉末を含む水性懸濁液剤であって、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の平均粒子径(D50)が約1μm~約10μmである、水性懸濁液剤であって、前記粉末が熱処理したものであり、該熱処理が、滅菌工程内の処理であり、約150~約170℃での熱処理を含む、水性懸濁液剤。
【請求項14】
水性懸濁液剤を製造する方法であって、
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の粉末を熱処理する工程であって、前記熱処理が、滅菌工程内の処理であり、約150~約170℃での熱処理を含む、工程と、
熱処理した前記粉末を、溶媒と混合する工程とを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医薬、ヘルスケア、生物学およびバイオテクノロジー等の分野に関する。本開示は、とりわけ、ヘテロシクリデンアセトアミド誘導体を含有する懸濁液の再分散性の向上技術、またこれに基づく製剤技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本でのドライアイ患者人口は少なくとも約800万人、通院しないで市販点眼剤を使用している潜在患者も含めると約2,200万人いると見込まれ、世界では10億人以上存在するともいわれる。現代社会ではテレビ、コンピュータ、携帯端末等の利用により画面を注視する場面が多くなり瞬目回数が減少し、更にはエアコンの使用等により空気が乾燥し、結果的に涙液の蒸発が亢進し、ドライアイを引き起こすことが広く知られている。また、屈折矯正手術およびコンタクトレンズの使用により、結果的にドライアイになる。ドライアイに伴う症状としては、眼表面の眼不快感、乾燥感、灼熱感および刺激感などが挙げられる。
【0003】
ドライアイになると、上記症状が自覚症状として現れ、その治療には長期間にわたって定期的な点眼が必要とされる。そのため、一般的に現在市販されているドライアイ治療薬は頻回投与型が多くなっており、例えば、ジクアス(登録商標)点眼液は通常1日6回点眼すること、ヒアレイン(登録商標)点眼液は1日5~6回点眼すること、ムコスタ(登録商標)点眼液は通常1日4回点眼することが必要とされる。
【0004】
ドライアイを治療するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む組成物、又はその使用が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1:国際公開第2021/066144号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、熱処理した、ヘテロシクリデンアセトアミド誘導体の一つである、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む、優れた再分散性を有する水性懸濁液剤を提供する。
【0007】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤。
(項目1-1)
前記熱処理が、乾熱処理である、上記項目に記載の水性懸濁液剤。
(項目2)
前記熱処理が、滅菌工程内の処理である、上記項目に記載の水性懸濁液剤。
(項目2―1)
前記滅菌工程内の処理が、乾熱滅菌処理である、上記項目に記載の水性懸濁液剤。
(項目3)
非イオン界面活性剤をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目4)
前記熱処理が、約180℃より低い温度での熱処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目5)
前記熱処理が、約100~約175℃での熱処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目6)
前記熱処理が、約100~約170℃での熱処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目7)
前記熱処理が、約150~約170℃での熱処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目8)
前記熱処理が、約30分~約5時間行われる、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目9)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.0001w/v%~約1w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目10)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.001w/v%~約0.5w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目11)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約0.05w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目12)
前記非イオン界面活性剤がチロキサポール、ポリソルベート、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目13)
前記非イオン界面活性剤がチロキサポールである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目14)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約5w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目15)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.3w/v%~約1w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目16)
熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、非イオン界面活性剤とを含む水性懸濁液剤であって、
前記熱処理が、約180℃より低い温度での熱処理を含み、
前記熱処理が、約30分~約5時間行われる、
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約5w/v%であり、
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約0.05w/v%である、水性懸濁液剤。
(項目17)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドが、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目18)
熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤であって、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が、振盪操作で評価した場合に、約35回未満の振盪回数で懸濁粒子が再分散する、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目19)
熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤であって、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が、転倒操作で評価した場合に、約50回未満の転倒回数で懸濁粒子が再分散する、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目20)
熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤であって、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の再分散性が向上している、水性懸濁液剤。
(項目21)
前記再分散性の向上が、振盪操作で評価した場合に、約35回未満の振盪回数で懸濁粒子が再分散することである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目22)
前記再分散性の向上が、転倒操作で評価した場合に、約50回未満の転倒回数で懸濁粒子が再分散することである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目23)
熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤であって、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の平均粒子径(D50)が約1μm~約10μmである、水性懸濁液剤。
(項目24)
水性懸濁液剤を製造する方法であって、
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を熱処理する工程と、
熱処理した該(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を、溶媒と混合する工程とを含む、
方法。
(項目25)
熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
(項目26)
前記水性懸濁液剤のpHが約4~約8である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目27)
前記水性懸濁液剤がプラスチック容器に収容されている、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目28)
前記プラスチック容器の素材がポリエチレンまたはポリプロピレンである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B1)
ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤。
(項目B2)
非イオン界面活性剤をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B3)
ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、非イオン界面活性剤を含む水性懸濁液剤。
(項目B4)
前記ガンマ線滅菌処理が、約10~約50kGyでのガンマ線処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B5)
前記ガンマ線滅菌処理が、約25kGyでのガンマ線処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B6)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.0001w/v%~約0.1w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B7)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.001w/v%~約0.5w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B8)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約0.05w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B9)
前記非イオン界面活性剤がチロキサポール、ポリソルベート、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B10)
前記非イオン界面活性剤がチロキサポールである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B11)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約5w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B12)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.3w/v%~約1w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B13)
ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、非イオン界面活性剤とを含む水性懸濁液剤であって、
前記ガンマ線滅菌処理が、約10~約50kGyでのガンマ線処理を含み、
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約5w/v%であり、
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約0.05w/v%である、水性懸濁液剤。
(項目B14)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドが、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B15)
ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤であって、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が、振盪操作で評価した場合に、約35回未満の振盪回数で懸濁粒子が再分散する、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B16)
ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤であって、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が、転倒操作で評価した場合に、約50回未満の転倒回数で懸濁粒子が再分散する、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B17)
ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤であって、該水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の再分散性が向上している、水性懸濁液剤。
(項目B18)
前記再分散性の向上が、振盪操作で評価した場合に、約35回以下の振盪回数で懸濁粒子が再分散することである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B19)
前記再分散性の向上が、転倒操作で評価した場合に、約50回以下の転倒回数で懸濁粒子が再分散することである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B20)
ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
(項目B21)
前記水性懸濁液剤のpHが約4~約8である、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B22)
前記水性懸濁液剤がプラスチック容器に収容されている、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目B23)
前記プラスチック容器の素材がポリエチレンまたはポリプロピレンである、上記項目のいずれか一項に記載の水性懸濁液剤。
(項目A1)
水性懸濁液剤を製造する方法であって、
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を熱処理する工程と、
熱処理した該(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を、溶媒と混合する工程とを含む、方法。
(項目A1―1)
前記熱処理が、乾熱処理である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A2)
前記熱処理が、滅菌工程内の処理である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A2-2)
前記滅菌工程内の処理が、乾熱滅菌処理である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A3)
非イオン界面活性剤を混合する工程をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A4)
前記熱処理が、約180℃より低い温度での熱処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A5)
前記熱処理が、約100~約175℃での熱処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
前記熱処理が、約100~約170℃での熱処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
前記熱処理が、約150~約170℃での熱処理を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A8)
前記熱処理が、約30分~約5時間行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A9)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.0001w/v%~約1w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A10)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.001w/v%~約0.5w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A11)
前記非イオン界面活性剤の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約0.05w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A12)
前記非イオン界面活性剤がチロキサポール、ポリソルベート、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A13)
前記非イオン界面活性剤がチロキサポールである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A14)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.01w/v%~約5w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A15)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の前記水性懸濁液剤中の濃度が約0.3w/v%~約1w/v%である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A16)
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドが、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A17)
前記水性懸濁液剤のpHが約4~約8である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A18)
前記水性懸濁液剤中の前記熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が、振盪操作で評価した場合に、約35回未満の振盪回数で懸濁粒子が再分散する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A19)
前記水性懸濁液剤中の前記熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が、転倒操作で評価した場合に、約50回未満の転倒回数で懸濁粒子が再分散する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A20)
前記水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の再分散性が向上している、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A21)
前記再分散性の向上が、振盪操作で評価した場合に、約35回以下の振盪回数で懸濁粒子が再分散することである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A22)
前記再分散性の向上が、転倒操作で評価した場合に、約50回以下の転倒回数で懸濁粒子が再分散することである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A23)
前記水性懸濁液剤中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の平均粒子径が約1μm~約10μmである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A24)
前記水性懸濁液剤がプラスチック容器に収容されている、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A25)
前記プラスチック容器の素材がポリエチレンまたはポリプロピレンである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C1)
水性懸濁液剤を製造する方法であって、
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物をガンマ線処理する工程と、
ガンマ線処理した該(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を、溶媒と混合する工程と
を含む、方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、優れた再分散性を有する水性懸濁液剤を提供することができる。
【0009】
本開示は、上記特徴を提供することにより、懸濁粒子が均一に分散されないという現象を抑制し、必要量の有効成分を安定的に投与することができ、薬理効果を安定的に十分に発揮することを実現する。患者のアドヒアランスや利便性の向上に資するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」等)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
(定義)
本明細書において、「約」とは、特に断らない限り、後に続く数値の±10%を意味する。
【0012】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも一つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」および「或いは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0013】
本明細書において、「水性懸濁液剤」とは、本分野で通常使用される用語と同様の意味で用いられ、少なくとも一部に水を含む液状の剤であって、混合される成分が懸濁している状態であり、固体粒子が液体中に存在した状態にあるものをいう。(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、水に対する溶解性が極めて低いため、本開示の水性懸濁液剤では、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が懸濁粒子になるが、一部は溶解している状態となる。
【0014】
本明細書において、「薬学的に許容可能な塩」とは、比較的非毒性の、本開示の化合物の無機または有機の酸付加塩、または無機または有機の塩基付加塩をいう。
【0015】
本明細書において、「溶媒和物」とは、本開示の化合物またはその薬学的に許容される塩と任意の溶媒とが相互作用によって1つの集団を形成するものをいい、例えば有機溶媒との溶媒和物(例えば、アルコール(エタノール等)和物)、水和物等を包含する。水和物を形成するときは、任意の数の水分子と配位していてもよい。水和物としては、1水和物、2水和物等を挙げることができる。
【0016】
本明細書において、「再分散性」とは、懸濁液などの、粒子(懸濁液の場合、「懸濁粒子」ともいう。)を含む液を一定期間保存することによって、その液の溶媒中で沈降が生じた粒子をその液全体に均一に再び分散させる場合の分散のし易さのことをいう。本明細書において「再分散性」は、振盪操作または転倒操作による試験によって評価する。
【0017】
本明細書において、「振盪操作」とは、「水性懸濁液剤」が充填された容器を手に持って上下方向に振り動かす動作をいう。「振盪操作」は、上下10~15cm幅で容器を振り下ろし、振り上げてから元の位置に戻るまでを振盪1回とし、1.1秒/セットの速度で5回を1セットとして振り動かす。「振盪操作」による再分散性の試験は、1処方につき3検体で行い、各検体が再分散に要したセット数から平均セット数を求め、振盪回数に換算した回数を用いる。
【0018】
本明細書において、「転倒操作」とは、「水性懸濁液剤」が充填された容器を手に持って上下を反転させる動作をいう。「転倒操作」による再分散性の試験は、1処方につき3検体で行い、容器を1秒/回の速度で、上下に180°反転した後に再度180°反転して正立状態とする操作を転倒回数1回とする。
【0019】
本明細書において、「再分散性の向上」とは、懸濁液などの粒子を含む液において沈降が生じた粒子が再び分散し易くなることをいい、任意の処方の比較において、上記の「振盪操作」または「転倒操作」の動作回数が減少した場合に、再分散性が向上したといえる。
【0020】
本明細書において、「懸濁粒子の平均粒子径」は、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の粒子の粒子径のメジアン径(D50)を指し、レーザー回析式粒子径分布測定装置を用いて測定される値である。
【0021】
本明細書において、「非イオン界面活性剤」とは、非イオン性界面活性剤とも称され、界面活性剤の親水基の部分が非イオン性のものをいう。非イオン界面活性剤かどうかは、当業者には容易に判定することができ、水に溶解したときに電離しない(イオン性を示さない)ことを確認することで判断することができる。例えば、非イオン界面活性剤としては、チロキサポール、ステアリン酸ポリオキシル類(モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール40(MYS-40)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール400等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO-60)等)が挙げられる。
【0022】
本明細書において、「熱処理」とは、目的の物質や分子、水性懸濁液剤または組成物に対して熱を加えることをいい、実質的に加熱されるものであればよい。「熱処理」には、例えば、乾熱処理、湿熱処理、高圧蒸気処理が含まれる。熱処理の温度は、目的の物質や分子、水性懸濁液剤または組成物の温度を意味してもよいし、熱を加える際に使用する装置に設定する温度やディスプレイに表示される温度であってもよい。熱処理の時間は、目的の物質や分子、水性懸濁液剤または組成物に対して熱を加え、所定の温度に到達してから、所定の温度に平均温度として維持されている時間を意味してもよいし、熱を加える際に使用する装置に設定する時間やディスプレイに表示される時間であってもよい。本開示においては、熱処理(例えば、乾熱処理、湿熱処理、高圧蒸気処理)は、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物自体に施されることを意味する。乾熱処理は、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の粉末に施され得る。「粉末」とは、粉粒体(任意の粒度分布をもつ固体粒子からなり、個々の粒子間に、静電気力やvan der Waals力などの相互作用が働いているもの)を意味する。
【0023】
本明細書において、「滅菌」または「滅菌処理」とは、目的の物質や分子、水性懸濁液剤または組成物に存在するウイルスや微生物等を実質的に除去、殺菌、または非活性化などすることをいう。滅菌としては、例えば、ガンマ線滅菌処理、乾熱滅菌、オートクレーブ滅菌などを挙げることができる。したがって、「ガンマ線滅菌処理」とは、目的の物質や分子、水性懸濁液剤または組成物に対してガンマ線を照射することにより、当該物質や分子を滅菌することをいう。また、「乾熱滅菌」とは、乾燥状態で加熱して滅菌する処理をいう。本開示においては、滅菌または滅菌処理は、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物自体に施されることを意味する。ガンマ線滅菌処理は、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の粉末に施され得る。
【0024】
本明細書において、「溶媒」とは、水、有機溶剤、及び水と有機溶剤との混合物を包含する意味で用いられ、ろ過滅菌またはその他の滅菌処理を行うこともでき、これらの滅菌された溶媒も本明細書の「溶媒」に包含される。また溶媒には、水、有機溶剤、または水と有機溶剤との混合物以外に、粘稠剤、安定化剤、pH調節剤、緩衝剤、および保存剤(防腐剤)などの任意の添加物を溶解した状態であってもよく、これらの添加物含有溶媒も本明細書の「溶媒」に包含される。
【0025】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0026】
(水性懸濁液剤)
本開示の一局面において、熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤が提供され得る。
【0027】
本開示の他の局面において、熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、非イオン界面活性剤とを含む水性懸濁液剤が提供され得る。
【0028】
本開示の一局面において、約150℃~約170℃で熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤が提供され得る。
【0029】
本開示の他の局面において、約150℃~約170℃で熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、非イオン界面活性剤とを含む水性懸濁液剤が提供され得る。
【0030】
本開示の一局面において、約100℃~約170℃で熱処理による滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤が提供され得る。
【0031】
本開示の他の局面において、約100℃~約170℃で熱処理による滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、非イオン界面活性剤とを含む水性懸濁液剤が提供され得る。
【0032】
本開示の一局面において、ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む水性懸濁液剤が提供され得る。
【0033】
本開示の他の局面において、ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、非イオン界面活性剤とを含む水性懸濁液剤が提供され得る。
【0034】
本開示の一局面において、水性懸濁液剤を製造する方法であって、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を熱処理する工程と、熱処理した該(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を、溶媒と混合する工程とを含む、方法が提供され得る。
【0035】
本開示の他の局面において、水性懸濁液剤を製造する方法であって、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物をガンマ線滅菌処理する工程と、ガンマ線滅菌処理した該(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を、溶媒と混合する工程とを含む、方法が提供され得る。
【0036】
本開示の一局面において、熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が提供され得る。
【0037】
本開示の一局面において、約150℃~約170℃で熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が提供され得る。
【0038】
本開示の一局面において、約100℃~約170℃で熱処理による滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が提供され得る。
【0039】
本開示の他の局面において、ガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が提供され得る。
【0040】
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドには、R体(CAS.No.920332-28-1)、S体(CAS.No.920332-29-2)、またはラセミ体(CAS.No.920332-27-0)が含まれるが、より好ましくは、R体((E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド(本開示において化合物(1)とも称する))である。
【0041】
本開示の化合物の薬学的に許容可能な塩としては、薬学的に許容しうる塩であれば特に限定されないが、具体的には、塩酸、臭化水素酸、よう化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、エナント酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、乳酸、ソルビン酸、マンデル酸等の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸等の芳香族モノカルボン酸、しゅう酸、マロン酸、こはく酸、フマル酸、マレイン酸、りんご酸、酒石酸等の脂肪族ジカルボン酸、クエン酸等の脂肪族トリカルボン酸などの有機カルボン酸類;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸などの有機スルホン酸類等との酸付加塩、およびナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属等の金属との無機塩基付加塩、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、ピリジン、リシン、アルギニン、オルニチン等の有機塩基付加塩等が挙げられる。
【0042】
これらの塩は常法,例えば、当量の本開示の化合物と所望の酸或いは塩基等を含む溶液を混合し、所望の塩をろ取するか、または溶媒を留去して集めることにより得られうる。また、本開示の化合物またはその塩は、水、またはエタノールなどの溶媒と溶媒和物を形成しうる。
【0043】
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドは、優れたTransient Receptor Potential Vanilloid 1(以下、「TRPV1」と記す。TRPV1は、「一過性受容体電位バニロイド1」、または「バニロイド受容体1(VR1)」とも称される)拮抗作用を有する。
【0044】
((E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドの、R体(化合物(1))、S体、またはラセミ体に関しては、国際公開第2007/010383号パンフレット、日本特許第4754566号、日本特許第6230743号、国際公開第2018/221543号パンフレット、日本特許第6830569号、国際公開第2021/038889号パンフレットおよび国際公開第2021/039023号パンフレットに記載されている。前記R体(化合物(1))、S体、またはラセミ体は、当該公報記載の製造方法により製造することができる。当該公報の記載内容は、そのすべてが本明細書において援用される。
【0045】
TRPV1は、後根神経節(DRG)からカプサイシンに応答するカチオンチャネルとしてクローニングされ、43℃以上の熱やプロトンにも感受性を持ち、侵害受容の主要分子として研究されているTRPチャネルである(生化学第85巻第7号:561~565)。TRPV1は、炎症時や組織損傷時にはその活性が高まり、痛覚過敏を惹起することが知られている。そのため、TRPV1は疼痛治療に使用できる薬剤標的候補として着目されている。
【0046】
TRPV1拮抗剤は従来から炎症性疼痛、神経障害性疼痛や変形性関節症等の様々な疼痛モデルに対して有効性を示すことが報告されている(生化学第85巻第7号:561~565)。
【0047】
本開示の一実施形態においては、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物に対して熱処理を行い、この熱処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を溶媒と混合して水性懸濁液剤とすることで(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の再分散性を向上させることができる。
【0048】
本開示の他の実施形態においては、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物に対してガンマ線滅菌処理を行い、このガンマ線滅菌処理した(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を溶媒と混合して水性懸濁液剤とすることで(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の再分散性を向上させることができる。
【0049】
本開示の一実施形態において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、本開示の水性懸濁液中において、通常約0.01w/v%~約5w/v%、好ましくは約0.1w/v%~約3w/v%、より好ましくは約0.2w/v%~約2w/v%、特に好ましくは約0.2w/v%~約1.5w/v%、さらに好ましくは約0.3w/v%~約1.0w/v%の濃度で存在することができる。
【0050】
本開示の一実施形態において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物のR体を用いる場合、本開示の水性懸濁液剤中において、通常約0.01w/v%~約5w/v%、好ましくは約0.1w/v%~約3w/v%、より好ましくは約0.2w/v%~約2w/v%、特に好ましくは約0.2w/v%~約1.5w/v%、さらに好ましくは約0.3w/v%~約1.0w/v%の濃度で存在することができる。
【0051】
本開示の一実施形態において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物に対する熱処理は、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の滅菌工程内における処理として行うことができ、熱処理の温度としては、通常約180℃より低い温度、好ましくは約175℃以下、より好ましくは約100~約175℃、特に好ましくは約100~約170℃、さらに好ましくは約120~約170℃、さらにより好ましくは約145~約175℃、最も好ましくは約150~約170℃とすることができる。
【0052】
本開示の一実施形態において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物に対する熱処理の時間は、通常約10分~約24時間行われ、より好ましくは約30分~約12時間、特に好ましくは約30分~約8時間、さらに好ましくは約30分~約5時間にわたって行うことができる。
【0053】
本開示の一実施形態において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物に対するガンマ線滅菌処理は、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の滅菌工程内における処理として行うことができ、ガンマ線滅菌処理の線量としては、通常約10~約50kGy、さらに好ましくは約25kGyとすることができる。
【0054】
本開示の一実施形態において、非イオン界面活性剤としては、薬学的に許容されるものであれば、特に限られるものではないが、チロキサポール、ステアリン酸ポリオキシル類(モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール40(MYS-40)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール400等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO-60)等)が挙げられる。また、これらの非イオン界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。非イオン性界面活性剤は水性懸濁液剤の再分散性または安定性の観点から、チロキサポール、ポリソルベート、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましく、チロキサポール、ポリソルベート、モノステアリン酸ポリエチレングリコールがより好ましく、チロキサポールがさらに好ましい。
【0055】
本開示の一実施形態において、非イオン界面活性剤は、本開示の水性懸濁液剤中において、約0.0001w/v%~約1w/v%、好ましくは約0.0005w/v%~約0.5w/v%、より好ましくは約0.001w/v%~約0.5w/v%、特に好ましくは約0.005w/v%~約0.1w/v%、さらに好ましくは約0.01w/v%~約0.05w/v%の濃度で存在することができる。
【0056】
(再分散性)
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、水に対する溶解性が低いため、非イオン界面活性剤、イオン性界面活性剤または水溶性高分子等の分散剤の非存在下では、粒子が水面上に浮遊して、水性懸濁液の調製が不可能である。加えて、非イオン界面活性剤以外の分散剤を用いる場合には、実質的に薬学的に許容される濃度を超える濃度の分散剤を配合する必要があるため、水性懸濁液剤中には、非イオン界面活性剤の配合が不可欠である。本開示により、分散剤として非イオン界面活性剤が存在する状態において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物に対して熱処理を行うことによって、再分散性が向上している水性懸濁液剤を提供することができる。
【0057】
本開示の他の局面において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物に対してガンマ線滅菌処理を行うことによって、再分散性が向上している水性懸濁液剤を提供することができる。
【0058】
一実施形態において、前述する再分散に要する振盪回数は、通常約35回未満、好ましくは約30回以下、より好ましくは約25回以下、特に好ましくは約20回以下となった場合に再分散性が向上していると判断することができる。
【0059】
転倒操作での測定は、何らかの障害や症状により手の力が弱くなり、振盪による再分散が困難な患者が利用する場合の評価を再現していると言えることから、これらの患者や高齢者の利用時の再分散性を評価しているともいえる。
【0060】
一実施形態において、前述する再分散に要する転倒操作の回数は、通常約50回未満、好ましくは約45回以下となった場合に再分散性が向上していると判断することができる。
【0061】
一実施形態において、再分散性は、任意の手段で評価することができ、例えば、本開示の水性懸濁液を容器に充填させ、その容器を任意の速度および/または任意の振盪幅での振盪操作、または転倒操作をすることによって懸濁粒子が再分散するまでの回数を計測することで評価することもできる。
【0062】
一実施形態において、本開示の水性懸濁液中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドまたはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の平均粒子径(D50)は、特に限られるものではないが、通常約1μm~約10μm、好ましくは約0.5μm~約5μm、特に好ましくは約2μm~約4μm、さらに好ましくは約2.3μm~約3.3μm、最も好ましくは約2.1μm~約3.3μmとすることができる。平均粒子径をこのような範囲とすることで、再分散性を向上させることができる。
【0063】
一実施形態において、本開示の水性懸濁液中の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドまたはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は結晶形として用いることができ、結晶形は、再分散性に影響しなければ、特に制限されない。例えば、本開示においては、国際公開第2018/221543号パンフレット、日本特許第6230743号等に開示される(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドのI型結晶、II型結晶、III型結晶またはこれらの混合物を用いることができる。好ましくは該I型結晶が用いられる。
【0064】
(剤形)
本開示の一実施形態において、水性懸濁液剤は、眼科用懸濁液剤であり、眼注射液、点眼剤または眼灌流液として提供され得る。例えば、眼科用懸濁液剤は、水性の溶媒(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)に有効成分を懸濁させた懸濁液の形態、或いは溶解させた液剤の形態で提供され得る。
【0065】
本開示の一実施形態において、水性懸濁液剤は、ドライアイを治療するための点眼剤であり得る。ドライアイは眼の不快感などの自覚症状を伴う疾患であり、長期かつ定期的な治療が必要とされる。加えて、ドライアイ治療薬は一般的に投与回数が多く設定されるため、患者のアドヒアランスや利便性が良い製剤が強く求められる。さらに、再分散性が悪い懸濁液の場合、懸濁粒子が均一に分散されず、所望の有効成分が投与されず、薬理効果が十分に発揮されないことも懸念される。これらの観点からも、ドライアイを治療するための点眼剤において、再分散性は大きな課題であり、本開示の優れた再分散性を有する水性懸濁液剤の提供は、高い価値を有する。
【0066】
本開示の水性懸濁液剤は、当業者によって決定される任意の適切な経路によって投与することができ、特に限定されるものではないが、眼注射、局所適用(眼への適用を含む)、点眼、静脈注射、点滴、経口、非経口、経皮等から選択される投与経路による投与に適するように製剤化され得る。
【0067】
(添加物および/または賦形剤)
本開示の水性懸濁液剤は、当該技術分野で公知の任意の薬学的に許容される添加物および/または賦形剤を含んでよい。添加剤としては、粘稠剤、安定化剤、pH調節剤、緩衝剤、および保存剤(防腐剤)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0068】
粘稠剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系高分子等が挙げられる。これらの粘稠剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。再分散性の観点から、セルロース系高分子が好ましく、メチルセルロースが特に好ましい。
【0069】
安定化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸塩、エデト酸ナトリウム等が挙げられ、その含有量は、水性懸濁液剤全量に対して約0.001w/v%~約1w/v%が好ましい。
【0070】
pH調節剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、塩酸、酢酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ等が挙げられ、その含有量は、水性懸濁液剤全量に対して例えば0~約20w/v%が挙げられる。
【0071】
本開示の一実施形態において、本開示の水性懸濁液は必要に応じて上記のようなpH調節剤を混合することにより、pHを通常約4~約8、好ましくは約5.0~約8.0、より好ましくは約6.0~約8.0、特に好ましくは約7.0~約8.0、さらに好ましくは約7.2~約7.8とすることができる。
【0072】
本開示の水性懸濁液剤に用いられる緩衝剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アミノ酸緩衝剤等が挙げられるが、水性懸濁液剤の再分散性または安定性の観点から、ホウ酸緩衝剤、またはリン酸緩衝剤が好ましく、ホウ酸緩衝剤が特に好ましい。
【0073】
緩衝剤の濃度としては、水性液剤に所望の緩衝能を付与できる範囲で適宜設定すればよいが、例えば約0.1w/v%~約10w/v%が挙げられ、再分散性或いは安定性を向上されるという観点から好ましくは約1w/v%~約5w/v%、より好ましくは約1w/v%~約3w/v%が挙げられる。
【0074】
ホウ酸緩衝剤としては、薬学的に許容されるものであれば、特に限定されないが、例えば、ホウ酸および/またはその塩が挙げられる。ホウ酸としては、薬学的に許容されるのであれば、特に限定されるものではないが、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸等が挙げられる。ホウ酸の塩としては、薬学的に許容されるのであれば、特に限定されるものではないが、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等の金属塩;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン等の有機アミン塩等が挙げられる。ホウ酸またはその塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、ホウ酸緩衝剤の好適な一態様として、ホウ酸とホウ砂を組み合わせが挙げられる。
【0075】
ホウ酸とホウ砂を組み合わせて用いる場合のホウ酸とホウ砂の比率としては、特に制限されないが、例えば、ホウ酸100質量部当たり、ホウ砂が10~300質量部、好ましく10~250質量部、より好ましくは30~100質量部、特に好ましくは40~60質量部が挙げられる。
【0076】
リン酸緩衝剤としては、具体的には、リン酸および/またはその塩が挙げられる。リン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸水素二アルカリ金属塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素アルカリ金属塩;リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸三アルカリ金属塩等が挙げられる。また、リン酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよく、例えば、リン酸水素二ナトリウムの場合であれば十二水和物の形態、リン酸二水素ナトリウムの場合であれば二水和物の形態等であってもよい。リン酸緩衝剤として、リン酸およびその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。リン酸およびその塩の中でも、好ましくはリン酸塩、より好ましくはリン酸水素二アルカリ金属塩およびリン酸二水素アルカリ金属塩の少なくとも1種、特に好ましくはリン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムの少なくとも1種が挙げられる。
【0077】
トリス緩衝剤としては、トリス(別名:トリスヒドロキシメチルアミノメタン)および/またはその塩が挙げられる。トリスの塩としては、薬学的に許容されるものであれば、特に限定されないが、例えば、酢酸塩、塩酸塩、マレイン酸塩、スルホン酸塩等の塩が挙げられる。トリス酸緩衝剤は、トリスおよびその塩の中から1種を選択して単独で使用しても良く、また2種以上を組み合わせて使用しても良い。また他の実施形態において、トリス緩衝剤としては、具体的には、トロメタモールおよび/またはその塩が挙げられる。トロメタモールの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、酢酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、スルホン酸塩等の無機酸塩が挙げられる。トリス酸緩衝剤として、トロメタモールおよびその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。トロメタモールおよびその塩の中でも、好ましくはトロメタモールが挙げられる。
【0078】
クエン酸緩衝剤としては、具体的には、クエン酸および/またはその塩が挙げられる。クエン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、クエン酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。クエン酸緩衝剤として、クエン酸およびその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。クエン酸およびその塩の中でも、好ましくはクエン酸の塩、より好ましくはクエン酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0079】
酒石酸緩衝剤としては、具体的には、酒石酸および/またはその塩が挙げられる。酒石酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、酒石酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。酒石酸緩衝剤として、酒石酸およびその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
酢酸緩衝剤としては、具体的には、酢酸および/またはその塩が挙げられる。酢酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。また、酢酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。酢酸緩衝剤として、酢酸およびその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
アミノ酸緩衝剤としては、具体的には、酸性アミノ酸および/またはそれらの塩が挙げられる。酸性アミノ酸としては、具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸が挙げられる。酸性アミノ酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。アミノ酸緩衝剤として、酸性アミノ酸およびその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0082】
保存剤としては、薬学的に許容されるものであれば、特に限定されないが、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられ、その含有量はその種類により適宜変えることができるが、水性懸濁液剤全量に対して例えば約0.0001w/v%~約0.2w/v%が挙げられる。
【0083】
点眼剤を調製する場合、例えば、所望の上記成分を滅菌精製水、生理食塩水、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液または酢酸緩衝液等。)等の水性溶剤、または綿実油、大豆油、ゴマ油、落花生油等の植物油等の非水性溶剤に溶解または懸濁させ、所定の浸透圧に調整し、濾過滅菌等の滅菌処理を施すことにより行うことができる。
【0084】
(容器)
本開示の水性懸濁液剤を収容する容器としては、特に限定されず、例えば、ガラス容器またはプラスチック容器等が挙げられる。プラスチック容器としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート)、ポリカーボネート、ポリエチレンまたはポリプロピレン、それらの混合物、それらとそれら以外の混合物などの任意の材料で形成され得る。本開示において用いられる容器は、医療分野で用いられるものであってもよく、それ以外であってもよい。一つの実施形態では、日本国における「点眼剤用プラスチック容器の規格」またはその他の等価の規格に合致しうる任意の材質で形成されることができる。
【0085】
使用される容器の形状は、任意のものであってよく、通常、点眼用の形状であれば任意の形状を用いることができる。
【0086】
ある実施形態において、本開示の水性懸濁液剤は医療分野で常用される任意の点眼容器に充填することができ、例えば、ポリエチレン(好ましくは低密度ポリエチレン)またはポリプロピレン、好ましくは無色ポリプロピレン容器に充填することができる。
【0087】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M. A. (1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis ,M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、Gait, M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991).Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996).Bioconjugate Techniques, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997等に記載されている。これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0088】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願等の参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0089】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したものではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0090】
(試験例1:原薬の熱処理温度による再分散性の変化)
懸濁液の調製
表1および2に示す組成に従って、基剤溶液を調製し、そこに化合物(1)を加えて、撹拌分散させて懸濁液を得た。チロキサポールはAMRI Rensselaer社製(Curia Global,Inc.)のものを使用した。化合物(1)は、前記のI型結晶を使用した。
【0091】
容器への収容
調製した懸濁液をスターラー撹拌しながら5mLずつ採取し、点眼容器に充填した。点眼容器はポリエチレンからなる無色容器(ガチフロ点眼液0.3%(製造販売元:千寿製薬株式会社)に使用されている容器)を採用した。
【0092】
再分散性評価
転倒操作による評価方法:点眼容器に充填された懸濁液中の懸濁粒子が完全に沈降していることを確認した。転倒操作(容器を手に持って上下を反転させる動作)を行い、点眼容器の底面および壁面から沈殿が消失し、再分散するまで繰り返した。なお、容器を1秒/回の速度で、上下に180°反転した後に再度180°反転して正立状態とする操作を転倒回数1回とした。再分散するまでに要した転倒操作数をカウントした。試験は1処方あたり3検体で行い、平均した転倒操作回数を算出した。
【0093】
振盪による評価方法:点眼容器に充填された懸濁液中の懸濁粒子が完全に沈降していることを確認した。振盪5回を1セットとし、点眼容器の底面及び壁面から沈殿が消失するまで振盪を繰り返した。なお、振盪は上下10~5cm幅、振り下ろしてから元の位置に戻るまでを振盪1回とし、1.1秒/セットの速度で実施した。再分散するまでに要したセット数をカウントし、振盪回数を算出した。
【0094】
粒子径の測定
沈殿が再分散するまで検体を振盪した後、レーザー回折型粒度分布測定装置(SALD-2300)の分散槽に検体を約1mL滴下した。2分間、超音波処理を行った後に粒度分布を測定し、D10、D50、D90の値を粒子径とした。
【0095】
結果
結果を表1および2に示す。150~170℃で熱処理した化合物(1)を分散させた、水性懸濁液剤は再分散性が良好であった。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
(試験例2:熱処理時間)
懸濁液の調製
表3に示す組成に従って、基剤溶液を調製し、そこに化合物(1)を加えて、撹拌分散させて懸濁液を得た。
【0099】
容器への収容
試験例1と同様にして行った。
【0100】
再分散性評価
試験例1と同様にして行った。
【0101】
結果
結果を表3に示す。熱処理時間が、30分~5時間で、水性懸濁液剤は再分散性が良好であった。
【0102】
【表3】
【0103】
(試験例3:界面活性剤の違いによる再分散性の変化)
懸濁液の調製
表4に示す組成に従って、基剤溶液を調製し、そこに化合物(1)を加えて、撹拌分散させて懸濁液を得た。チロキサポールはAMRI Rensselaer社製(Curia Global,Inc.)、ポリソルベート80は日油製、モノステアリン酸ポリエチレングリコール40(MYS-40)は日本サーファクタント工業製、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60は日本サーファクタント工業製のものを使用した。化合物(1)は、前記のI型結晶を使用した。
【0104】
容器への収容
試験例1と同様にして行った。
【0105】
再分散性評価
試験例1と同様にして行った。
【0106】
結果
結果を表4に示す。いずれの非イオン性界面活性剤を使用した場合、160℃で熱処理した化合物(1)を分散させた、水性懸濁液剤は再分散性が良好であった。
【0107】
【表4】
【0108】
(試験例4:界面活性剤濃度)
懸濁液の調製
表5に示す組成に従って、基剤溶液を調製し、そこに化合物(1)を加えて、撹拌分散させて懸濁液を得た。チロキサポールはAMRI Rensselaer社製(Curia Global,Inc.)のものを使用した。化合物(1)は、前記のI型結晶を使用した。
【0109】
容器への収容
試験例1と同様にして行った。
【0110】
再分散性評価
試験例1と同様にして行った。
【0111】
結果
結果を表5に示す。チロキサポール濃度が0.01%~0.04%の範囲で、水性懸濁液剤は再分散性が良好であった。
【0112】
【表5】
【0113】
(試験例5:滅菌方法の違いによる再分散性の変化)
懸濁液の調製
表6に示す組成に従って、基剤溶液を調製し、そこに化合物(1)を加えて、撹拌分散させて懸濁液を得た。チロキサポールはAMRI Rensselaer社製(Curia Global,Inc.)のものを使用した。化合物(1)は、前記のI型結晶を使用した。比較例7は約25kGyの電子線を照射した化合物(1)を、実施例13は約25kGyのガンマ線を照射した化合物(1)を用いた。実施例14は160℃、2時間の条件で乾熱滅菌処理した化合物(1)を用いた。
【0114】
容器への収容
試験例1と同様にして行った。
【0115】
再分散性評価
試験例1と同様にして行った。
【0116】
結果
結果を表6に示す。ガンマ線処理した化合物(1)を分散した、水性懸濁液剤は再分散性が良好であった。
【0117】
【表6】
【0118】
(試験例:乾熱原薬を使用した製剤の安定性)
懸濁液の調製
表7に示す組成に従って、懸濁液を得た。チロキサポールはAMRI Rensselaer社製(Curia Global,Inc.)のものを使用した。化合物(1)は、前記のI型結晶を使用した。
【0119】
【表7】
【0120】
容器への収容
試験例1と同様にして行った。
【0121】
保管
保管は以下の条件でおこなった。
保管条件:60±2℃(平均60.1℃)、成り行き湿度
・ 保管期間:開始時、2週間、4週間
【0122】
pH測定
日局 一般試験法pH測定法により、pHを測定した。すなわち、ガラス電極によるpHメータを用いて測定した。
【0123】
浸透圧測定
日局 一般試験法 浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)により、浸透圧を測定した。
【0124】
含量測定・不純物測定
実施例15はアセトニトリルで2倍希釈したものを試料溶液とした。実施例16は本品 2mLを正確に量り、移動相Bを加えて溶かし正確に20mLとし、試料溶液とした。別に、化合物(1)約20mgを精密に量り、移動相Bを加えて溶かし正確に20mLとし、標準溶液Aとした。この液2mLを正確に量り、移動相Bを加えて正確に20mLとし、標準溶液Bとした。実施例15は標準溶液Bを、実施例16は標準溶液Aを使用した。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行った。
【0125】
試験条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:250nm)
カラム:内径4.6mm、長さ250mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした市販カラムを使用した。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:水1000mLにリン酸水素二ナトリウム・十二水和物1.79gを加えて溶かす。この液にリン酸を加えてpHを6.5に調整する。この液650mLにアセトニトリル350mLを加えて混合する。
移動相B:アセトニトリル/水混液(80:20)
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比率を下表の直線濃度勾配で制御した。
【0126】
粒子径の測定
試験例1と同様にして行った。
【0127】
結果
n=3で行った結果を表8に示す。いずれも4週間の保管安定性が示された。
【0128】
【表8】
【0129】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本出願は、日本国特許庁に2022年9月29日に出願された特願2022-156060に対して優先権主張をするものであり、本願はその全体が参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本開示は、医療、医薬品、ヘルスケア、生物学、生化学等の分野において利用可能である。