IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニデックの特許一覧

<>
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図1
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図2
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図3
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図4
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図5
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図6
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図7
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図8
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図9
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図10
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図11
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図12
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図13
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図14
  • 特許-眼内レンズ挿入器具 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020027797
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021129890
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】紙谷 友章
(72)【発明者】
【氏名】菱田 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】傍嶋 達也
【審査官】松山 雛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-019610(JP,A)
【文献】特開2012-010961(JP,A)
【文献】特開2009-136330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部の内部空間に予め充填された眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前記本体部は、前記本体部の外部から前記内部空間に液状の潤滑剤を注入するために少なくとも第1粘度の潤滑剤と第2粘度の潤滑剤をそれぞれ注入するための複数の注入口を備え、
前記第1粘度の潤滑剤は前記第2粘度の潤滑剤よりも粘度が高く、前記第1粘度用の注入口が相対的に前側に位置し、前記第2粘度用の注入口が相対的に後側に位置し、
前記複数の注入口を介して前記内部空間に注入させる前記潤滑剤の粘度に基づき前記内部空間への前記潤滑剤の注入方法を変化させる構成として、前記潤滑剤の粘度に応じて注入位置を変化させる注入方法変更手段を備え、
前記注入方法変更手段は、前記第1粘度用の注入口と前記第2粘度用の注入口の外周形状がそれぞれ異なる眼内レンズ挿入器具。
【請求項2】
筒状の本体部の内部空間に予め充填された眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前記本体部は、前記本体部の外部から前記内部空間に液状の潤滑剤を注入するために少なくとも第1粘度の潤滑剤と第2粘度の潤滑剤をそれぞれ注入するための複数の注入口を備え、
前記第1粘度の潤滑剤は前記第2粘度の潤滑剤よりも粘度が高く、前記第1粘度用の注入口が相対的に前側に位置し、前記第2粘度用の注入口が相対的に後側に位置し、
前記複数の注入口を介して前記内部空間に注入させる前記潤滑剤の粘度に基づき前記内部空間への前記潤滑剤の注入方法を変化させる構成として、前記潤滑剤の粘度に応じて注入位置を変化させる注入方法変更手段を備え、
前記注入方法変更手段は、前記第1粘度用の注入口と前記第2粘度用の注入口に異なる潤滑剤の粘度に対応する誘導指標を設け、前記誘導指標に基づいて注入位置を変更可能とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記本体部は、
前後方向に延びる筒状に形成される本体筒部の前端側に接続されて前記内部空間を備える設置部として、箱状の部材であり上部が開口する設置部本体と、上部開口を覆う平板状の天板部と、を有し、
前記複数の注入口のうち少なくとも2つは前記天板部に設けられている眼内レンズ挿入器具。
【請求項4】
請求項3に記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズが充填された前記設置部を平面視で見たとき、
前記複数の注入口のうち少なくとも1つが、前記設置部に予め充填された前記眼内レンズにおける前方支持部または後方支持部の根元部分の外側の位置に設けられている眼内レンズ挿入器具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記潤滑剤の粘度に応じて前記複数の注入口のうち1又は複数を選択的に利用する眼内レンズ挿入器具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記注入方法変更手段は、前記潤滑剤として粘弾性物質を使用する場合、灌流液を使用する場合によって注入位置を変更可能な構成である眼内レンズ挿入器具。
【請求項7】
筒状の本体部の内部空間に予め充填された眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前記本体部は、前記本体部の外部から前記内部空間に液状の潤滑剤を注入するための複数の注入口を備え、前記複数の注入口のうち少なくとも1つが前後方向の異なる位置に配置されており、
前記複数の注入口を介して前記内部空間に注入させる前記潤滑剤の粘度に基づき前記内部空間への前記潤滑剤の注入方法を変化させる構成として、前記潤滑剤の粘度に応じて注入位置を変化させる注入方法変更手段を備えており、
前記本体部は、
前後方向に延びる筒状に形成される本体筒部の前端側に接続されて前記内部空間を備える設置部として、箱状の部材であり上部が開口する設置部本体と、上部開口を覆う平板状の天板部と、を有し、
前記複数の注入口のうち少なくとも2つは前記天板部に設けられており、
前記眼内レンズが充填された前記設置部を平面視で見たとき、
前記複数の注入口のうち少なくとも1つが、前記設置部に予め充填された眼内レンズにおける光学部の外周縁部に隣接する位置であって、前後方向に沿う押出軸に直交しかつ前記光学部の中心において上下方向に延びる光軸よりも前方側であり、左側壁に隣接する位置に設けられている眼内レンズ挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白内障の手術方法の一つとして、水晶体の代わりに折り曲げ可能な軟性の眼内レンズを眼内に挿入する手法が一般的に用いられている。ここで、患者眼へ眼内レンズを挿入するための眼内レンズ挿入器具が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る眼内レンズ挿入器具は、筒状の本体部の内部空間に眼内レンズが予め充填されている。本体部には、その外部と内部空間を通じた注入口が設けられている。使用者(例えば術者又は介助者)が特許文献1に係る眼内レンズ挿入器具を使用する際は、この注入口を介して本体部の外部から内部空間に液状の潤滑剤を注入する。そのうえで、使用者は、内部空間の中を先端側に向けて前進する押出部材で眼内レンズを押し出して、ノズル内で小さく折り畳まれた眼内レンズが先端から外部に射出されて眼内に挿入する。これにより、潤滑剤が塗布された眼内レンズは、ノズル内を小さく折り畳まれた状態で円滑に通過して射出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6540000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の眼内レンズ挿入器具は、本体部に1箇所の注入口が設けられている。一方で潤滑剤は、その種類が種々ある。例えば潤滑剤は、高粘度の粘弾性物質、低粘度の粘弾性物質、眼灌流液(低粘度)等がある。潤滑剤は、高粘度のものと低粘度のものとでは、本体部の内部空間に注入された後の流れ方(広まり方)が異り易く、同じ注入口から同じ量が注入されたとしても眼内レンズ又は眼内レンズの進行路に好適に塗布されずタッキングの不良、ノズル内の詰まり等の懸念がある。そのため、眼内レンズ挿入器具に適用可能な潤滑剤の粘度を限定することがあった。しかしながら、手術内容、手術方法、患者眼の角膜内皮や、その他眼の状態によって粘度の異なる潤滑剤を使い分けたいという要望がある。そのため、より幅広い粘度の潤滑剤を注入しても円滑に眼内レンズを射出可能な眼内レンズ挿入器具が望まれている。
【0005】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、複数種類の粘度に対応して使用可能な眼内レンズ挿入器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の典型的な実施形態が提供する眼内レンズ挿入器具は、筒状の本体部の内部空間に予め充填された眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、前記本体部は、前記本体部の外部から前記内部空間に液状の潤滑剤を注入するために少なくとも第1粘度の潤滑剤と第2粘度の潤滑剤をそれぞれ注入するための複数の注入口を備え、前記第1粘度の潤滑剤は前記第2粘度の潤滑剤よりも粘度が高く、前記第1粘度用の注入口が相対的に前側に位置し、前記第2粘度用の注入口が相対的に後側に位置し、前記複数の注入口を介して前記内部空間に注入させる前記潤滑剤の粘度に基づき前記内部空間への前記潤滑剤の注入方法を変化させる構成として、前記潤滑剤の粘度に応じて注入位置を変化させる注入方法変更手段を備え、前記注入方法変更手段は、前記第1粘度用の注入口と前記第2粘度用の注入口の外周形状がそれぞれ異なる
【発明の効果】
【0007】
本開示の眼内レンズ挿入器具によれば、複数種類の粘度に対応して使用可能な眼内レンズ挿入器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】眼内レンズ挿入器具の全体を示した平面図である。
図2】眼内レンズ挿入器具の全体を示した左側面図である。
図3】眼内レンズ挿入器具の一部を拡大して示した部分斜視図である。
図4図1のIV-IV線断面図である。
図5図1のV部を拡大して本体部における天板部を外した状態を示した部分平面図である。
図6図1のVI部を拡大して本体部を示した部分平面図である。
図7図1のVII-VII線断面図である。
図8】眼内レンズの平面図である。
図9】眼内レンズの右側面図である。
図10】中粘度用注入口に規定量の中粘度の粘弾性物質を注入した場合の広まり方を示した部分平面図である。
図11】中粘度用注入口に規定量の高粘度の粘弾性物質を注入した場合の広まり方を示した部分平面図である。
図12】中粘度用注入口に規定量の低粘度の粘弾性物質を注入した場合の広まり方を示した部分平面図である。
図13】高粘度用注入口に規定量の高粘度の粘弾性物質を注入した場合の広まり方を示した部分平面図である。
図14】低粘度用注入口に規定量の低粘度の粘弾性物質を注入した場合の広まり方を示した部分平面図である。
図15】誘導指標を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<概要>
本開示で例示する眼内レンズ挿入器具は、筒状の本体部の内部空間に予め充填された眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、前記本体部は、前記本体部の外部から前記内部空間に液状の潤滑剤を注入するための注入口を備え、前記注入口を介して前記内部空間に注入させる前記潤滑剤の粘度に基づき前記内部空間への前記潤滑剤の注入方法を変化させる注入方法変更手段(換言するなら注入方法決定手段)を備える。
【0010】
本開示の眼内レンズ挿入器具は、潤滑剤の粘度に基づき前記内部空間への前記潤滑剤の注入方法を変化させることから、潤滑剤を眼内レンズに好適に塗布することができる。これにより、複数種類の粘度に対応して使用可能な眼内レンズ挿入器具を提供することができる。
【0011】
また、上記眼内レンズ挿入器具は、複数の前記注入口を備える構成であってもよい。これにより、複数の注入口を備えることで、潤滑剤の粘度に基づき内部空間への潤滑剤の注入方法を変化させる自由度を高めることができる。
【0012】
また、上記眼内レンズ挿入器具における前記本体部は、前後方向に延びる筒状に形成される本体筒部の前端側に接続されて前記内部空間を備える設置部として、箱状の部材であり上部が開口する設置部本体と、上部開口を覆う平板状の天板部と、を有し、前記複数の前記注入口のうち少なくとも2つは前記天板部に設けられている構成であってもよい。これにより、少なくとも2つの注入口が天板部に設けられることで、異なる粘度の潤滑剤を注入する際に選択しやすい。
【0013】
また、上記眼内レンズ挿入器具における前記複数の前記注入口のうち少なくとも1つは前後方向の異なる位置に配置されている構成であってもよい。これにより、本体部の内部空間に注入した異なる粘度の潤滑剤の広まり方を変えることができる。
【0014】
また、上記眼内レンズ挿入器具における前記潤滑剤の粘度に応じて前記複数の注入口のうち1又は複数を選択的に利用する構成であってもよい。そのため、より一層潤滑剤の粘度に応じた注入方法の自由度を高めることができる。
【0015】
また、上記眼内レンズ挿入器具における前記注入方法変更手段は、前記潤滑剤として粘弾性物質を使用する場合、灌流液を使用する場合によって注入位置を変更可能な構成である構成であってもよい。潤滑剤は、粘弾性物質以外に灌流液を使用することもできるため、手術内容、手術方法、患者眼の角膜内皮や、その他眼の状態によって幅広い粘度の潤滑剤に対応することができる。
【0016】
また、上記眼内レンズ挿入器具における前記注入方法変更手段は、注入位置を変化させるための構成として複数の注入口を有しており、その注入口の外周形状がそれぞれ異なる構成であってもよい。これにより、複数の注入口の外周形状がそれぞれ異なっていることから、注入位置の把握がしやすくなる。
【0017】
また、上記眼内レンズ挿入器具における前記注入方法変更手段は、異なる潤滑剤の粘度に対応する誘導指標に基づいて注入位置を変更可能とする構成であってもよい。これにより、異なる潤滑剤の粘度に対応する誘導指標により適正な注入位置の把握がより一層しやすくなる。
【0018】
<第1実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態の1つである第1実施形態について、図1から図15参照して説明する。なお、以下の説明における各図に示す方向は、眼内レンズ挿入器具10における本体部100のノズル180側の先端に向かう方向(図1の紙面左側)を眼内レンズ挿入器具10の前方、プランジャー300の押圧部370の方向(図1の紙面右側)を眼内レンズ挿入器具10の後方とする。また、図1の紙面上側を眼内レンズ挿入器具10の右方、図1の紙面下側を眼内レンズ挿入器具10の左方とする。また、図1の紙面手前側を眼内レンズ挿入器具10の上方、図1の紙面奥側を眼内レンズ挿入器具10の下方とする。
【0019】
<全体構成>
図1~7を参照して、第1実施形態の眼内レンズ挿入器具10の全体構成について説明する。眼内レンズ挿入器具10は、変形可能な眼内レンズ1(図8、9参照、詳細は後述する)を眼内に挿入するために使用される。眼内レンズ挿入器具10は、本体部100とプランジャー300を備える。本体部100は略筒状であり、本体部100の内部の通路を通じて眼内レンズ1が眼内に挿入される。プランジャー300は棒状の部材であり、本体部100の内部の通路を前後方向(押出軸Aに沿う方向)に移動することができる。プランジャー300は、押出軸(通路の軸)Aに沿って前方に移動することで、本体部100の内部に充填された眼内レンズ1を押し出す。
【0020】
第1実施形態の本体部100およびプランジャー300は、樹脂材料で形成されている。眼内レンズ挿入器具10は、射出成形、樹脂の削り出しによる切削加工等によって形成されてもよい。眼内レンズ挿入器具10が樹脂材料で形成されることで、使用者(例えば術者又は介助者)は、使用済みの眼内レンズ挿入器具10を容易に廃棄することができる。
【0021】
第1実施形態では、粘着性を有する軟性の眼内レンズ1を円滑に眼内に挿入するために、本体部100の内壁に潤滑コーティング処理が行われている。また、第1実施形態の眼内レンズ挿入器具10は、無色透明または無色半透明で形成されている。従って、使用者は、眼内レンズ挿入器具10の内部に充填されている眼内レンズ1の変形状態等を、眼内レンズ挿入器具10の外側から容易に視認することができる。
【0022】
<本体部100>
本体部100について説明する。本体部100は、後方から前方に向かって、本体筒部110と、設置部130と、ノズル180を備える。
【0023】
本体筒部110は、前後方向に延びる筒状に形成されている。本体筒部110は、本体部100の後端側に位置する。本体筒部110の長手方向のうち後端側の位置には、外周面から外方に向かって張り出した鍔部111が設けられている。使用者は、使用時において係る鍔部111に指を掛けて把持する。
【0024】
設置部130は、本体筒部110の前端側に接続されている。設置部130は、設置部本体134と天板部132などを備えている。設置部本体134は、箱状の部材であり上部が開口している。プランジャー300により押し出される前の眼内レンズ1は、外周縁部2C(図8、9参照)が設置部本体134に設けられた保持部131に保持されることで設置部本体134の内部空間に予め設置(充填)される(図7参照)。
【0025】
天板部132は、ノズル180及び設置部本体134に跨って配置され、これらの上部開口を覆う蓋部材である。天板部132は、樹脂材料(例えば、ポリプロピレン)を用いた射出成形、樹脂の削り出しによる切削加工等によって形成されてもよい。第1実施形態の天板部132は、平板状でありノズル180及び設置部本体134の開口を覆うように形成されている。また、天板部132は、設置部本体134の保持部131に対応した位置に押え部133を有している。眼内レンズ1は、外周縁部2Cの部位を保持部131と押え部133に挟まれた状態によって、設置部130の内部空間に設置(充填)される(図7参照)。なお天板部132に設けられる注入口の構成については後述する。
【0026】
ノズル180は、設置部130の前端側に接続されている。ノズル180内の通路面積は、眼内レンズ1を前方に押し進める過程で眼内レンズ1を小さく変形させるために、前方に向かう程小さくなる。つまり、ノズル180は、眼内レンズ1が通過する通路が先端に向かって先細りする内腔形状を有する。ノズル180の前端には、円筒状の挿入部182が設けられている。挿入部182は眼内に差し込まれる。挿入部182の前端には、眼内レンズ1を内部の通路から前方に排出するための開口である挿入口183が形成されている。挿入口183は、先端が斜めに切断された切欠き(ベベル)が設けられている。本体部100(図1~3参照)の内部の通路は、本体筒部110(図1参照)の後端からノズル180の前端の挿入口183まで貫通している。
【0027】
<プランジャー300>
プランジャー300(図1、4参照)の概略構成について説明する。第1実施形態のプランジャー300は、押出部材310と、軸基部350と、押圧部370を備える。
【0028】
押圧部370は、プランジャー300の後端に形成されている。押圧部370は、押出軸A(図1参照)と直交する方向に延びる板状の部材である。押圧部370には、使用者がプランジャー300を前方へ押し出す際に、使用者の指が接触する部位である。
【0029】
軸基部350は、押圧部370の前端側から前方に延びる棒状の部材である。第1実施形態では、軸基部350は、押出軸Aに直交する断面の形状が略H状となるように形成されている。軸基部350は、押出軸Aに直交する断面の形状が略矩形である本体筒部110に挿入されることで、本体部100に対するプランジャー300の押出軸Aの周方向の回転が抑制される。プランジャー300が前方へ移動し、眼内レンズ1の眼内への挿入が完了する位置に到達すると、軸基部350の前端下部の傾斜面が、本体部100の所定箇所に形成された傾斜面に接触して止まる。その結果、プランジャー300の前端が挿入口183から過度に突き出ることが防止される。
【0030】
押出部材310(図4参照)は、棒状の部材であり、押出軸Aの軸方向に沿って軸基部350の前端から前方に延びる。押出部材310は、押出軸Aに直交する断面の形状が略円形となるように形成されている。また、押出部材310の太さは、本体部100の挿入口183を通過できる太さとなっている。押出部材310は、本体部100の通路内を押出軸Aに沿って前方に移動することで、眼内レンズ1を小さく変形させると共に、眼内レンズ1を挿入口183から眼内に排出する。
【0031】
<眼内レンズ1>
図8、9を参照して、眼内レンズ挿入器具10によって眼内に挿入される眼内レンズ1の一例について説明する。眼内レンズ1は、光学部2と支持部3を備える。第1実施形態の眼内レンズ1は、光学部2と支持部3が一体成形された所謂ワンピースタイプの眼内レンズである。第1実施形態で使用される眼内レンズ1は、光学部2と、一対の支持部3である前方支持部3Aおよび後方支持部3Bと、が一体成形されている。眼内レンズ1は、柔軟な素材の材料として、例えば、BA(ブチルアクリレート)、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等の種々の軟性の樹脂材料を採用できる。なお、第1実施形態では所謂ワンピースタイプの眼内レンズ1を例示したが、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、光学部2と支持部3が別部材で形成された、所謂3ピース型の眼内レンズにも適用できる。
【0032】
光学部2は、患者眼に所定の屈折力を与える。光学部2の形状は円盤形状である。光学部2の光軸Lは、光学部2の中心を通り、且つ上下方向に延びる。支持部3は、光学部2を眼内で支持する。一例として、第1実施形態の眼内レンズ1には、一対の支持部3として、前方支持部3A及び後方支持部3Bが設けられている。また、前方支持部3Aと後方支持部3Bは、光学部2の外周縁部2Cから径方向外方に湾曲して延び出して、光学部2の中心である光軸Lを基準として点対称の位置に形成されている。前方支持部3Aは、根元部分6Aが接続部分4Aを介して光学部2の外周縁部2Cに接続されており、周方向に湾曲したループ形状であり、先端部分8Aが開放されている。(つまり、先端部分8Aは自由端とされている)。後方支持部3Bは、根元部分6Bが接続部分4Bを介して光学部2の外周縁部2Cに接続されており、周方向に湾曲したループ形状であり、先端部分8Bが開放されている(つまり、先端部分8Bは自由端とされている)。光学部2は、光軸L方向の端面として、後述するように設置部130の天板部132と対面する第1面2Aと、第1面2Aの反対側であり、設置部130における底面と接触する第2面2Bとを備えている。
【0033】
<潤滑剤D(粘弾性物質、灌流液)>
第1実施形態で用いられる潤滑剤Dは、粘弾性物質(液体)、灌流液(液体)が適用される。本実施形態では、プランジャー300によって押され、本体筒部110の内部空間を基端側から先端側へと移動する眼内レンズ1の滑動を補助する液体のことを潤滑剤Dと言う。粘弾性物質(OVD:Ophthalmic Viscoelastic Devices)は、白内障手術の際に患者眼の前房の保持、角膜内皮保護などのために使用されることがある。粘弾性物質は、低粘度から高粘度まで種々の態様があり、例えば、粘度の差又は凝集性の差によって特性に差がある。高粘度の粘弾性物質は、例えば、眼における前房の保持性に優れ除去がしやすく、注入しやすい傾向にある。低粘度の粘弾性物質は、例えば、滞留性に優れており眼における角膜内皮の保護効果が高く、残存したとしても、眼圧上昇のリスクが低い等の傾向がある。灌流液は、例えば、白内障手術の際に患者眼の眼内灌流及び眼内洗浄のために使用する液体である。そのため、潤滑剤Dは、手術内容、手術方法、患者眼の角膜内皮の状態や、その他眼の状態等により使い分けられることがある。
【0034】
本実施形態の眼内レンズ挿入器具10は、使用可能な粘弾性物質の粘度範囲として3つの粘度分類(粘度範囲)を設けている。本実施形態では、粘弾性物質は、その粘度の分類として次が例示される。低粘度の粘弾性物質D1(第1粘度範囲)は、24℃の温度においてゼロせん断粘度(Pa・s)が20以下である。中粘度の粘弾性物質D2(第2粘度範囲)は、24℃の温度においてゼロせん断粘度(Pa・s)が20より大きく80より小さい。高粘度の粘弾性物質D3(第1粘度範囲)は、24℃の温度においてゼロせん断粘度(Pa・s)が80以上300以下である。粘弾性物質として、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、等を用いてもよい。灌流液として、例えばオキシグルタチオン液等が用いられてもよく、粘度は水程度と同等である。例えば灌流液の粘度は、24℃の温度においてゼロせん断粘度(Pa・s)が20以下のように例示される。なお本実施形態は一例であり、粘度に応じて2以上の分類が設けられていればよい。例えば、粘度分類(粘度範囲の区分)が2つ又は4つであってもよい。なお粘度範囲同士の一部範囲が重複していてもよい。
【0035】
<天板部132の注入口>
図1、2、5、6を参照して、設置部130における天板部132は、本体部100の外部から内部空間に注入しようとする液状の潤滑剤Dの粘度に基づき潤滑剤Dの注入位置を変更する注入方法変更手段を有している。具体的に注入方法変更手段は、注入位置を変更する構成として複数の注入口を有している。また、各注入口の突条は、その外周形状がそれぞれ異なった形状であり、天板部(筒状の設置部130を形成する壁の一部、又は眼内レンズ1(図8、9参照)と面する本体筒部110の部位)の異なった位置に配設されている。ここで、第1実施形態における注入方法変更手段は、高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160の3つの注入口を備える態様が例示される。第1実施形態では眼内レンズ1の前面側と対向する壁に全ての注入口が設けられている。これにより、例えば、使用者(例えば術者又は介助者)は注入口を見つけやすい。しかし例えば複数の注入口の少なくとも1つが眼内レンズ1の後面側に設けられていてもよい。
【0036】
<高粘度用注入口140>
図3、6を参照して、高粘度用注入口140は、天板部132の板面から上方に突出した突条142を有している。突条142の上面は、円錐状の凹部144が設けられており凹部154の底から天板部132の厚み方向に向かってクランク形状に開通した孔部146が設けられている。また、突条142は四角柱の外周形状である。
【0037】
<中粘度用注入口150>
図3、6を参照して、中粘度用注入口150は、天板部132の板面から上方に突出した突条152を有している。突条152の上面は、円錐状の凹部154が設けられており凹部154の底から天板部132の厚み方向に向かってクランク形状に開通した孔部156が設けられている。また、突条152は三角柱の外周形状である。
【0038】
<低粘度用注入口160>
図3、6を参照して、低粘度用注入口160は、天板部132の板面から上方に突出した突条162を有している。突条162の上面は、円錐状の凹部164が設けられており凹部154の底から天板部132の厚み方向に向かってクランク形状に開通した孔部166が設けられている。また、突条162は円柱の外周形状である。
【0039】
ここで、高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160は、いずれも天板部132の厚み方向に通じたクランク形状に構成されているため、シリンジ等の注入器200の注入針210(図3参照)が内部空間まで達しないため、注入針210が眼内レンズ1に接触しないようになっている。なお、注入口は、クランク形状(天板部132の厚み方向に向かってクランク形状に開通する)に限られず、注入器200の注入針210が内部空間まで達するように天板部132の壁面を貫通した形状であってもよい。
【0040】
<中粘度用注入口150の位置>
図10を参照して、中粘度用注入口150が設けられる位置について説明する。眼内レンズ1が充填された設置部130を図10の紙面手前側から見た場合、中粘度用注入口150は、設置部130に予め充填された眼内レンズ1の光学部2の外周縁部2Cに隣接する位置であり、光軸Lより前方側であり、左側壁136に隣接する位置に設けられている。中粘度の粘弾性物質D2は、前方支持部3A等を前方に押すといった影響を及ぼしにくく、適度な粘度と凝集性を有しているので本体部100の姿勢(上下方向)の影響を受けにくい。そのため、例えば、眼内レンズ1の中央(光軸L)近くに配置することで中粘度の粘弾性物質D2の使用量を抑制しやすい。また、設置部130の内部空間内における眼内レンズ1の光学部2全体に中粘度の粘弾性物質D2を広げやすい。また、中粘度用注入口150は、左側壁136に隣接した位置にあることで注入した中粘度の粘弾性物質D2が光学部2に流れやすくすることができる。また、中粘度用注入口150は、外周縁部2Cから外れた外側に位置するのは、例えば、天板部132と対面する第1面2A、第1面2Aの反対側の第2面2B(図9参照)共に、中粘度の粘弾性物質D2が流れやすくするためである。なお、中粘度用注入口150は、光学部2の外周縁部2Cに隣接する位置であり、光軸Lより後方側であり、右側壁137に隣接した位置(上述した中粘度用注入口150とは光軸Lに対し点対称の位置)でもよいが、中粘度の粘弾性物質D2を眼内レンズ1の前方側から満たしていく上では、光軸Lより前方側であり、左側壁136に隣接した位置が好ましい。
【0041】
図11を参照して、中粘度用注入口150に高粘度の粘弾性物質D3を注入した場合の懸案事項について説明する。高粘度の粘弾性物質D3は、凝集性が高いため中粘度用注入口150を通じて注入された後、その孔部156を中心に円形に広がる傾向にある。そのため、高粘度の粘弾性物質D3の流れによって前方支持部3Aの先端部分8Aが前方に押されてしまいタッキング不良が発生しやすくなる。図11では変形前の前方支持部3Aの形状と変形後の前方支持部3Aの形状とを共に示しており、前方支持部3Aは高粘度の粘弾性物質D3によって図11の矢印方向に変形する。
【0042】
図12を参照して、中粘度用注入口150に低粘度の粘弾性物質D1を注入した場合の懸案事項について説明する。低粘度の粘弾性物質D1は、中粘度の粘弾性物質D2、高粘度の粘弾性物質D3よりも流れやすい性質がある。したがって例えば、ノズル180が下方を向いている場合、低粘度の粘弾性物質D1は眼内レンズ1の光学部2の光軸Lよりも前方側に偏って流れてしまい後方側に広がりにくい。つまり低粘度の粘弾性物質D1は粘度が低いため重力の影響を受けやすい。なおノズル180が上方を向いている場合、粘弾性物質D1は中粘度用注入口150よりも後方側に偏って流れてしまい前方側に広がりにくい。
【0043】
<高粘度用注入口140の位置>
図13を参照して、高粘度用注入口140が設けられる位置について説明する。眼内レンズ1が充填された設置部130を図13の紙面手前側から見た場合、高粘度用注入口140は、設置部130に予め充填された眼内レンズ1の前方支持部3Aの根元部分6Aの外側(前方側)に位置している。これは、高粘度用注入口140は、高粘度の粘弾性物質D3が孔部146を中心に円形に広がる方向と、前方支持部3Aの延出する方向が沿う(同じになる)ようにすることを考慮して根元部分6Aの位置に設けられている。これにより、高粘度用注入口140から注入した高粘度の粘弾性物質D3の流れによって、前方支持部3Aの姿勢が影響を受けにくくすることができる。ここで、高粘度の粘弾性物質D3は、凝集性が高いため高粘度用注入口140を通じて注入された後、その孔部146を中心に円形に広がる傾向にある。ここで、高粘度用注入口140を光学部2の中心である光軸Lより後方側(図13の紙面右側)に設けた場合、眼内レンズ1の前方まで十分に高粘度の粘弾性物質D3が流れにくいことが考えられる。眼内レンズ1の前方支持部3A側に高粘度の粘弾性物質D3が十分に塗布されないまま押出部材310(図4参照)で押し出されると眼内レンズ1がノズル180内で詰まってしまう懸念がある。また、前方支持部3Aの自由端である先端部分8A側に高粘度用注入口140を設けた場合、図11を用いて先に説明したように、高粘度の粘弾性物質D3の流れによって前方支持部3Aの先端部分8Aが前方に押されて変形してしまいタッキング不良が発生しやすくなる。そのため、本実施形態における高粘度用注入口140が設けられる位置が望ましい。なお、高粘度用注入口140を根元部分6Aの直上(根元部分6Aと対面する位置)に設けてもよいが、天板部132と対面する第1面2A、第1面2Aの反対側の第2面2B(図9参照)共に、高粘度の粘弾性物質D3が流れやすくすることに鑑み根元部分6Aの外側であることが好ましい。また、高粘度用注入口140を根元部分6Aと光学部2の外周縁部2C間(根元部分6Aと対面する位置より下の位置、さらに換言すれば前方支持部3Aの脇部分)であってもよいが、前方支持部3Aが前方に押されてしまうことを抑制することを考慮すると、根元部分6Aの外側であることが好ましい。
【0044】
<低粘度用注入口160の位置>
図14を参照して、低粘度用注入口160が設けられる位置について説明する。眼内レンズ1が充填された設置部130を図14の紙面手前側から見た場合、低粘度用注入口160は、設置部130に予め充填された眼内レンズ1の後方支持部3Bの根元部分6Bの外側(後方側)に位置している。さらに、低粘度用注入口160の後方側には、設置部130の内部空間を形成する後壁135と左側壁136に隣接する隅の位置に設けられている。そのため、低粘度の粘弾性物質D1が眼内レンズ1よりも後方側に流れにくい位置に低粘度用注入口160が形成されている。低粘度の粘弾性物質D1は、中粘度の粘弾性物質D2、高粘度の粘弾性物質D3よりも流れやすい性質(広がりやすい特性)なため、注入時の本体部100の姿勢に影響を受けて流れる方向が不安定になりやすい。そこで、低粘度用注入口160は、後方支持部3Bの根元部分6Bの外側(後方側)に位置すると共に、低粘度用注入口160の後方側に後壁135と左側壁136に隣接する隅の位置に設けられている。そのため、規定量の低粘度の粘弾性物質D1が後方に広がった状態となり、本体部100が前後方向に傾いた姿勢になっても前方方向にしか流れない状態とすることができる。これにより、低粘度の粘弾性物質D1は、前方方向の一方向に向かって流れることとなる。また、低粘度用注入口160は、後方支持部3Bの根元部分6Bの外側(後方側)に位置するため、低粘度の粘弾性物質D1が一方向に向かって流れたとしても、低粘度の粘弾性物質D1は眼内レンズ1に接しやすい。
【0045】
<誘導指標>
眼内レンズ挿入器具10は、注入方法変更手段としての高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160の3つの注入口を選択するにあたって、異なる潤滑剤Dの粘度に対応する誘導指標を備えている。使用者(例えば術者又は介助者)は係る誘導指標に基づいて注入位置を変更可能となる。誘導指標としては、例えば、眼内レンズ挿入器具10を収容するケース、包装容器への表記、眼内レンズ挿入器具10の包装容器に同封される取扱説明書への表記、眼内レンズ挿入器具への直接の表記(例えば、本体部100の本体筒部110への表記)等の種々が適用され得る。第1実施形態では、眼内レンズ挿入器具10とともに包装容器内に同封される取扱説明書に誘導指標が表記されている。例えば、表記方法としては図15に示すような表記がされてもよい。つまり本実施形態では、眼内レンズ挿入器具10とともに包装容器内に同封され、誘導指標(例えば図15)が表記される取扱説明書は、潤滑剤の粘度に基づき内部空間への潤滑剤の注入方法を変化させるための注入方法変更手段に含まれる。なお取扱説明書への誘導指標(図15)の表記は一例であり、例えば、誘導指標(図15)を本体筒部110の外壁に表記してもよい。図15は誘導指標の表記の一例として、低粘度用注入口160に注入可能な第1粘度範囲(20Pa・s以下)、中粘度用注入口150に注入可能な第2粘度範囲(20-80Pa・s)、および高粘度用注入口140に注入可能な第3粘度範囲(80Pa・s以上300Pa・s以下)を示している。なお図15では誘導指標として粘度と対応する注入口との関係を示すが、これに限るものでは無い。例えば図15において粘度範囲の表記の代わりに各々の粘度範囲に対応する潤滑剤Dの商品名を表記してもよい。潤滑剤Dの商品名は潤滑剤Dの粘度を実質的に示しているといえる。もちろん、粘度範囲と潤滑剤Dの商品名とを併記してもよい。
【0046】
<使用方法>
第1実施形態の眼内レンズ挿入器具は、本体筒部110と、設置部本体134と、ノズル180が一体成型されており、別体として形成された天板部132、プランジャー300を組み付けて製造される。第1実施形態の眼内レンズ挿入器具10は、その組み立ての際に設置部本体134の内部に予め眼内レンズ1を充填して天板部132で閉じる。つまり、第1実施形態では、眼内レンズ挿入器具10と、この眼内レンズ挿入器具10に予め充填された眼内レンズ1とによって、所謂プリセット型の眼内レンズ挿入システムが構築されている。プリセット型の眼内レンズ挿入システムは、使用現場で速やかに使用することができる。
【0047】
眼内レンズ1の充填された眼内レンズ挿入器具10は、合成樹脂シートを凹凸変形させたケースに収容され、ケース開口部に滅菌用のガスを通過する可撓性シートを張り付けて密閉される。そして、可撓性シートで密閉されたケースに滅菌処理を行い、包装容器内に取扱説明書等を同封して封止される。
【0048】
使用現場では、使用者(例えば術者又は介助者)は、包装容器からケースを取り出してケースの可撓性シートを剥がし、ケースから眼内レンズ挿入器具10を取り出す。使用者は、包装容器内に同封される取扱説明書における誘導指標によって、3つの注入口(高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160)と潤滑剤Dの粘度との対応関係を把握する。使用者は、手術の際に使用する潤滑剤Dを決めた後、誘導指標に基づいて係る潤滑剤Dの粘度に対応した注入口を変更する。なお、本実施形態では一例として、潤滑剤Dの粘度は潤滑剤Dの包装容器内に同封される取扱説明書に記載されており、使用者はこの取扱説明書を読んで潤滑剤Dの粘度を把握するものとする。使用者は、潤滑剤Dが充填されたシリンジ等の注入器200を把持し、注入器200の注入針210を天板部132の注入口に挿入する。続けて使用者は、注入器200に充填されている潤滑剤Dを注入針210の先端から排出し、眼内レンズ挿入器具10の内部空間に潤滑剤Dを注入する。使用者は、潤滑剤Dの注入を完了すると、眼内レンズ挿入器具10から注入針210を抜き出す。
【0049】
これにより、本体部100の設置部130内における眼内レンズ1は、好適に潤滑剤Dが塗布された状態となる。また、設置部130内の眼内レンズ1は、潤滑剤Dによって初期位置からずれたり、前方支持部、後方支持部が移動してしまい難い。これにより、眼内レンズ挿入器具10は、プランジャー300の押圧部370を押圧することで、押出部材310が眼内レンズ1を押し出して、射出可能な状態となる。
【0050】
このように、本開示の第1実施形態に係る眼内レンズ挿入器具10によれば、本体部100は、本体部100の外部から内部空間に液状の潤滑剤Dを注入するための注入口を備え、注入口を介して内部空間に注入させる潤滑剤Dの粘度に基づき内部空間への潤滑剤Dの注入方法を変化させる注入方法変更手段(高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160)を備える。眼内レンズ挿入器具10は、潤滑剤Dの粘度に基づき内部空間への潤滑剤Dの注入方法を変化させることから、潤滑剤Dを眼内レンズ1に好適に塗布することができる。これにより、複数種類の粘度に対応して使用可能な眼内レンズ挿入器具10を提供することができる。
【0051】
また、眼内レンズ挿入器具10は、複数の注入口(高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160)を備える構成である。これにより、複数の注入口を備えることで、潤滑剤Dの粘度に基づき内部空間への潤滑剤Dの注入方法を変化させる自由度を高めることができる。
【0052】
また、眼内レンズ挿入器具10における本体部100は、前後方向に延びる筒状に形成される本体筒部110の前端側に接続されて内部空間を備える設置部130として、箱状の部材であり上部が開口する設置部本体134と、上部開口を覆う平板状の天板部132と、を有し、複数の注入口のうち少なくとも2つは天板部132に設けられている構成である。これにより、少なくとも2つの注入口が天板部132に設けられることで、異なる粘度の潤滑剤Dを注入する際に選択しやすい。
【0053】
また、上記眼内レンズ挿入器具10は、複数の注入口のうち少なくとも1つは前後方向の異なる位置に配置されている構成である。これにより、本体部100の内部空間に注入した異なる粘度の潤滑剤Dの広まり方を変えることができる。
【0054】
また、上記眼内レンズ挿入器具10は、潤滑剤Dの粘度に応じて複数の注入口のうち1又は複数を選択的に利用する構成である。そのため、より一層潤滑剤Dの粘度に応じた注入方法の自由度を高めることができる。
【0055】
また、注入方法変更手段である高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160は、潤滑剤Dとして粘弾性物質を使用する場合、灌流液を使用する場合によって注入位置を変更可能な構成である。潤滑剤Dは、粘弾性物質以外に灌流液を使用することもできるため、手術内容、手術方法、患者眼の角膜内皮や、その他眼の状態によって幅広い粘度の潤滑剤Dに対応することができる。
【0056】
また、注入方法変更手段である高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160は、注入位置を変化させるための構成として複数の注入口を有しており、その注入口の外周形状がそれぞれ異なる構成であってもよい。これにより、複数の注入口の外周形状がそれぞれ異なっていることから、注入位置の把握がしやすくなる。
【0057】
また、注入方法変更手段である高粘度用注入口140、中粘度用注入口150、低粘度用注入口160は、異なる潤滑剤Dの粘度に対応する誘導指標に基づいて注入位置を変更可能とする構成であってもよい。これにより、異なる潤滑剤Dの粘度に対応する誘導指標により適正な注入位置の把握がより一層しやすくなる。
【0058】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の眼内レンズ挿入器具は、上記実施形態に限定されず、その他各種の形態で実施することができるものである。例えば、本実施形態1における本体部100は、本体筒部110と、設置部130と、ノズル180が樹脂材料による一体のものを例示したが、本体筒部110と設置部130(ノズル180は設置部と一体)の部分で分離した所謂カードリッジタイプの態様にも適用できる。なお本実施形態では粘度に対応するように突条(142、152、162)の形状を異ならせるが、これに限るものではない。例えば注入方法変更手段として、対応する粘度を識別するための文字を突条の近傍に配置してもよい。例えば高粘度用注入口140の近傍にH(高粘度の意味)の文字を形成し、中粘度用注入口150の近傍にM(中粘度の意味)の文字を形成し、低粘度用注入口160の近傍にL(低粘度の意味)の文字を形成してもよい。
【0059】
本実施形態では、注入器200の注入針210が設置部130の内部空間に貫通して達してもよい。本実施形態では、複数の注入口のうち1つを粘度に応じて選択させるが、注入口の位置をスライドさせる機構を設け、誘導指標(取扱説明書等)を見た使用者にこのスライド機構を所定操作させることで、第1粘度用と第2粘度用とで注入口の位置を変化(移動)させてもよい。かかる誘導指標とスライド機構の各々は注入方法変更手段に含まれる。これにより注入口の数を減らすことができ、例えば、使用者が誤った注入口を用いることを抑制し易い。また本体部100の側面には注入口を1つしか設けず(例えば中粘度用注入口150のみ設ける)、潤滑剤の粘度に応じて挿入口183から注入するか中粘度用注入口150から注入するかを誘導指標(注入方法変更手段)により使用者に選択させるようにしてもよい。
【0060】
また、本実施形態では注入口の位置を粘度に応じて変化させるが、これに限らず、例えば、中粘度用注入口150への潤滑剤の注入量を、潤滑剤の粘度に応じて変化させてもよい。この場合、例えば、眼内レンズ挿入器具の包装容器内に同封する取扱説明書(注入方法変更手段)に粘度と注入量の関係を各々の粘度(粘度範囲)に対して示せばよい。つまり取扱説明書に各粘度に応じた注入量を誘導指標(注入方法変更手段)として表記することで、1つの注入口のみで低粘度から高粘度まで対応させてもよい。また、第1注入口への注入量と第2注入口の注入量とを粘度に応じて変化させてもよい。また例えば、取扱説明書(注入方法変更手段)を用いて第1粘度では第1注入口のみに注入させ、第2粘度では第1注入口と第2注入口に注入させるようにしてもよい。つまり、粘度に応じて潤滑剤Dの注入方法を変化させればよい。
【符号の説明】
【0061】
1 眼内レンズ
2 光学部
2A 第1面
2B 第2面
2C 外周縁部
3 支持部
3A 前方支持部
4A 接続部分
6A 根元部分
8A 先端部分
3B 後方支持部
4B 接続部分
6B 根元部分
8B 先端部分
10 眼内レンズ挿入器具
100 本体部
110 本体筒部
111 鍔部
130 設置部
132 天板部
134 設置部本体
140 高粘度用注入口(注入方法変更手段)
150 中粘度用注入口(注入方法変更手段)
160 低粘度用注入口(注入方法変更手段)
180 ノズル
182 挿入部
183 挿入口
300 プランジャー
310 押出部材
350 軸基部
370 押圧部
A 押出軸
D 潤滑剤
D1 低粘度の粘弾性物質
D2 中粘度の粘弾性物質
D3 高粘度の粘弾性物質
L 光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15